【特集2】飲料業界では初めての採用 人も地球も健康な社会の実現へ

2021年11月3日

ヤクルト本社

今年3月、ヤクルト本社は「ヤクルトグループ環境ビジョン」を策定した。2050年のあるべき姿として、バリューチェーン全体でGHG(温室効果ガス)排出量ネットゼロを目指している。コーポレートスローガン「人も地球も健康に」の下、脱炭素社会の実現のためにグループが一体となってGHG排出量削減に挑む。

ヤクルト本社 中央研究所(東京都国立市)

ヤクルト本社中央研究所は06年以降、新棟建設や改修を進め、16年に全面リニューアルが完了。延べ床面積が2倍以上になり、エネルギー消費量も原油換算で10年実績の2倍以上にあたる6188klにまで増加した。

建設・改修と共に10年からは一段と積極的に省エネ対策に取り組んできた。中でも、研究所全体のエネルギー使用量の7割以上を占める空調の省エネに注目。既に新しい建物と設備で高効率機器は導入済みだったため、運用面での省エネに取り掛かった。熱源設備の運用や制御方法を変更するなど工夫を凝らすことで節電を図った。

電力でCO2を削減する場合、高効率機器を導入した後も運用を見直し、再エネ由来の電力を選択すれば一層のCO2削減につながるが、ガスについては高効率機器を導入した後の有効な手段が取りづらい側面がある。

ガス設備では既存の蒸気配管や熱交換器、蒸気ヘッダーの保温外装材の上から、通常の2倍以上の保温性がある断熱材を巻くなど、物理的に放熱ロスを削減した。また、蒸気配管系統にあるスチームトラップを、可動部分がなくドレン排出時のロスが少ない省エネタイプのものに更新し、蒸気ロスの低減を図った。

事務部施設管理課の光永浩也課長は「ガスを燃焼して蒸気を出す理論値は変わらないので、ガス設備でのCO2を減らすには二次的な方法に頼るしかなかった」と、当時の苦労を振り返る。こうした取り組みにより、20年のエネルギー消費量を16年比で16・7%減の5157klまで削減することができた。

保温カバーを付け放熱ロスを削減

CN都市ガスを採用 利用拡大も検討

ヤクルトではさらなる省エネの検討を進める中、東京ガスから「カーボンニュートラル(CN)都市ガス」の提案を受けた。「できることを最大限に積極的に進める」という研究所の方針のもと、導入を決定した。

今年4月から5年間の契約を結び、飲料業界初のCN都市ガスの全量導入が始まった。主に2・5t/時の蒸気ボイラー4台に供給。年間約1500tのCO2を削減し、国内のヤクルトグループ全体のCO2排出量で約2%減を見込む。

当初は東京ガスのみがCN都市ガスを供給していたため、利用できる事業所が限られていた。ヤクルトグループの環境活動を担うCSR推進室によると、今後供給されるエリアが広がれば、CO2削減への選択肢の一つとして他事業所での利用を検討するという。

一方、ガスは省エネ法や地球温暖化対策推進法の適用外だ。CN都市ガスを導入してもCO2削減効果が数字に表れないことが課題として見え始めている。

今年3月に発足した「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」には、CN都市ガスを調達・供給する東京ガスと、購入する企業や法人14社が参画してスタートした。CN都市ガスの普及拡大と利用価値向上の実現を目的に据える。参画企業が増え、国の制度における位置付けの確立に向けて取り組み、この課題解決の糸口が見えることが望まれる。

ヤクルトグループは50年の実質ゼロを目指し、30年にはCO2の30%削減を目標に掲げている。

「目標達成に向け、新しい技術や工夫を取り入れて、ガスの使用量の削減を図るとともに、エネルギー事業者と協力しながらCO2削減の取り組みを進めていきたい」。光永課長は自社による省エネ活動への意欲とCN都市ガスの普及・導入拡大への期待を語った。