【特集2】LNGの未利用冷熱でDAC実施 CO2分離・回収エネルギーを低減

2021年11月3日

【東邦ガス】

都市ガスのカーボンニュートラル(CN)に向けて、全国各地の事業者が研究開発を進めている中、東邦ガスは2020年10月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ムーンショット型研究開発事業」において、名古屋大学らとともに大気中のCO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」の研究を開始した。LNGの未利用冷熱を使った「Cryo-DAC」の研究開発は、世界でも類を見ない取り組みだ。

技術研究所環境・新エネルギー技術グループの増田宗一郎氏は、DAC研究について「燃焼すればCO2が出る都市ガスをCN化するには、大気中や排ガスからのCO2の分離・回収は重要な技術。さらにメタネーションを行う上でも重要なCO2源にもなり、原料リソースの多様化を図る上でもDACは重要だ」と話す。

圧力差で分離・回収 運用エネルギー減に効果

「Cryo-DAC」の最大の特長は、CO2の分離・回収にLNGの未利用冷熱を利用している点だ。

具体的には、まず吸収塔で取り込んだ大気を、CO2を吸収する溶液と接触させてCO2を分離し、CO2を吸収した溶液をポンプで再生塔へ圧送。再生塔と連結された昇華槽ではLNGの気化熱でCO2を昇華させてドライアイスにするが、このとき昇華槽内の圧力が低下するため、再生塔内の圧力も低下。これにより常温下でも吸収液からCO2が分離し、放出されたCO2は昇華槽に移動する。

生成したドライアイスは昇華槽を密閉して常温に復温・気化することで高圧のCO2に変換し、高圧のCO2を供給する。分離・回収から出力まで行えるプロセスだ。

一般的にCO2分離・回収技術で用いられる化学吸収法では、特殊な溶液でCO2を吸収し、蒸気などで加熱することで溶液からCO2を分離・回収する。しかしこの方式では分離時に熱源を利用するため、外部からのエネルギー投入とそれに伴うコストも掛かる欠点があった。

同研究では、化学吸収法をベースにLNGの気化熱を利用し、CO2をドライアイスとして回収することで再生塔を減圧してCO2の回収を行う。そのため分離回収にかかるエネルギー・コストを低減できるほか、気化熱によって減圧環境を作るため、真空ポンプも必要もない。

同方式は、共同で研究を進めている名古屋大学と国際特許を出願している。

Cryo-DACの仕組み

「ガス事業者が先陣を」 脱炭素のパイオニア目指す

NEDOの委託事業による研究は最長29年度まで行われる予定で、ライフサイクルアセスメントの観点からも「Cryo-DAC」が有効であることをパイロットスケール規模で確認することが最終目標に据えられている。

今後は22年度までにコア技術である溶液や昇華槽に用いる材料、センサー類の開発・選定を目指していく構え。また24年度までには年間1t―CO2規模の装置を製作し、連続運転を行う計画も立てている。

今後の展望について、増田氏は「社会実装はガス事業者が先陣を切ってやり抜いていく部分だと考えている。実用化に向けてLNG基地に組み合わせた形での設計や運用面での連携も必要。回収したCO2をメタネーション利用することをビジネスとして考えていく必要もある。前例のない挑戦で課題も多いが、ガス事業者が脱炭素化のパイオニアになるよう取り組んでいきたい」と、DACを組み込んだカーボンリサイクルのサプライチェーン構築に向けて意欲を示している。

LNGの未利用冷熱という都市ガス事業者ならではの独自性を生かした研究は、大きな注目を集めそうだ。