【特集2 設備管理編】AI・ビッグデータ活用が加速 新たなサービスの創出も

2021年12月2日

AIやビッグデータの活用で保安の高度化が進んでいる。それだけにとどまらず新サービス創出につながる動きも出てきた。

三菱重工業

目指すは「自動自律化」発電設備の有効活用に貢献

2015年ごろ、業務効率改善やコスト削減などを図るため、ビジネスにおけるデジタル化の気運が高まった。エネルギー分野も例外ではない。同時期に始まった小売り全面自由化と相まって、デジタルを利用した新たな仕組みを導入する動きが加速していた。

世界で81台の火力発電に導入 企業の脱炭素化を支援

三菱重工業では、発電プラントのO&M(運用・保守)ソリューション「TOMONI」の開発に着手、17年から国内外の顧客へのサービス提供を行っている。現在、GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)発電を中心に全世界で81台の火力発電設備に導入されており、高レベルのサイバーセキュリティーを有するクラウド環境を利用して、サービスを展開中だ。現在、火力発電にとどまらず、地熱発電の運用にも利用されている。

TOMONIによるサービスの概略図

近年、同社がTOMONIにおいて注力するのが、「脱炭素化・低炭素化に向けた発電資産の有効活用」と、「業務プロセスのデジタル化による高度化」だ。当初、デジタル化の意義や目的として、効率化やコスト削減などが挙げられてきた。近年は「脱炭素」という目標が全世界的に掲げられている。この動きに追従できる発電設備ソリューションを求める声が高まっているという。

エナジートランジション&パワー事業本部技術戦略室の石垣博康主幹技師は「脱炭素化には長い期間を要します。お客さまには、まず所有する発電設備の低炭素化・デジタル化をTOMONIを使って推進することを提案しています」と語る。

TOMONIを用いた脱炭素化に向けた取り組みとして進めているのが、①脱炭素のための自動自律プラントの実現、②プラントライフサイクルを通じたデジタル活用、③デジタル化による脱炭素化支援―だ。

①では、プラントの運転・保守をAIによって支援する。三菱重工では開発ロードマップを策定、20〜21年ではシステムがO&Mをサポートすること、22〜24年ではAIによって各アプリが学習しO&Mを部分最適化すること、25年以降はAIによって各アプリがリンクして全体最適化を実現する、という3段階に分けて取り組みを進めている。

同社高砂製作所内に実証発電設備を用いて、実装・検証を進めている。既存のプラント運転自動化のアプローチを中心に、ユニット起動過程、運転中のトリップ要因を分析し、事前検査や試験で異常を回避するなど、可用性の向上を図る。また、GTCCで再生可能エネルギーへの負荷追従に対応したり、バイオマスと石炭の混焼、売電や燃料にかかるコストを最適化し、利益の最大化を図るといった取り組みを進めている。石垣博康主幹技師は「多様な燃料への対応について、TOMONIではAIを使ったボイラー燃焼調整システムを提供します。このAIは、三菱重工のエンジニアが24時間そばにいて最適調整を行ってくれる感覚です。GTCCでは、ガスタービンの翼の冷却を負荷追従に合わせて調整したり、脱硫装置も制限値にできるだけ近づけて運用しコスト削減するといったことを可能にします」と説明する。

②では、プラントの建設から運転、リプレースまでを最適化していく。最近、多いのが建設試運転における活用だ。コロナ禍によって海外への渡航が制限されている。そこで建設試運転を行う際、日本の拠点と海外の発電所をTOMONIでつないで、日本から支援した。また、発電所の性能保証において、従来は1カ月分の稼働データを取得・解析し保証していたが、現在はTOMONIを用いてリアルタイム監視したデータを活用して保証している。このほかの業務では、検査記録データの設計利用、プラント性能の劣化監視、トラブル対応支援、点検データ技術文書の管理、トラブル対応支援、遠隔監視、顧客コミュニケーションなどを行う。

発電所では、2、3年ごとに定期検査がある。これまでは現場の損傷データを紙やエクセルなどで管理していた。これをデジタル化し前回の定期検査データを参照しながら、どの箇所の更新作業が必要か、次回に持ち越しても大丈夫か、などを顧客と相談しながら決める判断材料としている。データ管理を行うことでO&Mをより精緻に進めるわけだ。

③では、産業用の顧客向けに、所有する自家発電設備の安定稼働、設備価値の維持と向上を図りながら脱炭素化をサポートしていく。産業向け発電設備では工場で利用する熱をつくり利用することが多い。工場の需要に合わせて熱をたくさんつくると電気が余剰となる。そこで、工場で使用する電力をあらかじめ予測して、翌日に入札して売電し、インバランスもうまく調整するといった仕組みの実証を進めている。さらに、高砂製作所では、設備の状態に応じた負荷運用支援など、より複雑かつ多様な顧客ニーズに柔軟に対応できる発電設備を目指して、開発を進めている。

水素など次世代燃料に対応 蓄電池やCCUSとも連携

脱炭素に向けては、水素やアンモニアといった次世代燃料を火力発電で活用するため、研究開発が進んでいる。加えて、蓄電池やCCUS(CO2回収・転換利用・貯留)ユニットとの連携など、開発テーマは多岐にわたる。「これらをサポートしていくためにも、デジタル技術は必須です。開発にタイムラグが起きないようにまい進していきます」と石垣主幹技師は意気込む。

次世代エネルギーにおいて、三菱重工のデジタル技術に求められる役割はさらに大きくなっていきそうだ。

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】エネルギー設備を精緻に管理 データを掛け合わせ故障を予兆

日本全国でエネルギーサービスを展開する東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)。同社の設備管理の中核を担っているシステムが、「ヘリオネット21」だ。
同システムで、ガスエンジンやガスタービンなどを利用したコージェネレーションシステム、ボイラー、冷凍機など、各種設備に専用の端末を設置してデータを集めることで、全国各地に点在する設備の運転状況を把握する。

ヘリオネットセンターの制御室


設備の不調をつぶさに検知 メーカーとともに機能向上

データは24時間365日遠隔監視を行うヘリオネットセンターに集約され、あらかじめ設定された数値を外れた際などには、故障予知検出として、その詳細を監視室のディスプレイに表示する。同社社員が状況を確認し、これまでのメンテナンス履歴などを集めた自社のデータベースから、当該設備はどのような状態なのか、類似の設備で同じような兆候が発生したかなどを検索。これらデータを総合的にかんがみながら、緊急停止を伴う故障が発生しないように対応を行っている。
稼働状況を常時監視することで、一瞬の不調も見逃さないのがヘリオネット21の大きな特長だ。
例えば同社が管理する出力2400kWの20気筒ガスエンジンでは、シリンダーの一つの排気温度が数秒間だけ急速に落ち、すぐに元に戻った。温度の急変は一瞬の出来事で、エンジンの出力も回復したということもあり、本来であればメーカーが事前に定めている故障とされない事象だった。
しかしデータの動きや自社で行ってきたこれまでのメンテナンス経験などを基に、重大な故障の予兆と判断し、今回のケースでは、夜間の設備停止可能時間を見計らって故障の疑いのあるシリンダーの点火プラグとガス噴射弁を交換し、故障による緊急停止を未然に防いだ。
「小さな予兆とはいえ、今後重大な故障につながる可能性もある。そうなれば経済的な損失にもなるので、予防保全はとっても大きな意味があります」。エンジニアリング本部カスタマー技術部ヘリオネットセンターの橋本博課長はそう話す。
また、設備から得たデータやユーザーとしての運用知見は、機器メーカーとも共有されており、製品開発にも生かされている。同センターの金澤仁所長は、「メーカーと協力して設計の段階から設備を故障させないシステム作りを行うのも、当社の取り組みの特長。メンテナンス項目や点検周期を見直すことで、設備を故障させない運用の実現を目指しています」と胸を張る。


日常業務をDXで効率化 ペーパーレスアプリを開発

TGESはほかにも、ヘリオネット21で得られるデータや、気象データ、運用に関する知見などを活用することで、エネルギー設備を自動最適運用し、さらなる省エネやコスト低減を図るサービス「ヘリオネットアドバンス」も提供している。また、昨年から設備管理で発生する繁雑な業務のデジタル化にも取り組んでいる。

設備管理業務のDX化を実現


紙の帳票をタブレット端末に持ち替えて、「補給水やオイルの漏れはないか」「薬液の残量はどれぐらいか」―など、設備を巡視する管理員が、日常点検を行う。
これにより、紙の時代よりも点検データの検索性・分析性が大きく向上するほか、帳票の付随データとして写真を貼り付け、その上に文字を書き込むなど、画像編集ソフトなどで別途必要になる作業もタブレット上で完結することができる。
さらにアーカイブ機能も搭載し、紙の時代では持ち運びに苦労する資料の取り扱いが手軽になるほか、設備の技術図書や操作マニュアルも現地で簡単に検索・閲覧でき、点検業務や突発トラブル報告業務を効率化した。
現在は自社設備の管理業務で試験的に運用し、今後機能を拡充していく方針。数年以内には外販も想定しているそうだ。同センターの雨宮俊課長は「現場における毎日の点検業務は慣れがある反面、新たな手法の導入にハードルのあるケースが多いです。一方で、毎日の定常業務なので効率化による費用対効果は大きいです。今回開発したツールは、お客さまのニーズを基に設備管理業務に役立つDX技術をパッケージ化したもので、操作性も簡便なためアナログからデジタルへ違和感なく移行できます。今後もお客さまの声を重視しながら機能開発を続けていきます」と語った。
高度なシステムと優秀な設備技術員を組み合わせることで、TGESは設備保守の高度化に力を入れていく。

左から雨宮氏、橋本氏、金澤氏