【特集2家庭用エネルギー】エネ事業者の営業最前線 静岡ガス

エネルギー事業者が扱う商材は機器やサービスなど多岐にわたる。各社が顧客ニーズを汲み取った営業戦略を展開する。

PPA契約でエネファームを拡販 使い方指南で満足度向上を図る

静岡ガスは、グループ全体でカーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいる。その一つが家庭用コージェネレーションシステム、エネファームの拡販だ。業界全体の販売台数が累計50万台を突破する中、静岡ガスは昨年12月末時点で、5500件ほどを導入している。

「最近では資機材価格の高騰が影響し、万単位の部品で構成されるエネファーム本体価格も値上がり基調だ。そのため、太陽光発電の導入モデル『ソラーレ』という独自のサービスとのセット販売に注力している」。営業本部くらしデザイン部ルート開発グループ本部の山本大輔グループリーダーはこう話す。

ソラーレとは静岡ガスがエンドユーザーと10~13年の長期契約を結ぶPPA(電力販売契約)モデルだ。静岡ガスが家の屋根にPVを設置し、資産としてPVを所有・管理することで、ユーザーは初期費用ゼロでPVを導入できる。PPA契約終了以降、PVはエンドユーザーの資産となる。こうした仕組みでエネファームの初期費用の割高感を緩和させる。静岡ガスではパナソニック機(PEFC)とアイシン機(SOFC)のエネファームを販売している。

「エネファームは他の給湯器にはない発電機能が備わっており、竜巻や台風などによる停電に対する備えになることから、災害対策として関心が集まる傾向が高まっている」(山本リーダー)

メンテナンスにも配慮している。静岡ガステクニカルセンターでは、エネファーム導入後の3カ月目と1年目にカスタマーサービス巡回を実施している。実際にアポイントを取ってエンドユーザー宅に訪問し、エネファームのメリットを感じてもらえるように、発電量や実際の運転状況を伝えているそうだ。また、使い方のアドバイスを実施し、より効率的に使用してもらうことで満足度の向上を図っているという。小回りの利く、地域に密着した静岡ガスならではの取り組みと言える。

三菱地所との連携により、家のスマート化に向けた取り組みも行っている。25年には三菱地所が提供する「HOMETACT(ホームタクト)」というサービスの利用を開始した。これはいろいろな家電機器をスマホ端末のアプリでまとめて操作できるスマートホームサービスだ。

総合デベの強み活用 市販の家電などとも連携可

「家電機器メーカーも同様のサービスを展開しているが、どうしても同一メーカーの自社製品利用が前提となってしまう。総合デベロッパーが提供することで、エアコンや照明など、メーカー不問のサービスになっている」とルート開発グループの白鳥晶識氏は話す。また、市販の家電だけでなく、給湯や床暖房といったガス機器とも連携可能だ。「他の地方と同様、政令指定都市を持つ静岡県でも人口減少に悩まされている。市場が縮小する中、地域の課題解決に取り組み、お客さまとともに持続可能な社会の実現と地域社会の発展に貢献していきたい」。二人はこう口をそろえる。

ショールームでホームタクトを体感できる

【特集2家庭用エネルギー】岩谷産業がクラファン活用でカセットガス商材の市場開拓

クラウドファンディングを使った岩谷産業の販売戦略が好調だ。従来とは異なるビジネスモデルを確立した同社の取り組みを取材した。

岩谷産業が新しい手法を使ったカセットガス商材の販売戦略を展開している。舞台はクラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」だ。これまで、炎をインテリアとして利用できる暖炉「MYDANRO」(3万9800円)、金属加工の街、新潟県燕市の調理機メーカーと連携して作ったプロ級の鉄板焼きが味わえる「ホームシェフプレート」(4万4000円)、珈琲焙煎機メーカーと共同開発した珈琲焙煎機「MY ROAST」(5万5000円)などの製品を開発し、マクアケ上でヒットさせてきた。

高付加価値化に挑戦 「刺さる」商品開発に注力

マクアケは、さまざまなコンセプトの商品やサービスをウェブ上で公開し、購入希望者を募る仕組みだ。公開されるのはマクアケの審査を通過したよりすぐりのもの。公開後、一定期間内にあらかじめ設定した目標金額に達すれば出品側の期待以上の商品であることの証左となり、金額の多寡で応援具合が分かる。提供企業は、プロジェクト期間に購入された数量を生産し、利用者が享受できるのは数カ月後。「従来は量販店などで万人に受ける商品を大量に売るビジネスモデルだったが、新しい販売戦略のハブとしてマクアケを活用している。一見すると単なる資金調達の場だと思われがちだが、在庫リスクを軽減でき、受注生産に近い形をとれるため、需要の読めないとがった商品に挑戦できる」と本山孝祐マーケティング部長は話す。例えば、ホームシェフプレートは、ステンレスでアルミを包んだ三層構造で、鉄板上の熱ムラを防ぎ、本格的な味わいを再現。高付加価値をうたい消費者に刺さる商品開発に注力している。

注目は、手掛けた商品全てがヒットしたこと。MYDANROが3000万円、ホームシェアプレートが1200万円、MY ROASTが4600万円以上と、30万円から100万円程度だった目標金額を大幅に上回った成果に。いずれもマクアケ公開は終了済みで、同社公式通販サイトで販売中だ。現在は、「火加減調整不要」「直火で早くおいしく炊ける」などの高付加価値炊飯器「PROGOHAN」をリリース(3月終了予定)。7万円台と高額ながら、1月上旬時点で5000万円以上を集めている。「アイデアはまだたくさんある」(本山部長)とヒット作連発の快進撃が続きそうだ

高付加価値炊飯器の「PROGOHAN」

【特集2家庭用エネルギー】エネルギー史に刻むハイブリッド給湯の潜在力を探る

年間5万台に満たないが、普及へ大きな潜在力を秘めるハイブリッド給湯器。自由化政策によって誕生した家庭用総合エネルギー事業者による普及への一手は何か。

司会=角田憲司(エネルギー事業コンサルタント)
出席=清水靖博(日本瓦斯執行役員営業本部電力事業部長)
   祖父江 務(リンナイ経営企画本部経営企画部部長)

角田 16年以上前になりますが、リンナイがエコジョーズとヒートポンプ(HP)を組み合わせた家庭用のハイブリッド給湯器「エコワン」を開発した話をお聞きした時、私は東京ガスの家庭用営業部門で商品企画に携わっていました。「効率の良い電気式HPと湯切れの心配がないガスボイラーを組み合わせることで、電気とガスそれぞれのメリットが生かせ、家庭のお客さまには良いコンセプトの製品だ」と思った記憶があります。ですがガス業界は大手ガス会社が中心となり、まずはエネファームの拡販に注力しました。

 コロナ禍の時期にエネルギー事業コンサルタントになって以降、私は省エネ性やランニングコストメリットといったハイブリッド給湯器の価値を皆さまにお伝えしています。リンナイは業界に先駆けてハイブリッドを世にリリースしたわけですが、これまでの販売動向や現状について解説をお願いします。

祖父江 販売開始は2010年で、当初はLPガス業界向けの営業から始めました。オール電化の攻勢を受けLPガスの販売量が減る中、省エネに貢献し、ランニングコストを削減するエコワンがエンドユーザーに響くだろうと提案を始めました。ただ、ハイブリッド給湯器の単品販売だとガス販売量が減るだけです。そこで、当初目を付けたのが床暖房、そして最近ではガス衣類乾燥機です。給湯で減らした光熱費分のガスの力で快適な暮らしを支えることができます。そうしたガス商材をセットに訴求していきました。

 次のステップは住宅業界のハウスメーカーや工務店向けです。住宅業界として省エネ住宅を進めていく中で、ハイブリッドの利点が認識され始めていて、主に新築向けに普及が進んでいます。最近では新築と既築で半々くらいの普及状況でしょうか。

 これまで長い時間を経てきたわけですが、ようやく数年前に「年間1万台の壁」を突破しました。潮目が変わったのが国からの補助金の増額です。国がハイブリッドの省エネ性に着目後、23年の1台当たり5万円から始まり、24年には15万円の補助金が出るようになりました。国の「ハイブリッド給湯は省エネ機器だ」というお墨付きによって、直近では業界全体で年間4万台程度まで増えていると想定しており、本格的な普及への下地が整いつつある状況と認識しています。メーカーも昨秋にパロマが加わり、ノーリツと計3社体制となって、近い将来、認知度も上がることで、年間10万台単位の市場になると思っています。

100%を超える省エネ性 大規模な設置工事が不要

角田 政府が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)に関して、当初、脱炭素社会の実現と産業競争力強化を目指す16の重点分野が設定され、その一つに「くらし(家庭・業務部門)」が設けられました。確かに経済産業省、環境省、国交省の連携による給湯省エネの補助事業が普及に向けた一つのトリガーになりましたね。さて、都市ガス向けの販売ルートはいかがでしょうか。

祖父江 エコジョーズ単体ではどんなに頑張っても省エネ効率が100%を超えません。しかしハイブリッドは違います。100%を優に超えます。さらに大掛かりな設置工事も不要で比較的コンパクトに簡易的に導入できます。最近では100Vの屋外コンセントにプラグインで設置できる機種もラインナップしています。また、スペースが限られる集合住宅の省エネ化にもハイブリッドは相性が良いです。

 最近では都市ガス供給エリアの集合住宅向けに導入されるなど、都市ガス業界にも注目され始めていると理解しています。

角田 電力業界はエコキュートの普及を進めていますが、住宅構造上の制約でエコキュート導入が難しい物件があります。そうした物件にエコキュートよりも貯湯タンクが小さくてコンパクトな構造のハイブリッド給湯器を電力業界が導入していくシナリオは考えられますか。

清水 18年まで東京電力にいた私がお答えします(笑)。東電時代、ハイブリッド給湯器の省エネ性について議論しました。原子力発電がフル稼働で深夜電力に経済性があればエコキュートに優位性があるかと思いますが、そうでないならば、深夜の電気を使って無理に400ℓタンクに貯湯する必要はない。貯湯のための断熱性能維持といったハード面でのコストもかかります。使うタイミングで必要な量のお湯を作り、貯湯量を少なくできるハイブリッドの方が合理的ではないかと個人的には思います。

 ただ、現状の電力業界内では住宅の屋根に設置した太陽光発電(PV)を使ってエコキュートとの親和性を発揮させる「おひさまエコキュート」に取り組まれているケースが多いと思います。昼間に余ったPVの電気を使ってエコキュートを稼働しお湯をためる。意図的に電力消費を促す「上げDR(デマンドレスポンス)」です。すでに昨年累積1000万台を突破したエコキュートを有効活用したいと考えていると思います。

 同時に停電に弱い、レジリエンスに弱いといったオール電化の弱点をPVと蓄電池によってカバーすることで、災害にも強いオール電化住宅に仕立てていくことが大手電力会社のファーストチョイスだと思います。

省エネ性を発揮する「エコワン」

【特集2】適切な導入規模の判断が重要 接続地点の情報公開に期待

蓄電池事業が盛り上がる一方、さまざまな課題が生じている。今後の健全な発展に向けた課題や展望について話を聞いた。

インタビュー/山田 努(資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギーシステム課 課長)

―大型蓄電池事業の現状をどう見ますか。

山田 再生可能エネルギー変動を緩和する上で蓄電池は重要で、多くの地点でビジネスが盛り上がっています。一方、系統接続への手続きが渋滞状態です。安定供給を前提とした電力システムで必要とされる蓄電池の役割と、蓄電池で収益を上げようとする事業者の思惑との間にギャップがあるのかもしれません。盛り上がりは否定しませんが、適切な導入規模を客観的に判断し、健全なビジネスの発展が重要です。

―ギャップを埋めるための措置は。

山田 蓄電池をターゲットにした制度的な枠組みは存在しませんが、例えば、運用が始まっている需給調整市場では系統用蓄電池の応札が進んでいます。市場がしっかりと機能するように募集量や上限価格の設定なども議論されています。

―火災事故などの課題もあります。

山田 安全性の高いものを優先するべきで、経産省の導入補助でも一定の安全基準をクリアしたもののみを対象にしています。火災以外の課題では、遠隔で制御可能な蓄電池はサイバーセキュリティーのリスクがあります。系統全体の安定運用に波及するため、しっかり担保された設備が導入されるべきです。

―日本ガイシがNAS電池の生産から撤退しました。

山田 国産メーカーの撤退はエネルギーの安全保障上でマイナス材料ですが、自前でセルから作る国産メーカーも存在します。こうした企業には頑張ってもらいたいです。

―電気自動車のバッテリー機能を蓄電池に仕立てるような取り組みも進んでいます。

山田 電気自動車や充電器・充放電器についても、DRready勉強会などで業界と議論したいと考えています。非常時の電源になり得るし応援したい。ただ充電時間が重なることで生じるピーク需要対応など課題はあります。

―蓄電池に火力発電特有の慣性力を持たせる「疑似慣性」の技術開発が進んでいます。

山田 火力の代替機能には期待したいですし、蓄電池への疑似慣性力の具備は安定供給の確保の観点から重要なので、技術開発を支援しています。ただ、現状では疑似慣性の価値を評価する手法がありません。

―今後の展望は。

山田 事業者が接続申し込み地点を精査するための情報を公開する「ウェルカムゾーンマップ」の拡充など、各一般送配電事業者で検討が進められています。これにより蓄電池の導入が円滑に進展することが期待されます。

やまだ・つとむ 1995年3月早大商学部卒。トーマツ・リスクアドバイザリー事業本部(現デロイトトーマツ)パートナーを経て、2023年から現職。公認会計士。

【特集2】ソリューションをユーザー視点に転換 包括的にサポートする体制を整備

【関西電力】

関西電力が中期経営計画の中で掲げている柱の一つがバリュー・トランスフォーメーション(VX)として取り組むサービス・プロバイダーへの転換だ。従来の大規模なアセット中心のビジネスにとどまらず、ユーザー視点に即したニーズや課題解決に尽力する。その鍵と位置付けている商材の一つが蓄電池であり、蓄電所の運用だ。

蓄電所の初案件として、オリックスと共同で和歌山県に「紀の川蓄電所」(出力4・8万kW、容量11・3万kW時)を建設し、2024年12月に運開させた。今後、関電が関わる案件では、28年2月に大阪府泉南郡の多奈川蓄電所(出力9・9万kW、容量39・6万kW時)、同年4月には北海道札幌市のSGET札幌1、2蓄電所(出力5万kW×2、容量17・55万kW時×2)が運開する。関電は30年代早期に約100万kWの蓄電所開発を目指す。

蓄電所の運用では当面の間、卸電力取引市場や需給調整市場などを活用する。紀の川蓄電所では、オリックス側が設備の運転や保守を担う一方、関電側が市場取引を担当。同社グループのE―FlowのAIを活用したシステムを使い、市場動向を踏まえて取引の最適化を図る。

ケーブル負荷を抑える施工 温度管理と状態監視を徹底

紀の川蓄電所ではセル型のリチウム電池をモジュール化し、64個のコンテナに収めている。ケーブルは地中に埋め込み、電力系統に接続している。その際、ケーブルに負荷がかからないよう、コンテナをかさ上げし、ケーブルを歪曲にして地中に這わせるようにした。

また、各コンテナ内には空調を完備し所定の温度に保つと同時に、24時間監視して、状態を確認している。「性能が劣った電池があると、モジュール全体の効率が下がる。そのため、最適な運用には各モジュールの劣化具合を均一にする必要がある」(関電担当者)。関電ではこうした運用を積み重ね、蓄電設備の開発や設置、運営までを包括的にサポートする体制を整えてVXを展開していく。

和歌山県の紀の川蓄電所

【特集2】「価値獲得」へ各社が手探り 自治体の付加価値向上も

多様な分野での運用が期待されるスマメの電力データ。 データ活用に向けた、現状の課題と今後の展望を聞いた。

インタビュー/森川博之・東京大学大学院工学系研究科教授

―スマートメーターによるデータをどのように捉えていますか。

森川 ビッグデータという点が大きな魅力で、これまでさまざまなサービスが検討されてきました。ですが、システムにかかるコスト負担、顧客から料金を徴収する仕組みが確立されず、ビジネスにつながっていないのが現状です。つまり、新技術で新たな製品・サービスを生み出す「価値創造」はできているが、その価値で収益をあげ、サステナブルに循環していく「価値獲得」ができていません。今は価値獲得に向け、各社が手探りしている。まさに「生みの苦しみ」のフェーズです。

―何かいいアイデアはないでしょうか。

森川 注目している事例が、中部電力ミライズコネクトの賃貸物件向け高齢者見守りサービスです。家賃債務保証を組み合わせることで、賃貸オーナーや不動産会社が安心して高齢者の入居を受け入れられるサービスになっています。顧客が料金を支払う仕組みが成り立っている一例と言えるでしょう。

―災害時のインフラ復旧など、公共機関への活用も期待できますか。

森川 安否確認など、住民の安全・安心につながり、自治体の付加価値も向上します。ただ、ビジネス同様、限られた予算の中でどのようにコストを負担していくのかを考える必要があります。この点がクリアできると、データ活用は一気に進むと思います。

短周期でのデータ収集が可能 新プレーヤー誕生のきっかけに

―今後、第2世代のスマートメーターが導入されていきます。期待していることはありますか。

森川 短周期でより細かくデータ収集できる点では、電力会社の需給調整にも貢献できます。一方、よりリアルタイムでデータがやり取りされると、新たなプレーヤーが誕生するかもしれません。第2世代はそのきっかけとなるアイテムになると考えられます。

―これからは都市ガス、水道へのスマートメーター導入も進みます。

森川 さまざまなデータの掛け合わせで新たなビジネスが生まれる可能性は十分あります。今後、必要とされるのは、データを使って何ができるのかを考えられる「デジタル社会人材」。まさに、固定概念を捨て、ビジネスの糸口に気づいた人が勝つ世界です。そして、失敗するかもしれないが、まずは実行してみること。これがデータをビジネスにうまく活用する第一歩だと思います。

もりかわ・ひろゆき 1992年東大院工学系研究科博士課程修了。2006年東京大学大学院教授。情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)会長、電力データ管理協会代表理事なども務める。

【特集2】電力スマメの通信網を利用 コストを抑制し全件に導入へ

八戸ガス

スマメの導入から運用には多くのコストが発生する。八戸ガスは地元の東北電力と連携することで活路を見出す。

青森県八戸市を中心に1万8000件ほどの需要家を持つ八戸ガスは、検針員の人材不足への対応や高齢化対策を目指して、今年1月からスマートメーター(スマメ)を導入している。きっかけは、地域内の電力、水道などのインフラ事業者が参加する事業環境の課題認識を共有するための定期会合だった。その中で同社は、東北電力ネットワーク(NW)が進めていたスマメ導入の話題に注目した。「全件導入によって業務の効率化や検針員不足に対応できることが分かり、当社もスマメの設置を進めようと考えた」。八戸ガスの舘綾子常務取締役は振り返る。

スマメ運用には検針データを取得するための通信費や膨大なデータ数を管理するサーバーが必要となり、多くのコストが生じる。そこでポイントになったのが、東北電力NWが構築したインフラの一部を活用することだった。八戸ガスは東北電力NWに利用料を支払うものの、導入に伴う一連の費用は抑えられる。「メーターメーカーのインフラ活用も検討したが、(東北電力NW)は同じインフラ事業者としてエネルギーの安定供給に努めており当社と共通点が多い。協力してスマメ運用することに安心感がある」と舘常務。こうして、東北電力NWとの実証試験を経て、実運用を始めた。

八戸ガスは、11月時点で約1000台の膜式タイプのスマメを導入し、1カ月に1回、検針データを取得している。未取得などの不具合が生じた際は、東北電力NWとともに現場で確認し、対応することもあるそうだ。

熱中症対策に有効 安全対策にも期待

運用費には表れない効果もある。積雪時や猛暑日には、検針員の転倒や熱中症対策が必要だが、スマメならそうした懸念がなくなるという。さらに遠隔による閉開栓機能を使えば、料金不払いのユーザー宅のガス供給を遠隔停止できる。

舘常務がとりわけ重視するのが状態監視と発報機能だ。ガスの状態を24時間監視しており、ガス漏れなどが想定される異常時には、すぐさま発報して社内のパトライトが鳴る仕組みにしている。舘常務は「お客さまからの連絡を待たずに、事前に異常が分かる点で安全対策にも期待している」という。

10年をかけて全件にスマメを導入する

【特集2】分離膜方式採用のシステム開発 高濃度のメタンガス精製を実現

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

鹿児島市南部清掃工場のメタンガス精製を担う中核システムをTGESが手掛けた。

メタンを分離する膜技術など長年にわたり開発したノウハウが結集する。

鹿児島市南部清掃工場のバイオガス製造を支えているのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が開発したバイオガスからCO2を分離する精製システムだ。

東京ガスグループはこれまで、バイオガスを使って今後のCN化につなげる技術を磨いてきた。2011年にはバイオガス由来の都市ガスを導管に注入した実績を持つ。バイオガスにはメタン以外にもCO2や硫化水素、シロキサンなどが含まれている。これらの不純物を取り除くことで、都市ガス原料に利用できるが、メタンの回収効率の向上が課題だった。そこで、東京ガスグループでは12年から精製システムの自社開発を進めてきた。

メタンとCO2の分離技術は、圧力でCO2を水に溶かしメタン回収する高圧水吸収法、固体吸着剤を利用し圧力の変動でCO2を吸着・脱着するPSA(圧力スイング吸着)法などが存在する。だが、圧力や流量の変動、メタン回収率の低さ、システム構築の複雑さといった課題があった。アミン溶液を使う方法もあるが、こちらは主に石油精製や発電所などの大規模用途で、今回のケースには適さない。

圧力・濃度の制御を最適化 バイオガス成分変化に対応

そこで東京ガスグループでは、分離膜方式に注目した。金属製の筒状の中に、小さな分子の結合体である高分子でできた膜の束を複数設置する。その中をバイオガスが通過すると、CO2は膜を透過して分離され、膜の出口からは都市ガスの原料として利用可能な98%以上の高濃度のメタンが回収される。透過したCO2も高い純度で分離できる。

TGESソリューション技術本部再エネ・脱炭素ソリューション技術部の西川研志さんは「欧米では実績のある技術。圧力や温度の最適な制御技術を磨くことで高濃度のメタン回収を実現した。バイオガスの成分は常に一定ではなく地域や季節で変わる。今回、南部清掃工場で採用されたシステムは、あらゆる変化に耐えられる。清掃工場でバイオガス由来のメタンを都市ガス原料に利用する国内初の事例」と話す。今後、東京ガスグループではメタン回収だけでなく、CO2の分離回収・利用などCN化へさらに研究開発を進める。


精製システムでCO2とメタンを分離する

【特集2】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証

【INPEX】

過去に天然ガスを生産していた新潟県柏崎市内の鉱区で水素とアンモニアの製造・利用、さらにCO2を回収貯留・利用(CCUS)する、国内では例を見ない脱炭素へ向けた実証が間もなく開始される。

INPEXが6月から東柏崎ガス田平井地区で同実証の試運転を行っている。実証では、平井地区とパイプラインでつながっている同社南長岡ガス田から産出される天然ガスを利用し、年間約700tの水素を製造するほか、排出されるCO2を地下のガス田に埋める計画だ。

主な実証内容は、①ブルー水素の製造と水素発電による電力供給、②新技術を活用したアンモニア製造、③枯渇ガス田向けCO2貯留の可能量の評価・検証、④圧入CO2による炭化水素増進回収効果(EGR)の確認、⑤圧入CO2の監視―の5点だ。

①では3台の水素専焼のガスエンジン(計1000kW)をモノジェネとして同社が運用する。発電した電気は、地元の地域新電力「柏崎あい・あーるエナジー」を通じて市内公共施設へ全量供給し、水素発電の地産地消を進める。②では、東京科学大学(旧東京工業大学)発のベンチャー「つばめBHB」の低温・低圧力でアンモニアを効率的に製造する技術を活用する。

今回の水素製造ではユニークなやり方を取り入れている。「一般的な水素製造では水蒸気改質方式が採用されている。ただ外部から熱を加えるため、その排ガスとして余分なCO2が出る。今回の実証では自己熱改質という純酸素を用いるプロセスを適用することで、CO2処理を容易にしている」(加賀野井彰一・常務執行役員)。酸素分のコストは掛かるが、CCSを見据えた全体最適への工夫である。①と②を通じて、年間700tの水素を製造し、600tを発電用に使用。残りの100tでアンモニアを年間500t製造して県内の化学会社に販売する予定だ。

設計や操業のノウハウ蓄積 チェーン全体を評価

次に、③~⑤の実証において、CO2回収にはHiPACT(ハイパクト)と呼ばれるアミン溶液を活用する。一般に用いられるアミン溶液と異なり、高圧でCO2を回収する。これにより、CO2を地下に圧入する際、昇圧分のエネルギーの一部を抑制できる点が特徴で、計画では年間5500tのCO2を地下に圧入する。

今回はCO2圧入用、埋蔵量が少なくなった天然ガスの増進回収(EGR)用、内部の地下構造や貯留CO2をモニタリングする観測用として3つの井戸を掘削した。圧入されたCO2の挙動を把握すべく、しっかりと地下を観測し、細心の注意を払ってCCSを行う。

「製造や利用、貯留に至る一連の実証を、一つの場所で展開することに大きな意義がある。これによってチェーン全体の検証や評価が明確になり、将来の実装に向けて設計や操業に関するノウハウが蓄積される」(加賀野井常務)。低・脱炭素に向けた動きが活発化する中、同実証の行方は耳目を集めそうだ。

平井地区で展開する実証プラント

【特集2】欧州のヒートポンプ事情を考察 英国視察から見えた普及策

欧州にはヒートポンプ(HP)暖房普及のポテンシャルがある。英大手小売り企業の独自戦略から日本での普及の道筋を展望した。

寄稿/矢田部 隆志東京電力リニューアブルパワー エグゼクティブプロデューサー

ドイツの暖房業界団体BDHは、2025年上半期のヒートポンプ(HP)の出荷台数が前年比55%の増加を記録したと公表した。欧州では再生可能エネルギーの増加とロシアのウクライナ侵攻を発端に、天然ガス依存率の低下へ、HPやバイオマスボイラーへの暖房機器の転換を促す補助金を創設。23年までは大幅な増加が続いていた。

しかし、ウクライナ侵攻が長引くとともに各国の補助金政策が弱まり、24年のHP出荷台数は前年比30%近く減少し、前年割れとなった。再び増加基調となったことはHPが欧州の暖房市場に根付きつつあると考えられる。欧州ヒートポンプ協会(EHPA)によると、ドイツに限らずスウェーデンやフィンランド、英国も25年の第1四半期は増加に転じたという。

EUでは09年の欧州再エネ指令発行時からHPによる環境熱(ambient heat)は統計上も再エネとして扱われてきた。とりわけロシアのウクライナ侵攻以降、EU主導の下、ボイラーからHPへの移行を一層加速させるなど、強弱はあるものの一貫した政策が継続されている。政策の安定性は、長期的に化石燃料を削減し、再エネへの転換を目指す日本の手本とすべき事項が多いものと考えられる。

こうした事情を調査しようとヒートポンプ・蓄熱センター、電力中央研究所など7団体・企業の有志により、4月に欧州を訪問。英国ではエネルギー事業者のHP普及に向けた取り組みを調べた。

小売り企業がHPを製造 最適制御とDRで低価格化

英エネルギー事業者団体であるエナジーUKによると、英国内では24年に約10万台のHPが販売されたが、暖房機器全体に占める割合は5%程度と他欧州諸国と比較して低い水準だ。英国政府は財政支援として「ボイラーアップグレードスキーム」(最大7500ポンドを補助)、「エネルギー効率化補助金」(低所得世帯向け)、HP設置訓練への補助金を提供している。また、規制強化策などを進めるとともに、27年以降にHPへのデジタルでのインターフェース導入と電力市場での価格変動に対して能動的に稼働させる機能の実装を目指すという。このために、政策コストのリバランス(電気料金がガス料金に対して熱量当たり3倍程度の価格差があることへの是正)、初期費用への財政支援強化、低所得者向け補助金(Energy Company Obligation)の改善、新規ガスボイラー設置禁止などを英国政府に提案している。

小売り会社では電力市場の時間ごとの卸売り単価がより安価な時間帯へ需要の誘導を図るべく、電気の契約にHP特約を設ける企業が増えてきた。

オクトパスエナジー社は、英国シェアトップの小売り事業者だ。HPシステムについては22年に参入した後、24年には同社独自のHPシステム「Cosy」の製造・販売を開始。同社の設備制御のプラットフォーム「クラーケン」に直接接続することでリアルタイムの遠隔測定データを通じて効率的な利用と柔軟性を提供している。2年後には現在のHP生産能力を10倍に拡大する予定だ。

オクトパスエナジーが展示するヒートポンプ

【特集2】次なる普及策へ業界の挑戦 利用者のDR参加をどう促すか

累積普及台数が大台を突破したエコキュート。次なる普及シナリオの確立を目指す業界の挑戦が始まっている。

「発売当初は携帯電話の初期のように毎年右肩上がりで出荷台数が増えていった。国の補助金や深夜の割安な電気料金メニューを組み合わせたことで、家庭用設備機器としては異例のヒットとなった」。累積出荷台数が節目の1000万台を突破したエコキュートのこれまでの軌跡を、日本冷凍空調工業会の関係者はこう振り返る。東日本大震災以降、一時的に出荷台数は落ち込んだものの、現在では再び震災前の水準となる年間70万台程度にまで持ち直している。エコキュートの普及は電力産業の発展に大きく貢献したが、その余波は他産業にも及んだ。

ガス業界は効率の低い旧式のガスボイラーを改め、省エネ性に優れたエコジョーズを業界標準として本格普及させる契機とした。また、ガス機器メーカーがルームエアコンの冷媒を使ったヒートポンプとガスボイラーを組み合わせたハイブリッド給湯器を市場投入するなど、熱利用を巡る技術進歩を促した意味で業界全体の活性化に貢献した。

更新需要に備え 自動運用へ規格化進む

「ニーズを把握するためにエンドユーザー向けに定期的にアンケートを実施しているが、毎回9割近くがその利用に満足している。今後はエコキュート同士への更新需要に備えていく必要がある」。前出の日冷工関係者はこう話す。ただ、ハイブリッドといった対抗設備が登場するなど、更新需要にあぐらをかいてはいられない。次なる普及策として、業界が進めているのがエコキュートのDR(デマンドレスポンス)活用への対応だ。

再生可能エネルギーの利用拡大に向け、昼間の太陽光発電(PV)の余剰電力の活用を促す上げDRのほか、下げDRなどエコキュートの蓄熱力を活用した電力系統の調整力に貢献させようとする取り組みだ。

実はこれまでも、ユーザー自らがキッチンのリモコンを使って、夜間に蓄熱していた時間帯を昼間に手動でシフトするDRの運用は可能だった。

また、一部の電力会社はエコキュートを使い再エネ推進に貢献するDRプランを提供してきた。例えば「おひさまエコキュート」プランだ。PVの自家消費を促すもので自ずとヒートポンプの稼働は昼間が中心となる。深夜から昼間へシフトさせる意味でDR運用の一種でもある。ユーザーにとって割安感を得られるが、PV設置住宅が前提で、天候の悪い日が続くと割安感が得られなくなる。

順調に普及している普及している

【特集2】DRreadyの本格普及へ 自立型の事業モデル確立を

住宅の新基準適用で太陽光発電(PV)の増加が見込まれる。エコキュートが果たす役割についての展望と課題を聞いた。

インタビュー/水谷 傑・住環境計画研究所 副主席研究員

―デマンドレスポンス(DR)へのエコキュートの活用についてどうお考えですか。

水谷 国の住宅トップランナー基準に設置目標が課された太陽光発電(PV)が今後増えます。そうした中、エコキュートはPVの余剰電力の活用や電力系統の安定化を支えると思います。DR活用には需給状況に応じた稼働が必要です。翌日の天気を予測し、DR機能を搭載したエコキュートの稼働時間を制御することで貢献できるでしょう。

 また、昼間のPVの余剰電力活用として発売されているおひさまエコキュートは、逆潮流が減るため系統の安定化に寄与します。ただ、新規購入の費用がかかります。そこで、例えばFIT(固定価格買い取り)期間を終えたPVを所有し、かつ既存のエコキュートのユーザー向けに「昼間沸き上げプラン」といった料金メニューを作るのも一案です。売電以外の選択肢が増えることで、自家消費の拡大につながります。

―電力需給に応じてガス給湯が使えるハイブリッド給湯器とDRの親和性は。

水谷 「上げDR」や「下げDR」にも活用できて親和性がありますし、省エネ性も高く注目しています。100Vコンセントで設置でき貯湯槽も小型で、これまでエコキュートが設置できなかった集合住宅に導入される可能性があり市場は拡大すると思います。

ZEH新基準で条件が厳格化 「ハイブリッド」が選択肢の一つに

―エネルギー会社の理解も鍵です。

水谷 2027年度から適用されるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)新基準(GX ZEH)では、一次エネルギー消費量削減率が35%と厳しくなります。エコジョーズのみでの対応は難しく、ガス会社はハイブリッド給湯+床暖房といった提案が必要になります。電力会社も集合住宅に導入する際の選択肢になるでしょう。一方、経済産業省の公表資料では、新基準の条件を満たした初期投資が最も安いのはエコキュートです。設置場所や耐荷重などの制約がない戸建て住宅では、引き続き優位になると思います。

―現在、給湯器のDRready化に向け技術要件などの検討が行われています。

水谷 DRreadyスペックの設備が今後、本格的に市場に出ますが、DRに活用されなければ意味がありません。DRによるベネフィットが得られ、機器の価格上昇分がランニングコストで回収できるような「自立型のビジネスモデル」の確立が求められます。

水谷 傑(住環境計画研究所 副主席研究員)
みずたに・すぐる 専門は建築環境工学。家庭用エネルギーや自治体のGHG排出量に関する調査研究、住宅の省エネルギー基準の策定に係る支援業務などに従事。その他、NEDOの委員なども務める。

【特集2】本格普及を見据え増産対応 ハイブリッド市場を主導

リンナイ

「脱炭素を目指す中で、ガスと電気を使ったハイブリッド給湯は家庭用のトランジション製品だと考えている」。15年近く前に業界に先駆けてハイブリッドの「エコワン」を販売し、この市場開拓を主導するリンナイ営業本部営業企画部の柴田毅次長はこう話す。同社は現在、2種の貯湯タンクを用意している。狭小住宅に対応する70ℓ型と、設置スペースに余裕のある160ℓ型だ。特に太陽光発電(PV)を搭載する新築の戸建てメーカーは、160ℓタイプを採用するケースが増えているそうだ。再エネの自家消費と相性の良いヒートポンプを使うメリットが大きいからだ。

加えて同社では、昨今のエネルギー情勢などを踏まえて機能面を拡充している。近年頻発する自然災害に備え「気象警報湯はり機能」を搭載。気象警報の発令時に、同社のアプリを通じて浴槽への湯はりをユーザーに勧める。浴槽と貯湯タンクへの自動貯湯を含めて十分な湯量を確保することで停電や断水事態に対応する。

天気予報から発電量予測 PV活用モードに切り替え

また、「PV活用モードへの自動切換え機能」ではPVの自家消費を促す。気象予測会社から提供される天気予報のデータを活用し、PVの発電量を予測。PV活用モードへと遠隔で自動切り換えする。PVによる前倒し沸き上げ制御で、通常よりも高い温度で貯湯して夜のお風呂需要に備える。逆に日射量の少ないタイミングでは、低温沸き上げ制御で電力消費を抑制する。

ガスと電気を最適に制御してお湯を生み出す一連の機能は現在、国策で推し進めているDRや再エネ大量導入に寄与する機能そのものである。

「ガスとヒートポンプのそれぞれの利点を生かした高い省エネ性やランニング費抑制の点で補助金も整備されており、市場は年々拡大している。今後はエネルギーや住宅業界が取り組むZEHに向けて欠かせない機器になる」(同)。ハイブリッドの本格普及を見据え、同社はすでに増産できる生産体制を整備しているそうだ。

市場に初めて登場したエコワン

【特集2】潜在的な需給調整力に期待 DR価値向上の仕組みが重要

デマンドレスポンス(DR)活用が期待されるエコキュート。1000万台の需給調整力をどう生かすべきか、話を聞いた。

インタビュー/岩船 由美子・東京大学 生産技術研究所 教授

―エコキュートのDRに活用に向けた動きが始まっています。普及には何が必要ですか。

岩船 累計出荷台数分(1000万kW)は需給調整力として大きなポテンシャルです。「給湯」という基本的な需要とセットでDRに使える点も理想的な活用法だと思います。

 従来の深夜料金もDRの一種と考えると、太陽光発電(PV)の余剰電力に対する需要をつくるには、昼間に安くなる料金プランが欠かせません。さらに、一般消費者が意識せず需給調整をする上では、電力卸市場の取引価格に連動する「市場連動型料金」が最適です。日本で導入している小売り事業者は数社しかありませんが、米カリフォルニア州では、電力会社がこうした料金プランを必ず設定することになっています。今後はこうした柔軟な料金体系を構築するべきです。

―今後は、通信・遠隔制御機能を持つDRready対応機種が登場してきます。

岩船 それらの機種を料金プランに連携させることもDRには有効です。そのためにはアグリゲーターや小売り事業者とメーカーとの協力は必須です。また、メーカーが開発する上でのインセンティブとなるよう、新機種への補助金や優遇措置の整備も求められます。

 一方、今後導入される次世代スマートメーターには「IoTルート」が搭載され、新機能やサービスの追加が可能になります。この仕組みでエコキュートやEVなどを制御できる可能性があり、検討が始まりました。

―電力需要ひっ迫時にガスに切り替えられるハイブリッド給湯機器も有効ですか。

岩船 貯湯タンクが小さく集合住宅には導入しやすい。実は、「ヒートポンプ×電気温水器」のハイブリッドも有効だと思っています。電気温水器は省エネにはなりませんが、低価格で単身世帯にも普及を促せます。再エネが余り過ぎるのであれば、CO2削減を目指す上では電気温水器による需要創出・DRも視野に入れていくべきだと思います。

―直近の課題についてお聞かせください。

岩船 国際的には、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスにおいて、「電力消費のタイミングにより近いタイミング、かつ電力消費がなされる地域によりふさわしい時刻別地域別CO2排出係数の利用を必須とする」といった改定案が提出されています。時刻別地域別CO2排出係数で需要の帰属するCO2排出量を算定すると、PVが発電する昼間の数値は低くなるので、DRのメリットが明確になります。今後は、こうしたDRの価値を高める仕組みづくりが重要になってくるでしょう。

岩船 由美子(東京大学 生産技術研究所 教授)
いわふね・ゆみこ 東大大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了(工学博士)。住環境計画研究所、東大生産技術研究所特任教授などを経て23年より現職。

【特集2】 家庭用給湯が四半世紀で一変 低・脱炭素化担うアイテムへ

家庭部門の低炭素・脱炭素化の鍵を握るヒートポンプ。新たな役割を担うための仕組みづくりなどが始まっている。

2001年に誕生したエコキュート。それまではガス給湯が当たり前だったが、CO2を冷媒とした新しいタイプのヒートポンプによって家庭用給湯器市場は激変した。オール電化住宅の普及とともに出荷台数は年々増加。四半世紀近くを経た今年春には、累積出荷台数が1000万台を突破した。現在では年間70万台程度の出荷数で推移している。

高い省エネ性に着目 ハイブリッド型も登場

ヒートポンプの省エネ性を生かし、ガスボイラーと組み合わせた新しい発想のアイテムも登場した。ガス機器メーカーが開発、製造を主導するハイブリッド給湯器だ。高い省エネ性やランニングコストを削減できる点で注目されている。LPガス大手のニチガスが積極的に採用するほか、東京ガスが取り扱いを開始するなど、ガス業界が普及の担い手となることが期待されている。

片や欧州のイギリスに目を向けると、家庭用ヒートポンプを新しい手法で普及させる動きが出てきた。ウクライナ危機によって、ガスから電気転換への見直しが進み、ヒートポンプ機器を自ら販売する電力小売り事業者が登場したのだ。機器メーカーと生産委託契約を締結し、家庭に電気を供給するだけでなくヒートポンプ機器普及拡大の役割を果たしている。

日本で主流の給湯ではなく、温水暖房用途が中心で、CO2を冷媒とするヒートポンプではないため、単純に日本にとっての参考事例とはならない。だが、こうした家庭用機器を巡る「ファブレス経営」の手法が編み出されている視点に注目するべきだろう。

洋の東西を問わず家庭用市場のビジネスが大きく変わる中、給湯器や暖房機器に新たな役割が求められようとしている。脱炭素社会を実現するため、そしてそれをけん引する再生可能エネルギーの最大限の活用を見据えた「DR(デマンドレスポンス)運用」だ。

エコキュートメーカーは機器にあらかじめDR機能を備えた規格作りに着手している。ハイブリッド機器も、電気とガスを自在に切り替えることでDRに対応できる。

CO2削減や省エネに資する家庭用ヒートポンプの普及には、どのような道筋や課題があるのか。業界の最新動向とともに考察する。

大台を突破した