【特集2/座談会】独自の販売戦略で難局乗り切る 地域密着で顧客満足を追求


長年の課題だった液石法の省令改正は、販売の現場をどう変えるのか。求められているのは、今まで以上にユーザーの視点に立った販売戦略だ。

古川剛士/古川社長

中岸真史/鳴門ガス社長

〈司会〉角田憲司/エネルギー事業コンサルタント

左から古川氏、中岸氏、角田氏

角田 液化石油ガス法(液石法)の省令改正など、LPガス業界は大きな転機を迎える一方、地域エネルギー供給の担い手としてLPガス会社の役割は高まると思います。まずは皆さまの簡単な自己紹介をお願いします。

中岸 徳島県鳴門市内のLPガス販売店が数社集まり1968年に創業し、以降、市内を中心に事業を展開しています。LPガスならではということで、地域密着型を志向しています。基本的にはガス配送、ガス機器の修理や取り替え工事を含めて全部自社で展開していこうという思いがすごく強い会社で、ガス屋らしいガス屋だと思っています。LPガスの供給件数は約1万件です。

古川 神奈川県小田原市で事業を手掛けています。創業は1911年と古く、当時は地元で魚の卸業をしたり、製氷事業を手掛けていました。その後、事業の形を変えて55年頃からLPガス販売に取り組みました。観光地の箱根が近く、ホテルなどの業務用のお客さまが多数います。LPガスの供給件数はおよそ9500件です。

「必ずしも違法ではない」 ブローカー問題に地域差

角田 商慣行の是正に向けて液石法の省令が改正されました。今後は過大な営業行為の制限や三部料金制の徹底などが求められます。どのように受け止めていますか。

中岸 徳島県は課題がそれほど深刻なエリアではありません。ブローカーによってこれまで強引にお客さまを「取った、取られた」ということは聞きませんし、今回の改正で特段の変化はありませんね。

 アパートの賃貸オーナーさんなどに改正の経緯や事情の説明、情報の共有化を図りましたが、結果的に供給元が変わった事例は1件もありませんでした。他社からも深刻な事態だとは聞いていないので、落ち着いている状況だと思います。

角田 「ブローカーが暗躍している」「改正省令を順守しない営業が続けられている」といった報道が見受けられます。そういう状況はあまりないということでしょうか。

中岸 四国圏内の他県の詳細は存じ上げません。少なくとも徳島には関西系が1社、関東からも2社がエリア外から販売していますが、現状ではそれほど話題にはなっていません。

古川 私どものエリアでは「(無償で設備を貸与しないのだったら)別の販売店へ切り替える」というケースが何度かありました。ただ、以前が大変な状況だったと考えるとかなり減ってきたと実感しています。一方、戸建ての場合でも、まだブローカーによる強引な切り替えは起きてはいますが、減ってきたように感じます。

角田 この問題は地域によって温度差があることは理解しておく必要がありますね。まだブローカーによる強引な切り替えが起きている神奈川県のような状況にどのように対処すべきか。特に戸建てでは画期的な対策はありませんが、地元の消費者センターなどと連携して相互監視を強めて取り締まる必要があります。あるいは「(ブローカーを通じて)ガス料金が安くなる」と勧誘しつつも時間の経過を見計らって値上げする「独占禁止法上の不実告知」に当たる事例に対して、しかるべき措置を取るなど、地道な活動を重ねるべきだと思います。ちなみに、賃貸集合住宅で切り替えられた時、残存設備の買い取りを大家さんにしていただきましたか。

古川 していただきました。

角田 それが以前とは違う点ですね。

古川 そうですね。

角田 ただし有償でオーナーが買い取るケースでも、その費用を切り替え先の事業者がサポートしている可能性があります。しかし、これは必ずしも違法とは言えないということには留意が必要です。さて、中岸さんの会社では「即湯サービス」というユニークなサービスを展開しているそうですが、詳しく教えてください。

【特集2】燃料油からの燃料転換に注力 販売特約店との連携深める


アストモスエネルギー

アストモスエネルギーは、LPガス販売特約店との連携強化や需要拡大に向け燃料油からLPガスへの転換に積極的だ。提案分野はBCP(事業継続計画)を重視する病院施設や介護老人保健(老健)施設、CO2削減対策が急務の工場向けだ。

病院や老健施設の取り組みに対して、事業開発二部の豊永誠さんは次のように話す。「燃料油を使った非常用発電設備は広く知られている。一方、燃料油に比べて腐敗しにくいのにLPガス式は十分認知されていない。そこで、当社の各支店では非発とGHP(ガス空調)などをパッケージにした提案活動を特約店さまと連携して進めている。分散型であるLPガスの優位性をさらに発揮できると考えている」

工場の場合はCO2削減や省エネ性を訴求する。燃料油使用の工場には設備更新のタイミングを見計らって、高効率なLPガス機器への転換を提案する。

このように「BCP対策型」や「CO2削減型」を使い分けており潜在需要はあるそうだ。

一方で課題もある。燃転にはLPガスタンクの新設が必要だ。敷地が限られるため駐車スペースを潰すケースも出る。「危険物との離隔距離や、最適な設置スペースの確保といった計画立案をしっかりと練り上げて提案している」(豊永さん)という。

ウェブマーケティング開始 三つのプランを直接提案

同社では4月から、新たにウェブマーケティングの手法を取り入れている。需要家が同社ホームページに直接訪問することを想定し、「既存設備更新プラン」「高効率燃料転換プラン」「レジリエントプラン」といった、燃転の指南を打ち出してダイレクトマーケティングにつなげる。同部の西谷栄師さんは「当社を通じた燃転のメリットを感じてもらいたい。LPガスを供給する特約店さまと、こうした手法によって連携を深めたい」と話している。

ウェブ上でも燃転を進める

【特集2】ブローカー対策に手応え 消費者への注意喚起に注力


液石法の省令改正によって事業に影響はあるのか。液石WGの委員で、テーエス瓦斯の髙橋社長に聞いた。

インタビュー/髙橋宏昌テーエス瓦斯社長

―商慣行上の一番の問題は何でしょうか。

髙橋 切り替え業者(ブローカー)を通じた販売活動が問題だと思います。LPガス販売・利用の肝は保安ですが、その知識が乏しいブローカーによる切り替えで、結果的に消費者に不利益が及ばないことが肝要です。

―ブローカー対策に向けた取り組みは。

髙橋 地元タウン誌に消費者へ注意喚起を促すチラシを出しています。それから神奈川県LPガス協会として街宣車を用意し、「強引な営業、強引な訪問販売に気を付けてください」と呼びかけながらエリア内を回っています。数年ほど前から私の発案で始め、私自身も街宣車に乗って対策活動をしています。

近江商人の精神で地域の人を支える 過度な競争は事業者の衰退招く

―街宣車の効果はありますか。

髙橋 消費者の方にどこまで届いているかは不明です。ただブローカーが嫌がっていると感じていて、伊勢原エリアから離れているような気がしています。街宣車には他の販売店の方とペアで同乗します。当然、ライバル店にもなり得るのですが、同乗中の雑談で契約数の話などを聞くと自分の販売店も頑張ろうと刺激をもらっています。

―LPWA(省電力広域無線通信)の通信インフラが整備されたことで残量管理や配送の合理化が進んでいます。

髙橋 7割くらいのお客さまにLPWA式の管理システムを導入しています。検針を含め効率的に業務を遂行できるのは利点ですが、お客さまとの接点機会が減っています。

 そうした中で、私は近江商人の言葉「町々の行灯に」を心がけています。夜道を照らすことで暗がりの中の人たちの道しるべとして支える。直接的な利益にはなりませんが、過度に目先の利益を追うのではなく、お客さま、あるいは地域住人のために何か役立てることはないか。地域の活動や行事に協力することで地域に貢献したいです。

―制度面での要望は。

髙橋 熱中症対策など教育環境の改善にもつながる学校施設への空調整備の一環として、災害にも強いLPガス式のGHP導入を継続的に要望しています。それから人口密度の高いエリアは都市ガス、それ以外はLPガスといった住み分けが必要だと思います。もちろん、対都市ガス、対電化といった競争は否定しませんが、過度な競争を押し付けるような制度だといずれ地域のエネルギー供給の担い手が存続しなくなることが危惧されます。

たかはし・まさひろ 神奈川県伊勢原市を基盤に米穀類の販売も手掛ける。神奈川県LPガス協会会長や伊勢原市商工会会長を務めている。

【特集2】 技術的な知見伝承を重要視 小規模ユーザーへの提案も積極化


【秦野ガス】

神奈川県秦野市を中心に、伊勢原市や平塚市の一部に供給する秦野ガス。東京ガスから卸供給を受け、需要家数は約1万5000件。これまで区域内の工業団地で、都市ガスの中圧導管から複数のユーザーに大規模な燃料転換を実施した。ブタン燃料や重油を使った、東証一部上場企業のグループ会社からの低炭素化ニーズに対応してきた。

CN都市ガスへの転換も実施した

「一例を言うとブタン燃料を使っていた金属加工系のお客さまからは、(ブタン)調達の煩雑さを理由に都市ガス供給へ切り替えていただいた。導管によって供給安定性は増したと思う。こうした取り組みは当社にとって大きな財産になった。お客さまがどのようなボイラーやバーナーを使い、生産プロセスでどのように熱を使っているのか把握する機会になったからだ」と飯田昌一常務取締役は振り返る。

エネルギー供給事業者としては、そうした技術的な知見を持ち合わせておくことで、スムーズな燃転を実現できる。このような技術を若い世代に伝承していく必要性を感じているそうだ。「お客さまの事情もあるので難しいが、理想を言えば技術伝承が途切れないように一定の期間ごとに燃転を実施していきたい」(飯田常務)

CN都市ガスへの燃転実施 工業団地誘致計画に注視

現在、エリア内の大口ユーザーの燃転は、都市ガス事業の新規参入者含めておおむね終了。残すは毎時1t未満のボイラーを活用している小規模ユーザーへの提案だ。飯田常務は「定期的にお客さまのところに顔を出し、ニーズを確認している。設備更新のタイミングに合わせて燃転を実現できればと思う」と話す。最近では東海大学などの大学キャンパスや地元の市役所へカーボンニュートラル都市ガスへの燃転も行っている。

一方、同社エリアでは燃転以外で大きな需要拡大が期待されている。それは、市が新東名高速の秦野丹沢スマートインターチェンジ付近に誘致を進める工業団地の新設計画だ。同社エリア内から2kmほどの距離だという。今後、秦野ガスによる供給が実現できるのかが注目される。

【特集2】 鍵握るバーナーの燃焼技術 供給拠点整備でガス・ガス転換


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ

燃料転換を進める上で鍵を握るのがガスバーナーの燃焼技術だ。TGESは豊富な燃焼技術を使ってユーザーの燃転をサポートしている。

化石燃料の中でCO2排出量が最も少ない天然ガス。脱炭素化に向けた取り組みの一つとして、燃料を天然ガスに転換するニーズが高まっている。

こうした中、東京ガスグループの東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、モノづくりの現場での燃料転換を進めている。得意とするのが、プロパンやブタンを主成分とするLPガスから天然ガスへの燃料転換だ。

TGESでは燃焼技術を蓄積している

「油からガス体への燃料転換になると配管から燃焼機器まで大掛かりな設備交換が必要になるケースが多い。それよりもガス体同士の方がバーナーの調整だけで済むことが多いため、お客さまにとってコスト的に楽に転換できる」。産業エネルギー営業本部の家中進造産業技術部長はこう話す。

東京ガスは1969年、日本で初めてLNGを輸入し、都市ガスの原料として使用を開始した。以来、熱量の低いガスから、現在使用されている高カロリーの都市ガス「13A」へ転換してきた。その際、需要家先の多種多様な設備の切り替えに対応したことで、燃焼を含めた一連の技術を蓄積。TGESはこの受け継いできた技術をもとに、脱炭素化に向けた燃料転換に生かしているわけだ。

東北エリアの転換支援 安全性や品質維持に注力

TGESが手掛けた事例が、東北エリアの床材・壁紙などの建築内装材メーカーの工場だ。このほど、燃焼炉の燃料をLPガスから天然ガスに転換した。その際、主に三つのポイントが挙げられる。

一つ目が事前に行う調査だ。まずは、バーナーの特性の把握から開始した。LPガスと天然ガスでは燃焼特性に違いがある。そこで、「ウォッベ指数」と呼ばれる指標を使い、バーナー用に供給するガスの比重や熱量を確認。体積当たりのエネルギー量を踏まえ、ガス配管の口径もチェックした。

燃焼技術グループの鎌田裕也氏は「工場にある全てのガス配管を調べ、既存の配管のままで転用が可能か、新設が必要かを判断した」と振り返る。また、部品類に関しては、バナーノズルや電磁弁といった必要最低限のものだけを交換。これにより、工事の日数を短縮すると同時に、費用の削減にもつながった。

二つ目としては、生産現場の安全性配慮が挙げられる。天然ガスが燃焼するのに必要な空気が不足すると、一酸化炭素が発生し危険な状態になってしまう。燃焼効率だけではなく、混合する空気の比率を適正化することで、安全に使用できる環境整備にも腐心した。こうした安全性の配慮は、気体燃料の燃焼の特徴を知り尽くしたガス会社ならではの強みと言える。

最後は、製品の品質維持をサポートすることだ。バーナーの燃焼状態や昇温スピードなどは、ユーザーが手掛ける製品の品質に直結する。ユーザー側から求められた条件に即して転換工事を実施した。

タンクローリーで輸送する

欠かせない安定供給体制 日立基地の整備が契機

燃料転換では、安定したLNG供給体制が欠かせない。東北エリアへの供給には、2016年に運転を開始した東京ガスの日立LNG基地が大きな役割を果たしている。

今回の工場では、敷地内にLNGサテライトタンクを新設。高速道路などを使い、日立基地から陸路でタンクローリーによる輸送を行っている。福島県内では、「LNGサテライトタンクをつくり、密集した10件ほどの需要家に対して導管供給を行っている事例もある」(燃焼技術グループの小谷野将史係長)

供給インフラの整備も重要なポイントだ。LNGサテライトタンクを建設してLNGローリー車による供給を行うか、導管の延伸による都市ガス供給をするかは、それぞれの整備費用やLNG基地からの距離や供給先の需要量などを踏まえて判断している状況だ。

製造現場では、脱炭素化を視野に入れたモノづくりをしながら、品質や生産効率を向上させ、競争力を高めることが求められている。その一方で、これまでLNG供給ができなかったエリアを中心とする工場では、LPガスを燃料にした工業炉が多く存在する。重油燃料もしかりだ。燃料転換のニーズがあっても、当時の工業炉バーナーメーカーの廃業などで対応できないケースもあるという。TGESは、こうした現状を踏まえ、燃料供給で培った知見を最大限に活用しながら、今後も燃料転換を着々と実施していく構えだ。

左から小谷野氏、鎌田氏、家中氏

【特集2】 ガス体エネルギーの優位性発揮 CO2大幅削減へ各社が注力


低炭素化戦略の一丁目一番地は重油・石炭利用をガス化することだ。この燃料転換を巡る各社の取り組みが加速している。業界の動向を追った。

稼働率が上がっている出荷レーン

「手っ取り早く実現するには、重油や石炭といった環境負荷の高い化石燃料から天然ガスなどの環境に優しいガス体エネルギーへ燃料転換すること」。ガス各社は低炭素化に向けた戦略についてこう口をそろえる。

もちろん、電化への転換もオプションとして存在する。しかし、電化では対応が難しく、化石資源の燃焼によるバーナーやボイラー、コージェネレーションを必要とするケースではガス体への転換が最短ルートだ。

短期的にはこれまで通りガス利用を進め、長期的にはe―メタンによって既存のインフラを活用したコストミニマムな脱炭素戦略につなげていく。

こうした取り組みは、ガス業界に限った話ではない。茨城県の鹿島コンビナートに製造拠点を構え、穀物を加工する昭和産業は、これまで石炭燃料を活用していたが、近隣まで整備されていた都市ガスインフラを活用し、ガス転換を実施。7800kW級のガスエンジンを活用し、CO2削減につなげた。この提案を行ったのは、東京電力系の事業者だ。昭和産業はその後、第二弾の転換を実施。さらに大型のコージェネを導入しCO2を大幅に削減したことでコージェネレーション・エネルギー高度利用センター(柏木孝夫理事長)から優良事例として評価された取り組みでもある。

同社がe―メタン導入を視野に入れているかどうかはさておき、ガス転換は必ずしもガス会社の専売特許ではない。

東北電力グループの東北天然ガスは、自社のホームページで「クリーンエネルギーでサステナブルな社会に~クリーンエネルギーの輪を東北地方に拡げるために、天然ガスの供給を推し進めます」とうたっている。このように電力系各社は、親会社のガス火力に併設されるLNG基地を供給拠点に、タンクローリーによるLNG転換を進めている。

大規模転換でCO2削減 競争力のある燃料価格

前述の昭和産業のように、石炭からの切り替えは基本的には大規模転換となる。その分、CO2削減効果も高い。

こうした事例は九州・宮崎県でも実現している。太平洋に面する旭化成の工場では、LNG小型船の受け入れ設備からエネルギー利用設備までをエネルギー事業者が整備した。また、西日本の瀬戸内海沿岸では、愛媛県にある製紙・パルプ大手の大王製紙の工場がガス転換を実施している。

業界関係者は「低炭素化を目指す山口県や広島県の名だたる化学系企業の大口ユーザーが、自家発を含めた設備について石炭などからガスへの燃転を検討している。インフラ未整備エリアなので、投資決定の暁には、地元ガス会社が導管を延伸することになるだろう」と話す。これにより、広域での大幅なCO2削減が期待されている。

中規模事例に目を向けると、新たな環境変化も生まれているようだ。「LNGをローリーで調達してサテライトで利用する燃料転換を決断した。CO2削減効果だけでなく重油価格と遜色がなくなってきていることも転換を決断した要因だ」。こう話すのは、最近ガスへ転換した福井県の化学メーカー・田中化学研究所の関係者だ。いくらCO2を削減できるとしても燃料価格が高ければ難しい。

各社がLNG基地を整備してきた

価格競争力が生まれている背景には油価動向だけでなく、ここ10年近くにわたって、各地で供給拠点となるLNG基地インフラが増強、あるいは新設されてきた事情がある。そのエリアとしては、北海道石狩市(北海道電力、北海道ガス)、青森県八戸市(ENEOS)、宮城県仙台市(東北電力)、福島県新地町(石油資源開発、福島ガス発電)、茨城県日立市(東京ガス)、富山県射水市(北陸電力)、大阪府堺市(大阪ガス)、愛知県知多市(東邦ガス)、福岡県北九州市(ひびきエル・エヌ・ジー)が挙げられる。

既存の基地と併せて空白地帯が少なくなってきたことで、コストを押し上げる要因だったタンクローリーによる輸送距離が短縮された。「これまで不可能だったエリアへの展開が可能になった。裏を返せば競争も活発化している」(大手エネルギー事業者)

多様なプレイヤーによる、ガスVSガスや電力VSガスといったエネルギー間競争は、国が描く低炭素化と産業政策を両立するものでもあり、今後のさらなる燃転につながる可能性がある。

既存ガス管利用こそ最適 地方と大手の連携に注目

既存のガス本管からわずかな距離の枝管による燃転こそが最もリーズナブルである。ここで主役となるのはガス会社だ。こうした取り組みでは、大手と地方各社の連携が一つのポイントとなる。

「例えば、大手がエネルギーサービスを実施して設備運用を担う一方で、地元の地方ガス会社が都市ガスを供給するケースは多い」(地方ガス関係者)。燃転に伴う人員や技術を持ち合わせない地方ガス会社にとって、資本力のある大手からの協力は欠かせない。さらに、ガスの需要拡大にもつながることからウィンウィンな関係となる。こうしたスキームによる展開の行方が注目される。

一方、地方ガス会社独自で燃転を実施したケースもある。秦野ガス幹部は自らの経験を踏まえ、「どのようなガス設備によってどのように製品を作り出すのか、モノづくりの現場を知るきっかけとなった。そうしたノウハウや技術を大きな財産として、しっかりと若い世代に伝えていきたい」と話す。

さまざまな事情を抱えながら脱炭素をブームに終わらせない地道な取り組みが各地で進んでいる。それはモノづくりを含めた日本の産業を支える各社の挑戦でもある。

【特集2】 サテライトでLNG供給 重油比でCO2を3割削減へ


【岩谷産業】

日本海に面し近畿・中部エリア最大級の工業団地である「テクノポート福井」。北陸新幹線が開通し都内からのアクセスが容易になった福井駅から車で40分ほどの場所にある産業拠点だ。1957年に創業し、73年からは50年以上にわたって電池用材料の開発・製造を手掛ける老舗メーカーの田中化学研究所もその一角を占める。

同社は「三元系正極材」と呼ばれるニッケル・コバルト・マンガンの三元素の化合物から生産する二次電池向けの正極材を手掛けている住友化学グループの化学メーカーである。電気自動車やハイブリッド車向けの車載用を中心に、スマートフォン、コードレスタイプの一般家電、さらには緊急時用の蓄電池に至る、身近な生活品から産業インフラまでを素材メーカーとして支えている。

「10年前と現在とでは、求められる電池の品質が全く異なっている。モノづくりメーカーのノウハウを駆使しながら、各製品の特性に応じて正極材の品質を作り分けている」。環境安全部の平野孝部長はこう説明する。

新設した100㎥のLNGタンク(3基)

CO2削減対策に本腰 昨春からボイラー切り替え

そうした中、同社は今、CO2削減対策に本腰を入れている。従来利用していたエネルギーは、フォークリフトや非常用発電機向けの軽油燃料、厚生棟向けのLPガス、本社棟や工場向けの電力、工場内の生産工程における熱源用の重油だった。

まず、電力利用については、電力会社からグリーン電力を購入することで低炭素化に対応した。次に取り組んだのが生産工程で活用する重油ボイラーの対策だった。

「環境に優しいエネルギーといったらLNG。周辺の工場でも少しずつその利用が進んでいた。当社としても2020年ごろに導入の検討を始め、天然ガス式のボイラーを採用した。設備更新はバーナーだけの一部の交換で済ませることができた」(平野部長)。昨年の春から順次、設備を切り替えて運用している。

電力会社のグループ会社からの長期リースにより、100㎥のLNGサテライトタンクを敷地内に3基新設した。燃料となるLNGは、岩谷産業がタンクローリーで運んでいる。岩谷産業エネルギー本部産業エネルギー部の西浦駿将主任は「特に冬場のローリー輸送は毎日が緊張の連続だ。LNG基地を保有する電力会社とも連携しながら、万全の供給体制を敷いている」と話す。

平野部長によると重油と比べても遜色のない価格帯になっており、年間を通じてCO2排出量を約3割削減する見込みだという。

「電池素材メーカーは中国系の企業が台頭してきている。今回のボイラーは金属を溶かす工程や乾燥工程で活用している。溶解具合や乾燥具合などにおいて当社のノウハウを駆使しながら中国系企業に負けない品質の素材を作っていきたい」。平野部長は今後の抱負をこう語った。

【特集2】燃料品質で燃焼具合が代わるバイオマスボイラー独自設計で連続運転や高効率運転を可能に


【日本サーモエナー】

タクマの子会社である日本サーモエナーは5月、木質バイオマス蒸気ボイラー「BSU-1200N型」(換算蒸発量1.2t/時)の販売を開始した。バイオマスボイラーは再生可能エネルギーである木質チップなどを活用するため、CO2削減対策の観点で注目されている。だが、含水量やサイズなど燃料の品質によって燃焼具合が変わり制御や安定稼働が難しい。本製品はリサイクルした木質チップを燃料とする一方で、同社独自の設計によって連続運転や高効率運転を可能としている。また、簡易ボイラーと小型ボイラーを組み合わせることで85%の高い熱効率を実現している。

建設や運用に関係する費用削減にも貢献している。機器は屋外設置のため設備を格納するための建屋の建設が不要で、土木関係の工事では基礎工事のみだ。

また、燃料チップ(50㎥トラック2台分)の貯留も可能で、ストックした後は自動運転を行う。そのため運転に関わる人件費を削減できる。

ガス体エネルギーへの燃料転換によるCO2削減効果は大きいが、化石資源を燃焼している限り脱炭素にはなり得ない。バイオマス燃料への燃転により脱炭素が実現できるのか注目される。

木質バイオマスを使った蒸気ボイラー

【特集3】中間貯蔵と再処理施設を行く サイクル政策の推進に再び脚光


リサイクル燃料貯蔵(RFS)

使用済み燃料の中間貯蔵施設、リサイクル燃料貯蔵(青森県むつ市)が事業を開始した。また日本原燃(同六ヶ所村)の再処理施設は2026年度中の完工を目指す。2施設を取材した。

リサイクル燃料貯蔵(RFS)は東京電力ホールディングス(HD)が80%、日本原子力発電が20%出資し、両社の使用済み燃料を保管する。原子力発電所敷地外で使用済み燃料を保管する日本初の施設となる。

日本の原子力発電では、使用済み燃料は発電所内の貯蔵プールや敷地内施設の金属キャスク(容器)で保管されてきた。しかしその保管可能な量には限界がある。東電HDと日本原電は原子力発電を今後運用する際に、中間貯蔵施設によって使用済み燃料の保管場所に余裕ができたことになる。

閉鎖への秒読み開始 電源使わず自然冷却

RFSは東電HDの柏崎刈羽原子力発電所から搬入された金属キャスク1基について、原子力規制委員会から使用前確認証の交付を昨年11月に受け、事業を開始した。RFSは地元との協定で「事業開始から最長50年で1棟目に保管する金属キャスクを全て搬出」することが決まっている。1棟目閉鎖へのカウントダウンはすでに始まったのだ。これらの燃料は建設中である日本原燃の再処理工場に搬出される見込みだ。

保管施設を見て感じた印象は、安全対策への深い配慮だ。RFSでは、地震や津波などの災害対策も施された分厚い鉄筋コンクリート製の堅牢な建物でキャスクを守る。厳重な警備体制も敷かれている。ここに国の許可ではウラン(U)3000t分の貯蔵が可能だ。キャスクに換算すれば、288基程度が設置できる。横の敷地には2棟目(2000t・U分)の建設も予定されている。

金属キャスクは微かに熱を持つ。そこで温められた空気が上昇する性質を利用し、その温度差を使った空気の自然対流で、施設内に風が流れ続け、冷却が行われる仕組みだ。このため冷却に電気は必要なく電源喪失による事故が起きることはない。

金属キャスクは輸送と貯蔵の兼用で、発電所で使用済み燃料を封入してから運ばれる。高さ約5・2〜5・5m、直径約2・4〜2・6mの巨大な容器だ。放射性物質の閉じ込め、放射線の遮蔽、臨界の防止、除熱の四つを行う機能が備わり、その構造は堅牢で落下、火災、水没にも耐えられる。さまざまな配慮と準備から、この施設での安全性の高さが確認できた。

貯蔵施設内の広大な空間

柏崎刈羽から運び込まれた1基目の金属キャスク

受入れ区域から貯蔵区域に通じる巨大な扉

役立つ技術・経験 新たな動きの可能性も

全国の原子力発電所で、施設内での使用済み燃料の保管量が限界に近づきつつある場所がある。RSFでの安全な運営の実績、技術や経験の蓄積は、中国、関西両電力が山口・上関で検討中の中間貯蔵施設の建設計画などに役立つのは確実だ。

他社からの使用済み燃料の受け入れについて、RFSは「出資2社の燃料を受け入れるのが当社の業務」(広報)との立場だ。とはいえ事業開始を契機に自治体の理解が進めば、新しい動きが出てくる可能性もある。RFSを活用すれば、原子力発電所のより柔軟な運用が可能になるはずだ。

RFSは、透明性の高い運営を約束し、地域住民との交流や説明会などを念入りに行っている。2000年の建設計画スタート当初からさまざまな意見はあったものの、激しい反対運動はほとんどなく、地元との信頼関係はしっかり構築されている様子だ。

RFSの一杉義美地域交流部長は、「住民の皆さまのご理解、ご指導の下で、安全に保管実績を重ね、原子力発電、原子燃料サイクルを支えていくように、社員一丸となって頑張ります」と抱負を語った。

リサイクル燃料貯蔵センターのイメージ図(提供:RFS)

金属キャスクの構造図(提供:RFS)

RFS施設内にある貯蔵建屋の外観(提供:RFS)

【特集3】再処理施設建設が佳境に 26年度中の竣工目指す


日本原燃

RFSの後、日本原燃の使用済み燃料再処理施設を取材した。中核となる再処理工場は26年度中、翌27年度中にはMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料工場が竣工する予定だ。

日本は原子燃料サイクル政策を国として選択し、使用済み燃料を再処理して利用する計画を立てている。そして使用済み燃料の中に含まれるウランやプルトニウムといった放射性物質を厳格に管理することを国際公約にしている。再処理工場は、使用済み燃料からプルトニウムを抽出し、プルサーマル発電向けのMOX燃料に加工するという重要な役割を担う。これによって、プルトニウムは消費される。日本原燃はその政策を形にする重要な事業者だ。

再処理工場は、1993年に着工したが、現在まで竣工が27回延期された。直近の延期の理由は、2011年の福島第一原発事故の後で規制体系が一新されたためだ。それに基づく再処理施設でのルールづくりや工事に時間がかかった。日本原燃は昨年8月、目標の見直しを発表した。

同社は、目標通りの竣工を目指し努力を続けている。大手電力各社に応援を頼んで規制対応の助力を受けている。各設備の主要担当者を体育館に集め、一緒に執務させて部門間の連絡を密にするなどの取り組みを行っている。「現時点で審査は順調に進んでおり、達成できる見通しだ」(日本原燃広報)

六ヶ所原燃PRセンターから望む再処理工場
日本原燃本社の外観

ウラン、プルトニウムなどを分離する機械の模型

原子燃料の原寸大の模型

「化学工場」の集合施設 安全対策は一層強化へ

今回の取材で印象に残ったのは、再処理工場は「化学工場」の集合体ということだ。核分裂反応を引き起こして発電する原子力発電所とは全く構造が違う。再処理工場は国内では現在運営されておらず、世界でも現時点では商業炉向けには、フランスのラ・アーグ工場でしか運営されていない。規制のルール、安全対策、設備を建設することは、前例がなく、大変な作業だと理解できた。

また再処理工場では、安全性を一層強化するための工事が行われていた。竜巻対策として、冷却塔などの重要施設を頑丈な鋼鉄製の防護ネットや防護板で覆った。外部火災対策としては、地上にある薬品貯槽を地下に移設した。このほか二次災害に備え、自家発電設備、消防車、重機などを配備している。

災害対策の訓練も進んでいる。一例として火災対策がある。同社は行政の消防・防災に加え、自社で消防班を作り、迅速な消火活動を行えるようにした。取材当日、消防班による放水訓練が行われていた。重装備をつけた男性社員たちが、短時間で消防車を配置し、給水・放水を実施。安全性が設備だけではなく、社員の努力によっても高められているのだ。

原子力なければ青森衰退 福島事故後の停滞脱却

下北半島を中心に、青森県には原子力施設が集中しているが、県民の大半は、原子力を受け入れているとみられる。「原子力がなければ、下北半島の衰退は大変なことになっていた」。取材中、むつ市民からこんな意見を聞いた。日本原燃の事業開始以降、地元企業に発注された額は1兆円を上回る。こうした県民の支援を背景に、原子燃料サイクルの本格始動への準備が着々と行われている。

今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画を見ると、六ヶ所再処理工場の竣工については「必ずなし遂げるべき重要課題」と明記されている。福島事故後の停滞の流れが変わり、日本のために原子燃料サイクルの推進が再び脚光を浴びようとしている。

専用容器で搬入される使用済み燃料(提供:日本原燃)
社内消防班の消防車を使った訓練
各ふたの下に保管される高レベル放射性廃棄物

【特集3】国が前面に立ちプロセス加速へ 官民一体で新たな体制を確立


インタビュー/久米 孝(資源エネルギー庁電力・ガス事業部長)

バックエンドのプロセス加速に向け政府は前面に立つ意向だ。具体的にどう実行するか、エネ庁電力・ガス事業部長に聞いた。

―第7次エネルギー基本計画には「再処理工場・MOX燃料工場の竣工に向け官民一体で責任を持つ」「国も使用済み燃料対策について事業者とともに前面に立つ」といった記述があります。どう実施していきますか。

久米 エネ基でも、核燃料サイクルの中核となる六ヶ所再処理工場とMOX燃料工場の竣工は必ず成し遂げるべき重要課題だと明記しました。日本原燃を中心に取り組む中、たびたび竣工が遅れ、関係者の心配を招いているという現状を真摯に受け止めており、官民一体で課題解決を目指します。例えば、昨夏、再処理工場完成の27回目の延期発表を機に、経産省も新規制基準の審査状況に目配りするよう、進め方を見直しました。以前はプロセスの公表がないまま、遅延の決定のみが発表されてきましたが、審査が着実に進んでいるという材料を関係者や国民にきちんと示す必要があります。こうした問題意識の下、現在は原子力規制庁と日本原燃との間で、今後の論点や進め方に関する共通認識を全体計画として共有。この全体計画に基づく進捗状況は、日本原燃から経産省にも報告されており、プロセスでずれが生じた段階から理由を含めオープンにし、われわれもフォローしやすい形になりました。以前より日本原燃の対応が評価されていると受け止めています。

 また、4月に開いた使用済燃料対策推進協議会では、事業者に取り組んでほしい事項を要請。さらにエネ庁原子力立地・核燃料サイクル産業課長と、日本原燃、電力各社の担当副社長が参加する幹事会など、さまざまなレベルで情報を共有し、電気事業連合会や各社が必要な支援を行うこととしています。

 このように、バックエンドの各分野で国が前面に立つ考えです。サイクル全体が輪となるように、一歩ずつ対応を進めていきます。

―法改正が必要となる可能性は?

久米 エネ基の内容を受け、原子力政策の課題を整理、具体化する議論を早急に進めることが求められており、その中で必要なアクションを検討していきます。

―米大統領が5月23日に署名した大統領令では、国内燃料サイクルの強化に向けた言及がありました。

久米 米国は元々サイクルを行っておらず、これをもって日本の政策に直ちに影響を与えることは考えにくいでしょう。一方、安全で確実かつ持続可能な長期的燃料サイクルといった記述があり、これは燃料の安定調達に向け同盟国と連携するという前政権の方針とも通じます。今後の動向を注視しています。

くめ・たかし 東京大学法学部卒。同大学院法学政治学研究科修士課程修了。ハーバード・ロースクールLL. M.取得。1994年通商産業省入省。2023年7月から現職。

【特集3】再処理の実現に向け正念場 国は消費地の理解促進に全力


青森県選出の国会議員として、原子力政策と向き合ってきた。エネルギー政策の大局観と国の本気度が重要だと指摘する。

インタビュー/江渡聡徳(自民党衆議院議員)

―日本原燃は六ヶ所再処理工場について2026年度中の竣工を目指しています。

江渡 まさに正念場といえます。最大のポイントはガラス固化です。原子力規制委員会の審査に合格しても、東日本大震災前のアクティブ試験のように再びガラス固化で不具合が生じると、県民には「またか……」という落胆が広がるでしょう。日本原燃はフランスの技術を用いていますが、ガラス溶融炉の大きさは同国の約4倍で、温度管理が課題です。炉全体の熱バランスを適切に保てなければ、ガラスの溶融状態が不安定になり、品質に影響を与えかねません。経済的な理由から今の大きさになったのだと思いますが、あらゆる知見を活用し、ガラス固化を実現するために徹底した取り組みが必要です。

―ほかに注視していることはありますか。

江渡 最も重要なのは、最終処分場の選定です。フランスやイギリスから返還された高レベル放射性廃棄物が、六ヶ所村の一次貯蔵施設に最初に運び込まれてから30年が経過しました。青森県と六ヶ所村、日本原燃は貯蔵期間を30年から50年とする協定を結んでいます。「青森県を最終処分地にしない」という約束を守るために残された時間は20年しかありません。昨年、北海道の寿都町と神恵内村で文献調査が終了し、佐賀県玄海町では同調査が始まりました。処分地選定に向けたステップの前進を大いに期待します。

―昨年11月には、むつ中間貯蔵施設が操業を開始しました。

江渡 建設前の状況を思い出します。むつ市は財政難に苦しんでいました。安定財源を求める中で、当時の杉山粛市長と話し合い、建設に向けて動き出したのです。同市には原子力船「むつ」の使用済み燃料を保管していた実績があったのも大きかった。東日本大震災などもあり、搬入までには時間を要しましたが、安定操業を続けてもらいたいです。

―核燃料サイクル実現に向けて、国に求めることはありますか。

江渡 資源が限られた日本でエネルギーの安定供給を実現するには、原子力の活用が不可欠です。いずれ水素社会が到来するかもしれませんが、安価に水素を作るには原子力が必要です。エネルギー政策は、こうした大局的な視点から取り組まなければなりません。また消費地の理解促進には、これまで以上に本気で取り組んでもらいたい。原発、再処理工場、中間貯蔵施設、将来的には最終処分場を受け入れた自治体があってこそ、安定供給は実現するのですから。

えと・あきのり 1955年青森県生まれ、日本大学法学部法卒業。96年衆議院議員総選挙で初当選(青森2区)。防衛大臣などを歴任。当選9回。

【特集3】国力の強靭化に不可欠 安全性を最優先した取り組みを


再処理工場完工へ、新規制基準の審査が大詰めを迎えている。各施設を抱える青森県としての要望を宮下宗一郎知事に聞いた。

インタビュー/宮下 宗一郎(青森県知事)

―六ケ所再処理工場の審査が大詰めです。

宮下 まず、これまでと異なり、私自身も大詰めと考えています。竣工そして操業開始までの試験、さらには操業後の安全が確保されるように取り組むことが重要です。

―第7次エネ基では主要施設の完工が明記されました。

宮下 日本には、第二次世界大戦の歴史があり、エネルギーが枯渇して蘭仏印にまで進駐しなくてはならなくなり、結果的に300万人の国民が命を落とすことになりました。国力という意味での強靭さには、エネルギーの安全保障が非常に大事です。原子力・核燃料サイクル事業は、エネルギーの自給自足を目指し、日本にとって必要不可欠な事業として始まっているわけですから、その歴史性に鑑み、国として六ヶ所再処理工場やMOX燃料工場などの竣工、操業をしっかり進めていくことが重要なのでしょう。この国を豊かで強い国にするという意味でも、この産業をどう育てるかは、国民がしっかり考えなくてはならないし、国はぶれることなくやっていく必要があります。

―中間貯蔵施設について求めることは。

宮下 昨年11月のリサイクル燃料備蓄センターの操業開始は、2004年の本県への立地協力要請以降、20年来の取り組みが結実したもので、長い道のりでした。一方、使用済み燃料の貯蔵期間は受け入れ、または建屋の供用開始から50年間とされており、搬出までのカウントダウンは始まっています。事業者には期間内の搬出を念頭に、引き続き安全確保を第一に事業に取り組んでいただきたいと考えています。また、国は中間貯蔵後の使用済み燃料の搬出先として六ヶ所再処理工場を示したわけですから、同工場を竣工させ安全かつ安定的、さらに、長期に稼働させることに最大限尽力すべきと考えています。

―国の原子力政策への向き合い方は。

宮下 電力の安定的かつ安価な供給及び脱炭素社会の実現、そしてAIが台頭し人口減少下でも電力需要が増す中にあって、安全確保を大前提とした原子力発電及び核燃料サイクルは、エネルギー資源に乏しいわが国には必要なものです。そのため、青森県として安全確保を第一義に、地域振興や雇用に寄与することを前提として協力していきます。国には、地域と原子力施設が共生していく未来を築きながら、原子力・核燃料サイクルを主体性と責任の下、安全性を第一に、将来にわたる国民と日本のために進めていただきたいと考えています。

みやした・そういちろう 1979年青森県生まれ。2003年東北大学法学部卒業。同年4月、国土交通省入省。14年よりむつ市長を3期務め、23年6月から現職。

【特集3まとめ】原子燃料サイクル最前線 現地取材で見えた本格始動の時


第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用の方向性が示され、

原子力発電所の再稼働・新増設・リプレースが本格化する時代が見えてきた。

これに伴い、使用済み燃料の中間貯蔵、再処理、MOX燃料製造といった

原子燃料サイクル政策を再び軌道に乗せることが不可欠な情勢となっている。

話題のリサイクル燃料貯蔵センター(RFS)や再処理工場は今どんな状況なのか。

関連施設の現地ルポ、政治・行政インタビューでサイクル事業の最新事情に迫る。

【レポート】中間貯蔵と再処理施設を行く サイクル政策の推進に再び脚光

【レポート】再処理施設建設が佳境に 26年度中の竣工目指す

【インタビュー】国力の強靭化に不可欠 安全性を最優先した取り組みを

【インタビュー】再処理の実現に向け正念場 国は消費地の理解促進に全力

【インタビュー】国が前面に立ちプロセス加速へ 官民一体で新たな体制を確立

【特集2】デジタル技術で低圧DERを制御 消費最適化へソリューション展開


【ニチガス】

ニチガスが低圧DERの拡販に乗り出している。電力・ガスの消費最適化を進め、スマートシティ構築を目指す。

ニチガスは分散型を軸としたエネルギーソリューション事業を展開する。2018年11月に電力小売り事業を開始以降、現在の契約数は約38万件で、その多くが電気とガスのセット契約だ。今後は、これを顧客基盤に太陽光発電や蓄電池などの低圧分散型エネルギーリソース(DER)の拡販を目指す。

注力する商材が電気ヒートポンプとガス給湯器で稼働するハイブリッド給湯器だ。例えば、ニチガスが開発中のスマートリモコンと組み合わせ、通常は電気でお湯を沸かし、高需要時にはガス式に切り替えることで電力ピークカットが可能になる。また、余剰電力がある時には電気でお湯を作りタンクにためる。そのお湯は蓄電池の電気と同様、今後のエネルギーインフラに欠かせない調整力であり、ハイブリッド給湯器はいわば「エネルギーのダム」とも言える。さらに、太陽光発電や蓄電池、照明やエアコンなどの家電機器をネットワーク化して制御し、宅内のエネルギー消費の最適化も可能だ。電力事業部の清水靖博部長は「お客さまが我慢せずに電気とガスを最適に利用できるスマートハウスの普及につなげたい」と説明する。

需要家のエネ利用を最適化 供給力・調整力として活用

将来、スマートシティの規模になると、DER運用の最適化で生んだエネルギーは供給力や調整力にもなり得る。その制御の一つがデマンドレスポンス(DR)だ。電力需要のピーク時での「下げDR」で系統を安定化できる。加えて、スマートメーターの30分値をリアルタイムで採録し、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術で、需要家同士が太陽光の余剰電力などを直接売買する「ピアツーピア取引」も可能になる。

一連の取り組みは電力ビジネス上での利点もある。下げDRでピーク値を抑えた分、容量拠出金の負担額の削減も期待できる。「例えば、負担額が減った分を料金割引へ還元するプランなど、お客さまと削減効果を共有するスキームを検討中だ」(清水部長)。魅力的なプランであれば顧客は増え、需要家DERからの供給力や調整力はさらに増加する―。この好循環の創出がニチガス戦略だ。

同社は電力とガスの供給を担い、DERの販売も手掛ける点を強みとする。来年度にはスマートリモコンの一般販売を予定する。デジタル技術も活用し、市場開拓を進めていく。

開発中のスマートリモコン