【特集2】水力発電の知見を全国展開 地元自治体と連携して立ち上げ


【三峰川電力】

大手商社・丸紅の100%子会社である三峰川電力は小水力発電事業を中心に手掛ける発電事業者だ。同社は1960年に「三峰川総合開発事業」の一環として、長野県伊那市長谷で水力発電所を稼働させたことに始まる。設立当初から小水力発電の原型になる流れ込み式発電に注力してきた。ダムを使わず、環境負荷の少ない再生可能エネルギーである点が特長だ。

同社が手掛ける発電所は開発中を含めて全国に30カ所以上点在する。水力発電は自然の力を利用して発電するため、開発においては地元自治体や住民との関係づくりが欠かせない。「当社のような民間事業者が導入地域の機運醸成、合意形成を円滑に図ることは容易ではない。一方、自治体は発電事業を手がけてみたものの、需要計画や管理運営などが障壁となる。協業することでウィンウィンの関係が構築できる」。指本喜範事業開発部副部長はこう話す。

欠かせない深いつながり 体験学習など交流活発

この取り組みの一つが、山梨県北杜市にある「村山六ヶ村堰ウォーターファーム」だ。元々、同地の水力事業は農業用水路を使った発電設備を自治体が所有していたことに始まる。設備が稼働し始めた2007年当時は、まだ再エネの固定価格買い取り(FIT)制度が開始となる前で、事業採算性の確保が困難だった。そこで、北杜市が行政許認可協議や地域住民との合意を、三峰川電力が発電事業の運営を担うことによって課題を克服した。同発電所にとどまらず、北杜市には現在三つの小水力発電所が稼働し、合計出力970kW規模まで拡大している。

北杜市では4カ所立ち上げた

もう一つが福島県下郷町の「花の郷水力発電所」だ。下郷町の当初の目標は「小水力発電で村全体の電力を賄うこと」であり、三峰川電力と提携した。これにより、花の郷発電所をはじめ、合計3カ所の発電所を設けた。現在では町全体の5分の1程度の電気を賄うまでに拡大した。このつながりによって、地元で体験学習や見学会を実施したり、下郷町の特産品を丸紅本社で販売するなどさまざまな交流も活発に行っている。

下郷町全体の5分の1の電気を賄う

三峰川電力では、今後も全国において有望地点を探し新たな発電所開発を進めていく構えだ。「水力発電開発は地点探しに始まり、地元の交渉、許認可申請、建設工事など稼働開始まで長い道のりだ。ただ、急峻な日本の地形には有望な地点がまだたくさんある。当社の拠点となる長野県を中心に、進出していない四国や九州にも展開していきたい」と指本氏は展望する。

自然負荷の少ない小水力発電は脱炭素化を目指す地域や企業からもニーズが高い。今後さらに注目されるのは間違いない。

【特集2】バイナリー発電で町おこしに力 高齢化進む温泉町の期待を背負う


【元気アップつちゆ】

沸点が低い媒体を気化し、その蒸気でタービンを回すバイナリー発電。福島市土湯温泉町にある「元気アップつちゆ」は、東日本大震災を機にこの発電に着手し、地域貢献している。

同社が手掛ける「土湯温泉16号源泉バイナリー発電事業」は、出力400kW、年間300万kW時。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で売電し、年間1億2000万円の収入を得ている。この一部は2015年の運転開始以来、地元住民に還元。例えば、高校生の通学定期券代、小学生の教科書代は、対象者の申請があれば全額補助する。

背景には、「土湯温泉に残りたい」と考える地元の若者を一人でも増やしたいという思いがある。従来この地は雪深く、冬になると麓の親戚の家から通学する学生が多い。高齢化率は56%に達しており、温泉町から若者流出を食い止めたいという強い願いもある。

誘客手段として位置付け 新たな魅力を創出し発信

同社の佐久間富雄エリアマネージャーは「発電所の役割は、土湯温泉に人のにぎわいを取り戻すこと」と語る。同社はまちづくりを支援する会社であり、発電事業オーナー、維持管理会社でもあるため、利益の追求は必至。観光の目玉として、理想的なワーケーションの地として、発電所には土湯温泉の誘客としての役割を期待しているという。

発電所は東京から新幹線で1時間半に位置し、首都圏居住者が観光の途中に立ち寄れる。新しい企画にも意欲的で、メディアを通じて常に話題を提供。例えば、廃業や高齢化で空き家となった建物を有効活用するため、売電収益により自社で土地建物を所有し、地域の活性化となる場所を創出している。

空き家活用の事例としては、発電時に排出される温水となった冷却水を二次利用してエビを養殖し、エビ釣りカフェを設置。さらに、土湯温泉観光協会や地元温泉組合と連携し、温泉熱を活用し発酵させる納豆ラボを完成させるなど、地域の資源を有効活用し、社会に新たな価値を提供している。今後も地域を活気づけていきたい考えだ。

土湯温泉16号源泉バイナリー発電所

【特集2】地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化


地域資源を生かす多様なベースロード再エネが津々浦々に広がっている。

一段の導入拡大に向けて開発コスト低減など数々の壁も立ちはだかる。

天候などの自然条件に左右されにくく安定的に発電できる―。そんな「ベースロード(基幹)電源」の役割を担える多様な再生可能エネルギーへの期待感が、全国各地で高まっている。脱炭素化にとどまらず、発電設備の建設や運用などを通じて導入地域に経済効果をもたらす可能性を秘めているからだ。一方で導入拡大に向けた課題も抱えており、関係者には持続可能な事業モデルづくりで創意工夫する力量が試されている。

30年度導入目標が目前に バイオマスが存在感を発揮

ベースロード再エネの一つが、森林由来の間伐材をはじめとする生物由来の未利用資源を燃焼する際の熱を用いて電気を起こす「バイオマス発電」。発電した後の排熱は、周辺地域の暖房や給湯向けに役立てられる。

資源エネルギー庁によると、バイオマス発電は2012年に固定価格買い取り制度(FIT)が開始されて以降、着々と導入量が拡大し、3月末に約7・5GWに(1GW=100万kW)到達。30年度の導入⽬標8・0GWに近い水準を実現した。

中でも未利用木材を燃やしてタービンを回し発電する「木質バイオマス発電」に目を向けると、国産材を燃料に生かす機運が高まっている。国土の約3分の2が森林に覆われた日本の林業を振興するなど、雇用を含め地域を活性化する効果が見込めるからだ。

これまで外国産の木材を利用した発電施設が増えてきたが、風向きが変わりつつある。背景には、世界最大の木質ペレット製造業者で知られる米エンビバが3月に破産を宣言した動きがあり、輸入材の安定調達が揺らぎ始めている。政府も国産材の活用促進に意欲を示しており、国産材へのシフトが進む可能性がありそうだ。

木質バイオマス発電向け未利用木材 提供:三洋貿易

バイオマス発電の導入促進に向けては、コストの大半を占める燃料費の低減が鍵を握る。さらに燃料需給がひっ迫する傾向にもある中で政府は、燃料安定調達の観点から成長の早い早生樹などを生かす実証事業を後押しする。

一方、河川や農業用水、上下水道などに流れる水のエネルギーで水車を回して発電する「中小水力発電」も各地で存在感を発揮。導入量はバイオマスと同様、直近で30年度の目標10・4GWに迫る10・0GWに達した。

ただ、有望な開発地点から優先的に開発した結果、適地が減少。残された開発可能地点の多くは奥地にあり、開発が長期にわたりコストがかさむという課題に直面している。このため、開発時のコストとリスクの双方を低減しながら地域と共生できる導入スキームを実現する対応が求められている。

地中深くから取り出した蒸気でタービンを回し発電する地熱発電もベースロード再エネの一翼を担う電源で、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援制度を活用した事例が積み上がっている。3月には、JOGMECの開発資金債務保証を活用し、三菱マテリアルと三菱ガス化学、電源開発(Jパワー)が共同出資する「安比地熱」(岩手県八幡平市)の発電所が営業運転を開始。JOGMECは先導的な資源量調査も行っており、20~23年度に全国で延べ約80件を実施したという。

運転を始めた安比地熱発電所 提供:安比地熱

とはいえ足元の導⼊状況を見ると、0・6GWにとどまっているのが現状。地元調整などを含む事業開発に長期間を要すると想定される中、30年度⽬標1・5GWとの間に大きな開きがある。目標達成に向けて政府は水力発電と同様、リスクとコスト面を考慮した地域共生型の導入を促そうとしている。

イノベーションにも熱視線 地熱発電技術が進化へ

地熱発電を巡るイノベーション(技術革新)の行方にも熱い視線が注がれている。政府は、世界有数の地熱資源量を誇る日本で「開発可能な資源量」を増やそうと次世代の地熱発電技術の開発に取り組む方針を、現行の第6次エネルギー基本計画に盛り込んだ。

この中で「高温岩体地熱発電」や「超臨界地熱発電」といった次世代技術にも触れ、「世界に先駆けて技術開発から社会実装、そして世界展開へとつなげていくことで、50年のカーボンニュートラルに貢献していく」と明示した。超臨界地熱発電は、マグマに近い深部にある400〜600℃の熱水を生かして発電する仕組みだ。

地熱発電を利用する可能性を広げる動きは世界規模で活発化し、消費電力が多いデータセンター(DC)の需要増加に対応する切り札としても注目される。米グーグルはスタートアップと組み、ネバダ州のDCにつながる地域送電網へ電力の供給を始めた。「脱炭素化と安定供給の観点から多様なオプションをバランスよく見極めたい」とエネ庁新エネルギー課。日本の電源構成で10%超を占めるベースロード再エネの最前線に迫った。

【特集2まとめ】ベースロード再エネの実力 「お天気任せ」解消の切り札に


カーボンニュートラルの切り札として期待が集まる再生可能エネルギー。

話題の太陽光・風力発電は発電量が天候などの自然条件に左右されるため、

制御が難しく、電力システムのあらゆる箇所に与える影響が大きい。

その裏側で開発が進むのが地熱や流れ込み式の小水力、バイオマスなどだ。

基幹電源として稼働しやすく、事業者は安定した発電計画が立てられる。

お天気任せを解消する「ベースロード再エネ」の優位性に注目した。

【アウトライン】 地域主体で電力と利益を回す 事例広がるも課題が顕在化

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【市川市クリーンセンター】

一般廃棄物(ごみ)の焼却時に発生する熱を使ってタービンを回して発電するのが、バイオマス発電の一つ「ごみ発電」だ。天候に左右されることなく安定的に発電できることに加えて、化石資源を燃やさないクリーンな発電方式である。発電所から排出される熱を温浴施設などに生かすことも可能で、未利用エネルギーの有効活用を進める発電手法として各地の自治体を中心に古くから利用されている。

そんなごみ発電に取り組んできた自治体の一つが、資源循環型の都市づくりを進める千葉県市川市だ。市内で唯一のごみ焼却施設「市川市クリーンセンター」で、人口49万人、25万世帯数ほどの市の全量の廃棄物処理を一手に担っている。

クリーンセンターは1994年に運営を開始以来、すでに30年近く稼働している古株の施設でもある。3つの焼却炉(焼却能力は1日当たり1基200t)、蒸気タービン(7300kW×1基)などで構成されており、その規模は千葉県内でもトップクラスを誇っている。

「合計三つの焼却炉をローテーションさせ、常時二つの炉を運用しながら安定的に発電させている。発電した電気は施設内で自家消費するほか、隣接する市の温浴施設へ供給しており、余った電気は毎年入札にかけて電力会社に売電している。熱の一部は同様に温浴施設へ供給しており、施設から生み出されるエネルギーを無駄なく活用している」と、市川市環境部の品川貴範次長は説明する。年間の発電量は4000万kW時ほどで、数億円規模の発電収入が市川市の財源を支えているそうだ。

老朽化に伴いリプレース 新たな環境価値創出へ

そうした実績を土台にクリーンセンターは、資源循環型を志向しながらカーボンニュートラルを目指す市の方針のもと、新たな「再生計画」を打ち出す。

計画によると、施設の老朽化に伴い、2031年の運転開始を目指して完全リプレースを実施する。環境負荷の少ない効率的で安定したごみ処理体制の構築に向けて、従来よりも少ないごみの量で発電出力をアップさせる設備を導入する。

具体的には、クリーンセンターを構成する焼却炉やタービンの数は変えずに、焼却炉を1日当たり1基141tへとスケールダウンさせる一方、発電出力を1万1000kWへ引き上げる。メーカーによる技術力の向上に伴い、効率的な設備導入が可能になる。20年間の運転も含め、750億円程度を投資する予定で、市政始まって以来、最大の投資額だという。

市によると、「新施設では、これまでのようにただ余剰電力を売電するのではなく、発電した電気の環境性を最大限に活用していく方針だ。そのため、ごみ発電による環境価値を市内で循環させるようなスキームを構築することを考えている」(品川氏)という。

次期クリーンセンターの詳細計画については、近く公表する予定。発電できるごみ処理施設が生み出す新たな価値に期待がかかる。

更新予定の市川市クリーンセンター

【特集2】コメ産地でもみ殻をエネルギー転換 ホテルや温浴施設への熱供給にトライ


【オーリス】

秋田県大潟村で国内初のプラントが稼働を始めた。

「自然エネ100%の村」づくりに弾みをつける。

日本有数のコメ産地で知られる秋田県大潟村で、稲の実の外皮「もみ殻」を燃料にバイオマス熱を地域に供給するプラントが完成した。同村が県内企業と設立した地域エネルギー会社のオーリスが試運転を8月1日に始めた。もみ殻を生かす熱供給事業は国内初で、今秋の商業運転開始を目指す。

CO2排出量削減にもつなげる 副産物は農業資材の用途に

村内では、もみ殻が年間に約1万4000t発生している。このうち約8000tを使用し、バイオマス地域熱供給プラントのボイラーで90℃の温水に転換。この熱エネルギーを地中に埋設された3.5㎞の熱導管を通じてホテルや温泉施設、小中学校など五つの施設に届ける仕組みだ。プラントの熱出力は合計で700kWだという。

各施設の暖房や給湯に使っていた化石燃料からもみ殻に置き換えることで、地域の脱炭素化を後押しする。もみ殻を役立てることで化石燃料の使用量を削減し、年間約1550tものCO2排出量を低減する見込み。

さらに、もみ殻の燃焼時に副産物として得られる燻炭を土壌改良剤などの農業資材として農家に販売。国がCO2排出量の排出削減効果を認証する「J―クレジット」制度も生かしたい考えだ。

再生可能エネルギー由来の熱供給は、国内で進んでいないのが現状だ。設備の導入コストが高いことに加えて、熱の需給バランスが取りづらいことが主因。こうした中で未利用資源を燃料に熱供給する今回の試みは、画期的な取り組みとして注目を集めそうだ。同村は「自然エネルギー100%の村づくりへの挑戦!」という目標を掲げている。

もみ殻を貯蔵・搬送するハウス

【特集1まとめ】再エネ主力化の正念場 自治体規制や開発実態を独自調査


第5次エネルギー基本計画で初めて打ち出された「再生可能エネルギー主力電源化」方針。

旗は掲げられ続け、電源構成での再エネ比率は21.7%(2022年度)まで拡大した。

しかし太陽光などにまつわるトラブルは依然多くの地域が抱える課題であり、

自治体は規制強化と、適切な再エネ拡大のバランスに悩みながら策を講じている。

一方、今後導入量積み上げの主軸を担うであろう洋上風力。地域への経済波及効果や、

産業政策の面からも期待が高まるが、開発が進む地域の実情はどうなのか――。

第7次エネ基の検討が進む今、正念場を迎えた再エネ主力化の実情を探った。

【アウトライン】特措法改正で段階的に規律強化も 再エネ規制へ自治体の温度差鮮明に

【インタビュー】一層の拡大は地域共生が大前提 需給面でFIP活用が重要に

【レポート】洋上風力は地域経済を再生できるか 秋田・能代と石狩の現場をレポート

【座談会】脱炭素の追い風も行く手には難路 持続的な成長に必要な視座

【レポート】川崎で自治体最大規模の事業始動 廃棄物発電に期待される役割

【特集2まとめ】分散型ミックス時代の潮流 コージェネ~再エネを最大活用へ


火力発電を中心とした大規模電源によって、これまで電力の需給バランスの安定化が図られていた。しかし、火力事業の見通しが立ちにくくなるなか、分散型電源の重要性がクローズアップされている。コージェネ、再エネ、蓄電池、VPP―。DXの進展が分散型ミックスを後押しする。多様なリソースの最適運用を目指す取り組みを追った。

【アウトライン】多彩な地域エネ資源で脱炭素化 防災力向上と経済振興にも貢献

【座談会】期待高まる分散型エネ資源 重要視される市場の制度設計

【レポート】地域熱供給でロードマップ策定3本柱で新たな街づくりに挑む

【レポート】天神中心地の新ランドマークへ 大型複合ビルにコージェネを導入

【レポート】ごみ発電で地産地消電力を拡大 全国の循環型社会づくりを後押し

【レポート】廿日市市へ特定送配で電力供給 LNG基地の設備運用を改善

【レポート】空気の力で電力需給ニーズに対応 LNG冷熱利用で効率化目指す

【レポート】日立製作所と巧みな連携プレー実現 複数事業所のエネ共同利用を最適化

【レポート】脱炭素化に向けてエネ全体を最適化 コージェネなどの設備をAI制御

【レポート】分散する蓄電所をデジタルで制御 再エネ支える電力インフラに育成

【特集2】大規模補助金で再エネ支援 自らも設備導入を加速


【東京都】

再エネ導入拡大に向けて事業者向けに手厚い支援策を打ち出す東京都。太陽光発電や蓄電池を中心に都内外での設置を支援し脱炭素を目指す。

2030年「カーボンハーフ」の実現に向け、都内の再エネによる電力の使用割合を50%にする目標を掲げている東京都。まずは徹底した省エネを進め、その上で必要なエネルギーを再エネでまかない、さらにエネルギーマネジメント技術を駆使しながら再エネ利用の最大化を目指している。

都では、事業者や都内区市町村が再エネや蓄電設備を導入するに当たって、年間100億円近くの予算を確保し、支援策を展開している。その枠組みは、「都内設置/都内消費・蓄電」「都内設置/都内蓄電」「都外設置/都外消費・蓄電」「都外設置/都内消費・蓄電」に区分しており、中でも注目されるのが「都外」(都外設置/都外消費・蓄電)を支援している点だ。

産業労働局産業・エネルギー政策部の遠藤洋明・事業者エネルギー推進課長はこう説明する。「都の再エネや蓄電設備の導入支援は、FITやFIP制度の認定を受けていない設備であることが前提で、都外といってもどこでもよいわけではない。あくまでも東京電力管内を対象としており、関東を中心としたエリア全体の再エネによる地産地消につなげていきたい」

ただ、都外で消費する場合は注意が必要だ。例えば都内に本社を置く事業者が、埼玉県内の自社工場の屋根に太陽光パネルを設置して都外消費する場合、都は導入コストの一部を補助するが、そのパネル発電分のCO2削減価値のうち補助相当分は証書として都内事業所に帰属させることが要件となっている。

都ではこうしたスキーム以外でも、大規模蓄電池に対して導入を支援している。東電管内の系統網に直接接続する「系統用蓄電池」向けだ。

「昨今、他エリアで電力の需給バランスを保つため、再エネ発電の出力抑制の回数が頻発している。都としても問題意識を持っており、蓄電池の導入を支援することによって電力の需給バランスを維持しながら、再エネ発電の機会損失を防ぎたい」(遠藤さん)

需要家としての対策進める 再エネ主体の電力調達

一方、東京都はエネルギーを消費する需要家としての顔を持つことから、都自らも再エネ設備を導入したり、再エネを中心とした環境価値の高い電気利用に積極的に取り組んでいる。環境局気候変動対策部の眞中賢二・率先行動担当課長は「設備導入については、都有施設の新築・改築時に加え、既存施設にも太陽光パネルの設置を進めている。その導入量は21年度に9320kWであり、30年までに設置可能な全施設に導入を目指す。施設の躯体・耐震性能の確認など膨大な作業が必要だが、目標に向けてまい進したい」と話す。

また再エネ電気の利用については事業者の入札などによって低炭素な電力を調達している。眞中氏は、「多様なプレイヤーが出てくる中、再エネを主体とした電力調達を牽引していきたい」と意気込みを見せている。

【特集2】北海道内の再エネ普及へ インフラを担い社会貢献


【トドック電力】

自社電源を保有し電力市場で存在感を発揮している伊藤忠エネクス。再生可能エネルギーの領域では、とりわけ北海道での取り組みが注目されている。

エネクスは2015年、王子グループと連携し「王子・伊藤忠エネクス電力販売」を設立。北海道を中心にFIT電源を含めた太陽光、水力、バイオマスなど全国7カ所の電源を整備・運用している。そのうち北海道には四つの発電所がある。

一方、北海道の生活協同組合、コープさっぽろとは15年に電力小売会社である「トドック電力」を設立した。エネクスはもともと既存事業である灯油・LPガス事業において、コープさっぽろグループでエネルギー事業を手掛けるエネコープ社と取引をしてきたこともあり、電力事業でも連携を深めることとなった。

トドック電力について、尾﨑信介社長は「再エネや環境価値の高い電気を道民に届けることを基本理念とし、設立当初はコープさっぽろの店舗向け高圧電力を中心に供給を開始した。16年の全面自由化とともに、家庭向け(低圧)電力を組合員向けに供給を拡大した」と話す。

道内人口510万人のうち、組合員は約200万人に上る。道内では約247万の世帯数であることをかんがみると、会員が占める世帯数割合は8割を超えており、トドックにとってこのマーケットは大きい。現状では世帯数の1割程度に、「再生可能エネルギー100%メニュー」として販売しているそうだ。中心となる再エネ電源は、江別市のバイオマス専焼電源である。道内の木材チップを中心に地産地消の電力を供給しており、さらに非化石証書を購入することで「再エネ電源」の提供を実現している。

道内の地産地消推進へ 生活インフラを支える

ただ、尾﨑社長は「われわれが目指す事業モデルは、地産地消によって環境価値の高い電気を地元に普及させ、道内の脱炭素化に貢献すること。単に非化石証書を購入するだけでは、地域における再エネ拡大に貢献するとは言い難い」と話す。

そうした中、伊藤忠エネクスとコープさっぽろは、新たな一手を打つことになった。道内の最大200地点にエネクス側が太陽光発電パネルを整備し、コープさっぽろが所有する。そして、自己託送制度を利用しながらコープさっぽろ店舗に電力を供給する。

その際、肝となる電力の需給調整システムはエネクスのノウハウを活用する。まさに、完全無欠となる地産地消型のCO2フリー電気である。

「北海道におけるコープさっぽろの役割は非常に大きい。食品の宅配などを通じて、生活インフラを担っているといっても過言ではない。過疎化が進む中、その存在感はますます高まっていくと思う。コープとエネクスの連携を通じて、インフラ企業としてさまざまな社会貢献を果たしていきたい」と尾﨑社長は強調する。

エネクスとコープさっぽろは自己託送を進める

【特集2】太陽光発電の戦略を深掘り グローバル企業の脱炭素化を支援


東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

グループ全体で再生可能エネルギー導入量の拡大・運用を目指している東京ガス。とりわけ、ここ数年の太陽光発電を巡る動きは活発だ。「太陽光発電設備のAI活用」「メガソーラーの設計施工」「エネルギーサービスにおける再エネ運用」―の三つの取り組みを紹介する。

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は2022年9月、東京センチュリー、京セラコミュニケーションシステムと共に、太陽光発電事業に関わる新会社、A&Tm社を立ち上げた。FIT制度がなくなり、再エネの導入にブレーキが掛かる懸念がある。その中で、太陽光発電設備をいかに効率良く運用して、再エネ導入の拡大につなげていくか―。

そんな問題意識から、太陽光発電設備のアセットマネジメントや、テクニカルマネジメントの提供によって太陽光発電事業者の収益性を高めることを目的に新会社を立ち上げた。まずは各グループ会社の設備を中心に運用を担っている。

A&Tm社の澤井創一社長は「新会社発足から1年ほど経過したが、順調に成果を出している」と手応えを口にする。現在、同社が運用に関わっている太陽光発電の設備容量は約69万kW。毎日、発電量などの運用状況のデータを収集し、最近は異常検知にAIも活用して運用している。このAI活用は、通常のアラームでは発報されないエラーを見つけ出しており、その効果は早速現れている。

例えば同じ発電サイトであるにもかかわらず、パネルの発電量のパフォーマンスにわずかな差が生じるケースがあった。調べてみると、雑草の生え具合によって影の生じ方が異なっており、エリアにより10%程度の発電量のロスを検出したため、除草シートなどで対応することを提案した。

また、このAIではパワコンの人為的な設定ミスを回避できるという。定期検査で実際の現場で人が作業する際、ミスは起こり得ること。複数台のパワコンのうち1台でも挙動が異なれば、すぐにそれを自動検知する。

このAIのアルゴリズムは既に完成しているそうで、今後、さらに改良を進めて効率化を図った運用システムとして展開していく方針だ。「その際、新たな異常を検知するケースがあると思うので、改善してパフォーマンスを向上させたい。1件当たりの異常値はわずかな数値だが、積み重ねれば大きな効果につながっていくはずだ」(澤井社長)

グループ初の大型太陽光 地元との関係構築に注力

2023年6月、東京ガスグループが設計から建設まで携わった国内初の大規模ソーラーが稼働した。栃木県の市貝発電所(2・19万kW)だ。この発電所は東京ガス100%子会社であるプロミネットパワーが開発したもので、TGESが設計・エンジニアリング・施工管理を担った。

グループ初の挑戦には、さまざまな苦労があった。本件は、ゴルフ場跡地に太陽光発電所を建設するもので、ゴルフ場という性質上、起伏に富んでいる。例えば1ホール目と18ホール目では設計や工法は異なるし、一つのホール内でも中身は違うものだ。TGESでは、地形測量や日射量測定を徹底的に行った。造成による環境負荷を最小限に抑えつつ、土地の起伏に対応した太陽光発電パネルの配置検討を行うことで発電量最大化を追求した。

TGESが労力を割いたのは、設計や施工の面だけではない。TGESエンジニアリング本部副本部長の中島秀明・執行役員は「地元の住民の方々とのコミュニケーションも積極的に行った。地元の住民の方々からすれば『一体どんな工事をするのだろうか』と不安を抱くもの。施工管理を担う会社として、工事の内容について丁寧に説明してきた。そのかいがあったからなのか、住民の方々から新鮮野菜を頂戴することもしばしば(笑)」と振り返る。

最近、トラブルが多発する再エネ開発。オーナーの目線に立ったサービスで、地域に受け入れられる再エネビジネスに力を注ぐ。

TGESの事業展開は、巨大な熱源プラントを扱う地域冷暖房の運用に始まり、コージェネを軸にしたエネルギーサービスへと発展させてきた。脱炭素時代に向かう中、再エネ商材を扱うケースが増えている。岡本和久・取締役常務執行役員は「再エネ設備も加えながら、総合ユーティリティー事業として、あらゆる商材を扱いながらお客さまの脱炭素を支援していくステージに入ってきている」と話す。

ゴルフ場跡地に建設した市貝発電所

【記者通信/12月5日】石狩洋上風力が本格稼働へ 事業主体GPIが投げ掛ける課題


北海道石狩港湾エリアで、大規模洋上風力が2024年1月から本格的に動き出す。NTTアノードエナジーとJERAの傘下に入ったグリーンパワーインベストメント(GPI)が主導するもので、出力は11万2000kW。秋田沖で今年運開した丸紅が主導する洋上風力に次ぐ出力規模を誇る。GPIはFIT制度を通じ、36円/kW時で20年間にわたって北海道電力に売電する。

全国各地で計画が進む洋上風力――。国内では適地がなくなりつつあるメガソーラーに代わる大規模再生可能エネルギーとして、今後の普及拡大に期待が高まっている。しかしながら、国内産業の振興という視点でとらえた場合、一抹の不安は隠せない。

「40年までに『洋上風力サプライチェーン』の6割を国産で」。こんな目標を、日本の産業界は掲げている。風力は太陽光パネルとは異なり、部品調達から設計施工・土木と産業のすそ野が広い。せっかく再エネでエネルギーを地産地消するならば、風力も国産設備・国産技術で対応し、国内の産業活性化にもつなげていこうとの狙いがある。

問題は、洋上風力設備の3割を占めるとされる「風車」だ。過去に三菱重工業、日立製作所、富士重工業(現スバル)などの国内メーカーが手掛けていたが、撤退や外資との連携などにより、純国産の道を閉ざしてしまった経緯がある。仮に国産6割を目指すのであれば、風車は海外製で対応するとしても、残る設備・部材を全て国産にしていくような仕組みでないと、目標には届かない公算が大きい。

ちなみに石狩では、風車は独シーメンスグループ製、それ以外は全て国産で対応したことにより、「何とか国の目標通りに進めることができた」(GPI関係者)。今後、洋上風力の建設ラッシュを迎える中、どこまで国内勢が活躍できるのか。太陽光発電がそうだったように、スタートダッシュの勢いが続かず、気付けば海外勢の独断場という事態に陥る危険はないのか。GPIの運開は、そんな課題を投げ掛けている。

【特集2】地域冷暖房で進むAI活用 人手を離れた運用で改善進む


【東京都市サービス/高砂熱学工業】

デジタル化の波は電力インフラだけにとどまらない。地域冷暖房でもAIを活用したデジタル運用が進む。

電力インフラにおけるAIを活用したデジタル化が進むのは火力発電所や電力系統の分野だけではない。地域冷暖房といった大規模なインフラ拠点でもその取り組みは進んでいる。

これまでの地冷の運用では、運転手が熱源設備の運転スケジュールを立案し、手動で計画値を入力。365日、24時間の対応で安定運転に努めてきた。自ずとベテラン運転員の「人の手」に頼ってしまうケースが多かった。

そうした中、運用の高度化を目指して東京都市サービスと高砂熱学工業は、地冷向けにAIを活用した熱源プラントの自動運転システムを開発した。国内最大級の地冷規模を誇る晴海アイランド地区で安定稼働や省力化を確認した。

システム開発の四つの特長 蓄熱運用の改善に期待

今回、両社が開発したシステムは、AIの一種である「ルールエンジン」を活用した熱源自動運転システムで、既存の中央監視盤に接続して運転する。高砂熱学がシステムを開発し、東京都市サービスが運転ノウハウと実証フィールドを提供した。

システムは四つの特長を備えている。一つ目は熱負荷予測機能と蓄熱目標量の算出機能だ。気象予報値と過去の熱負荷データを組み合わせて翌日の熱負荷を予測する。予測した熱負荷をもとに目標量を産出する。

二つ目は熱源の運転計画機能とスケジュール出力機能だ。熱源の保守計画や電力需要などの制約条件を考慮して、目標の蓄熱量を製造するための熱源の運転計画を演算する。計画をもとに、運転スケジュールを自動で中央監視盤に出力する。

三つ目が任意の電力デマンドの制御機能だ。運転計画の立案に際して、任意の目標電力デマンドに制御する。四つ目は既設の中央監視盤との連携機能だ。既設の自動制御機能を生かしたまま、このシステムからは熱源の起動・停止のみを制御する。

両社の実証によって三つの成果を得た。熱の負荷実績と差が生じた場合も1時間ごとの補正機能によって適正に運転したことを確認。省エネ性についても実証できた。「人手」のケースのシステムCOPは4.2だったが、AIによるデジタル制御では、4.3と同程度となった。さらに人手の業務負担はおよそ50%程度を低減した。

ヒートポンプと蓄熱槽を組み合わせた運用では、これまでは深夜の電気を活用して蓄熱槽に熱をため込み、昼間のピーク需要に合わせて放熱するような、割と単純な運用スタイルが一般的だった。

しかし最近では、電力の需給ひっ迫への対応(デマンドレスポンス)や、再生可能エネルギーの余剰電気を蓄熱槽にて吸収するような従来にはない複雑な運用スタイルを求められるケースも増えている。AIを活用した運用によって、さまざまな社会課題を解決していきそうだ。

AIを活用し熱源プラントの実証を進めた晴海地区

【特集2】デジタル変電所で実績重ねる データ分析の高度化で改善へ


【東京電力パワーグリッド】

東電PGが「次世代の施設」と位置付けているのが南横須賀変電所だ。主要な設備にセンサーを備え付け、新時代の運用につなげようとしている。

広大な太平洋を望む神奈川県・三浦半島の先端エリア。ここに東京電力パワーグリッド(PG)が4年前に更新した「デジタル変電所」が立地する。東電PGが次世代インフラの先駆けと位置付けている南横須賀変電所だ。変電所の設備にセンサーを取り付け、さまざまなデータを常時取り込みながら遠隔で状態監視している。東電PGは運用実績を重ね、インフラ運用のDX戦略を実行に移す。これまでの運用・保全の概念を覆すことはもちろん、設備工事の工法まで大きな変革をもたらすものとして期待されている。

JERAの大型電源を受電 潮流安定化の重要拠点

変電所の隣には、JERAの大型石炭火力がある。ここで発電した電力を、南横須賀変電所(27万5000V/6万6000V)で一手に受け取り、三浦半島以北へと送電する。系統潮流の安定化を支える上でも重要な拠点だ。そんな役割を担うこの変電所では、一部の設備に経年劣化の課題を抱えていた。そこで、建屋に格納されていた全ての開閉設備と屋外に設置されていた4台の変圧設備のうち2台を解体。開閉設備はガス絶縁開閉装置に、変圧器は全体容量を変えずに新設の1台へと更新した。その際、全体の工事コストを鑑みて屋内設置ではなく全てを屋外設置とした。4年前のことだ。

更新の際には、次世代運用を志向すべく、デジタル変電所へと仕立てた。東電PG工務部変電技術担当の塚尾茂之部長は、南横須賀の取り組みを次のように説明する。「主要設備であるガス絶縁変圧器(GIT)とガス絶縁開閉装置(GIS)にセンサーを内蔵させた。抵抗値、油面位置、ガス圧力、密度、温度など、そこから取り出すデータを集約装置に集め、いったん下位系サーバーに伝送する。さらにそのデータを、上位系となる社内独自のネットワークに吸い上げる仕組みを構築した」

従来は、設備からの警報が上がったり、故障して初めて現地に出向くなど、突発的な対応に苦慮していたが、今回の取り組みで遠隔での状態監視が可能となった。4年近くにわたるデータ蓄積によって、今後は設備挙動のトレンドをAIで自動分析したり、予兆管理のアルゴリズムを開発する。そして設備の延命化や現場への出向回数削減などの業務改善につなげていく。こうした設備ごとの状態監視だけでなく、変電所全体をAIで異常診断する仕組みを東電PGではARAAM(アラーム)と呼んでいる。このシステムにドローンや、ウェブカメラ、集音マイクなどを組み合わせながら、多様なデータを集約していく方向だ。

工事面でもデジタル化 今は産みの苦しみ

東電PGは設備の設置工事でもデジタル化を進めている。建築業界では一般的な「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」と呼ぶ技術を取り入れようと検討している。設置エリアや設備そのものを3Dデータに落とし込み、現場での搬入経路、設備同士や充電部との離隔距離、配置など、従来は現場に出向いて確認していた作業を、BIMの点群データを測量することで現場出向せずに3Dで正確に計測できる。

「工事期間を短縮できる。これは工事による電力供給の停止期間の削減を意味する。実際、南横須賀ではGISの据え付けに充電部接近への危険防止として、当初、23日間の送電線停止期間の予定だったが、BIMによって充電部への正確な離隔距離を把握し、危険防止停止を6日間に短縮した。また他地点の地下変電所ではGIS回線の増設工事でもBIMを活用した。従来であれば、現場合わせで加工していたガス配管を3D計測で正確に位置を把握。あらかじめ工場で加工のうえ現場工数を削減する『プレハブ化』で、現場での配管接続工数を60%削減した」(塚尾氏)

東電PGの変電設備は、都心部の敷地面積が狭い場所や地下に据え付けられているケースがとりわけ多い。今後、リプレースを控える設備も多くあり、BIMの活用は欠かせないものになるだろう。

「デジタル化の取り組みは待ったなしだが、今は産みの苦しみだと思っている。将来的には得られたノウハウを生かして事業領域の拡大につなげていきたい」と塚尾氏は力を込めた。

デジタルを実装する南横須賀変電所

【特集2】輸送プラットフォームの水平展開 スマホ制御システムでCO2を大幅減


【ニチガス】

LPガス輸送のプラットフォームを他社へ貸し出すことで低炭素化を目指す。エネルギーマネジメントシステムの構築によってCO2を大幅に削減する。

都市ガス会社を含めたグループ企業全体で年間263万t程度のCO2を排出しているニチガス。その内訳は、LPガス配送・営業車両の走行などで1.4万t(スコープ1)、自社の電気使用で0.2万t(スコープ2)、エンドユーザーのガス利用で約260万t(スコープ3)だ。

ニチガスでは少量のスコープ2では、非化石証書の活用などによってゼロに近づけているが、その他はどうか。吉田恵一専務は「スコープ1では、当社1社ではわずかだが、当社のLPガス配送方式を他社へ水平展開することで、業界全体でCO2を削減できる」と説明する。

LPガスは、沿岸の元売りの輸入基地から内陸の充てん所を経てエンドユーザーに配送される。一方、ニチガス方式では、輸入基地からいったん「夢の絆・川崎」基地を経由しデポステーション(原則無人管理)を経てエンドユーザーに届く。夢の絆・川崎はLPガス容器を大規模集約し充てんした上で、各地のデポへトレーラーで輸送する同社独自の拠点だ。

容器にはバーコードが印字され、拠点の門を通過する度に、自動でスキャニングされ全容器のデータが集約される。「A地点にX個の容器を運べ」。高度なAIにより、リアルな指令が製造拠点や配送員に知らせる。さらにエンドユーザーの容器内の残ガスを遠隔で日々管理する端末「スペース蛍」とデータ連携することで、最適供給を導く。こうしたDX技術が搭載されたプラットフォームを他社が活用することで業界全体のCO2を削減する。スコープ1でエンドユーザー1件当たり50%のCO2を削減可能だと試算している。

一方、逆パターンもあるという。それはLPガス容器ではなく、あらかじめエンドユーザーにバルクを設置して供給するケースだ。「当社には一部の拠点しかバルク供給の払い出し設備がない。当社も他社拠点を活用し拠点の相乗りで互いの配送を合理化してCO2を削減する」(吉田氏)

蓄電池やヒーポン設備 件当たりCO2を70%削減

本丸のスコープ3はどうか。ニチガスは電気やガスを扱う総合エネルギー企業としてのアプローチを採用する。電気式ヒートポンプとガスボイラーを組み合わせたハイブリッド給湯設備をはじめとして、太陽光発電や蓄電池、電気自動車(EV)などのアイテムを組み合わせてスマートホームを構築する手法だ。

まずは年内に自社の3拠点にパワーエックス社のEV急速充電用蓄電池を導入し、社内からCO2を削減する。次のステップで家庭用蓄電池をエンドユーザーに導入し、太陽光、EVなどと連携して効率的にマネジメントする。現在、エストニアの企業と連携して、これらをスマホで制御するシステムを構築し、新たなサービスとして提供する予定だ。再エネ電気を効率的にヒートポンプや蓄電池、EVに活用しCO2を削減する。

「モデルケースでは1件当たりCO2を70%削減、スコープ3全体では30年にCO2を半減できる」(吉田氏)。エネルギー販売に加えて、エネルギーマネジメントを手掛けることで多くのCO2を削減する青写真を描いている。

設備群をスマホで制御する(提供:パワーエックス)