【三峰川電力】
大手商社・丸紅の100%子会社である三峰川電力は小水力発電事業を中心に手掛ける発電事業者だ。同社は1960年に「三峰川総合開発事業」の一環として、長野県伊那市長谷で水力発電所を稼働させたことに始まる。設立当初から小水力発電の原型になる流れ込み式発電に注力してきた。ダムを使わず、環境負荷の少ない再生可能エネルギーである点が特長だ。
同社が手掛ける発電所は開発中を含めて全国に30カ所以上点在する。水力発電は自然の力を利用して発電するため、開発においては地元自治体や住民との関係づくりが欠かせない。「当社のような民間事業者が導入地域の機運醸成、合意形成を円滑に図ることは容易ではない。一方、自治体は発電事業を手がけてみたものの、需要計画や管理運営などが障壁となる。協業することでウィンウィンの関係が構築できる」。指本喜範事業開発部副部長はこう話す。
欠かせない深いつながり 体験学習など交流活発
この取り組みの一つが、山梨県北杜市にある「村山六ヶ村堰ウォーターファーム」だ。元々、同地の水力事業は農業用水路を使った発電設備を自治体が所有していたことに始まる。設備が稼働し始めた2007年当時は、まだ再エネの固定価格買い取り(FIT)制度が開始となる前で、事業採算性の確保が困難だった。そこで、北杜市が行政許認可協議や地域住民との合意を、三峰川電力が発電事業の運営を担うことによって課題を克服した。同発電所にとどまらず、北杜市には現在三つの小水力発電所が稼働し、合計出力970kW規模まで拡大している。
もう一つが福島県下郷町の「花の郷水力発電所」だ。下郷町の当初の目標は「小水力発電で村全体の電力を賄うこと」であり、三峰川電力と提携した。これにより、花の郷発電所をはじめ、合計3カ所の発電所を設けた。現在では町全体の5分の1程度の電気を賄うまでに拡大した。このつながりによって、地元で体験学習や見学会を実施したり、下郷町の特産品を丸紅本社で販売するなどさまざまな交流も活発に行っている。
三峰川電力では、今後も全国において有望地点を探し新たな発電所開発を進めていく構えだ。「水力発電開発は地点探しに始まり、地元の交渉、許認可申請、建設工事など稼働開始まで長い道のりだ。ただ、急峻な日本の地形には有望な地点がまだたくさんある。当社の拠点となる長野県を中心に、進出していない四国や九州にも展開していきたい」と指本氏は展望する。
自然負荷の少ない小水力発電は脱炭素化を目指す地域や企業からもニーズが高い。今後さらに注目されるのは間違いない。