【特集2】地域課題を解決に導く立役者 独自戦略で住民との接点拡大


自治体の人口減少対策や災害対応などを手助けするガス事業者。主戦場で果たす役割について3社のトップが語り合った。

【出席者】

緑川昭夫/大多喜ガス社長

澤田龍明/釜石ガス社長

小出 薫/越後天然ガス社長

―まずは、各社の概況から聞かせください。

緑川 持ち株会社の傘下にガス供給事業を担う当社、ガスを採掘する会社、採掘時に出るヨウ素を製造する会社があり、この3社で各事業を分担しています。

当社のお客さま数は約17万件で、供給区域は大きく外房の茂原、内房の市原、千葉、八千代の4市です。千葉県は天然ガスの産出地で、当社が供給する家庭用ガスの大部分は国産天然ガスです。そのため家庭用のお客さま向け料金メニューでは原料費調整制度を導入しておらず、固定価格です。一方、京葉工業地帯のお客さまには、東京ガスや東京電力エナジーパートナーからガスを卸してもらい導管で供給しています。

小出 当社は、新潟市秋葉区、江南区の一部、五泉市の約3万

4000件に都市ガスを供給しています。新潟県も、国内の約7割の天然ガスが採れるので、石油資源開発からの卸供給を受け、また海外からのLNG由来の都市ガスも活用しながら供給しており、件数では家庭用が圧倒的に多く、販売量は家庭用と工業用が同程度です。

澤田 岩手県釜石市で事業をしており、都市ガスのお客さまは7000件程度です。1957年に、日本製鉄の粗製コークス炉へのガスの供給を始め、88年に高炉が休止したタイミングでブタン原料の6Cガス供給を開始しました。私は、そのタイミングで入社しました。

 2007年にはLPガス原料のPA―13Aガスを供給しています。11年の東日本大震災ではプラントが全壊しましたが、他社の協力もあり約1カ月半で復旧させました。導管もほぼ全滅でしたが、被災していない地域にはどうにか供給し、被災地には3、4年がかりで導管を入れ替えて供給再開しました。14年には岩手県初のLNGサテライト設備を竣工し、今は13Aガスの供給です。

事業環境変化に向き合う 市民サービスの充実へ

―人口減少や地域経済などによって、地方都市ガス会社の事業環境は大きく変化するかと思います。

澤田 釜石市は企業城下町ですが、63年の9万2000人をピークに、東日本大震災が起きた11年には約4万人、それから13年経ち、さらに1万人減りました。昨年11月には3万人を下回り、メーターの取り付け数も震災前は1万台でしたが、現在は8200台です。従業員も震災前の50人から34人まで減少しました。保安やインフラの維持管理を含めると、どうしても現状の人員が必要と思います。

小出 新潟県でも全体的に人口は減っています。ベッドタウンの新潟市秋葉区と江南区はあまり減っていませんが、郊外の五泉市は減少が激しいです。

緑川 東京のベッドタウンである八千代市は人口が増加していますが、外房のように、東京まで通勤が困難な地区は人口減少が激しいです。当社の本社がある茂原市周辺の供給エリアにも消滅可能性自治体が三つあり、人口が相当数減っています。

 一方、京葉工業地帯には相当量のガスをご使用いただいている発電用途のお客さまがおり、販売量の割合では工業用が約7割に上ります。発電用途は、電力の価格自体、ボラティリティが非常に高く、電力価格や市場価格が高いとガスの販売量が減るという独特の動きが特徴です。

―地域に根差したエネルギー事業者として行政からの期待も高く、最近では社会インフラを効率化するスマートコミュニティーの構築事業に協力しています。行政とはどのような関係を築いていますか。

澤田 東日本大震災後、地元の自治体でスマートコミュニティーの確立の動きが生まれました。さまざまな施設を一定のエリアに集約し、住民サービスを効率化するものです。その際、地域の事業者が中核に参加することが条件で、参画しました。スマートコミュニティーでは、復興住宅での熱、電気、ガスの一括管理をはじめ、太陽光発電(PV)や太陽熱給湯を設置した住宅を3棟つくりました。この中で、エネルギーマネジメントを管理しています。復興への取り組みには、周囲からの期待の高さを感じています。

 またこのほど、環境省の第5回脱炭素先行地域に釜石市での取り組みが選定されました。当社は、計画書の作成や地元企業によるSPC(特別目的会社)の設立で参画します。これまで計3回、申請しましたが、今回選定され、ようやくスタートラインに立てました。

釜石ではスマート復興公営住宅が作られた

【特集2】北陸で広がるカーボンオフセットガス 工業用の普及に向けて全力を注ぐ


強みを持ち寄って付加価値の高い事業に弾みをつけるAOIと岩谷。主力分野におけるガスユーザーからの脱炭素化ニーズに応えていく。

AOIエネルギーソリューション/岩谷産業

北陸・福井エリアを拠点に、自動車販売、ガソリンスタンドや自動社学校の運営など、自動車関連の総合商社として事業を手掛けるAOIグループ。

同じグループには、エネルギー関連ビジネスを手掛けるAOIエネルギーソリューションがあり、ガソリンや灯油などの石油製品やLPガス販売に加えて、電気の代理店業務や太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーなどのエネルギー事業に総合的に取り組んでいる。

2020年12月には、福井県内の企業としては初めて、グループで使用する電力を100%再エネ化する「再エネ100宣言」を出すなど、エネルギー分野の環境対策を積極的に打ち出している。

そうした中、AOIエネルギーソリューションが、LPガスの脱炭素化に本格的に着手した。今秋、同社は岩谷産業とともにカーボンオフセットLPガスの普及に向けた共同宣言を行った。岩谷産業による全国のLPガス販売ネットワーク「マルヰ会」の一員でもある同社が、年間に約750tのオフセットガスを岩谷から調達し、約2250tのCO2を削減する。

「近年、とりわけ工業用のお客さまからの脱炭素のニーズが高まっている。その要望に応えていく方針で、繊維工場や食品加工工場など5~6社の製造工場へオフセットガスの供給を開始する予定」(エネルギーサポート部)。いずれも、既存のLPガスユーザーへのオフセット化が中心だという。

重油ユーザーも多数存在 燃転を提案しオフセット化目指す

重油ボイラーからLPガスへの燃料転換によって環境対策を進めよう検討しているユーザーも多々あり、燃転に伴うオフセットガス化のニーズも高いと考えているそうだ。

ただ、同社と岩谷が扱うクレジットで生み出される環境価値はあくまでもボランタリーなもので、各企業の自主的な取り組みに過ぎない。そのため、「今後は(岩谷が手掛ける)『Iwatani J-クレジット』の活用を視野に入れている。お客さまがしっかりと公的な環境価値を享受できるようなガスを販売していきたい」(同)考えだ。

カーボンオフセットガスの普及共同宣言を行った

 

【特集2】 LNG活用が現実的な選択肢 革新技術の実装に向け前進


次世代の燃料市場を見据えて相次ぎ布石を打つ都市ガス大手。環境面の優位性を高めようと技術力に磨きをかける。

カーボンニュートラル(CN)の実現に向けたトランジション(移行期)に突入する中、石炭や石油からLNGに転換する取り組みが広がっている。燃料を切り替えるだけでCO2排出量の削減が進むからだ。燃料転換を促す都市ガス業界は並行して、水素とCO2から都市ガス原料のメタンを合成する技術「メタネーション」の実用化に向けた実証事業も加速しており、移行期を支える業界の存在感が増しそうだ。

多様な強みが再び評価 S+3Eを満たす手段

「カーボンニュートラル社会へのシームレスな転換をけん引したい」。今夏に東京都内で開かれたエネルギー関連の国際展示会「ジャパン・エネルギー・サミット」で、登壇した東京ガスの笹山晋一社長が移行期の戦略に触れ、LNGの高度利用やメタネーションの実用化に力を注ぐ決意を強調した。

東京ガスのメタネーション設備

【特集2】札幌市の複合ビルでCN化を実現 電力・熱のCO2排出量が実質ゼロ


【北海道ガス】

札幌市中央区にある超高層の複合ビル「さっぽろ創世スクエア」で使用する電力と熱のCO2排出量を実質ゼロにする―。そんな取り組みが7月に始まった。北海道ガスが北海道熱供給公社、大成有楽不動産、さっぽろ創世スクエア管理組合と連携して実現したもの。地元の民間事業者がスクラムを組みカーボンニュートラル(CN)の達成を目指す先進的な事例として、注目を集めそうだ。

同ビルのエネルギー源として、天然ガスの採掘から最終消費に至るまでの工程で発生するCO2を、森林保全などによる削減・吸収量で相殺する「カーボン・オフセット都市ガス」を利用したことが特徴。

このガスを用いて、同ビルの地下4階にあり、北海道熱供給公社が運営する「創世エネルギーセンター」では、コージェネレーションシステムとボイラーにより、施設内に電力と熱を供給する。コージェネは、出力700kWのガスエンジン2台で構成されるシステムだ。

コージェネの発電時に発生した排熱は冷暖房や給湯に利用し、入居する企業や札幌市民交流プラザへ供給。不足する電力は、再生可能エネルギー由来の「非化石証書」を活用した電気を昨年10月から北海道ガスが届ける。こうした仕組みを構築することで、同ビルで使用する電力と熱の脱炭素化を達成した。CO2排出量の削減効果は、年間で約9200tを見込む。カーボン・オフセットした熱供給は、道内では初の試みという。

札幌市は2022年、環境省による「脱炭素先行地域」として選定。札幌都心の取り組みとして、コージェネを活用したエネルギー供給ネットワークの構築が進められている。民間施設群では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化などを促すとともに、熱供給源として木質バイオマスなどの再エネ利用を促進。CNガスへの切り替えにより、電力・熱の脱炭素化も進めた。創世スクエアは、これらを実現した事例だ。

一方で、18年に道内で発生した胆振東部地震によるブラックアウトの際には、都市ガスの導管に被害がなく、創世エネルギーセンターがビルへ電力と熱を届ける役割を果たし、同ビルが帰宅困難者の一時滞在施設として機能した。また、地下の熱導管を通じて隣接する市庁舎への冷温水供給も継続した。

建物の環境価値を認知 災害対応力向上にも寄与

北海道ガス執行役員第一営業部長の金田幸一郎氏はこうした経緯に触れた上で、「札幌都心部に広がるガスコージェネを核としたエネルギー供給ネットワークを生かし、札幌市が目指す環境性・レジリエンス(強靭)性に優れたまちづくりに貢献したい」と強調。同部都市エネルギーグループ副課長の渡邊翔氏も「環境対策に意欲的なビルに入居したいというテナントが増える方向にある。官民の関係者と連携し、札幌都心部の電力・熱の脱炭素化を推進する一翼を担いたい」と意欲を示しており、北海道ガスの挑戦の舞台が一段と広がりそうだ。

札幌市の「さっぽろ創世スクエア」

【特集2】グループの総合力で低炭素化推進 病院のレジリエンスにも貢献<


【西部ガス】

将来の脱炭素社会を見据え、ガスコージェネレーションシステムを導入し、低炭素化とレジリエンスの両立を実現した先駆的な病院がある。

福岡県大牟田市と隣接する熊本県荒尾市にある「荒尾市立有明医療センター」は、2023年10月、敷地内に新築移転した。竣工から50年以上が経過し、老朽化や耐震補強の必要性などの課題が顕在化したためだ。

新病院は荒尾市唯一の急性期病院で、同市のほか周辺市町村の中核病院として、24時間・365日救急医療に対応しているほか、災害時にも災害拠点病院として継続した診療が可能となっている。

ここでは東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が、系統電力の停電時も発電可能なヤンマーエネルギーシステム製の定格出力400kWガスエンジンコージェネをエネルギーサービスで導入し、メンテナンス・省エネルギー運用を実施している。

燃料の都市ガスを供給するのは、西部ガスグループ傘下の大牟田ガスだ。同センターは同社の供給区域外に立地しており、導管網と接続されていなかった。

そこで、同じく西部ガスグループの九州ガス圧送が同社大牟田工場から西部ガス熊本までの間に敷設していた総延長52 kmの中圧導管を利用した。その中圧導管から分岐する1700mの導管を大牟田ガスが新たに敷設して、同センターにガス供給している。導管はポリエチレン製で耐震性が高く、停電時にも電気と熱供給が可能だ。

導管敷設で供給エリア拡大 学校給食センターも下支え

新たに敷設した導管沿いには、天然ガスへの燃料転換を提案できる大規模需要家が複数あり、天然ガス普及に力を入れている。大牟田ガスでは、この導管沿いに22年に竣工した荒尾市・長洲町学校給食センターにも既にガス供給を開始している。

大牟田市や隣接する荒尾市は、かつて炭鉱で栄えた地域で、現在でも石炭を燃料に使っている企業もある。

一方、50年ネットゼロの流れを受け、低・脱炭素エネルギーを求める企業も増えている。そういった新規大口需要家に天然ガスを供給するため、この導管以外に総延長千m級の導管を新たに2本敷設したという。

大牟田ガスの猿渡孝徳部長は「大牟田市は人口が全盛期の半分近くまで減少している。そのため、家庭用のお客さま数とガス販売量も減少傾向にある。そこでガス販売量を伸ばすため、供給区域を広げながら、法人のお客さまの獲得に注力している」と語る。

同社の中嶋覚取締役は「今後も西部ガスグループの一員としてその総合力を活用しながら、TGESとも連携・協業し、天然ガスの普及を推進することで、地域の低・脱炭素化に大いに貢献していきたい」と意気込む。

定格出力400kWのガスエンジンコージェネ

【特集2】バイオ由来CO2でe―メタン製造 使用電力はLNG冷熱活用し発電


【東邦ガス】

50年のCN実現を目指し、都市ガス業界が力を入れるメタネーション。石炭や石油からの燃料転換やエネルギーの高度利用といった足元の取り組みの先にある「ガス自体の脱炭素化」に向けた革新技術の一つだ。

日本ガス協会は、メタネーションで製造したe―メタンを30年にガス販売量の1%、50年に同90%という高い目標を掲げている。

東邦ガスは3月31日、愛知県知多市と連携し、バイオガス由来のCO2を活用したe―メタン製造実証を開始した。製造方法は、すでに技術が確立しているサバティエ方式。水を電気分解して水素をつくり、CO2と反応(サバティエ反応)させてe―メタンを生成する。

実証が行われているのは、知多市南部浄化センターと隣接する知多LNG共同基地だ。浄化センターでは下水汚泥処理でメタンとCO2を主成分とするバイオガスが発生。東邦ガスは17年から、このバイオガスを精製して受け入れ、都市ガスの原料として利用している。

バイオガスの精製過程ではCO2を多く含むガス(オフガス)が発生するが、今回のe―メタン製造実証ではこのオフガスに含まれるCO2を原料として活用する。CO2を地域資源として活用する環境性の高い取り組みといえよう。

e―メタン製造に必要な水素の製造などにおいて電力を消費するが、今回の実証ではLNGの冷熱を利用した冷熱発電による電力を活用することで、実証試験全体での温室効果ガス(GHG)排出量を抑えられているという。

SHK制度への適用目指す 国内初の都市ガス原料に

GHG排出量の管理も徹底している。リアルタイムでのガス製造量などの遠隔監視に加え、排出量や炭素強度(CI)値を見える化するシステムをIHIと構築し、管理している。

また実証で製造したe―メタンの環境価値について、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)のSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)で、需要家によるe―メタン利用時のCO2排出をゼロと扱うことも目指している。

東邦ガス技術研究所カーボンニュートラルグループの萩野卓朗課長は「環境価値などを適切に評価する取り組みにより、e―メタンの普及に向けて制度面でも貢献できたらいい」と意気込む。

今回の実証で製造したe―メタンは、国内で初めて都市ガス原料として利用される。自動車部品などを手掛けるアイシンとは、e―メタンを原料とする都市ガス供給について合意した。

東邦ガスは将来的なe―メタンの本格導入に向けて、実証で得られた成果や都市ガスとしての利用を通じて、製造設備の大規模化や低コスト化といった技術課題の解決につなげる考えだ。また普及拡大に必要な仕組みづくりにも貢献していくという。

都市ガスの未来を創る取り組みから目が離せない。

知多e―メタン製造実証施設の開所式

【特集2】三島食品の工場燃料をクリーン化 業務の省力化も強力にサポート


【広島ガス】

赤しそを使ったふりかけ「ゆかり」で全国的に知られる三島食品(広島市中区)の観音工場で、ボイラー燃料の灯油を都市ガスに転換する取り組みが行われた。支援したのは、広島ガスだ。脱炭素対策を強化する機運が高まる中で同社は、広島県内に立地する幅広い業種の企業に密着して燃料転換を促し、脱炭素社会づくりの一翼を担いたい考えだ。

今回の燃転の舞台となったのは、同市西区に立地する敷地面積2138㎡の観音工場。三島食品が展開する国内3工場の一つで、約30品目を生産している。手掛ける商品は調味みそなどのペースト商品や赤しその色と香りを生かした希釈タイプの清涼飲料水「赤しそドリンク ゆかり」などと多彩。年間生産量は、約18万ケースだ。

同工場では、生産量の増加やボイラーの老朽化と能力の不足といった問題を抱えていた。そうした中で同社は、「広島市省エネ機器導入支援事業補助金」を活用。広島ガスやボイラーメーカーと連携しながら、脱炭素化につながる燃料転換に踏み切った。すでに都市ガスは、本社敷地内にある広島工場と関東工場(埼玉県坂戸市)で使用しており、灯油を使用する生産拠点は観音工場のみだった。

灯油の場合、防火に配慮しながらタンクに保管する必要があったほか、ローリー車で週2回受け入れる手間もかかっており、運用しやすい都市ガスへの切り替えが望まれていた。

成長余地が大きいガス市場 中長期の視野で拡販に力

三島食品が注目した燃転のメリットの一つが、環境負荷の低減効果。転換前にボイラーから排出していたCO2の約2割を削減できることに加えて、排出ガスをクリーンにできる利点も得られるようになった。さらに省力化する効果も得られ、灯油量の管理と受け入れ時の立ち合いが不要になったという。

同社は、全ての事業活動で環境変化に対応した活動を展開し環境保護に貢献すると宣言している。川中有弘・観音工場工場長兼広島工場副工場長はこうした方針に沿って、「ボイラーと加熱設備から排熱を回収することで燃料消費量を低減し、さらなるCO2低減に挑みたい」と強調。将来的には、空調設備などボイラー以外で都市ガスを活用する方策も探りたい構えだ。

広島ガスグループは4月、取り巻く事業環境の変化を踏まえ、24年度から3カ年の中期経営計画を策定。「都市ガス・LPG事業の深化」を柱の一つと位置付け、石油や石炭などからの燃転を中心にガスの拡販に取り組む方針を明示した。さらに同社と顧客にもたらす30年時点のCO2排出削減効果について、年間30万tとすることも目指している。

広島ガスエネルギー事業部産業用エネルギー営業部技術グループの服部大資係長は、「燃料を脱炭素化したい地場企業が多く潜在している。そうした企業がメリットを実感できる燃料転換を提案し、その事例を広げたい」と、市場開拓に意欲を示している。

三島食品の観音工場

【特集1まとめ】省エネの理想と現実 非化石化の高い壁にどう挑むか


2023年4月に改正省エネ法が施行され1年半が経過した。

50年のカーボンニュートラル社会実現に向け、

合理化対象に従来の化石燃料や化石燃料由来の熱・電気のみならず、

太陽光や風力などの再エネ由来の電気、水素・アンモニアなどを取り込んだものだ。

石油危機以降の「合理化=消費量削減」一辺倒ではなく、

引き続き化石燃料の使用を抑制する一方で、

非化石エネルギー転換とともに、それに合わせた需要の最適化を促す狙いがある。

足元では法改正の実効性を高めるべく、新たな規制や制度の検討も進む。

資源エネルギー庁や学識者の取材を通じて、最新の政策議論をレポートするとともに、産業界の省エネ活動の今を探った。

【アウトライン】 省エネ法体系見直しのインパクト 需要家のエネ消費行動を変革できるか

【インタビュー】太陽光を生かし切る経済・社会実現へ 将来は「DR法」への衣替えを

【レポート】地下に眠るリソース 蓄熱槽で再エネフル活用

【レポート】DR対応のパイオニア 九州から他工場へ展開

【座談会】実質ゼロに向けた新たな制度スタート 産業や暮らしの在り方は?

【インタビュー】システムとしての全体最適化が鍵 規制対象外の企業にも取り組み促す

【インタビュー】省エネ基準引き上げへ正念場 事業者の段階的な挑戦を政策誘導

【特集1】太陽光を生かし切る経済・社会実現へ 将来は「DR法」への衣替えを


太陽光などの再生可能エネルギーの活用策として期待される「上げDR」。市村健氏は、需要家が積極的に取り組むための環境整備の必要性を訴える。

【インタビュー】市村 健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

―省エネ法の改正をどう評価していますか。

市村 法改正により電力の需要最適化が明記され、需要家はデマンドレスポンス(DR)の取り組みに関する定期報告を求められるようになりました。アグリゲーター事業者にとっては需要家にアピールしやすくなり、DRをさらに加速させる大きな転機になったと言えます。

 とはいえ、需要の上げ下げに関わる簡易なものから一次調整力の供出といった高度なものまで、DRへの取り組み方はさまざまです。一層の推進には、より高度なDRを高く評価する仕組みが求められます。「エネルギー消費原単位年1%以上」の削減分に、太陽光発電を生かす需要最適化分を評価する現行の仕組みは有効ですが、今夏のDR発動頻発で需要家の気持ちが離れつつあることを懸念しています。一層評価する仕組みがあれば、前向きになるのではないでしょうか。

需要家の負担軽減へ 可視化で需要をシフト

―今後、事業者に求められる役割とは。

市村 2026年度に導入予定の排出量取引制度、その後の炭素税の本格導入とうまく組み合わせ、DRを訴求していくことです。需要を最適化するということは、太陽光発電量に合わせて需要を創出するということ。この上げDRによって再エネの出力抑制を低減できれば、電力のCO2排出原単位を下げ排出量削減に寄与し、炭素税が導入されたとしても需要家負担は軽減できます。

 需要家にとって大切なことは、1円でも安い電気の供給を受けることです。ですが、排出量取引や炭素税が制度として導入されるからには、制度対応しつつ料金を下げるための対策を講じるしかありません。そのために第一段階として重要なのが、電気をどれだけ、どのように利用しているのかを可視化し、いつでもどこでも把握できることであり、その結果、CO2排出原単位が低い昼間の時間帯に電力需要を誘導していくことです。

また、現在のDRは、需給ひっ迫時に送配電事業者の要請に基づいて実施されるのが主流です。「エリアで発動回数にばらつきがあり不公平だ」という需要家の声もあります。民民契約に基づく経済DRにシフトさせていくことも、アグリゲーターの役割だと考えています。

―政策への要望はありますか。

市村 省エネはオイルショックを契機に生まれた言葉であり、ある意味で我慢を連想します。DRの本質は太陽光を生かした需要最適化であり、そのために「発電」「需要」「市場価格」の正確な予測を提供するデータ解析領域という新たな雇用も生みます。将来はぜひ、「DR法」へと衣替えし、経済成長を加速させる法体系としていただきたいですね。

いちむら・たけし  1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月から現職。

【特集1】DR対応のパイオニア 九州から他工場へ展開


【東京製鐵】

産業分野において、いち早くDRの取り組みを始めたのが電炉大手の東京製鐵だ。18年に九州工場(福岡県北九州市)で「上げDR」を導入。それ以来、今年春までに累計42日にわたり九州電力からの要請に応じてDRを実施し、計2124万kW時の電力需要を創出した。

九電管内では、17年ごろから再エネの出力抑制が全国に先駆けて社会問題化。電力消費の大きい電気炉のDR資源としてのポテンシャルの高さに目を付けた九電から、再エネ余剰時の昼間に、割安な夜間と同等の料金で電気を供給する条件を持ち掛けられたことが、操業時間を一部調整して上げDRを実施するきっかけとなった。

鉄スクラップを電気炉で溶解する「製鋼」と生成した半製品を都市ガスで加熱して加工する

「圧延」の製造プロセスのうち、DRの対象となるのは製鋼工程だ。トータルの操業時間は事前に決まっているため、上げDRに対応するには、従来の操業パターンから生産時間を調整し、要請に備える必要がある。そこで、昼間の電気料金が適用される午前8時から午後10時までの時間帯を調整の対象とした。

従来の平日の操業パターンでは、午後9時から翌日午前9時ごろまで製鋼を行っていたが、DR実装後は午後10時から午前8時までに短縮。減らした操業時間分はDR要請時にまとめて実施するパターンへと変更した。昼間料金での操業を余剰電力による安価な電力に切り替えることで、電力コストをトータルで削減できている。

エネルギー効率面でも良い効果が出ている。圧延工程では、製鋼後の半製品を約1200℃まで加熱する必要があるため、製鋼から圧延に移る時間が短いほど加熱に必要な都市ガスの使用量が抑えられる。DR対応の操業体制では、製鋼と圧延の同時操業時間(シンクロ率)や製鋼後に熱いまま圧延する割合(ホット率)が約10%向上。都市ガス使用量の減少により、エネルギー効率が改善された。

DR対応分の電力については、今年度から非化石証書を活用して実質CO2フリーとし、同社の長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」で掲げる、CO2排出量の大幅削減に向けた一助にもなっている。

九州工場での成果を受け、他工場への展開も進めている。今年春からは、岡山工場(岡山県倉敷市)で上げDRを実装した。中上正博岡山工場長は「当社で発生するCO2の75%が電力を起因とする。再エネの最大限の活用に協力することで、社会全体のCO2削減に貢献していきたい」と、脱炭素社会を推進する観点からも上げDRは有効である点を強調する。

同社は、現在も取り組んでいる下げDRの実施にも意欲を見せる。DR対応の先駆者の取り組みは、他社が追随すべき好事例となりそうだ。

今年春までに2千万kW時超の需要を創出 提供:東京製鐡

【特集1】省エネ法体系見直しのインパクト 需要家のエネ消費行動を変革できるか


カーボンニュートラル社会の実現に向け、省エネ法の体系が大きく見直された。それを機に、さまざまな規制、制度に関する検討が始まっている。最新動向をレポートする。

文|門倉千賀子

2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現には、エネルギー供給サイドの脱炭素化のみならず、省エネの深掘りや非化石エネルギー転換といった需要サイドの取り組みが不可欠だとの認識が、国内外で高まっている。

昨年12月にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、30年までに「年間のエネルギー効率改善率を世界平均で2倍にする」ことで合意。今年6月に伊・プーリアで開かれたG7(主要7カ国)の首脳声明では、省エネを「エネルギー転換における第一の燃料(first fuel)であり、クリーンエネルギー移行に不可欠な要素」と位置付けた。

国内に目を向けると、昨年4月に改正省エネ法が施行。石油危機を受け、1979年に化石燃料の消費抑制を目的として制定された同法は、「合理化の対象拡大」「非化石エネへの転換」「電気需要の最適化=デマンドレスポンス(DR)の促進」を三本柱に、電化を強力に推進する法体系に様変わりした。

図1 需要側のCNに向けた取り組みの方向性

【特集1】省エネ基準引き上げへ正念場 事業者の段階的な挑戦を政策誘導


【インタビュー】佐々木 雅也/国土交通省住宅局参事官付建築環境推進官

―カーボンニュートラル(CN)の要請に応え、建築物の対策をどのように進めますか。

佐々木 政府は、2050年にCNを実現するとともに、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」に基づき30年に温室効果ガス排出量を13年比で46%削減することを目指す中、日本のエネルギー消費量の約3割を占める建築物の省エネ対策が重要となっています。そこで、50 年にストック平均で、建築物の消費エネルギーをゼロに近づけるZEH・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)基準の水準の省エネ性能を確保する目標を掲げました。

―当面の重点施策について教えてください。

佐々木 重要なファーストステップが、25年4月施行の改正建築物省エネ法により、住宅やそれ以外の非住宅に関わらず全ての新築建築物に省エネ基準適合を義務付ける動きです。これを弾みに、30年度以降に新築される住宅・建築物の省エネ性能をZEH・ZEB基準の水準に引き上げることを狙っています。

―ZEH・ZEB基準に向けた手応えはいかがですか。

佐々木 22年度時点で新築する建築物の8割以上が省エネ基準に適合し、ZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能への適合率も急伸しています。とりわけ住宅をZEH基準に高める取り組みは、省エネ改修を促す低利融資制度や拡充した住宅トップランナー制度などの高い省エネ性能に誘導する支援策の効果で、30年度への道筋が見えつつあります。

 一方で、非住宅のZEB化に目を移すと大規模事業者が多く、そうした事業者の省エネ努力が鍵を握っています。ESG(環境・社会・企業統治)投資を促す機運の高まりを背景に各事業者は、省エネ性能に優れたものを出していかないと市場やステークホルダー(利害関係者)から評価されないと意識しています。この分野は自然に省エネ性能が上がっていくでしょう。

―事業者にとって省エネ化のハードルは高いと言えます。

佐々木 確かに、事業者が省エネ性能を高めるためには技術力の向上が必要です。そこで、満たすべき省エネ基準を段階的に引き上げる方式を取り入れました。延べ面積2000㎡以上の大規模非住宅(新築)については、17年度に省エネ基準への適用を義務化した後、24年度に基準をワンランク高め、30年度にZEB水準に引き上げるというスケジュールを立てました。踊り場をつくることで、事業者が対応しやすくした形です。

 中規模非住宅(300㎡以上、2000㎡未満)も比較的順調に推移していくでしょう。ただ、300㎡未満の小規模非住宅や住宅が省エネ性能を高めるハードルは非常に高いと言えます。国内の建物件数が約40万件と多い上、その施工に地域の工務店や設計事務所が多く関わっているからです。この壁をクリアできるかどうかが、建築物全体の省エネ水準を底上げするための重要なポイントです。

 ZEBは、断熱性能が高い壁や窓、電力消費の少ないLED照明などの省エネ機器でも減らせない分を、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して賄おうという考えで設計・建設されたビルを指します。ところが建築物が高くなればなるほど延べ床面積が増えて消費エネルギーも増える一方、太陽光パネルを設置するスペースが限られています。中高層ビルのZEB化は簡単ではありませんが、事業者には頑張ってほしいです。

使い方の工夫が課題 全段階のCO2削減も重視

―エネルギーマネジメントの役割も重視されています。

佐々木 快適性や建築文化を考慮しながら省エネ性能を追求する必要があります。そこで重要になってくるのが、建築物の使い方を工夫する取り組みです。運用時のエネルギー使用をマネジメントするシステムで効果的に消費量を削減する展開の可能性に注目し、検討を始めたところです。デマンドレスポンス(DR)を進める経産省の省エネ施策と直接連動していませんが、基本的なスタンスは同じです。省エネ市場の開拓が進めば、事業者が高い省エネ基準に挑戦しやすくなるでしょう。

―GX(グリーン・トランスフォーメーション)の観点から注目する政策課題は何ですか 

佐々木 建材の製造や施工から建築物の解体に至る全段階のCO2排出量を削減する「ライフサイクルカーボン」という概念が重要になっています。このうち使用段階の「エネルギー消費」が建築物省エネ法による規制の対象で、省エネ基準への適合義務化により今後CO2削減が見込まれる一方で、残る部分をどう削減していくかが新たな政策課題となるかもしれません。

ささき・まさや 2004年早稲田大学大学院理工学研究科修了。国土交通省入省。住宅総合整備課課長補佐、総理大臣補佐官付秘書官、ユネスコ派遣などを経て、23年7月から現職。

【特集1】システムとしての全体最適化が鍵 規制対象外の企業にも取り組み促す


【インタビュー】木村拓也/資源エネルギー庁省エネルギー課長

―2022年の省エネ法改正後、事業者の省エネ行動にどのような変化がありましたか。

木村 前回の法律改正は、合理化の対象を非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーとすること、非化石エネルギー転換を促すこと、電力需給に合わせ電気の需要を最適化すること―の3本柱で行ったものです。

 22年度は日本全体でエネルギー効率が3・6%改善しました。これは、ロシアによるウクライナ侵略を契機としたエネルギー価格高騰への対応や、法律を含め国内外の要請で脱炭素化を進める一環で、事業者が取り組みを強化したことによるものです。エネルギー安全保障の確保やカーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、事業者による省エネは、また一段ギアを上げていくステージになっています。政府は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債も活用しつつ、省エネ補助金、中小企業向けの省エネ診断などを拡充し支援しています。

―事業者の省エネの余地はどれだけあるのでしょうか。

木村 消費機器の高効率化のためイノベーティブな技術開発を進めることに加えて、データを活用した工程の管理や、事業所、企業間の連携など、システムとしての全体最適を追求していくことが、大胆な省エネの鍵になると考えています。

 また、中小企業では省エネや脱炭素の取り組みを始めた事業者は、まだ数割にとどまっているのが実情です。そこで今年7月、地域で中小企業などの省エネを支援する枠組みとして「省エネ地域パートナーシップ」を立ち上げ、9月に開いた第1回会合には174の金融機関、43の省エネ支援機関などが参加しました。省エネ補助金や省エネ診断などの認知度を高めつつ、省エネ法の規制対象ではない企業も含めて、取り組みを促すことが狙いです。

―非化石転換やデマンドレスポンス(DR)の取り組みについてはいかがですか。

木村 非化石エネルギー転換については、法改正後、中長期の計画の作成や実際の非化石燃料の使用量などについての報告を求めています。CNに向けて事業者の意識は相当変わってきましたが、具体的な非化石転換を将来に向けてどう進めるのか、官民一緒に考えていかなければなりません。

 電気需要の最適化では、今年は事業者に対し需要の上げ下げDRを行った回数の報告を求めますが、来年はそれに変化させた「量」も加わることになっています。非化石転換、電気需要の最適化の取り組みは端緒に就いたばかりです。事業者にこれらを促しつつ、次のアクションをどう起こしていくかが課題であると認識しています。

家庭の非化石化を推進 調整力としての活用も

―具体的にどのようなことが考えられますか。

木村 事業者にとって比較的ハードルの低い非化石転換の手段は、太陽光発電を導入することです。現在、審議会において、工場の屋根に着目し、従来型と比較して軽量なペロブスカイトなど次世代太陽電池の導入も見据え、どれだけ太陽電池を設置する余地があるのか、改めて確認してもらう仕組みを検討しているところです。  

 また、産業分野のみならず家庭の省エネ・非化石転換も大きな課題です。これについては、家庭のエネルギー消費の約3割を占める給湯器について、機器メーカーに対し、給湯器が使う化石エネルギーの量について、自ら目標を立てて達成していただくスキームについて議論しています。

 家庭の給湯器は、沸き上げる時間を電力需給に合わせて変えるDRの潜在性も高く、外部からの指令に応答できるような機能の装備を機器メーカーに行っていただくことで、再エネ出力制御の抑制などに有効に活用できると期待しています。

―省エネというと経済の縮小をイメージしがちです。

木村 日本のエネルギー消費量は省エネ努力により減少を続けてきましたが、22年度は省エネよりも生産活動の影響が大きく出ました。生産活動の縮小によりエネルギー消費の総量を減らすことは、縮小均衡にしかならず、健全な姿ではありません。生産量が増加する場合にエネルギー需要が伸びることはあり、経済活動を活発化させつつ、エネルギー消費効率を高めることによって、需要の伸びを抑制する―ということが省エネ法の趣旨であり、追求すべき経済成長の在り方です。

きむら・たくや 2000年東京大学法学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。欧州連合日本政府代表部赴任などの後、近年は人事管理政策、通商紛争対応、G7貿易大臣会合などを担当。23年7月から現職。

【特集1/座談会】実質ゼロに向けた新たな制度スタート 産業や暮らしの在り方は?


省エネ関連2法の改正が来年で一区切りとなる中、いよいよ各分野で対策の加速段階に入る。政府はさまざまな分野で規制強化を図るが、さらにどんな策が有効なのか、専門家が語り合った。

【出席者】

田辺新一/早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授

西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

前 真之/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授

左から田辺氏、西村氏、前氏

―改正省エネ法が施行されて1年が経過しました。改めてどう評価していますか。

田辺 省エネ法はオイルショック後に化石エネルギーの使用合理化を目的に制定されましたが、今回の改正で中身が大きく変わりました。主な変更点は、まず非化石を含む全てのエネルギーが使用合理化の対象になりました。二点目が、非化石転換に関する措置。三点目が、負荷平準化のため夜間電気を使用すべき状況でなくなりつつある中で、需要の最適化に向けた措置です。特に使用合理化の対象拡大のインパクトが大きく、これまで電気の一次エネルギー換算係数が化石燃料基準で1kW時当たり9・76MJでしたが、全電源平均に改め、23年度は8・64となりました。

西村 元来の省エネ法は化石エネの消費量に視点が当たり過ぎ、再生可能エネルギー拡大のディスインセンティブになっていましたが、法改正が企業の意識をプラスに変えました。同時期にエネルギー価格の高騰を経験した需要家が非化石転換の必要性を意識。屋根乗せ太陽光が急拡大し、産業分野ではPPA(電力購入契約)に熱心に取り組み始め、新たなオプションを活用する余地ができました。

 確かに、産業界に対しては良い影響があったかと思います。ただ、エネルギーミックスにある石油換算(㎘)の省エネの値は、これこそ節油の象徴なので、CO2換算など新しい示し方を考えるべきでしょう。

【特集1】地下に眠るリソース 蓄熱槽で再エネフル活用


【東京電力エナジーパートナー】

「再生可能エネルギーが拡大していく中で、いかに電力需要をシフトさせていくかは電力会社が考えなければならない重要なテーマ。手段が限られる中で、蓄熱槽は非常に有効なツールになると期待している」

こう語るのは、東京電力エナジーパートナー(東電EP)カスタマーテクノロジーイノベーション部DRオペレーショングループの小林淳マネージャーだ。 同社は9月、読売新聞とオフサイトPPA(電力購入契約)を締結。グループ会社の東京発電が群馬・茨城県に太陽光発電所(発電容量計1300kW)を建設し、2025年3月以降順次、読売新聞本社ビルと東京北工場(東京都北区)への電力供給を開始する。

その再エネをフル活用するために構築するのが、本社ビルの地下に備えられた2000tの蓄熱槽をデマンドレスポンス(DR)に活用するスキームだ。空調利用が少ない春や秋の日中など再エネが余剰となる時間帯に熱を貯めることで、年間230万kW時を見込む太陽光の自家消費率100%を目指す。これが達成できれば、両施設で消費する電力の13%を太陽光で賄い、938tものCO2削減につながるという。

同スキームは、アズビルが開発した蓄熱制御アプリケーションと、エナジープールジャパンが提供する発電と需要の予測技術やDR運用ノウハウを組み合わせ、なるべく簡易に蓄熱と放熱の最適な運用を可能にすることが大きな特徴となっている。

読売新聞は、14年に現本社ビルが竣工して以来、10年間で30%の省エネを達成した。今回のスキームの導入により、改正省エネ法が志向する「省エネ+非化石転換+需要最適化」を具現化。さらに、30年に13年比CO2排出量46%削減、50年ネット・ゼロを目指す上での足掛かりとしたい考えだ。

小林マネージャーは、省エネ法の定期報告でDRの対応回数の報告が義務付けられたことに強い手ごたえを感じているという。改正前までは、DRの報酬目的、あるいは需給ひっ迫警報の発令時など緊急時であればDRに協力しても良いというスタンスがほとんどだったが、最近ではより積極的なDRへの参加を希望する事業者が増えてきたからだ。より大きな需要をシフトし需給の最適化を図るべく、今後もDRリソースの掘り起こしに注力していく。

PPAと蓄熱槽を活用したDRのスキームを構築する