家庭で使用する多彩なエネルギー関連機器を賢くマネジメント―。
そうした仕組みを実現する技術やサービスが続々と登場している。
再エネの導入拡大で、電力需給を調整する機会が増えているからだ。
エネ各社は家電や蓄電池、EVなどを高度に制御する展開に注力。
政府も生活者の電力管理意識を高めようと支援策に力を入れている。
成長が見込まれる「エネマネ」市場を巡るビジネスの最前線に迫った。

―カーボンニュートラル実現の要請が強まる中、家庭用の取り組みはどうですか。
土屋 当社の特徴は、省エネ性能に優れたハイブリッド給湯器を日本で一番積極的に販売している点です。太陽光発電パネルや、最近では家庭用の蓄電池の販売も進めています。価格だけでなく、必要な情報と選択肢をお客さまに提供し、電気のお客さま数も6年間で37万件(2024年1月現在)に達しました。
当社はガスの供給事業者であり、電気の供給事業者でもあります。AIが需要を精緻に予測・制御することで、家庭のエネルギー利用を最適化するDR(デマンドレスポンス)運用において、家庭用省エネ機器を販売した実績は大きな強みになると考えています。
家庭用のエネルギー使用量を見える化し、お客さまが機器を遠隔で制御できる「スマートリモコン」を開発中です。家庭用の機器をネットワークにつなぐことで、利便性を高めながらエネルギーの最適利用を目指しています。例えば、ハイブリッド給湯器はガスと電気の両方でお湯を作れますので、電力需給がひっ迫した時はガスでお湯を作り、再エネの余剰電力が生じたときはヒートポンプでお湯を沸かすという運用も可能です。これらは家庭用分野におけるエネルギーの最適利用を実現するプラットフォームとして多くの事業者にも展開し、社会課題解決にも貢献したい。
―昨年、LPガスのお客さま数が100万件を突破しました。こうした取り組みを通じて物流改革を後押しされていますね。
土屋 2010年頃からデポステーション(24時間無人で稼働可能なLPガスの容器置き場)を設け、配送に関わるコストを削減し、ガス料金の低価格化を進めました。21年には世界最大規模のLPガスハブ充填基地「夢の絆」を稼働させました。LPガス物流のプラットフォームです。利用者が増えれば増えるほど、配送に関わるコストとCO2を業界全体で減らすことができ、消費者に還元できます。
―顧客拡大に向けた今後の目標は。
土屋 全社で掲げる目標は電気、ガスの総契約数200万件で、今期中の達成を見込んでいます。すでにLPガス、電気、都市ガスのエネルギーの垣根はなくなっています。当社は同業者および他のエネルギー事業とのアライアンスや水平分業を進め、業界全体で効率化の実績を積み上げています。また、最前線の営業現場を尊重し、お客さまにどのようなサービスが提供できるかという考え方で取り組み、当社のDNAである「同じ成功は繰り返さない」の精神で変わり続けていきます。
大阪ガス社員自らが被験者となり、環境、エネルギー、暮らしに関するさまざまな実験に取り組む実験集合住宅「NEXT21」が居住実験開始から30周年を迎えた。同プロジェクトの開始は1990年2月。内田祥哉東京大学名誉教授を委員長に据えた計画委員会を立ち上げ、議論・検討が行われた。エナジーソリューション事業部計画部環境・政策チームの志波徹氏は「委員会では、『建物はすぐ陳腐化する。自ら変化できるものを目指すべき』といった内容から、『外観は地域との調和が必要であり周辺住民の皆さんに了解を得ないといけない』、『植栽は周辺公園と同じ植物で渡り鳥が来るようなものを』とエネルギー以外にも議論は多岐に及んだ」と当時の様子を語る。
議論を経て、建築には「スケルトン・インフィル方式」を採用した。同方式は建物の骨組みを頑丈につくり、内部を柔軟に改修可能にするもので、用途や住戸間の面積の変更が容易。かつ長寿命で持続可能な建物運用を実現させる。また、共用廊下や配管スペースは再設計でき技術革新に対応できる構造だ。この柔軟な仕組みによって、環境、エネルギー、暮らし、それぞれのテーマで、時代の先を行く実験が可能な舞台が完成した。
NEXT21ではこれまで五つのフェーズで実験が行われた。エネルギーの側面で時代を大別すると、第1~2フェーズ(93年~2007年)の初期はセントラル方式、第3フェーズ以降(07年〜現在)は戸別分散方式の設備を採用している。初期にセントラル方式を採用したのは、①住戸周辺に機器を設置しないため間取りの自由度が高く意匠性に優れている、②平準化できるので1戸当たりの設備容量を小さくできる―などの利点があるためだ。将来的に設備の効率の改善が進めば、近未来住宅のエネルギーシステムになり得ると想定した。第1フェーズではリン酸形燃料電池を設置。稼働中は系統からの電気を使用せず、全てガスで賄うオールガス住宅を目指した。
東京ガスと英エネルギーテック企業のオクトパスエナジー社が合弁で立ち上げた日本国内の電力小売企業、TGオクトパスエナジー。2022年1月から家庭用小売りを本格化し、わずか3年で30万件を突破した。最大の特徴は「解約率の低さと顧客満足度の高さ」と同社の中村肇社長は断言する。
その秘策は同社独自の顧客管理システム「クラーケン」だ。一般的なシステムは、請求書・振り込み口座管理、電話・メール対応の履歴など、各業務に応じたシステムが存在する。
クラーケンでは、一つのプラットフォームであらゆる機能を満たす。ユーザーから「口座の変更」や「アンペア数の変更」など、どのような問い合わせも、原則1人の人員で対応できる。たらい回しにされることがないことから高い顧客満足度につながっている。英国では、このプラットフォームを同業他社に外販し、収益基盤にしている。
同社では多様なメニューを展開中だ。実質再生可能エネルギー100%の電気を供給する「グリーンオクトパス」、オール電化住宅向けの「オール電化オクトパス」、燃料調整費の増減によって変動することがない固定価格をセールスポイントにした「シンプルオクトパス」など多様なプランを用意する。
家庭用の再エネ導入を支援する「ソーラー初期ゼロプラン」も人気が高い。同社が太陽光パネルのオーナーとなり、顧客の屋根を借りてパネルを設置。代わりにユーザーの初期負担はゼロだ。加えて発電中の時間帯による電気料金は1kW時当たり24円と低料金に設定している。
同社では今後、「蓄電池を使ったDRメニューを作りたい」(中村社長)という。同社がユーザー側の蓄電池の充放電を遠隔で制御してDRに参画し、通常よりも電気料金を割り引く。DRと小売りを連動させたプランだ。クラーケンというプラットフォームの存在が、多様なビジネスやプランの創出を可能にしていく。
静岡ガスグループはこのほど、太陽光発電の余剰電力を活用し、地域の経済循環を活性化させる取り組みを開始した。同グループが利用者から固定価格買い取り(FIT)制度の期間を終えた卒FITの太陽光発電の余剰電力などを買い取り、利用者が希望する地域に供給する。利用者には、買い取った電力量に応じて供給した地域の店舗などで使えるデジタル地域通貨が支払われる。特定の地域内で利用できる地域通貨を使うことで、供給先に限定した経済循環を促せる仕組みだ。静岡ガス営業本部エネルギーソリューション部都市デザイングループの土橋亮太グループリーダーは「卒FITを迎えて買い取り価格が下がると、売電先に対する関心が一気に低くなる。お客さまが自らの意思で供給先を選ぶような仕組みを作りたかった」と話す。
デジタル地域通貨の仕組みの導入では、一般的に利用されている既存のプラットフォームを活用。一方で、金融に関わるサービスならではの苦労もあった。同グループ担当者の望月優佑氏は「地域通貨でのやり取りが資金決済法の適用になり、金融庁の示すガイドラインに基づいた財務局への登録が必要になった。業務の運用やマニュアルなどに関して、利用者保護などの観点から多岐に渡るチェック項目をクリアしながら、登録作業を進めた」と振り返る。1年以上かけて無事に登録を終え、サービスの開始にこぎつけた。
現在、選択できる供給先は静岡県島田市の公共施設だ。ここに電力を提供すると、1kW時当たり13・2円(税込み)分のデジタル地域通貨「しまだPay」が付与される。しまだPayは市内19店舗(25年1月9日現在)で使うことができる。「普段のちょっとした買い物に充てられる」と利用者にも好評だ。
島田ガス、静岡ガス、静岡ガス&パワーによる島田ガス共同企業体と島田市は、20年に「SDGsを先導するまちづくり」に関する協定を提携した。この取り組みとしてカーボンニュートラル電気の活用を模索する中、公民連携での今回のサービスが実現した形になる。島田市で築いた仕組みを「SHIZGASあなたのでんきで地域いきいき」というサービス名で他の自治体にも広げていく構えだ。
将来的には、小売店舗などの展開も視野にある。「例えば、物販店舗を供給先にして対価としてクーポンを発行すれば、その店舗が支払った電気代が売上として返ってくる仕組みができる」と土橋氏。今後、多方面での活用が期待される。
1年で最も寒さが厳しい季節―。そんな時期に日頃の疲れを取ろうと、入浴時間を充実させたい人も多いだろう。入浴をリラックスする時間に利用すると同時に、美容や健康に充てたいというニーズも増えている。
こうした中でリンナイは、入浴時間が充実する製品を数多くラインナップする。その一つ、ウルトラファインバブル給湯器の売れ行きが好調だ。2022年の販売開始からSNSや口コミで評判が広まり、24年の出荷台数は前年比100%増以上に達した。
ウルトラファインバブルとは、お湯の中につくる1μm未満の微細な泡のこと。給湯器に専用モジュールを取り付けると、お湯にこの泡が溶け込んだ状態で供給。同社独自の実証によると、この泡が多方面に効果があることが分かってきた。
同社は、定期的に製品の関連レポートを発行している。このほど実施した美容に関する実証では、ウルトラファインバブルをメイクのクレンジングや洗髪に利用すると効果があることが判明した。
毛穴に入り込んだ化粧品やメイクの落とし時に肌をこすると、摩擦で肌環境の悪化につながる。ウルトラファインバブルのお湯で肌を洗浄すると、さら湯と比べて化粧品の付着量が30%減少することを確認した。微細な泡を含んだお湯で洗うだけで、化粧品の洗い残しを減らすことができる。
髪の状態は、気温や湿度などによって日々変化する。髪に悩みを抱える人は多い。ウルトラファインバブルのお湯で髪を洗い流すと、さら湯と比べて髪の「ツヤ感」を表す毛髪光沢度が33%増加。髪のコシの強さを表す毛髪引張り強度が38%増えることも確かめた。
ウルトラファインバブルのお湯の効果は美容だけではない。給湯器に専用モジュールをつけると、洗面所やキッチンなど、蛇口から出る家中のお湯がウルトラファインバブルになる。これまでの検証で水回りの汚れ軽減や水垢の付着抑制、排水管の汚れの残存率減少、ピンク汚れの原因菌減少などにつながることが分かっている。
家電や蓄電池からヒートポンプ給湯機まで、暮らしを支える多様なエネルギー資源を高度に管理して電力供給の安定化や脱炭素化につなげる―。こうしたエネルギーマネジメント(エネマネ)を官民で後押しする機運が高まっている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の原案に電力使用量を制御するデマンドレスポンス(DR)の「更なる普及を図る」と明示されたほか、エネ各社がDRを巡る技術やサービスの開発で知恵を絞る動きが活発化している。
「家庭で使う比較的小規模な低圧リソース(需要家設備)を集約して大きな価値にしていきたい」。資源エネルギー庁新エネルギーシステム課の担当者はこう強調する。
エネ庁の視線の先には、再生可能エネルギーの導入量が一段と拡大する動きがある。再エネによる発電量は季節や天候によって大きく変動。電力需要が多い時期に需給がひっ迫する一方、需要が少ない時期には供給過多になって電力が余ってしまう。
こうした課題に対応する仕組みが、需要家側が賢く使用量を変化させて電力需給バランスを調整するDRだ。需要量を減らす「下げDR」と需要創出を行う「上げDR」という二つの行動を促す流れが強まりつつある。
DRを支えるのが、電力会社と需要家の間に入ってリソースを束ねて電力需給を調整する事業者「アグリゲーター」だ。電力自由化に伴って生まれたもので、2022年4月から一定の条件を満たすアグリゲーターが「特定卸供給事業者」として国への届け出を行うことが義務化された。1月時点で、登録事業者数は約100社に達している。
固定価格買い取り(FIT)制度の期限が切れる「卒FIT」が増える中、需要家の選択肢が拡大する傾向にある。一つが、電力会社と再契約して売電する取り組み。さらに蓄電池を導入し、太陽光発電設備でつくった電力を全て自家消費する動きも広がりつつある。また、分散型電源をIoTで束ねて統合制御する「VPP(仮想発電所)」への参加を狙う需要家も増えると予想される。
卒FITの住宅用太陽光発電の認定件数と容量は、25年に約200万件、860万kWに到達する見込み。新築戸建て住宅への太陽光設置率は約3割に達したが、家庭に太陽光発電を広げる取り組みは途上にある。このためエネ庁は一層の導入拡大を目指すとともに、小売電気事業者やアグリゲーターの商機拡大につなげたい構えだ。
26年度から需給調整市場に家庭用蓄電池などの低圧リソースが本格的に活用できるようになると、DRやVPPに象徴されるエネマネ市場を育成する動きが加速しそうだ。
中部電力の販売子会社である中部電力ミライズとパナソニックは、家電製品を自動的に制御して電力需給のバランスをとる「デマンドレスポンス(DR)」の実証実験を進め、DRの有用性を確かめた。家庭用エネルギーを賢くマネジメントするニーズが高まる中、実証実験で得られた知見を役立てDR市場の開拓に弾みをつけたい考えだ。
両社が実証実験で注目した家電は、1年間を通じて利用する冷蔵庫。共同でDR機能搭載の冷蔵庫を含めた実験環境を整え、2023年12月から24年9月にかけて実証実験を実施。DR対応冷蔵庫の有効性を多面的に検証した。
具体的には、中部電力ミライズが電力の需給バランスに応じてDRを計画し、パナソニックが構築したスマートフォン向け専用アプリで、利用者にDRの計画を通知する。利用者はアプリでDR運転の予約が可能だ。予約した時間になると、冷蔵庫が自動的に作動し、電力の需要量を減らす「下げDR運転」、または電力需要を増やす「上げDR運転」に入る。DR運転の開始と終了をアラーム音で伝えることも特徴だ。
実証実験の結果、「冷蔵庫は効果的に電気の使う量を調整でき、実効性の高いDRリソースになり得る」(エネルギープラットフォーム構築部の猪飼文洋課長)ことを確認。利用者が冷蔵庫からの通知をきっかけに電力需給バランスを意識して他の家電を操作するなど、家全体の電力を賢く使う取り組みに大きく貢献することも分かった。
実証実験の参加者を対象としたアンケートで冷蔵庫による通知の効果を尋ねたところ、約7割が「他の家電への行動につながった」と回答。さらなる調査で、冷蔵庫が自動制御されることへの不安の声や保存食品への影響がないことが確認された。
カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、季節や天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの活用が進むと、需要側で電力需給を調整するニーズも拡大する見通しだ。同社はこうした動きを見据え、再エネ発電量に合わせた行動を促す会員サービス「NACHARGE(ネイチャージ)」を提供し、約37万人規模の主力事業に育てている。例えば、会員には発電量に応じて電力の利用や節電を促すメールを通知。取り組み実績に応じてポイントを付与し、環境貢献度を実感できるようにする。
同社は、こうした実績や今回の実証試験結果を土台に「新たな家庭向けDRサービスを検討していきたい」と強調。家電メーカーはじめ関係企業と幅広く連携しながら、DR機能の搭載先を冷蔵庫以外に広げる可能性を探ることにも意欲を示した。
エネファームは2023年11月、累計販売台数50万台を突破した。こうした中、日本ガス協会は現在、「30年に300万台」を目指し、さらなる普及拡大を推進している。
着実に導入数を増やしてきたのは「エネファームパートナーズ」の活躍が大きい。エネファームパートナーズは住宅業界、エネファーム製造業界、エネルギー業界の162団体・事業者が連携した普及促進協議体。象徴的な活動の一つがパンフレット『エネファームオーナーズボイス』の作成だ。主にガス事業者がエンドユーザーやサブユーザー向けに導入を訴求する際に使用してきた。機器の魅力を、実際にエネファームを導入したエンドユーザーのリアルな声で伝えているのが特徴だ。
第7次エネルギー基本計画の原案には、「家庭部門のエネルギー消費の約3割を占める給湯器の省エネや非化石転換の加速、DRに必要な機能の具備の促進」などが記載された。高効率家庭用給湯器の重要性が明示されており、導入支援についても国が積極的に進めることが示された。
エネファームは機能面でも発展も遂げてきた。停電時の発電継続などのレジリエンス性向上、家電製品などのモノをインターネットでつなぐ技術「IoT」、天気連動などの機能が備わっているものも多い。また、狭いスペースにも楽に設置できるよう、開発が進められている。さらに、国の補助金制度活用により、ユーザーは魅力的な価格で購入できるようになった。これらが奏功し、ここ数年は年間4万台程度の導入ペースを維持している。
設置台数の増加とともに期待されているのが、調整力としての役割だ。ガス供給事業者が自治体などと連携し、VPP(仮想発電所)実証実験を進めている。
日本ガス協会普及部・業務推進グループの菅沼智浩マネジャーは「国の導入目標である『30年に300万台』の達成に向け、全力を注いでいく。高効率給湯器の普及が進み、その役割が増えていく中で、VPP実証などの進展を把握しながら、今後もガス事業者の活動を支援するための市場整備、さまざまな制度設計などに取り組んでいきたい」と語る。エネファームのさらなる価値向上から目が離せない。
パーパスが製造販売する「AXiSシリーズ」のエコジョーズが節水や省エネニーズを追い風に注目されている。特に同社独自の高温水分配方式の特許技術を搭載した「FLash」は、少湯量でも一定の給湯能力を発揮する。同社は戦略製品として拡販を狙う。
従来のエコジョーズでは瞬時にお湯が出なかったり、一度に暖房や追いだきすると給湯能力が低下する課題があった。しかしFLashは最小給湯能力0.1号、最低作動流量毎分1.9ℓの能力を持つ。同社の制御技術で80℃程度の温水をあらかじめ機器内に循環させることで、所定の給湯能力を確保する。
「昨今、省エネだけでなく節水ニーズによって節水シャワーヘッドや節水カランの需要が高まり、非常に少ない湯量を使うケースが増えている。ただ、出湯流量が少なくなるとガス給湯器の安全機能が作動し、火が途中で消えてしまうことがあった。結果的に給湯機能を発揮できないケースがあった」と鈴木孝之営業企画部部長は解説する。
例えば冬のキッチン。水栓を開栓した時、すぐにお湯が出ないことがあるが、FLashなら製品本体出口付近ですぐにお湯が出るので、「捨て水」が出ない。お風呂場でシャワーヘッドのモードを切り替えても、急に冷たくなることがない。そんなFLashには「カンタンヘルスチェック」という機能もある。身長、体重、性別、年齢などを登録しておけば、浴槽につかるだけで簡単に体脂肪率や消費カロリーなどの健康管理につながる値を浴室リモコンで計算できる。浴槽内の圧力変化を検出し、同社独自のアルゴリズムで推定値をはじき出す。
ハード面の技術にも特徴がある。静岡県富士宮市の自社工場で生産する国内出荷の全てのエコジョーズに対して「耐重塩害試験基準」(日本冷凍空調工業会規格)をクリアした塗装が施されている。ウレタン樹脂の焼き付けや電着塗装など、自社生産ラインで塗装し機器の耐久性を高めている。節水ニーズ、健康志向などさまざまな課題を解決することから、「工務店などのサブユーザーから問い合わせが増えている」(鈴木部長)そうだ。
東急パワーサプライ(TPS)は「東急でんき&ガス」の申し込み者数が67・7万件(2024年9月末時点)に上り、東京エリアの低圧市場シェアで7位につける。電気は非化石証書を用いて実質再生可能エネルギー100%、CO2排出量実質ゼロのものを供給する。東急グループが掲げる沿線を中心とした脱炭素、サステナブル(持続可能)な街づくりというコンセプトに則った事業を進めている。
犬養淳副社長は「東急グループ全体でのカーボンニュートラル(CN)に向けた目標として、30年までに自社(連結)電力需要の50%を再エネに転換するという目標がある。この取り組みの中に、当社があるという位置付けだ。渋谷のビル群や鉄道の脱炭素をどう進めるのか、沿線にお住まいのお客さまには鉄道を積極利用してもらいCO2排出量を抑制するなど、グループ一体でエネルギーに注力している」と事業スタンスを語る。
そんなTPSは、ユニークな電力プランを用意する。昨年6月に発表した「ハマでんちプラン」もその一つだ。同社と横浜市、東北電力フロンティアの3者が、横浜市内における再エネの普及を目的に、連携協定を締結。これに基づきTPSは、横浜市内に太陽光パネルを設置する家庭を対象に蓄電池リースサービスを実施。横浜市が、連携協定を締結する東北地方の自治体などに立地する再エネ発電所由来の環境価値を活用した電気をセットで供給する。
プランの利用者には、毎月「ハマとも東北応援ポイント」が付与。東北電力フロンティアが提供するプラットフォーム「東北サポーターズ」で、東北地方の地域のお祭りなどのイベントから応援したいものを選び、贈ることができる。さらにポイントがイベント運営資金などとなり、東北地方の地域活性化を応援できるという仕組みだ。
今後も電力事業の付加価値サービスを展開する方針だ。以前、需要家に商業施設のクーポン券を配布し、真夏に外出してもらい節電を促すDR(デマンドレスポンス)キャンペーンを行った。犬養氏は「お客さまが生活する中で何かワクワクするようなサービスを提供したい。こうした点を追求する事業者でありたい」と意欲を示している。
【出席者】
緑川昭夫/大多喜ガス社長
澤田龍明/釜石ガス社長
小出 薫/越後天然ガス社長
―まずは、各社の概況から聞かせください。
緑川 持ち株会社の傘下にガス供給事業を担う当社、ガスを採掘する会社、採掘時に出るヨウ素を製造する会社があり、この3社で各事業を分担しています。
当社のお客さま数は約17万件で、供給区域は大きく外房の茂原、内房の市原、千葉、八千代の4市です。千葉県は天然ガスの産出地で、当社が供給する家庭用ガスの大部分は国産天然ガスです。そのため家庭用のお客さま向け料金メニューでは原料費調整制度を導入しておらず、固定価格です。一方、京葉工業地帯のお客さまには、東京ガスや東京電力エナジーパートナーからガスを卸してもらい導管で供給しています。
小出 当社は、新潟市秋葉区、江南区の一部、五泉市の約3万
4000件に都市ガスを供給しています。新潟県も、国内の約7割の天然ガスが採れるので、石油資源開発からの卸供給を受け、また海外からのLNG由来の都市ガスも活用しながら供給しており、件数では家庭用が圧倒的に多く、販売量は家庭用と工業用が同程度です。
澤田 岩手県釜石市で事業をしており、都市ガスのお客さまは7000件程度です。1957年に、日本製鉄の粗製コークス炉へのガスの供給を始め、88年に高炉が休止したタイミングでブタン原料の6Cガス供給を開始しました。私は、そのタイミングで入社しました。
2007年にはLPガス原料のPA―13Aガスを供給しています。11年の東日本大震災ではプラントが全壊しましたが、他社の協力もあり約1カ月半で復旧させました。導管もほぼ全滅でしたが、被災していない地域にはどうにか供給し、被災地には3、4年がかりで導管を入れ替えて供給再開しました。14年には岩手県初のLNGサテライト設備を竣工し、今は13Aガスの供給です。
事業環境変化に向き合う 市民サービスの充実へ
―人口減少や地域経済などによって、地方都市ガス会社の事業環境は大きく変化するかと思います。
澤田 釜石市は企業城下町ですが、63年の9万2000人をピークに、東日本大震災が起きた11年には約4万人、それから13年経ち、さらに1万人減りました。昨年11月には3万人を下回り、メーターの取り付け数も震災前は1万台でしたが、現在は8200台です。従業員も震災前の50人から34人まで減少しました。保安やインフラの維持管理を含めると、どうしても現状の人員が必要と思います。
小出 新潟県でも全体的に人口は減っています。ベッドタウンの新潟市秋葉区と江南区はあまり減っていませんが、郊外の五泉市は減少が激しいです。
緑川 東京のベッドタウンである八千代市は人口が増加していますが、外房のように、東京まで通勤が困難な地区は人口減少が激しいです。当社の本社がある茂原市周辺の供給エリアにも消滅可能性自治体が三つあり、人口が相当数減っています。
一方、京葉工業地帯には相当量のガスをご使用いただいている発電用途のお客さまがおり、販売量の割合では工業用が約7割に上ります。発電用途は、電力の価格自体、ボラティリティが非常に高く、電力価格や市場価格が高いとガスの販売量が減るという独特の動きが特徴です。
―地域に根差したエネルギー事業者として行政からの期待も高く、最近では社会インフラを効率化するスマートコミュニティーの構築事業に協力しています。行政とはどのような関係を築いていますか。
澤田 東日本大震災後、地元の自治体でスマートコミュニティーの確立の動きが生まれました。さまざまな施設を一定のエリアに集約し、住民サービスを効率化するものです。その際、地域の事業者が中核に参加することが条件で、参画しました。スマートコミュニティーでは、復興住宅での熱、電気、ガスの一括管理をはじめ、太陽光発電(PV)や太陽熱給湯を設置した住宅を3棟つくりました。この中で、エネルギーマネジメントを管理しています。復興への取り組みには、周囲からの期待の高さを感じています。
またこのほど、環境省の第5回脱炭素先行地域に釜石市での取り組みが選定されました。当社は、計画書の作成や地元企業によるSPC(特別目的会社)の設立で参画します。これまで計3回、申請しましたが、今回選定され、ようやくスタートラインに立てました。
【ニチガス】
LPガスの充填から配送に至る一連のプロセスを先端技術で効率化する――。そんな仕組みを提供するプラットフォーム事業の拡大を目指しているのが、ガス事業をはじめとした総合エネルギー企業大手の日本瓦斯(ニチガス)だ。カーボンニュートラルの実現という社会要請を踏まえた取り組みで、2030年を目標に業界全体のCO2排出量を20年比で半減することを視野に入れている。
LP業界の関東圏では、約5000社に上る事業者が入り乱れてオペレーションを行う結果、非効率となっている。そこで22年11月から、「LPG託送」と呼ぶ同業他社向けサービスの提供を始めた。LPG託送の拠点となるのが、世界最大規模のLPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」(川崎市川崎区)。約40万の利用者獲得を目標にLPG託送市場の開拓と業界全体のCO2排出量削減に挑む。
基地に実装したのが、デジタルツイン技術。ガスの検針から充填に至る一連の工程で集めた各種データを仮想空間上のAIで分析・処理し、物流業務の効率化と最適化を追求している。客先のガスメーターには、IoT機器「スペース蛍」を設置し、1時間単位できめ細かく自動的にメーターの情報を取得できる。
企業活動に伴うCO2排出量は、自社から直接排出した「スコープ1」、間接的に出る「スコープ2」、サプライチェーンを通じて排出される「スコープ3」に分類される。
エネルギー利用の最適化へ スマートリモコン導入を視野
同社はLPG託送をスコープ1、3のCO2排出量削減につなげるなど、各段階の脱炭素化に注力。さらに顧客ごとに適したCO2排出量削減策も提案する。特に、ガスと電気の両方でお湯を沸かすハイブリッド給湯器は好調で、数量が約2年間で7倍に達した。同給湯器に電気自動車(EV)用充電器や太陽光発電などを組み合わせたセット販売にも力を入れる方針で、蓄電池や各機器を遠隔制御して家庭でのエネルギー利用を最適化するスマートリモコンの導入も計画中だ。吉田恵一・専務執行役員は「50年の『ネットゼロ』実現に向けて、各スコープの取り組みに段階的に力を入れていきたい」と意欲を示した。
【インタビュー】内田高史/日本ガス協会会長
―2020年に、都市ガス業界の脱炭素社会への貢献に向けた「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を策定しました。進捗はいかがですか。
内田 経済産業省の省エネ補助金や環境省のSHIFT(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進)事業など、政策的な支援を受け、20~23年の4年間で業務用・工業用分野において約2000件の石炭などから天然ガスへの燃料転換が進みました。これにより増えた供給量は年間10億㎥。産業用都市ガス販売量は年間220億㎥ですから、その5%に相当する大きなボリュームです。また、CO2削減が難しいハード・トゥ・アベイト(Hard to Abate)産業の燃転・構造転換に対する補助金も今年度、新たに措置されました。これにより、天然ガスへの燃料転換がさらに進むことを期待しています。
―カーボン・オフセット都市ガスの取り扱い状況は。
内田 カーボンクレジットでオフセットするカーボン・オフセット都市ガスのニーズの高まりを受け、需要は伸びています。現在、35事業者が取り扱っており、供給先は384件に上ります。e―メタン(合成メタン)の社会実装までのトランジション期においては、ガスのカーボンニュートラル(CN)化の一つの手段と位置付けて導入を促進しています。
―将来の脱炭素化には、中小事業者の供給エリアでも燃転が欠かせません。
内田 大手の供給エリアで燃転需要が多いことは間違いありませんが、中小事業者のエリア近傍でも大きな需要が存在していますし、中には事業者が大規模投資しなければ進められないケースもあります。そうした場合には、大手と中小が合弁会社を設立しガスを供給するなど、共同で投資を行っています。
他の化石燃料から天然ガスシフトすることは延命手段だという人がいますが、そうではありません。まず、天然ガス転換でCO2を削減しさらに将来、e―メタンに転換していくのですから、ネットゼロへの動きはむしろ加速していると言えますし、業界を挙げて燃転を進めていくことは国のCN戦略の流れに沿うものです。
設備の効率最大化 地域脱炭素を後押し
―燃転に加え、高度利用のためのコージェネや燃料電池の導入にも注力しています。
内田 意外と知られていないことですが、コージェネを発電設備として見ると、導入量は850万kWに達しています。そのうち、88万kWがこの4年間で導入されたものです。また、家庭用のエネファームは50万台以上普及していて、この4年間では17万台販売されました。コージェネ、エネファームとも、今後も導入量は増えていくものと見ています。
大切なことは、設備が個別に導入されていることに加え、スマートエネルギーネットワークとしてエネルギーを面的に活用していくためのシステムの中にもコージェネや燃料電池が組み込まれているということです。複合化された用途の需要を組み合わせることで、設備の効率を最大化することができ、徹底した省エネにつなげられるため地域のCN化の取り組みを後押しする役割を担っています。
―地域によって脱炭素化への道筋は異なります。協会としてどうバックアップしますか。
内田 地方事業者は、地域のCN実現に向け、それぞれの地域特性に合わせた取り組みを進めています。脱炭素先行地域の共同提案者に名を連ねるなど、地域のCNに貢献しようと、どの事業者も真剣です。当協会では、さまざまな取り組み事例を取りまとめて情報発信することに加え、バイオガス・J―クレジットなどの勉強会を開催することで、各事業者が地域の事情に即した手段を地方行政に提案していく流れを作ろうとしているところです。
【北海道ガス】
札幌市中央区にある超高層の複合ビル「さっぽろ創世スクエア」で使用する電力と熱のCO2排出量を実質ゼロにする―。そんな取り組みが7月に始まった。北海道ガスが北海道熱供給公社、大成有楽不動産、さっぽろ創世スクエア管理組合と連携して実現したもの。地元の民間事業者がスクラムを組みカーボンニュートラル(CN)の達成を目指す先進的な事例として、注目を集めそうだ。
同ビルのエネルギー源として、天然ガスの採掘から最終消費に至るまでの工程で発生するCO2を、森林保全などによる削減・吸収量で相殺する「カーボン・オフセット都市ガス」を利用したことが特徴。
このガスを用いて、同ビルの地下4階にあり、北海道熱供給公社が運営する「創世エネルギーセンター」では、コージェネレーションシステムとボイラーにより、施設内に電力と熱を供給する。コージェネは、出力700kWのガスエンジン2台で構成されるシステムだ。
コージェネの発電時に発生した排熱は冷暖房や給湯に利用し、入居する企業や札幌市民交流プラザへ供給。不足する電力は、再生可能エネルギー由来の「非化石証書」を活用した電気を昨年10月から北海道ガスが届ける。こうした仕組みを構築することで、同ビルで使用する電力と熱の脱炭素化を達成した。CO2排出量の削減効果は、年間で約9200tを見込む。カーボン・オフセットした熱供給は、道内では初の試みという。
札幌市は2022年、環境省による「脱炭素先行地域」として選定。札幌都心の取り組みとして、コージェネを活用したエネルギー供給ネットワークの構築が進められている。民間施設群では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化などを促すとともに、熱供給源として木質バイオマスなどの再エネ利用を促進。CNガスへの切り替えにより、電力・熱の脱炭素化も進めた。創世スクエアは、これらを実現した事例だ。
一方で、18年に道内で発生した胆振東部地震によるブラックアウトの際には、都市ガスの導管に被害がなく、創世エネルギーセンターがビルへ電力と熱を届ける役割を果たし、同ビルが帰宅困難者の一時滞在施設として機能した。また、地下の熱導管を通じて隣接する市庁舎への冷温水供給も継続した。
建物の環境価値を認知 災害対応力向上にも寄与
北海道ガス執行役員第一営業部長の金田幸一郎氏はこうした経緯に触れた上で、「札幌都心部に広がるガスコージェネを核としたエネルギー供給ネットワークを生かし、札幌市が目指す環境性・レジリエンス(強靭)性に優れたまちづくりに貢献したい」と強調。同部都市エネルギーグループ副課長の渡邊翔氏も「環境対策に意欲的なビルに入居したいというテナントが増える方向にある。官民の関係者と連携し、札幌都心部の電力・熱の脱炭素化を推進する一翼を担いたい」と意欲を示しており、北海道ガスの挑戦の舞台が一段と広がりそうだ。