【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年6月号)


【神戸熱供給ほか/関西初となる地域冷暖房の脱炭素化】

関西電力や大阪ガスなどが出資する神戸熱供給は、HAT神戸(兵庫県)で手掛けている熱供給事業で、供給する熱エネルギーを脱炭素化した。対象となるのは10施設で、関西エリアの地域冷暖房で脱炭素化したのは初めてのことだ。今回、供給する熱エネルギーを作り出す電力とガスの全量についてCO2フリーのエネルギーを活用する。関西電力が提供する「再エネECOプラン」によって実質CO2フリーの電気を利用するほか、大阪ガスが提供するカーボンニュートラル都市ガスを活用する。これらの取り組みによって年間2000tのCO2を削減する。神戸熱供給は、「兵庫県や神戸市が推進する脱炭素社会の実現に貢献できる」としている。

【北海道電力ネットワーク/住友電工/系統側蓄電池設備の運用開始】

北海道電力ネットワークは、住友電工のレドックスフロー電池設備(設備容量5万1000kW時)を系統側蓄電池として導入し4月から運用を開始した。北電ネットワークは設置した系統側蓄電池に係る費用を共同負担することを前提とした風力発電の募集を「系統側蓄電池による風力発電募集プロセス(Ⅰ期)」として実施している。この募集によって、すでに優先系統連系事業者15件、16万2000kWが決定しており、これらの連系のために必要となる系統側蓄電池として同設備を利用する。北海道電力と住友電工は2015年から北電の南早来変電所で同蓄電池の大規模実証試験を行い、系統安定化を目的とした運用において安定・安全に運転できることを確認している。

【リニューアブル・ジャパン/太陽光発電所管理実績が100万kWを突破】

リニューアブル・ジャパンは、発電所のO&M(オペレーション・メンテナンス)実績が1GW(100万kW)を突破した。再生可能エネルギー発電所の開発、発電、運営管理を手掛け、2月末時点で全国28カ所に拠点を設けている。自社開発のみならず、外部受託案件にも対応。除草や除雪、年次点検など徹底した業務内製化を図り、システムを共有して素早いトラブル解決と低コスト高品質のサービスを可能としている。また、4月には大垣共立銀行から融資を受け、長野県松本市の太陽光発電所購入を進めると発表するなど、今後も事業を拡大。一方で第二種・第三種電気主任技術者の育成など、次世代社員教育にも力を入れる「RJアカデミー」も開始し、業界をリードしていく方針だ。

【静岡ガス/JAPEXほか/愛知県でバイオマス発電所を建設】

静岡ガスはこのほど、石油資源開発、東京エネシス、川崎近海汽船、第一実業、岩谷産業、Solariant Capitalの6社と連携し、愛知県田原市の工業団地にバイオマス発電所を設けると発表した。木質ペレットを燃料とし、出力は5万kWを見込む。2022年10月に着工し、25年4月に運転開始予定。中部電力パワーグリッドに約20年売電する。この事業は静岡ガスが運営する。出資7社は、再生可能エネルギー由来電力の普及拡大と地域経済の発展へ貢献していく構えだ。

【大阪ガスほか/世界最高水準の高効率コージェネを共同開発】

大阪ガスと三菱重工エンジン&ターボチャージャは発電出力850kW級の高効率ガスエンジンコージェネレーションシステムを共同開発した。停電発生時にはガスを燃料として発電し、必要な設備に電力を供給する事業継続計画対応機能や、設置スペースはそのままに、燃焼の最適化や高効率部品の採用などにより、出力アップと効率アップを両立した。従来機種を大幅に改良したことで、850kWの発電出力としては世界最高クラスの発電効率41.9%を達成した。

【JFEエンジニアリングほか/ゴミからメタノール製造 国内初の取り組み】

JFEエンジニアリングと三菱ガス化学は、都内の清掃工場「クリーンプラザふじみ」の排ガスから回収したCO2を原料に、メタノールへ転換に成功した。国内初のこと。CO2の回収率は90%以上、CO2純度は99.5%以上であることをJFEが確認。その回収CO2を三菱ガス化学がメタノールに転換した。両社のCO2利用技術に期待が高まっている。

【平田バルブ工業/JIS Q 9100の認証取得 航空宇宙分野へ事業拡大】

平田バルブ工業は「航空・宇宙および防衛分野の品質マネジメントシステム(JIS Q 9100:2016)」の認証を取得した。この認証は、ISO9001に航空宇宙業界特有の要求事項を追加したもの。日本で制定された世界標準の品質マネジメント規格だ。同社は認証取得により、航空宇宙分野への事業拡大に向け、取り組みを加速させるとしている。

【特集2】再エネとコージェネを最適制御 多様な設備群を扱う強み生かす


【東京ガスエンジニアリングリューションズ】

東京ガスエンジニアリングリューションズは再エネの運用を本格化している。ガスコージェネを加えた多様なリソースによって最適なソリューションを提供する。

かつて分散型といえば、ガスコージェネレーションシステム(コージェネ)が代名詞であり、そのコージェネを核に地域冷暖房事業や分散型のエネルギーサービス、エネルギーソリューションを提供してきたのが、東京ガスグループの東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)だ。

TGESが20年以上の事業経験によって扱ってきた分散型や熱源設備群はコージェネや吸収式、ガスエンジンヒートポンプ(GHP)といったガス設備だけにとどまらない。電動型ターボ冷凍機といったヒートポンプ設備や、環境性に優れた木質チップボイラー、太陽熱、あるいは昨今では蓄熱槽を運用するなど、設備群の幅を広げてきた。そうしたビジネスモデルがいま、大きな変貌を遂げようとしている。キーワードは「もう一つの分散型」だ。

「太陽光発電設備の第三者保有モデルとなる『ソーラーアドバンス』というサービスを昨年から本格的に開始しました。設備を当社が負担することで、お客さまはイニシャルレスで太陽光発電設備を導入できます。これまで多様な設備を扱ってきたノウハウを活用しながら、太陽光パネルの設計や施工、そして運用を手掛けていきます」。企画本部経営企画部の北岸延之事業開発グループマネージャーはこう話す。

「もう一つの分散型」とは、つまり再エネによる発電設備を取り入れるビジネスモデルのこと。ユーザーは、投資負担がゼロで長期にわたり設備運用を手掛けるTGESからエネルギーサービスを受ける。裏を返せば、ユーザーはTGESに任せることで、長期にわたって「再エネ利用」をうたうことができるわけだ。

そんなビジネスモデルが既に始まっている。ユーザーは自動車メーカーの本田技研工業だ。国内事業所としては最大規模で、二輪車などを生産する熊本製作所(熊本県)の工場の敷地内に3800kWの太陽光パネルを敷き詰め、昨年10月からサービスが始まった。発電量は全て工場内自家消費だ。

こうしたモデルを巡っては、多様なビジネスプレーヤーが参入しているが、TGESによる運用の特徴は、「ヘリオネット21」と呼ばれる、同社が独自に開発し培ってきた「遠隔監視システム」を活用することにある。ヘリオネット21は、24時間365日遠隔監視を行う「ヘリオネットセンター」が運営し、故障予知や予防保全による対応の効率向上を図ってきた。今回の太陽光設備も遠隔監視することで、運用データに基づいた最適なメンテナンスを実施し、太陽光発電のパフォーマンスを最大限に発揮できる。

こうして、ユーザーはエネルギー設備運用のプロであるTGESに任せることで、「設備の運転不備」や、社会問題化しているような「太陽光パネル施工不良」といった課題からは解放され、安心して、そして安全に再エネを利用できるようになる。

再エネという新たな分散型アイテムを加えたTGESでは、「再エネ自家消費」にとどめず、再エネの余剰電気を活用する、もう一歩踏み込んだサービスモデルも構築している。

再エネを自己託送に 運用は全て自動制御

今年2月から、不動産デベロッパー大手である東京建物に対して始めたスキームだ。東京建物が管理する物流倉庫の広大な屋根に太陽光発電設備(3地点、計2100kW)を敷き詰め、倉庫内の照明や空調などの需要を中心とした自家消費を原則としながらも、太陽光の余剰電力を有効に活用する「自己託送」モデルである。

自己託送とは、特定の自社発電設備と特定の自社設備の需要を、電力会社の送配電ネットワークを介して結び付けた電力需給の仕組みである。このスキームでポイントになるのが、計画値同時同量の原則だ。太陽光発電設備の発電量と、需要側の需要量を30分ごとに予測し、かつ需要量と供給量を一致させて電気を送る。その計画値は、送配電ネットワークの運営を管理する電力広域的運営推進機関に30分ごとに提出する必要がある。計画値のズレは停電を誘発する恐れがあるため、送配電ネットワークという公共インフラを利用する限り厳守しなくてはいけないルールである。ズレが発生した場合、送配電ネットワークの利用者はインバランス料金(罰金)を支払うルールになっている。

こうした一連の面倒な設備運用や計画値の提出といった手続きを全て自動で行うのが、ヘリオネット21を進化させた「ヘリオネットアドバンス」である。

「エネルギー設備を遠隔から監視するだけでなく、直接制御できるようにしたことから可能になった新技術です。当社が手掛けてきたいくつかの地域冷暖房拠点で、コージェネの余剰電気を使った自己託送を行ってきました。そうしたノウハウをもとに、再エネによる自己託送にまで領域を広げました」(前出の北岸さん)

再エネを使った自己託送モデル

コージェネの新たな役割 回転体としての同期機能供出

再エネという新しい分散型の運用が本格化するのに伴い、従来の分散型、つまりガスコージェネにも、これまでの概念とは異なる新しい運用の可能性があるのではないかと北岸さんは考えている。

「昨今、再エネが大量導入された結果、電力系統全体で慣性力が失われつつあります。つまり系統の安定化を保つことが難しくなり、停電リスクが高まっています。これまで慣性力を供出し、系統の同期機能を果たしていたのは大型火力を中心とした回転体の発電機でしたが、今後、大型火力の新設やリプレースが難しくなれば、停電リスクはますます高まります。そこで、発電規模は小さいですが、回転体発電機であるコージェネが系統の安定化に寄与するような運用も考えていく必要があるのではないかと思っています」

電気工学への造詣が深く、電力インフラという公共財の安定利用に思いをはせる北岸さんなりの視点である。これまでコージェネ導入の目的はピークカットやレジリエンスの視点が中心だったが、今後は「再エネ共存」という新しい視点と、それに合わせた電力制度の見直しが求められてこよう。

【特集2】オフグリッドで再エネ100% 防災拠点として機能を強化


【九電工】

全量再エネ利用のエネルギーシステムの運用が始まった。佐賀県小城市では庁舎内の電気を全て太陽光が賄っている。

佐賀県小城市の市庁舎で、今年の冬からユニークな分散型システムの運用が始まった。九電工が手掛ける「再エネ100%利用」のシステムだ。既設庁舎に、太陽光パネル(552kW)と鉛蓄電池(3

456kW時)を設置。最大需要となる300kW程度に対して、実質100%の再エネで、エネルギーの自給自足を行う仕組みだ。電力会社からは基本的にオフグリッドで運用している。このシステムの核が「九電工EMS」だ。

建屋向けのエネルギーマネジメントシステムとなるとBEMSが想起されやすいが、九電工の独自技術で編み出したこのシステムは、それとは異なる。その仕組みについて、昨年7月に発足した新組織、グリーンエネルギー事業部の松村敏明担当部長はこう話す。

「一言で説明すると発電側のマネジメントシステムです。再エネ電力を、最も高い効率で負荷側に送電します。再エネの出力は変動するので使い勝手が悪いのですが、このシステムは、変動分を取り除いて安定した出力分のみを負荷に送ります。同時に変動分を蓄電池に充電することで、再エネ電気を一滴も無駄にしない自動制御システムです」

そんな技術開発に九電工が取り掛かったのは、同社と友好関係にあるインドネシアとの縁だ。「化石資源大国でしたが、現在では資源輸入国です。数多くの離島が存在し、多くは内燃力で発電しています。何とか再エネで課題解決したい」。そんなニーズに応えようとしたことから始まり、現在、同国で事業化に向け取り組んでいる。一方、小城市側は2018年の北海道大停電を契機に、エネルギー強靭化や再エネ利用の拡大を志向していた。そんなニーズとシーズが重なり、今回の運用に至った。

課題は余剰電力の活用 近隣施設にも供給開始

課題だった冬場の需要を順調に乗り切り、目下の課題は春や秋の空調需要の落ち込みで生じる余剰電力の活用先だ。その取り組みについて同じ部署の四宮健吾課長はこう話す。

「市役所近隣の別の公共施設である福祉施設への供給も開始しました。施設内の負荷分を増やすなど工夫しながら、再エネ発電の有効活用につなげたいです」

九電工EMSを導入した小城市庁舎

また、一連の取り組みは防災拠点としての機能も果たす。現在、市は庁舎と福祉施設を防災拠点として位置付け、有事には再エネ電気でレジリエンス性を高めようとしている。再エネ拡大と防災機能の強化―。二つの側面から九電工EMSが役割を果たす。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年5月号)


【東北電力ほか/電気とガスのセット販売でポイントサービス】

東北電力と山形ガスは、電気・ガスのセット販売に関する業務提携契約を締結し、4月から「山形ガス 東北電力 ガスでんきセットプラン」として販売している。このセットプランは、東北電力が提供する電気料金プラン「よりそうプラスeねっとバリュー」または「よりそうプラスファミリーバリュー」と、山形ガスが提供する都市・LPガス料金プランをセットで契約した上で、山形ガスのポイントサービス「たんめるクラブ」に登録することが加入条件となる。契約時の条件と月々の請求に応じたポイントが付与され、貯まったポイントはガス料金への充当や他社ポイントなどへの交換が可能。両社は今後、電気・ガスのセット販売により、地域の豊かな暮らしをサポートしていく方針だ。

【中部電力ミライズほか/合弁会社を設立し電気とLPガスを販売】

中部電力ミライズ、Gas Oneグループのサイサンといちたかガスワンは、8月に合弁会社エネワンでんきを設立し、全国での小売り電気事業と中部3県(愛知・岐阜・三重)でのLPガス事業に取り組む。具体的には、サイサンといちたかガスワンのLPガス事業の基盤を軸に、関東・北海道エリアを中心に全国において電力を販売。また、中電ミライズの小売り電気事業の顧客を中心に、中部3県でLPガスを販売する。Gas Oneグループと中電ミライズグループの経営資源を融合し、両グループの強みを生かすことで、エネルギーの安定・安価な提供の実現を目指す。エネワンでんきは、将来的に暮らしを豊かにする新たなサービスの全国展開も視野に入れている。

【NTTグループ/環境価値の提供に対応したグリーン電力が選択可能に】

NTTコミュニケーションズとNTTアノードエナジーは4月1日から、再生可能エネルギーを選択できる電力メニューの提供を開始した。このメニューでは、選択した再エネに関する環境価値も併せて提供。これにより、契約者はRE100をはじめとする国際的な環境イニシアチブや温対法に関わる報告、および脱炭素化に向けたESG経営の促進が可能となる。NTTグループは「NTT Green Innovation toward 2040」という環境エネルギービジョンを掲げ、データセンターにおいて高効率な省エネ型設備を導入するなど、グループ全体での脱炭素化に取り組んできた。今回、顧客の要望に合わせた再エネの提供を通じて、再エネ利用のさらなる拡大を目指す。

【住友電気工業ほか/自家消費型太陽光発電システムを発売】

住友電気工業とハンファQセルズジャパンは、固定価格買い取り制度に依存しない自家消費型の住宅用太陽光発電システムを開発した。Qセルズの太陽電池モジュールと住友電工の大容量で長寿命のハイブリッド蓄電システム「POWER DEPO®H」を一体化。普及拡大に取り組む。POWER DEPO®Hは、蓄電容量12.8kW時、連系出力最大6kW、対応負荷容量75Aの機能を搭載。停電時の自立出力最大6kVAの充放電能力を持ち、200V機器も使用できる。

【エア・ウォーターほか/国内初の家畜ふん尿由来の水素事業を展開】

エア・ウォーター北海道と鹿島建設は、「しかおい水素ファーム」を共同で設立し、国内で初めて家畜ふん尿由来のバイオガスによる水素の製造・販売などを行う。家畜のふん尿処理施設である北海道鹿追町の環境保全センターから、メタン発酵で生成されたバイオガスの供給を受け、水素を製造。燃料電池自動車などへの充てんの他、近隣施設の燃料電池への供給や、産業用として工場などへの供給を予定している。販売エリアは道内を想定し、再エネの地産地消を推進する。

【エナリス/再エネ発電事業者を支援 需給管理の代行サービス】

エナリスは、再エネ発電事業者の業務を支援する「再生可能エネルギーアグリゲーションサービス」の提供を開始した。非FIT/FIP再エネ発電事業者に求められる需給管理業務を代行する。発電予測や予測値をもとにした発電計画の作成、計画値との誤差を解消するための発電事業者バランシンググループの組成、蓄電池を使った計画値との誤差補正などを行う。

【三菱造船ほか/LNGを船舶に供給 バンカリング船を契約】

KEYS Bunkering West Japanは、LNG燃料を船舶に供給する自社船舶の造船契約を三菱造船と締結した。2024年3月に完成予定で、西日本で稼働する初のLNGバンカリング船となる。KEYSは九州電力、日本郵船、伊藤忠エネクス、西部ガスによる合弁会社。九州と瀬戸内地域での船舶向けLNG燃料供給事業を、24年春ごろにも始める計画だ。

【特集2】官公庁や自治体など広く対象に 高い技術力で制御システムを守る


【東北電力グループ・トインクス】

トインクス(TOiNX)は、東北電力グループの一員として、情報システムおよび情報ネットワークに関するサイバーセキュリティーを担当する。トインクスが現在力を入れているのは、「制御システム」のセキュリティーだ。

個人情報などを取り扱う情報システムと異なり、発電所や工場など重要インフラで使用する制御システムはこれまで「インターネットから独立しており攻撃は受けない」と言われてきた。しかし2010年イラン核燃料施設攻撃を皮切りに、制御システムを狙った攻撃が問題化。監査の必要性が高まっている。

トインクスはその制御システムのセキュリティーに高い専門性を持つ。社内に制御システム対策の専門エンジニアを抱え、彼ら自身が顧客との営業も担う。セキュリティーの国際資格「グローバル・インダストリアル・サイバー・セキュリティー・プロフェッショナル(GICSP)」を持つ社員も在籍し「制御システムのセキュリティー分野では国内トップに食い込む技術を持っていると自負しています」と、営業本部営業企画部デジタルビジネス推進課・目黒有輝主任。東北電力グループ以外からも高い評価を得ており、他業種から監査依頼を受けることも多い。

トインクスではサイバー攻撃対策として、顧客に向けた「セキュリティー診断サービス」を提案している。企業の情報システム、制御システムの脆弱性を調べ、対策をアドバイスするサービスで、電力グループ以外に官公庁・自治体、企業も対象だ。診断では顧客の持つ課題に合わせ、社内の専門家がシステムへの疑似攻撃を行う「ペネトレーションテスト」や、ヒアリング、現地調査で診断する「リスクアセスメント」などの手法が使われる。

独自開発ツールで脆弱性発見 隠れたリスクを洗い出す

ペネトレーションテストは、システムの知識を善用するホワイトハッカーが企業のシステム情報を知らない状態で攻撃する実戦仕様が特徴だ。サイバー攻撃を念頭に独自開発したテストツールで、市販のツールでは通常見つからない脆弱性も発見できる。リスクアセスメントでは、文書調査と現地調査の両方を行うため、ルールで規定されても運用上で不備のある項目や、暗黙のルールで運用されているリスクを洗い出すことができる。設置機器やケーブルの保護、部屋の管理など物理的なセキュリティー問題にも対応が可能だ。

「当社は情報システムセキュリティーがメインですが、これからは制御システムにも取り組み、他社にないスキルでより幅広いサービスを提供していきたいですね」(同課・齋藤貴久副主任)

インフラ施設へのサイバー攻撃が現実の問題となった昨今、トインクスの持つ技術は企業のサイバーセキュリティーに欠かせないものとなりつつある。

セキュリティ・キャンプ全国大会やIPA産業サイバーセキュリティセンターでの講師実績を持つ目黒さん(写真は大学の講義に登壇している様子)

【インフォメーション】 エネルギー企業の最新動向(2022年4月号)


【関西電力/福岡でバイオマス専焼発電所の運転開始】

関西電力グループが運営するバイオマス発電所「かんだ発電所」(福岡県苅田町)が営業運転を開始した。関電グループが関西エリア外でバイオマス専焼の発電所を営業運転するのは初。発電出力は約7万5000kW、発電電力量は年間約5億kW時で、一般家庭の約16万世帯分の使用量に当たる。燃料は海外から輸入する木質ペレットや、パームやし殻を使う。関電は2017年に100%出資のバイオパワー苅田合同会社を設立し、19年から建設を進めてきた。関電グループは、「ゼロカーボンビジョン2050」で取り組みの柱に掲げる「サプライサイドのゼロカーボン化」に向けて再生可能エネルギー電源の普及・拡大に取り組んでいる。50年までに事業活動に伴うCO2排出ゼロを目指している。

【東京ガスほか/ごみ焼却場でCCU実証試験を開始】

東京ガスはこのほど、横浜市資源循環局鶴見工場の排ガス中に含まれるCO2を分離・回収し、資源として利活用する技術(CCU技術)の確立に向けた実証試験を、2023年1月から開始することで横浜市、三菱重工グループと合意した。具体的には、三菱重工グループの技術を通じてごみ焼却工場の排ガスから分離・回収されたCO2を、メタネーションの原料としてだけでなく、汎用性の高い産業ガスなどに資源化する技術の確立に向け、検討を行っていく。東京ガスは今年1月に横浜市との間でメタネーションに関する連携協定を締結。CO2のコンクリートや炭酸塩への資源化など、顧客先でのCCU技術の実証試験などを進め、商用化を目指していく。

【大阪ガス/EV活用のマルチユースサービス開発へ実証開始】

大阪ガスは、電気料金の削減、カーシェアリング、非常用電源(BCP)活用―の三つのマルチユースサービスの実現を目指し、同社が所有する実験集合住宅「NEXT21」で実証を開始した。マルチユースサービスの開発により、電気自動車(EV)をモビリティ用途だけでなく、蓄電池としても活用する。この実証では、EVを用いてエネルギーマネジメントを効率的に行いながら、NEXT21の入居者向けにカーシェアリングを行うことで、その実績データを取得し、ビジネスモデルの評価を行う。実証後は、官公庁や社用車を所有する業務用の顧客、集合住宅などへマルチユースサービスを導入し、CO2排出量削減・省エネに貢献する計画だ。

【ヤンマーエネルギーシステムほか/高い発電効率を実現したガスコージェネ】

ヤンマーエネルギーシステムは、東京ガス、東京ガスエンジニアリングソリューションズと共同開発した420kW常用ガスコージェネシステム「EP420G」を発売した。42.6%の高い発電効率に加え、近年、地震や台風による停電時のBCP対策が求められる中で、分散型エネルギーシステムとして、レジリエンス向上に貢献する。病院・オフィスビルといった業務用施設や中小規模の工場などへの導入を通じて、コージェネシステムのさらなる普及拡大が期待される。

【川崎汽船ほか/世界初の液化CO2輸送実証に着手】

川崎汽船は、世界初となるCCUS(CO2回収・利用・貯留)事業向け液化CO2輸送の実証に取り組む。エンジニアリング協会がNEDOの委託を受け、実証試験船は三菱造船が建造する。川崎汽船とエンジニアリング協会など4者は、2023年の本船完成に向け、安全で低コストな液化CO2の船舶輸送技術の確立と、CCUS技術の社会実装を目指す。川崎汽船は液化ガス輸送船の保有・運航実績などを生かし、輸送・荷役時の安全性評価と技術的なガイドライン策定を行う。

【沖縄電力/CO2フリーメニュー契約 工場電力5割を非化石】

オリオンビールは、電気のCO2排出量を実質ゼロとする「うちな~CO2フリーメニュー」の契約を沖縄電力と結んだ。再生可能エネルギー由来のCO2フリー電気を使用することで、沖縄県の持続的な環境保全への貢献を目指す。この契約締結により、工場で利用される電力エネルギーの50%が非化石燃料由来となり、2019年度比で36%削減される見通しだ。

【北陸電力/新築戸建ての購入者向け 太陽光発電サービス開始】

北陸電力は、太陽光パネル設置の初期費用を負担することなく、メンテナンス料を含む月額料金のみで、太陽光発電の電気を使用できるサービス「Easy ソーラー withハウスメーカー」を開始する。屋根形状やサイズ・パネル容量などの条件からプランを選択可能。利用者には、電気料金の節約や停電時でも日中は太陽光発電の電気を使用できるなどメリットがある。

東ガス&丸熱 カーボンニュートラルな街づくり 理想形を現実解にする業界の挑戦


カーボンニュートラルに対して世の中の意識が日に日に高まっている。堅実なトランジションに向けて業界に何が求められ、どのように取り組むのか。

【左】柏木孝夫(かしわぎ・たかお)東京工業大学特命教授・名誉教授/1970年東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。
【中】川村俊雄(かわむら・としお)東京ガスエネルギーソリューション本部エネルギー企画部長/1994年東京大学工学部化学工学科卒、東京ガス入社。LNG基地、原料調達、気候変動対策等担当部署を経て、2021年4月から現職。
【右】岡本敏(おかもと・さとし)丸の内熱供給取締役常務執行役員/1986年三菱地所入社。ビル運営管理に25年以上従事。三菱地所プロパティマネジメント常務執行役員などを経て、2021年から現職。

柏木 業界にとってカーボンニュートラルの取り組みは不可欠ですが、まずはリアリティーのある取り組みが必要になります。その中で街づくりに関わる熱供給事業は即効性のある省エネに貢献します。まずは丸の内熱供給(以下、丸熱)さんの昨今の取り組みについてお話しください。

岡本 熱供給事業者として脱炭素に向けて、今後どのような取り組みをするべきか考えてきた中で、1年前に当社と三菱地所で「エネルギーまちづくりアクション2050」を策定しました。地域冷暖房ネットワークを核に「面的エネルギーによる強靭化」「脱炭素化に貢献する都市型マイクログリッド構想」を掲げ、環境価値と社会経済活動の最大化に向けて街づくりを支えていこうと考えたわけです。特に大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)には国際的に活躍する企業が多く、業務の継続力やエネルギーの脱炭素化に対して関心が高いエリアです。そうしたニーズにエネルギーマネジメントで応えたいと考えています。

 ここでのポイントは三つあります。一つ目は「供給マネジメント」です。当社でも一部で熱電一体供給を行っていますが、今後、大規模にそういった展開を広げていきます。二つ目は「需要マネジメント」です。新築や既存のビルそれぞれのエネルギー消費効率の向上です。三つ目が「つなぐ・事業マネジメント」です。大丸有エリアではスペース的に太陽光発電の設置が難しいため、地方と連携し、例えば地方のバイオマス発電とつなぎ、その再エネ電力を調達する。また、個別コージェネの排熱利用もあります。個別のビルでは排熱を活用し切れませんので、われわれの方で受け入れて、それをつないでネットワーク化する。こうした面的利用によって環境価値やBCP(事業継続計画)あるいはDCP(地域継続計画)に貢献していきたいと考えています。

スマエネ運用の高度化 省エネは脱炭素技術

柏木 東京ガスで昨秋に発表した「Compass Action」では、地に足の着いたリアリティーのある計画を打ち出しています。

川村 はい。当社グループが一体となって「CO2ネット・ゼロ」に向けて、ガス体と再エネの両輪で責任あるトランジションをリードしようと考えています。ポイントとしては、ネット・ゼロという高い理想を掲げつつも、エネルギーの安定供給を維持し、地に足の着いた現実感のあるカーボンニュートラル社会への移行を主導していきたいと考えています。

 具体的には一丁目一番地である天然ガスの高度利用として三つの取り組みを掲げています。一つ目は燃料転換です。全国的には産業用を中心に、石炭や重油の利用がまだまだ残っていますので、まずはガスへの燃料転換を進めていきます。二つ目が、スマートエネルギーネットワークです。田町、豊洲、あるいは工場群のエネルギーをまとめて運用する栃木県清原工業団地など、既に具現化した事例があります。こうした街づくりの観点からスマエネ運用の高度化が大切になります。三つ目が、CO2クレジットを使ったカーボンニュートラルLNG(CNL)による都市ガス(CN都市ガス)の供給です。この延長に、CCUS(CO2回収・利用・貯留)や合成メタン供給へとつなげたいと考えています。

 スマエネについて補足しますと、その要諦は、CN都市ガスを含む環境性と、防災性を両立することだと考えており、ポイントは五つあります。まずは「①コージェネを配置」し、それを「②面で使い」切る。さらに「③再エネや未利用熱エネルギー」を使う。未利用エネとしては地下のトンネル水などが該当します。加えて、「④DR(電力需要制御)を含めたICTによる需給連携制御」です。そして、これらのエネルギー供給のベースとなるのが「⑤ガス導管の強靭性」です。この中圧・高圧ガス導管は東日本大震災クラスの災害でも、その機能が担保されたことはご記憶の通りです。

 こういった五つの視点を組み合わせてスマエネをさらに進化させていくことが、地に足の着いたトランジションであるという意識の下で取り組んでいきます。

柏木 最近では大規模なビルで、電力会社がコージェネを導入するケースが生まれています。虎ノ門ヒルズもその一例です。コージェネを導入しないと建物としての価値が認められなくなっている時代です。またコージェネ自体の発電効率も高まってきており、導入すれば20%ほどは確実に省エネになります。同時にこれは省エネだけでなく、脱炭素テクノロジーというような言い方もできると思います。オフセットされたCN都市ガスによって、脱炭素社会への近道となるテクノロジーだということです。こうした取り組みは、従来の「物売り」から「ソリューション売り」の展開にもつながっていくと思います。

川村 おっしゃる通りです。ちょうど当社も、従来のエネルギーを中心に販売する会社から変わっていこうとしています。当社は4月からホールディングス型グループ体制へ移行しますが、その際法人営業部門は、地域冷暖房事業やエネルギーサービス事業を手掛ける100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と一体となってお客さまにソリューションを提供する体制になります。ガスや電気の供給、さらにはエネルギーサービスをソリューションとしてワンストップで提供していくわけです。

設備改修と運転制御改善  CN導入の第一歩

岡本 川村さんが先ほど、地に足の着いた取り組みとおっしゃいましたが、全く同感です。当社も、まずはプラントの高効率化・省エネに取り組んでいます。例えばターボ冷凍機の軸受けの改良、ポンプや冷却塔のインバーター化、あるいは高効率な小型貫流ボイラーへの更新などです。また、先般、新菱冷熱工業さんと一緒に、設備をAI制御する取り組みを発表しました。4%の消費電力削減を達成しました。このように大きな設備更新、あるいは設備の改良による効率化、運転の制御の高度化などを同時並行的に進めています。

 あと、既存のエネルギーインフラをいかに有効に活用するかも重要な視点です。その意味で、既存インフラを活用できるCN都市ガスの導入は意義のある取り組みだと考えています。需要家さんだけでなく、需要家さんのビルに入居しているテナントさんも非常に環境意識の高い企業さんが多く入居しているわけです。であるならば、同じ都市ガスでも環境に優しい都市ガスということで、昨年11月に当社は全量をCN都市ガスに切り替えました。

 現状、一連のコスト増加分は当社で負担しています。今後、需要家さんにどのようにご負担いただくか課題になるかと思いますが、まずはCN都市ガス・CN熱の存在をしっかりと周知しているところです。

川村 この件については、改めて丸熱さまに感謝申し上げます。個人的な話になりますが、1年前までは原料部に所属しており、まさにCNLの調達に携わっていた当事者でして、CNLには思い入れがあります。3年ほど前に、海外のLNGサプライヤーからこの商材の提案があったとき、当社の営業部門に相談に行きました。「果たしてお客さまに届けられるのか」。社内で議論を重ね、お客さまとも話し合いを進めていく中、丸熱さまにご理解をいただき、日本で初めてCN都市ガスを採用いただきました。

 おかげさまで今では60社を超えるお客さまにご利用いただいており、その過程で「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立し、まずは周知に向けて取り組んでいるところです。

 なお、オフセットするCO2クレジットは、現状では制度的に担保されたものではなく、あくまでも企業自らがボランタリーで取り組んでいるものです。国の制度や国内法制面で、CO2削減カウントとして扱われるようにするためには、国際的な枠組みを見据えての働きかけも必要になるでしょうから、ハードルはあるかと思いますが、まずは自分たちでできること、繰り返しになりますが、地に足の着いたトランジションへの取り組みということで、第一歩を踏み出したところです。

 また、クレジットの品質面の担保には特に注意を払っています。第三者機関からの認証を得た信頼性の高いものであることに加え、クレジットの起源となる環境プロジェクトについても十分確認するよう努めております。

丸の内熱供給はCN都市ガスを導入した

岡本 当社としてはCN都市ガスの燃料面での取り組みだけでなく、設備面でも環境性に優れた設備の導入を促進しています。例えば燃料電池については、三菱地所が丸の内ビルディングに導入した三菱重工業製のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の排蒸気を当社が受け取り、街区へ融通することで、機器の導入効果を高める取り組みを行っています。あと、今後検討するのは蓄電池ですね。「荷重の重い設備」になりますので、導入するのであれば、どうしても新築のタイミングが理想的ではありますが、屋内設置の場合の安全性の確保、消防法との兼ね合いなどを考えながら新築・既存とも蓄電池の導入を検討しています。

柏木 今後のイノベーションの一つとして水素利用が挙げられます。東京ガスの水素に対する取り組みを簡単にお話しください。

水素利用へのチャレンジ 排熱とCN熱の制度課題

川村 業界としては既存インフラの有効活用の点で、合成メタンを第一目標としています。ただ、その合成メタンを作るにも水素が必要ですし、当社としても、水素サプライチェーンの一部となる水素製造面など、要素研究には既に取り組んでいます。また、エリアが限定されるかもしれませんが、大規模なコンビナート地帯での水素供給・水素利用というやり方もあるかもしれません。実際、東京の晴海地区では、水素の直接供給について取り組む予定です。

 この晴海地区では二つの側面があります。エリア内にある集合住宅のご家庭には都市ガスの燃料電池エネファームが全戸(約4000戸)に導入されます。一地点に4000台の規模ですから、まとめて運用するVPP(仮想発電所)のような展開への可能性も秘めています。

 それから集合住宅の共用部に純水素型の燃料電池が入ります。この水素供給は非常にチャレンジングな取り組みです。近隣の水素ステーションを拠点に水素導管を敷設します。水素パイプラインにより街区へ水素供給する初めての事例となります。水素の安全をしっかりと確認していくという意味でも、大きな挑戦だと考えています。

 このように合成メタン一本足ではなく、水素についてもいろいろとチャレンジしているところです。

柏木 先ほど、川村さんからCO2クレジットにおける国内制度での扱われ方の課題についての指摘がありました。岡本さんからも何か制度的な課題はありますか。

岡本 先般、東京都に対して意見表明をさせていただきましたが、コージェネを使ったときの排熱利用についての課題です。排熱を有効利用している一方、現状の基準では、排熱を活用すればするほどプラントのエネルギー消費効率が下がってしまいます。排熱といった未利用熱を活用する場合の評価を制度的に認めていただきたいと思います。

 あとCN熱の課題があります。例えば熱供給事業者が、再エネ電力100%で熱を製造しても、それはカーボンフリーの熱とは認められていません。時代に即した制度設計をしていただけたらと思います。

柏木 皆さんの取り組みがきちんと評価されるような制度設計が必要です。ありがとうございました。

再エネ普及のカギ握る「メタネーション」 東ガス×横浜市が実証試験開始


東京ガスが進めるカーボンニュートラルの取り組みの一つとして、メタネーションの実証試験がある。既存のメタネーション技術は、触媒を使ったCO2と水素の反応(サバティエ反応)により、都市ガスの主成分となるメタンを生成する。CO2は燃焼排ガスなどから分離回収。水素の生成には水電解装置が使われ、実用化すればCO2の排出量が回収量と相殺され、ガス事業の脱炭素化に大きく寄与する。

今年1月、東京ガスは横浜市と鶴見区末広町にある横浜テクノステーションで行うメタネーションの実証試験に関する連携協定を締結した。同社敷地に隣接する横浜市下水道センターとごみ焼却工場から排ガス、消化ガスや再生水を受け取り、それらに含まれるCO2と、水の電気分解によって得られる水素を原料としてメタンを合成。エネルギーの地産地消を目指すとしている。

東京ガス・メタネーション推進グループの小笠原慶氏は「実証試験では、日立造船製のメタネーション装置を使い、横浜市との地産地消実証をはじめとした各種運転試験などから、プラント運用や社会実装に向けた大型化に関する課題を洗い出す。2020年代後半には革新的なメタネーション技術を追加して、より高効率な実証を行いたい」と話す。具体的にはサバティエ反応を低温化し、排熱を水電解の反応に活用する高効率なメタン生成技術「ハイブリッドサバティエ」や、電極触媒と高分子電解質膜を使い、CO2を直接メタンに転換する技術「PEMCO2還元」の実用化を目指すという。

次世代セルスタック技術  2年以内に量産化目指す

メタネーションの実用化に欠かせないのが、水電解による水素製造技術だ。昨年5月には、燃料電池の技術開発などを行うSCREENホールディングスと、水電解用セルスタックの低コスト製造技術の共同開発に合意。電解質膜に塗膜化した触媒を貼り付ける技術で、高速かつ大量製造を目指す。「わが社が持つ触媒技術とSCREENさんの燃料電池製造技術を合わせ、共同開発開始から2年以内に技術を確立していきたい」(水素製造技術開発グループの白﨑義則氏)。目指すは、将来の低コスト化に向けた次世代セルスタックの開発だ。

メタネーションの実用化や水素製造技術にはまだまだ課題も多い。製造コストや供給安定性の確保、水素とメタンを受け取る需要側の設備など、革新的な技術がどこまで実現可能か問われている。30年代にメタネーションの海外展開・商用化を実現させるため、東京ガスの研究が加速する。

東京ガスで技術開発に取り組む小笠原慶氏(左)白﨑義則氏(右)

東京ガス「Compass Action」の全容 需要家と連携深め脱炭素化に挑む


東京ガスが昨年11月に発表したCompass Action。脱炭素戦略を描く高い理想を掲げた野心的なロードマップだ。

2019年11月、東京ガスがグループ経営ビジョンとして発表した「Compass2030」。ガスを商材にする企業でありながら「CO2ネット・ゼロ」に向けた取り組みを明確に示したことで、エネルギー業界に大きなインパクトを与えた。

そして2年後の21年11月には、東ガスグループとして取り組むべき具体的な道筋を示した「Compass Action」を策定した。30年までをトランジションの加速期と位置付け1700万tのCO2削減目標を掲げる。そして、その先の50年までにカーボンニュートラル(CN)の実装に駒を進める。このアクションの要諦は次の三つだ。

一つ目はガス体のみならず再生可能エネルギーとの両輪で「CO2ネット・ゼロへの移行をリード」していくこと。ここでは、同社として複数のトランジション手段を扱うのがポイントだ。既存インフラとなるLNG基地やガス導管を徹底的に活用し、石炭や石油からの燃料転換を促す。加えて、メタネーションの実用化を通じカーボンニュートラルメタンの導入を拡大することでCO2を削減する。また、再エネの取扱量を30年までに600万kWまで増やしていく。さらに、ガス火力運用によって、再エネ調整電源としての機能を高めていく。再エネ拡大を支えるための一つの手段だ。燃料として、CO2を排出しない水素やアンモニアなどを活用することを検討しつつ、発生するCO2に対しては、CCUS(CO2回収・利用・貯留)の実用化を目指す。

二つ目が「価値共創のエコシステムの構築」だ。デジタルシフトとリアル補強の両輪で価値創出を加速する。このリアル補強とは、ガス業界の強みでもある対面の事業モデルのこと。検針、ガス機器・設備の保安点検など、家庭用から大口需要まで、多様なユーザーとの接点機会が多いガス事業者ならではのリアルな接点を活用する。そこに、デジタル技術を使って新しい価値を創出する。

三つ目が「LNGバリューチェーンの変革」だ。これに向け各事業主体の稼ぐ力・変動への耐性を向上していく。

場面ごとに多様な役回り ユーザーとの二人三脚

大きな理想を掲げながらも、『「理想形」=「現実解」』となる勝利の方程式に向かい、実際にユーザーとのフロントエンドに立つ営業人員はどのようなメンタリティで挑むのか。

「従来からの取り組みが、根本的に変わることはないと思っています。ただニーズは多様化し、その変化のスピードも増しています。そうした中で、お客さまと一緒に課題を解決してきた従来からの姿勢を、一層深掘りすることになると思います。あるときはエネルギー供給事業者やサービス事業者、別のときはアドバイザーでありコンサルタントというように、場面ごとに多様な役回りを果たすことになると思います」。都市エネルギー営業部公益営業部の星博善法人第二統括部長は話す。

そんな事例が早速始まろうとしている。東ガスは、六つの医学部附属病院を運営する学校法人順天堂と新たな取り組みを開始した。今年1月、CO2削減ロードマップを一緒に策定することを発表したのだ。ユーザーのロードマップ策定を、エネルギー事業者が支える、まさに二人三脚の事例だ。この第一歩として、順天堂医院では、CN都市ガスを採用することになった。東ガスにとって、医療機関向けのCN都市ガス供給は初めてだ。東ガス子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズのコージェネを使ったエネルギーサービスを通じて、これまで築き上げてきた両者の関係が、次のステージへと発展した一例である。

「コロナ対応に尽力し、″事業継続〟こそが最優先課題の医療業界ですが、病院という公益性の高い業種であるが故に自らCO2削減に取り組む姿勢を示した順天堂さまには感謝しています」(星部長)。もともと医療機関は熱需要が多く、コージェネとの相性は抜群だ。実際、順天堂医院でも十分な役割を果たしてきた。そんなコージェネも「今後の脱炭素に向け、運用の多様化のポテンシャルを多分に秘めています」(星部長)。

潜在力秘めるコージェネ デジタル技術で価値創造

一つはスマートエネルギーネットワークの視点である。コージェネを核にしながら周辺一帯の熱電をスマートに供給する取り組みだ。例えば、栃木県清原工業団地では、キヤノンや久光製薬、カルビーといった名だたる工場群のエネルギーをまとめて供給する事例が始まっている。そして、このケースでは驚くべきことに20%近くの省エネを実現している。個別に取り組んでいては達成が非常に困難な省エネ率だ。こうした東ガスの取り組みを筆頭に、スマエネ事例は全国に少しずつ広がっている。

もう一つは再エネ共存の視点だ。再エネが増えるほど、電力需給調整機能が大切になる。そんな出力変動する再エネの欠点を、コージェネの負荷調整機能によって支えていく運用だ。さらには電力市場を見極めた運用の可能性もある。仮に日本全体で電気が足りない局面に陥ったとき、コージェネの発電力が電力市場で貢献する。そんな役割の期待値も高まっている。

こうした新しいステージでの役割はデジタルによっても果たされようとしている。東ガスはこのほど、「Joyシリーズ」と呼ぶソフトウェアを事業譲受し、同社独自の中央監視サービス「0wl net」に組み込んだ。Joyシリーズは21年時点で3万8000件の顧客実績を誇る。これを使ったデジタルソリューション、0wl netとはどのようなものか。「お客さま側のエネルギー設備を統合監視する機能に加えて、当社が監視データを分析することで、継続的に省エネや省力化のソリューションを提案できます。また、電子帳票や遠隔監視カメラなど、ニーズに応じて多様な機能を提供します。例えば、導入していただいた自動車部品工場では40%の業務改善につながったとのありがたい声もいただきました」(産業エネルギー営業部北部産業エネルギー部の中尾寿孝グループマネージャー)

中尾さんによると、今後はエネルギー設備だけではなく工場の生産設備、各拠点のデータを本社一括遠隔監視するなど適用範囲を拡大することで、0wl netを企業全体の脱炭素や生産性向上の基盤となるサービスとして発展させたいとしている。デジタル技術を通じて新しい価値を創出する取り組みとして、ユーザーからの期待が高まりそうだ。

  *  *  *

こうした取り組みを通じてにじみ出てくるのは、社会コストを抑え安定供給を絶やさず、地に足の着いたCN社会へ移行しようという東ガスの決意である。次ページでは「これからの街づくり」にフォーカスした座談会をお届けする。CN都市ガスやコージェネがどのような役割を果たすべきか、有識者や業界関係者が議論する。

【コラム/3月23日】ウクライナ危機とドイツにおけるエネルギー政策の転換


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2月24日に開始したロシアのウクライナへの軍事侵攻により、ドイツのエネルギー政策は大きく転換しつつある。ドイツ政府は、22日には、ロシアからドイツに天然ガスを送る新たなパイプラインプロジェクトである「ノルドストリーム2」の稼働に必要な手続きを停止すると発表しているが、27日には、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子力発電所3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した。

ドイツは、エネルギー資源のロシアへの依存度は高い。とくに、天然ガスは、輸入量の55%はロシアからであり、同国への依存度は欧州主要国の中で最も高い。ドイツでロシア依存がこのように高まったのは、1960~70年代に展開されたブラント元首相による東欧諸国との関係正常化を目的とした「東方外交」の産物である。天然ガスのパイプラインによるロシア依存が高まる中で、エネルギー供給保障の問題がなかったわけではない。しかし、これまで、安定供給上の問題であったのは、供給元であるロシアによる供給停止ではなく、天然ガス輸送の中断による影響であった。ロシアは、冷戦時代を含め、安定的にドイツや他の欧州諸国に天然ガスを送り続けている(ウクライナ向けを除く)。このため、ロシアは、信頼できる供給元であり続けた。これに対して、ウクライナでは、欧米寄りの政権が誕生すると、ロシアはウクライナ向けの天然ガスの輸送を制限しているにもかかわらず、天然ガスを以前同様引き出していたために、同じパイプラインでドイツやその他欧州諸国に送られるべき天然ガスの量が減ってしまい、欧州の経済や市民生活に大きな影響が及んだ。

「ノルドストリーム」は、このような背景の下で、天然ガスをロシアから海底パイプラインでドイツに直接輸送することで、輸送中断のリスクを軽減するために計画されたものである。「ノルドストリーム1」が2011年に完成するまで、ロシアからの天然ガス輸送の約8割は、ウクライナ経由のものであったが、「ノルドストリーム1」の完成で、ウクライナ経由は半分程度に減らすことができた。しかし、この度のロシアのウクライナへの軍事侵攻により、供給元としてのロシアに対する信頼は失われたことが、ドイツにおけるエネルギー政策の大きな転換につながった。

エネルギー供給事業者としてのロシアに対しての警戒心は、欧州諸国の中になかったわけではない。とくに旧ソ連の政治的影響下にあった中東欧やフィンランドでは、天然ガスのすべてもしくは大部分をロシアに依存しており、ロシアへの依存度を減らすことでロシアの政治的影響力も排除したいと考えている。中東欧やフィンランドにおける原子力開発には、このような背景があることを見逃してはならない。フィンランドは、5基目の原子力発電所であるオルキルオト3号を建設したが、筆者は、その決定の理由を、電力会社TVO社で聞いたことがある。「フィンランドでは、将来の電力需要の増加を天然ガス火力で賄うか、原子力発電で賄うか議論があったが、天然ガスは100%ロシアに依存しており、エネルギーのロシア依存度を高めないために原子力発電を選択した」とのことであった。そのさい、同社の幹部が「あまり公の場では言えないことだが」と前置きして述べたことが印象的であった。また、同国は1995年にEUに、そして、1998年に北欧電力市場Nord Poolに参加したが、その背景には、EUの経済圏や北欧のエネルギー市場に自らをしっかりと組み込むことで、ロシアからの政治的影響を受けないように、またはそれを軽減したいとの意図があった。

ドイツも、今回の出来事で、ロシアが安定的なエネルギー供給事業者であるかどうかについて大きな疑念をいだくことになったが、カーボンニュートラル政策への影響はどうだろうか。火力発電所の稼働は少なくとも当面は延長していかざるをえない(原子力発電については、廃止の準備が進んでおり、稼働延長は難しい可能性が高い)。しかし、長期的にカーボンニュートラルを達成していく政策には変わりはないだろう。ドイツは、一次エネルギーの約6割は、国外に依存している。EUも一次エネルギーの輸入依存度 は5割を超えている。

カーボンニュートラルの達成のためには、再生可能エネルギー電源、原子力、CCS、省エネなどを進めていかなくてはならないが、欧州では、とりわけ、再生可能エネルギー電源は最大限開発する必要があると考えられている。その背景には、化石燃料利用の大幅減少を通じてのエネルギーの域外依存度、とりわけロシアへの依存度の低減を図りたいとの意図がある。EUは、2008年に採択された「気候エネルギーパッケージ」以降、温室効果ガス削減、再生可能エネルギー開発、エネルギー利用効率向上に関する野心的な目標を掲げるようになったが、なぜそのような膨大なコストがかかる政策に踏み切ったのかは、このように考えると良く理解できるだろう。それは、エネルギーセキュリティの確保の観点から極めて重要であるからだ。

わが国でも、カーボンニュートラルが政策のトッププライオリティとなりつつあるが、エネルギーセキュリティ確保の観点を見失ってはならないだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【特集2】低廉なグリーン水素供給へ 新燃焼プロセス実験設備を導入


【大阪ガス】

都市ガス業界にとって、カーボンニュートラル社会に向けたイノベーションは重要な経営課題。より安くグリーン水素を供給する革新的技術として期待されるのがケミカルルーピング燃焼技術だ。

大阪ガスが、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術として2020年11月、石炭フロンティア機構(JCOAL)と共に研究開発に着手した「ケミカルルーピング燃焼技術」。バイオマスや褐炭などの低品位石炭といった未利用資源を燃料に、酸化鉄が循環しながら三つの異なる化学反応で二酸化炭素(CO2)、水素、電気の3種類の有価物を生成する技術である。バイオマスを用いた場合、水電解よりも安くグリーン水素を提供できる可能性を秘める。

ケミカルルーピング燃焼プラントは、①酸化鉄と空気中の酸素が反応し、発電用の高温蒸気を生成するための熱が発生する「空気反応塔」、②酸化鉄中の酸素が燃料と反応しCO2を発生する「燃料反応塔」、③燃料との反応で一部の酸素を失った酸化鉄が水蒸気と反応し水素を発生する「水素生成塔」―で構成され、酸化鉄が①~③の反応・生成塔を循環することで連続的に各反応が進行する。

脱炭素に向けた革新的技術として期待されている

同社は昨年12月、このケミカルルーピング燃焼プラントのコールドモデル装置を、カーボンニュートラル技術の研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ」(大阪市此花区の酉島地区)内に設置した。2023~24年度に計画しているベンチスケール実証試験に向け、その試験に用いる装置の設計に必要な、酸化鉄粒子の循環流動特性に関するデータを取得するためだ。

コールドモデル装置は高さ約10m。実際に化学反応させるベンチスケール実証試験装置は温度が900℃に達するため金属で製作することになるが、同装置は酸化鉄の動きを観察するために内部を目視できるよう透明なアクリル樹脂でできている。ベンチスケール実証試験装置の規模は、燃料投入量にして300kWであり、コールドモデル装置と同程度の高さとなる予定。300kWの燃料を投入した際、理論上は1時間に水素を35?、CO2を0・1t、電気を30 kW時製造できるという。これは、25年度以降に同社が商用機として導入しようとしている設備規模の10~100分の1のスケールに当たる。

昨年12月に設置した燃焼プラントのコールドモデル装置

未利用資源を有効活用 最適なプロセス探る

ケミカルルーピング燃焼技術の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けた事業。燃料を空気で燃焼させると、排ガスに窒素やNOXが大量に混ざるが、酸化鉄中の酸素で燃焼させることで排ガスにそうした成分が混ざらず、追加設備を導入することなく高純度のCO2を回収することができる。

一方、燃料となるバイオマスや低品位石炭に含まれる灰やタールへの対策、水素生成に適した酸化鉄や反応条件の探索が実用化への大きな課題で、これらの課題を解決するための要素技術開発を行い、ベンチスケール装置で一連の反応を問題なく進行させられることを実証することが、同事業の目的だ。

ガス製造・発電・エンジニアリング事業部ガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの植田健太郎副課長は、「当社グループとしては、同事業の成果をもとに、バイオマスを燃料に、グリーン水素、グリーン電力、バイオ由来CO2を製造する装置として商用化し、各製品の需要家のカーボンニュートラル化に貢献することを目指しています」と語る。

バイオマスを燃料に水素、電気、CO2を製造するケミカルルーピング燃焼は、世界でも初めての取り組みだ。

2つのビジネスモデルを視野 水素とCO2の地産地消も

ビジネスモデルとしては、工場に本技術によるプラントを導入し、同社がエネルギーサービスを行うことや、同社グループが集中型のプラントを建設して各種製品を市場に販売することなどを視野に入れている。工場などに導入すれば、製造設備をCO2フリーの電気で稼働できるだけではなく、産業用途での水素やCO2の地産地消も実現できるというわけだ。

カーボンニュートラルリサーチハブでは、①都市ガス原料の脱炭素化、②水素・アンモニアの利活用、③電源の脱炭素化―の三つの切り口で、「エネルギーを〝つくる〟技術」と「エネルギーをうまく〝つかう〟技術」の研究開発に取り組んでおり、ケミカルルーピング燃焼技術は、「水素・アンモニアの利活用における〝つくる〟技術」に位置付けられる。

再生可能エネルギー由来の水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」や、VPP(仮想発電所)による再エネの有効活用といった、さまざまなカーボンニュートラル技術の研究・技術開発を加速させ、複数の選択肢を持ってカーボンニュートラル社会実現に貢献していく構えだ。

【特集2】ブルー水素への対応に注力 CN都市ガスでステーション運用


【三菱化工機】

ステーション整備をはじめ水素関連事業を着実に進める三菱化工機。自治体の下水インフラを活用した展開など、水素の地産地消も目指す。

水素製造技術を長年培ってきた三菱化工機は、エネルギー業界や化学プラント業界で小型から大型までの製造装置をそろえ、これまで173件の受注実績を持つ。商用水素ステーション(ST)の建設受注もオン・オフサイト含め12件に上り、国内の環境インフラ整備を着実に担っている。

そんな同社が今、注目するのが「水素の色」だ。水素・エネルギー営業部の石川尚宏部長は「今後は再エネ由来の水電解のグリーン水素や、都市ガスなど炭化水素系原料由来にCO2回収装置を付けたブルー水素でなければ時代にマッチしなくなります。早急に対応したい」と話す。水電解の技術開発と並行して、価格を抑えたブルー水素化に注力している。

足元の取り組みとしては、主力の小型オンサイト製造装置「HyGeia―A」の改良だ。水素STの利用実態に合わせ、DSS(日間起動停止)機能を開発中だ。製造時は都市ガスを900℃で水蒸気に改質するため、設備に負荷をかけない連続運転が基本だ。だが、FCVの普及はまだまだ道半ば。そんな状況に対応するのがDSSだ。「待機運転モードを搭載済みですが、STの運用実態に合わせて、運用コスト低減を目指し開発・改良しています」

供給網への参画模索 地産地消型の提案も

また、自社のCO2削減策として2月から、クレジットでオフセットしたCN都市ガスの採用を決めた。「当社の川崎製作所に導入しました。敷地内にはSTがあり、水素原料としても活用します」。年間約475tのCO2を削減する見込みで、「CNLNGバイヤーズアライアンス」にも加盟した。

水素サプライチェーンへの参画も課題だ。現在日本での大量貯蔵・輸送技術の二大潮流は、液化水素と、「SPERA水素」だ。千代田化工建設を中心に取り組む後者は、トルエンをキャリアとし、常温常圧で長距離・大量輸送が可能で、既存の石油インフラを利用可能なメリットがある。三菱化工機は、この中の脱水素装置を手掛けている実績を持つ。「つなぎではなく将来も有望なキャリア技術。サプライチェーンにどう参画するか、今後も検討する」と強調する。

地産地消型の事業提案も注力する。同社は福岡市で下水バイオガスを原料とした水素製造実証に参画した経験から、自治体向けに下水処理施設で製造した水素の地域利用を提案している。「バイオガス発電に目が行きがちですが、水素に加え都市ガス製造・導管注入、燃料電池への展開も訴求したい」

多様な切り口から水素の可能性を探る三菱化工機。市場のニーズに合致するタイミングで最適な製品を投入しようと挑戦する。

CN都市ガスを導入した川崎製作所のST

【特集2】輸送・産業分野のCN化支える 水素利活用の技術開発を推進


【東邦ガス】

自動車産業をはじめとするものづくりの企業が集積する東海エリア。東邦ガスは水素技術を磨きながら、輸送・産業分野でのCN化を支える。

これまでクリーンなエネルギーの都市ガス供給を通じて低炭素化に貢献してきた東邦ガス。2050年に向け「脱炭素化」の実現を目指すビジョンを打ち出しており、その中で水素利用について二つの柱を掲げている。一つは、同社知多緑浜工場を拠点とする水素サプライチェーンの構築だ。ここを拠点に天然ガス改質などで製造した水素を需要家へ供給したり、将来的には海外からの輸入水素の受入拠点化を目指すなど、中部地区の水素利用ニーズに応えていく構想だ。

また東邦ガスのほか、中部電力、岩谷産業、トヨタ自動車などを含めた17社が参画し、中部圏における水素の大規模利用の可能性を検討する「中部圏水素利用協議会」を通じて、中長期的な時間軸で水素社会の実現に取り組んでいく。

運輸・熱分野に水素利用 地産地消の環境価値

もう一つがモビリティや熱利用向け水素需要の創出だ。中部地区はモビリティ用途としての水素利用が進んでいることに加え、ものづくりを中心とした産業集積地であり、工場での環境意識は日に日に高まっている。そんなニーズに応えるため、水素利用拡大に向けた検証や技術開発を進めていく。そうした中、豊田市内で同社が運用する「豊田豊栄水素ステーション(ST)」の活用に新しい展開が見えてきた。ここは現地で都市ガスから水素を製造するオンサイト方式の水素STとして20年から運用を開始。燃料電池自動車(FCV)向けだけでなく、バスや小型トラック向けにも水素を充てんできる。

昨年から、ファミリーマートが実証で使用している配送トラックへの水素供給が始まった。しかも単なる水素ではなく、環境価値を付けて供給する。東邦ガス水素戦略のキーマンの一人である、技術研究所環境・新エネルギー技術の村松征直チーフはこう説明する。

「ここでは地産再エネを活用し、都市ガス由来のCО2フリー水素を供給しています。ST内で消費する電力では豊田市内の再エネ由来の環境価値を活用し、都市ガスでも中部圏内のJ-クレジットを使ってCO2をオフセットしています。地元の自治体に協力をいただき、社内の関係部署とも連携しながら築き上げたスキームです。ここで供給する水素は、愛知県独自の低炭素水素認証制度で認証を受けた環境価値のある水素です」。都市ガスと電気の両エネルギーに対し地元由来の環境価値を与えて、地産地消型のCO2フリー水素を供給する、興味深い取り組みだ。

地産地消の環境価値で運用する水素ステーション

また、「海」に目を向けても新しい動きがある。名古屋港を拠点とした水素利活用の拡大を検討していくため、東邦ガスや豊田通商など4社の取り組みがこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択された。フォークリフトなどの産業用車両や荷役機械への水素供給など、事業化を見据えた輸送分野で水素の利活用拡大に向け検討する。

名古屋港は、環境先進港である米国ロサンゼルス港と協力する覚書を締結済み。こうした取り組みを通じて、ロサンゼルス港でのノウハウも活用できる。

低コストで水素対応 最適な都市ガスとの混焼率

村松さんと共に東邦ガスの水素戦略を進めるもう一人のキーマンが業務用技術総括の山脇宏さんだ。山脇さんはこれまで、都市ガスと水素の混焼や都市ガスバーナの水素燃焼対応の開発に携わった経歴があり、まさに水素の熱利用分野の拡大を技術面で支えるエンジニアだ。そんな山脇さんが、ターゲットにしたのは450kW級のガスエンジンコージェネだ。ユーザーから水素混焼に関するニーズを聞き、コストを掛けずに最適な燃焼を実現することを目指した。

「水素は燃焼速度が速く、混焼すると異常燃焼が発生する恐れがあります。最悪の場合、設備が故障します。そこで定格出力維持を前提に、投入する空気との比率やタイミングなどを調整して最適な混焼率を探りました。結果、定格発電出力で35%の混焼率まで高めることができました」(山脇さん)

低出力下での混焼事例はこれまでも存在したが、定格運転での事例は、国内で初めてだ。しかも大幅な改造コストを必要としないメリットが期待できる。今後は、水素とガスの混合・供給方法の確立や、大幅な改造なしで制御可能な水素混焼率も見極めながら実用化を目指していく。

排ガス再循環部の部品交換 負担少なく水素バーナ化へ

山脇さんが水素利用拡大の一環で開発を進めるもう一つの設備が、工業炉バーナだ。昨年、東邦ガスは「シングルエンド・ラジアントチューブバーナ」と呼ばれる水素専焼に対応するバーナを開発した。水素は燃焼速度が速くなることに加えて、火炎温度が高いという特徴がある。例えば都市ガスバーナの燃焼温度が1200℃の場合、水素の燃焼温度は1400℃になり、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナ部品が劣化しやすいことが課題だった。そんなバーナに対して、ある解決策を見つけ出した。

「水素専焼バーナを作るのではなく、都市ガスバーナの一部である排ガス再循環の部品を変えるという発想です。排ガス再循環量を最適化することで都市ガス燃焼と同じNOX排出量にできます。これは、再循環構造部だけを脱着交換できるような仕組みで、バーナ本体の改造と比べて、10分の1程度のコストで水素専焼が可能になります」(山脇さん)

ものづくりの現場ではコージェネや工業炉は主力設備。そこから生まれる環境ニーズに、技術で応える東邦ガスの取り組みは、今後の脱炭素化モデルの理想的な産業構造の縮図である。

排ガス再循環の部品交換だけで水素化に対応する

【特集2】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開


【東京ガス】

東京・晴海地区再開発の目玉「水素エネルギー計画」を主導する東京ガス。水素パイプライン供給を国内で初めて商業化、2024年の運転開始を目指す。

東京五輪・パラリンピックが終了し、選手村のあった東京・晴海地区でも再開発が進んでいる。中でも水素供給事業を含むエネルギーインフラ計画には、各方面から大きな注目が集まっている。

この中核を担うのが東京ガスだ。大会期間中は選手村を走る燃料電池車やFCバスのPRに協力。大会終了後は選手村跡地に建つ大規模マンション群の地下に張り巡らされる水素パイプラインを整備する。

実用段階では日本初で、水素普及を見据えた脱炭素社会の先駆けとなる取り組みだ。将来的には再生可能エネルギー由来の電力を使って製造した水素を供給するなど、新しい街づくりへ環境、産業の両面で大きな効果が期待されている。

水素パイプライン敷設に 都市ガス事業のノウハウ

水素パイプラインの整備計画や運営を担当するのは、東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギー(川村俊雄社長)。東京ガスは事業者側の代表窓口として、水素ステーションを運営するENEOS、純水素型燃料電池の事業者3社との間で調整を受け持つことになった。延長約1㎞の水素パイプラインには、ガス事業法を適用することもあり、東京ガスの持つ都市ガス事業のノウハウを最大限に生かす形で進める。

水素を流すパイプラインには、工場や商業ビルで使う都市ガス用の中低圧供給パイプラインを使用。曲げ性能と耐震性能の高さが特長だ。しかし、水素には「脆化」という特定の金属をもろくする性質がある。

敷設する中低圧供給パイプライン

水素パイプラインには特殊な材料が必要との見方もある中、東京ガスエネルギー企画部エネルギー公共グループの福地文彦課長は「過去に日本ガス協会で試験を行い、今回水素を供給する条件下では、脆化が起きないことが実証された。パイプには実績のある安全な材料が使われる」と話す。

水道などライフラインの工事で水素パイプに傷がつく可能性も考慮して、パイプの上から防護鉄板を敷く対策を取った。その上に標識シートをかぶせることで注意喚起を十分に行うなど、損傷防止策に万全を期している。

水素パイプラインを保護するための対策

また、地震時における水素供給の緊急停止判断基準も厳格化した。東京ガスの都市ガス供給では各地区の想定被害に応じて60~90カインに設定しているが、東京・晴海地区の水素供給では60カインで供給を停止するように設定した。

水素の供給先は、住宅街や商業施設の5カ所に設置された純水素型燃料電池となる。そこから各家庭や施設に電力と熱を送る仕組みだ。燃料電池の排熱も利用し、共用部の給湯の予熱として使われる。

燃料電池はパナソニック製と東芝エネルギーシステムズ製の二つを採用した。パナソニック製は5kWモデルの発電効率が56%と非常に高く、貯湯ユニットで熱を利用でき、約1分で起動可能な点が評価された。同社の電池を6基連結して出力アップ、住宅街での運用を予定している。

設置するパナソニック製の純水素型燃料電池

東芝エネルギーシステムズ製は100kWの純水素型燃料電池を採用。昨年11月にトヨタ自動車本社工場(愛知県豊田市)で運転を開始するなど、多くの施設や工場で稼働実績があり、今回は商業施設で運用される。

純水素型燃料電池を2種 24年3月供給開始目指す

東京大会前の19年度に第1期工事が終了し、パイプライン全体の7割は敷設済みだ。残る3割の工事や燃料電池については、今年1月以降の第2期工事で設置する予定という。

晴海エコエネルギーがガス事業法に基づく小売り事業登録を完了してから供給開始を目指すため、実際の運用は24年3月ごろを予定している。福地課長は「大会終了後、ここからまた設備工事を行い、23年度の街開きまでに無事に供給を開始できるようにしたい」と意気込みを語った。

東京・晴海地区再開発のシンボルとなる水素計画。それを支える水素パイプラインは、文字通り地区の脱炭素化を進めていくための環境インフラだ。水素社会の実現を目指した東京五輪・パラリンピック後のレガシーとして新たな都市モデルとなるか注目される。

【特集2】液体水素の大量輸送時代が到来 供給網を構築した日本の技術力


石炭をガス化し、液体水素に仕上げて豪州から輸送する世界初の取り組みが始まった。ガス化技術や大量水素の船舶輸送技術などは、まさに日本の技術の英知である。

【司会】柏木孝夫/東京工業大学特命教授

【出席者】笹津浩司/電源開発取締役常務執行役員原田英一/川崎重工業常務執行役員水素戦略本部長

柏木孝夫東工大特命教授(左)、笹津浩司電源開発取締役常務(中)、原田英一川崎重工業常務(右)

柏木 第六次エネルギー基本計画に発電用燃料として、水素・アンモニアを1%利用と明記され、また国の2兆円のグリーンイノベーション基金で3700億円が水素向けとなりました。水素を取り巻く環境は重要な局面を迎えています。水素を切り口にした取り組み、加えて両社が協力した豪州からの液体水素調達について、その経緯などを教えてください。

笹津 当社は「J-POWER ”BLUE MISSION 2050”」を昨年2月に発表しました。CO2フリー発電の水力、風力、地熱、原子力を従来以上に加速度的に開発し、加えて水素をキーワードにCO2フリー水素発電の取り組みを打ち出しました。水素は単体では自然界にほとんど存在しません。そのため水電解、あるいはCO2の安定的な処理・利用を前提とした化石資源を改質して作る必要があります。

そのトランジション期では、まずは既設火力へ、長年培ってきた当社技術を導入します。「GENESISコア技術」と呼んでいますが、石炭のガス化・ガス精製、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)を適用し、将来はCO2フリー水素発電を成し遂げる計画です。

原田 当社も「グループビジョン2030」を発表し、環境エネルギー分野では水素やカーボンニュートラル(CN)を推進していきます。振り返ると2009年、政府は、50年に90年比で温暖化ガス80%削減を打ち出しました。当時、当社はLNG船や基地、中小型のガスタービン(GT)などLNGが中心でしたが、今後もこの製品群のままか議論した時、生まれた構想が水素チェーンでした。

水素は液体時にはLNG同様に極低温で、既存のLNG技術やインフラの一部を活用できます。ただ、大量の海上輸送技術がなかったため、この領域に挑戦しました。

LNG発電設備の経験から発電費に占める発電設備アセットはわずかで、大部分が産ガス国に渡る燃料費です。仮に水素に取り組むならばチェーン全域に関わろうと考えました。

まず全体のコンセプトを描き、技術を開発していきました。その際、自前技術にこだわることなく、例えば「石炭をガス化」する工程は、IGCC(石炭ガス化複合発電)実証で技術力のあるJパワーさんに協力をいただきました。また、水素は最終的にサスティナブルな資源になり得るわけですが、その水素源を考えたときに、非常に安価に調達できる豪州の褐炭に注目し、これならば液化して日本へ運べると考えたわけです。

豪州の安価な褐炭に注目 石炭をガス化し液化する

笹津 当社は豪州と親和性があります。日本にとって初めて海外炭となる豪州炭を導入したのは当社でして、もう40年近い歴史になります。また豪州大手オリジン・エナジーと組んでタスマニアでグリーン水素製造の検討を始めるなど、なじみのあるエリアです。そうした中で、褐炭資源を重要な水素源と位置付け、埋蔵量の多いビクトリア州で取り組みました。同州に、褐炭をガス化して水素製造する設備を作りました。小型ですが十分な性能を確認できました。また、バイオマスを約30%混ぜた水素製造も確認しました。

褐炭からガス化する豪州のプラント(「HySTRA, J-POWER / J-POWER Latrobe Valley)

原田 その水素を少し離れた場所まで運び、そこに当社と岩谷産業さんが液化・荷揚げ装置を作りました。1月末に水素をチャージし、液化した水素を船に積んで日本へ運んだわけです。これは液体水素でチェーンをつなぐという世界初の取り組みです。

また、10年以上も前に、ゼロからのスタートで豪州政府との交渉にあたり、長い時間をかけて政府との信頼関係を築いてきました。また本件は、日本、豪州に加えて、ビクトリア州から資金的な援助をいただいており、本当に感謝しています。

笹津 水素製造面でもレギュレーションなどが未整備だったため、政府支援があって進められました。ただ今後は製造した水素を活用するために、われわれの取り組みが国際的に認証されないと、事業化の見通しは立てられません。われわれは「死の谷」は越えたと思っていて、次は「ダーウィンの海」、つまり本格商用化の難しさの局面に来ていると感じています。

柏木 目指す供給価格は。

原田 今回の船体は小さく、船長は100mちょっとです。目指すは300mですので、現状は124分の1の大きさです。これだと運ぶだけで1N?当たり80円から90円で、経済性を確保できません。ところが124倍だと、船価は10倍にもなりません。また天然ガス価格のように大きく変動しませんので、30年にフルスケールを開発し、輸送費を2・5円、トータルの供給費30円を目指します。

専用船によって大量の液体水素を運搬する

笹津 大崎クールジェンのプラントは日量1200tの石炭を使ってIGCCを実証運用しています。これを水素製造として換算すると年間5万t。一方、政府目標は30年で300万tです。そのうち200万tはいわゆる副生水素などと言われているので、真水では100万tです。言い換えれば、大崎クールジェンのユニット20基分で充分達成できてしまいます。

さて話を豪州に移しますと、今後の事業化する場合には国内水素利用だけでなく、豪州域内での利用先もセットで考えていくことが必要です。その際のアイデアがあります。ビクトリア州は面白い場所で、褐炭だけでなく海側に天然ガス田が存在します。実はここからガスパイプ動脈が走っていまして、ここに10~20%の水素を混ぜることができるのです。商用化フェーズを見据えるにあたり、ある程度の事業性を見通すことができます。

動き出すCCSでネガエミ 航空・船舶と広がる用途先

原田 豪州に関して一つ重要なポイントがあります。それはCO2ストレージです。褐炭という安価な資源が存在するだけでなく、CCS(CO2の回収・貯留)ができる非常に恵まれた土地があって、政府はカーボンネットとなるCCSのプロジェクトを推進しています。これは一つの発電所からだけでなく、各エリアから運んだCO2を埋める。加えて最近、日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が本件への参画を決めるなど、豪州のCCSを巡る動きが活発化しています。

柏木 CCSについてはレギュレーションが決まっていません。米国や豪州、インドなどと連携しASEAN10ヵ国を取り込み、日本主導の制度整備が必要です。さて今後の展望や描いているシナリオを聞かせください。

笹津 「GENESIS松島」計画を進めています。稼働から約40年の松島火力にガス化システムを追設します。発電効率が上がり、さらに負荷変化率は1分間で10数%と、非常に機動性に優れたプラントになります。これは何を意味するか。再エネ大量時代では、需給調整の機能が極めて重要ですが、その調整電源としての役割を果たすわけです。

次に、既設ボイラにはアンモニア混焼など、また追設ガス化炉にはバイオマス混合ガス化を適用し、低CO2化を目指します。最後に小規模CCSを敷設すればほぼゼロエミッションできますし、大規模CCSになれば、ネガティブエミッションも実現します。

さて、ゼロエミに向け電力部門では厳しい道のりですが、取り組むターゲットが明確になりつつあります。一方、産業・輸送、民生分野の非電力部門では、電化が困難な分野もあり、完全なゼロエミは難しい状況です。そこで、ネガティブにする技術が必要です。その意味で当社技術が貢献できると思っています。

海外では化石資源を水素転換し、運んで発電燃料などに使う。石炭とバイオマス混合ガス化+CCUSによるネガエミ技術を環太平洋圏で展開するシナリオを考えています。

原田 水素の消費先を確保することが重要で、例えば小規模ですが神戸のポートアイランドで水素専焼のGTコージェネを18年から運転しています。水素は燃焼スピードが速いですが、その辺の技術については問題なく運転しています。これを例にすると、当社では多様な熱需要向けに小型から数万kW級の機種を数多く納めています。これらは、燃焼器を変えるだけで水素転換できます。ですので、まず天然ガスで運転し、安価な水素になればGTはそのまま、燃焼器のみを交換し水素発電できます。

さらに、CN宣言後は用途先の候補は広がっています。航空機や舶用、発電用エンジン、最近ではモーターサイクル向けの話が出ていて、大量の水素が必要になります。当社1社だけでは対応できませんので、今仲間づくりを進めているところです。

また、当社の事業活動で排出されるCO2対策は当社自らが先行して水素発電を導入したり、あるいは再エネと省エネを組み合わせたり、それでも排出するCO2は回収・利用する。30年までにそんなモデルケースを実現し提案したいです。

水素版FITと引き取り保証 予見性高めた制度導入を

柏木 専門企業の立場で、政策的な要望などをお話しください。

笹津 3点あります。当社が関与する水素製造パイロットプラントは成功裏に終わりましたが、事業開発はこれからで、ダーウィンの海を越えるためにどうしても支援が必要です。

 二つ目がCCSです。当社の再エネ設備からのグリーン水素製造はもちろんできますが、大量・安定的に、かつ安価に供給するにはブルー水素が重要です。そうなるとCCUSがマストですが、Uに大きく頼れないので、Sを進めないといけません。ですので国内外を含めたCCS推進に関する事業環境を政策的に整備していただく必要があります。これは民間企業だけでは不可能です。

 それから三つ目です。黎明期のLNG同様、サプライチェーンが発展途上で脆弱な間は、各パートで十分な効率性が担保されないので、結局、水素価格は高いわけです。それを使うための何らかの予見性がないと、事業化は難しい。価格緩和するような制度設計がポイントです。

原田 「エンジンが悪いのではない。悪いのはCO2」というトヨタさんの言葉を借ると、悪いのは石炭ではなくてCO2です。内燃エンジンに携わる方々、化石資源の方々。こうした産業界が、順を追ってトランジションできる仕組みが必要です。どうしても欧州の制度設計の動きは速く、最近では貿易時に、製品製造時のCO2をカウントする国境炭素税を言い出しています。こうした主張に押し切られるのではなく、日本は自国の事情を踏まえた独自の主張を世界へ発信すべきです。

 それから、昨今の国内エネルギー情勢を見渡したとき、太陽光パネルや風力発電設備は中国や欧米勢が中心です。一方、水素は日本が主導できる技術領域です。例えば極低温の液体水素を運ぶ断熱技術。これは100℃のお湯を入れ1ヵ月後も1℃しか下がりません。これはLNGタンクの10倍の性能で、こうした技術をリーズナブルに提供できます。機器の多くを日本企業が提供すれば、自ずと国内に資金が還流します。

 そして今後CNを進める際の負担です。大量のCO2を排出する産業だけが背負うべき負担なのでしょうか。やはり国全体で広く薄く負担する仕組みを作っていただきたいと思います。日本には資源がなく、貿易で外貨を稼ぎ、それで資源を獲得している国ですので、輸出競争力を失わないように進めるべきです。

柏木 CO2フリー水素発電費を市場連動価格買い取り制度(FIP)にする発想もあります。

笹津 発電事業者の電気に限ればそうですね。また妥当性のある燃料価格にするには引き取り保証が良い方策で、自ずと上流投資は進みます。

原田 そうした仕組みは予見性を高め、リスクの高い初期には導入を進め価格を下げられます。期待収益率が低くても事業に着手できるからです。日本の技術投資も進みます。

柏木 いざという時、再エネは力になりませんが、長期間貯蔵できる水素は万が一の時でも発電用にも使えます。これはセキュリティ対策にもなり、広く薄く負担する総括原価で水素を支える仕組みがあってもいいと思います。国情に応じたエネルギーミックスをどう考えるかが国の英知です。本日はありがとうございました。

かしわぎ・たかお  1970年東京工業大工学部卒。79年博士号取得。東京農工大大学院教授、東工大総合研究院教授などを経て、12年から同大特命教授・名誉教授。政府のエネルギー関係の審議会委員。

ささつ・ひろし  1986年筑波大大学院環境科学研究科修了、電源開発入社。2003年技術開発センター水素・エネルギー供給グループリーダー、16年執行役員技術開発部長などを経て20年取締役常務執行役員。

はらだ・えいいち  1981年慶応大工学部卒、川崎重工業入社。2004年技術開発本部技術研究所熱技術研究部長、15年執行役員技術開発本部副本部長などを経て21年常務執行役員水素戦略本部長。