福島 伸享/元衆議院議員
9月16日菅政権が発足し、その前日には「新・立憲民主党」の結党大会が開かれた。菅新総理のエネルギー政策に対する方針は現在のところ明確ではないが、前政権から続投した梶山経済産業大臣に対して、「脱炭素化社会実現のための短期及び中長期のエネルギー政策の推進」という指示が出されたことから、何らかの大きな政策の推進がなされることになるだろう。現にエネルギー業界出身の梶山大臣自身からも、エネルギー政策の大きな展開に力を入れようとする姿勢がみられる。一方、立憲民主党の枝野代表は、「自然エネルギー立国」の旗印を一丁目一番地の政策として高々と掲げている。
第二次安倍政権の7年8ヶ月の間は、官邸の中枢にエネルギー政策に精通する官邸官僚がいたにもかかわらず、原子力政策をはじめとするエネルギー政策には大きな力を入れてこなかった。支持率を下げる要因にもなりうるとして、逃げ続けてきたとも言われている。拙著『エネルギー政策は国家なり』でも「実は「脱原発」の安倍政権」という項を立てて、政治の不作為によるエネルギー政策への損失について論じさせていただいているので、ご参照いただければ幸いである。
さて、新政権が発足して、政権・与党の「脱炭素化社会の実現」と枝野代表の「自然エネルギー立国」という議論の土俵は整った。これから骨太な政策論争が展開されることを期待したい。その際、大事なのは当然キャッチフレーズではなく、具体的な政策の中身である。梶山経済産業大臣は、前内閣の時から非効率石炭火力のフェードアウトと再エネ主力電源化を掲げ、第6次エネルギー基本計画の策定に向けて意欲を示しているが、再稼働が滞っている原子力をどうするのか、という議論から逃げることはできない。
9月号の『エネルギーフォーラム』誌のインタビューでは、「(原発再稼働の)理解を得るために当然、国は努力しなければいけません」と語っているが、単に精神論を言っても政策は何も進まないだろう。もんじゅが廃炉される中で、核燃料サイクル路線をどのようにしていくのか、メーカーから電力会社も含めた原子力産業の担い手を発送電分離が実現した新しいエネルギー産業構造の中でどのようにしていくのか、そしてそこにどのように国が関与をし、どのような制度を構築していくのか。このような具体的な原子力政策のリストラクチャリングを行わなければ、国民の本質的な理解や納得が得られることはないだろう。
野党側についても、「原発ゼロ基本法案」程度の政策では、広く国民の支持を得られることはないだろう。現在国会に提出されている法案は、原発ゼロという理念を法律で掲げた上で、その実現の具体的方策はお役所に任せましょうという内容の法案だ。いくら法律で原発ゼロを掲げても、具体的な方策の一切を政府に委ねているのでは、かつての民主党政権時の八ッ場ダムの廃止と同じ結果になることは容易に一般の国民にも想定できるだろう。ましてや、その時のメンバーと同じような人たちが訴えているのだから。実際の政策転換に伴うさまざまな問題点や損失に対して具体的な対応を示せない政策は、キャッチフレーズであって政策とは言えない。 政権・与党、野党ともに、まだ新しい体制が始まったばかりだ。エネルギー政策論議が低調だった第二次安倍政権の7年8ヶ月の時間の遅れを取り戻すような、具体的でワクワクするような政策議論が与野党の間で展開されることを、心から期待したい。
【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。