【マーケット情報/8月7日】欧米下落、経済停滞で需要後退の観測強まる


【アーガスメディア=週間原油概況】

国際エネルギー機関(IEA)が、世界各国で経済回復が遅れていることを背景に、今年の石油需要予測を下方修正。また、OPECは、今年の需要予測に下方修正を加える一方、非加盟国の生産量予測を上方修正した。他方、米国の7月経済指標は、再度の経済活動自粛を受けて悪化。石油需要後退への懸念が強まり、欧米先物価格に下方圧力を加えた。

ただ、米国の週間在庫統計は減少。同国の石油ガスサービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内の石油ガス採掘リグ稼働数も減少し、過去15年で最低を記録した。さらに、米エネルギー情報局(EIA)が、今年の国内生産量予測に下方修正を加えたが、欧米先物を支えるには至らなかった。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週比で上昇。サウジ・アラムコが、経済活動の再開にともない、今年後半は石油需要が回復するとの見方を示した。加えて、サウジアラビアでは、新規の製油所が稼働開始。中国でも、新たな製油所が試運転を開始しており、需要回復への期待感が、より強く上方圧力として働いた。

【8月7日現在の原油相場(原油価格($/bl))】
WTI先物(NYMEX)=41.22ドル(前週比0.79ドル安)、ブレント先物(ICE)=44.40ドル(前週比0.40ドル安)、オマーン先物(DME)=44.01ドル(前週比0.27ドル高)、ドバイ現物(Argus)=43.68ドル(前週比0.56ドル高)

【火力】油断は禁物 予備力の確保


【業界スクランブル】

2020年は、「パリ協定」や発送電分離が実施段階となり、エネルギー分野にとって節目の年である。しかし言わずもがなであるが、今年の上半期は、コロナ禍への対応一色となってしまった。

エネルギー問題に対する議論が一時的に滞るのはやむを得ないとしても、コロナ禍のあまりの脅威を目の当たりにして、「新しい生活様式」とか、ポストコロナへの変革といったイメージ先行で、大げさな(大衆受けしそうな)キーワードばかりが目に付くことが気に掛かる。上っ面ばかりに気を取られ、議論があらぬ方向へすっ飛んでしまうことはないのだろうか。懸念している。

一方足元では、次のような問題が顕在化しているとのことだ。つい先日までコロナ対応の病床不足による医療崩壊が叫ばれていたが、患者数の減少を受け、一転して空き病床が病院の経営を圧迫しているというのだ。この問題は電力の予備力の話に似ている。病床が不足すれば、たちまち医療崩壊を引き起こし、予備力が無くなれば停電となる。また両方とも、余れば途端に経営が成り立たなくなってしまう。わずかのずれが深刻な結果を招いてしまう上に、状況変化が極めて急激である点など、相互に参考にすべきことが多いのではなかろうか。

そうこう考えていたら、「石炭火力9割休廃止」というニュースが飛び込んできた。「再エネ重視へ転換」との見出しもあるが、出力が天候に左右される再エネの拡大を阻んでいる最大の要因は、その変動を補うための予備力・調整力が不足することであり、やみくもに火力を停止すれば、かえって再エネ拡大にも影を落とすことになる。送配電を強化すればカバーできるとの話もあるが、コロナ禍でいえば病床不足をオンライン診療ですべて補おうとするようなもので、実際には極めて困難である。 コロナ禍を機にグリーンリカバリーを目指すのもよいだろうが、心地よいビジョンを追うばかりでは、現実が立ち行かなくなってしまうだろう。(Z)

【石炭】日食への対応 火力で備えを


【業界スクランブル】

日本時間の6月21日午後に日食があった。日本では、夕方の時間帯に全国で部分日食を見ることができた。今回の日食は、アフリカから東欧、アラビア半島・ロシア南部、アジアほぼ全域、豪州北部とオセアニア北部で見ることができ、アフリカ東部からアラビア半島南部、パキスタン・インド北部、中国(チベット・四川・福建・台湾)を通ってグアム沖までの帯状の地域では金環日食となった。皆既日食中は、太陽光パネルは発電しないから、火力発電などで補給しないと停電となって大変なことになる。世界のどこでも停電になったということが報告されていないので、用意がうまく、補てんできたのだろう。

この予備の電力を準備しておくのが容量市場だ。先行例は2015年3月20日にドイツで起きた。この日は天気が良く太陽光発電も順調だった。9時半に日食が始まり、11時前に日食のピークが来て12時に終了。太陽光による発電量は、日食が進むにつれ1200万kW激減し、その後12時頃、1900万kW回復した。欧州の電気事業への影響として、揚水発電が急稼働し、ドイツからの電力輸出量が大きく減った。従来型の化石燃料などによる発電量はほとんど変わっていない。結果、容量メカニズムがうまく機能して停電には至らなかった。何億年も前の太陽光を缶詰した化石燃料が貯蓄のごとく払い出され、現在の太陽光発電停止分を補てんした。

日食の発生は、22年までに現在の太陽光発電を1億kWに引き上げるとしているインドにあっては一大事である。皆既日食は滅多に起きないが、インドの配電網のオペレーターは、このイベントが起こる時に全国の電力網に降りかかる、突然の停電に備えていた。スイッチが切替わるまでのほんのわずかな時間での柔軟な対応、9分の停電の間に配電網管理の偉業をやり遂げねばならないと、国有パワーシステム操作株式会社はモディ首相に言われたそうである。日食は今回のコロナ禍や巨大サイクロンやサイバー攻撃同様、備えておくべきインパクトであった。(T)

【省エネ】故片倉氏の魅力 大所高所の視点


【業界スクランブル/省エネ】

日本の省エネ進展に大きく貢献した、元東京電力の片倉百樹氏が78歳で亡くなられた。2012年に「ジェイテム」を起業する前までは東京電力の執行役員を務め、在職中は一貫してエネルギー営業部門に従事し、家庭・都市・産業などのあらゆる分野の省エネ推進活動に貢献してきた。

片倉氏は同分野の長い職歴から幅広い人脈を持ち、持ち前の行動力で電力業界の省エネ活動をけん引してきた。「東京電力が日本の省エネをけん引すべき」という、社会貢献の強い意志を持っていた。こうした動きがライバル業界であるガス業界や石油業界の需要側省エネ活動を促進させたことは紛れもない事実であり、結果さまざまな省エネ機器開発・普及活動が積極的に行われた。他国と異なり、エネルギー事業者が自主的に積極的な省エネ活動を行う、日本独自の状況が実現したわけだ。また、ヒートポンプ・蓄熱センターや日本エレクトロヒートセンターなどの省エネ活動をけん引し、大所高所からの困難なアイデアを実現させた。日本冷凍空調学会の会長も務め、国際活動も含めて冷凍空調業界の発展に大きく貢献した。

外野から見ていてよく思ったことがある。片倉氏はよく笑う、人間的に魅力的な方だった。この笑顔のために、部下も片倉氏の理想実現のために努力を惜しまないのだろうし、巻き込まれた他企業の人も協力を惜しまない状況が作り出されたようにも感じる。地道かつ継続的な努力が要求される日本の省エネ進展のためには、民間企業側に社会的責任として「限りある資源の節約・温暖化対策」にも経営資源を投入すべきという高い志を持つ人物が必要で、その志が伝播し広がるためには当該人物の人間性が重要となる。 突然の訃報に驚くばかりだが、氏がけん引した「単一エネルギー供給を主体とする企業群による省エネ推進」の時代が終わったような感慨がある。大所高所からエネルギー事業者の省エネ活動を考え、導いてきた片倉氏の逝去を、外野に身を置く立場ではあるが、心から悼みたい。(R)

都市ガス子会社を導管分離 ニチガスの狙いは


日本瓦斯(ニチガス、和田眞治社長)が都市ガス子会社の再編に乗り出す。まずは今秋、埼玉県内の東彩ガスと新日本ガスの2社を合併させ、その後両社の導管部門と小売り部門を切り離すアンバンドリングを実施する。 「(ニチガスは)大手都市ガスに課せられているような法的分離の対象企業ではない。なぜ実施するのか」―。2022年度の〝大手分離〟に先駆けることに対して業界では波紋が広がっている。

 同社はガスメーター利用を高度化し、需給管理と配送合理化を実装するLPガスのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に相当の自信があるのだろう。 ある業界関係者は「都市ガスとLPガスでは、もちろん事業形態は異なるが、自社のDX技術の一部を都市ガス会社へと水平展開することで託送コストの削減につなげる。結果的に自らの導管利用者を募り、託送運用のプラットフォーマーとしての地位を築く考えなのだろう」と分析する。

果たして、業界内外から支持される「公益的」な託送プラットフォームが実現するのか。今後の動きに要注目だ。

改造終えたLNG基地 遠隔システムで安定供給に貢献


【広島ガス】

広島ガスではLNG基地の中核設備を改造した。新たな制御システムを導入して、コロナ禍の安定稼働を支えている。広島ガスではLNG基地の中核設備を改造した。新たな制御システムを導入して、コロナ禍の安定稼働を支えている。

スマートエネルギーの構築やコージェネを導入して需要側のBCPを担保するなど、有事においても安定的にエネルギーを供給し続ける分散型のエネルギー事業者。一方、LNG基地に代表される供給側のエネルギー設備の運用はどうなっているのか。

瀬戸内の穏やかな海に面して立地する広島ガス・廿日市工場。8万5000kℓのLNGタンクを2基備え、4年前には大型LNG船(17万7000kℓ型)が着桟できるように増築工事を行った中規模基地である。

瀬戸内海に面する廿日市工場の全景

経年化を背景に設備改造 新システムで遠隔制御

この廿日市工場では、2年ほど前に設備の経年化を理由に、大型ガスエンジン(5500kW×2基)の改造工事を行った。ガスエンジンは所内の動力を賄うほか、電力の外販向けに稼働するなど、DSS運転を行いながら、基地運用の中核設備の一角を担うものである。

「改造によって、従前に比べて発電効率を3%向上させ、ガス消費量を7%削減するなど、効率的な運用に大きく貢献しています」と廿日市工場製造グループの北木興一マネジャーは話す。

改造では、継続使用が可能な部品や機器を最大限に利用し、経年劣化の兆候がある部品をあらかじめ交換。将来のトラブルの発生リスクを軽減するなどの運用や工事の面でさまざまな工夫を実施した。要所を改造することで、初期投資を大きく抑制した。

同時に最新鋭の技術を取り込み最大限の効率を発揮させることに成功した。こうした取り組みが評価され、2019年度のコージェネ大賞(理事長賞)を、エンジニアリングを手掛けた日鉄エンジニアリング、ガスエンジンメーカーの三菱重工エンジン&ターボチャージャとともに受賞した。

加えて、ユニークな取り組みとして注目すべき点がある。北木マネジャーによると、「ガスエンジン用燃料として、都市ガスをそのまま利用する方式とBOG(ボイルオフガス)を有効利用するデュアル燃料方式を採用している。また、熱調用のLPガス価格を加味しながら全体最適になるように運用している」(北木マネジャー)という。

さらに今回の改造に合わせて、「DIASYS Netmation」と呼ばれる最新の運転制御システムへと変更した。ガスエンジンメーカー側で、日々の細かな運転データをクラウド上で管理し解析することで設備の保守管理を遠隔に行う仕組みである。

結果的に、こうした取り組みは、基地内へ必要以上に人員が出入りすることを減らすことにもつながっているという。これはすなわち、コロナ禍における安全・安定運用の手助けにもなっているといえるだろう。

ガスエンジンを改造して発電効率を向上させた

【石炭】コロナ終息後の新常態 勝者の条件は


【業界スクランブル/石炭】

パンデミック、ロックダウン、ステイホーム、ソーシャル・ディスタンスといったカタカナ語があふれる紙面にあって、「新常態」という漢語が目立つようになってきた。新型コロナウイルス感染の終息後に訪れるであろう、現在とは全く異なる常態予想を指すようだ。

世界中の多くの人たちが、自宅待機を余儀なくされた。先進国も、途上国も、北半球でも南半球でも、国や地域の区別なくソーシャル・ディスタンス確保のために移動を控え、接触を控え、狭い自宅(そうでない人もいるかもしれないが)にこもる生活が続いた。今まで当たり前だと思っていた仕事や生活様式などの前提条件が通用しなくなり、全く新しい常識=ニューノーマルに適応しなければならない、という議論をよく目にするようになってきた。

それでは本題に入る。コロナ後の新常態において、石炭はどのようになっているであろうか。まず、2040年にあっても石炭利用はアジア地区ではなくなるまい。世界全体の経済活動の低下に伴い需要は低迷し、価格もリーズナブルになっていよう。

また、各国とも自国資金保持のため、輸入で資源を確保するというよりも各国の国産炭の利用に傾くだろう。幸い、石炭鉱山をはじめとするバリューチェーンには異常はなく、各国の電力供給の運用に支障はなかった。

先が見通せない状況では、先物取引はリスキーなのでスポット取引が多くなろう。コロナ禍以前からある化石燃料安の傾向は続き、今まで以上に中国・インド事情が価格に影響しそうだが、全体的に石炭の高値にはならないであろう。

コロナ禍の影響を脱するには、数年という長い期間が必要であり、コロナの直接影響とは言い切れない要因によって、新常態へと移行する可能性が高い。そのときには、いまの「当たり前」が、当たり前でなくなっている可能性がある。それを見通せたものが勝者となっていよう。(T)

【火力】コロナ禍の安定供給 関係者の陰の努力


【業界スクランブル/火力】

新型コロナウイルスの感染の広がりは、1カ月半にわたる緊急事態宣言を経て小康状態となっている。現段階では、これまでの各施策の評価が定まっているわけではないが、ここまでの日本の対応と結果は、諸外国と比較してかなり高く評価されてもよいのではないかと思う。

さまざまな成功要因がある中で、エネルギー、特に電力の安定供給に懸念が生じなかった点は、もっと注目されるべきだと思っている。ステイホームで自宅での調理を増やすにしても、テレワークによる自宅でのウェブ会議を行うにしても、物流や情報通信と同様に電力が下支えすることが大前提となっており、そこへの懸念がなかったことは大きなプラスとなった。

コロナ禍は、地震や台風などと異なり発電設備がダメージを受けることはなく、電力不足など起こるはずがないと思われがちだ。だが実際には、発電事業を継続する上で以下の二つの視点が大きな課題であり、再流行へ備える上でも十分考慮される必要がある。

一つ目は、発電所を運用・保守する上で必要となる人員の確保であり、もう一つは、燃料輸入の安定的継続である。発電所の人員確保については、以前MERS(中東呼吸器症候群)の感染が話題になった時に策定した対応策が功を奏した形だが、定期点検など大型工事については、3密を避けること、および県をまたぐ人の移動を抑制する観点から繰り延べを余儀なくされるケースもあった。このため、発電所の安定運用の継続のためには、運転員に加え日常点検・保守を念入りに行うための現場力がより重要であり、これらは一朝一夕でテレワークに置き換えられないことを理解しておく必要があろう。

もう一点の燃料調達については、わが国の電力の8割はいまだ火力発電であり、その燃料は100%輸入に頼っている。入国制限で訪日客が99.9%減となる中にあって、燃料のサプライチェーンを途切れさせなかった関係者の努力は、もっともっと評価されるべきであろう。(Z)

【省エネ】消費エネを削減 テレワークの意義


【業界スクランブル/省エネ】

新型コロナウイルスの感染拡大対策として、さまざまな企業でテレワークが実施された。テレワークで通勤の時間と消費エネルギーが削減されたことになるが、旅客運輸部門の国内エネルギー消費量は2018年度実績で約1800PJ(原油換算約5000万kℓ)と大きく、この一部でも削減できれば大きな省エネ効果を達成できる。

当然、CO2排出量の点でも、自家用自動車で9700万t、鉄道830万t、航空1000万tと大きな排出量である。なお、輸送量当たりのCO2排出量の目安は、1㎞当たり乗用車133g、航空96g、バス54g、鉄道18g――となる。つまり、地方勤務者(自家用車で通勤し、営業車で移動など)がテレワークを実施し、ウェブ会議を活用することが、最も削減量が大きくなる。当然、都市部勤務者は人数も多く、遠距離通勤者も多いことから、削減量合計では都市部の方が大きい。

また、外出制限によるテレワーク強化は海外も同様である。いまは海外への渡航も難しいことから、海外とのウェブでの打ち合わせの機会が増加している。実際、対面と変わらない打ち合わせを実現できるので、時間とエネルギーを使って海外出張に行く必要性が減少している。

また、英語字幕の自動作成機能もあり、日本語対応がリリースされれば議事録作成業務が不要となり、対面会議より便利な面もある(ただ、時差による効率性を考慮する必要がある)。

テレワーク強化はオリンピックの都内交通混雑緩和のための取り組みにもなるが、ペーパーレス化、クラウド化の推進と同義であるため、企業のBCPにも貢献する。次のウイルス流行に対する事業継続対策は当然だが、災害などにより事務所が機能停止しても、すぐに別の事務所や自宅でフォローができるため、物理的な事務所停止に対するレジリエンスも強化される。

今年は政府の地球温暖化対策計画の見直しが予定されているが、テレワーク推進強化というのも温暖化対策の一つとして盛り込むべきだろう。(R)