【嘉田由紀子参議院議員】近いエネルギーの活用を


学生時代に琵琶湖と滋賀県の魅力に惹かれ、水環境の研究者から県知事に挑戦した嘉田氏。
再エネを中心とした分散型社会の構築を目指し、県政で培った経験を国政に展開する。

学生時代に琵琶湖と滋賀県の魅力に惹かれ、水環境の研究者から県知事に挑戦した嘉田氏。

再エネを中心とした分散型社会の構築を目指し、県政で培った経験を国政に展開する。

元滋賀県知事としても全国区の知名度を誇るが、実は埼玉県出身。滋賀県との関わりは、修学旅行で比叡山延暦寺や琵琶湖を訪れたことがきっかけで、「琵琶湖とそれをとりまく滋賀の魅力に惹かれました」と振り返る。

埼玉県内の女子高を卒業後は、実家が農家だったこともあり、延暦寺のお膝元・京都大学農学部に進学。高校時代に文化人類学者・梅棹忠夫の『サバンナの記録』、今西錦司の『人類の誕生』などを読み、アフリカへの憧れを育て、当時は女人禁制だった探検部に入部。3回生の時にはアフリカで半年間フィールドワークをし、水や環境の大切さを学んだ。その後京大大学院農学研究科に進学、結婚後米国のウィスコンシン大学大学院に留学した。

留学中は、アフリカやアジアの開発問題や水環境問題を学ぶ。そこで長男を授かった。指導教官の「水や環境問題なら日本が最適」との助言により琵琶湖研究と出会う。

帰国後は京都大学大学院に戻り、子ども二人を育てながら、1981年に博士課程を修了し、滋賀県琵琶湖研究所(現・滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)に研究員として採用される。研究所では琵琶湖周辺の農村の暮らしと水との関わりや、水質汚染に悩まされていた琵琶湖流域に生息するホタルや魚の生態系を守る住民による調査活動に30年近く従事。県立琵琶湖博物館の企画・設立に携わり、同館を拠点に海外との比較研究も進めた。

政治家への道を決心したのは、日本の地域の未来に対して三つの政策転換が必要と判断し、それを滋賀県から実現したいと考えたからだ。「税金の無駄遣い、もったいない」「琵琶湖の環境、壊したらもったいない」「子ども・子育てしないのはもったいない」を訴えて、2006年に滋賀県知事選に挑戦。現職を破り、全国で5人目の女性知事として県政のかじを握った。知事を2期8年勤めたのち、14年には地域政党の「チームしが」を結成。びわこ成蹊スポーツ大学学長を経て、19年には参院選に立候補し、当選を果たした。

知事時代にUPZ問題に直面 近いエネルギーの有効活用を

エネルギー政策は、再生可能エネルギーを主力とした分散型社会への早期転換を推進した。きっかけは、福島第一原子力発電所の事故。滋賀県の北部地域は、敦賀原発、美浜原発、大飯原発のUPZ(緊急時予防的防護措置準備区域)に含まれている。福島原発事故後に、UPZの問題が全国的に取り上げられるようになったため、滋賀県も原発事故時に想定される放射線影響を表したSPEEDIのデータ開示を政府に要望。しかし「立地自治体ではない」と拒否されたことから、滋賀県独自に放射性物質の拡散シミュレーションを実施。大気汚染、水汚染、生態系破壊への予測を行い、避難体制などを整備してきた。

県知事時代の12年には、県庁職員とともに再エネ政策に注力していたドイツへの視察を実施。地域に根付く風力発電や太陽光発電などの分散型エネルギーの活用実践を目にして、深い感銘を受けた。翌13年には太陽光、風力、小水力など再エネ電源を、県内の地域特性に合わせて普及させるべく各種施策を盛り込んだ「滋賀県再生可能エネルギー振興戦略プラン」を策定した。現在も後継の三日月大造知事のもと「しがエネルギービジョン」を制定。新しいエネルギー社会と2050年CO2半減の実現に向け、まい進する。

「私が大事にするのは、遠くにあるエネルギーより、近いエネルギーを活用すること。地元にある資源を電源として活用するよう投資することで、地域で経済も循環し雇用も確保できる。昔は耕作放棄田への太陽光パネル設置は農地転用として禁じられていたが、今は違う。農作物は成長に必要な日照量が異なるため、発電しながら農業を続けるソーラーシェアリングという方法もある。AIやIoT技術の進歩もあり、自然エネルギーをさまざまな産業が交差して活用できる。災害時のエネルギー活用も分散型で安心を確保できる」

またポストコロナ社会に向け、「適疎」という考え方を強調。東京や大阪といった人が過密の場所ではなく、〝ほどほどの田舎〟に住むことが、感染症予防や生活環境、また子どもの教育の場としても重要だとする。

「滋賀県は家も広く、琵琶湖を中心に山・川・森と自然に囲まれた住みやすい地域で、PCの普及率も高くリモートワークも可能だ。こうした場所は日本中に多く、地域分散型電源を柱にした適疎社会を作れる」

座右の銘は、延暦寺を開いた最澄が残した「忘己利他」。自分よりも、まず周りの人を幸せにするという意味は「政治につながる」と感じ入った。また琵琶湖畔の自宅で朝コップ一杯の湖水をそのままいただき、顔を洗う。 「近畿1450万人の命の水源である琵琶湖の代わりはない」。静かに語る言葉の奥には、人びとの命を守るという強い思いがある。

かだ・ゆきこ 無所属 参議院議員
1950年埼玉県本庄市生まれ。京大農学部、同大大学院、ウィスコンシン大大学院修了。81年に滋賀県庁に入庁し、琵琶湖研究に従事。2006年には滋賀県知事選に出馬し、2期8年務める。19年の第25回参院選に出馬し初当選。当選1回。

資源エネルギー庁の時代錯誤? 採るべき資源戦略の青写真


【多事争論】話題:新国際資源戦略の是非

コロナ禍による需要低迷、世界的な環境シフトなど、逆風にさらされる化石燃料。
政府は3月に「新国際資源戦略」を発表したが、激動の世界情勢に耐えうるものなのか。

<100年に1度の危機に備える対策 ライフ・スタイルの変化に機動的対応を>

視点A:岩間剛一/和光大学経済経営学部教授

日本に限定せず、アジア大の視点に立った新国際資源戦略が策定された。本戦略においては三つの柱である、①石油・LNGなどのセキュリティー強化、②レアメタルなどの金属鉱物資源のセキュリティー強化、③気候変動問題への対応―への取り組みが提示されている。

日本は、石油の99・6%、天然ガスの96%を海外からの輸入に依存しており、特に原油の9割近くは、政治的、宗教的にも地政学リスクが高い中東に依存している。乏しい国内の石油・天然ガス資源の観点からも、石油・LNG(液化天然ガス)の安定供給に最大限の政策的プライオリティーを設定すべきことはいうまでもない。

現時点において資源価格が低迷していることに安心することなく、新規油田の探鉱・開発、米国のシェール・オイル開発への出資・債務保証の支援強化など、常に100年に1度の危機に備えた国際資源戦略が必要であることは当然である。

ただ、重要なことは、新国際資源戦略が世界中の誰もが想定していなかった、新型コロナウイルスの感染拡大前の状況に検討されていたことにある。新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)は、原油価格の暴落という、逆の意味における石油需要減少危機の到来であり、こうした想定外の状況も考慮に入れる必要がある。

長期的な戦略を考える上では、在宅勤務、テレワーク、食事の宅配などのライフ・スタイルが、コロナ後にも定着するかを慎重に見極める必要がある。従来の石油需要の伸びは、アジア諸国における自動車販売台数の増加、世界各国におけるLCC(格安航空会社)の登場による手軽な海外旅行の普及などを前提に予測が行われてきた。しかし、こうした石油需要増加を前提とするビジネス・モデルが、見直しを迫られている。

感染拡大を契機として、石油を利用しない、脱石油の流れが加速し、石油が、「座礁資産」となる可能性もある。30年、40年における石油の必要性を随時注視しながら、新規油田開発の政策的支援について、出資・融資の焦げ付きを回避し、新国際資源戦略の機動的な見直しを行っていく必要がある。

LNGは年8億tの需要増へ 再エネの増加で競合は激化

LNGセキュリティーの強化については、天然ガスの主な用途は、発電用、都市ガス用であり、産業用の需要は減少するものの、自宅に巣ごもりとはいえ、家庭用の需要はむしろ増加しており、新型コロナウイルスの感染拡大による打撃は、石油ほど大きくはない。LNGは、単位熱量当りの炭酸ガス排出量が、石炭の半分程度であり、クリーンな化石燃料として、今後の需要の増加が期待されており、40年には、世界の貿易量は、現在の年間3億6000万tから年間8億t超に増加すると予測される。

しかし、LNGも石油、石炭と同じく、炭酸ガスを排出する化石燃料の一つであり、天然ガスは、地球の未来を担うデスティネーション・エネルギー(最終目的)ではなく、トランジション・エネルギー(一時的橋渡し)という見方もある。

さらに、新型コロナの感染拡大で、一度建設すれば炭酸ガスを排出せず、火力発電と比較して運転要員も少なくてすむ、風力発電の発電量が増加しており、競合する再生可能エネルギーの普及によって、LNG需要が、見通しとおりに大幅に増加するかどうかは不透明感が強まる状況となっている。

また、専門技術者の不足により、LNGプロジェクトの建設費が巨額となっており、現在の安価なLNG価格では、プロジェクトへの投資額が回収できない可能性もある。

これまでも、長期的な資源戦略は、原油価格、LNG価格の乱高下により、振り回されてきた歴史を持っている。長期的なエネルギーの安定供給へのリスク管理と経済合理性を両立させることは難しい。原油価格、LNG価格の低迷は、逆にいえば、将来的な石油需要の増加、新規油田開発投資の停滞による、石油需給ひっ迫を引き起こす可能性も考えられる。

1929年の世界大恐慌以来ともいえる未曾有の景気停滞と石油需要減少に世界が直面する現在、日本のエネルギー安全保障と日本の成長戦略という長期的軸足を持つと同時に、新型コロナウイルスが人々のライフスタイルに与える影響、地球温暖化対策、パリ協定、トランプ政権の政策などが、化石燃料の消費に与えるインパクトを、臨機応変に判断し、効率的かつ効果的な国家資源の配分を適宜、図るべきである。

いわま・こういち 1981年東大法学部卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。産業調査部(資源エネルギー調査担当)、石油公団調査部、日本格付研究所などを経て2003年から現職。

火のないところに立った煙 カネの亡者と権威に騙される国民


【気候危機の真相vol.04】渡辺正/東京理科大学教授

温暖化の危機が叫ばれてきた30年間の昇温は、体感できるかどうかのレベルだった。有象無象が群がる年々5兆円超もの「温暖化対策費」は、地球をほとんど冷やさない。

温暖化がどんどん進み、行き着く先は生き地獄……だからCO2の排出を減らそう―と一部の研究者が叫び、マスコミが恐怖話を垂れ流すため、温暖化に怯える国民が多い。産業界も図に乗って、内容ゼロの「環境性能」に胸を張り、レジ袋にこんなことを書く。

「この袋は『CO2排出量削減』『石油資源の節約』のため、サトウキビ由来の植物プラスチックを25%使用しています」。

プラスチックに植物素材を混ぜてもCO2の排出は減らないし、むしろ化石資源の枯渇を早める。丁寧に説明したら、中学生もすぐ理解した。

かたや学界には、潤沢な「温暖化研究費」をかすめとろうと、本心を包み隠して「温暖化は危険」と申請書に書く知人(国立大教授)がいる。また産学の重鎮たちは、談話や文章に「地球環境の危機」という空言を散りばめる。

なんとも不健全な状況だ。無用な騒ぎの幕引きを願いつつ、平明な事実をお伝えしたい。

害などあるはずがない昇温 大部分は自然変動の可能性

温暖化ホラー話には、横井也有の名句がよく似合う。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

温暖化論は1988年の国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)創設を起点に、90年ごろから世の関心を引いた。以後の30年間を「温暖化時代」とみよう。地球は30年間にいくら暖まったのか? データを当たれば、田中(本誌5月号)や田家(6月号)の見解にも近い約0.3℃だと分かる。体感さえしにくい値だから、天気予報で出合う気温の上下動とはまったく関係がない。

相対尺度の摂氏温度ではなく、分子運動の勢い(運動エネルギー)に比例する絶対温度(単位K=ケルビン)で考えよう。地球の表面は約300Kとみてよく、1Kと1℃の刻みは等しい。そして気象も気候も分子運動の勢いが決める。

30年間の昇温率は「300分の0.3」=0.1%だ。今40歳の人からみれば、小学生の頃1だった「自然界の騒がしさ」が、30年の時を経て1.001になっただけのこと。そんなものが気候を変えたはずはない。実際、過去30年で台風や降水量が変わったと語るデータは何一つ存在しない。

つまり温暖化時代の「危機」はことごとく妄想だった。脅威論者とマスコミは、妄想に合いそうな写真や論文だけをかき集め、ホラー話を織り上げてきた。

その0.3℃上昇(絶対温度の0.1%増)も、人間のせいとは限らない。地表の温度は主に太陽からの放射が決める。太陽と地球の相対位置が多様な周期で変動する結果、現在は1850年ごろに終わった小氷期からの回復期にあたる。弱いとはいえ昇温が170年も続けば、海水はじわじわ膨張してきただろう。

それを次の図が語る。例示地のほか、世界1200カ所を超す潮位計も似た傾向にある。幕末期から上がり続け(ちなみに室町~江戸期は冷害が多発)、CO2排出の激増期に加速した気配はなく、「人為的CO2主因説」さえ疑わしい。なお30年間の海面上昇は、1円玉の直径の4倍ほどだった。

ニューヨーク・バッテリー公園の海水準推移(1855~2020年) 出典:米国海洋大気庁HP

新型コロナウイルスに対応 「止めない物流」を実現


【リレーコラム】國友宏俊/トーヨーカネツ 執行役員・経営企画部長

本原稿を執筆している6月初旬は、緊急事態宣言の解除後、東京アラートが発せられ、弊社においても在宅勤務などを維持・継続しつつ、お客さまの社会インフラや生活必需品の物流に関わる社会経済活動に不可欠なサービスの提供に遺漏なきよう努めているところである。

弊社は、2021年に創立80周年を迎える。エネルギー業界関係の皆さまには、LNG、石油タンクの新設、メンテナンスでご愛顧いただいており、物流システムの供給に関する事業についても、1950年代の建設用コンベヤー製造に始まり、空港の手荷物搬送システム(BHS)、通販会社・生協さま向けの物流ソリューション提供が今や主力事業に成長している。

特に、物流事業については、2000年代にRFIDを物流システムに導入し、モノとデータの流れを一元管理することを提案するなどビジネスのデジタル化を推進しており、現在、AI、IoT技術を活用した「予知保全サービス」の展開による「止めない物流」の実現に貢献している。

今後の「巣ごもり消費」の拡大や人手不足への要請などのニーズに的確かつスピーディに対応すべく、社内の営業、設計、製造、施工、メンテナンスなどバリューチェーンのデジタル化を進めている。

IT環境構築で経営のDX推進

また、本社機能としても、緊急事態宣言下に約8割の在宅勤務率を実現するなど、現場作業に支障なきよう、業務情報の電子化、オンライン会議システムの活用などのIT環境を構築しており、今後とも経営のDXを推進していく方針である。

ESG経営についても、遅ればせながら、18年から社内の体制を整備し、弊社のビジネスを通じてSDGsに貢献すべく、10のマテリアリティを設定し、昨年初めて「統合報告書」を発刊した。

例えば、気候変動問題への対応として、大型液化水素貯槽の研究開発をNEDOのご支援をいただきながら推進している。また、和歌山工場の第3工場の増設に当たり、屋上を地域の皆さまの避難場所、災害物資の備蓄倉庫として利用いただくなど、地元自治体との協定を締結している。

新型コロナウイルス問題下で、企業のサステナビリティ、社会性やリスク管理の重要性が再認識された。弊社においても、多様なステークホルダーとの連携・協働を進め、80年の歴史の重みを踏まえつつ、ESG/CSR経営を深化していく考えである。

くにとも・ひろとし 1986年東京大学工学部卒、通商産業省(当時)入省。資源エネルギー庁石炭課長、内閣府宇宙戦略室参事官、特許庁審査業務部長、高圧ガス保安協会理事などを経て2018年4月から現職。

次回はCG&ミネラルズ代表の堀井彰三さんです。

台風・地震と感染症流行の同時発生 複合災害にどう備えるべきか


【羅針盤】巽直樹/KPMGコンサルティング プリンシパル

新型コロナウイルス感染拡大は、エネルギー事業者に自然災害のみならず防疫対策の必要性を突き付けた。デジタル技術の積極活用などを通じて、業務の在り方を抜本的に見直すことが求められる。

2011年3月11日、東日本大震災発生時、筆者は出張でシンガポールにいた。しかし、2日後の13日深夜には当時の仙台の自宅に帰着していた。このエピソードをここで語ることは難しいが、こうした経験からインフラ企業の自然災害からの復旧能力の高さは十分に理解している。よって、事業継続計画(BCP)などのコンサルテーションをインフラ企業に提案しようという不見識な考えは、これまで持ったことはなかった。

ウイルスとの対峙は情報戦 問われるインテリジェンス

今回の新型コロナウイルス感染症拡大防止策のような対策は、地震や台風などの自然災害発生後にレジリエンスを問われるものとは対策の性質が異なる。

自然災害の場合、被災の程度にもよるが、最悪は供給途絶した状態からの復旧作業になる。2次災害などで損害規模が膨らむこともあるが、目標の設定や復旧工程の設計における不確実性は相対的に低いと考えられる。しかし、感染症の中でも未知のウイルスの感染爆発(パンデミック)の場合、社会全体が初期的に過剰な防疫対策に走る中で、これへの対応の不確実性は相対的に高い上に緊急性も高い。災害復旧にも情報戦の側面はあるが、未知のウイルスへの対峙は真の情報戦であり、組織のインテリジェンスが問われる。

人類はこれまでにもさまざまな疫病と戦ってきたが、生命に危機が及ぶ厄災は、社会が集団ヒステリー状態に陥りやすい。SNSが普及した現代では、急速な情報拡散をパンデミックに掛け合わせた造語であるインフォデミックがこの傾向を助長する。よって、正確な情報に基づいたウイルスの特性や社会情勢などを迅速に理解することがより重要となる。

図は、電力の供給信頼度の定量的評価で用いられる「最適な信頼度レベル」の概念図を、「最適な防疫対策(安全衛生度)レベル」に置き換えてみたものだ。経世済民に鑑みれば「命と経済」は比較するものではなく同義であり、感染症対策でも社会的総コストの最適レベルを探る必要があるからだ。

エネルギーインフラ事業者はほかのインフラ事業者同様に、新型インフルエンザ等対策特別措置法の指定公共機関である。社会生活維持に貢献するエッセンシャルワーカーの中でも重要度が最も高い職業でもある。したがって、防疫対策にも一般人よりも高い意識が求められるが、それは過剰にコストをかけることが許されることとは同義ではない。

今回の緊急事態宣言における防疫効果と経済損失などへの多面的な事後評価が政府に対して望まれているのは、一連の政府判断に懐疑的な見方があるからだ。走りながら考える必要がある防疫対策では、一定の失敗は許されるべきことではある。しかし、コロナ禍の第2波や今後も出現が予想されている未知の新型ウイルスへの防疫対策を検討するためにも、この事後評価は必要不可欠だ。

こうした状況を考慮すると、インフォデミック禍にあったとしても、事業者側でも正しい情報獲得と理解に努める必要がある。仮に初期的に過剰な防疫対策を取ったとしても、そこにとどまらず、自らの判断で最適な防疫対策レベルに速やかに移行するべきことが重要である。僭越ながら、ここでは公益事業者の矜持が問われていると考える。

感染症対策における「最適な防疫対策レベル」にステイする必要があるのは、組織の資源制約を下げる意味で必要不可欠だからだ。人的・物的資源の制約は、突発的かつ緊急性の高い防疫対策が迫られた時に思い知ることになるが、電力・ガスシステム改革でコスト減が目指される中、この制約は上がりこそすれ下がることはない。

この状況に自然災害が発生した場合、これらの資源制約が原因で復旧のための所要時間が以前より増えることは確実である。これを可能な限り長期化させないためにも、「最適な防疫対策レベル」にステイすることは最低限必要となる。その上で短期的な対策として、今にも発生し得るかもしれない複合災害対応のBCPを検討する必要がある。

さらに、この資源制約を可能な限り下げるための中期的な対策に取り組む必要がある。具体的には、緊急事態宣言下での在宅勤務の増加で浮き彫りになった、従来からの仕事の進め方における非効率を抜本的に見直すことである。

そうした業務の整流化や、前例を排した業務の再設計(BPR)を通して、これまで決して十分とはいえなかったデジタル化の推進が今こそ必要になる。自然災害対応では限界があるものの、致死率が50%を超えるような強毒性インフルエンザのパンデミックに対する防疫対策を想定する場合、すべての業務で遠隔化・無人化ができないかという極端な仮説も必要かもしれない。

都市の強じん化へ 防疫・減疫の観点も

物理的な都市インフラとデジタルインフラの組み合わせで未来仕様の都市形成を目指す「スーパーシティ法案」や、人口減少に対応したコンパクトシティ形成を目指す「都市再生特措法の改正案」が次々と国会で可決されている。都市計画はこれまで、防災・減災に強い街づくりが考慮されてきたが、安全衛生への意識が高まったいま、防疫・減疫の観点からの都市形成も必要となろう。

エネルギー供給強靭化法案もこれらに続いて可決された。電力データ活用や配電事業ライセンスで想定されていることも、第一には災害対策だが、こちらにも防疫の観点が求められる。オープンソース時代のオープンデータ戦略として、コロナ禍では感染経路探索や感染者との接触回避のために携帯電話の位置情報活用が注目された。電力データも防疫面での活用可能性は検討できるであろう。

また、スマートシティなどの都市計画に配電事業ライセンスを組み合わせ、より主体的に都市形成に関与するという戦略も考えられる。本稿で述べてきたようなデジタル化や業務の見直しとともに、防災・防疫対策が整った都市にエッセンシャルワーカーとしての社員が居住することで、エネルギーインフラ事業者としてのレジリエンスがより高まると期待できる。

たつみ・なおき 信託銀行、電力会社、複数のベンチャー企業、監査法人を経て2016年KPMGコンサルティング入社、19年から現職。博士(経営学)、国際公共経済学会理事、元学習院大学特別客員教授。

基本契約でBCPを網羅 需要家のリスクは最小限に


【メーカー編/MULユーティリティイノベーション】

今春以降の新型コロナウイルス感染拡大に続いて台風シーズンも近づき、防災意識が高まってきている。昨年9月、日本に上陸した台風15号は、千葉県を中心に甚大な被害を及ぼした。これを受けて太陽光発電(PV)市場では、災害に対する対策について需要家から問われることが増えてきた。

近年、盛り上がるPPA(電力購入契約)モデルも例外ではない。PPAは発電事業者と需要家が電力販売契約を直接締結し、需要家の敷地や建物の屋根に無償でPV設備を設置。発電した電力を需要家に販売するスキームで、施工・稼働において高い信頼性が求められる。

三菱UFJリース100%子会社のMULユーティリティーイノベーションは、特にこの信頼性の確保について契約時から厳密に取り決めを行い、需要家の不安解消に注力している。

ソーラーPPAの契約は、基本的に15〜20年もの長期間にわたる。その間、予測可能な自然災害だけでなく、過去に例のない出来事により、事業継続に支障を来すリスクがつきまとう。コロナ禍がちょうどそこに当てはまる。

PPAサービス拡大に意欲を見せる松本社長

「今回のコロナにより工場の稼働が止まり、生産調整に入らざるを得ない顧客は、PVで発電した電気を使い切れません。弊社はもともと従量料金契約で、使い切れなかった電気は請求しないという契約を取っているため、お客さまからは非常に好評です」と、松本義法社長は説明する。

需要家目線の契約が強み リスク引き受けた商品設計

それ以外にも、太陽光パネルそのものの損害だけではなく、強風で万が一パネルが飛んで第三者賠償が発生した場合などのリスクも損害保険でカバー。親会社の三菱UFJリースの長期スパンのビジネスモデルのノウハウを生かし、細やかなシミュレーションを展開している。

同社のサービスは特定の要因に限定せず、「需要家の稼働が止まった場合」を基本契約に織り込んでいるので、自然とコロナ禍などでのBCPにもつながる。

また、パネルに損害が及ばないための対策にも注力している。昨夏の台風被害を受けて、同社はソーラーパネルの取り付け仕様を変更。通常、片側2点の計4点で固定するところを、片側3点の計6点に引き上げた。これは、国内で過去に吹いた風のデータを収集して、厳しい条件に合わせた仕様を標準とし、対応幅を広げたものである。

「現在、コロナ禍で営業に出られず苦労している面も多くあります。一方、景気の先行きが見えない中で、系統電力よりも安価なソーラーPPAのサービスを検討する動機も広がり、自己投資で長期間のリスクを背負うよりは、第三者型のサービスを取り入れようというお客さまも増えると思っています」と、松本社長は意気込む。環境省もPPA関連の補助金導入を始めている。リスクヘッジの取れたPPAサービスは、今後も伸びていくに違いない。

コロナ禍で家庭の電力消費量が急増 顧客が公益事業者に求めること


インタビュー:伊藤吉紀/日本オラクル ユーティリティ・グローバル・ビジネスユニット ディレクター

米国では、新型コロナウイルスの感染拡大防止で外出制限が発令され、家庭の電力消費量が増大した。公益事業者はこの事態にどう対応したのか、日本オラクルの伊藤吉紀氏に話を聞いた。

――エネルギー事業者向けソリューション「Oracle Utilities Opower」のエネルギー効率化プログラムが顧客満足度向上に寄与しているようですね。

伊藤 このプログラムは、公益事業に特化したOracle Utilitiesのデマンドサイド管理ソリューションの一部として提供しています。家庭のエネルギー消費とコストを適切に制御するように顧客に知らせ、動機付けを行うことができるほか、公益事業者はサービス提供のコストを削減できます。

現在、Opowerプログラムがサポートする世界中の消費者世帯における累積エネルギー節約量は250億kW時に達します。これは、日本の130万世帯分の年間電力供給量に相当します。

在宅時間が長くなり家庭の電力消費量は増えている

――新型コロナウイルス感染拡大は海外の公益事業者にどのような影響を与えていますか。

伊藤 米国で最初の感染拡大の波が襲ったのは今年3月中旬です。米国の多くの地域で外出制限が発令され、企業活動が低迷し、顧客はほぼ終日自宅にいるため、エネルギー需要が劇的に増加しました。公益事業者は各家庭に必要なエネルギーを確実に確保しながら、最前線の就業者を保護するために、迅速に業務を転換する必要がありました。多くの公益事業者は、就業者が電力供給網管理やその他の重要な業務を自宅から管理できる遠隔技術を初めて活用しました。

――公益事業者は顧客にどのような対応を実施しましたか。

伊藤 公益事業者が、まず取り組んだのがエネルギーの安定供給です。次に、支払いが困難な家庭に対する供給停止を休止し、顧客とのコミュニケーションを再設計しました。顧客への働きかけを一時停止し、疾病対策センターのガイドラインを尊重しながら、適切かつ慎重なコミュニケーションを継続的にとりました。そのメッセージは徐々にエネルギー効率の提案へと回帰し、顧客はエネルギー使用と請求を適切に制御できるようになりました。

また、公益事業者は顧客の支払いや節約のため、活用可能な支援プログラムの告知に尽力しました。多くの顧客が失業中であっても、平時より多くのエネルギーを使用しているため、これらのプログラムを確実に顧客に知らせることはとても重要でした。

高額請求を事前に通知 コスト削減のヒントに

――外出制限で顧客のエネルギー消費行動に変化はありましたか。

伊藤 4月中旬にオラクルが米国で実施した調査では、83%の人が4月中に自宅で過ごす時間が長くなり、50%の人が光熱費の増加を心配していました。米国の家庭のエネルギー使用量は平均で30%、一部の地域では最大50%増加しました。このエネルギー使用量の増加は、支払いに苦労する顧客には大きな負担となりました。

――どのようにデータと分析を活用し、顧客を支援しましたか。

伊藤 公益事業者は、具体的な推奨事項を提供することを目指しています。Opowerプログラムでは、行動科学とデータに基づいたアドバイスを行うことが可能です。画一的なアドバイスを提供するのではなく、例えば、顧客が電気自動車の充電やエアコンの運転などを行うために多くのエネルギーを使用しているタイミングを正確に特定し、行動をわずかに変えることで料金を節約するといったヒントを個別に提供しています。

また、米国の調査によると、顧客の70%以上が高額請求の事前通知に関心を示し、80%近くが自宅でエネルギーを節約する方法についてアドバイスを求めています。そうした顧客は、その情報をより熱心に活用していると認識しています。

Opowerを活用している公益事業者の中には、3月の料金で前年比400%増もの高額請求通知を送信したところもあります。高額請求通知は、エネルギーの使用量とコストを削減するためのヒントになります。開封率および反応率は、昨年の同時期と比較して10%近く上昇しました。大半の顧客には、顧客自身でエネルギー料金を管理したいというニーズがありますが、多くの公益事業者はまだ実現できていません。

――日本の公益事業者の対応状況について、海外との違いは。

伊藤 日本の公益事業者は、新型コロナウイルスに対する行動計画があり、支援するプログラムが利用可能なことを顧客に理解してもらえるように努めていました。その点は米国と同様です。違ったのは、日本の事業者は、短期的な影響に焦点を当てたものが多く、前述のホームエネルギーレポートや高額請求通知など、長期的な消費目安や請求を制御するための情報提供をあまりしていません。この種のサービスは、今後の顧客エンゲージメントにとって不可欠であり、公益事業者が高い満足度を維持するに必要となってきます。

データと洞察が重要に クラウド化への転換点

――新型コロナウイルスと地震などの災害で、事業者の対応において異なる点は。

伊藤 新型コロナウイルスによるエネルギー供給網への物理的な影響はありませんでしたが、地震などの災害は、規模や発生した地域によっては、重大な損傷を与える可能性があります。公益事業者は、感染症と災害のどちらに対しても、顧客と効果的なコミュニケーションを図り、救援活動に従事し、情報を提供し続ける仕組みを備えていく必要があります。新型コロナウイルスにおけるコミュニケーションは、その時々の状況に応じた、適切な省エネを促すヒントとなることに重点が置かれています。

公益事業者が災害を管理するためにはデータと洞察が重要です。公益事業者は人工知能を使用して、適切な材料、労働力、コミュニケーション計画を立てることで、被害をより適切に予測および準備し始めています。

新型コロナウイルスは、これまでとは全く異なる種類の災害ですが、公益事業者が適切なテクノロジーを備えて迅速に対応し、適応する必要があります。現在、すべての公益事業者がこの種の俊敏性を促進するクラウドテクノロジーを採用し、推進する転換点に差し掛かっているのかもしれません。

いとう・よしのり 東北大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。アクセンチュア経営戦略本部素材エネルギーグループ、デロイトトーマツコンサルティング、ベンチャーを経て、2018年から現職。

エネファームと蓄電池を連携 双方の強みで安定供給を確保


【メーカー編/パナソニック】

近年の防災意識の高まりから「レジリエンス」という言葉が消費者の間でも浸透しつつある。

そうした中、今年3月、パナソニックの家庭用燃料電池「エネファーム」が「第6回ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」の最優秀賞を受賞した。評価されたのは「ハイブリッド蓄電システムの連携」だ。従来、エネファームを太陽光発電や蓄電池と連携させるには、200V対応のパワーコンディショナーが必要だった。また、燃料電池の電気はAC(交流)出力のため、蓄電池に充電ができなかった。

最新機種はグッドデザイン賞、省エネ大賞も受賞

そこで、パナソニックは第6世代エネファームから三つの電池を連携できる「停電時直流(DC)出力ユニット」をオプションでラインアップした。同ユニットにより、エネファームは停電時にDC650Wを蓄電システムへ出力し、家庭内に供給する。蓄電池に充電することも可能だ。蓄電システムの高出力と、エネファームの天候に依存しない安定供給という双方の強みを組み合わせることで、電子レンジなど消費電力の大きい製品も昼夜問わず利用できる。

スマートエネルギーシステム事業部商品企画課の折口貴彦課長は「災害への関心が高まったことにより、3電池の導入とともに同ユニットを標準装備として採用するハウスメーカーも増えています。最新の住宅は電気錠をはじめとして電気への依存は高まっています。これまで以上に停電対策は重要となるでしょう」と話す。

災害時における水を確保 貯湯槽のお湯を生活水に

災害発生時に、電気とともに重要視されるのが水の確保だ。生活水はトイレ用のほか、手や顔を洗ったり、歯磨きなど、普段何気なく使う行為が意外に多くの水を消費する。しかし、実際に水を常時貯めておくよう行動するのは難しい。そこで、パナソニックではエネファームの貯湯槽から水を取り出して利用できることをアピールする。最大約130ℓの貯水が可能。備蓄管理の手間が省け、常に雑用水を確保できるのは魅力だ。

折口課長は「防災への関心のある方に、3電池によるエネルギー確保に加え、水の備蓄の重要性についてもアピールしていきます」と語る。新型コロナウイルス感染拡大以降、多くの人の在宅時間が長くなり、家庭のエネルギー設備への関心は高まっている。その中で、防災に強いエネファームは選択肢の一つに入ってくるだろう。

自動販売機の電力検針を自動化 営業スタッフの負担軽減に大きく貢献


商品配送に加えて電力検針など、営業スタッフの過重労働が社会問題化している自動販売機業界。 現場の負担を軽減すべく、北陸電力は電力量の遠隔検針サービスをスタートする。

街中やオフィスビル、工場内などでよく見かける自動販売機。その実は、自販機運営会社の現場営業スタッフによる、過酷な労働環境で成り立っているのが現状だ。

こうした営業スタッフの過重負担を軽減すべく、北陸電力は自販機の電力消費量を遠隔検針できるサービスを今秋から開始する。

遠隔検針で課題を解決 深刻な現場の負担を軽減

自販機運営会社の営業スタッフが行う業務は、商品の補充や設置されているごみ箱の管理などだ。実は、それらに加えて自販機で使用した電力消費量の目視検針も業務に含まれている。

これが商品補充やごみ収集のタイミングと合致すればさほど労力は増えないが、検針をするだけのために出向かなければならない時もあり、営業スタッフの業務効率を著しく悪化させている。

目視検針の要望は、消費した電力量相当分の電気料金を清算する必要があるとの理由で、工場や公共施設などの設置先から求められるケースがあるという。例えば公共施設では、自販機設置の入札条件に「電力などの光熱費については計量機器を設置し、それによる実費を負担する」ことが要件として記されているケースが多い。場合によっては、営業スタッフが施設担当者のアポイントをとり、両者立ち合いのもと検針作業を行うこともある。

そもそも自販機運用会社の営業スタッフは人手不足が深刻だ。残業時間が100時間を超える過酷な現場も多く、その度に労働基準監督署が是正勧告を出すなど社会問題化している。運営会社も危機意識を持ち改善に向けて取り組むが、解決への道のりは険しい。目視検針業務は、こうした状態にある現場の負荷を一層重くするものとして、問題視されていた。

さらに、自販機に取り付ける電力量計は、多くの場合10年で検定の有効期間が満了となる。このため、運営会社には、設置した電力量計ごとに検定の有効期間を把握し、期間満了に合わせて交換する発注を行うという管理業務も発生する。ほかにも電力量計を自販機に外付けしていることで、自販機の見栄えが悪くなるという問題もあるという。

そうした自販機に遠隔検針サービスを用いることで、目視検針をなくし現場の作業負担を低減することができる。また電力量計は北陸電力が所有・管理する。同サービスのメリットについて、同社エネルギー営業部の新村努課長は「運営会社が行ってきた機器管理業務が不要となり、検針データの転送は既設の通信経路を利用するため、比較的安価な料金でサービスを提供できる。自販機に小型の電力量計を内蔵させたことで、見栄えの問題も解消する」と語る。

自販機に設置する機器は、主に電力量計や分岐制御装置など。検針データの送信には、自販機内に設置されている通信装置を使用する。これは商品在庫や故障などの情報を遠隔監視し配送業務などを効率化する目的で運営会社が設置したものであり、同サービスで新たに通信装置を設置する費用や手間が掛からないメリットがある。

また検針したデータは、基本的に同サービスの検針サーバーにインターネット経由でアクセスして閲覧できる。さらに運営各社の社内システムに検針データを転送するカスタマイズも可能。自社の必要に応じて、幅広いカスタマイズを行えるのも、このサービスの特長の一つといえる。

電力量計は自販機上部に外付けされている

寄せられた相談から誕生 サービスで成長に貢献

遠隔検針サービスを開発するに至った経緯は、高圧一括受電のテナントビルを管理する顧客から「入居テナントと電気料金や水道料金を精算するために行う、子メーター(ビル所有のメーター)の検針業務が煩雑」との相談が寄せられたことがきっかけだ。

北陸電力は相談を受け、設置されている子メーターを安価に遠隔検針できないかと模索していた。そんな中、駅や役所に設置されている自販機の上部にある電力量計が目につき、自販機を対象としたサービスができないかと、思いついたという。

開発にあたっては、地元の飲料メーカー、北陸コカ・コーラボトリング社の協力を仰いだ。同社に自販機の遠隔検針サービスを提案したところ、現場の負担と管理業務が膨大であることから、良い反応を得られたという。さらに同社からは「自販機には販売管理用の通信経路がある。また見栄えの関係上、電力量計は自販機に内蔵してほしい」との情報も入手。その後は、自販機に内蔵する通信装置を開発するアイルジャパン社と、サービスに必要となる装置・システムなどの共同開発を進めた。

要した期間は、情報を得てから約1年。今年の秋ごろには北陸コカ・コーラボトリング社向けにサービスを提供する予定だ。

今後の展望について、北陸電力は「自販機の運営会社が抱える目視検針以外の課題についても解決を図っていきたいと考えている」と述べている。

またグループ会社の北陸電力送配電では、今年4月から水道やLPガスなどの他事業者が自動検針を行えるよう、スマートメーターの通信ネットワークを活用した通信サービスを発表している。 地元企業の悩みを解決し、「今後も地域経済を支えるインフラ企業として、〝お役立ち精神〟をもって北陸地域の発展に寄与していきたい」(新村課長)との考えだ。

大規模プラント移設工事を継続 ネットワーク化で安定供給を実現


【事業者編/丸の内熱供給】

大丸有地区の新プラントが今年6月、予定通りに稼働を開始した。コロナ禍の中、熱供給を継続させるべく進めた工事と災害対策の現状に迫る。

丸の内熱供給は、1973年から大手町、丸の内、有楽町という日本最大のオフィス街で、地域冷暖房を手掛ける。2002年の丸の内ビルディング︵丸ビル︶を皮切りに始まった大丸有地区の再構築計画においては、企業が事業活動を継続しながら、老朽化した建物を建て替える連鎖型再開発にエネルギー事業者として参画し取り組んできた。

同社は今回、三井物産・三井不動産の再開発事業「Otemachi One」に合わせて、「大手町センター」プラントを新設し6月に稼働を開始した。旧プラントは76年に稼働を開始。同社にとって最初の地域冷暖房プラントであった。今回、「Otemachi One」を手掛ける三井物産と三井不動産から「同じ敷地内に地域冷暖房プラントを移設してほしい」との依頼を受けて建設した。今後、1年程度かけて配管工事を行い、新プラントに地域冷暖房機能を移設していく。

三井物産・三井不動産の再開発ビル「Otemachi One(大手町ワン)」

従来にない大規模工事 コロナ対策に万全を期す

大手町センタープラントの建設工事は17年に始まった。計画通りに進んできたが、終盤に差し掛かった今年3月以降、全国にコロナウイルスの感染が拡大した。

開発技術部の古田島雄太部長は「このプラントは従来にない大規模なプラント移設プロジェクトです。検討に数年をかけ、この時期にプラントの完成とその後の配管切り替えを予定していました。お客さまへの熱供給継続のために、計画通りにプラント新設工事を終える必要がありました」と話す。

建設現場では、作業員の入退場時に体温チェックを行うなど、作業員の健康管理を徹底。プラント運用においては、通常5〜6人が一つのチームになって行動していたのを、この中から1人は必ず自宅で待機するスタッフを設けて安定供給に支障が出ないよう勤務態勢を変更した。さらに、各プラントの中央監視室では管理職の作業スペースを別部屋に用意したり、各社員のデスクも距離を保つように工夫したという。

このほか、本社勤務のスタッフは、緊急事態宣言で示された外出8割減に近づけるため、テレワークを推進。そうした取り組みにより、大手町センタープラント建設を計画通り進められた。

「業務を行う上で、やりにくい部分もあると思いますが、感染症の影響が今後も続くとみられ、感染防止に配慮した業務体制は継続していきます。今後は、新旧プラントの切り替え工事が本格化します。長年かけた計画を確実に進めていきたい」。古田島部長はそう力を込めて語る。

「コロナ禍にあっても、工事が遅れないように進めた」と話す古田島部長

トリプル災害のうち、地震と水害への対策は従来から進めている。地震については、地域冷暖房のプラントは地下に設置するケースが多い。地下では地震の揺れが地上より小さくなるため、丸の内熱供給のプラントは地震時も電力復旧後、速やかに供給を再開している。他の地域を見ても、阪神淡路大震災や東日本大震災で被災した11地区の熱供給設備や地域配管も大きな損傷はなかったとのことだ。

東日本大震災以降は、ガスコージェネの価値が見直され、導入が増えている。「Otemachi One」もビル側にガスコージェネが導入され、排熱は地域冷暖房で活用される予定だ。また、都市ガスの中圧導管が地震に強く、BCP(事業継続計画)の観点で優れていること、電気と排熱を得て、熱導管ネットワークに利用できる強みが大きい。大丸有地区では現在、コージェネを導入するビルが4カ所、固体酸化物形燃料電池を導入するビルが1カ所ある。地区間・プラント間の地域配管ネットワークを拡張することで、エネルギーの融通による安定供給の向上を図っている。同地区には合計20カ所のプラントがあり、これらを導管で結ぶことによって、トラブルが一つ発生しても補完して、リスクが回避できる。

水害では、大手町・丸の内地区のハザードマップへの対応の一つとして、地下プラントから路上に伸びる換気口を工夫している。道路に設置された換気口は水が入ってくる可能性がある。そこで、浸水防止装置を取り付けた。遠隔操作が可能で、ハザードマップによる冠水水位を考慮した設計になっている。

大手町センタープラントや丸の内3丁目地区では建物側の対策のほかに、プラントなど重要施設の出入り口に耐水圧性能のある扉を設置した。

CO2削減の取り組みを継続 スパイラルアップ効果図る

丸の内熱供給では、今後も災害対策とともに、感染症への対応を継続していく。これらと並行して、昨年来、取り組んできたCO2削減も推進する構えだ。具体的には、プラントの新設と既存プラントの更新し、これらのネットワーク化を進めていく。年間冷熱供給量の70~80%は、ピーク負荷30%以下の部分負荷時の供給によるものであり、そうした時期・時間帯に最新の高効率設備をエリアで共有し、効率を向上させる「スパイラルアップ効果」を図る。

「コロナ禍によって、エネルギー消費量は減少傾向にあります。そのような中にあっても、CO2削減の取り組みはさらに加速していきたいです」と古田島部長。

地域冷暖房は強靭化対策とCO2削減という先端ニーズをエネルギー業界でいち早くキャッチアップし、寄与していく存在になりそうだ。

大手町センタープラントに設置されたボイラー

【総力特集第2部まとめ】トリプル災害に立ち向かうエネ業界の対策「最前線」


経済活動、生活の維持に欠かせないライフラインの重要性が増している。
感染症対策に加え、地震や台風など自然災害への備えも欠かせない。
エネルギー関連業界は、この困難な状況にどう挑むのか。
「トリプル災害」への対応について、業界団体と関連企業の動きを追った。

掲載ページはこちら

【プロローグ】「連携」「自助・共助」を強化へ 非常時エネ供給の新たな方策

【緊急アンケート】エネ3業界に聞く 複合災害に向けた対応策

【レポート/事業者編(丸の内熱供給)】大規模プラント移設工事を継続 ネットワーク化で安定供給を実現

【レポート/事業者編(エア・ウォーター)】北海道でのコロナ禍とLP事業者の戦い 終息後を見据えた「働き方改革」

【インタビュー(日本オラクル)】コロナ禍で家庭の電力消費量が急増 顧客が公益事業者に求めること

【レポート/メーカー編(パナソニック)】エネファームと蓄電池を連携 双方の強みで安定供給を確保

【レポート/メーカー編(デルタ電子)】FITの自家消費型「新制度」に対応 停電時に自立運転機能を活用へ

【レポート/メーカー編(I・T・O)】オペレーションを自動化 簡単操作のガス供給復旧システム

【レポート/メーカー編(タツノ)】住民拠点SS整備をサポート 非常時の燃料供給体制を構築

【レポート/メーカー編(理研計器)】IoT化が進むガス検知器 遠隔監視で保全業務を効率化

【レポート/メーカー編(高砂熱学工業)】「3密」での感染拡大を抑制 気循環で清浄な空間を実現

【レポート/メーカー編(MULユーティリティーイノベーション)】基本契約でBCPを網羅 需要家のリスクは最小限に

顧客ニーズの変化取り込み 事業を拡大し経営を安定軌道へ


エネルギービジネスのリーダー達】 都築実宏/エナリス社長

KDDIの電力事業立ち上げに携わり、4月1日に新電力のエナリス社長に就任した。事業を拡大し経営を安定軌道に乗せるべく、社員とともにまい進していくと語る。

つづき・さねひろ 1966年徳島県生ま
れ。89年愛媛大学工学部卒、第二電電
(現KDDI)入社。コンシューマ事業企
画部長などを経て2015年からエネルギ
ービジネス部長、エネルギービジネス企
画部長としてKDDIの電力事業に携わ
り、20年4月にエナリス社長に就任。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業が活動の縮小に迫られていた今年4月1日、都築実宏氏は、幅広く電力ビジネスを展開するエナリスの社長に就任した。

緊急事態宣言が解除され経済活動は再開されつつあるものの、電力需要の落ち込みが長期化することが予想される。その中でも、「お客さまのニーズを確実に捉え、エナリスの事業を拡大し経営を安定軌道に乗せていきたい」と、決意を語る。

KDDIで電力事業立ち上げ 新電力の勝ち組に

愛媛大学工学部を卒業後、第二電電(現KDDI)に入社。それから約25年、通信畑を歩み続けていた都築社長に転機をもたらしたのが、電力小売り全面自由化だ。家庭向けの電力小売り事業への参入を模索してきたKDDIは、2015年に参入を正式決定しエネルギービジネス部を発足させた。都築社長は、その立ち上げから携わった。

通信事業で培ってきた顧客基盤があったため、電力契約の獲得にそれほど大きな不安があったわけではない。その分、顧客満足度を高めるための付加サービスの追求に力を注ぐことができた。全面自由化から4年の間、契約件数は右肩上がりで伸び続け、KDDIは新電力の勝ち組と評されるまでになった。

実は、KDDIが顧客サービスに特化できたのは、参入当初から電気の調達や需給管理などをエナリスに委託し、密接な関係が構築できていたからにほかならない。社長就任が決まった際は「正直びっくりした」と言うが、一方で、社員の働きぶりを目の当たりにしていただけに、一緒に取り組んでいけることへの期待も強く感じたともいう。

電力業界に足を踏み入れ強く感じていることは、自由化以降も規制改革の進展とともに制度の変更が度々行われており、そのことが事業者の経営に与える影響が小さくないということだ。制度変更はリスクでもあるが、これをいかに先読みしビジネスチャンスにつなげるかが、経営手腕が問われるところ。その上で、顧客企業の要望を踏まえ、政策提言していくことも重要だと感じている。

また、世界的な脱炭素社会実現への要請や昨今の自然災害の大規模化に伴い、顧客企業のエネルギーへのニーズは多様化しつつある。これまでは、コスト削減が電力の契約切り替えの動機の大半を占めたが、今後は、再生可能エネルギーを中心とする環境価値や、太陽光発電や蓄電池を組み込んだBCP(事業継続計画)対応など、さまざまな電気の「価値」を、顧客ごとに最適な組み合わせで提供できる電力会社こそが、選ばれることになるはずだ。

例えば、同社が昨年9月に商品化した「カーボンライトメニュー」は、一気に100%再生可能エネルギーとすることはコスト的に困難だが、少しでも再エネ比率を高めたいという顧客ニーズに応えるもの。既に商品化済みだった「RE100メニュー」と合わせ、求められる環境価値を柔軟に提供する狙いがある。今後、J―クレジットや非化石価値取引市場を活用しながら、顧客企業が必要とする量を確実に提供できる仕組みを整備していく。

合わせて、次世代を見据えた技術の構築も着実に進めている。今年度で5年目を迎えるVPP実証は、発電、小売り事業者など計16社が参加する大規模なプロジェクトとなった。

来年度以降、再エネの予測誤差を調整する「三次調整力②」から段階的に取引が始まる需給調整市場への参入を視野に、VPPビジネスの実現に向けた取り組みを加速させていく方針だ。

変革の「DNA」堅持 社会の期待に応えていく

現在は、大手電力会社と多くの新電力が顧客争奪戦を繰り広げ、価格競争に陥りがちな電力市場だが、ブロックチェーン技術を活用した新しい電力取引や、AIを活用した業務改革やサービス改革などが実現すれば、近い将来、業界は様変わりする可能性も。そのため、「通信と同様に面白い業界になるポテンシャルを秘めている」とみる。

「人とエネルギーの新しい関係を創造し、豊かな未来社会を実現する」

これは、都築社長が就任する前の昨年11月に、社員らが作った同社の新しい企業理念だ。創業以来、紆余曲折はあったものの、アパートの1室で需給管理を可能にしたり、電力の代理購入の仕組みをいち早く実現したりと、業界の「当たり前」を変革してきたとの強い自負が社員にはある。企業理念には、こうしたエナリスのDNAが現れている。

都築社長は、「このDNAを大事に育てることで、強い会社になれると確信している」と述べ、「社会からの期待に応え役割を果たしていくためにも、この理念に恥じないよう社員と進んでいきたい」と、強い意気込みを示す。

100年後の会社存続を見据え サスティナビリティ経営に転換


【私の経営論 (3)】小出薫/越後天然ガス社長

前号では、「相手を変える」のではく、「自分を変える」ことで会社の一体感を構築したところまでお話ししましたが、会社の方向性についてはまだ模索している状況でした。ちょうどそのころ、都市ガスの小売り全面自由化の議論が盛んになり、私個人としては「もう自由化は避けて通れない」と感じていましたので、今までの地域独占に守られていることを前提とした体制から、全面自由化による生き残りを前提とした体制にシフトする必要があると感じていました。しかし、ではどのように変えていけばいいのかという問いに対しての答えが導き出されていなかったのです。

住みよい街づくり 地域活性化策を前面に

そのような中、2014年に『サスティナビリティ経営』のセミナーに参加し、直感的に「全てが解決した」と電気が走りました。サスティナビリティの日本語での意味は「持続可能性」ですが、持続可能性ということをもっと簡単にいえば、「ずっと将来的にも良い状態を保つ」ということなので、自由化などのこれからの起こり得る大きな変化に対応するためには最適解でしたし、何と言っても海外での成功例が多数ありましたので、それらを勉強しておけば大丈夫と思えるようになり、一気に気持ちがラクになりました。

また、これらを実践するにあたり、大いに役立ったのが「バックキャスティング」の考え方です。目の前の課題を一つひとつ解決する「フォアキャスティング」とは違い、あらかじめ「ゴール」を設定してそこから逆算する方法です。私の場合「自由化による競争が激しくなっても、50年、100年後も続く会社にする」と決め打ちし、そこから何をすれば良いのかをあらかじめ考えておくことにしました。それにより、変化のスピードが速くなっても、方向性がブレることなく、冷静に対応策を検討できるようになります。

そのような体制を構築できたら「特に若い社員はほっとするだろうな」と思いながら、大まかではありますが、取りあえず50年後からのバックキャスティングを約1年かけて終えることができました。そして、社員の質問に即答できるよう万全な状態にした上で、15年にサスティナビリティ経営への転換を打ち出しました。

今では、「SDGs」に発展させ、若手を中心とした全社員による検討を行うまでに至っていますが、これは「S」の部分である「サスティナブル」をあらかじめ浸透させていたからでもあります。 

バックキャスティングを行うにあたり、真っ先に詳細に検討した点は、「少子高齢化社会による人口減少」対策でした。競争激化や環境保護・省エネ化によるガス販売量の減少など、ほかにもさまざまな検討項目がありましたが、どう試算しても、人口減少が50年後先に最も大きく影響してくるのです。また、最も長い時間をかけないと効果が表れにくい課題でもありました。そのため、まず住みよい街づくりを目指した「地域活性化」を中心として、さまざまな施策を考えるようになりました。

例えば、当社はガス展に付随する形で「えちてんキッズフェス」を開催しているのですが、これは主婦層と子供という次世代をターゲティングしたイベントであり、かつ「子供を連れていける遊び場が少ない」との地元のニーズを反映させ、より住みよい街にするのためのイベントでもあります。

ショールームで開催しているえちてんマルシェ

そのほかにも、「新潟市秋葉区公共施設に対する電力供給」は、単に電力という新事業に乗り出したのではなく、新潟市との「持続可能な低炭素まちづくりに関する連携協定」の一部であり、その利益を市に還元することにより、地元循環型のスキームを構築するためでもあります。

また、毎月ショールームで開催している「えちてんマルシェ」および「五泉子ども食堂」は、地域活性化とショールームに新規のお客さまを呼び込むため。当社が運営している、地域ウェブマガジン「cocomo」では、地域のお店紹介による活性化とブランディングを掛け合わせたコンテンツを掲載するなど地域活性化を意識し取り組んでいます。

賛同者を巻き込み SDGs実現に邁進

次に重きを置いた点は「働きやすい職場づくり」でした。やはり、社員が安心して働ける職場こそ、「50年後、100年後も続く会社」になるのではないかと思い、「風通しの良い」「楽しい」「チームワーク」などをキーワードとして、社員をストレスから解放させることを重視した職場づくりを意識しています。

当社は、どちらかと言うと「少数精鋭」「技術第一」などを謳った組織でした。確かに、地域独占により守られた時代でしたら、インフラ会社としてこれでも良いのかもしれません。しかし、少数精鋭によるコスト削減の結果、一人一人の作業負荷が大きくなり、余裕がなくなり、その結果として、前号で述べたような雰囲気の悪い職場を促進していたのは否めませんでした。だからこそなおさら、働きやすい職場づくりを構築しようと考えたのです。具体的な取り組み例は、誌面の都合上割愛しますが、ここ数年の結果に顕著に表れています。

このように、サスティナビリティに基づく経営を推進した結果、考え方に賛同してくれる方が増え、地域のため、社員のため、お客さまのため、株主のため、そして会社の存続のための施策を展開できるようになりました。繰り返しになりますが、サスティナビリティ経営を行わなければ、ここまで賛同してくれる方は増えなかったと思います。18年には、サスティナビリティからSDGsに発展させ、「えちてん Sustainable Vision 2050」を策定し、多くの方々と「持続可能」を実現するためまい進しています。

これにて3回にわたる「私の経営論」を終了いたします。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

こいで・かおる 1974年新潟県
生まれ。98年専修大学経営学部
卒、京葉ガス入社。経理、企画、
営業などを経て2008年に越
後天然ガスに入社。供給部、専
務取締役を経て12年から現職。
越後プロパン社長も務める。

【私の経営論(1)】小出薫/越後天然ガス社長

【私の経営論(2)】小出薫/越後天然ガス社長

北海道でのコロナ禍とLP事業者の戦い 終息後を見据えた「働き方改革」


【事業者編/エア・ウォーター】

北海道胆振東部地震を乗り越え、コロナ禍でも安定供給を続けているエア・ウォーター。LPガス業界の新しい姿など、コロナ後の世界を見据えながら、さまざまな対策を考えている。

2011年3月の東日本大震災、16年4月の熊本地震、18年6月の大阪北部地震、同年9月の北海道胆振東部地震―。数年に一度の頻度で、全国各地で大規模地震が発生する日本。こうした災害はインフラ事業者に多くの教訓を残している。

LPガスを中心とした総合エネルギー事業を展開するエア・ウォーターも、そうした事業者の一つだ。かなり大きな教訓を得たという東日本大震災では、「電気がないため何もできない」という事態に直面。専務執行役員の梶原克己・生活・エネルギーカンパニー長は「日ごろからの備えの重要性を痛感しました」と振り返る。

同社はLPガスの二次基地および充填所などの重要施設を、道内全域に18カ所整備している。震災後にはその教訓を生かし、うち11カ所に自社開発したLPガス仕様移動電源車を14台配備。緊急事態下でも供給を行える体制を整えた。さらに同社も加盟する北海道LPガス協会は、道内の全市町村と防災協定を締結している。

18年の北海道胆振東部地震では、地震に伴いブラックアウトが道内全域で発生。しかし、こうした備えが功を奏し、LPガスの安定供給を途切れさせることなく、無事に乗り切っている。

自然災害への対応には実績がある同社が実施した、新型コロナウイルス感染症への対策はどのようなものなのか。

まず道内における新型コロナ禍を時系列で振り返ると、道内での新型コロナ感染者は、1月28日に初確認された。その後、感染者数が急拡大したことで、鈴木直道知事は2月28日、全国に先駆けて緊急事態宣言を発令。これに伴い、同日に社内で北海道地区の対策本部を立ち上げ、感染防止対策の取り組みを進めた。

被害を想定し最適解を計算 厄災下で安定供給を実現

これまでの災害では、北海道内でも道央や道東、道北など地域単位での対応だった。しかし新型コロナ禍は全国で感染が拡大したため、指針作りが大変だったのだという。手洗いやマスク着用、在宅勤務や時差出勤など、基本的な感染予防策はグループ全体で実施。これら共通の対策に加え、充填・配送・販売・後方支援と、業務別にもそれぞれ対策を施した。

エネルギー関連事業において後方支援部門を担当する同社生活・エネルギーカンパニーが取り組んだのは、コロナ禍の中でいかに充填・配送業務をストップさせないかを考えることだった。「まずは、各拠点に配属されている充填・配送担当の従業員がコロナウイルスに感染する最悪のケースを想定し、どれだけ感染者が発生したら業務が滞るのかをシミュレーションしました」(梶原専務)。

このシミュレーションの結果、各拠点で約10%の従業員が感染した場合までなら、余力を持ちながら滞りなく業務を行えることが判明。現場では従業員の感染リスクを低減させるよう、勤務や配送のローテーションを組み直した。一方、シミュレーションでは拠点の従業員の約30%まで感染が拡大した場合、配送業務が困難になることも判明。そのような場合に備え、充填・配送の委託やグループ会社の営業担当者にも配送業務を支援してもらうことも視野に入れながら対策を進めた。

加えて、冬季は需要期だったこと、海外でもコロナウイルスの脅威が叫ばれていたこともあり、同社では安定供給のため軒先の在庫数量をあらかじめ増やし、いかなる配送体制となっても対応できるよう取り組んでいたことも、コロナ対策が滞りなく実施された一つの要因だ。また配送・販売部門では、対面での営業を避け、コールセンターもクラスターが発生したケースを想定してバックアップセンターを設置するなどの対策を取っている。

緊急事態宣言が解除された現在の状況について、梶原専務は「現場の努力もあり、想定した最悪のケースには陥ることなく道内全域で余力を持ちながら安定供給を実現しています」と説明。依然として予断を許さない状況が続いているが、需要家にとって第一波を乗り越えたLPガス事業者の存在は、大変心強いものだろう。

潮目が変わる重要な時期 業界の新しい在り方を模索

コロナ禍は全国の電力・都市ガスなどのインフラ事業者に大きな被害を与えた。しかし梶原専務は「電力や都市ガスと異なり、LPガス業界だけが抱えているリスク」を指摘する。

LPガスは、作業員がボンベを運搬し、家庭や事業所にエネルギーを供給する。これは、発電所から電線を経由して電気を供給する電力や、プラントから導管を経由してガスを供給する都市ガスと異なる点だ。「エネルギーを届ける際、どうしても多くの人の手が介在してしまう。分散型エネルギーのため自然災害に強いLPガスですが、こと感染症に関しては電力・都市ガスと比較して、高いリスクになり得る」と梶原専務は語る。

また国内でもコロナ禍を機にテレワークやウェブ会議を利用した働き方に改める企業が増加。今後も感染症のリスクは避けがたいことから、人との接触を避けることが求められているため、対面での営業が難しくなる可能性も懸念している。

既に同社でも少ないコストで広い地域をカバーできる、LPWA(低消費電力無線通信)による自動検針の導入や、配送業務の合理化を推進。さらにウェブ上でのイベント開催や、営業ツールにもデジタル技術を取り入れる新たな取り組みの提案もあるという。

「コロナ禍を契機に、働き方や生活様式は大きく変わります。今は業界の潮目が変わる重要な時期です。災害の教訓を生かし、LPガス業界の新しい在り方を模索します」(梶原専務)

自社の改革にとどまらず、「LPガス業界のあるべき姿は何なのか」も考え続けるエア・ウォーター。考え抜いた先には、複合災害にも対応できる、より安心で、より安全な安定供給を果たし、生活者に信頼される業界の姿があるはずだ。

 LPガス供給は多くの人の手が介在するため、さまざまな対策が必要になる

エネ3業界に聞く 複合災害に向けた対応策


国民の生活に不可欠な電力・ガス・石油の主要エネルギー。災害時の対応について各業界団体から回答してもらった。

電気事業連合会/送電網の強靭化に向けた新たな責務

電力レジリエンスを強化する方策などを反映した「エネルギー供給強靭化法案」が参議院本会議で可決・成立した。一連の自然災害の反省や教訓を踏まえた「災害時連携計画」の策定など、一般送配電事業者として、送配電網の強靭化に向けた新たな責務が付加されることになるが、引き続き、電力の安定供給の維持にしっかりと取り組んでいく。

なお、災害時連携計画は、制度化に向けた具体的な時期や内容を検討していくこととされている。具体的には①一般送配電事業者間の共同災害対応に関する事項、②復旧方法・設備仕様などの統一化に関する事項、③各種被害情報や電源車の管理情報などを共有する情報共有システムの整備に関する事項、④電源車の地域間融通を想定した電源車の燃料確保に関する事項、⑤電力需給および系統の運用に関する事項、⑥関係機関(地方公共団体・自衛隊など)との連携に関する事項、⑦共同訓練に関する事項――だ。

今後、現場や地域の実態を踏まえつつ、各社と電事連が協力して災害時連携計画を作成することになる。一般送配電事業者としても、より実効性ある計画となるよう検討や協議を重ね、早期に計画案を策定し、速やかに届出できるよう取り組んでいく。

自然災害などで大規模停電が発生した場合、従前より被災電力からの要請に基づき各社が速やかに復旧応援派遣を実施し、停電の早期復旧に努めている。

昨年の台風15号に伴い発生した停電時には、全電力から多くの作業員(延べ1万6000人体制)が被災地に集結して停電復旧作業を行った。

一方、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、自然災害などによる大規模停電が発生した場合の復旧応援派遣については、地域住民や派遣する作業員への感染防止対策を万全に期すことに加えて、都道府県間の移動自粛が要請されていることが想定されるため、関係自治体のご理解やご支援、ご協力が必要だと考えている。

なお、感染防止対策の具体例としては、日々の健康管理の徹底を基本とし、作業員用のマスクや消毒液などの感染予防資材の必要数量の確保、作業環境や応援事業者の拠点などにおける三密の防止、密接・密集を避けた移動手段・宿泊場所・休憩場所の確保などが挙げられる。また、応援派遣にあたっては、派遣する作業員やその関係者への事前説明や合意が必要になると考えている。

複合災害を念頭に置く際、国や自治体、医療機関など連携する全ての機関で、感染拡大防止に最大限配慮した対応が必要であることに加え、適切な情報共有や役割分担および連携体制の構築に万全の備えをすることが必要だと考えている。 電気事業者としても関係機関としっかりと連携しながら、適切に対応していきたい。