学生時代に琵琶湖と滋賀県の魅力に惹かれ、水環境の研究者から県知事に挑戦した嘉田氏。
再エネを中心とした分散型社会の構築を目指し、県政で培った経験を国政に展開する。
学生時代に琵琶湖と滋賀県の魅力に惹かれ、水環境の研究者から県知事に挑戦した嘉田氏。
再エネを中心とした分散型社会の構築を目指し、県政で培った経験を国政に展開する。
元滋賀県知事としても全国区の知名度を誇るが、実は埼玉県出身。滋賀県との関わりは、修学旅行で比叡山延暦寺や琵琶湖を訪れたことがきっかけで、「琵琶湖とそれをとりまく滋賀の魅力に惹かれました」と振り返る。
埼玉県内の女子高を卒業後は、実家が農家だったこともあり、延暦寺のお膝元・京都大学農学部に進学。高校時代に文化人類学者・梅棹忠夫の『サバンナの記録』、今西錦司の『人類の誕生』などを読み、アフリカへの憧れを育て、当時は女人禁制だった探検部に入部。3回生の時にはアフリカで半年間フィールドワークをし、水や環境の大切さを学んだ。その後京大大学院農学研究科に進学、結婚後米国のウィスコンシン大学大学院に留学した。
留学中は、アフリカやアジアの開発問題や水環境問題を学ぶ。そこで長男を授かった。指導教官の「水や環境問題なら日本が最適」との助言により琵琶湖研究と出会う。
帰国後は京都大学大学院に戻り、子ども二人を育てながら、1981年に博士課程を修了し、滋賀県琵琶湖研究所(現・滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)に研究員として採用される。研究所では琵琶湖周辺の農村の暮らしと水との関わりや、水質汚染に悩まされていた琵琶湖流域に生息するホタルや魚の生態系を守る住民による調査活動に30年近く従事。県立琵琶湖博物館の企画・設立に携わり、同館を拠点に海外との比較研究も進めた。
政治家への道を決心したのは、日本の地域の未来に対して三つの政策転換が必要と判断し、それを滋賀県から実現したいと考えたからだ。「税金の無駄遣い、もったいない」「琵琶湖の環境、壊したらもったいない」「子ども・子育てしないのはもったいない」を訴えて、2006年に滋賀県知事選に挑戦。現職を破り、全国で5人目の女性知事として県政のかじを握った。知事を2期8年勤めたのち、14年には地域政党の「チームしが」を結成。びわこ成蹊スポーツ大学学長を経て、19年には参院選に立候補し、当選を果たした。
知事時代にUPZ問題に直面 近いエネルギーの有効活用を
エネルギー政策は、再生可能エネルギーを主力とした分散型社会への早期転換を推進した。きっかけは、福島第一原子力発電所の事故。滋賀県の北部地域は、敦賀原発、美浜原発、大飯原発のUPZ(緊急時予防的防護措置準備区域)に含まれている。福島原発事故後に、UPZの問題が全国的に取り上げられるようになったため、滋賀県も原発事故時に想定される放射線影響を表したSPEEDIのデータ開示を政府に要望。しかし「立地自治体ではない」と拒否されたことから、滋賀県独自に放射性物質の拡散シミュレーションを実施。大気汚染、水汚染、生態系破壊への予測を行い、避難体制などを整備してきた。
県知事時代の12年には、県庁職員とともに再エネ政策に注力していたドイツへの視察を実施。地域に根付く風力発電や太陽光発電などの分散型エネルギーの活用実践を目にして、深い感銘を受けた。翌13年には太陽光、風力、小水力など再エネ電源を、県内の地域特性に合わせて普及させるべく各種施策を盛り込んだ「滋賀県再生可能エネルギー振興戦略プラン」を策定した。現在も後継の三日月大造知事のもと「しがエネルギービジョン」を制定。新しいエネルギー社会と2050年CO2半減の実現に向け、まい進する。
「私が大事にするのは、遠くにあるエネルギーより、近いエネルギーを活用すること。地元にある資源を電源として活用するよう投資することで、地域で経済も循環し雇用も確保できる。昔は耕作放棄田への太陽光パネル設置は農地転用として禁じられていたが、今は違う。農作物は成長に必要な日照量が異なるため、発電しながら農業を続けるソーラーシェアリングという方法もある。AIやIoT技術の進歩もあり、自然エネルギーをさまざまな産業が交差して活用できる。災害時のエネルギー活用も分散型で安心を確保できる」
またポストコロナ社会に向け、「適疎」という考え方を強調。東京や大阪といった人が過密の場所ではなく、〝ほどほどの田舎〟に住むことが、感染症予防や生活環境、また子どもの教育の場としても重要だとする。
「滋賀県は家も広く、琵琶湖を中心に山・川・森と自然に囲まれた住みやすい地域で、PCの普及率も高くリモートワークも可能だ。こうした場所は日本中に多く、地域分散型電源を柱にした適疎社会を作れる」
座右の銘は、延暦寺を開いた最澄が残した「忘己利他」。自分よりも、まず周りの人を幸せにするという意味は「政治につながる」と感じ入った。また琵琶湖畔の自宅で朝コップ一杯の湖水をそのままいただき、顔を洗う。 「近畿1450万人の命の水源である琵琶湖の代わりはない」。静かに語る言葉の奥には、人びとの命を守るという強い思いがある。