〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス
洋上風力撤退、メガソーラー批判などで再エネ機運が低下する中、メディアの在るべき姿とは。
―三菱商事が、秋田・千葉両県沖の3海域で進めていた洋上風力事業からの撤退を発表した。
石油 当初からあの入札価格ではもうかるはずがないと言われていた。ここ数年で事業環境が大きく変化したことは事実だが、見通しが甘かったと言わざるを得ない。先日行われた法定協議会で資源エネルギー庁は、制度を見直して速やかに再公募を進めるとしたが、商事が撤退した案件に手を挙げられる事業者はいるだろうか。朝日は社説で、「持続可能な制度の再設計が急がれる」としていたが、これも上っ面の指摘だ。事業撤退が与える影響をきちんと報道しているメディアがないのは残念だ。
ガス ラウンド2、3の事業者を含め国内の洋上風力はどこも厳しい状況で、商事の撤退も取り沙汰されていたが、総撤退は驚きだ。事業性はそれぞれ異なるだろうから、継続できる海域もあったはず。それでも全てから撤退したのは、地元対応を考慮した上での判断だろう。FIP(市場連動買い取り)転が正式に制度化されればもう逃げられず、その意味ではギリギリのタイミングでの意思決定だった。
電力 商事はもちろん、制度設計においても見通しが甘かった。容量市場や長期脱炭素電源オークションにも言えることだが、当時はデフレを前提としており、物価変動分をどう織り込んでいくかという視点が抜け落ちていた。価格に反映できないのであれば、制度でどう手当てするのかを示しておく必要があった。
―洋上風力全体の信頼を損ないかねない。
石油 入札した海域の自治体では一部投資が始まっていたわけで、撤退後にこれらの処遇をどうするのか。一度こうしたことが起こると、地元の協力は得にくくなるし、責任は大きい。商事の中西勝也社長は「地域共生策を継続したい」ときれい事を言っているが、撤退したら資金援助も許されないわけだから。
ガス 洋上事業が総崩れしないか心配だ。コストの問題はあるものの、再生可能エネルギーの容量拡大に最も寄与する洋上風力が立ち行かなくなれば、第7次エネルギー基本計画とも齟齬が生じてくる。国全体でサプライチェーンの構築を進め、事業環境を整備する必要がある。
メガソーラーは世論主導? 一貫性のある報道を
―釧路湿原周辺で進むメガソーラー建設計画に対し、地元団体や著名人を中心に批判の声が広がっている。
電力 感情論で議論が進んでいる印象。湿原一帯がパネルで埋め尽くされている光景はインパクトが大きい上に、最初に宇大々的に取り上げたのはネットメディアだったからそうなるのも仕方がないが。ただ、本来は規制区域の外で許可を得て進めているのであれば問題はないはずで、こうした観点から建設の事業性や妥当性が検証されるべきだった。一連の報道ではマスメディアが否定的な世論を助長しているだけに見えた。
ガス 北海道が森林法違反を理由に工事中止を勧告しており、その点については批判されても仕方ない。もっとも、これには「違反項目を後出ししてきた」との声もある。
石油 新聞はこの件をあまり取り上げていない。日経も、本紙での掲載はなかった。産経こそ大きく取り上げたが、読んでみればSNSの発信を後追いしたに過ぎず、現地取材に基づいて問題提起をするような内容ではなかった。千葉県鴨川市のメガソーラーについても取り上げているが、これもアルピニストの野口健氏の発信ベースだ。
―再エネを取り巻く状況が変わってきた。
ガス 以前はメリットばかりを強調するような報道が見受けられたが、コスト面など現実的な側面が語られるようになってきており、勢いやスピード感は落ち着いてきた。事業者としては、トーンダウンしている今のうちに技術開発や設備投資を進めておくのがベターだ。
電力 再エネ自体に後ろ向きの流れができてきている中で、左派系メディアのスタンスが変わりつつある。朝日も再エネを直接批判こそしないが、制度の問題点や実現性を指摘し出している。否定的な世論に迎合するのではなく、地に足のついた報道をしてほしい。
石油 右派系メディアの論調は一貫している。むしろ、これまで「右寄り」とされてきた主張が、いまでは中間的な立場に近づきつつある。
電力 同時に見直されてきたのが原子力だ。関西電力が美浜4号機の建設に向けて現地調査を再開できたのも、こうした流れがあってのこと。計画自体は以前からあったが、以前はとても実行できる空気ではなかった。今なら、地元でも大きな反対の声は出にくいのではないか。
―中間貯蔵施設では、中国電力が山口県上関町での建設を技術的に「可能」と判断した。
電力 関電は一昨年、「年内に県外で施設を確保する」と福井県と約束していたが、当初搬出先として検討が進んでいた青森県むつ市の中間貯蔵施設の共同利用は、当時の宮下宗一郎市長に反対されたこともあり、うやむやになっていた。ここにきて上関での建設が前進し始めたのは、関電としては大きい。
ガス 山口県としても、使用済み核燃料税などを考えればメリットがあるはずだ。
石油 いずれにせよ長年止まっていた話が動き出したわけだ。県がどう判断するか、注目だね。
―停滞してきた議論が活発になる中、メディアが世論形成に果たす役割もまた、問われようとしている。


