ノーベル賞受賞で注目のMOF エネ分野での活用にも期待


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

今年のノーベル化学賞は、MOF研究で成果を残した日本人を含む3人が受賞した。

多様な場面で社会課題解決に資する可能性を秘めるが、現状に至るまでは苦労もあった。

スウェーデン王立科学アカデミーは10月8日、今年のノーベル化学賞を、京都大学の北川進・特別教授、リチャード・ロブソン・メルボルン大学教授、オマール・ヤギ・カリフォルニア大学バークレー校教授に贈ると発表した。受賞理由は金属有機構造体(MOF)の創出だ。北川博士は世界に先駆けてMOFの合成とコンセプトの確立に成功した。ガスの分離・吸着・貯蔵、触媒反応の場、環境汚染物質の除去などさまざまな応用が期待できる。

ロブソン氏は1989年、溶液中で有機分子(有機ニトリル化合物)と金属イオン(銅イオン)が結合した3次元ダイヤモンド型構造を持ち、内部に大きな空洞が存在する物質を合成することに成功した。固体内部の空間には、分子やイオンが出入りできることを実験的に示した。MOFの原型となるものだが、この物質は空洞内が溶媒で満たされていないとすぐに壊れてしまう。つまり溶液から取り出すことはできなかった。

受賞決定時の北川氏(左から2人目)


受賞までの秘話 苦節の時期も経験

北川氏は、京大大学院工学研究科で博士号取得後、近畿大学で助手、講師、助教授とキャリアアップしていく中、多孔性材料に関する研究を始めた。近畿大で92年、細孔に有機物を含んだ多孔性配位高分子の合成に成功。物質の構造を解析するため、京大大型計算機センターを利用した。研究のターニングポイントを次のように振り返る。

「非常に巨大なデータを入力して、それを計算してということを何回か繰り返して構造を計算します。朝8時前に来たときはガラガラで仕事がはかどったのですが、昼ぐらいになると京大の研究者がどんどん出てきてやりだす。当時は手作業でデータを入力していたので時間がかかります。データを入れたら1~2時間以上待つ。時間があるので途中の構造を見たら、きれいに無限の穴が空いていて、中に有機分子が入っていたのです。それまでは穴が空いていない密度の高いものを作る努力をしていたのですが、その構造を見た時に、これは面白いとピーンときて非常に興奮しました」

その後、東京都立大学の教授になり、97年には多孔性配位高分子の弱点であった脆さを解決するため、金属イオンと有機配位子が噛み合う構造にするという新しい発想で、気体分子を大量に吸蔵できる多孔性配位高分子を世界で初めて合成した。気体を吸着・放出できる固体という新しい概念が確立された。

ただし、この成果は最初なかなか受け入れられなかった。北川氏は「97年にガスが可逆的に吸着し、壊れないという論文を出して、アメリカでのサマータイムに権威者が集まる会で発表したら、『そんなの本当か』という感じで非常に叩かれました。そういう学会に参加したのは初めてだったので部屋も予約しておらず、ようやく取れた部屋が一番上の狭い部屋で、蒸し暑い温室の中にいるような気持ちの中で、涙か汗か分からないものが出ました。それでも、この研究成果は実験してしっかり見つけたことなので、一切揺らがず、さらに進めていこうという気持ちでいました」と話す。

寿都町長選で片岡氏が7選 概要調査への移行が焦点に


高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定に向け、概要調査への移行の是非が争点となっていた北海道寿都町長選の投開票が、10月28日に行われ、現職の片岡春雄氏が反対派の元町議の大串伸吾氏を破り、7選を果たした。

支援者らと喜びを分かち合う片岡氏
提供:時事

同町では2020~22年にかけて原子力発電環境整備機構(NUMO)による文献調査が実施され、昨年11月に報告書を受領済みだ。次の段階の概要調査に進むには町長と鈴木直道知事の同意が必要となるが、鈴木氏は現時点では反対姿勢を崩していない。

片岡氏は、その判断材料とするため住民投票を行う方針だが、仮に賛成多数の場合でも、判断を急ぐつもりはない。その背景には、最終処分の議論が「北海道だけの問題」と受け止められつつあることへの危機感がある。

この点について、道側も同様の問題意識を持っており、鈴木氏は11月の定例会見で「北海道だけの問題になるのはおかしい。国民的議論が深まっているかというと、そうとは思えない」と述べている。

現在、文献調査を受け入れている自治体は寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町の3カ所にとどまる。片岡氏は調査地点を全国に広げるためにも、候補地選定プロセスを自治体の応募に依拠する「手挙げ方式」ではなく、国が全国の自治体に調査を依頼するといった方法に転換すべきだと主張してきた。

高市政権の下、原子力の活用へと前進するからには、同時に最終処分を含めた「出口戦略」の議論を進めることが重要だ。(多事争論に関連記事)

【視察②】実際目にして得られた再発見 随所に潜む日本への示唆


【エネルギーフォーラム主催/海外視察・団長記】

山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授

「百聞は一見に如かず」。使い古された故事だが、今回の視察の成果は、まさにこの言葉が意味する再発見であった。

フランス・パリで最初に訪問した国際エネルギー機関(IEA)は、1973年の第一次オイルショックを受けて翌年に設立された。IEAの使命はエネルギー安全保障の確保だが、付随的に中長期のエネルギー需給見通しやエネルギー技術・開発の促進も担っている。


フロントからバックエンドまで 原子力大国の実力垣間見る

IEAは1月に「原子力の新時代への道筋」を発表した。世界的に脱炭素が求められる一方で、データセンターや半導体工場の急伸にどう対処するか。同レポートは原子力発電の比較優位性の復活を強調し、エネルギー安全保障というIEAの基本理念に立ち返り、その有用性、重要性を説く。筆者も参加した総合エネルギー調査会基本政策部会での第7次エネルギー基本計画の議論などにおいてもプレゼンがなされた。

改めて詳細な説明をいただいたが、例えば廃炉費用や最終処理に要する費用の捉え方については、日本国内の議論とは若干の隔たりを感じざるを得なかった。IEAの分析を日本国内の議論にどう生かすか、ある意味では一つの課題であろう。プレゼンには日本からの出向者も参加していた。日本におけるコミットの在り方と国際標準的な認識を共有することの可能性に期待したいと思う。

オラノ社でのプレゼンの様子

原子力政策を論じた後は原発自体の見学である。訪れたグラヴリーヌ原発は90万kW級の原子炉6基を有し、世界第5位、欧州第2位、そして西欧州最大の原発である。フランス電力(EDF)が所有し、原子力大国の象徴的存在と言えようか。筆者のような技術的門外漢にとっては、加圧水型原子炉故に内部を間近に観察できたことの意味は大きい。

ただ、ここで感じたのは原発を包摂する周辺自治体の「眼」の差異である。福島の影響は計り知れない。自治体との関係性をいかに再構築するかについて何らかのヒントが得られるのではないかと感じた。

2日目は原発を裏側で支えるオラノ社から始まった。世界最大の原子力産業会社で、旧アレバ社の再編によって生まれた。ウラン採掘から転換、濃縮、再処理といった一連の核燃料サイクルを手掛け、仏政府が主要株主となっている。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料製造・輸送や青森県の六ヶ所再処理施設への技術協力など、日本との関係も深い。

世界的にオラノの役割は大きく、政府出資が社の信頼性や社会における受容性に結びついていることは否めない。視察で明確になったのは、核燃料サイクルの担い手自らが地域との関係性の強化に腐心していることで、同社最大の再処理工場ラ・アーグでは地元の情報委員会などを通じて多くの対話を行っているという。日本でも、民間自ら表に出ることの効果が理解されるべきであると感じた。


電力取引のマイナス価格 日本と異なる電源の運用面

2日目メインはエンジー社。仏政府が4分の1程度の株式を保有し、30カ国・約9・8万人の従業員を抱える世界最大規模の総合エネルギー会社である。日本の電力システム改革の初期にしばしば言及された「総合エネルギー企業」に当たる。同社は国営ガス会社・GDFの民営化により生まれた。英国で旧BGから出発したセントリカにも言えるように、電力との比較でガス会社が持つ顧客接点の近さが市場拡大のエンジンだと論じられる。

エンジーの戦略は、ガス事業中心の企業から再生可能エネルギーや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換で、三つのユニット体制を取る。①Renewables &Flexibility、②Infrastructure、③Supply & Energy Management―である。

議論で興味を引いたのは、マイナス価格問題である。仏の電力市場ではマイナス価格が採用されている。変動電源による供給過剰時に価格をマイナスにする仕組みであり、マーケットメカニズムの観点からは極めて明快な施策である。日本では制度改革の一環として論じられたが、採用するに至っていない。主な理由は、原子力や一部火力などの出力制御が難しく、価格がマイナスになれば発電側に不利な取引に至る可能性があるためであろう。ではなぜ原子力中心の国でそれが受け入れられたか。同社の説明では、EDFは日中の太陽光過多時に原子力の出力を最大2000万kW削減するという。原子力は出力抑制可能な電源という前提での施策なのである。

フランス最後の訪問先はジミー・エナジー社。2020年に設立されたスタートアップで、小型モジュール炉(SMR)を使用して産業用の熱供給事業を行なう。独自の高温マイクロ原子炉を開発し、CO2を排出せずに産業用熱を提供するとして、26年までの商用化を目指している。こうしたイノベーションやスタートアップが、原子力という既存技術の価値を上げることは間違いがない。

【視察①】原子力と分散型先進国を行く 仏独のエネ事情の実態調査


【エネルギーフォーラム主催/海外視察】

日本で第7次エネルギー基本計画に基づき各政策の見直しが進む中、原子力大国・フランスと、エネルギーヴェンデや地域分散型の取り組みが進むドイツの実情とは―。本誌は今秋、山内弘隆・武蔵野大学特任教授を団長に、仏独のエネ事情を調査する視察団を主催。本誌記者のレポートと団長記でその模様をお届けする。

 10月27日~11月2日、フランスは原子力、ドイツは地域分散型やエネルギー転換をテーマに関連組織・企業8カ所を訪問した。電力・ガス・交通・通信などのインフラ系、メーカー、コンサルなど幅広い業種の19人が参加した。山内弘隆団長は視察先で、日本では第7次エネルギー基本計画でカーボンニュートラル(CN)を前提に現実路線の政策転換を打ち出したことや、電力・ガスシステム改革の検証が進んでいることを紹介。参加者からは多彩な質問が飛び交い、活発に意見交換を行った。


IEAが「原子力復活」強調 原発の出力調整が当たり前

最初に入国したフランスの視察先は、国際エネルギー機関(IEA)、グラヴリーヌ原子力発電所、オラノ社、エンジー社、ジミー・エナジー社だ。皮切りとなったIEAではまず、日本の原子力小委員会でも取り上げられたレポート「原子力の新時代への道筋」の要点を担当者が解説した。強調したのは、近年原子力が力強く復活しているということ。建設中の原発は7000万kW超であることや、データセンター(DC)建設ラッシュを受け小型モジュール炉(SMR)も建設計画が最大2500万kW(検討中含む)と勢いがある。

原子力のレポートを解説するIEAの担当者

ただ、世界的に過小投資が懸念される中、民間がプロジェクトを計画通り実施できるよう、政府による道筋の明示と支援が不可欠だと指摘した。

後半は電化と電力セキュリティについて。プレゼンターのPortugal Isaac氏が注目するのがアイルランドで、執筆中(当時)の報告書の触りを披露した。独立系統下で再生可能エネルギー比率が高く、DC負荷の増大が課題だが、規制を設け新設を再開する方向で「日本にとっても知見となる」とアピールした。

国際動向をインプット後、パリから車で4時間かけ最北部のノール県にあるグラヴリーヌ原発に向かった。運営者のフランス電力(EDF)は2年前に完全国有化された。加圧水型炉(PWR)で6基合計540万kW、同国の電力生産量の約14 %(2024年)を賄う。6基とも運転期間40年超で、新たに2基建設する計画もある。

グラヴリーヌについて説明する発電所長

日本との大きな違いは出力調整を行う点だ。20~100%の間で調整し、同発電所では平均1日2回実施。これは後のエンジーでの話にもつながってくる(団長記参照)。また、設備は何度もアップデートし、福島の教訓も踏まえ、安全性向上に向け14~28年に40億ユーロもの投資を実施中だ。

実際建屋に入ると、日本のサイトより圧迫感がなく、停止した別のサイトのタービンを予備で置けるほどゆとりがあった。


核燃サイクルがビジネスに 総合エネ企業の経営戦略は

翌朝訪れたオラノ社は、核燃料サイクルに関するあらゆる工程を担うグローバル企業で、政府が主要株主だ。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を含め年間6000件の核物質輸送を行う。

再処理施設のラ・アーグではこれまでに4・1万tの使用済み燃料を再処理し、メロックス工場では3200tのMOX燃料を製造。両施設は45~50年まで稼働させ、同時に次世代工場の40年代稼働開始を掲げる。国の支援をバックに、サイクルがビジネスとして成立している点は意味深い。対応者からは、青森県・六ヶ所工場の竣工を願うとのエールも送られた。

続いて世界的総合エネルギー企業のエンジー社で、前身のガス事業中心から、再エネや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換に向けた経営戦略を聞いた。ただし、特に産業・暖房分野を念頭に「ガスは当面残る」(Dario Acquaruolo・ENGIE SEM GBU幹部)とし、将来的な「脱炭素ガス」への移行の必要性も語った。

世界30カ国で展開するエンジー

後半は欧州の電力・ガス市場に関する意見交換を行った。

その後は原子力スタートアップのジミー・エナジー社へ。高温ガス炉による産業用熱供給という斬新なビジョンを掲げる。Antoine Guyot・共同創設者兼CEOは「フランスでは電気は十分」「ガスより安く熱供給できる原子炉を作るというチャレンジだ」と力説する。日本ではまず出てこない発想であり、その行方が注目される。

市場開設からはや2年 炭素クレジット市場を総括


【マーケットの潮流】松尾琢己/東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長

テーマ:カーボン・クレジット市場

自主的な排出量取引の場として、カーボン・クレジット市場が開設され2年が経過した。

クレジット価格が上昇傾向にあるが、こうした背景と展望について東証の担当者が解説する。

東京証券取引所(東証)のカーボン・クレジット市場が開設からはや2年目が経過した。本誌では、過去2回、直近では昨年12月号で1年経過後の取引状況をご紹介したところであるが、それ以降、カーボン・クレジット市場を取り巻く状況は大きく変化している。

具体的には、GX(グリーントランスフォーメーション)の排出量取引(GX―ETS)の来年度からの本格導入(第2フェーズ)について、昨年は内閣官房「GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ(専門WG)」における検討、その検討結果の今年2月の閣議決定「GXビジョン2040」への反映、さらにそれに基づく第2フェーズ実施のための法改正として、5月28日に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」の一部改正が成立し(6月4日公布)、来年4月1日から施行されることとなった。加えて、 今年7月2日から、改正GX推進法に基づく排出量取引制度の制度設計に関する技術的事項について産業構造審議会において審議すべき事項について「排出量取引制度小委員会(小委員会)」における検討が開始され、年内に取りまとめが行われる予定となっている。

本稿では、こうした政策動向を踏まえながら、それ以降の歩みを振り返りつつ、今後の展望について言及したい。なお、以下、文中における意見などは個人的見解である。

東証は、23年10月11日に、まず「J―クレジット」を対象にカーボン・クレジット市場を開設したが、今年9月8日、市場開設来の累計売買高が節目となる100万tに到達したところである(期間中の約定成立日は466日中363日・78%)。市場開設来、直近(11月13日)までの売買高は合計104万4307t―CO2、一日平均2048t―CO2となっており、継続的な取引と価格公示につながっていると思料する。

また、カーボン・クレジット市場参加者の登録者数も順調に増加し、市場開設時点の188者から、直近で340者となっている。

J―クレジットのうち省エネと再エネ(電力)の価格・売買高推移


マーケットメーカーが機能 価格は上昇傾向が続く

J―クレジットの売買状況であるが、昨年までと同様、引き続き、「再生可能エネルギー(電力)」(再エネ・電力)が7割弱、「省エネルギー」(省エネ)が3割弱を占めている。これは、経済産業省が両クレジットについて売払いを実施しており、J―クレジットの流通の中心であることに加え、当該売払いでのクレジット調達・売却などを背景に、23年度(試行)、昨年度に引き続き今年度も両クレジットについて、マーケットメーカーを指定(4社)し、継続的なマーケットメーク(一定値幅・数量の売り・買い注文の実施)の貢献も挙げられる。

両クレジットの売買状況をもう少し詳しく見たものが、図のグラフである。まず、再エネ(電力)については、昨年4月に実施した当該売買の区分の見直し(同区分に属する方法論からバイオマス由来のクレジットを切り出し)を契機に、価格が上昇し、今年2月、4月にこれまでの最高価格6600円をつけている(直近では5900円)。市場関係者の声を総合すると、このクレジットがCDPやSBTiで認められるスコープ2(系統電力消費)をオフセット可能なことに着目した需要と言われている。他方、省エネについては、市場開設来、昨年10月頃までは、1600円程度で推移していたものの、 それ以降価格が上昇し続け、今年10月9日にこれまでの最高価格5450円をつけている(直近では5400円)。この価格上昇の背景については、以降の部分で若干の説明をしていきたい。


基準明確化で省エネ需要増 排出枠と価格制度に注目

GX推進法などに基づき、来年度導入予定のGX―ETS第2フェーズの制度を整理すると、①制度対象者は平均年間10万t以上排出する事業者、②排出枠は、年度ごとに制度対象者による政府方針に沿った割当申請(登録確認機関の要登録)に基づき無償交付、③制度対象者の義務は、年度ごとの排出実績と同量の排出枠の保有(翌年度1月末)、④J―クレジットおよびJCMは、排出実績の10%を上限に実排出量をオフセット可能、⑤ペナルティとして、排出枠の不足×上限価格の1・1倍の金額支払い、⑥排出枠取引所はGX推進機構が運営、⑦排出枠の上下限価格が設けられる(上限価格での金銭支払いでの義務履行/下限価格でのリバースオークションの実施)となる。

先述した省エネの価格上昇は、市場関係者の声を総合すると、この④の適格クレジットと関連している。具体的には、昨年10月の専門WGにおいて、適格クレジットはJ―クレジットおよびJCMのみとする(海外のボランタリークレジットは認めない)方針が示されたことで、現時点で排出枠が存在しない中で、事実上、排出枠と同じ効果を持つ適格クレジットのうち、流動性があり比較的割安な省エネを購入する需要が入っているものとみられる。

以上のように、今後のJ―クレジットの価格動向もGX―ETS第2フェーズの影響を強く受けることになると思われるが、実際には、排出枠の価格動向は、小員会で議論される排出枠の政府の割当方針(原則ベンチマーク方式)、上下限価格の設定などによるところも大きく、引き続き政府における検討状況を注視する必要がある。

まつお・たくみ 1992年東京証券取引所入所。派生商品部、総合企画部などを経て、2022年から現職。

ガソリン暫定税率が年内廃止 財源や重油補助金はどうなる?


ガソリン税の旧暫定税率が12月31日に、軽油引取税の同税率が来年4月1日に廃止となる。流通の混乱を避けるため、現在支給している補助金は2週間ごとに積み増し、12月11日には暫定税率と同額となる。

与野党6党が暫定税率廃止で合意したが課題は山積している
提供:朝日新聞社

廃止を主導した野党は「国民の1票が政治を動かした」と胸を張るが、与党や政策当局にとってはここからが正念場だ。廃止によって失われる1・5兆円もの巨額財源をどう確保するのか。ワンショットの給付金などと異なり恒久減税のため、赤字国債で賄うのは望ましくない。税収上振れ分の活用を主張する向きもあるが、インフレによって歳出も増えているので一筋縄ではいかない。

自動車関係諸税の増税も困難な状況にある。米国関税の影響に対抗すべく、国内需要を維持したい自動車業界がユーザー負担軽減を求めているからだ。EV化を念頭に置いた走行距離課税については、片山さつき財相が「具体的に検討していない」と参院予算委で答弁した。

灯油・重油、航空機燃料への支援を継続するかという論点もある。ガソリン、軽油とともに補助金の対象となっており、片や減税、片や補助廃止というのは、各業界が納得しないだろう。特に重油への補助は漁業経営にとって死活問題だ。

エネルギー価格を巡っては来年1~3月、今夏から規模を倍以上に増やして電気・ガス料金補助が復活する。4度目の復活だが、料金補助は価格高騰に対する対処療法に過ぎない。政府は既設炉の再稼働や円安是正といった根治療法に、いつ本腰を入れるのだろうか。

国際規格で持続可能な経営へ エネ分野で戦略的導入を


【識者の視点】漆原将樹/BSIグループジャパン社長

環境と経営を革新し企業の競争力を高めるため、欧米ではISOの戦略的導入が進む。

企業活動の環境負荷低減と収益性向上の両立、さらには社会への貢献も期待できる。

近年、世界的なエネルギー危機が深刻化している。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を契機に、原油や天然ガスの供給不安が広がり、電力料金の高騰が各国で続いている。また、地球資源の枯渇を防ぐため、企業活動にサステナビリティを組み込むことが欠かせない。

こうした状況の中で、企業や自治体がエネルギー消費を効率的に管理し、持続可能な社会の構築に寄与する手段として、国際規格「ISO14001(環境マネジメントシステム)」や「ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)」の活用が、ESG(環境・社会・ガバナンス)時代の「E(環境)」を支える戦略として注目されている。これは、脱炭素社会の実現に向けた国際的な潮流の一環であり、持続可能性を競争力の源泉とする「サステナビリティ経営」への転換が重要である。

日本ではISO50001の導入はごく一部にとどまる

ISO規格は、製品やサービスの品質、安全性、効率性などを国際的に統一するために策定された、世界で共通して用いられる基準である。そして、その国際的な基準づくりを英国規格協会(BSI)が長年にわたりけん引してきた。

BSIは1901年に設立された世界初の国家規格協会であり、ISO(国際標準化機構)の創設メンバーでもある。世界中で多くの組織が認証を取得しているISO9001(品質マネジメントシステム)の原案となった英国国家規格BS5750や、ISO14001の原案であるBS7750の策定において中心的な役割を果たすとともに、国際規格の発展に大きく寄与してきた。現在も世界の課題に焦点を当て、新たな基準を策定し続けており、グローバルに認証・検証・研修を展開することで、社会全体の改善に貢献している。

本稿では特にISO50001を取り上げるが、その原案であるBS16001の策定においても一翼を担っている。


欧州では活用が浸透 経営戦略として重視

ISO14001は、企業が環境負荷を低減し、法令順守を確保するための仕組みを提供する。一方、ISO50001は、エネルギー使用量と効率を可視化し、定量的に評価することで、省エネ法への対応はもちろん、エネルギーコストや温室効果ガス排出の削減にもつながる。

認証取得に向けた取り組みにより、企業はエネルギー方針の策定、エネルギーレビューの実施、目標設定、教育・訓練、設計・調達の見直しなど、組織全体でエネルギー効率を高める取り組みを体系的に進めることができる。特に、経営者のコミットメントが求められる点は、単なる技術的改善にとどまらず、経営戦略の一環としてエネルギーマネジメントを位置付けることを意味する。

両規格に共通する特徴は、構成にPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)が組み込まれている点にある。これにより継続的な改善が行われ、持続可能な経営の基盤となる。

日本企業においては、ISO14001の取得は普及しているものの、ISO50001の導入は欧州諸国などに比べ遅れている。IAF(国際認定フォーラム)が発表したISOサーベイ2024によると、本規格の認証取得数はドイツ・イタリア・英国・スペインなどの欧州諸国では1000件を超えているのに対し、日本では100件未満に留まっている。このことからも、日本における本規格の浸透度はまだ十分でないと言えるだろう。

多くの日本企業が法令順守やCSR対応を目的にISO14001規格を導入しているが、ISO50001は、エネルギーの〝実効的な改善〟と脱炭素戦略の一環として位置付けられ、ハードルが高く捉えられる傾向にあり、普及が進みにくい状況にある。

電力・ガス各社が総じて増益 収益多角化で最高益相次ぐ


電力・ガス各社の2026年3月期上期連結決算が出そろった。猛暑による電力販売量の増加や、海外事業の堅調な伸びの押し上げ効果により、軒並み前年同期比増益。最終利益が過去最高に達する企業が相次いだ。

まず大手電力10社については、北海道、東北、東京を除く7社が最終増益となった。中でも四国は、前年同期比20・2%増の496億円と過去最高を記録。伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)3号機の定期検査がなくフル稼働できたことも功を奏した。昨年12月に島根原発(松江市)2号機を再稼働させた中国も、燃料費が減少したことなどから、同25・3%増の647億円となった。

記者会見する東京ガスの笹山晋一社長(10月29日)

一方で大幅な赤字を計上したのが東京だ。第1四半期に燃料デブリ取り出しに向けた準備作業費用を織り込んだ影響で、上期として過去最悪の7123億円の赤字に陥った。

大手都市ガス4社は全社が最終増益となった。このうち、過去最高を記録したのが東京と大阪だ。東京は、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業における販売単価の上昇が後押しし、同約8倍の1296億円に。大阪も海外エネルギー事業の利益拡大などにより、同86・7%増の948億円を記録した。

こうした好業績を受け、多くの企業が通期予想を上方修正した。だが、エネルギー事業を取り巻く事業環境は依然として不透明感が強い。米トランプ政権による関税政策などの動向も注視していく必要がある。持続的な成長へ、各社とも多角化による経営基盤の強化を急ぐ。

新潟県が柏崎刈羽の再稼働同意へ 13年ぶりの運転へ大きく前進


新潟県の花角英世知事が、ついに柏崎刈羽原発の再稼働容認を判断した。12月県議会の議論を経て正式同意に至る公算が大きい。再稼働に前向きな自民党が過半数を占めており、同意が得られれば来年2月ごろにも6号機が営業運転を再開する見通し。

県内同意を巡る再稼働議論は他県に類を見ない異例の経緯をたどった。原子力規制委員会が事実上の運転停止命令を解除したのは2023年末。そこから2年を要した背景には、県民の東京電力に対する根強い不信感と、それを反映した自民党内の意見分裂があった。

事故想定訓練を前に説明を受ける新潟県の花角英世知事(手前左から2人目)
提供:共同

「新潟に半導体工場を持ってこい。話はそれからだ」「チェルノブイリ原発を見たら原発はいらない」─。議長経験のあるベテラン議員らが独自の主張を繰り返し、県政与党が一枚岩になり切れない様子を尻目に、花角氏は真剣に出直し知事選の可能性を探っていた。再稼働に前向きな中堅議員は「米山隆一前知事の辞任後、自民党が出馬を頼み込んで立候補してもらったのが花角さんだ。本来なら議会が再稼働を求める決議を出して知事を支えるべきだった」と語気を強めるが、こうした声は党内でかき消された。

今年3月には、市民団体が県民投票条例制定を県議会に直接請求したが否決。10月議会では、国が財政支援の対象自治体の拡大や避難道路整備の全額国費負担を表明し、東電も10年で1000億円程度の資金拠出や1、2号機の廃炉検討など、地元の要望に応じる姿勢を示した。党内ではようやく「合格点」との評価が広がった。


知事選で野党系勝利の不安 「5次総特」策定に弾み

仮に再稼働が実現しても、先行きはなお不透明だ。来年6月には知事選を控える。官僚出身で安定感がある花角氏への支持は一定程度あるものの、県民の間には「飽き」も見え始めている。こうした中、出馬が取り沙汰される米山氏は「あまり力のない人を出すわけにもいかない。(出馬を)避けられなくなったら行くしかない」と含みを持たせる。出馬となれば、県民投票の実施を公約に掲げる可能性があるという。

一方、東電にとって再稼働の意義は計り知れないほど大きい。18年から赤字が続くフリーキャッシュフローや20・3%の自己資本比率の改善に向けて、1基当たり1000億円規模の収益改善効果は経営再建の生命線だ。遅れている第5次総合特別事業計画の策定にも弾みが付く。就任8年目を迎えた小早川智明社長の「花道」となる可能性もささやかれている。

福島事故の当事者である東電が再び原発を動かすことは、日本が原子力とどう向き合うかを示す象徴的な出来事となる。県民意識調査では若年層の半数以上が「日本には原発が必要だ」と回答した。その期待に応えるべく、安定稼働という実績で信頼を獲得していくしかない。

福島県が水素の総合展示会を開催 活用推進のトップランナーを目指す


【REIFふくしま2025】

福島県は再生可能エネルギーと水素の展示会「REIFふくしま2025」を開催した。

最先端の導入事例などを紹介し、先陣を切って取り組む姿勢を示した。

福島県は2040年に県内エネルギー需要の100%を再生可能エネルギーから生み出す「福島新エネ社会構想」を掲げている。この構想の下、10月16、17の両日、再エネと水素の展示会「REIFふくしま2025」を郡山市で開催した。県内外から225の企業や団体が出展。4722人が来場した。

トヨタの第3世代FCスタックに注目
デンソーのブース


FCVセルを応用 熱の燃料転換に貢献

特に来場者の関心を集めていたのが再生可能エネルギー電気由来のグリーン水素を活用する展示だ。デンソーとデンソー福島(田村市)は、グリーン水素をアフターバーナーの燃料として活用する取り組みを紹介した。デンソー福島の工場敷地内の太陽光発電(1000kW)で発電した電気を使用し、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)に採用するFCセルで水素を製造している。FCセルは400kWの電気で1時間当たり8kgのグリーン水素をつくり出す。この水素をパイプラインで工場へ供給し、ラジエーターなどの生産工程で、製品を加熱する脱脂、ろう付け炉で使用する。これまで同用途向けの燃料はLPガスだった。これを水素燃料転換することで燃焼温度を下げNOXの発生を抑えた。

同工場の水素設備は、20フィートコンテナにパッケージ化されたもので、1カ月に約1・5tの水素を生産し2日分を貯めることができる。デンソーでは、この設備導入で得た安全対策やメンテナンスの知見を蓄積して、他の工場への展開を計画する。

自治体では浪江町が町内の取り組みを紹介した。同町は、全国に先駆けて水素タウン構想を掲げ、20年に稼働を開始した世界最大規模の水素実証拠点「福島水素エネルギー研究フィールド (FH2R)」を中心にさまざまな規模で水素事業を進めている。業務向けでは、FH2Rで生成した水素をトレーラーで運び、貯蔵、50‌kW燃料電池で電気と熱を付近の温浴施設へ供給する取り組みを行っている。水素供給は柱上パイプラインでも計画する。家庭向けでは水素をシリンダーで民家へ配置、家庭用FCで発電する電気を自己託送で供給することなどを行っている。

浪江町のブースで配布していた資料

産業技術総合研究所傘下の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の古谷博秀所長は福島県の水素地産地消について、「県が先端的に取り組む水素地産地消ではさまざまな技術のアイテムがそろうだろう。再エネの特徴を使い分けし、まずBCP対応を建物や通信系などの重要設備で実現し、カーボンニュートラル化が難しい工場での高温熱利用などで実用化が進んでいく」と展望した。


オンサイトの事例紹介も P2Gの導入進む

展示会には、県を挙げて水素に注力する山梨県もブースを構えた。同県は東京電力ホールディングス、東レと水素事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立、今年10月にはサントリー白州工場(山梨県北杜市)に1万6000kW規模のパワーtoガス設備を導入したばかりだ。

住友ゴム工業の工場をVR体験

同設備は福島県内でも採用されている。ヒメジ理化は半導体用石英ガラス工場(田村市)にYHCのP2Gシステム(1万4800kW)を設置。同工場所有のメガソーラーなどを利用しグリーン水素を生成、バーナー用燃料として利用する。同社では他の工場にも水素を供給する計画だ。住友ゴム工業白河工場(白河市)も水素サプライチェーン構築を目指す。YHCのP2Gシステム(500kW)を導入し、白河工場のタイヤ製造に活用する。

大熊町のベンチャー企業・OKUMA TECHはFCドローンを開発する一方で、次世代水素キャリアの粉体・固体水素開発も進めている。水素を粉体・固体で貯蔵後、加水・水分除去し水素を取り出す活気的なもので、常温常圧で貯蔵することにより、水素の低コスト化につなげていきたい考えだ。

OKUMA TECHのFCドローン

展示会の最終日のトークセッションには内堀雅雄福島県知事が登壇した。「福島県は水素普及をトップランナーで進めていく。持続可能な、災害に強い町づくりを水素利用で加速していく。水素を身近なエネルギーに変えていくチャレンジを通し未来を変えていく」と述べた。2日間にわたる展示会は盛況のうちに閉幕、知事のメッセージに込められた水素の輪を広げる挑戦を示す内容だった。

電力増大対応のコストを誰が負担? 米国事例を基に日本のルールを考える


経済成長の命運を握るデジタル産業の発展を支えるには、安定した電力供給が欠かせない。

データセンターなど大規模な新規需要に伴う設備投資増の費用をどう賄うべきか。

世界的な生成AIの利用拡大などに伴い、データセンター (DC)需要が増大しそれが各国の電力消費量を大幅に押し上げることが予想されている。例えば米国では、DCの電力需要量が2021年の118TW(1TWは10億kw)時から、シナリオによっては35年に2096TW時までに増加する見通しが示されている。

既に足元で、高いデータ処理能力を有し膨大な電力を消費するハイパースケールDCの建設が急増している同国にとって、発電設備や送変電設備の増設は喫緊の課題。問題は、その費用負担を誰が負うのかということ。「原因者」か、それとも「既存需要家を含めた全体」か―。そんな議論が各州で巻き起こっているのだ。

アリゾナ州では、「Growth pays for Growth」という方針の下、DCなどの大規模な新規需要に伴う設備投資増(Growth)のコスト負担(pays)を、原因者であり成長産業であるDC事業者(Growth)に負担させることで、既存需要家の電気料金への上乗せを回避しようとしている。

米カリフォルニア州のデータセンター


米各州でDC向け料金 既存需要家の負担低減

アリゾナ・パブリック・サービス(APS)社は今年6月、州規制当局に対し電気料金値上げを申請した。注目すべきは、月間最大需要5000kW以上、12カ月のうち9カ月以上で負荷率が92%を超えるといったDC事業者をターゲットにした「超大規模エネルギー需要家向け料金(XHLF)」で、認可されれば全体の約16%に対し、XHLFは約47%とより高い値上げ率となる見通しだ。

オハイオ州の送電会社AEPオハイオは大規模DC事業者に対し、たとえ使用量が下回ったとしてもピーク需要の85%の料金を支払うことを義務付け。また、プロジェクトがキャンセルされた場合には退出料を求め、新規のインフラ投資に伴うコストを賄う方向だ。

テキサス州では、州公益事業委員会が、既存発電所の近くに建設を許可すると電力不足が生じる恐れがあることから、大規模DCを建設するための発電所を事業者が自前で用意することを推奨(Bring your Own Power)している。

電力業界関係者A氏は、「従来の料金体系のままでは、アリゾナ州のような系統規模が小さな都市で大きな新規需要が急激に生まれると、既存需要家に過度な負担をかけることになりかねない。こうした懸念から、米国各州で対応が始まっている」と言い、「国内でも早急に議論を始める必要があるのではないか」と問題提起する。

というのも日本も米国と同様に、DCや半導体工場といったデジタル産業の活況に伴う電力需要の増大が予想されているからだ。既にDCの立地が進む千葉県印西、白井両市や台湾の半導体メーカーであるTSMCが進出した熊本県菊陽町、ラピダスの次世代半導体工場の建設が進む北海道千歳市など、局所的な大規模需要に対応するための系統の新設や増強工事が進んでいる。

資源エネルギー庁によると、印西・白井エリアにおけるDCに電力供給するための上位系統の工事に関わる費用は総額2000億円を超える見通しだ。ただし、現行ルールでは原因者であるDC事業者の負担は100億円程度に過ぎないという。

これからの電力需要の増加はDC・半導体といった特定産業によるものであり、省エネや少子高齢化の進展とともに、既存の需要は今後も減っていくことに変わりない。このままでは、負担の公平性という観点で疑問が残る。一方で、デジタル産業が日本の経済成長の原動力となることが期待される以上、こうした大規模需要の要請に合わせた供給力の確保や送変電設備の増強が不可欠であることも事実だ。さまざまな事情を勘案した上で、米国の事例を参考に、費用負担の在り方をどう考えるべきだろうか。


デジタル産業を成長軌道へ 公平性に配慮し環境整備を

エネルギー業界関係者B氏は、「日本でも1957年に、原因者負担の方針に基づき新増設需要に割高な料金を適用する『特別料金制度』が導入されたことがあった」と指摘。「供給原価の増加傾向が緩和されたことから、96年には全エリアで完全廃止されたが、同様の制度を復活させることも考えられる」と持論を展開する。

新電力関係者C氏は、「大規模需要に対応できるのは、大手電力会社か一部の大規模電源を保有する有力新電力に限られている。原因者が明確な需要拡大について、従来の需要と一緒くたに負担を考えるのは適切ではないかもしれない。市場分割のような検討も必要ではないか」との見方だ。

一方で「結局は消費者が最終料金(サービス料金)として費用を負担するのであれば、特別な電気料金を設定する必要はないのではないか」(金融業界関係者)、「エネルギー政策と産業政策の折り合いを付けなければならない問題であり、エネルギー側だけの目線ではベストな答えは出せない」(大手電力関係者)といった声もあり、見解はさまざまなようだ。

前出のA氏は、①大規模需要家を対象とした新たな料金制度(託送料金制度)の創設、②大規模需要の新増設に伴うネットワーク増強への設備投資費用の助成、③国家戦略特区の形成と同エリアのネットワーク増強―といった対応策を提案する。

いずれにしても、デジタル産業を軸に日本経済の成長を果たそうというのであれば、社会インフラとしてDCを構築していかなければならない。電力供給が障壁となって誘致できないということだけはあってはならない。負担の公平性に配慮しつつ、経済成長を軌道に乗せるためのルール整備を急ぐべきだ。

【四国電力 宮本社長】「人の力」を最大化 各事業の収益力を高めグループの成長目指す


現行の中期経営計画はスタート当初に困難に直面しながらも、一つひとつ難局を乗り越え、経営目標を達成できる見通しとなった。

足元では脱炭素化とデジタル化が追い風となる中、新中計ではコア事業と拡張領域の双方で収益力を高め、経常利益650億円以上というさらに高い目標を掲げる。

【インタビュー:宮本喜弘/四国電力社長】

みやもと・よしひろ 1985年京都大学工学部卒後、同年四国電力入社。常務執行役員総合企画室経営企画部長、取締役常務執行役員総合企画室長(再生可能エネルギー部・広報部担当)などを経て、24年6月から現職。

井関 中期経営計画2025の最終年度ですが、達成状況はいかがですか。

宮本 2021年に公表した現行の中期経営計画では、「『電気事業』と『電気事業以外の事業』を両輪に、持続的な企業価値の創出を図っていくこと」を目標に、グループ全体で25年度に経常利益400億円以上、ROA(総資産利益率)3%程度といった経営目標を設定してきました。公表直後に燃料価格の高騰や需給ひっ迫により電気事業が大幅な赤字に陥るなど厳しいスタートとなりましたが、一つひとつ難局を乗り越えることで経営の正常化を図ることができました。また、情報通信事業や国際事業といった電気事業以外については、既存の取り組みの強化・拡大に加え、新規案件への参画や新規事業開拓の推進など、着実に利益拡大に向けた取り組みを進めてきました。これらにより、経常利益目標や、配当50円の実現、自己資本比率25%への引き上げといった経営目標を、おおむね達成できる見通しとなりました。

井関 電気事業以外では、メインはやはり情報通信事業ですか。

宮本 はい。情報通信事業が一番利益に貢献しています。子会社のSTNetが手掛ける光インターネット「ピカラ光」の四国の総世帯数に対する普及率は、9月末時点で23・7%、提供エリアに対する普及率では30・5%に達しています。利益面では、情報通信事業で、100億円以上の経常利益を出しており、現行中計の利益目標である400億円の4分の1を稼ぐほどまで成長しています。


縮小・均衡から増加へ 局面の変化はチャンス

井関 10月に公表した「よんでんグループ中期経営計画2030」のポイントは。

宮本 新たな中期経営計画のポイントは大きく二点あります。一点目は、電気をはじめとするエネルギー事業と情報通信事業を「コア事業」に位置付けた上で、これらの事業で培ってきた強みを生かしてお客さまや地域の皆さまに貢献することで、さらなる成長を目指すとしたことです。現行の中計では、省エネや人口減少の進展などによって、電気事業が縮小・均衡してしまうことがどうしても避けられず、これを補うために、電気事業以外の事業を成長させるというものでした。

しかしながら現在は、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展によって、低・脱炭素電力に対するお客さまや地域の皆さまからの新たなニーズが拡大するとともに、将来の電力需要が増加する可能性が生じるなど、新たなチャンスが生じています。新中計では、エネルギー事業と情報通信事業を通じて培ってきた強みを生かすことで、グループとしての成長を目指す姿を描くことができました。

脱炭素化とデジタル化の進展を収益機会拡大につなげる

二点目は、経営基盤の強化策の一つとして「よんでんグループ人材戦略」を策定したことです。グループの持続的な成長を実現するために必要不可欠な「人の力」を最大化することを目指し、基本方針に「従業員と会社が共に成長しながら持続的に価値を創造する」を掲げ、「会社が求める経営戦略の実現」と「従業員の充実した人生の実現」を両立するための人材マネジメント施策を推進していきたいと考えています。

井関 30年度経常利益目標(650億円以上)を達成するためには、25年度見通し(530億円)から120億円増加させる必要があります。

宮本 足元の利益水準には一過性要因も含まれているため、経常利益650億円以上という目標は、見た目以上にチャレンジングな水準であると認識しています。目標の達成に向けては、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展により生じる収益機会を捉えて当社の強みを生かすことで、コア事業に位置付ける電気事業や情報通信事業を中心に利益拡大を目指します。特に電気事業は、当社グループがこれまでに積み上げた知見や信頼が最も強みとなる領域であり、卸販売も含めた販売規模の拡大と収益性の向上を図っていきます。

また、コア事業からの拡張領域についても、例えば、国際事業については、現状の利益規模40億円から2倍程度への拡大を目指すなど、より高い成長を志向しています。高いハードルではありますが、ウズベキスタンにおける太陽光と風力発電事業など、既に参画済みの案件もあり、これらが今後5年の間に利益に貢献することになるため、十分に達成可能だと考えています。その他、脱炭素電力の供給やエネルギーソリューション事業についても、これまでのお客さまサービス的な位置付けからマネタイズを図っていくことで、収益の一つの柱として育成していきたいと考え、挑戦領域として位置付けました。

【東京ガス 笹山社長CEO】経済性見極め成長投資 事業の効率化を進め安定した利益成長図る


今年度上期決算では過去最高水準となる最終利益を達成。

現行の中期経営計画の主要戦略はおおむね達成したが、成長性・収益性には改善の余地があるとし、次期中期経営計画で安定的な利益成長を目指す。

株主還元方針も予見性を重視した内容に転換した。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 2025年度上期決算をどう評価していますか。

笹山 上期は、前年同期比増収増益となり、全体として良好な結果を残すことができました。特に、エネルギー・ソリューションセグメントでは電力販売量の増加、そして海外セグメントでは北米シェールガス事業における販売単価の上昇が、業績を押し上げました。これらの要因により、最終利益は前年同期比約8倍の1296億円と、当社として過去最高水準に達しました。短期的な要因として、豪州持株会社の解散に伴う為替差益(特別利益)の計上が増益に寄与しましたが、これを除いても、通期で掲げた最終利益の目標を十分に達成できる水準です。

井関 都市ガス・電力販売量はどのように推移しましたか。

笹山 都市ガス販売量に関しては、家庭用が前年同期比で3・7%増加しました。これは、昨年の春の気温が高かったことに対し、今年は気温が低く、暖房需要が増加したことが背景にあります。一方で、一般工業用向けの需要は減少しました。これは、大口の離脱によるものではなく、一部産業の生産活動や発電用途の変動が影響しています。これにより、販売量は全体で前年同期比0・4%の減少となりました。電力販売量は19・6%増加しました。これは、猛暑に伴う空調需要の増加に加えて、小売りの契約件数の増加が寄与しています。


海外・エネ分野が好調 通期も増収増益

井関 通期見通しも増収増益を見込んでいます。

笹山 通期についても、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業での販売単価上昇など、エネルギーおよび海外セグメントが順調に推移しているため、売り上げ、利益ともに好調で、最終利益は前期比2・6倍の1940億円を見込んでいます。

北米シェールガス事業が好調だ

井関 株主還元方針が従来の総還元性向に基づくものから、中間キャッシュフローの中で、「成長投資」と「株主還元」に柔軟に配分する方式へ変更されました。この理由と狙いについて教えてください。

笹山 もともと、資本市場に対して予見性の高いメッセージを発信したいという考えが根底にありました。さまざまな株主との会話の中で、成長投資をしっかり行ってほしいという意見がある一方で、株主還元の予見性を重視される方が多くいます。そこで利益の成長に合わせた累進配当による着実な増配と総還元規模を明確化することにより、株主還元の予見性を高めることにしました。成長投資についても経済性を見極めながら実施し、企業価値を高めていきます。

井関 総還元性向の目標については、約2年半前に5割から4割へと引き下げ、話題となりました。今回の方針転換は、昨今の経済情勢の変化を踏まえたものなのでしょうか。

笹山 成長投資に注力するという基本的な考え方は、今後も変わりません。ただ、昨今のインフレ状況などの環境の変化を踏まえると、一株当たりの配当を順調に伸ばしていくことを示す方が、予見性がより高まると考えています。

具体的には、3カ年で総額2000億円以上の株主還元を予定しており、28年度までに一株当たり140円の配当を目指す方針を掲げています。数値目標を明示することで、投資家の皆さまに対して、より分かりやすいメッセージを届けられるよう意識しました。

【北海道電力 齋藤社長】新たな価値を創造し 北海道と共に力強く成長する


次世代半導体工場やデータセンターなどの新規立地により、北海道の中長期的な電力需要の見通しが増加に転じた。

この千載一遇のチャンスを確実に捉えるため、GXやDXに着実に対応し、新たな価値を創造。

地域と共にほくでんグループの成長を軌道に乗せる。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。


井関 10月31日に、泊発電所3号機再稼働後の電気料金値下げ見通しを公表しました。

齋藤 当社は、泊発電所の再稼働後には電気料金を値下げすることをお約束しており、一定の前提を設定し、3号機再稼働後の値下げ見通しを取りまとめました。再稼働に伴う費用の低減効果を反映した上で、今後の物価や金利の上昇による影響を緩和するために、カイゼン活動やDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進などの経営効率化のさらなる深掘りによる費用の削減効果を最大限織り込んだ結果、規制料金では、ご家庭向け電気料金で11%程度、自由料金全体では、平均7%程度の値下げとなる見通しです。  

この値下げ見通しについては、公表直後に鈴木直道北海道知事にも直接ご説明させていただきました。知事からは「値下げの内容や考え方について、道民の皆さまへ丁寧に説明していくことが重要」とのお話をいただきました。エネルギー資源に乏しい日本においては「S+3E」(安全、安定供給、経済、環境)の観点が重要です。こうした観点を踏まえた泊発電所の必要性について、道民の皆さまにご理解をいただけるよう、安全対策の取り組みに加え、今回お示しした電気料金の値下げ水準についても説明を尽くしていくとともに、早期再稼働に向け総力を挙げて取り組んでいきます。


運転開始時期を前倒し 安定供給に万全期す

井関 道内の人口減少の影響が懸念されますが、最新鋭の半導体工場やデータセンター(DC)の建設計画などによる需要増への期待が高まっています。

齋藤 札幌市も人口減少に転じ、北海道全体でも全国より速いスピードで過疎化が進んでいます。こうした状況下で、千歳市で建設が進むラピダスの半導体工場が今後量産体制に入りますし、工場の拡張も計画されていると聞いておりますので、地域経済の活性化や電力需要の増加につながると期待しています。また、寒冷地とあってさまざまな企業からDC建設計画のお話をいただいています。

井関 需要増に向け供給体制は万全ですか。

齋藤 電力供給については、まずは現在の電源設備をしっかり使っていくことで賄うことを考えています。これに加えて、石狩湾新港発電所2・3号機の運転開始時期を前倒しすることを決めました。長期的な需要増に向けて、泊発電所の重要性は一層高まってきます。安全性の確保を大前提に、脱炭素電源であり、燃料供給の安定性や長期的な価格安定性も有する泊発電所の早期再稼働を目指し、総力を挙げて対応を進めていきます。今後もお客さまに安定して電力を供給できるよう、当社の電源構成や発電設備の経年化状況を踏まえながら、電源開発、休廃止計画を検討していきます。

井関 3月に「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定しました。

齋藤 20年に策定した前回の経営ビジョンは、電気事業の自由化や市場化が進むとともに、人口減少や省エネの進展などにより北海道の電力需要が減少していくことを前提としていましたが、ほくでんグループを取り巻く環境が一変したことから、今般、大きく見直しました。この数年の間で、気候変動対策への機運が一層高まるとともに、地政学リスクの発現などを背景に経済安全保障やエネルギー安定供給が重視されるようになりました。国はエネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指しGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に推進しています。

鉱物化のメカニズムを解明 新CCS手法として応用へ


【技術革新の扉】鉱物化CCS/東京大学

CCS関連の実証が進む中で、CO2が急速に鉱物化する例が多数報告されていた。

東京大学の辻教授らは、長年の研究成果から発想を転換し、その要因を特定した。

CO2を鉱物化して半永久的に地中に貯留する―。

この〝夢のCO2削減技術〟の実現に近づくメカニズムを、東京大学を中心とした研究グループが解明した。CO2が鉱物として固定されるには数百年単位の歳月が必要と考えられていた中、近年の実験ではわずか数年で鉱物化が進行する事例が確認されていたが、その理由は不明のままだった。こうした中で同グループは、CO2が玄武岩と接触したときの化学反応を原子レベルでシミュレートし、短期間で鉱物化するプロセスを特定した。国内では先進的CCS(CO2回収・貯留)として複数のプロジェクトが進行中だが、いずれも砂岩などから成る「貯留層」を前提としており、「CO2鉱物化」は新たな選択肢となり得る。

研究を主導した辻健教授


直接反応の可能性を検証 石英での現象をトレース

現在主流となっている方式では、地下千m以上の深さにある貯留層にCO2を注入し、その上部の「泥岩層」がふたの役割を果たす。貯留層は隙間が多くCO2が入り込みやすいが、化学反応に必要な金属元素が少なく、地中に鉱物として固定されるまでに膨大な時間を要する。また、泥岩層が遮蔽するが、一定の漏えいリスクを残す。

これに対し玄武岩は、鉄やカルシウム、マグネシウムなどの金属元素を豊富に含み、CO2はこれらに触れるとすぐに反応し鉱物化する。従来手法は〝物理的に〟閉じ込めるが、鉱物化では〝化学的に〟固定化することで漏えいの可能性を極限まで低減させている。

鉱物化の土台となる玄武岩

鉱物化の概念は、CCSが注目され始めた1990年代頃から研究対象となっていた。2016年にはアイスランドの国際プロジェクト「CarbFix」で数年で鉱物化する事例が発表されてはいたものの、そのメカニズムは解明されておらず、専門家の間でも再現性を巡る議論が続いていた。

こうした中で東大研究チームは発想を転換させた。これまで玄武岩やかんらん岩での鉱物は、CO2が地下水に溶けた状態で反応することを前提としていたが、同チームはCO2が〝直接〟反応する可能性を検証したのだ。

研究を主導したのは、東大大学院工学系研究科の辻健教授。学生時代から取り組んできた「石英」の研究が発想の転換を生んだ。辻教授らは、さまざまな岩石に広く含まれる石英を割ると反応性の高い「非架橋酸素(NBO)」が表面に現れ、これがCO2を引き寄せ、原子同士が結合して鉱物化が進むことを突き止めていた。「玄武岩やかんらん岩は、結晶構造内に多くのNBOを持った上で、反応相手となる金属原子も多分に含む。であれば同様の現象が起こるはずだと考え、原子の動きをシミュレートした」と辻教授は振り返る。こうして、短期間で鉱物化が進むメカニズムの全容が明らかになった。

鉱物化プロセスをCCSに応用するには、「貯留場所の選定」が重要になる。辻教授は、「国内の玄武岩の多くはCO2を注入するための隙間が少なく、反応するまで至らない場合もある。そうでないエリアを特定し、検証を進める必要がある」と課題感を明らかにする。


貯留場所の選定に本腰 有力候補は海山か

こうした課題をクリアし、貯留場所として有力なのが「海山」だ。海山に堆積する玄武岩は、マグマ状態時に海水に触れることで発泡してから形成される。このためCO2を注入するための十分な隙間を有する。

研究でも協力関係にあるENEOSは、既に海山の周辺などの実地調査を始めている。「こうしたフィールドワークで得られたデータを共有し、最適な貯留場所を模索していく」。(辻教授)。

ほかにも、かんらん岩などが多く分布する日高山脈(北海道)も選択肢として挙がる。玄武岩が海洋性プレートの浅い層にあるのに対し、かんらん岩はマントルという深い場所に位置するが、日高山脈などではそれが露出している。辻教授は、「かんらん岩は玄武岩ほど豊富に分布するわけではないが、反応速度も速く、鉱物化に適している。海山周辺の玄武岩と併せて、日高山脈の地層に亀裂(隙間)の入った場所を探していく」と展望を語る。

かんらん岩の分子構造。赤がNBO、橙がマグネシウム

国際エネルギー機関(IEA)の試算では、日本は2050年時点で年間約1・2億~2・4億tの貯留が必要になる見通しで、急ピッチで技術開発や事業化を進めなければならない。「鉱物化」が日本のCCSの救世主となるか―。