サラワク州のガス権限巡る交渉 前進見えぬ「共同宣言」で物議


【ワールドワイド/資源】

マレーシアで最大の天然ガス生産量を誇るサラワク州の周辺が、このところ再び騒がしい。

州で産出された天然ガスの売買契約や供給の配分決定権を含め、これまで全面的な事業管理権限を担ってきた国営石油ガス会社ペトロナスに対し、昨年来、州政府が州内のガスサプライチェーンにおける関与と権限の拡大を図るべく、州営石油ガス会社のペトロスに当該権限を移管するよう求め、連邦政府も巻き込んで進めてきた合意交渉が、連邦政府首相と州首相の「共同宣言」という形で大きく前進したかのように見えたためである。

「見えた」というのは、5月21日に発出されたこの共同宣言が、LNG事業は引き続きペトロナスの所掌とし、既存のLNG契約や輸出には影響を生じさせない条件付きで当該権限移管を認めるとしたことなど、1月から2月にかけて既に明らかにされていた合意内容の大枠を明文化したものに過ぎず、両社の具体的な協業方針などの詳細は引き続き交渉で詰めるとしており、依然として不透明な部分が多く残っているからである。そればかりか、2月の時点では「連邦法が州法に優先する」と明言されていたところが、本宣言では連邦法の優位性が不明瞭となり、両法の規定の矛盾も解消されないままであるなど、前進どころかむしろ後退した印象すら否めない。

2月以降、ペトロナスを含め州内でガス供給事業に関わる全事業者に州法で定めるライセンス取得義務があると主張する州政府と、同社およびその子会社には当該義務は適用されないとする連邦政府の認識には齟齬が見られ、5月上旬には州政府がペトロナス子会社に対し、ライセンスを得ずに違法に操業しているとして法的通知を発出した旨が報じられたことなどからも、筆者はペトロナスとその子会社のライセンス取得要否が協議続行の焦点となり、正式発表まで時間を要していると見ていた。 しかし、本宣言ではその点も明らかにされていない。現地紙によると、業界関係者の多くが本共同宣言について不満を抱いており、州議会でも明確さを欠くと指摘する声があるという。

ペトロナスのCEOは、LNG顧客や投資家を含む全関係者の権利と利益の確保のため、慎重に協議を進める必要があるとしつつも、協議長期化による不確実性が投資家心理に与える影響を懸念している。協議の行方はまだまだ目が離せないが、一日も早い解決が待たれる。

(都築 真理子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

米技術カンファレンスで浮上 新設供給力確保の課題とは


【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

米国では、多くのRTO・ISOエリアで信頼度維持に必要な供給力確保が困難化。

容量市場の仕組みの移行を図っている。日本における制度の再考にもつながるか。

6月4、5日、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)主催のRTO(地域送電機関)・ISO(独立系統運用者)地域における供給アデカシー確保に関する技術カンファレンスが開催された。米国では既設発電所に大規模負荷が直接接続する共立地負荷問題が話題になっているが、NERC(北米電力信頼度協議会)が昨年12月に公表した長期信頼度評価で、RTO・ISO地域で軒並み信頼度リスクがあると評価されたことを受けて開かれた会議である。そこでの議論の概要を紹介したい。

NERCによる長期信頼度評価結果
出所:NERC, “2024 Long Term Reliability Assessment”, 2024年12月

会議では八つのパネルが開催され、RTO・ISOや州規制当局、利害関係者が参加して討議を行った。容量市場設置の有無、自由化州が多い地域・規制州の多い地域とそれぞれ違いがあるが、大半のRTO・ISOで将来に向けた信頼度維持に懸念があるとしている。

大半の州で再生可能エネルギー発電の導入拡大と石炭火力の廃止を政策的に進めているが、自由化州・規制州ともに地域大の信頼度維持との関係が考慮されることはなかった。そのためRTO・ISOがエリアの州規制当局と連携し、信頼度維持に必要な給電可能供給力も確保するよう、対策を進めるべきというのが共通した結論となった。


ガス火力への投資不足 規制州でも揺らぐ信頼度

MISOとSPPという二つのISOに属する州は大半が規制州である。これらの州では、公益事業者である電力会社が規制当局に自己の発電所や相対契約を通じた供給力確保状況を示す供給計画を提出し、規制当局がそれを認可する手続きを行っている。

MISOでは自己供給や相対契約で事前に供給力を確保するが、州の規制で求められている供給力は需要の8割程度であることが多く、残りを容量市場で調達することが認められている。容量市場の特徴として、供給余力があると、容量市場価格は新規ガス火力投資費用と比べるとかなり安価になりやすい。

そのため十分なガス火力への投資が行われず、信頼度維持が困難となった。今後は州政府と連携し、州政府が電力会社にガス火力投資を命じるなどして安定供給に必要な供給力を確保することになる。なお、石炭業界の代表者は今後予定されている石炭火力廃止を止めれば信頼度確保が容易になるとしている。

SPPでは全てが規制州である。風力発電と需要の増加に対応するために計画供給予備率を引き上げたが、それに対応する新規ガス火力の建設が間に合わなかった形だ。なおCAISO(California ISO)は州規制当局の命令で強力に蓄電池の導入を進めており、信頼度維持を懸念する声はなかった。

一方PJM、NYISO(New York ISO)及びISONE(ISO New England)のエリアの大半は自由化州であり、かつ容量市場が設置されている。NYISOとISONEはこれまでも州政府と密接に連携しており、ISOと州政府が信頼度維持を踏まえて連携していくことを確認した。

令和のコメ騒動から考える 国産バイオマス生産の意義


【オピニオン】相川高信/PwCコンサルティングPwCインテリジェンスマネージャー

昨夏スーパーマーケットの棚からコメが消えた。2025年に入っても価格上昇が続き、市民生活に影響を与えている。ガソリンについては、22年から1ℓ当たり170円を超え、政府の補助金で同185円程度に抑えられてきたが、それがなければ200円を超えていたはずの時期もあった。本稿の趣旨は、この二つの重要な生活物資の価格高騰を契機に、国産バイオマス生産の意義を考えてみたいというものである。

まず、コメ不足と価格高騰の原因としては、23年の猛暑の影響による供給不足に加え、長期的な減反政策によりコメの供給力が落ちていたことが挙げられている。そのため、平時の水田面積を維持すべく、輸出促進や新規需要の創出の必要性を説く論者も多い。

実は、2000年代の後半に世界的に液体バイオ燃料のブームが起こり、日本でもコメの新たな用途としてバイオエタノールを生産し、ガソリンの代替とする政策が始まった。実証事業として、07年度から非食用のコメや、余剰・規格外品のテンサイ・小麦を原材料としたバイオエタノール生産が行われた。ところが、当時のガソリン価格を参照して設定された供給コスト目標、同140円を下回ることができず、14年度で予算を打ち切られてしまった。

しかし、当時と現在では状況は明らかに変わっている。前述の通り、コメの供給力はぎりぎりであり、水田や農地の維持が食料安全保障上重要であることも明らかになった。また、ガソリン価格についても(暫定税率の問題を差し置けば)170円以上の高価格が3年以上続いている。

さらには、交通部門の脱炭素化のため、経済産業省は30年度までにバイオエタノールの混合比率が10%のガソリン(E10)の供給を始める予定である。しかし、エタノールは米国やブラジルなどからの輸入で賄われる見込みであり、バイオ燃料の本格的な国内生産の動きはない。

一方で海外に目を向けると、米国のトウモロコシや、ブラジルのサトウキビ、インドネシアのパーム油などにとっても、バイオ燃料は食用や飼料用と並んで重要な用途であり、価格の安定化にも寄与している。また、収穫・加工時の残さバイオマスもエネルギー利用され、産業のエネルギー効率を高めている。

日本では水田以外の畑地も含めれば、40万ha以上の耕作放棄地があると言われる。高収量米に加え、ソルガムやミスカンサスなどの草本系、ヤナギなどの木本系のエネルギー作物をそれぞれの適地で栽培できるだろう。燃料以外にもプラスチック原料など、脱炭素時代に期待される用途は多い。限られた国土を有効に使い、農業の安定化とエネルギー自給率の向上を両立させる知恵が求められている。

あいかわ・たかのぶ 北海道大学大学院農学研究院(森林政策学)、京都大学大学院農学研究科修士課程(森林生態学)修了。民間・非営利シンクタンクで環境・エネルギー分野での研究員を経て2024年7月から現職。

船の脱炭素化の現実解に LNG専焼船に注目


【脱炭素時代の経済評論 Vol.16】関口博之 /経済ジャーナリスト

大阪・関西万博会場へのアクセス方法の一つになっているのが旅客船「まほろば」。神獣をイメージしたという大胆な外観も目を引く。最大150人の乗客を乗せ、市内と夢洲の間を運航している。この船はクリーンな水素で動く純水素燃料電池船。

航行時にCO2を出さないゼロエミッション船として、2024年建造の船舶を対象にした「シップオブザイヤー」の小型客船部門賞に選ばれた。

津軽海峡を往来する下北丸
提供:NSユナイテッド内航海運

日本船舶海洋工学会が毎年行っている本賞に筆者は選考委員として参加させてもらっている。今年のエントリーに水素燃料電池船はもう1隻あった。北九州門司港を拠点に関門海峡クルーズなどを運航している旅客船「HANARIA」。実はこちらがグランプリにあたる「シップオブザイヤー」の受賞船だ。甲乙つけがたい両船だったが、こちらの船は水素燃料電池とリチウムイオン電池、バイオディーゼル発電機を積んだ世界でも例のないハイブリッド船になっている。三つの電源を制御するパワーマネージメントに先進性があり、バックアップの発電機を備えているという冗長性と実用性への評価から、僅差で本船に軍配が上がった。

実質的に国内初の水素燃料電池船が2隻同時に今年の船にエントリーし、どちらも実際にわれわれが乗れる客船として登場した。脱炭素時代の水素の可能性を社会にアピールする存在になっている意義は大きい。

ただ選考を終えてからはもう1隻、別の船が気になってしかたがない。それが「下北丸」という石灰石運搬船、津軽海峡を往来している船だ。客船のような派手さはなく、われわれが港で荷役を目にする機会もない。この船が小型貨物船部門賞を獲得した。何が評価されたのか。エネルギーの観点で言えば優れた「現実解」であったことだ。

内航貨物船ではまだ重油燃料が大半な中、本船はLNG専焼船として作られた。LNGを選んだ理由はまず重油より4分の1ほど低炭素であること。さらになるほど、と思わされたのが燃料タンクのサイズでの利点。LNGであれば重油の1・9倍で済むが、環境性能が高いアンモニアにすれば3倍、水素では4・6倍の規模になってしまうという。同じ船のサイズであれば、その分貨物スペースが減少し肝心の船の経済性が落ちる。貨物の容量を優先確保しつつ、可能なレベルまで低炭素を目指す、これは合理的な判断だ。

さらに下北丸は推進力をガスエンジンとモーターによるハイブリッド方式にしている。厳しい気象条件の津軽海峡で、向い風の時はガスエンジン+モーターで推進力を上げ、追い風の時はモーターを軸発電機として使いバッテリーに充電する。こうすることでガスエンジンは常に燃費効率が最適になる出力に保たれる。C02排出原単位は環境負荷の低い鉄道のさらに半分以下になっているという。

「現実解」とはある時点において技術進展や経済性、制度や社会受容など多様な要素から総合的に導き出されるものだ。脱炭素も高い理想だけで突き進めば摩擦や軋み、揺り戻しを招く。常に現実解を求めつつ、さらに半歩踏み出す挑戦、それこそが〝プロの仕事〟なのだと思う。

持続性なき電気ガス代補助 省エネ強化策へ転換できるか


【調査報道】

電気・都市ガス料金への補助政策は、いまや物価高対策における常套手段となった。

今夏も懲りずに実施する中、国家戦略として省エネ支援強化に転換する必要性を提起する。

4月22日の首相官邸。石破茂首相は記者団を前にこう宣言した。「足元の物価高に対応する観点から、7~9月の3カ月間、電気・ガス料金支援を実施する」―。

電気・都市ガス料金への補助は、いまや物価高対策における常套手段だ。始まりは、2023年1月から昨年5月に実施した「電気・ガス価格激変緩和対策事業」。家庭向け低圧料金で1kW時当たり7円、ガス料金で1㎥当たり30円を補助した。その後、補助額は引き下げられながら、昨年8~10月に「酷暑乗り切り緊急支援」、1~3月に「電気・ガス料金負担軽減支援」と名を変え継続され、今回の復活に至った。国費の累計投入額はすでに4兆円超えだ。

経済、環境両面で効果のある省エネ

総務省が公表した昨年平均の全国消費者物価指数によれば、料金補助の縮小に伴い、電気・ガス代の指数がともに上昇。効果が限定的であることは否めず、巨額支出に見合うだけの妥当性は全く検証できていない。

脱炭素政策との不整合を指摘する声も広がっている。武藤容治経済産業相でさえ、4月25日の閣議後記者会見で、今夏の料金補助について「脱炭素への逆行では」と問われると、「脱炭素の流れ、GXの取り組みを勘案すれば、いつまでも続けるものではない」と、述べざるを得なかった。


課題抱える省エネ支援 消費者行動をどう促すか

こうした中、エネルギー業界からは、むしろ省エネ支援を強化するべきだとの声が上がる。

あるヒートポンプ(HP)関連団体の関係者は「1世帯当たり月1000円程度の電気・ガス代を補助したところで、多額の国費投入に見合っているのか疑問。それなら高効率なエアコンや給湯器への買い替えを支援したほうが、よほど経済効果が期待できそうだ」と指摘する。

一方で、政府による省エネ政策を巡っては、実はここ3年で手厚い支援を講じている。

23年から経産省・国土交通省・環境省の3省連携で支援を展開。今年度は、エコキュート、エネファーム、ハイブリッド給湯器といった高効率給湯器を戸建てなどに普及するために580億円、設置制約などで貯湯式の高効率給湯器普及が困難な賃貸集合住宅に限り、エコジョーズ導入に50億円、断熱窓への改修に1350億円、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)水準の住宅支援に1750億円などを計上した。このうち高効率給湯器の導入支援については、GX経済移行債を活用している。

自治体単位でも支援が広がっている。中でも、省エネ家電製品への買い替えで商品券などと交換できるポイントを与える東京都の「ゼロエミポイント制度」は、昨年10月から支援を拡充した。製造から15年以上経った家電を買い替える場合、従来のポイントに最大5万4000ポイント上乗せし、最大8万ポイント付与。また店頭で申請すると直接値引きを受けられるようにした。「昨年度下半期の申請台数は、23年度下半期に比べて約2倍。利便性の向上が大きかった」と、都の小山利典・家庭エネルギー対策課長は語る。

ただ、前出のHP関連団体関係者が言うように、支援強化が叫ばれる背景には、さらなる普及に悩みの種があるからだ。ガス給湯器メーカー関係者は「『壊れたら買う』『お湯が出れば十分』という消費者の根強い意識を変えない限り、本格的な普及は進まない」と、導入補助に加え、事前の理解醸成が進んでいないことを強調する。

袖ケ浦LNG基地を公開 7月には発電所が運開予定


【東京ガス】

東京ガスは5月26日、袖ケ浦LNG基地(千葉県袖ケ浦市)と3月に敷地内に完成した袖ケ浦発電所を報道陣に公開した。同基地は1973年に操業を開始。基地内にある地上型と地下型のLNGタンクは合計15基で、世界最大級の貯蔵量を誇る。これまでに日本の累計輸入総量の約2割に当たる約4億t、タンカー約9000隻分のLNGを受け入れてきた。発電所の稼働によって、今後は電力安定供給に向けた新たな役割を担うことになる。

7月に運開予定の袖ケ浦発電所

原産国からやってくるLNG船が桟橋に停泊すると、12~13時間をかけて構内にLNGを受け入れる。オーストラリアやアメリカ、マレーシア、カタールなど調達先は多様だ。

マイナス162℃という超低温のLNGは、海水の熱を利用して気化(ガス化)する必要がある。その際に用いるのが、オープンラック式ベーパーライザー、通称ORVと呼ばれる設備だ。垂直に配置された多数のパネルの内部をLNGが流れ、その外側を大量の海水が薄い膜となって流れ落ちるように散布。するとLNGは海水の熱によって温められ、ガスとなって排出される。ORVは海水を直接熱源として利用するため、燃料が必要なく、エネルギー効率が高い。シンプルな構造のため、保守点検も容易だ。

気化したガスは熱量調整した後、利用者がガス漏れに気づくように腐臭を付ける。製造した都市ガスは、6万㎞を超える導管網を通して需要家に送られるが、ガス管がつながっていない都市ガス事業者や大口需要家にはローリーでLNGを届け、現地でガス化している。袖ケ浦LNG基地では、現在66カ所の輸送先があるという。


高い起動即応性 自然共生サイトに認定

3月に敷地内に完成したのが、ガスエンジン10台(各9780kW)で構成される袖ケ浦発電所だ。ガスエンジンは短時間で起動し、すぐに発電を開始できる特性を持つ。こうした起動即応性の高さによって、再生可能エネルギーの導入が拡大した今、調整力としての活用が見込まれる。取材時には7月以降の運開に向けて、最終調整が行われていた。

広大な袖ケ浦LNG基地にある緑地は、昨年9月に環境省から「自然共生サイト」の認定を受けた。同基地は操業以来、管理計画に基づく適切な緑地管理や生態系調査を続け、地域自然との調和を図ってきた。

脱炭素へのトランジション(移行)に向けて、LNGの役割は高まっている。袖ケ浦LNG基地は今後も首都圏の安定供給の中心だ。

衆院・原子力問題特別委の改組に異議 反原発派のアピールの場なら不要


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会会期末に、議院運営委員会で「衆議院における国会改革の申合せ」が行われた。ほとんど報道されてはいないが、この申し合わせにおいて「東日本大震災復興・防災・災害対策に関する特別委員会」と「原子力問題調査特別委員会」を、「東日本大震災復興及び原子力問題調査特別員会〈仮称〉」と「災害対策特別委員会」に改組することが決定された。

私は、この申し合わせを決定するための衆議院の全会派からなる国会改革協議会のメンバーとして、これに異を唱えた。

そもそも東日本大震災復興と原子力問題調査は、全く別の政策分野である。かつてあった東日本大震災復興特別委員会には私も被災地の議員として所属していたが、主に東北選出の議員たちが地元の復興に必要な施策について議論する場だった。

その委員たちに、エネルギー政策や科学技術政策などについての知見や専門性が必ずしもあるわけではない。東北選出の原子力問題への関心は、福島第一原発の廃炉問題に集中することになるであろう。こうした観点からの原子力問題の議論は、偏ったものになりがちだ。

また、従来の原子力問題調査特別委員会は開催回数が他の特別委員会と比べて著しく少なく、開催されると一部野党の反原発派議員の政府への糾弾の場となりがちだった。立法府の主要な役割は法案審議であるが、所掌上この特別委員会で法案審議がなされることは稀であるから、このような場になってしまうのはやむを得ないものがある。


求められる本質議論 自由討議の積み重ねを

私は、東日本大震災以降の10年以上の長きにわたる原子力政策の停滞と、世界の原子力を巡る環境の大きな変化の中で、日本の原子力政策の抜本的な再構築が必要であることを訴え続けてきた。

詳細は、7月の日本原子力学会誌『ATOMOΣ』で「今こそ原子力政策の抜本的な再構築を」という論考を掲載しているので、ご参照いただきたい。このような本質的な議論こそ国会において超党派で行うべきであると考えるが、「東日本大震災復興及び原子力問題調査特別員会〈仮称〉」では期待できない。

今回の申し合わせでは、自由討議などの活用という項目も掲げられている。経済政策やエネルギー政策、科学技術政策にある程度の専門性のある議員がメンバーとなる経済産業委員会において、副大臣や政務官も交えて原子力政策に関する自由討議を積み重ねるべきではないか。

反原発派のアピールの場でしかなくなっている原子力問題調査特別委員会は、国会に不要である。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/7月11日】REPowerEUから3年


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

EUは、天然ガス、石油、石炭などのエネルギーの多くをロシアに依存してきたが、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、ロシア依存からの脱却を迫られた。欧州委員会は、同年3月8日に欧州の共同アクション「REPowerEU」を提案し(同年5月18日に詳細を発表)、化石燃料のロシアへの依存から2027年には完全に脱却する戦略を打ち出した。欧州委員会は、REPowerEUを発表した翌年以降、毎年5月にその成果の発表を行っている。直近では、REPowerEUが発表されてから3年後の2025年5月に、最新の成果報告書が公表された。

それによれば、REPowerEU の目標である脱ロシアは全体として着実に進展している。ロシア産ガスの輸入量は、2021年の1500億立方メートルから2024年には520億立方メートルに減少し、EUのガス輸入量に占めるロシア産ガスの割合は45%から19%に低下している。また、EUは、2022年12月より海上輸送によるロシア産原油・石油製品の輸入を禁止したこともあり、EUの原油輸入量に占めるロシア産原油の割合は、2022年初頭の27%から2024年には3%に減少している。さらに、石炭については2022年8月より輸入が禁止されている。また、ロシア産の原子燃料に依存するEU諸国は、他国産の燃料に置き換える取り組みを進めている。

しかし、こうした努力にもかかわらず、EUが2024年になっても未だにロシア産のガス520億立方メートル、原油1,300万トン、ウラン2,800トン以上を輸入していることを、欧州委員会は課題として指摘している。以下では、上記報告書の主要なポイントについて具体的に説明する。併せて、同時期に発表された関連文書「REPowerEUロードマップ」(ロシアの石油・ガス・原子力エネルギーをEU市場から段階的に撤退させるロードマップ)について、その内容と直面する課題について述べる。


ガス消費の削減

EUはロシアのウクライナ侵略によって引き起こされたエネルギー危機に対応し、2022年に緊急措置としてガス消費削減規制を採択し、2022年8月から2023年3月までの間に2017年から2021年の平均需要と比較してガスの消費を15%削減するという自主的削減目標を設定した(その後、消費削減措置は2024年3月まで延長された)。EUはこの目標を達成し、2024年3月に規制が失効した後も、EUのガス消費は引き続き減少している。

この自主的な消費削減は、REPowerEUの目標に沿ってロシア産ガスを段階的に廃止する上で重要な役割を果たした。2022年8月から2025年1月の間に、EUはガスの消費を17%削減することに成功したが、これは年間700億立方メートルのガスに相当する。


エネルギー効率の向上

2023年9月の改正エネルギー効率指令の公布により、EU加盟国は、EU基準シナリオ2020の予測と比較して、2030年までに最終エネルギー消費量を11.7%削減するという目標を共同で達成することになった。2023年の最終エネルギー消費量は石油換算8億9,400万トンに減少し、2021年と比較して5.6%の減少となった。この大幅な削減は、エネルギー価格が異常に高騰した時期に達成されたものの、EUのエネルギー効率目標の達成に向けての着実な進展を示している。


ガス貯蔵

2021年11月のガス貯蔵レベルが過去最低を記録したことを受け、EUは毎年冬に備えて貯蔵施設のガスを90%の水準まで確保する目標を設定した。この目標は、2023年と2024年には達成されている。特に注目すべきは、2024年には、ガス貯蔵規則で定められた90%の貯蔵目標を、期限より2ヶ月以上早い8月19日に達成したことである。2024~2025年の冬季には、輸入価格の上昇を背景に、貯蔵施設からの取出量は危機前の水準に戻り、過去2年間よりも大幅に増加した。その結果、貯蔵レベルは2025年4月1日に34%となった(前々年56%、前年59%。現在の貯蔵レベルは、2016年から2021年の平均とほぼ一致しており、EUは来冬までに十分な貯蔵レベルを達成できる見込みである。


供給の多様化

REPowerEUの採択以降、EUはロシアからの化石燃料輸入を大幅に削減し、供給の多様化を図っている。まず、EUの制裁により、ロシア産原油・石油精製製品(海上輸送が対象)、そして石炭の輸入が禁止されている。ロシア産原油は現在、EUの原油輸入量全体の3%に過ぎない(2022年初頭では27%)。また、EU全体のガス輸入量に占めるロシア産ガス(パイプラインおよびLNG)の比率は、2021年の45%から2024年の19%に減少している。予測では、2025年にはさらに13%に減少すると見込まれる。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年7月号)


NEWS 01:釧路が2例目ノーモア宣言 規制条例も拡大止まらず

釧路湿原などでの大規模太陽光開発に揺れる北海道釧路市が6月1日、「ノーモア・メガソーラー宣言」を行うに至った。2023年8月に宣言した福島市に続く全国2例目。政府は太陽光の長期安定電源化を目指し適切な事業者に集約させる仕組みを今春始めたが、各地で再エネ設備を規制する動きは当面続きそうだ。

鶴間秀典・釧路市長名で発した宣言では、太陽光の建設進行に伴い野生動植物の生育・生息地がおびやかされていることを問題視。生態系の崩壊、減災・防災機能の低下、すみかを失った動物による人里での被害拡大が懸念され、「自然環境と調和が成されない太陽光発電施設の設置を望まない」と表明した。

タンチョウなど釧路の自然が危機に

そして1例目の福島市は、今年4月1日に規制条例を施行。太陽光・風力の設置禁止区域を設定し、禁止区域外では許可制を導入。既設にも管理などの義務を一部適用する。本紙が昨夏取材した際は、ノーモア宣言やガイドラインを機にいくつかの計画が撤回され、「条例化の実効性も研究中。どんな手法が有効か引き続き検討する」としていた。ただ、宣言のきっかけである先達山の開発は25年の運開を目指し進行中で、市民からいまだ多くの問い合わせがある。

地方自治研究機構によると、3月末時点で公布を確認した規制条例は都道府県9、市町村302。昨年7月の前者8、後者277から着実に増えている。


NEWS 02:13兆円が一転ゼロに 東京高裁で逆転判決

「巨大津波を予測できる事情があったとは言えない」東京高裁は6月6日、2011年の福島第一原発事故を巡る株主代表訴訟で、東京電力の旧経営陣に約13兆円の賠償を求めた一審判決を取り消した。争点となった巨大津波の予見性について、木納敏和裁判長は冒頭のように指摘して否定。原告側は最高裁へ上告する方針だ。

福島事故を巡って東電や旧経営陣が被告となった裁判は、①刑事裁判、②民事裁判(株主代表訴訟)、③民事裁判(住民集団訴訟)─の三つがある。

業務上過失致死傷罪が争われた①の刑事裁判では3月、最高裁が1審、2審判決を支持し、旧経営陣の無罪が確定した。今回の高裁判決は②で、22年7月の東京地裁判決では「疑わしきは罰せず」が原則の刑事裁判と異なり、津波の予見可能性と対策の不備を認定し、旧経営陣4人に13兆3210億円という天文学的な賠償額を支払うように命じていた。しかし、今回の高裁判決は刑事裁判と同様に予見可能性と対策の不備を否定したことで、刑事と民事で異なる判断が出ている状況が覆された。

③の集団訴訟は国の責任の有無が争点となったが、最高裁は22年6月、国の責任を認めないとする判決を出した。一方、原子力損害賠償法は事業者の無過失・無限責任を規定しているため、東電に多額の賠償を命じる判決が相次いでいる。

原子力の最大限活用に向けては、事業者の責任範囲を明確にするため、原賠法の規定見直しを求める声が多い。実際に米国や英国、フランスなどは賠償額の上限を定めている。

電力自由化で総括原価方式が廃止となった以上、現行の原賠法は国策である原子力政策を担う事業者にとって重荷となっている。


NEWS 03:梅雨明け前に猛暑到来 早くも追加供給対策

6月中旬、梅雨真っ只中にもかかわらず関東や東海地方の各地で35度を超える猛暑日を記録した。冷房需要が急増し、比較的過ごしやすかった6月前半は3200万~3500万kW程度だった東京エリアの平日の最大電力が、17日には一気に4800万kWまで上昇した。

この時期は通常、夏季の高需要に備え、点検や補修のために火力発電所の多くが稼働を停止している。その上、連系線が作業停止するため他エリアからの受電にも制約がかかる。そうした中での高温予想により、電力広域的運営推進機関が13日に公表した翌週の広域予備率は、17日が最小でマイナス0・4%、18日がマイナス0・7%と、基準の8%を大きく下回ることになった。

これに伴い広域機関は、今年度初の「供給力提供準備通知」を発出。東京電力パワーグリッド(PG)と中部電力PGは、揚水発電設備の運用を発電事業者から送配電事業者に切り替えるなどの追加供給力対策を実施し、東電PGは、11~24日に計画していた周波数変換設備(FC)の新信濃2号機の作業停止を17、18の両日で取りやめた。一連の対策により、両エリアでは安定供給を維持することができた。

需要側でもDR(デマンドレスポンス)の要請を受け、節電対応が取られた。ただし、新電力の関係者は「この時期のDRを想定して準備しておらず、対応できなかった」という。異常気象の常態化が、火力の退出による予備力低下の影響をより深刻なものにしていることがうかがえる。

端境期の需給ひっ迫が繰り返される現状を直視し、調整力を確保し安定供給に万全を期すための抜本的な対策が求められる。


NEWS 04:バイオエタ拡大へ行動計画 28年度E10導入を巡る課題

資源エネルギー庁は6月10日の脱炭素燃料政策小委員会で、ガソリンへのバイオエタノール導入拡大に向けたアクションプラン(行動計画)を取りまとめた。

2030年度までに最大混合率10%(E10)、40年度以降に同20%(E20)の低炭素ガソリンを供給することが柱。30年度のE10本格展開前には、28年度をめどに一部地域で先行導入する。
今後の議論の焦点は、導入に伴う設備コストへの対応だ。

事業者の実情に即した支援が不可欠だ

バイオエタノールの混合方式には、10年施行のエネルギー供給構造高度化法以降、国内で一定の導入実績のあるETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)方式と、海外で主流の直接混合方式の2種類がある。エネ庁は、エタノールをイソブテンと反応させる工程が必要なETBE方式について、製造コストが高く、イソブテンの安定調達も難しいことから、直接混合方式の採用に前向きな姿勢を示している。

ただ、直接混合には水分混入や腐食への対策が不可欠で、サービスステーション(SS)を含むインフラ整備に多額の費用を要する。石油連盟の試算では、E10化を全国展開した場合の対応コストは9000億円弱に上るという。

石油業界は足元でSS過疎地対策などの課題に直面しており、さらなる負担増には慎重な対応が求められる。事業者の実情に即した支援が不可欠だ。

使用済みパネルの大量廃棄 リサイクル体制を確立できるか


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 前論説委員

耐用年数を迎える大量の太陽光パネルが「ごみ」と化す未来が刻一刻と迫っている。

だがリサイクル義務化法案の提出が延期になるなど、環境整備は遅れている。

「使用済み太陽光パネルのリユース・リサイクルを促進するための制度については、引き続き検討を進め、臨時国会への提出を目指すとともに、環境整備を進めること」

石破茂首相は6月5日、こう書かれた決議を自民党の環境・温暖化対策調査会の井上信治調査会長らから受け取った。

政府は今年の通常国会に、使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化する法案の提出を予定していたが、あっけなく先送りとなった。政府は、秋の臨時国会での提出を目指す。

この法案の作成を巡っては、既にパブリックコメントを経て、3月28日には、中央環境審議会からの意見具申も済んでいる。そうしたプロセスを終えたにもかかわらず、法案提出が延期されるのは異例だ。

太陽光パネルの「大廃棄時代」を迎える


廃棄責任の所在 製造者か所有者か

内閣法制局が大きな壁となり、法案作成を担う環境省と経済産業省の前に立ちはだかった。

法案の柱として検討されていたのは、リサイクル費用をパネルの製造業者、もしくは輸入業者に負担させる仕組みの導入だ。具体的には、製造業者と輸入業者からリサイクル費用を徴収する第三者機関を設置し、費用の納付を義務付けることが想定されていた。

だが、この仕組みには大きな課題がある。設置済みのパネルの扱いだ。これから設置されるパネルについて、責任を負う製造者を明確にすることは難しくはない。しかし、設置済みのパネルでは海外メーカーが多い上に、廃業しているケースも少なくないため、リサイクル費用を負担する製造業者を特定することが困難になる。

さらに、他のリサイクル関連法との整合性の問題が大きい。

例えば、自動車リサイクル法では、クルマの所有者に使用済自動車の「排出者」として処理費用を負担するように定めている。いわゆる「排出者責任」という考え方に基づいている。

これに対して、今回のパネルのリサイクル法案は、製造業者(生産者)が、製品のリサイクルに関して責任を負うという、「拡大生産者責任」を原則にして組み立てられていた。

浅尾慶一郎環境相は、5月13日の記者会見で、内閣法制局から、「関係法令との調整も行った上で制度設計を行うべきとの指摘を受け、改めて検討を進めているところだ」と述べたが、法案の柱の部分を短期間で改めるのは容易ではない。

法案提出が遅延すれば、その分だけ、パネルの「大量廃棄時代」への備えが遅れる。現状では、使用済みパネルの大半は地中に埋立処分されており、リサイクル体制の確立が必要であることは間違いない。パネルに含まれているアルミや銀など価値の高い素材を回収し、有効活用することも求められる。

太陽光発電は、東日本大震災後、固定価格買い取り(FIT)制度の開始に伴って急拡大したが、太陽光パネルの耐用年数は20~30年といわれ、30年代後半に大量廃棄される見込みだ。ピーク時には年間50万tに達すると推計されている。

仮にパネルのリサイクル制度が整わず、全て埋立処分に回された場合、産業廃棄物の最終処分量の約5%に相当する規模になるという。

産業廃棄物の最終処分場は現状でもひっ迫ぎみだ。将来、使用済みパネルが全て埋め立てられることになれば、パンクする可能性も否めない。

太陽光発電の普及を急ぐ余り、使用済みパネルの処理問題を後回しにしてきたツケが回ってきたと言えるだろう。

「DX注目企業2025」に選定 グループ一丸で企業変革を推進


【九州電力】

経済産業省は4月、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」を選定した。LNG取引・配船業務の最適化の取り組みが評価されたことで、九州電力は電力会社で唯一、DX銘柄に次ぐ「DX注目銘柄2025」に選定された。経産省は年に一度、東京証券取引所、情報処理推進機構(IPA)と共同で、優れたデジタル活用により企業価値向上が実現した上場企業を選定している。

DXでLNG取引・配船業務を最適化した


経産省のDX調査で選定 企業価値への貢献を評価

企業がDX銘柄の選定を受けるにはまず、経産省による「DX認定」を取得していることが前提となる。これは、対象となる企業にDXの基盤が整っていること、また、同省が策定した指針「デジタルガバナンス・コード」に準拠してDXを推し進めていることを認定するものだ。

DX認定取得済の上場企業がDX銘柄選定にエントリーする場合、経産省はアンケート調査を行う。デジタルガバナンス・コードに沿い、デジタル技術の利活用が企業の持続的成長と競争力向上に貢献しているかを審査するためだ。選定の有無に関わらず回答へのフィードバックが行われるため、自社の現時点での立ち位置を確認する目的で調査を活用することも可能だ。

25年度は31社が「DX銘柄」、そのうち2社は特に優れた取り組みを行ったとして「DXグランプリ」に選定された。そして、DX銘柄に選定されていない企業の中から注目すべき施策を実行した企業として、九州電力を含めた19社が選定された。

九電グループは「DXロードマップ(基本計画)」の中で、DXの本質を企業変革と捉え、デジタル技術やデータを活用した自社サービス、ビジネスモデル、業務プロセスの抜本的改革を図っている。5月に発表した「九電グループ経営ビジョン2035」では、ありたい姿実現に向けたグループの重点戦略六つを示し、その5番目に「企業変革をリードするDX推進」を掲げている。

近年、ニーズの多様化や労働力不足を背景にAIなどの最新技術を活用した変革がより一層求められている。「デジタル×人のチカラで新たな価値へ」というDXビジョンの下、デジタル技術を最大限活用し、生産性向上や業務プロセスの効率化・高度化・自動化に向けてチャレンジを重ねてきた同グループ。DX注目企業に選定されたことを契機に、企業変革のさらなる深化に期待が高まっている。

【覆面ホンネ座談会】行き詰まる再エネ政策 業界人が指摘する突破口


テーマ:2040年に向けた再エネ政策

政府が本腰を入れるFIT(固定価格買い取り)からFIP(市場連動買い取り)への転換や太陽光の集約化などは、狙い通りの成果を挙げられるのか。また、各社厳しい局面を迎える洋上風力政策へのテコ入れが、引き続き重要な検討課題となっている。

〈出席者〉 A 再エネ事業者 B 再エネ業界関係者 C コンサル

―再生可能エネルギーの市場統合や国民負担の軽減に向け政府はFIP転を促進するが、実際どう受け止めているのか。

A 政府の狙いは理解しているものの、実際は簡単ではない。FIPではプレミアム収入の予見性が低く、特に大型のプロジェクトファイナンスではレンダーとの交渉で難しい面がある。一方、アップサイドのチャンスも。詳細は後述するが、バランシングコストの支援があることに加え、併設蓄電池による収益向上、また好条件なPPA(電力購入契約)を獲得できれば、FITのままより収益が上がる可能性がある。

B 難易度は発電所の規模に左右される。大規模なら蓄電池併設でもペイするが、小規模は簡単ではない。小規模は事業規律などの課題が残る領域でもあり、問題が濃くなっていくことが懸念される。地上設置の低圧をいつまで増やすのか、そろそろ考えるべきかもしれない。また、国民負担が減るというけれど、蓄電池によるタイムシフトのプレミアムが大きくなる可能性もあり、ネットでみて逆のインパクトをもたらす展開もあり得る。

C やはり制度的に分かりづらい面がある。参照価格(市場取引などにより期待される収入)などの情報を事業者は使いこなせているのか、オペレーションに資する仕組みかというと疑問が残る。実際、FIP転をした電源は、FIT・FIPの3%程度に過ぎない。

いまだ各地で太陽光を巡るトラブルは多発。集約化などがプラスに影響するのか


インセンティブが不十分 不良アセットを集約しきれるか

―今春始めた「長期安定適格太陽光発電事業者認定制度」では、一定規模の事業集約を進めようとしている。

B 認定制度の目的をどこに置くかが重要になる。今の仕組みがインセンティブになるのかというと疑問だ。元々太陽光は、JPEA(太陽光発電協会)がカバーしているアセットの割合が小さく、業界での規律確保の体制に課題があった。その観点から、例えば新電力が小規模太陽光などを保有・管理するというのは、規律の面からも新電力の事業面からも効果的であり、環境省の脱炭素先行地域とも方向性が合致する。ただ、本制度は結局発電事業者に寄せる形へ。さらに審議会では「不良なアセットも集約させていくべき」との意見が出ていたが、必要な収益性が確保できなければ受け入れる事業者は株主に説明できない。そのためのインセンティブがなければクリームスキミングが起き、やはり残されたアセットの課題が濃くなるのではないか。

C 2012年から5年間の事業用太陽光の認定量は2900万kW程度で、これが退出すれば電力システムのバランスが崩れてしまうし、蓄電池が収益を確保する見込みがなくなってしまう。長期電源化は進めるべきで、今ある設備を卒FITとして残すことは重要だ。しかし、認定制度で売却希望者情報が3カ月早く見られる程度では、インセンティブといえない。また、特高から低圧までコミットできる事業者は限られ、特に低圧は忌避されがちだ。申し込みサイトが立ち上がり2カ月経つ中、そろそろ進捗を示してほしい。

A 引き取ろうと思える低圧はごく一部で、その下のボリュームゾーンは投資や補強が必要となる可能性が高い。また、適格事業者にはいつまでにどの程度の規模を引き受けるのか、義務ではないものの、目標を中計などに掲げ進捗をウェブ上で公表するよう求められる。例えば、追加投資などが必要な案件を需要家がPPAで高く評価する仕組みなど、再エネを減らさず使い続けることの社会的価値を示せなければ、この制度は機能しないのではないか。また、資源エネルギー庁は再エネの悪いイメージを変えるべくあえて厳しい規律を設けている。当然事業者も努力すべきだが、加えて政府には原発で行っているように、再エネでも人々の不安に向き合いイメージを払拭するような取り組みに注力してほしい。

高度化する現場の安全をサポート 6種類のガスを同時に検知


【理研計器】

理研計器はこのほど、1台で最大6種類のガスを同時検知できるガス検知器「GX―6100」の販売を開始した。担当する営業技術部の安藤史織係長は「従来機種の特性を継承しながら、作業員の利便性が向上することを念頭に製品化した」とアピールする。

具体的には、作業現場で一般的に測定する可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素に2種類のガスを加えた最大6種類のガスを同時に検知できる。可燃性ガスに関してはppmレベルの低濃度から爆発の危険性を示す%LEL(爆発下限界)、vol%といった高濃度レンジまで、広い濃度範囲を1台でカバーすることができるようになるなど、作業現場でのガス検知をより効率的かつ確実に行える仕様になっている。

Bluetoothで緊急事態情報を共有できる


独自開発のセンサーを搭載 長寿命化し3年保証を実現

この検知を支えるのが、独自の「Rセンサ」だ。同製品では主要な可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素の検知に採用した。保証期間は、従来の1年から3年へと大幅に延長され、長期にわたり安心して使用できる。さらに、VOCやアンモニアを含む15種類の多彩なラインアップから、用途に合わせて最大2種類のセンサーを選択搭載できる。これにより、幅広い現場での多様なニーズに対応可能となった。

従来機種から搭載するPID(光イオン化式)センサーは、680種類のガス濃度を直読できる。2016年から労働安全衛生法で事業所規模に関わらず化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントの実施が義務付けられている。この実施対象となる化学物資のうち約200種類を同センサーで計測できるのも特徴だ。

このほか、Bluetooth通信機能を搭載。スマートフォンと連携し、マンダウン(転倒)警報やパニック警報を遠隔で即時通知可能とした。作業者が単独行動中に倒れて動きが止まった場合でも、設定した連絡先に自動で通知され、迅速に対応できるようになる。

ガスインフラ現場では、作業の高度化が進み、測定機器にもより高い柔軟性と信頼性が求められている。1台で多様な測定に対応するGX―6100は、次世代安全管理のスタンダードとなっていくだろう。

柏崎刈羽「緊急時対応」を容認 再稼働の〝夏越え〟に地元は反発


再稼働に向けて残されたプロセスは、いよいよ「新潟県の同意」のみとなった。

内閣府と新潟県などは6月11日、柏崎刈羽地域原子力防災協議会を開き、重大事故時の避難計画などを定めた緊急時対応について、国の指針に照らして問題ないと確認した。緊急時対応の策定は再稼働の条件の一つで、首相をトップとする原子力防災会議で了承される見込みだ。

柏崎刈羽6号機は燃料装荷を行った(6月12日)
提供:朝日新聞社

10日には東京電力が6号機の燃料装荷を開始した。国や東電は今夏の7号機再稼働を想定していたが、実現はほぼ不可能となっている。花角英世知事が再稼働の判断材料の一つとする住民公聴会が、8月末まで行われるからだ。7号機は10月に特重施設の設置期限を迎えるため、関係者は秋以降に6号機を再稼働させる構想を描く。

花角氏は判断の材料として、公聴会のほかに首長との意見交換や県民の意識調査を実施する方針だ。新潟県選出の国会議員は「知事の立場は理解するが、プロセスはなるべく早くやったほうがいい」と注文を付けた上で、「再稼働は技術的な問題で専門的な見地からの判断を重視すべきだ。原子力規制委員会が容認するなら、それを政治が止める必要はない」と指摘する。

一方、地元・柏崎市の櫻井雅浩市長は意識調査の実施について「理解することが難しい」と反発。7号機の燃料装荷から一定期間、再稼働しなかったことで、同市への交付金は最大2億円の減少が見込まれている。地域活性化のために早く再稼働してほしい―。大手メディアは伝えないが、市民の声は「原発が怖い」だけではないはずだ。

【イニシャルニュース 】本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術


本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術

〈実効性のある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働は認めません〉立憲民主党の参院選公約に盛り込まれた一文だ。一見、再稼働に厳しい姿勢に受け取れるが、それは言葉の妙。党幹部のS氏が明かす。「避難計画と地元合意があれば再稼働を認めるということ。野田佳彦代表の下で、政権交代可能な現実的な政党に生まれ変わろうとしているからね」

ただ「原子力発電所の新増設は認めません」との記述もあり、政府与党とは一線を画す。電力需要が増大する中で、原発抜きに脱炭素電源の確保は不可能だ。もし政権を奪取し、この方針を打ち出されたら業界としてはたまらない。政権政党への脱皮には、やはり党内左派が邪魔をしている。

S氏と同じような発言を、自民党議員のS氏からも聞いた。参院選で自民から新潟選挙区で立候補する中村真衣氏は「県民の安心安全が確保されない限りは再稼働すべきではない」と地元紙で主張。その真意は「安心・安全が担保できるなら、再稼働を止める必要はないということ。参院選もその原則を打ち出して戦うべきだ」(S氏)。

「技術的に難しいのが再エネ、政治的に難しいのが原子力」(元経産官僚)。原発の必要性は理解しつつも、いかに有権者の感情を刺激せずに政策を前進させるか─。与野党ともに苦心する様子が見てとれる。


HVDC計画に逆風 業界で高まる不要論

北海道と本州を結ぶ海底直流送電(HVDC)の整備構想が逆風にさらされている。資源エネルギー庁と電力広域的運営推進機関が中心となり2023年に策定した「広域連系系統のマスタープラン」に盛り込まれ、事業化のための検討が進められてきた。が、この間に①データセンターや半導体工場の建設ラッシュに伴う地域での電力需要増大、②資機材の高騰による建設コストの増大―といった環境変化があり、電力関係者などからHVDC不要論が高まっているのだ。

電力需要増大でHVDCは?

「マスタープランでは、北海道―東北―東京ルートの整備費用が約2・5兆~3・4兆円と試算されていたが、今やその範囲で収まるわけがない。もともと北海道や秋田の洋上風力の電気を首都圏に送るという目的があったわけだが、洋上風力自体のコストアップもあり、へたしたらHVDC経由の電力コストはkW時40円以上に。そんな高価な電気を誰が買うのか」(大手電力幹部A氏)

「北海道で電力需要増大の見通しが出てきた中では、むしろ道内の電気は道内で消費すべきだ。首都圏の電力需要には柏崎刈羽の再稼働推進やLNG火力の新増設などで対応する。そのほうが、よほど経済合理性がある」(新電力幹部B氏)

一方、学識者X氏は「経産省側は形を変えてでも直流送電を事業化したいのでは。コストを抑える意味では、青函トンネルを活用するという案も」と話す。さて今後の展開どうなるか。


S会が反原発団体に? Y氏が代表脱退の波紋

自然保護の観点から再生可能エネルギーの大規模開発に反対する住民組織、S会の全国大会が6月に開かれた。地域3団体がそれぞれの現状を報告。自民党参院議員のA氏とW氏が、同会の趣旨に賛同するビデオメッセージを寄せた。

実は、S会を巡っては昨年、幹部の間で一つの動きがあった。警察出身でS会の設立時から組織を引っ張ってきたY氏が、共同代表から外れたのだ。Y氏は再エネ開発反対の一方で、電力の安定供給と料金低廉化に資する原子力には賛成の立場を貫いていた。そこがS会に参加する自然環境保護団体との間で、意見対立などを引き起こす一因となっていたようだ。

「Y氏がいなくなったことで、S会の反原発色が強まることが懸念される」。電力関係者からはこんな声が聞こえている。