中国で初のエネルギー法施行 水素の規制緩和で利用拡大へ


【ワールドワイド/市場】

中国はCO2排出のピークアウト(2030年)とカーボンニュートラル(60年)を目指す「3060目標」に向けて、その土台となる中国初のエネルギー基本法「能源法」を1月に施行した。日本のエネルギー政策基本法に相当し、エネルギーの効率的発展とエネルギー安全保障の確保を目的としている。

制定には19年を要し、異例の3回にわたるパブリックコメントが実施された。審議の過程でエネルギー貯蔵や水素に関する条項が追加され最終的に昨年11月に全人代常務委員会で可決された。法律はエネルギーの効率的利用、低炭素社会の推進、クリーンで安全なエネルギーシステムの構築を掲げ、国家・地方政府のエネルギー計画策定を義務化。再エネを優先しつつ、石炭火力の合理的配置や化石燃料のクリーン利用も求めている。

能源法の特徴の一つは、「3060目標」に基づく低炭素化の推進だ。CO2削減とグリーン成長がエネ政策の基本方針となっている。水素は正式にエネルギーとして定義され、モビリティや発電などでの利用拡大が期待される。これまで危険物として多くの制約があったが、新法により規制緩和が進む可能性がある。また、エネルギー政策の管理が従来のエネルギー消費量ベースから炭素排出量ベースへ移行し、より環境負荷の低減を重視する方向へ転換している。

国際的な対抗措置を明記した点も注目される。中国に対して差別的な制限や制裁を行う国や地域に対し、報復措置を講じることができると明記されている。この条項は、法案審議の最終段階で追加されたと見られ、国際情勢の変化を反映したものと考えられる。さらに、中国国外で同国のエネルギー安全保障を脅かす行為を行った個人や組織に対し、中国国内法で責任を追及することも規定されている。

能源法により、中国のエネルギー政策が統一的な枠組みを得て、エネルギー市場や技術開発に関する法整備が進むと予想される。特に、水素エネルギーの拡大や低炭素社会への移行が加速する可能性が高い。トランプ米政権は中国に対する関税を引き上げた。対抗して中国は米国原産のエネルギー輸入に報復関税を課した。米中関係は不透明な状況にある。こうした外部環境の変化の中で、中国が「3060目標」に向けてどのような政策を展開するのか、また、26年から始まる第15次5カ年計画にどのように反映されるのか、今後の動向が注目される。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】市場機能を殺す 目先の安定性追求


【業界スクランブル/電力】

卸電力市場の価格については、漠然と「安定」を期待している人が多い。しかし、「市場の安定」は本当に望ましいのか。わが国の卸電力市場においては、市場支配力を持つ事業者による相場操縦を避ける目的で、価格の変動を抑制する仕組みが組み込まれているが、「副作用」は議論されてきただろうか。

例えばスポット市場においては、(設備能力上の)「余剰電力の全量を限界費用に基づく価格で入札」が「指針」で定められる。本来、設備能力の余剰があっても、需要急増などで手持ちの燃料の不足が見込まれれば、発電事業者は事業リスク回避のため、入札量を減らしたいところだが、それは燃料切れ寸前まで許されない。入札量減少で価格が上がれば、石油火力など燃料を多く保有する発電所の出番が増えたはずだが、価格変動のない市場には、燃料を多く保有する動機は生まれない。

石油火力のような「有事の予備力」は、市場では「オプション」として取引されるが、その値段は、まさしく市場の価格変動率で決まる。投球数の少ない江夏豊や大魔神・佐々木の年棒が高いのは、一球当りの価値が高騰する場面での登板が多いからである。

需給を反映した価格変動の欠如は、石油火力の退出を促し、余裕ある燃料保有を妨げているだけでなく、新たな予備力である蓄電池やDRの普及にも悪影響があるはずだ。

容量市場など他の市場でも、発電事業者の入札には量や価格に制約がかかる。目先の安定を追うあまり市場の機能を殺し、ひいては一番大切なお客さまを危機にさらすことはないのか。安定すべきは小売価格。卸売価格のヘッジの手段はあるのだ。(M)

ウクライナ経由のロシア産ガス 供給停止で欧州市場ひっ迫


【ワールドワイド/資源】

ロシアからパイプラインによる欧州向けの天然ガス輸出量はウクライナ侵攻以降急減してきたが、今年の年明けとともにさらに状況が変化した。ウクライナを経由するための契約が昨年末に失効したからだ。ウクライナルートはロシアのパイプライン輸出能力の約4分の1、欧州向けの半分程度を占めていた。停止することでロシアの戦費調達を低減させることがウクライナの狙いだ。ロシアのガス輸出体制への影響は大きいが、それ以上に、これまでロシアからの安定したガス供給に依存してきた欧州も影響を受けている。

欧州では米国産を中心とするLNG輸入量が2022年以降急増し、ガス価格高騰が続いている。1000㎥当たりで見ると、昨年初旬は250~300ドル程度だったが、今年2月には600ドルを記録。特にウクライナ経由でのガス調達に依存していたモルドバでは供給が途絶し深刻な状況となったほか、ウクライナの次の通過国だったスロバキアも、トランジット収入の消失と高いガス調達コストのダブルパンチを受けている。

ウクライナ国営石油・ガス会社Naftogazがロシア国営Gaz-promとトランジット契約を再開する見込みがない中、同ルートの存続のため複数の代替オプションも検討され、アゼルバイジャンやカザフスタンを供給源にガスを流すことやトランジットの当事者をGazpromではなく需要者である欧州企業に置き換えるといったアイデアがあった。しかし実現に向けた具体的な情報はなく、現実的に有望な手段は、既存のトルコ経由ルートで欧州向け輸送量を増やすというもの。実際、トルコストリームのロシアからの輸送量は増加が続き、今年2月には月間輸送量が開通以降最大を記録した。一方、増量には限度があり、失われたウクライナ経由の一部を埋め合わせることしかできない。またウクライナがロシア領内のトルコストリームの施設に対するドローン攻撃を年明け以降複数回実施しているとの情報も出てきており、予断を許さない。

欧州はLNG輸入と地下ガス貯蔵の引き出しによってこの冬を乗り切る。しかし次の冬に向けてのガス調達が夏にかけて待っている。欧州ガス市場のひっ迫は、アジア市場とのLNG争奪戦を起こし、大陸を挟んだ日本にとっても他人事ではない。日本のエネルギー安全保障の観点からも、ウクライナ戦争の早期終結と市場の緊張緩和が切望される。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年4月号)


【岩谷産業/水素の社会実装に向けたフォーラムを開催】

岩谷産業は2月26日、「広がる水素の実装に向けて」をテーマにイワタニ水素エネルギーフォーラムを都内で開催した。資源エネルギー庁の伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長が「水素等を巡る最新動向」について講演。「今後、エネルギーの需要増加が想定され、原子力や再エネとともに合成燃料や水素などは重要なエネルギー源だ。そうした中、同社は水素チェーンの構築に向けて技術を磨いている」と述べた。この他、日本原子力研究開発機構が「高温ガス炉を用いた大規模水素製造実現に向けた取り組み」について、三井住友銀行とINPEXは自社の水素事業について講演した。


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)、沖縄ガス/琉球大学病院にガスコージェネを導入】

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は3月14日、沖縄ガスと共同で琉球大学病院施設内にガスコージェネレーションシステム(CGS)を導入したと発表した。導入に際しては、TGESがシステム設計から施工、エネルギー調達、メンテナンス、監視、オペレーションまでを一括して担うエネルギーサービス方式を採用した。CGSは停電時でも発電可能なブラックアウトスタート仕様でレジリエンスの向上に寄与する。独自のエネルギーマネジメントシステム「ヘリオネットアドバンス」では気象情報や施設の稼働状況を基に平常時の省エネ・省CO2を実現する。4月1日から運用を開始する。


【マクニカ/レベル4対応の自動運転EVバス2台が運行開始】

マクニカは2月、茨城県常陸太田市でレベル4の自動運転に対応したEVバス「Navya EVO」2台を用いた定常運行を開始した。常陸太田市とマクニカは2023年2月に自動運転EVバスの実証実験を実施。昨年2月には同バスを使った定常運行を開始した。今年2月からは新ルートを運行する同バスを1台追加してより多くのデータを収集し、25年度中にレベル4の自動運転による運行を目指す。定常運行において、マクニカは自動運転EVバスの運行、自動運転走行に必要なデータ取得・セットアップ、技術的資料作成、関係各所の調整対応、運行体制の構築などを担当している。


【コスモ石油、日揮ホールディングスほか/国産SAFの供給を開始】

コスモ石油、日揮ホールディングス、レボインターナショナル、サファイアスカイエナジー の4社は3月6日、コスモ石油の堺製油所構内で国産SAF(持続可能な航空燃料)大規模製造装置の竣工式を行った。国内外の航空会社への廃食用油を原料とする国産SAFの供給を4月に開始し、年間約3万㎘の製造・供給の早期実現を目指す。


【アストモスエネルギー/業界向けにガス体エネの重要性を強調】

LPガス元売り大手のアストモスエネルギーは3月3日、都内でレセプションパーティを開催した。冒頭の挨拶で山中光社長は「世の中の脱炭素議論は3E+Sを重視した現実路線に戻りつつある。そうした中、ガス体エネルギーが果たす役割は今後高まると信じている」と強調した。会場には造船、海運、石油メジャー、大手サプライヤーなど約440人が参加した。


【東洋計器/業界向け勉強会でLPガスの強み訴求】

計量器メーカーの東洋計器は3月7日、都内で関東東計会を開催した。同社の土田泰秀会長は3部料金制度を前提とした新・料金メニューの活用策などについて講演した。特別講演ではNXエネルギー中部の水谷清昭社長が「LPガス事業のDXによる生産性とサービス向上で選ばれるガス会社へ」と題して、システム連携による時間帯割引メニュー活用を紹介した。

激論経て野心的なNDC決定 目標「実施」のフェーズへ


【巻頭インタビュー】浅尾 慶一郎/環境相

大白熱の議論を経て、政府は2月に国連事務局に日本の新たな温暖化対策目標・NDCを提出した。

世界情勢が一層混とんとする中、日本の環境行政をどうけん引していくのか、浅尾環境相に聞いた。

あさお・けいいちろう 参議院議員。当選3回(衆院当選3回)。東京大学法学部卒。米スタンフォード大学経営大学院修了(MBA)。1998年初当選。みんなの党代表、自民党入党後は参議院議院運営委員長などを歴任。24年から現職。

―第2次トランプ政権が誕生し、世界各国ではさまざまなリスク・分断が顕在化しています。日本はどう対峙し、どのような役割を果たすべきでしょうか。

浅尾 世界の気温上昇を工業化以前から1・5℃以内に抑えるためには、主要排出国を含む全ての国の取り組みが重要です。そのような中で、米国のパリ協定からの脱退表明について、気候変動問題を担当する私自身としては残念に感じています。ただ、脱炭素の取り組みは地方政府や経済界を含むさまざまなステークホルダーにも広く浸透するなど、わが国を含め世界的な潮流は変わっていません。

COP29(気候変動枠組条約第29回締約国会議)では、新たに気候資金の目標として、気候変動対策のための途上国向けの資金を2035年までに毎年少なくとも1・3兆ドルへ拡大させるよう全てのアクターに求めることに合意しました。今後は官民による気候変動分野への莫大な投資機会が生じることになります。民間事業者の皆様にはこれを気候ビジネスの拡大の機会と捉えていただけたらと思います。環境省としては、JCM(二国間クレジット制度)などを通じ、日本の優れた脱炭素技術を海外に展開するプロジェクトを後押ししていきます。


エネ基と平仄合わせて 実情踏まえCO2削減加速

―地球温暖化対策計画が策定されました。今般の議論を振り返っていかがですか。特にNDC(国別目標)を巡っては議論百出の状況となりました。

浅尾 わが国は2月18日、30 年度から先の新たな温室効果ガス排出削減目標として、13年度比で35年度に60%削減、40年度に73%削減を目指すことを閣議決定しました。官民が予見可能性を持って排出削減と経済成長の同時実現への取り組みを進めるため、30年度目標および50年ネット・ゼロを堅持しつつ、その間をつなぐ明確で直線的な経路上のものとしました。世界全体での1・5℃目標と整合的で、野心的なものと認識しています。検討に当たっては、環境省と経済産業省の合同審議会で熟議いただき、パブリックコメントで前回を大きく上回る3000件超の多様な御意見を頂戴しました。国民の皆様の気候変動への関心や危機感の高まりを実感し、さまざまなステークホルダーの声に耳を傾けることの重要性を改めて認識したところです。

今後は、目標をいかに実現していくかという「実施」のフェーズに移ります。脱炭素・経済成長・エネルギー安定供給の同時実現を目指し、関係省庁が連携しながら、エネルギー基本計画およびGX2040ビジョンと一体的に施策を推進するとともに、フォローアップを通じ柔軟な見直し・強化を図ります。

「電柱鳥類学」の有用性 持続的な保守管理のヒントに


【オピニオン】三上 修/北海道教育大学教育学部教授

私の専門は電柱鳥類学である。といってもそんな学問分野は存在せず、自称しているだけだ。何をしているかというと、電柱・電線と鳥との関わりについて研究している。

本来、鳥とは、木々に止まりそこに巣を作り生活している。街の中でも街路樹や公園の木々をそのように使っている。しかし今や鳥たちは、街の中に縦横無尽に張り巡らされ電柱電線をも利用している。電線に止まって周囲を警戒し、求愛のためにさえずり、さらには電線保護カバーや電柱の付属物に巣を作る。大げさに言えば、鳥にとって電線とは枝であり電柱とは幹なのだ。詳しく調べると複数ある電線のうち、特定の高さの電線に止まりやすいことも分かっている。「そんなことを調べて何の意味があるんだ」と問われると答えに窮してしまうが、昔の偉い人も「遊びをせんとや生まれけむ」と言っていた、と煙に巻いておこう。

歴史的に見れば、街(都市)とは人間が快適に暮らすために自然を排除して造ったものだ。ところが排除されたはずの鳥類が、配電設備を勝手に利用して繁栄していると考えるとなかなか面白いのではないだろうか。同意できないと思った方は、拙著「電柱鳥類学(岩波書店)」を読んでいただければ、少しは分かっていただけるかもしれない。

その電柱鳥類学者の眼からすると、最近、電柱に作られたカラスの巣が、すぐには撤去されずに、巣立ちまで見守られていることについて、感謝しつつも思うところがある。カラスは寿命が長く、学習能力が高い。そのため、そのカラスは翌年も電柱に巣を架けるだろう。さらにその姿を他のカラスがまねる可能性がある。つまり見守りの姿勢は、カラスが電柱に巣をつくることを助長している可能性がある。それは将来の停電のリスクを上げ、カラスを悪者に仕立て上げてしまう。見守りの姿勢が、結果的に悪い循環をもたらしてしまうかもしれないのだ。

こういった電力インフラが動植物により毀損されている例は他にもあるだろう。今は許容できる範囲かもしれないが、人口の減少に伴って電力インフラを維持するための負担が増えることを考えると、早めに解決の糸口を探ったほうがよさそうだ。

そこで、もっと研究者に相談してみてはどうだろうかと提案したい。もちろん中にはけんもほろろの対応をする者もいるだろう。

一方で、研究に必要なデータや機材を提供すれば、喜んで協力する研究者は多いはずだ。「このデータを使って論文を書いて良いから、解析をしてくれ」と持ち掛ければ、それだけ食いついてくる可能性もある。「目には目を、歯には歯を」の精神で「動植物の面倒な生態には、研究者の特異な生態を」ぶつけてみるのはいかがだろうか?

みかみ・おさむ東北大学大学院理学研究科博士課程修了。スズメをはじめとした都市に生息する鳥を研究。著書に『スズメ―つかず・はなれず・二千年』(岩波書店)、『電柱鳥類学:スズメはどこに止まってる?』(岩波書店) など。

【コラム/4月14日】欧州水素銀行とH2Globalに関する最近の動向


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

欧州委員会は、グリーン水素の調達戦略として、2023年3月に、イノベーションファンドを用いてEU域内外の水素バリューチェーンへの民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」の構想を発表した。同年11月には、欧州委員会はEU域内の製造事業者に対して、第1回のオークション(パイロットオークション)の入札を開始し、入札結果は、2024年4月に発表され、スペイン3事業、ポルトガル2事業、ノルウェー、フィンランド各1事業の合計7事業が選定されている。また、ドイツでは、2021年6月に、グリーン水素およびその派生物の国外からの調達のために「H2Global」が設立され、2022年の12月から、グリーンアンモニアなどの水素デリバティブに焦点を当てて、第1回目のオークションの具体的な活動が始まった。昨年7月12日のコラムで欧州水素銀行とH2Globalに関してこのような動向を紹介したが、本コラムではその後の展開について述べたい。

まず、欧州水素銀行についてであるが、第2回のオークションの入札が、欧州経済領域 (EEA) 内のプロジェクトを対象に、2024年12月に開始され、今年2月に終了している。EEA内の11か国のプロジェクトから61件の入札があった(予算総額は最大12億ユーロ)。また、2024年11月には、スペイン、リトアニア、オーストリアは、第2回オークションの一環として「オークション・アズ・ア・サービス」(”auction-as-a-service”: AaaS)スキームに参加し、落札できなかった自国にあるグリーン水素生産プロジェクトを支援するための7億ユーロを超える国家資金の提供を発表している。今年の5~6月頃に入札の評価が行われた後、入札結果が発表される予定である。

つぎに、ドイツのH2Globalであるが、第1回のオークション(予算総額は9億ユーロ)のうち、グリーンアンモニアに焦点を当てたロット1に関して、入札結果が昨年7月に発表された。65か国以上から数百の事業者が入札書類をダウンロードし、入札への関心の高さが示された。資格審査で5つの事業者に絞られ、落札したのは、UAEのアブダビを本拠地とするFertiglobeで、エジプトのグリーン水素プロジェクトからグリーンアンモニアを製造する。このプロジェクトには、100 MW の電解設備、203 MWの 陸上風力発電プラントおよび 70 MW の太陽光発電プラントの建設が含まれる。欧州への受け渡しは、2027年に19,500トンが、また2033年までに累計で最大397,000トンが予定されている。契約価格は、1,000ユーロ/トンであった。

グリーンメタノールに焦点を当てたロット2は2024年中に結果が発表される予定あったが、現在までのところ、入札実施主体である「Hintco」(H2Global財団の100%子会社)から公式なアナウンスメントは出ていない。また、e-SAF を対象としたロット 3 は、e-SAFに関する規制の不確実性が存在していること、ロットのサイズが小さく契約期間が短いため、投資の収益性が確保できないと事業者が判断したことなどから、契約が締結されることなく終了した。ロット 3 に配分された資金はロット 2 に再配分される。

Hintco は、昨年12月に最大30億ユーロの予算で、H2Globalの第2回オークションを実施することを発表し、今年2月にオークションの最初の段階が開始された。オークションは、申請段階、交渉段階、入札段階、評価・落札者決定段階からなるが、入札提出の最終時期は2026年3月と想定されている。第2回のサプライサイドのオークションは、5つのロット(アフリカ、アジア、北米および南米・オセアニアの地域ロット4つとドイツ、オランダおよび制裁対象国を除くグローバルロット1つ)に分かれている。地域ロットでは、すべての製品(水素、アンモニア、メタノール)を対象に入札を行い、グローバルロットでは水素に焦点を当てた入札を行う。地域ロットには最低 4 億 8,400 万ユーロ、グローバルロットには最低 5 億 6,700 万ユーロが割り当てられる。予算総額は、最低でも 25 億ユーロが確保されているが、最終的には議会の承認により30億ユーロまで増加する可能性がある。グローバルロットは、ドイツとオランダの両政府が共同で資金を提供する。

以上のように、H2Globalの第2回オークションでは、地域ロットで、調達地域の多様化を確保しつつプロダクトオープンとし、グローバルロットで、水素にターゲットを絞った調達を確保しつつベクターオープンとしている。第1回オークションと比べると調達の仕組みに一層の工夫がなされていることが分かる。また、2023年5月には、H2Globalが欧州水素銀行のEU域外からの水素輸入で連携することを欧州委員会のエネルギー担当委員から発表されており、EUは域外からの水素の調達に関して一体的に取り組むことになった。現在、欧州委員会は、水素の国際的な調達に関してオークションのコンセプトを策定中であるが、欧州水素銀行とH2Globalでは異なる入札メカニズムが用いられており、どのようなメカニズムが採用されることになるのか注目される。わが国では、水素および水素デリバティブの調達に関するサプライチェーンの構築を今後本格化していく必要があるが、EUやドイツでの経験や議論は参考になるところが多いと思われる。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

サイエンスとエンジニアの融合 核融合のリアルな現場を取材


【脱炭素時代の経済評論 Vol.13】関口博之 /経済ジャーナリスト

1月号で書いた核融合について再度取り上げたい。核融合のリアルな現場を知りたいと今回、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所を取材した。広い敷地に20以上の建物があるが、メインは大型ヘリカル装置(LHD)が入る実験棟。メンテナンス中の内部に入った。

核融合研内のヘリカルフュージョンの実験装置

中心には直径13・5mのドーナツ状の本体装置。周辺を取り囲むのはプラズマを作り、温度を上げる加熱装置や、超伝導磁石を冷やすためマイナス270℃の液体ヘリウムを供給する装置、宇宙に近い真空を作る装置。観測機器も所狭しと並ぶ。研究部長の坂本隆一教授によるとこの装置で生成したプラズマが、ヘリカル(らせん)型として世界初の1億2000万℃というイオン温度を達成したという。核融合を起こすにはこの超高温が不可欠なのだ。記録の動画も見る。白っぽく輝く帯状の筋の間に透明な空間が。一瞬だった。プラズマを一定時間保つのが大事なのではと尋ねると「実験はサイエンスとしてプラズマ生成の実測データを取るので、数秒でそれは可能です。長く保持するには膨大な電気代もかかりますから」(坂本教授)と笑う。

制御室には19万回超のカウント表示が。1998年にLHDが稼働してからの実験回数だ。地道な探求が積み重ねられてきたのを実感する。今は軽水素を実験材料にしているため核融合反応は起きない。将来、核融合には重水素とトリチウムを使うことが想定されているがそれは先。今はあくまでプラズマの解明が使命なのだ。

核融合を人類がエネルギーとして使えるのはいつか。坂本教授からの答えは「次の世紀になるのでは」という意外ものだった。まずプラズマを作るのに使うエネルギーより出てくる方が大きくなければ意味がない、それには今の数十倍の装置が必要で経済性が問題、炉の耐久性も考えないと……。科学者の誠実さがにじむ説明だった。

核融合科学研ではスタートアップも作業スペースを借りて共同研究を行っている。民間なりの技術開発に取り組む。ヘリカルフュージョン(東京都)もその1社。同社の後藤拓也副CTO(最高技術責任者)は「ここには知識、経験豊富な研究者がここにはたくさんいて心強い」という。その上で「サイエンスの部分では実証が見えてきた。今後はエンジニアリングの部分でわれわれの出番がある」。

その一つが超伝導磁石に使う部材。薄膜状の材料を重ねることで大量の電流を流せ、かつ「へび」のように曲げられる部材だ。この部材を使えば磁石の冷却温度を上げられ、液体ヘリウムの使用量を節約できるという。新たな試験装置も入れた。核融合発電では原子核の衝突で飛び出す中性子を捉え熱に変える。中性子を受ける「ブランケット」という部分には液体金属を使う想定なのだが、どうせならこの液体金属を炉壁の保護にも使えないか、というのが彼らの発想。その実験をするという。

「サイエンス」と「エンジニアリング」が相まって核融合への長い道のりも見えてくる。実現にさらに必要なのは「社会からの信頼」だろう。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.11】新エネ基の明確な「メッセージ」 投資促す「シグナル」になるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.12】進化する建築物の脱炭素化 ZEBの次はライフサイクルで

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

「第2世代」燃料の製造技術を研究 未利用作物の有効活用を目指す


【次世代グリーンCO2燃料技術研究組合】

自動車分野のCO2排出量低減に向け、非可食植物由来のバイオエタノール燃料への注目が高まっている。従来のバイオエタノールが原料とするサトウキビやトウモロコシなどの可食作物を使用しないことから「第2世代」と呼ばれ、世界的な人口増加に伴う食糧問題ともバッティングしない。その第2世代の開発において最先端を走るのが、「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」(福島県大熊町)だ。

立ち並ぶ発酵槽

同組合の設立を先導したのはトヨタ自動車。液体燃料(ガソリン)の脱炭素化を見据えバイオ燃料の研究を進めていた同社が、さらなる研究開発の促進を目的に、エネルギー業界からENEOS、自動車業界からスズキ、SUBARU、ダイハツ工業など5社に呼びかけ、2022年7月に設立した。23年3月にはマツダも加わり、現在は7社で構成されている。

研究開発拠点となる製造プラントは福島県大熊西工業団地に建設された。同じ浜通りにある浪江町に原料となるイネ科植物のソルガムを栽培する条件が整っていたことや、福島の復興に貢献したいという思いがその背景にある。昨年11月にしゅん工し、現在は本格稼働に向けた試運転を行っている。


独自酵母で生産性を向上 さらなる技術開発にも意欲

非可食植物の利用には、セルロースなどの繊維質を柔らかくする前処理工程が必要となる。糖化を促す酵素を繊維質内に入り込みやすくするためだ。同プラントでは、不純物を取り除いて圧搾したソルガムを蒸煮し、その後高温の水蒸気によって繊維質を砕くプロセスを確立した。前処理を終えたソルガムは、酵素によって糖化し、トヨタが独自開発した酵母菌「TOYOTA XyloAce」と反応することで発酵する。同酵母菌は、自然界では発酵が難しいキシロースをエタノールに変換することが特徴だ。これにより植物由来の繊維質のエタノール生成量は従来の1・5倍になった。

また、発酵時に発生するCO2を活用するため、ENEOSの合成燃料プラント(横浜市)に輸送する体制を整えた。

中田浩一理事長は「ソルガムの活用で得られた知見をほかの未利用バイオマスにも展開していきたい」と話し、よりCO2排出量が少なく、効率的なバイオエタノール製造への意欲を示した。

今冬のJEPX価格を分析 競争状況に新たな動きも


【マーケットの潮流】曽我野 達也/ENECHANGE代表取締役CBDO

テーマ:卸電力価格

今冬のJEPX価格は大幅な変動は見せなかったものの、前年よりは高値で推移した。

原発再稼働やJKM動向などがどう作用したのか。また、足元の競争では新たな動きが見える。

 JEPX(日本卸電力取引所)市場は2024年度の2月を迎え、冬季とされる期間が最終月に至った。システムプライスは前年冬季と比べて1、2月ともに高値を記録。1月の平均システムプライスは12・43円で前年より2・31円高く、2月は13・94円で4・58円高となった。これには気温差が大きく影響しており、主要都市の月間平均気温は1月が約4・8℃で前年より0・6℃低く、2月は約3・4℃で3・3℃低かった。24時間単位で見ても24年度冬季は前年より全時間で約1・5℃低く、午後5時~10時半の時間帯では平均システムプライスが3円以上高値となる大きな差が見られた。

今冬は各地が記録的な降雪に見舞われた


原発稼働の影響は限定的 LNG価格動向は注視を

原発の再稼働によるJEPX価格への影響度は、非常に軽微と考えている。まず発電容量の観点では、女川原発2号機の容量は東北電力管内の約4%、全国ではわずか0・5%。島根原発2号機の場合も中国電力管内約7%、全国では0・5%程度である。さらに、JEPXスポット市場におけるkW時の視点で見ると、女川2号機再稼働後、売入札量は減少し、買入札量は増加。システムプライスは12・26円から13・18円へ上昇し、稼働2週間後には13・42円となった。一方、島根2号機再稼働後の価格変化は13・42円から13・12円とわずかな低下にとどまり、市場への大きな影響は確認されなかった。

稼働前後で市場に大きな変化がない印象である。ただ、原発再稼働のJEPX価格への影響は、価格がスパイクする可能性やスパイク時の上昇度合いを軽減する効果はあると考えている。理由は、原発が動いた分、火力は出力を落とし発需のバランスが取られ、落とされた火力発電コストと原発コストを比べると、理論上原発の方が安く、出力が安定的な原発がベースロード電源を賄う方が価格のスパイクリスク抑制につながるためだ。

ただ、JEPX価格に影響を与える要因は多岐にわたる。中でも現在最も影響が大きいのは北東アジア向けスポットLNG価格を示すJKMである。欧州天然ガス市場のベンチマークであるTTFと連動しており、ウクライナ・ロシア戦争やロシア産天然ガス供給停止など、地政学的要因によってJKMが大きく変動する状況が続いている。

日本のLNG火力発電は主に午前8時~午後10時の需要を支える重要な電源であり、LNG価格の上昇はJEPX価格に直接影響する。電力業界のクライシスが起きたころと何ら市場構造は変わらないため、何かしらの要因でLNG輸入が困難になると、電力小売市場はすぐにクライシス再来となるだろう。

LNGは貯蔵が困難な特性から、常に荷揚げと消費のサイクルを続けなくてはならない。ピーク時間を再生可能エネルギーのみにすることは難しく、LNGに比べ貯蔵できる燃種の石油・石炭火力発電を減らし続ける中で、LNG調達に難が生じた場合に電力小売市場が高騰する懸念のみならず、そもそもの安定供給を維持するためどのように周波数を保つのか、方策を検討することが肝要と考える。

トランプ・ゼレンスキー会談の意味 根本から変わった冷戦以降のレジーム


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

日本時間2月28日未明に行われた、トランプ米大統領らとゼレンスキー・ウクライナ大統領の首脳会談で繰り広げられた口論は、衝撃的だった。世界中からの衆人環視の中で、米国のリーダーたちが感情を露わにしたこの会談は、世界史に残るものとなるのは間違いない。

この会談は、表面的にはウクライナでの戦争を巡る米国、ロシア、ウクライナの間の駆け引きの一端であるが、もっと大きな構図で見なければならないのではないか。

一つは、世界における米国の役割が決定的に変わったことが確認されたことだ。東西冷戦後、米国は世界の基軸通貨たるドルと圧倒的軍事力を背景に、グローバリズム(全球化)のけん引役となり、「パックス・アメリカーナ」は盤石になるものと思われた。

しかし、ヒト・モノ・カネが自由に行き交う国境の壁が低くなったグローバリズムの世界では、「自由の国」アメリカより、国民の自由を抑圧しながら、巨大な市場や豊富な資源を背景にグローバルな経済的利益を獲得しようとするロシアや中国のような権威主義国の方が、効率的に富を蓄積できるようになったといえよう。

米国が生み出したグローバリズムが、皮肉にもかえって米国の首を絞め、ロシアやグローバル・サウスと言われるモンスターを生んだのだ。世界の「絶対的」リーダーから「相対的」リーダーに転落した米国は、ロシアや中国と対等な立場でのディール(交渉)によって対峙しなければならなくなった。 これは決してトランプという大統領の特殊性によるものではなく、米国の没落に伴う必然なのだ。


途上国に有利なルール 日本はエネ政策の自立を

1989年の冷戦崩壊後、92年のリオ・サミットで気候変動枠組み条約が採択されて世界的な地球温暖化対策の流れが始まったことから明らかなように、グローバリズムの流れと国際的な環境規制の動きは一体のものだ。カーボンニュートラルビジネスの加速もその一環にある。

しかし、今やそれはいまだに途上国を標榜するグローバル・サウスにばかり有利なルールとなっていることに、多くの先進国は気付いている。トランプ大統領の2期目の登場は、これらの冷戦以降のレジームが根本から変わったことを示している。

わが国も、このような世界史的な大きな流れを見据えながら、少資源国として国際的な環境規制を所与のものとすることなく、自立した戦略的なエネルギー政策を今こそ再構築することが求められるだろう。このような問題意識の下、国会で議論してまいる所存だ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

4月の開幕前に報道陣向け公開 エネ業界パビリオンは体験型展示


【大阪・関西万博】

4月13日の「2025年大阪・関西万博」開幕を前に、電気事業連合会は「電力館 可能性のタマゴたち」、日本ガス協会は「ガスパビリオン おばけワンダーランド」をそれぞれ報道陣に公開した。

ゲーム感覚で楽しめる無線給電展示

電力館はカーボンニュートラル(CN)のさらに先を見据えた社会の基盤を支える電力業界ならではの視点で未来社会を描くことを展示のコンセプトにした。入館者はタマゴ型の光るデバイスを手にしながら館内を巡り、核融合、無線給電、直流送電など30の展示を体験できる。

無線給電の展示はディスプレイに映し出す家電やEVなど電気を利用する製品にスティック型コントローラーで電気を送り、他の参加者とスコアを競う。こうしたゲーム感覚で楽しめる展示が盛りだくさんだ。岡田康伸館長は「30のテーマは展示を体験したときにワクワクドキドキするか、を基準に選定し、エンタメと学びを両立させることを念頭に展示を作り上げてきた。ぜひ楽しんでもらいたい」と意気込みを語った。


VRで人間がおばけに変身 e―メタンの仕組みを紹介

ガスパビリオンは「化けろ、未来!」をコンセプトとした。「50年CNの実現に向けて、一人ひとりが意識や行動を変える」などの意味を込めた。金澤成子館長は「ワクワクドキドキする体験を通じて、子どもたちが環境や未来のエネルギーについて考え、より良い1歩を踏み出す、“化ける”きっかけを提供したい」と説明する。

ガスパビリオンのVR体験

パビリオンは「化ける体験エリア」と「化ける展示エリア」に分かれている。体験エリアでは、仮想現実(VR)専用の「バケルゴーグル」を着用。参加者自身も周りの人もおばけに変身して、温室効果ガス削減の取り組みや、エネルギーの大切さを遊び感覚で理解してもらう。展示エリアでは、CO2をリサイクルしてe―メタンに変える仕組みをわかりやすくグラフィックや映像で説明する。

大阪万博では、水素燃料電池船やメタネーションなど、さまざまなエネルギー関連の施設やデモがある。「未来社会の実験場」としたコンセプトの通り、エネルギーの未来が体感できる数々の展示は来場者にどんな驚きをもたらすのだろうか。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年4月号)


NEWS 01:西エリアで卸電力高値のワケ インバランスへの不安強まる

3月初旬の日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場では、西日本のエリアプライスが東日本よりも高い水準で推移する時間帯があった。関西では4、6、7日の計18コマで1kW時当たり40~45・01円を記録。中部でも計17コマで同様の水準となった。

JEPXの発電情報公開システムによると、この期間中、点検や補修で火力電源が徐々に減少していたものの、西日本で需給ひっ迫につながる大規模な電源の脱落は確認されていない。

インバランスリスクへの備えが反映された

ある電力業界関係者が原因を推測する。「冷え込みによる需要増を見込み、小売り事業者がインバランスリスクを恐れて、高値でも確実に電力を確保しようと買いに出たのではないか」

実際、気象庁によると、大阪府の平均気温は4日が6・4℃、6日が7・8℃、6日が5・8℃と寒さが続いた。ただ、東日本でも東京都で4日、同2・4℃と冷え込みは厳しかった。なぜ西エリアだけ市場価格は上昇したのか―。

「西日本は東日本に比べ再エネの導入量が多く、出力変動に対する不安がつきまとう。低気温による需要増に加え、天候不順による出力低下を見越した小売各社の調達行動が背景にあるのだろう」(先の電力業界関係者)

再エネ普及率が高まるほど、小売りにとってインバランスリスクへの備えは重要になる。今回の事象は、それが市場価格の変動として如実に表れた形だ。


NEWS 02:洋上風力ゼロプレ案件に活路 容量市場への応札が可能に

洋上風力公募にFIP基準価格を1kW時当たり3円で入札した「ゼロプレミアム案件」について、資源エネルギー庁は2月26日の総合資源エネルギー調査会の作業部会で、容量市場メインオークションへの応札を認める方針を示した。FIPのプレミアムが実質的に得られない同案件は、コーポレートPPAにより売電するしかなかったが、新たな収入機会が確保される見通し。資材高騰や円安の影響で実現性が危ぶまれる中、事業者の投資決定を後押しする狙いがある。

これまでの洋上風力公募では、ゼロプレ入札が常態化している。同3円を超える値付けでは急激に価格評価点が低下するため、実質的にゼロプレ水準での入札が前提条件となっていたからだ。結果として、長崎県沖を除く6海域中5海域でゼロプレ水準の入札者が落札している。

事業者からは価格点算定式などの入札制度の見直しに加え、別の収入源を確保する仕組みを求める声が高まっていた。中でも容量市場については、ゼロプレ案件であればFIPのプレミアムが付かないため、固定費の二重回収が発生しないとして参加を認めるべきとの要望が寄せられていた。

今年度に入札が行われる2029年度向けオークションから適用される予定だ。バランシングコスト相当分の交付金を放棄することが条件となる。 政府は洋上風力を再エネ主力化に向けた「切り札」と位置付けており、30年までに1000万kWの導入を目標とした。一方、現時点で落札側にFID(最終投資決定)の動きはなく、第一ラウンドで秋田県沖と千葉県沖の計3海域を落札した三菱商事は2月、事業性を再評価し今後の対応を検討すると表明した。冷え込みつつある洋上風力事業に、政府のテコ入れは続く。


NEWS 03:液石法改正省令が全面施行 M&A加速の呼び水なるか

LPガス業界の商慣行是正を目指し、液化石油ガス法の改正省令が公布されてから1年。昨年7月の「過大な営業行為の制限」に続き、4月2日には「三部料金制の徹底」が施行される。

同日以降は、既契約の場合は基本料金と従量料金の二部料金からガス消費機器の利用料金相当を外出し表示しなければならなくなる。また、賃貸集合住宅の新規入居者に対しては、たとえガス消費機器であっても設備利用量をガス料金に上乗せできなくなる。

同制度のポイントは、大小問わず全てのLPガス販売事業者が対応することが求められていることだ。全国1万6千の事業者は、一部の大手を除けば大半が中小・零細事業者であることは言うまでもない。三部料金への移行に伴う実務、そして施行までに終えなければならない料金システム改修にかかる費用の両面で、重い負担が小規模事業者にのしかかる。

このため、「施行が直前に迫っているにもかかわらず、準備状況にはかなりのバラツキがあり、施行日に対応が間に合わない事業者も多いのではないか」(業界関係者)との声も聞こえてくる。

さて、改正省令の全面施行後、LPガスの競争はどのような局面を迎えるのだろうか。

3月19日の液石WGでは事業者から、投資額が減少した結果、家庭用LPガスの利益率が向上したことが報告された。不動産オーナーへの利益供与による顧客獲得が難しくなれば、単純な価格競争の世界に入り、おのずと大手有利となるだろう。実際、「(三部料金制への対応もあり)経営が立ちいかなくなった中小・零細事業の廃業や、規模拡大を狙う大手による商権買収やM&Aの案件が水面下で動き出している」(同)という。


NEWS 04:EEZに洋上風力設置へ 問題多く画餅感否めず

排他的経済水域(EEZ)に浮体式洋上風力を設置し、2030年1000万kW、40年3000万~4500万kWの目標達成へ―。そんな青写真を描き、政府は3月7日、洋上風力開発地点を領海内からEEZまで拡充できるよう、再エネ海域利用法改正案を閣議決定した。昨年の通常国会でいったん審議されたものの、総選挙の実施などで成立せず、今通常国会に再提出する。

日本のEEZ内は国土の約12倍と広大だ

EEZに洋上風力の設置を長期間認める制度を創設する。経済産業相が自然条件や、漁業者などの利害関係者の意見を聞くための公告縦覧、関係行政機関との協議を踏まえ募集区域を指定。事業者が計画案を提出し、経産相・国土交通相が仮の地位を付与する。事業者や利害関係者を構成員とする協議会で協議が調ったといった基準を満たせば、両大臣が許可する。

政府は領海内では第3弾まで公募を実施し、合計約450万kWの計画を選定。着床式の適地は限られ、公募はあと1~2回程度との見方がある。先述の目標に向けては、浮体式の低コスト量産技術開発などを進め、本腰を入れるほかない。

ただ、着床式以上に難易度が高い浮体式の大規模導入は果たして可能なのか。ましてEEZともなれば、海底ケーブル敷設の難しさが容易に想像でき、設置できたとしても中国船などに損壊される可能性もある。画餅感はどうしても否めない。

米国で高まる「反ESG」 日本勢も脱炭素連合から脱退


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

米国ではトランプ政権の誕生でESG投資の見直し機運が高まっている。

国際的な脱炭素連合から米銀に加え、邦銀も脱退する動きが出てきた。

トランプ旋風が世界に吹き荒れる中で、米国の金融市場でESG(環境・社会・企業統治)投資の見直し機運が急速に高まり、日本にも波及してきた。三井住友フィナンシャルグループ(FG)と三菱UFJFG、野村ホールディングス(HD)が脱炭素を目指す国際的な金融連合「NZBA」(ネットゼロ・バンキング・アライアンス)から脱退し、他のメガバンクなどの国内金融機関も追随する方向で検討を始めた。

NZBAは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする目標を掲げ、融資先企業に厳しい気候変動対策を求めてきた。だが、バイデン前政権の脱炭素政策を強く批判してきたトランプ大統領が誕生し、米国の金融機関は一斉にESG投資に対する姿勢を転換。これに伴って、脱炭素を目指す資産運用会社の国際連合「NZAM」(ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ)など脱炭素を促す国際金融連合からの脱退が相次いでいる。

このため、米国の金融市場で活動するに当たって、日本の金融機関の間にも「ESG連合に加盟していることが障害になりかねない」(大手銀行幹部)との懸念が強まり、三井住友FGは米国事業への影響を考慮し、邦銀として初めて脱退を決めた。教条的なESG投資が金融市場を席巻し、必要な電源投資に対する資金の確保が難しくなると問題視されているが、今回の脱退を適切な「トランジションファイナンス(移行金融)」の確立につなげたい。

三井住友FGはNZBAから脱退した

実質的な活動中止に 適正な移行金融を確立せよ

トランプ大統領は1月の再就任日に、温室効果ガスの排出削減を目指す国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する大統領令に署名し、脱炭素政策の転換を急いでいる。大統領選期間中から化石燃料への投資拡大を訴えてきたトランプ大統領は、米国産LNG(液化天然ガス)の輸出増を通じ、「エネルギードミナンス(支配)」を目指す姿勢を鮮明にしている。2月の日米首脳会談で、石破茂首相にアラスカ州のLNG開発を呼びかけたのも、こうしたエネルギー戦略の一環といえよう。

米国の政治体制が大きく変わる中で、これまで金融市場を席巻してきたESG投資への逆風も一気に強まっている。

米国のESG投資を主導してきたSEC(米証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラー委員長がトランプ大統領の就任と同時に任期半ばで退任。これとほぼ同時に、世界最大の資産運用会社として知られる米ブラックロックがNZAMからの離脱を決め、ゴールドマン・サックスやシティグループなど米大手金融機関も相次いで脱退し、NZAMは実質的な活動中止に追い込まれている。

rDME混合LPガスでWG設置 業界一体で30年本格導入を目指す


【グリーンLPガス】

カーボンニュートラル(CN)なLPガスの社会実装を目指す、グリーンLPガス推進官民検討会(座長=橘川武郎・国際大学学長)が3月3日、都内で第8回会合を開いた。事務局を務める日本LPガス協会は、rDME(リニューアブル・ジメチルエーテル)を混合した低炭素LPガスの実用化に向け、新たに設置したワーキンググループ(WG)の活動を4月に開始し、本格導入の目標を2030年とする方針を示した。

検討会ではLPガスグリーン化の指針が示された

冒頭、あいさつした資源エネルギー庁燃料流通政策室の日置純子室長は、グリーンLPガスが第7次エネルギー基本計画に次世代エネルギーとして位置付けられたことを紹介。バイオ由来のrDME混合を含めたグリーン化への取り組み支援が盛り込まれたことに触れ、「協会が一丸となってCN対応に取り組めるよう、政府として後押ししていきたい」と強調した。

WGでは、大阪大学大学院工学研究科の赤松史光教授を座長に、品質検討、出荷設備、環境評価、渉外の4部会体制で課題を検討する。日本ガス機器検査協会(JIA)や、国内で唯一DME製造プラントを有する三菱ガス化学などと連携し、卸売事業者や需要家といったオフテーカーにも参画を促す。

当面の重点活動として、品質検討部会の下で、燃料電池や家庭用コンロを用いた燃料試験による混合割合の上限値の設定を検討するほか、ゴム配管への安全対策、新たな品質基準に基づくJIS(日本産業規格)およびISO(国際標準化機構)規格の改定作業に着手する。

30年の実用化に向けたロードマップでは、26~28年にJISやISO規格を改定するほか、出荷基地や流通・配送面での検証などに取り組むことで、28~29年には小規模での実証試験を開始する計画だ。


WLGAが成果を発表 混合率20%で検証進む

会合ではこのほか、世界リキッドガス協会(WLGA)が既存インフラに影響を与えずに混合できる「ドロップインブレンド」の検証結果を報告した。すでに混合率12%までは問題がないことを確認し、現在は最大20%混合のLPガスによる運転試験を実施している。暖房機を用いた試験では機器の運転に支障は生じず、一酸化炭素や窒素酸化物の排出量が減少した。今年は、経年機器やガスエンジンなどに対象機器を広げ試験を行う予定だ。

今回示したrDME混合利用に関する明確な指針を下地に、業界が一体となって、LPガスのCN化に向けた動きを加速させる方針だ。