【フォーラムアイ】北陸電力が小松駅前に環境型複合ビル建設 地域活性化の新たなランドマークに

【北陸電力】

昨年10月にJR小松駅(石川県小松市)前に開業した大型複合ビル「ウレシャス小松」。

北陸新幹線が開通し、にぎわいを見せる駅前の新たなランドマークになっている。

昨年10月、JR小松駅東口に誕生した「ウレシャス小松」。北陸電力グループを含めた企業のオフィス、ホテル、大学、多目的ホールを備えた敷地面積5280㎡、延床面積1万7400㎡、地上10階建ての大型複合ビルだ。

駅に隣接し、小松空港からもバスで15分だ

この施設の建設計画は、北陸電力グループが老朽化した事業所の建て替えを機に、北陸新幹線の小松駅開業や小松市による駅周辺の「学びのエリア構想」と連携してスタート。地域の活性化に貢献しようと2019年に動き出した。コロナ禍でいったん、計画は中断を余儀なくされたものの23年に地域から強い要望を受けて建設を決定。同年9月に着工し、能登半島地震の影響を受けながらも予定通り開業した。

施設の外観は、かつて江戸時代から明治時代にかけて大阪と北海道を日本海航路で交流を果たした「北前船」をモチーフとしている。もともと小松の地は古くから交通の要衝であり、北前船の寄港地として有名であった。全国から人・もの・文化を取り入れ、小松を発信することで発展してきた歴史がある。


うれしいを意味するビル名 工夫こらした省エネ設計

「ウレシャス」とは小松弁で「うれしい」を意味する「うれっしゃ」と、英語で愛おしいを意味する「precious(プレシャス)」を組み合わせた造語である。そんなウレシャス小松はZEBレディの環境性能評価を取得している施設である。中でも目を引くのが、1階のエントランスに設置されている「こまツリー」(左頁右下)だ。内部の循環パイプを介して地下水熱と熱交換を行うことで、夏は除湿、冬は加温の役割を担う。仕組みを視覚的に確認できる点もユニークである。

北前船を模した建物の形状も特徴的だ。斜めにせり出すルーバーで卓越風を活用して自然換気を行い、自然の光を効率的に室内に取り込む。室内では、自然光の照度検知や在室検知による照明制御を行い、夕方には色温度を下げてリラックス効果を促す設計も施している。

北陸電力小松支店総務担当の林博史部長は「ウレシャス小松ではさまざまな省エネ設計や環境配慮の工夫を施している。現在、オフィスやテナントを募集しているが、こうした設計によって働きやすさの向上につながればと考えている」と話す。テナントを探す事業者にとっても魅力的に映ることだろう。また、ウレシャス小松は単に環境性能に優れただけのビルではない。


にぎわい創出にも取り組む こまつ北電ホールの魅力

「地元の行政・経済界で構成するこまつ駅東地区複合ビル利活用協議会などと連携し、国内外からMICE(国際会議や展示会)誘致や、駅周辺の地域参加型イベントを開催するなど、にぎわい創出にも取り組んでいる」(林部長)。そんな機能を果たすのが2階フロアの「こまつ北電ホール」だ(写真㊤)。ホールは可動式の間仕切りで3分割が可能。展示会、イベント、宴会、試験会場など規模の大小問わず幅広いニーズに対応する。また近隣の公的ホールなどと連携した会議も開催可能だという。

㊤こまつ北電ホールは800人以上を収容する
㊦小松らしさを演出する北前船陶壁

最新の映像や音響、照明設備も間仕切りごとに個別に完備しており、ディスコなど各種イベントや結婚披露宴などいろいろなシーンを演出している。料理やサービスの充実化にも力を入れる。9階と10階でホテルを運営するHifリゾート社がホテルクオリティの「おもてなし」を提供する。

内装にも大きな特徴を持つ。それは地元の石材や伝統工芸を随所に使っていることだ。1階エントランスには九谷焼陶芸家の北村隆氏による北前船の陶壁(写真㊦)、2階ホールにも、「四代 徳田八十吉」氏の陶壁を展示する。さらに国会議事堂にも使われる希少な「観音下石」を含む小松産の石材や南加賀の杉材を使い、小松市の史跡「安宅関」を舞台にした歌舞伎「勧進帳」のデザインを施すなど小松らしい魅力を伝えている。

「隣の金沢とは異なる小松独自の歴史や文化を積極的に発信し、地域の新たなランドマークを目指したい。さらに小松市だけでなく、石川県や北陸全体の活性化にも貢献したい」(林部長)

北前船を模したこのウレシャス小松が新しい交流の船として大きな役割を果たしていく。

入り口に立つ「こまツリー」

【気象データ活用術Vol.12】気候変動とエネルギー 緩和と適応で未来に備える

加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

「気候変動」という言葉を耳にする機会が増えた。元来この言葉は、自然のサイクルによって生じる気候の変化を指していた。しかし近年では、人類の活動によって引き起こされる地球温暖化とほぼ同義で使われるようになっている。この変化は、私たちの社会がいかに大きな影響を地球環境に与えているかを物語っている。

国際機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化に関する科学的評価を定期的に行い、緩和策と適応策についての報告書を公表している。これらの報告書は、世界各国の政策決定において重要な指針となっている。

気候データ分析で気候変動に適応する未来へ

エネルギー産業においては、地球温暖化への緩和策・適応策ともに真正面から向き合わなければならない課題だ。本稿では気象データの活用という側面と絡めて見ていきたい。

緩和策としてのCO2排出量削減では、再生可能エネルギーの推進が重要な柱となる。変動電源である太陽光や風力といった自然エネルギーを最大限活用するには、気象予測データを用いた高度な出力予測が欠かせない。気象予測データは既存の水力発電をより効率的に運用することにも有効だ。さらに電力需要を高精度で予測することで、火力発電の運用を最適化し、CO2削減と電力の安定供給という一見相反する目標を同時に達成することが必要だ。需要予測の精度が向上すれば、調整力としての火力発電を効率的に運用でき、燃料消費とCO2排出を抑制できる。

一方、適応策も同様に重要だ。気候変動により、台風や豪雨といった極端な気象現象の被害が増加する可能性が指摘されている。エネルギー関連設備は、こうした物理的リスクに対して脆弱になり得る。発電所や送配電網は、洪水や土砂災害、強風による被害を受ける可能性があるため、将来の気候変化を見据えたリスク評価と対策が不可欠だ。こうした評価を行うためには、CMIP6などの国際的な気候予測データや、日本の大規模アンサンブル気候予測データd4PDFなどが活用できる。これらのデータは膨大で専門的であり、その解釈には高度な知識が求められる。

ここで重要になるのが、エネルギー産業のドメイン知識を持った気象データアナリストの存在だ。気象データアナリストには、複雑な気候予測データを解析し、実際のエネルギー施設の運用や設計に生かせる形に変換することが期待される。このような専門家は、今後ますます需要が高まり、その活躍が期待される職種となるだろう。

気候変動への対応は、避けては通れない課題となったと言える。エネルギー産業が先頭に立って緩和策と適応策の両面で取り組むことが、持続可能な社会の実現には欠かせない。そしてその実現には、科学的データを実務に結びつける人材の育成と活用が鍵を握っている。今後、気象データアナリストがその専門知識を活かし、エネルギー産業のさらなる発展と気候変動適応の両面で重要な役割を果たしていくことを期待して、1年間の連載の締めくくりとしたい。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標

・【気象データ活用術 Vol.9】似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い

・【気象データ活用術 Vol.10】予測の「大外し」回避に挑む 確率論でリスクマネジメント

・【気象データ活用術 Vol.11】エネルギー産業でも意識すべきリードタイムとアップデート

【フォーカス】独が1千万kW超の火力新設 EU委員会との交渉が着地へ

ドイツの天然ガス火力新設計画が大きく前進する。1200万kWもの「運転制御可能な発電所」の新設を促すための補助を巡り、EU(欧州連合)委員会と進めていた交渉の着地が見えてきたのだ。1200万kWのうち、長期的な容量が規定される1千万kWを、ガス火力が落札することが想定される。メルツ政権は、2026年に続き、27、29/30年にも入札を実施し、落札した電源は遅くとも31年までの運転開始が求められることになる。

EU加盟国では、政府が民間事業に補助を実施するためには同委員会の許可が必要だ。ショルツ前政権時代には24年の初回入札を視野に交渉が進められていたが、2年遅れに。この方針を踏襲したメルツ政権は、最低限必要な開発容量を前政権の約2倍の2千万kWに引き上げたが、それを大きく下回ることを余儀なくされる。

ドイツが大規模な水素対応のガス火力開発を目指す狙いは、将来のカーボンニュートラル(CN)実現に向けたバックアップ電源の確保と、低コストなエネルギー転換を進めることにある。45年にCNを実現するとの政策の下、これまで順調に風力を中心に再生可能エネルギーの導入を進め、25年には電力需要の約60%を占めるまでになった。ところが、脱原子力、脱石炭・褐炭政策を進めたばかりに、安定供給性は急速に失われつつある。

こうした火力新設戦略は容量メカニズムへの橋渡しの位置付け。32年にも容量市場を創設し、低稼働を強いられるこれら設備の維持を支援する方針だ。

メルツ政権は低コストなエネルギー転換の軸に新設ガス火力を据える

【フォーカス】最強寒波で大停電の米国 欧州のガスは安定推移

この冬、大寒波に見舞われたのは日本だけではない。1月24日から25日にかけて、米国北東部から南部にかけての広い範囲を「冬の嵐」が襲った。北東部の地域送電機関PJMのエリアで、パイプライン凍結によるガスの供給ひっ迫と極寒による発電出力の低下が重なり電力価格が急騰したほか、八つの州で計約100万戸が停電する事態となった。

記録的寒波で凍ったハドソン川
提供:AFP=時事

IEAアナリストの白川裕氏は、「LNG原料ガスの需要増に伴い、ヘンリーハブ価格が上昇傾向にある。今回のように厳しい寒さで供給インフラに制約がかかれば、需給ひっ迫と価格高騰に陥りやすい」と、構造的な課題を指摘する。

極寒の米国に対し欧州は、当初予想されたよりも寒さが厳しくなく、ガスの消費は安定的だ。価格面では、1月上旬に100万BTu(英国熱量単位)当たり10ドル前後だった欧州天然ガス市場価格(TTF)が、同月末には14ドルまで上昇。2月に入っていったん11ドル程度まで下げたものの、短期間で12ドル台に上げた。「ファンダメンタルズの変化があまりない割に値動きが激しい。投機筋の思惑が影響しているのだろう」(白川氏)

欧州のガス貯蔵率は2月6日時点で34・4%まで低下し、一部に「2022年のエネルギー危機以来の低水準」とあおる報道がされている。だが、過去10年の間には20%前後まで低下したことが度々あり、「むしろ米国由来を中心とした潤沢な供給が、欧州(と北東アジア)のガスを量と価格の両面で安定化させている」(同)と言える。

【業界紙の目】廃鉛蓄電池の不適正解体・処理に 歯止めかかるか

増田正則/産業新聞社 編集局次長兼非鉄部長

環境省のヤード調査で、廃鉛蓄電池の不適正な解体・処理に伴う水質汚染などが確認された。

環境汚染と資源の海外流出を防ぐためにも、不適正ヤードの規制強化を急ぐ必要がある。

具体的な所在地や社名は伏せるが、昨年5月に取材で訪れた関東甲信越地方の峠道を車で走っていた時のこと。暗闇の中に明かりのともされたスクラップヤードが姿を現した。何度も通ったことのある道で、ヤードの存在は把握している。未舗装の敷地内に雑品などの金属スクラップが積まれている典型的な海外系ヤード業者。筆者が以前から、「不適正ヤード」の疑いがあると見ていたヤードの一つだ。

石原宏高環境相が昨年10月の就任会見で、課題の一つに上げたのが不適正ヤードだった。定義はあいまいだが、簡単に言えば環境に配慮しないでスクラップを解体・処理するヤード全般を指す。騒音や振動、油など汚染物質の土壌浸透や河川への流出などが問題視されている。

不適正な保管や解体・処理に伴う火災が全国で発生し、外国人の不法就労や銅電線などの盗品買い取りも横行している。経済安全保障の観点から、不適正ヤードを介したリサイクル資源の海外流出も問題となっている。


日本の制度の隙を突く 環境配慮無視のヤード

「雑品スクラップ」とは、鉄や銅、アルミなどの金属と一緒に樹脂などの不純物が混入しているスクラップのこと。資源として再利用するには鉄、銅、アルミなどを選別して単一素材にしなければならない。樹脂が混入しているため選別の難易度が高い上にコストが大きくなるため、日本で手掛けやすいのは環境意識の低い海外系の不適正ヤードということになる。断っておくが、全ての海外系ヤードの環境意識が低いわけではない。日本の制度を十分に理解し法律を順守しているヤードを経営している事業者は多いが、不適正ヤードが存在するのも事実だ。

話を峠道に戻す。日が暮れた後にヤード内で行われている「行為」が気になり、通りすがりに様子をうかがった。何人かがタイヤの取り外された自動車の周りで作業をしていた。日中の記憶をたどってみたが、自動車リサイクル法の許可を証明する看板などは設置されていなかったはず。後日、立地県のウェブサイトで許可業者一覧を調べたが、該当する社名は掲載されていなかった。

日本は国土の約7割が山地。自治体の目が届きにくい山間部で違法な解体・処理を行える場所は多い。このヤードが不適正業者であれば、鉛蓄電池を取り外して再生資源となる巣鉛(鉛陰極板)を回収しているかもしれない。関連する法制度の許可を持ち適切に処理していればよいのだが、不適正ヤードであれば電池ケースに使われている希硫酸の処理が不安だ。

鉛のリサイクル原料となる廃鉛蓄電池

「山奥でトラックに積んだ硫酸を少しずつ垂らしながら走れば違法な処理は発覚しない」―。廃鉛蓄電池を原料にする鉛製錬メーカーの社長は、現行の法制度では対応が追いつかない実情にいら立ちを隠さない。

鉛は有害性が指摘される一方で、適切に扱えば100%再利用できるリサイクルの優等生。リサイクル原料の廃鉛蓄電池の集荷、解体、巣鉛回収、そして製錬所における鉛地金生産まで、環境を汚染せず日本国内で完結できる。希硫酸も適正に処理される。

だが本誌2025年1月号で取り上げたように、数年前から日本で廃鉛蓄電池の違法解体が表面化。一部の不適正ヤードによって少しずつ日本の自然が汚染されている。その実態は環境省が自治体向けに行った調査でも明らかになった。実際に、廃鉛蓄電池の加工による周辺水路の水質悪化などの環境汚染が報告されている。

ヤード火災の原因となる廃家電類の保管や解体・処理に規制をかけるため、同省は17年の廃棄物処理法改正で家電類32品目を特定有害使用済機器に指定。取り扱い業者に有害使用済機器保管等届出を義務付けた。この時、廃鉛蓄電池も議論の対象となったが見送られた。


廃鉛蓄電池保管等に許可制 廃棄物処理法の罰則強化も

制度見直しの議論に加わっていた審議会メンバーの一人は、「有害性について最後まで結論が出せなかった」と振り返るが、判断は甘かったと指摘せざるを得ない。かつて日本から輸出された廃鉛蓄電池が、東南アジアで不適正に処理され環境を汚染している実態があるからだ。改正法施行後には、日本から韓国に輸出された廃鉛蓄電池の不適正処理が発覚して輸出が停止される事態を招いた。そして行き場をなくした廃鉛蓄電池が、日本で不適正に解体・処理される事案が表面化する。

事態を重く見た同省は、不適正ヤードの対策に向けた議論を本格化。昨年12月の中央環境審議会廃棄物処理制度小委員会で、廃鉛蓄電池を扱うヤード業者に「許可制など事前審査制度」を導入することを盛り込んだ意見具申案をまとめた。廃鉛蓄電池だけでなく、雑品スクラップやリチウム蓄電池も含め規制を強化する姿勢を鮮明にした。

業界内に許可制導入への賛否があるのは確かだが、国が前面に出て不適正ヤードの規制を強化する姿勢を示したことを評価する声は多い。自治体では千葉県などが条例で不適正ヤードを規制しているが、規制の緩い自治体に移動するだけで問題の根本的な解決にはならない。

今後の焦点となるのは新制度の実効性だ。特定有害使用済機器保管等届出制度による届出件数は700件程度。把握できる限り全国に少なくとも5000カ所のヤードが存在するため少な過ぎる。理由は明白だ。届出義務違反の罰則が30万円以下など、罰則が軽すぎる。立ち入り調査を行う権限が自治体にないといった問題点も指摘される。

今回の廃棄物処理法改正に向けた意見具申案には、「許可取消し」なども含めた罰則の強化方針が盛り込まれている。廃棄物処理法とは議論が別になるが、今年は警察庁の金属盗対策法の本格施行を控える。すでに盗品買い取りの疑いのあるヤード業者の逮捕事案も出てきており、国の方針として不適正ヤード問題に歯止めをかけようとする強い決意が垣間見える。


〈日刊産業新聞〉〇1936年創刊〇読者数10万人〇読者層:鉄鋼・非鉄金属メーカー、商社、問屋、リサイクラー、需要家、官公庁

【コラム/3月6日】見直し迫られるドイツの水素戦略と日本への教訓

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

    

ドイツは、2023年に改定した国家水素戦略に基づき、水素の総需要量(水素とそのデリバティブ)が、2023年の55TWhから、2030年に95~130TWhまで拡大し、2031年以降も需要がさらに増加すると見込んでいる。このため、水素の約50〜70%(45〜90TWh)は国外からの輸入が必要となり、2031年以降も輸入割合は増加すると予測している。しかし、国内生産のみならず国外調達は順調ではなく、現在、戦略の見直しを迫られている。

ドイツは将来的に、水素をグリーン水素およびそのデリバティブとして活用することを想定している。そのため、多くを国外に依存する同国は、これらの調達を目的として2021年6月に「H2Global」を設立し、2022年12月にはグリーンアンモニア、メタノール、SAF(Sustainable Aviation Fuels)などの水素デリバティブの調達に向けた初のオークションプロセスを開始した。また、2025年2月には、グリーン水素とそのデリバティブの調達のために、2回目オークションプロセスが開始され、入札の最終期限は2026年3月に設定された。しかし、現在までに確保された水素の量は限られており、調達は必ずしも順調に進んでいるとは言いがたい(2025年4月14日掲載のコラム参照)。

このような中で、2025年10月に同国の連邦会計検査院は、水素戦略の展開に関する報告書を提出し、ドイツの水素戦略は、現時点では計画通りに進んでおらず、目標達成が危ぶまれていると結論づけている。同報告書が指摘する主な問題点は以下のとおりである。


1.2030年目標の未達リスク
水素の国内生産量および輸入量はいずれも、現状の見通しでは2030年目標を大きく下回るとされている。このままでは、水素経済の本格的な立ち上げが危ぶまれると報告書は指摘している。

2.需要の伸び悩み
産業分野(鉄鋼、化学など)における水素利用については、補助金制度が整備されているにもかかわらず、需要の伸びは政府の想定を下回っている。需要が十分に立ち上がらなければ、供給側の投資も進まず、悪循環に陥ることで市場拡大のモメンタムが失われると警告している。

3.気候目標・産業競争力への影響
水素戦略が計画通りに実現しなければ、2045年の気候中立目標の達成、ドイツ産業の国際競争力、さらには国家財政の健全性にまで悪影響を及ぼす可能性があると指摘している。

4.恒常的な補助金依存の懸念
水素の生産コストは依然として高く、将来的に価格競争力を確保できるという期待は、現時点では満たされていない。中央ヨーロッパにおける生産コストは、2021年時点では2030年に90ユーロ/MWh未満と予想されていたものの、最近の研究ではその2~3倍に達する可能性が示されている。また、2030年の輸入水素コストについても、Fraunhofer太陽エネルギーシステム研究所(ISE)は、137~318ユーロ/MWhと試算している。

このため、2030年時点では、輸入水素と天然ガス(排出枠コストを含む)との価格差が70~275ユーロ/MWhに達すると見込まれ、輸入水素も価格面で競争力を持ちにくい状況にある。水素輸入を価格面で魅力的にするためには、その価格差を埋め合わせる必要がある。 これがH2Global のスキームにもとづく国家補助によって行われ、さらに輸入戦略で想定されている数量目標を前提とすると、 2030年には 30億〜250億ユーロの補助が必要になる。その後も、高額な補助金が必要となる可能性が高くなると予想され、将来的に連邦予算への大きな負担になると警告している。

5.戦略の再検証を要求
連邦会計検査院は、現行の国家水素戦略について、その前提条件、数値目標、工程表を含む全体的な枠組みを抜本的に見直す必要があると指摘している。また、戦略が想定どおりに進展しない場合に備え、代替案(プランB)を準備すべきだとも提案している。これらの指摘を踏まえ、ドイツ政府は水素戦略およびその実施状況を再評価し、必要な修正を行うことが求められている。連邦経済・気候保護省(BMWK)は、声明および10項目の行動計画において課題への対応が必要であるとの認識を示しているものの、市場設計や政策手段をどのように具体化し調整していくのかについては、依然として明確な方針を提示していない。

以上を総合すると、連邦会計検査院は、現行の水素戦略は前提条件や実施計画に重大な課題を抱えており、このままでは目標達成が困難になる可能性を指摘している。ドイツが気候中立と産業競争力を両立させるためには、戦略の大幅な修正と、より現実的な再設計が不可欠であるというのが報告書の結論である。

気候中立の実現に向けて、再生可能エネルギーと水素はドイツのエネルギー転換を支える二つの柱である。2024年には、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの比率が59%に達したものの、風力発電の新規建設や送電網拡張に対する地域住民の反発など、さらなる大幅拡大には社会的受容性の面で限界が見え始めている。一方、水素についても、製造・調達コストの高さ、大規模な発電技術の商用化の遅れ、輸送・貯蔵インフラの整備不足といった課題が依然として解消されていない。こうした状況を踏まえると、ドイツが掲げる2045年の気候中立目標は、現行の政策枠組みのままでは達成が一層困難になりつつあると言わざるを得ない。

日本においても、2023年に改定された「水素基本戦略」では、水素等(アンモニア、合成メタン、合成燃料を含む)の導入量として、2030年に300万トン、2040年に1,200万トンという大規模な目標が掲げられている。この政府目標は、クリーン水素(グリーン水素およびブルー水素、ならびにそのデリバティブ)の導入拡大を前提としていると解される。しかしながら、国内の再生可能エネルギー供給の制約、CCS(二酸化炭素回収・貯留)インフラの未整備、輸入水素等のコスト高、水素関連インフラの整備遅れといった現実的な課題を踏まえると、これらの目標の実現可能性には依然として大きな不確実性が残る。

ドイツの経験が示すのは、技術的・経済的・社会的な現実を踏まえない目標設定は、実行段階で必ず行き詰まるということである。日本においても、気候中立の実現に向けては、目標の大胆さよりも、実現可能性に基づく戦略の再設計が不可欠である。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フォーカス】六ヶ所村長選で サイクル推進派が圧勝

自民党の歴史的勝利で閉幕した衆院選の投開票から1週間後、原子力政策上重要な首長選があった。2月15日に投開票された青森県六ヶ所村長選で、前村議の橋本隆春氏(68)が初当選した。争点はやはり核燃料サイクル政策の是非だ。村内には関連施設が集中しており、橋本氏は推進を、対抗馬で元鹿児島県いちき串木野市議の高木章次氏(74)は反対を掲げ選挙戦を展開した。結果、高木氏の167票に対し、橋本氏が4316票で圧勝した。

当選が決まり万歳する橋本隆春氏
提供:共同

村では日本原燃が再処理工場(2026年度竣工予定)やMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料工場(27年度竣工予定)などの建設を進めているものの、再処理工場は30回近く完成を延期するなど、計画が大幅に遅れている。

健康上の理由で任期途中に辞職した戸田衛前村長は以前、弊誌のインタビューで「施設を受け入れた上で地域振興を進めるというのが村のスタンス。だからサイクル事業を終わらせるという選択肢はない」と明言。村の将来のためにサイクル事業が不可欠だと強調した。また、施設竣工後は固定資産税などを活用し、土地を提供した村民やその子孫に報いるための政策などを進める考えを明かしていた。こうした戸田氏の路線継承を訴えた橋本氏が、反対派に大差をつけた。

全国的にも「基本的に原子力は推進すべきだ」という考えが若年層を中心に拡大しており、国政政党を見ても反対派の主張が支持を集めにくくなっている。それは今回の衆院選の結果を見ても明らかだ。そうした中、六ヶ所村民はサイクル政策の継続を望むという明確な意思を示した。原燃にはこの民意に応え、なおのこと一刻も早い完成を目指すことが求められる。

【マーケットの潮流】資源大手2社の統合不成立で 不透明化する石炭事業

高橋禎明/日本エネルギー経済研究所石油・石炭・鉱物資源グループ研究主幹

テーマ:石炭

リオ・ティントとグレンコアの資源大手2社による統合協議が不成立に終わった。

石炭事業の不透明感が増す中、中長期の投資判断にも大きな影響を与えそうだ。

資源大手の英豪系リオ・ティント(以下、リオ)とスイスのグレンコアは、2月5日の期限をもって統合協議を終了した。リオは英国テイクオーバー・コードのRule 2.8に基づき、グレンコアに対する買収提案を行わないと正式表明し、協議は延長されず不成立が確定した。銅や亜鉛などを巡る戦略的な動きとして注目されたが、事業構造や株主の意向、ガバナンスの在り方、法的リスクなど複数の論点で折り合わなかった。

グレンコアが出資するNSW州の炭鉱
*1:出資者によるJV運営炭鉱 *2:グレンコア98.166%、JFE商事1.834%の出資会社 *3:グレンコア95%、MEU5%の出資会社 出典:グレンコアHPより筆者作成

今回の統合協議は、単なる企業統合の可否にとどまらず、エネルギー転換期において石炭事業をどのように位置付け、どの時間軸で維持・整理していくかを巡る象徴的な試みでもあった。それが成立しなかったことは、石炭事業を巡る評価軸や時間軸が供給側の間でもなお収れんしない現実を浮き彫りにしている。

この結果、既存の事業運営は継続されるため、短期的な一般炭サプライチェーンへの影響は考えにくい。豪州の主要炭鉱はオペレーションや販売体制が確立されており、統合の有無に関わらず安定運営が維持される。市場参加者の間でも、スポット価格や需給バランスに即時の影響を与えるとの見方は現時点では広がっていない。


短期的には表面化せずも 中長期の投資判断に影響

とはいえ、石炭事業はエネルギー転換の進展とともに評価が難しくなっている分野。統合という形で石炭と銅といった性格の異なる資産を一体として整理する試みが成立しなかったことは、石炭事業の位置付けや出口戦略が依然として不透明であることを示している。この不透明さは、短期的な供給量や価格には直ちに表れにくい反面、中長期の投資判断や資産維持の時間軸に影響を及ぼし得る。

統合不成立の背景には、石炭事業に対する両社のスタンスの違いがある。リオは既に石炭事業から距離を置き、資産の長期保有には慎重で出口戦略の確実性とエクスポージャー軽減を重視してきた。一方のグレンコアは、銅や亜鉛だけを切り出す「チェリーピック」を拒み、石炭を含む事業ポートフォリオ全体の価値最大化を志向してきた。ただし同社も、足元では確実なキャッシュフローを生む石炭が、長期的には役割が変化しつつあることを認識しており、需要が残る間は供給とキャッシュフローを維持しつつ、段階的に整理していく考えを示している。

この石炭の二面性が、両社の評価軸を分け、時間軸と優先順位の違いが合意形成を難しくしたと考えられる。加えて、統合後の経営体制を巡るガバナンスの在り方や、グレンコアの事業価値に対する評価を巡る隔たりも埋まらなかった。リオが統合後も最高経営責任者および取締役会議長の体制維持を志向したのに対し、グレンコアは自社の相対価値を反映した高いプレミアムを求め、両社の立場は平行線をたどったとされる。

また、グレンコアが抱える贈賄・汚職関連の民事訴訟は、財務リスクとして不確定要素が大きい。賠償額が数十億ドル規模に膨らむ可能性があり、統合後に新会社となるリオがそのリスクを引き継ぐ構造への懸念も、協議を難航させたと考えられる。

さらには、銅資産の成長ポテンシャルも重要な論点であった。グレンコアは、エル・パチョン(アルゼンチン)などの大型案件を含む銅の成長オプションを前面に打ち出したが、許認可や開発スケジュールに不確実性を伴うグリーンフィールド案件が多い。将来の成長期待は大きいものの、実現時期や投資回収の確度に慎重な見方が根強く、具体的な金額として評価に織り込みにくい側面があった。

不確実性の高い銅資産と、足元で確実なキャッシュフローを生む石炭事業をどう組み合わせて全体価値を構築するかという点も、最後まで整理できなかった論点の一つだったとみられる。


一般炭の豪州比率高い日本 今後の調達安定性に懸念

日本需要家として重要なのは、統合協議の不成立が石炭事業を巡る供給側の投資姿勢や時間軸がなお流動的だと示している点である。豪州一般炭、とりわけハンターバレー産石炭は、日本の石炭火力が設計炭として採用してきた炭種であり、他に切り替えるには、安定運転の確認を含め多くの調整が必要となる。供給安定性や経済性に加え、燃焼性や環境規制への対応などクリアすべき課題は少なくない。

日本は調達先の多様化に取り組んできたものの、輸入炭全体に占める豪州炭の比率は依然として高い。このため、供給側が石炭事業をどの時間軸で維持し、どの程度の投資を継続するかは、日本の中長期的な調達安定性に直接影響すると考えられる。

温暖化の観点から石炭火力の位置付けは難しい局面にあるものの、上流権益への参画や長期オフテイク契約を通じて、供給側の投資継続を支える枠組みの維持・設計は依然として重要である。設備仕様の大幅な変更が容易でない中では、需要側が供給源そのものに関与し、投資の継続性を後押しすることが、調達リスクの低減につながる。

今回の不成立は、石炭事業を巡る不確実性の解消を意味するものではない。むしろ、石炭をどのような位置付けで、どの時間軸で維持・整理するのかといった問いが、統合という選択肢を失った後もなお残り続けていることを示している。日本のエネルギー安全保障を考える上では、供給側との関係性を改めて設計し直し、現実的な形で投資と供給の持続性を支える枠組みを模索していくことが重要だ。

たかはし・よしあき
北海道大学水産学部水産化学科卒。1986年出光興産株式会社入社。石炭及びウランのサプライチェーン各部門での業務を担当。2023年から現職。

【フォーカス】柏崎刈羽の営業運転を控え東電が5次総特を公表

柏崎刈羽原発が2月16日、営業運転に向けて首都圏への送電を開始した。20日までに出力を50%まで引き上げ、その後、原子炉を一時停止して設備に異常がないかを点検した。東京電力は3月18日の営業運転開始を目指す。

1基当たり1000億円の収益改善効果を持つ再稼働だが、東電は賠償や廃炉に年間5000億円程度を捻出し、2018年以降はフリーキャッシュフローの赤字が続く。25~34年度の累計で3・1兆円のコスト削減を掲げるなど、厳しい経営状況に変わりはない。

5次総特を公表し記者会見する東電の小早川智明社長(中央)

東電は再稼働に先立つ1月26日、第5次総合特別事業計画(5次総特)について、国の認定を受けた。今後、「福島事業」では燃料デブリ取り出しという最難関を迎え、「経済事業」ではGX・DX、エネルギー安全保障や電力需要増への対応をビジネスチャンスとして生かさなければならない

そこで5次総特が強調したのが、アライアンスによる大胆な経営改革だ。パートナー候補から広く提案を募り、社外取締役を中心とした「アライアンス検討委員会」で精査する。小早川智明社長は同日の会見で「廃炉と企業価値が両立するガバナンスの在り方も提案いただけると思う。われわれが『こうでなければならない』とあらかじめ決めることはない」と述べ、中間持株会社の設立や株式の非公開化を排除しなかった。

果たして、今後東電の経営体制はどう変わるのか。それが真の経営再建につながるのか─。業界内外が注目している。

(覆面ホンネ座談会で詳報)

【論点】高浜・美浜原発巡る行政訴訟で住民側敗訴のポイントは

原発差止め訴訟の注目点〈中〉/上村香織・TMI総合法律事務所 弁護士

高浜・美浜原発の運転延長認可処分の取り消しなどを求めた住民訴訟。

名古屋地裁は昨年3月、住民側の請求を棄却した。判断のポイントは何だったのか。

本誌前号において、関西電力美浜発電所3号機の運転差し止めの仮処分申立てについて、住民側の抗告を棄却した名古屋高裁金沢支部の2025年11月28日付け決定を紹介した。昨年はその他にも民事・行政訴訟ともに、事業者および国に対する勝訴判決が続いた。

本稿では、このうち、高浜発電所1・2号機および美浜発電所3号機に係る運転延長認可処分等の取消等を求めた行政訴訟(本訴訟)で、住民側の請求を棄却した3月14日の名古屋地裁判決について紹介する。


圧力容器健全性評価が争点 問われた主張の合理性

本訴訟は、高浜1・2号機および美浜3号機それぞれに関して、原子力規制委員会による二つの設置変更許可処分、工事計画認可処分、二つの保安規定変更認可処分、運転期間延長認可処分の取消、または無効確認を求めるものであった。

中でも、運転期間延長認可処分の取消訴訟は、東京電力福島第一原子力発電所事故後に導入された運転期間延長制度(発電用原子炉の運転可能期間を運転開始から原則40年とし、規制委の認可を受けた場合は1回に限り20年を上限として延長できる制度)に基づく処分の取消訴訟として全国初めての行政訴訟であり、運転開始から40年を超える長期間運転の原子炉(高浜1号機は1974年11月14日、同2号機は75年11月14日、美浜3号機は76年12月1日に運転開始)の安全性を問う事件として注目されている(なお、昨年6月施行のGX脱炭素電源法により、運転期間は40年、延長20年を基本としつつ、事業者にとって他律的な事由による停止期間と同じ期間の延長が認められることとなっている)。

本訴訟の争点は多岐にわたり、他の原子炉を対象とする訴訟でも論点となっているものが網羅的に取り上げられているが(表参照)、その中でも、「中性子照射脆化」に係る規制に関しては、運転期間延長認可処分特有の論点でもあるため着目したい。

中性子照射脆化とは、鋼材に中性子が照射されることにより、鋼材の粘り強さ(靭性)が徐々に失われていく現象のことをいう。原子炉圧力容器は、核燃料と水を格納して内部に閉じ込める役割を果たしており、原子炉を安全に運転する上で最も重要な機器の一つであって、運用中に核燃料の核分裂により発生する中性子の照射を直接受けることによる脆化の進行の程度を正しく見積もることが重要となる。運転期間延長認可の申請に当たっては、事業者には原子炉圧力容器の脆性破壊防止に係る健全性評価が求められている。

中性子照射脆化については、それだけでも複数の争点があるが、その中でも、原告および被告ともに学識経験者を証人申請し、特に注目された論点は、原子炉圧力容器の健全性評価のうち、加圧熱衝撃評価に係る評価手法を定めた基準(JEAC4206―2007)が、その評価の過程で破壊靭性遷移曲線(破壊靭性と金属材料の温度との関係を示す曲線)を求める際に用いる破壊靭性値(鋼材がひび割れなどの欠陥を抱えた状態でも、破壊に至らずにどれだけ耐えられるかを示す指標のこと )の移行量(中性子照射による上昇量)が、関連温度(鋼材にはある温度以下になると粘り強さが低くなる性質があり、この性質が変わる温度のこと)の移行量と等価であると仮定していること(判決では「本件等価の仮定」と定義される)の合理性についてであった。


住民側の控訴で審理継続 今後の進行と帰趨に注目

同論点に関して名古屋地裁は、2023年7月27日の第60回技術情報検討会において、原子力規制庁における技術的検討の結果、本件等価の仮定とは異なり、破壊靭性温度移行量の方が関連温度移行量よりも高い傾向が示されたことなどを認定した。要するに、被告国にとって消極となり得る事実を認めた。

しかしながら、被告国側専門家証人が諸外国を含めて本件等価の仮定が否定された旨の報告や研究がなされていないなどと述べたことも認定した上で、「破壊靭性値移行量と関連温度移行量との関係については、等価ではなく前者の方が大きいことをうかがわせる資料が一定程度認められるものの、等価であることを否定できるほどの専門的な知見があるということはできない」と判示し、JEAC4206―2007を引用する具体的審査基準が不合理であるとは言えないと結論付けた。

本訴訟は、住民側から控訴され、既に昨年10月9日に第1回口頭弁論期日が開かれ今年2月27日には第2回口頭弁論期日が予定されている。原審では、高浜事件・美浜事件ともに名古屋地裁の同一の裁判体に係属していたが、控訴審では、高浜事件は名古屋高裁民事4部、美浜事件は同民事1部に分かれて係属している。

それぞれの裁判体が、原審の論点のうち、どの論点を特に重視して審理を行うのか、原審からさらに踏み込んだ審理をどこまで行うのかなど、今後の控訴審の進行およびその帰趨に注視していきたい。

うえむら・かおり
2018年1月TMI総合法律事務所入所。訴訟紛争、リスクマネジメントなどを幅広く対応。21年4月から原子力規制委員会・原子力規制庁長官官房法務部門に出向し、国を被告とする原発訴訟に従事。23年8月からTMI復帰。

【フォーラムアイ】TOCOMが電力先物に中部エリアを追加 参加者からの要望高まり4月開始

東京商品取引所(TOCOM)

日本の電力消費量は世界5位につけるほど多消費国であるが、電力先物取引を活用した割合は11%程度と低く、市場拡大のポテンシャルは高いとみられている。2025年の東京商品取引所(TOCOM)の取引高は4583GW時に達するなど、近年は増加傾向にある。

「先物市場のさらなる活用を」と語る山尾氏

そうした中、TOCOMは電力先物の取引対象として、新たに中部エリアを追加し、4月13日に取引を開始すると発表した。東京・関西に続く第三の経済圏である中部エリアが開始となることで、さらに流動性が高まる見込みだ。総合業務室営業担当の山尾繁一課長は、エリア追加の背景をこう話す。「中部エリアは地域間連系線の混雑などを背景に東京と関西エリアとの価格差が生じやすい地域。従来、中部エリアの市場参加者は東京と関西の価格を指標にヘッジしていたが、独自の価格指標をつくってほしいとの要望が多くあった」。従前から存在する「価格差取引(スプレッド取引)」に「東京―中部」、「中部―関西」の組み合わせも追加となる。


現物と先物の連携サービス 取引の事務作業を簡略化

TOCOMと日本卸電力取引所(JEPX)は、今年8月をめどに現物取引と先物ポジションをひも付ける電力現物・先物連携サービス「JJ-Link」をワンストップ・サービス化する。現状のフェーズ1ではTOCOMが現物の約定データの連携を受け、先物ポジションと照合し、合致することの確認結果を電力会社へ返すことで先物と現物の結びつきを証明していた。フェーズ2ではTOCOMからJEPXへのデータ連携により現物発注が行われる仕組みを構築しワンストップ・サービス化を実現する。山尾課長は「オペレーションの簡素化に加え、ポジションの可視化が進むことで、ヘッジ会計が認められやすくなるとみられる。紹介した事業者からの反応も上々だ」と話す。

このほか4月13日から欧州のエネルギー市場の取引が活発化する時間帯を意識し、夕方の取引時間を立会内取引は午後4時30分から、立会外取引は午後4時25分から開始に前倒しする。また、昨年5月には4月~翌年3月の国内事業年度に合わせた年度物の取引を開始した。

TOCOMでは中部エリアの追加、先物と現物の連携サービスの高度化、取引時間の調整、年度物の取引開始など、電力先物市場の促進のため、さまざまな利便性向上に取り組んでいる。こうした施策によって電力先物市場の厚みをさらに持たせていきたい考えだ。

【フォーラムレポート】全面対決か!? 新共生時代の到来か!? 北電「ガス本格参入」の衝撃と行方

北海道電力が石油資源開発のガスインフラ買収に乗り出すなどガス関連ビジネスに本格参入の様相だ。

地元の北海道ガスとは全面対決に向かうのか。それともインフラ部門で新たな共生時代を築くのか。

「まさか、ほくでんが(北海道苫小牧市勇払を拠点とする)JAPEX(石油資源開発)のガスインフラを310億円で買収するとはね。北ガスはしてやられたようだな」。昨年12月3日に発表された北海道電力のニュースを巡り、大手都市ガス関係者はこう驚きを口にした。

そのニュースとは〈JAPEXが北海道内で保有するガス製造事業、販売事業、導管事業を譲り受けることを決議し、契約を締結した〉。具体的には、①勇払LNG基地、②勇払LNGプラント、③北広島から勇払に至るガスパイプライン、④勇払LNGローリー出荷・受け入れ設備―を、来年度中に310億円で北電が買収するという内容だ。JAPEXは勇払の油・ガス田での開発事業を継続しつつ、生産した天然ガスを北電に供給。北電では北広島~勇払ラインで託送事業を手掛けつつ、タンクローリーなどを活用しガス販売を行う方向とみられた。


苫小牧基地新設が軸 重なる両社の構想

もちろん、関係者の驚きには理由がある。昨年1月7日、北ガスは苫小牧東港においてカーボンニュートラル(CN)拠点整備の検討を行うと発表した。プレスリリースには〈北海道は国内随一の再生可能エネルギーポテンシャルを有する地域であり、北海道におけるGXの推進をより一層加速させるため、エネルギーインフラが集約される苫小牧地区に、将来的な水素・e―メタン導入等を見据えた北ガスグループのカーボンニュートラル拠点となる新たなLNG基地の建設を検討〉とある。

北ガスと北電が共同利用する石狩LNG基地。苫小牧でも⁉

有力関係筋によると、北ガスでは既存の石狩LNG基地と新設する苫小牧LNG基地を供給拠点としたサプライチェーンを構築すべく、双方をつなぐJAPEXのガスインフラに大きな関心を示していたというのだ。ところが、北電が予想外の高値で譲渡契約を結んだことで、構想が揺らぐことに。エネルギー事情通の有識者が言う。

「北電にとっては、泊原子力発電所の再稼動や石狩LNG火力の増設などで投資がかさむ時期に、巨額の費用をかけてJAPEXのガスインフラを買収するメリットがあるのか。そもそも北広島~勇払ラインは特定ガス導管事業のため、小売りを行うことはできない。北電側の思惑が今一つ見えない中で、実は今回の買収劇には、道内でのエネルギー事業展開を巡る主導権争いの意味合いが込められているのかも」

北電の狙いは何か。その問いのヒントが、1月30日に同社が発表した「北海道苫小牧地域を起点とした新たなエネルギーサプライチェーン構想」で明らかになる。①ガス事業への本格的な参入(苫小牧・石狩の2拠点化と北海道全域への供給体制の構築)、②次期LNG電源設置とLNG基地整備、③水素、アンモニア、e―メタン、CCS(CO2の回収・貯留)など次世代エネルギーによるCN化―を柱として、〈将来的には、産業が集積する苫小牧地域を起点とした新たなエネルギーサプライチェーンを構築し、多様な脱炭素ソリューションを目指す〉というものだ。

北ガスによる前出の苫小牧CN拠点の整備計画と重なってくる内容といえる。中でも共通しているのが「LNG基地」の新設だ。北電の新沼彰人・取締役常務執行役員が背景を話す。

「昨年3月に発表した『ほくでんグループ経営ビジョン2035』の一環として、苫小牧エネルギー拠点化構想を巡っては、かねてから検討を行っていた。既存の石油・石炭火力がある苫小牧エリアで、アンモニアや水素、CCSを手掛けながら、将来的にはe―メタンを製造し札幌エリアに導管供給することも含めて次世代エネルギーの拠点にしていく。エネルギーポートフォリオの面からみて、これだけの要素がそろっているエリアはほかになく、地域の価値を最大化して、わが社の成長につなげていくのが目標だ。そうした戦略を背景に、石油資源開発とガスインフラに関する事業譲渡の契約を結んだ」「35年に向けて泊が再稼動し、石狩の2、3号機が順次運開していく一方で、経年化する火力もあり、いずれは南側の供給力が弱くなっていく。そこで苫小牧に、大型船が入るLNG基地と大型LNG火力を建設し、電力系統を長期的に安定化させるという構想がもともとあった」


「インフラ連携必要」 両社間で今後協議か

つまり、北電、北ガスがそれぞれ独自に苫小牧を拠点としたCN戦略を描き、JAPEXのガスインフラに目を付けていたことになる。買収合戦では北電に軍配が上がった形だが、それに北ガスが対抗して全面対決という構図になっていくのか。前出の有力筋が言う。「少なくとも、苫小牧基地の建設を含めたガスインフラ関係では、両社が協調し共同運用化を図っていく可能性がある。やはりこれからの時代、インフラでの競争や二重投資は避けなくてはならない。両社は今後の協議を通じて、双方にとって良い形を探ることになるのではないか」

実際、北ガス側の関係者は「全面自由化時代なので小売りで競争するのは当たり前だが、インフラ部門ではむしろ連携が必要になる。今後、人口減少や過疎化が加速する中でエネルギーインフラを維持し、地域の経済や生活を支えていくために、北電との協力関係の強化は避けて通れない」との見解だ。

北ガスの石狩基地では、3、4号タンクを北電が保有し、隣接する石狩火力向けの燃料貯蔵施設として運用している。建設の検討が進む苫小牧基地についても共同利用化を図り、水素・e―メタン分野でも足並みをそろえる展開が考えられよう。

わが国の課題先進地域とされる北海道を舞台に、電力・ガス両事業者による新たな共生時代の足音が聞こえてきた。

【フォーカス】衆院選で自民「歴史的大勝」も問われる高市政権の財政スタンス

衆院選で自民党が316議席を獲得する歴史的大勝を収めた。エネルギーは争点にならなかったが、自民党のほかに議席を増やしたのは国民民主党や参政党、チームみらいで、いずれも原子力の活用に積極的だ。一方、立憲民主党の流れをくむ中道改革連合は大敗。原子力に否定的で再エネ偏重路線の日本共産党やれいわ新選組、社民党も伸び悩んだ。

第105代首相に選出された高市早苗氏
提供:時事

柏崎刈羽原発が再稼働した新潟県では、前回選から一転、自民が小選挙区で「全勝」した。柏崎市と刈羽村を含む新潟4区では、鷲尾英一郎氏が中道の米山隆一氏に勝利。敗れた米山氏は選挙後、Xに「これからどうするかは全く未定ですが、志は変わっていません」と投稿し、5月下旬の知事選に向けた動向に関心が集まる。「全敗」した中道だが、自民の比例名簿不足により二人が復活当選した。

敦賀、美浜、大飯、高浜の四つの原発が立地する福井2区では、自民が支持した無所属の斉木武志氏が当選した。党本部は当選後、斉木氏を追加公認したが、県内での評判はすこぶる悪い。公示前には原子力を強力に推進する県議でさえ、「今回は中道候補に勝ってもらった方がいいかも……」と漏らすほどだ。

玄海原発が立地する佐賀2区では、自民党の古川康氏が勝利し、立憲民主党で代表代行などを務めた中道の大串博志氏の比例復活すら許さなかった。石川昭政氏や細田健一氏など原子力政策に明るい議員も比例単独で当選し、国政復帰を果たした。


積極財政派の影響力 財政規律は後退か

今後の政権運営で気がかりなのは、財政政策の行方だ。高市早苗首相は消費税減税について、超党派の「国民会議」で議論する方針を示した。ガソリン・軽油の旧暫定税率廃止に伴う財源すら完全に確保できていない中、兆円単位の財源を捻出できるのか。17分野の危機管理投資についても、党内では「必要性は認めるが、あまりに総花的すぎる」という見方がある。

高市政権の財政スタンスは、アベノミクスの延長線上だ。デフレ下で民主党から政権を奪還した安倍晋三元首相は、積極財政派をブレーンに招いた。彼らの影響力は現在も残り、首相周辺には「赤字国債はいくらでも発行できる」という現代貨幣理論(MMT)に近い考え方の議員すら存在する。高市氏は「過度な緊縮志向」からの転換を訴えるが、永田町関係者は「過度の緊縮志向であれば先進国で最悪な財政状況に陥っていない。積極財政派は財務省を敵視するが、デフレ下の価値観にとらわれたままだ」と冷ややかだ。

とはいえ、党内で積極財政派が一段と力を持つのは必至。国民民主や参政も財政規律へのこだわりは弱い。急激な金利上昇や、行き過ぎた円安は、企業活動や国民生活に大きな影響を及ぼす。政権の安定基盤を築いた今こそ、財政運営のかじ取りには慎重さが求められる。

【多事争論】鳴り物入りの中長期取引市場は実効性に課題?

話題:中長期取引市場

小売事業者の供給力確保義務徹底と同時に中長期市場創設の議論が進む。

専門家はその実効性をどう見ているのだろうか。

〈 供給不安定化を阻止できるか 米国との比較で見える課題 〉

視点A:小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

小売電気事業者の供給力確保義務の見直しを行い、供給計画想定需要に対し3年前に5割、1年前に7割の量的な供給力(kW時)の確保を求め、それに伴い小売事業者の調達環境を整備するために中長期取引市場を創設することになった。本稿では、供給力確保義務の見直しが必要になった背景との関係、米国における類似の議論との比較を行うことで、同市場に関する課題を明らかにしたい。 

供給力確保義務の見直しは、①短期のスポット市場は価格変動リスクが高い一方で、多くの小売電気事業者が短期のスポット市場に調達を依存していること、②一方で電気料金の大幅な変動は社会的に許容し難い状況であり、③需給がタイトになりやすく政府が節電を要求せざるを得ない場面もあったことから、小売事業者により一層の安定供給確保のための対応を求めるためと整理されている。

①は、燃料価格の変動および需給ひっ迫に起因しているが、燃料価格の変動は燃料調達が長期契約からスポット調達への切り替えが進んでいることが影響している。これは再生可能エネルギー発電導入拡大で燃料使用量の予測が難しくなり、LNG過剰調達リスクにつながることが長期契約による調達を行うインセンティブを低下させている。中長期市場はこの問題の解消につながるだろうか。

また小売事業者による調達のスポット化は、相対契約で調達するよりも安価である時期が多いことに起因している。太陽光発電の増加で昼間のスポット価格が1kW時当たり0・01円となる頻度が増加した。2024年4月に容量拠出金負担が開始されたが、新電力のシェアが引き続き拡大しているので容量市場では固定費回収が十分に達成できていない可能性がある。日本では「Net CONE(純収益)」を容量市場の需要曲線の指標価格として用いているが、イギリスの容量市場を参考に他市場収益を計算しており、国内の市況を分析しておらず実際のガス火力の収益性の評価が行われていない。少なくともイギリスのスポット価格は、22~24年度までJEPXシステム価格平均値より高い。

北米の信頼度機関NERCは、ピーク時のkWに基づく供給力によるアデカシー評価では信頼度リスクを正しく評価できず、「エネルギー充足度」の観点での評価も必要だと指摘している。これは、安定供給を維持するために十分なエネルギー量があるかという評価だ。

北東部地域の独立系統運用機関ISONEではガスパイプラインの容量不足で冬季にガス不足となり、代替で石油火力への依存を高める電源構成を維持している。エネルギー充足度という意味では冬季に十分な石油が確保されているかという評価になる。中西部の系統運用機関MISOも20年以降、長期無風を度々経験しており需給ひっ迫となった時期もあった。ここでのエネルギー充足度は原因により数日から数カ月の間、十分なエネルギーを確保しているかという評価になりそうだ。日本の中長期市場は年間調達で評価されるが、安価なベース商品を厚めに調達し、価格が高めなピーク商品の調達を抑えて義務履行しようとする事業者を抑止可能だろうか。

市場原理活用に及び腰の日本 市場リスク高め相対促す米国

昨年6月4、5日にFERC(米連邦エネルギー規制機関)主催で供給力アデカシー問題を討議する技術コンファレンスが開催されたが、容量市場は十分な供給力があると価格が安価となり、容量費用の相対契約が縮小する傾向にあることが指摘された。そのため中西部地域にあるMISOでは夏季と冬季と二度ピークが発生するようになったことを踏まえ、22年に23年度受渡分から容量市場オークションを四半期ごとに開催するとともに信頼度に基づく需要曲線を導入することで、価格の変動性を高める仕組みに変更した。この結果、25、26年度の容量市場価格の平均はガス火力のNet CONEの約90%に相当する1MW当たり210ドルに達した。こうした容量市場の見直しは他のRTO(広域送電機関)やISOにも広まりつつある。

日本では中長期市場の導入やスポット市場入札での限界費用入札のように市場原理に基づく価格変動リスクに慎重であるが、米国ではむしろ容量市場の価格変動リスクを高めることで相対取引によるリスクヘッジを推奨するという姿勢は日本と随分違うものだと感じる。また日本の需給ひっ迫時のスポット価格高騰は、入札で需給が一致しない場合に供給曲線に垂直の補助線を引くことで無理矢理マッチングさせたことが強く影響している。容量市場の仕組みを含め、「市場の仕組み」についてもっと議論があってしかるべきだろう。

おがさわら・じゅんいち 青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒(国際経済学修士)。1995年日本エネルギー経済研究所入所。2018年から現職。専門はエネルギー需給分析、電力経済、欧米の電力規制緩和政策。

【技術革新の扉】核融合発電の産業基盤構築へ日本のモノづくり技術を結集

核融合発電実証プロジェクト/京都フュージョニアリング

産学連携の核融合発電実証プロジェクトが概念設計を完了した。

目指すは一大産業サプライチェーンの構築だ。

長らく「夢のエネルギー」と言われ研究開発が進められながら、その実現は遠い未来の話と目されてきたフュージョン(核融合)エネルギー。今や中国、欧米といった各国、企業が早期の産業化を目指した研究開発を加速させ、将来のエネルギー覇権を掌握しようとしのぎを削っている。

そのような中、昨年11月、京都大学発のスタートアップ企業である京都フュージョニアリングが、2030年代の発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の「概念設計」を完了したと発表。国内外の核融合業界に衝撃を与えた。

プラント模型を携える世古社長(中央)ら


プラントの概念設計完了 世界の技術開発競争に肉薄

概念設計は、技術的・工学的な実現可能性に加え、安全性や経済性などの評価を行いプラントの基本的な仕様を決める、実証への最初の重要なプロセスだ。フュージョンプラントの概念設計の完了は国内企業として初であり、世界でもほとんど例がないという。

同社とプロジェクト全体を統括する子会社「Starlight Engine」の社長を兼任する世古圭氏は、発表後に国内外の研究機関や産業界から大きな反響があったことを明かし、「核融合炉は建設が始まると大幅な設計変更ができず後戻りができない。概念設計の完了は商用化への非常に大きなマイルストーンであり、日本が世界に先んじていることを印象付けることができた」と、その意義を強調する。

発電実証プラントの完成予想図

「FAST」は、1万kWの設備容量で15分間発電を継続することを目標に据えている。これは、商用機として想定するプラント規模の10分の1から5分の1のサイズに相当する。特筆すべきは単なる実証にとどまらず、核融合産業基盤の根幹形成を目指している点だ。「核融合反応(D―T)を起こす燃焼プラズマの生成、維持」「エネルギー変換システム」「燃料増殖と燃料サイクルシステム」「保守メンテナンス」といった、発電に必要な全ての要素技術を結集した装置により統合的な実証を行うことで、日本のモノづくり技術を生かした産業基盤構築を狙う。

プロジェクト名の通り、核融合炉には高温の水素ガス(プラズマ)を強力な磁場で閉じ込める「トカマク式」と呼ばれる方式を採用している。ヘリカルやレーザーといった他の方式も研究開発が進んではいるものの、量産化を目指すからには、全て同じ性能を出せるプラントを製造できなければならない。「ITER(イーター、国際核融合実験炉)」など既存のプロジェクトを通じ、他を圧倒するプラズマ生成のデータが蓄積されているトカマクを選択することは、「サイエンスの観点からも最適解」なのだ。

一部では、トカマクには急激なプラズマ崩壊(ディスラプション)のリスクがあるとの指摘もあるが、世古氏は「ディスラプションは現状ではトカマクの弱点だがAIによる新しいプラズマ制御などの研究が活発に行われ、安全に回避する運転条件が見えており解決可能な課題だ」と懸念を一蹴する。

プラズマ加熱システム「ジャイロトロン」


民間資金で社会実装を実現 日本の産業再生の切り札に

今後は具体的なプラント建設を進める上で必要な工学設計のプロセスに入る。28~29年頃には建設着工したい考えで、そのためのサイトの選定や整備、認可手続き、部材の調達などを進めるには時間的猶予はあまりない。今後1~1年半が勝負だ。

5000億~7000億円規模に上るプロジェクト費用は、民間資金でも賄う方針。それは「ただの科学技術として終わらせるのではなく、市場に認められながら社会実装していくことに価値がある」との信念からだ。重工業や素材・化学、電機・電子機器、金属・非鉄金属、エンジニアリング、さらには金融・投資などフュージョン産業のすそ野は広い。地方自治体からは早くも建設地候補としての名乗りが上がり、人材の集約を含めた新たな周辺産業の創出を通じた地方創生への期待もかかる。

「日本に残された数少ない産業再生の切り札。研究機関や産業界の多くの企業を巻き込みながら、日本に一大サプライチェーンを作り上げていく」(世古氏)