【気象データ活用術 Vol.6】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表
過日6月2日、気象業務150周年式典に参列し、気象データアナリスト人材育成に貢献した者として気象庁長官より表彰していただいた。気象データアナリストとは、2021年に新設された気象庁認定の職能で「企業におけるビジネス創出や課題解決ができるよう、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材」と定義されている。その気象データアナリストである私たちが、クライアントからお預かりした仕事を具体的にどのように進めているのかをお話ししたい。
気象に影響を受けるビジネスやサービスの未来の状況を予測したいというニーズは、予測結果に応じて準備万端で待ち受けたいという動機から生じる。電力需給管理の現場では、JEPXやOCCTOが定める各種手続きの締め切り時刻に従い“どのタイミングで何をやる”という時間軸が明確な上、インバランス最小化が目的としてハッキリしているので、予測モデル開発の大枠構造をデザインするのが比較的容易だ。

あとは、クライアントごとに異なる運営思想やオペレーションフローについて丁寧にヒアリングし、各種気象予測データのリリースタイミングとの見合いで、予測モデルの構造や稼働スケジュールを完全オーダーメイドで設計していく。電力業界のように作業工程や最終目的がガッチリ決まっているご依頼は、実はそれほど多くはない。
予測モデルの開発依頼を受けるとまず、現場にヒアリングさせていただく機会の設定をお願いする。お聞きすることは「どこを対象に、いつの時点で、何が分かっていればうれしいか」。これは、気象の世界の基本である【空間スケール】【時間スケール】を把握するためだ。
例えば特定の地域において毎年秋に需要が立ち上がり、その秋の天気や気温の推移次第で需要量が大きく変動する製品のメーカーは、過不足ない供給計画を立てて秋を迎えたいと考える。もし「高知県での需要をターゲットに7月末時点で晩秋までの日次製造量を計画したい」と言われた場合、空間も時間もスケールがそろっておらず、希望をかなえる予測モデル開発は難しい。よって、まずスケールの一致を試みた擦り合わせをする。
7月末時点で数カ月先を予見することを重視する場合、時間スケールが大きいため、活用できる気象予測データも四国地方という大きな空間スケールを対象にザックリした傾向を表現する解像度の低い季節予報であり、当然予測アウトプットも月次単位など低解像度にならざるを得ない。日次の製造計画を得ることを重視する場合、時間スケールが小さい=時間解像度が高いため、予測リードタイムを10〜数日前程度まで近づける=時間スケールを小さくできないか検討していただく。これがOKだと空間スケールも小さくできるので、数値予報を活用し高知県のどこかピンポイントを予測対象とすることも可能だ。
このようなヒアリングによりクライアントのビジネスに本当に役立つ予測をデザインしている。

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