【シン・メディア放談】総撤退の影響は甚大 三菱商事に問われる責任


〈エネルギー人編〉電力・石油・ガス

洋上風力撤退、メガソーラー批判などで再エネ機運が低下する中、メディアの在るべき姿とは。

―三菱商事が、秋田・千葉両県沖の3海域で進めていた洋上風力事業からの撤退を発表した。

石油 当初からあの入札価格ではもうかるはずがないと言われていた。ここ数年で事業環境が大きく変化したことは事実だが、見通しが甘かったと言わざるを得ない。先日行われた法定協議会で資源エネルギー庁は、制度を見直して速やかに再公募を進めるとしたが、商事が撤退した案件に手を挙げられる事業者はいるだろうか。朝日は社説で、「持続可能な制度の再設計が急がれる」としていたが、これも上っ面の指摘だ。事業撤退が与える影響をきちんと報道しているメディアがないのは残念だ。

ガス ラウンド2、3の事業者を含め国内の洋上風力はどこも厳しい状況で、商事の撤退も取り沙汰されていたが、総撤退は驚きだ。事業性はそれぞれ異なるだろうから、継続できる海域もあったはず。それでも全てから撤退したのは、地元対応を考慮した上での判断だろう。FIP(市場連動買い取り)転が正式に制度化されればもう逃げられず、その意味ではギリギリのタイミングでの意思決定だった。

電力 商事はもちろん、制度設計においても見通しが甘かった。容量市場や長期脱炭素電源オークションにも言えることだが、当時はデフレを前提としており、物価変動分をどう織り込んでいくかという視点が抜け落ちていた。価格に反映できないのであれば、制度でどう手当てするのかを示しておく必要があった。

―洋上風力全体の信頼を損ないかねない。

石油 入札した海域の自治体では一部投資が始まっていたわけで、撤退後にこれらの処遇をどうするのか。一度こうしたことが起こると、地元の協力は得にくくなるし、責任は大きい。商事の中西勝也社長は「地域共生策を継続したい」ときれい事を言っているが、撤退したら資金援助も許されないわけだから。

ガス 洋上事業が総崩れしないか心配だ。コストの問題はあるものの、再生可能エネルギーの容量拡大に最も寄与する洋上風力が立ち行かなくなれば、第7次エネルギー基本計画とも齟齬が生じてくる。国全体でサプライチェーンの構築を進め、事業環境を整備する必要がある。


メガソーラーは世論主導? 一貫性のある報道を

―釧路湿原周辺で進むメガソーラー建設計画に対し、地元団体や著名人を中心に批判の声が広がっている。

電力 感情論で議論が進んでいる印象。湿原一帯がパネルで埋め尽くされている光景はインパクトが大きい上に、最初に宇大々的に取り上げたのはネットメディアだったからそうなるのも仕方がないが。ただ、本来は規制区域の外で許可を得て進めているのであれば問題はないはずで、こうした観点から建設の事業性や妥当性が検証されるべきだった。一連の報道ではマスメディアが否定的な世論を助長しているだけに見えた。

ガス 北海道が森林法違反を理由に工事中止を勧告しており、その点については批判されても仕方ない。もっとも、これには「違反項目を後出ししてきた」との声もある。

石油 新聞はこの件をあまり取り上げていない。日経も、本紙での掲載はなかった。産経こそ大きく取り上げたが、読んでみればSNSの発信を後追いしたに過ぎず、現地取材に基づいて問題提起をするような内容ではなかった。千葉県鴨川市のメガソーラーについても取り上げているが、これもアルピニストの野口健氏の発信ベースだ。

―再エネを取り巻く状況が変わってきた。

ガス 以前はメリットばかりを強調するような報道が見受けられたが、コスト面など現実的な側面が語られるようになってきており、勢いやスピード感は落ち着いてきた。事業者としては、トーンダウンしている今のうちに技術開発や設備投資を進めておくのがベターだ。

電力 再エネ自体に後ろ向きの流れができてきている中で、左派系メディアのスタンスが変わりつつある。朝日も再エネを直接批判こそしないが、制度の問題点や実現性を指摘し出している。否定的な世論に迎合するのではなく、地に足のついた報道をしてほしい。

石油 右派系メディアの論調は一貫している。むしろ、これまで「右寄り」とされてきた主張が、いまでは中間的な立場に近づきつつある。

電力 同時に見直されてきたのが原子力だ。関西電力が美浜4号機の建設に向けて現地調査を再開できたのも、こうした流れがあってのこと。計画自体は以前からあったが、以前はとても実行できる空気ではなかった。今なら、地元でも大きな反対の声は出にくいのではないか。

―中間貯蔵施設では、中国電力が山口県上関町での建設を技術的に「可能」と判断した。

電力 関電は一昨年、「年内に県外で施設を確保する」と福井県と約束していたが、当初搬出先として検討が進んでいた青森県むつ市の中間貯蔵施設の共同利用は、当時の宮下宗一郎市長に反対されたこともあり、うやむやになっていた。ここにきて上関での建設が前進し始めたのは、関電としては大きい。

ガス 山口県としても、使用済み核燃料税などを考えればメリットがあるはずだ。

石油 いずれにせよ長年止まっていた話が動き出したわけだ。県がどう判断するか、注目だね。

―停滞してきた議論が活発になる中、メディアが世論形成に果たす役割もまた、問われようとしている。

【原子力】出費がかさむだけ 廃炉をこれ以上増やすな


【業界スクランブル/原子力】

わが国は福島第一原発事故の後、福島県の強い要請で東京電力が廃止した事故炉以外の6基に加え、他電力が11基を廃止した。その理由は、新規制基準対応の費用が莫大で市場で戦えず、残寿命の間に回収不可能との判断だった。

今日では長期脱炭素電源オークションが整備され、再稼働に必要な安全対策工事費は固定費回収対象として認められた。さらに60年超の運転が可能となり、投資回収が確実となって廃炉の必要はなくなった。停止中の施設管理を適切に実施しつつ、再稼働の準備を行えば良い。

そもそも、新規建設より既設炉の運転延長が安いのは明白だ。米国では廃炉を決めた炉の復活すら準備されている。廃炉は電気を生まず(収入を得られず)、出費がかさむだけだ。廃炉負担金が集められているが収入途絶の影響は大きく、電力会社が実際の廃炉工事の出費を抑えようとするのは当然で、消費者も電気料金の抑制は歓迎である。多数の廃炉は電力自由化の制度整備がずさんなために貴重な発電設備を失った政策上の失敗で、これ以上に廃炉を増やしてはならない。

しかるに、新潟県での柏崎刈羽原発の再稼働容認を巡り、先行炉の廃炉計画の表明を交換条件として厳しい態度を装う某市長の要求は、大きな間違いと言わざるを得ない。固定資産税収はもちろん、法人住民税・法人事業税・核燃料税収もその分減ってしまう。そして地元雇用を大きく損い、地元経済を悪化させる。市長としての見識が疑われるし、原発運転に対する同意権限を利用しており、国家にとって大きな損失で適切な対策が必要である。(T)

【石油】暫定税率廃止の奇策 時限的措置で時間稼ぎ


【業界スクランブル/石油】

9月7日、石破茂首相が辞意を表明した。いわゆるガソリン税の暫定税率について、8月に与野党で廃止に向けた具体的協議が始まったが、どう決着するか全く見えなくなった。任期中の決着を急ぐかもしれないし、新首相が決まってからの仕切り直しになるかもしれない。廃止自体は昨年末に合意されたものの、減税分の代替財源(約1兆円)をどう手当てするか決まっておらず、これが協議の中心的論点だ。決まれば、すぐにでも廃止できる。

野党側は、税収の上振れや特別会計の黒字の活用などを主張するが、与党側は景気や税収に左右されない「恒久財源」が必要と譲らない。物価対策として早急な廃止、国会対策も重要だが、他方、法律上は一般財源化されたものの、老朽化する国家インフラの維持管理財源は必要だし、EVからはガソリン税は取れないので、脱炭素時代にはガソリン税の代わりも必要だ。

こうした中、検討時間を稼ぐための与野党の〝休戦協定〟として、財務省あたりから出てきそうな解決策がある。

「暫定税率の暫定廃止」だ。租税特別措置法で1年か2年の期限を定め、暫定税率を廃止、その間に代替財源をじっくり検討する。当面は円安で企業高収益、株高は続くから税収上振れも続く。円高転換ができないなら、物価対策が必要だ。ただ、道路特定財源も暫定税率も、国土づくりのための田中角栄の知恵だった。その半分を止めるのだから、慎重な検討は必要だろう。

9月上旬のNHK世論調査では、暫定税率については「財源を検討したうえで廃止」が46%で「すぐ廃止」の32%より多かった。意外にも、世論は冷静だ。(H)

トランプ2.0と国際社会〈下〉 停戦交渉はどれも行き詰まり


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

原油価格(WTI)は9月上旬、62~65ドルで推移している。石油供給面では対露経済制裁の一環としてロシア産化石燃料の段階的廃止の可能性が大きく、先行き不安が払拭できない。そうした中で、国際政治にはウクライナ戦争とイスラエル・ハマスの停戦交渉が行き詰まりを見せている。

ウクライナ停戦に関しては、8月15日にアラスカで米露会談が行われたが、停戦に向けた協議は進展しなかった。その後、9月7日にロシアはこれまでで最大規模となるウクライナ各地への攻撃を行った。ロシアは、安価で製造できる無人機を大量に飛ばし、ウクライナの防空網を圧倒するとともに、迎撃ミサイルの備蓄を枯渇させようとしている。無人機の多くは実際にはおとりで、結果、7日にキーウの防空網は初めて破られた。

こうした展開を受けトランプ大統領は8日、対露制裁の第二段階に入ると述べ、経済的圧力を強める構えを示した。第二段階措置に関しEU(欧州連合)は10日、新たな対露制裁の一環として、ロシア産化石燃料の段階的廃止を加速することを検討していると明らかにした。EUは現在策定中の第19弾対露制裁の一環として、ロシアの化石燃料、影の船団、第三国の段階的廃止の迅速化を検討している。本措置に関しては9日未明に発生したロシアのドローン機によるポーランド領空侵犯も影響したとみられる。ロシアはNATO(北大西洋条約機構)の防衛態勢を試そうとしている。

一方、中東情勢においては9日、ガザ地区における戦闘の終結に向けて、トランプ政権が停戦と人質全員の解放を盛り込んだ新たな停戦案を提示した。新提案ではハマスは停戦初日に人質全員を解放し、イスラエル側はガザ市への攻撃を停止し、刑務所に収容しているパレスチナ人を釈放した後、米国の監督の下に戦闘の終結に向けた協議を行うとされた。この提案に対しハマスは受け取ったとの声明を出したが、その矢先、カタールのドーハで9日、イスラエル軍はハマスの指導部を狙った作戦を実行した。イスラエルのネタニヤフ首相はハマスの指導部メンバーが2023年10月にイスラエルを奇襲した作戦に責任があると主張。首相府はハマス指導者らに対する行動はイスラエルによる独立した作戦だったと発表した。

両国の仲介に当たってきたカタール政府は、イスラエルの攻撃は明白な国際法違反であるとの声明を出し、同国を強く非難した。さらに、イスラエルは10日、イエメンの反政府勢力フーシの拠点を標的とした空爆を行った。周辺諸国からはイスラエル非難が相次ぎ、国連の安全保障理事会の全ての理事国は11日、9日のドーハ攻撃を非難し、カタールへの連帯を表明する声明を出した。

こうした展開は、ディールを手法とするトランプ外交の破綻を意味しているように見えるが、停戦を求めていないロシアやイスラエルの対応から考えれば、当然の帰趨であろう。両国を交渉の席に着かせるには、第二段階措置(経済制裁)の効果に期待するほかないのだろうか。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

制裁強化より、求められる戦略的思考の復活


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

米トランプ政権は8月27日にインドに対して25%の追加関税を課した。既に発動済みの相互関税25%を加え、計50%という異常な高率関税がインドの対米輸出の約3分の2に対して掛かる。米ニューヨークタイムズ誌はこれを「経済的宣戦布告」とまで呼ぶ。

追加関税の理由は、インドのロシア産石油輸入だ。2022年後半以降、インドのロシア産原油輸入は激増し、昨年は日量200万バレル弱。総原油輸入に占める割合は21年の2%から23~24年は約35%に上った。このロシア産原油輸入、およびこれを精製した軽油などの輸出、いずれもロシアのウクライナ侵略への経済的支援に当たるとし、その阻止を企図する。

このような措置は、西側の石油戦略として根本的に誤っている。日量約800万バレルのロシア石油輸出は、ロシア外の世界の生産余力を超える。つまり世界はロシア産石油を必要とする。したがって西側自身の対露石油依存を最小限化する一方、非西側諸国へのロシア石油輸出は阻害すべきでない。不用意な阻害は世界石油供給のひっ迫につながり、非西側諸国の離反を招く。

その離反は、追加関税に激しく反発するインドのモディ首相が7年ぶりに訪中し、上海協力機構首脳会議で対露関係の緊密化、対中関係の改善に動いたことに鮮明に伺える。9月2日付の米ウォールストリートジャーナル紙も、中国の10月渡しウラル原油の大量購入、ロシアの積極的な価格割引とインドの購入意欲の保持を伝えている。

関税を振りかざす米国だけでなく、欧州も不要に「影の船団」への制裁を強め、ロシア産石油への「上限価格」に固執する。世界的な視野で石油を捉える、戦略的思考の復活が必要だ。

(小山正篤/国際石油市場アナリスト)

宿泊問題で揺れるCOP30 ホテル不足に各国が懸念表明


【ワールドワイド/環境】

11月にブラジルのベレンで地球温暖化防止国際会議・COP30が開催予定だが、宿舎問題が深刻なリスクとして浮上している。COP30では5万人近くの参加が見込まれる一方、開催地ベレンのホテルインフラは圧倒的に不足している。

この点について今年初めから各国政府が強い懸念を表明してきた。6月の準備会合ではブラジル政府によるロジの説明会が開催され、「早急に政府によるホテル予約サイトを立ち上げる。現在、ホテルの建設を進めており、クルーズ船を宿泊用に利用することも検討している」とのことであったが、公式ホテル予約サイトの立ち上げは8月までずれ込んだ。さらにベレンのホテルがこれまでのCOPと比較しても法外な価格を請求していることが各国の強い怒りを買っている。通常であれば7泊8日で6万円程度のホテルが期間中は100万円になっているのだ。各国政府はより宿泊施設の充実しているリオデジャネイロなどの大都市に移すことを求めているが、ブラジルは頑として応じていない。世界最大の熱帯雨林を有するアマゾン川の河口であるベレンの開催という象徴的意義にこだわっているのだろう。

8月22日のブラジル政府と気候変動枠組み条約事務局の打ち合わせの際、国連側は発展途上国の代表団に1日当たり100ドル、先進国の代表団に同50ドルの宿泊代補助を求めたが、ブラジル側は「ブラジル政府はすでにCOP30開催のために多大な費用を負担しており、ブラジルよりはるかに豊かな国々を含む他国の代表団を補助する余裕はない」との理由で拒否している。途上国の中には会議への参加を見合わせ、代表団規模の縮小を強いられる国も出てくるだろう。

開催地の宿泊事情、会場との交通、会場の設備などのロジ面で参加者に強い不満を感じさせるCOPが成功したためしはない。その典型的な事例は会場のキャパシティを大幅に超える人数を参加登録し、多くの人を雪のふりしきる戸外で行列させたコペンハーゲンのCOP15であり、会議運営の拙劣さもあり、「デンマークに二度と大きな会議の主催をやらせるな」とさえ言われるようになった。COP30の宿泊を巡るトラブルがこのまま続けば、会議の成否そのものも危うくなるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【ガス】熱中症&災害対策に 一石二鳥のLPガス


【業界スクランブル/ガス】

この夏、平均気温は3年連続で最も高く、歴代最高気温(8月5日に群馬県伊勢崎市で41.8℃)を観測。猛暑日や40℃以上の地点数の記録を更新した。その中で注目を集めているのが熱中症対策、そして避難所となる公立施設の体育館空調だ。

近年、平均気温の上昇により夏場の熱中症リスクが高まり、また災害発生時には体育館などが地域住民の避難所となるため、冷暖房設備がなければ被災者の健康被害や災害関連死につながる恐れがある。特に、電力や都市ガスなどのライフラインが停止した場合でも稼働できる空調設備が求められている。

内閣官房国土強靱化推進室が4月にまとめた「第一次国土強靭化実施中期計画」では、避難所になり得る公立小中学校の体育館などにおける空調設備の設置完了率を、2024年度の18・9%から35年度に100%とする目標を掲げている。この他、災害対応として燃料タンクを整備した避難所などの社会的重要インフラの割合を30年度に100%にするとしており、LPガスには追い風といえる。

LPガス仕様GHPとEHPとの設置費用比較では、設置費用はEHPが優位だ。しかし、停電など災害時対応のための非常用発電機・災害バルクなどの追加設置費用を含めるとGHPが優位と試算されている。さらに、GHPの学校体育館への導入は、系統電力の負荷軽減とCO2排出量の削減にもつながる。

こうした点をこれまで業界を挙げて自治体などに訴求してきたが、きちんと浸透しているだろうか。熱中症と災害対策に一石二鳥といえるLPガスの果たす役割は大きいと、引き続き強調すべきだ。(F)

【新電力】電源種問わずkW時確保 懸念は先物との不整合


【業界スクランブル/新電力】

電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGにおいて、「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方と中長期取引市場の整備に向けた検討について」が検討の俎上に上がっている。背景には、①市場連動価格で販売する事業者が増えたことによる電気料金の変動リスクの増大、②発電事業者の発電コストの予見性を高めることへのニーズの高まり―がある。

足元では、小規模事業者への確保義務量の緩和案が出るなど着々と実行に向けた議論が進む。監督官庁と意見交換する中で見えてきたのは、冒頭に挙げた二つの背景のうち、どちらかというと①のリスクを抑制することに目的がシフトしていることだ。②は、3~5年程度のコミットメントでは不十分であるからだ。

また、再生可能エネルギーを主力電源として扱っていく第7次エネルギー基本計画との齟齬がないよう、FIT/FIP電源を含め、電源種に差を付けずに確保したkW時をカウントする方針であるもようだ。

確保したkW時は、基本的には供給計画に記載されることになる。そこで気になるのが、供給計画で見ることができない先物調達との関係だ。先物は、料金変動リスクの増大を実効的に抑える役割を果たしているが、供給計画には載らない。このため、先物市場でヘッジをして安定的な電力料金を供給している事業者は、kW時を確保していることにはならない。これでは、制度趣旨と実態に齟齬が生じてしまいかねない。

新制度を巡る議論の取りまとめは来年になるとのこと。現行制度とも整合の取れた、良い形で着地することを祈るばかりだ。(K)

各国で洋上風力の不振が顕在化 収益安定化へ制度変更が急務


【ワールドワイド/市場】

三菱商事を中核とする企業連合は8月、秋田、千葉県沖の3海域で進めていた洋上風力発電事業からの撤退を表明し、電力業界に衝撃を与えた。欧州でも、大手発電事業者が大規模案件の中止や投資計画の縮小を発表するなど、洋上風力の不振が顕在化している。

至近の動きとしては、ドイツの連邦系統規制庁が北海の2海域で2・5GWの洋上風力発電所を建設する事業者を公募したが、応札した企業はなく入札は不成立に終わった。6月に行われた入札でも、応札企業は2社にとどまり、業界団体が事業環境の悪化による導入停滞を懸念していたところであった。

不振の原因は、地政学的緊張とサプライチェーンのひっ迫に伴うプロジェクト費用の上昇や、ネガティブプライスなどに起因する電力市場の予見性低下などが挙げられる。また、制度側の問題も指摘されている。ドイツの入札では、事業者が海域調査を行う方式で応札価格(FIPの基準価格)が1kW当たり0ユーロ・セントだった場合、最も高額な拠出金を提示した事業者が落札される。拠出金は、電気料金抑制のために使われ需要家に還元されるほか、一部は海洋環境の保護や漁業対策のために使われるが、ネガティブ・ビディングは、事業者の収益安定性を著しく悪化させると業界団体は批判している。

また、政府が掲げる野心的な導入目標もプラスに働くとは限らない。ドイツ政府は洋上風力の設備容量を2030年までに30‌GW、45年までに70‌GW以上に引き上げることを目指している。しかし、限られた海域に風車が密集すると、風車が互いに風を遮り合い設備利用率が低下する。ドイツの送電会社もこの問題を指摘しており、「コスト効率的な再生可能エネルギー導入」を訴えている。また、地政学的緊張の高まりも新たなリスクとなっている。ロシアの脅威が増大する中、洋上変電所などがサボタージュの標的となることを事業者は警戒している。

業界団体は制度改善策として、安定収益を担保する差額決済方式(CfD)の導入、電力売買契約(PPA)との両立などを求めている。CfDを導入している英国でも入札の不振により、入札価格上限の引き上げなどが行われているが、ドイツも第一歩として洋上浮力に係る事業者のリスクを軽減するような制度改変がなされなければ、洋上風力導入が頭打ちとなることが危惧される。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】「稼ぐ力」の鍵どこに 迎えた再点検の時


【業界スクランブル/電力】

余計なお世話とは思うが、大手電力会社の営業部門はいつからこんなに組織が増えたのか。社員はさぞかし多いことだろう。こんなに組織を分けて横の連携は大丈夫かなど、いらぬ心配をしてしまう。小売り自由化が進むにつれ、商売に不慣れな経営者から「とにかく売れ」とげきが飛んだのかもしれない。

ところで、小売事業は利益の源泉なのだろうか。内外無差別が徹底された今となっては、電源構成の特徴を生かしたメニューの差別化の余地は小さくなったはずだ。昨今の営業は、ガス、再エネ、蓄電池、DRなどが絡み、仕入れは市場取引を伴うなど、業務は複雑化しているが、新規の分野には外部人材の採用など、質を充実する方法もあるはずだ。十分な付加価値をもたらせなければ、人の数は費用として重荷になるのみだ。

合理化の足かせの一つは、地域のお客さまとの関係かもしれない。これまで電力会社の信用で契約いただけたありがたいお客さまは、人手をかけても大切にしたい。ただし、この強みはいつまで続くのか。電気料金の体系は、複雑怪奇な通信料金に比べ、よほどシンプルだ。今やスマメのデータを基に、最適な契約先をネットで選べる時代だ。ネット世代の若い消費者や経営者の電力会社選びは、古い世代と同じであるはずはない。

小売り全面自由化から10年、垂直統合組織である大手電力の「稼ぐ力」の鍵がどの部門にあるのか、再点検の時ではないか。新電力が大手と同規模になっても、これほどの人を抱えるであろうか。気がつけば、大手電力の営業部門には、莫大な販管費と手間のかかるお客さまだけが残るかもしれない。(H)

対イラン国連制裁再開へ 中国への原油輸出に影響か


【ワールドワイド/資源】

イランを取り巻く地域情勢が激しさを増している。1月には第2次トランプ政権が成立し、翌月にはイランへの「最大限の圧力」政策の復活を宣言した。「棍棒外交」ともいえる核協議が進む中、6月に生じたイスラエルのイラン核施設への攻撃とその後の応酬は、「第5次中東戦争」さながら地域に大きな衝撃を与えた。その余波が収まる間もなく、英仏独は8月28日、2015年に成立したイラン核合意の下で解除された国連制裁の再開、いわゆる「スナップバック」手続きを開始した。

そのような経済的・外交的圧力とは裏腹に、イランの原油輸出は好調を維持している模様である。船舶データ分析会社ケプラーによると、8月までのイランの今年の原油輸出量は日量150万バレル以上と、18年の米国の核合意離脱以降で最高水準を維持している。

原油輸出拡大の背景には、中国との間に構築した制裁回避ネットワークがある。イランは18年に米国制裁が再開されて以来、自動船舶識別装置(AIS)信号の偽装や東南アジア沖を中心とした船舶間の積み替え(STS)を活用し、イラン産と分からない形で中国へ供給してきた。

イランは原油供給ルートを意図的に複雑化させ、柔軟に変更していくことで、米国の制裁を上手く回避しようと試みている。加えて中国側でも、イランから供給された原油の産地を偽ることで制裁回避を試みている。さらに、イラン産原油を受け取るのは「ティーポット」と呼ばれる小型製油所であり、主に地元での取引のみに従事していることから、米ドル取引の停止などの制裁の効果が限られている。このネットワークを通じて、イランは原油輸出を維持することができ、中国は制裁リスクからディスカウントされた安い原油を購入できるのだ。

国連制裁の「スナップバック」は今後イランの輸出に影響を及ぼすのだろうか。既に多くの関係者が米国の「特別指定国民(SDN)」に指定されているイランにとって、国連制裁の実質的な効果は限られている。しかし、イラン産原油の9割近くを受け取る中国にとって、米国制裁はあくまで1国の国内法の域外適用に過ぎないが、国連制裁には国連加盟国として従う義務が発生する。イランの経済的・外交的パートナーである中国が国連制裁に素直に従うとは考え難いが、いずれにせよ制裁回避ネットワーク存続の鍵は依然として中国が握っている。

(豊田耕平/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/10月17日】エネルギー転換実現のための課題


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

パリ協定の気候目標を達成するためには、今後四半世紀の間に化石燃料によるエネルギー供給を再生可能エネルギーなどへと大きく切り替えていくことが求められる。こうした転換を実現するには、どのような課題に取り組むべきかが問われている。本コラムでは、将来のエネルギー供給システムのあり方(集中的・分散的要素)を考察した、ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナなどによる論文(2020)に基づき、この問題を考察してみたい。

同論文において、エネルギー転換実現のために対応すべき主要な事項として指摘されているのは、次の通りである。

・より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない。
・分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件。
・規制を合理化し、CO2価格を誘導手段(guiding instrument)とすることが効率的なエネル
ギー転換達成の鍵。
・ネットワークの安定性に貢献する再生可能エネルギー発電の拡大・運用が求められる。
・エネルギー転換の実現のためには、住民の主体的な関与が重要。

以下、個別に詳しく考察したい。


より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない

エネルギー転換実現のためには、再生可能エネルギー電源を大幅に拡大する必要がある。分散型エネルギーシステムの支持者の中には、同電源の拡大により分散化が進展し送配電網の拡大が不要になると主張する者もいるが、様々な研究によると、エネルギー転換を成功させるためには、送電網と配電網の両方を大幅に拡大することが避けられない。送電網は、再生可能エネルギー電源の大量導入によって必要となるフレキシビリティを全国レベルで(また、ドイツでは輸入により)確保する観点から重要な役割を担う(2025年6月13日掲載のコラムを参照のこと)。

また、現在のエネルギー転換に関する議論では、送電網が中心となっており、配電網はあまり注目されていない。しかし、配電網は系統の大部分を占めており、過去10年間で配電網の運用者に求められる役割は大きく増加しており、今後もさらに拡大していくことが予想される。これは、再生可能エネルギー電源の大幅な拡大に伴い、配電網における需給調整の重要性が高まっていくことに加え、セクターカップリングにより、需要が大きく増大していくためである。配電網の新たな課題に対応するための技術的アプローチは、配電網の拡張のほか消費者が所有するフレキシビリティ(電気自動車やヒートポンプなど)の制御などである。


分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件

再生可能エネルギー電源の大量導入により、需給調整の重要性は増す。従来は、発電設備から提供されていたフレキシビリティは、分散化が進展していく中で、蓄熱設備、蓄電設備、電気自動車、充電設備などによっても提供され、これら設備間の調整が課題となる。より集中化したシステムでも、より分散化したシステムでも、システムの構成要素の調整は、大きな技術的課題の一つだが、集中型のシステムよりも分散型のシステムの方が、より多様かつ多数の機器およびアクターの調整が求められ、より複雑な作業となるだろう。

そのため、一層のデジタル化や自動化が不可欠な条件となる。人工知能や自律・自己学習型の技術は、非常に複雑なシステムを技術的に制御する上で大きな可能性を秘めている。しかし、デジタル化されたエネルギーシステムにはリスクもある。設備がネットワーク化されればされるほど、サイバー犯罪者による潜在的な攻撃対象となる可能性は高くなる。とくに、設備がインターネットに接続されている場合はなおさらである。そのため、デジタル化されたエネルギーシステムは、外部からの攻撃に対しても耐性を持ち、被害の拡大を防ぐ構造となるよう設計される必要がある。

ペロブスカイト開発の現在地㊦ 国内産業の最適な育成へ 適材適所の海外技術活用を


【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

国内産業創出や脱炭素化への期待がかかるペロブスカイト。

シリコン太陽光での失敗を乗り越え、軌道に乗せることができるか。

これまで2回にわたって、6月に中国で開催された「SNEC」で発表された中国のペロブスカイト技術開発の現状と、サプライチェーン構築の動向を解説した。本稿では、世界のペロブスカイト技術との組み合わせを念頭に、日本国内の関連産業の最適な育成の在り方と海外製品の活用方法について考察する。


都市部の脱炭素化 分散型電源活用の鍵に

海外情勢やインフレの影響で、水素や洋上風力などの脱炭素プロジェクトから日本企業が撤退する事例が相次いでいる。このままでは第7次エネルギー基本計画の再生可能エネルギー導入目標の達成が難しくなる。今後は地熱や水力など多様な再エネ活用が求められるが、都市部では電源立地や系統の空き容量が限られるため、分散型電源の活用が鍵となる。データセンター自体の分散立地や電力インフラと最適に組み合わせる「ワット・ビット連携」が注目を集めており、その文脈でも理論効率が高く、日射量が少ない地域でも発電可能なペロブスカイトの活用が期待される。

ペロブスカイト技術の適材適所な活用イメージ

例えば、耐重性が低く形状が不規則な軽量屋根などには、軽量で柔軟性が高い「樹脂フィルム型」ペロブスカイトを適用できる。ただし、これを活用するにはいくつかの課題がある。

まず、「寿命」や「発電効率」などの性能を評価する基準の整備が必要である。ペロブスカイトはシリコン太陽光と発電挙動が異なるため、シリコン太陽光の国際基準をそのまま適用することは難しい。7月に開催されたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の成果報告会では、メーカー各社で「寿命」の測定項目や条件、判定基準がバラバラであった。そのため、国がリードして業界基準を作る必要があるだろう。

次に、「安全性」の確保も重要だ。ペロブスカイトは極めて電圧が高いため、それに対応する保安基準と対策が必要である。さらに、シリコン太陽光で求められる「不燃性」や「難燃性」を、樹脂フィルム型ペロブスカイトでどのようにクリアするかも課題となる。加えて、ごくわずかだが、ペロブスカイトには水溶性鉛が含まれており、モジュールが破損した際の鉛の流出リスクと対症も検証が必要だ。

このように、性能と安全性などを測る国際的な基準がまだない中で、日本が先んじてその基準を作ることで主導権を握り、日本のメーカーが優位に立つ可能性が期待できる。

一方で、コスト面の課題は無視できない。流通・設置を含めたペロブスカイトのトータルコストを1W当たり150円以下に抑えられれば、経済産業省の2030年に1kW時当たり14円の発電コスト目標達成は可能とされる。しかし、仮に「樹脂フィルム」の寿命が10年の場合、発電コストは倍近くなる可能性があり、国民や企業の負担増は不可避だ。さらに都市部では、屋根面積が限られているほか、北海道などの雪国では積雪すると屋根では発電できない。このため、高層ビルの窓や壁面の活用も検討すべきだ。国内の大手建材メーカーの試算では、ペロブスカイトを全国の既存ビルのカーテンウォールに設置すると、約5・2GW(1GW=100万kW)の発電ポテンシャルがあるとしている。これは国が掲げる40年度までのペロブスカイト導入目標の約4分の1に相当する。

マレーシア・サラワクにて 富める者の悩み


【オピニオン】廣瀬直己/日本動力協会会長

マレーシアのサラワクに来ている。ボルネオ島の北3分の1はマレーシア領で、その西側の大半がサラワク州である。Sustainable and Renewable Energy Forum(SAREF)と題した国際会議が開催中(9月3、4日)で、お招きいただき話をさせていただいている。

今回にわか勉強したところだが、サラワクという地は興味深い。まずエネルギー資源に恵まれ、発電設備の6割以上が水力で、大きなガス田もある。日本はマレーシアのペトロナスからLNGを輸入しているが、ガスはサラワク沖産でLNGにして日本に輸出されている。太陽光もバイオマスもポテンシャルは大きい。

電気事業体制も特別である。クアラルンプールのあるマレー半島側はわれわれにも馴染み深いTENAGA Nasionalが垂直統合で電力供給を担う。政府が約70%を保有する準国営企業である。サラワクの東側にあるサバ州にも垂直統合の電力会社があり、同社が8割を保有する。ところがサラワク州で垂直統合の電気事業を営むSARAWAK Energyは同州政府が100%出資しており、電気料金の認可権も連邦政府ではなく、州政府が持っている。

そもそもサラワクは、かつて多くの部族の群雄割拠であったところ、19世紀半ばに英国人冒険家James Brookeが白人王としてサラワク王国を建国し一世紀に渡り統治し、その後英国の植民地となり、1963年にマレーシア連邦に帰属した。民族構成も宗教の割合も半島側とは異なる。サラワク産ガスはほぼ輸出され、同州での消費は5~6%にとどまる。またガスや石油資源の権益は全てペトロナスに帰属し、同州はロイヤルティを5%受け取るに過ぎない。こうした背景も相まって、サラワクは半島側のマレーシアとは異なる独自色を打ち出しているように見える。

サラワクの最大の課題は、豊富な再生可能エネルギー資源に比して需要が小さいという何ともうらやましい課題である。当然電力輸出を目指すが、半島側への送電線(海底ケーブル)建設は容易ではない。距離は約700km、最大水深が数百mあるという。97年にASEAN(東南アジア諸国連合)パワーグリッド構想が掲げられ、域内の電力融通拡大を目指すが、サラワクからの送電線建設は南へ地続きのインドネシア向けが完成しているだけである。ご多分に漏れず水素にしての輸出なども検討されているがこれも容易ではない。

昨日(3日)の全体会議では、いっそのことデータセンターを誘致し、光ファイバーを半島に向けて建設し、データをシンガポールやクアラルンプールに送ったらどうかと提案してみたら、翌日地元メディアに大きく報じられた。本日は原子力のセッションに登壇し、福島事故後の状況を話す予定である。

ひろせ・なおみ 1976年一橋大学社会学部卒後、東京電力入社。イエール大学経営大学院MBA。2012年同社代表執行役社長就任。福島第一原子力発電所の廃炉や損害賠償、福島復興などを主導し21年同社退任。同年から現職。

どうなる洋上風力 鍵は「オフテイカーの確保」


【脱炭素時代の経済評論 Vol.19】関口博之 /経済ジャーナリスト

出ばなをくじかれるとはこのことだろう。三菱商事などの企業連合は、洋上風力発電を巡る国の公募制度の第1ラウンド(R1)で落札した秋田県沖と千葉県沖の3海域の事業から撤退すると表明した。2021年、入札で3海域を総取りしたものの、その後のインフレ、円安、資材高騰で採算が見込めなくなったとされる。三菱商事は欧州での洋上風力参加の経験から建設コストが低減する見通しを立てていたが、実際は逆になった。メーカーの寡占で風車の価格も高騰。想定を超えるコスト上昇が撤退要因なのは確かだが、挫折の理由はそれだけだろうか。

記者会見する三菱商事の中西勝也社長

入札時に三菱商事が示した供給価格は3海域で1kW時当たり11・99~16・49円。次点より5円以上安い「価格破壊」だった。当時はFIT(固定価格買い取り)制度を前提にしていたが、この価格で大丈夫なのかといぶかる声も少なくなかった。ただ入札では価格点の評価が5割を占め、この最高点をとった事業者を他の項目で逆転するのは事実上困難だった。R2、3でも価格点の重みが5割なのは変わっていない。価格抑制は国民負担を抑えるために重要だが、計画自体がとん挫してしまっては意味がなく、再設計が必要だ。

三菱商事は無理な安値を付けたという指摘も多いが、実は全てをFITで売るつもりではなく一部はオフテイカー(特定の大口需要家)に相対取引で買ってもらうPPA(電力購入契約)を想定していたという説もある。それならPPAで高く売ることで採算を取ることも可能。

ところが、その後のコスト上昇でオフテイカーが降りてしまったのではないかとの見立てだ。世界的に脱炭素の機運が退潮する中で需要側のウィリングネス・ツー・ペイ(支払意思額)も同時に低下しているのかもしれない。

PPAは洋上風力のR2、3で利用されている。この公募ではFITに代わり、FIP(市場連動価格買い取り)が採用され、発電事業者は市場価格に上乗せするプレミアムを入札する。一方、PPAを通じて自分でオフテイカーを自由に探してくる。実際はR2、3の7海域のうち6海域が「ゼロプレミアム」で落札された。つまり売買価格でオフテイカーと〝握れた〟ので国の支援は要らない、としたわけだ。ただし、これもすんなりいくかはまだ分からない。

当面の焦点は三菱商事が撤退した第1ラウンド3海域の再公募。国は地元の要望も受け、早期にとしているが難題も多い。入札評価の方式を見直すのかどうか、工事に必要な基地港湾の使用スケジュールで他の海域との調整はできるのか。最大の懸念はすでに進行中のR2、3のプロジェクトとオフテイカーを奪い合わないかだ。ましてや需要側がここまでなら出せるとする値付け額は低下気味だ。高い電力は国際競争力も削ぐ。 発電事業者から政策要望では、現在30年の海域使用期間の延長や計画決定後のインフレに対応する価格調整スキームなどが挙がるが、オフテイカーへの支援という声も強い。まずは「買い手を増やす策を」というわけだ。黎明期の日本の洋上風力は全てがまだ手探りだ。