【石油】選挙を意識した ガソリン補助の新たな仕組み


【業界スクランブル/石油】

5月22日に燃料油価格激変緩和補助金(いわゆるガソリン補助金)の制度が変更、定額化された。従来、目標価格(全国平均ガソリン小売価格)を固定し、その金額になるような補助額を毎週変動させていたものを、補助金を固定化し、補助相当額の小売価格引き下げを図る。ガソリン・軽油は1ℓ当たり10円、灯油・重油は同5円、ジェット燃料は同4円の定額支給で、当初は半額で開始し、ガソリン10円補助となるまでは原油価格などの状況に応じて支給額を調整する。10円に達した後の小売価格は、補助金支給開始以前のように、その時点の原油価格・為替レート次第で変動することになろう。

このまま、原油価格は軟化、円高が進行すれば、補助相当額以上の値下がりが期待できる。逆に原油価格が上昇・円安になっても、値下がり幅は小さくなるものの、10円程度は確実に下がる。一定水準への抑制(値上がり防止)を目的としていた補助金は、段階的に小売価格の値下げを図る仕組みとなる。同時に、補助金は「旧暫定税率の扱いについて結論を得て実施するまで」実施するとされた。しかも、ガソリン10円の補助上限額に達する7月3日までは、確実に小売価格は値下がりが続く。原油価格上昇・円安になっても、最初は5円程度、次週からは1円程度ずつ、値下がっていく仕組みになっている。明らかに、選挙を意識した政策だ。

今回の定額化で、補助金効果は国民に可視化され、最大4000憶円近く支出していた月間補助金支給総額は、700億~800億円程度に固定される。原油安・円高も進みそうなので、値下げ効果は期待できそうだ。(H)

【コラム/6月20日】経済財政運営と改革の基本方針2025を考える~賃上げ一本とは


飯倉 穣/エコノミスト

1、持続的成長願望ながら

トランプ関税協議、米高騰・備蓄米放出や物価対策に話題が集中する下で、選挙対策の野党の消費税引下げ発言や与党の慎重姿勢が交錯した。今年も経済運営と改革の基本方針(以下基本方針という)の公表があった(25年6月13日)。新しい資本主義の実現を掲げ、賃上げこそが成長戦略の要と述べた。

報道もあった。「骨太方針 減税より賃上げ 閣議決定 選挙前野党と一線」(朝日同14日)。「骨太方針 減税より賃上げ 実質1%上昇 方策乏しく」(日経同)。

基本方針は、賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行を掲げる。手法は、物価上昇を上回る賃上げ要請である。適切な価格転嫁や生産性向上、経営基盤強化となる事業承継・M&Aを後押しなど、賃上げの環境整備に施策を総動員という。その姿勢は、徒労に終わることを厭わないようである。現状認識の錯覚は、果たして効を奏するか。今回の基本方針の掲げる成長戦略と経済運営を考える。


2、現在の物価上昇要因を直視せず、目玉は賃上げ

「賃上げこそが成長戦略の要」と強調する。持続的・安定的な物価上昇の下、1%程度の実質賃金上昇の定着で、生産性を向上させる。つまり賃上げ、消費(需要)増、投資増、生産性上昇、賃上げ増の経路を狙う。現実の物価上昇要因と経済成長の状況から、飛躍していないか。

24年の経済成長率は、実質0.2%、名目3.1%(23年夫々1.4%、5.5%)だった。輸入物価が落ち着き、企業物価上昇もやや安定(24年前年比2.3%)の後、25年Q1に4.2%、4月4.0%と上昇している。この傾向は何を示しているか。現在の物価上昇は、輸入インフレの後、物価見合い賃上げや企業収益の状況から見て、企業の価格引上げ(含む便乗値上げ)が原因と推量される。円安要因というよりコストプッシュ型インフレである。それが消費者物価上昇(コア前年同月比4月3.0%)も牽引している。このような物価上昇は、需要を減少させ、実質経済の縮小をもたらす。

基本方針は、もう一つ願望を述べている。「投資立国」及び「資産運用立国」による将来の賃金・所得の増加である。投資目標で、2030年度135兆円、2040年度200兆円を見込む(24年名目105兆円、実質92兆円)。この実現のため賃金や金融所得・資産の増加を資金の流れでつくるという。つまり家計の現預金が投資に向かい、官民一体で国内投資を加速し、企業価値向上を目論む。その具体化で、従来からGXの推進、DXの推進、フロンティアの開拓、先端科学技術の推進、スタートアップへの支援、海外活力の取り込み、資産運用立国の実現を例示している。かけ声は、素晴らしいが実際はどうか。近時の民間企業設備投資(24年実質1.3%増)の現実から、浮き上がって見える。政府の取組みは、所詮将来のこと故なのであろう。


3、それは実現可能か

途中経過の資料の中には、経産省の打ち上げ花火もあった。積極的な政策強化を前提に、潮目の変化と同様の国内投資拡大(官民目標2040年200兆円)を継続すれば、賃上げは春季労使交渉5%相当の名目3%が継続し、名目GDPは約1000兆円(新機軸ケース、名目975兆円、実質750兆円)に達するという(5月26日)。その後内閣も乗る事態になった(総理発言6月9日)。原案で、直ちに数字の意味が、呑み込めなかった。果たして実現性はどうだろうか。

物価を上回る賃上げ期待は、繰言だが、逆転の発想というより成長現象の見誤りである。過去の成長の結果、得られた数値(雇用・資本ストック)を数式化したソローモデルを思い出す。左辺は成長率、右辺は労働力、資本、TFP(全要素生産性)である。その式を見て、投入資本や労働投入すれば成長可能と計算する。あるいはGDP恒等式を見て、財政出動や減税で消費を喚起すれば成長軌道に乗せることが可能という。この種の経済論の継続に危惧するばかりである。これらの成長期待論は、これまでの経済推移を見れば、一目瞭然である。誤りだった。

経済成長とは何か。一般の理解では、技術革新・企業化あれば、設備投資増、雇用増、製品単価低下、賃金上昇の現象を垣間見ることが出来る。マクロ的には、実質経済成長率上昇、企業物価安定、消費者物価やや上昇の姿となる。つまり民間企業行動と設備投資の中身(独立投資)にすべて帰着する。現実直視が第一である。

世界の分断と大国の思惑〈下〉 トランプ2.0と中東情勢


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

第2次トランプ政権が導入した相互関税が世界経済を揺さぶる中で、外交的には中東情勢が大きく変動している。ウクライナ戦争の停戦交渉に進展は見られず、パレスチナ情勢は再び悪化する中で、シリア情勢に一定の進展はあるものの、最大の焦点は米国・イラン核協議の進展、イスラエルの対イラン攻撃の可能性の評価に移った。

トランプ政権は4月、イラン側と交渉を始めた。ウィトコフ米中東担当特使とイランのアラグチ外相が4月12日に初めてオマーンで協議したのに続き、19日にローマ、26日にオマーンでの協議を経て5月11日オマーンで第4回協議を行った。

オバマ政権はイランに歩み寄り2015年に米英仏独中露の6カ国とEUがJCPOA(包括的共同作業計画:イラン核合意)の枠組みをイランと合意した。その内容は、イランが核開発を制限すれば、国際社会は対イラン経済制裁解除を進めるというもので、イスラエルや米国共和党は核開発の制限は不十分であるとしてそれを批判し、第1次トランプ政権は18年、JCPOAから一方的に離脱した。21年バイデン政権は合意復活を目指したが、イランは再度離脱しない保証を求めたので、交渉は進展を見なかった。

昨年には、4月と10月にイランとイスラエルは軍事攻撃を応酬したが、そのことは核兵器製造までの時間は切迫し、新たな対応が迫られていることを物語っている。

4月以前の展開では、トランプ政権はイランへの制裁強化の可能性を強調し、これに対し、イランはトランプ政権との交渉には応じないとの立場をとってきたが、4月に入って対応は一変した。その背景には、イスラエルが5月にもイランの核施設を攻撃する計画を立てたと報じられたことが挙げられる。

イスラエルは、昨年10月8日の攻撃によりイランの防空システムを大きく破壊した。その点からイスラエルは、今はイランの核施設を直接攻撃できる好機であるとしている。攻撃計画をイスラエルは米国に提示したが、4月17日の記者会見でトランプ大統領は「私は急いではいない」とし、イランとの協議を優先する考えを示した。

トランプ大統領は世界各地の戦争から米国を切り離す一方、米国の経済的利益の確保を優先する。4月、対米交渉に入る直前、イランのペゼシュキアン大統領が、米国の対イラン投資に言及したことは重要である。今後の協議で米国企業の投資を認められることになれば、米国企業にとっても大きなビジネスチャンスになる。

協議の着地点に関して、イスラエルは核開発の放棄(リビア方式)を最善とするが、イランにとってはカダフィ政権を崩壊に導いた核開発の放棄は論外であり、核開発を放棄する選択肢はない。イラン側は遠心分離機の廃棄・濃縮の完全停止などの排除を求めているが、交渉の焦点は、核開発の継続を前提に、IAEA(国際原子力機関)の査察の実効性の確保に置かれる公算が大きい。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

エネ政策の修正迫られる米民主党


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

米トランプ政権の乱脈な諸政策が世界を混乱させている。特に、野放図な関税の乱発は、国際供給網を混乱させ、世界経済を失速させている。各国とも対策に追われるが、この理不尽な措置で打撃を被るのは何より米国自身だ。食品、衣料、自動車などの必需品の高騰は低・中産層の家計を直撃する。

その不安を受け止め、政策の非を正す役割を負うのは野党・民主党だ。トランプ政権の支持率も低下しており、党勢を挽回すべき局面。しかしここに一つの問題がある。それは民主党の教条的なエネルギー政策だ。

4月25日付ウォールストリート・ジャーナル紙が、民主党の有力な次期大統領候補とも目されるニューサム・カリフォルニア(加)州知事を批判。その矛先は石油精製企業に対する加州の政策に向けられている。大気浄化法の特例措置を利して、同州が一方的に脱炭素政策を進める結果、精製企業が撤退に追い込まれている、としている。

4月半ばに米精製大手バレロ・エナジーがサンフランシスコ製油所の1年内の休止ないし閉鎖を発表。既にフィリップス66も今年の第4四半期のロサンゼルス製油所閉鎖を決めており、合わせて加州の精製能力の2割弱が失われる。地勢的に加州はメキシコ湾岸の精製センターと隔絶し、その厳しい品質規格も相まって、石油製品供給を地場の製油所に依存する。しかし加州当局が非現実的な炭素集約度低下目標をさらに厳格化する中で、精製企業が事業継続を不可と判断しつつある。

加州が自滅的な石油危機に陥る事態となれば、民主党の経済運営への不信を高め、米政権交代の道のりは険しくなる。エネルギー政策は、依然として民主党の鬼門である。

(小山正篤/石油市場アナリスト)

【ガス】出口見えないエネ補助金の評価 AIに聞いてみた


【業界スクランブル/ガス】

政府はガソリンや電気・ガス代への補助を再開する予定だが、参院選を見据えた「バラマキ」と苦言を呈さずにはいられない。ガソリン補助金は3カ月間限定で2022年1月に開始したが、3年以上も延長を繰り返し、昨今の原油安・円高の進行で今年4月ようやくゼロになった。また、電気・ガス補助金も23年1月に始め24年5月でいったん打ち切ったが、「酷暑乗り切り緊急支援」と名を変えるなど延長を繰り返し、ようやく3月に終了。その矢先の残念な決定である。

一連の支出は既に計12兆円を超えた。最大の問題は、この予算が一過性に終わっている点だ。その場しのぎの補助金ではなく、省エネ機器や再エネ設備への「バラマキ」などに使っていたら、今後10年以上はその恩恵を受けられたはずだ。

試しに生成AIを使用し、「物価対策・ダメな施策」と調べてみた(以下AI回答)。「短期的には効果があるように見えても、長期的には副作用や逆効果をもたらす可能性がある政策。①補助金や価格統制による市場の歪み(ガソリンや電気料金に対する一律補助金など)、②短期的な減税の乱用(特に消費税減税)、③為替介入のみに頼る対応、④供給側の制約を無視した需要刺激策―。こうした施策は、国民の「その場しのぎの満足感」にはつながるかもしれないが、根本的な物価上昇の抑制にはつながらず、経済全体にとってはマイナスになることがある。必要なのは、エネルギー効率の向上、サプライチェーンの強靭化、賃上げと生産性の両立など、根本的かつ中長期的な対応です」―。政府も生成AIを参考にしてはどうだろう。(Y)

「掘りまくれ」に黄信号? 石油各社が米貿易政策に懸念


【ワールドワイド/環境】

トランプ大統領は就任100日目の4月29日にミシガン州で演説し、「われわれの国の歴史上、最も成功した政権の最初の100日間を祝うためにここにいる。毎週、不法移民の流入を終わらせ、雇用を取り戻している」と成果をアピールした。

同日、リーヴィット報道官、ベッセント財務長官が記者会見で100日の成果をPR。エネルギーについては「ジョー・バイデン氏の無謀なエネルギーと化石燃料への攻撃を終了し、アメリカのエネルギー優位性を回復した。この大胆なアプローチにより、石油と天然ガスの価格は大幅に下落している。ガソリン価格は7%下落している。内務省はアメリカ湾での石油生産を1日当たり10万バレル増加させる新たなオフショア掘削政策を発表した」としている。

確かにガソリン価格はここ数年来で最も下がっているが、これはトランプ大統領が推進する「Drill, Baby, Drill」 によって国内エネルギー生産が増大し価格が下がったというものではない。むしろトランプ関税が国内生産増大を阻害する可能性がある。

トランプ関税が世界経済の減速をもたらすとの懸念からWTIの先物価格は4月中に13ドル低下した。この下落幅は2021年11月のCOVID変異株拡大の時以来だ。石油会社はトランプ大統領の規制緩和や石油・ガス掘削のコスト削減・簡素化方針を歓迎してきたが、最近は貿易政策に対し深刻な懸念を表明しはじめている。

シェール石油企業が利益を出すにはWTIが少なくとも65ドルが必要であるとされ、60ドル台前半になれば掘削を縮小する企業が増える。実際テキサスにおけるシェールのリグ数は昨年3月の376から3月には290に低下した。クリス・ライトエネルギー長官がCEOを務めたリバティ・エナジーの株価もトランプ政権発足後、40%も下落した。石油価格はトランプ関税以外にも地政学的緊張、OPECプラスの動向などにも影響を受けるが、現在の価格水準ではガソリン価格低下につながっても「Drill, Baby, Drill」にはとてもつながりそうにない。関税により世界経済へのマイナスの影響が拡大すればCOVID19のように世界の温室効果ガスが低下するかもしれない。トランプ大統領は温暖化防止に冷淡なのに皮肉なことである。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】電力市場拡大局面で 存在感希薄な新電力


【業界スクランブル/新電力】

蓄電池とDC―。電力業界に流行語大賞なるものが存在するのであれば、両者は間違いなく、今年の大賞候補だろう。電力業界における久々の市場拡大チャンス到来である。電力小売全面自由化という市場拡大の潮流に乗った新電力ではあるが、今回の市場拡大チャンスでの存在感は、一部大手を除き、やや希薄な印象を受ける。

新電力は従来、従量料金単価が比較的高く負荷率の低い低圧・高圧の需要家を主たるターゲットにしてきた。利益の源泉は主に基本料金である。負荷率が極めて高く、従量料金部分では逆ザヤリスクのある特別高圧が大多数を占めるDCは、従来の顧客ターゲットからは外れる。逆に、系統用蓄電池は負荷率が低く既存料金下で極めて魅力的な顧客であるため、競争激化=基本料金ダンピングの果ての逆ザヤリスクを警戒しているのかもしれない。

ただ、足元の状況として、原発稼働率低下を主要因とする旧一電の値上げにより、特別高圧料金は新電力にも対抗できる水準になりつつある。

基本料金ダンピングにしても、そもそも小売に特化している新電力が容量拠出金や託送料などインフラ整備に必要な費用を別途顧客に請求しているのであれば、基本料金の存在理由がもはや「?」である。蓄電所特化新料金メニューによる競争があっても良い。

また、このコラムでは批判の対象とされがちな規制当局ではあるが、試行錯誤を経て電力システム改革は着実な成果を上げている点は評価したい。新電力にとって、もはや特に不利な環境とは言い難い。

こうした環境を生かし、新電力各社にはさらなる存在感を発揮してもらいたい。(S)

インドで原発開発加速 外資参入に向け法改正着手


【ワールドワイド/市場】

インド政府は2月、2025度予算案で、原子力発電の開発を加速させる方針を示した。同国では現在、24基(818万kW)の原子炉があり、建設中と政府承認済みの計画を加えると32年の合計の設備容量は2248万kW。これを47年までに1億kWへと引き上げる。また、「原子力エネルギー計画」として国産の小型モジュール炉(SMR)の研究開発に2000億ルピー(3300億円)を割り当て、33年までに少なくとも5基のSMRを建設する。

政府は国産技術の加圧重水型炉(PHWR)、輸入大型軽水炉、SMRなどあらゆる技術を採用する方針で、外資および民間セクターからの投資を呼び込むため、原子力法と原子力損害賠償法の改正を進める。1964年に制定された現行の原子力法は、原子力事業の担い手を国営企業に限定しており、現在、インドでは原子力発電公社(NPCIL)、発電公社(NTPC)、BHAVINIの3社が手掛けている。報道によると、アダニ、タタ、リライアンス、ジンダルなどが原子力事業への参入に関心を示している。IPP大手アダニ・パワーは既設の石炭火力発電所を順次原子力に置き換え原子力発電所を計3000万kW開発する計画だと報じられた。

外資の参入は、ロシアによるクダンクラム原子力(加圧水型軽水炉)の建設実績がある一方で、欧米企業は、10年に制定された原子力損害賠償法により、原子炉のサプライヤーが賠償責任を負う可能性があることへの懸念から進んでいない。政府は4月、この状況を打破するため、原子力法と原子力損害賠償法の改正に向けて、原子力庁、原子力規制委員会、Niti Aayog(政策委員会)および法務省で構成される委員会を設置した。廃棄物管理、廃炉、核セキュリティと保障措置などについて検討し、改正法案は早ければ7月の国会に提出される。

NTPCは今後20年間で原子力3000万kWの開発に620億ドルを投資する方針で、加圧水型炉(PWR)の開発目標を約1500万kWとした。3月下旬には、100万kW超の大型PWR技術の国産化と新設に向けて、グローバル企業に対して協力ベンダーの関心表明の募集を開始した。既設石炭火力をSMRに転換するため実現可能性調査の準備も進めている。同国ではSMR開発でも他国との協力しており米国ホルテックやロシアのロスアトムなどと関係者間で協議が進められている。

(栗林桂子/海外電力調査会・南アジアグループ)

【電力】米国で論争 併設負荷はどう考えるべきか


【業界スクランブル/電力】

最近米国で、大規模需要であるデータセンター(DC)が隣接する原子力発電所などから電力系統を介さずに共有を受ける併設負荷または共立地負荷の扱いを巡り、賛否両論が起きている。

送電事業者が、大規模需要と大規模電源が系統から離脱することによる信頼度・費用への悪影響を懸念している一方、発電事業者とDC事業者は系統増強費用の回避と早期の供給実現にメリットを感じているようだ。

日本に本件と同様の動きがあった時のことを想像してみるに、DC構内に発電所を設置するのであれば、通常の自家発設置と変わらないし、隣接地に発電所があるなら自営線を敷設すればよく、日本の制度上は止めることはできないように思える。

系統を介さない供給に対する歯止めの前例としては、都市ガスの二重導管規制がある。たとえ工場がLNG基地の隣接地に立地していても、一般ガス導管事業者の供給区域全体の導管利用コストが上昇する可能性を理由に、電力会社は自前の導管でガスを供給することができない。熱量調整不要と言っている需要家にとっては、オーバースペックで割高になってしまう。これと同じ理屈で日本版併設負荷をブロックするのは、一言でいえば格好悪い。

そもそも、特定の需要のために大規模な系統増強が必要となる状況は、送電網を需要全体で支えるコモンキャリアと位置付ける現在の電力システムの前提を逸脱しているようにも感じられる。ではどうするか、にわかに答えは出ないが、送電事業者も系統増強を極力回避する手段として併設負荷を前向きにとらえてもよいかもしれない。(V)

豪労働党が政権維持 国内ガス供給優先路線強まるか


【ワールドワイド/資源】

5月3日に実施された豪州連邦総選挙で、与党・労働党が勝利した。2022年の政権交代から続く与党の再選により、脱炭素を軸とした政策運営が今後も維持されることになるだろう。同時に、天然ガスについては「移行期に不可欠なエネルギー」としての位置付けは明確にしており、脱炭素とエネルギー安定供給を両立させるバランス路線を模索している。

しかし、再選後の政権には、より差し迫った課題が突きつけられている。それが、主に東海岸における国内ガス供給の不安定化である。

豪州では、人口の約8割が集中する東海岸地域において、既存ガス田の減産、新規開発の遅延、LNG輸出優先の体制などが重なり、国内供給がひっ迫する兆しが強まっている。

このような中で、労働党政権はすでにいくつかの制度改革を進めてきた。「豪州国内ガス安全保障制度(ADGSM)」は、国内で供給不足が見込まれる場合、輸出事業者に対して国内供給を優先させることを目的としている。労働党政権による23年4月の改正では、その発動検討の頻度が従来の年1回から四半期ごとに見直され、より迅速な対応が可能となった。また、同年7月からは東海岸のガス生産者に対して卸売価格の上限が設定されるなど、価格抑制策も導入されている。

今後3年間の政権運営において、国内供給優先の姿勢が強まる可能性は否定できない。むしろ東海岸におけるガス供給不足に対して、何らかの措置や判断を求められる可能性がある。LNG輸出への制限措置が検討される事態も十分に想定され、調達環境の観点から豪州のエネルギー政策を引き続き注視する必要があるだろう。ただし、グローバルなLNG市場全体では今後の供給拡大が見込まれることもあり、マーケットの状況によっては、仮に一時的な豪州の制限が生じても、それによってすぐに価格高騰に直結するとは限らない、とも考えられる。足元の市場環境や他国からの供給状況との兼ね合いを冷静に見極める姿勢が必要になる。

脱炭素とエネルギー安定供給を同時に追求しなければならない中で、今回の総選挙による豪州の政権選択と今後の政策運営は、日本にとっても決して対岸の出来事ではない。資源の安定供給と将来予見性というエネルギー安全保障の核心にかかわる論点として、今後の展開は丁寧に見ていきたい。

(芝 正啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

新エネ・再エネ拡大に総力 次世代技術普及へ活動強化


【巻頭インタビュー】寺坂信昭/新エネルギー財団会長

新エネルギー・再生可能エネルギーの拡大は、国家的課題として対応が求められている。

産学官の結節点に当たる新エネルギー財団が果たすべき役割とは。寺坂信昭会長に聞いた。

てらさか・のぶあき 1976年通商産業省入省。資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部計画課長、同電力ガス事業部長、原子力安全・保安院長などを経て2011年退官。その後、カケンテストセンター理事長などを経て、23年11月から現職。

―会長就任から約1年半が経過しました。今後、どのような取り組みに注力していく考えでしょうか。

寺坂 当財団は、新エネルギーと再生可能エネルギーの導入・普及拡大に向けて調査研究や政策提言、広報・啓発、人材育成などに取り組んでいます。今後は、新エネ・再エネの拡大がこれまで以上に国家的な課題として位置付けられ、社会的な要請も一層強くなると認識しています。産学官の結節点として、新エネ・再エネに関わる幅広い業界と接点を持つ財団の強みを生かし、活動をさらに充実させることで普及拡大へ一層、貢献していきます。また、今年度からは水素分野にも幅を広げ、調査研究や委員会活動を充実させていく方針です。

―2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画について、どのように評価されていますか。

寺坂 エネルギーは、水・食料・空気と並ぶ、われわれの生活に欠かせない存在です。国家運営の基盤としてのエネルギー政策という意識は、従前の計画からしっかり引き継がれていると認識しています。一方で、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、電力需要が増加に転じる見通しが示されたことは大きな変化です。2040年度における再エネ電源比率は4~5割とされ、22年度比で倍増させる必要があります。これは産学官の総力を挙げて取り組むべき課題であり、再エネの主力電源化が計画実現のカギを握ります。加えて、地域との共生や国民負担の抑制といった視点も重要であり、これらすべてが、第7次エネ基に盛り込まれている点を高く評価しています。

また、地球温暖化対策計画やGX2040ビジョンが同時に策定されたことも大きな特徴です。エネルギー政策に着目すれば、安定供給、脱炭素、経済成長という三つの目標を同時に達成するには、新エネ・再エネの拡大がこれまで以上に不可欠であることが、明確に示されたと受け止めています。

―3月に公表した「新エネルギーの導入促進に関する提言」のポイントは。

寺坂 24年度の提言では、第7次エネ基の内容を踏まえ、今後の具体的な制度設計を後押しすることを目的に、産業界をはじめ関係各界で構成する当財団の新エネルギー産業会議の委員の総意として取りまとめました。第7次エネ基で掲げられた「再エネ主力電源化の徹底」は、リスクを抱えることなく実現させることが困難であり、各分野が直面する課題を短期から中長期にわたって整理しています。その中で当面の課題として挙げたのが、諸環境変化に伴うコスト増による事業採算性の低下です。特に風力発電事業はその影響が大きく、洋上風力に限らず陸上風力にも共通する切迫した問題です。また、地域との共生は全ての電源に共通する重要な視点であり、それぞれの電源特性を踏まえた政策による支援が必要です。今後も、技術開発への支援や規制のあり方も含めた課題解決を後押しする提言を行っていきます。

世界でもまれなGX特化型組織 設立の背景に三つの源流


【オピニオン】梶川文博/脱炭素成長型経済構造移行推進機構理事

「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」。このコラムの横幅の字数制限と同じ、暗号のような漢字16文字である。

2024年7月、政府と経済界が協力し、GX実現に特化した専門組織を立ち上げた。GX推進法に基づく経済産業大臣の認可法人であり、通称「GX推進機構」と名乗っている。内閣法制局との議論の結果、上記の16文字が法律上の正式名称である。

私は、経済産業省で設立の責任者を務め、組織設立とともにこの組織に移り、企画担当理事として、組織づくりに奮闘している。GX推進機構は、世界にもまれにみるGXに特化した専門組織であるが、設立に向けた源流は、大きく三つある。

一つは、22年1月から開催した「クライメイト・イノベーション・ダイアログ」にさかのぼる。GX投資の不確実性に対して、公的・民間資金を組み合わせて、官民投資をいかに増やしていくか、官民の金融機関関係者が集まり、タブー無しの議論を行った。最近の言葉でいえば、ブレンデッド・ファイナンスである。この対話から、大規模かつ長期でのリスク補完機能を持つ公的機関の必要性が参加者から認識された。ここでの議論なども踏まえて、GX推進法の中で、GX推進機構の業務として、債務保証などによる金融支援業務が位置付けられた。

もう一つは、自主的な排出量取引からの発展である。GXリーグでの試行期間が終わり、26年度からわが国で排出量取引が本格導入される。世界では、国の省庁とは別に、この制度を執行・運営する専門組織を設けて、専門的知見やデータを積み上げながら、効率的・効果的な政策執行を実施している。当機構は法律に基づきカーボンプライシング業務の実務面を担当する。韓国のK―ECO、豪州のCERといった専門機関とも既に交流を開始。100人規模の人員を抱えて、日々制度執行をしている海外機関から学びつつ、来年度に向けた準備を進めている。

これらの二つの源流に加えて、もう一つはGXハブ機能である。GX分野は、政策、ビジネス、金融が密接に結びつきながら、脱炭素と経済成長の二兎を追うことになるが、これらを一体的に推進する主体がなかった。経済界からは、GX関連情報の統一的な発信や、異なる産業間での連携の重要性を訴える声が多く届けられていた。こうしたニーズに応えるため、当機構の3大業務の一つと位置付けた。現在、セミナー、ネットワークイベントなどの企業間連携の取り組みを進めている。

GX推進機構は次の7月で業務開始1年となるが、まだまだヨチヨチ歩き状態。50年までの長い道のりの中で、多くの方に信頼されるパートナーとなるべく、組織の成長スピードをさらに上げていきたい。

かじかわ・ふみひろ 2002年早稲田大学法学部卒、経済産業省入省。08年米コロンビア大学ロースクールLL.M卒。18年経済産業政策局政策企画官、19年産業技術環境局環境経済室長、23年同局GX金融推進室長などを歴任。24年から現職。

AI普及で増大する電力需要 エネ効率を上げるには?


【脱炭素時代の経済評論 Vol.15】関口博之 /経済ジャーナリスト

われわれの身近にも急速に普及してきた生成AI。そのAIとエネルギーをテーマに国際エネルギー機関(IEA)が4月に出した報告はこう書く。「AIは世界中のデータセンターの電力需要を増やすと同時に、コスト削減・競争力強化・CO2排出削減の可能性を解き放つ」と。確かにプラス・マイナス両面から見るべきだが、今回はまず電力消費に着目してみる。

IEA報告書は2030年までに世界のデータセンターの電力消費量は今の2倍以上の約94・5GW時になると予測。これは日本の年間総電力消費をも上回るとしていて、急速な増大が想定されている。

AI時代の省エネの在り方とは……

エネルギー負荷がAIの課題として捉えられる中、AIにも家電製品のエネルギー性能を示す格付け(☆マーク)のような仕組みができないかと米AIベンチャーのHugging Faceは「AIエネルギー・スコア」なるものを考案した。同社はオープンソースのAI開発プラットフォームを提供しており、さまざまなAIモデルの消費電力を比較可能にすることでユーザーに選択肢を与え、開発者にもエネルギー効率を意識するよう促したいと狙いを説明する。

具体的には、質問応答・要約、自動音声認識、より高度なテキスト生成、テキストからの画像生成、画像のキャプション作成など10のタスクを設定、200以上のAIモデルにテストをして消費電力を計測したという。公平な評価のためハードはエヌビディアの同じGPUで実施された。

結果はエネルギー効率の最も良い5つ星から1つ星までの5段階で評価している。2月にウェブ上で公開し、今後もほぼ半年ごとに更新する予定だ。

そのテスト結果によると、シンプルな質問応答では1000回の質問を処理するのに0・1W時(白色電球を5分つける程度)の消費電力で済んだものがあった一方、画像生成では千枚の高解像度画像を作るのに1600W時を必要としたものもあったという。これはスマホを70回フル充電するのに等しい電力量。大規模言語モデルかどうかや用途で格段の違いがあるのがわかる。概して「画像」生成は「テキスト」のタスクより圧倒的に電力を使う。ただし留意すべきは今回の調査はあくまで各モデルの「推論」での消費電力を見ていて「学習」は対象外。こちらにかかる電力は依然、ブラックボックスだ。

AIとエネルギーに注目する日本エネルギー経済研究所の土井菜保子研究理事は「単なる機械学習レベルから生成AIまでを同列に論じるべきではない。単純な用途に高度な生成AIを使う必要はなくタスクに合わせ適切なモデルを充てるべき」と指摘する。鍵は〝適材適所〟ということになる。

IEAは冒頭に挙げた報告書を多くの関係者に読み込んでもらうため新しいAIエージェントをウェブ上に公開している。そこにある利用上の注意事項は「質問は明確で具体的に」「質問は一度に一つ、期待する答が得られない場合は言い換えるか、絞り込んで」「複雑な質問は処理時間がかかることも、それには忍耐を」。AIを使うビギナーはまずこの実践からかも。

【コラム/6月13日】電力供給システムの集中化と分散化


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

カーボンニュートラル(CN)の達成のために、内外で再生可能エネルギーが大量導入されているが、それはどのような電力供給システムをもたらすであろうか?集中化、分散化のいずれが進展するであろうか?分散化が進展するとしたら、従来の電力供給システムに特徴的な集中的な要素は重要性を失うことになるのであろうか?本コラムでは、このような問題について論じてみたい。

CNがもたらす電力供給システムについては、集中化、分散化のうち、どちらかというと分散化が進むとの考えが多いのではないだろうか?とくに、再生可能エネルギー推進派には、地産地消(または自給自立)、市民の選択、従来の電力供給からの独立などの観点から、再生可能エネルギー大量導入により分散型電力供給システムがもたらされるとの期待が高い。将来の電力供給システムが集中型か分散型かについての議論は、今後さらに活発になるだろう。しかし、このような議論は結論が得られず、徒労に終わることも少なくない。その理由は、集中型もしくは分散型について議論する者が抱いているイメージが明確でないため、議論が嚙み合わないためである。そのため、将来の電力供給システムが向かう方向性について議論する場合には、集中型および分散型の電力供給の概念をまず明確しておくことがスターティングポイントとなる。それ無しに議論しても、実りのある成果は得られない。そのため、ここではまず、集中型と分散型の概念を明確にしておく。

電力供給システムが集中型か分散型かは、発電所の規模、発電された電力がフィードインされる電力ネットワークの電圧レベル、電力貯蔵設備などのフレキシビリティや発電設備の消費者への近接性、需給調整のあり方など、いくつかのディメンションで判断される。典型的な集中型電力供給とは、大規模な洋上風力発電所や揚水発電所などが、需要地から遠く離れた場所で発電し、高圧で系統連系し、貯水池式・揚水式の水力発電 や融通電力などによりフレキシビリティを確保し、需給バランスは、中央の電力取引所や需給調整市場により確保する場合である。また典型的な分散型電力供給とは、小型の再生可能エネルギー電源などが、需要地で発電し、最小限の系統連系(極端な場合は、系統連系無し)で、フレキシビリティは需要側の蓄電池などで確保し、需給調整も需要地で行う場合である(図1)。このような典型的な集中型および分散型の電力供給の間に、比較的集中型、あるいは比較的分散型の様々な供給形態が存在する。

図1 集中型電力供給と分散型電力供給
出所:Nationale Akademie der Wissenschaften Leopoldina et al.(2020)などより筆者作成

注意を要するのは、現状では、典型的な分散型電力供給における厳密な「自給自足」は経済的な理由から難しいことである。小さな自給自足単位では、瞬時ごとに需給バランスを確保するコストは禁止的に高いからである。そのため、実際には、ほとんどすべての分散型電力供給システムでは、系統連系により、外部のフレキシビリティにもアクセス可能としている。例えば、既存の電力系統から独立して運転可能なオンサイト型電力供給システムであるマイクログリッドでは、通常は既存の電力系統と一点で連系されている。このような場合には、分散型電力供給システムといえども集中型電力供給システムの要素を部分的に有している。

再生可能エネルギー大量導入下の電力供給システムにおいては、分散的要素がさらに増大する可能性が高いが、集中的要素も欠かせない存在となることは確かである。例えば、再生可能エネルギー電源の大量導入下では大量のフレキシビリティが必要となるが、その効率的な確保のためには、遠隔地の揚水発電所や集中設置された蓄電設備、またはフレキシブルな集中型発電所を含む様々なエネルギーリソースからの提供を可能にしておく必要がある。それを可能にするのが系統の利用と増強であり、再生可能エネルギー電源の大量導入下でも集中的要素は必然的に組み込まれる。

電力供給システムは、様々な集中型と分散型の技術および調整メカニズム(需給バランス)を環境適合性、経済性、安全性、アクセプタンスの観点から最適に組み合わせることによって構築されなくてはならない。このことは、再生可能エネルギーが大量に導入される状況においても変わることはなく、電力供給システムは、必然的に集中的要素と分散的要素を併せ持ったものとなると考えられる。同電源が飛躍的に増大するドイツでも、この点に関しては専門家の間でコンセンサスが見られる(Nationale Akademie der Wissenschaften Leopoldina et al. 2020)。集中型か分散型かという単純な二項対立に焦点を当てる議論はあまり意味がないと言えるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

空き家管理で地域の価値向上へ 暮らしのワンストップ企業に脱皮


【事業者探訪】日高都市ガス

団地の造成から数十年経つ中、地域の衰退を食い止めるため空き家管理を始めた。

エネルギーと暮らし・住まいの2軸で、ガス会社を超えた存在として地域への浸透を図る。

埼玉県南西部に位置する日高市には、秋の彼岸に咲き誇る曼殊沙華が見事な「巾着田」や、手軽な登山が楽しめる「日和田山」など、知る人ぞ知る名所が多い。県民にとっては、豊かな自然を生かした「遠足の聖地」としてなじみ深い存在だ。

日高都市ガスは、この地の市街化とともに発展し今年12月で創立55周年となる。現在はシナネンホールディングス(HD)グループ傘下だ。都市ガスは、高度成長期やバブル期に造成した2カ所の団地向けから始め、徐々にエリアを広げ、足元の需要家件数は7000戸ほど。原料ガスは武州ガスから調達する。またLPガスは600戸程度、電力は小売り全面自由化開始直後に取り扱いを始めた。

全国の団地に共通する問題として、開発から数十年後一気に衰退が進み、同市内の団地も例外ではない。そこで地域の衰退に歯止めをかけるべく始めた事業の一つが、空き家管理だ。


団地衰退に歯止めを 決断から1年で事業化

シナネンHD出身の塚越二喜男社長は、6年前の社長就任直後、ある団地の自治会長から空き家増加の懸念を聞かされた。当時、分譲戸建て約2200戸のうち空き家は150ほどで、全物件を確認したところ手入れが不十分な物件もあった。塚越氏は「団地は地域の象徴的な存在。このままでは町全体の資産価値まで毀損してしまう」と危機感を持った。急ピッチで空き家管理サービスのフランチャイズへの加盟や、宅地建物取引士(宅建士)資格保持者のリクルートを進め、事業化の決断から1年余りで開始に至った。なお、現在では社員25人中、塚越氏含め3人が宅建士の資格を持つ。

左から横田氏、塚越社長、水村氏

一番の売りが、管理作業の様子を動画で撮影し、顧客がWEB上で確認できることだ。通常は紙の報告書を用意するが、動画であればより分かりやすく安心感につながる。屋外のみ、あるいは屋内も含めさまざまな点検を行う3プランを用意する。同社は市の空き家対策協議会のメンバーにも選ばれている。

現在までの実績は12件で当初の見込み通りとはいかないが、「この事業でもうけるという考えではなく、エネルギー事業者だからこそできる地域の資産価値向上に資する取り組みだ」(塚越氏)と強調する。

空き家情報を把握する上で、かつては顧客からガスの閉栓の連絡が来る点に商機があると見ていたが、実際に顧客はそれ以前に管理委託や売買仲介を決めているケースが多い。閉栓の連絡が来たら社内で即情報共有することはもちろん、顧客からの連絡が来る前にどうアプローチするかが重要となる。そこで、5月下旬に市と連携し、初めて「空き家管理セミナー」を開催した。同社の横田敬二・経営企画室長は「居住中の段階から将来の住居管理を考えるきっかけになれば。地域や住民と連携して町の価値を上げる事業レベルにしたい」と語る。