ENEOSグループ新体制 非主流派主導で再生へ試練の船出


ENEOSホールディングス(HD)の新たな経営体制が、4月1日付で立ち上がった。旧日本石油出身の首脳が女性への不適切行為で相次ぎ退いたことを受け、東燃ゼネラル石油出身の宮田知秀副社長が新社長に緊急登板した。これを機に企業風土を刷新しグループ経営を前進させたい考えだが、日石出身の主流派が「不満分子」化するリスクをはらんでおり、厳しい試練が待ち受けている。

社長昇格が決まり会見するENEOSHDの宮田知秀副社長
提供:時事通信

ENEOSHDでは、2023年12月に斉藤猛社長が懇親の場でセクハラがあったとして解任されたほか、2月にも傘下の再エネ事業会社の安茂会長が同様の行為で退場した。

前社長の後を受ける形で4月1日付で社長に昇格したのが宮田氏だ。社長人事を発表した2月の会見で宮田氏は「生まれ変わる覚悟を持ってグループ経営をリードする」と決意を述べた。

緊急事態とはいえ、勤労・販売部門を経験した旧日石出身者が幅を利かせるENEOSHDのトップに、傍流の製造畑を歩んできた宮田氏を抜擢した人事は異例。子会社で石油製品の精製や販売を担うENEOSの社長も非主流派で、三菱石油出身の山口敦治執行役員が就いた。

ただ、非主流派が改革で突破力を発揮できるかは未知数だ。旧日石出身で日沖コンサルティング事務所の日沖健代表は「しがらみにとらわれず、販売体制の再構築や製油所の再編、新事業の育成という難題まで踏み込もうとすると、現場で抵抗勢力が膨らむ可能性がある。一筋縄ではいかない」と指摘する。新体制には、難しいかじ取りを迫られそうだ。

プルサーマルが再稼働後の重要課題に 長期停止回避へ九州・四国の「妙案」


原発再稼働が遅滞し、3・11以降でプルサーマルを実施したのは4基にとどまる。

日本の原子力政策の将来を見据えて、プルサーマルの実施拡大が求められる。

昨年11月に定期検査に入った玄海原子力発電所3号機がプルサーマルを停止した。フランスで保有するプルトニウムが底をつき、新たな混合酸化(MOX)燃料を製造できないからだ。同様の理由で伊方3号機も今年7月に停止する見込み。2011年の東日本大震災後、国内では4機(高浜3・4、伊方3、玄海3)がプルサーマルを実施していたが、当面の間は高浜3、4号機のみでの実施となる。

現在、日本は原発から出る使用済み燃料をフランスの再処理工場でウランとプルトニウムに分離。これらを同国の加工工場でMOX燃料に加工し、プルサーマルとして軽水炉で使用している。青森県の六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場は未稼働だが、将来的には自国で再処理・加工を行い、軽水炉や高速炉での利用を目指す核燃料サイクル政策を推進している。

プルサーマルを停止した玄海原発


プルトニウムを着実に消費 他者との「名義交換」で継続

プルサーマルの実施は「余剰プルトニウムの削減」という点で重要となる。

原子力発電の最大の特長は使用済み燃料の再処理により、繰り返し利用できる〝再生可能〟エネルギーであることだ。こうした特性を最大限活用する核燃料サイクルは、日本が独立を回復して間もない1956年、原子力の基本政策を定めた原子力長期計画で早くも明記。ウランを輸入に頼る「準国産エネルギー」を超えた「純国産エネルギー」としての活用を掲げた。

核物質はデュアルユース(軍民両用)だが、日本は88年に発効した日米原子力協定によって、核不拡散条約(NPT)体制下でプルトニウムの保有が認められている唯一の非核保有国だ。94年には余剰プルトニウムは持たないとの原則を国内外に宣言。原子力委員会は2018年、電力会社や日本原子力研究開発機構が保有するプルトニウムについて、わが国の保有量が現在の水準(約47t)を超えないように削減する方針を打ち出した。

各事業者は「自社の使用済み燃料から分離したプルトニウムは、あくまで自社原発で使用する」という原則で、立地自治体からプルサーマル実施の理解を得ている。では、フランスでのプルトニウム保有量が底をついた九州電力と四国電力は、プルサーマルを長期停止せざるを得ないのか。

ここで生まれたのが「名義交換」という妙案だった。九電と四電が英国で保有するプルトニウムと、東京電力など5社がフランスで保有するプルトニウムを交換する―。2月15日付で契約を締結した。今後はフランスでMOX燃料を製造し、玄海3号機は27年度以降、伊方3号機は29年度以降の再開を見込む。

六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場が稼働してもプルサーマルの実施状況が芳しくなければ、MOX燃料を順調に消費できない。再稼働と並んで、プルサーマルによる明確な消費サイクルの確立は必至だ。

電事連・ガス協が会長交代 「重責に身の引き締まる思い」


大手電力、都市ガス両業界団体の会長が交代だ。

電気事業連合会は3月15日、池辺和弘会長(九州電力社長)の後任に、林欣吾・中部電力社長が4月1日付で就く人事を発表した。会長の交代は4年ぶりとなる。

電事連新会長の林氏

林氏と並び、関西電力の森望社長も会長候補に挙がっていたが、「大手電力4社によるカルテル疑惑の中心的存在だったことが関係した」(大手電力会社幹部)とみられる。電事連は林体制の下で、会議体の再編などによるコンプライアンス体制の強化を通じて業界の信頼回復に努めるとともに、エネルギー基本計画の見直しや原子力政策の推進など重要な政策課題への対応を図っていく。

池辺氏は、同日の会見で今回の人事について問われると、「林社長は、物事の本質をゼロから考え、本当にこれは正しいのかという議論をする。そういう方が電事連の先頭に立つリーダーとしてふさわしいと考えている」「コンプライアンスをしっかり達成していけると考え、林社長に後任をお願いすることが一番良い選択肢だと思った」などの見解を示した。

林氏は、会見で「今年はエネルギー業界にとって大変重要な年になる。政策面ではエネルギー基本計画の見直しがあり、電力システム改革の検証もすでに始まっている」「事業者としても、日々の安定供給はもとより、BWRプラントの再稼働や六ケ所再処理工場の竣工などを、業界挙げて着実に取り組みを進める必要がある。このような重要な局面で電事連会長という大役を担うことになり、その責任の重さに身の引き締まる思いだ」などと抱負を述べた。


波乱の電力に不透明なガス 安定供給の使命は不変

一方、日本ガス協会は19日、本荘武宏会長(大阪ガス会長)の後任に、副会長の内田高史・東京ガス会長が4月1日付で就く人事を発表した。

ガス協会新会長の内田氏

会見した内田氏は、「ガス業界は『第三の創業期』と言え、e―メタンをはじめとする大変革に挑戦している最中。責任の重大さに身が引き締まる思いだ」「安全性を基本としながら環境性、経済性、供給安定性を満たす『S+3E』を大切にしながら、天然ガスを高度利用し、カーボンニュートラル社会の実現を目指していく」などと抱負に言及。さらに「地方でカーボンニュートラル化や地域活性化に貢献する地方都市ガス事業者へのサポートも強化していきたい」と意欲を示した。

波乱の渦中にある電力業界、先行き不透明なガス業界と置かれている状況は異なるが、「経済活動、国民生活に不可欠なエネルギーを供給する」という使命は不変だ。脱炭素化など激変の波が押し寄せる中、業界の羅針盤となる電事連、ガス協会両会長の活躍に期待が掛かる。

「スマエネ」が過去最大規模で開催 次世代技術の実用化に期待高まる


【スマートエネルギーWEEK】

世界最大級の新エネルギー総合展「スマートエネルギーWEEK春」が2月28日~3月1日、東京ビッグサイトで開かれた。世界中から人や情報がリアルに集まる本展はエネルギービジネスを加速させる展示会として業界で定評がある。21回目の今回は約1500の企業・団体が集結。過去最大規模の展示会となり、約7万人が来場した。

ビッグサイトで世界最大級の展示会を開催

関心を集めたのは「二次電池展」だ。次世代電池の本命とされる全個体電池の実用化へ期待が高まっている。中でも実現が難しいとされていた全固体ナトリウムイオン二次電池を開発した日本電気硝子のブースには多くの来場者が詰め掛けた。全固体ナトリウムイオン二次電池は資源量の豊富なナトリウムを電解質に用いることで、従来電池に使用するリチウムなどの希少金属を必要としない。材質の観点から「硫化物系」と「酸化物系」が存在するが、同社の開発した電池は後者。ガラス材料メーカーとしての技術を生かし、製造工程にガラスの一部を混ぜることで開発が進展したという。

ブース内ではマイナス40℃と150℃の温度環境下での動作検証を実施。幅広い温度環境においても動作することが強みだ。来場者からは「酸化物系は有毒ガスが発生しないため安全面では分がある」(ガラス業界関係者)と評価の声が上がる一方で「現段階では量産するにはコスト面で劣る」(プラント業界関係者)との意見も聞かれた。


次世代型太陽電池 実用化への高い関心

「太陽光発電展」も相変わらず人気のゾーンだ。とりわけ、軽くて柔軟な次世代太陽電池「ペロブスカイト型」は注目の的だった。2025年度から量産化を目指す同型電池開発メーカーの台湾ペロブスカイトソーラー(TPSC)の担当者は「今回の展示会で多くの方から共同でビジネスを行いたいと声をかけていただいた」と手応えをつかんでいた。TPSCの開発した太陽電池は透過性と遮熱性に優れるという。ブース内では一般的な窓ガラスと窓ガラス一体型ペロブスカイト太陽電池に同じだけの熱放射線を当て、通過してきた熱の放射照度を測定するといった実証実験が行われていた。両者を比較すると、ペロブスカイト型は一般的なガラスの70分の1程度に熱放射を抑えた上で光が通過していた。

TPSCは現時点でA4サイズまでの開発に成功しており、今後はさらなるサイズ拡大化と量産化に向けて力を入れていく。

開発段階だったさまざまな技術が実用化へ向け、実を結ぼうとしている。同展示会を足掛かりにした新規ビジネスの活況に期待が掛かる。

【特集2】見える化で効率的に設備を運用 汎用性高く手頃な導入コスト


【東京ガス ソフトウェア「Joyシリーズ」編】

製造業向けのIoTパッケージソリューション「Joyシリーズ」は、設備群の見える化や一体管理によって、製品の品質管理やペーパーレス化、設備やビルの監視・制御システム、製造計画といった企業の生産活動を効率化するためのソフトウェアだ。

もともと日本たばこ産業(JT)がたばこの生産工程向けに開発した。汎用性が高くノーコードでも使えるソフトだったことから、JTは自社向けにとどめず、さまざまな企業へ外販していた。東ガスもJoyユーザーの一社であった。

汎用性の高さが特徴だ

「当社が手掛けるエネルギーサービスを支えているさまざまなユーティリティー設備に対して、このソフトをカスタマイズしながら運用していた。異なるメーカーの設備でも利用可能で、ソフトウェアのコストも安く使い勝手がよかった」。ソリューション共創部Joy事業グループの浦田昌裕グループマネージャーはこう話す。

転機は2年前。東ガスがJTからJoy事業を譲り受けたのだ。このことは東ガスの法人向けソリューションを二つの視点で深化させる可能性がある。


ソフトウェアの販売に着手 東ガス以外の企業も利用

一つは、JTに代わり、ソフトウェア販売事業者としての顔を持つようになったこと。JoyはJT時代を含めると累計導入数は3万件以上で、SCADAと呼ばれるソフトウェアの分野でシェア1位。現在も年間千件単位で導入件数が増えている。このヒットソフトの売り手となったわけだ。

Joyの販売で東ガスでは代理店やパートナー企業を募り、実績を積み上げている。もちろん東ガス自らが直販する場合もある。エネルギー事業者が利用するケースも多々あるそうだ。東ガスの事業の中でもソフトの販売は極めて珍しく、法人向けソリューションの新たな取り組みの一つとなっている。

もう一つが、VPPの運用など、Joyをより高度に利用することによる事業の成長・拡大だ。Joyを使えば、分散型設備や熱源設備を見える化し、一元管理しながら運用可能だ。ただJoyが得意とするのは、こういったことにとどまらない。

東ガスでは今後、Joyをより高度に活用し、例えば製造業者の生産ラインの電動設備と、コージェネなどのエネルギー供給設備とを一元的に管理していく。これはまさにVPPそのものであり、Joy運用の真骨頂でもある。

「全ての機能を使った高度な運用を始めているわけではない。まずは当社のソリューションとしてソフトウェアを提供ししっかりとお客さまのニーズに応えていくことが大切」(浦田氏)

ソフトウェアを販売し、同時により高度な利用に取り組むことで、東ガスの法人向けソリューションが新しいステージで本格的に動き出そうとしている。

※Supervisory Control And Data Acquisitionの略。インフラ、工場・ビルの統合的な設備監視・制御やデータ収集を目的とした自動化システム。

【特集2】普及拡大のEVをリソースに 集合住宅に充電インフラを整備


【東京ガス EVリソース化編】

一時の勢いは衰えているとはいえ、今後、確実に普及していくことが予想される電気自動車(EV)。国内でも充電インフラは万単位で整備されており、将来の普及拡大への備えが進んでいる。そのEVを将来、VPPのリソースに仕立てていこうと、東京ガスはまず充電インフラの整備に注力している。その事業モデルについて、ソリューション技術部の岸田拓也EVサービス事業推進グループマネージャーはこう説明する。

「一般のお客さまにEVを普及させるためには、集合住宅向けに設備を整備することが重要だと考えている。戸建て住宅であれば、自らコンセントに差し込んで充電できるが、集合住宅ではそうはいかないからだ。そこで、主に集合住宅にターゲットを絞ったサービスを開始している」

QRコードで簡単に利用できる

充電器には高出力の急速充電器と、低出力の普通充電器が存在するが、このサービスでは普通充電器を設置している。サービスは、スマホのアプリでユーザー登録をすれば誰でも利用できる。アプリでユーザー認証するため、集合住宅の駐車場専有区画だけでなく、共用区画や商業施設に設置された充電器も利用できる。また、料金は1カ月単位のサブスク方式を採用し、充電量に応じて段階的に設定している。

充電には共用部の電気を使うため、電気代は集合住宅の管理組合の負担となるが、東ガスは電気代相当額を管理組合に払い戻すことで、EV充電の受益者負担となる仕組みを実現している。「EVrest」というブランド名で現在、デベロッパーが手掛ける新築物件を中心に営業活動に注力している。


法人・自治体向けも開始 電気代の抑制に貢献

一般消費者が活用するEV向けだけでなく、法人や自治体向けのEV導入支援サービスも始めている。「Charge Planner」だ。まずは東ガスがユーザー向けにEV導入計画を策定し、東ガスの負担で普通充電器を設置して設備を運用する。ユーザーは導入に関する初期投資が不要になる代わりに、東ガスにサービス料を支払う。

また、一連のサービスを進めるに当たって、東ガスは充電制御システムを自社開発。この技術を活用すればユーザーは契約電力を越えないように充電可能となり、電気代を抑えられる。

「こうしたビジネスモデルは、当社が長年手掛けてきたエネルギーサービス事業との親和性がある。多様なエネルギー設備群を長期間にわたって運用し、エネルギーマネジメントシステムを構築してきた。その実績やノウハウを充電設備の運用や充電制御システムの構築に展開している」(岸田氏)

そんな取り組みを発展させ、EVをVPPリソースとして活用していくことが将来の絵姿である。既に東ガスグループ企業では、業務車両としてEVを導入し、電力需給のひっ迫時には充電を控えるようなデマンドレスポンスを実施して効果を確認している。EVのVPPリソース化に向けた取り組みが着実に進んでいる。

【特集2】丁寧な説明でリソース獲得 最適運用でメリット生み出す


【東京ガス VPP運用編】

「十分なリソースを獲得し、それを電力市場で実際に運用してお客さまにしっかりとメリットを提供することがVPPを進める上で欠かせない」。リソースアグリゲーションビジネスグループの森田哲グループマネージャーはこう話す。まず同グループでは主に業務・産業用のユーザーを対象にリソースの獲得活動を展開中だ。核となる設備がコージェネである。これまでピークカットなど多様な観点で導入されてきたが、これにVPPという新たな役割を担わせるのがミッションの一つだ。

労力を割くのがユーザー側への丁寧な説明だという。電力システム改革の経緯、電力市場の詳細な中身、安定供給(電力の同時同量など)を担保する仕組みなど―。市場の中でVPPが果たす役割について理解を得なければならない。


電力制度をしっかり理解 英製技術を活用し基盤整備

「リソース獲得はお客さまの協力や理解があって初めて成り立つ。そのためには、われわれが複雑な電力制度の仕組みをしっかりと理解することが重要だ。それを踏まえて一連の仕組みをお客さまに丁寧に説明する。大変だが、おかげさまでお客さまとのコミュニケーションが深まっている」(森田氏)

もう一つの業務が、獲得したリソースを実際の電力市場で運用すること。現在その基盤を整備している。その時にカギを握るのが、東ガスが電力小売分野で提携する英国オクトパス社の技術を活用した「クラーケンフレックス」だ。これはユーザーのリソースとつながるためのプラットフォームである。

英国では日本に先んじて、2000年代初めにはすでに電力市場改革が進んでいた。「そうした技術を日本仕様にカスタマイズして、リソース活用する基盤整備を進めている」と同グループの伊藤文樹係長は話す。

実際、どんな運用になるのか。例えばA地点の火力発電所による計画外停止が発生し供給力が失われそうだから1時間後に1万kW分の電力需要を1時間ほど抑える、あるいは再エネの余剰発電が生じそうだから30分後に1万kW分の需要を1時間ほど増やす―。季節、日々、そして瞬時に変動し続ける電力需給に対応する管理を、需給状態や市場価格をアルゴリズムとして制御システムに組み込みながら、最適解となるような対価をユーザーに提供する。これこそが、同グループが進めるソリューションだ。

【特集2】VPP推進に高い意義 多様な設備管理で強み発揮


VPPを進める上で社会貢献や再エネ利用の最大化などの意義を掲げる。

需要側リソースをいかに獲得するのか。現状や展望について東京ガスに話を聞いた。

【インタビュー】松本幹雄/東京ガスカスタマー&ビジネスソリューションカンパニーソリューション共創部部長

―東京ガスは総合エネルギー企業としてガスや電気の販売を手掛けています。そうした中、法人向けの新しいソリューションとして、VPP事業に本格的に取り組み始めました。

松本 東京ガスグループとして2023年2月に中期経営計画「Compass Transformation 23-25」を発表し、三つの主要戦略を掲げました。一つ目がエネルギー安定供給と脱炭素化の両立、二つ目がソリューションの本格展開、三つ目が変化に強いしなやかな企業体質の実現です。

当社はLNGバリューチェーン上のさまざまな強みを生かして電力事業を手掛けてきましたが、その中からVPPやデマンドレスポンス(DR)を切り出し、20年4月から私どものソリューション共創部が本格展開するソリューションの一つとして事業化をしました。現在、VPPリソースの拡大に向けて動いています。


新たな価値に気付く 丁寧に説明し理解得る

―VPPを進める意義は何ですか。

松本 大きく四つあります。一つは、社会的な貢献という視点です。例えば電力の需給がひっ迫した時にVPPは電力需要を抑える取り組みになります。従来は火力発電所などの発電側で担っていたことを需要側で対応することであり、発電コストを押し上げることなく、安定供給に資することは、社会的に意味があり、大きく貢献できると考えています。

二つ目が再生可能エネルギー利用を最大化することです。再エネ導入量が増えるほど、電力系統の需給バランスが崩れやすくなります。この需給バランスを調整するVPPの意義は高いと考えています。また現状では、「優先給電」という制度があります。これにより、火力発電などの発電側の調整力の限界値を超えた場合、再エネの余剰分は抑制されることになっています。これはもったいない。なので、再エネ余剰分の局面では電力需要の増加を促すのもVPPの取り組みの一つです。結果的に再エネを有効活用し脱炭素につながります。

三つ目がお客さま目線に立った取り組みということです。われわれの部署ではお客さまへのソリューション事業を展開しています。VPPはお客さまにとって対価を得られる仕組みでメリットがあります。そうしたインセンティブを提供することがソリューション事業の一つの狙いです。

四つ目が、改正省エネ法への対応です。昨年、省エネ法が改正され、お客さまにはDRの実施実績について報告義務が課せられました。国の施策に対応する上でも、こうした取り組みを進めることは重要だと考えています。

【特集2】VPP推進で社会貢献果たす 電力供給の安定化に寄与


東京ガスが法人向けソリューションとしてVPPの意義をアピールしている。

電力需給バランスの調整や再エネ利用拡大に向け果たす役割は大きい。

東京ガス法人向け営業部門がVPP(仮想発電所)事業に取り組んでいる。これまでガス・電力設備の導入や運用、エネルギー供給などを通じてユーザーとの接点を深めてきた中で、新たなソリューションの一つにVPPを追加。アグリゲーターとしてコージェネレーションなどのエネルギーリソースを統合・制御し、需要家の持つ電力の価値を最大化していく。

なぜ、東ガスがVPPなのか―。背景には、東日本大震災後の電力事業を巡る大きな環境変化と、東ガスがコージェネ設置などで長年にわたって培ってきた設備運営の豊富な経験・知識がある。

電力を安定的に供給するには、需要と供給を常に一致させる同時同量が必要だ。この原則が崩れると周波数が乱れて電力の品質が低下したり、大規模停電を引き起こす可能性がある。

電力需要は瞬時に変化するため、予備電源など一定の調整力が必要になり、これまでは主に大手電力の火力電源などがこのバランス調整の役割を果たしてきた。

しかし、震災後の電力需給ひっ迫を受けて、ⅤPPという新しい発想が生まれた。コージェネや蓄電池、家庭用のエネファームや電気自動車(EV)などの分散型電源、あるいは電力を消費する需要側の設備をフルに活用し、これらの発電力をVPPのリソースとして集約。火力が担ってきた役割を代わって行うものだ。

また、デマンドレスポンス(DR)として、需給状況に応じて需要家側での電力やガスの使用量を調整して、安定供給を維持し、なおかつ需要家にもメリットをもたらす。

個別空調もDRに貢献する


火力発電の代替電源に 効率化・低廉化に貢献

東ガスは法人向けのソリューションとしてVPPに取り組む意義の一つに「社会的な課題解決に貢献すること」を挙げる。需給バランスを維持するため、従来は大手電力が事業法にのっとった予備力量に応じて発電設備や燃料を準備していた。大手電力各社が安定供給義務を果たすことで、電力不足の事態は避けられていたのだ。

しかし、電力自由化の進展や太陽光発電など再生可能エネルギーの普及とともに、火力発電の稼働率が下がり、採算性も低下。大手電力としては採算が見込めない発電設備を閉鎖したいが、すると十分な調整力確保が困難になる。

だが、VPPが火力発電の役割りの一部を代替すれば、採算が難しい火力発電のスリム化が可能になる。それは電力事業の効率化・電気料金の高騰を防ぐことになり、社会的な課題の解決に貢献していく。では、どういった設備がVPPのリソースになり得るのか。

東ガスは、コージェネを中心とした分散型設備のほかに、ガス空調(GHP)やボイラー、ヒートポンプといった多様な熱源設備もリソースとして見込んでいる。

現在、VPPリソースを増やそうとコージェネなどの導入先ユーザーに働き掛けている。だが、ユーザーに複雑な電力制度の仕組みを説明し、VPPの意義を理解してもらうことは、簡単ではないという。ユーザーは、VPPとして機能した調整力については応分の対価を得られる。半面、自らの電力需要を調整することが、日々の企業活動にどのような影響を与えるのか不透明な点がある。

そのため東ガスは、需要調整によるメリットや影響を説明し、ユーザーと共に理解を深め、結果としてリソースを獲得してくことを目指す。

また、VPPに取り組む意義として、再エネ利用の最大化を挙げる。天候に左右される再エネが増えれば、それだけ調整力の重要性が増していく。最近、再エネの余剰電力が増え、安定供給の維持が困難になりそうな局面が出ている。

そうした場合、現状の制度では再エネの発電量を抑制することになっているが、DRによって余剰電力を活用できれば、再エネ利用の最大化にもつながっていく。

こうした取り組みは、東ガスの「ソリューション共創部」が担っていく。これまで気付かなかった新しい価値をユーザーと共に創造するという意味だ。インタビューやレポートを通じて、具体的な展開策を掘り下げる。

【特集1】先行する欧米でいまだ続く試行錯誤 海外事例に見る日本への示唆


日本は先行する欧米諸国の電力システム改革を参考に改革を進めてきた。

今、海外から学ぶこととは何か。山田光氏と戸田直樹氏に寄稿を寄せてもらった。


〈 電力システム巡る三つの脆弱性 それぞれの解決に何が必要か 〉

山田 光/スプリント・キャピタル・ジャパン代表

欧米では20年以上も前にさまざまに異なる形で、燃料・電力市場の自由化が始まったがいまだ完成形ではなく、試行錯誤やチャレンジが続いている。ここでは、日本の電力システム改革の過程で明らかになった三つの脆弱性を指摘したい。

一つ目が、政策の脆弱性だ。日本は、グロスビディングやベースロード(BL)市場など欧米のいくつかの制度をコピーしてきたが、つぎはぎの印象が強く、もともとの制度の背景や哲学を学んだのか疑問だ。導入に際しては事業者間の既得権益の調整や既存制度との整合性が重視され、政策の大義、長期ビジョン、哲学が見出しにくい。

電力政策に左右される事業者にとって大きな課題は「投資リスク」だが、改革の結果、電源投資の不足が露呈した。必要なIT投資もつぎはぎの制度の導入では対応が困難である。電源投資もIT投資も10年超の回収期間だが、政策は単年度、または経済産業省の担当者の交代で2~3年で変更されるところに大きなギャップがある。

制度設計では、どのような制度を入れればどのような電源構成、市場となり、その結果として電力市場価格がどうなるのか、データとシナリオによるシミュレーション運用を政策に生かすプロセスが不可欠であるが、現行の政策当局では難しい。解決策は民間レベルで長期ビジョンを客観的に捉えるシンクタンクの設置である。海外の経験者を入れて幅広く議論し、本物の専門家による市場デザインを構築するべきだ。


燃料取引を活性化 アジア大の市場形成が必須

二つ目が電力システムの脆弱性である。電力ビジネスの基本原則は、「安定性」「廉価性」「脱炭素」だ。日本の電力の安定性は、短期の信頼度と長期の供給力に依存しているが、その前提となるのがいまだに燃料調達である。信頼度係数のEUE(確率論的必要予備力算定)も、燃料の安定確保が前提だが、2021年秋の欧州でのエネルギー移行と22年4月のロシア侵攻で燃料市場が大きく変化したし、今後は天然ガスの余剰も予想されている。

一般送配電事業者が電気の需給調整の最終責任を負い、バランシング・オーソリティ(BA)だが、燃料の過不足調整は個社任せで国としてのBAは存在しない。政府は不足に備えて掛け声はかけるが、日本の燃料は個社のカーゴ調達であり、不足、または大幅余剰時、燃料取引の経験の少ない企業の場合にはそれが直接、事業収益に反映してしまう。内外無差別は競争政策として正しいが、燃料アクセスという視点ではLNGの内外無差別の議論が足りない。

この解決策は、アジア大での燃料市場を作りいつでもカーゴを転売できるプラットフォームを創出することである。そうすれば長期契約で多めに燃料を確保していてもいつでも転売できるし、日本よりも脱炭素義務の遅いアジア諸国と連携して、余った燃料を焚いてもらえる焚口を確保する方策も採れる。なお、日本企業が燃料取引を活性化させるには、時価会計の導入が基本となるし、国内の燃料インフラの第三者利用の拡大や欧州GIE(ガス・インフラストラクチャー・ヨーロッパ)のような情報開示もマストとなる。

そして三つ目が電力ビジネス経営の脆弱性で、特に旧一般電気事業者の経営に大幅な改革の必要性が見受けられる。おそらく社内の半数以上の人は過去の垂直統合型、総括原価のバリューチェーン型のマインドセットから脱却できていないだろうし、足元の販売は卸市場ベース、燃料調達は燃料市場ベースという時価評価型のマインドセットに切り替わっていないだろう。

旧来の自社販売の想定から電源計画を作り、燃料調達で需給管理するという考え方を踏襲したままで、燃料調達コストや発電コストの大幅な見直しがなければ、販売が低下し、電源と燃料が余り、収益を圧迫することになる。その解決策は、市場の活用やフォワードカーブによる「将来を見た」経営者と経営マインドへの大胆な切り替えにほかならない。グローバルスタンダードの評価軸を取り入れ、社外の専門家や先端的な新電力経営者をボードに積極的に登用する必要がある。ポートフォリオ最適化を優先し、外部目線でガバナンスやリスク管理を徹底チェックすることがコンプライアンスを守ることにもなる。身内に甘いロジックでは自民党やビッグモーターのようになるかもしれない。

やまだ・ひかる 慶応大学経済学部卒。バンク・オブ・アメリカ東京支店、モルガン・スタンレー東京支店などを経て1995年にエネルギーコンサルティング会社であるスプリント・キャピタル・ジャパンを設立。

【特集1】現行制度で多様な問題点の指摘 整合的な制度設計がポイントに


電力・ガス基本政策小委員会における検証のポイントはどこにあるのか。

同小委の委員長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授に話を聞いた。

【インタビュー:山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授】

―電力システム改革を検証するに当たってのポイントはどこにあると見ていますか。

山内 2024年度は、システム改革で予定されている全ての電力市場が出そろい、3段階で進められてきた改革が完成します。現行制度を巡っては、多くの方が立場に応じさまざまな問題点を指摘していることも事実であり、そうした意見に耳を傾けながら、次の電力マーケットの在り方を決めていくことが今回の検証の狙いだと考えています。そのためにも、安定供給のための容量(kW)確保策、卸契約や市場機能を含めた公平な競争環境、電力量(kW時)と調整力(⊿kW)の合理的な調達の仕組み――をどのように整合的に作り上げていくか、丁寧な議論が求められています。

―この数年の経緯を振り返ると、安定供給を確保しながら改革を進めていくことの難しさは明らかです。

山内 容量確保策としては、既に容量市場と長期脱炭素電源オークションが始まっていますが、容量市場は単年度の収入を得る仕組みですし、始まったばかりの長期脱炭素電源オークションは他市場収益の9割を電力広域的運営推進機関に還付しなければなりませんから、これらを基本に何か追加的な措置を講じるべきかが論点となります。

卸マーケットについても、相対契約における旧一般電気事業者の小売部門と新電力の内外無差別な取り扱いの徹底と、卸電力市場への限界費用による売り入札だけを求めることが、電源投資回収という目的と必ずしも整合的だとは言えません。さらに、28年度以降の導入が提案されているkW時と⊿kWを同時約定させる新たな市場では、容量を考慮した取引が求められます。確実な容量の確保という観点で、それぞれの仕組みがちぐはぐな結果を引き起こさないよう、これらの制度を整合的に設計することが肝要です。


電源投資の確保へ 求められる予見可能性

―競争下で電源投資を促すためには、どのような施策が求められますか。

山内 発電所を建設するには数年かかりますし、さらに10数年かけてそれを償却していくわけですから、発電投資は事業者の長期的な意思決定を伴うものです。ですからある程度予見性を与えることで、事業者がリスクを抑制しながら投資できるための制度設計がどうしても必要となります。容量市場にしても、卸マーケットにしても、発電事業全体の収益性をいかに確保するかという観点が欠かせません。

―半導体工場やデータセンターが建設ラッシュで、将来の電力需要を押し上げることが予想され、電源投資の促進は喫緊の課題です。

山内 新年度に始まる第7次エネルギー基本計画策定議論でも、将来の電力需要がどうなるのかというマクロベースの想定が非常に重要な論点になると考えています。脱炭素政策のつじつま合わせとしてマクロの需要が減るような想定をしてしまうと、実態に合わせた議論を進めることができません。需要の増大が見込まれる中で、それに見合った発電投資を競争ベースで促せるような制度を作っていかなければなりません。

―需要側の脱炭素化の流れも大きく影響しそうです。

山内 特に自家発比率が高いエネルギー多消費型産業の動向に注目しています。脱炭素化で化石燃料を使用する自家発を廃止し、系統電力を活用することになれば、相当大きな構造変化を起こすことになりますから、それをどう見積もるかは議論の前提として非常に重要な論点です。これからの電力システム改革を進める上では、供給側のみならず需要側の意向を無視することはできません。

【特集1/座談会】経産省の検証作業を一刀両断 不可欠な需要家目線の議論


システム改革によって競争が活性化する一方、安定供給面での課題も浮き彫りに。

有識者・実務家3人が改革の成果と問題点を振り返り、検証への期待や注文を語った

【出席者】
安永崇伸/イーレックス常務取締役
中野明彦/ソフトバンク執行役員GX推進本部長兼エナジー事業推進本部長、SBパワー社長兼CEO
伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

左から順に、伊藤氏、中野氏、安永氏

―2015年からの一連の電力システム改革をどう評価していますか。

伊藤 本来、電気事業に関わる制度改革の目的は、いわゆるエネルギー政策の基本である「S+3E(安全性、安定供給性、経済性、環境性)」を確保した上で競争原理をより一層導入し、新規事業者に参入機会を与え、既存事業者の経営の自由度を高めることで電力産業全体の合理化、効率化を進め、その結果として料金の低廉化を図ることにあると理解しています。ほかにも要因があるとはいえ、結果的に料金は上昇しています。経済性を高めるためには、電気事業全体の体質の改善が欠かせませんが、原子力発電所の稼働停止、硬直的な料金制度、近年の燃料価格の高騰などにより多くの電力会社の財務体質が著しく劣化しており、そのマイナスの影響が利用者にも及んでいます。現状、必ずしも期待・目的に沿う成果を挙げられているとは言えないのではないでしょうか。

中野 改革の目的は、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢の拡大、事業者の事業機会拡大―の三つです。必ずしも全てがうまくいっているとは思っていませんが、成果を挙げれば、②については、改革当初に比べデマンドレスポンス(DR)の取り組みが進んでいること、③については、さまざまな事業者が参入し新しいサービスやセットメニューが登場し、需要家の選択肢は増えたことです。私たちのような新規参入者は、この改革を事業機会として自らの得意分野でビジネスを拡大していこうと懸命です。一方で、大手電力会社が事業機会と捉え前向きに取り組んでいるかについては、新規参入者との温度差を感じます。

安永 安定供給の確保が最も大きな論点の一つですが、効率化と投資が絞られることは表裏なので、ある程度想定した通りに効率化が進んだと見ることもできますし、原発再稼働が相当遅れているにもかかわらず、関係者の必死の努力で電力の需給ひっ迫を最小限にとどめていると見ることもできます。完全な市場原理では大型投資は進みませんから、容量メカニズムや電源入札の仕組みなどにより安定供給と競争のバランスを取っていくことが当初から想定され、実際にそのための仕組みが整備されてきました。公式的にはこれから検証されますが、制度設計に携わった立場として、電力ビジネスに関わる多くの人のすさまじい努力によっていろいろなことが着実に進んではきたと評価しています。

―原発の再稼働の遅れや脱炭素の加速による再エネの大量導入など、さまざまな想定外があったことも否定できません。

安永 確かに東日本大震災直後、政策当局は、もっと順調に原発再稼働を進めたいと考えていたと思います。とはいえ、制度はその時々の見通しを前提に決まりますから、必ずしも再稼働の遅れが想定外だったかというと、そうとは言い切れません。再エネについても、政府としてはかなり高い導入目標を以前から掲げていましたので、大量導入そのものは想定外ではありませんでした。ただ、実際に電力システムに統合される中でさまざまな課題が顕在化したというのが実態だと思います。

【特集1】目的達成にほど遠い電力改革 期待と不安が交錯する検証議論


2015年度にスタートした電力システム改革は現状、その目的の達成に近付いているとは言い難い。

エネルギー業界内外が検証議論に大きな関心を寄せる中、有効な道筋を示すことができるか。

「電力システム改革によるメリットにばかり注目し、低減すべきリスクへの配慮が不足していたのではないか。事前の検討が十分だったのか、検証と反省が必要だ」―。

電力システム改革の検証作業に着手した総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会の2月27日の会合の一幕。有識者へのヒアリングに登壇した国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏は、一連の改革についてこう指摘し、抜本的な見直しの必要性を強調した。

システム改革は、「電力広域的運営推進機関設立による広域系統運用の拡大(2015年)」「小売事業の全面自由化(16年)」「法的分離方式による送配電部門の中立性の一層の確保(20年)」の3段階で進められてきた。欧米諸国の先行事例をモデルにした制度変更を通じて効率的、競争的な電力市場を整備し、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大―の三つの目的の達成を目指したのだ。

電源投資促進の有効な手立てとは

だが、東日本大震災後の13年2月の電力システム改革専門委員会の報告書を受け、同年4月に「電力システム改革に関する改革方針」が閣議決定されてから10年が経過、改革の前提条件はさま変わりしている。再生可能エネルギーの大量導入に伴う供給網の脆弱化、ウクライナ戦争を契機とする燃料価格や電気料金の高騰と需給ひっ迫といった、国内外の環境変化がもたらすリスクが顕在化し、目的達成はおろか、安定供給が揺らぎかねないのが実情だ。

改革の〝成否〟を巡るエネルギー業界関係者や学識者、有識者の意見はさまざまだが、現行の電力システムが安定供給面で危機的だとの認識は一致している。同検証に求められているのは、新たなリスクを踏まえつつ、将来のさらなる環境変化を見据え、安定供給確保に向けたシステムの再構築に道筋を付けることにほかならない。

【マーケット情報/3月28日】原油上昇、ひっ迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給ひっ迫感の強まりを背景に、主要指標が軒並み上昇。米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物は28日、それぞれ83.17ドルと87.48ドルの終値を付け、前日から2ドル近く上昇した。

2月の英国における産油量が減少を示したことで、市場では需給の引き締まりが意識された。英国の産油量は2月、日量59万1,000バレルとなり、前月から2%減、過去5カ月で最低となった。また、米国における石油のリグ稼働数減少も、ひっ迫感を強めている。石油リグの稼働数は506基となり、前週から3基の減少となった。

加えて、中東での地政学的リスクも引き続き、上方圧力として働いている。イエメンを拠点とする武装集団フーシは紅海で、中国籍タンカーを攻撃。タンカーの航行は継続するも、供給不安が一段と広がった。

一方、ロシアからの原油の海上輸出が、大幅に増加する可能性が台頭している。ドローン攻撃を受けたことによる、製油所の稼働停止が背景にある。価格上昇を幾分か相殺した。


【3月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.17ドル(前週比2.54ドル高)、ブレント先物(ICE)=87.48ドル(前週比2.05ドル高)、オマーン先物(DME)=85.85ドル(前週比0.71ドル高)、ドバイ現物(Argus)=86.28ドル(前週比1.00ドル高)

*29日は休場のため、28日を最新価格として表示しております。

【北陸電力 松田社長】能登と「こころをひとつ」に 地震からの復旧・復興へ グループの総力を挙げる


2024年元旦、能登を中心とする北陸地方を最大震度7の巨大地震と津波が襲った。

損傷した電力インフラの復旧に全力を挙げつつ、財務基盤の強化、脱炭素化、新事業領域の拡大という三つの柱に注力し持続的な経営を実現する。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 元日に能登半島地震が発生し、2024年は非常に大変な幕開けとなりました。

松田 最大震度7を観測した今回の地震は、度重なる余震や降雪により能登地域を中心に家屋の倒壊や道路寸断といった深刻な被害が発生するなど、われわれがかつて経験したことのない「未曽有の災害」となりました。

当社は迅速な災害体制を敷く観点から、震度6以上で最寄りの事業所へ自動出社するルールを設けていますが、家屋の損壊など自らも被害に遭った中で、家族・親族の最低限の安否を確認した上で、多くの社員が駆け付けてくれました。幸い全ての社員にけが人はいませんでしたが、今も避難所から出社している社員もいます。

志賀 当初は被害状況の把握が難しく、対応は困難を極めたのではないでしょうか。

松田 元日の夕方に発生した地震ではありましたが、発災直後に私を総本部長とする「非常災害対策総本部」を立ち上げ、午後6時には全役員がそろって最初の対策会議を開きました。最も被害が大きかった能登エリアの事業所ともテレビ会議をつなぐことができたため、道路の損壊状況など限られた情報の中でも早い段階から現地の情報を得ることができたのは非常に良かったと思います。とはいえ、地震直後は現地に立ち入ることもままならない状況の中、陸路に加えヘリコプターや船を利用するなど、関係各所と連携しながら電力設備の巡視や点検を実施し、状況把握を行うことから始まりました。

発災直後に非常災害対策総本部を立ち上げた

設備の復旧作業に当たるのは、主に北陸電力送配電および協力会社ですが、24時間体制の燃料補給や食料・車両の手配などの後方支援を北陸電力の社員が一手に担い、自治体の復旧拠点・医療機関・福祉施設や各地域の避難所など、まずは人命に関わる場所へ優先的に高圧・低圧発電機車を配備するなど、当社グループ一体となって電気の供給再開を急ぎました。

余震や降雪などの影響で新たな停電が発生したこともあり、延べ約7万戸が停電しましたが、国や自治体、自衛隊などとも連携し道路啓開に合わせた復旧作業を昼夜問わず進め、土砂崩れや道路損壊による立ち入り困難箇所、地震・津波・火災により建物に甚大な被害を受けるなど早期の復旧が見通せない一部の地域を除き、1月中には停電は概ね解消しています。これは当社グループだけの力ではなく、協力会社の皆さんや全国の電力会社の皆さんに応援に駆けつけていただいたおかげであり、大変感謝しています。