【上定昭仁 松江市長】島根2号機は安心・安全を最優先


うえさだ・あきひと 1972年生まれ。松江市出身。95年九州大学法学部卒業、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。建設省(現国土交通省)大臣官房政策課出向、シンガポール次席駐在員、社長秘書、松江事務所長、米国法人CEOを歴任。2021年4月の松江市長選で初当選。

日本政策投資銀行に25年間勤め、2021年に松江市長に就任した。

持ち前のリーダーシップで、市の魅力を国内外に発信する。

松江市生まれ。小学6年生の時、バレーボールの島根県大会で優勝。全国大会に出場するため東京を訪ね、「松江には何もないが、東京には何でもある」と思い込んだ。中学生になって、「将来社会の課題を解決する公的な仕事に就きたい」と裁判官を志す。司法試験合格に向けて、松江南高校を経て、九州大学法学部に進学した。

大学時代に印象的だったのは、友人との島根旅行。初めて出雲大社や松江城を訪れ、ふるさとの魅力に気づかされた。遅ればせながら愛着や誇りが芽生え、「地元の発展に貢献できないか」と考えるように。同時に海外への関心も高まった。ゼミ旅行でインドネシア・バリ島を訪れた際、現地の子どもと写真を撮ったら金をせがまれた。貧富の差を目の当たりにして「井の中の蛙」だったと気づく。

そんな矢先、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に内定した先輩から、同行の使命を聞き感銘を受けた。当時まだ「グローカル」という言葉はなかったが、世界と地域を結ぶ仕事に興味が湧き、同行に就職した。

入社2年目に九州支店に配属。民間企業への融資や第3セクターによる都市開発プロジェクトに関わった。福岡市には、九州電力、西日本鉄道といった大企業があり、まちづくりが民間主導で進む。一方、中小企業中心で経済規模の小さい松江市では、地方行政がまちづくりをけん引していかなければならない。25歳の時、地元の発展を導く役割を果たすため、松江市長になることを人生の目標と定めた。「市長になる」ためのキャリアを積みたいと、中央官庁の出向ポストを希望すると、当時の上司は「市長はなりたいからなれる職業ではない。周りから『なってほしい』と請われる人物になれ」と助言をくれ、国土交通省の官僚になった。

その後、日本政策投資銀行のシンガポール駐在などを経て2017年に念願の松江事務所長に就任した。19年にはニューヨークに赴任し世界最大のコロナ禍を経験。行政の危機管理の使命を痛感しながらニューヨークで立候補を表明し、21年4月の松江市長選で初当選を果たした。

脱炭素電源を安定確保できるか 初回の評価と制度の展望を考える


【多事争論】話題:長期脱炭素電源オークションの評価

脱炭素電源への新規投資を促すため創設された長期脱炭素電源オークション。

専門家は、初回の結果の評価と、制度の今後をどう考えるのか。

〈 再エネはほとんど落札せず 目的と整合的な制度運用を 〉

視点A:諸富 徹/京都大学大学院経済学研究科教授

本制度は、2050年カーボンニュートラル(CN)目標を達成するため、段階的に化石電源を全て脱炭素電源に置き換えるという野心的な狙いを持つ。電力供給の安定化を図りつつ、脱炭素化を推進する上で極めて重要な役割を担う政策手段だといえる。本稿では、4月末に発表された長期脱炭素電源オークションの結果について、「脱炭素化の促進」という視点で評価してみたい。

第1回目の結果で注目されるのは、次の3点である。第一は、今回の落札合計976・6万kWのうち、LNG火力の約定量が575・6万kWと全体の約6割を占めたことである。本オークションは大きく分けて「脱炭素電源」と「LNG火力」という二つのカテゴリーがあるが、火力発電への支援が過半を占める結果となった。

第二は、再生可能エネルギー電源がほとんど落札していないことである。確かにバイオマス専焼が落札しているが、約定量が19・9万tと全体のわずか2%にすぎない。

第三は、脱炭素電源のうち「蓄電池・揚水」が募集上限の100万kWを大きく超え、166・9万kWが落札したことである。これは、全体の約定量が募集量400万kWを下回ったため、あらかじめ定めたルールに基づき、入札量が募集量を大きく上回った「蓄電池・揚水」に落札枠を割り振ったためである。ただ、「蓄電池・揚水」は不落札量の方も、372・8万kWと最大量になっている。

以下はこれらの評価である。第一は、この落札結果は脱炭素化と整合的か、という点である。本オークションの特徴は、「脱炭素」をうたいながらLNG火力の新設・リプレースを対象にしていることである。その理由は、①LNG火力は石炭火力に比べればCO2排出量が少ないにもかかわらず、石炭火力よりもコスト高である、②柔軟な起動・停止能力に優れているため、再エネの調整電源として適性がある―ためだと思われる。だが、50年CNを視野に入れれば、それがCO2の排出電源という事実に変わりはなく、「移行電源」の性質を帯びていることは否めない。本オークションで落札された電源については、遅くとも50年までに排出実質ゼロの実現をリクワイアメントとして課すべきだろう。

同様のことは既存火力の改修(水素混焼/アンモニア混焼)にも当てはまる。50年時点での実質ゼロ排出だけでなく、それに向けた着実な進ちょくが図られているかもポイントだ。途中経過を点検し、軌道から外れ実現できそうにないと判断される場合、容量支払いは差し控えられるべきであろう。政策手段の目的と整合的な制度運用が重要である。


今後の再エネの応札可能性に期待 最低入札容量に改善の余地

第二は、再エネの落札がなかったことについてである。蓄電池・揚水とLNG火力で落札総量の76%超に達した結果を見れば、本オークションは、再エネの調整電源の容量を確保する制度として解釈可能かもしれない。実際、再エネの出力制御が昨年度に著増し、今後も増加が見込まれることを考えると、蓄電池・揚水の容量増加を積極的に支援することの意義は大きい。

とはいえ「長期『脱炭素』電源オークション」をうたいながら、再エネの落札がなかったのは残念である。筆者は、そもそも再エネの応札がなかったと聞いているが、次の理由からであろう。一つは、参加要件でFIT(固定価格買い取り)・FIP(フィードインプレミアム)制度を適用する電源は除外されること、もう一つは、最低入札容量が10万kW(蓄電池は1万kW)と定められていることである。もっとも今後は、卒FIT電源のリプレース/リパワリングが増えるであろうこと、近年PPA(電力販売契約)などを用いて非FIT・非FIPの枠組みで再エネ開発を行う事例が増えていることを考えると、再エネの応札可能性は増えるのではないだろうか。

今後の本オークションの発展を展望すれば、脱炭素電源の本命の一つとして再エネがもっと落札できる制度に改善していただきたい。そこで障害となるのは、10万kWという最低入札要件である。メインオークションと異なり本オークションでは、分散的に立地する小規模電源をアグリゲートして応札することはできない。だが、同一サイトにおける複数発電設備をアグリゲートして応札することは可能である。今後、建設が進む洋上風力発電ならば、風車単体なら要件を満たさなくとも、同一海域に立地する複数の風力発電設備をアグリゲートして応札することも十分可能だろう。そうした動きに対して、十分促進的なオークション制度であってほしい。

もろとみ・とおる 1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。横浜国立大学助教授などを経て2010年3月から現職。内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員などを歴任。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年7月号)


戦略的余剰LNG(SBL)の意義/洋上風力公募におけるゼロプレミアム

Q 昨年12月に開始した戦略的余剰LNG(SBL)の意義、実効性について教えてください。

A 本制度は、LNG需給ひっ迫対策であっても、電力需給ひっ迫対策ではないことに留意したいです。わが国は21世紀以降の複数回の大規模電源脱落に、石油火力たき増しで対応しました。当時、発電用重油は国内に180日程度の在庫があり、内航船やパイプラインで速やかな電力、燃料供給回復ができましたが、SBLはLNG火力大規模脱落時の効果は限定的です。採択事業者はJERAのみ、量はひと月あたり1カーゴと少ないです。国民負担額が気になり拡大できていません。本来は必要な守備力を定量設定し、LNGで不足であれば他手段を並行検討するべきでしょう。緊急時の実効性にも懸念はあり、「対象船腹をひっ迫エリアに仕向けるとして、船陸整合やひっ迫側タンク内ガスと船側ガスの性状整合性が確保されるのか」「内航船、小型船しか受入ができないLNG購入者への受渡はどうするのか」など課題があります。石油たき増しに比べ時間がかかるため、需給ひっ迫の備え万全とは言い難いです。

 そもそもLNG火力の将来の位置付けが不透明なので、燃料調達、物流を維持しにくい状況は変わりません。短期限界費用で発電所の稼働を決めればよし、という従来発想のまま今に至り、同時市場検討でも同じ思考のまま(起動費、最低出力コストが加算されるが考え方は同じ)だと高限界費用電源であるLNG火力の稼働量が不透明になります。少量の洋上LNG船腹に燃料を貯蔵しても、電力ガスの安定供給維持には力不足です。総括原価時代の方が守備力は手厚く、LNG調達の予見可能性もあったということになりますが、それではシステム改革失敗の自認になるので、パッチワークが施されたことと私は理解しています。

回答者:阪本周一/東急パワーサプライ シニアフェロー

Q 洋上風力発電事業の公募で、1kW時あたり3円で入札する事業者が多いのはなぜですか。

A 促進区域における洋上風力発電事業の公募第1ラウンドでは、三菱商事グループのコンソーシアムが圧倒的な低価格で3海域を総取りしました。国民負担抑制の観点からは再エネのより安価な利活用が評価できるものの、例えば地域共生の観点からは、地元との合意形成に注力する事業者が落札できないことに対しての懸念が生じました。それを受け第2ラウンド以降は、調達価格のみで勝敗が決まらないよう、いくつか評価ルールの変更がなされています。
 公募審査は、供給価格と事業実現性、両面での評価がポイントです。まず供給価格については、FIP制度が適用され、市場への売電のほか、需要家に環境価値と合わせて売電することが可能となりました。既に海外では需要家との相対取引を前提として、FIP制度のプレミアムを受け取らない落札事例が出ています。このようなケースも想定し、市場価格を十分に下回る価格(ゼロプレミアム水準)として1kW時あたり3円が示され、この価格以下での入札は価格点が満点となることが決まりました。第2ラウンドでは12社中9社がゼロプレミアム水準である1kW時あたり3円の入札により価格点の最高評価を獲得しました。
 事業実現性については、これまでのルールでは差がつきにくかったという反省から、公募海域ごとに最高評価を受けた事業者の評価点が満点になるように補正されるようになりました。つまり、供給価格は差が生まれにくくなり、事業実現性は差が生まれやすい評価ルールとなったのです。現在公募中の第3ラウンドでも供給価格がコミットできる事業者は限られる一方で、1kW時あたり3円入札は落札の必須条件となるでしょう。

回答者:桑畑みなみ/NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニットマネージャー

【需要家】次期エネ基の省エネ効果 達成可能な見通し示せ


【業界スクランブル/需要家】

5月以降、第7次エネルギー基本計画策定に向けた議論が進んでいる。基本政策分科会における第2回までの議論は、おおむね供給側の内容が主となっているが、需要側の対策として省エネルギーの在り方についても今後の議論を期待したい。

これまでのエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画を振り返ると、省エネルギー対策の効果は国の政策目標達成の調整弁として、やや過大な数値が見込まれていたように思う。

例えば、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)については、家庭の電力需要に対する省エネ率10%が想定されており、これが2030年に約4900万世帯に普及する見通しとなっている。強制的な機器制御でも行わない限り、継続的な10%の省エネは実現が困難と思われる。

このほか、エネルギー事業者による省エネの情報提供も一定の省エネ効果と普及量が想定されているが、現時点でエネルギー事業者のウェブサイトなどで、定期的に省エネに関わるコンテンツを確認する消費者は多くないと思われる。このため、仮にエネルギー事業者のほぼ全てがコンテンツを提供したとしても、その実効性は定かでない。

将来的な省エネルギー量やCO2の排出削減量の目標が野心的な内容であることに異議はないが、同時に達成可能な見通しであることも重要であり、個々の対策の精緻な積み上げを期待している。

さらに、具体的な対策の検討にあたっては、時代とともに変化する需要家の経済活動やライフスタイルなどの実態把握を踏まえた上で、有効な施策を検討することも重要だろう。(K)

【コラム/7月24日】成長政策を考える~成長現象を忘れた政府提案


飯倉 穣/エコノミスト

1、成長願望の計略 払底の兆し

昨年度物価上昇の中でGDPは実質1%増(当初見通し1.5%、1月見込み1.6%)、名目5%(同2.1%、同5.5%)であった。24年度見通しは実質1.3%、名目3.0%である。どうなるか。

今年も「経済財政運営と改革の基本方針2024(以下:経済運営方針2024)」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」が策定された(2024年6月21日)。報道もあった。「閣議決定「骨太」焼き直し中心「成長型の経済」掲げる」(朝日同6月22日)、「骨太の方針 閣議決定 所得・生産性向上に力点」「一目で分かる骨太の方針 賃上げ定着へ6年計画 成長産業育成 半導体量産に政府保証 所得向上 iDeCo拠出上限拡大」(日経同)。

今日、政府万能論なのか、いつも政府頼りの成長願望がある。日本経済は、何故思うような成長できないのか。経済財政運営の基本方針の内容が筋違いなのか、新しい資本主義(過去ならアベノミクス等)の中身に問題があるのか。それとも他に要因があるのか。見果てぬ夢は、国内の劣化でもある。成長の現象と成長政策を考える。


2、現在の成長政策~項目の羅列はあるが、牽引する主体は

「賃上げと投資が牽引する成長型経済実現」(経済運営方針2024)の旗の下、投資の拡大でDX、GX、フロンテイア開拓、イノベーション、資産運用立国、他にスタートアップ支援、海外活力取り込みを掲げる。DXは、デジタル技術の社会実装を目論む。医療・介護・こども・教育・交通・物流等多岐の分野での活用を促し、A・I半導体投資の支援に力を入れる。

GXは、省エネ、再生可能エネの促進、そして及び腰ながら原子力活用を述べる。嘘か眞か官民150兆円投資(含国民負担GX債20兆円)を掲げる。国際卓越大学制度の支援金や人への投資でイノベーションを期待する。スタートアップは、30年来の起業家待望が続く。海外活力取組みは、対内対外直接投資、海外人材・資金の呼び込みである。継続は力なりか、思い付き枯渇の感もある。

果たして賃上げや、政府主導・支援で、民間設備投資の呼び水効果があるのか。これまで構造改革で半壊状態の研究開発体制でイノベーションは生まれるのか。起業(ベンチャー)期待一辺倒で何が生まれるのか。GXの対象分野(原燃料転換、再エネ・二次エネ等開発等)は、実用・商業化手前の研究・実証段階か技術開発終了・商業化困難の搔き集めと言える。民間企業なら商売第一である。公的資金頼りに、且つ政府の金が尽きるまでの請負を継続する(協力する)ことにならないか。率先する企業は何処に存在するだろうか。政府の方針に半信半疑なら上出来である。他方エネ供給を混乱させている足元の電力自由化見直し等は迷走している。

DERの最適な市場運用を実現 顧客ニーズと安定供給に貢献する


【エネルギービジネスのリーダー達】川口公一/E―Flow社長

電力市場の取引が活性化する中で昨年4月、関西電力が設立した「E―Flow」社長に就任。

VPP事業などで培った知見を生かし、顧客の設備を活用して需給の安定化を図る。

かわぐち・こういち 兵庫県姫路市生まれ。1995年大阪大学経済学部卒、関西電力入社。秘書室課長や経営企画室課長などを経て、2018年地域エネルギー本部において、VPPの新規事業立ち上げのプロジェクトチームのマネジャーとして事業を推進。23年4月より現職。

昨年4月に関西電力が設立したE―Flow(イーフロー)。分散型エネルギーリソース(DER)の市場運用に特化した新会社として、関電が早くから取り組んできた仮想発電所(VPP)事業や系統用蓄電池事業、再生可能エネルギーのアグリゲーション事業などを手掛ける。社長を務めるのは川口公一氏だ。

1995年の関電入社後は、企画畑が長かったという川口氏。2018年に発足した同社の地域エネルギー本部リソースアグリゲーション事業推進プロジェクトチームの責任者となり、エネルギー分野の新領域であるVPP事業の立ち上げに取り組んだ。調整力公募への入札が事業のスタートだった。


AIが入札計画を策定 法人化は一筋縄にいかず

VPPとは、企業や自治体が所有する自家発電設備や生産設備、蓄電池などを束ね、IoT技術を駆使して一つの発電所のように機能させる仕組みだ。例えば需給ひっ迫が見込まれれば、需要側設備の稼働抑制や蓄電池からの放電を行う。E―FlowはVPP事業でのDERの運用データなどをベースに、AIを搭載した分散型サービスプラットフォーム「K―VIPs+(ケービップスプラス)」を開発。再エネ電源や系統用蓄電池の価値最大化、市場動向の予測による取引の最適化を実現する。

21年ごろから関電内では容量市場の需給年度24年を見据え、別会社化が検討されていた。しかし、20年度の初回のオークションの落札価格が1kW当たり1万4217円という高値だったのに対して、21年度の第2回オークションは同3495円(北海道と九州以外)。市場の価格変動性が高く、事業の安定性という点が課題となり検討が滞っていた。そんな中、別会社化に向けて大きな弾みとなったのが系統用蓄電池事業だった。

単独で系統に直接接続する大型の系統用蓄電池は「蓄電所」と呼ばれ、電力需給の安定化や再エネ導入加速への貢献が期待されている。関電は22年7月、オリックスとともに和歌山県で「紀の川蓄電所」(定格出力48MW)の建設に合意。合意に至るまでには、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーン(供給網)途絶などの世界情勢に大きな影響を受けた。当初検討していなかった補助金を急きょ申請したり、事業計画を都度見直したりと苦労の連続だったが、結果的には系統用蓄電池の運用という事業の柱の確立により、別会社化の検討が加速することになった。

E―Flowは顧客が所有する系統用蓄電池の市場入札と需給計画の作成・提出を代行する。今年4月に全ての商品取引が始まった需給調整市場や容量市場、卸電力取引市場といった複数の市場への入札をAIとE―Flowの取引ノウハウを組み合わせることで、収益の最大化を目指す。 法人設立までの苦労は多く、川口氏は「既存のVPP事業に加え、系統用蓄電池事業や再エネアグリ事業といった新規事業の対応と法人化を並行して進めるのは本当に大変だった。また補助金の創設などにより、系統用蓄電池の保有を検討する事業者が急増し、人的リソースが不足する中で対応が追い付かないほど忙しかった。関電内のほかのグループのサポートも得て新会社設立や事業化を進めることができた」と当時を振り返る。


確度高い再エネ発電予測 経産省と有意義な議論を

再エネアグリ事業は今年春にサービスインしたばかりだ。再エネ事業者は自然条件により発電量が変動する発電量を予測し、ほかの電源と同様に電力広域的運営推進機関に発電計画を提出する必要がある。計画値と実績値が乖離すれば、過不足を調整する一般送配電事業者に費用を負担しなければならない。再エネアグリ事業では、こうしたリスク軽減のため、精度の高い発電予測を行い、計画作成などを代行する。「現在は太陽光が中心だが、将来的な洋上風力の活用に向けても知見を積んでいきたい」(川口氏)

E―Flowの事業には、市場の在り方など制度面が大きな影響を与える。そこで昨年10月、川口氏が中心となり「エネルギーリソースアグリゲーション事業協会」(ERA)を設立し、会長に就任した。26社の正会員や67社の賛助会員をはじめ、計99の企業などが参加。勉強会などを通じての情報共有や、制度を所管する経産省・資源エネルギー庁などへの意見提起を行っている。「DERの最適な運用のため、規制当局と有意義な議論を行いたい」と意気込む。 自身について、「失敗を恐れない性格」と分析する川口氏。「リスクを恐れずにスピード感を持って事業を進められる今の仕事は向いている」。関電時代の経験と最新技術で、顧客のニーズや安定供給に貢献する。

【再エネ】再エネの導入拡大へ 幅広い関係者が政策提言を


【業界スクランブル/再エネ】

第7次エネルギー基本計画の検討と前後し、随所で関係者の政策提言が目立ち始めた。例えば新エネルギー財団は、2023年度の再エネ6分野の政策提言を取りまとめ、経済産業省をはじめとする関係省庁に提出した。

その一部を紹介すると、「風力発電」では、洋上風力の導入拡大に向け、海外事例を参考にした国による風況調査や海底地盤調査などの実施(日本版セントラル方式)、複数ウインドファーム間で共有して活用できる変電所・送電網の整備などを検討し、日本全国規模での再エネの最大限有効活用に向けた系統運用の必要性などを掲げた。

「太陽エネルギー」では、未利用地などへの高圧・特別高圧地上設置太陽光発電所をさらに普及拡大させるため、ポジティブゾーニング(促進区域の設定)の加速化を目指し、産官学一体となったタスクフォースによる課題解決に向けた取り組み、および地域脱炭素化の推進において発電エリアへの優先供給と再エネ比率目標の設定などを提案。また、使用済み太陽光パネルの適正処理・リサイクルの推進については、放置問題に対応すべく、建物の滅失登記に沿うようなFIT廃止届の運用ルール見直し、有用なガラス製品への再生産技術開発に対する支援などを提言した。

再エネの導入拡大に向けては、種別で状況は異なるが、規制・制度の見直し、予算確保、設備設置期間の短縮など多岐にわたる課題が存在する。それを乗り越えるために、再エネ施設の製造・設置事業者はもちろん、電力会社、自治体など多様な立場からの政策提言が期待される。それらがどのように政策に反映されていくのか、注目したい。(K)

【火力】このままでは期待外れ 蓄電池の扱い見直し必須


【業界スクランブル/火力】

長期脱炭素電源オークションは、新たな容量市場だけでは新規の投資が停滞し、長期的な電力の安定供給確保に懸念が生じていることから実施されるに至った経緯がある。しかし、名称に「脱炭素」を掲げたことが足かせとなり、第1回オークションの結果を見る限り、順調と言えるのは暫定的とされるLNG専焼火力の新設案件のみのようだ。

初回はスモールスタートで、そこからより良い方向に修正するということなので予定通りとも言えるが、今回応札の勢いが旺盛だった蓄電池の扱いは根本的に見直す必要があるのではないか。

再生可能エネルギーの余剰による出力制御の機会増加が問題となり、その対策として蓄電池の導入拡大が見込まれているが、余剰再エネの量は思ったほど多くはない。水力を除く再エネの発電電力量に占める比率は1割ほどで、出力制御される電力量は、多く見積もってもその数%程度というのが実態であり、それによれば蓄電池の稼働率は1%にも満たない。一方、蓄電池には電力需要の変動を吸収する調整力として大いに活躍することが期待されているが、その充電原資の大半は実は火力発電なのである。

残念ながら、現段階では蓄電池は脱炭素化された調整力にはなりえない。さらに、見直しをされてもわずか6時間の稼働継続時間では、いざという時に供給力として全面的に期待することもできない。 蓄電池は使い方次第で役に立つデバイスであるが、今のままでは期待外れの結果は避けられない。「脱炭素の供給力」という過度の期待を負わせる制度は「ひいきの引き倒し」でしかない。(N)

経営好調なゼロカーボンライトライン 地域新電力が影の立役者


【事業者探訪】宇都宮ライトパワー

今注目のゼロカーボンなライトラインの運行は、地域の再エネ電源が支えている。

宇都宮ライトパワーが廃棄物発電を主軸とした実質再エネ100%電気を安定供給する。

JR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地(芳賀町)までの約14・6㎞を結び、昨夏に運行が始まった次世代路面電車・ライトラインは、国内の路面電車では75年ぶりの新規開業で、かつ世界的にも珍しい「ゼロカーボントランスポート」だ。今年3月末までの累計利用者数は271・7万人と当初計画を上回り、初年度から経営は好調。その運行を支える地域新電力・宇都宮ライトパワーは、実質再生可能エネルギー100%の電気を供給する。

酒井典久代表

宇都宮市が、人口減少や少子・超高齢化社会においても持続可能なまちづくりの土台となるネットワーク型コンパクトシティの構築を目指す中、ライトラインと同時に、再エネの地産地消や地域経済活性化の取り組みも進み始めた。市を主体に、NTTアノードエナジー、東京ガス、足利銀行、栃木銀行が出資し、宇都宮ライトパワーが誕生。事業計画策定などを東ガス、電力取引や需給管理をNTTアノードが担い、2022年1月に供給を始めた。

同社代表を務める酒井典久副市長は「地産電源によるゼロカーボントランスポートは世界でほぼ例がなく、市民の誇りだ。それを当社からの電力供給で支えている」と強調する。


23年度は黒字転換 地産電源比率は85%に

自治体系新電力の強みが、ごみ焼却施設を活用すれば大規模なベースロード再エネを確保できる点だ。同市も廃棄物発電を主軸に、23年度の地産電源比率は85%に到達。電源特性に応じて燃料費調整は行わない。

23年度、廃棄物発電ではクリーンパーク茂原から1・8万MW時(1MW時=1000kW時)を調達し、うち半分が卒FIT(固定価格買い取り制度)のバイオマス、残り半分は非バイオマスだ。さらにクリーンセンター下田原から、こちらはFIT+非バイオマスで1・5万MW時。このほか家庭用太陽光や民間産廃処理熱発電から、そして日中の不足分は卸電力市場も活用し、調達量は計4・8万MW時程度となった。

供給先はライトラインや市有施設305件だ。ライトラインには「みやライト再エネ100」プランで供給。供給する電力には再エネ指定の非化石証書を充て、万が一不足する場合は非化石証書を調達する形だ。ライトラインは午前4時~午後11時過ぎまで、ピーク時は8分間隔で運行するが、実質再エネ100%の電気を安定供給する。それ以外の電気の排出係数も、1kW時0000341t―CO2(22年度値)という水準だ。

ライトラインは平日昼間も利用者が多い

ただ、初年度はいきなりピンチを迎えた。22年2月に主力のクリーンパーク茂原で火災が発生し、12月まで発電できなかったのだ。しかも当時、廃棄物発電の調達先はこの1カ所のみ。ロシア・ウクライナ戦争勃発直後であり、高値でもほぼ全量市場調達せざるを得なくなった。卸電源を調達したり、需要側でも節電に努めたりした。

酒井代表は「ごみ処理施設の火災は全国的にあるが、初年度から想定外の事態に直面しつつも、トラブルを乗り越えて23年度は黒字転換できた。これを機に廃棄物発電の調達先を一つ増やし、結果として電源の拡大にもつながった」と振り返る。

併せて家庭用太陽光の買い取りにも力を入れる。今年3月末の件数は63件で、さらに4月から買い取り価格を1kW時当たり11円に引き上げたところ、市民の反響が大きいという。

【原子力】エネ基議論の行方 「可能な限り低減」は残るか


【業界スクランブル/原子力】

現行の第6次エネルギー基本計画には、原子力について矛盾した記載がある。2050年に向け「可能な限り依存度を低減する」が3カ所、一方で「必要な規模を持続的に活用していく」が1カ所。かつて基本政策分科会で福井県知事が矛盾を指摘したが、当時のエネ庁長官は理解不能な回答でけむに巻いた。

「可能な限り低減」の言葉は福島事故後の第4次エネ基で明示され、現在まで引き継がれている。わが国の脱炭素にもエネルギー安全保障にとっても不都合である。これが今回の改定で修正されるのか。

昨年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」は「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建替を進めていく。その他の開発・建設は今後の状況を踏まえて検討していく」(抜粋)としており、少なくともこの文言は反映されるはずだが、この廃炉原発の敷地内との文言も、建設工事の途中段階にある新規立地(2基)や設置許可申請が出された状態にある新規立地(2基)がある現状と乖離している。エネ基が3年ごとに改定されることを考えれば、今回は「廃炉のあった同一敷地内」とするのはやむを得ないかもしれない。それを認める代わりに、「原発依存度低減」を消す軟着陸を模索してはどうか。

相変わらず「矛盾がない」と説明するなら「可能な限り低減」が残る可能性もある。原子力にとって不愉快だが、原子力政策が書いた通りに進んだことはない。事業者としてできることに取り組み、無理なことには取り組まないというだけ。むしろ、「新増設には建設費抑制という課題解決が先」と言われれば反論のしようがあるまい。(H)

DCの脱炭素化に注力 持続可能な運用を目指す


【リレーコラム】神田拓海/エアトランク Energy and Utility Manager―Japan

各国でエナジートランジションが加速する中、多様な産業で対応が求められている。こうした状況下、データセンター(DC)業界でもカーボンフリー電力への切り替え、また省エネルギーや冷却技術の開発を通じて、持続可能な運用に注力することが求められる。

昨今、消費電力を常時カーボンフリー電力から賄うこと(24/7クリーンエナジー)への転換が注目されているが、DCが果たす役割は大きい。エアトランクは、2015年の創業以来、アジア太平洋地域および日本(APJ)で大手クラウドやコンテンツ事業者向けのハイパースケールDCを開発・運用してきた。国内では、三つの拠点で合計430MWを超えるIT容量を国内外の大手テクノロジー企業に提供する。

当社は、30年までにネットゼロを達成する目標を掲げており、カーボンフリー電力を活用した運用を展開していく。国内においては地熱発電に注目しており、自治体・地元住民の方々との調和を図りながら、発電事業者とのパートナーシップを通じて開発に臨むことで、導入拡大に貢献していきたい。電力系統の脱炭素化を達成するには、24/7クリーンエナジーへの移行が重要だと考えており、先行者となれるよう取り組んでいく方針だ。

目標達成に向けた取り組みの一環として、複数の再生可能エネルギー事業に携わってきた。その中から、いくつかの事例を紹介したい。まずはマレーシアにて、同国初となるDC向けのPPA(電力購入契約)に参画し、太陽光発電所から創出される環境価値を購入する。香港ではマイクロソフトと共に1万7000カ所に点在する太陽光発電所から環境価値を購入する。豪州では、グーグルと共同でPPAに取り組み、同国に新たな再エネ電源を積み増すことに貢献した。国内においても、再エネを活用したPPAの取り組みに着手している。


DC向けグリーンローンを活用

上記のほか、事業の多様な側面でサステナブルな要素を組み込むことに注力している。今年の4月に竣工したDCにおいては、国内では初となるDC向けグリーンローンを通じて融資を調達した。本DCは業界最高水準の電力運用効率を実現するように設計されており、高いエネルギー効率を有する。

パリ協定で掲げられた目標達成に向けて世界が協力していく中で、あらゆる産業が、トランジションに貢献することを期待されている。当社は持続可能なDCを実現するために革新を続け、顧客や取引先と協力し、今後もエネルギートランジションを推進していく。

かんだ・たくみ 2017年国際基督教大学卒業。総合商社を経て、23年よりエアトランクに参画。国内データセンターの電力分野を担当。

※次回は、のぞみエナジーの益子雄一郎さんです。

【石油】大義名分の脱炭素に限界 消費者の選択が重要


【業界スクランブル/石油】

最近、各国におけるEV化の減速が話題となっている。民間調査会社によれば、2023年の世界のEV販売は前年比26%増と増加傾向にあるものの、22年の同67%増から伸び率が鈍化した。

欧米では、EVよりむしろハイブリッド車の方が人気だという。テスラが減益、メルセデスベンツが完全EV化の方針を撤回し、日産はEV2車種の投入先送りを発表した。報道は、環境意識の高い初期購入者の購入一巡、購入補助金などの政策助成の削減を主な理由としている。

昨年は、ドイツでEV補助金の財源流用が憲法違反とされ、補助金支出が出来なくなった。一昨年には、中国でも補助金削減により販売台数が減少した。①充電インフラ、②走行距離、③車体価格という面でEVは、既存のエンジン自動車に劣るのであろう。

特に充電インフラは、普及が本格化していない。EV充電は電気代が安すぎてマージンを見込めず、ビジネスにならないという共通認識があるようだ。EV充電は自宅で夜間に行うか、勤務先の駐車場で昼間に行うのが主流と言われている。結局、政策優遇のメリットが利便性と使い勝手の悪さを上回っていたのだろう。これでは永遠に財政負担を続けなければならない。

政府側の論理や大義名分だけでは、脱炭素は進まない。消費者・需要家側の意識とコスト負担が問題だ。そうした意味で「全方位・フルラインで商品を並べて消費者の選択に委ねる」というトヨタの方向は正しいのかも知れない。

次期エネルギー基本計画の策定に向けた検討でエネルギー転換に焦点を当てる際にも、消費者・需要家の選択という視点が重要だ。(H)

【シン・メディア放談】再エネタスクフォースが廃止 甘利VS河野が火花散らす


<メディア人編> 大手A紙・大手B紙・大手C紙

中国ロゴ問題を巡り、甘利氏が河野氏を痛烈批判。

総裁選に向けて河野氏はどう動くのか。

─昨年1月に始まった電気・ガス料金に対する補助金が5月使用分をもって終了した。

C紙 朝日が一面で報じていたが、他紙は2面や3面での扱いだった。読者層が高齢化しているので、「くらし情報」として掲載した社が多かったのだろう。補助金の是非は丁寧に取材すべきテーマだが、深く迫った記事は見ない。

B紙 5月22日には、共同通信が「6月電気代、最大46・4%上昇補助金終了、再エネ賦課金負担増」との記事を掲載した。46・4%という上昇幅は衝撃的だが、これは前年同月比での数字。なぜ前月比で報じなかったのか。事業者からは不満の声が上がっていた。

A紙 夏に向けて電力需要が高まる中で、補助金終了のタイミングは最悪だ。料金明細を見た時に驚く人は多いはずで、今後は「電気代、なぜ上がった?」というQ&A方式の記事を目にするかもしれない。


反原発が執筆の足かせに エネルギー記事はウケない

C紙 民放は「電気代が上がって大変だ」とあおり立てる報道が多かった。「なぜ上がるのか」という視点が求められていると思うのだが。

B紙 第7次エネルギー基本計画の議論中で腰を据えた記事を書きたいが、連載記事でも全てをカバーするのは至難の業。エネルギー問題はとにかく複雑で難しい。FIT(固定価格買取制度)とFIP(フィードインプレミアム)の違いを書いても、デスクが理解できるか不安だ。

A紙 エネ基の議論の中心は、電力需要増と脱炭素。この2点を前提にすると、朝日・毎日・東京は、原発を推進できない点が記事を書く上での足かせになっている。

B紙 A紙はリベラル系だが、書く立場としてはどう?

A紙 正直、かなり苦しい(笑)。一方で保守系は、再生可能エネルギーを叩く方向に走りがち。原子力VS再エネという構図にはまると現実的な記事が書けなくなる。

C紙 GX(グリーントランスフォーメーション)基本計画で原発新増設をうたっても、実現できそうなのは1、2カ所だけ。「原発回帰」など象徴的なフレーズが独り歩きしがちだが、こうした実情もセットで伝える必要がある。特にエネルギーはいろいろな立場の人が、それぞれの理想を語っているから……。

B紙 産経も原発の活用を訴えるが、少し詳しい人なら「そうは言っても、資金面はどうするの」と思っている。表面的な記事を書くほど、現実との乖離が目立つ。

A紙「データセンターで電力需要増」と言われても、読者はピンと来ない。人口減の地方ならなおのことだ。遠い話のように思えて、とにかくエネルギーの記事は読者にウケない。

─再エネ規制改革タスクフォース(TF)資料へのロゴ混入問題で動きがあった。内閣府は6月3日に調査結果を公表。翌日には河野太郎デジタル相が同TFの廃止を明言した。

C紙 河野氏の私的な懇談会が公的な審議会並みの権限を持っていたわけだが、同じ神奈川県を地盤とする自民党の甘利明前幹事長がずいぶんと怒っている。6月4日の産経によると同日、「(エネルギー、情報通信の政策を)何の公的権限もオーソライズされない人が決め、関係省庁に指示を出すことはおよそ考えられない」、さらには「とんでもない大臣が来たら暴走する」とまで語ったとか。

B紙 裏ではもっと激しかったらしい。河野氏が地元の例会で自分が描かれたまんじゅうを配った。それを見た甘利氏は「そんなの食べたら、お腹壊すよ」とボソリ(笑)。

C紙 この2人は、いわば原子力と再エネのボス同士。ここまでバチバチにやり合うのは久しぶりだ。


YKKに似てきた「小石河」 蓮舫氏は「惜敗」がベスト?

C紙 9月の自民党総裁選への影響もある。「腕力」という武器を封じられた河野氏がどんな一手を打つのか。小泉純一郎元首相のように、よりポピュリスト的な手法に出る可能性もある。

A紙 かつて小泉元首相は「YKK」(山崎拓氏、加藤紘一氏、小泉氏)を「友情と打算の二重構造」と評したが、「小石河連合」(小泉進次郎氏、石破茂氏、河野氏)も同じ匂いがする。ただ河野氏は次の内閣では要職が予想されるので、今回はあまり動かないかも。

B紙 岸田文雄首相としては、国会への憲法改正原案の提出を狙っていた。いくら安倍派などが「裏金」問題への対応で「岸田憎し」といえど、党の悲願達成に向けて動き出した総裁を引きずり降ろすわけにはいかない。だが政治資金規正法改正案の審議への影響を考慮し、原案提出は見送りに。総裁選に向けた政局の季節がやってくる。

B紙 党が窮地に陥る中で総裁選に手を挙げる人はいるのだろうか。若手を中心に「岸田さんでは選挙に勝てない」という声は出るだろうが、「岸田さんに泥をかぶってもらいたい」という議員も多いはず。

C紙 ちなみに、9月には立憲民主党の代表選挙もある。泉健太代表を交代させたい勢力にとっては、7月7日の東京都知事選で蓮舫氏が「惜敗」するのが望ましい。勝利すれば「泉降ろし」の理由にならず、大敗なら党の勢いが失われてしまう。とはいえ、蓮舫氏は敗れたとしてもすぐに衆議院へ鞍替えるのだろうが。

─エネルギー政策では、河野氏も立民も期待できない。

【ガス】LNGポートフォリオ 柔軟な構築が不可欠


【業界スクランブル/ガス】

LNGを輸入する主要都市ガス各社の業績が好調だが、その一因に各社が調達する長期契約LNGの価格競争力が日本入着LNG価格 (JLC)と比較し高かったことが挙げられる。ガス会社が長契で全量を固めている中、大手電力中心に購入されているスポットLNGの高値に引っ張られてJLCが高騰し、ガス会社の実際の調達価格を上回る状況が続いた結果だ。現在、スポットのJKMは11ドル前後で落ちついているが、過去5年間の平均価格と比較すると引き続き2倍程度高い水準で推移している。

ただし、こうした状況はいつまでも続くものではない。2027年前後からカタール増量、そして米シェールLNG事業の稼働が段階的に進む。

カタールのLNG生産量は24年7700万tから、30年には1億4200万tに増量。また、米国の生産量は24年8500万tから30年1億7000万tに拡大する。これにより、全世界の生産量は24年4億tが30年5・8億tと1・5倍に膨れ上がる。そして、世界の需給は急速に緩んでいく。これによりスポットは27年前後から1~3ドル程度に下落し、長契を下回る。そして、長契で固めたガス会社は安いスポットに手を出すことができず、競争力を失うことに。現在と真逆の状況になるのだ。

市場自由化が進展する中で価格競争力を維持することや、需要量の変化に柔軟に対応できる調整力を持つことは重要なミッション。これからは大勝ちや大負けを回避して、確実に一定の競争力・調整力を確保できるよう、スポット・短期・中期・長期の最適ポートフォリオを構築することが必須条件になる。(G)

脱炭素巡り対立鮮明化 独政府と経済界が非難の応酬


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

ドイツ政府は2045年カーボンニュートラルの実現を国際公約とし、CO2削減目標に多額の予算を投じている。メルケル前政権は環境問題を重視する政策にかじを切り、再生可能エネルギーの導入拡大を軸にエネルギー転換していく方針を打ち出した。21年に発足したショルツ政権も前政権の目標を具体化しようと動いている。

ところが、連邦会計検査院は政府のエネルギー政策に批判的だ。21年にメルケル政権下におけるエネルギー転換政策の怠慢を批判する報告書を出し、今年3月にも2回目の特別報告を発表した。この特別報告は、エネルギー転換実現への措置は不十分で、重大なリスクを抱えていることを指摘。「再エネと電力系統の拡充、並びにバックアップ電源の拡充が遅れている」などと、政権にとって厳しい内容となった。

ハーベック経済・気候保護大臣は、この数日前に「このテンポで継続すれば、プロジェクトを達成できる。われわれは現在、目標達成の過程に入っている」と楽観論を述べていたが、特別報告は「早急にエネルギー転換計画の変更に着手すべき」とこれを全否定した。

ドイツ経済界も、エネルギー政策については会計検査院と同様、否定的な見方だ。政府は21年秋、30年までに脱石炭・褐炭を実現すると標榜しているが、これについてドイツ経団連(BDI)のルスヴルム会長は23年末に、「極めて困難である」との見解を示した。

今年2月にも、「原子力発電と石炭・褐炭発電からの撤退は非現実的だ」と述べており、「国際的な競争市場でドイツ企業に不利益が生じる」と断言。「誰も7年後にドイツの電力供給や電力価格がどうなるのかを確信持って言えない。投資決定を行う企業にとって絶対に有毒である」とも強調した。

さらに4月初旬には、「ドイツ経済の停滞の観点から状況の深刻さを過小評価している」と政権に対する強い懸念を示し、21年末からのショルツ首相の政権担当期間を「失われた2年間」と表現した。これに対し、ショルツ首相は4月末のハノーバー・メッセで、「2年間を振り返って」と題した演説の中で、ルスヴルム会長の名前を上げて反論した。首相府と経済界との対立が鮮明化し、経済界の危機感は募るばかりだ。

このような状況下で、ショルツ政権は政権期間の折り返しを迎えた。23年のGDP(国内総生産)成長率は0.3%、今年の民間予想は0.1%のミニ成長率となっていることから、経済界は危機感を抱いている。

エネルギー政策について、政府は環境理想論を訴えるのに対し、産業界は現実論を主張している。この状況はエネルギー危機下で当分続くことが予測される。現在、政権与党内でも意見がまとまっていない中、25年の予算編成が既に焦点となっている。そして25年秋、国民の信を問う総選挙を迎えるのだ。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)