ここに新たな挑戦者が現れた。中露の台頭である。自由で開かれた世界秩序に対する挑戦であり、トルコやハンガリーの独裁者が続く。西欧においても、反移民などのポピュリスト政党が勢力を伸ばし、米国もトランプ氏がウィルソン主義に反旗を振るう。この時期に、先述のミード氏が“The End of the Wilsonian Era”(Foreign Affairs 2021)という論文を発表したのも当然だ。
C 策定遅れはKKが再稼働できなかったからだが、金融機関との交渉がまとまらなかったというのも理由の一つだろう。
B このまま再稼働しなければ、2026年度にも資金が財務上の防衛ラインを下回ると言われているが、金融機関が何らかの手当をするはずだ。さすがに彼らもショートさせる気はないだろう。ただ金融機関は東電だけでなく、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に対しても不信感を抱いているかもしれない。貸した金を返していないのに「また貸してくれ」と言ってくるのだからね。単にキャッシュが足りないだけでなく、負債比率維持などのコベナンツ(誓約条項)に引っかかっている可能性もある。そうなれば、信用収縮どころではない。
A でもNDFのバックは国だ。暗黙の政府保証のようなものでは。
B 確かにそうだが、3・11後に原子力損害賠償法の「三条ただし書き」(原子力損害が異常に巨大な天災地変、社会的動乱によって生じた場合、事業者の損害賠償責任が免責される)を認めなかった政府を、一体どこまで信用していいのかという複雑な気持ちはあるだろう。
東電の再建問題は行き詰まっている
─KKを抱える新潟県はどんな反応をしている?
D 一般的に4次総特の改定でクローズアップされているのは、国からの援助額の1・9兆円積み増しと、再稼働の前提を3基から1基に変更したことだ。県内ではKK再稼働に向けて「東電の信頼性」が一つのファクターになっているが、積み増しや策定遅れで「この会社は大丈夫なのか」という見られ方をしている。再稼働に向けてはプラスとはいえない改定だった。
B 原子力だけでなく、さまざまな現場のモチベーションを維持できるのか心配だ。特に東電パワーグリッドは、改修予定だった基幹系統に対して設備投資が十分にできず、その場しのぎで何とか対応している。NDFに納付する特別負担金も、キャッシュフロー上はボディーブローのように効いてくる。
A 東電にとって、一番の資産は送配電網だ。増強の必要性が叫ばれている中で、本来なら投資をけん引する立場だというのに。
D KKの稲垣武之所長は頑張っているが、まだ組織全体に所長の考えが浸透し切っていない気がしている。かつて福島第一原発(1F)を取材したが、社員は非常に強い使命感で仕事に向き合っていた。KKと1Fで置かれている状況は違うとはいえ、1Fと比べるとKKの士気は物足りない。再稼働の時期が見通せず、仕方がない面もあるが。
C 策定遅れは表面的にはKKが動かなかった結果だが、この間にJERAのような包括的アライアンスなど火中の栗を拾う改革ができていれば、社員のモチベーションも変わっていただろうね。
A KK再稼働問題に矮小化しては駄目だ。仮にKKの数基が稼働しても、構造的な東電の経営問題は解決しない。マクロの視点に立ち、大きな絵を描かないと。