【コラム/6月14日】カーボンニュートラルは地域経済の破滅計画 忍び寄るエネルギー貧困の危機


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本政府はCO2を2030年までに46%減、2050年までにゼロにするとしている。そして「経済と環境を両立」させて「グリーン成長」によってこれを達成するとしていて、「イノベーションを推進」している。

けれども、カーボンニュートラルというのは、本当に実施しようとすれば、そんなきれいごとでは到底済まない。

県によって温度差 地域経済が崩壊するのはどこ?

カーボンニュートラルを目指すというとき、特に脆弱なのはどの県か。指標を見てみよう。

(出典:総合地球環境学研究所)

リンク:https://local-sdgs.info/fukusu_content/731-941/

図は、縦軸が県民総生産当たりのCO2排出量、横軸が県民総生産当たりのエネルギー消費量である。県民総生産とは、県の経済規模を表す指標である。

まず第一に分かることは、ほぼ一直線上にデータが並んでいること。すなわち、CO2排出量とは、エネルギー消費量とほぼ同義であることを意味している。

つまりCO2を減らすとなると、エネルギー消費を減らさねばならない。既存の工場ではその技術的手段は限られるから、大幅にCO2を減らしたければ、最後は生産活動を止めるしかない。

そして第二に分かることは、県によって、大きな違いがあることだ。

縦軸の「県民総生産あたりのCO2排出量」は、カーボンニュートラルに対する脆弱性の指標である。図を読むと以下のようになっている(単位はtCO2/百万円)

1位  大分  6.7

2位  岡山  6.0

3位  山口  6.0

・・・

最下位  東京  0.7

トップの大分では6.7であるのに対して、最下位の東京は0.7なので、10倍も開きがある。

大分で「県民総生産あたりのCO2排出量」が大きい理由は、製造業が発展しており、それに頼った経済になっているからだ。CO2を急激に減らすとなると、大分、岡山、山口では、工場は閉鎖され、経済は大きな打撃を受けることになるだろう。

4位以下もリストにしておこう。

4位  和歌山

5位  広島

6位  愛媛

7位  千葉

8位  茨城

・・・

以上の県の人々は、これから自らの経済がどうなってしまうのか、よく考えるべきだ。そして、菅政権の下で進む無謀なカーボンニュートラル政策に対して、自治体、政治家、企業、労働者、一般市民が一体となって、異議を唱えるべきだ。

議論進む炭素税 寒冷地・農村部の負担重く

炭素税の導入の是非が政府審議会で議論されている。この夏には中間報告が出る予定だ。

もしも導入されるとなると、産業部門は国際競争にさらされているから、家庭部門の負担が大きくならざるを得ないだろう。実際に欧州諸国ではそのようになっている。

ではどの地域の負担が大きくなるだろうか。これも、炭素税に対する家計の脆弱性の指標を見てみよう。

(出典:国立環境研究所)

リンク:https://www.nies.go.jp/kanko/news/39/39-1/39-1-03.html

市町村単位での世帯当たりCO2排出量の推計値(図)を見ると、以下の特徴が分かる

•都市より農村で多い

•寒冷地で多い

この結果、東京・大阪などの都市部に比べて、北海道・東北などの農村部では、世帯あたりのCO2排出量が倍になっている。

図中赤く塗られているところが世帯あたり5t以上のCO2を出しているところだ。5tのCO2を出している世帯は、仮に1tCO2あたり1万円の炭素税になるとして、負担は年間5万円になる。

炭素税が導入されるとなると、過疎化や高齢化が進む北海道や東北などの地域にとって、特に重い負担になりそうだ。寒冷地の方は要注意である。

英国にはエネルギー貧困ないしは燃料貧困という言葉がある(energy poverty, fuel poverty)。多くの貧しい人々が、光熱費が高いので、暖房をつけず、部屋の中でマフラーや帽子をして、布団に入って暮らしているのだ。映画「チャーリーとチョコレート工場」の主人公チャーリーの家がそうだ。

日本でもこんな生活が待っているのだろうか?

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

【マーケット情報/6月11日】原油続伸、需要回復が加速する見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要回復が加速するとの見方で、買いがさらに優勢となった。

移動・経済活動の規制緩和が進む欧州では、新型ウイルスのワクチン接種歴などを記載した証明書の携帯を条件に、EU加盟国間の渡航を解禁。証明書の発行は7月1日からとなっている。加えて、米国では今夏、ガソリン消費の前年比増加が見込まれており、燃料需要回復への期待感が高まっている。

また、国際エネルギー機関は、来年末には、世界の石油需要が新型ウイルス感染拡大前の水準に戻ると予測。価格に、さらなる上方圧力を加えた。

製油所の原油処理量増加も、強材料として働いた。米国では製油所の高稼働により、週間在庫統計が減少。フランスでは、Total社のGonfreville製油所が、2019年12月に発生した火災から復旧し、1年半ぶりに再稼働した。さらに、インドでは、複数の国営製油所が徐々に稼働率を引き上げている。国内の感染者数増加が減速し、ロックダウンを緩和したことが背景にある。

【6月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.91ドル(前週比1.29ドル高)、ブレント先物(ICE)=72.69ドル(前週比0.80ドル高)、オマーン先物(DME)=71.37ドル(前週比0.99ドル高)、ドバイ現物(Argus)=70.97ドル(前週比1.11ドル高)

40年超原発はボロボロ? 根拠のない朝日・日経記事


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

アニメ「サザエさん」の磯野波平さんは、公式サイトによると54歳だ。一本だけ毛が残る頭頂部から、もっと高齢と見られがちだが、実は若い。サラリーマンなら働き盛りである。末娘のワカメちゃんは9歳らしいので、まだまだ引退できない。

読売4月28日夕刊「40年超原発、再稼働へ、美浜・高浜3基、福井知事同意」のニュースに波平さんを思い出した。記事の脇に「脱炭素へ、原発活用を」との解説がつく。運転開始から40年を超えたが、まだ働け、である。

これまでが大変だった。

「2011年の東京電力福島第一原発事故を受けた改正原子炉等規制法で、原発の運転期間は『原則40年』と定められ、原子力規制委員会が特別に審査して認可した場合、1回に限り、最長20年の延長を認めている」

「3基は1974~76年に運転を開始し、定期検査で2011年に停止。16年に延長が認可された」「識者による県の原子力安全専門委員会も3基の安全性に問題はないとの報告書を提出している」

これを踏まえた解説には「原発の新規建設は地元の同意を得るまでにハードルが高い上に、安全対策にかかる費用も増大しており、議論は停滞が続く。既設の原発を長期間、最大限活用する取り組みは、国のエネルギー政策上も重要だ」とある。ごもっとも。

対照的なのは朝日だ。なんとしても負のイメージを発信したいのだろう。同日夕刊で「老朽原発再稼働、福井知事が同意」と「老朽」をことさら強調している。

辞書によれば、老朽とは「老いて役立たなくなる」だ。「朽」は「腐ってボロボロ」を意味する。どこがボロボロか。大変なので読み返したが、書いてない。

翌29日の朝日「時時刻刻」は「原発延命、懸念棚上げ」だ。老いて朽ちて瀕死状態なので「延命」した、と言いたげだが、老朽化した部品は特定していない。

関連しそうなのは「劣化した設備や装置は修理や新型への交換ができても、原子炉そのものは換えられない」の部分だが、規制委のコメントとして「厳正かつ慎重に審査しており、結果には自信を持っている」とある。原子炉がボロボロという訳ではなさそうだ。

新聞の根幹は事実に基づいた報道である。それに値するか。

同日日経「原発再開、苦難の一歩」は「高齢化」の言葉を使うが、やはり40年で高齢とする理由は書かれていない。そもそも改正原子炉等規制法の「原則40年」が政治の産物とされ、科学的根拠はない。欧米には実際、40年以上現役の原子炉がいくつもある。

事実に基づかず、不安や不満を煽るだけの報道は、社会を混乱させ、人々を不幸にする。その悪影響は、長期間にわたる。

産経28日「『従軍慰安婦』表現は不適当、『強制連行』も、政府答弁書決定」は、隣国の反日を助長した朝日記事に関連する。

「答弁書では、1993年の河野洋平官房長官談話で用いられた『いわゆる従軍慰安婦』との表現に関し、朝日新聞が虚偽の強制連行証言に基づく報道を取り消した経緯を指摘し『「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招く』と明記した」

文部科学省の教科書検定では「従軍慰安婦」との表現を使ったものが合格している。隣国の反日の主力材料でもある。報道が生んだ不毛の軋轢と言えよう。

残念ながら、当の朝日は、この件を全く報じていない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

石炭火力を40年までに全廃? ゼロエミ型への置き換え目標年に


【オピニオン】北村雅良/一般財団法人 石炭フロンティア機構会長

「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ1.5℃以内に抑えなければならないのは科学面から異論の余地がない。そのためには2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにしなければならない。(中略)石炭火力発電からの段階的な撤退は、世界の平均気温上昇を1.5℃以内に収める目標の達成に向けた最も重要な一歩だ。化石燃料の中でも特に環境負荷が大きく、大気汚染につながる石炭を発電から締め出すためにすぐ行動すれば、気候変動リスクと十分に戦える可能性が見えてくる。(中略)そのために先進国は30年までに、ほかの国は40年までに石炭火力発電から撤退する必要がある。石炭火力発電所の新設を正当化できる場所はない。(後略)」。これは環境NGOや気候NPOの言葉ではない。国連事務総長のグテレス氏が「気候変動サミット」を前に日経新聞に寄稿したものだ。氏はなぜかここ数年、気候変動対策を阻害する諸悪の根源は石炭火力だと言わんばかりの物言いをしているが、「石炭火力」を「在来型の石炭火力」と言い換えれば、この寄稿はおおむね首肯し得る。

在来型の微粉炭火力は長年技術改良を重ねて、亜臨界圧から超臨界圧、超々臨界圧へと蒸気条件を高め、発電効率を高めてきた。すなわち、同じ量の電気を作り出すのに要する石炭の量を減らしてきた。この効率をさらに飛躍的に高めようと、石炭をガス化してガスタービンとHRSG(排熱回収ボイラー)による蒸気タービンを組み合わせた石炭ガス化複合発電(IGCC)が福島県で最近、商用発電を開始した。先進国たる日本が率先して行うべきことは、石炭利用を止めることではなく、在来型微粉炭火力をIGCCのような高効率システムに置き換え、資源的に石炭に依存せざるを得ない途上国にもその普及を支援していくことである。

IGCCでもまだCO2排出量は天然ガス火力よりも多いという声が聞こえてきそうだ。やはり石炭は駄目なのか。問題は、石炭利用に伴うCO2排出の多寡なのである。酸素吹き石炭ガス化のプロセスでガス化ガスからCO2を取り除いてしまえば、精製ガスはほとんど水素成分だけになり、燃焼後にCO2は出さない。ここまでは既に大崎クールジェンプロジェクトで技術実証されている。

残る課題は取り除いたCO2を再び大気放出せずに、地層に貯留したり、有用物質のカーボン源としてリサイクルすることであり、その商業的な成立を急ぐべきである。ガス化することは石炭を水素に変えて利用することにほかならない。クリーン燃料と期待される水素をいかに安く大量に作るのかという問いへの答えの一つにもなる。石炭ガス化プラスCCUS(CO2回収・利用・貯留)による水素と再エネ電気分解水素が、商用化に向け経済性を競い合うことは良いことだ。

40年は石炭火力全廃ではなく、既設サイトをゼロエミ型プラントに置き換えていくトランジション目標年と考えればよい。それが最も社会コストを抑えた石炭利用ゼロエミ化への道である。 

きたむら・まさよし 1972年東京大学経済学部卒、電源開発株式会社入社。2000年企画部長、09年代表取締役社長、16年代表取締役会長。15年に一般財団法人石炭エネルギーセンター会長に就き21年4月から現職。

石狩LNG基地でCNLNG受け入れ事業活動全体のCO2排出量10%削減


【北海道ガス】

北海道ガスは3月、石狩LNG基地でカーボンニュートラルLNGを受け入れた。

菅義偉首相の宣言によって加速する脱炭素化に対する施策の一つとして注目が集まる。

3月19日――。北海道ガスの石狩LNG基地に一隻の大型LNG船がサハリンから入港し注目を浴びた。CO2排出量が実質ゼロのカーボンニュートラル(CN)LNGを積んでいるためだ。

今回、北ガスはCO2クレジットでカーボンオフセットしたLNGを三井物産から購入。受け入れたLNGは約6.4万t、同社の年間取扱量の10%に相当する。

北ガスは従来、低炭素化に向けた取り組みを進めてきた。エコジョーズやガスマイホーム発電といった高効率ガス機器の促進やガス導管の拡充など、天然ガスの普及拡大を着実に推進。加えて、石狩LNG基地内の「北ガス石狩発電所」と同社本社ビル地下の「北ガス札幌発電所」の合計10万9200kWの電源を中心とした分散型を整備するとともに、道内の間伐材を用いた木質バイオマス発電や、太陽光発電など再生可能エネルギーの活用、地産地消のエネルギーモデル構築に向け道内自治体と連携した取り組み、さらにエネルギーマネジメントシステム(EMS)を活用した省エネ、など多岐にわたる。

そうした中、菅義偉首相が昨年10月、2050年CNを宣言した。これを受けて、日本ガス協会は昨年11月に「CNチャレンジ2050」を発表。脱炭素社会に向けて業界目標を掲げた。金田幸一郎・経営企画部長は「これまで進めてきた低炭素化の取り組みを、さらに加速させる施策の一つとして、CNLNGを導入しました。国や業界が掲げるCN目標達成にも貢献していきたい」と話す。

商社からクレジット購入 21万t分のCO2に相当

CNLNGは、天然ガスの採掘から液化、輸送、都市ガス製造、消費に至るまでの工程で発生するCO2を、クレジットでカーボンオフセットしたものだ。今回、北ガスが受け入れたLNGは21万t分のCO2に相当する。世界的に信用性の高い認証機関が森林育成や森林保全プロジェクトにおけるCO2排出削減効果をクレジットとして認証したものを、三井物産を通じて購入した。

② CNLNGの導入目的と活用

今回、北ガスではCNLNGを同社のガスや電気など、総合エネルギーサービス事業全般で活用する。これにより、北ガスの事業活動におけるCO2排出量全体の10%を削減する。「CNLNGを事業全体で使用することで、当社の低炭素社会構築に向けた取り組みを広くお客さまに知っていただくという側面もあります。脱炭素化への取り組みを一層加速できたらと考えています」。金田部長はそう説明する。

この動きに早速反応する需要家がいた。業務用の大型物件などでガスを利用する企業の総務やCSR担当者などだ。原料企画室の矢本令子主査は「CNLNGを『自社の脱炭素化への取り組みに利用できないか』といった問い合わせを多数いただきました」と反響を語る。

ただ、今回のCO2クレジットは国内の省エネ法や温対法などの報告義務が課されているCO2排出量の相殺にカウントされない。環境価値を正しく評価する制度への改善がなされることで、国内におけるCNLNGの利用拡大が見込まれる。

また、ガス協会の「CNチャレンジ2050」には30年5~20%削減という中間目標がある。今回のCNLNG導入は、その達成手段として有効なものだということも分かった。

カーボンニュートラルLNG6.4万tを積んだ「OB RIVER」

一方、CO2クレジットの調達には課題もある。脱炭素化への機運の高まりによって価格が高騰していく可能性がある。このことから、CO2クレジットの安定的な調達については、検討の余地がありそうだ。

北ガスでは、今後もCNLNGを調達するかは検討中という。「導入の効果をあらゆる点から検証しています。お客さまからのニーズはもちろんのこと、制度面でCNLNGの有効性が認められるかといった動向も注視しており、CO2クレジットへの知見を深めていきます。CNLNGをはじめ、さまざまな取り組みにより、北海道の持続可能なエネルギー社会の実現に寄与していきたい」(金田部長)と語る。

道内に多く賦存する再エネ 有効利用の取り組みを加速

脱炭素化に向けては、まず省エネや高効率機器の普及によって、CO2排出量を減らすことが不可欠だ。このため、北ガスでは、前述の低炭素化への取り組みと今回のCNLNG導入など新たな施策を組み合わせていく。

特に、積雪寒冷地における省エネと道内に多く賦存する再エネの活用は脱炭素化の大きな鍵を握ると北ガスではみている。既に展開中の独自開発の家庭用EMS(HEMS)に加え、今年度参入する住宅賃貸事業で家庭向けの省エネの知見を深めるとともに、太陽光や風力、地熱、水力といった資源の有効利用の取り組みを加速するため、自営線を利用したマイクログリッドの活用も検討していく方針だ。

脱炭素の二つの事業モデル 輸入型の課題と自給型への期待


【論点】ゼロエミ時代の事業モデル/紺野博靖 西村あさひ法律事務所弁護士

化石燃料の輸入依存がさまざまな課題を日本にもたらしてきたことは広く知られている。

脱炭素においても輸入依存となってしまうのか――。輸入型と自給型モデルを考察する。

日本の火力発電事業者(仮に甲社とする)がCO2排出量をゼロにしようとする場合、選択肢として次の七つのモデルがある。比較してみよう。

①ブルー水素輸入モデル=A国のX社が天然ガスの改質により生産した水素を輸入し、当該水素を燃焼して発電する。改質により発生したCO2はX社がA国の地下に貯留する。

②グリーン水素輸入モデル=A国のX社が再生可能エネルギー電力による水電解で生産した水素を輸入し、当該水素を燃焼して発電する。

③ガス発電・CO2海外貯留モデル=A国のX社が生産した天然ガス(LNG)を輸入し、当該天然ガスを燃焼して発電する。燃焼により発生したCO2はX社に引き取ってもらい、X社がA国の地下に貯留する。

④ガス発電・CO2国内貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを燃焼して発電する。燃焼により発生したCO2は日本の地下に貯留する。

⑤ブルー水素国内生産・CO2海外貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを改質して水素を生産し、当該水素で発電する。改質で発生したCO2はX社に引き取ってもらい、X社がA国の地下に貯留する。

⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデル=A国のX社が生産したLNGを輸入し、日本で当該天然ガスを改質して水素を生産し、当該水素で発電する。改質により発生したCO2は日本の地下に貯留する。

⑦国産グリーン水素購入モデル=国内で再エネ電力による水電解で水素生産する事業者から水素を購入し、当該水素で発電する。

脱炭素に二つの手法 輸入型と自給型

いずれも、甲社は発電によるCO2排出量ゼロを達成する(CO2排出量相当のカーボンクレジットを購入してカーボンニュートラルを達成することも考えられるがここでは割愛する)。

このうち、①ブルー水素輸入モデル、②グリーン水素輸入モデル、③ガス発電・CO2海外貯留モデル、および⑤ブルー水素国内生産・CO2海外貯留モデルは、いずれも脱炭素機能(改質設備、水素加工設備、CO2地下貯留設備、再エネ発電設備、水電解設備)を海外に依存するので、「脱炭素輸入型」と呼ぶ。

他方、④ガス発電・CO2国内貯留モデル、⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデル、および⑦国産グリーン水素購入モデルは、脱炭素機能が国内で完結するので、「脱炭素自給型」と呼ぶ。

輸入型の六つの課題 自給型の優先的導入を

脱炭素輸入型の場合、日本は「脱炭素消費国」にとどまる。他方、脱炭素自給型の場合、日本は脱炭素消費国と同時に、「脱炭素生産国」となる。

脱炭素輸入型については次の課題が指摘できる。

1.脱炭素輸出国(A国)の消費者ではなく、日本の消費者の電力料負担でA国の脱炭素機能の開発費を賄うことになる。脱炭素自給型であれば、日本の消費者の負担は日本の脱炭素機能の開発を賄う。また、脱炭素機能の経済波及効果(雇用、資材調達など)も日本国内に生まれる。

2.国内のCO2貯留ポテンシャルが「宝の持ち腐れ」となるリスクがある。例えば、水素輸入モデルを先行的に導入し、水素受け入れ基地、水素発電所がひとたび設置された後、LNGの受け入れやガス火力に戻れない。

国内にCO2貯留ポテンシャルが残っていたとしても、④ガス発電・CO2国内貯留モデルおよび⑥ブルー水素国内生産・CO2国内貯留モデルの導入は不要となる。

世界最大級の水素製造施設「FH2R」(福島県浪江町)

3.輸出国(A国)や後発輸入国(アジア諸国など)にフリーライドされる懸念がある。脱炭素輸入型の場合、日本の消費者の電力料負担でA国に脱炭素機能が開発される。日本の公的支援がなされた場合には、国民の税負担も寄与する。「A国の脱炭素機能は日本国民の負担で完成した」ともいえる。A国や後発輸入国(アジア諸国など)はそのような負担をすることなく、A国に完成した脱炭素機能を利用できる。それは日本とA国や後発輸入国との電力コスト負担の差となり、日本の製造業の競争力低下につながる恐れがある。

4.「脱炭素ナショナリズム」により、脱炭素機能の輸入価格が上昇し、貿易赤字、電力コスト上昇、製造業の競争力低下につながる恐れがある。CO2排出量削減に関する国際的なルールが強制力あるものへと進むほど、自国の脱炭素化を他国よりも優先させようとする脱炭素ナショナリズムが台頭する可能性がある。その台頭が脱炭素機能の輸入価格を押し上げることが懸念される。

5.脱炭素機能の現場が海外になるため、日本企業の脱炭素技術の研究開発現場が十分確保できなくなる。現場が日本にあれば、競争力ある技術革新が日本企業により生み出される可能性が広がるが、それがかなわない。

6.改質代やCO2貯留代も合わせた価格になり、市場価格が反映されない恐れがある。LNG市場や日本電力市場の発展で、ガス(LNG)や国内電力について需給バランスで決まる市場価格が形成されつつある。カーボンプライシングの議論も進んでいる。脱炭素輸入型の輸入価格がこれらを適正に反映するか不透明である。反映されない場合、発電事業者が市場リスクの負担を強いられる。

経済と環境の好循環を果たしつつ、カーボンニュートラルを達成する上で、脱炭素自給型を優先的に導入することが合理的ではないだろうか。

こんの・ひろやす 1997年早稲田大学法学部卒。2006年コーネル大学ロースクール卒。
西村あさひ法律事務所パートナー、弁護士、ニューヨーク州弁護士。

石油導管網にサイバー攻撃 運用停止でガソリン不足に


5月7日に起きた米石油パイプラインへのサイバー攻撃に「わが社は大丈夫か」と、肝を冷やした経営者は多いだろう。

米東海岸とテキサス州を結ぶパイプラインを運営する、コロニアルパイプライン社への身代金型ウイルス(ランサムウェア)によるサイバー攻撃により、東海岸への石油流通は約1週間にわたり停止した。米CNNによると、同社導管は国内の石油需要の45%を扱う大動脈。影響で首都ワシントンにあるガソリンスタンドの81%でガソリン不足が発生したという。

今やエネルギーインフラへのサイバー攻撃は、世界中で当たり前のように行われている。過去にはウクライナやイランの発電所や送電所が被害を受け、昨年10月にインド・ムンバイの送電網が攻撃対象となり大停電が発生。鉄道や株式市場が停止する事態に陥った。

今冬にはアメリカ、日本で電力需給ひっ迫が発生したのは記憶に新しく、こうした非常事態時とサイバー攻撃が重なる最悪の事態が起きる可能性もゼロではない。その場合、日本経済に深刻な被害が及ぶのは確実。官民ともに防護体制を見直す必要がありそうだ。

電力販売カルテル被疑事件 自由化の進展と新たなリスク


【識者の視点】松田世理奈阿部・井窪・片山法律事務所パートナー弁護士

大手電力を含む4社への公取委立ち入りは、業界の枠を超えて社会に対して大きな衝撃を与えた。

今後の展開を踏まえ、事業者には激化する競争に対する新たな備えが必要となる。

報道各社は4月13日、「中部電・関電に公取委立ち入り」「大手電力カルテルの疑い」などと大々的に報道した。

公正取引委員会が、電力販売に関するカルテル(不当な取引制限)の疑いで、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の計4社に立入検査を行ったというのだ。また、公取委は同日に、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの計3社について、別の被疑事実により立ち入ったとも報じられている。

報道によれば、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の4社は2018年ごろから、中部、関西、中国の各エリアの「特別高圧と高圧の電力販売」に関し、顧客獲得競争を制限するようなカルテルを結んでいた疑いがある。

また、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの3社は、同じく18年ごろから、中部エリアの「商店や家庭向けの低圧電力や都市ガスの料金」について、値下げ競争をせずに価格を維持することを目的としたカルテルを結んでいた疑いがある。

いずれも、独占禁止法で禁じられているカルテルが結ばれていた疑いがあるという点で共通している。

カルテルとは、競争事業者同士が市場の独占を目的として、販売価格や販売地域などに関して、互いに競争を制限するような示し合わせを行っていたことをいう。そのような行為があった場合には、独禁法違反として、事業者に対し行政処分などが下されることになる。

当事者申告で発覚か 結果次第で多額の課徴金

どうしてこのタイミングで今回の事件の調査が行われることになったのか。

公取委は、事件調査の具体的な内容に関して、正式な行政処分を下すまで一切対外的に発表しない。また、事件調査の端緒については、正式な行政処分を下した後でも公表せず、秘密を保持している。そのため、今回の事件について、公取委が立入検査を行った契機や、その判断材料が何であったのかという点については、正確なところは不明である。

他方で、一般論として、カルテルのように通常は当事者同士にしか知られない行為については、リニエンシー、つまり当事者による自主的な公取委への申告により発覚することが多い。今回の事件についても、関係者によるリニエンシーにより発覚したのではないかとみる向きが多い。

なお、事業者が立入検査などの正式調査が始まる前に最も早くリニエンシーを行うと、その事業者は公取委の行政処分を免れることができる。

今後は、公取委による関係者の取調べなど、事件の調査が当面続くことになる。調査期間は、最近の例を平均すると1年半程度になると思われるが、事案の複雑さや事業者の協力度合いによって前後し、1年程度で終わる場合や、2年近くかかる場合もある。

調査の結果、公取委がカルテルの事実を認定すれば、事業者に対し「排除措置命令」と「課徴金納付命令」という2種類の行政処分が下される。カルテルの場合に課される課徴金は、基本的に違反行為の対象となった取引の売上額の10%となる。しかし、事業者が違反行為を認めて申告し、公取委の調査に協力することで減算されることがある。

仮に報道された疑いが事実であると認められ課徴金納付命令が下されるとすれば、特に販売金額の高い「特別高圧および高圧の電力販売」が対象となっている事件について、その課徴金が多額に上ることが予想される。

KDDIと5G共同検証を開始 業務効率化とレジリエンス強化へ


【中部電力】

2020年3月に運用が開始され、利用エリアが拡大する第5世代移動通信システム(5G)。昨今は対応モバイル端末やIoT機器が続々と登場し注目を集める。

本格的5G社会の到来に先駆け、中部電力はKDDIと共同で、5Gを活用した遠隔監視などの共同検証を20年10月1日から21年1月21日まで行った。

常に安定した供給が求められる電力業界において、「現場業務のさらなる安全確保や効率化」「災害発生時の迅速な設備復旧」などは常々課題となっている。中部電力パワーグリッドでは改善施策の一つとして、変電所の現場業務について、ロボットによる遠隔監視・診断などの開発に取り組んできた。その中で、従来の無線による遠隔操作ではリアルタイムでの操作が難しいという課題が挙がっており、大量かつ低遅延な情報伝送が求められていた。

「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特性を持つ5Gにかかる期待は大きく、業界に先駆けて今回の検証が行われた。

巡視ロボットを遠隔操作 データの送受信を確認

今回の検証では、中部電力パワーグリッド大高変電所と中部電力技術開発本部先端技術応用研究所の2拠点に5G環境が構築された。変電所の実環境における通信性能の検証を行うとともに、①遠隔からの巡視ロボット運転操作、②高精細カメラやスマートグラス(SG)による遠隔監視と作業支援、③マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)活用によるAI分析―など、実運用を見据えた検証が実施された。

5Gを活用した検証のイメージ

①では、中部電力と三菱電機で共同開発中の巡視ロボットが投入され、5Gを活用した遠隔運転操作とその検証が行われた。ロボットアームを操作することにより視点の移動が可能であり、リアルタイム性が上がることで、より人に近い巡視が可能となる。

②では、現場作業者が装着したSGの視界を、遠隔にいる作業指示者と高精細映像で共有するとともに、作業指示をSGの画面上へ同時並行して表示させた。これにより、リアルタイム性が要求される遠隔からの作業支援の有用性が検証された。

③では、通信端末に近い場所にサーバーを配置することで通信の遅延時間を短縮させる技術であるMECを活用した、ストリーム映像のAI分析が行われた。

今回の検証を通して、5G環境により高精細映像や画像などのデータが安定的に送受信できることが確認された。検証場所では、検証終了後の2月以降も追加的なデータ取得などを継続している。今後も両社は5Gを活用し、現場業務の効率化とレジリエンス強化に向けた取り組みを推進していく構えだ。

美浜3号機が40年超運転 脱炭素化に延長が不可欠


関西電力の美浜発電所3号機(82・6万kW)が、日本初の運転開始から40年を超えた60年間の稼働を行う。「老朽原発」であり危険性が高いとして、異論を唱える声もある。しかし、日本原子力産業協会によると、世界では95基の原発が40年超運転を行っている(2021年1月時点)。

最長は運転開始から51年6カ月がたつインドのタラプール1・2号機(各16万kW)。米GE社製のBWR(沸騰水型軽水炉)で、現地専門家はあと15~16年運転が可能と話している。

先進国では、米国のナインマイルポイント原発1号機(62・8万kW、BWR)が51年5カ月運転を続ける。米原子力規制委員会(NRC)は安全が確認された原発の運転延長に前向きで、19年にフロリダ州のPWR(加圧水型軽水炉)、ターキーポイント原発3、4号機(各76万kW)の80年運転を認可している。

50年カーボンニュートラルを宣言した日本。新増設・リプレースが難航する中、運転を最長60年とした現在の規制の見直しを求める声は多い。しかし、肝心の政界内で見直しの気運は高まっていない。脱炭素社会に原発は不可欠。政治家の勇断に期待したい。

福一処理水海洋放出がついに決定 「断固反対」の旗降ろせぬ漁業者


【業界紙の目】八田 大輔/水産経済新聞社 報道部部長代理

福島第一原発の処理水海洋放出という政府の方針決定に、地元関係者の間では「残念」のため息が漏れた。

漁業者の取り組みが無駄にならないよう、福島の漁業の未来に対する政府や東京電力の対応が問われている。

今回の決定は、福島県の沿岸漁業が操業自粛しながら試験操業するという不自然な状況を、東日本大震災後10年経ってやっと抜け出したタイミングでのものだった。

漁業者の反応はさまざまだったが、改めて「断固反対」を掲げた同県の漁業団体幹部らの間では、憤りよりも「残念」というため息が勝った。そこにはさまざまな意味を含んでいる。沿岸漁業の震災前水準への復帰が遠のいたことへの「残念」。覆しようのない政府の決定に対する「残念」。次の世代を担う後継者らに負の遺産を引き継がせることへの「残念」―。

政府は丁寧に説明を尽くし、海洋放出の開始までに漁業者の納得を得るとしているが、それは不可能に近いだろう。なぜなら海洋放出「断固反対」の旗はもう降ろせないからだ。

沿岸漁業はその土地ありき 分断内包し進んだ試験操業

沿岸漁業の多くは、ビジネスよりも家業の性格が強い。生まれた土地で前浜に漁に出て日銭を稼ぐ。地域の食文化や観光産業と根強く結び付き、地元を離れては仕事ができない。

福島の沿岸漁業は震災からまもなく、そのまま土着して漁業を続ける道を探るか、諦めて廃業するかの2択を迫られ、ほぼすべての沿岸漁業者が継続を選択した。

ただ、その理由は一様ではなかった。後継者がいるかそもそも若手の漁業者は、漁業を生業として今後も生きていく強い意志を貫いた。しかし、後継者のいない高齢の漁業者は、廃業までの賠償金を得られれば御の字だという本音が見え隠れする者も少なからずいた。

そんな分断を内包しつつも福島県の沿岸漁業はこの10年、手探りで実績を積んできた。

県による「緊急時環境放射線モニタリング検査(モニタリング)」での膨大な知見の積み重ねで、震災直後に海洋に漏えいした放射性物質の希釈・拡散が不十分な段階でも、タコ類や貝類などには放射性物質が残りにくいことが分かってきた。

そこで科学的に安全が確認されたミズダコ、ヤナギダコ、シライトマキバイ(ツブ貝の一種)の3魚種から、震災直後に海洋漏えいした放射性物質の影響が少なかった県北の相馬沖150m以深の沖合限定で試験的に漁獲し流通させ、市場の反応を確かめることにした。時は2012年6月。いわゆる試験操業の始まりだった。

試験操業の枠組みは非常に特殊だ。モニタリングで科学的な安全が確かめられた魚種から、3つの会議体による討議で第3者の意見も聞いて承認するという手続きを踏んでから、初めて実行に移した。石橋を叩いても渡らないのではと思えるほど、慎重に事を運んだ。

水揚げ日ごとに1魚種あたり1検体を自主的に調べ、放射性セシウムが国の基準値の半分に相当する50ベクレルを超えたら出荷を差し止め、漁獲を当面見合わせるという厳格な基準を設定。基準値超えの水産物が間違っても出回らないようにした。「ただの一度も基準値超えの魚をマーケットに出したことがない」という実績がいつしか小さな誇りにもなっていた。

セリ販売も見合わせ、買受人が新たに組織した組合が一括で引き受けて消費地に出荷し、売れた値段でそれぞれの手取りを逆算する形をとった。買受人からは早期の水揚げ増を求める声が強かったが、産地の受け入れ機能弱体化に目をつぶっても安全最優先を貫いた。

海洋への地下水流入による操業の一時中断、廃炉に必須とされた建屋への流入地下水の低減を目指す地下水バイパスやサブドレン水の海洋放出容認問題も苦心しつつ乗り越えた。

時間の経過による放射性物質の能力減衰、さらなる希釈・拡散、海産魚の世代交代が進む中で科学的な安全を慎重に確認しながら、対象魚種の追加、対象海域の拡大、セリ販売再開などを着実に実施していった。17年8月に漁場を原発から10㎞圏を除く全海域に広げた時までには、商業ベースに乗る魚種はすべて試験操業の対象魚種となっていた。

海産魚の出荷制限魚種がいったんゼロとなり1年以上が過ぎた21年3月末(注:5月現在はクロソイ1魚種が対象)に試験操業と決別。本来の漁業権に基づいて操業する体制に移行した。放射性物質の自主検査の継続や、出漁回数などの制限、隣県海域への入り会い(漁場の相互利用)見合わせなど、震災前と同じというには隔たりが大きいが、確実に前進してきた。正常化を急げば賠償がなくなると危惧する一部漁業者と折り合いを付けつつ、ようやくたどり着いた。政府の処理水海洋放出の基本方針決定はそこに冷や水を浴びせた。

地に足ついた脱炭素に向けて エネルギー企業に集まる期待


【論説室の窓】吉田博紀/朝日新聞論説委員

脱炭素社会実現には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)を減らすことが欠かせない。

そのカギを握る「エネルギー企業」が、強みを生かした具体的な動きに力を入れ始めている。

100年以上、化石燃料で商売してきた会社が「脱炭素」を宣言したきっかけは、若手社員の危機感だった。

東京ガスはおととし発表した中期経営計画で、供給先も含めて排出されるCO2を2050年に実質ゼロにする方針を表明した。

30代中心の30人が議論に参加した。30年後の50年は、自らがまだ会社にいるであろう時期。まさに自分事の世代から「CO2の実質ゼロに挑戦すべきではないか」と声が上がった。

「本当にそこまで言うのか」「超低炭素を目指す、でいいんじゃないか」

新たな世界に挑戦すべき 若手社員が社長に直訴

議論は沸騰したというが「LNG導入を世界で初めて実現した会社として、今度も新たな世界に挑戦したい。いま想定できるシナリオを積み上げるだけでなく、年限を切って技術を総動員すべきだ」と内田高史社長に訴え、採用された。

再生可能エネルギーの最大限導入などと並んで、同社が力を入れようとしているのが、燃やしてもCO2が出ない水素だ。

09年に発売した家庭用燃料電池エネファームは、今年1月までに14万台を販売。その実績を生かして技術を伸ばせば、水電解装置の低コスト化が期待できるとして、20年代半ばの実証実験スタートを想定する。さらに、できた水素から都市ガスの主成分であるメタンを合成(メタネーション)すれば、ガス導管など今ある設備を活用でき、社会コストの増大を防ぐことも可能になると考えている。

さらに、天然ガスの採掘時や燃焼時で発生する温室効果ガスを、植林などのクレジットで相殺する「カーボンニュートラルLNG」の導入や、海外での削減分をカウントするなどして実質ゼロを達成する計画だ。

今年1月には大阪ガスも50年の脱炭素を宣言した。従来方式より高い約90%の変換効率で、水をCO2と一緒に電気分解してメタンを生成できる独自のSOECメタネーション技術に注目。社外の研究機関などと連携して30年ごろに確立するとうたう。25年の大阪・関西万博では、生ゴミから出るバイオガスを使ったメタネーションの実証実験にも取り組むことにしている。

ENEOSホールディングスは19年春、自社が直接排出するCO2を40年に実質ゼロにする目標を打ち出した。CO2を回収して油田の地下に注入し、その圧力で原油の増産を図る技術の拡大を掲げる。CO2と水素を反応させてつくる合成燃料では、触媒の高性能化を急ぐという。

技術面の取り組みだけでなく、経営陣へ意識向上を促そうと、役員報酬制度にしかけを施したのもENEOSの特徴といえる。昨年6月、業績に連動させた株式報酬制度の指標に、CO2排出の削減量を導入した。

環境や社会問題、企業統治の取り組み状況を判断材料に、投資先を重視・選別するESG投資が、国内外で活発になったことも背景にある。環境省によると、日本国内のESG投資残高は18年、約220兆円と16年の4・2倍に増え、総運用資産の18%強を占めるまでになっている。

大手発電事業者にも、脱炭素への動きが相次ぐ。その先駆けが昨年10月、国内外で50年の実質ゼロに挑戦すると発表したJERA。前月に就任したばかりの菅義偉首相が、カーボンニュートラル宣言をする直前のことだった。

同社は東京、中部両電力から引き継いだ火力発電を主力に、国内発電量の約3割を占める。政府が昨年、非効率石炭火力を30年までにフェードアウトさせる方針を打ち出し、逆風にさらされた。

一方で、再エネの主力電源化を進めるほど、調整電源として火力は不可欠な存在になる。そこで、アンモニアや水素を石炭に混ぜた火力発電を実用化することにした。

アンモニアについては、技術的なめどが付いている20%程度の混焼を、30年代前半までに商用化。40年代には専焼の火力発電所も予定している。水素混焼も30年代の本格運用開始を掲げる。

発表会見で奥田久栄・取締役経営企画本部長は、発電事業者として国内だけでなく台湾など海外に進出していることもあり、実質ゼロへの挑戦は「必要条件であり、入場券のようなもの」と話した。

電源開発は、50年カーボンニュートラル宣言の中に盛り込んだ水素社会実現の第一歩として、1981年に運転開始した松島火力発電所2号機(長崎県西海市、50万kW)にガス化設備をつけ加えて生まれ変わらせる計画を立て、環境影響評価(アセスメント)の準備に入った。

同じく50年のCO2実質ゼロを目指す沖縄電力。エリアに多い離島で、外部からの融通なしでも再エネの拡大につなげるための具体策などを挙げた。ほかにも関西、中国、中部、東北、九州各電力や出光興産が50年脱炭素の方針を明らかにしている。

東ガスはエネファームの実績を踏まえ水素に注力する

「気候危機」とまで表現されるようになった温暖化対策問題が喫緊の課題なのは間違いなく、「乗り遅れるな」とばかりに地方自治体、大企業などでもカーボンニュートラル宣言が相次ぐ。ただ中には、ともすれば意思が先行して、その裏打ちがあいまいなものが散見されるのも否めない。

裏打ちあいまいな宣言に 魂入れる選択肢の提示を

エネルギー各社には、長らくエネルギーを安定的に供給してきたこれまでの経験を生かし、地に足ついた策を積み上げ、需要側がそれぞれの事情に合った脱炭素を進められるような選択肢を提示し、魂の入った計画づくりを助けることが求められる。

脱炭素社会は一足飛びに実現できない。時間をかけて炭素依存を和らげていく過程で積極的に貢献していくことも、エネルギー企業に期待される役割だろう。

国内の温室効果ガス排出の8割はエネルギー起源のCO2が占めている。脱炭素社会の成否を左右するであろう、エネルギー企業のこれからの動向から目が離せない。

特定計量制度の基準固まる 多様な電力取引が可能に


電気計量制度の合理化を図る「特定計量制度」が2022年4月にスタートする。これまで取引に用いるデータは、計量法の検定を受けたメーターで計測する必要があったが、新制度では、計量対象となる機器が特定されるなど一定の基準を満たせば、検定を受けていないメーターでも取引への活用が認められることになり、電力取引の可能性が広がる。

経済産業省の有識者会議「特定計量制度及び差分計量に係る検討委員会」は4月、特定計量の定義や要件、届出者が従うべき基準などといったガイドラインを取りまとめた。特筆すべきは、取引当事者間の合意によって計量器の精度を7段階から選択できるなど、需要家目線でより柔軟なサービス開発を可能にしたことだ。

屋根置き太陽光発電設備など分散型リソースの普及拡大が見込まれる中、事業者は電力の双方向取引などによる新たな商品・サービスの創出でしのぎを削ることになりそう。資源エネルギー庁の担当者は、「非化石価値取引の活性化にもつながる」と語り、政府が掲げる脱炭素社会実現の後押しになると期待を寄せる。

安定供給のためにできる備えを 橘湾発電所で津波防護設備が完成


【四国電力】

紀伊水道を臨む小勝島に立地する橘湾発電所は営業運転を開始して21年目を迎えた。今年2月、巨大な地震・津波を想定した防潮堤が完成した。

橘湾発電所は四国の南東部、徳島県阿南市の小勝島に立つ。太平洋に面した四国最東端の蒲生田岬から大きく回り込んだ、紀伊水道の湾内に位置する。

小勝島の西側を埋め立てて建設され、2000年6月に営業運転を開始した。四電が23万㎡、電源開発が36万㎡を保有し、共有部分が約5万㎡ある、共同立地の発電所だ。

四国電力 橘湾発電所

四電側の出力は70万kWで、同社の発受電電力量の約15%を占める。ベースロードとしての役割に加え、近年では再生可能エネルギー増加などに伴う需給調整の役割も担う主力電源だ。今年2月、約3年の歳月をかけた津波防護設備の設置工事が完了した。

四国地方は、南海トラフ巨大地震や、東南海・南海地震が予想されるエリアだ。このため四電は、04年に「東南海・南海地震対策検討委員会」を設置し、10年度まで、従来の想定に基づいた地震と津波対策に、全社を挙げて取り組んできていた。

本店では非常用電源を確保したほか、四電エリア内の送電線支持碍子などに免震対策を施し、復旧資機材や衛星通信設備を増備。停電にも備え、徳島県南部地区の早期復旧のため、送電線の張り替え工事を行った。

東日本大震災で想定見直し 防潮堤の追加工事を実施

ところが、11年に東日本大震災が起こり、政府は「あらゆる可能性を考慮した巨大地震・津波について検討が必要」とし、最新の科学的知見に基づいて検討が行われた。中央防災会議では従来の想定を大きく上回る被害想定を発表。東日本大震災の被害状況からも、津波は浸水だけでなく、波にのまれた建物や車などの漂流物による被害が出ることが分かり、四電は発電所全体を囲う防潮堤が必要だと判断する。

小勝島を埋め立てて建設した橘湾発電所は、高潮対策として海面から4.5mの高さにかさ上げして建設している。だがあらゆる可能性に備えるため、隣接する電源開発と情報連携しながら、地震・津波対策の追加工事を実施することにした。

橘湾に回り込む津波のシミュレーションを行うなど、専門家を交えて計画を立て、18年に工事を開始。場所に応じて高さ2.5~3.5m、全長約1500mの防潮堤で囲い込む工事になった。

建設は土地の状況などに応じて、①鋼矢板、②親杭横矢板、③重力式擁壁、④盛土固化、⑤逆T式擁壁―の5方式を採用。

主に幅0.9m、長さ9mの矢板を地面下に約6m打ち込む、①の鋼矢板方式で進めた。配管などの埋設物がある場所では、約2~7m間隔で打ち込んだ親杭で水平方向に設置した矢板を支え、埋設物を跨ぐ、②の親杭横矢板方式を取った。

設置スペースが広く、地盤の支持力が十分にある場所では、③の重力式コンクリート擁壁で建設。約2~3mの厚みをつくり、躯体の重量で外力に抵抗する擁壁とした。

親杭横矢板方式

重力式コンクリート擁壁

そのほか、防潮堤設置以前からある盛土を有効活用する、④の盛土固化方式や、主要道路や既設機器に隣接し設置スペースが取れない場所では、⑤の逆T式擁壁方式で建設を進めた。

こうして、矢板や鉄筋など約1000tの鋼材と、約4000㎥のコンクリートを使い、約3年をかけた津波防護設備設置工事が完了した。

鋼矢板方式の防潮堤前に立つ高橋所長

常に想定外への備えを 訓練で災害適応力を高める

阿南火力事業所長を兼務する橘湾発電所の高橋尚司所長は、自然災害は想定外のことが起こり得るとし、「ハード面の対策が完成しても安全には謙虚に向き合っていきたい。新たな知見を取り入れながら、これからもできる備えをしていきます」と気を引き締める。

地震が発生した際、設備を安全に止め、点検して復旧するまでをいかに正確に迅速に行うか―。

高橋所長は従業員だけでなく、関係グループ会社や協力会社に対しても災害対応の適応力を高めたいと言い、被災時の復旧体制の整備や、定期的な防災訓練、避難訓練などを行って、避難場所や避難経路を再確認することにも力を注いでいる。 四国電力は日々の安定供給に努めながら、いつ起こるかもしれない自然災害についてもできる備えに取り組みつつ、これからも持続可能な地域社会に貢献していく

LPガスもグリーン化へ 研究進む「有望技術」


LPガスのグリーン化実現に向けて検討を行う「グリーンLPガスの生産技術開発に向けた研究会」は4月23日、研究会の最終報告を発表した。

LPガスは時代の変化についていけるか

会合はLPガス元売り会社で構成する日本LPガス協会が主催し、メンバーとして学識者のほか小売り団体の全国LPガス協会や、資源エネルギー庁石油流通課も参加している。会合についてLPガス関係者は「政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、小売店からも『LPガス業界はどうなるのか』との声も上がっている。元売り・小売りに加え、行政も交えて業界の将来像について議論した意義は大きい」と語る。

報告書では有望な技術として、①LPガスと性質の近いジメチルエーテル(DME)をグリーン化し、これをLPガスに混和することでCO2排出量を削減、②水素とCO2からLPガスを製造するSOEC共電解によるCO2フリー化―の2点を挙げている。両技術ともに既に基礎研究が進んでいるメリットもあるという。

今後は両技術を軸に据え、社会実装につながる技術開発を行う構え。ほかのエネルギーにない特徴を持つLPガスを次世代へと残していくためには、着実に研究開発が行える環境づくりが重要だ。