米国・イスラエルとイランの戦争が始まり、日本のエネルギー確保に懸念が高まっている。二度の石油危機の教訓から日本は原油輸入の中東依存度低減に取り組んだが、喉元過ぎれば熱さ忘れて2020年度以降、90%を大きく超えている。原油は日本の一次エネルギーの4割近くを担い、10兆円程度の輸入額となっており、経済への負の影響は5兆円に上るとの報道がある。
電気事業は原油の利用を7%程度に抑えているので、石油火力が運転不可能となってもその直接的な影響は小さい。問題は日本の天然ガス輸入価格が原油価格に連動する設定になっていることで、原油価格の高騰が間接的に電気料金へ影響を与える。
経産省が24年度に行った発電コスト検証のデータによれば、例えば天然ガス価格の5割上昇は1kW時当たり4円の燃料費上昇となり、天然ガス火力への依存度が32%であることから、年間1・3兆円のコスト上昇となる。電気代だけでこの額なので、負の影響5兆円という報道には納得感がある。
もし原子力の稼働が順調ならどうか。損壊した1F事故炉4基は取り返せないが、その後に17基の原発を閉鎖したことは、安全規制の強化と電力自由化の拡大という政策の組み合わせが招いた大きな誤りだ。17基が稼働していれば年間の発電量は800億kW時増え、燃料費の差(1kW時当たり6円)から、4800億円の節約が可能だった。廃炉されていない原発もいまだ21基が動いておらず、それらが加われば節約効果は倍になる。
本稿が世に出る頃にはイラン戦争が収束していることを祈るばかりだ。(H)
【ワールドワイド/コラム】石油供給と終戦は中露頼み 見通し甘い米のイラン攻撃
国際政治とエネルギー問題
筆者は、資源エネルギー庁石油天然ガス課長としてイランとの石油利権交渉を担当し、2001年にアザデガン油田の優先交渉権を獲得した。イラン人は日本をこよなく愛し、数字にも法律にも強くタフな交渉者。全ての階層で頭脳明晰であった。
イランは単なる中東の一国家ではない。4000年を超える文明の歴史を持ち、過去数世紀にわたり外国からの侵略と干渉に繰り返し抵抗してきた民族だ。1979年のイスラム革命、80〜88年のイラン・イラク戦争(死者100万人超)、長年の経済制裁―どれもイランを屈服させることはできなかった。このような歴史的文脈において、「短期で終わる」という米国の見通しは、イランの国民性と歴史を根本的に誤読している。攻撃の数日前のFBI長官によるイラン担当の防諜部隊職員10人以上の解雇も意味深長である。
今回の攻撃で、ユダヤ教国家により最高指導者ハメネイ師が殺害されたことは、単なる政治指導者の死ではない。シーア派イスラムにおいて、最高指導者は「神の代理」であり、イスラム共同体全体の宗教的・政治的権威を体現する存在だ。革命防衛隊との力関係は微妙だが、新指導者モジタバ・ハメネイ師の選出により、「殉教者の息子が指揮を引き継ぐ」という強力な宗教的物語が形成された。モジタバ師は3月12日、ホルムズ海峡の封鎖を宣言した。
今回のイラン攻撃による供給途絶は過去の石油危機、2022年4月のロシア減産よりもはるかに大規模で、データセンターによるエネルギー需要急増中のタイミングだ。世界のエネルギー情勢を泥沼化させ得る。特筆すべきはスウィング・プロデューサーが機能しない点である。過去全ての危機では、サウジアラビアが増産し、価格を安定させた。今回は石油輸出の唯一の出口がホルムズ海峡だ。そのため、ロシア制裁を解除し、ロシアに増産を乞い願う米国となる。
中国は、孤立するイラン原油の9割を優越的地位で輸入してきた。ホルムズ海峡の封鎖で中国の危機との見方があるが、困るのはイランも同じで、革命防衛隊にとって戦費調達とヒズボラ、フーシなどの支援のために原油輸出が必要で、イランもホルムズ海峡封鎖は避けなければならない。最大輸入国の中国こそがホルムズ海峡封鎖阻止をイランに説得できるパワーを持つ。
米国は今や石油、天然ガスの自給を達成し、輸出国だ。量的には困らないが、ガソリン価格の高騰が国内政治にインパクトを与える。トランプ大統領はテロリスト国家の弱体化、原油価格の急落によるインフレ率の低下を押し出し、11月の中間選挙に臨むだろうが、かつてのイラン・イラク戦争を「毒の盃を飲む」と終戦決定したホメイニ師のような存在が今回はない。だからこそ、ロシアに増産と終戦仲介を、中国にもイラン説得を依頼する支離滅裂な対応に出ざるを得ないのである。果たしてこれが米国のイラン攻撃の狙いだったのだろうか。
(平田竹男/早稲田大学教授・早稲田大学資源戦略研究所所長)
【ワールドワイド/コラム】気候変動問題偏重のIEA 米国が脱退を警告
海外メディアを読む
米国のライト・エネルギー省長官は2月18日、国際エネルギー機関(IEA)に対し、気候変動活動を縮小し、エネルギー安全保障に注力しない限り同機関を脱退すると、改めて警告した(ブルームバーグ)。「改めて」というのは、昨年6月にも同様の発言を行ったからである。予算の最大の分担国である米国の警告は、組織の存続に関わる一大事だ。
IEAは、1974年に石油の安定供給確保を掲げて発足したが、2015年に現職のファティ・ビロルが事務局長に就任すると、気候変動問題への関与を深めてきた。その象徴が21年の「Net Zero by 2050」である。ネットゼロに向けたシナリオを提示したという点では、画期的な報告書であった。
ところが、「一つのシナリオ」に過ぎないはずの本書が、いつの間にか「バイブル」になってしまった。政治家、研究者、活動家、企業などがそれぞれの立場で「IEAは……」と、利用したのである。例えば、ネットゼロへの道しるべとして示された「新たな化石燃料供給への投資は不要」などは「神の戒め」のように唱えられ、金融界はESGと称して化石燃料への投融資を絞ってしまった。「神」の前では、エネルギー価格の高騰に苦しむ市民や、脅かされる国家の安全保障などはかすんだようだ。「安定供給はどこへ行ったのか」という米国の主張も、ある意味、もっともなのである。
さて、本稿を書いている3月11日には、米国―イラン戦争によるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、IEAの加盟国が協調して、過去最大規模の石油備蓄の放出を行うことが公表された。現時点で戦争の行方は見えない中、この組織は、まさしく本来の使命の遂行に、その存在意義が問われている。
(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)
【業界コラム/石油】豪州でガソリン枯渇の危機 政府の無策ぶり露呈
イラク攻撃が長期化の様相を見せる中、世界中でオイルショックが顕在化している。中でも豪州ではガソリンなどの枯渇が現実味を帯びてきた。政府によると、燃料備蓄量はガソリン36日分、ジェット燃料29日分、ディーゼル32日分。備蓄量の発表は3月上旬であり、現在の備蓄はほぼ尽きていることになる。
アルバニージー首相やボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されている全ての燃料貨物船は問題なく到着する。燃料供給の安全性を保証する」と繰り返したが、その楽観論は早くも打ち砕かれた。3月中に豪州に到着予定だった6隻のタンカーが引き返し、到着が遅れることになった。経済界などが懸念していた4月初旬のイースター大型連休になぞらえた「イースターショック」が現実になりつつある。
3月下旬には都市部でも一時休業に追い込まれるSSが出てきた。ガソリン価格はどんどん上がり、22日時点でレギュラー1ℓの価格は豪州全土平均で2・38豪ドル(約264円)まで上昇。国民はガソリンの備蓄に走り、20ℓ入りのポリタンクがホームセンターから姿を消した。在宅勤務への切り替えや公共交通機関での移動が増え、自動車の交通量は減少。配給制になるのではとの憶測も流れ出した。
消息筋によると、政府は水面下で日本などアジア各国に対し、豪州産LNGと引き換えにガソリンなどの燃料の供給を要請したという。無策ぶりが露呈する前に帳尻合わせしようとの魂胆が見え見えだが、都合よく運ぶのか。「燃料供給の安全性を保証する」と豪語したアルバニージー首相は果たしてどう国民の理解を得るつもりなのか。(K)
【ワールドワイド/経営】IEA理事会でエネ安保巡り 米国と欧州に亀裂
2月18、19両日にパリで国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会が開催された。全体的な閣僚コミュニケの採択は見送られ、議長声明の発出にとどまった。閣僚が合意できたのはIEAの重要鉱物に関する作業への支持表明である。個別分野の合意にとどめるのは、昨年6月のG7カナナスキスサミットと同じである。

議長声明で明らかになったのが、クリーンエネルギー転換による脱化石燃料こそがエネルギー安全保障に貢献すると考える欧州と、エネルギー安全保障のためには化石燃料の増産を含めた供給増大が必要であると考える米国との溝である。これまでのIEA閣僚理事会でも原子力の在り方など、加盟国間で立場が異なる問題は存在したが、エネルギー転換とエネルギー安全保障に関する米欧対立ははるかに根が深く、幅広い問題である。このため、議長も事務局も早い段階で包括的な共同声明の採択は諦めていたのだろう。
トランプ政権発足以来、IEAは世界エネルギー見通し(WEO)において、現行政策シナリオ(CPS)を復活させるなど、米国への配慮をにじませてきた。しかし、閣僚理事会で米国のライトエネルギー省長官は、「現在のIEAの政策シナリオに全く満足していない。米国が長期にわたってIEAの加盟国であり続けるためには改革が必要。ネットゼロエミッション(NZE)シナリオなど不要だ」と述べ、NZEシナリオを削除しないとIEAから離脱する可能性があることを示唆している。パリ協定やネットゼロアジェンダは欧州にとって譲れないものであり、米国に配慮してCPSを復活させるまではともかく、NZEを削除することとなれば、黙ってはいないだろう。米国と欧州の板挟みとなったIEAのビロル事務局長は、難しいかじ取りを迫られるだろう。
今年はフランスがG7、米国がG20の議長国となる。米国のG20で温暖化問題が取り上げられないことは確実だが、エネルギー問題についてG7とG20でどのような違いが出てくるのかが注目される。
(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)
【業界コラム/ガス】札幌のLPガス爆発事故、腐食兆候も未処置
札幌市手稲区西宮の沢の住宅団地で2月9日、住宅が爆発する火災が発生し、1人が死亡、4人が負傷する事故が発生した。団地にLPガスを供給する北ガスジェネックス(札幌市)は17日に親会社の北海道ガスとともに記者会見を開き、同社が供給するプロパンガスに起因した可能性があると謝罪した。
事故が発生したのは、コミュニティーガス方式(旧簡易ガス)で231戸にLPガスを供給する「宮の沢コープタウン」。共用ボンベ庫から地中配管を通じて各戸にガスを供給する仕組みだ。同社によると、事故後の現場調査で、火元住宅の敷地内ガス管(ポリエチレン被覆鋼管)の立ち上がり部付近で直径約2㎜の穴が確認された。
会見で、火元の住宅敷地内のガス管に直径約2㎜の穴が見つかったと明かした上で、「2022年9月の法定点検で腐食の兆候を確認したが、緊急性が低いと判断し、処置しなかった」と説明。点検員が立ち上がり部に腐食の兆候を確認し、補修を提案していたという。また、事故前日の8日夕方から、団地全体のガス供給量が通常の2~3倍に増加していたことも判明した。
事故を受け、原因の究明と再発防止策を検討する事故調査・対策委員会を設置。団地内全戸を緊急点検した他、同様の配管を使用する約8145戸を対象に屋外ガス管の漏えい検査を実施。3月9日に完了を報告するとともに、累計17件で少量のガス漏れを検知したとも明らかにした。
今回の事故は、LPガス供給設備の保安管理や点検後の対応の在り方に影響を与える可能性があり、業界でも安全管理体制の再確認が求められている。(F)
【ワールドワイド/市場】英国陸上送電事業に競争原理を導入 コスト低減に期待
英国では、送電事業者3社が、イングランド・ウェールズ、南スコットランド、北スコットランドの3地域で、それぞれ送電設備を独占的に所有している。これら3系統の運用は、国有のシステムオペレーター(SO)が全域一括して担っている。送電事業者は、インセンティブ型レベニューキャップ制(RIIO)の下、規制機関が認可する増強や送電線の設計などを行っている。

一方、洋上風力と陸上の送電系統をつなぐ海底送電線の所有者は、洋上送電事業者(OFTO)と呼ばれる。OFTOは2009年に制度化され、洋上風力事業者が海底送電線を含めて建設した後、発送分離のため海底送電線の所有権を競争入札にかけている。RIIOの下で約25年間安定的な収益が見込まれ、英国内外から多くの事業者がOFTOとして参入している。
OFTO制度の成功を基に、15年頃からは、競争入札により陸上送電事業者を選定する競争的選定送電事業者(CATO)レジームという制度の検討が進められ、昨年時点までに制度の大枠設計は完了している。今年中にCATOライセンスの詳細規定の検討、入札対象となり得るプロジェクト地点の候補がSOから示される予定である。
CATOでは、SOと規制機関がプロジェクト地点を設定し、落札事業者は、設計、用地取得などの建設前準備から全てを担う。事業者に開発初期段階から高い自由度を与え、独占3社では実現できなかったコスト低減などの効果が期待される。
競争入札では、各入札者の事業計画をSOが審査し、費用対効果が一番高く評価された入札者が優先交渉権を獲得する。その後、規制機関による入札結果の精査などを経て、運開から35年間の安定収入期間に入る。減価償却期間は40年とされ、収入期間との差となる5年分は残存資産価値として整理されるも、再入札実施の選択肢もある。その他、収入インセンティブなど、長期インフラ事業固有の財務規律も設計されている。
OFTO制度に続く英国独自の制度として今後が注目される。
(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)
【業界コラム/新電力】政治目標と矛盾する 高市政権の再エネ政策
年明け急遽の衆議院解散、総選挙で自民党が大勝し、第2次高市政権がスタートした。国際情勢が年明けになって急激に不安定になる中、改めて高市政権の掲げるエネルギー自給率の向上は重要性を増す。
①原子力の最大限活用・再稼働、②メガソーラー乱開発に対する規制、③ペロブスカイトや次世代革新炉の建設などによるエネルギー自給率の向上―が叫ばれているが、それ以上に物価高対策、消費税の減税などが論点となり、将来の電源構成の話よりも足元の生活費の問題が国民の関心事になっていることが色濃く出た選挙戦であったと振り返る。長期政権化が見込まれ、まずは2030年に向けたエネルギー政策が実行のステージへと移った。
筆者がやや疑問に思うのは、足元の再エネ賦課金の在り方(国民負担の低減)を考えると言うにもかかわらず、新設野立て太陽光のFIT終了やペロブスカイトの推進が議論の俎上に上がっている点だ。前者のFIT/FIP単価は1ケタ円台まで低下し、非FIT太陽光がコーポレートPPAを中心に多く導入されている状況であり、国民負担の抑制にはほぼつながらない。一方のペロブスカイトの普及には国民負担を増やす施策を取る必要があり、国民負担低減には効果がないと思われる。
また、分散型エネルギー導入のボトルネックには、一般送配電事業者の業務効率の問題もある。業務がひっ迫し系統用蓄電所の接続申請に対応が追い付いていない。業務のデジタル化、データ公開が化石燃料に依存しない電源の導入に効果があるのではないか。実務的に効果のある政策展開を期待したい。(K)
【ワールドワイド/資源】資源開発と低炭素事業を統合 伊・エニのビジネスモデル
2025年度決算発表では油ガス価格低下を受けて減益となる石油企業が多い中、イタリアの垂直統合型企業であるエニが個性的で革新的なビジネスモデルで健闘している。デュアル探鉱モデルとサテライト戦略が特徴的とされ、低炭素へのトランジションとエネルギー安全保障を収益機会にするストラクチャーとして注目される。

デュアル探鉱モデルは、既存生産設備を活用した探鉱投資早期回収と、中長期的な大型資源開発を同時並行して進めるビジネスモデルである。在来型の石油・天然ガス資源開発のショートサイクル化を実現し、昨年はナミビア、アンゴラなどの探鉱で成果をあげつつ、モザンビークの液化天然ガス開発を最終投資決定するなど、発見から開発までの平均期間が5年未満と上流開発事業のファストトラックモデルとなっている。
一方のサテライト戦略は、上流開発事業で広く用いられるジョイントベンチャーを、エニにとってある意味フロンティアである低炭素事業投資に適用したものである。エネルギー安全保障上の要請から、本体では資本市場から自由な調達に制約のあるエニは、上流開発事業において地域ごとに設立したジョイントベンチャー企業、ノルウェーのヴァールなどを通じてプライベートエクイティや地場企業などから第三者資本を導入してきた。低炭素事業ではテーマ別に設立した企業、バイオ燃料のエニライブ、再生可能エネルギーのプレニチュードなどを通じ、資本市場の力をテコに成長加速と企業価値の極大化を両立する体制を構築している。
このエニのビジネスモデルをユニークにしているのは、石油・天然ガス上流開発と低炭素事業を相互補完的なエコシステムとして統合している点にある。コーポレート・ベンチャーキャピタルのエニネクストを通じ、低炭素技術やクリーン燃料へ出資し、デュアル探鉱で生産された天然ガスがガス火力発電やCCUSと結びつくことで、再エネ供給に安定性を加えるなど、エネルギー事業の垂直統合モデルを構築している。
(古藤太平/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部上席研究員)
【業界コラム/電力】繰り返される不祥事 組織構造や企業文化に潜む危険性
営業部門のカルテルに続き、原子力部門のデータ不正。双方の事例に直接の関連はないが、これらの事案を契機に、大手電力会社の組織構造や企業文化に潜む危険性を改めて考えてみた。
電力会社の組織は、営業、送変電、配電、火力、原子力など、機能別に分かれる。専門性を高め、一定の規則にのっとって黙々と仕事を行う必要のある公益事業には最適であろう。しかし、生真面目な人材で構成される各部門のピラミッド型組織では、強い一体感と同調圧力が表裏一体だ。
日本における不祥事の多くは、個人が私腹を肥やすというより、「会社のため」、「組織のため」というものである。営業部門では「組織としての成果」を強く求められ、原子力部門は、国や社内の厳格なルールに縛られると同時に、絶えず世間の批判にさらされる。いずれの部門も、強い外部圧力に対し、「組織の論理」に基づく「過剰防衛」はなかったのであろうか。
機能別の組織の健全性を保つために何が必要か。一つは「外の血」である。「生え抜き」ばかりの組織では、誰もが「次の次の次」くらいまでの親分を予想して「この人には逆らえない」となりがちだ。
もう一つは、「それは違う!」と言ってくれる部下に感謝する文化だ。耳障りのいいことを言って手早く仕事を片付ける部下は、往々にして、下の者に対しては「社長(部長)の指示だ」と言って、無理難題を押し付けるものだ。
人が入れ替わったり、異論が出たりするのは面倒くさいものだ。しかしながら、同調の危険を避け、時代の変化に対応するには、「面倒くささ」を歓迎することが求められるのではあるまいか。(H)
【今そこにある危機】「業者第一」の住宅政策 日本は断熱・省エネ後進国に
前 真之/東京大学工学部建築学科准教授
国民が寒さや電気代に苦しめられる中、住宅政策の転換が急務だ。
地域の優良工務店こそが日本の住環境と脱炭素の未来を切り開く。
住宅の省エネ対策
住宅は国民の生活を守る最終防衛ライン「最後のとりで」である。しかるに、国土交通省の住宅行政はひたすらに供給側保護を最優先する「業者ファースト」であり、住まい手である国民の生活は二の次、三の次とされてきた。本来は2020年に予定されていた住宅への省エネ基準義務化が無期延期とされたのは、怠慢業者保護の象徴だ。

25年になってようやく最低限の断熱・省エネが適合義務化されたが、空白の5年間に400万戸を超える住宅が省エネ基準への適合を求められないまま新築された。大量にストックされた低断熱の増エネ住宅は、冬はヒートショック、夏は熱中症で国民の健康を奪い、高騰する電気代が燃料費補助を通じて血税の浪費と国債乱発につながっている。
日本では1999年に定められた断熱等級4が、諸外国に著しく劣後しているにもかかわらず、23年間にわたり最上位の等級とされてきた。2022年になって上位の等級5・6・7がようやく定められ、遅くとも30年までには等級5の適合義務化が予定されている。さらに25年に運用が始まった住宅基準「GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅」では、等級6+太陽光発電に1戸当たり160万円の補助金がついたことが大きな話題となった。
住環境は少子化にも直結 低性能建材の方が低炭素?
遅きに失したとはいえ、住宅の高性能化が進んでいること自体は喜ばしい。一方で目下最大の問題は、価格が高くなりすぎて多くの国民が家を買えなくなっていることだ。人気地域の地価が急騰し、住宅価格もここ5年で3割上昇というのが業界の共通認識であり、そこにローン金利の上昇がとどめの一撃となった。無理して住宅を購入しようとすれば、夫婦で返済期間50年の超長期ペアローンを組むほかなく、離婚や離職で生活が即座に破綻するリスクを抱えることになる。やむなく安価な建売や中古、または賃貸を選べば、その大半が低断熱の低性能住宅なので、不健康・不快で電気代高騰におびえる生活を強いられる。国交省は住宅ローン減税や補助金を積み増しているが、GX志向型の補助金500億円がわずか3カ月で枯渇したように、焼け石に水の感は拭えない。円安・資源高・職人不足といった積年のツケが一気に噴き出しているのが現状だ。
筆者が主催する高性能賃貸研究会で大家に話を聞くと、「狭い・うるさい・寒い」が賃貸の三大不満であり、賃貸を退去する最大の理由は「子どもができたから」。多くの若夫婦は「無理してまで家を買いたくないから子どもは諦めよう」と考える。低性能な住宅ストックは、日本の少子化を悪化させる大きな原因でもある。
住宅政策の大方針を定めている住生活基本計画は、「50年に目指す住生活の姿」と「当面10年間で取り組む施策の方向性」をテーマに見直しが進められている。高齢者の孤立防止、若年・子育て世帯の住まい確保、住宅価格高騰を踏まえたアフォーダビリティ(手頃さ)確保など、「住まうヒト」のための政策もそれなりに掲げられてはいる。しかし、ご立派なスローガンが業者ファーストで骨抜きにされるのが住宅行政の常。さらに国交省が昨今、建設中に排出される「エンボディドカーボン削減」を最優先課題としていることが、不信に拍車をかけている。
従来の省エネは、断熱・高効率設備・太陽光発電の3点セットにより、居住者の健康・快適な生活を確保しつつ省エネ・省CO2化を図る「運用時」の対策が中心だった。それが最近になって、建物寿命を通して発生するCO2である「ホールライフカーボン」の削減がより重要だとして、とりわけ建設時や廃棄を含めた建物躯体のCO2削減がここ数年ことさら強調されるようになった。まるで「運用時の省エネは解決済み」と言わんばかりである。
躯体の脱炭素化が、地元の木材活用などにつながるのであれば素晴らしいことだ。しかし、「低断熱な建材の方がエンボディドカーボンは少なく有利」などという本末転倒の主張がすでに始まっている。製品の製造時CO2排出量を証明するEPD(製品環境宣言)の取得コストの高さにも不満が漏れ聞こえる。「住まい手に価値を生まないコストアップ」につながりかねない政策に、なぜ国交省はここまでのめりこむのか。どうにもヨーロッパ型の認証ビジネス、新たな利権創造のうさん臭さを感じるのは気のせいか。
脱炭素政策の受容度低下 地産地消で高性能な建築を
米トランプ大統領に代表されるように、脱炭素政策への反発が世界中で渦巻いている。一方で、有権者が不満を爆発させているのは、温暖化対策うんぬんではなく、エネルギーをはじめとした価格高騰だろう。「石油を掘って掘って掘りまくればインフレは収まる」という主張が相当数の米国民の心に響いたという事実は、軽視されるべきではない。地球環境保護のために不便を強いる政策は、すでに多くの不便に苦しんでいる多くの国民が受け入れるはずがない。
住宅で最優先されるべきは「全ての国民が冬の寒さ・夏の暑さ・電気代の不安から解放される」ことである。その実現に必要な住宅ストックを各地で実現するためには、地元の優良工務店が地元の木材で高性能な木造住宅を建てることで、地域が豊かになっていく─。これこそが日本に暮らす人々が幸せになる王道の脱炭素政策である。
日本のシステムは上に行くほど腐臭を放ち、国民が養分として搾取されている。一方で、筆者は30年にわたる研究や賞の審査を通し、日本各地に地元の木材を活用して高性能で魅力的な住宅を建てられる優良な業者がたくさんいることを知っている。日本の希望は永田町や霞が関ではなく、各地の現場にある。地元の優良業者が地域の住宅ストック形成の主たる担い手となることが、真の脱炭素化につながると確信している。
前 真之 まえ・まさゆき/1975年広島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。建築研究所研究員、東大大学院工学系研究科客員助教授を経て2008年4月から現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学。
【インフラ百年の計 Vol.1】迫るコミュニティ崩壊の足音地方存続への現実解を探る
巽 直樹 /アクセンチュア 素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター
本稿は、2026年4月号に掲載された同名記事の詳細解説版である。本誌では、日本の地方社会が直面する人口減少とインフラ老朽化に対し、実効性のない地方創生から脱却して「スマートシュリンク(賢い縮退)」へ舵を切らねばならない現実を指摘した。電力やガス、水道、公共交通といったエッセンシャルサービス(ES)の足元からコミュニティの持続可能性が揺らいでいる今、本ウェブ版では、インフラ崩壊の根底にある制度的呪縛と、それがどのようなメカニズムで作用しているのかなどの構造的深層を考察する。

ユニバーサルサービスの制度的硬直化と「内部補助」の限界
これまで日本の全国津々浦々にインフラネットワークが維持されてきた背景には、「あまねく公平に」サービスを提供するというユニバーサルサービス(US)の理念がある。しかし、この理念を経済的に支えてきたのは、決して魔法の杖ではなく人口増加と経済成長を前提とした「内部補助(Cross-subsidy)」という極めてアナログな仕組みであった。すなわち、需要が密集し収益性の高い都市部や大口需要家からの利益を、コストの合わない過疎地や小口需要の維持費へと補填するモデルである。
「US=全国民へのサービス提供」という現代的な解釈は、「公共善」の美名のもとに生まれたものではなかった。源流は20世紀初頭(1907年)に米国AT&Tのセオドア・ヴェイルが、“One Policy, One System, Universal Service” と掲げたマーケティングスローガンに遡り、独占の正当化と全国ネットワークの拡張を結びつけた。
このように当初は競合排除のための企業戦略であったが、1934年通信法を契機に制度的枠組みに組み込まれ、その後1984年のAT&T分割を経て再定義が進み、現在のUSの概念へと転化していった経緯が、複数の研究で明らかにされている(Mueller, 1993など)
しかし、時代・人口動態が変わった現代では、法的に硬直化した義務が逆効果になりやすい状況を作り出している。特に人口減少フェーズに入った国々では、その一つの方向性として、「受益者負担+競争的調整」の再設計をいかに構築するかが大きなテーマとなっている。もちろん、規制改革による市場メカニズムの導入が万能薬になるわけではない。競争導入によるクリームスキミング(収益性の高い都市部顧客を新規参入者が奪い、既存事業者が不採算地域に取り残される現象)は、通信分野を中心に多数の研究で確認されている現象だ。
また、フランスの一部自治体における水道事業の再公営化や、ドイツの一部シュタットベルケ(自治体所有の地域総合公益企業)による民営化後の所有権買い戻しなど、過度な市場主義に対する反動も既に表面化している。だからこそ、単純な民営化論などのイデオロギーにとらわれない、冷徹な制度設計が求められる。
ここで注意すべきは、インフラの種別によって「供給責任」の重さが異なる点だ。電力においては管内(エリア)全域に実質的な広域供給義務が課されている。一方、ガスや水道は自ら事業許可を受けた供給区域内に限定され、鉄道等の公共交通に至ってはそもそも適用外である。
このような法的位置付けの差異はあるものの、長らく右肩上がりの経済と人口増加を前提としてきた日本では、結果論としてどのESもこの内部補助モデルに依存してきた。法的にUSの対象外である鉄道等の公共交通であっても、実態として地方路線は内部補助(都市部路線の黒字による維持)に依存してきた点で、経済構造は全く同じである。そして現在、パイ(総需要)そのものが縮小に転じたことで、このモデルの行き詰まりが顕在化して久しい。
「三つの経済性」の崩壊プロセス
この内部補助モデルを物理的・経済的に行き詰まらせ、インフラ崩壊へと繋がる根本原因が、「密度の経済性」「規模の経済性」「範囲の経済性」の喪失である。これら三つは単に同時に消滅するわけではない。「密度→規模→範囲」という明確な時間的順序を持って、段階的にインフラの防衛線を突破していく。重要なのは、密度の喪失が最初に来るという事実だ。これは「人口が減ったから問題」ではなく、「人口が分散したから問題」であることを意味する。
① 密度の喪失(局地的・先行的な崩壊)
最初のドミノは「密度の経済性」の崩壊から始まる。ここで重要なのは、マクロの総人口が維持されている段階であっても、局地的な居住地の拡散(スプロール化)や空き家の増加によって、特定エリア内のネットワーク効率が短期間に悪化するという事実だ。人口が減る以前に「人口が分散している」こと自体が、ネットワークの運営効率を下げ続け、導管や電線、輸送ルートの収益性をいち早く毀損する。
② 規模の喪失(広域的・中期的な崩壊)
密度の低下に遅れて顕在化するのが「規模の経済性」の喪失である。地方全体の総人口(絶対数)が減少フェーズに入ると、地域の総需要量が落ち込む。これにより、発電所や浄水場、車両基地といった巨大な固定費を利用者一人あたりで薄めることができなくなり、構造的な問題が顕在化する。必然的に製品・サービス1単位あたりの供給コストは上昇し、場所によっては禁止的な水準となる。
③ 範囲の喪失(制度的・後期的な崩壊)
人口動態によって①と②が不可逆的に失われる中、本来であれば最後の防衛線となるべきなのが「範囲の経済性(複数事業の統合によるコスト吸収)」である。しかし、日本のESは歴史的に電力・ガス・水道などが縦割りで発展してきたため、包括的なライフライン構築が元より脆弱だ。
さらに、数少ない「範囲の経済」を体現してきた地方の中小エネルギー企業(簡易ガス、LPG、燃料販売などの多角経営)や、ガス局と水道局を一体運営してきた公営企業などが、市場縮小や規制改革により短期的な成果を目指して事業分離(アンバンドル)されたことで(ガス事業のみを民営化など)、長期的な視点での事業統合の強みを人為的に解体している。
密度と規模の経済性が失われた地方において、縦割りのまま単独のインフラを維持することは極めて困難である。だからこそ、フランスの「15分都市(コンパクトシティ)」を模範とした空間の再定義と並行して、ドイツのシュタットベルケのように地域インフラを束ね直す「地域総合ユーティリティ」の構築、すなわち「範囲の経済性の意図的な再構築」へと向かわねばならない。これがスマートシュリンク後の「点」を磨くための、重要な生存戦略となる。
「補助の逆転」というデススパイラル
前述した内部補助というシステムを経済学的な視点から見ると、パイの縮小は単なる「資金不足」にとどまらない致命的な「補助の逆転」を引き起こす。
内部補助は、補助する側(都市部や大口利用者などの送り手)の余剰によって、補助される側(過疎地や小口需要などの受け手)の赤字を埋めることで成立している。しかし、人口減少と縮小社会においては、送り手の余剰が縮小し、受け手の赤字が拡大していく。やがて、「送り手と受け手の比率が逆転」する臨界点を迎える。人口減少だけでなく、自由化による収益源の流出もこの逆転を加速させる要因となっている。
これは制度が前提条件の変化によって逆作用を起こす現象であり、制度設計の前提であった「成長と拡大」という環境条件が崩れた瞬間、これまでネットワークを維持してきた善意のシステムそのものが、インフラ全体を共倒れさせるデススパイラル(滅びの連鎖)のエンジンへと転化することを意味している。
漸進的劣化の不可視性:なぜ認知が遅れるのか
人口動態から社会・経済の構造変化を読み解く「加齢経済学」の観点からは、遥か以前から予測可能であったこの惨状に対し、なぜ人々の危機意識の醸成がこれほどまでに遅れたのか。それは行政学や制度論における「漸進的劣化の不可視性」に起因する。
三つの経済性の崩壊や内部補助の逆機能は、線形(一定のペース)で悪化するわけではない。長期間にわたって表面上は「これまで通り問題なく動いている」ように見えるのがインフラの恐い特性だ。しかし、水面下で限界点(クリティカルポイント)を超えた瞬間、橋の崩落、大規模な漏水、あるいは事業者の突然の経営破綻として、非線形かつ暴力的に露見する。平時の政策モニタリングや、市民の日常生活の中では、この臨界点の接近を感知できないのである。
インフラ百年の計と「地方自立」へ向けて
「三つの経済性の段階的崩壊」「補助の逆転」、そしてコストの急騰を招く「インフレスパイラル」。これらの多重苦に対する認識を根本から改めなければならない。そして、「日本の社会課題はGXだけではない」という現実に向き合うことだ。環境対策は重要だが、GXや脱炭素を推進するにあたっても、地域の経済合理性との整合性を慎重に検証する必要がある。採算性の合わない投資を続ければ、基礎自治体の衰退はむしろ加速するからだ。
交付金に頼る「地方創生」は「少子化対策」などと同様に、政策効果の検証が十分とは言い難いツールと化している。真に求められるのは、現実を冷徹に直視し、強い意思を持つ首長などの地域リーダーによる「地方自立」である。
さらに、日本全国を一律に扱う思考を捨て、都市部・近郊地域・過疎地域の3類型で異なる現実解を探らねばならない。特に過疎地域においては、USという制度自体のあり方を問い直し、最低生活保障水準をどこに置くかという政治的合意を前提とした受益者負担の原則へと回帰する議論を避けては通れない。スマートシュリンク(賢い縮退)は敗北ではなく、インフラを次世代へ繋ぐための生存戦略である。
持続可能性(サステナビリティ)とは、最初から与えられる権利ではなく、現実的な痛みを伴う取捨選択の果てに残る「結果論」である。これまでの上辺だけのサステナビリティ論を脱し、サバイバル(生存)とレジリエンス(強靭性)を獲得するためのインフラ再考が、今こそ求められている。「持続可能か」を問う前に、まずは「生存可能か」を問う具体的な戦略への転換が急務である。

信託銀行、電力会社、研修企業、監査法人、監査法人系コンサルティングなどを経て、現職。博士(経営学)。立命館大学ビジネススクール客員教授、国際公共経済学会理事。
【経済評論】日本でのCCS実現へ液化CO2の船舶輸送が鍵
【脱炭素時代の経済評論 Vol.25】関口博之 /経済ジャーナリスト
脱炭素化に向け、最後までゼロにできないCO2に対する切り札になるのがCCS、二酸化炭素の回収・貯留技術だ。とりわけ鉄鋼や化学など既存技術だけでは脱炭素化が難しい、いわゆる「ハード・トゥ・アベイト」な産業の期待は大きい。国も支援に乗り出し、先進的CCS事業としてJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が9件のプロジェクトを選定している。電力・鉄鋼・化学・石油精製・商社など大手企業がコンソーシアムを組み、2030年代初頭の事業開始を目指している。

先行するのはパイプライン輸送を想定する案件。北海道苫小牧市では石油資源開発が今年1月、地下貯留のポテンシャルを探る試掘を始めた。北海道電力の発電所と出光興産の製油所から出るCO2を貯留するもので国内の第1号案件を目指す。
ただし多くのCCSでは排出源と貯留場所が遠く離れているのが通例で、その場合はCO2を液化して船で運ぶ方法をとることになる。現在検討されているプロジェクトのうち、マレーシアなど海外での貯留を計画する案件など6件は、液化CO2運搬船の利用を予定している。ただ実用化には大幅なコスト低減が必須で、そのためにさまざまな「仕様の共通化」が必要なことが明らかになってきたという。これまでは各プロジェクトが独自に進めてきたサプライチェーン構築を、逆に共通化できるところは共通化する方針へと転換することになった。
どんな方策をとるのか。例えば港の陸上施設と船舶を接続する装置の仕様の統一。これが違うと別の港では積み込み、荷揚げができなくなってしまう。CO2に不純物の混入が少ないことも重要だという。タンクの腐食につながる成分を一定以下に抑える基準も設ける。運搬船の主な船型・主寸法制限も設定する。外航船、国内貯留地向けの内航船、ハブアンドスポーク輸送向けの小型内航船の3種の船型を設定した。さらに輸送タンクの大型化に適するようにタンクの温度と圧力も「低温・低圧方式」に決定。同様の方式に合わせれば造船会社は連続しての建造が可能になり、コスト削減できる。液化CO2船は有望な「次世代船」になる。
JOGMECは今のところ、具体的なコスト削減目標までは示していない。パイプライン方式に比べ2倍を超えると見込まれるコスト差を縮めるのは至上命題。しかも国が目指す「30年代初頭の貯留開始」にめどをつけようとしている。
世界はさらに1周先を行く。ノルウェーでは世界初の商用液化CO2船による輸送が始まっている。エクイノールとシェル、トタルエナジーズが進めるノーザンライツプロジェクトで、セメント工場などから回収されたCO2を船で運び、パイプラインで海底下2600mに貯める。昨年夏に圧入が始まり28年までに年500万tの輸送・貯留を目指している。船の運航を担うのは実は川崎汽船、フェーズ2からは商船三井も加わり、日本海運が先例を作っていく。
CCSではCO2の回収や安全な貯留も重要だが、輸送がそれ以上に成否を決める。「CO2を運ぶ」、これが新たな産業になる日も遠くないだろう。
【マンスリートピックス】東京ガスNWがねずみ鋳鉄管の更新完了 30年の取り組みが結実
東京ガスが最後まで残っていたねずみ鋳鉄管のPE管への更新を完了した。
これにより、全国の低圧導管の地震などによるガス漏れリスクが解消された。
1996年のガス事業法改正により、土中への新規敷設が禁止されたねずみ鋳鉄管の最終更新工事の現場が2月19日、報道陣に公開された。ねずみ鋳鉄管は、大きな外力が加わった場合に亀裂が発生するリスクがあり、過去には漏えいによる死亡事故や爆発事故が発生したことも。そのため、ガス業界をあげて、腐食せず、破断しにくく半永久的に使用可能なポリエチレン(PE)管への更新を進めてきた。


横浜市南区の更新作業完了は、東京ガスネットワーク(NW)の悲願だった。これにより、30年以上の年月をかけて実施してきた、供給エリア内の4236kmにも及ぶねずみ鋳鉄管の対策工事が完了した。
工事開始の96年から段階的に工事量を増やし、計画的に進めてきたが、導管延長が4000kmを超える上に、繁華街が多い首都圏エリアとあって進捗は難航を極めたという。銀座並木通りや新宿・歌舞伎町、渋谷などでは、店舗が営業を終える深夜から早朝という短時間での工事を強いられた。また、電気や水道などの他のインフラ設備が重複して埋設される場所では、他事業者と粘り強く交渉、調整を実施するなど、慎重さも求められた。
沢田聡社長は「(自身が)在職中に取り替え作業が終わるとは、(工事を開始した当時は)思えなかった」と長きにわたった事業に思いをはせた。また「地域住民の方には、大変な理解と協力をしてもらった。さらに現場で取り替え作業に従事した工事会社やパートナー企業の努力のたまものだ」と関係者への感謝を口にした。

東ガスNWは安全・安心なガス供給を継続的に提供するため、今後、AIを活用したガス管の劣化予測やリスク診断を実施、それを基にした計画的な取り替え、更新に尽力する考えだ。
太陽光とのタッグで省エネ戸建て住宅の定番設備へ
高い省エネ性能と、太陽光の自家消費を実現する「おひさまエコキュート」。
政策によるZEHの後押しなど、近年急速に普及しつつある要因に迫った。
東京電力エナジーパートナー おひさまエコキュート
電気と空気の熱を使い、ヒートポンプでお湯を沸かす―。今ではすっかり家庭用給湯機として定着した「エコキュート」は今年で発売から26年目を迎えた。同機は冷媒となる気体を圧縮すると高温化、膨張すると冷温化する物理現象を応用。空気中の熱を吸収するヒートポンプ技術で沸き上げる。消費電力に対し3~4倍相当分の湯沸かし性能を有するのが特徴だ。
「給湯は家庭のエネルギー消費の3割を占める。当時、同分野の省エネは未着手だった。そこで東京電力(当時)、デンソー、電力中央研究所の3者が1998年に開発に着手し、2001年に発売にこぎつけた」。東京電力エナジーパートナー(EP)の後藤邦彦イノベーション推進担当部長は、開発の歴史をこう振り返る。


24年度末に1000万台 近年は導入ペース早まる
エコキュートはこの省エネ性能により普及し、24年度末には国内累計販売台数が1000万台を突破。近年は普及の勢いが加速し、500万台を突破して、わずか8年で1000万台に到達した。これに寄与しているのが「おひさまエコキュート」と太陽光発電の組み合わせだ。
従来型のエコキュートは夜間電力を活用していた。近年は太陽光発電の導入が進んだことで、昼間に電力余剰があり、出力制御まで実施されている。この状況を踏まえ、おひさまエコキュートは再エネの有効利用ができる昼間にお湯を沸き上げる。
また、年々下がっている再エネの固定価格買い取り(FIT)制度の売電単価が昨年は1kW時当たり15円になり、太陽光で発電した電気を自家消費に回した方が光熱費の削減につながるようになった。この二つの要因が相まって、おひさまエコキュートと太陽光の組み合わせが急成長したのだ。

自家消費向けプラン好調 政策も普及の追い風に
東電EPでは、おひさまエコキュートと太陽光をセットで導入する世帯向け電力料金プラン「くらし上手」を用意している。時間帯によらず料金単価が同一であるほか、給湯機やIH調理器の修理を無料で受けることが可能であるなど、電化ニーズに沿ったものだ。お客さま営業部電化推進グループの成田菜採グループマネージャーは「同プランには、昨年比で1・5倍の申し込みがあった。太陽光とおひさまエコキュートをセットで導入するお客さまが相当数あったと見ている」と、同プランの手応えを強調する。
政策の後押しも大きい。14年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という言葉が明記され、「20年までに標準的な新築住宅で、30年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」と定められた。これにより15年から戸建て住宅を対象としたZEH補助金制度が本格化した。23年度の支援事業「ZEH+」では75%がエコキュートを採用している。また、昨年9月にはZEH+以上の達成水準を求めるGX―ZEHが定められた。おひさまエコキュートはエコキュートよりもさらに省エネ評価が上がり、GX―ZEH水準を達成しやすくなる。
おひさまエコキュートと太陽光の組み合わせは他の方式と比べて圧倒的に省エネかつエネルギーの有効利用につながり、課題である家庭部門の脱炭素化に寄与する。ヒットの枠を超えて、今後戸建て住宅のスタンダードになっていくかもしれない。
