エネ事業者が消費行動を予測 地域総ぐるみで取り組む時代へ

【羅針盤(第3回)】中井俊裕/カーボンニュートラル・ラボ代表取締役/静岡大学客員教授

脱炭素時代に向け、自治体や地域に根差したエネルギー事業者の果たす役割が高まっている。

地域で産官学連携の横断的な組織をつくり、羅針盤をつくり上げていくことが期待される。

 カーボンニュートラル(CN)社会への対応とは、まさに社会構造の変革、社会システムの再構築と捉えており、この社会構造変化を仕掛けることができた者が次代の勝者になるのだと前号まで論じた。言い換えると、CSVの実践によって付加価値を生み出す考えをいち早く取り込むことができた企業のみが明るい将来を享受できるのではないか、ということだ。

本稿では、このマクロ的な課題であるCNをどの程度の範囲で考えたらよいのかを論じてみたいと思う。その答えの一つは、「〝地域〟をよく理解すること」ではないかと考えている。

エネルギー基本計画のエネルギー供給構造や電力のエネルギーミックスの議論、そして(電気・熱配分後の)温暖化ガス排出量の結果などは、わが国全体を俯瞰した計画であり、結果である。ただし、エネルギーの供給構造を論じる上では、エネルギー消費構造を理解する必要があるし、また今後数十年単位でどのように消費構造が変化していくかを見極めることが大事だと思う。そして、エネルギーの需要構造をいくつかのシナリオによって理解することで、温暖化ガスの排出量の変化を論じることができるのではないだろうか。

例えば、静岡県には火力発電や鉄鋼などの産業は存在しないため、CO2の排出源の構成は全国平均とは全く異なる。静岡県におけるCO2排出源の多くを占める産業分野においても、産業構造が徐々に変化していることが製造品出荷額の推移などから考察される。また自動車関連産業の出荷額は相変わらず比率が高いものの、この数年は伸びが止まっており、電気機械分野が伸びていることが分かる。紙の町として知られる富士市を中心とした紙パルプ産業や化学、食品など比較的エネルギー多消費産業といわれる分野はほぼ横ばい傾向となっている。今後、これらの産業は社会環境の変化に伴って、どうなるのだろうか。

静岡県の世帯数と人口

過去のトレンド参考にならず 消費構造をどう推定するか

まず大きく影響するのは、自動車の電動化と人口減少ではないか。電気自動車の普及に伴い、旧来の自動車産業の構造は大きく変わり、また中国製の電気自動車との競合など輸送機械部門は構造転換を強いられるのではないかと予想される。また人口減少に伴って、生活関連である生活紙、食品、飲料などは生産量自体が減少するのではないかと思われる。

一方で、DXを合言葉に、電気機械や情報産業系などは伸びも期待できるし、素材革命によってのプラスチックや化学なども有望な分野と考えられる。多分、過去の消費トレンドが全く参考とならない時代になろう。従って、この地域の中の産業構造の変化とエネルギー需要について、しっかりと自治体や地域に根差したエネルギー事業者などが研究をしていく必要があるのではないだろうか。

また、民生用のエネルギー消費構造もどうなるのか。人口構成や世帯数、平均気温や所有する家電製品など多くの要素が影響する。間違いなく人口減少と平均年齢の上昇、そして電化住宅の増加や電気自動車の普及率アップといった要素を今後のトレンドに取り込んだときに、消費構造をどう推定すればよいのだろうか。

これらも全国の平均ではなく、一つの県単位で推定することが有効だと考えられる。その理由は、人口変化の社会動態による影響や所得の傾向、気温などその県ならではの独特の傾向があるからであり、これらも地域で活躍をするエネルギー事業者などが、その土地の将来傾向をつかみ複数のシナリオを用意しておくべきだろう。言い換えると、地域のエネルギー事業者は消費構造をしっかりと予測しないと供給面でのリスクが高まることを意味している。

図は静岡県の世帯数と人口を示したグラフだが、この10年間で20万人ほどが減少していることが分かる。これが先の産業分野に雇用という形で影響も与えることから、エネルギー消費構造を誰が主導して作り上げるのか。CNの戦略を考える上で十分考慮されるべきだろう。

最後に、CO2排出に影響を与えると考えられる静岡県の自動車保有台数について触れる。こちらも所有台数自体は、この数年310万台程度で横ばい傾向だが、その中身は軽自動車の比率が増加しており、これも世帯・人口数や生活の仕方などの傾向が現れているものと思われる。

マクロとミクロをつなぐ まずは静岡から発信へ

筆者は現在、大学に籍を置きながら、静岡県の地域のエネルギー需給構造がどうあるべきかについて研究を行っている。全国大で論じられるエネルギー政策論(マクロな視点)とは違った、地域独自の傾向を取り入れた個々の消費構造(ミクロ的な視点)を積み重ねることにより、日本全体としても間違いのない羅針盤が出来上がるのではないかと思われる。

このような羅針盤を作り上げるためには、それぞれの地域における行政と事業者、そして大学などを交えた横断的な組織が各地で出来上がればと期待しているところだ。まずは、地元の静岡で「CN城下町」を作り上げ、全国に発信していきたい。

人類がこれまで地球という船の単なる乗員だった時代から、船を操縦する役割に変わった今、地球号の行方をコントロールできるのは人類しかいない。CNは規制ではなく、SDGsの理念「地球の持続可能な発展」のために不可欠な取り組みだ。

今こそ、社会価値と企業価値の両立を実践する事業者や、地域の最適なエネルギー消費構造を作りCNのエネルギー供給を手掛けるエネルギー事業者、そして自治体や大学などが一体となって未来をつくり出す〝地域総ぐるみ〟の取り組みを行う時代が到来したことを自覚するべきだ。

なかい・としひろ 1986年宇都宮大学工学部卒、静岡ガス入社。静岡ガス&パワー社長などを経て、2022年3月退社。中井俊裕カーボンニュートラル・ラボを設立し現在に至る。

【羅針盤(第1回)】 駿府城・静岡市の特性を生かす 官学民連携で新たな脱炭素モデルへ https://energy-forum.co.jp/online-content/8491/

【羅針盤(第2回)】人材・リスク・技術革新が重要 迫り来る脱炭素社会への取り組みhttps://energy-forum.co.jp/online-content/8822/

【石油】補助金の意外な評価 出口戦略の必要性

【業界スクランブル/石油】

市場原理に反する、物価体系の相対水準を壊す、価格抑制の実感がない、選挙目当てのバラマキだ、温暖化対策へ逆行―など批判の多い原油高騰対策の補助金であるが、意外にも、経済産業省の記者や元売り会社・ガソリンスタンドの関係者などからは評判が良い。制度的に精緻で良く考えられており、現実の取引を阻害することなく、面倒な手続きなど悪影響の発生を抑え、効果を上げているからだという。

補助金は、石油製品価格の上昇がコロナ禍からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため、時限的・緊急避難的に、基準価格時点からの原油価格の上昇分を卸売価格抑制の原資として、石油元売会社に対して補てんするものである。価格上昇に伴い4月末には、補助限度額が1ℓ当たり25円から35円に増額され、支給基準価格も同172円から168円に引き下げ、支給期間も9月末まで延長されるなど、大幅に拡充された。元売りも、補助金の趣旨どおり、忠実にトンネル役を果たしており、ガソリン小売価格も、補助金開始以降、基準価格172円前後の水準で推移している。この間の原油価格の変動から見れば、補助金がなければ200円前後の水準に達していてもおかしくない。その意味では、価格抑制の効果は十分に出ている。

しかし、何分にも、月間最大3000億円の財源が必要である。ウクライナ戦争については長期化が予想され、原油価格鎮静化の兆しも見えない。もし補助金の終了時に油価高騰が続き、35円限度額が出ていたら、石油製品の小売価格は一挙に35円も上がる。こうなっては、目も当てられない。

戦争と同様に、物事は始めることより、終わることの方が難しい。出口戦略を早いうちに考えておくことが必要だ。(H)

【検証 原発訴訟】取消訴訟の主張立証責任 実質的に行政庁に転換したインパクト

【Vol.3 伊方最判③】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

「伊方最判」の分析第三弾では、原子炉設置許可処分の取消訴訟の主張立証責任に焦点を当てる。

主張立証責任は原告側との原則を修正して実質的に行政側にあるとしたが、これはどんな意味を持つのか。

 前回に引き続き、伊方発電所に関する最高裁判決を取り扱う。第二回では、伊方最判が、原子炉設置許可取消訴訟における裁判所の審査・判断の方法を、行政機関が行った審査に焦点を当てて、現在の科学技術水準に照らし二段階で行うとしたこと、この裁判所の審査・判断の方法が現在でも通用することを確認した。

伊方最判では、原子炉設置許可処分の取消訴訟の主張立証責任についても判断を示している。主張立証責任とは、主張立証に失敗した場合、主張立証しようとした事実等がないなどと扱われ、不利益を被ることをいう。

伊方最判は、原子炉設置許可処分の基準の適合性の判断について次のように示している。行政機関に専門技術的裁量が認められるとの原子炉設置許可処分の性質からすると、例外的にその裁量を逸脱または濫用して行政庁の判断に不合理な点があると主張する側(伊方最判で言えば原子炉設置許可処分の取消を求めている原告=住民側)に主張立証責任を負わせるべきとの考えの下、「被告行政庁がした判断に不合理な点があるとの主張立証責任は、本来、原告が負うべきものと解される」と判断して、まずは原則論を確認した。

今では規制委は審査状況をおおむね公開している

許可処分不合理との「推認」 覆すことは事実上不可能

しかし、伊方最判はこの原則論を修正した。すなわち、「当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべき」とした。

要するに、被告行政庁がまずその判断に不合理な点がないことを相当の根拠・資料に基づいて主張立証する必要があり、それに失敗した場合には、行政庁の判断に不合理な点があることが事実上推認されるとした。

この判示については、被告行政庁が主張立証を尽くさない場合の効果として、行政庁の判断に不合理な点があることが「事実上」推認されるとの言い回しから、主張立証責任を原告側(住民側)から行政庁に転換したものではないと説明されることがある。しかし、行政庁が主張立証に失敗した場合に、事実上とはいえ原子炉設置許可処分をした判断に不合理な点があることが「推認」されることのインパクトは、非常に大きい。

というのも、この推定が働くのは、被告行政庁が具体的審査基準や審査過程において不合理な点がないことを相当の根拠、資料に基づき主張立証することに失敗した場合である。そのような場合に、原子炉設置許可処分をした判断に不合理な点がないとして、この推定を覆すことはおよそ不可能だからである。実務的感覚としては、「事実上の推定のテクニックを用いて、被告行政庁へ立証責任を転換している」との評価が最も的を射ているであろう。

伊方最判がこうした主張立証責任の実質的転換をした理由は何か。「当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点」、すなわち証拠が被告行政庁側に偏在していることのみを明示的な理由とした。「など」として他にも理由があることがうかがわれるが、最も強い理由が証拠の偏在であることは間違いない。

では、この証拠の偏在という理由が現在でも妥当するのか。現在の原子力規制委員会では、いわゆる新規制基準への適合性審査の状況をほぼ全て公開していることや、伊方最判後に行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる情報公開法)が制定されたことなどから、安全審査に関する資料についての証拠の偏在状況は、伊方最判当時とかなり異なるといえる。とすれば、現在では伊方最判が挙げる理由のみで被告行政庁への立証責任の転換を認めることは困難だと思われ、より具体的かつ説得的な理由付けが必要になるだろう。

安全審査の対象範囲 基本設計に限定

また伊方最判では、原子炉設置許可段階における安全審査の対象についても判断を示した。これは、上告人ら(住民側)が、安全審査は核燃料サイクル全般、原子力発電の全過程に及ぶと主張していたことに対する判断である。

ここでも原子炉等規制法の法解釈から結論を導いた。すなわち、炉規法がいわゆる分野別規制(製錬事業や原子炉の設置、運転などといった分野ごとに規制を行うこと)と段階的規制(原子炉施設の設計から運転に至る過程を段階的に区分して規制を行うこと)という構造だと指摘(ただし分野別規制と段階的規制を取る合理性については触れていない)した上で、「規制の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性にかかわる事項の全てをその対象とするものではなく、その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である」と法解釈した。

そして、固体廃棄物の最終処分の方法、使用済み燃料の再処理および輸送の方法、ならびに温排水の熱による影響などに関わる事項は、原子炉設置許可段階の安全審査の対象にはならないと判断した。要するに炉規法の仕組みから、原子炉設置許可段階における安全審査の対象は基本設計に関わる事項のみであると判断したのである。

他方、基本設計(ないし基本的設計方針)という用語・概念は法律上のものではなく、内容が判然としないとの意見もある。しかし、行政訴訟では結局、原子炉設置許可処分の違法性が問題となるのであるから、原子炉設置許可処分に当たっての行政機関の審査対象が何なのかが重要であって、それを端的に基本設計という用語・概念で説明したと捉えればよい。

この点については、最判2005年5月30日のいわゆる「もんじゅ最判」との関連で述べた方が分かりやすいため、次号ではもんじゅ最判を取り上げる。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。
22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【マーケット情報/6月17日】原油下落、需要後退の予測台頭

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。特に米国原油の指標となるWTI 先物は11.11ドル、北海原油を代表するブレント先物は8.89ドルの急落となった。米国の経済減速を背景とした需要後退の見通しが台頭し、売りが優勢に転じた。

米国の連邦準備理事会が、インフレ対策として急激な利上げを決定。1994年以来の大幅上昇となる75ベーシスポイント(0.75%)の引き上げとなった。これにより、米国の経済が冷え込み、石油需要が後退するとの予測が広がった。

供給面では、米国で、日量100万バレルの戦略備蓄放出のうち、6~7月デリバリーで3,600万バレルの買い手が決定。加えて、同国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが毎週発表する国内石油採掘リグの稼働数は4基増加して584基となった。石油とガス採掘リグの合計は740基となり、2020年3月以来の最高を記録した。

【6月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=109.567ドル(前週比11.11ドル安)、ブレント先物(ICE)=113.12ドル(前週比8.89ドル安)、オマーン先物(DME)=116.33ドル(前週比2.77ドル安)、ドバイ現物(Argus)=116.10ドル(前週比2.66ドル安)

【ガス】CNの潮流止まらず LP業界は発想転換を

【業界スクランブル/ガス】

 全国LPガス協会は、カーボンニュートラル(CN)対応検討会で昨年末にまとめた中間報告の実行への対応を検討するため、4月末に「LPガスCNWG」を立ち上げ、〝見える化〟から始まるグランドデザインを作成する。中間報告で示した10項目の経営展望を具体化するものだ。LPガス販売事業者の省エネやCO2排出量の算出・把握、排出量の削減・カーボンオフセット取引、サプライチェーン内での可視化などをデータベース化し、LPガスがCO2削減に有効であることなどをアピールするという。

LPガス元売りでは「日本グリーンLPガス推進協議会」がグリーンLPガスの研究開発をスタートさせたが、実用化へのハードルは高い。LPガス存続にはトラジションでの卸売・小売業界の活動が重要だ。実行活動として挙げるのがエコジョーズやエネファーム、高効率給湯器の普及活動。また、低消費電力の広域無線通信技術・LPWAを活用した集中監視システムの導入率改善、充てん所・配送センターの統合を足掛かりとしてAI・IoTを活用した交錯配送の改善による効率化向上なども検討するとしている。ただ、これらの活動は重要だが、今までも実施してきたことで新鮮味があるとはいえない。

ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー情勢に多様な変化が起きている。CNの潮流は停滞するかもしれないが止まることはなく、脱炭素化は着実に進める必要がある。ここはこれまでの発想を変えて、大手LPガス事業者が川崎市に建設したDX(デジタルトランスフォーメーション)を実装した世界最大規模のLPガス充てん基地の共同利用や、先進的ビジネスモデルを実行するLPガス事業者への相乗りも視野に入れてはどうだろうか。(F)

分散型電源の普及拡大に貢献 エネルギーシステムを変革する

【エネルギービジネスのリーダー達】上村一行/シェアリングエネルギー代表取締役

太陽光発電由来の電気をお得に利用できる「シェアでんき」を展開する。

目指すのは、脱炭素社会を実現するための新たなエネルギーシステムの構築の一端を担うことだ。

うえむら・かずゆき 2002年デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)入社。08年アイアンドシー・クルーズを設立。18年1月シェアリングエネルギー設立に携わり20年2月代表取締役。

 「再生可能エネルギーによる分散型電源を創出し、エネルギーシステムを変革する」という、明確なミッションを掲げ2018年に発足した電力ベンチャーのシェアリングエネルギー。このミッションを達成するべく、住宅の屋根上に特化した太陽光発電(PV)システム無料導入サービス「シェアでんき」を手掛けている。

上村一行代表取締役は、「同様のサービスを手掛ける企業は多数あるが、現在、ユーザーにとって経済的なメリットが最も高いのがシェアでんきだ」と自負。あくまでも同社が設備を保有する第三者保有モデルであるため、ユーザーは設備利用料を負担しない。電気の使用量に応じ課金され、よりお得に再エネ由来の電気を利用できる仕組みだ。

屋根上PVの導入加速 不可逆的な流れに

初期費用ゼロ円にこだわるのは、「経済的なお得感があり、その結果として脱炭素に貢献しているというストーリーがなければ普及は進まない」との信念から。この4年間で、家庭用の低圧分野に特化しオペレーションの標準化を進めコスト競争力を高めたほか、地場の設置工事会社とのネットワークを築き、効率的な施工管理体制を構築してきたことも、他社よりも高い経済的メリットを提供できる原動力になっているという。

スタート当初は、ゼロ円でPVを導入できるということへの不信感から二の足を踏む人が多かったが、20年10月の菅義偉前首相の「50年カーボンニュートラル宣言」が追い風となり、この4年間で約5000棟を手掛けた。提携する住宅メーカーや工務店は今や、全国700社に上る。

「内閣府が策定した『地域脱炭素ロードマップ』の中でも、重点施策の一つに屋根上自家消費PVが据えられ、PPA(電力販売契約)を主軸としたPVの導入促進が不可逆的な流れとなっていると強く感じている」と言い、これを追い風に、年間1万棟の導入を目指すべく体制を強化している。

実は、上村代表が起業したのは、シェアリングエネルギーが初めてではない。大学時代から起業を志し、卒業後は、デロイト・トーマツ・コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。大手総合商社の経営改革プロジェクトなどに携わっていた。そして6年後の2008年、最初に起業したのがアイアンドシー・クルーズだった。

同社で手掛けたのは、インターネットを通じて再エネに関する製品やサービスを需要家とマッチングする事業。まだまだ富裕層や特に環境意識が高い層だけがPVに興味を持っていた当時、事業者と需要家の間に情報の非対称性がある中で、インターネットで正しくマッチングすることでマーケットを広げていけると考えたのだ。

それまでエネルギービジネスに携わった経験はなかったが、商材として再エネを扱うことを決めた背景には、「起業を前に子供が生まれたこともあり、次世代にしっかりと紡ぐべき価値観やサービス・プロダクトをインターネットを用いて世の中に広めていきたい」との強い思いがあったという。

やがてFIT(固定価格買い取り)制度が始まり、太陽光はメガソーラーなど産業用が主流になっていく。また同時に設置コストも急速に低下していった。こうした状況の中、仲介役としてではなく、事業者として自ら分散電源の普及拡大にリーダーシップを取っていきたいと、シェアリングエネルギーを設立するに至った。

シェア20~30%獲得へ 環境価値など市場取引も

今後は、PVの導入促進にとどまらず、それに付随する二つの新たな取り組みを事業化する。

一つは、「シェアでんき」のユーザーに対し、20年という契約期間の中でさらなるお得感に加え、生活の質が向上したと感じてもらえるようなサービスを提供していくこと。例えば、蓄電池を導入し自家消費率を高め、系統電気に頼らない生活を実現することや、EV(電気自動車)とエネルギーシステムを組み合わせ、お得に脱炭素に貢献できるようにするなど、ライフスタイルに合わせてエネルギー利用を最適化するサービスを打ち出していく。

もう一つは、屋根置きPVの市場でシェア20~30%獲得を目指し、そのスケールメリットを生かした新たなビジネス。再エネ価値を環境価値として市場で販売したり、調整力として需給調整市場に供出したりといった取り組みを着実に進めていく方針だ。

「最初に起業した会社はM&Aで売却することになったが、シェアリングエネルギーは上場を目指し、社会の公器として次世代のエネルギーシステムの在るべき姿を構築する役割を果たしていきたい」と意気込む上村代表。自治体など、地域を巻き込んだ地産地消型エネルギーシステムのパッケージをショーケースに、日本のみならずアジアを中心とする海外にも進出を果たし、グローバル企業を目指す。

【新電力】システム改革の失敗 リスクを負う新電力

【業界スクランブル/新電力】

 電力システム改革の失敗が公然と語られるようになっている。残念ながら今日の電力システムは脆弱と言わざるを得ない。なぜこのような制度になったのか。2013年に公表された改革方針では、「発電と小売りの多様化が進む中でも安定供給を達成する」「再生可能エネルギーの導入が進む中でも安定供給を達成する」と記載されているが、その目的が達せられることはなかった。

一部では、「諸悪の根源は、限界費用玉出しにあるのではないか」といった声が上がっている。筆者は、広域メリットオーダー実現の観点からは、限界費用をベースとした卸電力市場は必要であると考える。他方で、電源固定費の手当なしに限界費用玉出しを強行したことは明らかに火力の退出を促した側面があったと考えられる。

さらに、現在の容量市場の価格約定メカニズムにも課題があるのではないだろうか。現在の容量市場はシングルプライスで約定される仕組みであり、全電源の固定費と可変費の和が同一価格もしくは、一定価格以下である前提の制度となっている。

電源は価格で表せることのできない利点を有する。揚水は、電力貯蔵による非化石電力有効活用が可能であり、原発は非化石電力を安定的に供給でき、エネルギー自給率向上に寄与する。

これら電源の特性を無視した現在の枠組みでは、発電事業者は稼働率の高い電源を残して、残りの電源は廃止することが合理的となってしまう。もちろん、過度な国民負担は避けるべきであるが、価格では表せない特性を評価する観点から、容量市場ではマルチプライス化へ制度変更すべきではないだろうか。安定供給が損なわれたシステムで最もリスクを負うのは新電力である。新電力こそ安定供給維持を主張せねばならない。(M)

【電力】再エネTFの提言 ゆがんだ事実認識

【業界スクランブル/電力】

 3月22日、東京電力と東北電力管内で電力需給ひっ迫警報が初めて発令された。これを受けて再生可能エネルギー等規制等総点検タスクフォースが提言を公表したが、冒頭の事実認識でつまづいてしまった。

火力発電への投資や原発の再稼働は解決策にならない、なぜなら地震発生前は関東地方は電源は足りていたからという立論はにわかに理解しがたいが、それ以前に、今冬の関東で最大需要が発生した1月6日は、電圧降下まで行って辛くも最低限の予備率を確保したに過ぎない。しかも翌日晴れたからよかったものの、そうでなければ揚水発電所の水を使いつくして需給バランスが破綻した可能性もあったほど。「足りている」とはとても言えまい。

また、「悪天候により太陽光が十分に発電しなかったと、再エネの責任を問う声があるが、筋違い」なのだそうだ。確かに3月22日のような日の需給に貢献することなど、端から太陽光に期待できるはずもない。急遽補修計画を取りやめて応援に入るような芸当も端から期待されていない。

そんな制約が大きい電源に多額の政策補助があり、各地でトラブルが起きている現状に疑問の声があっても筆者は理解するし、筋違いと開き直ったところで理解が進むとも思えない。

欧米諸国が急速に脱ロシアにかじを切ったことで、国際エネルギー市場は化石燃料の奪い合いの様相だ。途上国の中にはそのとばっちりで燃料調達が十分にできず停電が起きているところもある。世界のエネルギー需給を緩和するために日本が原子力の再稼働を急ぐのは、むしろ責務ではないのか。こんな火力・原子力サゲと再エネアゲのゆがんだ言説に、与党政治家の一部まで同調してしまっているのは率直に言って残念だ。(U)

現場からみた脱ロシアエネルギー

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ウクライナにおけるロシアの蛮行が連日報道されるにつけ、ロシアの主要外貨収入であるエネルギー輸出への制裁を求める声が世界中で高まっている。「血の匂いがしないのか!」とは、シェルが戦争開始直後にロシアの石油をスポットで買ったことが判明した際に浴びせられた言葉だ。確かに、1日10億ユーロ(1350億円)といわれるエネルギー収入がある限り、ロシア経済は潤い続ける。そこで欧州はまず、比較的影響が小さいとみられる石炭の輸入の停止を決めた。これを受け、わが国も石炭の輸入については「ゼロを目指す」姿勢を打ち出した。

ところで、現場目線からいうと、受入ソースを変えるというのは、見た目ほど楽なものではない。一番大変なのは、ロシア炭を主力としてきた自家発やセメント製造など、小ロットで石炭を調達している事業だ。これらの会社が使う2~3万t級の小さな船は、豪州など遠距離に使うには運賃が高すぎる。

一方、大手電力は概ね10%程度の調達比率ではあるが、不足分はすでに供給余力のない豪州炭をもっぱら取り合うことになるだろう。インドネシア炭は熱量の低下が著しく(燃焼性が悪い)、南ア炭は揮発分が低い(着火性が悪い)など、ボイラーは意外に好き嫌いが激しいのだ。品位だけではない。欧州、日本とも、より遠距離の航路へ向かうので、船舶も不足するだろう。石炭を運ぶ“バラ積み船”は穀物も運ぶが、大穀倉地帯であるロシア・ウクライナの小麦の出荷が減るため、こちらも物流が大変わりして、用船市況の高騰に拍車がかかる怖れがある。

「まだロシアのエネルギーを買っているのか!」とエネルギー会社に向かって叫ぶ前に、国民全体で省エネや原子力の有効活用など、化石燃料の消費を減らすことを考えたい。

世界規模のエネルギー危機 問われる米ケリー特使の資質

【ワールドワイド/環境】

中間選挙を半年後に控え、バイデン政権の支持率低下が止まらない。その最大の理由はガソリンをはじめとするインフレの深刻化だ。バイデン大統領はロシアに責任を帰そうとしているが、共和党は「化石燃料を敵視するバイデン政権の政策により、ウクライナ戦争前からエネルギー価格は大幅に上がっていた」と政権攻撃を強めている。

エネルギー価格の鎮静化に躍起になっているバイデン政権は国内政策として戦略国家備蓄放出、石油・ガス企業に対する国産石油や天然ガスの増産要請を行う。国外政策では湾岸産油国への増産要請、ベネズエラからの石油調達など政権発足当初の脱化石燃料スローガンはどこへ行ったのかといった具合である。

ウクライナ戦争によってロシア産天然ガスへの依存脱却を打ち出した欧州委員会が代替供給源として米国産LNGを想定している。そのためには米国産天然ガスの増産が不可欠となる。バイデン政権の中にあって真逆に突っ走っているのがジョン・ケリー気候変動特使である。

彼は4月半ば「われわれはガス産業に対し6年か8年か、10年足らずしか時間が残されていないことを知らしめねばならない。30~40年続くガスインフラを作れば、雇用や投資家保護を理由にそのインフラを閉鎖できなくなる」と語った。このようなコメントを聞いて新規インフラ投資をしようという企業はいないだろう。

ケリー特使は就任前から中国から温暖化防止で譲歩を引き出すために他の分野で妥協するのではないかとの懸念が根強くあった。アジア諸国の低炭素化の有効な手段は石炭から天然ガスへの燃料転換であるが、彼が国務省やエネルギー省に送り込んだスタッフは「天然ガスではなく一足飛びに再エネに転換せよ」との主張を展開した。

ウクライナ侵攻が秒読み段階となっていた2月半ばには「戦争は温室効果ガス排出を増大させる。プーチン大統領も温暖化防止努力を続けてほしい」という元国務長官らしからぬコメントで身内からの失笑を買った。

彼のような人物がホワイトハウスにいる限り、米国の石油ガス産業はバイデン政権を決して信用しないだろう。その結果、米国の石油ガス増産が遅れるとすれば、世界のエネルギー危機を深刻化させることになる。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

暗号資産のマイニング 米下院が電力ひっ迫を警鐘

【ワールドワイド/経営】

近年存在感を増している暗号資産(仮想通貨)。その採掘(マイニング)が環境に与える影響について、懸念の声が大きくなっている。中でも時価総額が最大の暗号資産であるビットコインのマイニングには、コンピューターによる複雑な計算処理過程で、膨大な電力が消費されている。ケンブリッジ大学によると、ビットコインによる世界全体の年間電力消費量は、2022年時点で1400億kW時以上と推定される。これは、ニューヨーク州全体の年間電力消費量に匹敵する規模だ。

マイニング事業の中心地は最近まで中国であった。しかし、21年半ば以降、中国政府がエネルギー需要抑制の観点から暗号資産のマイニングを禁止。多くの事業者が米国の電気料金が安い地域やカザフスタンなどの近隣諸国へ移転した。これに伴い、米国でのビットコインのマイニング処理量は急増し、中国に代わって世界シェアトップとなった。

こうした中、米国内ではマイニングによる電力需要の増加に対する連邦議会の監視の目も厳しくなっている。今年1月には下院エネルギー・商業委員会で暗号資産が環境に及ぼす影響についての公聴会が開かれた。暗号資産に批判的な議員は、マイニングに伴う膨大な電力消費と炭素排出が米国の気候変動対策を台無しにするかもしれないと警鐘を鳴らした。

また、バイデン大統領は3月、暗号資産に関するリスクとメリットの検討を政府に求める大統領令「デジタル資産の責任ある発展の確保」に署名した。そこには気候変動や環境への影響も課題の一つとして含まれている。

一方の大手マイニング事業者は、再エネ電源や余剰エネルギーを積極的に活用することで、環境に配慮したマイニングが可能であると主張。実際、米国内では多くの事業者が再エネ電力の利用を促進させる。クルーソー・エナジー・システムズ社では油田・ガス田から放出される余剰ガスによる発電電力をマイニングに活用している。

さらに、マイニング設備は瞬時に停止することが可能なため、デマンドレスポンス(DR)への活用も注目されている。22年冬のテキサス州で発生した需給ひっ迫では、複数のマイニング設備が下げDRに応じた。このように、マイニング業界側でも、エネルギー・環境面での課題への挑戦が広がりつつある。暗号資産の市場規模は今後も拡大するという予想は多く、米国をはじめ世界各国がそれによる電力需要の増加問題にどう立ち向かうのか、今後も注目される。

(三上朋絵/海外電力調査会 企画・広報部)

原油増産目指すクウェート 関係国との連携強化に奔走

【ワールドワイド/資源】

 クウェートは、原油生産量で世界第10位、OPECではサウジアラビア、イラク、UAEに次ぐ4番目の大産油国であるが、近年、原油生産能力の低下に直面している。国内の上流操業を担うクウェート石油会社(KOC)の生産能力は老朽油田の能力減退などにより、過去3年間で日量50万バレル以上減少し2020~21年は263万バレルにとどまった。

クウェートはOPECプラスの生産協定に従い、毎月一定量の増産を継続している。しかし現状では、OPECプラスで定められたクウェートの基準生産量である296万バレルまでの生産回復は容易ではなく、3月末で15万バレル程度とされたクウェートの生産余力(スペアキャパシティー)は数か月以内にゼロになると見られる。

石油部門を統括するクウェート石油公社(KPC)のCEOは、年間500本の坑井掘削計画や二つの集油センターの稼働、重質油開発などにより、今後2年間で50万バレルの生産能力増強が可能とした。また、アルファレス石油相は、中立地帯分を含む生産能力を25年に350万バレル、35年に400万バレルに引き上げることを目指すと表明した。3月末にはクウェートの原油増産に向け、日本主導の10億ドルの融資計画が明らかになり、日本貿易保険(NEXI)とKPCが覚書を締結した。

クウェートとサウジアラビアの間の中立地帯の原油生産は20年7月に陸上・海上両鉱区で5年ぶりに再開された。順調にいけば、25年までに陸上・海上合わせた中立地帯の生産能力は70万バレルに拡大が見込まれ、このうち、50%に当たる35万バレルがクウェートの生産能力に上乗せされる。

ガス需要の拡大が見込まれるクウェートは、能力580万tの既存FSRU(浮体式受入基地)に加え、21年7月に能力2200万tのアルズール受入基地を稼働させ、輸入LNGの確保に努めているが、同国は自前のガス開発にも注力している。サウジアラビアとは中立地帯のガス開発でも合意した。3月にサウジのエネルギー相とクウェートの首相が、ガス日量10億立方フィート、コンデンセート日量8万4000バレルのポテンシャルを有するドラガス田の共同開発に関する合意書に調印した。 ドラガス田の権益保有を主張してきたイランは、今回の合意は違法であると反発しているが、協議には応じる姿勢との報道もある。イランが独自開発に踏み切るとの見方から、イランを含めた3国による共同開発に発展するとの見方もあり、今後の動向が注目される。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

負の印象強化の常とう手段 「核のごみ」と「汚染水」

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 印象操作が過ぎないか―。

5月2日東京「改憲機運『高まらず』70%、共同通信世論調査」である。「岸田文雄首相が目指す改憲の機運は『高まっていない』が『どちらかといえば』を含め計 70%に上った」とある。

改憲って何? 関心ないし議論も盛り上がってない。そう思わせようとの意図を感じる。

実際はどうか。調査の詳細を見ると、「問1、憲法改正に関心がありますか」の答えは「ある」23%と「ある程度」47%を合わせて70%。「問2、改正する必要があるか」については、「必要」24%と「どちらかといえば必要」44%で計68%が肯定的だ。むしろ機運は高まっている。

見出しの「国民の間で改憲の機運は高まっているか」の問いは21項目ある質問の20番目。そもそも機運を見積もる世論調査で機運を問う意味が分からない。

護憲派の朝日でさえ、3日に「改憲『必要』56%、本社世論調査、13年以降で最多」と報じている。「ロシアのウクライナ侵攻を受けて、日本と日本周辺にある国との間で戦争が起こるかもしれない不安を以前より感じるようになったか聞くと、『感じるようになった』80%で、『とくに変わらない』19%を上回った」と、世論激変の要因も指摘する。

東京の記事を読んで、2013年にフィンランドを訪ねた時を思い出した。業界団体の取材団に加わり、世界で初めて高レベル放射性廃棄物の最終処分地に選ばれたオルキルオト地域を取材した。

地元の見方はどうか。宿泊中のホテルで働く16歳の少女に話を聞くことになった。少女は「専門家を信頼している」「不安は感じない」と答えたが、記者たちは納得せず、少女を取り囲み、「福島の事故を知らないのか」などと詰問した。驚いたのだろう、「不安かも」と少女はつぶやいた。

使えない発言だと思ったが、後日、これを取り上げた地方紙記事を見つけた。強引過ぎる。

朝日も、原子力報道は強引さが目立つ。4月14日「処理水放出、審査大詰め、『受け入れ』『反対』地元分断」は、「東京電力福島第一原発で増え続ける汚染水を処理し、希釈して海に放出する方針を政府が決定して1年。原子力規制委員会による審査が大詰めを迎えている。一方、地元では理解が広がらないばかりか、『分断』も生まれつつある」と書く。

増えているのは「処理水」だが、敢えて「汚染水」を持ち出す。別のページで「処理水放出『超大型基金』で溝、政府『風評対策300億円』全魚連『別の話』」と、金絡みの対立も仕立てる。

風評被害が狙いか。処理水放出に関しては、原子力規制委員会も国際原子力機関も、本質的に安全上の問題はない、と評価している。議論は、そこが出発点である。

朝日らしいのは18日「記者解説、強まる原発回帰、脱炭素が追い風、『後処理』も直視を」だ。「後処理」は「『核のごみ』と呼ばれる高レベル放射性廃棄物の処分など」と解説したあと、説明なしに「見通しが立っていない」と断じ、「課題に、まず目を向けなくてはならない」と説く。

「核」と「ごみ」の組み合わせは、負の印象を強める常とう手段だが、フィンランドやスウェーデンのように既に処分地を決めた国があることには一切触れない。

多くの人がメディアの独善に飽いている。ネットで新聞やテレビがマスゴミ(巨大ごみ)と腐されるのはなぜか。自覚が要る。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【マーケット情報/6月10日】原油上昇、品薄感強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給不足感が一段と強まり、価格が続伸した。

欧州連合によるロシア産原油、石油製品への禁輸措置で品薄感が広がる一方、国際原子力機関(IAEA)がイランに対する非難決議を採択。イランはこれに反発し、IAEAが同国の核関連施設に設置した監視カメラの撤去を開始した。米国は、核合意復帰に向け努力する方針は変わらないとしたものの、合意復帰はさらに遠のいたとの見方が大勢。イラン産原油の供給増加は当面見込めないとの予測が、価格を支えた。

また、リビアの一部輸出港では、治安悪化を背景に、計画外停止の可能性が台頭。供給逼迫感がさらに強まった。

一方、米国の週間在庫は増加。ただ、供給逼迫感を和らげる要因にはならなかった。

【6月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=120.67ドル(前週比1.80ドル高)、ブレント先物(ICE)=122.01ドル(前週比2.29ドル高)、オマーン先物(DME)=119.10ドル(前週比7.00ドル高)、ドバイ現物(Argus)=118.76ドル(前週比6.71ドル高)

石油とアナログ半導体 共通する需給ひっ迫の構造

【オピニオン】後藤康浩/亜細亜大学教授

世界経済に暗雲を広げるインフレの主因は化石燃料と穀物の需給ひっ迫だが、それ以上に自動車など産業界を悩ませているのが半導体の供給不足だ。化石燃料と半導体は一見、まったく異なるコモディティだが、需給ひっ迫の背景には共通性がある。とりわけ両分野で“古株”の石油とアナログ半導体には供給側で類似した構造問題が生じている。

「脱炭素」の標的にされ、EVの普及などで需要の将来性に不安が高まる石油は、油田への投資が細り、石油会社はSDGs、ESG重視の投資家の圧力で石油から再生可能エネルギーへの大転換を進めつつある。産油国すら「ポスト石油」時代に向けた経済構造の転換を加速させている。コロナ禍が出口に向かい、石油需要が回復し始めても油田などへの増産投資が進まない問題は、既に繰り返し指摘されてきた。今、顕在化しているのは、油田開発投資が盛り上がったとしても、開発資材や設備、人材が追い付かず、開発投資に着手できないという懸念だ。

半導体はスマホやパソコン、AI向けの最先端のロジック半導体や電子機器向けに加え、データセンター用にも需要が膨らむメモリーへの増産投資が加速、台湾のTSMCや韓国サムスン、米インテルなどは最先端製品の工場の新増設を進めている。だが、車載や生産ラインの自動化、電力制御などを主目的とするアナログ半導体の増産にはそれほどの勢いがない。半導体の設備メーカーはTSMC向けなどの最先端の装置生産に全力を注ぎ、アナログ半導体向けの装置生産は後回しにしているからだ。

現実はアナログ半導体の需要はロジック以上に急増し、半導体の中では車載用のアナログ半導体の需給が最もひっ迫している。アナログ半導体は車1台当たり、EVでは内燃機関の2倍、自動運転車では10倍の個数が使用されるといわれる。自動車が使う情報は映像、振動、温度、回転、重力、電流などアナログ情報ばかりだからで、今後さらに需給ひっ迫が深刻化しかねない。

考えれば、これからモータリゼーションが進展するアジアの途上国、アフリカなどは電力の慢性的不足が続き、電力インフラ整備には時間がかかるため、EVよりも成熟したガソリンエンジン車あるいはハイブリッド車が先行して普及するのは当然だ。石油需要は粘り腰で続く可能性が高いが、石油を生産する側、とりわけ生産するための資材や装置、人材の供給増は期待できない。

石油とアナログ半導体はともに業界人は状況を正確に理解し、打つべき手を発信しているが、生産を支える設備業界や金融、人材は先入観にとらわれ、動かない。需要はあっても業界外の要因で供給を拡大できない構造問題といえる。

ウクライナ侵攻によって、世界の関心は軍事や地政学、物流などに向き、石油やアナログ半導体の持続的な需要増やそれに応える生産体制の整備に目が向かなくなっている。今、必要なのは先入観にとらわれず、正しい認識を持つことだ。

ごとう・やすひろ 早稲田大学政治経済学部卒。豪ボンド大学経営大学院修了(MBA取得)。
1984年日本経済新聞社入社。中国総局駐在、編集委員、論説委員、編集局アジア部長などを歴任。
2016年から現職。