官邸主導で議論が進む「クリーンエネルギー戦略」と「デジタル田園都市国家構想」。
新しい資本主義の中核を成す二つの政策の接点を探ると、あの巨大通信会社の存在が浮かび上がる。
「今後10年間に150兆円超の投資を実現するため(中略)、20兆円ともいわれている必要な政府資金をGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債、これは仮称ではありますが、これを先行して調達し、速やかに投資支援に回していくことと一体で検討してまいります」
5月19日に官邸で開かれたクリーンエネルギー(CE)戦略に関する有識者懇談会の第二回会合。
岸田文雄首相による原稿棒読みの総括を聞きながら、多くの委員が心の中でこうつぶやいたに違いない。「ちょっと待って。GX経済移行債なんて話、聞いてないよ」。ある委員の脳裏をよぎったのは、年初の1月18日に開かれた有識者懇の初会合。ここでも、やはり寝耳に水の施策が飛び出した。データセンターを主な需要先として想定した、系統増強に関するマスタープランの策定である。
「このプランは、資源エネルギー庁の専門検討会が1年近くかけて議論してきたものだが、昨年12月16日に開かれた経済産業省のCE戦略合同会合の初会合では、事務局の配布資料を含め、ほとんど話題に上らなかった。なのに、翌月の有識者懇で経産省が配布した資料には『検討を深める重点事項』として例示されている。合同会合とは別の思惑が働いていると感じた」(CE戦略関係者)
重なる海底送電と通信網 岸田首相も年頭に言及
マスタープランとは一体どのようなものか。エネ庁事務局の資料を見ると、説明文には「再エネ大量導入とレジリエンス向上を実現するため、系統のバージョンアップが必要。具体的には、将来的な再エネポテンシャルとデータセンター等の需要を一体的に検討するとともに、災害時や需給ひっ迫時の広域融通等を円滑に行うための、全国大の長期的な系統の在り方を描くマスタープランを2022年度中に策定する」とある。
その下には、全国の地域間連系線増強の構想図(下図参照)。これらを踏まえると、次のような青写真が浮かび上がってくる。

出所:経済産業省資料より
〈北海道や東北エリアの洋上風力で発電した電気を広域融通する海底直流送電網などの連系線強化や、需要先としてのデータセンターなどを一体的に整備していく。必要な投資規模は約3.8~4.8兆円と試算。その財源として、GX経済移行債の活用を検討する〉
実は、このマスタープランと重なる主要政策が、同じく官邸で議論されている。「デジタル田園都市国家構想」だ。これは地域における持続可能な社会形成や経済成長を、デジタル化を通じて実現するもので、光ファイバーや5G、データセンターといったデジタルインフラ整備が柱の一つに掲げられている。そして、その目玉となるのが、日本を周回する海底通信ケーブル「スーパーハイウェイ」の建設計画と、地方データセンター拠点の整備計画である。
事情通によると、通信ケーブルを巡っては直流送電線と一緒に海底に敷設するアイデアが水面下で浮上しているもようだ。実際、両者の構想を見比べてみると、想定ルートやデータセンター拠点との接続など共通部分が少なくない。
「先行して動き出したのが、北海道—秋田間だ。このルートでは昨年10月にNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社が光海底ケーブルを共同建設する協定を結んでいるが、これに合わせて海底送電線を敷設する可能性がある。岸田首相が1月4日の会見で、CE戦略に関連して『通信とエネルギーインフラの一体的整備』に言及したことを考えても、あり得ない話ではない」(大手エネルギー会社関係者)
洋上風力、データセンター、海底ケーブルというキーワードを並べてみると、二つの有力企業の存在に気付く。三菱商事とNTTグループ―。先の秋田・銚子沖の洋上風力入札では、三菱系コンソーシアムが落札したが、その協力企業に名を連ねているのがNTTアノードエナジーだ。三菱とアノード社は20年6月にエネルギー分野での協業で合意して以来、再生可能エネルギー発電やエネルギーマネジメント事業の分野でビジネス化の検討を進めている。
アノード社が体制強化 注目のNTT副社長人事
しかもアノード社はここにきて大掛かりな体制強化に踏み切った。7月1日付で、NTTファシリティーズのエネルギー部門を吸収・統合。これに伴い、人員体制を数百人規模から数千人規模へと大幅に拡充する。関係者によれば、エネルギー関連の売上高を25年までに倍増させる計画であり、その本気度がうかがえよう。
これとは別に、NTT本体の役員人事でも興味深い動きがあった。経産省OBでNTTの執行役員だった柳瀬唯夫氏が6月、副社長執行役員(事業企画室長兼経済安全保障担当)に昇格したのだ。1984年入省の柳瀬氏は、岸田内閣の首相秘書官筆頭格の嶋田隆氏(82年)や、第二次~第四次安倍内閣で首相秘書官・補佐官を務め内閣官房参与の今井尚哉氏(82年)とは旧知の間柄。そんな同氏を中枢に据えることで官邸とのパイプを強化し、新しい資本主義政策に積極的に絡んでいこうとする思惑が垣間見える。
「岸田政権が狙う通信・エネルギーインフラの一体的整備。そこに投じられる巨額の政府資金を見据えて、NTTはしたたかに動いていると思う」(前出のCE戦略関係者)。実際のところ、嶋田—今井—柳瀬ラインの存在を巡っては懐疑的な見方もあり、真相は不明だが、エネルギー、デジタルの両分野でNTTが存在感を強めているのは確実。政策と連動したビジネスの行方から目が離せない。








