CE戦略とデジタル田園都市の接点 官邸主導の背後に巨大通信会社の影

官邸主導で議論が進む「クリーンエネルギー戦略」と「デジタル田園都市国家構想」。

新しい資本主義の中核を成す二つの政策の接点を探ると、あの巨大通信会社の存在が浮かび上がる。

「今後10年間に150兆円超の投資を実現するため(中略)、20兆円ともいわれている必要な政府資金をGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債、これは仮称ではありますが、これを先行して調達し、速やかに投資支援に回していくことと一体で検討してまいります」

5月19日に官邸で開かれたクリーンエネルギー(CE)戦略に関する有識者懇談会の第二回会合。

岸田文雄首相による原稿棒読みの総括を聞きながら、多くの委員が心の中でこうつぶやいたに違いない。「ちょっと待って。GX経済移行債なんて話、聞いてないよ」。ある委員の脳裏をよぎったのは、年初の1月18日に開かれた有識者懇の初会合。ここでも、やはり寝耳に水の施策が飛び出した。データセンターを主な需要先として想定した、系統増強に関するマスタープランの策定である。

「このプランは、資源エネルギー庁の専門検討会が1年近くかけて議論してきたものだが、昨年12月16日に開かれた経済産業省のCE戦略合同会合の初会合では、事務局の配布資料を含め、ほとんど話題に上らなかった。なのに、翌月の有識者懇で経産省が配布した資料には『検討を深める重点事項』として例示されている。合同会合とは別の思惑が働いていると感じた」(CE戦略関係者)

重なる海底送電と通信網 岸田首相も年頭に言及

マスタープランとは一体どのようなものか。エネ庁事務局の資料を見ると、説明文には「再エネ大量導入とレジリエンス向上を実現するため、系統のバージョンアップが必要。具体的には、将来的な再エネポテンシャルとデータセンター等の需要を一体的に検討するとともに、災害時や需給ひっ迫時の広域融通等を円滑に行うための、全国大の長期的な系統の在り方を描くマスタープランを2022年度中に策定する」とある。

その下には、全国の地域間連系線増強の構想図(下図参照)。これらを踏まえると、次のような青写真が浮かび上がってくる。

長距離送電網増強のイメージ図
出所:経済産業省資料より

〈北海道や東北エリアの洋上風力で発電した電気を広域融通する海底直流送電網などの連系線強化や、需要先としてのデータセンターなどを一体的に整備していく。必要な投資規模は約3.8~4.8兆円と試算。その財源として、GX経済移行債の活用を検討する〉

実は、このマスタープランと重なる主要政策が、同じく官邸で議論されている。「デジタル田園都市国家構想」だ。これは地域における持続可能な社会形成や経済成長を、デジタル化を通じて実現するもので、光ファイバーや5G、データセンターといったデジタルインフラ整備が柱の一つに掲げられている。そして、その目玉となるのが、日本を周回する海底通信ケーブル「スーパーハイウェイ」の建設計画と、地方データセンター拠点の整備計画である。

事情通によると、通信ケーブルを巡っては直流送電線と一緒に海底に敷設するアイデアが水面下で浮上しているもようだ。実際、両者の構想を見比べてみると、想定ルートやデータセンター拠点との接続など共通部分が少なくない。

「先行して動き出したのが、北海道—秋田間だ。このルートでは昨年10月にNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社が光海底ケーブルを共同建設する協定を結んでいるが、これに合わせて海底送電線を敷設する可能性がある。岸田首相が1月4日の会見で、CE戦略に関連して『通信とエネルギーインフラの一体的整備』に言及したことを考えても、あり得ない話ではない」(大手エネルギー会社関係者)

洋上風力、データセンター、海底ケーブルというキーワードを並べてみると、二つの有力企業の存在に気付く。三菱商事とNTTグループ―。先の秋田・銚子沖の洋上風力入札では、三菱系コンソーシアムが落札したが、その協力企業に名を連ねているのがNTTアノードエナジーだ。三菱とアノード社は20年6月にエネルギー分野での協業で合意して以来、再生可能エネルギー発電やエネルギーマネジメント事業の分野でビジネス化の検討を進めている。

アノード社が体制強化 注目のNTT副社長人事

しかもアノード社はここにきて大掛かりな体制強化に踏み切った。7月1日付で、NTTファシリティーズのエネルギー部門を吸収・統合。これに伴い、人員体制を数百人規模から数千人規模へと大幅に拡充する。関係者によれば、エネルギー関連の売上高を25年までに倍増させる計画であり、その本気度がうかがえよう。

これとは別に、NTT本体の役員人事でも興味深い動きがあった。経産省OBでNTTの執行役員だった柳瀬唯夫氏が6月、副社長執行役員(事業企画室長兼経済安全保障担当)に昇格したのだ。1984年入省の柳瀬氏は、岸田内閣の首相秘書官筆頭格の嶋田隆氏(82年)や、第二次~第四次安倍内閣で首相秘書官・補佐官を務め内閣官房参与の今井尚哉氏(82年)とは旧知の間柄。そんな同氏を中枢に据えることで官邸とのパイプを強化し、新しい資本主義政策に積極的に絡んでいこうとする思惑が垣間見える。

「岸田政権が狙う通信・エネルギーインフラの一体的整備。そこに投じられる巨額の政府資金を見据えて、NTTはしたたかに動いていると思う」(前出のCE戦略関係者)。実際のところ、嶋田—今井—柳瀬ラインの存在を巡っては懐疑的な見方もあり、真相は不明だが、エネルギー、デジタルの両分野でNTTが存在感を強めているのは確実。政策と連動したビジネスの行方から目が離せない。

政府が7年ぶりに節電要請 節電量に応じたポイント還元も

 猛暑が予想されるこの夏、政府は足元の厳しい電力需給状況を踏まえ、企業や家庭に対し節電を要請することを決めた。要請は、東日本大震災後、原子力発電所の長期稼働停止で供給力が減少したことに伴い行った2015年以来、7年ぶりのことだ。

萩生田光一経産相は6月16日、電力トップを集め需給ひっ迫に関する対策会議を開いた

政府の節電要請は、熱中症予防に留意した省エネ・節電に資する具体的な行動メニューを作成、周知することに加え、産業界に対しエネルギー消費効率の高い設備や機器への更新を促すことが柱だ。一定の節電をした家庭などに対し、ポイントを還元するなどの新たな支援制度も導入する。燃料費高騰の影響で料金も高止まり。省エネ・節電により需給を安定化させるだけではなく、家庭や企業の料金負担の上昇を抑制したい考えだ。

需給ひっ迫の背景には、原発長期停止中の安定供給を担ってきた火力発電が、老朽化と再生可能エネルギー大量導入による不採算化が相まって大量退出に歯止めがかからないことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化で燃料調達リスクが顕在化していることがある。

この夏の「H1需要」(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する予備率は、全エリアで安定供給に最低限必要な3%を確保できる見通しだが、7月は東北から中部エリアで3・1%と、非常に厳しい水準だ。供給側では、各エリアの一般送配電事業者が120万kWの追加供給力、10億kW時の追加燃料調達の公募を行い、長期計画停止中のJERAの姉崎火力5号、知多火力5号などが落札。7~8月の間稼働する。こうした供給対策を実施しても、需要の上振れ、トラブルなどによる計画外停止などが重なれば需給がひっ迫するリスクは高いままだ。

より厳しいのは冬季。東京エリアのH1需要に対する予備率は23年1月がマイナス0・6%、2月がマイナス0・5%。ほか6エリアでも、安定供給に最低限必要な予備率3%を軒並み下回る。

このため夏季は節電の数値目標は設けないが、冬季は数値目標を伴う節電要請を検討。さらに、電気事業法に基づく電力使用制限令の発動や計画停電の実施、供給側でも電事法に基づく発電事業者への供給命令の発出を視野に入れる。

厳しい需給に追い打ちも 米LNG出荷基地火災 

欧州各国がロシア産天然ガスの代替調達へと切り替えを急ぎ、国際的なLNG市場が需給、価格両面で不透明感が増す中、さらに先行きに不安を生じさせる出来事が起きた。6月8日に米テキサス州のフリーポートLNG基地で火災が発生。運営会社は当初、3週間で操業を再開すると発表していたが、その後、部分的な稼働開始に90日を要し、フル操業は今年後半になるとの見通しを示したのだ。

同基地は年間約1500万tの生産能力があり、日本企業ではJERAと大阪ガスが約232万tを調達している。両社とも、他のプロジェクトやスポット市場で対応を図り安定調達に支障がないよう努める方針だが、ただでさえ燃料調達リスクに起因するkW時不足が懸念される中、安定供給と価格の両面で影響が懸念される。

名門支えた大黒柱が帰還 「ひたむきな走り」伝える

【中国電力】佐藤 敦之

 早大時代から箱根駅伝やマラソンで活躍。2000年にはびわ湖毎日マラソンで当時の学生最高記録を樹立した。さらにマラソンで強くなりたいと思うなか、早大の先輩である中国電力の坂口泰監督から「一緒にマラソンで世界を目指そう」と熱心な勧誘を受ける。中国地方に由縁がなく不安はあったが、ひたむきに練習する中国電力のスタイルが合っていると感じ、成長できると確信して入社を決めた。

名門復権へ指導に熱が入る

中国電力陸上競技部でも、その実力を遺憾なく発揮した。04年にニューイヤー駅伝で悲願の初優勝を果たすと、07年には4区の選手から7位でタスキを受け6人をごぼう抜き。1位との2分以上の差を逆転した。「ゾーンに入ったような、時間が止まったような不思議な感覚だった。『ひたむきに走り、チームに尽くす』と無心だったのがよかったのかもしれない」。当時をこう振り返る。応援団の大声援も後押しし、中国電力2度目の総合優勝に貢献した。マラソンでも08年北京五輪に出場し、09年世界陸上では日本人トップの6位入賞を果たすなど、日本男子マラソン界をけん引し続けた。

12年からは地元の福島大学でコーチングを学び、13年に現役引退。14年から20年まで京セラ女子陸上競技部で監督を務めた。中国電力には坂口監督から請われ22年1月にヘッドコーチに就任。現在の陸上競技部はニューイヤー駅伝入賞まで、わずかに手が届かない位置にいるが「諦めない精神はチームに残っている。あとは現役時代に培ったひたむきな走りを若い選手にも伝えたい」。指導の根幹には電力会社の陸上部として地域に貢献すること、責任をもって全力を尽くすとの使命感がある。駅伝はチームスポーツだが、区間は一人で責任を背負わなければいけない。「電力会社も地域のインフラを担う責任ある立場。会社に倣い、どんなときも諦めず全力を尽くす姿を走りでも見せたい」という。

目標のニューイヤー駅伝入賞、そして優勝へ向け、現在はトレーニングの指導を行う日々。現役時代、共に走った「ミスター駅伝」こと岡本直己選手は、2月のびわ湖毎日マラソンで自己ベストを更新するなど健在だ。レースの高速化が進むなか「選手たちの自己記録を1km当たり2秒縮めたい。苦しいときも笑顔を作れるチームづくりを目指す」と目標を語る。かつて青春を過ごした中国電力陸上競技部の復権へ、ヘッドコーチとしての業務を全うしていく。

さとう・あつし
1978年福島県出身。早稲田大学卒業後、2001年中国電力入社。全日本実業団対抗(ニューイヤー駅伝)では04、07年の優勝に貢献。03年世界陸上パリ大会10位、08年北京五輪出場。 09年世界陸上ベルリン大会6位入賞。
13年現役引退。22年1月から中国電力陸上競技部ヘッドコーチに就任。

次代を創る学識者/鹿園直毅・東京大学生産技術研究所教授

熱利用分野の技術革新は、脱炭素社会に向けた大きなテーマだ。

鹿園直毅教授は、「経済性」を伴う製品開発を念頭に研究を続けている。

 「採算がとれる」省エネの実現に向け、熱エネルギーシステムの技術開発に取り組む東京大学生産技術研究所の鹿園直毅教授。脱炭素社会を実現するための革新的技術の確立には「日本の強みである素材や加工技術、それらをまとめ上げる力で民生・産業分野の省エネ技術を発展させる必要がある」と強調し、産業界やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携しながら、研究機関としての役割を果たしていきたいと意気込む。

子供のころから工作が好きだったという鹿園教授。「自分が作ったものが実際に社会で使われているのを見たかった」といい、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了すると、日立製作所機械研究所に入社しエアコン製品の開発に携わった。その思いは研究者の道に踏み出してからも変わっておらず、「学者というよりはエンジニア」を自認する。

恩師の招きで東大大学院工学系研究科の助教授に転身したのは2002年のこと。それ以降、ヒートポンプと固体酸化物形燃料電池(SOFC)に関する要素技術の研究開発にいそしんできた。

化石燃料を活用し続けながら脱炭素社会を実現するには、さらなる省エネの促進は避けて通れない。一方で経済性が確保されていなければ、いくら省エネに寄与するといっても製品は普及しない。機能と信頼性を確保しつつ、かつ低廉な製品開発につなげることが、鹿園教授の研究の狙いだ。

ヒートポンプの低廉化 素材転換に活路

実際、環境中の熱を集めることで投入エネルギー以上の熱エネルギーを得られ、省エネやCO2削減効果に優れるヒートポンプは、空調機器や給湯器などで一定程度普及が進んでいる。しかし、今後期待される中温帯の熱を利用する産業用で広く活用されるようになるには、低価格化が絶対の条件。

そこで鹿園教授が着目しているのが、より低廉なアルミニウム材への素材転換だ。銅やステンレスに比べ価格面で優位性がある上に、熱伝導率が高く軽量化につながるメリットもあり、「耐食性などの課題をクリアできれば、ヒートポンプの価格を相当下げられる可能性がある」と、期待を込める。

もう一つの研究テーマであるSOFCは、高温で作動するため「熱源」として活用できることが、興味を持つ発端となった。発電効率が50%以上と燃料電池の中で最も高く、化学燃料と電気の変換を最も効率的に行える上に、電解質中を酸化物イオンが動くため、原理上はあらゆる燃料に対応できる。「脱炭素社会において、最終的に燃料として何が選択されるか不確実な中で、そこにもSOFC研究の意義がある」と見ている。

化石燃料に代わり合成メタンやアンモニアが熱源として実現した時代に、SOFCをどういった形で活用できるのか―。将来のエネルギーシステムの中で熱利用機器が果たす役割を模索しながら、日々の研究活動にまい進している。

しかぞの・なおき 1965年東京都生まれ。東京大学工学部卒、東大大学院工学系研究科博士課程修了。日立製作所機械研究所、同研究開発本部、2002年東大大学院工学系研究科助教授、07年同准教授を経て10年から現職。

【マーケット情報/6月24日】米国、中東原油が下落、需給緩和感が強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物および中東原油の指標となるドバイ現物が続落。特にドバイ現物は、前週比10.35ドルの急落となった。需給緩和の予想が強まり、売りが一段と優勢になった。

米国の急激な金利引き上げを背景とした経済減速、および石油需要後退の見通しが根強い。さらに、米国では、価格の高止まりにより、ガソリン消費の回復が限定的となっている。米大統領は、ガソリンと軽油に対する連邦消費税を3か月間免除し、燃料価格を引き下げることを提案した。ただ、効力には疑問が呈されており、実現する可能性は低いとみられる。

また、欧州勢の禁輸措置を受け、ロシア産原油はアジア太平洋地域に流入しているとの情報。加えて、中東地域へのロシア産ガソリンとナフサの出荷も急増しており、ドバイ現物の重荷となった。 一方、北海原油を代表するブレント先物は、前週から横ばい。供給不足感が、需要後退の見込みを相殺した。ノルウェーの5月産油量は、前月比で減少。6月は定修でさらに減る見通しだ。また、エクアドルの産油量は22日、燃料価格高騰に対するストライキ開始前の12日と比べて、45%減少した。

【6月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=107.62ドル(前週比1.94ドル安)、ブレント先物(ICE)=113.12ドル(前週比0.00)、オマーン先物(DME)=106.51ドル(前週比9.82ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.75ドル(前週比10.35ドル安)

【メディア放談】電気・ガス事業とマスコミ あまりにひどい記者の不勉強

<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

エネルギー価格の上昇や電力需給ひっ迫が、生活や産業に影響を与え始めている。

マスコミは対応策などを示すが、目立つのは記者の不勉強だ。

 ―今年も上半期が終わろうとしている。原油・天然ガス価格が高騰し、電力危機があり、それにウクライナ戦争が起きた。エネルギー政策にとって、大きな転機の年になりそうだ。

電力 何から話題にすればいいか分からないほど、大きな出来事があった。その中であらためて思うのは、マスコミの記者がエネルギーのことを知らない、勉強していないことだ。

 地震による火力発電の停止、異常な寒波などが重なって、3月に東北地方と首都圏で停電寸前の電力需給ひっ迫があった。しかし、5月に入って気温が上って電力需要が下がり、好天で太陽光が発電して供給が需要をオーバーすると、「何で再エネの出力制御をするんだ」と書く。中には、「電気が余っているのなら料金を下げろ」という記事もあった。電力の需給について、イロハのイが分かっていない。

マスコミ いい例が100万kW級大規模メガソーラーができた時の「原発1基分」との書き方だ。さずがにkWとkW時の区別がつかない記者はいないだろう。だが、あえてそう書く。原子力に否定的な朝日や東京なら、そういう編集方針だからと分かる。しかし、日経まで「原発1基分」と書く。そして電力需給ひっ迫の記事は、「再エネの普及に送電線の整備が欠かせない」で締めくくる。

石油 夏にまた、電力需給ひっ迫があるといわれている。マスコミはその懸念を書くべきだが、太陽光発電の力を過信しているせいか、取り上げようとしない。

電力 朝日は「送電線整備に財政出動しろ」とまで主張している。再エネが普及すれば、全てが解決すると「盲信」している。電力自由化の議論が始まった時、通商産業省(当時)の審議会で、議論を聞いていたT電力のK氏が、最後に「群盲象を評すだ」と感想を言ったことがある。

審議会委員の理解不足 マスコミは「再エネ万能論」

―あの発言は波紋を呼んだ。T電力関係者が「Kさんは将来、社長になる人だから」と、マスコミに記事にしないよう頼んでいた。

電力 確かに「群盲」は使うべき言葉ではない。だけど、議論を聞いていたKさんの本音だったと思う。今も学者も含めて、経産省の審議会委員が電力システムを深く理解しているとは思えない。その構図は、Kさん発言のあった当時と変わっていない。しかも、FIT(固定価格買い取り制度)で再エネが爆発的に普及して、電力システムはより複雑になっている。

石油 政府が再エネ主力電源化の方針を掲げていることの罪は重い。それでマスコミは「再エネ万能論」で通すし、経産官僚も本当は無理なことが分かっていながら、声に出せない。

マスコミ 電気事業の「プロ」にシステム設計を任せていれば、こんな事態にはならなかった。だけど、東日本大震災・福島第一原発事故で、電力関係者は制度設計の審議会から「パージ」されている。もう電力会社に政策をリードする力はない。電力需給のピンチはしばらく続くことになる。

ガス 西日本は原発が稼働して「戦力」が整う。だが、東日本は厳しい状況が続く。心配しているのは天然ガスの調達だ。EUが脱ロシア産を進めている。おそらくガスの輸入も止める。その時、日本はどうするかだ。LNGの需給がひっ迫する一方、原発は動いていない―。最悪の事態もあり得ると思う。

―資源高で電気・ガス料金が上がっている。電力・ガス会社の経営は厳しい。

ガス 電力は燃調制度の上限に達して、売れば売るほど赤字が増える構造になった。21年度は5社が最終赤字。資源高が続いて2年連続最終赤字になったら、料金改定しかないだろう。一方、ガスはまだ余裕があって、7月ごろまで燃調で値上げができる。もっとも、社会の批判を受けることになってしまうが。

―新電力もバタバタとつぶれ、需要家が電力調達に困っている。

電力 調達に困った需要家は送配電会社の最終保障供給に頼る。標準料金メニューの2割増しで供給するが、それでも逆ざや。いつか破綻する。

マスコミ そもそも、電力小売り自由化の議論を始めたときに、新電力が倒産するという事態を想定していなく、深い議論もしなかった。結局、発電設備を持たない事業者に市場参加させる制度の矛盾が、資源高や脱炭素化などの条件が重なって、一気に噴き出たのだと思っている。

海運業界の高利益 悲しい電力・ガスの商売

―一方、大手商社や海運業界は好決算だ。

ガス 海運業界は21年度、2兆円の利益を出している。LNGのサプライチェーンを担う「仲間」だと思っているが、利益が出るときでも「薄利多売」のわれわれと、これほど差が付くとは思わなかった。つくづく「電力・ガスの商売は悲しいな」と思った。

石油 元売りも業績がいいが、資源高を謳歌しているのがLPガス業界だ。燃調制度はあるが、電力・ガスと違いあくまで自主的な取り組み。料金値上げで、かなりの利益を出している。

マスコミ 電気やガスの料金が上がって、深刻な影響を受けているのは、使わざるを得ない生活困窮者などの社会的弱者だ。マスコミは彼らの声を聞いて、値下げを求める記事を載せなければいけないが、あまり見ない。値下げの「即効薬」は原発再稼働。それが嫌で書かないのなら、日本のマスコミは本当に要らない。

―FITを止めれば料金は下がるけど、さすがにそんな記事は期待できないな。

地方創生と分散型エネルギー バイオLPガスの普及に期待

【リレーコラム】荒木 徹/アストモスエネルギー 国際事業本部長

 LPガスは言うまでもなく化石燃料であり、それを取り扱う会社にとってカーボンニュートラルは21世紀最大かつ業界の存否を賭した課題である。

2011年の東日本大震災の直後にLPガスは貯蔵可能な分散型エネルギーという特長を生かし活躍した。特に被災者に寄り添う「社会的価値」、低炭素社会実現への「環境的価値」、そして膨大な原発建設コストに対峙する「経済的価値」の三要素から優れたエネルギーともてはやされたが、今は残念ながら逆風下にある。災害が起きないときには社会的価値は忘れ去られている。さらに、CO2を排出する一次エネルギーという時点で環境的価値は認められず、原油価格が暴騰する今日では、もはや経済的価値は喪失している。少子高齢化が進む日本で需要は漸減しているが、LPガスの復権はあるのだろうか。一次エネルギーの大半をLPガスに依存する地方や地域にとっては、カーボンニュートラルが地方創生を実現する道だ。

脱炭素というビジネスチャンス

50年にカーボンニュートラルが実現できているかどうかはさておき、今はその実現に向けたトランジションを推進することに論を待たない。とりわけ、人口減少が進む地方都市においてカーボンニュートラルを進めるにはスモール&スマートコミュニティーでのマイクログリッド網の整備が不可欠だ。

エネルギー供給源と消費施設を有し地産地消を目指す場合、供給源には太陽光発電、風力発電、バイオマス発電が重要。さらに加えて、同じく分散型エネルギーであるLPガスも大きな役割を果たすと考えている。災害大国の日本においては分散型電源とLPガスの組み合わせはベストミックスであろう。

問題はLPガスのカーボンニュートラルをどう進めるかだ。しかし、地方創生というキーワードであればプロパネーションなどの合成ガス技術よりは、むしろ地方に散在する稲藁、林地残材、家畜排せつ物、古紙などのバイオマス資源を利活用しLPガスに変えていく技術に目を向けたい。バイオマスから炭化水素を製造する技術は既に確立されている。今後は製品収率向上という課題はあるとはいえ、バイオLPガスの普及は実現不可能ではない。技術的な問題よりも原料確保が課題となるが、いずれにせよ、国、地方自治体、企業、国民といった全ての主体による協力の下、その区域の自然的社会的条件に応じて計画的な施策を策定していくしかない。カーボンニュートラルはピンチでもあるがビジネスチャンスでもあるのだ。

あらき・とおる
1987年三菱商事入社。石油製品のトレーディング、炭素製品の製造販売に従事。シンガポール、テヘラン、韓国など約10年間海外勤務を経験。2019年アストモスエネルギーコーポレート本部長、20年10月から現職。

※次回はサステナブルエネルギー開発の代表取締役社長の光山昌浩さんです。

【需要家】エネ貧困の危機 生活水準守る対策を

【業界スクランブル/需要家】

 エネルギー価格が高騰している。2021年前半はコロナ禍での世界的なエネルギー需要減少に伴い原油価格が低下したが、一転現在は、経済活動の再開に伴いエネルギー価格が上昇。加えて円安やロシアによるウクライナ侵攻の影響など、価格が下がる要素は今のところあまり見当たらない。

総務省家計調査から、一般消費者のエネルギー価格負担について考察してみる。22年1~3月の2人以上世帯における電気単価は全国平均1kW時当たり29・21円で、少なくともここ10年の同期間における単価の中で最も高い。さらに電気・ガス・灯油の支払金額が消費支出に占める割合は全国平均8・6%、北海道は13・5%と、こちらもここ10年の同期間中では最高水準である。この影響を受けやすいのは低所得者層である。2人以上世帯では、21年における電気・ガス・灯油の料金が消費支出に占める割合は全国平均で5・8%だが、年収200万円未満の世帯に限ると9%となり、家計に与える影響が大きくなる。一般に低所得者層の住宅は断熱水準が低く、住宅設備も旧式で低効率な傾向がある。低所得者層ではエネルギー使用の効果や満足度が低くなる。言い換えると、一定の満足度を得るために低所得者層では多くのエネルギー消費を要することになるが、所得が少ないため結果的に我慢を強いられやすい。

英国では基礎的なエネルギーサービスを享受できないFuel Poverty(エネルギー貧困)が社会問題となっているが、今後、日本でも同様の問題が顕在化する恐れもある。脱炭素社会の実現だけでなく、全ての人の基本的な生活水準を守ることも両立させることが求められる。そのためには詳細な情報収集と、それに基づく対策の検討が必要となる。(O)

【稲田朋美 自民党 衆議院議員】「原子力議論、今が岐路に」

いなだ・ともみ
1981年早稲田大学法学部卒。弁護士。2005年衆院初当選(福井1区)。
14年政務調査会長、16年第二次安倍内閣防衛相、19年党幹事長代行などを歴任。当選6回。

自民党有数の保守派の論客として、多くの議連立ち上げや提言を行ってきた。

一方で女性活躍の推進や貧困問題にも取り組み、「伝統と創造」の信念を貫く。

 早稲田大学法学部を卒業後、弁護士として活動。当初は政治に興味がなかったという。現在の夫と大阪で独立開業し、子育ての傍ら月刊誌『正論』に投稿を始めた。それをきっかけに南京大虐殺に関する名誉毀損裁判などに携わり、法律家として戦後レジームからの脱却を目指した。

2005年、自民党幹事長代理(当時)の安倍晋三元首相から依頼を受け、党若手の議連で講演を行うと、その後、安倍氏に生まれ故郷の福井県から衆院選出馬を打診された。周囲からは猛反対を受けたが、夫から「君が法廷を通じてこの国を良くしようと思ったことを実現するためには、自民党の衆議院議員になることが一番の近道だ」と後押しを受け、初当選を果たした。

16年、第二次安倍政権で防衛相に就任。当時外務大臣だった岸田文雄首相とともに日豪・日露外務・防衛閣僚会議(「2+2」)などにも臨む。外交・防衛問題に取り組むも、PKO部隊の日報問題で監督責任を問われ、翌年辞任した。当時を「大変な挫折だった」と語るが、安全保障の最前線の状況を把握し、得るものも多かったという。「平和とは当たり前のものではなく、日本がこの厳しい状況下でどう生き延びるか。(防衛相としての経験が)政策の核になっている」とこれまでを振り返る。

現在は今までの経験を生かし、防衛費を対GDP比2%にするなど外交・防衛面から多くの提言を行っている。また、今年2月にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が行われ、その中で原発が攻撃対象に含まれたことを受けて、地元福井県15基の原発防衛の必要性を訴える。武力攻撃、ミサイル攻撃のほか、テロ攻撃などからも原発を防衛するために、自衛隊の警護出動を含めた法的検討も提案している。

「防衛政策、原子力政策は男性議員が取り組むことが多いが、国民の半分である女性が国防の重要性を理解しなければ、安全保障政策は進まない」と、女性にも分かりやすくエネルギー政策、安全保障政策を伝えることが自身の責務だと話す。

「現在の日本には多くの課題があるが、いろいろな意見がある中で、国のリーダーが方向性を示すことが重要」。かつて安倍元首相が表明した経済対策「アベノミクス」で、国民に示したリーダーシップが、今も自身の手本となっている。

「伝統と創造」で課題解決に尽力 脱炭素化社会に原子力の活用説く

国会議員になってからは、自民党有数の保守派論客として憲法改正、安全保障問題などに取り組む。一方で女性活躍の推進や貧困問題、シングルマザー問題にも力を入れる。「伝統と創造」「強くて優しい国」を政治信条に掲げて、これまで自民党の中で多くの議連を立ち上げてきた。

中でも自身が会長を務める「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」には、顧問に安倍氏のほか、甘利明元経済産業相や額賀福志郎元財務相、細田博之元幹事長らが名を連ねる。50年カーボンニュートラル宣言の実現へ向け、将来のエネルギー政策のあるべき姿を明確に示し、原子力の方向性を明らかにする思いがあった。

「顧問の先生方は、そうそうたるメンバーに入っていただいた。強い経済をつくること、経済安保や安全保障の点からも、エネルギー自給率の上昇は重要」として、東日本大震災以降のエネルギー自給率の低さを指摘する。今後、原発の担う役割についても「世界の中でも厳格な日本の審査基準を満たしたものは再稼働し、将来は新しい技術の原子炉に置き換える。40年を超える原発の運転を進めるに当たって、リプレースの議論を進めるべきだ」と話す。

自民党政務調査会の「原子力規制に関する特別委員会」では、原発を抱える複数の自治体からヒアリングを受けた。「規制委員会と事業者とのコミュニケーションに問題がある。早く審査できるものは進めていく必要がある」と、安全審査が進まない原発再稼働の現状に疑問を呈した。原子力規制の在り方については「将来に向けた原子力の議論をしないと、人材も枯渇し、技術も失われる。今はちょうどその岐路に立っている」と警鐘を鳴らしている。

趣味の早朝ランニングは、有権者からの陳情や議員との会合の合間を縫って、現在も続けている。座右の銘は、フランスの哲学者アランこと、エミール=オーギュスト・シャルティエが執筆した『幸福論』の一部から引用した「高邁な精神で決断し、断固として行動する」。これからも決断することの重要性を認識し、決断したことに対して迷わずに行動していく。

【再エネ】太陽光パネル不法投棄 取り締まりが急務

【業界スクランブル/再エネ】

 2030年。太陽光は発電容量約1億350万~1億1760万kWとなる見通しだ。概算では太陽光パネルの総数は約2億7500万枚に及ぶと思われ、この膨大なパネルの相当数が廃棄物処理されることになる。適正に廃棄処理されれば問題はないのだが、それが果たして適正に行われるのか、疑わざるを得ない。

有害な物質が含まれており、廃棄やリサイクル技術はまだ確立されていないという。このままだと近い将来、使用済みパネルの不法投棄や放置などが横行し、深刻な社会問題となるのではないかと予想する。

太陽光パネルは、自動車のように車体番号があるわけでもなく、不法投棄されても所有者などを特定することは困難とみられる。それが故に、不法投棄が常態化し、それによる環境被害が懸念されるところだ。

もちろん不法投棄は犯罪だが、例えば太陽光パネルを有害廃棄物として輸出することはバーゼル条約などで規制されている。しかしリユースなどの名目であれば規制対象外となり、国外への持ち出しも可能になるのではないかと危惧する。

産廃処理なども手掛ける一部の悪質事業者は、廃棄パネルを貨物船などに積み込んで海洋投棄する恐れもある。そのような事態になった場合、果たして、それを適切に取り締まることが可能なのだろうか。 不法投棄で荒稼ぎを考えるような悪質事業者は、往々にして法律や制度に精通しているので手に負えない。国としては1日も早く、想定される事態が起こり得ないよう、綿密に法制度を整備し、それと併せて取り締り機関の体制強化を図っていく必要がある。環境破壊を防ぎ、国民が安心して暮らせるよう、真に実効性のある制度改正が行われることを切望する。(Y)

福島廃炉作業でまずやる仕事 事故現場の実体を図面に

【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.15】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一の廃炉でまず必要なことは、破損・汚染の状況を炉ごとに克明に記した地図の作成だ。

地図なしでの廃炉工事は無謀であり、廃炉方法の検討などは地図ができてからにすべきだ。

 これまで内外の原子力事故について話してきた。そこから得た教訓は、事故の経緯は炉ごとに違い、破壊や汚染の状況も原子炉ごとに異なるであった。従って、廃炉も炉ごとに異なる。今回は廃炉を行うに当たっての必要な準備について述べる。

まず諸外国の状況から。米国のSL-1(静止型低出力原子炉1号)は廃炉を完了した唯一の事故炉だ。30年で完了できたのは、単純な暴走事故であったことと、発生が燃料交換の直後であったので、放射能の放出が少なかったことによる。廃炉に先立ってBORAX(Boiling Reactor Experiments)、SPR(Special Purpose Reactor Test)の暴走実験を行い、事故の実体を把握した上で解体工事を始めたことが円滑な廃炉に役立った。

これに比べて、TMI事故の検証は同じ米国でも手ぬるい。冷却水の注水直後に炉心溶融したことに気付かず、炉心溶融は崩壊熱で起きるとした従来の考え方に従った解析を行っただけで、実験による確認を行っていない。

解体作業の経験をもとにして作り上げた熔融炉心のスケッチ図は素晴らしいが、米国は図の解明をしていない。例えば、卵の殻の形成理由や、燃料デブリと溶融炉心とが別々に存在する理由などの説明がない。TMIの事故究明はまだ終了していない。

なお最近、TMIの廃炉工事再開のうわさを耳にした。格納容器の内部で作業できるのは汚染が少ない証拠で、恐らくその理由は炉心溶融ガスが深い水槽を持つ加圧器を通って格納容器に入ったことによろう。これはBWRの水ベントの「うがい効果」と同じで、大きな除染効果を持つ。

チェルノブイリ事故は、ゴルバチョフのグラスノスチ時代に起きた。おかげで、事故説明に隠し立てはなく、あるがままの破壊状態を見せてもらえたのは幸運であった。すさまじい被害実体はよく理解できたが、事故の原因や経緯の検討は十分ではない。

風雨が降り込んでいた石棺は、EUの出資で新建造物(覆い)が造られ、雨風も止まり、放射能の外部飛散もなくなった。米国地質学会誌によれば、30㎞圏の強制避難地域は野生動物の天国と化し、コロナ直前には年間10万人の見物客が押し寄せたとある。チ炉は事故状態から脱却して、安全管理による廃炉状態になったと安心していたが、ウクライナ侵攻で発電所が占領され、退却途中にロシア兵が陣を張り、多数が被ばくしたとの報道があった。今後どうなるか。

英国研究所の炉心溶融事故 60年後も手付かずに

発電炉ではないのでこれまで述べなかったが、世界で炉心溶融事故を起こした一番手は英国のウインズケール研究炉(金属燃料・黒鉛減速炉)だ。事故後60年がたつが、熔融炉心にはまだ手が付いていない。研究所は牧畜を営む静かな農村にあり、周囲との関係は良好で、住民に事故を気にしている様子はない。英国の国民性は、米国のように経済が最大関心事でもなければ、日本のようにせっかちな律儀者でもない。廃炉はTMIの様子を見た後に行えばよいと、どっしり構えている。下手に急いで、金を使って被ばく者をつくるのは無駄と考えているようだ。外国の概況は以上だ。解体撤去工事を急ぐ気配はどこにもない。

福島の廃炉は、これまで発表された政府見解から述べる。

2011年12月に政府が決定した中長期ロードマップは「30年~40年後に廃止措置の終了を目標とする」とあり、過去5回の改訂を経たが、内容に変更はない。

13年に発足した国際廃炉研究開発機構はこの意向を受けて、「溶融炉心の状況や所在の調査をすることから始めて、40年後の廃炉完了を目指す」と発表した。

16年12月に経済産業省が廃炉機構の試算として発表した廃炉費用は、明確な根拠はないとしながら、2兆円の東京電力の当初予算を大幅に増大して、8兆円にした。 過去に公式に示された政府の意向は以上だ。委員会の議事録などを散見する限り、40年での廃炉完了の方針に変更はなさそうだ。

この10年間、東電が行った仕事は、ほとんどが事故の後始末だ。列挙すれば、発電所の破壊調査、放射性物質の飛散防止、港湾の整備、汚染水の海洋流出防止、汚染水の浄化および貯蔵、地下水の流入防止工事など、みな事故処理仕事だ。廃炉の仕事は、使用済み燃料の施設外輸送と、ロボットによる格納容器内部の小手調べ調査くらいだ。今、問題の浄化水の海洋放出が終われば、事故の後始末はほぼ終了し、廃炉の出番となる。

炉ごとに異なる福島の廃炉 まず克明な地図の作成を

事故炉の廃炉は炉ごとに異なると冒頭に述べたが、福島第一の廃炉も炉ごとに異なる。まず最初に行うべき仕事は、それぞれの事故現場の状況を図面に表すことだ。言い換えれば、各発電所の破損と汚染の状況を克明に記した地図の作成だ。地図なしでの廃炉作業は、海図なしで見知らぬ海を航海するのと同じくらい危険。廃炉方法の検討などは、地図ができてからの話だ。

まず克明な状況の把握が必要になる

正確な地図を作るには、①事故現場を詳細に調査し、②事故経緯から発生事象を推考する―の二つが必用だ。実用に耐える地図を作るには、両者をつき合わせて検討する頭脳と技術の協力が欠かせない。炉心解体での掘削速度の相違をヒントに作ったというTMIのスケッチ図は、地図作成のお手本だ。出来上がる地図が完成していれば工事は成功し、不完全であれば難航する。廃炉の成否は地図の精度にかかっている。

東電は今、地図作成の時期にきていると思うが、その準備は始まっているのであろうか。率直に言って、そうは見えないのだが。

地図の作成は、現場の調査だけではない。②で①を考え、①で②を修正していく繰り返し作業だ。他人の意見に耳を傾け、議論を重ね、相補う忍耐が肝要だ。失礼ながら、誇り高い東電職員は、事故の責を負う気概が強い故か、この手の協力が苦手に見える。地図作成は、記憶がまだ残る今しかない。己を捨てての実行を期待する。

福島事故については、日本はまだ正式な発表を世界に対し行っていない。世界は一時、事故解明を支援する姿勢を日本に示したが、あまりにも反応がないのにあきれて、忘れたふりをしてくれている。地図作成を機に判明した範囲でよい、福島の現状を世界に伝えてはどうか。

いしかわ・みちお  東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3 https://energy-forum.co.jp/online-content/5381/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.4 https://energy-forum.co.jp/online-content/5693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.5 https://energy-forum.co.jp/online-content/6102/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.6 https://energy-forum.co.jp/online-content/6411/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.7 https://energy-forum.co.jp/online-content/6699/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.8 https://energy-forum.co.jp/online-content/7022/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.9 https://energy-forum.co.jp/online-content/7312/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.10 https://energy-forum.co.jp/online-content/7574/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.11 https://energy-forum.co.jp/online-content/7895/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.12 https://energy-forum.co.jp/online-content/8217/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.13 https://energy-forum.co.jp/online-content/8547/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.14 https://energy-forum.co.jp/online-content/8843/

温暖化問題解決のカギ握るモビリティ ゼロエミッション車の主流はどれになるか

【多事争論】話題:脱炭素時代のモビリティーの在り方

カーボンニュートラル(CN)に向けて、次世代のモビリティーについて議論が進む。

電気自動車への関心は高いが、さまざまなタイプがしのぎを削ることになる。

〈 大型・長距離輸送でも有利に 陸上輸送はBEVがほとんどカバー 〉

視点A:櫻井 啓一郎/産業技術総合研究所安全科学部門主任研究員

電気自動車(BEV)を取り巻く状況は、この10年ほどで劇的に変わった。まずバッテリーの性能が上がった。体積・重量当たりのバッテリー容量が何倍にも増加し、BEVの航続距離は新車の平均で400㎞に達し、航続距離1000㎞の車種も発表されている。充電速度も、速いものでは6~8分で8~9割方充電できる製品が発売されている。加えて搭載するバッテリーの大容量化によって単位時間当たりの充電電力量も増え、休憩中の充電で不便なく移動可能な性能になった。耐久性も数十万㎞の走行に耐えるようになり、EVから取り外したバッテリーの二次利用も始まっている。水素や合成燃料の独壇場とも見られていた大型・長距離輸送においてもバッテリーの性能向上と価格の低減により、最近ではBEV化が合理的と分析されている。

大型のBEVトラックも発売・発表が相次いでいる。もはや陸上輸送は、BEVがほとんどをカバーできそうである。そもそもBEVは静か、素早くスムーズな反応で運転しやすい、重心が低く室内も広く平らで居住性が良い、冬も暖房がすぐに効く、走行コストやメンテナンスコストも概して安いなどの利点が多く、既に各国で人気である。2021年に世界市場の8・3%がBEVになったが、世界のバッテリーの生産能力は、25年までにさらに4倍以上に拡大するとみられる。

充電インフラを整え、税控除などで安価に購入・運用できるようにしたノルウェーでは、4月時点で新車の8割以上がBEVになっている。購入の最大の動機は金銭の節約であり、次に環境、そして時間の節約である。駐車ついでの充電なので、昨今の充電速度ならばガソリンスタンドに寄らない分、むしろ時間の節約が可能である(日本は充電インフラが貧弱で、不便だが)。BEVが安上がりになり、充電インフラも整えば、現在の性能でも乗用車の主流になれる。東南アジアやインドなどの新興国でも普及の動きが活発である。

製造時のCO2排出量についても、最大生産国の中国でも電力の低排出化が進められ、一部地域では既に日本よりも低排出である。加えて再生可能エネルギーが安価になったことで太陽光や風力の個別利用も増え、低排出を売りにした中国製品も見られる。現在の日本のように化石燃料火力発電の比率が高く年間走行距離が短めの国でBEVを利用しても、ハイブリッド車(HV)と同程度の排出削減効果がある。

大気汚染やエネルギー効率の点でも、エンジン車より環境に優しい。必要な金属・ミネラル資源は多めであるが、代わりに化石燃料の消費量は減らせる。さらに化石燃料と異なり、リサイクルも可能である。リチウムイオンバッテリーは既にHEVでも用いられており、リサイクルも事業化されている。

低下するバッテリー価格 いずれエンジン車より安価に

残る障害は価格である。バッテリーの価格はこの30年間で約100分の1になった。直近では需要の急増で値上がりしているものの、市場規模の拡大と新技術の投入が続いている。今後は各市場で順次、BEVがエンジン車よりも安価になっていき、ゼロエミッション車の主流になるものとみられている。

BEVは余力を集めるコストだけで利用できる、安価かつ大容量の蓄電資源にもなる。例えば現在の日本でも、昼間に太陽光発電の電力が余って捨てられる(出力抑制される)ことがある。そこで職場などの駐車場に小型の普通充電器や200Vコンセントを設置すれば、昼間の安価な電力でBEVに充電できる。さらにV2H(ビークルトゥホーム)設備があれば、その電力を帰宅後に住宅で利用可能だ。V2H設備は今のところ高価だが、BEVの高出力なインバーターから住宅に直接給電するようにすれば、V2Hも安価に実現できるだろう。すると、国全体でも排出削減を促進できる。

例えば日本の年間発電電力量の2割が太陽光と風力になり、そのうち5%が出力抑制されると仮定すると、その出力抑制分はBEVの旅客用乗用車600万台分の電力需要量に相当する。また日本の旅客用乗用車6000万台のうち5%が平均50‌kW時のバッテリーを搭載したBEVになったと仮定すると、バッテリー容量の合計(150GW時)は全水力発電所(約28‌GW:揚水発電含む)が5時間稼働したときの発電電力量を超える。BEVのバッテリー容量のごく一部が利用できるだけでも、無視できない規模の国益をもたらし得る。加えて災害・長時間停電時のエアコンや給湯の電源になり、太陽光発電からも充電できることで、住宅部門の脱炭素化も促せることになる。

さくらい・けいいちろう
1971年生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了。独ハーンマイトナー研究所客員研究員、米国国立再生可能エネルギー研究所客員研究員などを経て、産業技術総合研究所入所。博士(工学・京大)。

【火力】システム改革再考 一度立ち止まろう

【業界スクランブル/火力】

 昨年からエネルギー資源の世界的な高騰が問題となっているが、最近になってウクライナ危機の長期化により混迷の度はますます深まるばかりだ。

気候変動問題への影響に関してもさまざまな見方があるようで、例えばドイツの場合、これを機にロシア依存からの脱却も含め一層再エネの普及を加速すべしとの意見もある一方、エネルギー政策の生命線であるノルドストリーム2(独露を結ぶ天然ガスパイプライン)を当てにすることができなくなったため石炭に回帰せざるを得ないという話もある。これら真逆の話のどちらにも一理ありそうだが、エネルギー無くして現代社会は成り立たないのだから、エネルギー途絶という決定的な状況を避けながら両論の間を右往左往していくことになるのだろう。

わが国においても、エネルギー資源確保の問題は重大だが、それに加えて供給力が不足する問題にも直面している。いわゆるkWもkW時も不足することが懸念されており、そのことが問題をより複雑にしている。

切迫した状況を受け、資源エネルギー庁主導の検討会が急ぎ行われており、kW問題もkW時問題も正確な情報を関係者で共有することが何より重要であるということが真っ先に指摘されるのだが、ここに大きな問題がある。自由化の進展に伴い発送分離が実現し、肝心の情報が公平性の観点から発電・送配電・小売りの間でスムースに流れないようにしてしまったことだ。

しかし、ひっ迫警報による節電要請や計画停電という自由化とは相容れない手に頼るまでに追い詰められているのだから、いったん立ち止まり、情報の一元管理で、全体最適化を目指す仕組みを考えてはどうか。懸念される不公平に対しては、払しょくする仕組みを別途考える方がよほどの近道だ。(N)

【コラム/6月22日】ウクライナ危機とエネルギー自立の動き

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、EUが、エネルギーのロシア依存を解消すべく様々な対応策を打ち出す中で、主要加盟国は、独自のエネルギーセキュリティ政策を発表している。様々な報道をみると、英国、フランス、ドイツでは、つぎのような動きがみられる。

英国は、4月6日に、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy: BEIS) が発表した「英国エネルギーセキュリティ戦略」(“ British Energy Security Strategy”)で、短期的には国産の石油や天然ガスの増産を支援するものの、2030年までに電力供給の95%までを低炭素化し、原子力発電、風力・太陽光発電、クリーン水素などのクリーンエネルギー設備を拡大していく。

原子力発電については、2030年までに最大8基を稼働させ、小型モジュール炉(Small Modular Reactors: SMR)を含めて、2050年までに最大2,400万kWの発電容量を確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う。開発を支援する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力」(”Great British Nuclear”)を設立し、十分な予算措置を講じることで、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援を可能にする。

英国では、2014年から、自由化市場の下での低炭素電源促進のために、原子力発電にも差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)を導入したが、プロジェクトから撤退する事業者も多く、新規原子力発電を支援する上で新たな政府機関がどれだけ有効に機能するか注目される。

フランスでは、マクロン大統領が、 2022年2月13日に、2050年カーボンニュートラルと原子力産業再生を目指して最大14基の原子炉を新設することを発表している(少なくとも6基の原子炉を新設し、さらに8基をオプションとする)。4年前の大統領就任時には、原子力発電への依存度を減らすために12基閉鎖するとしていたが、拡大に方針を転換した。最初の原子炉の稼働は2035年までの建設を目指す。また、既存の原子炉については、安全が確認された場合には、稼働延長する。小型モジュール炉( SMR)も複数基建設する。同時に、再生可能エネルギー発電や省エネも推進していく。

原子力発電の拡大についての懸念材料としては、まず電力会社EDFが巨額な負債を抱えていることが挙げられる。また、建設中のフラマンビル3号(163万kWの欧州加圧水型軽水炉)の燃料装荷が2023年第2四半期となり、2007年12月の建設着手から15年以上を経過する上、建設費も当初予算の4倍の127億ユーロになっていることから、将来的に、順調な建設が見込まれるか予断を許さない状況にある。

ドイツでは、ショルツ首相が、2022年2月22日、ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認を受け、ロシアからの天然ガス輸送パイプライン、ノルドストリーム2のプロジェクト承認停止を明らかにした。また、2月27日に、連邦議会で、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子炉3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した(LNG基地については、その後、4隻の浮体式貯蔵再ガス化設備の導入が計画されている。また、原子力炉については、 3月8日に稼働延長案は却下された)。

また、3月25日には、連邦政府は、オランダ経由でのLNG調達や浮体式貯蔵再ガス化設備の導入などで、2024年夏までにロシアへのガス依存率を10%にまで引き下げるとの見通しを発表している。さらに、連邦政府は4月6日に、再生可能エネルギー法、洋上風力エネルギー法、エネルギー経済法などの改正案を束ねた「イースターパッケージ」(“Osterpaket”)を採択し、今後、連邦議会で立法手続きに入る。改正再生可能エネルギー法では、2035年には電力供給のほぼ全てを再生可能エネルギーでまかなう目標を定めている。

ドイツにも課題もある。再生可能エネルギーに大きく依存することで、電力システムの安定性に対する懸念が高まること、再生可能エネルギー支援コストの増大により国民負担が増すこと、大規模ソーラー発電や風力発電に対しての住民のアクセプタンスが現在でも困難化しているのに、これらの発電設備を何倍にも拡大することは果たして実現可能かなどである。

英国、フランス、ドイツにおいてそれぞれ課題はあり、実現可能性に不確かなところもあるが、各国は、最大限自前でエネルギーを確保すること目指している。従来は、エネルギーセキュリティ確保には供給元や供給ルートの多様化が重要と考えられた。ウクライナ危機で、世界経済のブロック化が進む可能性が指摘されているが、エネルギー分野では、国や地域の独立性が高まっていくだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】ウクライナの「長期戦」 日本の立ち位置は

【業界スクランブル/原子力】

ウクライナ戦争は長引き、米バイデン政権かプーチン政権が終了するまで継続する可能性が高い。ただ、いずれは終わる。その時のために関係を維持することも大切になる。駐日ロシア大使館員の追放は合理的に行ったように見えない。

独シュルツ首相は4月に戦争の見通しについて、米・英・仏・日など西側トップの総意として「ロシアの勝利を許してはならない」と発言し、早期停戦の可能性がなくなった。ウクライナによる東部・南部・クリミアの回復(ほぼ実現不可能)を目標にしてしまったからだ。

露ラブロフ外相は、米国に対するチャンネルが消滅したことを認めた。米露外交は表裏とも消滅し、キューバ危機以上に関係は悪化している。ドネツク決戦が近いが、ドネツクをロシアが制圧するとゼレンスキー政権が持たないので米国はウクライナ支援を決めている。懸念するのは、ポーランドがもともとポーランド領であるガリチア地方への軍派遣を検討していることだ。もしそうなればNATO軍とロシア軍の戦闘が始まる。

その中で、日本の立ち位置はどうか。サハリン1、2からの天然ガスの大量輸入の実態があり、経済産業省、経団連がそれの継続の方針でブレていないことは正しいだろう。岸田文雄首相は、G7との共同歩調を鮮明にしているが、ロシアを無理に締め出すのは国益に反する。

わが国はベストミックスの観点から、原発の再稼働を進めるべきであるし、核融合なども進めるべきだ。つなぎとして新型炉も必要だ。すると当然、日露関係が大切になる。また忘れてならないのが、火力発電での協力関係だ。JERAはアンモニア発電を進めているが、ロシアには原料を安価につくる計画がある。ロシアとのパイプを切るべきではない。(S)