【マーケット情報/4月12日】原油下落、需給緩和感が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和感の強まりが、価格の下方圧力となった。

米国の連邦準備理事会が、6月に予定していた金利引き下げを後ろ倒しにするとの予測が強まった。米国では、3月の消費者物価指数が上昇し、非農業部門の雇用者数が増加。加えて、失業率は下落しており、インフレ圧力は依然強いとみられている。利下げ開始が遅れることで、米国経済、および石油需要の回復がしばらく見込めないとの観測が広がった。

また、中国でも需要が後退。原油価格の高止まりで、精製マージンが一段と縮小したことが要因となっている。

供給面では、米国の週間在庫が増加し、過去8カ月で最高を記録した。輸出の減少が続いていることが背景にある。

一方、中東では、イランがイスラエルに空爆し、情勢が悪化。イスラエルが、イランの在シリア大使館を攻撃したことに対する報復措置とみられる。同地域からの供給不安がさらに強まり、価格の下落を幾分か抑制した。


【4月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.66ドル(前週比1.25ドル安)、ブレント先物(ICE)=90.45ドル(前週比0.72ドル安)、オマーン先物(DME)=90.35ドル(前週比0.55ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.51ドル(前週比0.17ドル安)

【コラム/4月15日】将来の電力需給シナリオに関する日独比較


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電力広域的運営推進機関(OCCTO)に設置された有識者検討会「将来の電力需給シナリオに関する検討会」では、2040年と2050年における電力需給のシナリオについて、昨年11月より、専門的知見を有する電力中央研究所(電中研)、地球環境産業技術研究機構(RITE)、デロイトトーマツコンサルティング合同会社(デロイト)の3機関からヒアリングを行い、2024年度末までの取りまとめを目指している。有識者検討会では、需要サイドから検討が進められており、これまでに、電力需要の構成要素として、経済活動や社会動態の変動を考慮した基礎的需要の動向のみならず、省エネ進展度、電化進展度、産業構造の変化、新技術の普及などを考慮した長期需要想定の試算が3機関から提出されている。

わが国の電力需要は、長期的に増大するのであろうか、減少するのであろうか、大いに関心がもたれるところであるが、3機関とも電力需要は長期的に増大すると想定している。電中研は、電力需要は、2021年度の924 TWh から2050年度には937~1,265TWh(Midは1,070TWh)に増大すると推計している(自家消費含む、2024年3月5日提出資料)。RITEは、2015年の1,000 TWh程度が、2050年には10~30%程度増大すると推計している(発電電力量、2024年3月5日提出資料)。また、デロイトは、エネルギー自給率での感度分析を行い、自給率が高くなるにつれて電力需要が大きく増加するという興味深いシミュレーション結果を得ている。それによれば、エネルギー自給率の高低により、2050年の電力需要は1,200 ~1,800 TWh程度 (中位は、1,400 TWh程度)になると想定している(送電端、2023年11月30日提出資料)。そして、国内の再生可能エネルギーを積極的に導入するケースでは、各部門の電化が進むほか、水素製造による消費電力が増加することから電力需要が大きく押し上げられると説明している。

再生可能エネルギー電源拡大の電力需要に及ぼす影響が顕著に現れているのが、ドイツのカーボンニュートラルのシナリオである。ドイツでは、連邦気候保護法(Bundes-Klimaschutzgesetz)の第1次改正が2021年6月に行われ、2045年カーボンニュートラル(CN)を目指すことになった。それに伴い、数多くの専門機関から2045CNシナリオが発表されている。ここでは、複数の代表的な研究を比較したケルン大学エネルギー経済研究所(EWI)の調査に依拠してドイツにおける長期の電力需要想定を見てみよう。

同調査によれば、電力需要(総電力消費量)は、一部シナリオ(極度な省エネを想定するシナリオ)を除くと、2020年の555TWhから、2045年には900~1,500 TWh程度に増大する。5つのシナリオの平均値は1,130 TWh程度で、電力需要は2020~2045年間に倍増する。ドイツにおける電力需要の増加率は、わが国におけるそれを大きく上回る(デロイトの自給率高位ケースを除く)。その理由は、主として、再生可能エネルギー電源の増大が、水素製造への電力投入を増大させるとともに、最終消費部門(産業、建物、運輸)の電化を進展させるためである(5つのシナリオにおける想定の違いは、主に、水素製造への電力投入、電化、エネルギー効率化の違いによる)。ドイツの専門機関の想定では、2045年における再生可能エネルギーの発電量は、発電量全体の8割を超える。電化率が上昇するのは、再生可能エネルギー電力の増大により、電力、熱、運輸の分野を統合し、全体最適を行っていくセクターカップリングが進展するためである。その結果、最終エネルギー消費に占める電力の比率は、2020年の20%から2045年には46~69%に大幅に上昇する。セクターカップリングにより再生可能エネルギー電力の変動問題は大きく軽減できるというメリットも指摘される。

ドイツのシナリオに関して、再生可能エネルギー一辺倒過ぎないか、再生可能エネルギーと多様な脱炭素電源の組み合わせを目指すほうが効率的ではないかという疑問もあるだろう。しかし、ドイツのシナリオは非現実的なのかというと、必ずしもそうとは考えられていない。Fraunhofer研究所によれば、同国では、2040年には蓄電池付き太陽光発電や陸上・洋上風力発電の均等化発電コストは、中央値での比較で、CCGTなどの在来型火力発電のそれよりも低くなると予測されている(当然、合成燃料を利用する発電の均等化コストよりも低くなる)。既知の通り、ドイツでは、原子力発電は政治的決定で廃止され、新規建設も予定されていない。 わが国では、再生可能エネルギー電源と原子力発電を含む多様な脱炭素電源の組み合わせを目指すとしたら、2050年には、電力需給構造は日独で大きく異なったものになる可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

「生産者主義」のパリ協定 JCMは日本の脱炭素成長モデル


【オピニオン】森本英香/早稲田大学法学部教授

気候変動は地球規模での危機であると同時に、地球規模で取り組まねば解決できない課題でもある。

2050年カーボンニュートラル(CN)を宣言した日本などだけでなく、全ての国が取り組む必要がある。その中には、日本同様、化石燃料への大幅な依存に悩む国は多く、日本が50年CNに向けての技術、システムを確立することは各国の取り組みをエンカレッジするとともに、その市場の獲得を通じて脱炭素化時代の日本の成長機会となるはずだ。

パリ協定は、国ごとに排出削減目標(NDC)を決めて取り組む仕組みとなっている。このNDCは、「生産者責任」に基づく。生産物が輸出されても、生産時に排出される温室効果ガスは全て生産国の排出量としてカウントされる。一方、脱(低)炭素な製品を生み出し世界中に普及したとしても、当該製品の脱炭素効果は消費国に帰属し、生産国のNDCには反映されない。この点はかねてから批判、あるいは不満が述べられてきた点である。

これに対して、二国間クレジット制度(JCM)が一つの回答になる。JCMは、途上国への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラなどの普及や対策実施を通じて、温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度である。わが国では13年から実施してきたもので、COP26において晴れてパリ協定第6条のルールが合意された。

二国間で協定を結び、クリーン開発メカニズム(CDM)に比べ比較的柔軟・迅速に実施できる。既にわが国は29カ国との間で協定を結んでおり、30年度までの累積で1億t―CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指すこととされている。

この制度は大企業のみならず、意欲ある中小企業に活躍の場を提供するものにもなっている。例えば、東京のY社は従業員200人以下の会社であるが、JCMの仕組みを利用して、高効率なアモルファス変圧器を生産し、これをベトナム、ラオスで展開している。配電にかかる電力ロスを低減するとともに、発電由来の温室効果ガスを削減するもので、ベトナム全土にアモルファス変圧器を1万台以上導入し、隣国ラオスにも進出している。 JCMは、「脱炭素化時代の日本の成長モデル」のひな型となる。日本が開発し知財を確保した技術、製品、システム、サービス、インフラなどを、JCMを通じて世界に普及することで、日本の成長とNDC達成に貢献する。データ解析会社のアスタミューゼによれば、日本の脱炭素関連の技術・特許を有する企業数は各国に比し多い。この知財を基に、意欲ある企業がわが国の50年CN、そして各国のCNにも寄与することを期待したい。

もりもと・ひでか 東京大学法学部卒後、環境庁入庁。内閣官房内閣審議官、原子力規制庁次長などを経て環境事務次官(2017~19年)。現在、東大客員教授、東海大学環境サステイナビリティ研究所所長、持続性推進機構理事長も務める。

損益のブレを平準化する役割 ガス価格の高騰リスクに備えを


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:電力先物市場

電力・ガス市場の価格高騰と需給ひっ迫リスクが高まり、ヘッジの重要性が高まっている。

高井裕之氏が世界の天然ガス市場の現状と市場機能を活用した安定化の重要性を解説する。

世界最大の電力取引所EEXグループは、4年前に日本で電力先物の取り扱いを開始し、以来、取引高は右肩上がりに伸びて、今年は1~2月で12・2TW時(1TWは10億kW)を約定している。これは卸電力市場(スポット市場)の取引量の約3割に相当する。

電力先物とは、将来の電力を売買する金融派生商品で差金のみを決済する。先物を買っておけば、将来の値上がり分は先物での利益で補填され損益のブレを平準化できる。逆に値下がりすれば、先物で損が生じるが、先物を買った時点で現物販売も決めているので現物からの益で先物の損は相殺される。反対に、先物を売っておけばその売値を元に現物を調達すればいい。先物の本質は、損益のブレを回避することにあり決して投機ではない。

近年、わが国の卸電力価格のボラティリティの高まりで、市場リスク管理の重要性が再認識されている。2021年頃から発電燃料である天然ガスの価格が高騰するようになったことが主因だ。電力需給には同時同量の原則がありインバランスは停電のリスクを孕む。一方で消費量の制御は困難なため、需要に合わせて発電量を調整し同時同量を担保する。しかし再生可能エネルギーが増えれば、発電量が天候に左右され制御が容易ではなくなる。

そこで、発電量を比較的容易に増減できる調整電源として火力発電が用いられる。特にCO2排出量が少ないガスの需要は世界的に増加傾向にある。再エネは環境に優しく経済性もあるが、間欠性のためにバックアップとしての火力電源が不可欠で電力価格はガス価格に影響される。天然ガスは米州・欧州・アジアが主要な消費地で、基本的に地域ごとに市場が存在する。北米はシェールガスの登場で自給自足できるようになった。欧州はパイプライン経由でロシアや北欧からガス供給を受け、アジアは米国・中東・豪州・ロシアなどからの液化天然ガス(LNG)輸入に依存するというのが近年までの需給構造だった。

EEX日本電力先物の出来高(単位:GWh)


需給ひっ迫が契機 巨大な一つの市場を形成

アジア市場におけるLNG価格(JKM)は、長らく100万Btu(英国熱量単位)当たり10ドル前後で安定していた。しかし、経済成長や低炭素燃料へのシフトにより中国におけるガス需要が急激に増加したことで、次第にアジア市場におけるガス需給はタイトになり、短期的な需給の変化に価格が敏感に反応するようになった。20年末から21年初にかけて、東アジア全域を寒波が襲った時にはLNGが不足し、JKM価格は3倍近くに高騰した。

わが国の卸電力価格も、それまでkW時当たり10円前後で推移していたものが、一時200円まで高騰し、卸市場からの調達に過度に依存していた一部の事業者が破綻する事態にまで発展した。当時はまだ先物を使ったヘッジが普及しておらず、卸電力価格もJKM価格も長らく低位安定していたため事業者が価格リスクに対して鈍感かつ無防備になっていたと考えられる。

原子力規制委は災害時に機能したのか 計画・マニュアル策定は政治家の責任


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

自民党派閥パーティー裏金問題を巡って大荒れとなった衆議院での予算案の審議だが、私は採決間近の2月27日に予算委員会分科会で、1月14日の岸田文雄首相との議論に続き、能登半島地震で原子力規制委員会の対応について議論を行った。

今回新たに議論のテーマとしたのは、初動のあり方だった。元日の午後4時10分に地震が発生し、9分後には警戒本部が立ち上がっていた。大みそかから2人の職員が宿直しており、15分後にはその者も含めて4人の職員が出勤していたという。現地でも、地震発生の10分後に現地に駐在する職員がオフサイトセンターに参集している。ほとんど報道されていないが、年末年始にこうした対応ができる原子力規制庁の職員の皆さんには敬意の思いしかない。こうして原子力の安全を保てる体制ができていることは、もっと国民の皆さんに知っていただいていいだろう。

しかし、問題はここからだ。午後4時45分に北陸電力からサイト内の状況などについて報告がなされ、規制庁はモニタリングポストの値に異常がなかったことを確認して警戒体制を解いてしまう。午後6時半と午後8時半に2回の記者ブリーフィングが行われたものの、それ以降は規制委からは志賀原発の状況についての発信がなされることはなかった。それもこれも原子力防災業務計画や初動マニュアルには、警戒事態における広報のことしか書かれていないことが原因と見られる。

リスク評価や説明なく 広報に国民感覚とのズレ

一方、志賀原発では1月2日以降、変圧器からの油漏れや使用済燃料プールのスロッシングなどが報道され、ネット上ではさまざまなデマが飛び交うことになった。本来であれば、こうしたことに現地の防災専門官や運転検査官が状況を確認し、規制委がリスクを評価して、国民に正確な情報を知らせなければならない。しかし、規制委の会合が開かれたのは1月10日。結局、リスク評価も、国民への説明もなされていない。
規制委の災害時の広報体制は、国民感覚からズレていると言わざるを得ない。規制が政治から独立した国家行政組織法上の三条委員会の所管であるため、環境大臣が原子力防災担当の内閣府特命担当大臣を兼任しているにもかかわらず、そこに当事者意識がないのは問題だ。
先の宿直の例に挙げた通り、日本の行政組織はあらかじめ計画やマニュアルで決めていることは忠実に実行する。災害時にどのように国民に情報を伝えるのか、計画やマニュアルを定めるのは、技術面の専門性を持つ規制委だけではなく、政府にいる政治家の責任でもある。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年4月号)


NEWS 01:防衛省が陸上風力規制へ ゾーニングが一層重要に

政府は、陸上の風力発電設備が自衛隊のレーダーなどに障害を及ぼさないよう規制する「防衛・風力発電調整法案」を3月1日の閣議で決定した。指定区域に風車を設置する際に届け出が必要となる。自衛隊のレーダー運用などに影響がある場合、設置者と最大2年間協議し、期間中に勝手に工事を実施した場合などの罰則も規定する。木原稔防衛相は「自衛隊などの円滑かつ安全な活動を確保するために必要な法案」だとし、国会での早期成立を目指す方針だ。

レーダーと風車の「共生」が必要だ

風車が電波を反射し、目標の正確な探知が困難になると、警戒監視活動やスクランブル対応に支障をきたす恐れがある。これまでも各地の沿岸では、自衛隊と風力事業者との間で交渉することがままあり、風車の場所をずらすなどの対応を取ってきた。業界関係者は「風力の導入拡大に加え、防衛面では上空だけでなく低空の飛行物体をとらえる必要性が高まったという事情から、規制に動いたのではないか。ただ、これまで通り場所や大きさなどに関して事前に協議していけば、窮屈な法律というわけでもない」と受け止める。

他方、温対法に基づくポジティブゾーニングの対応も進む。都道府県や市町村が促進区域を示し、この過程で政府の意見も踏まえることになる。先述の関係者は「今回の規制を受け、よりポジティブゾーニングが重要になる」と強調する。


NEWS 02:賃上げで満額回答相次ぐ 大手電力にもようやく春が

大手電力各社は2024年の春季労使交渉(春闘)で、労働組合の賃上げ要求に相次いで満額回答した。東京電力ホールディングス(HD)は来年度から、年収水準を4%引き上げることで労組と妥結。11年に発生した東日本大震災前の水準に回復する。好業績や人材争奪戦の激化を背景に各社は、待遇の改善で社員の成長意欲を高めるほか、人材確保にもつなげる。

東電HDの賃上げは2年連続で、年収水準には基本給を底上げするベースアップ(ベア)も含まれる。福島第一原発事故後に巨額の費用負担が生じたとして、年収を一般社員で2割、管理職で3割削減していたが、事故前の水準に戻るという。

関西電力もベア要求に満額で回答。組合員平均で月額1万7000円とすることで組合側と妥結した。ベア実施は19年以来5年ぶり。ベアは2万3510円引き上げた1974年以来、50年ぶりの高水準になる。回答理由について同社は、「従業員の頑張りに報い、今後の奮起を期待したいという考えのもと、真摯に労使交渉を重ねた結果だ」と説明した。

中部電力は、ベアを月額1万2000円とすることで妥結。水準は前年の4倍で、記録のある1955年以来過去4番目の高水準という。収益拡大に貢献した社員の努力と意欲に応える。

政労使で物価高を上回る持続的な賃上げを目指す機運が高まる中、電力業界も足並みをそろえた。今春闘の妥結内容について電力総連の関係者は「組合員のモチベーションアップには十分な数字だ。(東日本大震災が発生した)3・11以降の春闘で連合方針を超えるのはこれが初めて。他業種では昨年から賃上げが続く中で、ようやく電力業界もその流れに乗ることができた」と評価した。


NEWS 03:GX移行債が初発行 償還財源の詳細なお未定

官民で150兆円のGX(グリーントランスフォーメーション)投資の呼び水とすべく、2月、政府が初めてGX経済移行債を発行した。「クライメート・トランジション利付国債」として10年債(表面利率0・7%)と5年債(同0・3%)を約8000億円ずつ、計1・6兆円を発行。2024年度は入札を4回に分け、10年債、5年債それぞれ7000億円程度、計1・4兆円発行する予定だ。ただ、関係者からは「今後10年で予定する20兆円分の移行債をすべて売り切れるのか」といった声も出ている。

初回分は22年度補正、23年度当初予算に計上した水素還元製鉄や蓄電池、高温ガス炉・高速炉、住宅断熱性能向上などの関連事業に充当する。他方、一部でグリーンウォッシュとも指摘されるアンモニア関連などは初回分から外した。また、日本政府はレピュテーションリスクを下げるため、海外への理解活動に力を入れてきたという。

ただ、それで海外投資家に多く買われたというわけでもなさそうだ。日本銀行が保有する国債銘柄別残高を見ると、3月8日時点で10年物の移行債を3366億円保有し、「タコが足を食っているような状況」(同)ともいえる。米国などでESG投資の伸びが鈍化しつつある上、GX基本方針を決めた22年末時点で想定できなかった、ロシア・ウクライナ戦争の長期化や中東での紛争、大幅な中国経済悪化など、周辺環境のマイナス要素もある。

さらに、「移行債の償還財源の詳細が未定な状況では、20兆円分をきちんと償還できるのか疑心暗鬼になり得る」(同)。まず28年度から徴収する化石燃料賦課金が、5年債の償還に充てられる予定だ。その水準が見えてくれば、移行債の買われ方に変化が生じるかもしれない。


NEWS 04:狙われる高齢者宅の給湯器 悪質訪問販売なぜ急増?

給湯器の修理や点検を装い、法外な請求を行う悪質な訪問販売業者による被害が相次いでいる。国民生活センターは2月21日、今年度に入り給湯器の点検トラブルに関する相談が急増したと発表した。相談件数は12月末時点で約1100件。前年度比で約3倍もの増加だ。

同センターは今回の騒動を受け、「屋根修理を装った点検商法の摘発が進んでいる。悪質訪販業者が屋根分野から、いまだ摘発の進んでいない給湯器分野に対象を移しているのではないか」と分析する。悪質業者は突如として点検訪問に現れ、「もうすぐ壊れる」などと消費者の不安をあおり契約させる手口であり、被害者の7割以上が70歳以上の高齢者だ。

悪質事例が相次ぐ給湯器の点検商法

被害にあった給湯器はガス瞬間湯沸器、電気温水器、ガス温水ボイラーの順に多い。家庭のシェア率に関係しているとみられるが、「これら3点が長期使用製品安全点検制度の対象外である点も要因の一つではないか」と同センター関係者は語る。対象製品の所有者はメーカーなどによる安全点検を受ける必要があるが、メーカー側から点検時期前の通知などがなかったことも、悪質業者が付け入る隙となった可能性がある。

今回の事例は、特定商取引法の規制対象となるためクーリングオフ制度も適用される。万が一、契約してしまっても冷静に対処することが必要だ。

高い暖房効率を発揮 欧州寒冷地で進むヒートポンプ


【欧州ヒートポンプ協会】

―取り組んでいることは何か。

ノワック 三つある。一つは2009年からヒートポンプで使う空気熱を再生可能エネルギーとして扱うことを開始した。これは社会的に影響を与えた。二点目は廃熱は再利用できると提唱している。廃熱もエネルギーを生むからだ。三点目がヒートポンプの意義を社会に認知させ普及させることだ。

ヒートポンプ技術を知った時は感銘を受けた。1の電力を4の熱量に変換する。なぜヒートポンプ機器が普及していないのか非常に驚いた。そうした経緯もあり、各取り組みには達成感を得ている。

―寒冷地でヒートポンプは高い効率を発揮できるのか。

ノワック できる。住宅向けではAir to Water方式が主流だが、温める機能としては非常に高く誰もが暖房能力を信頼している。ノルウェーやスイスなど寒い地域で最も普及している。

課題はビルや集合住宅 ボイラー企業は業容変換

―課題は何か。

ノワック ヒートポンプは主に戸建て住宅用途だが、規模の大きいビルや集合住宅でも適用可能だ。ただ設置業者の知見が浅いため、建築分野含め業界全体で取り組む必要がある。工業用途でも可能だ。工場の生産過程で発生する廃熱は活用すべきだ。

―ボイラーメーカーからの抵抗勢力はなかったのか。

ノワック ボイラーメーカーは高い利益率を上げており、抵抗は強かった。ただ、ボッシュなどヒートポンプ産業への巨額投資で業容を変化させている。機器を設置する施工技術などをヒートポンプ産業へ生かしている。

―日系企業への期待はあるか。

ノワック ダイキンやパナソニックなどはグローバル企業で、開発・製造能力で欧州でも存在感を発揮している。欧州企業と共に発展してほしい。

―日本ではヒートポンプを省エネ機器と位置付けている。欧州ではどうか。

ノワック 省エネ機器だ。同時に再エネである空気熱を使うヒートポンプは再エネ機器でもある。EUでは空気熱利用の統一された統計基準を作った。日本に基準がないのなら、早く作るべきだ。

トーマス・ノワック(欧州ヒートポンプ協会事務局長)
Thomas Nowak 2009年から欧州ヒートポンプ協会の事務局長を務める。欧州のヒートポンプ普及に力を注ぐ。

IEAにインド加盟か 日本へのメリットと課題


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

日米欧など主要エネルギー消費国で構成するIEAがインドとの加盟交渉を始めた。

エネルギー安全保障を巡り、影響力を増す新興国・途上国との連携を一段と深化させる契機となるか。

国際エネルギー機関(IEA)は2月に開いた閣僚理事会で、インドとの加盟交渉開始を決めた。その際に発表したファティ・ビロル事務局長の声明が、IEAが置かれた現状を端的に物語っている。

「インド抜きには将来計画は策定できない」第一次石油危機後の1974年、米国の提唱によりIEAが設立された。その当時、世界の石油需要の約70%を西側先進国で占めていた。

しかし、近年の新興国の経済発展に伴い、その比率は40%以下にまで落ち込み、世界のエネルギー市場における影響力は低下した。もはや西側先進国だけでは、世界のエネルギー市場の安定化は望めない状況だ。

一方、インドの石油消費量は現在、米国と中国に次ぐ世界3位だが、今後の伸長は著しい。

IEAはインドについて、全世界の石油需要増加分の3分の1を超える1日当たり120万バレルの需要増が見込まれ、2030年までには同国の石油需要は同660万バレルに達すると予測している。中国を抜いて、石油需要の最大のけん引役になる公算だ。

また、インドは安価な原油を輸入して精製し、石油製品を他国に供給する輸出大国でもある。

加盟交渉は数年を要するとの見方も


エネルギー市場の安定化 新興国の取り込み不可欠

今回のIEAの決定に対し、インドのモディ首相は、「世界17%の人口を抱えるインドがより大きな役割を担うことは、IEAにとっても有益だ」とのコメントを寄せ、自らの存在感の大きさを誇ってみせた。

「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国の盟主として、国際機関の中での発言権を大きくしたいとのインドの思惑が浮かび上がる。

IEAは、エネルギー需要が増している新興国を取り込む動きを重ねてきた。15年には、加盟国とは別に「IEAアソシエーション国」というカテゴリを創設。そこには、インドのほか、ブラジルや中国、インドネシア、南アフリカなどが名を連ね、IEAは協力を深めてきた。アソシエーション国は、IEAの最高意思決定機関である閣僚理事会にも参加できる。

IEAはさらに、アソシエーション国の中でもインドとの関係を緊密化し、21年には、IEAとインドは「戦略的パートナーシップ」を締結することで合意。IEAが持つ専門知識をモディ政権に提供してきた。

インドの加盟が実現すれば、IEAが進める新興国の取り込みにおいて大きな節目となる。
インドの加盟に対して、日米仏などが支持を表明している。原油のほぼ全量を輸入に依存する日本にとって、インドがIEAに加わるメリットは大きい。

【覆面ホンネ座談会】悪い商慣行と決別できるか 存続への岐路に立つLPガス


テーマ:液石法省令改正

LPガス販売を巡り長らく続いてきた不透明な商取引の是正に向け、今春にも液化石油ガス法の省令改正が公布される。実効性を確保し消費者の不利益解消につながるか。消費者、事業者、メディア関係者が率直に語り合った。

〈出席者〉 A 消費者団体関係者  B LPガス関係者  C メディア関係者

―2022年3月に再開した総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(WG・座長=内山隆青山学院大学教授)は、5回の議論を経て中間取りまとめを行い、液石法の省令が改正されることになった。

A LPガスの商取引を巡りさまざまな困難な課題がある中で、今回の省令改正に至るまでのプロセスはあくまでも改革の第一歩であり着地点ではない。戸建ての無償配管問題の議論が先送りされたことは大きな課題だし、改正省令案で罰則を含む義務・規定が制定された項目がある一方で、情報開示については罰則なしの努力義務にとどまってしまった。さらに対象は新規契約だけで、既存の契約者をどう守るのか見えてこない。消費者団体は「消費者被害」と呼んでいるが、資源エネルギー庁もLPガス業界も、一連の議論の中で消費者に不利益な点があることを認めていた。それにもかかわらず、新規よりも圧倒的に多い既存契約について不利益を放置してしまうのは納得いかない。期限を設け、既存契約も新規と同様の扱いにしていただきたいと考えている。

液石法省令改正は競争の構図をどう変えるのか

B エネ庁がよくここまで踏み込んだなというのが率直な感想だ。17年の省令改正で三部料金制などを努力義務として求めたが、事業者が全く対応しなかったということもあって、エネ庁が重い腰を上げ罰則規定も辞さない省令改正に踏み切った意義は大きい。最も評価しているのは、国土交通省や公正取引委員会など他省庁に協力を働き掛けたことだ。業界側は、間違いなく17年改正時よりも緊張感を持って受け止めているし、きちんと取り組もうとする動きが以前よりも出てきている。

一方、一部の大手と中規模事業者の行いが業界の悪評を高めてきたのがこの問題の本質で、これで良い方向に向かうと期待している事業者は多いものの、「正直者がばかを見る」と危惧する声があるのも確か。通報フォームや罰則規定でエネ庁の本気度は伝わってくるが、それで十分かというと取り締まりには限界があるから業界の自浄作用も必要だ。まだまだ業界内に温度差があり、有力事業者のリーダーシップが問われている。

C 前回の省令改正から見れば、大手のニチガスとTOKAIをWGに呼んで話を聞いたことを含め本当に大きく踏み出したと思うし、どこまで実効性が確保できるかに注目している。というのも、3月10日までWGの中間取りまとめと省令改正案に関するパブリックコメントが実施され、いよいよ4月に公布されるのを前に、一部事業者が集合住宅の契約切り替えを盛んに行っていると聞く。エネ庁はそれにどう対応するのか。3月中に見せしめのような対応をするのではないかという噂もあったが、そのような動きもないし、実効性については試行錯誤が続くのかな。

【マーケット情報/4月5日】原油先物、5か月振りの高値


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給ひっ迫感が更に強まり、主要指標が続伸。米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物は5日、それぞれ86.91ドルと91.17ドルの終値を付け、昨年10月以来5か月ぶりの高値更新となった。

中東での地政学リスクが高まっている。先週、シリアのイラン大使館がイスラエルのものと思われるミサイル攻撃をうけ、中東地域で風葬が拡大するとの懸念が台頭。供給不安が一段と強まり、価格上昇を予想した市場参加者からの買いが相次いだ。

また、米国における石油のリグ稼働数減少も、引き続きひっ迫感を強めている。先週金曜日に発表された石油リグの稼働数は前週からさらに減少を示し、3週連続の減少となった。ただ、同国の経済は活発化を続けており、先週発表となった3月雇用者数は30万3,000人増となり、1年振りの大幅増となった。

米国では賃金の上昇も続いており、経済指標も堅調だったことが示され、連邦準備理事会(FRB)の利下げ開始が後ずれする可能性がある。高金利がしばらく続くとの見通しが価格上昇を幾分か相殺した。


【4月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.91ドル(前週比3.74ドル高)、ブレント先物(ICE)=91.17ドル(前週比3.69ドル高)、オマーン先物(DME)=90.90ドル(前週比5.05ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.68ドル(前週比4.40ドル高)

*29日は休場のため、比較値は28日となります。

ベンツが完全電動化を撤回 EV「官製市場」の限界露呈


世界的に電気自動車(EV)市場の減速が顕著だ。例えば、欧州ではEVの新車販売数こそ年々増えているものの、前年比での増加率は鈍化が続く。一方でハイブリッド車(HV)が伸び、ガソリン車・ディーゼル車も2022年から23年にかけての新車販売台数の減少率が前年比1.1%と、ほぼ横ばいにまで持ち直した。BYDを筆頭に国家の強いバックアップでEV化を進める中国でさえ、昨年はプラグインハイブリッド車(PHEV)の前年比増加率が84.1%とEVを大きく上回る。

こうした動きを受け、メルセデス・ベンツグループは2月、「顧客の準備が整っていない」として30年までの完全電動化目標を事実上、撤回した。またテスラはBYDとの値下げ合戦で採算悪化が続き、昨年10~12月に47%の営業減益を記録。アストンマーチン、ジャガー・ランドローバーなどもEVシフトの延期を相次いで発表した。

ベンツのバッテリーEVコンセプトモデル「EQG」

世界の主要市場では補助金などのEV優遇策が取られていたが、それらの縮小・終了が響き、官製市場の限界が露呈した格好だ。また多くのユーザーが充電インフラの整備状況や航続距離などへの不安を抱える中、「既に一部の環境意識が高い人たちに〝ファッションとしてのEV〟は行きわたった」との見方もある。

当面は「脱内燃機関」よりも、バイクや軽自動車など近距離用途はEV、中距離移動を目的とする乗用車はHV、航続距離が長いトラックやバスなどは燃料電池車(FCV)といった適材適所での「ベストミックス」のが現実的な普及策となるか。

【イニシャルニュース 】奈良県知事を巡る疑念 太陽光計画が急浮上


奈良県知事を巡る疑念 太陽光計画が急浮上

奈良県の山下真知事が表明した五條市でのメガソーラー整備計画を巡り、地元で疑念が沸き起こっている。山下知事はメガソーラーを2023年4月の知事選で掲げた公約に明記していなかったにもかかわらず、突如として整備計画を打ち出したからだ。なぜメガソーラーに執着するのか。

市の県有地では、2000m級の滑走路を備える広域防災拠点を整える計画だったが、山下知事が就任後に見直した。大規模災害に備える整備計画で滑走路としていた場所に約25‌haのメガソーラーを建てる計画を1月に打ち出したもので、突然の計画表明に地元住民が激しく反発。知事は、能登半島地震を教訓とした非常用電源の確保や経済効果を整備の理由に挙げたが、折り合いがついていない。

物議を醸すメガソーラー開発

県議会でも大きな争点に。3月6日の一般質問で、五條市選出で自民党・無所属の会の斎藤有紀議員がメガソーラーの整備を決めた経緯や災害リスクを問い、「決定過程が不透明であり、防災力の強化につながるとは思えない」と疑問を投げ掛けた。

再生可能エネルギーの問題を扱う住民団体のY氏は、県が2人いる副知事のうち1人を交代させる人事を同日発表した動きに触れ、「後任の福谷健夫氏は元農林部長で、メガソーラーを推進してきた張本人。計画の背後に関係メーカーJなど事業者の影もちらついており、ソーラーに詳しくない知事が推進派に踊らされている可能性もある」との見方を示す。

「住民の声を無視した強行的なやり方に納得できない」と斎藤県議。知事は謎が深まる経緯の説明責任を果たさない限り、対立の溝は埋まらない。


JRE会長の辞任 審議会にも影響

ジャパンリニューアブルエナジー(JRE)の会長だった安茂氏が、セクハラ問題で解任された。業界団体の日本風力発電協会で、安氏はここ数年副代表理事を務め、日本風力開発の贈賄事件後、代表理事に就いた矢先だった。「男女分け隔てなくざっくばらんで穏やか。そんなことをしでかす人とは思えなかったが……」(風力関係者X氏)

協会は贈賄事件後いったん、エネ庁などの審議会で委員としての参加を取りやめた。協会の意思決定などの在り方を見直す方針をエネ庁に説明し理解を得た上で、年明けから従来の態勢に戻したい考えだった。ほかの委員からも、風力関係者の不参加を問題視する意見が出ていたという。

だが、「再びの不祥事で、エネ庁からは会議に参加しても個社としての発言に限定し、業界団体の意見を踏まえたようなコメントは避けるようお達しがあったようだ」(先述のX氏)。審議会で堂々と協会の立場で発言できるようになるには、年度をまたぐどころか、下手をすれば夏ごろまで待つ必要があるかもしれない、というのだ。

洋上風力など今後再エネの主力を担う電源として、詰めるべき政策課題はいろいろあり、今年はエネ基の改定も予定される。そうした中、相次ぐ不祥事の余波が懸念されている。


年内にも売却か!? T社身売りが再浮上

「今度こそ、T社の売却が決まりそうだよ」こう語るのは、大手エネルギー会社のX氏だ。大手電力会社のC、大手発電事業者のJ、大手商社のMと、これまでも散々売却が噂されてきた大手電力小売会社のT社。中でも有力視されてきたのが、大手エネルギーE社だったが、「資産を持たないT社を買収することに魅力はない」(E社のOBのF氏)と、それが実現することはなかった。

だが、T社の売却先として再び浮上しているのはそのE社なのだ。新電力関係者のY氏も、「資金力からいっても、今、T社を買えるのはE社しかない」と確実視する。

とはいえ、政府は福島への補償金を賄うためにも、数兆円規模という巨額でのT社売却を画策しているもよう。一方、買い手側からしてみれば、到底元を取れるはずもなく……。E社の最終判断はいかに。

デジタル力で業務とサービスを変革 グループ一丸で攻勢をかけるDX戦略


【中部電力】

エネルギー産業を進化させるDX戦略で存在感を放つ中部電力グループ。

急成長する生成AIもDXの起爆剤と位置付け、社内外の変革に挑む。

中部電力グループが追求するDXは、デジタル技術を社内業務の効率化や高度化につなげる「業務の変革」と、顧客起点でサービスの価値を高める「お客さまサービスの変革」だ。2本柱のDXを、2050年を見据えて21年11月に策定した「中部電力グループ 経営ビジョン2・0」で重点施策の一つと位置付け、加速している。

社内業務では、携帯端末から利用できる業務用アプリの充実化に加えて、情報の民主化を全社方針として掲げ、デジタルツールで社員同士の連携を促すなど、多様なデジタル施策を展開している。

サービス面では、品質の高い電気を安価に企業や個人に届けるニーズに応えて、各地に分散した多彩なエネルギー資源を表す分散型エネルギーリソース(DER)を、デジタル技術で最適に制御・管理・運用する「エネルギープラットフォーム」に磨き上げている。

加えて、エネルギーインフラ企業として長年にわたり培ってきた多様な「データ資産」を高付加価値なサービスに生かそうと、膨大なデータを事業・グループ横断で活用するための「グループ共通データプラットフォーム」も整備している。例えば、家庭や事業所などに設置したデジタル式の電力計「スマートメーター」のデータと、許諾の上で得られた生活データを組み合わせ、快適な暮らしにつながるデータサービスに生かす。

送電設備を自動点検するドローン
提供:中部電力


多様な教育プログラム 社員のキャリア形成支援

そうした社内外のDX施策を主導する部隊が、社長直轄組織の「DX推進室」だ。DX推進室は、IT事業を手掛ける中電シーティーアイや高度データ分析事業のTSUNAGU Community Analyticsなどのグループ会社と連携し、グループ全体のDXの底上げを目指す。

DXを全従業員が担えるよう、多様な教育プログラムも用意。

独自の動画教材や全社員へのオンライン教育サービスなどの環境を整え、95%もの従業員がITリテラシー向上の効果を実感した。経営層から新入社員までを対象に各階層別の研修にも取り組んでいる。今後も個人の成長意欲に応え、リスキリング(学び直し)も含めてキャリア形成を後押ししたい考えだ。

一連の人財施策を土台に、デジタル技術を課題解決につなげる能力に長けた「DX推進人財」と、高い専門能力を持つ「デジタルエンジニア」の育成にも注力。すでに両人財の合計で500人超を確保しており、20年代後半までに約1300人に増やすことを目指す。

担当者によると、23年度までにDXを推進するために必要な土台を築き上げ、24年度からはこの土台の上でサービスを本格化させて収益につなげる「創造期」に入るとした上で、DXの成果を最大限に引き出していく構想を描く。

有望な変革ツールとして一躍脚光を浴びる生成AIを「DXの起爆剤」として注目。23年度までに全社員が生成AIを安全に実務で活用できる仕組みを構築。生成AIを一部のプロジェクトに取り入れ、実用の手応えが得られ始めているという。

デジタル技術で地域の活性化を目指す政府の「デジタル田園都市国家構想」が具体化に向けて動き出す中、地域の生活インフラを担うエネルギー企業への期待感も高まっている。同社は多様なパートナーとエコシステムを構成しながら、中部地域のデジタル化への貢献を重視。デジタルの力で挑戦する舞台はエネルギー事業にとどまらず、地域社会にも広がりそうだ。

大変革期の電力システム 先を見据えてあるべき姿示す


【巻頭インタビュー】大山 力/電力広域的運営推進機関 理事長

電気事業を巡る課題が次々顕在化し、電力広域的運営推進機関の存在感が増している。

現在、そしてこれからの同機関の役割とは。大山力理事長に話を聞いた。

おおやま・つとむ 1983年東京大学大学院電気工学博士課程修了。横浜国立大学工学部講師、同助教授、米国テキサス大学アーリントン校客員助教授、横浜国立大学工学部教授、同大学院工学研究院教授を経て2021年4月から現職。

―2021年4月に理事長に就任し、3年が経過しました。

大山 20年度冬季に全国的な電力需給ひっ迫を経験した直後の就任でした。その後も地震が発生したり、端境期の需給ひっ迫が起きたりとさまざまな困難に直面しましが、職員数も少なく、当機関だけで対応できることが限られている中で、電気事業に関わる事業者の協力を得て何とかか乗り切ってきました。この間、経済産業省から電力需給(kW、kW時)モニタリングや、FIT/FIP制度の賦課金の徴収・交付金の交付業務、将来の需給シナリオの検討などが新たにタスクアウトされ、就任時と比較すると実に多岐に渡る業務を手掛けるようになりました。

―さまざまな制度設計を主導する上で、心掛けていることはありますか。

大山 足元の課題解決を目指すだけではなく、将来を見据えて検討し、システムを動かしていくことが重要だと考えています。将来を見据えた業務を進めるためには、職員一人ひとりが良い電力システムを築き上げていくのだというマインドを持つ必要があります。そこで今年2月9日には、当機関が社会において果たすべき使命・目的として、「日本の電力の今を支え未来を切り拓く」というミッションを策定しました。

電気事業は今、大きな変革期にあります。問題が顕在化してから対応したのでは手遅れです。例えば再生可能エネルギーの大量導入は既にさまざまな電力システムの課題を顕在化させていますが、将来のさらなる大量導入に備え、システムの在り方をあらかじめ検討しておかなければなりません。当機関の「専門性」「先見性」「積極・主体性」という価値観を大切にしながら、より良いシステムの確立を目指し業務を遂行していきます。

―広域系統長期方針(マスタープラン)が昨年3月に策定され、その具体的な整備計画の策定が進んでいますが、本当に必要なのかといった意見も散見されます。

大山 現在、地域間連系線の整備については、再エネを全国大で活用するという視点で議論されているケースが多く、コストとベネフィットを踏まえメリットが低いという指摘があることは認識しています。各電力エリアの電源構成に差がなかった時代は、連系線は非常時に備えるものに過ぎませんでした。しかし、再エネが今後ますます拡大していけば電源の偏在性も高まりますし、今年度の容量市場の約定結果で北海道と九州が高い価格を付けるなど、供給信頼度にも課題があります。電源の偏在性を解消するため、そして安定供給を確保するためにも、連系線の活用は欠かせません。

文献調査の報告書案公表 待たれる新地点の登場


概要調査に進めるのか―。原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月13日、北海道寿都町と神恵内村で行われていた高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査の報告書案を公表した。

概要調査に進む上で鍵となるのは、寿都町と神恵内村に続いて文献調査を行う新地点の登場だ。報告書の作成後は縦覧期間などを経て、経済産業大臣が概要調査に進むかどうかについて、北海道知事と2町村長に意見を聴取する。寿都町では概要調査実施の是非について住民投票を行う予定だが、片岡春雄町長は、新地点が出てこなければ住民投票に向けての勉強会など先には進めないとの考えを持つ。

文献調査開始から3年が経過したが新地点は現れていない(寿都町)

地元で概要調査に反対する人の中には、最終処分場の問題が自分たちに押し付けられているとの思いを抱く人もいる。不安の払しょくには共に調査を行う〝並走者〟が必要というわけだ。神恵内村の高橋昌幸村長も新たな調査地点を求めている。

一方、北海道の鈴木直道知事は「現時点では反対」の姿勢を貫くが、「原発の所在の有無にかかわらず、国民的な議論が必要な問題」(2月15日の定例記者会見)だとして、昨年12月にはNUMOに対して報告書の説明会の全国展開などを求める要請書を提出した。

国・NUMO・電力各社は昨年7月、地域ブロックごとに合同チームを新設し、全国の自治体などを個別に訪問する全国行脚を開始。1月末時点で73市町村の首長を訪問した。原発再稼働などフロントエンドの前進が見込まれる今年こそ、バックエンドの進展に期待したい。