加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表
「気候変動」という言葉を耳にする機会が増えた。元来この言葉は、自然のサイクルによって生じる気候の変化を指していた。しかし近年では、人類の活動によって引き起こされる地球温暖化とほぼ同義で使われるようになっている。この変化は、私たちの社会がいかに大きな影響を地球環境に与えているかを物語っている。
国際機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化に関する科学的評価を定期的に行い、緩和策と適応策についての報告書を公表している。これらの報告書は、世界各国の政策決定において重要な指針となっている。

エネルギー産業においては、地球温暖化への緩和策・適応策ともに真正面から向き合わなければならない課題だ。本稿では気象データの活用という側面と絡めて見ていきたい。
緩和策としてのCO2排出量削減では、再生可能エネルギーの推進が重要な柱となる。変動電源である太陽光や風力といった自然エネルギーを最大限活用するには、気象予測データを用いた高度な出力予測が欠かせない。気象予測データは既存の水力発電をより効率的に運用することにも有効だ。さらに電力需要を高精度で予測することで、火力発電の運用を最適化し、CO2削減と電力の安定供給という一見相反する目標を同時に達成することが必要だ。需要予測の精度が向上すれば、調整力としての火力発電を効率的に運用でき、燃料消費とCO2排出を抑制できる。
一方、適応策も同様に重要だ。気候変動により、台風や豪雨といった極端な気象現象の被害が増加する可能性が指摘されている。エネルギー関連設備は、こうした物理的リスクに対して脆弱になり得る。発電所や送配電網は、洪水や土砂災害、強風による被害を受ける可能性があるため、将来の気候変化を見据えたリスク評価と対策が不可欠だ。こうした評価を行うためには、CMIP6などの国際的な気候予測データや、日本の大規模アンサンブル気候予測データd4PDFなどが活用できる。これらのデータは膨大で専門的であり、その解釈には高度な知識が求められる。
ここで重要になるのが、エネルギー産業のドメイン知識を持った気象データアナリストの存在だ。気象データアナリストには、複雑な気候予測データを解析し、実際のエネルギー施設の運用や設計に生かせる形に変換することが期待される。このような専門家は、今後ますます需要が高まり、その活躍が期待される職種となるだろう。
気候変動への対応は、避けては通れない課題となったと言える。エネルギー産業が先頭に立って緩和策と適応策の両面で取り組むことが、持続可能な社会の実現には欠かせない。そしてその実現には、科学的データを実務に結びつける人材の育成と活用が鍵を握っている。今後、気象データアナリストがその専門知識を活かし、エネルギー産業のさらなる発展と気候変動適応の両面で重要な役割を果たしていくことを期待して、1年間の連載の締めくくりとしたい。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み
・【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する
・【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル
・【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは
・【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法
・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは
・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来
・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標
・【気象データ活用術 Vol.9】似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い















