【覆面ホンネ座談会】業界をリードする多士済々 電力・ガス人事の深層

テーマ:電力・ガス人事と評価

エネルギー情勢が再び不透明さを増す中で、大手電力・ガスでは経営トップの判断が企業の方向性を大きく左右する局面が続く。各社が直面する課題を踏まえ、人事の展望と経営の評価を語り合った。

〈出席者〉Aアナリスト B業界関係者 C業界紙記者

─まずは電気事業連合会から。浜岡原発の基準地震動を巡る不適切事案を受け、会長の林欣吾さん(中部電力社長)が辞任。後任には関西電力社長の森望さんが就いた。

A 森さんが会長に就任したことで、電事連は一段と〝原子力事業連合会〟としての性格が強まるだろう。原子力事業の正常化は業界全体の悲願で期待は大きい。

B 森さんの実務能力は高く、経営センスも抜群だ。ほかの業界の人と話をしても、彼の悪口は聞いたことがない。ただ森さん個人は良くても、関電という組織に対しては他電力のアレルギーが根強いのも事実。カルテル問題や新電力の顧客情報の不正閲覧問題が尾を引いている。

C かつて東京電力が中心だった時代は、電事連に出向している人間は「全電力のために動く」という意識があった。森さんがトップでどうなるか。原子力はともかく、ほかの分野で周りが付いてこないという事態にならなければいいが。

A 関電はどちらかと言えば、自社の物差しを優先する〝関電ファースト〟の体質がある。最近は資金調達面でも恨みを買った。関電が真っ先に行った大規模増資は市場の評価が低く、他電力も計画していたにもかかわらず増資による資金調達ができなくなってしまった。

B その関電だが、森さん後継の本命は常務の田中徹さんだ。なかなかの剛腕で、次期中期経営計画は彼がまとめた。副社長の小川博志さんなど優秀な対抗馬も多い。

電事連では森望・関電社長が会長に就任した

東電の停滞が原電人事に影響 HD化見据える九電の二枚看板

―不適切事案を抱える中電は第三者委員会の報告書が出たら動きがありそうだ。

B 不正が行われていた時期に社長だった会長の勝野哲さんにつながるラインの人たちは退任する可能性がある。林さんは第三者委の報告を待って判断するだろう。辞任せずに次回の株主総会で会長に就けば、後任の本命は中電ミライズ社長の神谷泰範さんだ。中電副社長の佐々木敏春さんや専務の安井稔さんを推す声もある。ただ、勝野さんと林さんの同時退任となれば、人事・総務畑で地域とのつなぎ役だった佐々木さんが会長、神谷さんが社長という布陣になるのではないか。いずれにしても、報告書待ちだ。

─柏崎刈羽原発の再稼働にこぎ着けた東電は5次総特を公表し、4月1日の人事で副社長の酒井大輔さんがアライアンスCEO(最高経営責任者)になった。

A これまで福島や新潟、バックエンド関連といった地元対応は全て社長の小早川智明さんが先頭に立って進めてきた。関係地域から見れば、東電の「顔」は小早川さんしかあり得ない。今後、社長を退いて「代表取締役」という肩書になるかもしれないが、継続性や信頼性の観点から引き続き担当するはずだ。一方で、いわゆる「グッド東電」の経済事業は後継候補の酒井さんが担う。副社長の永澤昌さんも留任で大きな変化はないと思う。

C 次期社長は永澤さんとの見方もある。酒井さんはアライアンスを担当して、経済事業は永澤さんが見るということだ。そうなれば日本原子力発電の人事にも影響を与える。社長の村松衛さんは11年目に突入するが、後任の本命は永澤さんだと言われてきた。もし永澤さんが東電に残るのであれば、副社長の牧野茂徳さんが最有力だろう。

B 東電のもう一つのポイントは取締役の吉野栄洋さんだ。20年に経済産業省から原子力損害賠償・廃炉等支援機構に出向したが、アライアンス相手が決まれば夏の人事で経産省に戻るのではないか。そのアライアンスが上手く行くとは思えないが……。

─ホールディングス(HD)化が予定されている九州電力はどうか。

A HDの社長は九電産業社長の中野隆さん、事業会社のトップは引き続き西山勝さんが務めるのではないか。九電の場合、過去にもグループ会社から復帰したケースはある。今回の中野さんの転出も、HD社長就任に向けた勉強期間という見方だ。もちろん、会長は池辺和弘さんだ。

C 西山さんを変える理由はないからね。ただ、両者はタイプがまるで違う。西山さんは真面目な実務型だが、中野さんは地元政財界にも顔が利き、深い関係を築いている調整型。バランスが取れている。

B 余談だが、池辺さんと西部ガス会長の道永幸典さんは仲が良い。現場レベルでは激しく競合していても、トップ同士が意思疎通できていることは、九州全体のインフラ戦略や活性化にとってプラス。HD化によって、こうした地域連携が加速する可能性がある。西部ガスは社長の加藤卓二さんが明るく元気で、社員も一段とやる気にあふれているね。

ラピダス対応からカルテル後まで 試される地方電力の突破力

─泊3号機再稼働の地元同意を得た北海道電力や東北電力はどうだろう。

B 北電の経営は安定しているが、最大の課題は供給力の確保だ。国策半導体「ラピダス」の需要は膨大で、データセンターなども考慮すると泊原発の再稼働だけでは全く足りない。LNG火力の増設が必要だが、発注してすぐに建設できるわけではない。これをいかに前倒しできるかが、会長の藤井裕さん、社長の齋藤晋さんの腕の見せどころだ。

A 東北電は石山一弘さんが社長就任1年を迎えるが、ポスト石山の足音が聞こえ始めている。最有力として推したいのは、新たに常務に就任した遠藤雅夫さんだ。これまで経理部長を務めていた。

―北陸電力は社長の松田光司さんが奮闘している

B 松田さんは明るい性格で、地元の経済界やメディアとの関係構築が抜群だ。地元紙は電力会社に批判的な場合が多いが、北陸は違う。松田さんが膝を突き合わせて説明を尽くしているからだ。

A 実務面では企画出身で副社長の平田亙さんが支える体制が整っている。次世代のホープとしては、常務の福村章さんに注目している。他電力からも一目置かれていて、いつか福村さんの時代が来るだろう。

北電は供給力確保が課題だ

―一方、西日本の中国電力、四国電力はどうか。

B 中国電の中川賢剛さんはスマートな人物。以前の経営の問題点を指摘し、正そうとしている。カルテル問題の係争が終わらせ、経営を正常化させることが最優先だ。その後は強烈なリーダーシップを発揮するだろう。

A ただ、四国電、九電と同じで関電からの営業攻勢がある。関電と組むのか、そのほかと組んで対立するのか、判断を迫られることになる。カルテル問題の流れですぐには動けないが、合理的な中川さんがどんな判断を下すのか注目だ。

C 中川さんと四国電社長の宮本喜弘さんは、まだ独自色を出していないが安定感があるね。宮本さんはエリアにこだわらない柔軟な思考を持っている。中川さんともざっくばらんに議論できる関係性だ。西日本連合だけでなく、PWR(加圧水型原子炉)を採用する北電と原子力部門で連携するという選択肢だってあり得る。

─トップ交代もあった。4月1日付で沖縄電力は横田哲さん、Jパワーは加藤英彰さんが新社長に就任する。

A 沖電は順当だ。間もなく発表になる次期中計をまとめたのが横田さんで、会長になった本永浩之さんが社長に就任したのもタイミングも同じだった。自らが作った中計を実行に移す。

B Jパワーは前社長の菅野等さんの健康上の理由を受けての交代。このタイミングなら常務の加藤さんしかいなかった。ガスなどとアライアンスを組んで全国展開していく路線は変わらないだろう。

東ガス、東邦ガスは現体制続く 藤原社長の後任は……

─ガス業界に目を移そう。東京ガスで気になる点は。

A 社長の笹山晋一さんの人当たりの良さは、東京経済界と協調していく上で間違いなくプラスになる。今回の人事で笹山体制が整ったと言え、長期政権になるだろう。中計をまとめた人が次期社長になるので、このパターンに当てはめると常務の村越正章さんが後継最有力だ。

C 常務だった辻英人さんが専務に昇格し、日本ガス協会専務理事の早川光毅さんの後任となる。辻さんは全国ガス労働組合連合会の委員長を務めた人物で、地方ガス会社とのパイプが太い。ガス協会が昨年「ガスビジョン2050」で打ち出した地方重視の理念とも合致する。大手は電力販売や海外事業などで収益を上げているが、地方はそうはいかないからね。

B 東ガスはネットワーク部門が3年連続赤字だ。東京ネットワークで指揮を取っていた沢田聡さんに代わって、副社長だった棚澤聡さんが4月1日付で社長に就任する。棚澤さんには、赤字体質改善という責任がのしかかることになる。

C 日経新聞が2月1日の1面トップで「電気・ガス、日本の大都市に英企業が販売網 大阪ガスや東京ガスと」と報じて業界を驚かせた。

英オクトパスエナジーと東ガスが共同出資するTGオクトパスエナジーが、東ガス管内だけでなく、ほかの都市ガス大手と連携して販売網を広げるという内容だ。オクトパス電気の顧客が引っ越した時に、現地のガス会社のガスとセットで対応できるというウィン・ウィンの戦略がある。自力で電気を扱えなかった地方の中小ガス会社にとっても、オクトパスは魅力なようだ。

4年目に突入する東ガス・笹山社長

─大阪ガス、東邦ガスはどうだろう。

A 大ガス社長の藤原正隆さんは笹山さんと同じ理系で、eメタン対応などが求められたこの時期に化学式が頭に入っている社長で良かった。昨年の大阪・関西万博でも自社のPRに成功したし、功績は大きい。ポスト藤原の筆頭は副社長の坂梨興さんだろうね。

C 大ガスは次期社長の同期が経産省を退官して入ることが多い。一昨年、坂梨さんの同年代の須藤治さんが顧問としてやって来て、社員は「そろそろ社長交代だな」と思っている。須藤さんは昨年、常務になった。

A 東邦ガス社長の山碕聡志さんは〝ザ・東邦ガス〟というタイプ。素朴だが実務能力は高い。長く経営計画を作ってきて、満を持して就任した。数年は山碕体制が続くが、次期社長を予測するなら、今のところは専務の小澤勝彦さんかな。

エネルギー企業の現場には、実務に強いタイプもいれば、調整力に長けた人物、構想力で組織を動かすリーダーもいる。次の一歩をどう踏み出すのか、その選択が業界の風景を変えていく。

【イニシャルニュース】お土産に柔道着 Y議員が島しょ国に

お土産に柔道着 Y議員が島しょ国に

高市早苗政権の閣僚級ポストに就くY議員の振る舞いが海外でとんだ失笑を買っている。Y議員は衆院選直前に、南半球の島しょ国に出張に行った。この海外出張は閣僚級がポストを離れる前に行く慣例になっているが、最初から雲行きが怪しかったという。

政府関係者は「この出張の行き先がなかなか決まらなかった。あちこちに声をかけても断られてしまったらしく、ようやく受け入れてくれたのが島しょ国だったそうだ」と漏らす。

島しょ国へのお土産が物議

閣僚級が海外に出向く際は必ず「お土産」を用意するものだ。島しょ国といえば、気候変動で島が沈む危機にさらされているところだ。当然、現地ではジャパンマネーに期待して、インフラ整備や気候変動対策をあてにしていたはずだ。

ところがY議員はあろうことか、お土産に「柔道着100着」を進呈したという。ある関係者は「えっ、と一瞬言葉を失いました」と驚きを隠さない。「あまりにも的外れなお土産に、島の人々も動揺していましたし、関係者からはなんとも言えない笑いが漏れていました」と振り返る。

島しょ国は現在、中国支配が進んでいる。島の暮らしから教育に至るまで中国化を図っている。西側先進国に対する安全保障上の要衝として、物心両面から押さえてきているのだ。

前出のある関係者は「お気楽というか、情けないというか。柔道を広めることはいいとしても閣僚級ポストで来ているわけですからね」と苦笑する。

嫌中、対中もいいが、レベルの差が歴然だ。

蓄電池事業者協議会 加盟企業はわずか7社

蓄電池事業の持続的な発展に向け政策提言などを行う「蓄電池事業者協議会」が3月18日、設立会見を開いた。S電力が中心となり、初期メンバーとしてX商事など蓄電池事業に関わる7社が加盟する。会見に臨んだS電力のT代表は、「現場の課題を集約、発信し、課題解決型の議論を通じて適切な制度設計を実現したい」と意欲を見せた。

蓄電池は再エネの安定利用に欠かせない設備として存在感を強めている。系統用蓄電池の導入が急速に進んでいる一方で、電池を送配電網につなぐ接続検討の申し込みが急増している影響で、接続のための手続き期間の長期化といった課題を抱えている。同協議会は、こういった課題を解決するために、現場の意見を集約し、蓄電池事業の制度設計や法規制に関して政策提言する方針だ。

それにしても、多くの事業者が蓄電池ビジネスに参入しているにもかかわらず、設立したばかりとはいえ7社とはなんとも寂しい。

関係者らの脳裏をよぎるのは、再エネ系新電力が一部の有力政治家に接近し、ある意味利権化させたことが世間のひんしゅくを買った過去だ。蓄電池事業を手掛けるK氏は、「同協議会設立にも某政治家が尽力していたようで、距離を置く事業者も少なくないのが実情だ」と明かす。

果たして、実効性のある政策提言につながるか。

電力再編の台風の目? 発電会社を巡るうわさ

電力小売り全面自由化実施以降、経産省が狙った大手電力会社の統廃合を含めた業界再編はなかなか進んでいない。「国の思惑がどうであれ、シナジーがなければ民間企業が統廃合に踏み切ることはできない。これまで再編が進まなかったのはそういうことだ」と語るのは、エネルギー業界関係者のW氏だ。

そうした中で最近、火力事業を軸とした電力再編のうわさがまことしやかにささやかれ始めている。その中心にいるのは、二つのJ社だ。一方は、親会社の一角であるC社が出資比率を51%以上に引き上げ、連結子会社化するというもの。大手電力の中では大型電源が乏しいだけに、そうした検討が行われることはさもありなんだ。

もう一方のJ社に食指を伸ばしているのはK社だという。「J社内では警戒感が強まっている」と明かすのは業界筋のH氏。資本関係のない両社の合併が実現すれば、再編の「台風の目」となる可能性もある。

【コラム/4月10日】ドイツのエネルギー転換が直面する課題

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

ドイツは2045年の気候中立達成を掲げているが、2025年9月15日、連邦経済・エネルギー省(BMWE)は連立政権合意に基づくエネルギー転換の進捗を評価したモニタリング報告書を公表した。同日、ライヒェ大臣は同報告書の指摘を踏まえ、今後政府が講じるべき対応策として10項目の施策案を提示した。本稿では、これら施策が示す課題と政策的含意を整理するとともに、それらが2045年気候中立目標の達成可能性に及ぼす影響について検討する。

提案された施策の10項目は以下の通りである。

1.誠実なニーズ評価と現実的な計画

将来の意思決定における基準は、発電・送配電・蓄電・供給安定性に要する費用を含む、システム全体のコストである。必要かつ経済合理性のある設備のみを整備し、非効率な過剰投資は避けるべきである。また、再生可能エネルギーや送配電網の拡張計画は、現実的な電力需要シナリオに基づいて策定されなければならない。2030年の電力需要は、複数の研究で600〜700TWhの範囲と見込まれており、その中でも下限に近い水準となる可能性が高い。したがって、洋上風力の導入量やその系統接続、さらに長距離送電を担う高圧直流送電についても、実際の需要に応じて調整する必要がある。2045年に向けた長期的なエネルギー計画においても、需要動向に合わせて柔軟に見直しながら進めるべきである。

2.再生可能エネルギーを市場やシステムに適合する形で支援する

固定価格による固定買取制度(Einspeisevergütung)を廃止し、ネガティブ価格時の補償も完全に終了する。これに代わり、EU 法で求められている二方向差額決済契約(CfD)やClawback(超過利益回収)など市場連動型の新たな支援スキームを導入する。さらに、PPA(長期電力購入契約)によって投資リスクを低減し、新規設備には直接販売(Direktvermarktung)を義務付けることで、再生可能エネルギー支援制度を固定買取方式から市場連動型へ全面的に移行する。

3.送配電網、再生可能エネルギー、分散型柔軟性を同期的に拡大する

2030年に再生可能エネルギー比率を80%に引き上げる目標は維持する。その達成に向けて、再生可能エネルギー設備や蓄電設備の立地を適切に誘導する仕組みを強化し、系統接続の迅速化、実際に利用可能な発電量の増加、そして必要に応じた効率的な送配電網整備を進める。再生可能エネルギーと蓄電の組み合わせにより、需要に応じた電力供給や出力変動の平準化が可能になる。さらに、送配電網に負荷をかけない立地を誘導する仕組みの導入、系統逼迫地域での発電側負担の増大、デジタル化による接続申請の効率化、そして可能な限り地中化を避けてコスト増を抑制することなどを通じて、再生可能エネルギー・送配電網・蓄電設備・分散型柔軟性の拡大を同期的に進め、効率的かつ安定的な電力システムを構築する。

4.技術中立的な容量市場を迅速に導入する

供給安定性を確保するため、再生可能エネルギーの変動を補完する柔軟な調整電源として将来的な水素転換を見据えたガス火力について入札制度を優先的に整備しつつ、特定技術に依存しない技術中立的な容量市場を2027年までに導入することにより、投資・計画の確実性を高める。また、EU近隣国の経験を踏まえて制度の複雑性を最小限に抑えるとともに、新規ガス火力の初回入札については年内に方針を明確化する必要がある。

5.電力システムの柔軟性とデジタル化を推進する

需要の柔軟性と電力システムのデジタル化は、効率性を高めるための構造的な鍵となる要素であり、送配電網、再生可能エネルギー、蓄電設備、電解槽の拡張を効率的に同期させるための前提条件である。消費者は市場価格に近い価格シグナルを受け取ることができるようにすべきであり、負荷管理、蓄電設備、その他の柔軟性手段は、変動料金制の電気料金および送配電網利用料の設計に適切に反映されるべきである。スマートメーターの導入は、リアルタイムの需要分析と家庭用エネルギー管理システムの操作を可能にするため、意欲的かつ迅速に進められ、少なくとも消費者のコスト負担は中立となるよう設計される必要がある。

6.統一的で流動性の高いエネルギー市場を維持・拡大する

統一的で流動性の高いエネルギー市場を維持・拡大するため、単一の電力入札ゾーンを堅持しつつ、電力・ガス・水素・CO₂の自由な市場を機能させる。また、過度な価格介入や市場分断を回避することで産業・投資家・消費者に安定的で予見可能な条件を提供するとともに、市場流動性と価格変動を柔軟性投資やリスクヘッジの促進に活かし、さらに送配電網の混雑管理の効率化策を短期的に開発・実施する。

7.支援制度を見直し、補助金を体系的に縮減する

支援制度を経済合理性の観点から全面的に見直し、補助金を必要最小限に縮減するとともに、電力価格が恒常的な補助ではなく市場メカニズムに基づいて形成されるようにし、支援はエネルギー多消費産業や研究・イノベーションに的を絞って期間限定で実施する。さらに、複雑な補助金体系を市場に近い成果志向の制度へと転換し、EU排出量取引制度(ETS)を効率的なエネルギー形態の選別を担う中心的な仕組みとして位置づけ、産業の国際競争力を維持するための現実的な解決策を講じる。

8.将来を見据えた研究を推進し、イノベーションを促進する

将来のエネルギーシステムを支える技術革新を戦略的に強化するため、研究開発を通じて技術進歩、コスト低減、スケールメリットの獲得を促進し、デジタル化やAI、産業部門やバリューチェーン全体の電化によって高まる電力システムへの要求に対応する。また、深部地熱、核融合、水素とその派生物、CCS/CCU などの新技術の潜在力を積極的に開拓し、分散型エネルギーシステムの最適化に不可欠となるAIの活用を進め、その前提となるデータセンターの容量確保と迅速な整備を図る。さらに、国際的な研究開発競争から取り残されない体制を構築する。

9.水素の普及を現実的に推進し、過度に複雑な規制を削減する

水素の普及を技術中立かつ柔軟に進めるため、過度に複雑な規制を撤廃して実務的な基準へ転換し、低炭素水素を含む多様な水素の利用を認めつつ、既存の需要がある分野や費用対効果の高い領域に立ち上げ期の重点を置く。さらに、需要側の進展と連動した形で水素コアネットワークや海外供給源の開拓や輸入回廊の整備を段階的に進めるとともに、電解装置の導入目標を需要に応じた柔軟なものへと改め、H₂バレーやプロジェクトクラスターなどのインフラ整備を必要に応じて迅速に開始する。

10.CCS/CCU を気候保護技術として確立する

CCS/CCU を不可欠な気候保護技術として制度的に確立し、産業の脱炭素化を確実に支えるため、セメント・化学など回避困難な排出を抱える産業や発電部門を対象に投資支援や CO₂ 輸送・貯留インフラの整備を進める。さらに、関連法制の改正を通じて計画・投資・許認可に関する明確で予見可能な規制枠組みを整え、国家戦略への透明な位置づけと情報提供を通じて社会的受容を高めながら、CCS/CCU の導入と市場形成を着実かつ加速的に推進する。

以上の検討から、未来のエネルギーシステムを構築するうえでは、市場原理、技術多様性、イノベーション、デジタル化、そして欧州協力が不可欠の基盤となることが示されている。これらを土台として10の施策を着実に実行することが、繁栄、安定供給、国際競争力を支える政策的要件となる。また、現実的かつ実行可能なエネルギー転換を進めることで、ドイツは産業にとって魅力的で、国民の支持を得ながら、気候保護にも貢献する国家としての地位を維持し得るとされている。

上記の施策は、エネルギー転換のアプローチがより現実的な方向へと移行しつつあることを示しており、これを必要な軌道修正と捉える向きもあれば、エネルギー転換そのものの終焉を示唆するものと見る向きもある。確かなのは、ライヒェ大臣が2045年カーボンニュートラル目標に加え、2030年までに総電力消費量に占める再生可能エネルギー比率80%という目標を依然として堅持している点である。しかし、これらの目標が実際に達成可能かどうか、前回コラムで書いたように、その道のりは依然として極めて険しいと言わざるを得ない。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フォーラムアイ】「スマートエネルギーWEEK春2026」に 次世代技術とソリューションが集結

【スマートエネルギーWEEK春2026】

世界最大級のエネルギー総合展示会「スマートエネルギーWEEK春2026」が3月17~19日、東京ビックサイトで開催され、約1600社が出展し、6万8840人が来場した。

25回目となる今回は、「水素・燃料電池」「太陽光発電「二次電池」「スマートグリッド」「風力発電」「バイオマス」「ゼロエミッション火力発電」の7領域がテーマ。「建材一体型太陽光発電ワールド」と、同時開催の「サステナブル経営WEEK(GX経営WEEK)」といった特別企画エリアも設けられた。

水素エリアでひときわにぎわいを見せていた川崎重工のブースは「さぁ、水素を語ろう。」をコンセプトに、スペースの半分を「KATARUBA」ステージが占めた。多彩な催しの中でも特に、プロの実演販売士が液化水素サプライチェーンについて5分で軽快に解説するプログラムは圧巻で、立ち見客が通路を埋め尽くすほどだった。

水素充填ロボット

自動車メーカー・ヒョンデのブースでは、ロボットによる水素充填のデモンストレーションが披露され、来場者はスマートフォンをかざしながら見守った。26年上半期に日本市場へ投入予定の新型FCEV「ネッソ(NEXO)」に、ロボットがアームを伸ばして注入口のふたを開け、ノズルを正確に差し込み充填する。その光景に、未来の日常を垣間見ることができた。


約30の国と地域が出展 講演会や座談会も充実

世界最大級の展示会らしく、多様な海外企業の出展が際立っていた。特に風力発電の展示エリアでは、ノルウェー、シンガポール、イギリス、ドイツ、スイスなどの企業が、それぞれの国旗をイメージした彩り豊かなブースを展開していた。華やかな一角の近くで目を引いたのはNECによる巨大な実機展示だ。同社は、90年以上のソナー開発で培った技術を応用し、水中にある目標物の保守・点検を効率化する技術をアピールした。

水中音響通信装置

会場では展示のほか、産学官のリーダーによる約200の講演やセッションも行われ、連日熱気に包まれながら大盛況のうちに幕を閉じた。

【業界紙の目】事業の持続的発展へ 協働・共創で地域に貢献する都市ガス会社

黒羽美貴/ガスエネルギー新聞 記者

近年、地域での大規模、あるいは重点事業は多業種が協働する形式で請け負うケースが増えている。

都市ガス会社もその枠組みで重要な役割を担うようになってきた。

現在、日本各地の都市では、人口減少や少子高齢化、経済の縮小などが顕著に進んでいる。その中で自治体に加え、地元企業も、担い手不足などにより従来から行う事業やサービスの継続が難しくなっており、地域自体の存続さえも危ぶまれ始めている。ガス導管を地域に張り巡らし、まさに地域と一体化している都市ガス会社にとっても深刻な事態だ。

総務省は2024年11月、「持続可能な地方行政のあり方に関する研究会」を立ち上げた。昨年6月にまとめた報告書には、自治体間の連携、産業等分野での自治体や企業間の連携の重要性が盛り込まれた。

経済産業省は昨年10月に、地域住民の生活に不可欠な生活維持関連サービス(買い物、交通、ガソリンスタンドなど)の供給持続性などを検討する「地域生活維持政策小委員会」を立ち上げた。第2回会合では、先進事例ヒアリングに、三重県伊賀市で都市ガス事業などを展開する上野都市ガス/上野ガスの中井茂平社長が出席し、新事業の給食センター事業や斎苑(火葬場)事業について説明した。

また都市ガス関連でも、同年8月に立ち上がった経産省の「ガス事業環境整備ワーキンググループ」の第6回会合で、ガス事業持続性確保のために、多様な関係者と協創(共創)できる仕組みを検討していくという方向性が示された。

さまざまな分野に参画 防災やCNの枠超えて

都市ガス業界では、カーボンニュートラル(CN)や防災などエネルギーと親和性の高い分野で自治体や企業と連携協定を結ぶ例が増加している。近年はさらに進んで、都市ガス会社が多分野かつ大きな協働の枠組みに参画するケースが多くなっている。

前出の上野ガスはグループでPFI事業(民間資金等活用事業)に参画し、地域に必須の二つの事業に取り組む。一つは伊賀市の小学校給食センターの整備運営事業で、同社グループ会社が構成企業として参加するコンソーシアムが応募して事業を落札、18年にSPC(特別目的会社)「伊賀学校給食サービス」を設立し、20年から新たに建設した給食センター「いがっこ給食センター元気」を運営している。同施設には上野ガスがLPガスを供給、上野ガス配送センターがLPガス配送の知見を生かし配送を担当している。

もう一つは同市の新斎苑整備運営事業で、上野ガスやグループ会社などで構成されるコンソーシアムが事業を落札、SPC「伊賀芙蓉」を設立、新たに建設した斎苑「伊賀市斎苑」を24年から運営する。火葬場では都市ガスが止まってもLPガスを利用できるようにし、さらに油を利用する非常用発電機を備え、災害時でも稼働を継続できるなどエネルギー企業の視点を生かしている。これらの試みは、地域内での資金循環や雇用拡大につながっている。

またインフラ分野ではサーラコーポレーションが昨年11月に、愛知県の豊橋浄水場再整備事業に参画することを発表した。企業グループ「あいちウォーターイノベーション」(代表企業=インフロニア・ホールディングス)の構成企業として参加。連結子会社の神野建設や都市ガス会社のサーラエナジーとともに地元企業として当該事業や関連事業に携わる。

教育分野でも、地域になくてはならないCN人材の育成に力を入れる。福島県いわき市でガス事業を行う常磐共同ガスは地元の企業や福島工業高等専門学校などと、CNに関する人材育成や共同研究・開発の推進、新産業創出、CN社会の実現を目指す「いわきCN人財育成コンソーシアム」を22年度に組成した。23年度には同社が幹事会社を、25年度には小野寺智勇社長が副会長を務めている。コンソーシアムでは地元自治体の協力を得ながら、「いわきCN社会連携共同講座」を開講。受講対象は、コンソーシアム参加企業の幹部や若手社員、市役所の職員、高専の学生(専攻科1年生は受講すると単位になる)や教員、市内企業社員など。25年度は全13回開催した。講師はCN分野の第一線で活躍する産学官の関係者が務める。受講者のCN社会実現に向けた意識変革はもちろん、常磐共同ガスでは、地元での人材確保や企業間連携の深化につながるとみている。

静岡ガスは、21年に発表した同社グループの「2030年ビジョン」で、30年に地域共創を実現する目標を掲げている。本社がある静岡市とは環境省の脱炭素先行地域事業で協働。同社は、市内の倉庫群で太陽光発電によるPPA(電力販売契約)事業などを行う新会社をフジタとともに立ち上げており、ここで生み出された太陽光発電の余剰電力を有効活用するプロジェクトを進めている。

静岡ガスらが取り組む可搬型蓄電池の利用実証

この余剰電力を可搬型蓄電池に充電し、この充電池を搭載したEVを企業や大学で運送に使う実証を行っている(3月上旬時点)。今後、実証結果を踏まえ、事業化を目指し、協働した企業などとコンソーシアムを組成する予定だという。また、同社は今年2月に静岡市の「アリーナ整備・運用事業」を落札した企業グループ「The Shizuoka Alliance」(代表企業=NTTドコモ)の構成企業に名を連ね、共創の新たな輪を広げている。

コンソ参加の意義大きく さらに拡大の見込み

コンソーシアムといった協働、共創の枠組みに参加することは、地域の課題解決を担い、地域の存続に貢献する「地元企業」として存在感や信頼性を高めるだけでなく、自社の事業継続や新たな分野への事業拡大、人材確保、参加企業との関係性を深化させることにもつながる。また、その枠組みに地元企業として都市ガス会社が関わることで、地域経済の好循環に役立つことができる。協働や共創の流れは、地域と共にある都市ガス会社の間でさらに広がっていくと考えられる。

〈ガスエネルギー新聞〉〇1959年設立〇購読者数:3万1000部〇読者層:都市ガス事業者、関連メーカー、官公庁など

【マーケットの潮流】25年電力先物市場の年間取引量は前年比5倍 ヘッジしやすい環境の整備進む

毛利岳幹/東京商品取引所総合業務室〈市場企画担当〉課長

テーマ:電力先物市場

TOCOMは、電力先物市場の取引拡大に向けさまざまな施策を打ち出してきた。

近年、リスクマネジメントの一つの手段として取引が急拡大。活用が広がりつつある。

東京商品取引所(TOCOM)で電力先物の取引を開始してから7年目になるが、認知度拡大と利便性向上のための取り組みが徐々に結実し、2025年以降、取引の拡大が顕著である。今後もより一層の流動性・利便性の向上により電力価格の変動リスクをヘッジしやすい環境を整え、わが国における安定的な電力供給維持のためのツールの一つとして役割を果たしていくことが求められている。本稿では、TOCOMのこれまでの電力先物に対する取り組みを紹介しつつ、今後の展望について言及したい。以下、文中における意見などは個人的見解である。

TOCOM電力先物 取引高

TOCOMは19年9月17日に、電力先物を試験上場して取引を開始した。商品先物取引法に基づき当局の認可を得た商品として上場したが、現在においても同法に基づく認可の下で電力先物を上場して取引を行っている取引所はTOCOMのみである。

当初は先物という新分野に参入できる電気事業者は限定的で、13社の参加でスタートした。この拡大が喫緊の課題である中、19年10月にTOCOMは日本取引所グループ(JPX)の完全子会社となり、その経営資源やノウハウも活用し、電力先物スクール(事業者の要望に応じ、商品先物取引の基礎から電力先物取引の活用までを説明)を開催するなど啓発活動を展開。

20年のコロナ禍の電力価格低迷から一転、20年末から21年初にスポット価格が大暴騰したことなどを受け、スクールの受講も急増し、21年末の市場参加者数は134社と当初の10倍に拡大した。それに伴い21年の年間取引量は10億kW時(前年比1・6倍)となり、22年4月4日に、3年間の試験上場期間を半年間前倒し本上場に移行した。


参加者のすそ野拡大へ施策 金融機関などの参入促進

本上場後の同市場の成長のためには、プレゼンス向上による参加者のすそ野拡大が求められた。また、経済産業省が23年11月から24年4月にかけて開催した「電力先物の活性化に向けた検討会」(全5回)の最終取りまとめでは、取引拡大に向けて、現物取引との連携や財務上信頼できる金融機関の参加といった、TOCOMに求められる施策に関する提言をいただいた。

これらも考慮して、①商品ラインナップの拡充、②JPX傘下の他の取引所や海外のエネルギー市場に比べて手薄なクリアリングブローカーとなる金融機関の参入促進、③現物との連携強化―の3点に重点を置いて具体的な施策を進めた。

商品ラインナップとしては、市場参加者から月間だけでなく、より短期やより長期かつまとまった期間のヘッジニーズを満たせる商品が求められたことから、週間物取引(24年3月)と年度物取引(25年5月)を追加した。並行して実施したクリアリングブローカー参入促進のための営業活動強化により、25年度末までに国内金融機関2社が加わったことで、電気事業者などにとって選択肢が増え、市場参加者のすそ野拡大につながった。その結果、新たに追加した年度物取引などで大口の約定も増加し、25年の年間取引量は46億kW時(前年比5倍)と急拡大した。

今年4月13日には、中部エリアを対象とした電力先物の取引を開始する。地域間連系線の混雑などを背景に東京・関西の両エリアとの価格差が生じやすい傾向にある中部エリアの価格ヘッジニーズに応えるべく導入するもので、同エリアで活動を行っている電気事業者をはじめ多くの市場参加者からの利用を期待したい。


現物取引との連携開始 ワンストップで入札可能に

電力先物の指標は日本卸電力取引所(JEPX)の翌日取引であり、JEPXとTOCOMが連携することにより双方の機能向上と電気事業者の利便性向上につなげていきたいとの考えの下、23年1月に相互協力に関する覚書(MOU)を締結した。その反響は大きく、中でも多くの電気事業者から期待の声を寄せられたのが、電力先物取引とJEPXでの現物調達、または販売のワンストップ化の実現であった。実現に向けて両取引所で検討を行った結果、早期の連携サービス(サービス名称は「JJ―Link」)開始のため、二段階での導入とした。

フェーズ1は、TOCOMがJEPXから連携を受ける現物の約定データが先物ポジションと合致するかを照合して、確認結果を電力会社へ返すことで先物と現物の結びつきを証明するサービスとして24年10月に開始。そして先般、フェーズ2のワンストップサービス(先物ポジションに応じて、JEPXでの現物の調達、または販売の入札が各電気事業者名義で行われるサービス)への移行を今年8月31日からとすることを決定・公表した。

フェーズ2への参加を希望する場合は、事前申し込みによる利用者登録が必要で、登録受付開始は今春を予定。登録済の電気事業者は、8月31日からJJ―Linkを利用できる。フェーズ2では、取引が増加傾向にある年度物取引にも対応。年度物取引を約定後、JJ―Linkの申請をしておくことで、対象年度になれば365日間のJEPX翌日市場への入札がワンストップで行われる。

JJ-Linkフェーズ2のイメージ

フェーズ2は、相手方のリスクを考慮せずに取引できるクリアリング付の先渡取引と同等の効果を有しており、最近のエネルギー価格の変動に鑑みれば、JJ―Linkにはリスクマネジメントの観点から、さらなる活用拡大が期待できる。

今後とも電気事業者の利便性向上に向けてさまざまな可能性を追求していきたい。

もうり たけき
1999年大阪証券取引所(現大阪取引所)入所。金融デリバティブ市場の企画・運用部門などを経て2022年から現職(大阪取引所市場企画部兼務)。

【論点】志賀原発巡る善管注意義務 違反認められず

原発差止め訴訟の注目点〈下〉/上村香織・TMI総合法律事務所 弁護士

北陸電力の株主が志賀原発の運転差止めを求めたが、富山地裁はこれを退けた。

連載の締めくくりに、善管注意義務違反を理由とした異例の訴訟を取り上げる。

昨年は、事業者及び国の勝訴判決が続き、本誌前々号では美浜発電所3号機の運転差止めの仮処分申立て、前号では高浜発電所1・2号機及び美浜発電所3号機に係る運転延長認可処分等の取消等訴訟を紹介した。本連載の最終回である本稿では、本年3月4日に原告らの請求を棄却した富山地裁判決(本訴訟)について紹介する。

本訴訟は、北陸電力の株主らが、同社の代表取締役である被告らに対して、志賀原子力発電所(本発電所)の再稼働のために必要なコストは過大であり、再稼働やその前提とした行為を行うことは、被告らが負う善管注意義務等に違反するとして、同発電所の運転の他、核燃料の購入等の再稼働を前提とした行為の差止めを求めた事案である。

「経営判断原則」の解説

典型的な原発差止め訴訟では、周辺住民が原告となり、当該原告らの生命、身体、財産等の人格権侵害のおそれがあることを根拠に運転差止めが求められるが、本事案では、取締役の善管注意義務違反を理由として会社法360条(株主による取締役の行為の差止め)にその法的根拠を求めている点で特徴的な事案である。

会社法360条の主たる要件は、①取締役が違法行為等をし、またはそのおそれがあること、②当該行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあること―である。当該要件との関係で、本訴訟の争点は、本発電所の安全性、経済合理性に関する被告らの注意義務違反の有無(争点①)、被告らの注意義務違反等により、北陸電力に回復することができない損害が生じるおそれの有無(争点②)とされており、争点①では、原告らから、10を超える数多くの注意義務違反が主張された。


重大事故と再稼働費用 二つの注意義務の判断基準

これに対して、裁判所は、原告らの主張を「重大事故が発生する可能性等を調査・分析すべき義務」(重大事故発生に関する注意義務)と「再稼働に要する費用が北陸電力の経営の健全性を損なうおそれの有無を調査・分析すべき義務」(再稼働に要する費用に関する注意義務)に係る主張に大別されるとして、それぞれの判断基準を示した。

このうち、重大事故発生に関する注意義務に関しては、原子力発電所を設置・運転する電力会社の代表取締役は、重大事故防止のため、原子炉施設の安全性について十分調査、検討し、安全性が確認できた場合に限って原子炉を運転すべきであること等を認めつつ、「原子力発電所の安全性について社内外の様々な分野の専門家をして組織的に検討させるなどした上で、その検討結果に依拠して運転(再稼働)の可否について判断していれば、特段の事情のない限り、取締役として負う善管注意義務に違反するとはいえない」との枠組みを提示した。

そして、再稼働には新規制基準適合性審査に合格する必要があることに言及し、「社内外の専門家に十分に検討させた上で、審査に合格することができるとの見込みをもって新規制基準適合性確認審査の申請をし、これに対する原子力規制委員会の意見、すなわち本件原子炉の再稼働に必要な許認可に関する判断を踏まえて運転(再稼働)の可否を判断することとしていれば」、上記の専門家の検討結果に依拠して再稼働の可否を判断したものといえるとして、善管注意義務違反が認められる範囲を限定的に解釈している。

また、再稼働に要する費用に関する注義義務についても、経済合理性に関する判断は、基本的に収支の予測等を踏まえた経営上の専門的判断に委ねられることに加え、北陸エリアの電力需要の大部分に相当する顧客の需要に応ずる供給能力を確保すべき義務を負う北陸電力については、「電気の安定供給のため、様々な発電方法を組み合わせたリスクヘッジには合理性があり、それぞれの発電方法に関する現時点での評価および将来の予測等を踏まえて、いかなる発電方法をどの程度採用するかについて相当程度の裁量を有する」と、広範な裁量を認めた。

そして、かかる広範な裁量を基礎として、再稼働を目指す旨の意思決定は、その過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しないとして、いわゆる経営判断原則(表参照)が適用されることを明らかにした。


同種の訴訟の参考に 控訴審の行方に注目

原子力発電所の稼働を巡って、本事案のように会社法360条を根拠とした差止め訴訟としては、最近では、東京地判令和3年1月28日において、東京電力が日本原子力発電に対して東海第二発電所に係る経済的支援を行う意向を表明したことに関して、東京電力の株主が会社法360条に基づき支援の差止め等を求めた請求が棄却されている。これ以外では会社法360条を根拠とする訴訟はあまり見受けられないが、本判決では、原子力発電所の安全性及び経済合理性に係る取締役の善管注意義務違反の判断基準が示されたことから、同種の訴訟が起こった場合には、一定の影響力を有するものと考えられる。

本判決後、原告団及び弁護団は、それぞれ同日付けで声明を発表し、名古屋高裁金沢支部へ控訴する意向を表明している。上記判断基準を含め、高裁でも原審の判断が維持されるのか注視したい。

うえむら・かおり
2018年1月TMI総合法律事務所入所。訴訟紛争、リスクマネジメントなどを幅広く対応。21年4月から原子力規制委員会・原子力規制庁長官官房法務部門に出向し、国を被告とする原発訴訟に従事。23年8月からTMI復帰。

【フォーカス】東電管内で初の再エネ出力抑制 抜本的回避策なく常態化へ

東京電力パワーグリッドは3月1日、管内の太陽光、風力発電に対し最大184万kWの出力抑制を実施した。国内最大の電力需要地である東京エリアでは初。その後、21日までの6回にわたって抑制を行った。

1日の東京都心の最高気温は季節外れの19℃。ただでさえ工場やオフィスの稼働がなく需要が低い日曜日で、好天により太陽光発電の発電量が急増し、火力発電の出力抑制だけでは需給バランスが保てなかった。

東京エリアでも再エネ出力抑制が「当たり前」になりそうだ

これまで東京エリアは、圧倒的な需要規模を背景に出力抑制とは無縁だった。しかし、太陽光・風力設備の導入量が右肩上がりで拡大。特に直近3年は、年間6%ずつ伸び、昨年9月末時点での設備量は2216kWに上った。「懐が一番深い東電の出力制御は、それだけ再エネ導入が進んだことを意味する」(学識者)

5月にかけては、太陽光の発電量が増える一方で電力の非需要期に向かう。柏崎刈羽原発6号機の本格運転も見込まれ、さらに頻回の出力抑制に迫られる可能性がある。

脱炭素コンサルタントは、「出力抑制が頻回になれば、系統接続申請中であっても発電所の運開は難しい。発電所併設や系統用蓄電池の設置は進んでいるが、後者は3年程度で飽和する可能性があり、出力抑制回避の抜本的な解決策とはいかない」と見る。系統増強も一つの手段だが、電気料金全体のコストアップにつながりかねず、限界がある。前出の学識者は、「新しい時代にふさわしい再エネ導入を、積極的に進めることが必要だ」と語る。

【フォーラムレポート】国が文献調査の実施を申し入れた 南鳥島の壮大な「夢」と「現実」

国が最終処分場選定プロセスで初めて自治体への申し入れに踏み切った。

地質的利点が強調される一方、「なぜ南鳥島だけ?」との疑念が生じている。

南鳥島─。東京都心から約2000㎞、小笠原諸島からでさえ約1200㎞離れた日本最東端の孤島が、かつてない脚光を浴びている。

経済産業省が3月3日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定を巡り、東京都小笠原村に南鳥島での文献調査の実施を申し入れたのだ。原子力発電環境整備機構(NUMO)は14日に父島、21日に母島で村民説明会を開催した。

可能性に満ちた拓洋第5海山 提供:JAMSTEC

国は5~10地点での文献調査の実施を目指しているが、現時点では北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町の3町村にとどまる。これまで選定プロセスは自治体の自主的な応募を待つ「手挙げ方式」で行われてきた。しかし、首長への過度な負担などを理由に、国が適地の存在する自治体に調査を依頼する「申し入れ方式」の導入を求める意見が広がっていた。国はついに今回、この方式を採用した。

「ようやく国が前面に出た」と評価する向きがある一方、進め方の「粗さ」を指摘する声もある。国は申し入れの理由について、適地である可能性が相対的に高い点や処分場が設置可能な用地の存在を挙げたが、同様の条件を持つ地点はほかにも存在し、南鳥島だけに申し入れた理由にはならない。国有地であり、定住者がいる小笠原諸島から遠く離れていることを踏まえれば、「声を掛けやすかったのではないか」との疑念が生じるのは当然だ。

経済産業省の特定放射性廃棄物小委員会で委員を務める東京電機大学の寿楽浩太教授は「申し入れる基準が不明瞭だ。候補地をどのように拡大し絞っていくのか、今からでも全体像を示すべきではないか。先行する町村は、政府方針が見えないと概要調査の可否を判断しようがない」と指摘する。 

「今後は手挙げと申し入れのハイブリッド形式を採る。地域バランスを考慮した上で、5自治体への申し入れを目指す」といった見通しが示されていないことが、不透明感を生んでいる。


地球からのプレゼント 動き出した海山開発

南鳥島が最終処分地として可能性を秘めているのは確かだ。同島での地層処分を提言してきた海洋研究開発機構(JAMSTEC)の平朝彦アドバイザーは、南鳥島周辺の自然環境について「地球が日本にくれたプレゼント」と表現する。日本は言わずと知れた地震大国だ。列島の下には北米、ユーラシア、フィリピン海、太平洋の四つのプレートが相互作用しており、世界で最も地球活動が活発な地域と言っていい。

一方、日本海溝から東側に広がり、太平洋のほぼ全域を覆う巨大な太平洋プレート内部は、日本列島とは異なり、地震がほとんど発生しない。南鳥島はこのプレート上に位置する。中でも南鳥島がある西太平洋の地点は、1億~数千万年前に誕生した極めて安定した地質を持つ。海溝まで約1000㎞離れており、マグマ活動は終わっている。今後「1千万年」は地殻変動が起こらない可能性が極めて高い。

人員の移動や資材の運搬を考慮して、「処分場建設は現実的ではない」(原子力関係者)との見方もあるが、平氏が想定するのは、島そのものに地下施設をつくることではない。

南鳥島から南西150~200㎞地点の海底に「拓洋第5海山」がある。海山の標高は周辺の深海底から4500m、広大で平らな頂上の水深は1㎞。周辺深海底にはレアアース(希土類)泥が分布している。ここでピンと来た読者もいるだろう。2月にJAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」がレアアースの試掘に成功したのが、この地点だ。CCS(CO2回収・貯留)の調査も行われている。

平氏が夢見るのは、海山でのHLW処分だ。直径50~100㎝、深度1㎞程度の穴を掘り埋設する。安全性評価や技術的な成立性の確認は避けて通れないが、平氏は「海山の地層は単純で、掘削時に温泉が噴き出すこともない。本土では1㎞掘ると地上と比べて温度が100℃ほど上昇することもあるが、海山なら低温のままだろう」と強調する。海底のボーリング作業は船上で行うため、地下施設を建設するよりも人員や物量は少なくて済む。レアアース採掘やCCS調査で得たノウハウやモニタリングデータの共有も可能だ。深海底ではレアアース、海山本体ではCCSとHLWの最終処分─壮大な海山開発の実現は絵空事ではない。


1地点だけの危険性 外交問題化のリスクも

こうした青写真を耳にすれば、「南鳥島こそ最適地」との受け止めが広がるかもしれない。ただ、孤島特有のリスクを指摘せざるを得ない。

第一に、国内の関心低下の危険性だ。「あえて他地域での調査の必要はないとの空気が広がれば、絞り込みによる適地選定という制度の趣旨が揺らぐ。今から応募する自治体が現れても、最終候補にならないことを見越した交付金目的の応募だとの批判を招きかねない」(寿楽氏)。こうしたモラルハザードは、原発の恩恵を受けた社会全体での責任共有を掲げた最終処分法の精神と相反する。

第二に、ステークホルダーの拡大だ。太平洋の島しょ国は、核実験による被ばくの歴史などから放射性物質の扱いに敏感だ。日本に敵対的な国家も静観しないだろう。福島第一原発の処理水放出の際に外交的なエネルギーを消費したのは記憶に新しい。こうした点を考慮すれば、南鳥島は科学的には適地だとしても、必ずしも「社会的適地」とは言えないのかもしれない。

南鳥島での文献調査は、受け入れ判断の参考となる説明会の段階にすぎず、まずは丁寧な対話が必須だ。同時に、処分場の選定は「どこが適地か」以上に「どう選ぶか」が重要なことを忘れてはならない。

【フォーカス】薄氷を踏んだ日米首脳会談〝投資外交〟が開いた突破口

3月19日に行われた日米首脳会談では、両首脳が中東情勢の安定に向けて緊密に連携することで一致した。懸案だったホルムズ海峡への艦船派遣を巡っては、日本側の説明がトランプ大統領の一定の理解を得た。会談前には、艦船を派遣できなければ日米同盟の信頼関係が崩れかねないとの懸念があった。「日本の憲法がおかしいからどうにかしろ」といった圧力をかけてくる可能性も指摘されていた。

米国のトランプ大統領と会談する高市早苗首相(左)

高市早苗首相は会談時、憲法上、事態の認定には要件があり、できることとできないことがあると説明。トランプ氏は会談後、米メディアのインタビューで「(日本には)憲法上の制約はあるが、われわれが必要とするなら日本は支援してくれるだろう」と語った。

米国の態度軟化の背景には、日本の対米投資への積極姿勢がある。日米関税合意に基づく対米投資の第2弾では、小型モジュール炉(SMR)や天然ガス発電所の建設など11兆円超の投資を発表。重要鉱物のサプライチェーン強靭化に向けた協力強化でも合意した。

茂木敏充外相によれば、アラスカ産原油倍増のための投資提案が「かなりトランプ氏に響いた」という。投資して増えた増産分を日本が買い取り、共同備蓄する仕組みだ。調達の多角化につながり、市場の安定を望むトランプ氏にとっても魅力的だった。

国際社会は資源・エネルギーを中心に激しく揺れている。ホルムズ危機は日本のエネルギー安全保障の弱点を克服する契機になるのだろうか。

【フォーラムレポート】柏崎刈羽は再稼働議論の〝ラスボス〟 型破りな地元同意プロセスを検証

柏崎刈羽原発の再稼働にはいくつもの高いハードルが立ちはだかっていた。

異例の経緯をたどった地元同意プロセスは今後の原子力行政にどのような影響を与えるのか。

柏崎刈羽原子力発電所(KK)が約14年ぶりに再稼働した。東京電力が再び原発を運転することは、福島第一原発(1F)事故を契機に大きく変わった原子力利用・規制にとって大きな節目となる。

1月21日午後6時52分、KK6号機の「中央制御室」で、指示を受けた運転員がレバーをひねり、起動に向けた作業が始まった。7時2分、原子炉内での核分裂反応を抑える「制御棒」が引き抜かれると、制御盤の黄色い四つのランプが消え、13年10カ月ぶりに稼働を果たした。8時28分には、核分裂反応が安定して続く「臨界」に到達した。その後、営業運転開始に向けた準備が進んでいる。

2011年に1F事故を起こした東電が、事故後に原発を再稼働させるのは初めてとなる。ただ、ここまでの間、新潟県では再稼働の是非を巡る議論が長期化した。


長期化の要因は六つ 痛恨だったテロ対策不備

時間のかかった主な要因は、①1F事故により東電に対する信頼性が失われた、②原子力規制が厳格化され、電力会社のやるべきことが増えた、③過去のKKにおける不祥事が再び問題化、④再稼働手続きのさなかにテロ対策の不備が発覚、⑤KKの電力は新潟県内にほとんど供給されない、⑥新潟県による丁寧な再稼働手続き―である。

③の代表例は、02年に問題化した「トラブル隠し」だ。部品のひび割れなどが見つかった自主点検記録を改ざんし、当時の社長ら経営陣が辞職。国が異例の「安全宣言」を出すなどして収束した。ところが11年の1F事故でこの問題が蒸し返される形となった。

④は痛恨の事態だった。KK6、7号機は17年12月に原子力規制委員会の安全審査に「合格」した。新潟県は地元同意に向けた手続きを着々と進め、「知事による判断は近い」との観測も出た。そのさなかの21年1月以降、テロ対策の不備が相次いで発覚した。事態を受けて規制委は21年4月、東電に対して事実上の運転禁止命令を出した。これによりKK再稼働を巡る県の手続きは、2年8カ月の間、完全にストップした。

⑤は、電力の生産地と消費地のねじれ現象である。KKには全7基の原子炉があり、総出力821万2000kWは世界最大規模だ。ところが新潟県は東北電力エリアで、1号機の発電量の半分しか県内に供給されてこなかった。地元からは「大きなリスクを背負う割にメリットが少ない」との声がある。

こうした課題を抱えながらも、東電は規制委発足の約1年後の13年9月、6、7号機の安全審査を申請した。審査では1F事故を起こした東電に、再び原発を運転する「適格性」があるかが問われた。ほかの電力会社の原発の審査にはない異例の措置だった。審査は比較的順調で17年12月に完了した。

一方、再稼働に必要な地元同意手続きは難航する。柏崎市と刈羽村はおおむね同意する方針だが、新潟県は同意の是非を明らかにしなかった。これは泉田裕彦・元知事(04年10月~16年10月)、米山隆一・前知事(16年10月~18年4月)の影響が大きい。

泉田氏は東電を「うそをつく企業」と公然と非難するなど厳しい姿勢をとった。「福島第一原発事故の原因の検証が先」が持論で、「再稼働は議論する段階にない」と強硬だった。泉田氏は12年3月、「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(県技術委)に事故検証を要請した。

泉田氏が3期務めて退任した後を継いだ米山氏は、事故検証を受け継いだ。検証対象も広げ、事故原因に加えて、健康と生活への影響、安全な避難方法にまで手を広げた。米山氏は当初、検証に「3、4年かかる」との見通しを示した。だが、就任1年半後に女性スキャンダルが発覚し、結果を見届けることなく辞職した。再稼働の行方は、花角英世知事(18年6月~)に委ねられた。

慎重なプロセスを踏んだ新潟県の花角英世知事(左)

【フォーラムアイ】伊藤菜々が行く! 西部ガス「ひびきLNG基地」

【西部ガスグループ】

西部ガスグループのエネルギー広域供給拠点として2014年に稼働したひびきLNG基地。

現在、3号LNGタンクの新設が進む同地を電力系Youtuber伊藤菜々氏がレポートする。

ひびきLNG基地(北九州市)は、18万klのLNGタンク2基と国内最大規模のローリー出荷設備を有する基地です。世界最大級・全長300mものLNG船が入港可能な桟橋のほか、海外から受け入れたLNGを天然ガスに戻す気化装置も、高圧・中圧で合計5基あります。

e―methane(e―メタン)実証について取材

福岡・北九州などへはパイプラインで都市ガスを、導管網から離れた地域へはローリー車でLNGを供給しており、その件数は100万件を超えます。また、隣接地で今年3月運開を目指すひびき発電所にもガスを供給する予定です。同基地は、北部九州の拠点として非常に重要な役割を果たしています。

地震や津波のリスクが低く、アジア圏に近い立地も強みで、LNG船向けのガスアップクールダウン(GUCD)サービスやISOコンテナによる海外出荷といった事業実績も豊富です。まさに、グローバルビジネスを展開する適地と言えます。


大型LNGタンクを新設 従来にない用途を開拓

現在、同基地では既設のLNGタンクよりもさらに大きな23万kLの新タンクを建設中です。この3号LNGタンクの主な役割は①カーボンニュートラル(CN)を背景とした国内天然ガス拡大への対応、②安定供給のさらなる向上、③新グローバルビジネスの推進の三つです。

新LNGタンクは29年度上半期に運開予定

西部ガスグループでは、「天然ガスを利用したい」という引き合いが増えており、特に石炭や石油からの燃料転換が今後も増えると見込んでいます。CNを実現するためには天然ガスの活用が欠かせません。タンク増設だけでなく、ローリーの出荷設備も18レーンまで増やし供給体制を強化するそうです。

また、LNGタンク容量が増えることで、都市ガス供給の計画と実績に差異が生じても、LNG船の配船調整の緊急性が低くなり、柔軟に対応しやすくなります。西部ガスは3号LNGタンクの有効活用に向け、JERAとひびきLNG基地の戦略的活用などについて合意しました。

例えば、JERAは電力需要の変動によりLNG船の調整が発生しても、3号LNGタンクを活用することで、より柔軟な対応が可能になります。一方西部ガスは、JERAとLNGを相互融通することで基地の安定的事業運営と収益の確保が図れます。

現在、両社で具体的な仕組みを構築中ですが、昨年11月には同基地からJERA基地へのLNG船の仕向地変更などを実施し、西部ガスとして初のLNG融通取引を実施しました。

【多事争論】予測不能なトランプ政策の 世界への影響

話題:トランプ・リスク

脱炭素政策に強硬な反対姿勢を見せ、化石燃料依存を強める第2次トランプ政権。

その予測不能な行動は、米国や世界にどのようなリスクをもたらすのか。

〈原油の米国産シェア上昇も 日本は輸入体制転換を〉

視点A:藤 和彦/経済産業研究所コンサルティング フェロー

トランプ氏が2期目の米大統領に就任して1年が経過した。その間、世界は変動したがエネルギー分野も例外ではない。本稿では、日本にとって最もインパクトが大きい原油に焦点を当て、トランプ・リスクや今後の対策について論じてみたい。

トランプ氏は今年に入り、ガソリン安を自身の成果として強調することが多くなっている。全米自動車協会(AAA)によれば、ガソリン価格は全米平均で1ガロン=3ドルを割り込み、過去5年間で最も低い水準となっている。原油価格が下落したことが主要因だ。

同氏は就任当初、国内の原油増産を通じてガソリン価格の引き下げを目指していた。政策の柱は原油採掘に関する規制緩和だ。昨年11月、カリフォルニアやフロリダ、アラスカ沖で新たな海域を対象とした原油掘削を認める画期的な計画を発表したほどだ。

だが、業界はこの方針を必ずしも歓迎していない。増産により原油価格が下がれば、利益が圧迫されるからだ。米国の原油生産の主力であるシェールオイルの新規採掘の採算ラインは1バレル=60ドル以上。原油価格が60ドル前後で推移しているため、大幅な増産が起こっていないのが現状だ。

それにもかかわらず下落したのは、OPEC(石油輸出国機構)プラスが増産にかじを切ったからだ。OPECプラスの有志8カ国は昨年4~12月にかけて、生産目標を日量約290万バレル(世界の原油供給量の3%に相当)へ引き上げた。「トランプ氏に配慮した」との見方があるが、筆者は「OPECプラス内で増産を求める声が高まっていたことが影響した」と考えている。


むしろ価格を押し上げた数々の行動 第3次石油危機への懸念拭えず

トランプ氏の行動は地政学リスクを高め、原油価格を押し上げたと見た方が妥当だと思う。昨年6月の米軍によるイラン核関連施設への攻撃は典型例だ。今年に入ってもトランプ氏の予測不可能性は変わらない。1月2日の米軍によるベネズエラのマドゥーロ大統領の拘束に、世界は度肝を抜かれた。

副大統領だったロドリゲス氏を暫定大統領に据えるなど、その後の政策が穏当だったため、ベネズエラ産原油の国際市場への復帰は順調に進んでいる。政変後のベネズエラ産原油の主な輸出先は、中国から米国に変わった。米国のベネズエラ産原油の輸入の歴史は長く1918年に始まり、第一次石油危機時の輸入シェアは3分の1を占めていた。米国のベネズエラ産原油の輸入が急増する可能性は低いが、米国内の原油価格の押し下げ効果を持つとの指摘がある。

一方、中東地域への方針は「問題ありだ」と言わざるを得ない。国内で大規模抗議デモが起きるなど政情不安が強まるイランに対し、軍事的対応も辞さない構えだ。トランプ氏がイラクにも圧力を強めていることも気がかりだ。イラン寄りと言われる元首相のマリキ氏が首相に再任される動きが出ているのに対し1月下旬、「マリキ内閣ができれば、イラク支援を打ち切る」とどう喝した。米国政府はイラクの原油輸出代金の大半を管理し続けている。生殺与奪の権を握っている米国が支援を停止すれば、イラク情勢が再び泥沼化するのでないかとの不安が頭をよぎる。

このように、トランプ氏の中東地域への対応は不確定要素が多く、第三次石油危機を引き起こしかねないリスクをはらんでいる。原油輸入の中東依存度が高い日本には由々しき事態だ。中東依存度が95%を超える状況が続いていたが、昨年12月は88%に低下した。米国の輸入シェアが約10%に上昇したことが寄与した。米国のシェールオイルの輸出が急速に拡大したため、日本でのシェアも昨年から5~10%の間で推移している。

だが、中東産原油に比べて輸送コストが高いことが難点だ。韓国のように政府が政策支援を実施すれば、米国産原油のシェアはさらに上昇する可能性が十分にある。原油の輸入拡大は米国との貿易黒字縮小の特効薬であり、トランプ氏も満足するだろう。

米国との摩擦で、カナダが太平洋地域への輸出拡大に力を入れていることにも注目すべきだ。シェールオイルとカナダ産重質油が確保できれば、日本の原油輸入を巡る環境が飛躍的に改善されることは間違いない。1990年代に開発に関与したベネズエラ産原油の輸入も今後の検討課題にすべきだ。

温暖化問題のせいで関心が薄れているが、今でも石油抜きでは生活が成り立たないことに変わりない。トランプ・リスクを奇貨として、日本の原油の輸入体制を抜本的に転換すべきではないだろうか。

ふじ・かずひこ 1984年早稲田大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー分野で多数経験を重ねる。2003~11年まで内閣官房に出向(内閣情報分析官)。21年1月から現職。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2026年3月号)

未稼働の電力小売り登録事業者/FIT・FIP制度の見直し

Q 「供給実績あり」の電力小売り事業者が登録数の6~7割にとどまっている理由は。

A 電力小売り登録事業者のうち、一定数が「供給実績なし」にとどまっている現状については、業界の信頼や規律という観点から問題意識を持たれるのも自然だと思います。電力は社会インフラであり、小売りへの参入には相応の準備と覚悟が求められます。その前提は、電力自由化から10年を経た現在も変わっていません。

一方で、この数字の内訳を丁寧に見ていくと、必ずしも「軽率な参入」や「単純な失敗」だけでは説明しきれない側面もあります。小売り免許は、すぐに電気を売るためだけではなく、将来の事業機会を確保するための選択肢として取得されることがあります。燃料価格や卸市場価格、政策動向の不確実性が高まる中で、供給開始のタイミングを慎重に見極める判断は、リスク管理の観点から理解できる面もあります。

また、小売りを単独の収益源とせず、再生可能エネルギーやPPA(電力販売契約)、エネルギーマネジメント、脱炭素支援といった周辺事業と組み合わせて展開する企業も増えています。その場合、小売り免許は「電気を売るための機能」というより、顧客接点や制度参加のための基盤として位置付けられ、供給実績の多寡だけでは事業意図を十分に測れないこともあります。

もちろん、結果として供給に至っていない事業者が一定数存在する以上、参入の在り方や制度運用の適切さを検証していくことは重要です。その上で、「供給実績なし」という事実を単なる淘汰や失敗として片付けるのではなく、参入動機や事業設計の多様化という構造的な変化として捉え直すことが、今後の制度改善や参入の質の向上につながるのではないでしょうか。

回答者:江田健二/ラウル代表取締役


Q FIT・FIPで事業用太陽光が補助の対象外となります。業界・事業者への影響は。

A メガソーラー問題への対策の一環で、地上設置の事業用太陽光(10kW以上)については2027年度以降、FIT・FIP制度の支援対象外となることが調達価格等算定委員会にて決定されました。業界や事業者に与える影響はどうでしょうか。

まず対象から外れるのは新規案件で、26年度末までの既認定案件は影響を受けません。すなわち、既認定FITからFIPへの移行促進や卒FIT後を見越した事業集約の動きに変化はなく、また、住宅用はもちろん、事業用でも屋根設置は27年度以降も支援が継続しさらに国交省や自治体の支援策により導入拡大が加速する可能性が高いです。

さて、問題は新規の地上設置型太陽光への影響ですが、見方は二つに分かれます。一つは、そもそも事業用太陽光の新規FIT・FIP新規認定量は大きく減少しており、今後はPPAが拡大するので影響は限定的と見る向きです。もう一つは、自立に至っていない状況でFIT・FIP支援がなくなると、FIPを活用したPPAモデルまで案件組成が難しくなり影響は小さくないと見る向きです。筆者の見方は後者に近いですが、解決の道は業界を挙げて地域共生型にシフトすることです。

調達価格等算定委は、地上設置型へのFIT・FIP支援終了を決めた一方で、再エネ導入拡大の観点から、地域との共生が図られた形での導入を促進していくことは重要との意見で一致し、地域共生が期待される太陽光発電の類型などについて検討を進め、具体的な支援の在り方について来年度の委員会で検討・決定する方針が示されました。すなわち今後の検討次第では、地域共生型と認められる太陽光については、例外的にFIT・FIP制度の支援対象となる可能性が残されています。

回答者:増川武昭/太陽光発電協会事務局長

【コラム/3月27日】「トランプ暴走、イラン攻撃中東不安の日本経済を考える ~縮小均衡調整が不可避」

飯倉 穣/エコノミスト

1、突きつけられた現実

中東のイスラエル(IL)の存在を巡る紛争は、紆余曲折を経て、アラブ諸国は共存に向かっているが、イラン(IR)の現体制は、共存を容認していない。IL・米国は、イラン脅威を低下させる核施設攻撃(25年6月)に続き、米・IR核協議中に再攻撃を行った(26年2月28日)。イランはホルムズ海峡を封鎖状態とした。石油エネ等の中東依存懸念の顕在化で、世界・日本経済も揺れている。日本国民は改めて中東の不安定を実感し、原油動向に気遣う日が続く。

「NY原油急騰 一時119ドル台 G7備蓄放出含め対応 東証急落終値2892円安」(朝日同3月10日)。「イスラエル ガス田攻撃 イランが報復 原油100ドル超」(日経同19日)。不安を伝える報道は、連日である。そしてドバイ原油先物は、169ドル/bbl(同19日)である。高市・トランプ日米首脳会談(20日)もあった。

紛争の収束は、トランプ発言迷走同様、先行き見えにくい。近日中に停戦期待(松永泰行東京外大教授日本記者クラブ会見18日))、弾薬消耗待ち(齊藤貢元駐イラン大使同13日)或いは紛争長期化(坂梨祥エネ研中東研究センター長同6日)・米国中間選挙待ち等様々である。短期で終了しても、この国は、常に理性的な対処と中長期の方策が必要である。改めて短期、中期、長期のエネ対策と経済運営を考える。


2、今回の政府対応~また補助金なのか

最近の政府施策は、困ったときのバラマキばかりである。油価上昇となると、合理的思考を脇に置き、所得の海外流出による国民負担を、補助金・減税・給付金で補填する発想が罷り通っている。ウクライナ戦争時の原油等価格上昇対応の議論・対策が典型である。結局、給付金2万円、エネルギー価格の負担軽減(電気ガス料金支援)、ガソリン暫定税率廃止、消費税減税等だった(「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~25年11月21日参照)。それは政治・社会対策であって、経済政策でない。

今回も消費者・生産者の影響に配慮してか、ガソリン・電気料金価格対策の発言があった。またまた支援金交付である。「ガソリン・電気代追加対策」首相検討 予算組み替えは否定」(日経26年3月10日)、「高市首相が表明 170円程度に抑制も(補助金を使って全国平均で1リットルあたり170円程度に抑制する方針)」(朝日26年3月11日 21時09分)。野党・マスコミ相乗りの財源不明・補助金ばらまきの態で始末が悪い。マクロ経済の視点から政策を担った経済企画庁の存在が懐かしい。

またホルムズ海峡封鎖は、世界の20%の原油輸送に支障を来たす。各国とも原油価格急騰と問題の深刻さに慌てたのであろう。急遽IEA32カ国会議の合意で、備蓄放出となった(3月11日)。日本は、「首相「石油備蓄放出」16日にも、日本単独 エネ価格抑制 過去最大の45日分」(朝日26年3月12日)となった。今後とるべき対策との兼ね合いで、備蓄の意味、使い方、効果、使用時期に関する考察の中身は、曖昧である。これらの政府施策は適切だろうか。過去は、もう少し多様な視点の検討・模索もあった。


3、過去を振り返れば、やむを得ずだが適切だった

第一次オイルショック時(1973年度一次エネ石油依存77%、現在37%)は、今日よりも冷静さを欠き、当初国内に混乱をもたらした。もの不足不安で換物思想・買い占めが先行した。かつ便乗値上げによる物価上昇が顕著だった。

対策は、まず物価対応とエネ使用抑制だった。便乗値上げ監視、石油節約のためのガソリンスタンド休日閉鎖、エレベーター稼働台数削減、空調温度の規制、深夜テレビ放送自粛、広告ネオン停止、営業時間短縮規制等々があった。その過程で短期、中・長期の視点が登場した。

短期は、マクロで総需要抑制の縮小均衡調整だった。金融引締め、歳出を抑制した(予算執行一部停止)。価格効果活用(価格の受容・消費削減)を図り、エネ対策で省エネ・節電・使用規制を要請し、石油使用量の削減を図った。また生産性上昇がない下での賃上げ抑制で、スタグフレーションを回避した。

中・長期は、エネ対策で実用化段階の技術活用に注力した。公害対策可能石炭火力、LNG火力、原子力発電の拡大、産業面で、企業の省エネ投資奨励、エネ多消費型産業からの脱却(産業構造転換=企業の適応)などがあった。企業は雇用維持を図りながら新規事業も模索した。世界経済停滞・省エネ・代替エネ・石油開発があり、10年経て、原油価格は下落に転じた。日本経済のパフォーマンスも良好だった。


4、紆余曲折ありで油断再来

オイルショックに適応した日本経済は、その後紆余曲折を経た。築いてきた体制は、経済摩擦と経済政策の誤りでやや軟弱化した。経済摩擦、地球環境問題、東日本大震災への対応に問題があった。

現在地は、エネルギー危機対策で、一部有効なもの(石油備蓄、石油代替、再エネ)もあるが、他方中東紛争到来を忘却し、東日本大震災・福島原発事故で原子力発電放棄に走り、また公益事業体制破壊等で対応力を弱くしている。マクロ経済政策も不在となり、価格効果を無視し、エネ高騰対策で、有害無益なポピュリズム的バラマキが横行している。


5、今後の経済の動き~原油価格高騰の影響

ここで今回の事象継続が経済に与える影響を想定してみよう。日本の原油輸入量は、2024年度136百万kl(中東依存95.8%)である。この状況で、ホルムズ海峡封鎖で輸入減少(途絶)となれば、日本経済の活動はどうなるか。国内の生産活動は、入手原油量の水準となり、大幅な生産低下となる。石油・化学産業(産出額60兆円、付加価値額13兆円、従事者56万人)に直撃となる。そしてその製品不足が他の産業に波及する。備蓄放出でどこまで対応できるか。輸入量の減少は、生産・GDP水準低下を深刻にする。一時的に二桁台の落込み懸念もある。暫く耐乏生活である。

輸入量を確保出来ても、石油価格高騰が日本経済に与える影響がある。トランプ発言と投機筋の動きで、原油価格相場が乱高下する状況も困惑もするが。需給・思惑で原油価格が、例えば夫々100~150~180ドルに高騰し高止まりする場合である。輸入価格上昇で、企業物価上昇、消費者物価上昇となる。鉱物性燃料輸入額は、25年22.1兆円、内訳は原油9.6兆円(原油価格ドバイ68.35$/bbl、為替149円/$)、LNG5.7兆円、石炭3.3兆円(内一般炭1.9兆円)等である。目の子算なら、ショック前に比し燃料輸入増加額は、夫々10兆円、26兆円、36兆円増となる。海外への所得流出・国民負担額である。物価は、夫々1%、2%、3%強の上昇となろう。そのエネ価格上昇を吸収すれば、GDPは、夫々△2%、△4%、△6%程度の落込みを余儀なくされる。つまり今後ホルムズ海峡封鎖・油価上昇で、経済は縮小均衡調整となる。受忍は、やむを得ない。