成長戦略の柱の一つ、GX移行債の償還財源議論を呼び水に、カーボンプライシング政策が再燃し始めた。
経産省主導の排出量取引、そして環境省が税制改正要望で踏み込んだ炭素税議論はどんな展開を見せるのか。
岸田政権が「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」の検討を年末に向けて本格化させている。GX債で政府が20兆円を先行調達し、それを呼び水に今後10年間に官民で150兆円の投資を引き出す構想だ。官邸のオーダーは将来の償還財源をセットで示すこと。この号令で成長志向型カーボンプライシング(CP)としての排出量取引制度(ETS)、そして炭素税議論が再燃している。
先行するGXリーグ 日本版ETS構築へ
先行するのは経済産業省のETS政策だ。2月に基本構想が示された「GXリーグ」は自主的なETSが柱で、日本全体のCO2排出量の4割を占める440社が賛同。9月6日に始まった有識者検討会では「GX―ETS」と銘打ち、ルールの方向性を示した。
特徴は、自己申告制の目標設定にある。参加企業は意欲的な排出削減目標を自ら設定・開示し、日本の国別目標(2030年度13年度比46%減)の水準を超過達成した分は、23年度から本格運用する「カーボン・クレジット市場」で取引できる。日本の経済界の自主行動計画、そしてパリ協定の根幹であるプレッジ&レビュー(誓約と評価)を踏襲し、義務化や罰則なしに行動変容を促す。
世界的にもユニークな設計で、特にEU(欧州連合)のETSとは毛色が異なる。EUでは、欧州委員会が年ごとに全体の排出上限を設定。それに基づき企業は「排出権」を原則オークションで購入するが、国際競争にさらされる一部産業には無償枠を与えてきた。
ただ、経産省はGXリーグを発展させる上で将来的な「政府によるプライシング」も排除しない。「今後のカバー率、目標水準、実績、制度のフリーライドなどの動向、さらに国際情勢も踏まえ、必要があればより強固にすることも考えられる」(梶川文博・環境経済室長)。特にEUは、温暖化対策の緩い国からの輸入品に課税する炭素国境調整措置(CBAM)を27年に導入し、ETSの無償枠を32年までに撤廃する予定だ。
そのころまでにGX―ETSが、無償割り当ては行われずに目標を自己設定した上での義務化、あるいは有償オークションなどに移行する可能性がある。一部では〝経済統制的〟との受け止めもあるが、「CBAMで日本が課税されないために必要な政策だ。カーボンニュートラルを目指す以上、最終的に日欧のETSは同様の仕組みに収れんするが、途中の過程では日本はプレッジ&レビュー、EUは政府集権的という違いがある」(政府関係者)などの意見もある。
また、ETSは価格の予見性の低さが弱点で、実際、EUではかつて排出権の供給過剰で長らく価格が低迷。最近ではロシアのウクライナ侵攻以降、石炭火力の稼働増が見込まれ8月中旬に過去最高値となった直後、工場の稼働停止などで需要が減るとの見方が強まり、急落した。その点、GX―ETSでは上限・下限価格の設定などで急激な変動を抑制しつつ、長期的には価格を上昇方向へ誘導する狙いで、これがきちんと機能するかも重要なポイントとなる。

炭素税議論は新たなフェーズ 詳細設計は先送りの公算
長年検討課題の域を脱せなかった炭素税でも進展があった。ETSの有償化と並び、炭素税はGX債財源の有力候補だ。環境省は23年度税制改正要望で、GX債の検討、EUのCBAMへの対応、さらには来年G7(先進7カ国)議長国としてCPの議論をリードする必要性などを強調しつつ、「成長志向型CP構想の具体化の検討を進め、速やかに結論を得る」と、昨年より踏み込んだ内容を求めた。年末に向けたGX実行会議と、税制改正大綱の行方に注目が集まる。「省内では環境次官ヘッドのタスクフォースと、そこでの議論を有識者にもはかりつつ、これまでのCP議論を深掘りする。年末に向けて税制改正要望の内容からの前進を目指す」(波戸本尚・環境経済課長)考えだ。
同時に、足元のエネルギー情勢を踏まえ施行まで一定期間を設けるなど、産業界への配慮も見せる。「年末までに、何年からどんな形式の税を入れる、といった示し方は難しい。G7で欧米に説明できるような方向性は出しつつ、具体的な選択肢は30年が近づいたときに考える、といった程度だろう」(政府関係者)。
炭素税に絞っても選択肢はさまざまだ。現行の地球温暖化対策税が上乗せされた石油石炭税はエネルギー対策特別会計の財源の一つであり、従来はこの方式を炭素比例にリニューアルする形が想定しやすかったが、「それでは他省庁が納得しない。GX債の財源として炭素税を検討し始めた以上、経産省と環境省でエネ特を山分けという地合いではなくなった」(同)ようだ。考え得る形としては、まずは消費税型。消費税改革で、CO2排出量に応じた税率を設けるイメージだ。次に電力税型。卒FIT(再エネ固定価格買い取り制度)に伴い、初期の高額賦課金の負担減少に合わせて新税を入れる。さらに走行税型。自動車業界は揮発油税の減税と走行税への移行を長年要望しているが、そこに新税も入れ込む、などの案が浮上する。
ただ、いずれも既存税制との調整がハードルで、さらに個別事情もある。例えば消費税は19年の増税時、当時の安倍晋三首相が今後10年ほどは増税を行わないと発言。また、卒FITが出始めるのは32年以降になるし、走行税への移行はEVが一定程度普及するまで待つ必要がある。これらの理由から詳細設計は30年ごろまで先送りの公算が高いのだ。
他方でGX=国益という前提自体を疑問視する声もまた根強い。「生産プロセスの総入れ替えが必須だが、企業や投資側からすればもっとも経済的メリットの出る国・地域で行いたい。国内産業が海外移転するペースは意外な速さで進む可能性があり、GX債で余計な投資を行うリスクもよく考えるべきだ」(エネルギー多消費産業関係者)。これ以上の国力減退につながる政策を受け入れる余裕は、今の日本にはないはずだ。








