【原子力】行政権限を濫用 問われる規制委


【業界スクランブル/原子力】

東京電力が再稼働を目指す柏崎刈羽原発6、7号機を巡り東電が作成した安全管理ルールである「保安規定」に問題ありとして、原子力規制委員会は去る5月28日に書き直しを求めることを決めた。規制委は2017年に6、7号機について安全審査合格の審査書を決定している。審査では、原発設備そのものよりも、むしろ福島第一原発事故を起こした東電という事業主体に再び原発を運転する適格性があるかが論争になり、規制委は適格性を認める条件として、再稼働とは何の関係もない福島第一の廃炉を完遂することや、原発の安全対策に継続的に取り組む覚悟などを保安規定に盛り込むよう要求していた。

それを受けて東電は今年3月、「廃炉をやり遂げる」「世界中の運転経験や技術の進歩を学び、リスクを低減する努力を続ける」など7項目を盛り込んだ保安規定を提出。規制委に認可を求めた。しかし、規制委は「表現が抽象的」「経営責任が明確でない」などと再度問題点を指摘し、更田豊志委員長は、どう具体化するのか東電がよく考えることだと、事実上、投げ返している。

更田委員長の気持ちは分からないではない。だが、原子力安全を統括する行政庁としての処分の在り方、法治国家日本の姿としては問題が多すぎる。行政指導なら行政庁のコメントを受け入れるかどうかの任意性が担保されていればいいといえるが、記者会見で規制委員長にここまで言われてしまえば東電に選択の余地はない。認可条件であるとすれば今回の決定は行政処分にほかならず、行政処分は裁量で何を決定してもいいというものでもない。

あらかじめ決めた行政基準に沿って裁量処分を行うのが法治国家の在るべき姿であり、行政事件訴訟法第30条は、憲法の定める人権規定、信義則、平等原則などに照らして、裁量処分に裁量権の逸脱・濫用があった場合は、裁判所が当該処分を取り消せると規定する。東電だけに厳しい対応をすることを法は認めていない。(Q)

間違いは素早く打ち消すべし 「確かな事実」のリスト化の提案


【気候危機の真相Vol.06】小島正美/ジャーナリスト

温暖化報道の常識が「CO2犯人説」である限り、「気候危機」に傾く世論を覆すことはできない。状況を改善するには「反論の余地のない事実」をリスト化し、メディアに突き付ける手が有効だろう。

いったん人々の脳に刻まれたイメージを覆すのは容易ではない。地球温暖化の犯人はCO2だというのも、その例であろう。ではどうしたら凝り固まったイメージを解きほぐすことができるのだろうか。いまだ悪魔のようなイメージで見られる遺伝子組み換え(GM)作物を例に考えてみたい。

GM作物は1996年から米国を中心に普及し始め、今では約30カ国で栽培され、世界中で流通している。家畜のえさや食用油の原料など幅広く浸透しているにもかかわらず、今なお「がんを起こす」とか「自閉症の原因」とかトンデモ言説を信じる人が多い。

GM作物での失敗に学ぶ 温暖化報道の「常識」崩せるか

それは、誤った言説が登場したときに「それは間違いなくウソです」と打ち消す作業を科学者やマスコミがしてこなかったからだ。例えばGM作物では、2012年にフランスの大学教授が「組み換え作物を食べるとがんになる」とマウスの実験を発表した。当時西欧で大きく報道され、その悪いイメージは一気に人々の脳内にインプットされた。しかしその後、世界中の政府機関が実験の不備を指摘した。さらにEUの欧州委員会は完璧なマウスの再現試験を行い、当該の実験は完全に否定されたが、マスコミは一行も報じない。

おかしな言説を流布させないために必要なことは、そのおかしな言説が発生するたびに科学者集団が素早く打ち消し、マスコミに取り上げてもらうよう巧みに広報していくしかない。

では、温暖化問題はどうだろうか。言うまでもなく新聞やテレビは洪水や台風で大災害が起きるたびに温暖化のせいだと報じる。森林火災があれば、これも温暖化の影響だと簡単に報じる。これは、すでにメディアの記者たちの頭に「CO2のせいで地球が温暖化し、やがて海面が上昇し、異常気象が頻発し、地球は危機的状況に陥る」という構図が出来上がっているためである。CO2犯人説は科学的に正しいと思い込んでいるからだ。

CO2犯人説を否定する「確かな事実」リスト案

では、記者たちの頭の中の構図をひっくり返すには、どうすればよいのだろうか。そのためには、記者たちが信じていることに対して、「それはウソだ」と示し、そのウソをニュースにしてもらうしかない。GM作物でも記者たちが危ないと思っている限り、一般市民の考えが変わるはずはない。

その実現手段は、ウソだという確かな事実を記者たちに突き付けることだ。反論の余地がないほど確かな科学的事実なら、記者たちの心も揺れるはずだ。

温暖化問題で一般に信じられている言説とは異なり、「えー、そうだったの」と皆が驚くであろう確かな事実とは何か。それを明確にして示すのが「科学重視派」の科学者の役割である。一般的には「温暖化懐疑派」と呼ばれるが、彼らは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の言説を疑っているのではない。「こちらの言説の方が科学的で正しい」と主張しているわけなので、懐疑派という言葉はやめたい。

では、記者たちに知ってほしい確かな事実とは何か。私なりにその「確かな事実」を見つけようと、『地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ』(丸山茂徳氏ら著)や『「地球温暖化」の不都合な真実』(マーク・モラノ著)、『CO2温暖化論は数学的誤りか』(木本協司著)を読んでみた。それぞれ説得力を感じたが、私のような門外漢が特に知りたいのは、どの論が、CO2犯人説(IPCC派といってもよい)からの反論を跳ね返すほど確実性に富む科学的事実なのかという点だ。

反論の余地ない事実提示を 共感得るかは科学者の腕次第

例えば、温暖化で絶滅すると危惧されるホッキョクグマは絶対に減っていない、いやむしろ1950~60年代よりも増えているという事実が確実であるならば、これは「確かな事実」のリストに加えることができる。

温暖化と異常気象の発生の関係はどうだろうか。坪木和久・名古屋大学教授が著した近著『激甚気象はなぜ起こる』を読むと、「温暖化懐疑論はもはや無意味である。温暖化という気候変動は現実に進んでおり、それに伴って気象が激甚化している。その原因は人間活動にある」(4ページと338ページ)と述べているが、過去100年の統計を見れば、おそらく無関係だと主張できるだろう。仮にそうならば、「異常気象と温暖化は無関係」という確かな事実をリストに載せることができる。

そもそもIPCCの気候予測モデルがパラメーターをちょっと変えれば、どんな予測でも可能にしてしまう怪しげなものだ(いわゆるチューニング問題)という印象を、丸山氏らの本を読んで持ったが、このことを一般市民に分かる形でどう解説するかが科学者の腕の見せどころである。コンピューターを用いた温暖化シミュレーションに根本的な誤り(雲や水蒸気と気温の関係など)があれば、それもリスト化できるだろう。マーク・モラノ氏は「『科学者の97%が人為的温暖化説に合意』はウソだ」と言っているが、その辺りもリストに加えられたら面白い。

こうしてリストを作っていけば、文句が出ようのない確かな事実をメディアに突き付けることができる。その案を作成してみた(別表)。大事なのは、それを大衆の面前に分かりやすい形でビジュアルに示すことだ。このリストづくりは、記者たちに向けてはニュースのネタになるはずだ。

最後に再度強調したい。CO2犯人説を確実に否定できる「えー、そうだったの」という確実な事実だけを分かりやすく解説した本をぜひ緊急出版してほしい。ニュースの素材になるような本なら反響を呼ぶはずだ。

こじま・まさみ 1951年生まれ。愛知県立大卒業後、毎日新聞社入社。生活報道部編集委員として食の安全、健康・医療問題などを担当し、2018年退社。「食生活ジャーナリストの会」代表。

【気候危機の真相Vol.01】

【気候危機の真相Vol.02】

【気候危機の真相vol.03】

【気候危機の真相vol.04】

【気候危機の真相Vol.05】

【新電力】非効率石炭の廃止 小売りへの影響は


【業界スクランブル/新電力】

7月3日、梶山弘志経済産業相から非効率石炭火力のフェードアウトに向けた検討を開始することが発表された。対象となる電源は超臨界圧(SC)以下の効率の電源とみられるが、供給力の減少に伴う影響は、スポット価格上昇、容量価値の上昇など、新電力に対して非常に大きな影響をもたらすであろう。環境アセス第二種事業のアセス逃れの石炭火力も対象になるとみられ、かつて電源不足に苦しみ、小規模石炭火力を建設してきた新電力は大変大きな影響を受ける。

並行して基幹送電線の利用ルール抜本的見直しに向けた検討が開始される。再エネ立地の適地は火力発電設備の立地と重なるケースが多く、今後系統慣性の低下も課題となると考えられる。

これら政策はもちろん、国際的な脱炭素の流れを受けたものではあるが、諸外国では容量市場の入札条件に炭素基準を設けるケースが出ている。

英国では、2024年から「炭素排出制限」を設けることとなった(ビジネス・エネルギー・産業戦略省20年5月20日発表)。kW時当たりCO2排出量が550gを超え、kW当たりの年間平均排出量が350㎏以上の電源は容量市場の支払いを受けることができない。対象となる電源は石炭火力に限られるが、英国では陸上・洋上風力の大量導入により、既に石炭火力の稼働率は相当に低下。残る石炭火力は4地点であり、影響は大きくないとみられている。

また、米国東海岸では、トランプ政権の石炭火力支援策に反発し、ニュージャージー州、イリノイ州、メリーランド州はPJMの容量市場から離脱し、独自で容量を調達する体制への移行検討を開始した。

仮に、日本でも容量市場において炭素足切りの基準が実行された場合、特に大きな影響を受けるのは電源を持たない新電力である。米国のPJMではFRR(小売り事業者が各々供給力を確保する仕組み)を併用することができる。日本でも、小売り事業者間の連携を促すべく、容量価値の相対取引を認めるような検討があってもよいのではないだろうか。(M)

投資確保と効率化は両立できるか レベニューキャップ制度に盲点あり


【多事争論】話題:託送料金制度の見直し

電力・ガス取引監視等委員会は新たな託送料金制度の詳細設計の議論を始めた。目的である再エネ主力電源化・レジリエンス強化には、解決すべき課題が多い。

<エネルギー分野の最重要改革の一つ 必要な投資費用は回収できる仕組みを>

視点A:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授

長年の懸案だった託送料金制度改革が本格的に始まる。レベニューキャップ制度の導入、定期的な料金改定などの基本方針は決まっているものの、詳細制度設計はこれからだ。

将来の超低炭素社会実現の一つの有力シナリオは「電化社会」+「電源のゼロエミッション化」で、託送料金制度改革はこのための重要なピースとなる。改革に失敗して送配電部門の効率化が停滞すれば、電力価格のさらなる高騰を招いて電化社会実現の障害となる。

また投資が滞れば、安定供給の懸念を引き起こし、これも電化社会実現の障害になるだけでなく、送配電部門の投資不足が再エネ電源投資の障害となれば、電源の低炭素化の妨げになる。託送料金制度改革は、エネルギー分野における最重要改革の一つといえる。

望ましい託送料金制度改革を議論する前に、現行制度の特徴を確認する必要がある。この認識を誤ると、現行制度よりも悪い制度を作ることになりかねないからである。

現在は総括原価に基づく価格規制で、厳しい査定を経た上で資本費用も含めた費用を積み上げた料金が設定されていると認識している人もいるが、必ずしも正しくない。実際には料金は値下げ届け出制で値上げ申請しない限り、厳しい審査は行われない。過去の想定に基づいた現状に合わない料金でも、現行料金を据え置く限り、審査は回避できる制度だ。

言い換えれば、大幅な費用増があれば、厳しい査定を覚悟すれば値上げ申請できるという、事業者にとっての安全弁はあるものの、基本的には、物価調整条項も効率化係数もないプライスキャップ制に近い。費用を削減すれば、その分株主、役員、元役員、従業員などのステークホルダーに配分可能な利益が増えるので、一定の効率化の誘因は存在する。現行制度では効率化の誘因がないから、レベニューキャップ制度でそれを与えるとの理解は誤りだ。

明確な効率化係数はないものの、現行制度にもそれに代わるものがある。託送費用の多くが固定費だが、収入は従量料金の割合が高い。その結果、系統電力消費量が減ると送配電部門の採算性が悪化する。送配電事業者は需要縮小を補う程度の効率化をしないと、厳しい査定を受ける値上げ申請に追い込まれる。つまり現行制度には、需要の縮小率に対応する効率化係数がビルトインされている。

現行制度では、投資調整条項がないため、投資費用がかさむほど託送料金を維持するのが困難になる。逆に言えば投資費用を節約できればステークホルダーに配当する利益の原資が増える。これが投資量を所与として、効率化により費用を削減する誘因を与える点では望ましいが、必要な投資を怠っても同様の利益が得られ、送配電部門に可能な限り投資を回避する強い誘因を与えてしまう。再エネ主力電源化や設備の高経年化に伴い、今後も継続的な送配電投資が不可避となる中、社会的に必要な投資を誠実に行う会社が不利になる制度は不合理で、持続可能ではない。

投資計画は経済産業省・広域機関も関与して、発電費用も含めた総費用の最小化も考えて合理的に策定され、必要な投資費用は料金などで適切に回収できる仕組みを作る必要がある。投資計画策定の仕組みと、それと整合的な託送料金制度が設計されるはずだ。 もう一つの柱であるレベニューキャップ制度は、資源エネルギー庁の見解として、プライスキャップ+需要調整条項と基本的に同じと整理された。ということは、需要調整条項導入は既定路線だ。現行制度では需要縮小率が事実上の「効率化係数」の役割を果たしているが、効率化係数が実際の需要縮小率と連動するのは歪んだ制度だ。コロナ渦で電力需要が構造的に縮小したら、必要な効率化も上昇するのは理屈に合わない。

需要調整条項付加では不十分 意味ある効率化係数が試金石に

しかし、需要調整条項を付加するだけでは、現行制度でかろうじて存在した効率化による託送料金低下効果、つまり需要減少に伴う託送料金値上げ効果をキャンセルするだけの事業効率化による値下げ効果を削いで、値上げ効果だけが残る結果になりかねない。従来予想されていた需要縮小率に相当する程度の効率化係数を課した上で、投資量増加の費用が回収できる仕組みにすれば、持続可能性を高めたよりよい制度となるかもしれない。

しかし、効率化係数が名目だけの小さな値に設定されれば、この改革は、高コスト体質と疑われている事業者に対する効率化圧力を除くだけの、消費者の利益を無視した事業者のためだけの改革になりかねない。その試金石が、意味のある効率化係数を設定できるかになるだろう。

まつむら・としひろ 1988年東大経済学部卒。96年東工大大学院助教授、98年東大社会科学研究所助教授、2008年から現職。博士(経済学)。

【電力】CO2排出削減へ 炭素税導入は王道


【業界スクランブル/電力】

この夏の人事で就任した環境省の中井徳太郎新事務次官が7月22日の就任後初の記者会見で、炭素税も含めたカーボンプライシングについて、「脱炭素社会の実現に有効だと本当に思っている」と述べたところ、SNS上でちょっとした騒ぎになった。「#中井次官の免職を求めます」というハッシュタグまでできたのにちょっと驚いた。

どうも「官僚が国会や国会議員を差し置いて税制に言及するのは憲法違反」という論があるようであるが、筆者にはよく理解できない。環境省の官僚がカーボンプライシングに言及したことなど過去にいくらもありそうだし、言論の自由の範疇ではないか。

それ以上によく分からないのが、炭素税の議論をすると、賛成する側も反対する側も「炭素税導入=増税」という前提に立っているとしか思えない点だ。諸外国では、税収中立措置つまり、炭素税の増税とほかの税(所得税、法人税など)の減税と組み合わせてマクロな税収を調整することが普通に行われている。こうした税収中立措置を講じることを前提とした炭素税導入論への反論を、筆者は寡聞にして知らない。

税収中立措置前提の議論になりにくい背景に、日本の石油石炭税が特別会計の財源になっていることがあるのかもしれない。そうであるならば、少なくとも現行の石油石炭税からの増税分は一般会計に繰り入れるのが筋だ。あるいは無駄がまま指摘される特別会計はこの際廃止して、全額一般会計繰り入れでもよい。欧州の炭素税は筆者の知る限り全て一般会計財源だ。

梶山弘志経済産業相の発言に見られるように、石炭火力への政治からの圧力は相変わらず強いが、CO2排出という外部不経済が大きいゆえに石炭火力を減らしたいなら、外部不経済に課税するのが王道だ。 そのことを主張せずに、託送料金の発電側基本料金や容量市場のような全然目的の違う政策措置を、再エネいじめだとか石炭火力への補助だとか的外れなレッテル貼りをしてやり玉に挙げる人たちがいる。それは有害無益でしかない。(T)

インフラ事業の予測と決断 ―コロナ禍で考える経営論―


【私の経営論(2)】松本順/みちのりホールディングス代表取締役グループCEO

分散型社会が到来する。首都圏や関西圏などの密集を避けて地方圏に移住したり、二地域居住を選択したりする人が増える。日常のさまざまなシーンでも密集や接触を減らす生活様式が選択されるようになるが、大都市にいる限り不特定多数の他人との接触を避けることは難しい。

そうとなれば、何もわざわざ暮らしにくい大都会で人波にもまれながら毎日を過ごす必要はない。リモートで働き、オンラインで医療を受け、欲しいものはネットで注文できる。地方圏の方が自然のそばで人間らしい暮らしができるし、生活コストも低いのだ。解決策が長年にわたって見当たらなかった頑固な一極集中の問題がコロナ禍を奇貨として動き出したのだ。

生活者の増加は、地方圏における小売業やサービス業の増収を意味する。移住した家族は生鮮食品を買い、クリーニングを頼み、外食もするだろう。もちろん学校にも通う。私はバスなどの事業の経営者だが、地方圏のバス事業経営には、そのような傾向がプラスに働く。

日頃から公共交通を使い慣れた大都会からの移住者は、買い物や通学などの目的で路線バスを使ってくれるだろう。レジャーでもバスツアーを選んでくれるかもしれない。現今が苦境だからといって、公共交通ネットワークを縮減してしまうわけにはいかないのだ。

中距離移動を担う役割に サービスのデジタル化も

リモートワークの普及やオンライン会議の活用は、今回の出来事によって何年分も先に進んだと言われる。市街地に出勤したり、対面で会議したりするのが時代にそぐわないという風潮も生まれた。

ところが、やや時間が経過し、ウィズコロナ期間の長期化を覚悟する事態になった今、やはり物理的に対面しないと、出来ないことや分かり合えないことも多いね、という話が聞かれるようになった。つまりデジタル対面の限界も見えてきたというのだ。たしかに、生身の、かつ等身大の人間と顔を突き合わせ、息遣いを感じることから生じる相互の理解に勝るものはない。ネットを通じた対面のクオリティも上がるだろうが、「口角泡を飛ばして」とはいかないし、疑心の解決までは期待できない。一時盛んに行われたオンライン飲み会も、トンと聞かれなくなった(少なくとも筆者の周囲では)。

将来に向けた取り組み―自動運転実証実験車両(茨城交通・ひたちBRT)

また、カオスが世界の大都市で文化を産み出してきたことも忘れることはできない。わが国の政府も苦しむエンターテインメント産業に対する支援を表明しているが、音楽でも演劇でも寄席でもスポーツでもライブエンターテインメントの魅力にはかけがえが無く、テレビやネットによる中継をはるかに凌ぐ。とすると、人々は必要に応じて、またその欲求を満たすために移動すべき時は移動するし、地方圏に居住しても、折に触れて大都会に出かけていく場面は生じる。

そう考えてみると、交通事業者の視点としては、そのような移動を支える存在になることで、自分たちの役割を増やすことができる。バス事業で言えば、所要2時間ないし3時間の、大都市と地方圏を結ぶ中距離高速バスは面白い存在だ。移動の頻度が少なくなる分、サービスや設備のスペックを上げてやや高い単価を負担してもらうことも可能だろう。予約をするまでのことはないが、その代わり車内の座席の埋まり具合をユーザーにリアルタイムで伝達するようなサービスのデジタル化も効果的だ。

【再エネ】経産相のプラン 大きな節目の予感


【業界スクランブル/再エネ】

7月17日の梶山弘志経済産業相の会見「再エネ経済創造プランについて」は、3日に発表された「国内の非効率石炭火力のフェードアウト、石炭火力の輸出支援の厳格化などの措置を進めること」と共に、エネルギー政策上の大きな節目となる可能性を感じ、非常に意義深い発言だった。国際的に脱炭素化の流れが加速する中で、日本においても再エネが社会にとって当たり前となる、いわば再エネ型経済社会を創造していくという発想で、今後、産業の競争力、インフラの構築、地域社会との共生の三つの面で政策検討が並行的に進められるようである。

17日には「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」もあり、梶山経産相は会冒頭から終了まで出席。エネルギー政策と産業政策を両輪とした再エネ型経済社会の創造を具体化するとの意欲が感じられたことは、決してひいき目ではないだろう。初回の会合では、①中長期的な導入目標を設定し予見性を示すこと、②国内産業・インフラ整備などの課題は分科会で検討・議論を行うこと、③その上で官民協議会の場で「洋上風力産業ビジョン」をまとめること――が決まった。この産業ビジョンに長期的視点での戦略性を持たせることに鑑み、官民協議会は単年度で終了するのではなく、継続する方針も確認された。

ほかにも特筆すべきことが二点ある。一点目は経産相の「当面10年間は年間100万kW、2040年にかけては3000万kWを超える導入量の見通しがあれば思い切った投資ができるものと思っており、引き続き本協議会で議論していきたい」とのコメントだ。二点目は業界団体の参考資料にあった「ジャパン・スーパーグリッド」構想にも「直流送電や港湾についても今後議論が必要」と発言したことである。スーパーグリッド構想の具体化で電気エネルギーのパラダイムシフトが進展し、新たな電力流通設備の整備・利用の選択肢が革新的に広がることが想像される。これこそが「真の電力システム改革の実現」ではないだろうか。今後の取り組みに大いに期待したい。(S)

ネット接続する高機能品が続々登場 気象予報や見守りツールに進化


【ガス警報器のスマート化】

万が一のガス漏れに備えて取り付けるガス警報器。しかし、多くは一度も動作せずに交換時期を迎える。最近、家庭内でお役立ちツールと変貌した警報器の発表が相次いでいる。その鍵を握るのがネット接続だ。

「ガスをつけたつもり」「ガス栓を閉めたつもり」などのミスが原因で発生するガス漏れ事故。その防止策として、警報器の設置はとても有効だ。しかし、リース料を払って設置しながら、一度も動作しないまま5年の交換時期を迎えるため、必要性を疑問視する声もある。そこで、ガス事業者や警報器メーカーなどが取り組んでいるのがガス警報器のスマート化だ。インターネットと接続することで、新たな付加価値を生み出した製品が次々と登場している。

大阪ガスのツナガルde警報器「スマぴこ」

自治体などと提携 警報器が情報発信

大阪ガスは、新たなガス警報器「スマぴこ」の販売を開始した。インターネット通信、人感検知センサー、温湿度検知センサーを搭載することで、利用者にさまざまな便利な情報を提供するのが特徴だ。

グループ会社・大阪ガスマーケティングの商品技術開発部スマート技術開発チーム松村圭祐係長は「単機能だったガス警報器にネット接続や複数のセンサーを搭載したことで、飛躍的に多機能な製品になりました」と話す。

具体的には、ガス漏れや一酸化炭素検知といった従来の警報機能に加え、気象情報、防犯情報、雨雲情報、天気予報、熱中症注意喚起、乾燥注意喚起などを、インターネットを介し、ストリーミング再生で情報が提供される。

災害・防犯情報の提供においては、大阪市と大阪府警察と協定を結んだ。自治体も防災における情報周知を課題としていた。例えば、台風や集中豪雨が発生したとき、警報などを発令されて地域の防災無線で周知しても、多くの世帯では雨戸や窓を閉め切りにしている。このため、放送があることは分かっても内容を十分理解するのが困難だった。販売を担当する同社販売企画部販売企画チームの増田健人氏は「スマぴこが宅内にあると、災害情報をしっかり聞き取ることができます。その点を評価していただきました」と説明する。

さらに、人感センサーを活用した機能では、子どもの帰宅や高齢者の在宅状況の把握のため、外出先の家族にメールで伝える見守り通知のほか、設定した時間や人感センサーが検知したタイミングで『今日はゴミの日です。ゴミを集めましょう』などと知らせるリマインダーなどもある。

販売では、特定層への提案に特化するのではなく幅広い層に対して提案していく。「多くのお客さまに利便性を感じてもらえるようにさまざまなサービスを用意しています。5年ごとの警報器の交換時期や、ほかのガス機器の販売時に合わせて、丁寧に説明していきたいです」と増田氏は話す。

快適ウォッチ「SMARTXW-735」と連携するコネクトセンサー

リース料金は月額547円。通常よりも200円程度、高くなるが、使用者からの反応は上々とのことだ。

警報器での情報通知 スマートホームの足掛かり

新コスモス電機は、通信モジュールを搭載し、スマートホームサービスに対応した新世代のガス警報器「快適ウォッチSMART XW-735」を、ソフトバンク傘下のエンコアードと共同開発。東邦ガスと西部ガスを通じて販売を開始した。エンコアードが持つ、最新の通信ソリューションやAIエッジコンピューティング技術を内蔵したオールインワンサービス「コネクト」をガス警報器向けにカスタマイズ。警報器とマルチセンサーを連携させ、警報器の基本機能であるガス漏れや一酸化炭素発生を検知し知らせるのに加え、①温湿度センサーによる熱中症になりやすい環境や空気の乾燥、②不在の時間帯の玄関や窓の開閉(簡易セキュリティ)、③設定した時間帯にドアの開閉が一定時間以上ない(高齢者見守り)、④子どもの帰宅―などをスマートフォンアプリを通じてプッシュ通知できるようにした。 

警報器は5年で交換期を迎える。東邦ガスと西部ガスエリアの年間の買い替え需要は約10万台で、こうした買い替えを機に高機能化したガス警報器の導入を促し、スマートホームを今後のガス警報器のスタンダードの一つとしていきたい考えだ。

新コスモス電機の山田芳穂広報室長は「都市ガスエリアのガス警報器の普及率は40%ですが、ガス器具が進化したこともあり、警報器が一度も動作しないまま交換期を迎えることがほとんど。一方で、事故が起きた場合、多くのケースで警報器が付いていませんでした。機能を追加し、プラスアルファの価値を提供することで警報器の活用の幅を広げ、さらなる普及を進めていきたいです」と話す。

エンコアード側にも、ガス警報器を通じてスマートホームを普及させたいとの狙いがある。事業推進本部電気・ガスサービス開発二部の谷口顕則部長は、「既存の電気やガスなどの生活領域から提案することで、これまでスマートホームに興味がなかった幅広い層へのアプローチができます」と期待を寄せる。

LPガスでも動きがある。岩谷産業は独自のIoTプラットフォーム「イワタニゲートウェイ」の関連機器を開発して、2020年度から量産化を目指す。警報器に通信機能を付加することで、高齢者の見守りサービスや健康管理などを展開する。年内をめどに島根県大田市で事業検証を行い事業化する計画だ。 警報器と通信の融合は、見守りなど新たなサービスを生み出している。しかしこれにとどまらず、より利便性の高いサービスの創出が望めそうだ。今後も警報器の動向が見逃せない。

アバター憑依報道 隠された意図を見極めよう


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

米映画サイトMOVIEWEBが7月23日、「『アバター』続編公開は1年遅れの『2022年12月』」と報じた。ジェームズ・キャメロン監督も謝罪の手紙をネットに公開した。

「新型コロナウイルス拡大でニュージーランドでの撮影、ロサンゼルスでの制作に支障が出た」

2009年公開の前作はコンピュータ合成による超現実的な映像が注目された。かなたの星で先住民と資源収奪を狙う人間が戦う。スクリーンに映し出される色彩豊かな風景、躍動する先住民、異形の生物が観客を魅了した。ネット百科ウィキペディアによると、世界興行収入は昨年まで歴代1位の2500億円超だったという。

設定も時代を反映していた。主人公は人間だが、自らの化身、つまりアバターとなる先住民の体を操り、戦う。コンピュータゲームでお馴染みの世界観である。

アバターの語源は古い。もとはサンスクリット語アヴァターラで「(神や仏の)化身」と辞書にある。「あの人はアバター。お言葉は神聖なメッセージです」などと用いられてきたのだろう。

人はアバターに弱いのだ。メディアもそこを突く。まず多用されるのが「専門家アバター」だ。

例えば新型コロナ対策の布マスクを巡る朝日4月2日夕刊「他者からの感染予防、専門家『期待できない』」だ。「国は布マスク配布に加え、子どもたちのために自作を要請しているが適切ではない」と語る専門家が登場する。

政権批判のためだろう。

今は多様な布マスクが販売され自作マスクも少なくない。朝日は自社のネットで布マスクを販売して炎上、とのオチもつく。

東京8月4日「あきれた国会開かぬ理由」も、「識者『言い訳、疑問だらけ』」と見出しにあり、大学教授らの苦言が並ぶ。「国会を開いておけば法案も予算案もすぐに通せる。臨機応変の対応ができる」という。本当か。

共同7月19日「立民・枝野代表がコロナ特措法改正論を批判」に、立憲民主党の枝野幸男代表が「現在の権限を使いこなせていない人に、さらに強い権限について議論する資格はない」と述べたとある。国会開会を求める立民自身が法案の審議を拒否している。

「海外アバター」もよく見る。8月4日防衛省記者会見で、東京新聞記者が河野太郎防衛相に安全保障政策を質した。

「自民党提言のように、相手国の領域でのミサイル阻止能力を検討する場合、周辺国の理解が重要だ。理解を得る際に必要だと思われることは?」

侵略から国民と国土を守るのが防衛だ。当然、対応策は日本が決める。攻める側ではない。河野氏は「中国がミサイルを増強しているときに了解がいるのか」と返したが、翌5日東京社説「真の抑止力にならない」は、「地域の軍拡競争が加速」と批判した。

同じ紙面に「北(朝鮮)が小型核実現か」の記事がある。遠くまで撃ち込める強力な殺戮兵器だ。その開発まで日本のせいか。

「市民アバター」はNHKが好む。7月13日「福島第一原発、トリチウム含む水の海への放出に反対、若者がデモ」は代表例だ。

「デモを行った『DAPPE』は福島県内に住む20代から30代の約50人で作る」「社会問題に積極的に関わろうと活動をしています」と持ち上げる。他に赤旗が報道しており、特定政党に寄った内容、との指摘がある。

アバター憑依報道にご用心。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

エネルギー分野から 気候変動分野の協力へ


【オピニオン】ヴァンサン・デュフール/EDF(フランス電力)日本・韓国地域総代表

日本もヨーロッパもエネルギー産業は、コロナ禍に大きな問題を残すことなく対応した。コロナ以後、電力会社は新しくダイナミックな国際協力を念頭に置いた新時代に備えなければならない。世界1位の原子力発電事業者であり、欧州1位の再生可能エネルギーによる発電会社でもあるEDFにとって、電力を取り巻く状況が似ている日本と、地球温暖化対策のためにさらなる技術・産業分野での協力強化を図ることが望まれる。

日本とフランスのエネルギー分野での数多くの共通性から、EDFは日本との特別な関係を重視している。コロナ感染拡大期においては、コロナに対抗する業務継続計画をEDFも日本の電力会社も示すことができた。拡大期間中、われわれの設備は通常時と同程度の要求に同品質で応えた。フランスではこの期間は、再エネの補完としての原子力の柔軟性を示す結果となった。原子力による発電は、再エネによる余剰と需要低下に対応するため、短時間で、顕著な発電量の変動を示した(4月5日には4時間で1000万kWをを記録した)。

気候変動の中で、電力システムの回復力はより一層期待されている。近年日本、フランスの両国において、より深刻化する自然災害に対応して電力会社は業務継続計画を策定し実行した。

従って日仏の電力会社は、気候変動のそれぞれの国の証人であり被害者である。50年前の日本の電力会社との協力決定時の三つの重要点である、「電力供給での安全性」「化石燃料市場価格の変動に対して競争力を持ち安定した価格のエネルギーの研究」「多大な付加価値を持つ産業育成」は、新しい時代に私たちが向かう中でも変わらない協力の基準である。

コロナ危機以後、EDFは脱炭素化に関する確約の順守を強化した。EDFのエネルギーミックス中、90%近くが脱炭素であり、現在2050年にカーボンニュートラルを目標としている。

50年前と同様に、日本の電力会社との協力は、前述の三点を基本としている。相互協力強化のため、さらに次の三点を平等に発展させなければならない。

①電力調達の安全性とエネルギーの脱炭素化に不可欠な原子力(それは大きな視点からの原子力サイクル、廃炉、原子力安全の鍵となる寿命延長および同一安全基準にのっとった現状の原子炉の更新を意味する)、②地域の固有条件に合致し価格が安く、電力供給の安定化と原子力以外の1次資源価格の変動リスクから守る再エネの補完的な発展、③世界中の顧客の省エネに伴い、VPP、マイクログリッド、スマートメーターなどの動的な管理、より効率的なモデルによる電力トレーディングなど、この分野における革新に可能な限り応えること―。

日本もフランスもこの様な大きな挑戦には一国では立ち向かえない。エネルギー分野での協力の経験を生かし、今後は気候分野での密な協力をすべきだろう。

訳文責任:及川智之(EDF日本駐在事務所)

ヴァンサン・デュフール/ EDF(フランス電力)日本・韓国地域総代表 パリ政治学院卒。パリ第一大学修士号。1994年EDF入社。2012年から対EU責任者。15年からブリュッセル駐在のEDFのEU代表。20年1月から現職。

「気候危機」を唱道する環境白書 根拠なく危機あおることへの違和感


【特別寄稿】杉山大志 /キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

令和2年度の環境白書では「気候危機」という言葉が使われたが、観測データがまともに示されていない。これで「2050年ゼロエミッション」といった多大な負担を国民に強いることは不適切だ。

令和2年版環境白書では、猛暑、台風、豪雨が多発している、というエピソードが紹介されている。だが、本当に気象災害が多発する傾向にあるのか、それは本当に地球温暖化のせいなのか、といった統計的な分析が全く掲載されていない。

台風の発生数の経年変化

データが示す異常気象の実態 温暖化の影響はごくわずか

白書では「台風」「激甚化」と繰り返し書いてあるが、肝心の観測データが全くない。だが実は、台風は増えてもいないし強くなってもいない。これは図から一目瞭然である。

環境白書とは、本来は、まず丁寧にこのような統計データを示すべきだ。そうしないと、読み手が客観的に環境の現状を把握できないからだ。だが今回の環境白書は、このような観測データを示さない。理由は、気候危機というレトリックに不都合な真実だったからではないか、と勘繰られても仕方ないのではないか。

白書では猛暑にも繰り返し言及していて、地球温暖化のせいにしている。

だが地球温暖化は、起きているといっても、ごく緩やかなペースである。日本においては、気象庁発表で100年当たり1・1~1・2℃程度である。ただし東北大学の近藤純正名誉教授によれば、気象庁発表には都市化などの影響が混入しているという。それを補正すると100年当たり0・7℃程度であるとされる。100年当たり0・7℃とすると、子どもが大人になる30年間程度の期間であれば0・2℃程度となる。0・2℃と言えば体感できるような温度差ではない。

「18年夏は埼玉県熊谷市で最高気温が41・1℃」であったが、では、これへの地球温暖化の寄与はいかほどになるのか? もし過去30年間に地球温暖化が無ければ40・9℃であった、ということだ。地球温暖化はごくわずかに温度を上げているにすぎない。

では近年の猛暑の原因は何かというと、第一は気圧配置の変化やジェット気流の蛇行など、自然変動だ。第二は都市化だ。東京、大阪、名古屋は100年当たりでは東京は3・2℃、大阪は2・8℃、名古屋は2・6℃も上昇した。地球温暖化はこのうち0・7℃だから、都市化の影響の方がはるかに大きかった。

「強い」以上の台風の発生数と全発生数に対する割合の変化
※それぞれ細い実線は経年変化太い実線は5年移動平均を示す
出典:政府報告書「日本の気候変動とその影響」(2018年版)

熊谷市などで、人々がこれまで以上に「猛暑」を感じているとしたら、そのほとんどは、以上のような地球温暖化以外の要因による暑さだ。

白書は豪雨も地球温暖化のせいにしている。

理論的には、地球温暖化に伴って豪雨が増える可能性がある。「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増える」という理論である。これを、クラウジウス・クラペイロン関係と言う。

だが観測データはどうかというと、大規模な水害を引き起こすような「日降水量が100㎜以上」といったまとまった雨についての統計分析では、増加傾向も無ければ、クラウジウス・クラペイロン関係も見出されていない。 仮にこの既往の分析が誤りで、クラウジウス・クラペイロン関係が成立するとしても、その量はわずかである。先ほどと同様、30年間で0・2℃の地球温暖化があったとすると、1・2%の降水量増大となる。500㎜の雨であれば506㎜になるということにすぎない。

不確かな予測は繰り返し登場 データ隠しは国民への裏切り

環境白書が台風、豪雨、猛暑を「温暖化のせいにしている」と書いたが、実際の言い回しは「温暖化の影響がある」など、あいまいになっている。だが、0・2℃とか1%とか数㎜しかないものをこう表現するのは不適切だ。それにこの書きぶりでは、結局、発表や報道では「温暖化のせい」と転じてしまう。「温暖化のせいではない」ないしは「温暖化の影響はごくわずかである」と言うべきだろう。

なお白書には統計データではなく、災害が激甚化するという「予測」が繰り返し言及されている。けれども、この予測は、不確かなシミュレーションに基づくものである。このシミュレーションは、3段階構成になっている。①経済成長によってCO2などの排出が増える、②CO2などの排出によって地球の気候が変わる、③気候が変わることによって被害が生じる―というものだ。だが、いずれのパートも不確かであり、その掛け算としての被害予測はもっと不確かになる。

白書では、50年までに排出をゼロにするという自治体の宣言も紹介されている。「50年ゼロエミッション」は、コロナ自粛以上の経済的負担を意味するだろう。かかる対策に国民を駆り立てるならば、はっきりとした根拠が必要だ。それは不確かなシミュレーションでは不足である。

環境白書は、何よりもまず、観測データを精緻に分析して、なぜ、どこまで対策が必要なのか、読者が検討できるようにすべきである。データを隠すのは国民を愚弄する行為である。 なお本稿についてさらに詳しくは、キヤノングローバル戦略研究所ワーキング・ペーパー(20-003J)「コロナ後における合理的な温暖化対策の在り方」https://cigs.canon/article/20200626_6511.htmlを参照されたい。

高レベル処分地調査に応募 寿都町長は「命懸け」か


北海道寿都町が高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の文献調査への応募を検討していることが明らかになった。

寿都町は町自身が風力発電所を運営している

応募の話が持ちあがったのは今年6月。主要産業である水産加工業が、新型コロナウイルスの影響で打撃を受けたのがきっかけだった。町の財政悪化は深刻で、片岡春雄町長は、文献調査に伴う交付金20億円は財政立て直しに必要と話している。

片岡町長は以前から町財政に危機感を抱き、1989年に自治体としては初の風力発電所を建設している。その後、周囲の猛反対を押し切り、11基・総出力1万6000kWの風力発電所を建設。町自身が運営者となり、年間約7億円の収入を得ている。

寿都町に限らずコロナ不況は地方経済に深刻な影響を与え「西日本も含め2〜3カ所、文献調査を検討している自治体がある」(関係者)。だが強烈な反対運動が起きることは必至で、応募に踏み切るかは不透明だ。

片岡町長は町議会議員や漁協などと意見交換会を開いた上、9月中旬にも応募するか決める方針。町長はかつて、「命懸けでやる」と大規模風力の建設を決断した。文献調査応募も、命懸けで臨む心構えか。

令和最悪のガス爆発事故 原因を巡り関係者間で対立


死者1人、重軽傷者19人―。7月30日、福島県郡山市で令和最悪のLPガスによる爆発事故が発生した。

便利な暮らしは適切な管理の上で成り立っている

事故が起きたのは「しゃぶしゃぶ温野菜郡山新さくら通り店」。地元紙などの報道によると、事故が発生した店舗では7月下旬から改装工事が行われており、29日にLPガスからIH調理器への切り替え工事を実施。翌日午前9時ごろに現場責任者が店に入ると、店内に充満していた漏えいガスが爆発。店は粉々に吹き飛び、周辺184棟の建物で窓ガラスが割れるなど大規模な被害が起きた。

関係者の話によると、事件の1カ月前の6月末にLPガス事業者が点検に訪れた際、ガス漏れの原因とされるガス管の腐食について経営者に報告。だが、経営者は休業中を理由に、修繕をしなかったという。しかも警報装置の電源が切られていたとの情報もある。

一方で、共同通信によると、経営者は6月末にあったとされる報告について「腐食について聞いていない」と主張し、「そもそも点検時に事業者は店内に入っていない」と反論。双方の見解は大きく食い違っており、責任所在の解明には時間が掛かりそうだ。

LPガス関係者は今回の事故について「防災や環境面でLPガスは有効だと業界を挙げてキャンペーンしているこの時期に、こうした悲惨な事故が起きるのは心苦しい」と胸を痛める。

ガス爆発で思い起こされるのは、1970年4月8日に発生した大阪市営地下鉄谷町線の天神六丁目駅の事故や、80年8月16日に発生したJR静岡駅前地下街の事故だ。以来、安全高度化が急進したが、それを管理する側の人間が手を抜いていたら元も子もない。

酷暑の米カ州で電力危機 300万戸対象に計画停電


8月16日に気温が54℃に達するなど、酷暑に見舞われた米カリフォルニア州を電力危機が襲った。エアコン使用などによる電力需要が急増し、供給力が追い付かない状況に陥ったのだ。カ州の送電系統を管理する独立系統運用機関「CAISO」は、系統崩壊を回避すべく夜間の計画停電を実施。300万世帯、1000万人に影響したと見られる。

現地報道によると、地元の電力会社は今回の電力危機の要因について、2基の天然ガス火力発電所がトラブルで稼働停止したことに加え、風力発電が想定通り稼働しなかったことが供給不足を招いたと説明している。隣接する州でも同様に需給がひっ迫している状態で、緊急時の融通を受けることもできなかった。

カ州のギャビン・ニューサム知事は、ほとんど予告なしに計画停電が実施されたとCAISOを非難し停電の調査を要請した。一方で、トランプ大統領が自身のSNSで「民主党はエネルギーの需要に対応できていない」と批判するなど、糾弾の矛先は州政府へも向けられているようだ。

カ州では、2045年までに再エネ100%達成を掲げ、これまでも原子力や天然ガス火力を退出させ太陽光・風力の大量導入を進めてきた。01年の歴史的な電力危機以降、供給不足による広範囲の停電は起きていなかったが、厳気象リスクに備えて予備力をどのように持つべきか、あらためて課題を突き付けられた形だ。 全面自由化を経て、市場原理の導入と再エネシフトに大きくかじを切った日本でも、制度設計次第では同様のリスクにさらされる可能性がある。カ州の事象を他山の石となせるか。

電力「中央集権化」で先祖返り? 系統利用ルール変更の波紋


再エネ主力電源化を掲げる経済産業省は、送電線利用ルールでも再エネ優遇に踏み切った。業界関係者からは、送配電を中心とした中央集権的な電力システムへの回帰だとの見方も出ている。

経済産業省は、非効率石炭火力のフェードアウトと合わせて、送電線利用の先着優先ルール見直しの検討に着手した。電源の限界コストの安い順に供給する「メリットオーダー」を全国で徹底することで、送電線混雑時に後から接続した再生可能エネルギーが、火力や原子力よりも先に出力抑制を受け、不利にならないための措置だ。

再エネ大量導入と供給安定性の両立が求められる

再エネ主力電源化を目指す上では避けては通れないルール変更であり、経済性と安定供給性とどう折り合いを付けるかが課題だ。これについて、再エネ業界関係者は、「風力や太陽光の変動を抑制し安定した出力で供給できるのであれば、再エネ導入のために調整力を大きく増やす必要はない。それを前提にすれば、経済性・環境性の観点から、火力電源と再エネのどちらを先に出力抑制するべきかは明らかだ」と強調。その上で、これを機に、9電力エリア内での系統運用という既存の概念にとらわれることなく、将来の社会的価値創出に資する地域間連系線・地内系統設備の整備、運用制度改革が進むことに高い期待を寄せる。

対照的に、戦々恐々とした面持ちで議論の行方を見守るのは火力発電事業者だ。今回の見直しで非効率石炭どころか、高効率石炭やLNG火力までもが自ら事業計画を作り稼働させることができなくなる恐れがあり、新設電源の場合は投資回収すら危ぶまれる。電力自由化を見据え、さまざまな企業が発電事業に進出したこともあって、影響が及ぶ範囲は非効率石炭フェードアウトの比ではない。

とはいえ、これは突如降って湧いた議論ということでもないようだ。系統利用を巡っては、2018年10月に地域間連系線に「間接オークション」の仕組みが導入され、既に先着優先からメリットオーダーに応じたルールに移行済み。ある新電力関係者は、「この当時、電力広域的運営推進機関の幹部らは、地内への導入の検討も進めると明言していた。いつか爆弾になると思っていた」と、水面下の動きを示唆する。

ノンファームを見直し 経過措置求める声も

接続ルールの見直しは、現在広域機関で検討されている系統増強を伴わずに接続量を拡大する「日本版コネクト&マネージ」の取り組みの一つである「ノンファーム型接続」がベースとなる方向。

これまでの検討では、先着優先の考えに基づき、系統混雑時以外の余裕分がある場合に限り後着者であるノンファーム電源が接続できるとしてきたが、これを、後から入ってくる再エネを先着電源に対しても優先させる仕組みに変えようというのだ。

そうなると、同じ地内系統に接続している既存の火力発電の稼働は再エネの出力次第ということになり、事業の不確実性が高まる。もちろん、現行ルールが継続されることを見込んで計画された新設電源の建設は、暗礁に乗り上げる可能性が高い。

発電事業を手掛ける新電力関係者は、「再エネ導入でメリットオーダーを実現し長期的に社会コストを下げることは不可欠。40~50年経過した発電所が先着優先の既得権益を持ち続けることは確かにおかしい」と、見直しの方向性には理解を示しつつも、「大規模な投資をした事業者が、突然のルール変更で投資回収できなくなるようなことは許容できない。送電線の権利確保にも負担が発生しているので、一定期間は権利を認めてもらう必要がある」と述べ、経過措置の重要性を強調する。

地域間連系線に間接オークションを導入する際には、10年間の経過措置が設けられたこともあり、地内系統についても経過措置が設けられるのか、設けられるとすればどのくらいの期間かが、議論の焦点の一つとなる。

発電事業者の財産権の問題以外にも、地内へのメリットオーダー導入にはさまざまな課題がある。例えば、再エネ拡大に伴う系統の慣性力低下への懸念だ。電力システムの周波数変化を自律的に小さくする〝慣性〟を有する火力などの発電機が供給システムから大規模に抜ければ、発電機や送電線のトラブルなどでグリッドに対する供給力が失われた際、電力システムを安定的に保つことができなくなり、最悪の場合、全域停電、いわゆるブラックアウトに至る。 社会コストが下がるからとメリットオーダーに偏重した議論を進めれば、安定供給に支障が出かねないのだ。7月には、広域機関で「地内系統の混雑管理に関する勉強会」(座長=松村敏弘東京大学教授)が立ち上がり、年内にもこうした混雑管理に関する課題の洗い出しと議論の方向性まとめるべく、検討が始まっている。

BG制度は形骸化? 送配電が一元管理する世界

系統接続のルール見直しで、即影響を受けることになるのが千葉エリアだ。同エリアには、958万kWもの洋上風力の接続申し込みがあり、これに対応するべく、東京電力パワーグリッドが試行的にノンファーム接続の取り組みを進めている。問題は、これだけ大量の風力が地内の基幹系統に接続されたとして、刻一刻と変わる出力の変動に合わせてだれが同時同量を達成するか―だ。

現在は、バランシンググループ(BG)制度の下、自社や他社の契約電源から需要に合わせて電気を供給し、系統運用部門への受け渡し時点までBG単位で同時同量を達成することが求められる。

しかし前出の新電力関係者は、「同時同量計画時の発電予定から大きく変更してでも再エネを大量導入しようというのであれば、BGごとの30分同時同量では電力の安定品質を維持できなくなる」と指摘。送配電事業者が、再エネの出力変動に合わせてエリア内の火力電源に対し稼働指令を出す「パワープール」へと徐々に移行していくだろうと予想する。

それは、送配電事業者を中心とした電力システムの再「中央集権化」にほかならない。今回の接続ルールの見直しは、単なる系統へのアクセスの問題だけにはとどまらず、電力システムを根本から変える破壊力を秘めている。