【業界紙の目】若林利通/新建新聞社 記者
民間では高性能住宅の標準化などが進み、政策面では住宅への省エネ基準義務化も決まった。
2030年度46%減目標のハードルは高いが、官民一体で脱炭素社会を構築する時が迫っている。
住宅業界ではHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)の断熱基準・G2以上の住宅を提案・建築できる工務店・設計事務所が増えている。技術面から脱炭素社会を担うベースはできつつあるが、工務店の意識は脱炭素加速派2割、反対派2割、残りは様子見といった状況にある。
住宅の脱炭素施策はこれまで、省エネ基準の説明義務化にとどまっていた。しかし内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」での東京大学大学院前准教授のプレゼンを受け、同TFを所轄する河野太郎行政改革担当相が国土交通省の脱炭素施策に疑問を呈したことで、流れが変わった。
25年度に省エネ基準義務化へ 家庭部門6割減と整合するか
まず、住宅施策の大本の「住宅生活基本計画」に50年カーボンニュートラルの目標実現のためのロードマップ作成が盛り込まれた。さらに国交省・経済産業省・環境省合同で通称「脱炭素住宅あり方検討会」が開催され、その取りまとめ案で省エネ基準適合義務化と省エネ性能表示制度の導入が示され、この2点については実施が既定路線となった。
7月20日に示された「あり方検討会」の取りまとめ案では、中長期的に50年の目標を新たに「ZEH・ZEB(ネットゼロエネルギーハウス・ビル)基準の省エネ性能を有するストックの蓄積」と記載された一方、30年目標では「新築の住宅・建築物については平均でZEH・ZEBの実現を目指す」と従来案のままとなった。ZEHについては「再生可能エネルギーを考慮しない」「外皮性能と設計一次エネルギー消費量20%削減」(BEI・省エネ性能指標=0・8)のみが明記され、「創エネ抜きのZEH」にとどまった。
既定路線となった省エネ基準適合義務化では、現行の省エネ基準を義務化の水準とする方針で、25年度の実施が盛り込まれた。先駆けて23年度から補助事業や住宅ローン・フラット35で適合を要件化するとしている。
ただし、現行省エネ基準の義務化だけでは中長期目標の達成は不可能なため、誘導基準や長期優良住宅認定基準などの引き上げを経て「遅くとも30年度、誘導基準への適合義務化が8割を超えた時点」でZEH水準に引き上げる考えが示された。既に長期優良住宅は別途検討が始まっており、住宅性能表示制度でもZEH水準の上位等級が創設される見通しだ。
このように「最上位の省エネ水準はZEH」とする3省の取りまとめ案に対し、検討委員会委員の竹内昌義・東北芸術工科大学教授らは、ZEH水準を上回るHEAT20・G2の必要性を訴えている。この指摘については、HEAT20に基づく独自制度を推進する鳥取県の平井伸治知事も「決して高い目標ではない」と支持しているが、3省としては「寒冷地と温暖地では断熱性能の確保によるエネルギー消費量の削減効果に差異が大きい」ことを理由にZEH水準を上限としたい考えだ。
また、太陽光発電については義務化ではなく、「50年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となること」とあいまいな目標だったが、8月10日には指摘を受けて「新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されること」が追加された。
取りまとめ案に沿って対策を進めた場合、50年には住宅ストックの8割近くがBEI=1・0以下(平均0・9程度)になると試算され、住宅対策のエネルギー消費削減量は原油換算で344万klを見込む(再エネを除く)。そのうち新築は着工減の影響などを考慮した結果、現行の地球温暖化対策計画(314万kl)から253万klまでダウンした。
一方、改修による削減量を現行計画の43万klから91万klに積み増すことでバランスを取った形に。ただ、既存住宅の省エネ改修はハードルが高く、ストックの推移、削減量の積み増しともに計画通りに進むのかは疑問が残る。
また、温暖化ガス30年46%削減目標を踏まえた第六次エネルギー基本計画の素案では、30年度に家庭部門のCO2排出量を、13年度比66%減の約7000万tまで削減する目標が掲げられた。しかし7月20日の検討会の取りまとめ案のままでは「66%削減」は不可能な数字で、施策の整合性をさらに追求していく必要がある。
今後については、エネルギー基本計画素案とあり方検討会取りまとめ案、同TFなどの議論を踏まえながら、国交省の社会資本整備審議会で施策内容が議論される予定だ。
脱炭素の鍵握る住宅分野 長野県が先進的取り組み
脱炭素社会を目指す先進的なシナリオとして紹介したいのは長野県の事例だ。
長野県は、建物に関して30年に全ての新築建築物(年間住宅1万2000戸・ビルなど1000棟見込み)でZEH・ZEB化を描いており、その実現に向けた具体策として「仮称・信州型健康ゼロエネ住宅」の普及を目指している。
仙台駅東口に今年完成した木造ビル
このほど示された指針の基準案では、外皮性能についてはZEH、ZEH+、HEAT20・G3の三つの基準があり、基準には外皮性能だけでなく、自然エネルギーや建産材の活用、耐震性の確保、長寿命化、パッシブデザインの採用などの条件が盛り込まれているのが特長だ。構想では50年に新築でパッシブハウス(ドイツパッシブハウス研究所の規定基準を満たす省エネ住宅)相当、既存住宅で省エネ基準を上回る性能へのリフォームを目指している。
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が8月9日に公表した報告書では、「地球温暖化による世界の気温上昇幅は産業革命前と比べ21~40年の間に1・5℃を超える可能性が高い」という。温度上昇で予想される極端な高温や大雨で被災する人の多くは社会的な弱者だ。脱炭素社会を一刻も早く実現するために、官民一体となった適切な目標設定と、実現に向けた具体策を期待したい。
〈新建ハウジング〉〇1995年3月創刊〇発行部数:1万8000部〇読者層:工務店・住宅会社、建材メーカー・販売、建築設計事務所など