【記者通信】米イランが戦闘終結へ覚書 ホルムズ暫定開放も最終合意は不透明 ※期間限定無料公開

2026年6月18日

トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領は6月17日、ホルムズ海峡の期間限定無料開放など14カ条からなる戦闘終結に向けた暫定的な覚書に電子署名した。米ニュースサイト「アクシオス」によると、これにより覚書は発効。バンス副大統領、ガリバフ国会議長の両氏が19日にもスイスで会合を開き、核放棄や対イラン制裁の緩和などを巡る「最終合意」を目指し60日間の交渉に入るとみられる。

ただ、問題を先送りした今回の合意を巡っては早速、身内の共和党内から「対イラン軍事作戦によって得られた成果を手放すものであり、大統領の目標と完全にかけ離れている」(ウィッカー上院軍事委員長)、「イランの核開発の野望は抑えられず、ホルムズ海峡を脅かすことが有効だと学んだ。今後間違いなく武器として活用するだろう。ここ数十年で最悪の外交政策上の失策だ」(カシディ上院議員」などと批判が噴出。さらに最終合意に向けても「レバノンへの攻撃を続けたいイスラエルが全てをぶち壊す可能性がある」(大手一般紙記者)と厳しい見方が出ている。これに対し、トランプ氏は18日、SNS上で「株式市場が史上最高値を更新し原油価格が暴落するなか、私がイランに十分に厳しい姿勢をとっていないと考える愚か者たちは嫉妬しているか、悪い人か、ばかのどれかだ」と反論した。

米政府が明らかにした覚書の詳細は次の通り。

①両国および各同盟国はレバノンを含む全戦線での軍事作戦を即時・恒久停止し、武力行使や威嚇(いかく)を控える。最終合意で全戦線における戦闘の恒久停止を確定する。

②相互の主権と領土保全を尊重し、内政干渉を控える。

③最大60日以内(双方同意で延長可)に最終合意に向け交渉・妥結する。

④米国は署名後直ちに海上封鎖の解除に着手し30日以内に完了する。期間中の船舶航行数は戦前の水準に比例させる。最終合意後30日以内に周辺から米軍を撤退させる。

⑤イランはペルシャ湾・オマーン湾間の商船の安全通航を60日間に限り無償で確保すべく最善の努力を尽くす。商船の航行は直ちに開始され、技術的・軍事的障害の除去や、イランによる機雷除去の必要性を考慮し、30日以内に確立される。オマーンや他の湾岸諸国と議論してホルムズ海峡の将来の管理などを定義する。

⑥米国はイランの復興と経済開発のため、地域パートナーと共に少なくとも3000億ドル(約45兆円)規模の計画を策定する。実施メカニズムは60日以内に最終決定し、金融取引に必要なライセンスや適用除外措置、許可は米国が付与する。

⑦米国は、国連安全保障理事会決議や国際原子力機関(IAEA)理事会決議、全ての米国の一方的制裁を含む、全ての対イラン制裁を最終合意の日程に従い解除する。イランと米国は制裁解除の問題が極めて重要であることを認識し、相互合意を達成するため、交渉においてこれらの問題に直ちに取り組む。

⑧イランは核兵器を調達・開発しないことを再確認する。米国とイランは備蓄濃縮物質の処分について、第7項の日程に従い、相互に合意される仕組みに基づき解決することで合意した。最低限の手順として、IAEA監督下で現地において低濃縮化を行う。将来の核のニーズや濃縮問題などの重要事項についても、最終合意で定める枠組みに基づき協議する。

⑨最終合意まで現状を維持する。イランは核計画の現状を維持し、米国は新規制裁や追加部隊の派遣を行わない。

⑩署名直後から制裁解除まで、米財務省はイラン産原油・石油製品の輸出や、銀行取引・保険・輸送などの関連サービスに適用除外措置を発行する。

⑪本覚書の実施に伴い、米国は凍結または制限されている資産や資金を完全に利用可能にする。

⑫本覚書の履行と最終合意の順守を監視するメカニズムを確立する。

⑬署名後、第1・4・5・10・11項の実施開始と継続を条件として、その他の項目についてのみ最終合意の交渉を開始する。

⑭最終合意は法的拘束力のある国連安保理決議で承認される。

依然として残る火種 「イラン有利の覚書」の声

合意署名を受け、ペルシャ湾内に滞留している船舶が続々とホルムズ海峡に向かい始めているもよう。すでに、日本のタンカーなどが通過したとの情報もある。ただ60日という期間では、新たにタンカーがペルシャ湾内に入り、石油やLNGなどを積み込んで湾外に輸送するのは難しい状況だ。今のところ原油価格は下落基調を強めており、WTI先物は17日午後9時現在1バレル当たり75.1と3月初旬以来の水準に。日経平均株価は終値が7万1053.49円と終値としては初の7万円を超え、4日連続で最高値を更新した。一方、円相場については、有事のドル高が解消に向かうとの予想に反し、1ドル160.8円と円安が進んでいる。

今回の合意で石油供給が持続的に正常化するかは、見通せないのが現状だ。覚書では、イランがホルムズ海峡の安全な商船の通航を「60日間に限り無償」で実現する措置を取るとしているが、ガリバフ氏は60日間の期限が過ぎた後、イランはホルムズ海峡を通過する船舶に通行料を課すと言及。またトランプ氏も、合意を受けてホルムズ海峡の通航量が大幅に増えているとする一方で、イランが合意を尊重しなければ再び爆撃すると警告している。

日本最大の物流ニュースサイト「ロジスティックス・トゥデイ」では、〈サプライチェーンにとって本当の正常化とは、船が一隻通過することではない。保険会社が料率を下げ、船主が湾岸へ戻り、銀行が決済し、港湾が貨物をさばき、荷主が安全在庫を減らせる状態になることだ。MOUは30日以内の封鎖解除と通航回復に向けた作業、60日間の無償通航、原油・保険・輸送・銀行取引への適用除外(waiver)を定めた。しかし61日目以降のサービス料、機雷除去、戦争危険保険、制裁コンプライアンスは残る〉と報じている。

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、〈60日後に最終合意が決裂するのを前提と仮定すると、船舶の通航については、要するに「あくまで一時的(30日後開始で60日後まで?)に無料でイラン管理下で開放。その代わりイランも米軍封鎖なく石油輸出できる」ということ〉〈今回の覚書は、とにかくホルムズ開放を優先したい米が、イランを合意させるために圧倒的にイラン有利な内容の文章に。これでイランは大勝利と自賛できる。ただし、実際にはイランが米国の要求に応じないと履行されない項目だらけで、そこは画に書いた餅〉〈覚書では「60日間無料」とだけ書いてあって、具体的に何が無料か書いてない点。こういうのは屁理屈競争みたいなところがあって、イランが「通航料は無料だが、安全管理には経費かかるのでその代金まで無料とは書いてない」とか言い出す可能性もあるのではないかな〉などと、SNSに投稿している。