水素・燃料電池分野で山梨大学と県、民間が連携し、産業集積に力を注ぐ。
山梨大では産官学連携の専門部署をつくり、地域振興への貢献を目指す。
水素活用に注力する自治体の中で、山梨県は一歩抜きん出た存在だ。パワーtoガス(P2G)でのグリーン水素製造の共同実証など、先駆的な取り組みが進む。その背景として、山梨大学が1960年代から燃料電池研究にいそしみ、世界的パイオニアとして知見を蓄積してきたことが寄与する。
そんな実績ある山梨大で特任助教を務める稲垣有弥氏は、山梨の「水素・燃料電池バレー」を目指し、大学のシーズを生かした地域活性化の研究に取り組む。経済産業省が昨年末、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた政策議論をけん引するメンバー発掘のために立ち上げた「若手有識者研究会」委員にも名を連ねる。
研究者としては、やや異色の経歴を持つ。大学時代、美しい山並みに代表される山梨の地域資源に惹かれたことがきっかけで県庁に入庁。産業振興に携わりたいと考え、特に分散型エネルギーでの地域活性化に興味を抱いた。そうした中、資源エネルギー庁水素・燃料電池戦略室への出向を打診され、2年間国策に従事するように。予算づくりや水素基本戦略の策定、水素閣僚会議を立ち上げから担当するなど、中身の濃い期間を過ごした。稲垣氏は「エネ庁時代に予算折衝に備えて水素・燃料電池の技術的知識を深めることができ、かつ公的資金の仕組みや政策の勘所を押さえられるようになった。この経験が今のキャリアに役立っている」と振り返る。
研究成果の実装を重視 国と地方目線のギャップも
現在所属する山梨大の水素・燃料電池技術支援室は、関連産業の集積と育成を目指し15年に発足した産官学の「水素・燃料電池ネットワーク協議会」の中で大学側の窓口を担う部署だ。研究成果を実装までつなげることがテーマで、県内企業と新技術のマッチングや、新規事業立ち上げ支援などを行う。21年度までは文部科学省事業で、大学のシーズを活用して県内3企業が関連製品を製造。その後は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業で引き続き技術開発を進めている。「ネットワーク協議会内では、県企業局がP2Gでの水素燃料製造を行うのと同時に、大学と県内企業で水素を使うデバイスを開発している。地域で水素を身近な存在にするためのインフラ整備をどう進めるかがポイントになる」(稲垣氏)
ただ、政府と地方の目線は異なる。国策では大規模かつ効率的なインフラ整備を志向するが、地域レベルでは小型ボンベなどを使ったサプライチェーンの必要性も感じている。「小型インフラでも各地に広まればCO2削減効果などがチリツモ的に大きくなる。こうした意義を広く説明して官民の協力を得ながら、地方目線の取り組みを産業振興にうまくつなげていきたい」(同)
GX(グリーントランスフォーメーション)戦略も動き始める中、政府と地方、そして地域内のステークホルダーをつなぐ要諦を、今後も担う考えだ。
