【論考/3月21日】「米国第一」を日本の主体性回復の機会に


第2次トランプ・米政権は「米国第一」を掲げて登場した。自国優先の主張は、裏返せば国力の限界に対する強い感覚の表明である。国際秩序維持への米国の関与に優先順位を付け直し、それに応じて同盟・友好国に応分の責任分担を求め、共通の脅威に対する備えを再構築することが、その基底にある考え方であろう。換言すれば、他の同盟諸国が積極的により大きな役割を担わなければ、「米国第一」は成り立たない。この意味で、本来「米国第一」の成否は、新たな国際秩序に向けて、同盟・友好諸国とより率直で緊密な協調関係を築くことに掛かっている。自国の国力の限界、という認識から始める以上、多国間協調の重要性がむしろ強まるのが、当然なのだ。同盟諸国にとっても、これは本来、過剰な対米依存を脱して、自国・地域の主体性を回復する機会である。米国の負担軽減に合わせ、自国の役割と影響力を強化し得る。

乱脈な米外交政策

しかし、目下のところトランプ政権は、理不尽な施策を傍若無人に、とりわけ同盟・友好諸国に対して次々に押し付けている。国力の限界を前提とする「米国第一(America First)」を、「米国最強(America as No.1)」と言わんばかりの姿勢で追求する自己矛盾に陥っている。

パナマ運河奪還、グリーンランド買収、ガザ地区の「所有」とパレスチナ住民の追放などの無軌道なトランプ大統領発言。中国に加え、自国の自由貿易協定国であるはずのカナダ、メキシコに対する高関税。さらには各国一律に鉄鋼・アルミ製品関税を発動、4月には自動車、相互関税も課す動きにある。

対中国追加関税は既に2次に及び、対カナダ、メキシコ関税は期日直前に1カ月延期。結局3月4日に実行に移すと、その2日後には自動車を含む米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)適合品目全般を4月2日まで除外、と方針が二転三転する。

ロシアのウクライナ侵略に関しては、2月中旬にウクライナ及び欧州の頭越しにロシアと停戦交渉に入り、国連ではロシアによる全面侵略を明記しウクライナの主権・領土保全をうたった総会決議を棄権。代わりに安保理で紛争の早期終結のみを求める、実質的にロシア寄りの決議案を提出、可決させた。トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領を公然と「独裁者」と呼び、ウクライナの重要鉱物資源の権益譲渡を支援の見返りとして要求。2月末の両者による首脳会談が報道陣の眼前で決裂した数日後には、ウクライナへの武器・軍事機密情報供与を中断。これは3月11日にウクライナが米提案の停戦案を受諾して再開されたが、この間にロシア軍は同国西部・クルスク州での軍事的優位を一気に強めたと報じられている。

同盟諸国に広がる対米不信と危機感

同盟諸国は米国への不信・警戒を強め、対抗・対応措置を取りつつある。カナダは段階的な対米報復関税を発動。オンタリオ州政府も独自で米向け電力料金の上乗せを決め、これはその翌日に米側の再報復措置ともども回避されたが、同州からの対米電力供給遮断にまで発展する危険もあった。トルドー元首相はトランプ大統領が本気でカナダ併合を狙っているとまで発言。カナダが米国を脅威として身構える、異常事態である。EUも段階的な対米報復関税を発動。今やカナダとEUは、中国と同様に対米報復に立ち上がる側にいる。

トランプ政権の目論見がどうであれ、米国が課す広範な関税は国内物価を押し上げ、また各国の報復関税は当該品の輸出を阻害して米国の生産者に打撃を与える。それが顕在化するのは時間の問題であり、不満が政権支持層にまで広がれば、稀代のポピュリスト政治家トランプ氏であるだけに、高関税政策を一気に取り下げる展開も十分あり得よう。しかしそれまでの間、米国と同盟諸国との間の相互不信は一層深まる。

ウクライナを巡り、トランプ政権はロシアによるクリミア併合を既成事実として容認する姿勢を取る。米露間の協議も、大筋でロシア側の要求する東部4州併合の容認、ウクライナの中立化及び非武装化の方向で、進められると観測される。事実、3月18日の米露首脳電話会談でも、停戦合意は対エネルギー施設に限られ、交渉の主導権がロシア側にあることを伺わせた。いわばウクライナが米国に公然と見捨てられつつあり、欧州の受ける衝撃は大きい。

3月6日、欧州理事会(EU首脳会議)はフォンデアライエン欧州委員長による「欧州再軍備計画」を概ね承認。これはEU財政ルールの特例を発動してまで約8000億ユーロの防衛費確保を図るもので、声明では「変動する環境下に於ける、ロシアによるウクライナ侵略戦争とその欧州および世界の安全に対する影響」をEUの存亡に関わる問題と規定している。これに符合して、3月18日にはドイツ連邦議会が防衛費の大幅増額を目的に、「債務ブレーキ」を緩和する憲法改正案を可決。次期首相就任が確実視されるメルツ・CDU党首も、欧州の「米国からの独立」を漸次目指すとしている。

【目安箱/3月19日】洋上風力つまずき打開の鍵を握るのは?


三菱商事を中心にした洋上風力事業が2月に巨額の損失を発表した。これを救済するのは公的支援の充実だが、それを左右する民意が再エネに冷たくなっている。再エネビジネス全体の環境も厳しい。状況を打開できるのだろうか。

◆三菱商事が巨額特損を発表

政府は2021年12月に3カ所の海面、170万k Wの設備容量での洋上風力事業者の入札結果を発表した。最初の政府管理の海面での風力事業を許可した案件だ。ラウンド1(R1)案件と言われる。三菱商事を中心とした企業コンソーシアムが3カ所を総取りし、注目を集めた。

ところが今年2月6日に三菱商事は第3四半期決算を公表し、この事業で522億円もの特別損失を計上すると明らかにした。グループ企業が加わる中部電力も3日、洋上風力関連で179億円の特別損失を計上した。

三菱商事の中西勝也社長が、この決算発表の記者会見に自ら出席した。同社長が役員時代から育てた同社のエネルギーグループの最重要案件であり、会社として取り組むメッセージの意味を持たせるために自分で説明しようとしたのだろう。しかし会見で中西社長は「インフレ、コスト増加が押し寄せてしまった」と不可抗力を理由にし、「事業性を再評価」と繰り返した。その結果、この会見で事業の先行きの不透明さが目立ってしまった。記者やアナリストは同社の対応に批判的だった。しかし同社は業績全体が悪くないことから、何とか株価は持ち直している。

◆逆風が吹く再エネ、支援策は遅れ気味

政府は再エネを脱炭素の電源として重視している。2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、現在の電源構成で約2割を占める再エネを、2040年度に4〜5割まで増やす目標を掲げた。その時の再エネのうち半分強が洋上風力になることを期待している。今は少量の洋上風力を、30年10 GW(1GW=100万kW)、40年には浮体式を含め30~45 GWの案件形成を図るとの数値目標も出た。

ところが、再エネに逆風が吹いている。欧米先進国を中心に、インフラ産業、重要産業において太陽光・風力・蓄電池の製造を担う中国外しの動きが広がる。その影響で、風力をはじめ、再エネのサプライチェーンが混乱し、各国で機器の値段の上昇や納期遅れなどの問題が生じているのだ。トランプ米大統領とその政権は、洋上風力の開発の見直しを指示するなど、風力や再エネに冷たい。

中西社長の歯切れが悪かったのは、R1事業の再建策が政府の意向次第であるためのようだ。洋上風力の最初の大規模案件であるため、政府は失敗させたくない。この事業の収益の方法は固定価格買い取り制度(FIT)に基づくものだ。報道によると、政府はそれを市場販売の際の補助金を受け取るFIP(市場連動価格買い取り制度)方式への変更を検討している。また売電価格で物価変動を考慮する方法も考えている。しかし与党の政治家らの反応は鈍く、まだ3月初頭時点で方向は定まらない。

◆再エネに冷たい国民、選挙前に逃げる政治家

関係筋によると、このR1では政治の支援の動き、特にこれまで再エネを支援してきた自民党の動きが鈍い。このR1の入札後に賄賂をもらって制度変更の工作をしたとして秋本真利衆議院議員(当時)が逮捕され、現在、受託収賄で起訴されて公判中だ。

さらに再エネ振興に熱心だった衆議院議員の河野太郎、小泉進次郎両氏の国民的人気が陰り気味だ。一議員の時は再エネ振興と脱原発を唱えた石破茂首相も、エネルギー政策で自発的に動かなくなった。

この洋上風力を支える原資は電力料金に加え、料金から徴収される再エネ賦課金だ。ここ数年のエネルギー価格の上昇を背景に、高い電力料金を嫌がる声が、負担する電力利用者である国民や企業に広がっている。2024年度の再エネ賦課金の総額は約2兆6897億円と巨額だ。国民民主党や新興勢力の日本保守党、参政党がその巨大な負担を問題視している。25年夏には参議院選挙もある。政治の動きが鈍くなったのは、再エネに冷たくなった民意が影響していそうだ。

◆「お客様に救われた」、あるネット証券元幹部

あるネット証券の経営者の知人がいる。この人はネット証券大手の番頭格だった人で、カリスマ社長の下で1990年代のネット証券の草創期から関わった人だ。ビジネスを今は引退している。母がR1で沖合に洋上風力の作られる銚子出身で、同地に親族が多いという。

ネット証券業界も、この会社も、何度も危機に直面した。しかし、この人は「お客さまに救われた」という。当初はネット証券に証券業界が敵意を持って妨害し、大蔵省(当時)など規制当局も冷たかった。ところが顧客がネット証券の安さ、手軽さを支持した。すると取引の低迷に悩んでいた証券業界も当局も意見を聞き、協力するようになったという。

「洋上風力に、状況を動かし、応援してくれる『お客さま』がいるだろうか」とその人は指摘した。これは政府の意向次第のビジネスだ。「地元銚子も、補償金のもらえる漁協と一部の建設会社以外、洋上風力への歓迎は弱い。お金が地元に落ちないからだ」という。「再エネは補助金が絡む一種の官公庁ビジネス。問題が起きても機動的に動けない」と心配する。

確かに、この洋上風力ビジネスには「お客さま」と言える、このビジネスで利益を得て費用を負担する多くの受益者の存在が見当たらない。さらなる負担や制度の事後的変更を、原資を出す有権者でもある電力ユーザーが納得するだろうか。エネルギー業界は消費者と長年向き合い、特に電力は原子力問題で世論からこの10数年厳しい批判を集めた。そのために民意との向き合い方、そのビジネスへの影響の怖さを知っている。しかし企業向けのビジネスの多い三菱商事、また原子力と違って批判がなかった経産省、国土交通省の再エネ部門は、この事業が暗転するまで、その民意を考える機会が少なかっただろう。今から、この事業や洋上風力の必要性を国民全体に説得するのは大変だし、政治家や有権者に好意を持ってもらえるだろうか。

◆受益者の声を聞いて制度と事業の再構築を

再エネの中で、洋上風力は日本で伸びしろのある領域だ。しかし目先の事業環境は厳しい。どうしても再エネや洋上風力を増やさなければならないという発想を離れ、これら社会での受け入れられ方を、関係者で考えることが必要ではないだろうか。そこでの問題解決の鍵は、電気を使う消費者の意向をどのようにビジネスと制度に組み込むかだろう。

再エネを整理し、無理に拡大しないという方向が現時点で、社会状況、合理性、そして民意に沿った結論であると、私は考えている。民意の支えのない国の事業には限界がある。そして三菱商事と国のこの事業の再設計も、その方向の中で解決の道が見つかるのではないかと思う。迂遠に見えるかもしれないが、「急がば回れ」だ。

【SNS世論/3月18日】第7次エネ基を巡る反対キャンペーンの失敗


日本政府は、エネルギー政策の方針を示す第7次エネルギー基本計画を2月18日に閣議決定した。これに活動家、環境派は反対キャンペーンを熱心に行った。しかし、それは大きな力にはならず、政府の方針を覆せなかった。SNSを観察すると、この結末は予想できた。

◆現実的になったエネ基

第7次エネ基では、原子力発電の活用、経済安全保障などへの配慮が増えた。さらに、2021年に策定された第6次計画まで記載された「(原子力の)依存度を可能な限り逓減」という文言が消えた。また温室効果ガスでは、2035年度に2013年度比で60%、40年度に同73%削減して、50年度にカーボンニュートラルを目指すとしている。

SNSを観察すると昨年12月にエネ基の原案が出てから、賛成、反対の世論は盛り上がらなかった。世論を「リベラル」「保守」と2分類で単純化すると、X、LINE、Facebook、インスタグラムなど、日本で流行するSNSでは、やや保守寄りの言説の量が多いように思える。日本では既存メディアがリベラルに傾いており、その反発のためだろうか。日本の保守の傾向は、エネルギーでは原子力活用で、エネルギー自由化と再エネ、そして過度な気候変動への対策には否定的だ。当然、このエネ基の方針転換を歓迎した。

それよりも大多数の国民にとって、エネルギー・電力価格の高騰で、現実にダメージを受けている。そして政治的な側面からのエネルギー問題には中立だ「あるサラリーマン」とXのプロフィールに書いていた人は、そこでエネ基の原案発表直後に「原子力を使い、電気料金が下がればいい」と感想を述べていた。「石破内閣支持41%、5ポイント低下 原発活用「賛成」55%-日経世論調査」(2024年12月22日)など、世論に原発への感情的な拒否は近年なくなっている。だからこそ政府も政策を切り替えたのだろう。

◆反原発、気候正義、双方からの批判

ところが、この計画は反原発の立場の人、「気候正義」論を振りかざし強い温室効果ガスの排出規制を唱える環境運動家には不評だった。

反原発運動の「老舗」である原子力資料情報室は批判する図表をSNSで流し続け、彼ら主催のセミナーやデモに呼び込もうとした。また海外NGOの支部のFoEJapanは、若い大学生の短い映像を、XやTikTokで流し続けた。この2つのSNSを見ると、反原発運動や環境運動で、活動家の中心世代が変わっているようで興味深い。

2つの団体はSNSでの発信を、YouTubeのコンテンツに誘導し、パブリックコメントの提出やデモの参加を呼びかけていた。しかし彼らのXの閲覧数を見ると、多くて1000程度。YouTubeの視聴回数もその程度だった。SNSやネットコンテンツでは、それほど多いとは言えない数だ。

今回のエネ基では、パブリックコメントの数は4万1000を超え、過去最高という。反原発を掲げる朝日新聞は、それを根拠に「エネ計画、原発回帰鮮明」(25年2月19日)という記事で国民の批判が多いと強調した。

しかし興味深い報道もある。毎日新聞の同20日の記事「パブコメ、46人が3940件 エネ基 AI利用か 全体1割」によると、少数者が大量に意見を提出し、1人が457件を投稿する例もあった。民意の実態は怪しい。活動家が組織的に動いた疑いがある。このSNSの活動と連動していたのであろう。

しかし、それらは無理に作られたもので、国民全体の世論のうねりとはならなかった。

◆世論の関心は価格、政治主張は好まれず

東京電力福島第1原発事故の後で、世論は原発に懐疑的になった。しかし近年はウクライナ戦争、中東の動乱など国際情勢やエネルギー供給の先行きが不透明になった。米国では気候変動対策や米民主党の「グリーン・ニューディール」を否定するトランプ政権が誕生した。

賢明な日本人の多くは、脱原発よりバランスの取れたエネルギー供給体制の構築が今は必要と気づいている。また気候変動への対策は必要と理解しながら、非合理的な負担を馬鹿馬鹿しいと考えている。

前述のSNSのように、エネルギー問題で一般の人には「価格」が重要な論点だ。政治主張にはあまり関心がない。それなのに、活動家やメディアが、反原発や気候変動に固執する。これでは人々の共感は得られない。

世論の指示がない政策づくりは、民主主義国では難しい。今回、活動家界隈のキャンペーンは成功とはならなかった。それはSNSがすでに伝えていた。そして一時的なSNSの発信だけでは民意は作れなかった。

◆世論の雰囲気を示すSNSをしたたかに活用

一般国民に、新聞・メディアへの不信が強まっている。兵庫県知事選、ジャニーズ問題などでは、報道と逆の方向に民意は動いた。SNSだけが、物事を決められるわけでも、世論を作るわけではない。しかし、そうした世論の動向を探る有効なツールである。

既存メディアや政治家は、敵意を持ってSNSを攻撃する。確かにSNSに流れる情報は危うさがある。しかし、それをしたたかに活用するのが、エネルギー関係者がするべきことだろう。

この10年、福島原発事故以降、エネルギー業界は、世論と一部の人が唱える怪しげなものに振り回され続けた。それを観察する手段としてSNSを活用するべきだ。エネ基をめぐりSNSは、活動家の作り出そうとした混乱が失敗するであろうことを事前に教えていた。

【目安箱/3月18日】エネルギーでもう一歩踏み込んでよかった日米首脳会談


石破茂首相が米国を訪問し、2月7日にトランプ米大統領と会談した。首相自ら、そして政府・自民党関係者は成功と繰り返す。ところが通訳を入れた会談時間は30分と報道され、あまり深い話し合いはできなかったようだ。そしてトランプ大統領が関心を示したエネルギー問題について、もう少し日本側は積極的に話し合ってもよかったのではないか。

公開されている「日米首脳共同声明」では米国から日本への液化天然ガス(LNG)の輸出が強調されていた。また原子力での提携も言及した。以下がその部分だ。

「両首脳は、米国の低廉で信頼できるエネルギー及び天然資源を解き放ち、双方に利のある形で、米国から日本への液化天然ガス輸出を増加することにより、エネルギー安全保障を強化する意図を発表した」

「先進的な小型モジュール炉及びその他の革新炉に係る技術の開発及び導入に関する協力の取組を歓迎した」

ただし両者の関心が少し違う。トランプ大統領は、天然ガスだけではなく石油もあり、アラスカの石油・ガスを開発すれば米国はサウジアラビアに匹敵する生産量になる、と言及した。

石破首相は、石油に特に触れず、天然ガスに加えて、アンモニアとエタノールの輸入があると言及した。これに対してトランプ大統領は、エタノールはアイオワ州の農家などが供給できると述べたが、アンモニアについては触れなかった。

また両首脳は、記者会見、共同声明で気候変動問題には触れなかった。米国は第二次トランプ政権になって気候変動対策の対策を各国に定めるパリ協定を脱退しているが、両国の政策が違うので、あえて触れなかったのだろう。

日本は米国に1兆ドルの投資をするとも石破首相は会見で述べた。もちろんこれは日本の民間を中心にする投資でどこまでできるか不透明だが、トランプ政権が化石燃料の採掘エネルギーシフトを鮮明にしている以上、エネルギーインフラ作りに使われるだろう。

◆日本の「成功した」との自称は本当か?

首脳会談ではトランプ大統領の石破首相へのよそよそしさが目立った。安倍晋三元首相とトランプ大統領は深い交際で知られた。それとは対照的だった。一般の人々の意見を映すネットの書き込みでは、そのために「うまくいかなかった」との評価もある。しかし日本側に大きな失点はなかったようにも思える。

ただしトランプ大統領が「エネルギー輸出に関心を持っているので、その話を盛り上げた方が良かった」と、筆者の周りのエネルギー関係者は残念がる。安倍政権から岸田政権まで、エネルギーに詳しい政治家や経産省関係者が政権の中心にいた。しかし石破政権にはそのような人が見つからない。そして石破首相は個人的に、エネルギー問題にそれほど関心ないようだ。

トランプ大統領は1月の大統領就任演説で、「エネルギー非常事態宣言」を行い、インフレを止めるために化石燃料の活用、さらに化石燃料を「地下に眠る黄金」と呼び、その採掘と活用、輸出による米国と米企業の利益確保を呼びかけた。それほどまでエネルギーにトランプ氏の関心があるのだから、石破首相は応じた対応をしてもよかった。

日本は今、政治的に不安定な中東にエネルギー輸入が偏在している。さらにその輸入は、日本と政治的に対立する中国が軍事的存在感を増す南シナ海、東シナ海を通る。もちろんエネルギーの輸入の増加は簡単にできるものではない。しかしこの問題で、将来の布石として、現在の米政権や米国民との関係強化の提案を行えたのではないか。米国からのエネルギー輸入を実現する調査や、また米国が増産に努める植物由来のエタノールの輸入や日本でのエネルギーへの導入などを話すべきだったと思う。

◆脱炭素か、米国産化石燃料の使用か

そして、ここで問題がある。日本のこれまでの脱炭素政策と、日本が米国産の化石燃料を利用する政策は明らかに矛盾を生じる。日本政府は第7次エネルギー基本計画を2月に閣議決定した。同案では2013年比で2035年にCO2を60%減、50年にCO2ゼロという脱炭素目標が書きこまれている。バイデン政権の時には、米国も2050年CO2ゼロと宣言していた。しかし、トランプ政権がその目標をなくしたため、日米は全く違う方向になっている。

ここで、日本は脱炭素・気候変動対策と、米国の化石燃料の使用という二つの政策の間の優先順位を決めなければならない。

実は答えもこの共同文書に事実上書き込まれている。今回の日米共同声明では、「自由で開かれたアジア太平洋」を護るための協力を深化することに、もっとも言及量を割いてあった。これは対中国への安全保障政策を、米国と日本は協調して進めるということだ。安倍晋三政権と第一次トランプ政権の方針を、石破政権も継承した、ということである。

当然、エネルギー政策も、その大きな戦略の中の一環になる。米国からの資源調達は、その同盟と協力関係を深めることになる。また米国からのエネルギー調達を増やせれば、日本の海上交通線の敵国からの攻撃リスクを減らすことになる。

その大きな決断をしたことを、石破首相と官僚たちは分かっているのだろうか。曖昧というのは賢明な態度と思っているのかもしれない。しかしそれは国策に将来矛盾になるかもしれない。

◆今すぐ、政策の矛盾を洗い出せ

イタリアのルネサンス期の思想家ニコロ・マキャベリは次のように中立政策を批判する。

「断言してもよいが、中立を保つことは、あまり有効な選択ではないと思う。中立でいると、勝者にとっては敵になるだけでなく、敗者にとっても助けてくれなかったということで敵視されるのがオチなのだ」

(「君主論」から、「マキャベリ語録」新潮社、塩野七生訳)

日本と米国は同盟という関係だが、その中のエネルギー問題への姿勢は「中立」といえるように曖昧さを残す。そのような態度は、米国からも、気候変動政策を強く進めるEU(の中の一部の国)とも、おかしな関係を生んでしまう可能性がある。

いうまでもないが、日本の今喫緊の課題は米国との協調によって、日本周辺の東アジアでの中国、その関係国であるロシアや北朝鮮の暴発を止めることである。そしてそれは日本国民の安全を確保し、大多数の国民から支持をされる政策だ。その中の一部としてのエネルギー政策を活用してほしい。日本に対してだけではなく、米国が世界中の同盟国・友好国に対してエネルギーを供給することは、中国に対抗する重要な手段となる。その値段が安く、安定供給されれば、日米共に利益になる。

石破政権はこの会談の結果について、「成功」と怪しげなPRをすることよりも、もっとするべきことがある。脱炭素政策と、米国のエネルギーを活用する政策の衝突点を洗い出し、安全保障の目的に則して政策を修正することだ。

そして米国の信頼を繋ぐために、日本の利益のために、もう一歩踏み込んだエネルギーの提案をするべきだった。今からでも新提案はできる。

【記者通信/3月6日】福島事故巡る刑事裁判 旧経営陣の無罪確定へ


最高裁判所は3月6日までに、2011年の福島第一原発事故を巡って東京電力の旧経営陣3人が業務上過失致死の罪で強制起訴された裁判で、裁判官全員の意見一致で上告を退ける決定を出した。10mを超える津波の予見性を認めなかった1審、2審判決を支持。これにより、元副社長2人の無罪が確定した。勝俣恒久元会長は昨年10月に死去し、起訴が取り消されている。

福島事故を巡って東電や旧経営陣が被告となった裁判は、①刑事裁判、②民事裁判(株主代表訴訟)、③民事裁判(住民集団訴訟)──の三つに分けられる。

今回、判決が確定したのは①刑事裁判で、検察の不起訴処分が妥当だったかどうかを審査する検察審査会の議決による強制起訴で始まった。福島事故後、検察は福島県の住民らから告訴状などの提出を受けたが、13年9月に不起訴の判断を下していた。しかし14年7月、検察審査会が経営陣3人について「起訴すべき」と議決。その後、再捜査を行った検察は再び不起訴処分としたが、15年7月に検察審査会が再び同様の議決を下した。2度の議決を受けたことで、旧経営陣3人は強制起訴された形だ。

争点となったのは、震災前の02年に国の機関が公表した予測「長期評価」の信頼性だった。1審と2審は、前書きに「誤差を含む」「利用に注意が必要」などの記載がある点や首相を長とする中央防災会議の報告に盛り込まれなかったことなどから、東電側が10mを超える津波を予測できなかったとして無罪を言い渡していた。

6月に株主代表訴訟の高裁判決

一方、旧経営陣の民事上の責任を問う②株主代表訴訟は、東京地裁が22年7月、今回の刑事訴訟と異なり、旧経営陣4人に13兆3210億円を支払うよう命じた。現在、東京高裁で控訴審の審理中で、今年6月に判決が言い渡される見通し。刑事と民事で異なる判断が出ている状況が覆されるのか注目される。

住民が国や東電に賠償を求める③集団訴訟では、最高裁が22年7月、東電の賠償責任は認めたが、国の責任は認めないとする判決を出した。原子力損害賠償上が事業者の無過失・無限責任を規定しているためだ。原子力の最大限活用に向けては、原賠法の規定見直しを求める声も多い。

【メディア論評/3月5日】第七次エネ基などを巡る報道を読む〈下編〉第七次が示した多くの課題


地球温暖化対策計画は、2050年カーボンニュートラルに向けて温室効果ガスを35年度、40年度において、それぞれ13年度から60%、73%削減することを目指すとした。一方、第七次エネルギー基本計画では、「40年に向けた政策の方向性」として、大きく「需要側の省エネルギー・非化石転換」と「脱炭素電源の拡大と系統整備」などに分けて論じられ、後者に関する項目は多岐にわたる。

●脱炭素電源の拡大と系統整備

・再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス)

・原子力発電

・火力発電とその脱炭素化(LNG火力、石炭火力、石油など火力)

・次世代電力ネットワークの構築(電力ネットワークの増強、系統・需給運用の高度化)

●次世代エネルギーの確保/供給体制(水素、アンモニア、合成メタンなど、バイオ燃料、合成燃料)

●化石資源の確保/供給体制 (天然ガス、石油、LPガス、石炭)

●CO2回収・有効利用・貯留

高い削減目標のために掲げられた各ジャンルの課題進捗・政策対応は、その目標上昇のスピードに追い付けず、今後の展開は不透明さを増している。ここでは、上記のような多岐にわたる個々のテーマの課題に関する記事・論考は紹介しきれないため、大きな流れを論じたものを中心に紹介させていただく。なお、エネルギーフォーラム2月号は、〈移行期の難しさが随所で噴出〈個別4分野の現在地を検証〉と題して、洋上風力発電、原子力発電、火力発電、次世代燃料を取り上げて、現状を解説している。

参考=洋上風力発電については、週刊ダイヤモンド25年2月8日・15日合併号「洋上風力クライシス」と題して、記者のエネルギー、商社、ゼネコンなどの業界への長期にわたる取材をもとに特集記事を掲載している。

◆需要側の省エネ・非化石転換

第七次エネルギー基本計画の概要より(抜粋)

足下、DXやGXの進展による電力需要増加が見込まれており、半導体の省エネ性能の向上、光電融合など最先端技術の開発・活用、これによるデータセンターの効率改善を進める。工場などでの先端設備へのさら新支援を行うとともに、高性能な窓・給湯機の普及など、住宅などの省エネ化を制度・支援の両面から推進する。

参考=25年1月10日総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会資料「さらなる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」より

データセンター業のさらなる効率化に向けた取組(案)  (抜粋)

◇DCの最大限立地のために、電源の確保と合わせてDC自身のさらなる効率化を促す。具体的には、利用可能な効率化に資する技術の着実な実装および最先端技術の開発・社会実装の加速を図る。

情報処理技術のイノベーション

●半導体の微細化技術

微細化によって情報処理のエネルギー効率は飛躍的に向上

●光電融合 電子デバイスの電気配線を光配線に置き換える技術

省エネ化・大容量化・低遅延化を実現 

ネットワークシステム全体で電力消費100分の1

●情報処理効率の向上に向けたチップ進化及び先端実装

効率的なAIの計算のために、専用GPU(画像処理に特化した半導体チップGraphics Processing Unit)に転換       

◎朝日新聞デジタル24年11月28日付(抜粋)橘川武郎国際大学学長

Q:AIの普及など電力需要の増加で原発が欠かせないとする意見が支配的です。

A:電気が足りない=原発が必要、と考えてしまうのが間違いです。私はこうした考え方から抜け出せないことを“原発脳”と呼んでいます。米IT大手による原発の電気の購入が引き合いに出されていますが、彼らはより多くの再エネ電気を調達していますし、原発はつなぎと位置付けている、と私は見ていますまた需要が本当に増え続けるのかも精査すべきです。40年頃までは増えるでしょうが、その後はNTTのIOWN(光電融合)など省エネ技術が期待でき、需要は減っていく可能性があります。

【記者通信/3月4日】生活防衛策としての「ポイ活」 ドコモがガスの取次販売へ


ドコモが2月25日、都市ガス取次販売サービス「ドコモガス」を6月に開始すると発表した。提供エリアは東京ガスと大阪ガスの供給エリアで、料金体系は両社と変わらない。先行する電気事業「ドコモでんき」やdカードとの組み合わせで、ポイント還元率がアップする仕組みを用意。サービスの長期利用や金融事業への相乗効果を狙う。

ドコモは電気事業「ドコモでんき」を2022年3月に開始し、半年で50万件の契約を獲得するなど好調な滑り出しを見せた。強みはdポイントへの還元だ。実際にユーザーがドコモでんきを選んだ理由として、最も多かったのがポイント還元だという。コンシューマーサービスカンパニー・エネルギーサービス部の小島慶太部長は「光熱費の高騰によって『生活防衛策としてのポイ活』の広がりが生まれ、還元率が魅力のドコモでんきが受け入れられた」と分析。その上で、ドコモガスの開始について「さらなる光熱費の高騰が予測される中で、より多くのポイント還元につながる施策を展開する」と意気込んだ。

ドコモでんきとドコモガスをdカードで支払う──という組み合わせで、還元率が最大2%アップする。これにより、ドコモでんきの最大還元率は関東で14%、関西では22%となり、東京の4人家族では年間で2万3000円相当のポイント還元が得られる。早期に2桁(10万)の契約数を目指し、ニーズに応じて提供エリアを広げる方針だ。

通信大手は非通信分野に力を入れ、すでにソフトバンクやau、楽天は電力会社などは同様のサービスを展開中。光熱・通信費という生活密着サービスをまとめて提供することで「ポイント経済圏」の拡大を狙う。物価高はそうしたビジネスモデルの追い風となっている。

【メディア論評/3月4日】第七次エネ基など巡る報道を読む〈中〉第七次の基本的な方向性とは


2025年2月18日「第七次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画 改定」「GX2040年ビジョン 改定」が閣議決定され、日本の「NDC(国が決定する貢献)」が国連気候変動枠組み条約事務局に提出された。

◆地球温暖化対策計画で示された温室効果ガス削減目標

◎地球温暖化対策計画(2月18日閣議決定)本文より(抜粋)

第2章 温室効果ガスの排出削減・吸収の量に関する目標

第1節 わが国の温室効果ガス削減目標

〈わが国の目標として、30年度において温室効果ガスを13年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく。また、35年度、40年度において温室効果ガスを13年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すこの35年度および40年度における目標は、基準年である13年度からのフォアキャスト、及び長期的に目指している50年ネット・ゼロからのバックキャストの両面から、50年ネット・ゼロ実現に向けたわが国の明確で直線的な経路を示す。本目標は、パリ協定に基づくわが国のNDC(国が決定する貢献)として国連に提出する。〉

・メモ

第六次エネ基策定時、経産省OBから従来の積み上げ方式でのエネルギーミックス策定からの手法変更に対して厳しい評価もあったが、これによって何とか30年度46%削減という当時として高い目標に合わせたともいえよう。35年度、40年度の排出削減目標はそれからさらにチャレンジングなものとなり、そのためには、「目指すべき社会の姿から振り返って現在すべきことを考えるバックキャスティングの思考が重要」であるとされた。「50年ネット・ゼロからのバックキャスト」という言葉を使って、自明のことに転換したといえる。一方、G7やCOPで掲げられた国際基準は、「35年までに19年比60%の排出削減」であり、日本の場合、それは「13年度比に換算すると66%減」であったが、目標設定はそこまでいかなかった。なお、現状の削減目標達成状況について、環境省幹部などは従来よりオントラックとしてきたが、今回の目標設定もその線上にあるものとした。  

◎日経新聞電子版24年12月24日付(抜粋)〈温暖化ガス目標40年度73%減 家庭8割、産業6割減〉〈――家庭部門は40年度に71~81%、産業部門は57~61%、運輸は64~82%、それぞれ13年度比で減らす案を示した。――パリ協定は「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標を掲げる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は目標達成には世界全体で35年までに19年比60%の排出削減が必要だとする日本が基準年とする13年度比に換算すると66%減となるため、(今回の目標は)一部から不十分との指摘もあがっている。〉

◎毎日新聞24年12月10日付「くらしナビ―環境―」コーナー(抜粋)〈――政府は「オントラック」という表現を国内外でさかんに使う。主張の根拠は13年度以降の排出量の推移を示す棒グラフだ。13年度の棒のてっぺんから「50年度ゼロ」まで直線を引くと、植林などによる吸収分を差し引いた14年度以降の値はその直線とほぼ一致するか、直線を下回る。このことから、今のペースで減らしていけばゼロになるとし、産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度にとどめる世界共通目標実現の道筋にも「整合している」と主張する。――日本政府は50年実質ゼロに至るまでには「多様な道筋」があると(する)。――多様な道筋の一つが“対策”を講じた石炭火力発電の活用だ。イタリアで6月に開かれた先進主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、「対策が講じられていない」石炭火力発電を30年代前半に段階的に 廃止することが初めて首脳宣言に盛り込まれた。“対策”が何を意味するかは宣言には明記されていない。経産省は――アンモニアや水素を化石燃料と混ぜて燃やす技術や高効率石炭火力など、日本が推進している技術は“対策”に含まれるという見解だ。――環境省幹部は「脱炭素への移行期に混焼技術は必要」とした上でこう打ち明ける。「今後実現を目指す50%超の混焼や(アンモニアや水素の)専焼が技術的に実証できても、必要になるアンモニアなどは非常に多く、輸送など新たなインフラ投資が必要。いずれシビアな判断が求められる。」〉

【メディア論評/3月3日】第七次エネ基など巡る報道を読む〈上〉第六次から今回に至るプロセス


2024年12月25日、総合資源エネルギー調査会基本政策部会で「第七次エネルギー基本計画(案)」および関連資料として「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」が示された。並行して、12月26日の GX実行会議で「GX2040年ビジョン(案)」 、12月27日の地球温暖化対策推進本部で「地球温暖化対策計画(案)」 が示された。その後、パブリックコメントを経て、いずれも25年2月18日に閣議決定された

◎25年2月18日閣議決定

●第七次エネルギー基本計画

●地球温暖化対策計画改定

日本のNDC(国が決定する貢献)→国連気候変動枠組み条約事務局に提出

●GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂

ここでは、閣議決定に至る一連の動きについての報道や有識者の見解などを紹介していきたい。 まずは少し遡って、原子力発電について「可能な限り依存度を低減」との記載が残された前回の第六次エネルギー基本計画から、その後の岸田政権でのエネルギー・原発政策の転換について振り返る。

◆第六次エネルギー基本計画策定(21年10月閣議決定)

第六次エネルギー基本計画については、 第七次計画策定に至る前段階・プロセスという視点で、当時の状況などを振り返っておきたい。

1.第六次エネ基本計画 排出削減目標「46%減」の中での原発の扱い

21年4月22日に開催された地球温暖化対策推進本部、気候変動サミットにおいて、米国との交渉などの中で官邸主導の形で30年度温室効果ガス排出削減13年度比46%が表明された。

参考= それより以前、20年10月26日、菅義偉新首相の所信表明演説で、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明

◎21年4月22日の経過

午後3時半~6時半

●総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会「2030年に向けたエネルギー政策のあり方」

<同時間帯に並行して>

午後5時45分~6時10分

●地球温暖化対策推進本部 →排出削減目標「46%減」を正式表明「13年度比46%減、さらに50%減という高みに向けて挑戦を続ける」

夜 

●気候変動に関する首脳会合(気候変動サミット)→日本の新しい排出削減目標の表明

この高い温室効果ガス削減目標設定の動きを受けて、自民党内では脱炭素電源としての原発の活用に向けた調査会や議連の動きが活発化した。

●4月12日  脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟(稲田朋美会長)発足・第1回会合

●4月23日 電力安定供給推進議員連盟(細田博之会長)第六次エネルギー基本計画の策定に向けた提言カーボンニュートラル実現に向けて ~原子力発電を最大限に活用しつつ 現実的・複線的な取り組みを~

●5月25日 自民党政務調査会総合エネルギー戦略調査会、経済産業部(額賀福志郎調査会長)第六次エネルギー基本計画の策定に向けた提言

しかし一方で、総合エネルギー調査会基本政策分科会でのエネルギー基本計画策定(本文案提示)の動きが止まった。当時、自民党の総合エネルギー戦略調査会の幹部は、メディアの取材に、「公明党が原発ゼロを言っているからだ(現在のエネ基にある)『依存度を限りなく低減する』という文言修正も難しそうだ。リプレースも」と述べた。原発の新増設・リプレースなどの議論については、「必要な規模を持続的に活用していく」とされたものの、「可能な限り原発依存度を低減する」という第五次エネルギー基本計画での記載は残る方向で固まっていった。

第六次エネ基 概要より(抜粋)

〇東京電力福島第一原子力発電所事故後10年の歩みのポイント

◇50年カーボンニュートラルや30年度の新たな削減目標の実現を目指すに際し、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。

50年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応のポイント

◇電力部門は、再エネや原子力などの実用段階にある脱炭素電源を活用し、着実に脱炭素化を進めるとともに、水素・アンモニア発電やCCUS/カーボンリサイクルによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電などのイノベーションを追求。

 ◇50年カーボンニュートラルを目指す上でも、安全の確保を大前提に、安定的で安価なエネルギーの供給確保は重要。この前提に立ち、再エネについては主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組み、水素・CCUSについては社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく

2.公明党の動き

公明党の地球温暖化対策推進本部(本部長:石井啓一幹事長 当時)は、21年5月28日に「2050年脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けた提言」を官房長官に提出している。この提言書では、原発についての章立てはなく、原子力に関する記述は1カ所だけで、「再生可能エネルギーの大量導入」の項で、「再エネ主力電源化の取組等を通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指すべき」と書かれているのみであった。

◎公明党提言の中で原発に言及した部分21年5月28日)

1.「経済と環境の好循環」実現に向けたグリーン成長戦略の促進

(2)再生可能エネルギーの大量導入

50年カーボンニュートラルや30年度目標の実現には再エネの大量導入が欠かせない。――太陽光発電を再エネの主力電源と位置づけ大量導入を進めつつ、新たなパネルなどの開発に取り組むべきである。また、再エネの主力電源化に向けた課題を克服するため、余剰電源を貯蔵する蓄電池の普及、地域との共生に向けた再エネ設備の安全性向上などに取り組むべきである。あわせて、再エネの主力電源化に向けた取組などを通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指すべきである。また、原発の再稼働については、原子力規制委員会が策定した世界で最も厳しい水準の基準を満たした上で、立地自治体などの関係者の理解と協力を得て取り組むべきである。

◎21年5月26日、公明党竹内譲政調会長(当時)記者会見(抜粋)

「わが党は、できる限りこの原発比率を下げていくべきだという従来の方針は変わっておりません新増設は基本的に認めないということでありますし、(既存の原発も)60年を超えてやらないと、法律にもなっておりますので、この辺の基本的な考え方は変わっておりません。」

 

【記者通信/3月1日】三菱商事が洋上風力で巨額減損 事態好転の可能性は?


かねてから先行きが不安視されていた三菱商事の洋上風力開発。その実態の一端が白日の下にさらされた。同社は2月6日、第3四半期決算の公表時に、国内洋上風力発電事業で522億円の減損損失を計上すると発表した。洋上風力公募ラウンド1(R1)で落札した秋田県能代市・三種町・男鹿市、同県由利本荘市、千葉県銚子市沖の3海域の事業性を再評価した上で今後の方針を決定するとしているが、その行方に関して業界内ではさまざまな情報が飛び交っている。

ある業界関係者は「そもそも挽回策が見出せないからほぼ全ての開発費の減損判断に至ったのではないかと推察する。その意味で、『状況がこのように変化しないと事業はできない』という条件整理はできており、当局を含めてその詰めを行っているということなのではないか」と想像を巡らせる。

R2以降は、FIP(市場連動買い取り)基準価格を1kW時当たり3円の「ゼロプレミアム」で札入れし、需要家とのPPA(電力販売契約)が収益のメインとなるモデルであるのに対し、R1だけはFIT(固定価格買い取り)に基づく。商事や中部電力グループのシーテックなどでつくるコンソーシアムは、同11.99~16.49円という破格の安さで札入れしたことが決め手となり、3海域を総取りした。しかし、この価格が結局関係者の首を絞めることとなった。

FITからFIPに転じることができれば、事態好転の可能性はあるが、政府がFIP転を認めることは「ルール変更」にあたる可能性が高い。

そうした中、電気事業連合会の林欣吾会長は14日の定例会見で、中部電力社長として、同コンソーシアムの3案件については「関係企業が事業性確保のために検討している。ルール変更は求めない」と発言している。

「林氏のこの発言は『FIP転の選択肢はない』とも受け取れ、情勢を見通しにくくしたように思う。FIP転をせずに状況を抜本的に打開できるのかというと、疑問が残る」(先述の関係者)。例えばFIT特定卸で高額で電気を買う需要家が出てくれば解決の糸口が見えるかもしれないが、そこまで洋上風力の電気に価値を見出す需要家が存在するかは未知数だ。

価格調整スキームの効果は限定的 GE風車巡る懸念も

世界的なインフレの影響が洋上風力事業全体の課題となっていることから、政府は電源投資完遂に向け、新たな制度を導入する方針だ。例えば、資本費に占める割合の大きい費目について物価指数を考慮し、物価変動率40%を上限とする「価格調整スキーム」を導入する。新たな措置は基本的にR4以降を対象としているが、R3までの事業についても、保証金の上乗せ納付と、運開遅延に伴う没収を受け入れることを条件に適用される。

だが、「今回の減損で保証金もその対象になっていると思われる。その上で、インフレ条項の適用を受けるためにさらに保証金の上乗せ納付を行うというのは、現実的ではないのではないか」(同)との指摘がある。

そもそも、運開が遅延すれば保証金は没収されるという条件を飲み価格調整スキームを適用したとしても、買い取り価格の上昇は約3.3~4.5円と限定的だ。「こうした観点を踏まえても、商事にとってあまり魅力的な選択肢とは言えないだろう」(同)

加えて、3海域ではGE製の風車を採用する予定だが、その動向もネックになる可能性がある。

R3では、GEを採用したコンソーシアムは実現性の評価が低く、国の審査では失格に近い扱いだったのではないかと言われている。また、GEエナジー日本代表を務めてきた大西英之氏が、今年1月、パワーエックス子会社の海上パワーグリッドの新社長に就任したこともあり、GE風車の調達リスクが潜在している可能性があるというのだ。

四方八方で行く手がふさがれつつある中、商事の洋上風力事業はどのような結末を迎えるのか。

【SNS世論/2月25日】「トランプ嫌い」の偏向報道 SNS上の論調は?


ドナルド・トランプ氏が1月20日に再び米国大統領に就任した。「米国第一」「アメリカの黄金時代再び」「エネルギー非常事態宣言」などの派手なフレーズを散りばめた就任演説に、多くの人が驚いた。そしてエネルギーでは再エネ、EV支援の縮小など具体的な行動をしている。日本でも、アメリカでもトランプ大統領をめぐる議論がSNSで活発だ。そしてエネルギー政策などの人々の声を観察すると、今の社会の問題、世論の動向が見えてくる。

◆日本のSNS「うらやましい」の声多数

今の日米では庶民の切実な関心はインフレだ。エネルギー価格の抑制はそれに効く。トランプ政権は、「再エネ支援縮小」「ガソリン価格抑制、原油増産」などの政策を打ち出す。そして同政権は、コストのかかる気候変動対策やグリーンニューディールを批判し、パリ協定も脱退してしまった。米国のSNSを見ると、車に乗ることの多い米国人の多くは喜んでいる。

日本でもSNSでトランプ政権のエネルギー政策を「うらやましい」との声が広がる。衆議院議席3つの小勢力だが日本保守党が掲げた「再エネ賦課金廃止でインフレ対策」との公約は、トランプの登場を契機にSNSで再び注目されている。

日本のメディアの報道の多くは「トランプが変だ」「アメリカがおかしくなった」という単純な見方だけで、トランプ氏の政策を分析する。エネルギー政策でも、再エネ抑制、パリ協定の脱退などの一連の政策を、そのトランプ氏の「おかしさ」に結びつけている。しかし、それは表面的な分析に思える。

「異常な『トランプ異質論』のレッテル貼り 就任初日の『大統領令』こそ〝民主主義の手本〟平然と公約覆す日本の政治家たち」(夕刊フジZAKZAK、1月25日)で、元朝日新聞記者で青山学院大学客員教授の峯村健司氏がトランプ大統領の手法を分析している。トランプ氏の政策や行動に確かに危うさはある。しかし彼は支持者の意見をまとめ、公約を作り、それを実行する民主主義の原則に忠実な政治家で、それが人気と権力の源泉だという。彼の政策への反応はポリコレや脱炭素、再エネ、インフレにうんざりした米国民の多数派の意思を反映した動きなのだ。

◆メディアとSNSで示される世論の差が顕著に

トランプ大統領を巡る報道で見られたように、日米のSNSで見える本当の世論と、報道など作られた世論の差を感じることが増えている。第7次エネルギー基本計画が2月に閣議決定された。2011年の東京電力福島第一原発事故の後で、原子力縮小の方向が続いた。しかしそれを転換し、原子力の活用を示し、エネルギーの安定供給などの経済安全保障を強調した内容だ。それに対して「疑問素通りの方針転換」(朝日新聞、2月19日社説)など、日本のメディアは、激しい批判をした。

反原発の主張を繰り返す東京新聞は「トランプ大統領を「隠れみの」にして脱炭素は軽視? エネルギー基本計画に目標が低めな「リスクシナリオ」」(同日)との解説記事を公開した。その内容はトランプ氏の脱炭素の動きを経産省がエネ基作りに利用したと言うもの。しかし、エネ基は昨年中に概要が固まっていたので、ずれた見方だろう。

しかしSNSで世論は以前のように反原発に盛り上がらなかった。そのためか、野党も政治的争点にできず、エネ基は政府が決めてしまった。こうなることはSNSを眺めていれば予想できた。人々はウクライナ戦争以来の世界のエネルギー情勢、そして上がり続けるエネルギー価格に関心を向けている。

◆SNSは敵視ではなく、その情報を活用する時代

日本では米国ほどポリコレや政党支持者同士による社会対立が深刻になっていない。しかし合理性を超えたポリコレにうんざりする声が静かに広がっているようだ。それがリベラル色の強い今の石破茂首相、そしてその政権への不満なのかもしれない。

社会の奥底で動いている民意の本当の姿について踏み込んだ分析をメディアにしてもらいたい。それなのに「トランプが変だ」と気にいらない政治家や社会現象への嘆きが、新聞やテレビのオールドメディアで目立ってしまう。

実は、民意を敏感に伝えているのがそうしたメディアよりもSNSの発信だ。確かにそこでは情報が精査されず、誤りやプロパガンダの危険はある。しかし、その中には優れたものもあり、社会の雰囲気を知るには最良のツールだ。メディアの誤りを知る手段にもなる。

エネルギーに関わる人、またビジネスパーソンはそうした既存のメディアに加えて、SNSを観察することでさまざまな利益を得られるようになっている。また社会の動きや、民意の方向を見極め、そして時々現れる素晴らしい意見や情報も役立つことがあるように思う。日本のエネルギー業界は、福島原発事故以降、「民意」という得体の知れないものに、振り回されたではないか。

SNSを否定する意見を持つ人、過剰に警戒を持つ人は多い。しかし、そうした敵視ではなく、「したたかに活用」することが賢いように思える。

既存メディアに匹敵するほどの存在感を持つようになったネット世論を引っ張るSNS。日本でも、2011年の福島第一原発事故から、エネルギー問題で世論形成に影響を与えている。X(旧ツイッター)、LINE、フェイスブックなどのSNS、ブログや2ちゃんねるなどのネット掲示板、YouTubeなどの映像コンテンツの傾向を観察して、エネルギー問題を見るコラムを月1回で配信したい。

【記者通信/2月19日】エネ基などを閣議決定 パブコメ4万超で国民の関心高く


政府は2月18日、GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン、第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の3点を閣議決定した。今回は温暖化ガス2035年度60%減、40年73%減(13年度比)という方向性に基づき、エネ基や温対計画を策定。そしてこれらの実現に向けてGX投資の予見可能性を高めるため、2040ビジョンで産業構造や産業立地の在り方などを示した。政府は同日、先述の35年60%減、40年73%減を国別目標(NDC)として、国連気候変動枠組条約事務局へ提出した。

全体としては、脱炭素重視に振れた第6次エネ基から、現実路線への修正を図ったといえる。

エネ基では、複数シナリオに基づき幅のある形で需給見通しを提示。脱炭素技術のコスト低減が十分進まない場合の〝プランB〟として「技術進展シナリオ」を併せて示した点も新しい。また、再生可能エネルギーか原子力かの二項対立を脱し、脱炭素電源を最大限活用する方針を明示した。これらの電源への積極的な新規投資を促す事業環境やファイナンス環境の整備に取り組む方針も掲げた。

エネ基案のパブリックコメントでは、前回を大幅に超える4万件超の意見が集まった。これを受け、例えば、原子力の安全性やバックエンドの進捗に関する懸念の声があることを真摯に受け止める必要性を追記するなど、必要な修正を行った。

武藤容治経済産業相は同日の閣議後会見で、ロシア・ウクライナ紛争勃発以降、エネルギー価格の高騰が生活に直結する形で影響が生じていることに触れ、「エネルギーへの国民の関心が非常に高くなっていると思う。原子力に対して、特に立地県など皆さんの懸念があることも事実だと受け止め、しっかりと不安を払拭できるように、そしてなぜ原子力が必要なのかという点も含めて、今後も丁寧に説明を加えていきたい」と強調した。

紛糾したNDC議論 意見の隔たりなお大きく

温対計画では、NDC 達成に向け、エネ基やGXビジョンと一体的に取り組む方向で対策を提示。分野ごとの削減目安などを掲げた。

ただ、NDCを巡っては環境派からより高い水準を求める声が根強く、エネ基以上に議論が紛糾した。昨年12月、NDCを決定する段階の審議会では、計3回、10時間超の議論を経てなんとか結論を出した。その後のパブコメには3000件超の意見が寄せられ、数こそエネ基より少ないものの、なお議論百出の様相を呈している。NDCの国連事務局への提出は、期限の2月10日を過ぎる形となった。

18日の会見で浅尾慶一郎環境相は、「必要な技術革新や社会実装の速さといった不確実性が高まる中、官民が予見可能性を持って排出削減と経済成長の同時実現に向けて取り組むことを重視し、目指すべき目標を決めた。不確実性が高まる中において、しっかりと野心的な目標だと考える」と政府見解への理解を求めた。

【識者雑感/2月17日】「高校生が考える2040年の電力供給」熱意ある内容に称賛の声


NPO法人国際環境経済研究所(小谷勝彦理事長)は、2月16日に日本原子力発電の敦賀総合研修センター(和佐尚浩所長)において、「高校生が考える2040年の電力供給」をテーマに発表会を開催した。

静岡県立三島北高校、静岡県立焼津中央高校、学校法人福井学園福井南高校から合計15人の高校生が参加する一方、発表会には、日本鉄鋼連盟、電気事業連合会、日本自動車工業会、日本ガス協会、日本化学工業協会、セメント協会、石油連盟、電子情報技術産業協会などの産業団体と企業人も参加し、発表に熱心に耳を傾けた。

安定供給、経済との関わり、環境問題、安全のどこに重点を置くかについては、各校の視点が異なっており、参加した企業人からは、発表ごとに多くの質問とコメントが寄せられた。

「企業の若手でも作成が難しいレベルの資料だ」「スプレッドシートを利用し理想の電源構成を考えるのはユニーク」「バックエンドまで考えている視点に驚いた」――などと、高校生の発表の完成度と学校の熱意ある取り組みを称賛する声も聞こえた。

参加した企業人全員の投票の結果、最優秀賞に三島北高校、優秀賞に焼津中央高校、理事長賞に福井南高校が選ばれ、賞状と副賞が授与された。

なお、発表会前日の15日には、高校生と企業人全員が、関西原子力懇談会の協力の下、関西電力美浜原子力発電所を見学するとともに、日本原電敦賀総合研修センターにおいてシミュレーターを体験する研修に参加した。高校生にも企業人にも有意義な発表会になった。

国際環境経済研究所副理事長・所長 山本隆三

【論考/2月17日】日米首脳会談の深層 日本に突き付けられた政策転換


2025年2月7日の石破・トランプ会談の骨子は、日米関係の現状・既定路線の維持を確認し合った、という点に尽きる。まず中国、北朝鮮の脅威に対抗する安全保障(尖閣諸島を含む日本防衛、米国の拡大抑止強化、日本の防衛予算増額、東・南シナ海および台湾海峡の力による現状変更反対、北朝鮮非核化など)に関して現状の基本方針を確認。次に相互投資の重要性、最大の対米投資国としての日本の役割に関しても、既定路線を確認した。エネルギー安全保障については、米国の積極的な国内資源開発、対日LNG輸出増を通じた強化がうたわれた。これは第2次トランプ政権によるエネルギー政策の転換を反映しているが、昨年4月の岸田・バイデン首脳会談後の共同声明にも「日本及び他の同盟国のエネルギー安全保障への支援」は盛り込まれており、それが強化された形だ。

「2人」いた日本の首相

これら現状維持の確認は、確かに重要だ。しかし、それを「大成功、百点満点」などと評するのは、大袈裟に過ぎる。日本で高評価が目立つのは、それほどトランプ大統領の「不規則発言」が恐れられ、また、石破首相の外交能力が疑問視されていた、ということだろう。

共同記者会見で、トランプ大統領は故・安倍晋三氏の名前を幾度も出し、あたかもそこに日本の首相が2人いるようで、元首相の遺産を感じさせた。安倍・元首相の外交は、トランプ氏への受動的な適応に止まらず、日米関係を良好に誘導する能動性を本領としたはずだ。日米首脳の個人的関係を重視しすぎると、トランプ氏への適応をそのまま「成功」と誤認してしまう。例えば会見で石破首相は、トランプ大統領の印象を問われて「テレビで観ると恐ろしい感じがしたが」などと、これはユーモアとして答えていたが、一国の宰相としては度を越した謙遜であり、一般の米国人にはむしろ卑屈と受け止められかねない。

狭まった視野・残された課題

今回の日米首脳共同声明は、そこで語られなかった事柄が重要と思われる。岸田・バイデン共同声明と比べると、今回の声明から多くの文言が消えた。例えば、欧州大西洋(あるいはNATO)とインド太平洋との結びつき、ウクライナ侵略戦争に関する対ロシア制裁(そもそもウクライナへの言及、ロシアへの直接的言及が一切なし)、ガザへの人道支援、イスラエル・パレスチナ2国間解決への関与、国際法、法の支配、また気候危機とそれに関連する文言(例えばクリーンエネルギー、GX)。それに中国との意思疎通の重要性、共通の関心分野での協力、という文言も消えている。

つまり、地域的な視野がインド太平洋に狭まり、理念的な正当性の主張や人道的アピールも後退した。トランプ政権下で特に米・欧関係に生じた溝によるところが大きい。しかし現実には、中国の脅威への対抗姿勢を強める一方で、ロシア・ウクライナ戦争を終結に導き、さらに中東の安定化を図る上で、西側全体およびサウジアラビアなどの中東湾岸諸国の連携が、一層不可欠となろう。このような地域をまたぐ連携が、大きな課題として残されている。その際、何らかの理念的な正当性は、多国間協調の旗印としても重要なのだが、今回の首脳共同声明で残った理念は「自由で開かれたインド太平洋」のみ、ということになる。

転換迫られる日本のエネルギー政策

エネルギーに関しては、一見すれば、今回の首脳会談に於いて浮上した案件は、日本の米国産LNG輸入の増大、特にアラスカLNGプロジェクトへの参加、のみと映る。しかし実際には、それを遥かに超える、エネルギー政策上の大きな課題を突き付けられたと捉えるべきだ。

先ず、第2次トランプ政権のエネルギー政策は、バイデン政権が脱炭素化という米国の解決能力を超えた世界的課題を優先したのを、自国の国力・安全保障を弱体化させる「米国に向かう刃」として否定。国産エネルギー資源(化石燃料、バイオ燃料、ウラン、重要鉱物)を国力の源の一つとして率直に認めて、需要・供給両面での規制撤廃を進める。

この政策転換(あるいは米国の政策の不連続性)は、日本を含む他の西側諸国に対し、従来掲げてきた硬直的な炭素中立化目標や、先進国の巨額援助を前提とする世界的な脱炭素化の進め方が、現実の基盤を致命的に欠くことを、改めて示している。

日本が2050年炭素中立化目標に拘泥し、炭素中立化を中・長期エネルギー政策の優先目標とすべき理由は、既にない。逆に、今の分断の時代に、日本の安全保障・防災・国力増強に適するエネルギー源をまず定め、その限りにおいて脱炭素化を追求する、主従を転換する構えに立て直す必要がある。

現実的になったとされる第7次エネルギー基本計画案も、蓋然性の最も高いケースをいわゆる「リスクシナリオ」として補完的に示している。一般に脱炭素化シナリオは、現実性を加味させると、「脱炭素目標が達成できないリスク」として代替ケースを順次追加していくものだが、それは天動説が複雑な補正を次々に必要としたのと似ている。天動説を地動説に変え、ありのまま率直に世界を見て対応する、そうした転換を急ぐ必要がある。

「自由で開かれたインド太平洋」の拡張を

次に、日本のエネルギー安全保障の上で、欧州・カナダを含む西側全体と、これにサウジアラビアなどの中東湾岸産油諸国を加えた多国間協調は、必須である。

換言すれば、「自由で開かれたインド太平洋」には、エネルギー供給者としての中東、輸入地域としての欧州との協働が欠かせない。実力による海洋・資源支配を否定する、例えば「市場本位の開かれた国際エネルギー供給」といった理念をここにつなぎ、その下で中東湾岸との協働をより明確化し、同時に西側全体でのエネルギー安全保障を強化する。そうした能動的な働きかけを、日本が行うべき時だ。

アラスカLNGもまた、「自由で開かれたインド太平洋」を支える一つの事業だから、日本勢に加えて他の非中国アジア勢が共同出資する形でも十分意義があり、冷静な経済性評価と将来の米側の政策転換があった場合の補償・リスク管理を固めつつ、広い視野・柔軟な姿勢で臨むべきだろう。

また、地球温暖化対策は、各国の現実に立脚した、可能な範囲の脱炭素化を粘り強く進める漸進的アプローチへの転換が必至となろう。これはむしろ脱炭素化の過程自体を堅実にするために必要であり、「パリ協定の原点への回帰」とも言える。日本は、自国の政策修正を図りつつ、温暖化対策の堅実化に向けて動き出すべきだ。

ここで日本が内向きになり、トランプ政権への適応だけに追われると、米国と欧州・カナダの関係に亀裂が生じ、またイスラエルに過度に加担する米国への反発がアラブ・イスラム世界でさらに広がるにつれ、単なる米国の追随者として軽視されてしまう。

現実への率直な対応力と、現実と理想を着実に結ぶ構想力が、今こそ日本に求められている。

国際石油アナリスト 小山正篤

【記者通信/2月13日】出光興産次期社長に酒井氏 バランス感覚で環境変化に挑む


出光興産は12日に開いた取締役会で、酒井則明代表取締役副社長(63)が4月1日付で社長に昇格する人事を決めた。社長交代は2018年以来7年ぶりで、木藤俊一社長(68)は代表権を持つ会長に就く。エネルギーの安定供給を担いながら、脱炭素社会を見据えた事業構造に転換する取り組みを一段と進めるため、次期中期経営計画の検討が本格化するタイミングで経営のバトンを引き継ぐ。

会見後に握手する出光興産の酒井則明次期社長(右)と木藤俊一社長

酒井氏は、石油製品の販売や製油所のほか、人事や経理などの部門にも従事してきた。さらに最高財務責任者を経て、22年からは取締役副社長執行役員などとして会社の屋台骨を支えた。木藤氏は同日に開いた記者会見で酒井氏が培った幅広い経験に触れ、「エネルギーの安定供給と未来へのトランジション(移行)を両立していく優れたバランス感覚を持つ」と評価。「不確実性の高い経営環境下でも、社員が安心して活躍できる環境を作り出せる包容力を持つ」ことも社長抜擢の理由として挙げた。

石油元売りは、50年のカーボンニュートラル(CN)社会に向けて多額の投資が必要となる一方、縮小傾向にある石油製品の需要に安定的に応えるという責務も担う。酒井氏は、自身の持ち味を生かした経営で激変する事業環境を乗り越える決意を強調し、「バランスを取りながらも、しっかりと前を向いて進まなければならない」と力を込めた。

出光は、19年4月に昭和シェル石油と経営統合した。木藤氏は統合後の新体制づくりや社員の融和をけん引するとともに、2023年度から3カ年の中計を遂行。既存事業の収益最大化やCN実現に資する次世代燃料をはじめとする新規事業の拡大などを柱とする事業構造改革を加速してきた。この現中計を完結させて25年度策定の次期中計につなげるのが新社長に託された役割で、「チーム力を最大限に引き出す。人が中心の経営を今後も継続したい」を意気込む酒井氏の手腕に注目が集まりそうだ。

【プロフィール】酒井 則明氏(さかい・のりあき) 神戸大卒。1985年出光興産入社。取締役常務執行役員や取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。大阪府出身。