【記者通信/4月6日】特重期限の実質延長 期間見直さず疑問の声も

原子力規制委員会は4月1日、特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置期限を改める方針を決めた。これまでは原発の工事計の画認可から5年以内の設置が求められていたが、起算点を「運転開始日」に変更する。変更を適用するのは現行制度で期限を迎えていない発電所に限られ、「5年」という期間の見直しはなかった。

柏崎刈羽7号機は特重施設の「設置期限切れ」で運転できない状態が続く

4月16日に営業運転に入る予定の柏崎刈羽6号機は、設置期限が約1年8カ月伸びて2031年4月となる。一方、7号機はすでに従来の経過措置期間を過ぎているため、見直しの対象外だ。ほかのプラントでは、女川2号機は約3年、島根2号機は約1年4カ月の延長、東海第二は対象外となっている。

特重施設は13年の新規制基準導入時に5年間の経過措置が設けられ、その後16年に起算点が変更されたものの、猶予期間自体は5年のまま維持されてきた。昨年10月、原子力エネルギー協議会(ATENA)は猶予期間の3年延長を規制委に提案していたが、起算点の変更にとどまった。

今回の判断について規制委の山中伸介委員長は「単なる期限延長ではなく、これまでの運用実績を踏まえ、規制の実効性を確保するための見直しだ」と説明した。過去10年間の実績では、12基中11基が従来の期限を守れず、実際には6年以上かかっていた。山中氏は、現場の状況と乖離した規制は機能しないとの認識を示し、制度の現実性を高める狙いがあると強調した。

「一律5年」の見直しを求める声

規制委側はルールの「適正化」を主張するが、疑問が残る。特重施設を巡る事情はサイトごとに大きく異なり、例えば美浜原発は津波リスクこそ小さいが敷地が狭い。一方で、柏崎刈羽は広大な敷地を持つ。女川のように背後が山に囲まれているサイトもある。土壌も違えば、近くにゼネコンがあるかどうかでも状況は変わる。こうした点から、エネルギー政策に精通する野党議員は「一律で5年という考え方を見直してほしい」と主張する。柏崎刈羽7号機や東海第二など、経過措置期間が終了したプラントが対象外になったことについては「違和感が残る」と語った。

エネルギー有事下で原発の早期再稼働を求める声は高まっている。「火力発電の燃料途絶などで存立危機事態が認定された場合、『国内の原発を全て動かす』といった有事対応も検討すべきではないか」(別の野党議員)との意見も聞こえてきた。特重施設の早期設置を目指すのは事業者の責務とはいえ、「完成しない状態での運転に安全上の問題はない」(山中氏)。「特重施設が完成していないから運転できない、運転を停止せざるを得ない」という状況では日本を強く、豊かにできないのではないか……。

【時流潮流/4月3日】トランプ米大統領の演説を読む イラン戦争の早期終結に傾くか

イラン戦争が開戦から2カ月目に入った4月1日夜(日本時間2日午前)、トランプ米大統領はホワイトハウスから国民向けに演説した。今後2~3週間、激しい攻撃を続けるとしながらも「中核的な戦略目標が完了に近づいている」と述べ、戦争を早期終結させる考えもにじませた。

中東に向け太平洋を航行中の米強襲揚陸艦「ボクサー」から発艦訓練をするF35B戦闘機。「ボクサー」は、地上侵攻用の兵員や兵器を積む=米国防総省提供

米イスラエル連合軍は、イランの海軍や空軍に大きな打撃を与え、開戦初日に最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害するなど軍事面では優位にある。だが、イランがホルムズ海峡閉鎖に成功したことでエネルギー価格が急騰、株価下落も続くなど政治的には追い込まれた形にある。

局面打開を図ろうと、トランプ米政権は外交交渉で和平を模索する一方、イランの石油輸出拠点のカーグ島侵攻の可能性を口にするなど硬軟両様の構えを見せた。だが、戦争長期化や犠牲者増につながる地上侵攻は、米議会や世論の反発が強く実行が難しい。そこで浮上した窮余の策は、開戦時に掲げた目標を「達成済み」だと強弁する作戦。これなら一方的な停戦宣言をしても、不自然ではない。そうした環境を作ろうとしていると映る。

例えば、政権交代の実現という目標だ。ハメネイ師の死を受けて、父よりも対米強硬路線をとる息子のモジタバ師が後任に就いた。だが、トランプ氏は「以前の政権より過激さがなく、はるかに理性的だ」と、誰もが耳を疑うような主張を展開した。

イランの核武装阻止を目的に、中部イスファハンにある高濃縮ウランの保管施設に地上部隊の派遣も検討してきた。だが、これも見送るようだ。

昨年6月に米軍の「美しいB2爆撃機」が、ウラン濃縮施設を空爆し、核開発計画をすでに「破壊した」というのが理由だ。保管施設は監視を続け、怪しい動きがあり次第ミサイル攻撃する構えを示した。

ホルムズ海峡の再開問題については、米国は関与する気などさらさらないと打ち明けた。米国は世界最大の石油・天然ガス産出国であり「ホルムズ経由のものなど必要ない」からだ。

中東産の原油や天然ガスを調達した諸国には、米国産原油やガスの購入を勧め、海峡再開を望むなら自力での解決を求めた。自らまいた種を放置し知らんぶりする姿勢は、米国の都合を最優先する「米国第一主義」の真骨頂と言えるかもしれない。

トランプ氏が、戦争の早期終結に傾いた背景を探ると、さまざまな理由が浮上する。

【TACO説】

ひとつは、「肝心な時になると、いつもひるむ」(TACO)大統領自身の性格だ。ホルムズ海峡の閉鎖を続けるなら、発電所などのインフラに総攻撃をかけるとイランを脅したが、これまで実施期限を2度延期している。米国のガソリン価格が3月31日、「レッドゾーン」とされる1ガロン=4ドル台にまで値上がりしたことも一因かもしれない。11月には中間選挙が控えており、トランプ氏の「弱気の虫」が騒ぎ出した可能性もある。

【態勢整わず】

上陸作戦実施には、兵員を送り込む強襲揚陸艦の存在が不可欠となる。すでに2隻の派遣を手配し、佐世保を母港とする1隻が3月27日に中東海域に入った。だが、米西海岸から出航したもう1隻の到着は4月中旬と見込まれている。

開戦当初から参加していた空母「ジェラルド・フォード」の戦線離脱で、空母が1隻に減ったことも痛い。洗濯室で火災が発生、ギリシャでの緊急修理を終えたものの、復帰にはまだ時間がかかりそうだ。

【作戦効果に疑問】

トランプ氏は先月末、カーグ島を「占領するかもしれない」と語った。ただ、カーグ島とホルムズ海峡は600㎞の距離があり、占領しても、海峡再開につながる保証はない。

高濃縮ウラン保管施設への攻撃は、数千人規模の要員と数カ月の時間が必要な上、「米軍史上、最も危険な作戦になる」との分析がある。政治的に難しい面がある。

とはいえ、トランプ氏の発言内容は開戦以来、二転三転している。いったんは早期停戦に傾いたが、強硬路線に切り替わる可能性も捨てきれない。トランプ氏の動きは読みにくい。まだまだ、気の抜けない日々が続きそうだ。

【記者通信/4月2日】むつ中間貯蔵への搬入ストップ 再処理工場遅延で宮下知事表明

青森県の宮下宗一郎知事は3月31日、原子力発電所から出る使用済み燃料の中間貯蔵施設(青森県むつ市)への新規搬入について、2026年度は容認しないと表明した。同県六ヶ所村の再処理工場の26年度中の竣工が「確実に遅れる」として、「なし崩し的に燃料だけが搬入される環境をつくるわけにはいかない」との考えを示した。

青森県の宮下知事

むつ中間貯蔵施設は24年に操業を開始した。県や市、事業者との安全協定では貯蔵期間は50年となっている。宮下氏が懸念するのは、長期間にわたって中間貯蔵施設に使用済み燃料がとどまることだ。操業前には国に働きかけ、25年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画に「中間貯蔵施設等に貯蔵された使用済燃料は六ヶ所再処理工場へ搬出する」と明記された。

同施設を巡っては運営会社に出資する東京電力と日本原子力発電が昨年末、他事業者との連携を検討する意向を青森県とむつ市に伝えた。他社分の使用済み燃料の受け入れが念頭にある。今年3月13日にはむつ市議会が、他社分受け入れの検討を求める経済団体からの請願を賛成多数で採択した。宮下氏は31日の会見で、搬入容認の見送りとは「関係のない話」と強調した。

原燃だけが悪いのか? 柏崎刈羽の輸送に影響も

26年度には柏崎刈羽原発5、6号機から約60tの使用済み燃料を輸送する計画がある。来年度以降も宮下氏の拒否姿勢が続けば、88%という6号機の使用済み燃料プールの貯蔵率は下がらず、さらなる号機間輸送などの対応を取らざるを得ない。27年度を予定する東海第二、敦賀両原発からの輸送にも黄信号が灯る。

停滞を打破するには再処理工場の竣工・安定操業の実現が唯一無二の解決策だが、日本原燃による原子力規制委員会への工事計画の説明は遅れている。宮下氏が言及したように、目標とする「26年度中の竣工」が間に合わない可能性が出てきた。目標の延期が常態化していることについては、原燃側に落ち度があるのか、規制委側に問題があるのか、人によって見方が異なる。宮下氏は、延期は「会社自身を貶めていることだとより強く自覚してほしい」と事業者に対して厳しい見方を示した。

ただ、本誌昨年7月号のインタビューでは「青森県として安全確保を第一義に、地域振興や雇用に寄与することを前提として協力していきます」と述べるなど、原子力政策に協力的なのは確かだ。まずは竣工に向けて、原燃にはもうひと踏ん張りが求められる。

【目安箱/3月31日】原子力の世論調査 否定的意見を減らす方法とは

日本原子力文化財団(原文財)は3月に、「原子力に関する世論調査・2025年版」を公開した。「今後日本は原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」との問いに、肯定的意見が42.0%、否定的意見が35.0%となった。肯定的意見は2018年以降、おおむね横ばいの一方、否定的イメージは2017年度以降、低下傾向が続いている。そこで、この傾向をより鮮明にする方策を考えてみた。

◆国民感情を把握できる19回の継続調査

この調査は2025年10月に全国の15~79歳の男女1200人を対象に実施された。2006年度から同一手法で継続している全国規模の調査で、今回は19回目になる。原子力や放射線に対するイメージ、関心、情報保有量、信頼、再稼働や利用に対する考え方など多岐にわたる項目で構成されている。世論の変化を見られることから、原子力関係者に注目されてきた。

上記の質問では「使っていく」「どちらかといえば使っていく」を肯定的意見、「やめていく」「どちらかといえばやめていく」を否定的意見としている。「わからない」は22.6%だった。これは今年から新設の質問だが、17年ごろから原子力をめぐるイメージでは改善の傾向があった。

また意見の内訳を見ると、男性で肯定的意見が多く、女性では否定的意見が多い傾向だった。年齢別では25~44歳の現役世代で肯定的意見が比較的高い一方、24歳以下の若い世代では「わからない」とする回答が目立った。原子力に関する情報保有量が多い層ほど肯定的意見が多く、保有量が少ない層では「わからない」とする割合が高い傾向が確認された。情報量の差が原子力に対する感情の形成に影響を与えていた。

原子力に対する否定的なイメージ(複数回答)では、「危険」が52.9%、「不安」42.6%など高いものの、2017年ごろから低下が続いており、また現在は福島原発事故の前の水準よりやや低くなっている。

◆身近な問題がエネルギー・原子力への意見を左右

またこの調査では、エネルギーを巡る人々の関心の傾向も対象にしている。同調査によると、25年度に、最も関心が高かった原子力・エネルギー関連ニュースは「地球温暖化」で、70.3%となった。「電気料金の値上げ」(56.4%)、「自然災害による停電」(53.9%)、「電力不足」(48.3%)が続いた。

一方、原子力業界に関する個別テーマへの関心は低く、「女川原子力発電所の再稼働」が13.9%、「AI普及に伴う電力需要増加」が11.4%、「原子力発電所のリプレース」が10.8%、「第7次エネルギー基本計画」が4.5%だった。

原子力に否定的な意見を持つ人ほど、災害や防災対策の不安、放射性廃棄物、福島第一原子力発電所の廃炉問題の批判に関心を向けた。暮らしに直接的に影響する問題、また事故への恐怖感が原子力への態度に影響を与えている。

エネルギーの情報収集では、テレビのニュース番組から得るという人が最も多かった。どの年齢層も半数以上で、65歳以上は82.1%だった。ところが24歳以下では53.5%と低下。さらに新聞、テレビ情報番組の影響力は若い世代ほど低下している。また検索サイト上のニュース、SNSによる情報収集も増えている。

高レベル放射性廃棄物問題では、全体の38.7%が「私たちの世代で処分しなければならない」と答え、「私たちの世代で考えなくてもよい」と答えた5.3%を大きく上回った。一方で、処分施設が自分の住む地域や近隣に計画されても「反対しないと思う」という人は9.2%にとどまり、「反対すると思う」は42.1%となった。問題解決の難しさがうかがえた。

【記者通信/3月26日】史上最大の危機に史上最低の政策⁉ 燃料油補助でまたも巨額の国費投入

原油価格高騰の激変緩和措置、また物価高対策として、2022年1月27日から25年12月31日まで続いた燃料油(ガソリン、軽油、灯油など)への補助金支給政策が、ホルムズ海峡の実質封鎖に伴う供給ひっ迫下の価格高騰対策として復活した。世界的なエネルギー有事にもかからず、消費支援のために巨額の国費がなし崩し的に投入されようとしている。

補助金の効果か、3月22日に早くも160円台に値下げしたガソリンスタンド(埼玉県川口市)

日本政府は3月19日から、レギュラーガソリンの全国平均価格を1ℓ当たり170円に抑えることを目的に、元売り各社に対する燃料油補助金の支給を再開。財源には約2800億円の基金の残高を活用するとともに、24日には今年度予算の予備費から8000億円を基金に拠出することを閣議決定した。さらに政府は必要に応じて、26年度予算案に計上されている1兆円の予備費からも補助金の支出を検討する構えだ。

加えて、政府は26日、石油の国家備蓄1カ月分の放出を順次開始した。16日に実施した民間備蓄15日分の放出に続く措置で、あわせて過去最大となる45日分を放出する。また、ホルムズ海峡を経由しない原油調達先の多角化を急いでいる。「供給安定化」と「価格低廉化」の同時達成を狙っているわけだが、出口の見通せない補助金政策による財政負担の増大は円安を加速させ、原油調達コストがさらに上昇するという悪循環を招く可能性もある。

ホルムズ封鎖で中東からの石油供給が途絶している現在、日本には250日分の備蓄があるとはいえ、本来は限られた在庫をできる限り長くもたせるため、価格を値上げし、少なくとも一般利用者については消費抑制に向かわせる政策が必要だ。補助金が支給される前の16日時点で、石油情報センターが公表したガソリンの全国平均価格は1ℓ当たり190.8円と前週の161.8円から急激に上昇。ことレジャー目的のマイカー利用者は3月中旬ごろにドライブを控えたり、鉄道やバスといった公共交通機関を利用したりするなど、ガソリン代を節約する行動に出始めた。しかし、19日以降は補助金支給の効果が表れ始め、23日時点の全国平均価格は177.7円で前週から13.1円の値下がり。首都圏などの競争の激しい地域では1ℓ160円程度の看板を掲げるガソリンスタンドもみられている。

【記者通信/3月26日】「LNG調達に支障なし」 都市ガス大手2社トップが強調

米国とイスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡の実質封鎖が続き、石油調達などへの支障が出始めている中、日本の都市ガス業界では今のところ大きな混乱は生じていない。東京ガス、大阪ガスの両社長は、いずれもホルムズ海峡を通過する国からLNGを調達しておらず、足元で量的な支障はない点を強調した。ただ長期化した場合、ガス・電力販売価格や顧客への影響などが懸念されるとした。

メディア懇談会で語る藤原・大阪ガス社長

3月25日の会見で東ガスの笹山晋一社長は、「LNGは中東には依存しておらず、9割以上が長期契約で、短期的には影響は軽微だ」と説明。大ガスの藤原正隆社長も、同日のメディアとの懇談会で「現在ホルムズを通る長契はない」「当社ガス・電力事業に十分なLNGを確保している」とした。

ただ、封鎖が長期化した場合は随所で影響が出て来る可能性がある。

まずガス事業では、原料費調整制度により4~6カ月後に原料価格の高騰が反映され、販売価格は「7月ごろから上がっていく」(藤原氏)見通しだ。

販売量にも効いてくる可能性がある。ナフサを始め石油製品の価格上昇や供給支障が生じれば、顧客の生産活動の縮小につながるためだ。他方、「第二次オイルショックの時のように、油や石炭を使っているところが、調達が安定しているガスへ転換するという逆のベクトルもある」(同)

そして電力小売り事業者の間では、数年前の価格高騰の再来が危惧されている。笹山氏は、「低圧に関しては、事業は継続している。高圧に関しては状況を注視しており、状況が長く続けば、電力価格高騰リスクがあるのでリスクマネジメントしながら事業をやっていく」と説明した。

この他、「状況が長引けば輸送船の燃料などの影響が出てくる可能性もある」(笹山氏)。

今のところそうした問題はないが、ガス業界は今後、燃料油の供給制限などが浮上した場合に備え、石油業界に対しインフラ関連への制限の順番について交渉しているという。

いずれにせよ、両社とも引き続き状況を注視しつつ、安定供給に万全を期す姿勢を見せている。

【時流潮流/3月24日】イラン戦争で「我が世の春」を謳歌するロシア

米国とイスラエルが開始したイラン戦争は4週間目に入り、長期化する様相が強まっている。米国は、イランの石油積み出し基地であるカーグ島の封鎖や上陸作戦に対応できる強襲揚陸艦部隊を日本の佐世保や、西海岸のサンディエゴから派遣。これらの部隊が中東地域に到着する3月下旬以後、新たな展開が起きる可能性がある。

イランによるホルムズ海峡閉鎖の長期化で、エネルギー市場の混乱も続く。そうした中、「我が世の春」を謳歌している国がロシアだ。この戦争で、多くの恩恵を被っている。

まずは石油・ガス価格の上昇だ。開戦直前まで国際的な原油安に加え、欧米による厳しい経済制裁により、ロシアは大幅な値引きを強いられていた。今年1月の石油・ガス収入は50億ドルにまで落ち込み、今年1~2月の財政赤字は国内総生産(GDP)の1.5%に達した。わずか2カ月で年間予想額の1.6%に近づいたことで、政府は予算縮減策の検討に着手した。ウクライナでの戦争継続にも疑問符がつく事態に追い込まれつつあった。

だが、イラク戦争開戦とホルムズ海峡封鎖という「神風」が吹く。1バレル=65ドル台だった原油価格は、一時、119ドルまで上昇、その後も100ドルをはさんだ取引が続く。ロシアのウラル産原油の値引き幅も一気に縮小した。ロシアの臨時収入は1カ月で30~40億ドルに達するとされる。まさに「棚ぼた」だ。

2点目は、米国による制裁の一時停止だ。トランプ米政権は、原油の流通量を確保しようと、ウクライナ戦争を機に発動していたロシア産原油への制裁措置を解除した。米国民に不人気なガソリン価格上昇をできるだけ抑え込むのが狙いだ。

制裁解除により、ロシア産原油の購入を控えていた中国の石油大手シノペックやペトロチャイナなどが購入再開に興味を示すほか、インドやトルコも購入量を増やしている。

米国は、あろうことか3月19日にはイランへの原油制裁も解除した。イランの戦費調達を容易にする恐れがあるが、原油価格の安定を優先させた。制裁措置の停止はいずれも1カ月が期限だが、戦争と同様に長期化すると予想されている。

三つ目は、ロシアが米国との新たな交渉道具を手にした点だ。昨年、イランと戦略的パートナーシップを結んだロシアは、開戦以後、中東に展開している米軍や周辺諸国の軍の位置座標や情報をイランに提供している。また、イランがウクライナ攻撃用にロシアに供与したシャヘド型ドローンを改造して能力向上を図ったものをイランに「逆輸出」している。

米国は、これらを問題視しているが、ロシアのドミトリエフ特別代表は11日に米南部フロリダであった米露協議の場で「米国がウクライナに実施している情報提供を停止すれば、ロシアもイラン支援をやめる」と、取引を持ちかけた。機を見るに敏、使えるものは何でも使おうというロシアのしたたかさが透けて見える。ロシアに詳しい外交官は「ロシアは『無』から『有』を生み出す天才だ。今回がその典型的な例だ」と取材に答えた。

ウクライナ戦争に「追い風」か 肥料価格上昇も収入増に

報道も含め世界の関心が中東に集まれば、ウクライナ戦争の注目度が落ちることもロシアにとっては追い風になる。米国は、中東諸国を守ることを優先してミサイル迎撃用のパトリオット・ミサイルを中東に手厚く配備する作業を進めており、ウクライナに武器が届かず守りが手薄になっている。ロシアはその隙を突きウクライナに攻勢をかける準備を整えつつある。元手となるのは、石油価格上昇で得た臨時収入だ。さらに、国際的な注目を浴びずに攻勢を仕掛けられるのも大きな利点だ。

このほか、ロシアが主要供給国となっている肥料の価格上昇もロシアの収入増につながる。中東湾岸諸国は肥料の3分の1、尿素の5割を国際市場に供給してきたが、石油や天然ガスと同様。ホルムズ海峡を通航できない状況が続く。

ロシアの「おらが春」はいつまで続くのか。それはトランプ氏の差配にかかっている。

【記者通信/3月19日】燃料逼迫へ危機感強まる豪州 価格上昇でEVシフト加速

米国のイラン攻撃により世界でオイルショックが深刻化する中、オーストラリアでは燃料供給への危機感が強まっている。アルバニージー首相は3月19日午前に開いた緊急記者会見で「燃料供給の安全性を保証する」と述べ、従来の楽観論を展開した。だが野党や財界は「数週間以内に底をつくのではないか」と、政府の認識を疑問視する。米国のイラン攻撃後から豪州内のガソリン価格は上がり続けており、豪州ガソリン研究所(AIP)の調査によると、15日現在、全国平均で1ℓ当たり2.19豪ドル(約245円)まで上昇した。これは1週間前の8日に比べ21豪セントも上がっている。供給不安と価格上昇の二重苦の状況に陥っている豪州では、ガソリンの買いだめに走る消費者も増えており、4月の大型連休を前にオイルショックの影響は広がるばかりだ。

ガソリン備蓄「36日」の波紋 4月の連休前後にひっ迫か

アルバニージー首相は19日の会見で、連邦政府と州政府を統括する国家レベルの燃料タスクフォースを立ち上げると発表した。燃料不足はないと強調してきた政府だが、不足への懸念が絶えないことから対応を余儀なくされた形だ。

政府によるとガソリンなどの燃料備蓄量は、ガソリンが36日分、ジェット燃料が29日分、ディーゼルが32日分だと明らかにしている。ボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されているすべての燃料貨物船は問題なく到着する」と繰り返し説明し、供給に支障はないと強調する。

だが政府の見解とは裏腹に燃料業界では供給不足に陥る可能性が高いと指摘する向きが強い。ホルムズ海峡経由の燃料の遅延のほか、中国やシンガポールなど中東以外の調達先が輸出の縮小に舵を切る可能性があるという。エネルギーを担当する日本企業関係者は「4月以降、急激に供給が細る可能性は十分ある」と話す。業界では4月上旬のイースター(イエス・キリストの復活祭)連休前後にひっ迫するとの見方もある。

政府部内では中東以外のアフリカや米国からの代替調達の可能性を検討しているという向きもあるが、輸送距離が伸びることにより輸送コストが大幅に増え、小売価格がさらに跳ね上がることになるため実行にはハードルが高い。

ポリタンクが不足 不当値上げも絶えず

市場では今後、1ℓ当たり3.5豪ドルまで高騰するとの見方が出ている。政府は60日間限定で、硫黄濃度の高いガソリンも国内向け燃料に混合できるよう燃料の環境基準規制の緩和に踏み切った。ボーエン氏は「地方部の供給改善とガソリン価格高騰を抑えるためだ」と主張するが、専門家からは「輸入量そのものが少ない現状で規制緩和はあまり意味がない」と反論される始末だ。

一部地域ではオイルショックに便乗した大幅値上げのガソリンスタンドも出てきた。1ℓ当たり3豪ドルを超える値段で売りつけているところもある。大手自動車保険会社やメディアの指摘により、政府は便乗値上げへの監視を強化。違反業者への罰則を強化する法案を近く議会に提出する方針だ。

ガソリンなどの買いだめの動きも急だ。先週末あたりから20ℓのポリタンクがホームセンターで飛ぶように売れる現象が起きている。大手ホームセンター「Bunnings」によると、店頭での即時入手はごく限られた店舗だけになっているという。オンラインで入手する方法もあるが、これも不足気味で入手に月単位の時間を要する場合もある。ある地域では大量に購入した個人が市場価格の倍以上の値段で売りさばくという問題も起きている。

生鮮業界や小売業界にも燃料高の影響は波及し始めた。スーパー大手の「Woolworth」は食品などの輸送にかかる燃料サーチャージを大幅に引き上げた。魚市場の海産物の値段も上がり続けている。ある飲食店関係者は「メニューの値上げが必要だ」と話す。

BYDが2月に販売トップに 石油依存からの脱却必要

オイルショックの影響は自動車販売にも影響しそうだ。2月単月の豪州内新車販売台数で、中国のBYDが販売する電気自動車(EV)が単月として30年ぶりに日本車を抜いてトップに躍り出た。

豪州ではEVの充電が無料だ(急速充電は支払いが生じるが日本ほど高くない)。ガソリン価格が1.8豪ドル前後で推移していた2月でも、EVがハイブリッドなどのガソリン車を凌駕していたのには驚きをもって報じられている。さらにこのオイルショックがEVの販売を後押しする可能性は極めて高く、単なる一過性の出来事ではなさそうだ。

翻って日本。高市政権はガソリン価格を1ℓ当たり170円前後に抑える補助金を出すという。ウクライナ危機の際に「激変緩和措置」としてやり始めたガソリン補助金だが、事あるごとに出し続けている。一種の中毒に陥っている。

ガソリン車の購入や原油由来の製品を利する政策を取り続けては、中東をはじめ政情不安が起こるたびに補助金漬けになりやしないか。調達先の多様化を進めることも重要だが、コストに跳ね上がるようでは意味がない。

豪州の事例ではないが、この際オイルに依存しない政策に舵を切るべきだ。EVの車体補助に限らず、街中での充電機の導入拡大や低充電料金化など消費者にインセンティブを与える政策の拡充が必要だろう。今後も政情不安は増える可能性があるだけに、高市政権にとって、本腰を入れて取り組むべき優先課題だ。

【コラム/3月19日】70年代オイルショックの経験は生かされているか?

福島伸享/前衆議院議員

2月28日、イスラエルと米国が国際法に違反してイランを攻撃し、最高指導者はハメネイ師らを殺害したことを契機にホルムズ海峡が事実上の閉鎖状態となり、この原稿の執筆時点で原油価格は高騰し、世界経済の行く末は極めて不透明な状況となっている。地域大国であるイランを前にして、現時点では長期化することは必至であろう。

私たちの身の回りでも、ガソリン価格がリッター190円近くにまで上昇して、その影響をひしひしと実感している。日本が輸入する原油の9割近くがホルムズ海峡経由であり、ホルムズ海峡から日本まではタンカーで約3週間。このままいけば春の彼岸頃から日本へは原油がほとんど届かないことになる。それ以降備蓄を取り崩していかなければならないが、254日でそれも尽きる。原油は、ガソリンや灯油などのエネルギー源だけではなく、合成ゴムやプラスチックなどの素材としても使われているため、日本経済に与える影響は甚大だ。

世界の先進国の中で、ホルムズ海峡に経済の多くを頼っている国はアジアの国であるが、大国の中国やインドはイランと独自の外交関係を持っていて、ホルムズ海峡の閉鎖の影響を一定程度回避できる。米国やロシアは自ら原油を産出し、ヨーロッパ諸国はホルムズ海峡にそれほど依存していないから、原油価格上昇以外の物理的な「油断」によって破滅的な経済への影響を受けるのは、日本、韓国、台湾などであろう。冷静に振り返ってみると、空恐ろしい気持ちになる。

1970年代に2度のオイルショックに見舞われた日本は、中東の石油資源に依存する経済システムを転換し、総合的な資源エネルギー政策を立案・実行するために、1973年に資源エネルギー庁を設置。原子力開発の推進、サンシャイン計画やムーンライト計画などによる新エネ技術・省エネ技術の開発、石油備蓄の推進、資源の自主開発などを進めてきた。今回、このような事態に直面して、この半世紀の外交も含めた総合エネルギー政策の結果が問われることになろう。

現状がどうであるかは、私はあえてここでは書かない。今は米国一辺倒にならざるを得ない外交(今世紀初頭まではイランのアザデガン油田開発に関与して自立を目指していた)も含めて、今日本は他の先進国や大国と比べて一番脆弱な状況にあるとだけ、述べておこう。政治と行政の現場でエネルギー政策に取り組んできた者として、忸怩たる思いだ。

【論考/3月16日】燃料油補助復活が日本を自滅させる、これだけの理由

ホルムズ海峡の事実上封鎖が長期化すれば、実際上、原油価格に上限はなくなる。バレル当たり100ドルや150ドルは平時の価格であり、200ドルでも全く足りない。在庫取り崩しに限界が見えた時点で、無制限の上昇圧力が掛かり始めるのだ。多くの輸入国で石油不足が市場による調整力を超え、政府による制御・統制を余儀なくされよう。それはアジア・太平洋地域で始まり、輸入依存度の高い諸国で最も顕著となる。もちろん、日本も例外ではない。【論考/3月12日】に引き続き、考えてみる。

一般的にバレル当たり100ドルに関しては、それ以上は「超」高値圏という閾値(threshold)として言及されることが多い。3月第2週時点でも、ホルムズ海峡封鎖を前提にしながら、100ドル代前半の予想が主流だ。例えば3月9日付けウォールストリートジャーナル紙が伝えた金融・エネルギー調査関係4社の見通しは、130ドルから150ドルの間に集まる。

しかしこの価格帯は、巨大な供給途絶量の現実に対し、低すぎて全く釣り合わない。例えばロシアによるウクライナ侵略開始後、2022年3月から7月の間、ブレント原油価格はバレル当たり100ドルから130ドルの範囲で推移した。しかしこの間、ロシア原油の輸出は順調に続き、不安はあったものの、実体的な供給ひっ迫は何ら生じていない。

また、11年から13年まで、いわゆる「コモディティー・スーパー・サイクル」と呼ばれた商品価格の上昇期に、ブレント原油は25年実質価格で平均150~160ドルだったが、この時も不測の供給途絶はなく、石油消費も年率平均3%弱の高率で増加していた。実質150ドル前後の価格は、当時の生産費用の上昇に応じて、供給・需要側双方に新規投資・技術革新を促す、市場の自律的反応だった。事実、この価格を拠り所として、10年代後半に米国で「シェール革命」が開花している。

【記者通信/3月12日】燃料油補助に石油備蓄放出 価格高騰の根本解決には至らず

ホルムズ海峡封鎖危機に伴う原油価格急騰を受け、日本政府と国際エネルギー機関(IEA)が3月11日夜、矢継ぎ早に対策を打ち出した。政府は、上昇するガソリン価格を全国平均で170円程度に抑えるため、石油元売り各社への価格補助による激変緩和措置を復活させる。併せて、原油の供給の減少に対処するため、石油備蓄を16日にも放出する。また、IEAは加盟国が過去最大規模となる計4億バレルの石油備蓄を協調放出することで合意したと発表した。

イラン情勢に関する政府の対応について会見する高市首相(官邸ウェブサイトより)

高市早苗首相は11日の会見で、ガソリン価格について、「1ℓ当たり200円を超える水準となる可能性は否めない」と懸念を示した上で、ガソリンの小売価格を全国平均で170円程度に抑制すると表明した。170円程度を超えた部分については補助を行い、軽油や重油、灯油に関しても同様の措置を講じる。元売り会社による卸値の大幅引き上げを受け、12日現在、ガソリン価格が170円を超えるガソリンスタンドが全国で続出している。経済産業省では、来週19日から元売り各社に対して補助金の支給を始める方針だ。

原油の輸入については、IEAの決定に先駆けて16日にも石油備蓄の放出することを表明した。ホルムズ海峡が封鎖される前に通過したタンカーが到着する20日以降は、原油の供給が大幅に減少する見通しで、供給の停滞に対処する。放出の内訳は、民間備蓄を15日分、国家備蓄を1カ月分としている。日本には254日分の石油備蓄があり、放出を決定した約45日分はその2割程度に当たる。

その後、IEAは石油備蓄を協調放出することを全会一致で合意したと発表した。放出量は4億バレルで、過去最大規模となる。協調放出は加盟国ごとの状況に応じて市場に提供される。イランによるホルムズ海峡が事実上封鎖される中、原油価格の高騰に対処する。発表によると、米・イスラエルによるイラン攻撃が発生してから、ホルムズ海峡を通る原油や石油製品の輸出量は10%未満にまで落ち込んでいるという。協調放出が実施されれば、ロシアがウクライナに侵攻した2022年以来4年ぶりとなる。

G7エネルギー相会合で石油備蓄の放出を協議する赤沢亮正経産相(3月10日)

加盟各国はIEAの協調放出の要請に応じる動きを見せている。韓国は2246万バレルを放出するとし、時期についてはIEAと協議する方針。このほか、ドイツは約1800万バレル、フランスが1450万バレル、イギリスは1350万バレルを放出する。

各国が原油価格高騰の抑制に動き出した格好だが、市場の反応は芳しくはなく、足元の原油先物価格は12日には1バレル90ドルを超え上昇傾向にある。トレーディングエコノミストによると、イランは米国やイスラエルが自国を攻撃しないことを停戦の条件として提示したものの、米国が受け入れる可能性は低く、短期的な解決の見通しは暗いという。戦争の長期化が懸念される中、有事のドル買いなどで円安も進行し、1ドル159円まで下落。原油高と円安が共振して輸入コストが上がれば、燃料油価格のさらなる上昇につながる。政府は燃料油補助を復活させる方針を決めたが、根本的な問題解決には至っていない。今後、新たな対策を打ち出せるか注目される。

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【論考/3月12日】ホルムズ封鎖が招く「石油危機の実態」を徹底解説

2月28日以降、ホルムズ海峡が事実上封鎖され、中東を除く世界石油需要の4分の1に相当する石油輸出が滞った。今、我々は既に石油危機の中にいる。早期の封鎖解除に失敗すれば、世界はこのまま未曾有の石油供給ひっ迫に陥る。この石油危機はまずアジア・太平洋地域の自由主義・親米諸国を集中的に襲い、中国・ロシア陣営を優位に立たせる。石油の大半をペルシャ湾から輸入する日本にとって、経済・社会的のみならず安全保障上も最大級の試練となる。

ホルムズ海峡の実質封鎖はこうして起きた

2月28日、米・イスラエルによる対イラン攻撃開始以降、ホルムズ海峡は事実上封鎖されている。同日イラン革命防衛隊は船舶無線を通じ、一切の船舶の海峡通航を許容しないと通告。3月2日には、イラン革命防衛隊幹部がテレグラム上で、通航を試みる船舶を攻撃する、と声明を出した。

さらに3月5日、イラン革命防衛隊がテレグラム上に出した声明では、封鎖の対象を「米国、イスラエル、欧州およびその支援国」の船舶に限定している。それ以前の声明とは異なり、中国を筆頭とする反米あるいは中立諸国家の除外を示唆している。

一方3月1日、イランのアラグチ外相は「ホルムズ海峡封鎖の意図はない」と述べ、5日にイラン国連代表団からも同様の発言があった。国際法違反である海峡封鎖を公式には否定しつつ、封鎖の責任を米・イスラエル側に負わせる外交的意図がうかがえる。7日にペゼシュキアン大統領から出された湾岸諸国への「謝罪」も、同じ意図と考えられる。

いずれにせよ、各種の船舶追跡情報に基づけば、タンカーの海峡通航はほぼ全面的に停止している。IMF Port Watch によれば、2月1~27日に1日約40~70隻のタンカー通航が確認されたのに対し、3月2日にはわずか2隻に激減。合同海事情報センター(Joint Maritime Information Center, JMIC)も、3月3日から10日までの間、ペルシャ湾へ入湾したタンカーは1隻のみ、出湾も計4隻と報告している。海運専門紙ロイズリストによれば、3月初めペルシャ湾内に約200隻のタンカーが滞留、このうち60隻が超大型原油タンカー(VLCC)で、世界の正規VLCC船隊の約8%を占める。またMarine Trafficデータの示すところでは、ペルシャ湾外でも150隻を超えるタンカーが、オマーン湾北部海域で待機している。

ただしこれらの情報・報道はいずれもAIS(船舶自動識別装置)データに基づくもので、イラン産原油を最終的には中国に運ぶ「影の船団」のように、AISの電源切断や偽操作を行う船舶は把握できない。今回の開戦に先立つ1週間ほど、イランの原油輸出は通常の倍以上のペースにのぼり、開戦後もカーグ島からの原油出荷が継続中と報じられている。「影の船団」および中国向け正規タンカーの通航が確認され始めれば、海峡封鎖の実態が一層明確となろう。3月7日までに計2隻のバラ積み船が「中国所有船」の信号を発しつつ海峡を通航したとの報道もある。

英国海事貿易作戦室(United Kingdom Maritime Trade Operations, UKMTO)は3月1日から11日までの間、ペルシャ湾内外で計18件の対船舶攻撃を報告している。このうち湾内(クウェート、サウジアラビア、バーレーン、UAE)で10件、海峡付近および湾外(オマーン沖、フジャイラ沖)でそれぞれ4件起こった。大半が「未特定の飛翔体(unknown projectile)」、つまり小型ミサイル、ドローンあるいは水上ドローン(USV)によるものだ。いずれも比較的軽微な被害に止まっているが、ペルシャ湾最奥部からオマーン湾まで広範囲に渡る。JMICによれば、米・英など西側関連の攻撃対象は数件のみで、大半は米国にもイスラエルにも関係がない。すなわち、被害はいずれの船舶にも及び得る。

さらに3月10日には、ホルムズ海峡内でイランが少数の機雷敷設を開始し、米軍がイランの機雷敷設艦16隻を破壊、と伝えられた。

ペルシャ湾内外における戦争リスクが一気に膨張したことで、既往の船舶戦争保険が一斉に即時修正を余儀なくされ、制度全体が一時的な停止状態に陥った。3月2日に再保険者からの通告を受け、大手海運保険団体が相次いでペルシャ湾および隣接海域での戦争リスク補償を解約。4日にはロイズなどによる戦争保険協議機関・JWC(Joint War Committee)がその「指定海域」をクウェート、バーレーン、カタール、オマーンを加えたペルシャ湾・オマーン湾全海域に拡大した。これを受け、航海ごとに保険料の大幅引き上げが順次再設定される過程にある。船員・船舶への脅威に加え、船舶保険という金融システムへの衝撃が、全面的海峡封鎖の要因として働いた。

【記者通信/3月11日】福島原発事故から15年 浮上する「廃炉」以外の選択肢

福島第一原発(1F)事故から15年が経過した。原発再稼働や運転期間の延長、建て替えなど、原子力の活用に向けて歯車は回りだした。一方で遅滞を取り戻せずにいるのが1Fの廃炉だ。政府と東京電力は事故直後に示した「2051年までの廃炉完了」という目標を維持している。しかし、この目標を「現実的なものに見直すべきだ」とする意見が目立ち始めている。

東電は現時点で51年目標を変更しない方針だ。その背景には、現場環境の改善がある。処理水の海洋放出は計画通り行われ、作業エリアの大半で一般作業服での作業が可能になった。使用済み燃料プールからの燃料取り出しも進展し、事故直後のような緊急対応の段階は脱した。燃料デブリ取り出しに集中できる時期を迎えつつある。

それでも、51年目標は非現実的だとする声は根強い。事故直後に示された中長期ロードマップでは、21年までにデブリ取り出し開始を予定していた。しかし、4年以上経過した今、推計880tのうち、取り出したのは試験回収での0.9gにすぎない。格納容器内部の状況把握、デブリの性質の解析、遠隔ロボットの技術開発など課題山積で、回収開始から全量取り出しまで68~170年かかるという試算もある。これでは51年どころか22世紀に突入してしまう。

NHKは11日のウェブ版記事「福島第一原発事故15年 2051年までの廃炉 実現の見通し立たず」で〈現在は核燃料デブリの取り出しを終える具体的な時期は示されておらず、政府と東京電力が掲げる2051年までの廃炉の完了を実現できる見通しは立たない状況となっています〉と伝えた。

廃炉か、それとも……

こうした現実を前に、廃炉を巡る議論は「いつ終わるか」だけでなく、「どう終わらせるか」にも広がっている。10日には毎日新聞がウェブ版に「原発事故の跡地利用に『遺構』支持する声 『議論早すぎる』の指摘も」との記事を公開。1Fの一部を原爆ドームのように「遺構」として残すことを提案する大学教授の声などを取り上げた。

朝日新聞も11日の朝刊オピニオン欄で、〈更地にして返してもらえると思っている福島県民も多いでしょうが、国と東京電力は廃炉の最終形をあいまいにしたままで、不誠実です。(中略)現実的で具体的な工程を練り直すべきではないでしょうか〉と、福島県いわき市を拠点に活動する地域活動家のインタビューを掲載した。

被災地である福島への責任として廃炉以外の選択肢を模索することは、これまで世論的にタブー視されてきたが、左派系の有力メディアがそこに目線を向け始めたことは、ある意味で驚きだ。

全量取り出し、石棺化、遺構化──。それぞれ技術的困難性や周辺地域の再利用の制約、放射線量の維持管理などの課題がある。1F処理の方針は東電の再建に直結する話で、高度な政治的判断が必要だ。廃炉にかかる費用はすでに5.2兆円が確定しており、政府が試算した8兆円枠を超えることは不可避とみられている。それだけに「廃炉→更地」化を諦めるのであれば、時期は早いに越したことはない。そう遠くない将来、国民的議論が巻き起こりそうな予感がする。

【時流潮流/3月10日】ガスPLがつなぐ欧州との絆 ウクライナ戦争5年目に

ロシア軍の侵攻で始まったウクライナ戦争がこの2月、5年目に入った。トランプ米政権が仲介して和平実現を探る動きが続く。だが、ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を放逐するまで戦争継続を望む姿勢を崩していない。戦争終結が見通せない中、欧州諸国はエネルギー面での脱ロシアに取り組み、エネルギー事情は大きく変わりつつある。

ウクライナの首都キーフ(キエフ)の聖ソフィア大聖堂。ロシアとの戦争は5年目に入った=筆者撮影

脱ロシアの取り組み筆頭は天然ガスだ。「シェール革命」により、2009年にロシアを抜いて世界一の産ガス国となった米国から液化天然ガス(LNG)がものすごい勢いで欧州に流れ込んでいる。

ウクライナ戦争前、欧州はガス調達量の約4割をロシア産のガスに依存していた。だが、輸入停止に踏み切る国が相次いだことで、24年は11%にまで減少した。ロシア産に代わり米国産LNGがシェアを高め、24年に約4割を突破、25年には約6割に達した。

エネルギー安全保障の観点から見れば、ロシアであろうと、米国であろうと1国に依存する態勢は脆弱性がある。とはいえ、日本も原油の多くを中東に依存している。それぞれの国に、それぞれの事情がある。

米国産LNGは、タンカーに積まれ大西洋を横断して欧州各国の港に運ばれる。そこれから内陸諸国にパイプライン(PL)で輸送される。LNG受け入れの中心拠点のひとつが、地中海に面するギリシャだ。ギリシャは、エネルギー分野ではこれまで周縁国のひとつに過ぎなかったが、今や米国産LNGを受け入れる欧州有数のハブとして、重要なポジションを得ている。

浮体式のLNG受け入れ施設を整備して以後、LNGの輸入を急激に増やした。米国産LNGのシェアは、24年の4割から25年は8割に増え、輸入総量は20年の60億立方メートルから、24年には170億立方メートルに増えた。うち110億立方メートルを周辺諸国に「再輸出」しており、ギリシャはエネルギーの「純輸出国」となった。

エネルギー調達ルートにとどまらない「垂直回廊」

このギリシャから、中東欧諸国やウクライナにまで米国産LNGをパイプラインで運ぶプロジェクトも始まっている。ギリシャから垂直に北上して、ブルガリア、ルーマニアを経由し、モルドバ、ウクライナに至るルートと、枝分かれしてハンガリー、スロバキアに運ぶルートで、「垂直回廊」と呼ばれている。

新たに敷設するパイプラインはごくわずかで、既存のパイプラインを逆流させたり、容量を増やしたりすることで組み立てる。欧州連合(EU)は昨年5月、LNGも含めたロシア産ガスの調達を、27年末までに段階的に禁止することに合意している。「垂直回廊」は、ロシア産ガスの供給が途絶える諸国にガスを送る切り札と位置づけられている。

ウクライナにとって「垂直回廊」は、単なるエネルギー調達ルートという意味だけにとどまらない。欧州との関係を強固にする絆と期待されている。ウクライナには巨大なガス貯蔵施設があり、非需要期の夏にガスをため込み、需要期の秋以後に供給量を増やすシステムを築ける。それを活用すれば、欧州側にとっても受給調節や安定供給の面でメリットが大きい。

ロシアにとっては、稼ぎ頭だった欧州向けガス輸出が止まる事態は財政的に痛い。戦費調達にも支障が出そうだ。「垂直回廊」の整備は、ロシアへのボディーブローとなるかもしれない。

【論考/2月25日】「分断の時代」映す国際石油市場の勢力図 脱石油戦略に見る中国のしたたかさ

米国とイランの軍事衝突の危険が高まっている。米国は、昨年6月「12日間戦争」で米・イスラエル側が得た戦力優位の固定化を図るべく、イランに対し核開発中止に加え弾道ミサイル開発制限、および親イスラエル武装勢力支援の中止を迫り、2つの空母打撃群をアラビア湾、地中海に展開。2003年の対イラク戦争以来最大の航空兵力を集結させ、軍事的威圧を加えている。2月初旬以降、米国とイランの核協議が断続的に続く一方、イランはホルムズ海峡で軍事演習を行うなど、ペルシャ湾・アラビア海での軍事行動を辞さぬ構えを見せている。

ペルシャ湾が戦域と化す恐れ、あるいは米国の安全保障能力への不信は、域内産油国に生産・輸出増大を急がせる一方、消費国には政策的な脱・省石油の加速化を促すはずだ。事実、既に昨年の国際石油需給に、その新たな潮流の兆しが現れている。

昨年は石油供給過剰が鮮明化し、ブレント原油価格も第4四半期は平均・バレル当たり65ドルを下回り、中東情勢の如何に関わらず国際石油市場は安定し得るという楽観論も多く見られた。しかし事態はむしろ逆だ。石油供給途絶の危険性が高まる中で、消費国(端的には中国)は脱・省石油を加速化し、中東産油国は生産・輸出増を急ぎ、その結果として供給過剰が生じた。国際石油市場は深刻化する世界の分断を映し出していると見るべきだ。

以下、需要側では中国の電気自動車(EV)普及による石油需要の下方屈曲、供給側ではサウジ主導のOPECプラス「有志国」による原油増産に焦点を当て、主要な国際石油需給動向を整理する。