10月21日の衆議院本会議で高市早苗氏が内閣総理大臣に指名され、「高市政権」が誕生した。20日には自民党と日本維新の会が、議員定数の1割削減や副首都構想の実現などを盛り込んだ連立政権合意書を締結。エネルギー分野ではメガソーラー規制や原発再稼働の推進、次世代革新炉・核融合開発の加速化などを明記した。また臨時国会でのガソリン税の旧暫定税率廃止や、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算成立を打ち出した。

合意書の冒頭には〈「日本再起」を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、「日本の底力」を信じ、全面的に協力し合うことを決断した〉とある。この言葉選びにピンと来た人もいるはずだ。
「日本再起」は自民党の政権奪還前夜、2012年の総裁選で安倍晋三元首相が用いたキャッチコピーだ。一方、「日本の底力」は麻生太郎氏が好んで使うフレーズ。首相として挑んだ07年の衆院選に大敗し、政権を民主党に明け渡した麻生氏だが、所信表明演説や首相退任時の会見で「私は、日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことはありません」と語っていた。安倍・麻生両氏は盟友であり、首相・副首相として自民党の黄金時代を築いた。高市首相の両氏に対する思いや配慮が垣間見える。
脱炭素よりも安定供給・経済安保
さてエネルギー政策だが、高市首相と自民党の小林鷹之政調会長のカラーの強調、そして公明カラーの脱色を感じさせる内容となっている。その象徴は原子力政策の前進とメガソーラー規制だ。
まず原子力では、原発再稼働、次世代革新炉・核融合の開発加速化を盛り込んだ。高市・小林両氏は核融合開発に積極的で、維新も7月の参院選の公約に明記していた。一方、連立を離脱した公明党は公約に原子力に関する記述はなく、第7次エネルギー基本計画策定時にも原発新設の要件に縛りを設けるようブレーキをかけた。自民・維新の組み合わせになり、原子力政策に対する熱量は高まりそうだ。
メガソーラーは来年の通常国会での法的規制を明記した。
〈わが国が古来より育んできた美しい国土を保全する重要性を確認し、森林伐採や不適切な開発による環境破壊および災害リスクを抑制し、適切な土地利用および維持管理を行う観点から、26年通常国会において、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を法的に規制する施策を実行する〉
高市氏は総裁選の出馬会見で「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」と規制を強く訴えた。小林氏も「太陽光パネルは限界に達している」と述べていた。そのほかでは、地熱など日本が優位性を持つ再生可能エネルギー開発の推進、鉱物資源を含めた国産海洋資源開発を取り入れた。こちらも経済安全保障相を歴任した高市・小林コンビの強い意向が感じられる。
石破政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー政策の項目で冒頭に出てくるのは「2050年カーボンニュートラル(CN)、30年温室効果ガス削減目標の達成」だった。ところが、今回の合意書では「脱炭素」「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。
電気ガス料金補助は4度目の復活か
物価高対策としては、臨時国会中に①ガソリン税の旧暫定税率廃止、②電気ガス料金補助をはじめとする物価高対策の実現(補正予算成立)──の2点を盛り込んだ。①は1兆円(軽油引取税も対象となれば1.5兆円)の代替財源の確保を巡り、与野党協議が行われている。財源の一部について自民党は「賃上げ促進税制」など効果が疑問視される租税特別措置や高額補助金の見直しなどで対応するとみられる。
補正予算での物価高対策は既定路線だが、わざわざ「電気ガス料金補助」を名指しした。補助は23年1月~24年5月まで実施したが、酷暑と厳冬を理由に24年夏→冬→25年夏と3度復活していた。業界関係者の多くは「政治の道具にされている。きっと今年の冬もやるのだろう」と諦め気味だったが、案の定の結果となりそうだ。高市氏の言う「積極財政」とは本来、成長分野や戦略産業に国が集中投資する賢い支出(ワイズ・スペンディング)を意味するはずだ。しかし、新型コロナウイルス禍以降続く補正予算の肥大化に歯止めがかかる気配はない。
連立合意にあたり、維新の吉村洋文代表は「外交・防衛・安全保障・国家観など基本的な価値観を共有することができた」と語った。合意書に書かれた政策の実行力を疑問視する向きもあるが、吉村氏が言うように多くの価値観の一致が見られる。同時に、公明とは外交安保・憲法・エネルギーなどの考え方を共有できていなかったことが改めて浮き彫りとなった。

















