第2次トランプ・米政権は「米国第一」を掲げて登場した。自国優先の主張は、裏返せば国力の限界に対する強い感覚の表明である。国際秩序維持への米国の関与に優先順位を付け直し、それに応じて同盟・友好国に応分の責任分担を求め、共通の脅威に対する備えを再構築することが、その基底にある考え方であろう。換言すれば、他の同盟諸国が積極的により大きな役割を担わなければ、「米国第一」は成り立たない。この意味で、本来「米国第一」の成否は、新たな国際秩序に向けて、同盟・友好諸国とより率直で緊密な協調関係を築くことに掛かっている。自国の国力の限界、という認識から始める以上、多国間協調の重要性がむしろ強まるのが、当然なのだ。同盟諸国にとっても、これは本来、過剰な対米依存を脱して、自国・地域の主体性を回復する機会である。米国の負担軽減に合わせ、自国の役割と影響力を強化し得る。

乱脈な米外交政策
しかし、目下のところトランプ政権は、理不尽な施策を傍若無人に、とりわけ同盟・友好諸国に対して次々に押し付けている。国力の限界を前提とする「米国第一(America First)」を、「米国最強(America as No.1)」と言わんばかりの姿勢で追求する自己矛盾に陥っている。
パナマ運河奪還、グリーンランド買収、ガザ地区の「所有」とパレスチナ住民の追放などの無軌道なトランプ大統領発言。中国に加え、自国の自由貿易協定国であるはずのカナダ、メキシコに対する高関税。さらには各国一律に鉄鋼・アルミ製品関税を発動、4月には自動車、相互関税も課す動きにある。
対中国追加関税は既に2次に及び、対カナダ、メキシコ関税は期日直前に1カ月延期。結局3月4日に実行に移すと、その2日後には自動車を含む米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)適合品目全般を4月2日まで除外、と方針が二転三転する。
ロシアのウクライナ侵略に関しては、2月中旬にウクライナ及び欧州の頭越しにロシアと停戦交渉に入り、国連ではロシアによる全面侵略を明記しウクライナの主権・領土保全をうたった総会決議を棄権。代わりに安保理で紛争の早期終結のみを求める、実質的にロシア寄りの決議案を提出、可決させた。トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領を公然と「独裁者」と呼び、ウクライナの重要鉱物資源の権益譲渡を支援の見返りとして要求。2月末の両者による首脳会談が報道陣の眼前で決裂した数日後には、ウクライナへの武器・軍事機密情報供与を中断。これは3月11日にウクライナが米提案の停戦案を受諾して再開されたが、この間にロシア軍は同国西部・クルスク州での軍事的優位を一気に強めたと報じられている。
同盟諸国に広がる対米不信と危機感
同盟諸国は米国への不信・警戒を強め、対抗・対応措置を取りつつある。カナダは段階的な対米報復関税を発動。オンタリオ州政府も独自で米向け電力料金の上乗せを決め、これはその翌日に米側の再報復措置ともども回避されたが、同州からの対米電力供給遮断にまで発展する危険もあった。トルドー元首相はトランプ大統領が本気でカナダ併合を狙っているとまで発言。カナダが米国を脅威として身構える、異常事態である。EUも段階的な対米報復関税を発動。今やカナダとEUは、中国と同様に対米報復に立ち上がる側にいる。
トランプ政権の目論見がどうであれ、米国が課す広範な関税は国内物価を押し上げ、また各国の報復関税は当該品の輸出を阻害して米国の生産者に打撃を与える。それが顕在化するのは時間の問題であり、不満が政権支持層にまで広がれば、稀代のポピュリスト政治家トランプ氏であるだけに、高関税政策を一気に取り下げる展開も十分あり得よう。しかしそれまでの間、米国と同盟諸国との間の相互不信は一層深まる。
ウクライナを巡り、トランプ政権はロシアによるクリミア併合を既成事実として容認する姿勢を取る。米露間の協議も、大筋でロシア側の要求する東部4州併合の容認、ウクライナの中立化及び非武装化の方向で、進められると観測される。事実、3月18日の米露首脳電話会談でも、停戦合意は対エネルギー施設に限られ、交渉の主導権がロシア側にあることを伺わせた。いわばウクライナが米国に公然と見捨てられつつあり、欧州の受ける衝撃は大きい。
3月6日、欧州理事会(EU首脳会議)はフォンデアライエン欧州委員長による「欧州再軍備計画」を概ね承認。これはEU財政ルールの特例を発動してまで約8000億ユーロの防衛費確保を図るもので、声明では「変動する環境下に於ける、ロシアによるウクライナ侵略戦争とその欧州および世界の安全に対する影響」をEUの存亡に関わる問題と規定している。これに符合して、3月18日にはドイツ連邦議会が防衛費の大幅増額を目的に、「債務ブレーキ」を緩和する憲法改正案を可決。次期首相就任が確実視されるメルツ・CDU党首も、欧州の「米国からの独立」を漸次目指すとしている。