【記者通信/10月21日】高市政権のエネ政策は脱公明 原子力推進にメガソーラー規制


10月21日の衆議院本会議で高市早苗氏が内閣総理大臣に指名され、「高市政権」が誕生した。20日には自民党と日本維新の会が、議員定数の1割削減や副首都構想の実現などを盛り込んだ連立政権合意書を締結。エネルギー分野ではメガソーラー規制や原発再稼働の推進、次世代革新炉・核融合開発の加速化などを明記した。また臨時国会でのガソリン税の旧暫定税率廃止や、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算成立を打ち出した。

合意書の冒頭には〈「日本再起」を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、「日本の底力」を信じ、全面的に協力し合うことを決断した〉とある。この言葉選びにピンと来た人もいるはずだ。

「日本再起」は自民党の政権奪還前夜、2012年の総裁選で安倍晋三元首相が用いたキャッチコピーだ。一方、「日本の底力」は麻生太郎氏が好んで使うフレーズ。首相として挑んだ07年の衆院選に大敗し、政権を民主党に明け渡した麻生氏だが、所信表明演説や首相退任時の会見で「私は、日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことはありません」と語っていた。安倍・麻生両氏は盟友であり、首相・副首相として自民党の黄金時代を築いた。高市首相の両氏に対する思いや配慮が垣間見える。

脱炭素よりも安定供給・経済安保

さてエネルギー政策だが、高市首相と自民党の小林鷹之政調会長のカラーの強調、そして公明カラーの脱色を感じさせる内容となっている。その象徴は原子力政策の前進とメガソーラー規制だ。

まず原子力では、原発再稼働、次世代革新炉・核融合の開発加速化を盛り込んだ。高市・小林両氏は核融合開発に積極的で、維新も7月の参院選の公約に明記していた。一方、連立を離脱した公明党は公約に原子力に関する記述はなく、第7次エネルギー基本計画策定時にも原発新設の要件に縛りを設けるようブレーキをかけた。自民・維新の組み合わせになり、原子力政策に対する熱量は高まりそうだ。

メガソーラーは来年の通常国会での法的規制を明記した。

〈わが国が古来より育んできた美しい国土を保全する重要性を確認し、森林伐採や不適切な開発による環境破壊および災害リスクを抑制し、適切な土地利用および維持管理を行う観点から、26年通常国会において、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を法的に規制する施策を実行する〉

高市氏は総裁選の出馬会見で「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」と規制を強く訴えた。小林氏も「太陽光パネルは限界に達している」と述べていた。そのほかでは、地熱など日本が優位性を持つ再生可能エネルギー開発の推進、鉱物資源を含めた国産海洋資源開発を取り入れた。こちらも経済安全保障相を歴任した高市・小林コンビの強い意向が感じられる。

石破政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー政策の項目で冒頭に出てくるのは「2050年カーボンニュートラル(CN)、30年温室効果ガス削減目標の達成」だった。ところが、今回の合意書では「脱炭素」「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。

電気ガス料金補助は4度目の復活か

物価高対策としては、臨時国会中に①ガソリン税の旧暫定税率廃止、②電気ガス料金補助をはじめとする物価高対策の実現(補正予算成立)──の2点を盛り込んだ。①は1兆円(軽油引取税も対象となれば1.5兆円)の代替財源の確保を巡り、与野党協議が行われている。財源の一部について自民党は「賃上げ促進税制」など効果が疑問視される租税特別措置や高額補助金の見直しなどで対応するとみられる。

補正予算での物価高対策は既定路線だが、わざわざ「電気ガス料金補助」を名指しした。補助は23年1月~24年5月まで実施したが、酷暑と厳冬を理由に24年夏→冬→25年夏と3度復活していた。業界関係者の多くは「政治の道具にされている。きっと今年の冬もやるのだろう」と諦め気味だったが、案の定の結果となりそうだ。高市氏の言う「積極財政」とは本来、成長分野や戦略産業に国が集中投資する賢い支出(ワイズ・スペンディング)を意味するはずだ。しかし、新型コロナウイルス禍以降続く補正予算の肥大化に歯止めがかかる気配はない。

連立合意にあたり、維新の吉村洋文代表は「外交・防衛・安全保障・国家観など基本的な価値観を共有することができた」と語った。合意書に書かれた政策の実行力を疑問視する向きもあるが、吉村氏が言うように多くの価値観の一致が見られる。同時に、公明とは外交安保・憲法・エネルギーなどの考え方を共有できていなかったことが改めて浮き彫りとなった。

【SNS世論/10月17日】高市総裁支持を巡る過度な期待への懸念


高市早苗氏が10月、自民党総裁に選出された。安倍晋三元首相の継承を掲げ、保守派の政治家だ。SNSでは歓迎の声が目立つ。女性総裁ということで「日本のサッチャー」と、保守政治の象徴となっている英国政治家に例える人も多い。いわゆるリベラル色が強い公明党と、高市新総裁になって連立が解消したことも、保守派は好意的に受け止めた。

日本のSNSは右、つまり政治思想では保守系の影響が強いようだ。日本の既存のオールドメディアが左、つまりリベラルに偏った報道をいまだに続けている。その反動で保守派がSNSで不満をぶちまけるからかもしれない。SNSの中で政治主張の多い「X」を観察すると、左の活動家の人が熱心に書き込んで、投稿の量は多い。しかし投稿する人の数は右の人が多いようだ。もちろん、政治思想を右と左に分けるのは単純すぎる分類であり、あくまで筆者の受けた印象と受け止めてほしい。

そしてSNSを観察していると、高市氏の自民党総裁への選出で好意的な意見が目にとまるため、日本が変わると思い込んでしまいそうだ。それは一種の錯覚だと思う。

◆高市氏の勉強好き、エネルギー業界で好印象

SNSでは問題ごとに、また同じ意見を持つ人ごとに、塊(かたまり、クラスター)ができている。「エネルギークラスター」「再エネクラスター」「原子力クラスター」も、緩やかなまとまりができている。こうしたエネルギー関係の人は、揃って高市氏に期待している。

高市氏はかなりエネルギー問題を勉強している。やや細かいことに関心が向きがちであるが、これまで核融合発電や新型原子炉の支援の発言をしている。さらに総裁選の公約では新型太陽光発電技術「ペロブスカイト太陽電池」に言及し、再エネ関係者も驚いていた。現実でも、筆者の属するエネルギー業界の人々も高市さんに期待する声が大きい。「政治主導で電力会社をいじめてきた。それが変わる」との感想を述べる人もいた。

ところが、そうしたクラスターから外れると、評価は手厳しい。あるリベラル系の評論家が「少数与党で公明党が連立離脱すれば、高市さんが首相になれないのに。なんで喜んでいるのか」と皮肉を込めてXで述べていた。また英国のトラス政権は、減税を政策にしたが、その財源の根拠がなく国債の急落など金融市場が混乱し、政権発足からわずか44日で2022年10月に総辞職した。トラス首相は女性だった。辛口批評で知られるある経済学者は現在、金利が上昇(国債が下落)して動揺をする日本の国債市場を見ながら「高市はサッチャーではなく、トラスになりそうだ」と皮肉を述べていた。

10月15日段階では、野党統一候補として、国民民主党の玉木雄一郎代表が、野党統一の首相候補になる可能性も出ている。誰が首相に選ばれるか情勢は流動的だ。高市氏がそもそも首相になれない可能性もあり、エネルギークラスターでの期待の広がりも、無駄になってしまうかもしれない。

◆「床屋政談」が人間の認知に影響を与える

SNSは、今の社会での人々の声がリアルタイムで見えて面白い。また問題の当事者、渦中の政治家が発言する。前述のように既存メディアが、どうも本当のことを言わない状況では、注目され重視されるのは当然だ。

しかし、巨大なおしゃべりの場であり、そこでの政治や政策談義は、一種の「床屋政談」だ。床屋政談とは、床屋に来た客が散髪をして貰いながら、店主と噂話でもするように無責任な話をすること。それは現実に影響をかすかに与えるかもしれないが、現実そのものではない。SNSは物事そのものではなく、情報を媒介するものにすぎない。

また、情報のクラスターができるのは自然なことだが、同質の意見が集まりすぎると、それがあたかも真実のように思えてしまうことがある。10月の自民党総裁戦では、SNSや事前調査で優勢が伝えられた候補の小泉進次郎衆議院議員の取り巻きが、前日に祝勝会をやったと週刊誌に伝えられている。これはそうした見誤りの一例だろう。現実が、人々の噂、SNSの通りに動くとは限らない。

高市氏が首相になったとしても、彼女がこれまで関心を示してきたエネルギー問題に取り組むか、もしくは取り組んで実現できるかはわからないのだ。もしかしたら、今でも反原発を掲げる、立憲民主党やれいわ新選組の参加する連立政権が、国民民主党の玉木代表を首相として成立してしまうかもしれない。

エネルギー産業の人は、高学歴で賢い人が多い。それでも高市氏の総裁への選出後、過度な期待と、エネルギー問題への政治による支援など、楽観的な好影響の予想を唱える人が増えている。筆者は「何度も政治には裏切られたではないですか」と繰り返し、釘を刺している。

◆認知の歪みを警戒して、情報を集める

そうした外的な要因に期待することなく、左右されることなく、目先の自分ができることをやる。SNSの影響力が増している今こそ、こうした当たり前のことに注力するべきだ。SNSは有効な道具になる一方で、時として人の判断を惑わせてしまう危険さもある。私たちの大半の人間は一般人で政治や政策を動かすことはできない。もしかしたら、高市氏も玉木氏も政治を動かすことはできないかもしれない。

SNSには格言を流すアカウントがたくさんある。その中で次のような言葉が流れてきた。

「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を。そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」

アメリカの神学者ラインハルト・ニーバー(1892–1971年)によるものという。私たちは、SNSで流れてくる心惹かれる情報に右往左往するのではなく、政治家のように政治を語るのではなく、目の前の仕事に向き合うべきだろう。エネルギーをめぐる問題に対してもそうあるべきだ。

【記者通信/10月9日】自民総裁選で約3000の無効票 そこにあった名前とは


10月4日に投開票された自民党総裁選は、党員・党友票の圧倒的な得票から高市早苗氏の勝利に終わった。フルスペック形と呼ばれる今回の総裁選だったが、改めて党員・党友票の重要性が認識されたに違いない。下馬評が高かった小泉進次郎氏は党員・党友票が獲得できず再び敗退する憂き目に遭った。

その小泉氏を巡って、実は党員・党友票の無効票に「小泉孝太郎」という記名が多かったという話が聞こえている。進次郎氏よりも兄貴の人気が一枚上だったかと納得してしまいそうになる。

関係者によれば、今回の総裁選での無効票は約3000票あった。どの選挙でも無効票というのは存在するが、「思わず笑ってしまった」と話すのは、開票作業に携わったスタッフの平川愛子さん(仮名)。

都内で開票作業をしていたというが、「またかまたかと小泉孝太郎が出てきました」と振り返る。平川さんは「孝太郎の名前が次々と出てくるのを見て、新総裁には孝太郎の方がいいかもしれないなんて考えも頭をよぎりました」と苦笑する。

小泉純一郎氏の世襲が進次郎氏ではなく、孝太郎氏だったとしたら、親子2代の首相が誕生していたかもしれない。

小泉孝太郎のほかに多かったのは「石破茂」だったという。「石破さん辞めないでという声は党員の中にもあったということでしょう。根強い人気を感じました」(平川さん)

「石破降ろし」を画策した議員はこの現実をどう受け止めるのだろうか。

【識者雑感/10月8日】高校生が考える将来の産業像を披露 IEEIが2回目の発表会


山本隆三/国際環境経済研究所副理事長・所長

NPO法人国際環境経済研究所(IEEI、小谷勝彦理事長)は、10月5日に福島市において「高校生が考える2040年から50年の産業界の姿」をテーマに、高校生による研究発表会を開催した。2月には福井県敦賀市において「高校生が考える2040年のエネルギー供給」をテーマに発表会を開催しており、今回は2回目の開催になる。

今回の発表会には福井学園福井南高校、静岡県立三島北高校、静岡県立焼津中央高校の3校が参加した。それぞれ研究対象の産業として、①福井南高校が自動車、②三島北高校が電力、③焼津中央高校がセメント――を選択した。産業界の関連する団体、日本自動車工業会、セメント協会、電気事業連合会に協力いただき、各高校において出前授業を実施するとともに、研究活動を支援いただいた。

3校それぞれが2050年の産業の姿を考え発表した

発表会では、福井南高校は、車の自動運転が行われている同県永平寺町での具体例を挙げ、「電気自動車を中心にした二酸化炭素を排出しない自動車が自動運転で運用される世界」の姿を描いた。

三島北高校は、「AI(人工知能)により電力需要が伸びる中での非炭素電源による電力供給の姿」を、学校内でのアンケートなどに触れながら説明し、浮体式原子力発電の可能性にも言及した内容を「AI(アイ)は地球を救う」として発表した。

焼津中央高校は、「セメント業界における二酸化炭素排出対策として自己治癒コンクリートによるライフサイクルを通しての削減案」を示し、技術の活用による輸出市場の獲得の可能性にも触れた。

産業界・高校生同士で熱心な質疑応答 女川原発も視察

各校のプレゼンテーション後には、産業界の参加者から多くの質問が出た。高校生からも他校のプレゼンテーションに関する質問が出され、熱心な質疑応答があった。

産業界からの参加者全員による投票の結果、最優秀賞には三島北高校、優秀賞に焼津中央高校、理事長賞に福井南高校が選ばれた。

発表会の前日4日には、参加者全員が宮城県女川町の震災遺構を見学した後、女川原子力発電所のPR館を訪問し原子力発電所の安全対策などについて学んだ。

女川の震災の語り部の方から説明を聞く参加者
女川原子力PRセンターでの様子

【記者通信/10月8日】改造EVで有事に電力供給 越谷市・NTT東・イハシが連携


埼玉県越谷市とNTT東日本、石油・ガス販売などを手掛けるイハシグループのイハシライフは、可搬型の交換式バッテリーを搭載したEVを災害時の電力供給に活用する取り組みを始める。NTT東がEVを所有し、イハシライフが運用する太陽光発電設備(PV)などから有事にバッテリーに充電、避難所へ運搬して供給する仕組みだ。東日本エリアでは初のモデルとなる。地域のレジリエンス向上、脱炭素、さらには地域経済循環の向上に資する新たなモデルを目指す。

協定式に臨む(左から)井橋社長、福田市長、霜鳥支店長

9月29日、3者で協定を締結した。市は昨夏、民間事業者10者と「こしがや脱炭素コンソーシアム」を設立しており、今回の取り組みはそこでの検討の際に出てきたアイデアだ。

特長は、ガソリンエンジン車を改造したコンバージョンEVを活用する点。エンジンや燃料タンクを取り除き、交換式の可搬型バッテリー(1台当たりの蓄電容量11.84kW時)やモーターを取り付けた。

災害用蓄電池は未使用なまま保管しているケースがあるが、本件では平時はNTT東の社用車として運行し、有事の際に避難所に貸し出す。屋根貸しでイハシが所有する近隣中学校のPV(49kW)を電源に活用することを想定し、スマートフォン約1180台の充電ができる規模という。まず車1台、バッテリー2台で11月から運用を始める。

これまでにNTT西日本などが環境省事業で同様の取り組みを実証しており、今回はその成果を踏まえ東日本で初めて実施することとなった。

地域経済循環に貢献 都市近郊型のモデルの一つに

車両の改造はイハシが担当した。市販のEVを購入するのではなく、地域のガソリン車を地場の企業がEVに改造することで、「長い目線では地域循環型の経済が作られる」(NTT東日本埼玉事業部の霜鳥正隆・埼玉南支店長)といった狙いもある。

イハシがコンバージョンEVに改造し、平時はNTT東の社用車として活用する

市では別のEVメーカーとも災害時の電力供給で協定を結んでいる。そこに今回の協定も加わり、多様な形でレジリエンスの向上を図る構えだ。福田晃市長は「災害が頻発、激甚化する中、災害対応を多重化し構えておくこと、特に地域の企業と組んでいくことは、市民の安心感につながる」と強調した。

イハシの井橋英蔵社長は、事業者間の協業の形やEVの形態、そこへの再エネの組み合わせなどさまざまなケースがあり得るとし、「こうした組み合わせを横に広げていけば、越谷市のような都市近郊型でもう一段CNの可能性が広がってくる。そこに当社として関わっていきたい」と展望した。

【記者通信/10月7日】ETSは成長志向型の制度へ 経産省GXグループ長が強調


経済産業省の伊藤禎則・脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長が10月2日、専門紙記者団の取材に応じ、排出量取引制度(ETS)やGX戦略地域などの重点施策に関する見解を述べた。来年度のスタートを予定し制度設計の議論が進むETSに関しては、当初から提唱するように「成長志向型」の制度とすべくさまざまな仕掛けを導入していく考えを示した。

伊藤氏は、「GX経済移行債による20兆円の先行投資とカーボンプライシングが一体であることが重要」だと強調。ETSではカーボンプライスは当初低い価格とし、徐々に上昇させる。取引価格の上限・下限価格を示し、5~10年単位で上昇トレンドが予見できる仕組みとし、具体的な価格水準は、国民や産業への影響、他国の価格水準などを踏まえて毎年決める形を想定している。

制度設計では、産業・業種ごとの特性を踏まえたきめ細かな基準づくりと、CO2多排出産業の海外移転(リーケージ)を防ぐ仕組みを重視する。特に後者については、「ETS導入でカーボンリーケージがあってはならず、リーケージ対策は相当しっかりやる」と説明。加えて、EU‐ETSにない制度として、GX関連の研究開発投資に積極的な事業者には一定の範囲で割当量を調節する仕組みを導入する。来年度のスタートに向け、年内に主要論点を整理する方針だ。

他方、発電事業者に関しては2033年度から排出枠を一部有償化する方針だ。事業者ごとの電源構成によってCO2削減のハードルに差があり、大幅削減が難しい事業者にカーボンプライスの負担が過度にかかれば、さらなる火力電源縮小の圧力となりかねない。その点、伊藤氏は「ベンチマークの設定が大事で、電力会社それぞれの賦存状況や電源構成を丁寧に踏まえていく必要がある」としつつ、石炭火力の縮小方針も踏まえて「全体のペースはよく考えていく」と述べた。

ベンチマークに加え、取引価格の上下限価格の設定や、カーボンクレジットの活用なども駆使し、「生成AIやデータセンター、デジタル化などで電力需要が増える見込みの中、安定供給に支障が出るような形にはしない」と言及した。

投資様子見モードを打破 GX戦略地域は年内公募開始目指す

一方、米トランプ政権のさまざまな政策変更で、企業がGX投資の様子見モードになりつつある。そこを打破する仕掛けとして「GX戦略地域制度」を創設し、3種類の重要プロジェクトを推進する。①コンビナート等の再生でGX新事業創出、②データセンターの集積、③脱炭素電源の活用で産業団地などを整備――といった三類型で、「この三つを切り口としてGX投資をもう一段、来年にかけて進めていく。GX戦略地域の提案を自治体や事業者から10月いっぱい募っており、早ければ年内に公募を開始したい」と説明した。

採択された際のメリットを現在検討中で、例えばコンビナート再生で土壌汚染対策法に基づく調査の合理化などを求める要望が出ており、「国家戦略特区との連動も現在検討中」とした。他に、設備投資支援や、DC集積での電力系統への優先的なアクセス確保などが検討されている。

【記者通信/10月3日】 Looopが新規事業に参入 「ホームIoT」×「電力」でシナジー創出


新電力のLooop(東京都台東区)は10月2日、8月末にIoTベンチャーのグラモ(東京都豊島区)を完全子会社化したことを機にスマートホーム事業に参入し、2032年には契約顧客数を250万件に拡大すると発表した。同社は、卸電力市場価格に合わせて30分ごとに料金が変動する「スマートタイムONE」を軸に、低圧電気契約数を足元で34万件まで伸ばしてきた。今後はこの料金プランとグラモが開発した住宅用IoT端末「ナインドット」を組み合わせ、さらなる利用者の拡大を狙う。

スマートホーム事業参入への意気込みを示した藤田COO(左)

「ナインドット」は、インターホンやHEMS(家庭用エネルギー管理システム)モニターなど50の機能に対応し、提案型AI「グラモン」を搭載する。ユーザーは、よく使う機能を9つのショートカットボタンに登録でき、ワンタッチで直感的利用可能だ。また、グラモンは利用者の生活データを解析し、ライフスタイルに合った電気利用を提案するほか、各種センサーやカメラを活用してペットや子供の見守り機能なども備える。

住宅用IoT端末「ナインドット」は、誰でも簡単に操作できる仕様となっている

Looopは新築の集合住宅や分譲マンションを中心に、ナインドットと市場連動型料金プランを組み合わせたパッケージを訴求していく方針で、機器は32年までに100万台の導入を、低圧契約件数は250万件にまで引き延ばす目標を示す。藤田総一郎取締役CОO(最高執行責任者)は2日に行った事業説明会の中で、「電気利用の最適化はもちろん、暮らし全体をより安全・快適にする“プラスα”の価値を提供し、新電力のトップを目指す」と力強く宣言。代表取締役社長の中村創一郎CEO (最高経営責任者)も、ナインドットの自宅での利用体験を踏まえ、「エネルギーの使い方だけでなく、生活習慣そのものを変える仕組みになる」と語り、今後の展望に自信をのぞかせた。

【時流潮流/10月6日】プルトニウム復活へ米トランプ政権が政策大転換


米トランプ政権が、一度は利用を断念したプルトニウムの活用策に乗り出している。5月の大統領令で、包括的な原子力推進策を打ち出して再処理推進を盛り込み、8月には政府が保有するプルトニウムを、先進的な原子炉を開発するスタートアップ企業に「ほぼ無償」で提供する案も打ち出した。

政府が提供するプルトニウムは約20tで、主に核軍縮で解体された核兵器から取り出したものを使う。米露は2000年、両国がそれぞれ34tずつの余剰プルトニウムを、二度と核兵器に使えないよう処理することに合意した。

米国はMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料にして軽水炉で使う計画だったが、建設費高騰や工期の大幅遅延が重なり、第1次トランプ政権は18年に計画断念を決める。

代替案は、プルトニウムを「捨てる」ことだった。プルトニウムに混ぜ物をして希釈した上で、南部ニューメキシコ州にある廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)で地層処分を進めた。だが、第2次トランプ政権は、プルトニウムを「捨てる」政策を取りやめ、一転して「活用する」政策へと大転換を図ろうとしている。

原発大国の米国は、再処理は実施していない。インドが1974年に再処理で取り出したプルトニウムを使って初めて核実験に踏み切ったことで、核拡散問題が大きな国際問題に浮上し、フォード政権が76年に再処理中止を打ち出しためだ。

その後、81年に誕生したレーガン政権が再処理再開に道を開くが、採算が合わないことを理由に、再処理事業に乗り出す企業は現れなかった。

とはいえ、時代は変わった。人工知能(AI)向けデータセンターの設置急増など、今後は大幅な電力需要増が見込まれる。

中国とのAI技術競争に勝ち抜くには、電力確保がカギとなる。そう位置づけるトランプ政権は、2050年までに原発の発電容量を現在の4倍の400GWとする原発推進策をまとめた。計画実現には、原発300基の増設だけでなく、核燃料の手当ても必要となる。

DOE長官が再処理事業再開に強い意欲

注目したのは、廃棄しているプルトニウム。そして、原発など全米各地のサイトに保管され、9万4000tにまで積み上がった使用済み核燃料だった。

エネルギー省(DOE)のライト長官は5月の米議会下院公聴会で「再処理の適切な進め方について調査検討中だ」と述べるなど、再処理事業再開に強い意欲を燃やす。現在、94基が稼働する軽水炉用だけでなく、今後導入が期待される次世代炉への燃料供給も見据える。

政府の呼びかけに応じ、9月にはカリフォルニア州に拠点を置き、ライト長官が就任直前まで役員を務めていた「オカロ」社が、南部テネシー州に再処理施設を設計、運営する計画を発表した。30年代初めまでに高速炉など先進炉用の核燃料生産を目指すという。

ただ、米国内にはこうした動きへの懐疑論もある。オバマ政権でエネルギー長官を務めたモニズ氏は「過去にうまくいかなかったアイデアを復活させるのは時期尚早」と苦言を呈す。失敗したMOX事業の二の舞になるとの指摘も。政府のかじ取りが今後の課題となる。

【記者通信/10月5日】高市総裁誕生の舞台裏 どうなる?人事と連立の行方


10月4日に投開票された自民党総裁選は、党員・党友票の大量得票を獲得した高市早苗元経済安全保障相が勝利した。自民党の総裁に女性が就任するのは結党以来初めてとなる。今月中旬にも召集される臨時国会で、憲政史上初の女性首相が誕生する見通しだ。国民的な人気は高いものの、自民党内では不人気という高市氏は当初、国会議員票で苦戦すると見られていた。だが予想以上の党員票の獲得に議員票がなだれ込み、勝利が濃厚とされていた小泉進次郎農水相に29票差をつけての圧勝劇となった。党員の減少や前3回の大型選挙で「自民党離れ」が加速する中、党員人気の底堅さが高市氏に勝利を呼び込んだ。

自民党初の女性総裁誕生を報じるANNニュース

ただ衆参ともに過半数割れしている少数与党の現状に変わりはなく、今後の国会運営や政策実現にはいくつもの難関が待ち受けている。石破茂前政権と同様、綱渡りの政権運営となりそうだ。野党との連立拡大を模索するとともに、党内では国民的な人気が続く間に早期の解散総選挙を期待する声も出ており、永田町では緊張が張り詰めている。

地道な「仲間づくり」で党員票4割

「これほどまでに党員票を獲得するとは想定外の出来事だ」

4日午後、党員・党友票の開票が始まってまもなく自民党内に衝撃が走った。党員・党友票の開票結果が各陣営に逐一報告されたが、そのほとんどが高市早苗票だったからだ。

総裁選には5人が立候補し、1回目投票は295人の国会議員票と、これと同じ数を割り振られた党員・党友票の合計590票で争われた。高市氏が獲得した党員・党友票は4割を超えた。報道各社の党員調査でも高市氏がトップではあったものの、2位の小泉氏とつばぜり合いを演じると予想されていた。蓋を開けてみると、小泉氏は3割未満にとどまり、高市氏とは大きな差を生んだ。

この党員・党友票の動向にいち早く反応したが麻生太郎元首相で、率いる麻生派の議員に「党員の声を反映した形でフルスペックの総裁選になった。党員の声を聞け」と決選投票になった際の投票先を暗に「高市」と指示したのだ。これにより、高市氏の勝利は決定的になった。

菅義偉元首相をはじめ、旧岸田派の一部が支援に回った小泉陣営にはかなりの動揺が見られたという。1回目はともかく決選投票は一体誰に入れたらいいのか。勝ち馬に乗らなくていいのか。そんな思惑が交錯した。その結果が決選投票での国会議員票が1回目と比べ85票も上積みした高市氏に対し、65票の上積みにとどまった小泉氏との差に表れた格好だ。

ある陣営関係者は「高市さんがこれだけ党員・党友票で支持を集めたのは、前回の総裁選に敗れてから地方や団体の会合に足しげく通い、選挙応援でも選り好みせずに駆けつけるという地道な活動を続けていたからだ。前回敗れた後に麻生元首相から『仲間を増やす努力をしなさい』と助言を受けていたが、高市氏は忠実に実行に移した結果だといえる」と話した。

【記者通信/10月2日】自民総裁選で小泉氏勝利濃厚か 経産省が気を揉む政務秘書官人事


自民党総裁選(10月4日投開票)は、党員票、議員票でまんべんなく支持を取り付けている小泉進次郎農林水産相の勝利が濃厚だ。晴れて新総裁に選出されれば自民党史上最年少(現在は安倍晋三氏の51歳が最年少)での総裁就任となる。5人の候補者で争われた今回の総裁選だが、党員票で有利に立つ高市早苗前経済安全保障相と、議員票で一定数支持を集めた林芳正官房長官との三つ巴の様相になった。4日当日は最終的に小泉氏と高市氏の決選投票になる公算が大きい。林氏は党員票が伸び悩んでいる上、出身母体の旧宏池会の全面支援が受けられないことが最後に響きそうだ。

人気の高かった父の小泉純一郎氏の再来を進次郎氏に期待する向きもあるが、父と違い支持基盤が安定的でなく、今回の総裁選でも菅義偉元首相、岸田文雄前首相、麻生太郎元首相の「長老」3人の影響力が行使された結果だ。新政権はこの3長老の顔色を見ながら運営していく形となりそうで、進次郎カラーが出せないまま形骸化した首相となる可能性が大きいだろう。

進次郎政権構想を巡る噂 幹事長にはあの名前も

進次郎陣営ではすでに政権構想の準備を進めているという。閣僚人事は岸田氏を副総理兼外相、林氏を財務相、選対本部長を務めている加藤勝信財務相を官房長官に起用するという憶測だ。党務は菅氏を副総裁に留任させて、神奈川つながりで幹事長に河野太郎氏を登用する可能性も取り沙汰されている。

一方で官邸人事だが、安倍政権以降重要な役割を果たしてきた政務秘書官には、進次郎氏が環境相時代に支えた中井徳太郎・元環境事務次官の名前が挙がっている。気候変動対策の急進派がタッグを組めば、何かと対立してきた経済産業省への当たりが強くなるのではないかと警戒する声も漏れる。

ある霞が関筋は「進次郎氏の首相就任よりも経産省は中井氏の政務秘書官就任の方に気を揉んでいる。財務省出身の中井氏が首相に最も近いところになれば、官邸の財務省支配もより強固なものになる」と分析する。官邸は父純一郎氏との関係からもより財務省色が強くなることが見込まれそうだ。

純一郎氏にも仕えた飯島勲氏も何らかの形で政権に関与することも見通せる。進次郎氏としては純一郎氏と同様、国民的な支持を受け続けることを念頭に置くはずだ。支持率の動向によってはあっと言わせる仕掛けを駆使することも考えられる。

【目安箱/10月1日】再エネ拡大巡り政治家沈黙?今こそ国民合意を作る好機


政治の場で、再生可能エネルギーが大きく取り上げられなくなっている。国民の反感が広がっているために、これまで支援してきた政治家が急に沈黙したように見える。ただし、広がる批判も「再エネをゼロに」など極論が目立つ。国民からの政策を巡る疑問が広がる今こそ、これまで行われてこなかった再エネの未来について議論をする好機ではないか。国民の意思の集約と支持がなければ、日本での再エネの成長は行き詰まるだろう。

大規模メガソーラーの乱開発で日本の自然は確実に破壊されている

◆選挙で示された再エネへの不信

7月に行われた参議院選挙で、自民党と公明党の連立政権は惨敗した。そして野党第一党の立憲民主党をはじめ、再エネ拡大や脱原発を主張して政府を「政策支援が足りない」と批判してきた左派政党はそれほど支持が増えなかった。勢力を伸長させた国民民主党、新興政党の参政党、日本保守党は、再エネや脱炭素政策をそろって批判している。そして与党も積極的に取り上げなかった。これは10月4日に行われる自民党総裁選でも同じで、エネルギー問題は積極的に議論されていない。

参院選の争点は生活苦と物価高だった。再エネについては、その賦課金への批判が多い。筆者の周囲の人の感想を聞くと、再エネ賦課金は一般家庭で月1500円程度だが「この負担が私になんの役に立っているのか」という感想ばかり。SNSではメガソーラーや、風力発電による環境破壊の映像が頻繁に流れる。この環境悪化に対しても不快感を持つ人が増えている。再エネのイメージは、エネルギー関係者のものと、一般社会のものはどうも分離している。普通の人の間で、再エネには悪いイメージが広がり始めているようだ。

2023年11月に、洋上風力の制度設計をめぐり自民党の秋本真利衆議院議員(当時)が受託収賄の疑いで逮捕され、現在東京地裁で公判中だ。この事件も影を落とす。7月にある自民党の再エネ問題に取り組んできた議員と懇談する機会があった。「秋元さんの逮捕は今でも影響している。再エネについて自民党の言うことに国民がそっぽを向いてしまい、今は話しづらい」と嘆いていた。

◆感情的な再エネ反対論の懸念

政治家が再エネに対して冷たくなったのは、世論の動き、世界の動きを反映したものだろう。保守政党、一部からは右派ポピュリズムと呼ばれる政党が、欧米で躍進している。そして揃って脱炭素の潮流に疑問を示している。米国ではトランプ大統領がその先頭に立っている。トランプ大統領は9月23日に行った国連総会での演説で気候変動問題を「世界史上最大の詐欺」、再エネを「利権と欺瞞」と切り捨てた。あまりにも過激な意見だ。しかし米国ではSNSや一部メディアの論調を見ると、トランプ氏に同調する意見がかなり多い。

そして、その反発の方向が日本でも世界でもややおかしくなっている気配もある。陰謀論めいたことを発信するSNSやのアカウントやウェブページがいくつもある。そこで「エネルギー利権で日本が外国に売り渡される」「再エネや脱炭素は米民主党政権やディープステートの謀略だ」などと、本気で語り合う例が散見される。もちろん一部だろうが、反再エネの中に、ゆがんだ意見が入り込んでいることを示唆している。

【記者通信/9月30日】水素等「値差支援」で初認定2件 多排出産業を優先


経済産業省は9月30日、低炭素水素などへの「値差(価格差)支援」の対象として、豊田通商のグリーン水素と、レゾナックの水素・アンモニア案件の2件を認定したと発表した。同制度の認定は今回が初。いずれも脱炭素化が困難な「ハード・トゥ・アベイト」産業で、2030年度をめどに供給を開始する。エネルギー企業のプロジェクトは含まれなかった。

値差支援は、昨年成立した水素社会推進法に基づき、低炭素水素・アンモニアなどの製造、輸送・貯蔵、利用に対し、化石燃料との値差を補てんする制度。具体的には、供給開始から15年間でプロジェクトコストを回収できる水準の「基準価格」から、切り替え前の化石燃料の「参照価格」を差し引いた分を政府が支援する。支援終了後10年間は供給を継続することが求められ、遅延などに伴うコストアップ分は民間が負担する。

認定された2件のうち、まずグリーン水素案件は、豊田通商やユーラスエナジーホールディングス、岩谷産業が参画する特別目的会社が供給者となる。利用者の愛知製鋼は、プレミアムを付与し、電炉業界初のグリーン鋼を製造する予定で、年間供給量は約1600t。系統を介して東北の陸上風力で発電された電気を供給し、愛知製鋼の工場(愛知県東海市)で電気分解し水素を製造する。地産地消型ではない。なお、水電解装置は別途「GXサプライチェーン構築支援事業」で採択されたトヨタ自動車・千代田化工製を採用する予定だ。

もう1件は、レゾナックが廃プラスチックや廃衣料をガス化し、得られた水素を原料に低炭素アンモニアを製造する事業。アンモニア換算で年間約2万t供給する。同社と日本触媒が利用者となり、繊維原料となるアンモニア誘導品の製造に活用し、資源循環に資するモデルだ。荏原製作所とUBEの廃プラガス化技術を用い、国内初となる廃プラ100%のプラント運転を予定する。

エネ関係から「期待薄」の声 総額3兆円の行方は

値差支援の申請は3月末までに27件あった。支援総額は3兆円を予定するが、27件の合計はこれを超える規模となる。同省は、外部有識者でつくる第三者委員会の意見を踏まえ、評価項目に照らして優先すべき案件を決め審査を行う方針で、今年度後半に向けて条件が整った案件から順次認定していく。

値差支援は当初、大規模発電向けなどでの活用も期待された。ただ、関係者からは「蓋を開ければハード・トゥ・アベイトが主な対象で、電力は二の次に。また公募内容があいまいで、海外の関係者の理解が得にくい」、「30年からの供給開始が条件だが、円安やインフレの影響がある中、特に海外案件で申請までにコミットすることは相当難しい」といった声が上がっていた。

JERAは4月上旬、値差支援を前提に、三井物産、米CFインダストリーズと、米ルイジアナ州で「ブルーアンモニア」を製造するプロジェクトの最終投資決定(FID)を行ったが、こうした動きは少数派。審査中の案件はあと20数件あることになるが、そのうちエネルギー案件は果たしていくつ選ばれるのだろうか。

【記者通信/9月24日】小売りの供給力確保義務 制度議論の落とし所は?


資源エネルギー庁の有識者会合で検討が進む、電力小売り事業者への供給力(kW時)確保義務を巡り賛否さまざまな声が上がっている。制度案は、実需給年度の3年前に需要想定の5割、1年前に7割の供給力を確保させるというもの。調達手段の一つとして、新たに中長期市場の整備も進められている。

エネ庁は急ピッチで検討を進めるが……

背景には、①中長期の取引量を増やし、電気料金の変動を抑制すること、②発電事業者の燃料調達や電源投資の予見性の向上させること――といった狙いがあるが、新たな負担を課される小売り事業者を中心に否定的な意見が噴出している。

特に②については、制度の実効性を疑問視する向きが多い。中長期市場の整備や相対契約の活性化に向けた動きが進んでも、燃料調達は10~20年単位の長期契約であるため、これらのタイムスパンの乖離が解消されないためだ。また、鉄道系新電力関係者は、「現行の制度において、需給はバランシンググループ内で調整される。その際には燃料費のかからない太陽光や風力などが優先されるため、仮に事業者が確保義務を履行しても、火力電源の維持や燃料調達に必要な資金が十分に確保されない」と指摘する。

業務負担の拡大への懸念も聞こえる。新電力関係者は、「低圧契約の多くは1年単位で、3〜5年先の需要を見通すのは難しい。あらかじめ想定需要を出しても、実績と大幅に乖離する可能性がある上に、その作成には実務上の負担も大きい」と憂慮する。

その一方で、「数年契約が制度によって習慣化されれば、発電側の収益は一定程度確保される。大局的に見れば意義のある取り組みなのではないか」(市場関係者)といった見方もある。この市場関係者は、義務化されれば売り手側が大きな交渉力を持つことになるため、「小売り・発電事業者の間のパワーバランスを調整する必要がある」と運用上の課題を指摘しながらも、「中期市場の新設を契機に、ベースロード市場や先物市場といった既存制度の機能を整理・統合してもらいたい」と期待を寄せる。

小規模事業者への配慮 一時的な経過措置は必要か

会合では、小規模事業者への配慮も焦点となっている。エネ庁は8月8日の会合で、制度導入から一定期間については、確保量を3年前で2.5割、1年前に5割とする負担軽減案を示した。これについて、「制度導入を円滑にするためにも一時的な緩和措置は必要だが、最終的には全ての事業者に一律の条件を課すべきだ」(前出の市場関係者)、「販売電力量に応じた確保義務が課されるべきで、対応できない事業者は淘汰されても仕方がないのでは」(前出の鉄道系新電力関係者)と、事業者間の公平性を重視する意見が多い。前出の新電力関係者も、「確保が難しい小規模事業者を緩和措置などで保護しても社会的な便益は乏しい」としつつ、「市場が機能しない段階で義務だけ課しても意味がない。その意味でも市場の有効性が確認されるまでの間の経過措置は不可欠だ」との見解を示す。

エネ庁は30年度の供給計画の策定に合わせて新制度を導入する方針で、その実現に向け、今秋に事業者などへのヒアリングを終え、供給計画の様式改正案を確定させる見通しだ。実効性の担保や事業者負担への配慮など、一層丁寧な議論が求められる。

【時流潮流/9月24日】中東核ドミノの足音が聞こえる 鍵握るサウジの動向


中東核ドミノの足音がにわかに高まり始めている。イランが核兵器保有を禁じる核拡散防止条約(NPT)から近く脱退し、核兵器開発に乗り出す可能性が出てきた。かねてからイランの核に対抗すると明言してきたサウジアラビアは、新たな事態に備えようと今月17日に核保有国のパキスタンと相互防衛条約を結び、パキスタンの「核の傘」を利用する準備を整えた。核を巡る状況が、一気に変わろうとしている。

イスラエルと米国は今年6月、イランの核兵器取得が近づいたとして、ウラン濃縮施設など多くの核施設を空爆した。一方、英仏独3カ国は、厳しい国連安保理制裁を復活させることで、イランに核開発断念を迫っている。

英仏独は、イランが核兵器製造にもつながる濃縮度60%の高濃縮ウラン製造を続けるなど、2015年に米中露と欧州3カ国が「イランが結んだ核合意を守っていない」と非難を続ける。

核合意成立に伴い停止されていた安保理制裁が近く再発動されれば、イランは経済的打撃を被る。さらに、国のプライドをかけて取り組んでいるウラン濃縮が法的に禁止される。イランは対抗措置としてNPT脱退の準備を進める。

ただイランには、最高指導者のハメネイ師が、核兵器の製造を禁じる宗教令(ファトワ)がある。北朝鮮は03年のNPT脱退後、一気に核武装へと走ったが、イランが同様の道を歩むかどうかは、現時点では見通せない。

【記者通信/9月21日】豪州が「35年目標」大幅引き上げ 輸入車に炭素課税案も


オーストラリア政府は、2035年までの温室効果ガス排出量を05年比62~70%削減すると発表した。豪州気候変動庁は従来、51%削減できるとしていたが、今回発表した削減目標はこれを大幅に引き上げた形だ。特徴的なのは脱炭素化と経済成長を両立させるために、巨額の財政出動を図ることだ。加えて自動車に対する新たな環境規制を課すことを掲げ、消費者の電気自動車(EV)購入を促すことを目的に、輸入車へ炭素税を課すことが検討されているという。アルバニージー首相は23日から始まる国連総会で、新たな削減目標を表明し、26年の気候変動枠組み条約締約国会議(COP31)の誘致を確実なものにしたい目論見だ。

首都キャンベラにある豪州連邦議事堂

秩序立った移行へ 7000億円の財政投入

「(新たな削減目標は)環境を守り、経済と雇用を守り発展させ、国益と現在そして未来の世代の利益のために行動するための正しい目標だ」。アルバニージー首相は18日に新たな削減目標を発表した際、自信に満ちた表情でこう語った。

今回の削減目標を設定する際、政府が細心の注意を払ったのが脱炭素化と経済成長の両立だ。これまで世界各国で野心的な気候変動対策が出るたびに「経済を縮小させる」との批判に常にさらされていた。そして具体的な両立策を示せなかったことも批判を助長させていた。

豪州政府はこの批判に応えるべく、財務省が主導して35年に65%削減との前提で経済効果をモデル化した。気候変動対策を施した「秩序立った移行」により、50年までに実質国内総生産(GDP)は2兆豪ドル増えるとし、1人当たりのGDPも2100豪ドル上がるとの結果を示した。この場合、実質賃金は現在より2.5%上昇すると試算した。チャーマーズ財務相は「気候変動対策をしない『無秩序な移行』の場合、賃金低下や電力価格の上昇を招き経済規模も縮小する」と警鐘を鳴らした。

両立策を実現するため、政府は総額70億豪ドル(約7000億円)の財政出動をする方針を示した。内訳はクリーンエネルギー金融公庫に20億豪ドル、新たに「ネットゼロ基金」を創設して脱炭素化と再生可能エネルギーの導入拡大を図るとした。新基金への財政投入は50億豪ドルになる。ちなみに目標の下限の62%削減の場合、風力発電を現在の4倍、メガソーラーを同3倍、屋根上の太陽光を同2倍にする必要があるという。

輸入車に炭素税? EVの普及拡大が狙い

削減目標を達成するために最も刺激的な施策は、自動車に対するものだ。政府は35年までに豪州内で販売される自動車の半数をEVにすることが必要だと述べている。国際エネルギー機関(IEA)によると、24年時点での豪州内のEV普及率(新車販売台数における比率)は13%だとしており、これを大幅に引き上げる計算だ。

政府はこれに対応するため、まず自動車の燃費基準を改変するという。燃費効率が悪いガソリン車やディーゼル車を排除するというわけだ。そして輸入車への国境炭素調整つまりは炭素税を課すことも視野に入れているという。もし導入されれば豪州内の化石燃料車は軒並み高くなることが予想される。価格に敏感な消費者はEVへの買い替えを加速させると思われる。

これは日本車メーカーには大きな痛手になる。豪州内ではトヨタやマツダが人気で、販売台数でも常にベスト3に入っている。その一方でテスラやBYDといったEVメーカーも伸長してきており、インセンティブがつけばEVメーカーが豪州市場を席巻するということが現実になることが予想される。EVの開発が遅れている日本車メーカーにとって豪州の販売戦略の練り直しが迫られそうだ。

とはいえ、豪州は国内に自動車メーカーがなく全量輸入に頼っている。個人消費者をはじめ、事業者からの反発は必至だろう。購入補助など政府はさらに巨額の財政出動が求められることになり、これには野党勢力も黙っていない。導入には紆余曲折が予想され、実現できるかは全く見通せない。

野党から批判相次ぐ 暗雲漂う目標達成

野心的な削減目標を掲げた現政権に対し、保守系の野党は当然のごとく反発を強めているが、緑の党など気候変動対策に積極的な勢力からも批判が出ている。

野党自由党のスーザン・レイ党首は「目標には国民にとってどれだけの費用や負担がかかるのか示されていない。到底受け入れられるものではない」と話した。経済成長との両立性についても「コストと信頼性の両面で不十分だ」とバッサリ切り捨てた。つまりは現政権のお手盛りのモデルは信頼できないというわけだ。

緑の党のラリッサ・ウォーターズ党首は「これは気候変動対策に期待して投票した国民に対する裏切りだ」と厳しく批判。「石炭やガスなど化石燃料の制限がないことは野心的とは言えない」と不十分さを指摘した。

一方の財界は「野心的だが達成はできるのではないか」と比較的好印象だ。ただ「巨額の資本投資と制度改変が必要で、官民の協力なしではできるものではない」と注文をつけた。強力な影響力がある労働組合側は労働者の追加が必要になると主張した。

アルバニージー首相は「民間の積極的関与が不可欠」と協力を呼びかけているが、今後起きるであろうさまざまな軋轢で民間側の支持が得られない可能性も否定できない。

豪州ではそもそもネットゼロという目標が「夢物語」と揶揄されている側面もある。地元紙はグリーン水素の開発案件が99%停滞していると報じ、洋上風力の開発も暗雲が漂い、政府が事業者の調査費用を軽減する策に乗り出すとの憶測も流れている。

現政権は今回の目標をかてにCOP31の誘致で政治的なアピール材料を増やしたい思惑もあるが、脱炭素が世界的な退潮傾向にある中、「看板倒れ」から3年後の総選挙での政権倒れにつながらないか心配する向きも与党内には少なからずある。