【論考/11月25日】亡国の「暫定税率」廃止 なぜ日本を弱体化させるのか⁉

円安が原油高の主因を成す現実から逃避し、国の将来の為に今あるべき税率を考えようともせず、しかも課題解決に挑む創造力を自ら萎縮させる「日本弱体化」政策――。それが燃料油価格補助金に続く暫定税率廃止である。

11月5日、自民と日本維新の会の与党2党、および立憲民主、国民民主、公明、共産の野党4党により、ガソリン、軽油の特例税率(いわゆる暫定税率)をそれぞれ今年末、来年4月1日に廃止することが正式合意された。基本的に前政権下で定まった既定路線の踏襲だが、軽油の暫定税率廃止が明確となる一方、年間約1兆5000億円とされる減税分の財源確保は「今年末までに結論」と先送りされた。移行を円滑にするべく、目下価格補助金が段階的に引き上げられており、12月中旬にはガソリン・軽油小売価格に暫定税率廃止と同様の値引き効果が現れる。

「挙国一致」で進められるガソリン、軽油の暫定税率廃止だが、これは日本の原油高対策としても、また石油政策、安全保障政策としても根本的に誤っている。この過誤が全政党によって見過ごされ、これをただす冷静な議論が政治の場で提起されない事態は、今日の日本の視野の内向化・狭窄化、国力の衰弱を鮮明に映し出している。

2022年1月末以降の燃料補助金の誤謬と弊害を、筆者は本誌上で指摘してきたが、内容の重複に寛恕を乞いつつ、暫定税率廃止の問題点を以下に論じる。

問題からの逃避:日本の「原油高」は円安が主因

言うまでもなく、原油高とは、日本の原油輸入費用の増大、をいう。したがって、原油高対策の第一義的な目標は、日本の原油輸入代の低減だ。ところが2022年以降、現在までほぼ4年間、補助金によって国内燃料油価格を人為的に抑制し続ける中で、この本来の意味での原油高対策は置き去りにされてきた。問題から顔を背けるその逃避の姿勢は、今回の暫定税率廃止にも引き継がれてみいる。

日本の原油輸入価格は、ドル建ての国際原油価格と円・ドル為替レートの積で決まる。ロシアによるウクライナ侵攻以前の22年1月を基準とし、その後の日本の原油輸入価格の上昇を分析すれば、早くも22年・第4四半期から円安効果が主因となっていたことが分かる(図1参照)。昨年の年間平均では原油輸入価格上昇の9割弱が円安効果による。ドル建て価格は22年1月に1バレル当たり約80ドルだったが、昨年11月にはこれを割り込み、今年1~9月平均値も75ドル強と、むしろ「原油安」に転じている。

言い換えれば、これまで今年の「日本の原油高」は100%円安に帰因している。日本にとって原油高とは、すぐれて円安問題なのだ。原油高対策とは、まず何より現今の行き過ぎた円安を是正し、適度な円高を促すものでなければならない。この簡明な点を全政党が無視している。

ところで22年以降の円安、22年1月の1ドル115円に対し、昨年平均・150円強―の最大の原因は、1000兆円を超える国債発行残高、30年間以上赤字の続く基礎的財政収支と、日本の財政が重度の慢性疾患に陥っていることにある。日銀の国債保有率の突出した高さも相まって、インフレ環境下での金利上昇に対する財政・金融上の脆弱さが、円の反発力を著しく制約している。

よって円安を主因とする日本の原油高を是正するには、国債発行残高と将来の基礎的財政収支の黒字見通しとの整合性を回復すべく、財政規律の強化につながる施策を講じなければならない。また、石油が日本の最大の輸入品目である以上、円安是正のためには、その輸入抑制を促す施策が必要となる。

しかし累積予算額8兆円の燃料油補助金も、今回のガソリン、軽油引取税率をほぼ半減とする大幅減税も、日本の財政規律を犠牲とした国内の「石油大安売り」であり、財政負担を増すと同時に石油輸入を下支えし、円安圧力を生む。即ち、日本の原油輸入費用を増大させる「原油高誘導策」である。

今年6月、日本のドル建て原油輸入単価はバレル当たり70ドル強で、22年1月対比9ドル強下落している。もし為替レートが22年1月時点と変わらず115円を保っていれば、この間の原油代の円建てでの下落幅は1ℓ当たり約7円となる。22年1月の日本のガソリン平均価格は168円だったから、同じ下落幅を当てはめると、今年6月は161円となる。

これは実際の補助金投入後の価格173円より12円安く、21年後半の平均価格とほぼ等しい。このように、円の価値が守られていれば、国際原油価格の動きに合わせ、財政に何ら追加的負荷を掛けずとも、国内燃料油価格は十分に下落していた。円の防衛は、日本の本来の意味での原油高対策の核心にある。ところが、円の価値に打撃を与える大規模補助金・減税措置が、「原油・物価高対策」の名の下に行われている。ここに誤謬の最たるものがある。

【記者通信/11月21日】新潟知事が柏崎刈羽の再稼働容認 「反対」の立憲はどう動く?

新潟県の花角英世知事が11月21日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働容認を表明した。記者会見で同氏は知事職を続けることについて、「県議会から信任または不信任の判断をいただきたい」と述べ、12月2~22日に開かれる新潟県議会で自身の判断について県民の信を問う方針だ。県議会は再稼働に前向きな自民党が過半数を占めており、年内にも正式に国からの再稼働要請に回答し、年度内には営業運転を開始できる見通しだ。

12月議会では再稼働関連の補正予算案の提出が予定されている。その議決をもって知事の判断を信任する案や、県議会が知事判断を信任する付帯決議を提出する可能性もあるという。

花角氏は今夏以降、公聴会や首長との意見交換、県民意識調査などで県民の意思を確認するプロセスを踏んできた。中でも意識調査については「(再稼働に)肯定的な方と否定的な方が大きく分かれている」と認めつつ、「正確な情報を県民に提供し、周知していくことを継続していけば、再稼働に対する理解も広がる」と判断したと結論付けた。

また、事業主体が福島第一原発事故の当事者である東京電力である点や、柏崎刈羽で発電される電力が東電管内に送られること、豪雪地帯で緊急時の避難に対する不安感が他地域よりも大きいといった新潟県特有の課題を挙げた。その上で、国に対しては①県民への丁寧な説明と理解促進、②不断の安全性向上、③緊急時対応と住民理解促進の徹底、④避難体制の迅速かつ集中的な整備、⑤最終処分場問題など長期的な課題への国の責任、⑥東電の信頼性回復と監視の実効性確保、⑦電源三法交付金の対象範囲拡充──という7つの項目について確約を得た上で、県として了承するとした。

今後、県議会の動きのほかに気掛かりなのは、立憲民主党の動きだ。新潟県は「立憲王国」で、昨年10月の衆院選では全選挙区で立憲が勝利。参院と合わせて県内の国会議員は7人に上り、新潟日報が行ったアンケートでは全員が「再稼働すべきではない」と回答している。同党の野田佳彦代表は21日、「現時点では反対」「県連の移行を踏まえ党として判断する」との見解を示した。柏崎刈羽のお膝元である新潟4区選出の米山隆一衆院議員は、来年6月の県知事選に「県民投票の実施」を公約として立候補する可能性を示唆しており、県連がどのような判断を下すか注目だ。

朝日は今日も能天気 驚愕の「天声人語」

柏崎刈羽の再稼働によって、東日本の厳しい電力需給構造が改善に向かうのは間違いない。来年8月に0.9%とされる東京エリアの予備率は3%を確保できる可能性が高い。ところが、11月18日に「東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ」と題する社説を掲載した朝日新聞は、こうした現実に目を向けようとしない。21日の天声人語を見て愕然とした。

〈つきつめれば、私たちの暮らしに安定した電力が必要だから、ということなのだろう。でも、本当にそうなのか。人が減り、町が細り、災害が絶えぬ列島で、これからも電気をどんどん使い、依存を深める社会というのは現実的と言えるのか〉

紛れもなく、私たちの暮らしには安定した電力が必要だ。改めて言うまでもなく、電気は国民生活、経済活動の根幹を支える極めて重要なライフラインである。省エネは大事だが、デジタル化の進展で電力需要は急増が予測されている。また、「依存を深める社会」というが、電力依存を深めない社会の方がよほど非現実的ではないのか……。しかしそこまで言うからには、朝日は今後、できるだけ電力に依存しない形で新聞やテレビ番組、ネット情報などを提供し、DX時代に対応していくのだろう。まるで想像がつかないだけに、楽しみではある。

【ニュースの周辺/11月17日】地域インフラ維持・再構築への多様な対応~経営広域化、官民連携など~

◆国土交通省 「上下水道政策の基本的なあり方検討会」

6月25日、国土交通省の「上下水道政策の基本的なあり方検討会」は、「第一次とりまとめ」を公表した昨年4月、水道行政が国交省(整備・管理全般)と環境省(水質基準策定など)に移管され、国交省は上水道・下水道行政を一体として担うこととなった。昨年11月にスタートした「上下水道政策の基本的なあり方検討会」は当初、2050年を見据えた上下水道政策の目指すべき方向性を議論していた。しかし、1月に埼玉県八潮市において下水道管の破裂が起因とみられる大規模な道路陥没事故が発生して、「老朽化対策を進めるために必要な経営基盤の強化について先行的に議論する」とされた。

参考=4月17日「第3回上下水道政策の基本的なあり方検討会」

「上下水道政策の基本的なあり方検討会の進め方の見直しについて」(抜粋)

状況の変化

1月28日に埼玉県八潮市にて下水道管の破損が起因とみられる道路陥没事故が発生。ほかにも、水道管、下水道管の老朽化が起因の道路陥没事故が多数発生し、国民全体が上下水道の老朽化、あるいは持続的な事業運営に不安を覚えている状況。

今後の進め方

このため、本検討会では、老朽化対策などを進めるために必要な経営基盤の強化について先行的に議論いただくこととしたい

①「「第一次とりまとめ」(6月25日)“基本認識”と“取組の方向性”(抜粋)

「第一次とりまとめ」では、下記の「基本認識」と「取組の方向性」が示された。 

●基本認識

・人口減少による料金収入などの減少、維持管理・更新費などの増大に加え、経営基盤が脆弱な小規模事業体が多数を占める現状を踏まえれば、近い将来、上下水道全体の事業運営システムに限界が生じることは必至。規模のメリットを生かし専門人材を確保するなど、持続的な経営体制を構築するため、単一市町村による経営にとらわれず、“経営広域化”を国が主導して実現する必要。

国、事業体などの関係者は、これまで料金などの低廉性・安定性が優先されるあまり、安全・安心に必要な投資が先送りされてこなかったかを真摯に振り返り、更新投資を適切に行うとともに、次世代に負担を先送りしないための経営改善・財源確保や適正な受益者負担を改めて考えることが必要。

●強靭で持続可能な上下水道を実現するための基盤の強化に向けた取組

・単一市町村による経営にとらわれない経営広域化の国主導による加速化

・更新投資を適切に行い次世代に負担を先送りしない経営へのシフト

・官民共創による上下水道の一体的な再構築と公費負担のあり方の検討

 ②老朽化の状況「第一次とりまとめ」より(抜粋)

・漏水事故、道路陥没事故の発生状況

22年度、水道の管路事故は約2万件、下水道管路に起因する道路陥没は約2600件発生している

管路の老朽化の状況

老朽化は今後も進む見込みで、水道の法定耐用年数40年を経過した管路は21年度末で約17万km(約22%)、10年後には約30万km(約41%)となる。下水道においても、標準耐用年数50年を経過した管路は、22年度末で約3万km(約7%)、10年後には約9万km(約19%)となる。

耐震化の遅れ

23年度末時点での上下水道施設の急所施設の耐震化率は、水道の取水施設が約46%、導水管は約34%、浄水施設は約43%、送水管は約47%、配水池は約67%、下水処理場は約49%、ポンプ場は約52%、下水道管路は約70%であった。また、接続する上下水道管路などの両方が耐震化されている重要施設の割合は約9%にとどまる。

◎日本経済新聞2月2日付社説〈インフラ老朽化を直視し総合対策を探れ〉〈……各種インフラの老朽化の状況をみると、水道はまだよいほうだ。インフラは50年が老朽化の目安とされる。40年までに整備から50年が経過するのは、下水道が34%、上水道は41%、ほかは道路橋が75%なのを筆頭に、港湾施設、河川管理施設、トンネルなどが軒並み50%を超えるこれらが一斉に補修や更新の時期を迎えると財政負担が極端に膨らむ。こまめに補修する予防的な保全を進めているがまだ途上で、計画的な管理が欠かせない。……人口減少下でこれらがすべて必要なのか、あるいは追加すべきものがあるのか、優先度を見極める必要があるAIなどの活用で点検や修繕の技術が進み、地域やインフラの種別を超えた包括的な管理が広がれば、維持費を低減できよう。多種多様なインフラをまとめて扱い、効率的な管理の手法を考えたい。インフラのあり方は社会的な影響が大きく、社会保障制度のように長期的、総合的に考えてしかるべきだ。……長期的な維持費用をきちんと見積もり、財源確保の必要性に説得力を持たせて現実的な議論を深めたい

③総括原価の取り扱い

上記のように持続的な経営体制構築が課題とされる中、「第一次とりまとめ」では、更新投資の基礎となる料金算定について次のように指摘する。(抜粋)

〈近年、料金などの水準はわずかに上昇傾向であるが、大きく変化していない。また、長期間料金などが改定されていない事業体も少なくなく、更新投資に備えた資産維持費の算入は十分には進んでいない。これまでの経営は、料金などの低廉性や安定性を過度に重視し、安全・安心のために必要な更新投資を、適切な平準化の範囲を超えて先送りすることによって、収支均衡を図っていた可能性を否定できない〉〈各事業体が“先送りによる収支均衡”の経営から脱却し、“更新投資を適切に行い次世代に負担を先送りしない経営”にシフトする具体的な行動を開始できるよう、国からの積極的な働きかけや技術的支援が必要である〉

電力や都市ガスであれ、鉄道であれ、その事業を長年にわたり運営していくうえで必要となる設備更新・維持に必要な費用は、効率化を図りつつ、事業の収支計画の中で織り込まれた形で価格設定がなされるものである。これに対して上下水道の現在の状況について、「第一次とりまとめ」は、そもそもの制度の在り様にも言及して、次のように説明する。

●料金などにおける資産維持費の算入状況

・上下水道事業において徴収する料金などについては、地方公営企業法(公営企業会計)において、能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、健全な運営を確保できるものでなければならないとされており、老朽化対策や耐震化などを計画的に進めるためには、将来の更新投資などの原資である“資産維持費”を含む総括原価を基礎として料金などを算定することが必要である。

水道については、法令上、資産維持費が総括原価に含まれることが明確化されているが、日本水道協会が実施したアンケート(24年10月公表)によると、資産維持費相当額を水道料金に算入しているのは、回答のあった総括原価方式採用事業体の約52%にとどまっている

下水道については、法令上、使用料の算定方法の詳細は定められておらず、日本下水道協会のアンケート(24年12月)によると、公営企業会計の適用の過渡期であったことから母数が少ないが、資産維持費相当額を下水道使用料に算入しているのは、回答のあった総括原価方式採用事業体(114事業体)で約19%(22事業体)となっている

参考=エネルギーフォーラムオンライン4月29日付〈井手秀樹慶應義塾大学名誉教授〉長年にわたり公益事業規制研究に携わり、水道行政にも通暁する井手氏は更新投資の進まない状況を次のように語る。〈……日本の社会インフラの多くは1960年代の高度成長期に整備されたものであり、それらの多くが更新時期を迎えている。だが更新は進んでいない。……社会インフラの更新が進まない原因の一つは、上下水道に関して、維持管理するための人手や技術の不足がある。地面の下に埋まっている上下水道など、損傷具合が見えないものも多いため、正確に把握するためには地上から電磁波を送るなどの最新の損傷検知技術が必要になり、損傷を効率よく直す技術も求められる。また大きな原因は、財政難と人口減少時代の料金収入減少予測から、自治体が更新投資を先送りする傾向が強まっていることにある大阪市の例では、適切に入れ替えるには毎年70~80kmのペースで新しい水道を敷設すべきと推計されるが、「令和5年度大阪市水道事業会計決算書」では総敷設距離は約45km。大阪市でこのような状況であれば地方の市町村ではいうまでもない更新投資のための積み立ても不十分で、料金値上げによる財源確保しかない近年、水道料金は全国各地で20%を超える大幅な値上げの動きがみられるが、議会で可決するのは決して簡単ではない。ある自治体では“値上げを恐れるな”という表現がみられるほどである……〉

【記者通信/11月19日】KK再稼働の知事判断先送りを主張 朝日新聞の見識を問う

東京電力柏崎刈羽原子力発電所(KK)6号機の再稼働の是非について、新潟県の花角英世知事が11月21日にも判断するとみられる中、朝日新聞が18日付朝刊で〈東電の再稼働 分断を招く判断 避けよ〉と題する社説を掲載した。立地地域の柏崎市、刈羽村を中心に、ようやく再稼働への地合いが整いつつある状況下で、むしろ県民の分断を煽るような論調に対し、エネルギー業界からは朝日の見識を問う声が聞こえている。

〈東京電力柏崎刈羽原発の再稼働をめぐり、新潟県が県民の意識調査の結果をすべて発表した。容認する意見と反対意見は拮抗し、県民の意思はほぼ二分されている。調査結果も踏まえて再稼働の是非を判断するとしてきた花角英世知事は「早い段階で結論を出す」構えだが、地域住民の分断を招くおそれのある判断は避けるべきだ〉

社説はこんな書き出しで始まり、〈(再稼働すべきではないと考える人が4割超という)こうした民意を踏まえれば、知事が現段階で是非を判断するのには、無理がある〉〈東電に対する県民の不信感が払拭されていないことは、明らかだ〉〈今なすべきは、経済的利益と引き換えに地元の同意を取り付けることではない〉などと続け、〈国も自ら対処すべき根本的な課題の先送りを続け、県民の不安を置き去りにしたまま新潟県に判断を急がせるべきではない。福島第一原発事故を起こした東電による原発再稼働の判断は、重い意味を持つ。地元の知事に重責を負わせるのは理不尽だ〉と結んでいる。

国民世論を代表する大新聞の社説としては、率直に言って残念な内容だ。

不信感を煽る左派系メディア 安全・不正対策を詳細に報じたか

まず指摘したいのは、県民の意思がほぼ二分されている状況下で再稼働の是非を判断すれば分断を招くため、今は判断するなという主張だ。これはおかしい。KK再稼働は、首都圏で14年以上も続いている原発ゼロ状態に区切りを付け、電力の供給力の向上と供給コストの低廉化に寄与し、さらにはカーボンニュートラル・電力大消費時代に向けて原発再稼働に弾みを付ける重要なイベントになる。県民意識調査の結果を理由に判断はダメというのは、全国紙の社説としては「木を見て森を見ず」だ。

加えて、いつ判断すればいいのか、判断するためにはどんな条件が必要なのかなど、再稼働の実現に向けた提言は一切書かれていない。「脱原発」という同紙の論調に誘導しようとする意図が見え見えだ。東電への不信感が払拭されていないとしているが、14年も前の福島第一原発事故を引き合いに出す限り、安全対策工事の詳細な内容などを知らない多くの県民が、漠然とした不安や不信感を抱くのは当然のことだろう。それをもって民意とし、再稼働の判断は時期尚早と言い切るのは、見識あるメディアの論調としていかがなものか。そもそも、その不信感を煽っているのは、大手紙や地元紙などの左派系メディアといえよう。

確かに、KKではIDカードの不正使用や侵入検知装置の故障などテロ対策の不備が相次いで発覚したが、その都度、東電側は再発防止対策を講じてきた。しかし、左派系メディアでその対策の中身を調査・分析した記事は少ない。問題が起きた時だけ大々的に報道するのではなく、その後フォローが重要であるにもかかわらずだ。「こと原発問題では、左寄りのマスコミこそ、分断を引き起こしている張本人ではないか」(大手新電力幹部)。エネルギー業界のあちらこちらで、そんな声が聞こえてくる。

現地視察に行けば分かるが、地震や津波、その他事故などを想定した原発そのものの安全性については、二重、三重、四重の対策が講じられている。11月14日にKKを訪れた花角知事は視察後に、「非常に意識が高い状況にあると肌で感じた。セキュリティーは格段に厳しくなった」と評価した。われわれ業界専門誌の立場でも、現地取材後に「この点が不十分で改善の余地がある」「この部分の安全対策がまだ十分でないから再稼働は難しい」などと、具体的な問題点を指摘するのは難しいほどである。

理想的には、県民一人ひとりがKKに足を運び、現場の責任者に直接質問し、ていねいな説明を受ければ、大方の不安や不信感は解消されるはずだ。もちろん現実的に、そんなことができるはずもない。だからこそ、大手メディアが代表してKKの対策状況をつぶさに取材し、詳細かつ冷静に伝えていく必要がある。県民に安心感を与えるのも、メディアの重要な役割なのだ。この点を忘れてはならない。

【時流潮流/11月17日】米国で動意づくマイクロ原子炉 2030年代初頭に本格普及か

米国で小型モジュール炉(SMR)より一回り小さいマイクロ原子炉の開発が加速している。陸軍が10月中旬、3年以内に米国内の基地に配備する計画を発表したほか、空軍もアラスカ州の基地への設置を目指す。人工知能(AI)の急速な発展で、グーグルやメタなどの巨大IT企業が原発導入に積極的に乗り出し、軍用に限らず民生用でも将来の需要増が見込めることが開発の流れを後押ししている。

マイクロ炉のイメージ図。トレーラーでも運べるコンパクトな設計が特徴のひとつだ=米エネルギー省提供

新型マイクロ炉はトレーラーや輸送機に収まる可搬式なのが特徴だ。モジュール構造で、工場で組み立てどこにでも輸送できる。発電能力の拡張も可能だ。核燃料にはウラン濃縮度が20%近いHALEUなどを使い、燃料交換期間を5年以上に設定する。

米陸軍が10月に打ち出した「ヤヌス」計画は、国防総省が22年から始めたマイクロ炉開発計画「プロジェクト・ペール」の流れをくむもの。この計画に沿い、2026年から国立アイダホ研究所内の実証サイトでマイクロ炉を実証実験する準備が進む。この実験の成果を取り入れることで3年以内の基地配備を実現する考えだ。

アイダホ国立研究所に設置されたマイクロ炉の実験施設。かつて実験用増殖炉として使用した格納庫を再利用したものだ=米エネルギー省提供

実証実験には、スペースXの元エンジニアが20年に設立したスタートアップ企業ラディアント・インダストリーと、ウエスチングハウスの2社が参加する。ラディアントは、世界初の量産型マイクロ炉と位置づける出力1.2MWの「クレイドス」炉を、ウエスチングハウスは5MWの「eVinchi」炉をテストする。

カリフォルニア州が異常寒波に襲われた今年2月、大規模停電が起きるなど米国は送配電システム老朽化の問題を抱える。また、サイバー攻撃を受けて電力供給に支障が出る事態などにも軍は備えようとしている。

77年にマイクロ炉の開発中止 AI需要の高まりで状況h一変 

米軍は1954年に就役した世界初の原子力潜水艦「ノーチラス号」以後、原子炉とは長い付き合いがある。陸軍は54年から出力1MW~10MWのマイクロ炉5基をグリーンランドや南極、パナマ運河地帯などに配備した。だが、コスト面での問題や、61年にメルトダウン事故で3人が死亡する事故もあり、77年に取りやめた。

流れが変わり始めたのは2001年以後だ。アフガニスタンやイラクの戦争で、基地に燃料を運ぶ車両が敵の攻撃を受けて死傷者が相次いだ。空輸できるマイクロ炉を設置すれば問題解消につながるはずだと、アフガンや中東の基地などに配置する計画が浮上した。

ただ、ミサイル攻撃を受けた場合に原発は脆弱性が高い問題もあり、研究開発予算がついたものの、実現に向けた道のりは意外と険しいものとなった。だが、AI需要の高まりなどを受けて一気に状況が変わる。

海軍向けに約400基の原子炉納入実績があるBWXT社など歴史ある企業だけでなく、前述したラディアントや、オープンAIの創業者であるサム・アルトマン氏が設立に関わったオクロなどのスタートアップ企業が続々と参入、活気づいている。

米国の専門家は、30年代初頭にはこうした企業が開発したマイクロ炉の普及が本格化する可能性があると分析している。

【記者通信/11月6日】トランプ大統領がテコ入れ 米産バイオ燃料は日本で売れるか?

米国は穀物由来のバイオエタノールの世界最大の生産国だ。トランプ米大統領は、それを世界各国に自ら売り込んでいる。そして大規模な購入の意向を日本政府が示し、米国の関係者はそろって期待する。様子見姿勢の日本の関係者と対照的だ。どのように新しいビジネスを設計するべきか。

米空母ジョージ・ワシントン上で日米の協力を強調するトランプ米大統領と高市首相(内閣府提供、今年10月)

日米関税合意で重要論点に バイオ燃料など80億ドルを購入

9月にまとまった日米関税合意では、米国の発表によると日本は米国の農作物、バイオエタノール、SAF(航空燃料)などの製品を80億ドル(約1兆2000億円)購入するとしている。ただし、この具体的な内容と期限期日はまだ決まらず、あいまいなままだ。10月にトランプ大統領が来日し、日米投資のファクトシートが示されたが、そこでも具体策は出てこなかった。この金額の大きさは、バイオエタノールの活用が日米の外交上の重要問題になっていることを示す。

日本以外にもトランプ政権はバイオエタノールの輸入拡大を各国に求めている。その中で、国の規模の大きさ、この交渉の妥結が一番早かったこと、さらにバイオエタノールが普及していないことから、日本での販売拡大を米国側は期待している。

エネルギーフォーラムでは、この事情を説明する現地取材記事を掲載している。 

米国側の提供する情報によれば、バイオエタノールは輸送手段の脱炭素に効果があり、燃焼で有害物質も少なく、安いメリットもあるという。

◆「信頼できる国とつながりたい」米国の期待高まる

米国関係者による日本への期待は続いている。9月8日、東京で「米国バイオエタノール供給カンファレンス」が開催された。日本に拠点を置くバイオアメリカ穀物バイオプロダクツ協会の主催によるものだ。会は盛況でビジネスに関係する日米の300人程度の人が出席した。

そこで来日中だったネブラスカ州知事のジム・ピレン氏(共和党)が講演した。家業は農家で、生産したトウモロコシなどを日本に輸出していたという。「日本とのビジネスで裏切られたことはない。私たちは信用できる人とつながりたい。日本とは、国でも国民同士でも良い関係がある。ネブラスカの農作物とバイオエタノールを日本で使ってもらいたいし、それで両国の関係は一層深まる」と、期待を述べた。

日本のバイオエタノール輸入に期待を述べる、ピレン・ネブラスカ州知事(筆者撮影)

このようにバイオエタノールを巡る問題は、米国の農家の関心が高いために米国の政治家が注目している。米国内の政治問題に、日本の消費者、石油業界は巻き込まれ、日米の外交で重要な責任を負うことになってしまった格好だ。

バイオエタノールは、ガソリンの代替として輸送の脱炭素化に役立つエネルギー源だ。そして安ければ、エネルギー価格の上昇に苦しむ日本の消費者にメリットになる。また日本は石油を中東に依存するために、同盟国の米国からの輸入は、安全保障の上でも好ましい。しかし、本当に売れるのだろうか。

【目安箱/11月4日】エネ産業に政治の追い風 期待材料並ぶ新政権

日米首脳会談が10月28日に行われ、両国政府の後押しによる日本企業の対米投資案件の一部が示された。エネルギー分野への投資が中心で、しかも日本企業と米国の利益になりそうなものが多かった。発足した高市新政権でも、原子力活用やメガソーラー規制などエネルギーを巡る政策の方針が示された。この10年、日本のエネルギー産業は政治に振り回されることが多かったが、ようやく政治側がエネルギーで前向きの提案を行ってきた格好だ。その好機を活用したい。

日米首脳会談で握手する高市首相とトランプ大統領(10月28日、内閣府提供)

◆米国への投資、強制的なものでなし

米国は主要国に対して輸入関税をかける一方で、貿易赤字の改善、対米投資の増額を求めていた。日本はいち早く今年7月に米国と合意をした。(日米関税合意と対米投資に関する共同声明)。トランプ米大統領は10月27日から29日まで訪日し、就任したばかり高市早苗首相と会談。日米政府の間でこの投資の内容を詰める作業が行われ、「日米間の投資に関する共同ファクトシート」 
が示された。

このファクトシートによると、日本企業の参加する米国での新型原子炉の開発、AI対応、米国の電力網整備などへのビジネスや投資について、参加企業名と予定投資額が書いてある。筆者は日米政府が共同で投資を行うなら、エネルギー分野で効果的なプロジェクトがあると期待していた一方で、日本のエネルギー産業が投資を強要されるのではないかとの懸念もあった。

ところが、そのようなことはなく、すでに決まった日本企業の投資案件、これから行う予定のビジネスを列挙し、それに日米の政府が支援するという形だった。新型原子炉開発に協力する三菱重工や東芝、また電力網整備をする村田製作所、パナソニックなどは10月末、連日株価が上昇した。

また7月の合意では、アラスカの天然ガスパイプラインの開発、また米中西部のバイオエタノールなど農業関連製品の購入を日本は約束していた。これもエネルギー分野の投資、ビジネス案件だ。

◆日米相互利益のビジネスの可能性

トランプ政権が関税を材料に各国に投資増を求める提案をしたときに、筆者はおかしなことを持ちかけるものだと困惑した。しかしトランプ大統領は不動産ビジネスやエンターテイメントで成功したビジネスパーソンだ。相手も利益を得なければ、ビジネスをしないということがわかっているようだ。日本企業にも、応分のリターンを当然認めている。

筆者は、エネルギー産業の片隅にいる。そのために身びいきもあるだろうが、日本のエネルギー業界、つまり電力、ガス、石油のどの業界でも、またそれに機材を提供するメーカー勢も、素晴らしい力を持っていると考えている。実際に運用の効率性、また機器の優秀さは、あらゆる数値を見ても、世界のエネルギー界でトップクラスだ。この産業の持つ力がなかなか発揮できないもどかしさを常に感じていた。それどころか、福島原発事故の後で、政治と行政が押し付けた制度改正にエネルギー業界も、消費者も振り回された面があったと思う。

今回は政治の提案によって、日本のエネルギー産業、関係産業の持つ力を発揮し、大型プラントや電力網の建設や運営能力を米国に輸出できる機会が訪れている。これは米国の利益だけではなく、日本の企業も利益を得る双方向にプラスの取り組みになり得る。

【時流潮流/11月4日】米が露石油大手2社を制裁 ウクライナ戦費調達に影響か

トランプ米政権は10月22日、ロシアの石油大手2社と探鉱や海外事業などを担当する子会社にも制裁を科した。各国の輸入業者が取引した場合は、二次制裁を科す。これによりロシア産原油の輸出量削減が必至の情勢となった。ロシアのウクライナ戦争の戦費調達に影響が出る可能性が強まっている。

ルクオイルがブルガリア東岸ブルガスで操業する石油精製施設。ルクオイルはロシア国外でも手広く事業を展開している=筆者撮影

トランプ政権がロシアに制裁を科すのは第二期政権発足以来、これが初めて。トランプ氏は2期目の大統領に就任して以来、ロシアのプーチン大統領と「友好的」とは言えないまでも「少なくとも敵対的ではない」関係を築き、制裁を控えてきた。

だが、プーチン氏がトランプ氏の求めるウクライナでの戦争終結や、交渉に興味を示さない対応を続けたことに反発した。制裁をきっかけに、対露政策を従来より厳しい方向へと変える可能性がある。

制裁対象は国営石油企業ロスネフチと、ロシア国外でも積極的に事業を展開する民間石油会社最大手のルクオイルの2社。両社の子会社28社も対象となった。

ロシアの原油生産は、ロスネフチが全体の4割、ルクオイルが15%のシェアを持つ。両社合計で日量310万バレルを主に中国、インド、トルコなどに輸出する。

これまで、バイデン前政権も含め、米政権はロシアの原油輸出の制限に慎重な姿勢をとり続けてきた。制裁によりロシア産原油が市場から消え、需給逼迫で原油価格が上昇すれれば、米国の有権者が嫌うガソリン価格の上昇を招くためだ。

だが、OPECプラスが増産に傾いたことで、今年に入って原油市場は年初から価格が18%も下落するなど軟調な展開が続く。制裁により多少のリバウンドがあっても対応可能な水準に入ってきた。トランプ氏は対露制裁発動について「ようやく時が来た。長い間待っていた」と語り、「確実に成果が上がる」と自信を見せている。

中国やインドもロシア産原油購入に慎重姿勢

これまでロシア産原油を積極的に輸入してきた中国やインドだが、国際的な活動を展開する企業を中心にロシアとの取引を手控えようとする動きが出始めた。ロイター通信によると、中国のペトロチャイナ、シノペック、CNOOCなどが原油購入に慎重な姿勢を示す。インドでも同様の動きがある。米国政府による二次制裁を恐れた措置とみられる。

ロシアの歳入は、石油・天然ガスなどの化石燃料の販売収入が約4分の1を占めている。欧米諸国による制裁で輸出量が減少、そこに価格低迷も加わり打撃を受けている。25年度は法人税と所得税、26年度は日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)を2ポイント引き上げて22%にすることで歳入確保を狙う。

欧州連合(EU)も10月半ばの首脳会合で、ロシア産液化天然ガス(LNG)の輸入を26年末に打ち切る追加制裁措置を決めた。EUはさらに、ロシアが制裁回避のために使う「影の船団」所属のタンカーへの制裁を118隻増やして合計533隻とした。制裁をすり抜けることを塞ぐのが目的だ。一方、米国は、バイデン前政権時代に指定した211隻にとどまっている。ロシアをさらに窮地に追い込む制裁拡大にトランプ政権が動くかどうか。政権の本気度に注目だ。

【時流潮流/10月31日】ウラン濃縮ブームに沸く米国 新世代施設の誕生も視野

米国がウラン濃縮ブームに沸いている。原子力分野で脱ロシアを図ろうと、国産比率を高める政策が追い風となっている。米国ウレンコが施設増強を進めるほか、一度は米国進出を見送ったフランスのオラノも取り組みを再開した。さらには、レーザー技術を導入した新世代の濃縮施設の誕生も視野に入るなど百花繚乱だ。

英ロンドン郊外にあるウレンコ本社ビル=筆者撮影

米国は2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻して以後、ロシアの戦費を支える原油や天然ガスの禁輸措置を各国に求めた。だが、ロシア製の濃縮ウランについては、米国自身も依存度が23年には27%に達するなど高く、なかなか制裁に踏み込めなかった。

バイデン前政権は24年8月になってようやく禁輸措置を講じた。ただ、激変緩和措置として27年末までは輸入を認めている。

ウレンコ社が火付け役 濃縮施設能力を15%増強へ

米国でのウラン濃縮ブームの火付け役はウレンコだ。英国、西ドイツ、オランダの3カ国が1970年に合弁で設立したウラン濃縮企業で、米国には2010年に進出した。南部ニューメキシコ州に濃縮施設を置き、米国市場で約3割のシェアを握る。

脱ロシア機運の高まりを背景にウレンコは23年7月、濃縮施設の能力を15%増強する計画を発表した。工事は順調に進み、今年5月から順次、稼働を始めた。また、同社は26年からは、濃縮度を従来の5%から約10%に引き上げた「LEU+」と呼ばれる低濃縮ウランの供給も始める。軽水炉向けで、燃料交換サイクルの延長が可能となるため運用・保守コストの削減につながると電力会社に売り込んでいる

第三世代の濃縮技術であるレーザー濃縮も開発段階を終えて、実用化にメドがつきはじめた。技術開発を担当した豪州のサイレックス社と、カナダのウラン鉱山会社カメコ社が合同で設立したGLE社は9月、米南部ノースカロライナ州のパイロットプラントで今年5月から続けてきた試験が成功を収めたと発表した。

GLEが導入するレーザー濃縮技術は、天然ウランに0.7%しか含まれていないウラン235を高い精度で分離する。ガス拡散法が第一世代、現在の主力である遠心分離法の第二世代に次ぐ新たな世代の濃縮技術だ。消費電力量が少なく、敷地面積も小規模で済むのが売りだ。

GLEは実験成功を受け、かつてガス拡散法の濃縮施設があったケンタッキー州パデューカに本格的な濃縮施設を設置する計画を申請している。面白いのは、世界的な原発導入機運の高まりでウラン資源の確保が課題となる中、米エネルギー省が保有する20万㌧もの劣化ウランを活用して濃縮する。劣化ウラン濃縮はこれまでロシアが手がけてきたが、欧米ではこれが初の取り組みとなる。

パデューカでは、新興濃縮企業であるゼネラル・マター社が、小型モジュール炉(SMR)の核燃料に使うHALEUの製造を目指している。26年に着工し、34年に操業開始予定だ。

このほか、フランスの原子力産業大手のオラノも、米南部テネシー州オークリッジで濃縮工場設置を目指す。今年6月に現地事務所を開設、30年代初めの稼働を計画する。同社は18年に一度は米国進出を断念した経緯があるが、脱ロシア政策の後押しを受けて、再挑戦する。

【現地ルポ/10月30日】「JMS2025」が開幕 良くも悪くも時代の変化を実感

「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」(日本自動車工業会主催)が10月30日~11月9日、東京ビッグサイトで開催されている。自動車メーカーのほか、IT、通信、エレクトロニクスなどモビリティ分野に携わる多くの産業が参加し、過去最多となる計500社以上の企業・団体が出展。米トランプ政権の影響などから、世界的なEV市場の成長に陰りも見られる中、これからの自動車産業はどのような方向に進んでいくのか。そして世界における日本市場の存在感はどうなっていくのか。開幕初日の会場を訪れた。

開幕初日もかかわらず、閑散としていた東京ビッグサイトの中央ゲート

海外メーカーはわずか4社 日本市場凋落の懸念

今回のJMSでまず気になったのは、海外の主要自動車メーカーの出展が4社しかないことだ。新型コロナ禍の影響で2019年の開催が最後となった東京モーターショーからJMSに衣替えし、2023年秋に開かれた前回は海外勢の参加がメルセデス・ベンツ(独)、BMW/MINI(独)、BYD(中国)のわずか3社。今回は、そこにヒョンデ(韓国)が加わった程度である。

東京モーターショーの頃は、フォルクスワーゲン(VW、独)、アウディ(独)、ポルシェ(独)、フェラーリ(伊)、ランボルギーニ(伊)、フィアット(伊)、アルファロメオ(伊)、マセラティ(伊)、アバルト(伊)、ルノー(仏)、プジョー(仏)、シトロエン(仏)、ボルボ(スウェーデン)、ジャガー(英)、ランドローバー(英)、アストンマーチン(英)、ゼネラル・モーターズ(GM、米)、フォード(米)、クライスラー(米)といった世界を代表する自動車メーカーが勢ぞろいし、各社を代表する最新車やコンセプトカーを見て回れるのが大きな楽しみの一つだった。それも今は昔。世界の自動車産業における日本市場の凋落ぶりを目の当たりにしているようで、危機感を覚えずにはいられない。何しろ、日本のEV市場でシャアを拡大しているテスラ(米)さえ出展していないのだ。

昨年の世界販売ランキングトップ10を見ると、1位トヨタグループ(トヨタ、レクサス、ダイハツなど)、2位VWグループ(VW、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニなど)、3位ヒョンデグループ、4位GMグループ(GM、キャデラックなど)、5位スランティスグループ(フィアット、アルファロメオ、マセラティ、プジョー、シトロエンなど)、6位フォードグループ、7位BYDグループ、8位ホンダ、9位日産自動車、10位ジーリーグループ(ジーリー、ボルボ、ロータスなど)という順だ。モーターレース界を見ても、フェラーリやポルシェ、アウディ、ランボルギーニ、キャデラック、フォードなどが、さまざまなカテゴリーで大活躍している。JMSの会場からは、そんな自動車業界の現況が全く伝わってこない。

そして開幕が木曜日だったこともあってか、初日にもかかわらず来場者がまばらだったのには驚いた。目立つのはメディア関係者の姿。どこのブースも人が少なかったため、出展された車をじっくり観察でき、試乗もすんなりと出来たのは実に良かったが、内心は「JMS、本当に大丈夫?」。週末には、会場を埋め尽くすほど大勢の人が訪れることを願うばかりだ。

会場内ではメディア関係者ばかりが目立ち、一般来場者はあまりいない印象だった

【記者通信/10月29日】84兆円「対米投資」の全容 エネルギー関連企業がズラリ

10月28日に都内で行われた日米首脳会談では、7月の日米関税合意の確実な履行で合意した。日米両政府は関税合意の5500億ドル(約84兆円)の対米投資について、候補となる企業や事業内容をまとめた「共同ファクトシート」を発表。小型モジュール炉(SMR)や直流高圧送電(HVDC)、変電設備など、エネルギー分野の投資が多く網羅された。

日米関税交渉で日本は、関税引き下げとの「ディール」で米国に約80兆円の投資を約束した。しかしスピード感などを優先し、正式な合意文書は結ばれておらず、具体的な中身は不明確だった。日本国内からは「文書がないことで、日米間の解釈の違いが将来的な摩擦の火種になる」(立憲民主党の野田佳彦代表)といった懸念の声が挙がっていた。ちなみに「80兆円」と言っても、日本側の説明では、企業が米国に投資する額ではなく、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)を通じた日本企業への対米投資支援の「枠」を指す。

日米両政府は最終的に今回のファクトシート発表に至ったが、その名の通り正式な合意文書ではなく、確定していない内容も多い。野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏はコラムで「投資計画が日本にとって不平等なものであり、それが日本の国益を損ねていないかについては、今後もしっかりと検証を続けていく必要がある」との見方を示した。一方で、原子力分野など日本で投資が遅れている分野は、米国案件がサプライチェーンの維持・強化につながる可能性がある。

対米投資取りまとめのカギを握ったとされるラトニック商務長官

共同ファクトシートは次の通り。

<日米間の投資に関する共同ファクトシート>

今般のトランプ大統領の訪日に際し、日米両政府は、日米両国の企業が、次の分野におけるプロジェクト組成に関心を有していることを歓迎した。

1.エネルギー

・ウェスチングハウス

AP1000 原子炉およびSMR の建設。三菱重工業、東芝や IHI など日本企業の関与を検討。【最大 1000 億ドル】

・GE ベルノバ日立

SMR(BWRX-300)の建設。日立 GE ベルノバなどの日本企業の関与を検討。【最大 1000 億ドル】

・ベクテル

重要な中核施設への信頼性の高いエネルギー供給をサポートする発電所、変電所、送電システムなどの大規模な電力および産業インフラにおいて、プロジェクト管理、エンジニアリング、調達、建設サービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 250 億ドル】

・キーウィット

エンジニアリング、調達、建設サービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 250 億ドル】

・GE ベルノバ

ガスタービン、蒸気タービン、発電機などの大型電力機器を、送電網の電化および安定化システム(重要な中核施設向けのHVDCや変電所ソリューションを含む)に供給。日本企業の関与を検討。【最大 250億ドル】

・ソフトバンクグループ

大規模電力インフラ構築のための仕様、設計、調達、組立、統合、運用、メンテナンスを設計・開発。【最大 250 億ドル】

・キャリア

電力インフラに不可欠な冷却装置、空調システム、冷却液配分ユニットを含む熱冷却システムおよびソリューションの供給。日本企業の関与を検討。【最大 200 億ドル】

・キンダー・モーガン

天然ガス送電およびその他の電力インフラサービスを提供。日本企業の関与を検討。【最大 70 億ドル】

2.AI向け電源開発

・ニュースケール/ENTRA1 エナジー

AI 向けの電源開発(ガス火力、原子力)を検討。

3.AIインフラの強化

・東芝

ビジネス・技術等の諸条件における合意を前提に、電力モジュール、データセンター用変圧器、変圧器などの変電設備機器の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す。

・日立製作所

HVDCの送電設備および変電設備、データセンター向けトランスフォーマーを含む電力インフラの供給およびサプライチェーンの強化。

・三菱電機

データセンター向け発電に関するシステム(例えば発電機、送配電システムなど)、およびデータセンター機器(例えば UPS、チラー〈IT Cooling〉)、受変電システム、非常用発電機など)の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化。【最大 300 億ドル】

・フジクラ

光ファイバーケーブルの供給。

・TDK

AI インフラに不可欠な先端電子部品、パワーモジュールの供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す。

・村田製作所

高品質な多層セラミックコンデンサ(MLCC)、インダクタ、EMI 抑制フィルタなど、先進的な電子部品を提供し、また、リチウムイオン電池における専門技術を活かし、バックアップ電源およびエネルギー貯蔵システム(以下「ESS」)向けバッテリーモジュールの開発を進めており、バックアップ電源およびESS 向け製品(AC-DC/DC-DC コンバータモジュール、リチウムイオン製品、バッテリーモジュール)、先進電子部品の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化を目指す【最大 150 億ドル】

・パナソニック

エネルギー貯蔵システム(ESS)、その他電子機器・電子部品の供給及び米国におけるサプライチェーンの強化。【最大 150 億ドル】

4.重要鉱物など

・ファルコン・カッパー

米国西部に位置する銅製錬・精錬施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【20 億ドル】

・カーボン・ホールディングス

グリーンフィールドのアンモニア及び尿素肥料施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【最大 30 億ドル】

・エレメントシックス・ホールディングス

高圧・高温によるダイヤモンド砥粒製造施設の建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【5 億ドル】

・マックスエナジー

載貨重量 10 万tクラスの原油タンカーに対応するための浚渫・拡幅を含む、米国南部の船舶航路改善プロジェクトの完了。アメリカの原油の輸出を促進。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【6 億ドル】

・ミトラケム

リチウム鉄リン酸塩の生産施設を建設。日本のサプライヤーやオフテイカーによる関与を検討。【3.5 億ドル】

日米両政府は、9月4日に日米両国が署名を行った5500億米ドルの戦略的投資に関する了解覚書の対象となる案件も含め、今後、日米両国のサプライチェーン強靱化に資する様々なビジネス上の取組が推進されることについて、強い期待を表明した。

【記者通信/10月28日】赤沢経産相・石原環境相が会見 両大臣のエネルギー観は?

トランプ米大統領の来日が注目を集めた10月27日、新たに就任した赤沢亮正経産相と石原宏高環境相がそれぞれ専門紙誌記者会と初の会見に応じた。自民党と日本維新の会は連立合意書でメガソーラー規制や次世代革新炉・核融合の推進などを盛り込んだが、政策を実行する両大臣のエネルギー観はいかに……。

赤沢氏は石破政権で日米関税交渉を担当した。日米首脳会談に合わせて来日した米国のラトニック商務長官と浅草散策や歌舞伎座見学に出向くなど、独自の友好関係を築いている。両氏はお互いを「ラトちゃん」「赤ちゃん」と呼び合っているといい、就任会見では「(経産相として商務長官の)カウンターパートになれた」と喜んだ。飾らない性格の持ち主で、28日もインタビューの前には記者に気さくに話しかけるなど、そうした一面をのぞかせた。

石原氏は環境副大臣や衆議院環境委員長などを務めた環境族で、岸田文雄政権では岸田氏のライフワークである核軍縮・不拡散問題担当の首相補佐官を務めるなど政策を磨いてきた。故・石原慎太郎元東京都知事の三男で、自民党幹事長を務めた次男の伸晃氏に比べると「影が薄い」との声もあるが、顔つきや声質は慎太郎氏の弟・石原裕次郎氏に似ており、独特の存在感がある。

アラスカLNGに積極的な意義

メガソーラー規制を巡って政府は9月、地域共生と規律強化に向けて関係省庁連絡会議を設立した。赤沢氏は「社会問題化している不適切なメガソーラーに対し、地域共生を確保するため16本の関係法令を含む規律強化を図る」と語り、石原氏は連立政権合意の趣旨も踏まえ、具体的な対応策について速やかに検討を進める意向を示した。特に地域との共生が上手くいっていない事例の対応について議論を深めるといい、「釧路市のメガソーラーを抱える北海道庁からよく話を聞くように事務方に指示を出した」(石原氏)という。

東京ガスが調達を検討する米アラスカLNGについて赤沢氏は、「競争力の高いLNGが地理的に近接するアラスカから供給されることは、供給源の多角化に貢献し積極的な意義が認められる。今後も官民で米国企業などと協議を継続して適切な方策を講じる」と述べた。

このほか、洋上風力については「三菱商事の撤退要因や影響を分析した上で、後続案件の実現と国内サプライチェーン構築のために公募制度の見直しを含む事業環境整備を急ぐ」、原子力は「安全性の確保と地域の理解を大前提とし、既存発電所の再稼働を進める。廃炉決定済みサイト内での次世代革新炉への建て替えを進める方針だ」と従来の方針を踏襲した。関税交渉のテーマだった自動車分野などは熱っぽく語っていたが、エネルギー政策は手元のペーパーに目を落とす場面が多かった。

脱炭素技術が国家繁栄の鍵

一方の石原氏は環境族らしく、自らの言葉でのやり取りが目立った。トランプ政権のパリ協定離脱については「トランプ氏の任期は憲法上定められており、次の政権が協定に戻ることを信じたい」とした上で、「日本は、米国の動向に関わらず、脱炭素の技術革新に注力することが国益と繁栄に結びつく。それを世界に輸出する戦略を推し進めることが、政治家として目指すところだ」と強調した。

来年度に本格導入されるGX排出量取引制度(GX-ETS)については「環境副大臣の時に中井徳太郎さんが次官会見で炭素税と排出権取引に触れて炎上したが、あまり批判のない中でスタートしようとしているので期待している」と導入の経緯を振り返りながら語った。

高市首相は24日の所信表明演説で、物価高対策として冬の電気ガス料金補助の復活と、ガソリン税の旧暫定税率廃止する考えを示した。またエネルギー安全保障分野などの「危機管理投資」を成長戦略の肝として打ち出したが、具体策は見えていない。巨額の予算が必要となるだけに、歳出改革や赤字国債保発行額など財源確保策に注目が集まる。

【記者通信/10月21日】高市政権のエネ政策は脱公明 原子力推進にメガソーラー規制

10月21日の衆議院本会議で高市早苗氏が内閣総理大臣に指名され、「高市政権」が誕生した。20日には自民党と日本維新の会が、議員定数の1割削減や副首都構想の実現などを盛り込んだ連立政権合意書を締結。エネルギー分野ではメガソーラー規制や原発再稼働の推進、次世代革新炉・核融合開発の加速化などを明記した。また臨時国会でのガソリン税の旧暫定税率廃止や、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算成立を打ち出した。

合意書の冒頭には〈「日本再起」を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、「日本の底力」を信じ、全面的に協力し合うことを決断した〉とある。この言葉選びにピンと来た人もいるはずだ。

「日本再起」は自民党の政権奪還前夜、2012年の総裁選で安倍晋三元首相が用いたキャッチコピーだ。一方、「日本の底力」は麻生太郎氏が好んで使うフレーズ。首相として挑んだ07年の衆院選に大敗し、政権を民主党に明け渡した麻生氏だが、所信表明演説や首相退任時の会見で「私は、日本と日本人の底力に、一点の疑問も抱いたことはありません」と語っていた。安倍・麻生両氏は盟友であり、首相・副首相として自民党の黄金時代を築いた。高市首相の両氏に対する思いや配慮が垣間見える。

脱炭素よりも安定供給・経済安保

さてエネルギー政策だが、高市首相と自民党の小林鷹之政調会長のカラーの強調、そして公明カラーの脱色を感じさせる内容となっている。その象徴は原子力政策の前進とメガソーラー規制だ。

まず原子力では、原発再稼働、次世代革新炉・核融合の開発加速化を盛り込んだ。高市・小林両氏は核融合開発に積極的で、維新も7月の参院選の公約に明記していた。一方、連立を離脱した公明党は公約に原子力に関する記述はなく、第7次エネルギー基本計画策定時にも原発新設の要件に縛りを設けるようブレーキをかけた。自民・維新の組み合わせになり、原子力政策に対する熱量は高まりそうだ。

メガソーラーは来年の通常国会での法的規制を明記した。

〈わが国が古来より育んできた美しい国土を保全する重要性を確認し、森林伐採や不適切な開発による環境破壊および災害リスクを抑制し、適切な土地利用および維持管理を行う観点から、26年通常国会において、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を法的に規制する施策を実行する〉

高市氏は総裁選の出馬会見で「これ以上、私たちの美しい国土を外国製の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」と規制を強く訴えた。小林氏も「太陽光パネルは限界に達している」と述べていた。そのほかでは、地熱など日本が優位性を持つ再生可能エネルギー開発の推進、鉱物資源を含めた国産海洋資源開発を取り入れた。こちらも経済安全保障相を歴任した高市・小林コンビの強い意向が感じられる。

石破政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー政策の項目で冒頭に出てくるのは「2050年カーボンニュートラル(CN)、30年温室効果ガス削減目標の達成」だった。ところが、今回の合意書では「脱炭素」「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。

電気ガス料金補助は4度目の復活か

物価高対策としては、臨時国会中に①ガソリン税の旧暫定税率廃止、②電気ガス料金補助をはじめとする物価高対策の実現(補正予算成立)──の2点を盛り込んだ。①は1兆円(軽油引取税も対象となれば1.5兆円)の代替財源の確保を巡り、与野党協議が行われている。財源の一部について自民党は「賃上げ促進税制」など効果が疑問視される租税特別措置や高額補助金の見直しなどで対応するとみられる。

補正予算での物価高対策は既定路線だが、わざわざ「電気ガス料金補助」を名指しした。補助は23年1月~24年5月まで実施したが、酷暑と厳冬を理由に24年夏→冬→25年夏と3度復活していた。業界関係者の多くは「政治の道具にされている。きっと今年の冬もやるのだろう」と諦め気味だったが、案の定の結果となりそうだ。高市氏の言う「積極財政」とは本来、成長分野や戦略産業に国が集中投資する賢い支出(ワイズ・スペンディング)を意味するはずだ。しかし、新型コロナウイルス禍以降続く補正予算の肥大化に歯止めがかかる気配はない。

連立合意にあたり、維新の吉村洋文代表は「外交・防衛・安全保障・国家観など基本的な価値観を共有することができた」と語った。合意書に書かれた政策の実行力を疑問視する向きもあるが、吉村氏が言うように多くの価値観の一致が見られる。同時に、公明とは外交安保・憲法・エネルギーなどの考え方を共有できていなかったことが改めて浮き彫りとなった。

【SNS世論/10月17日】高市総裁支持を巡る過度な期待への懸念

高市早苗氏が10月、自民党総裁に選出された。安倍晋三元首相の継承を掲げ、保守派の政治家だ。SNSでは歓迎の声が目立つ。女性総裁ということで「日本のサッチャー」と、保守政治の象徴となっている英国政治家に例える人も多い。いわゆるリベラル色が強い公明党と、高市新総裁になって連立が解消したことも、保守派は好意的に受け止めた。

日本のSNSは右、つまり政治思想では保守系の影響が強いようだ。日本の既存のオールドメディアが左、つまりリベラルに偏った報道をいまだに続けている。その反動で保守派がSNSで不満をぶちまけるからかもしれない。SNSの中で政治主張の多い「X」を観察すると、左の活動家の人が熱心に書き込んで、投稿の量は多い。しかし投稿する人の数は右の人が多いようだ。もちろん、政治思想を右と左に分けるのは単純すぎる分類であり、あくまで筆者の受けた印象と受け止めてほしい。

そしてSNSを観察していると、高市氏の自民党総裁への選出で好意的な意見が目にとまるため、日本が変わると思い込んでしまいそうだ。それは一種の錯覚だと思う。

◆高市氏の勉強好き、エネルギー業界で好印象

SNSでは問題ごとに、また同じ意見を持つ人ごとに、塊(かたまり、クラスター)ができている。「エネルギークラスター」「再エネクラスター」「原子力クラスター」も、緩やかなまとまりができている。こうしたエネルギー関係の人は、揃って高市氏に期待している。

高市氏はかなりエネルギー問題を勉強している。やや細かいことに関心が向きがちであるが、これまで核融合発電や新型原子炉の支援の発言をしている。さらに総裁選の公約では新型太陽光発電技術「ペロブスカイト太陽電池」に言及し、再エネ関係者も驚いていた。現実でも、筆者の属するエネルギー業界の人々も高市さんに期待する声が大きい。「政治主導で電力会社をいじめてきた。それが変わる」との感想を述べる人もいた。

ところが、そうしたクラスターから外れると、評価は手厳しい。あるリベラル系の評論家が「少数与党で公明党が連立離脱すれば、高市さんが首相になれないのに。なんで喜んでいるのか」と皮肉を込めてXで述べていた。また英国のトラス政権は、減税を政策にしたが、その財源の根拠がなく国債の急落など金融市場が混乱し、政権発足からわずか44日で2022年10月に総辞職した。トラス首相は女性だった。辛口批評で知られるある経済学者は現在、金利が上昇(国債が下落)して動揺をする日本の国債市場を見ながら「高市はサッチャーではなく、トラスになりそうだ」と皮肉を述べていた。

10月15日段階では、野党統一候補として、国民民主党の玉木雄一郎代表が、野党統一の首相候補になる可能性も出ている。誰が首相に選ばれるか情勢は流動的だ。高市氏がそもそも首相になれない可能性もあり、エネルギークラスターでの期待の広がりも、無駄になってしまうかもしれない。

◆「床屋政談」が人間の認知に影響を与える

SNSは、今の社会での人々の声がリアルタイムで見えて面白い。また問題の当事者、渦中の政治家が発言する。前述のように既存メディアが、どうも本当のことを言わない状況では、注目され重視されるのは当然だ。

しかし、巨大なおしゃべりの場であり、そこでの政治や政策談義は、一種の「床屋政談」だ。床屋政談とは、床屋に来た客が散髪をして貰いながら、店主と噂話でもするように無責任な話をすること。それは現実に影響をかすかに与えるかもしれないが、現実そのものではない。SNSは物事そのものではなく、情報を媒介するものにすぎない。

また、情報のクラスターができるのは自然なことだが、同質の意見が集まりすぎると、それがあたかも真実のように思えてしまうことがある。10月の自民党総裁戦では、SNSや事前調査で優勢が伝えられた候補の小泉進次郎衆議院議員の取り巻きが、前日に祝勝会をやったと週刊誌に伝えられている。これはそうした見誤りの一例だろう。現実が、人々の噂、SNSの通りに動くとは限らない。

高市氏が首相になったとしても、彼女がこれまで関心を示してきたエネルギー問題に取り組むか、もしくは取り組んで実現できるかはわからないのだ。もしかしたら、今でも反原発を掲げる、立憲民主党やれいわ新選組の参加する連立政権が、国民民主党の玉木代表を首相として成立してしまうかもしれない。

エネルギー産業の人は、高学歴で賢い人が多い。それでも高市氏の総裁への選出後、過度な期待と、エネルギー問題への政治による支援など、楽観的な好影響の予想を唱える人が増えている。筆者は「何度も政治には裏切られたではないですか」と繰り返し、釘を刺している。

◆認知の歪みを警戒して、情報を集める

そうした外的な要因に期待することなく、左右されることなく、目先の自分ができることをやる。SNSの影響力が増している今こそ、こうした当たり前のことに注力するべきだ。SNSは有効な道具になる一方で、時として人の判断を惑わせてしまう危険さもある。私たちの大半の人間は一般人で政治や政策を動かすことはできない。もしかしたら、高市氏も玉木氏も政治を動かすことはできないかもしれない。

SNSには格言を流すアカウントがたくさんある。その中で次のような言葉が流れてきた。

「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を。そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」

アメリカの神学者ラインハルト・ニーバー(1892–1971年)によるものという。私たちは、SNSで流れてくる心惹かれる情報に右往左往するのではなく、政治家のように政治を語るのではなく、目の前の仕事に向き合うべきだろう。エネルギーをめぐる問題に対してもそうあるべきだ。

【記者通信/10月9日】自民総裁選で約3000の無効票 そこにあった名前とは

10月4日に投開票された自民党総裁選は、党員・党友票の圧倒的な得票から高市早苗氏の勝利に終わった。フルスペック形と呼ばれる今回の総裁選だったが、改めて党員・党友票の重要性が認識されたに違いない。下馬評が高かった小泉進次郎氏は党員・党友票が獲得できず再び敗退する憂き目に遭った。

その小泉氏を巡って、実は党員・党友票の無効票に「小泉孝太郎」という記名が多かったという話が聞こえている。進次郎氏よりも兄貴の人気が一枚上だったかと納得してしまいそうになる。

関係者によれば、今回の総裁選での無効票は約3000票あった。どの選挙でも無効票というのは存在するが、「思わず笑ってしまった」と話すのは、開票作業に携わったスタッフの平川愛子さん(仮名)。

都内で開票作業をしていたというが、「またかまたかと小泉孝太郎が出てきました」と振り返る。平川さんは「孝太郎の名前が次々と出てくるのを見て、新総裁には孝太郎の方がいいかもしれないなんて考えも頭をよぎりました」と苦笑する。

小泉純一郎氏の世襲が進次郎氏ではなく、孝太郎氏だったとしたら、親子2代の首相が誕生していたかもしれない。

小泉孝太郎のほかに多かったのは「石破茂」だったという。「石破さん辞めないでという声は党員の中にもあったということでしょう。根強い人気を感じました」(平川さん)

「石破降ろし」を画策した議員はこの現実をどう受け止めるのだろうか。