【記者通信/10月29日】IDII元代表を逮捕 「なぜ東京地検特捜部が?」の声 ※再修正版


エネルギー関連ファンド運営会社、IDIインフラストラクチャーズ(IDII)元代表の埼玉浩史氏が業務委託費を装って不正な支出を行い、自身が幹部を務めていた2つの会社に総額4000万円相当の損害を与えたとして、東京地検特捜部は10月29日、埼玉氏を特別背任などの疑いで逮捕した。関係者によれば、埼玉氏は容疑を否認している。

報道などによると、埼玉氏は2018年6月、自身と同じ旧日本興業銀行(現みずほ銀行)出身の知人が経営するエネルギー調査会社A社とIDIIとの間で、業務委託契約を結んだことを装い、2160万円を送金。また翌19年11月には、取締役だった別の会社から知人の会社に委託料名目で19万4000ドル(約2000万円)を支出し、IDIIグループに損害を与えたとして特別背任などの疑いが持たれている。

今回の逮捕劇を巡り、エネルギー関係者の間に衝撃が走っている。「不正の疑いがあることは報道ベースで知っていたが、まさか逮捕されるとは……」。埼玉氏を知る大手エネルギー会社の幹部は、驚きを隠さない。〈業務委託装い数千万支出か 会社元代表、東京地検特捜部が捜索、実態解明へ〉(産経新聞10月2日)、〈投資ファンド不正支出、特別背任容疑で元代表取締役を逮捕…支配下のシンガポール法人に流したか〉(読売新聞10月3日)――。10月初旬、一部メディアが埼玉氏の不正支出疑惑を報道したことで、業界に波紋が広がった。その後も特捜部の捜査が続いており、「埼玉氏が容疑を否認していることから、逮捕に踏み切ったのでは」(メディア関係者)とみられている。

IDIIは29日、自社のウェブサイト上で、〈本日、埼玉氏が東京地方検察庁特別捜査部により逮捕された旨の報を受け、関係者の皆様には多大なご心配とご迷惑をお掛けしておりますことを深くお詫び申し上げます〉〈当社としては、検察による捜査が行われております資金流出の件をはじめ、これまでに判明した埼玉氏らによる数々の不正につきましては、今後とも然るべき方法により、その法的責任を厳しく追及していく所存です〉などとするコメントを公表した。

「決して私服を肥やすような人では…」 係争の長期化も背景に

その一方で、「なぜ、このような国民的にほとんど関心を呼ばない、警視庁レベルの案件で特捜部が動いたのか。そこが、どうしてもよく分からない」と首をかしげる関係者も。こうした事情から、「今回は別件逮捕で、本丸は他にあるのでは」との観測も流れる。「埼玉さんのことは昔からよく知っている。あの風貌が物語るようにざっくばらんで、剛腕なところもあるが、しっかりとした経営理念を持っていて、信頼できる人物。決して私腹を肥やすような人ではない」(金融関係者)。埼玉氏周辺からは、そんな声が少なからず聞こえる。

IDIIを巡っては、2020年10月29日に開かれた取締役会で、当時の社長だった埼玉氏が突如解職され、主要株主である大和証券グループ本社の幹部が後任社長に就いた経緯がある(「記者通信/20年12月17日」参照)。11月24日、埼玉氏らIDIインフラ役職員等持ち株会は大和証券グループ本社を相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴(「記者通信/21年1月31日」参照)。以来、埼玉氏と大和証券グループとの間で、訴訟が繰り返されている(「エネルギーフォーラム22年5月号フォーカス」参照)。「この係争の長期化が、今回の逮捕劇につながっている可能性も否定できないと思う」。事情通はこう話す。「舞台裏で何らかの司法取引があったのでは」(ジャーナリスト)と見る向きもある。

「われわれがなぜ(大和証券グループと)争うのかというと、単に『どちらが正しいか』を決めるためではありません。投資家からお預かりした資金をしっかり運用して結果を出すことが最優先かつ最重要であり、問題を早期に解決しなければならないからです。経営体制のガバナンスと株主体制の一元化を達成することで、日々棄損する投資先の価値に歯止めをかけ、株主価値を回復させることがステークホルダーに対するわれわれの責任の取り方です」。21年1月31日付の記者通信に掲載したインタビューにおいて、大和証券グループとの訴訟に関するコメントの中で、こう語っていた埼玉氏。果たして、逮捕劇の真相はどうなのか。特捜部による実態解明の行方に、関係者の注目が集まっている。

【目安箱/10月29日】原発でのミスをなくす努力 柏崎刈羽に見る東電の取り組み


人間は間違える。それを無くすことは難しい。製造業の管理で、「ヒューマンエラー」という考えがある。生産や作業過程で起きる人間の間違いの中で、「人間が起こした行動によって起こるミスやトラブルのこと」だ。具体的には、誤入力や誤操作、認知ミスなどが要因となり、意図しない結果、最悪の場合に事故となることを指す。

安全対策工事が一通り完了した東京電力柏崎刈羽7号機

東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を視察する機会があった。同原発の設備面での対策は、エネルギーフォーラムの記事「【記者通信/10月1日】柏崎刈羽原発の最新事情 ここまで進化した安全対策の全容」

に詳しく書かれている。それに加えて、私は自分の見た「ヒューマンエラーをなくす」という東電のソフト面の取り組みを紹介してみたい。今、東電の同発電所の再稼働が問題になっている。参考にしていただきたい。

◆コミュニケーションが悪いとミスは起こりやすい

筆者は文系業務の人間だがエネルギー業界の末席にいて、事故防止の講習を受けたことがある。その講師によると、ヒューマンエラーの姿はさまざま千差万別だが、起きる現場には共通点があるという。それは、「意思疎通(コミュニケーション)が悪いこと」だ。

ヒューマンエラーの主な原因は3つだ。第1に「確認不足」。思い込み、チェックを行ったなどだ。第2に「伝達ミス」。つまり情報が共有されず、組織の中で人々の行動が混乱すると、事故につながりやすい。第3に判断「判断ミス」。確認不足や伝達ミスと重なることが多いが、思い込みや間違った情報で、誤った判断とそれによる行動をしてしまう。

作業の機械化・自動化はヒューマンエラーを減らす有効な手段だ。マニュアルや手順の整備も必要になる。しかし人間の関与を作業でなくすことは難しい。作業のアウトプットを受け取るのも人だ。自動化の手順を決め、運用するのも人だ。その機械が壊れて事故や緊急時の対応ができない、もしくはヒューマンエラーを誘発する場合もある。

コミュニケーションが不足すると、この三つのミスは発生する可能性は当然高くなる。「ギスギスした職場は、取り繕っても見えてきます」と、その講師はコンサルの経験を話していた。

ある家電メーカーの工場は、その会社にあった「叱る文化」がおかしな方向に展開し、現場の作業員が萎縮して何も言わなくなっていた。それを工場の幹部は「安全管理が行き届いている」と勘違いしていた。大事故は起こしていないが、「ヒヤリ、ハット」と呼ばれる危険な状況や小さな事故は多発していた。それに気づいて直したという。

「安全対策には、終わりはない。検証し、問題があれば工程を直す行為を繰り返していかなければならない。そのためにコミュニケーションがよく、現場の人々が高め合う、現場の雰囲気が、安全性向上の大前提になる」とその講師は持論を述べていた。

2011年の東京電力福島第一原発事故の後に原子力規制が強化された。そのために、どの原子力発電所も過剰な装備だらけになっている。原子力規制委員会による規制は装備を増やせば「合格」という、かなりおかしな姿だ。ヒューマンエラーは起きやすくなるし、人間のミスに配慮した安全対策をしているとは思えない。

◆安全のために人間関係まで配慮を重ねる東電

東京電力の柏崎刈羽原発では、安全対策でさまざまな設備が作られていた。それに対応する操作や行動が複雑になったと私は心配した。当然東電側もそれは分かっていた。私を案内してくれた林勝彦副所長は「設備を取り付けて終わりではない。災害や運用の訓練を重ね、さらに安全性を高めて進化するためにどうすればいいか、発電所全体で考え努力をしていく」と話していた。

そして職場の雰囲気も変えようと工夫があった。人の集まる場所では所長のブログ、お知らせ、また発電所側の注意喚起事項がモニターで共有されるようになっていた。イントラネットで、関連会社、社員は、それらを閲覧できる。また発電所内では、関連会社や東電社員が顔を出し、抱負を述べたポスターが貼られていた。

構内で働く人は約6000人、東電社員は約1200人いる。さまざまな企業が集まり、発電所の工事、運営を行っている。その中で、一体感を作ろうと努力を重ねていた。2022年秋に赴任した稲垣武之所長は昨年4月から毎日、出張以外では必ず早朝から正門に立ち、入構するすべての人に「おはようございます」と挨拶し、毎日、発電所の問題などを取り上げたブログを書く。また発電所に役立つことをした人に、会社を問わず、所長自筆のメッセージカードを届けている。カードの数は5000通以上になった。

稲垣所長が率先して取り組む「あいさつ運動」

筆者が構内を見学するとみんながあいさつを交わし、訪問者である私も「明るさ」を感じられた。

「写真や映像で顔を出して抱負を語るのは恥ずかしいとか、幹部が一生懸命挨拶やカードを出してもヤラセっぽく見えるなどの意見もあった。それでも実行を続けると、ためらいの声が消えて、コミュニケーションが良くなるプラスの面が出てきた」(東電社員)

それでも問題は起きてしまう。柏崎刈羽原発では、運転員が2020年9月、他人のIDカードを使って原発の中枢である中央制御室に不正入室した事件が原子力規制庁の査察で発覚した。東電はその反省から、顔や指紋認証など一段と厳重な管理システムを導入した。さらに、従業員の行動チェック、再発防止を呼びかけ、意識改革の啓発を続けている。

ヒューマンエラーを減らすための努力

コミュニケーションを高める。改善の努力を続ける。短い訪問であったが、東電の柏崎刈羽原発では、設備面の安全対策だけではなく、ヒューマンエラーを減らすための努力をしていることを知ることができた。

「東電は信用できない」。そんな声が再稼働反対の人々から聞こえる。東電は一度、福島第一原発事故で大きな事故を起こし、また不正IDの問題などを起こした。不信があることは理解できる。しかし、こうした人間によるミスまで配慮をした取り組みを重ねている。

東電は柏崎刈羽原発の安全対策工事を終えた。後は、地元の新潟県民、そして新潟県知事と議会の同意を求めるだけになっている。東電の「ヒューマンエラー」まで配慮した対策を多くの人に知ってほしいと思う。再稼働をめぐる考えの参考になるのではないか。

私個人ではここまでの対策を見て、もう一度、東電に原子力の運用の機会を国民が与えてもいいのではないかと思った。国民の皆さん、そして新潟県民の皆さんはどのように思うだろうか。

【記者通信/10月28日】原発立地区は予想通りの結果に どうなる!?原子力政策


衆院選の投開票が10月27日行われ、裏金問題や旧統一教会問題などの逆風にさらされる自民(議席数247→191)、公明(32→24)の政権与党が、過半数(233)を大きく割り込む215議席獲得という衝撃的な結果となった。これに対し、立憲民主党(98→148)と国民民主党(7→28)は大幅に躍進し、勢いを見せつけた。そのほかでは、日本維新の会が44→38と議席を減らす一方、れいわ新選組が3→9と議席数を3倍に拡大させた。

エネルギーフォーラムでは、原発立地区の選挙戦情勢について報じてきた(記者通信/10月19日記者通信/10月25日)。果たして結果はどうだったのかといえば、ほぼ事前予想通りの展開になった。対象小選挙区の当選者は次の通り。

①北海道4区(泊)=大築紅葉氏(立民)、中村裕之氏(自民、比例当選)、②青森1区(大間、東通、六ヶ所、むつ)=津島淳氏(自民)、舛田世喜男(立民、比例当選)、③宮城5区=小野寺五典氏(自民)、④茨城5区(東海第二)=浅野哲氏(国民)、⑤新潟4区(柏崎刈羽)=米山隆一氏(立民)、⑥石川3区(志賀)=近藤和也氏(立民)、西田昭二(自民、比例当選)、⑦福井2区(敦賀、美浜、大飯、高浜)=辻英之氏(立民)、斉木武志氏(維新、比例当選)、⑧静岡3区(浜岡)=小山展弘氏(立民)、⑨島根1区=亀井亜紀子氏(立民)、⑩愛媛3区(伊方)=長谷川淳二氏(自民)、⑪佐賀2区(玄海)=大串博志氏(立民)、古川康氏(自民、比例当選)、⑫鹿児島3区(川内)=野間健氏(立民)

小選挙区では立民8、自民3、国民1という結果で、立民に軍配だ。とりわけ目を引くのが新潟県で、原子力政策に理解のある細田健一氏(自民)が新潟2区で菊田真紀子氏(立民)に敗れるなど、1~5区の全てで立民が勝利を収めている。この情勢が、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に向けた県側の同意にどのような影響を及ぼすのか、関係者の関心は高い。

国民民主との政策協力で原発再稼働に弾み付くか

このほか、エネルギー政策関係で注目されるのは、原子力政策で推進の旗を振ってきた鈴木淳司氏(愛知7区)、甘利明氏(神奈川20区)らが落選したことだ。一方、経産相経験者の茂木敏充氏(栃木5区)、小渕優子氏(群馬5区)、世耕弘成氏(和歌山2区)、梶山弘志氏(茨城4区)、萩生田光一氏(東京24区)、西村康稔氏(兵庫9区)、斎藤健氏(千葉7区)、そして現在の武藤容治氏(岐阜3区)は、裏金・旧統一教会問題などの逆風を跳ね除け当選。エネルギーフォーラムでコラム「永田町便り」を連載中の福島伸享氏(茨城1区)も、無所属ながら衆院選で2回目の当選を果たした。

今後の焦点は、石破茂政権の行方だ。小泉進次郎選挙対策委員長は、衆院選敗北の責任を取って辞任する意向を見せているが、党内には石破首相や森山裕幹事長の責任を問う声も渦巻く。一方、石破首相は政権を維持すべく、国民民主党に対し政策面での協力などを呼び掛ける考えを示している。対する立憲民主党の野田佳彦代表は、特別国会での首相指名選挙を視野に、立民を中心とした政権の枠組みづくりを目指す構えだ。

こうした中で、岸田文雄政権下で舵を切った原子力推進路線は、きちんと継承されていくのか。「国のエネルギー基本計画見直しの議論は、永田町事情とは関係のない形で進んでいる。野田政権でも誕生しない限り、今回の衆院選結果をもって、原子力に関して妙な揺り戻しが起きることは、まずないだろう。むしろ、原子力推進を公約に掲げる国民民主党が与党と政策協力することになれば、原発再稼働に弾みがつくことが期待される」。経産省OBはこう話すが、どうか。国のエネルギー基本計画を巡る議論からも目が離せない状況が続く。

【記者通信/10月25日】衆院選終盤戦の当落予想 原発立地区は立民やや優勢も混戦模様


衆院選挙戦もいよいよ終盤に突入した。序盤戦における原発立地区の支持率情勢については、【記者通信/10月19日】で報じたが、その後の情勢変化も踏まえて現状はどのような展開になっているのか。今回は週刊文春が10月24日発売号で掲載した「全289区当落リスト」をもとに、対象12区の予想を紹介する(A=安定、B=優勢、C+=やや優勢、C-やや劣勢)。

まず自民党に軍配が上がるのが、①青森1区(大間、東通、六ヶ所、むつ)=津島淳氏(自民)C+・升田世喜男氏(立民)C-、②宮城5区(女川)=小野寺五典氏(自民)A――の二つしかない。

これに対し立憲民主党は、①北海道4区(泊)=大築紅葉氏(立民)C+・中村裕之氏(自民)C-、②茨城5区(東海第二)=浅野哲氏(国民民主党)C+・石川昭政C-、③新潟4区(柏崎刈羽)=米山隆一氏(立民)C+・鷲尾英一郎氏(自民)C-、④石川3区(志賀)=近藤和也氏(立民)C+・西田昭二氏C-、⑤福井2区(敦賀、美浜、大飯、高浜)=辻英之氏(立民)C+・斉木武志氏(維新)C-・高木毅氏(無所属)C-・山本拓氏(無所属)C-、⑥静岡3区(浜岡)=小山展弘氏(立民)B・山本裕三氏(自民)C-、⑦島根1区=亀井亜紀子氏(立民)C+・高橋恵美子氏(自民)C-、⑧愛媛3区(伊方)=長谷川淳二氏(自民)A、⑨佐賀2区(玄海)=大串博志氏(立民)C+・古川康氏(自民)C-、⑩鹿児島3区(川内)=野間健氏(立民)C+・小里泰弘氏(自民)C-――と、茨城5区を除く計八つの区で優勢またはやや優勢となっている。

ただ関係筋によれば、C+とC-の差は小さく、他メディアの調査によっては逆転しているケースもある。実際には接戦を繰り広げているとみられ、「最後の最後まで、どうなるかは分からない」(永田町筋)のが実情だ。

原子力政策の観点から見ると、やはり注目は新潟4区。東京電力側の安全対策工事が完了した中で、再稼働に向けた今後の焦点は新潟県の地元同意に移っていることから、衆院選の結果が県の判断にどう影響するのか、関係者は固唾を飲んで見守っている。

【記者通信/10月25日】エネ研が長期需給見通し発表 2050年も化石燃料が中心に


日本エネルギー経済研究所が10日18日、2050年までの長期エネルギー需給見通し「AEEJアウトルック2025」を発表した。国際エネルギー機関(IEA)も同時期に「2024年版世界エネルギー見通し」を発表したが、両者の性格は異なる。エネ研は「現在」を起点に将来を予測するフォアキャスト型シナリオ、IEAは50年カーボンニュートラル(CN)達成するという仮定から逆算するバックキャスト型シナリオだ。IEAの見通しが理想と現実のギャップの認識に役立つ一方で、エネ研の推計は現実的で正確だと定評がある。

「アウトルック」では昨年と同様、50年までの世界のエネルギー需給見通しについて、現在の趨勢を維持すると仮定した「レファレンスシナリオ」と技術開発を織り込んだ「技術進展シナリオ」の2パターンで定量的に評価した。50年の一次エネルギー需要は、レファレンスシナリオでは22年から14%増加、技術進展シナリオでは30年までにピークを迎えると分析。需要増加はインド・東南アジア諸国連合(ASEAN)が中心で、「地球規模の排出削減にはこの2地域やほかの新興・と徐国を巻き込むことが欠かせない」とした。

技術進展シナリオでは、省エネ、再エネ、CO2回収・貯留・利用(CCUS)の三つがCO2削減に大きく寄与すると分析。一方、太陽光や風力など変動再エネの導入が大幅に進んだ場合、多くの地域で導入量が年平均負荷の「2倍かそれ以上」となり、時間によって出力の大幅な超過や不足が生じると警鐘を鳴らす。

化石燃料投資は死活的に重要 

化石燃料の中でも、石油はシナリオ間での需要差が大きい。運輸部門で電気自動車(EV)シフトやハイブリッド車(HV)の普及量、ガソリン車の効率改善に不確実性があるからだ。運輸部門の石油需要について、レファレンスシナリオでは先進国で微減、新興・途上国で急増、技術進展シナリオではEVの大量導入などにより新興国で大幅減、新興・途上国で横ばいとなる。この結果、世界全体の石油需要はレファレンスシナリオで微増、技術進展シナリオでおよそ半減となった。

化石燃料全体を見ても、レファレンスシナリオでは50年時点でも世界のエネルギー需要の73%を化石燃料が賄うとした。省エネの深堀りなどで化石燃料の需要はある程度抑えられるが、「気候変動対策の余波などで投資が進まなければ供給がひっ迫する可能性が高い」と分析。追加投資が行われなければ、50年の石油・天然ガス生産量は現在の10分の1に減少するといい、「化石燃料の安定供給には安定的な投資が死活的に重要」だと警鐘を鳴らす。需給ひっ迫は価格高騰につながり、経済に与える影響も甚大だ。CNへの取り組みが思うように進まない場合を考えて、化石燃料の安定供給にもしっかりと目配りする必要がある。

またCNを目指す上でのリスクの一つが、サプライチェーンの特定国への集中だ。例えばEVなどに登載するリチウムイオン電池や太陽光パネル、風力発電設備のサプライチェーンは中国に依存している。極端な話、もし中国が重要鉱物を禁輸すればEVが製造できなくなってしまう状況だ。アウトルックでは供給国の集中度が高い脱炭素技術の開発と市場創出が必要だとした。またCCS火力や水素・アンモニア火力、原子力発電、合成メタンの都市ガス利用、CN燃料(バイオ燃料、合成燃料)といった特定の国に依存しない脱炭素技術を組み合わせ、リスクを分散させる重要性も指摘した。

アウトルックの副題は「エネルギー転換を巡る不確実性にどう向き合うか──」。わが国における地に足の着いた取り組みが求められている。

【目安箱/10月23日】雨風の動きが複雑な日本 国土特性に見る再エネの難しさ


「日本では自然を飼い慣らすことは難しいのではないかと思います。言葉を調べれば分かります」

知人に和歌と俳句を学んでいる女性がいる。彼女はエネルギー産業の知識はない。筆者がエネルギー業界の関係者ということで、いろいろ質問された。そして再エネ発電事業の難しさを述べると、このように感想を述べた。彼女によると、日本の和歌や俳句には、気象を題材にしたものが無数にある。これは日本人の感性の豊かさを示すだけではなく、気象の複雑さを示すものだという。

ギリシャ・ミコノス島の風車

「ドン・キホーテという15世紀の小説で、風車の群れを巨人の大群と見間違えて、主人公が突撃する場面がありますね。ヨーロッパでは、風が常に一定で、雨も少なく、自然を使いやすかったのではないですか」

なるほどと思って調べた。俳句では、季節を示す季語を17字の中に織り込むルールがある。和歌でも使われる。美しい響きの風と雨に関係する季語が200ずつぐらいあった。

文学作品に織り込まれた日本の気象

雨の季語は、春は五月雨(さみだれ)、夏は梅雨(つゆ)、夕立(ゆうだち)。秋は月の雨、冬は時雨(しぐれ)などがある。風をめぐる季語も多い。春は春一番、夏は薫風(くんぷう。かおるかぜ。若葉の香りを漂わせて吹く初夏の風)、秋は野分(のわき、秋の台風に伴う暴風)、冬は木枯らし(こがらし)などだ。

「時によりすぐれば民の嘆きなり八大龍王雨やめたまへ」(源実朝)

雨や風を織り込む和歌や俳句、雨や風を重要なテーマにするその他の詩歌や文学作品は、数えきれないほどある。

ちなみに雨を示す日本語は400、風を示す日本語は2000もあるそうだ。これほど雨や風を伝える表現を持つ言語は世界に少ないだろう。この単語の数の多さは、日本人の季節への感性の鋭さだけを示す意味だけではなく、日本の気象の複雑さを示すものだろう。

世界でも多雨地帯であるモンスーンアジアの東端に位置する日本は、年平均1718mlの降水量があり、これは世界平均(880ml)の約2倍に相当する。しかも日本の降水量は季節ごとの変動が激しい。当然、日照時間は世界平均との比較では短い。

地形も複雑だ。日本は海に囲まれ、列島の中心部には山脈が走る。台風も来る。雨雲や風は、さまざまな動きを見せる。その中で雨も風も、強さや姿がさまざまに変化する。そして季節ごとにそれらの動きは変わる。これを使いこなすことは大変だ。欧州並みの風力発電の効率を発揮できる場所は、日本で一部の洋上、そしてオホーツク海付近しかないとされる。

西欧では広がった風車、日本では使われず

西欧は1000年以上、風車を使い続けていた。そして最近は風力発電が急増した。これは、この地域の地形が日本に比べて平坦で、風の動きがそれほど変化をしないためだろう。小高い丘の上に風車を作れば、それが動力源となった。前述の「ドン・キホーテ」の光景は、それを示したものだ。太陽光でも、欧州や中東は日本より発電は有利だ。日干しレンガが昔から中近東から欧州では安い建材として使われた。日照が良かったためかもしれない。

日本で風車はほとんど使われなかった。昔の日本人が風車を作る、使う能力が足りなかったわけではないだろう。使いこなせないほど、風の動きが複雑だったためと思われる。太陽光の利用も、塩や干物の精製などの簡単な天日干しに使うぐらいしか、最近まで産業への利用はなかった。

日本に合った再エネを考えるべきだった

「日本で再エネの力を発揮させることは難しい」。私たちの日常生活、そして日本の国土の特徴と技術の歴史を振り返れば、この事実は簡単に分かる。前述の女性のように、エネルギーのことは知らなくても、観察力のある賢い人は洞察できた。それなのに、再エネは、西欧の仕組みをそのまま導入してしまった。筆者も自分の居る場所で、立ち止まってその問題を深く考えるべきだった。

風力や太陽光の発電で長所ばかりを取り上げる声があり、今でもそれが続く。国土の形が全く違うのに「ドイツを見習え」など、欧州の再エネの仕組みを取り入れろと主張する人が今もいる。外国製の知識を機械的に日本に当てはめる、明治維新以来の日本人の悪い癖に、再エネ問題でも私たちはとらわれていなかったか。

日本での近年の再エネの急増は、プラスとマイナスの面がある。マイナスの面は再エネ電力の強制買取制度による国民負担の増大、そして乱開発による日本の国土の破壊などだ。これは、こうした日本の気象の特性に関係する。再エネの適地が不足し、発電効率も良くない。なぜ少し考えれば分かることなのに、経産省も事業者も事前に対策を打てなかった。

答えの一部はすでに、すでに私たちの身の回りや言葉の中にあった。落ち着いて考えれば、日本に合った再エネの仕組みができたかもしれない。失敗の後の検討とは悲しいが、今からでも遅くない。再エネの日本に合ったやり方を考える時期と思う。

(注)この原稿の文学や日本語の関係は「文明の主役-エネルギーと人間の物語」(森本哲郎、新潮社、2000年刊)を参考にした。

【記者通信/10月19日】原発立地区では自民・立民が拮抗 選挙戦序盤の世論調査


衆院選挙戦の選挙区情勢が、大手メディアによる世論調査で明らかになっている。その中から、毎日新聞と共同通信の調査をベースに、原子力発電所が立地する選挙区について選挙戦序盤の支持率情勢(数字は%)を見てみたい。なお、毎日と共同を見比べると、「共同は固定電話調査のためか、精度に欠けるようで、全体的に野党優勢となっている」(マスコミ関係者)ことから、「芯を食っている」という毎日の調査を記事の主体にした。

北海道4区(泊)では、自民党の中村裕之氏と立憲民主党の大築紅葉氏がいずれも43で肩を並べ大接戦の様相だ。共同では大築氏51、中村氏37で立民優勢となっている。青森1区(大間、東通、六ヶ所、むつ)では、自民の津島淳氏47、立民の升田世喜男氏44で競り合っている。こちらも共同では逆転し、津島氏36に対し升田氏50と立民が優勢だ。

一方、宮城5区(女川)では、自民の小野寺五典氏が73(共同は71)と日本維新の会の酒井恒春氏の18(共同12)を大きく引き離す。茨城5区(東海第二)では、原子力を推進する国民民主党の浅野哲氏が53(共同55)と、自民の石川昭政氏41(共同35)をリードする。

元県知事2人がぶつかり合う注目の新潟4区(柏崎刈羽)では、立民の米山隆一氏が48と、自民の鷲尾英一郎氏37に対し優勢。無所属出馬で自民党新潟県連から反発を食らっている泉田裕彦氏は15と劣勢だ。共同では、米山氏61、鷲尾氏27、泉田氏11と立民の優位が際立つ状況。柏崎刈羽7号機の早期再稼働に、黄信号が灯る。

能登半島地震で被災した石川3区(志賀)では、立民の近藤和也氏が52(共同56)と、自民の西田昭二氏の45(共同40)を上回る。原発銀座と称される福井2区(敦賀、美浜、大飯、高浜)は混戦模様。維新の斉木武志氏が28、立民の辻英之氏が26で競い合う。無所属の山本拓氏は22、自民の公認を得られなかった高木毅氏は20と旗色が悪い。共同では、辻氏35、斉木氏24、高木氏22、山本氏14という順。山本氏は、妻である高市早苗・前経済安全保障相の応援でどこまで巻き返せるか、要注目だ。

静岡3区(浜岡)では、立民の小山展弘氏43(共同47)に対し、自民の山本裕三氏が29(共同26)と劣勢。パパ活不倫疑惑などを理由に衆院議員を辞職した元自民の宮沢博行氏が無所属で出馬し18(共同21)と、3位に付けている点は興味深い。

島根1区(島根)では、立民の亀井亜紀子氏が48(共同58)で自民の高階恵美子氏の44(35)を上回るも接戦模様。愛媛3区も自民の長谷川淳二氏が60(共同59)と、立民の越智清純氏31(共同34)を引き離す。

原発が順調に稼働する九州地方だが、自民は苦戦中。佐賀2区(玄海)では、立民の大串博志氏が53(共同57)と、自民の古川康氏41(共同37)に差を付ける。鹿児島3区(川内)も、立民の野田健氏が56(共同64)と、自民の小里泰弘氏44(共同36)よりも優勢だ。

全国合計では、自民が30議席減の226議席と過半数(233)割れ。公明も4議席減の28議席となるものの、与党としては254議席を確保するとの予想だ(毎日)。ただ原発立地区では、野党の強さが目立つ格好となっている。27日の投開票日まで残り1週間。果たして、有権者の選択はどうなるのか。ちなみに、各党の公約を見ると、自民、維新、国民の3党が原子力推進を掲げており、公明は原子力への言及を避けている(記者通信/10月16日】参照)。

【記者通信/10月16日】各党の衆院選「エネ」公約 国民と維新に注目のワケ


10月27日に投開票が行われる衆議院選挙が15日公示され、物価高・景気対策をはじめとする経済政策を巡って、各党の論戦が火ぶたを切った。うちエネルギー政策について、自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組の7党の公約を見比べてみると、とりわけ原子力分野で温度差が鮮明に表れた格好だ。

自民、国民民主、維新は原子力推進

自民は、〈2050年までのカーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の確保の両立を目指し、徹底した省エネ・再エネの最大限の導入、原子力の活用など脱炭素効果の高い電源を最大限活用します〉〈立地自治体等関係者の理解と協力のもと再稼働を進めます。新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組みます〉などとして、岸田文雄前政権の路線を引き継ぐ形で原子力の最大活用を明記した。

国民民主は、カーボンニュートラルとエネルギー安全保障の両面で原子力が大きく貢献するとして、〈原子力を我が国の電力供給基盤における重要な選択肢と位置付け〉ることに言及した上で、原子力規制委員会の審査体制問題にまで踏み込んだことが特筆される。具体的には、〈原子力に関する規制機関の審査体制の充実・強化や審査プロセスの合理化・効率化等を図り、適合性審査の長期化を解消〉することを提起。審査の長期化により、BWR(沸騰水型原子炉)を中心とする原発の再稼働が遅々として進まない現状にメスを入れる方針を打ち出した。

日本維新も、原子力政策では推進路線だ。〈電力の安定供給に向け、原子力規制委員会の審査の効率性をも重視した業務推進を進めつつ、新規制基準の許可を得ている原子力発電所の早期再稼働を進めます〉〈今後確実な原子力事業の運営を行うため、民間の責任を有限化するとともに、国有化も含めた国の責任ある対応のあり方について検討を進めます〉などと記載。とりわけ、再稼働に関しては〈各立地地域に日本版CLIである地域情報委員会を設置し、住民との対話と合意形成の場をつくり、理解促進を図るとともに、発電所の内部脅威に対し、国の責任で個人の適格性審査確認制度(セキュリティクリアランス)を設け、運営体制の安全性を確保します〉と、具体的な提案を行っている。

「原子力」に触れない公明のお家事情

これに対し、立憲民主は、〈2050年までのできる限り早い時期に化石燃料にも原子力発電にも依存しないカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成を目指します〉とした上で、〈原子力発電所の新増設は認めません。廃炉作業を国の管理下に置いて実施する体制を構築します〉〈実効性ある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働を認めません〉と、原発推進には否定的な姿勢を強調。2012年に関西電力大飯原発の再稼働を政治主導で実現した野田佳彦氏が代表になったものの、エネルギー政策では従来路線を踏襲した格好だ。

共産党は、〈世界有数の地震国・津波国である日本で、原発を再稼働させることは、東電福島第一原発事故の深刻な被害や能登半島地震、南海トラフ巨大地震情報などをみても無謀です。にもかかわらず自公政権は、「クリーンエネルギー」と称して原発回帰をすすめ、危険な老朽原発の稼働、原発の新増設まで進めようとしています〉と、相変わらずの反原発路線。〈大胆な再エネと省エネの取り組みでCO2削減をすすめ、実質ゼロを目指します〉としている。その意味では、れいわ新選組も同様で、〈原発は即時廃止し、「廃炉ニューディール」で立地自治体の「公正な移行」を推進する〉〈2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す〉との主張だ。

こうした構図の中で唯一、原子力政策へのスタンスがよく分からないのが、ほかならぬ公明である。〈GXを通じた持続可能な経済成長の実現〉を掲げているものの、「原子力」の3文字はどこにも見当たらない。「本来なら政権与党として、エネルギー政策でも自民党と歩調を合わせるべきところ、創価学会婦人部を中心に脱原発の声が根強くあることから、それができない。早い話、原子力政策については口を閉ざさざるを得ない『お家事情』があるわけだ。エネルギー政策という断面で見る限りは、自民、維新、国民民主の連立が理想的といえよう」(永田町関係者)

【記者通信/10月11日】航空機利用企業に「CO2削減価値」販売 ENEOSがSAF市場育成へ


脱炭素化という世界の潮流が航空業界に押し寄せる中、ENEOSがSAF(持続可能な航空燃料)の導入拡大に向けた取り組みを加速させている。同社が日本の石油元売りとして初めて、SAFに由来する「環境価値」の航空機利用企業向け販売に乗り出したほか、SAF原料にもなる廃食油の確保に向けて事業者などとの協業にも力を入れ始めた。原料を調達する上流と利用を促す下流の両面から、SAF市場を育てる動きが熱を帯びそうだ。

廃食油の回収で利用するリターナブルボトル

原料確保へ廃食油回収にも協力

航空会社がSAFを利用すると、航空機から直接排出されるCO2「スコープ1」だけでなく、貨物輸送や社員の出張などにより排出される間接的なCO2「スコープ3」も削減される。すでにENEOSは、そうした環境価値を航空会社に販売するルートを用意していたが、自らも航空機を利用する荷主や運送会社などにCO2削減とみなせる価値を直販することにした。具体的には、英シェルが開発した環境価値の安全なやりとりを実現するプラットフォーム「Avelia(アヴェリア)」上でスコープ3を切り分け、航空機利用企業に売り込む。

一方でENEOSは、SAF原料の確保に向けた取り組みにも注力。その一環で、専用リターナブルボトルを使用して家庭系廃食油を回収するイトーヨーカ堂の事業に協力している。同社の発表によると、9月から回収拠点を都内全店舗に拡大。2025年度までに食品スーパーのヨークを含めた全店舗で行う。同時期までに累計で25tの回収を目指す。

イトーヨーカドーアリオ葛西店で行った廃食油回収イベント=東京都江戸川区

そこで集めた廃食油は、資源の回収・リサイクル事業を手掛ける吉川油脂(栃木県佐野市)がせっけんやインク溶剤などの製造に役立てる。将来的には、ENEOSの和歌山製造所(和歌山県有田市)で27年以降に生産を始めるSAFの原料として生かす計画だ。

10月上旬には、ENEOSが給食大手のエームサービス(東京都港区)と同社グループのメフォス(同)との間で、廃食油の活用で基本合意書を結んだ。これに伴い、企業や工場などで排出される廃食油を吉川油脂などが回収。将来的にはイトーヨーカ堂の事例と同様に、ENEOSのSAFプラントで原料として役立てたい考えだ。すでにENEOSは、原料面でサントリーホールディングスとも協業しており、同社取引先の料飲店ネットワークで確保した廃食油をSAF原料として生かすことを目指している。

利用拡大の機運醸成が課題に

SAFの普及促進に向けた課題の一つが、既存の航空燃料と比べて割高な製造コストを下げるという取り組みだ。このため、航空業界の脱炭素化につながるSAFの環境価値を社会に広く認知させ、需要を喚起する対応が不可欠となっている。ENEOSバイオ燃料部バイオ燃料統括グループマネージャーの笠川美香氏は「SAFの認知度を上げることが課題。利用拡大に向けた機運を醸成していきたい。SAFのコストとメリットを航空業界のステークホルダー(利害関係者)と共有する仕組みを構築したい」と意欲を示した。

さらにSAFの原料を安定確保する課題にも直面している。こうした中でENEOSは、国内外で廃食油の調達先を拡大することに加えて、食用に適していない非可食原料の開発にも注力する方針だ。笠川氏はイトーヨーカ堂などとの協業にも触れ、「事業者や自治体と連携し、廃食油の回収量を増やしていきたい」と強調した。

【論考/10月10日】国際社会分断の危機!産油国アメリカの役割とは


米国大統領選挙は11月5日の投開票日に向け、民主党・ハリス副大統領と共和党・トランプ前大統領がしのぎを削り合う展開が続く。両者の支持率は拮抗しており、また各州に配分された代議員票を競う方式から、事実上ペンシルベニア、ジョージアなど、接戦7州の帰趨が勝敗を決し、どちらに転んでもおかしくない。

石油・エネルギーに関しては、脱炭素化政策の継続を目指す民主党・ハリス陣営に対し、共和党・トランプ陣営がその即時全面撤廃を唱え、厳しく対立する。ただし、米国の石油開発・生産は民間・市場主導で、政府の直接的な影響力は限定的。むしろ、政策が将来の需要見通しに影響を与え、それが上流部門投資に反映される間接効果が大きいだろう。事実、最も鮮明な争点は電気自動車普及を巡るもので、民主党は自動車排出ガス規制などを通じて強制的な普及策を採り、これを共和党が緩和・撤廃しようとする。

いずれにせよ、脱石油政策はあっても石油政策不在の民主党・ハリス陣営。「脱炭素化からの解放」を石油・エネルギー価格抑制策として、あくまで国内本位に主張する共和党・トランプ陣営。この両者に共通して欠落する視点は、「産油国アメリカ」が国際石油供給において現実に果たし、また、果たすべき役割である。世界が分断の危機に面している今日、現実の国際石油・エネルギー供給秩序の維持は重要な戦略課題であり、その中で「産油国アメリカ」の役割を適確に位置付ける必要がる。

ダイナミックな国際プレーヤー

米国の「シェール革命」は、2000年代半ば以降の石油高価格に対する供給側の応答として起こり、10年代に米国原油生産量を倍増させ、同国を世界最大の産油国に押し上げた。一般に、石油価格が低位安定期から継続的な高騰期へと移行する時期は、豊富低廉の中東原油への依存度が高止まりし、本格的な新規供給源の開発及び需要抑制・代替が課題となる。米国シェール革命は生産技術突破によってこれに応え、2015年以降に価格高騰を終息させる主因となった。

一方、米国の石油需要は、NGL(天然ガス液)由来のエタン・LPGが石油化学原料として増勢にあるが、燃料油需要は既に05年までに飽和期を迎え、総量として漸減の趨勢にある。

したがって、石油純輸入量が劇的に減少した。NGLを含む広義の石油は、05年に日量1200万バレル超の純輸入だったのが20年に純輸出へと転じ、23年は日量170万バレルの純輸出量を記録。NGLを除く狭義の石油の純輸入量も、05年の日量1200万バレル超から23年には日量80万バレルへと激減した。単純に、日量2000万バレル超(NGL由来を除けば1650万バレル)の米国石油需要量と対比すれば、自給は十分に達成されている。

自給率の向上は、自給自足という、海外の影響を受けず国内需給が自己完結する静態的なイメージで論じられやすい。在任中しばしば「アメリカはもはや中東の石油を必要としない」と言明したトランプ前大統領がその好例である。

しかし実態は遥かに動態的で、米国は輸出入ともに旺盛である。昨年、日量170万バレルの純輸出は、日量850万バレルの輸入と日量1000万バレル強の輸出の結果だ。輸入の過半は原油・日量650万バレル。輸出は原油・日量400万バレル強、石油製品・日量300万バレル強、LPG・エタンが日量300万バレル弱。原油は国内製油所の高度分解能力に適合する重質油を輸入する一方、軽質の国産原油を輸出。LPG・エタンおよび石油製品は輸出に傾斜している。狭義の石油の場合、米国の輸出は基本的に石油製品主導であり、精製者が製品輸出を梃子として処理量を上げ、これに合わせて国内外から柔軟に原油を選択する姿が浮かび上がる。

23年の輸出・輸入量を合計した米国石油貿易量を05年時点と対比すると、広義の石油は日量400万バレル弱、狭義の石油も日量100万バレル増大。国内生産が倍増以上となる中で、米国の石油貿易はむしろ活発化し、国際市場への関与を深めてきた。「シェール革命」は米国を新たな石油貿易センターとして台頭させたのであり、静態的な自給自足へと退却させたのではない。

民主主義のための石油

米国の国際石油供給者としての台頭は、米国および西側全体の安全保障上の立場を強めた。

ロシアのウクライナ侵略に西側が正面から対峙する上で、米国の石油供給力が果たした役割は大きい。もし05年当時と同様、米国が国内生産量の2倍に相当する日量1000万バレルの原油を輸入し、そのうちの45%が中東・アフリカ産であったとすれば、西側のロシアへの対抗措置はより慎重にならざるを得なかっただろう。欧州が石油供給の対露依存脱却を図り、輸入源を中東、アフリカ、中南米に振り替えようとしても、大手輸入者としての米国とそこで競合すれば、実現が難しい。ロシアは対西側・石油輸出削減によって外交上の恫喝を加えることが容易となり、これが西側の姿勢をより融和的なものとしただろう。

しかし実際には、昨年の米国の原油輸入・日量650万バレルのうち、7割以上を北米(カナダおよびメキシコ)産が占め、中東およびアフリカ産は合わせて17%、日量約100万バレルに過ぎない。他方、欧州向け原油輸出量は21年の日量110万バレルから昨年・日量180万バレル、今年上半期・日量190万バレルと伸び、軽油輸出量も2021年の日量8万バレルから昨年・日量18万バレル、今年上半期・日量28万バレルと増大。欧州のウクライナ危機後の対露依存脱却、およびフーシ派による紅海攻撃に伴う中東産石油輸入の減少を、米国が対欧輸出増によって支えている。このように米国の石油供給力は、米国のみならず西側全体の安全保障に大きく寄与している。

1985年末にサウジアラビアが原油固定価格制を放棄して市場連動方式を採り、90~91年の湾岸戦争で米国率いる多国籍軍がイラクのクウェート侵略を撃退して以来、米国の安全保障の傘の下で、西側消費国の協調的備蓄放出とサウジアラビアの生産余力の機動的運用を組み合わせて不測の供給ひっ迫に備える、市場本位の開放的な国際石油供給体制が確立した。冷戦終結時に誕生したこの秩序は、約40年の歳月を経て、国際社会が分断の時代に転落しつつある中で、次々と試練に直面している。

米国・西側は、国際石油秩序という高次の理念を掲げつつ、分断の現実の中で、先ず民主主義陣営内で市場本位の開放的な石油供給を維持・強化せねばならない。その中で、米国の石油供給力は大きな柱であるが、西側全体の需要を満たすには全く過小であり、他地域、特に中東・サウジアラビアとの連携が不可欠である。そのような広い連携の中に位置付けてこそ、米国の供給力も有効に活用できる。そもそも米国の原油輸入に占める中東産の比率は2000年代でも25%前後であり、米国一国の石油供給確保のみが目的であるならば、中東の地域安全保障を担う必要はない。中東の石油が世界全体、とりわけアジア太平洋地域の供給源として必須であればこそ、米国がこの地域を安定させ、連携して自由世界のエネルギー供給を確保しつつ、国際秩序を維持する戦略的理由がある。

しかしロシアのウクライナ侵略に際し、西側は脱炭素化の目標堅持を唱えるだけで、石油高価格を梃子とした積極的な石油増産と需要抑制という石油政策の基本を無視してきた。中東では、イスラエルによる酷薄なガザ侵攻によってパレスチナ側の死者が4万人を数え、さらにレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、加えてイランに対して軍事攻撃が拡大するのを、米国は制御できずにいる。加えて中国が南・東シナ海における軍事圧力を強める中で、米国とサウジアラビア・中東湾岸の石油資源を、開放的な国際供給体制の下で連携させて自由世界のエネルギー供給を確保する、いわば「民主主義のための石油」という戦略的思考が必要だが、脱炭素化を金科玉条とする民主党、米国第一に拘泥する共和党、いずれもそのような発想から遠い。

であれば、通商国家・日本から、市場本位の開かれた国際石油供給という大枠の中で、「産油国アメリカ」とサウジアラビア・中東湾岸との連携を柱とする自由世界のエネルギー確保を図る、現実的・戦略的な構想を積極的に打ち出し、西側全体の議論をリードしていくべき時、ではなかろうか。

石油アナリスト 小山正篤

【記者通信/10月4日】石破首相が所信表明 エネコスト上昇に強い社会実現へ


石破茂首相は10月4日、衆参両院本会議で就任後初めてとなる所信表明演説を行った。この中で、経済・財政政策について「デフレ脱却」を最優先に実現するため、「経済あっての財政」との考え方に立った経済・財政運営を行う意向を強調。「コストカット型経済から高付加価値創出型経済へ移行しながら、持続可能なエネルギー政策を確立し、イノベーションとスタートアップ支援を強化」する方針を示した。その上で、直面する物価高対策に言及。低所得者世帯への支援や、地域の実情に応じたきめ細かい対応、構造的な対応としてのエネルギーコスト上昇に強い社会の実現などを通じて「物価高の克服」に取り組むとした。エネルギー政策に関する発言要旨は次の通り。

初の所信表明演説を行う石破首相(首相官邸ウェブサイトより)

「エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題。AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、脱炭素化を進めながらエネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化と併せ、わが国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜く。このため、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の取り組みを加速させ、アジア諸国の多様な取り組みを日本の技術力や金融力で支援し、同時に、アジアの成長力を我が国に取り込んでいく」

なぜ「高い潜在力を持つ地熱」に言及?

この演説を聞いた電力業界幹部は、エネルギーフォーラムの取材に対し、「エネルギー自給率を抜本的に高めるための方策として、原子力発電の利活用を第一に掲げた点は大いに評価できるとして、不思議なのは再エネに関して、代表的な太陽光や風力ではなく、あえて地熱に言及したこと。それも『高い潜在力を持つ』という修飾語付きで。これが何を意味するのか、大いに気になるところだ」と感想を述べた。

【記者通信/10月4日】合成燃料で国内初の一貫製造 ENEOSが量産化へ一歩


自動車や航空機などの脱炭素化を促す切り札として有望視される「合成燃料」の生産が国内で始まった。合成燃料は、石油元売り大手のENEOSが横浜市中区の中央技術研究所内に建てた実証プラントで原料から一貫製造する。運転を通じてプラントの大規模化に向けたノウハウを蓄積し、量産化に向けた道を切り開きたい考えだ。

テープカットに臨むENEOSホールディングスの宮田社長(右から5人目)ら関係者

グリーン水素とCO2を原料に

今回の実証プラントは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「グリーンイノベーション基金」の支援を得て建設した。生産能力は日量1バレル(約159ℓ)と限られているが、合成燃料を一貫製造できるプラントは日本で初めてという。

9月28日には、ENEOSが研究所で実証プラントの完成式典を開き、報道陣らに公開した。式典には国会議員も駆け付け、給油や走行を体験。来賓の祝辞で登壇した菅義偉元首相は、「合成燃料は、日本から世界に発信することができる次世代燃料だ。大量生産に向けてステップアップすることを期待したい」とエールを送った。

合成燃料の原料は、工場の排ガスや大気から回収したCO2と再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」。敷地内には、グリーン水素を製造する設備に加えて、空気中のCO2を回収する装置「 DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)」も設けた。

具体的にはまず、その設備で得られたCO2と水素から合成ガスを製造。さらに、CO2を分離した合成ガスを原料に「フィッシャー・トロプシュ(FT)反応」と呼ばれる工程で液体炭化水素(合成粗油)をつくり、最終的な製品に仕上げる。機器や配管が複雑に入り組んだFT反応エリアに入ると、高さ約7mの反応設備が存在感を放っていた。

存在感を放つFT反応設備

「普通のガソリン」がターゲット

実証プラントでは、製造コストの低減に向けて反応工程の性能を高めるとともに、プロセス全体の高効率化を追求する計画だ。ENEOSホールディングス(HD)の宮田知秀社長は式典で、「継続して技術を進展させるとともに、どうやったらリーズナブルなコストでつくれるかを徹底的に追求していきたい」と強調。「普通のガソリン」と変わらない存在をターゲットに実績を積み上げることに意欲を示した。来春開幕する2025年国際博覧会(大阪・関西万博)では、製造した合成燃料で大型車両を走らせるデモンストレーションを予定しているという。

実証プラントの完成式典で合成燃料を給油するENEOSホールディングスの宮田知秀社長(左)と、来賓の甘利明衆議院議員

クリーンな液体燃料である合成燃料は、燃料流通に必要な既存インフラをそのまま活用できるため、運輸部門の脱炭素手段として期待を集めている。ただ、現在の合成燃料の製造コストは1ℓあたり約300〜700円と、市販ガソリンを大きく上回る。グリーン水素の調達コストがかさむことが主因で、普及に向けては相応の時間がかかりそうだ。すでにENEOSHDは、国の方針に歩調を合わせながら合成燃料の導入拡大やコスト低減に取り組み、40年までに商用化するロードマップを描いている。

【記者通信/10月3日】武藤容治氏が経産相就任 エネ政策の考え方や人物像は?


石破茂内閣で新たに就任した武藤容治経済産業相が10月2日午前、初登庁し斎藤健前経産相との引き継ぎ式を行った。経済産業副大臣や自民党の経済産業部会長、総合エネルギー戦略調査会の事務局長を務め、エネルギー政策に精通している武藤氏。午後の就任会見ではGXに伴う脱炭素電源確保の重要性や岸田路線の継承を強調するなど、安定感を感じさせる滑り出しとなった。

斎藤氏から経産相を引き継いだ武藤氏(左)

「私もずっとやってきたが」──。就任会見では記者から質問が飛ぶと、こう前置きした上で答えるシーンが目立った。経済政策に対して深い理解を持つ、という自負の表れだろう。ある自民党議員は武藤氏について、「原子力を含めたエネルギー政策への理解が非常に高い。岸田政権の路線をしっかりと継承してくれるはず」と期待を寄せる。

会見ではエネルギー政策全般について「電力需要の増加する中で、脱炭素電源の確保はわが国の経済成長を左右する重大な要素。この認識は石破総理と共有している」との見方を示した。議論が進む第7次エネルギー基本計画については「再生可能エネルギーもやるが、安全性を前提とした原子力の最大限利用は当然のこと」と力強く語った。さらに原子力の産業政策面での重要性も強調。「次世代革新炉などが出てきた中で、研究者が育ってこないという声も聞いている。日本の大きな産業の一つが衰退してしまい、中国・ロシアにやられてしまう」と危機感をあらわにした。

武藤氏は麻生派の68歳で当選5回。外相や通産相などを歴任した武藤嘉文氏の次男で、祖父の武藤嘉門氏も岐阜県知事を務めた政治家一家の出身だ。今回の総裁選では、麻生派ということもあり、環境相に就いた浅尾慶一郎氏らと共に、河野太郎候補の推薦人となったが、エネルギー政策に対する考え方では河野氏とは明らかに一線を画す。引き継ぎ式では冗談を交えながら終始笑顔。「気さくな性格で人望が厚い」という評判に間違いはなさそうだ。

【メディア論評/10月3日】石破新首相のエネルギー政策を巡る報道を読む


10月1日、石破茂元自民党幹事長が新しい首相に就任した。前回の原稿では、「エネルギー(原子力)政策、複数の候補のスタンス」を紹介したが、今回は改めて石破茂新首相のエネルギー(原子力)政策についての思考をみてみたい。 

◆石破氏の言説についてのメディアの報道

9人が立候補した自民党総裁選では、小泉進次郎、河野太郎の両氏が(3年前の前回総裁選の頃の言動との違いが極端だが)原発容認に転じたこともあって、エネルギー政策(原子力)については大きな議論になったとは言えなかった。

1.総裁選・社説でのエネルギー政策の取り扱い

エネルギー政策が社説で取り上げられたのも総裁選後半からであった。

日経新聞9月21日付〈原発も活用し安定供給と脱炭素の両立を〉〈混迷する地政学情勢や「地球沸騰化」のなかで、エネルギー政策の重要性は一段と増している。次の政権は原子力発電所の再稼働を進め、安価で安定的なエネルギー供給と脱炭素の両立を図るべきだ。2011年の東京電力福島第1原発事故以降の「脱原発」を、岸田文雄政権は再推進へ反転させた。再生可能エネルギーの導入拡大と併せ、準国産エネルギーで運転中に温暖化ガスを出さない原発も、安全最優先での利用が欠かせない。人口減で漸減とみられていた電力需要が、デジタル技術の普及で一転急増する可能性が高まったことも、原発活用へ背中を押す。……石破茂元幹事長は再生エネの導入加速で「結果として原発のウエートを下げる」としながらも、安定電源としての重要性は認めている。……十分な電力供給がないと、データセンターや半導体などの成長産業が海外へ逃げてしまう。(各候補者で)濃淡はあっても、原発活用という現実解に向き合う姿勢は評価できる。当面の試金石は東電柏崎刈羽原発の再稼働だ。岸田首相は新潟県が求める避難路整備などの対応を関係省庁に指示し、優先課題として引き継ぐ姿勢を明確にした。同原発は首都圏の電力需給逼迫の解消に重要な役割を担う。立地住民の理解を得るため、次期首相には先頭に立つ覚悟を求めたい。ただし原発は万能薬ではない。現政権は既存原発の運転延長や建て替えに道を開いたが、新増設に向けたハードルは高く、核燃料サイクルや使用済み燃料の最終処分の行方も不透明なままだ。福島第1原発の廃炉や地域復興も着実に進めねばならない。次期政権は原発に対する国民の信頼回復に努力しつつ、再生エネの発電量変動を補うための蓄電池や送電網の増強、火力発電の脱炭素技術の実用化など、全方位の取り組みを続ける必要がある。指針となる次のエネルギー基本計画や脱炭素社会に向けた新たな国家戦略は、年内策定を目指して議論が進む。次期政権はそれらを決定し、実行する責務がある。〉

読売新聞9月23日付〈経済成長を主導する構想示せ〉〈国際的な存在感を再び高めるため、日本経済をどうやって本格的な成長軌道に乗せるか。自民党総裁選の各候補は、大きな構想を示すべきだ。……エネルギー政策も主要なテーマとなる。脱炭素を進める一方で、経済成長を続けるためには安価で安定した電源が不可欠だ。……ほとんどの候補は原子力発電の活用に積極的だ。一方、石破氏は、再生可能エネルギーの推進によって、結果として原発の比率が下がっていくとの考えを明らかにした。だが、それで電力の安定供給が図れるのか。説得力のある将来の展望を提示してもらいたい。〉

2.出馬表明以降の石破氏の言説についてのメディアの認識

出馬表明以降の石破氏の言説については、当初(8月24日の鳥取での出馬表明時)に「原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします」と述べ、その後(8月26日ぶら下がり)に「私は原発反対と言ったことは一度もありません」といったことなどで軌道修正をしたととらえるメディアもあった

各紙の記事内容

〇毎日新聞9月14日付〈……石破氏は、東京電力福島第一原発事故で「原子力災害はいかに恐ろしいかを思い知った」と指摘。地熱などの活用で「結果として原発のウエートを下げることになっていくが、そのこと自体が目的ではない。原発の安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出す」とした。〉

〇産経新聞9月19日付〈……石破氏は、出馬会見で「原発をゼロに近づける努力を最大限する」と他候補と一線を画す姿勢を表明したが。9月14の討論会では「安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出すのは当然だ」とトーンダウンしている。〉

〇読売新聞9月23日付〈……「(原発を)ゼロに近づける努力を最大限にする」としていた石破茂元幹事長も9月21日、記者団に「必要な原発の稼働は進めていかねばならない」と述べた。……(共同)〉

確かに、「原発はゼロに近づけていく努力は最大限に」と述べ、その後「原発反対と言ったことは一度もない」と述べているが、ただ、いずれの場合もその言葉の前後で言っていることは大きく変わらない。

●当初(8月24日の鳥取での出馬表明)

〈原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします。再生可能エネルギー、太陽光であり風力、小水力、そして地熱、こういう可能性を最大限引き出していくことによって、原発のウエートは減らしていくことができると思っている。私は単に原発減らせということを叫ぶだけでなく、そのための方途を最大限に活用することによって実現するものだと考えております。〉

●8月26日ぶら下がりオン

防衛の仕事をしていたときに、原子力発電所に戦闘機が突っ込んだらどうする、ミサイルが飛んできたらどうする、中身は申し上げないが、決して万全とは私は思っていません。その脆弱性をきちんと克服する努力は絶対に必要です。そして、地熱であり小水力、そういうものに対するウエートは上げる努力を最大限にしていくべきものだ。AIの発展で電力がものすごくかかるということは十分承知をいたしております。(一方、)電力消費を半分ぐらいにする半導体の生産、そういうものが今着々と進んでいる。いかにして使う電力、エネルギーを抑えていくか、いかにして原発を持っている脆弱性を克服するか、そして再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に生かすかということの解として、原発がどれだけなのかということが出てくるのだと私は思っています原発の安定的なエネルギーとしての優位性は百も万も知っています。私どもの近くにも島根原発があります。私は原発反対と言ったことは一度もありません。原発の安全性を最大限まで高めるという努力は決して怠ってはならない。そして、いかにして電力を使わない社会を作ることができるか。そのような組み合わせで解が得られるものであって、スローガン的に原発ゼロとか、そういうことを申し上げるつもりは私はございません。〉

◆自民党原子力リプレース議連調査に関する回答

「自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長衆参議員約70人で構成)は、脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース(建て替え=廃炉+新増設)、そして「原子力立地に寄り添う」政策の推進に向けた活動を行っている。同議連は、前回の総裁選でも行ったように、立候補予定者に原子力に関連する公開アンケートを行い、その結果も公開した。

~自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟 各総裁選候補者へのエネルギー政策調査~滝波宏文事務局長フェイスブックより

●政策に前向きな順に◎・〇・△ 

●石破氏は個別でなくまとめて回答(後掲参照)

1.わが国におけるエネルギーの現状を踏まえた、原子力を含む現実的かつ責任あるエネルギー政策の推進

・石破氏の回答への評価:〇←「安全を大前提とした原発の利活用」

2.脱炭素社会実現と国力維持・向上のために必要な、わが国の原子力技術・人材・立地を保つ、最新型原子力炉によるリプレース実現

・石破氏の回答への評価:(〇)←「新増設を含めあらゆる選択肢を排除せず」

3.次期(第7次)エネルギー基本計画には、(サイトごとではなく)事業者ごとのリプレースの解禁、「可能な限り低減」の削除などを含めた、原子力を実効的に最大限活用する内容を盛り込む

・石破氏の回答への評価:(△)←「検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にない」

4.核燃料サイクルを堅持し、民主党政権の二の舞を避ける

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし

5.リスクを負って安定安価な電力を供給してきた、「原子力立地地域に寄り添う」諸政策の強力な推進(原子力避難道の整備、最終処分地の確保、立地地域の振興など)

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし

6.リプレースに向けた最新型原子力炉の建設に必要な規制基準の迅速な設定とそのための事前審査など、適正手続(デュープロセス)などを踏まえた原子力規制委員会の規制行政の改善。及び、政府のエネルギー政策との整合性確保に向けた原子力規制員会の改革

・石破氏の回答への評価:回答で言及なし 

●石破茂氏回答←個別ではなくまとめて回答

〈まず、今回の総裁選で提示した政策集では、持続可能なエネルギー政策として、「AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、エネルギー自給率を抜本的に上げるため、安全を大前提とした原発の利活用、国内資源の探査・実用化、地熱など採算性のある再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜きます」と記載しています。そのうえで、当面は、徹底した省エネに加え、再エネの最大限の導入や安全性確保を大前提にした原子力の活用(新増設を含む)のほか、非効率な石炭火力のフェードアウトに加え、水素やアンモニアなどを活用した火力の脱炭素化、さらには脱炭素電源への転換など、あらゆる選択肢を排除することなく、使える技術はすべて使いながら、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素、この三つを実現していく方針で確実に取り組んでいくことが重要と考えています。なお、次期エネルギー基本計画の策定については、未だ検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にないが、エネルギーの安全保障の確立や安定供給の確保に資する計画となるよう注視しつつ、わが国の国益や国民生活、企業活動をしっかり守る観点から取り組んでいきたい。〉

【記者通信/10月1日】柏崎刈羽原発の最新事情 ここまで進化した安全対策の全容※修正版


エネルギーフォーラム取材班は9月20日、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を訪れた。ここは七つの原子炉がある世界最大級の原子力発電所だ。その中の7号機について再稼働を目指した安全対策の工事がほぼ完了した。現場の取り組みと努力を、一般の人が知る機会は極めて少ない。現在の最新事情を紹介し、再稼働を考える材料にしたい。

多重化された安全の仕組み

福島第一原発事故で何が起きたかを、簡単に振り返ろう。2011年の東日本大震災では地震直後に稼働中の同原発の1号機、2号機、3号機の三つの炉は緊急停止した。ところが、その直後に襲った津波で発電機が壊れ、電源が完全に喪失。その結果、冷却できなくなった核燃料が過熱してしまい、溶融することで水素が発生、1~3号機さらに停止中だった4号機でも水素爆発が起きてしまった。これにより建屋が破損してしまい、放射性物質が外部に漏れてしまった。

この事故の反省に基づき、柏崎刈羽原子力発電所の7号機では、さまざまな工夫が行われていた。地震・津波などの災害に備えて原子炉を「止める」。次に「冷やす」。そして放射性物質を「閉じ込める」という3段階の取り組みを強化。方法を多重にしている。

まず「止める」対策での追加対策を示してみよう。「写真1」は同発電所7号機の外観だ。水密性を高め、津波が来ても、台風、竜巻があっても、建物内の水没の可能性はほぼなくなった。「写真2」は7号機の発電機だ。この巨大な設備に、原子炉の熱で発生した蒸気を送り込み発電する。この原子炉の発電能力は135.6万kWと国内最大級だ。

【写真1】柏崎刈羽原子力発電所7号機の外観
【写真2】7号機のタービン・発電機

「写真3」は防潮堤だ。柏崎刈羽原発の同発電所の想定される津波の高さは、7~8mだが、それよりも高い海抜15mの高さにして、安全性を高めた。敷地内へ海水が入らないように、堤より内側にも壁などを置き、重要エリアも水密扉を置いている。

【写真3】1~4号機の海側にある高さ15mの防潮堤

「写真4」は7号機の原子炉建屋にある制御棒駆動用の水圧制御ユニットだ。福島原発事故前からの設備が強化され、稼働中でも数秒で棒が差し込まれて、原子炉の核分裂反応が止まる。

【写真4】緊急時に制御棒を駆動する水圧制御ユニット(7号機)

原子炉内では手動で重要な弁を開閉できるように手動による設備が設置されていた。福島原発事故を描いた映画「Fukushima 50」(フクシマフィフティ)では、東電の運転員たちが暗闇の中で、命の危険に直面しながら、手動でバルブを開けようと悪戦苦闘をする場面がある。そうした危険の可能性はこの設備でなくなった。事故を参考に、こうした仕組みを作った。「写真5」は、非常用ガス処理系のバルブ。福島原発事故を踏まえた対策の一つとして、事故時に弁操作用の駆動源を失い、現場で手動操作する必要があるバルブについては、事故によって高線量のためバルブに近づくことができない場合を想定し、安全な場所から手動遠隔操作が行えるよう改造を施してある。

【写真5】非常用ガス処理系のバルブ

柏崎刈羽原子力発電所では、こうした止める仕組みが多重に設置されている。福島原発事故のように全電源喪失で重大な事故に至る可能性は大きく減った。