米国のイラン攻撃により世界でオイルショックが深刻化する中、オーストラリアでは燃料供給への危機感が強まっている。アルバニージー首相は3月19日午前に開いた緊急記者会見で「燃料供給の安全性を保証する」と述べ、従来の楽観論を展開した。だが野党や財界は「数週間以内に底をつくのではないか」と、政府の認識を疑問視する。米国のイラン攻撃後から豪州内のガソリン価格は上がり続けており、豪州ガソリン研究所(AIP)の調査によると、15日現在、全国平均で1ℓ当たり2.19豪ドル(約245円)まで上昇した。これは1週間前の8日に比べ21豪セントも上がっている。供給不安と価格上昇の二重苦の状況に陥っている豪州では、ガソリンの買いだめに走る消費者も増えており、4月の大型連休を前にオイルショックの影響は広がるばかりだ。

ガソリン備蓄「36日」の波紋 4月の連休前後にひっ迫か
アルバニージー首相は19日の会見で、連邦政府と州政府を統括する国家レベルの燃料タスクフォースを立ち上げると発表した。燃料不足はないと強調してきた政府だが、不足への懸念が絶えないことから対応を余儀なくされた形だ。
政府によるとガソリンなどの燃料備蓄量は、ガソリンが36日分、ジェット燃料が29日分、ディーゼルが32日分だと明らかにしている。ボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されているすべての燃料貨物船は問題なく到着する」と繰り返し説明し、供給に支障はないと強調する。
だが政府の見解とは裏腹に燃料業界では供給不足に陥る可能性が高いと指摘する向きが強い。ホルムズ海峡経由の燃料の遅延のほか、中国やシンガポールなど中東以外の調達先が輸出の縮小に舵を切る可能性があるという。エネルギーを担当する日本企業関係者は「4月以降、急激に供給が細る可能性は十分ある」と話す。業界では4月上旬のイースター(イエス・キリストの復活祭)連休前後にひっ迫するとの見方もある。
政府部内では中東以外のアフリカや米国からの代替調達の可能性を検討しているという向きもあるが、輸送距離が伸びることにより輸送コストが大幅に増え、小売価格がさらに跳ね上がることになるため実行にはハードルが高い。
ポリタンクが不足 不当値上げも絶えず
市場では今後、1ℓ当たり3.5豪ドルまで高騰するとの見方が出ている。政府は60日間限定で、硫黄濃度の高いガソリンも国内向け燃料に混合できるよう燃料の環境基準規制の緩和に踏み切った。ボーエン氏は「地方部の供給改善とガソリン価格高騰を抑えるためだ」と主張するが、専門家からは「輸入量そのものが少ない現状で規制緩和はあまり意味がない」と反論される始末だ。
一部地域ではオイルショックに便乗した大幅値上げのガソリンスタンドも出てきた。1ℓ当たり3豪ドルを超える値段で売りつけているところもある。大手自動車保険会社やメディアの指摘により、政府は便乗値上げへの監視を強化。違反業者への罰則を強化する法案を近く議会に提出する方針だ。
ガソリンなどの買いだめの動きも急だ。先週末あたりから20ℓのポリタンクがホームセンターで飛ぶように売れる現象が起きている。大手ホームセンター「Bunnings」によると、店頭での即時入手はごく限られた店舗だけになっているという。オンラインで入手する方法もあるが、これも不足気味で入手に月単位の時間を要する場合もある。ある地域では大量に購入した個人が市場価格の倍以上の値段で売りさばくという問題も起きている。
生鮮業界や小売業界にも燃料高の影響は波及し始めた。スーパー大手の「Woolworth」は食品などの輸送にかかる燃料サーチャージを大幅に引き上げた。魚市場の海産物の値段も上がり続けている。ある飲食店関係者は「メニューの値上げが必要だ」と話す。
BYDが2月に販売トップに 石油依存からの脱却必要
オイルショックの影響は自動車販売にも影響しそうだ。2月単月の豪州内新車販売台数で、中国のBYDが販売する電気自動車(EV)が単月として30年ぶりに日本車を抜いてトップに躍り出た。
豪州ではEVの充電が無料だ(急速充電は支払いが生じるが日本ほど高くない)。ガソリン価格が1.8豪ドル前後で推移していた2月でも、EVがハイブリッドなどのガソリン車を凌駕していたのには驚きをもって報じられている。さらにこのオイルショックがEVの販売を後押しする可能性は極めて高く、単なる一過性の出来事ではなさそうだ。
翻って日本。高市政権はガソリン価格を1ℓ当たり170円前後に抑える補助金を出すという。ウクライナ危機の際に「激変緩和措置」としてやり始めたガソリン補助金だが、事あるごとに出し続けている。一種の中毒に陥っている。
ガソリン車の購入や原油由来の製品を利する政策を取り続けては、中東をはじめ政情不安が起こるたびに補助金漬けになりやしないか。調達先の多様化を進めることも重要だが、コストに跳ね上がるようでは意味がない。
豪州の事例ではないが、この際オイルに依存しない政策に舵を切るべきだ。EVの車体補助に限らず、街中での充電機の導入拡大や低充電料金化など消費者にインセンティブを与える政策の拡充が必要だろう。今後も政情不安は増える可能性があるだけに、高市政権にとって、本腰を入れて取り組むべき優先課題だ。














