【目安箱/4月24日】日本が直面するシーレーン問題 ホルムズ封鎖で危機感足りず!?

今年の4月、日本各地では例年の通り「お花見渋滞」が起こっている。平和な光景で、それを喜ぶべきだろう。しかし同じ時期にイランによるホルムズ海峡封鎖の影響で世界各国では原油が不足した。その結果、さまざまな国でガソリン価格の上昇による社会混乱、車利用の減少が起きている、と伝えられる。そして政府が車の使用自粛を呼びかけている。日本では何も行われていない。大丈夫だろうか。

この危機感のなさは当然かもしれない。ガソリン価格は日本で動いていない。日本政府が補助金により、無理に価格を抑制している。

全国平均でのレギュラーガソリン小売価格(税込)の推移は、ホルムズ海峡封鎖の発生する前である今年22月には、約158〜160円(1リットルあたり)で比較的安定していた。価格は円安のため上昇気味だったが、今年1月からの暫定税率廃止などの効果もあって上値は抑えられていた。

◆補助金が危機を見えなくした

米国やイスラエルが2月28日にイランを攻撃し、3月中旬ごろからイランがホルムズ海峡を通過する船舶へ無差別攻撃を行った。3月16日のレギュラーガソリン価格は1ℓ当たり190.8円で、日本国内での史上最高値圏までは跳ね上がった。しかし政府の補助金が3月19日から始まったことから、価格はその後下がり、全国平均170円前後で推移している。

政府は国家分を含め約8ヶ月分の石油備蓄を保有していたが、危機直後に国内需要約45日分を放出。紅海周りのルート、インドネシアとの交渉など、原油や天然ガスの代替調達を急いでいる。また石油製品の確保、増産、輸入に動いている。

日本は他国のようにガソリンや石油製品の消費抑制、規制などには踏み出していない。もちろん国民の不安をあおらないようにするという意図もあるのだろう。また備蓄など過去の準備が、今回の危機で効果があった面がある。しかし、熱心に政府が対策をしているようには見えない。国民に危険を強く訴えていない。楽観的すぎないだろうか。先行きは見えないのだ。

◆太平洋戦争が教えるもの

一つの印象的な画像がある。第二次世界大戦における日本海軍の軍艦の沈没地点をGoogleマップで記録し、可視化したものだ。米国の戦史マニアが作ったようだが、今はそのサイトは消えている。

この画像を見てわかるのは、軍艦の沈没場所は、当時の海上交通線と重なっている。当時は東南アジアの油田地帯や資源採掘地から、フィリピンやベトナム沖、そしてバシー海峡(台湾とフィリピンの間の海峡)を通って日本に原油や資源が運ばれていた。激戦地の南太平洋でも船は沈んでいるが、沈没数はその海上交通線周辺の方が多い。

日本海軍は海戦で敗れただけではなく、海上交通線防衛のために戦い、それに失敗して戦争に敗れた。そのことを、このマップは教えてくれる。海軍は補給、海上交通線の防御の重要性を、戦争前に深く考えず、艦隊決戦ばかりに関心を向けていた。

日本の置かれた状況は、第二次世界大戦から80年以上経過した今でも変わらない。日本は島国としての地理的特性と資源の大半、食料の多くを海上からの輸入に依存する経済・社会構造を持つ。現時点は原油の場合は、99%が海外に依存する。さらにその9割が中東に依存する。その7−8割がイランによる武力紛争前はホルムズ海峡を通過していた。

そして現代の日本の海上交通線は脆弱だ。ホルムズ海峡のような「チョークポイント」(要衝)は他にもある。マラッカ海峡(マレー半島とスマトラ島の間)、バシー海峡、南シナ海を日本向けの船舶が原油や資源を満載して通過し、日本の工業製品を運ぶ。それは80年前、日本の商船、軍艦が大量に沈んだ場所と重なっている。

◆ドローンの登場で武力攻撃が容易に

今回のホルムズ海峡の封鎖は、イランの海空軍が米軍によって制圧された後に起きた。ドローンと見られる物体により船舶が無差別攻撃された。3月下旬から攻撃はなくなり、この記事を執筆中の4月20日時点では米とイランは停戦中だ。しかし保険会社が海運への保険を拒否し、各国の船舶会社も運行を懸念し、海運が元に戻らない。

第二次世界大戦当時と今を比べると、人命や民間資産の価値は重くなっている。危険な海で民間商船を航行させられないのだ。日本の海上交通線を遮断しようという国は、脅威や不安を与えるだけで、それを混乱させられる。しかもドローンという簡便な兵器で海運を止められる。

台湾有事の可能性がある。中国が日本を締め上げる意図を持った場合に、ホルムズ危機の先例を考えれば、海上交通の封鎖は容易に行えそうだ。

◆過去の教訓を直視し、危機に誰もが備える

今は原油不足の問題で表面的に混乱は起きていないかもしれない。しかし日本の米国などとの太平洋戦争は、米国などによる石油や資源の禁輸というエネルギー危機によってそれを打開する資源確保の目的を一因に始まった。そして原油の輸送ルートを断たれて戦争に負けた。昭和天皇は、太平洋戦争を「油で始まり、油で終わった」と戦後振り返ったという。また1972年、79年に起きたオイルショックでは日本が混乱した。原油の遮断は日本の国家の存亡に関わる重要な問題だ。

海上交通線を米国などと協力し、安全を高める必要がある。しかし海上交通線を全部守り切るのは難しい。2度の石油ショックから、日本は「脱石油」「脱中東」「省エネ」「技術開発」というエネルギー政策を進めてきた。今回のエネルギー危機のショックが、他国より少なかったのはその努力の結果だろう。しかし、その成功ゆえに、緊張感が薄れているように思える。

今も出ている燃料油補助金、そして今後出そうな電力・ガス補助金は、経済の体質を変えず、石油やエネルギーの消費を促しかねない。危機が深刻になっていない今のうちに、国が実情を国が明らかにし、無限に続き書けない補助金政策をやめ、国民に危機への準備を呼びかけた方がよい。政治と政府は危機意識を持ってほしい。

【時流潮流/4月23日】台湾とドイツに見る原発再稼働の明暗

2月末から始まったイラン戦争でホルムズ海峡が封鎖され、エネルギー情勢は激しく揺さぶられている。危機乗り切りを図る切り札に原子力発電所が浮上。再稼働や整備を加速する動きが世界に広がる。

ドイツの火力発電所。脱原発政策は維持する方向だ=筆者撮影

開戦から1カ月たった3月末、台湾電力は昨年5月に止めたばかりの第3原発の再稼働計画を核能(原子力)安全委員会に提出した。28年再稼働を目指す。

台湾は1985年に3カ所のサイトで原発2基ずつが稼働する「3原発(計6基)体制」を確立した。しかし、2011年の東京電力福島第一原発事故を機に反原発運動が高まり、政府は運転開始から40年を迎えた原発から順次、停止する措置をとった。最後の原発は昨年5月に止まった。

ただ、再稼働を求める声は根強い。半導体産業が経済を引っ張る構造にあり、人工知能(AI)時代の到来で電力消費の増大が見込まれるからだ。

昨年8月には再稼働を問う国民投票を実施した。賛成票が反対票の3倍近くを占めたが、投票総数が有権者総数の25%に達せず「否決」となった。

だが、イラン戦争で状況は一変する。台湾は、原油調達の7割を中東諸国に頼るほか、LNGも約3割をカタール産が占める。戦略備蓄が約120日と少ないことも危機を増幅させた。調達先変更などで急場をしのぐが、今後は、再生エネルギーの拡充に加え、23年に停止した第2原発(北部・新北市)を含めた原発の再稼働を見据える。

欧州の多くの国が原発推進に転換

欧州でも原発回帰の動きが強まる。欧州委員会のフォンデアライエン委員長はイラン戦争開戦直後の3月10日、パリで開かれた「原子力エネルギーサミット」で、「欧州が(原発に)背を向けたのは戦略的誤りだった」と、脱原発政策を批判した。

欧州では、90年には原発が電力の3分の1を供給していたが、ドイツの脱原発などにより、現在は「15%」足らずだと委員長は嘆いた。新型モジュール炉(SMR)などの早期導入が必要と訴えた。

ドイツ出身のフォンデアライエン氏は、メルケル政権で環境相を務め、「脱原発」を熱心に取り組んだ人物だ。皮肉な巡り合わせと映る。

名指しされた形のドイツは複雑な事情を抱える。キリスト教民主同盟(CDU)党首であるメルツ首相は、個人的には原発再稼働に前向きだ。だが、脱原発政策は「残念だが見直さない」と明言する。連立政権を組む社会民主党(SPD)が脱原発政策を維持しており、再稼働には極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)との連携が必要となる。そんなことは、政治的にできないからだ。

首相の判断の背景には、電力業界最大手のRWEが原発再稼働に慎重姿勢であることも一因のようだ。RWEのクレバー最高経営責任者(CEO)は、原発再稼働には数年以上の準備期間と数千億円単位の投資が必要で、投資回収には20年以上が必要と指摘する。電力会社にとって再稼働は「経済的・経営的なリスクが大きすぎる」との主張だ。

再稼働に応じても、数年後に政権が変わり再び「脱原発」に戻れば、投資は「ドブに捨てた」も同然になる。そんな主張をするCEOが、姿勢を変える可能性は低そうだ。

ただ、欧州全体を見れば、ベルギーやスイス、イタリアなど原発推進に転換する国が多い。イラン戦争を機にそうした動きが加速しそうだ。

【記者通信/4月17日】豪州で深刻化する石油危機 日豪防衛相は呑気にゴルフ計画?

中東情勢が収まりを見せない中、燃料不足の懸念が絶えないオーストラリアに追い打ちをかけるような事故が起きた。豪州国内に2カ所しかない製油所の1つ、ビクトリア州のジーロング製油所で15日夜に大規模な火災が発生した。約12時間後に鎮火したものの、豪州国内の10%を供給する製油所は稼働率を低下した運転を余儀なくされており、燃料供給への不安は一層高まった。

こうした中、小泉進次郎防衛相が豪州のマールズ副首相兼国防相との会談のため、18日に豪州入りする。安全保障問題で日豪両国の結束を確認するのが目的だが、中東情勢についても意見を交わすものとみられる。だが2人は事もあろうに18日午後、会談を行うメルボルン郊外でゴルフに興じる予定を当初組んでいた。世論の反発を恐れたか、ゴルフの予定はキャンセルされたが、両国が燃料問題で緊迫している中、閣僚の緊張感のなさを露呈した格好だ。

豪州で製油所火災 「国内の燃料供給に影響」

同製油所の火災はガソリン製造設備で発生した。被害はガソリン生産ラインが中心だという。大都市メルボルンがあるビクトリア州には約50%供給しており、ボーエン気候変動・エネルギー相は16日、「国内の燃料供給に影響する」と述べた。

同製油所は火災発生後からガソリン生産は約4割減、ディーゼルおよび航空燃料は約2割減と稼働率を下げて操業している。同製油所はオーストラリア国防軍(ADF)向けに航空、海上、陸上用燃料も供給しており、国防への影響にも懸念が出ている。

運営会社ビバ・エナジーのスコット・ワイアット最高経営責任者(CEO)は複数のメディアに対し、「製油所の設備を安全に復旧させるためには作業が残っている。フル稼働に戻すのはまだ時間がかかる」と語った。

一方、アルバニージー首相は17日、火災の影響について燃料制限措置の引き上げにはつながらないとの認識を示した。

豪州では燃料が不足した場合に備え、4段階の制限措置を設けている。現在は2段階目の状態で自動車運転者らに必要な分だけ購入するように呼びかけている程度だ。アルバニージー首相は「今回の火災によって何らかの変更は生じない」と明言した。

しかしあるエネルギー企業の関係者は「供給能力の約10%が影響を受けることで、燃料不足の懸念が一層高まる。政府は高値での追加的な輸入をする可能性もあり、いったん下がった燃料価格が再び高騰することになるだろう。市場経済の論理で製油所を次々と閉鎖してきたことがここに来て大きな足かせになっている」と指摘する。

緊張感欠く2閣僚 ゴルフは急遽取りやめに

こうした状況下で、小泉防衛相とマールズ国防相が吞気にゴルフの計画を立てていたことには驚きを隠せない。

豪州では国民に燃料の買い控えを要請しているにもかかわらず、閣僚の緊張感のなさに国民の中には「crazy!(どうかしている)」とあきれる声も出ている。

日本でもナフサ不足が顕在化しており、液化天然ガス(LNG)燃料の逼迫も指摘されている。ガソリンには多額の補助金が投じられており、訪問先とはいえ閣僚としての緊張感が欠如していると批判されても反論できないだろう。折しも自民党大会で自衛官が国歌斉唱した問題が取り沙汰されている中だけに、「内閣の一員として当事者意識がなさすぎる」(政府関係者)との声が出るのも納得だ。

ゴルフの予定はこうした悪影響を危惧したのか、急遽取りやめになったが、あたかもバカンス気分で会談するという印象は拭い切れないだろう。

イラン情勢が先行き不透明で燃料問題は長期化の様相を見せている。燃料問題がさらに深刻化した時、戦火が激しくなった際にこのような軽佻浮薄な閣僚に国の安全を任せていいものか、甚だ疑問だ。

【記者通信/4月8日】米・イランが2週間停戦で合意 今こそ国を挙げて省エネ支援を

おそらく世界中の人々が胸をなでおろしたに違いない。米国とイスラエル、イランは米東部時間4月7日夜(日本時間8日朝)、2週間の停戦で合意した。報道などによれば、トランプ米大統領はSNSを通じ、イランが事実上封鎖している原油輸送の要衝ホルムズ海峡の開放を条件として停戦を受け入れたと表明。イランのアラグチ外相は、軍の調整などによってホルムズ海峡の安全な通航が2週間は可能との声明を発表した。CNNによると、イスラエルも一時停戦に合意した。

カーグ島攻撃を速報で伝えたテレビニュース。その6時間後に停戦合意が表明された

仲介役を務めるパキスタンのシャリフ首相は、「イランと米国、その同盟国などは、レバノンを含むあらゆる地域での即時停戦に合意した」と言及。停戦は即日発行した。中東を舞台に、世界的なエネルギー供給不安をもたらしたイラン戦争は、開始から1カ月以上がたって初めて米国、イランの双方が歩み寄りを見せた格好だ。パキスタンでは両国の代表団を11日に首都イスラマバードに招き、恒久的な解決に向けた本格協議を行うとみられる。

米国が設定した、イランの発電所や橋など重要インフラへの総攻撃の猶予期限が7日午後8時(日本時間8日午前9時)に迫る中、米国はトランプ大統領が発した「イランを石器時代に戻す」「今夜一つの文明が滅びる可能性がある」との警告を実行に移すかのように、イランの原油輸出の9割を担うペルシャ湾の要衝カーグ島で、エネルギー施設を除く50以上の軍事目標を攻撃し、世界中に緊張が走った。そして猶予期限まで2時間を切るギリギリのタイミングでの、急転直下の停戦合意表明だった。「日本でも大人気のアメリカの連続ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』の一場面を見ているようだ」。大手都市ガス会社のOBは、こんな感想を漏らした。

イランのペゼシュキアン大統領との電話会談について会見する高市首相(首相官邸ホームページより)

高市早苗首相は8日午後4時から25分間、イランのペゼシュキアン大統領と電話会談を行い、米国とイランの2週間にわたる停戦合意を歓迎する意向を示した上で、「ホルムズ海峡は世界の物流の要衝で国際公共財」との考えを強調。日本を含む全ての国の船舶について安全な航行が迅速に確保されるよう強く求めた。これに対し、ペゼシュキアン大統領はイランの立場を説明したという。両首脳は今後も意思疎通を図っていくことで一致しており、ホルムズ海峡の完全開放に向けて日本が一定の役割を果たせるか、注目される。

【SNS世論/4月7日】力を失った空想的安保論 エネルギーの熟議につながるか

「日本はダメだ」「日本人はダメだ」。こんな意見を、オールドメディアや、一部の政治勢力から、筆者は数十年の人生でさんざん聞いた。そして、こうした意見に違和感を持ってきた。

筆者は、オールドメディアにいじめられがちなエネルギー業界でさまざまな会社、立場、業界の人と働いてきた。仕事の現場で感じることは「日本の現場には、真面目で優秀な人が多い」という感銘だ。日本経済の力が衰えたという自信の喪失が社会に広がっている。確かにそうした面はある。しかし現場を見ると、その日本人労働者の質の高さは、まだかろうじて維持できているように思える。そんな人たち(もちろん他の国籍の人も含めて)の作る日本社会を筆者は信頼している。

そしてメディアや政治の場で流れる情報と、健全な日本の多数の意見や現実とかけ離れていることが多いといつも思う。特に安全保障の問題は、私が物心のついた約50年前から違和感を感じてきた。それが、この1年でようやく普通の日本人の話す世界と一致し、「正常化」しつつあるように見える。空想的安全保障論が相手にされなくなっているのだ。

昨年10月の高市早苗首相の就任、さらに2月の選挙で日本型リベラル勢力が大敗した。(私の寄稿「【SNS世論】日本型リベラルの崩壊とエネルギー政策への影響」 で解説した。)高市首相のPRポイントは、安倍晋三氏の継承を強調し、安全保障問題に強いと言うことだ。それが国民に評価され、高支持率を得ている理由の一つだ。

3月にワシントンで行われた日米首脳会談では、エネルギー問題が話し合われた。(首相官邸ウェブサイトより)

高市首相と政府は防衛力の整備に動いている。そして高市首相は憲法の改正への希望も述べた。日本の安全保障をめぐる議論は、非武装中立を定めた憲法九条の取り扱いが、1947年の日本国憲法の公布以来、ずっと論点になってきた。それが変わる可能性もある。

現実、そしてSNSが状況を動かす

一方で、空想的な安全保障を語る人は変わらない。選挙前に「戦争怖い」「#ママ戦争止めてくるわ」といった、現実離れしたコメントを大量に流していた。一般の人が呆れているのに、それに気づかない。選挙が終わった後も流し続けている。しかも観察すると、その反響がそれほど大きなうねりになっていない。

一部の政治勢力がかたくなに姿勢を変えないのは、検索システム、そしてSNSのサービスの多くにつくアルゴリズム(類推機能)の影響があるかもしれない。同種の情報しか表示されず、批判の声はエコーチェンバー(音の跳ね返る部屋、転じて同じ政治志向の人が集まると異論が聞こえなくなる現象)の中に閉じ込められていく。空想的安全保障論が国民全体の空気に影響を与える力は、もうほとんど残っていないのだろう。

これまでの空想的な安全保障論が顧みられなくなってしまったのは、なぜだろうか。おそらく誰もが、以下の2つの理由を思いつくだろう。

第一の理由は国際情勢の緊迫がある。2023年からのロシアのウクライナ侵攻、今年2026年の米軍のベネズエラとイランへの武力行使、そして現時点で北朝鮮の核開発とミサイルの威嚇、中国の軍事力増大と台湾侵略の危険が起きている。国民はもう「平和はタダでは手に入らない」ことを肌感覚で理解し、具体策、現実的な対応を求めている。

第二の理由は、情報流通の主導権がSNSに移ったことだ。今はSNSやネットを通じて、「誰でもメディアの時代」。そうした空想的安全保障論を流す人、支援するかのように報道するオールドメディアを、「おかしい」という批判が強まった。

ただし日本の人々の大半は賢明だ。イランと米国・イスラエルが武力衝突について、米国に加担しろとの強硬な意見はあるものの、そんなに広がっていない。政府も、中東への艦艇派遣には踏み切らなかった。

エネルギーと安全保障の議論は直結

エネルギーと安全保障の議論は、直結する。日本はかつて第二次世界大戦で米国など連合軍と戦争に踏み切った理由の一つは米国などによるエネルギーの遮断だった。軍事や経済とエネルギーは直結する。

ただし日本の人々の賢明さ、そして空想的安全保障論の衰退が、健全なエネルギー政策の議論に結びついていないように思える。

日本のエネルギーの政策、そして産業の目標は、2026年3月時点では、供給の確保、消費者に提供する価格の抑制であろう。具体的な論点として、原子力発電所の再稼働、中東地域からの海上交通線の安全確保が必要だ。また数年の中期で考えるべきことはエネルギーシステム改革の見直し、12兆円以上とされるエネルギー補助金の検証と見直しだ。これらの一連の問題には、政府の動きの鈍さ、また失策がある。は、SNSではおかしさを指摘する声は出ているが、強いものになっていない。

エネルギー業界は、今は問題提起のチャンスだと思う。国民が関心を持つ安全保障論に絡めて、エネルギーの産業、政策の問題点を自分たちの立場、置かれた状況を丁寧に説明する。そうすれば、賢明な日本国民は議論、そして新しいエネルギー業界との協力に動くかもしれない。人々の支援がビジネスに必要不可欠であることは、2011年の東電の福島原発事故以降の混迷で、業界に関わる人は誰もが感じたはずだ。

逆に今、政治の方が、やらないところがあるものの、積極的に動いている面もある。3月に行われた日米首脳会談で経済協力が合意された。エネルギーを中心にしたもので、米国産の原油の調達拡大、南鳥島にあるレアアースでの共同開発、小型原子炉SMRの共同開発などを合意した。高市早苗首相は、エネルギー問題について、原子力発電に詳しいなど、やる気は見える。自民党の小林孝之政調会長・元内閣府特命担当大臣(経済安全保障)も、エネルギーをめぐる国民的議論を起こしたいと主張している。

せっかく政治が、エネルギーを取り上げるのだから、エネルギー業界自らが、堂々と「日本のために」を掲げて、前向きの提案をし、議論を盛り上げてはどうだろうか。

ただし上記のアイデアを電力関係者に言ったら、「エネルギー業界、特に電力は業界の気質がおとなしい。好機を活かして社会にエネルギー問題の議論を沸き起こす。そうすれば良いというのは、その通りだと思うが、自粛と自制が重なり、結局、動けないだろう」と感想を言われた。今回のこの好機もエネルギー関係者の方が、活かせないかもしれない。

【記者通信/4月6日】特重期限の実質延長 期間見直さず疑問の声も

原子力規制委員会は4月1日、特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置期限を改める方針を決めた。これまでは原発の工事計の画認可から5年以内の設置が求められていたが、起算点を「運転開始日」に変更する。変更を適用するのは現行制度で期限を迎えていない発電所に限られ、「5年」という期間の見直しはなかった。

柏崎刈羽7号機は特重施設の「設置期限切れ」で運転できない状態が続く

4月16日に営業運転に入る予定の柏崎刈羽6号機は、設置期限が約1年8カ月伸びて2031年4月となる。一方、7号機はすでに従来の経過措置期間を過ぎているため、見直しの対象外だ。ほかのプラントでは、女川2号機は約3年、島根2号機は約1年4カ月の延長、東海第二は対象外となっている。

特重施設は13年の新規制基準導入時に5年間の経過措置が設けられ、その後16年に起算点が変更されたものの、猶予期間自体は5年のまま維持されてきた。昨年10月、原子力エネルギー協議会(ATENA)は猶予期間の3年延長を規制委に提案していたが、起算点の変更にとどまった。

今回の判断について規制委の山中伸介委員長は「単なる期限延長ではなく、これまでの運用実績を踏まえ、規制の実効性を確保するための見直しだ」と説明した。過去10年間の実績では、12基中11基が従来の期限を守れず、実際には6年以上かかっていた。山中氏は、現場の状況と乖離した規制は機能しないとの認識を示し、制度の現実性を高める狙いがあると強調した。

「一律5年」の見直しを求める声

規制委側はルールの「適正化」を主張するが、疑問が残る。特重施設を巡る事情はサイトごとに大きく異なり、例えば美浜原発は津波リスクこそ小さいが敷地が狭い。一方で、柏崎刈羽は広大な敷地を持つ。女川のように背後が山に囲まれているサイトもある。土壌も違えば、近くにゼネコンがあるかどうかでも状況は変わる。こうした点から、エネルギー政策に精通する野党議員は「一律で5年という考え方を見直してほしい」と主張する。柏崎刈羽7号機や東海第二など、経過措置期間が終了したプラントが対象外になったことについては「違和感が残る」と語った。

エネルギー有事下で原発の早期再稼働を求める声は高まっている。「火力発電の燃料途絶などで存立危機事態が認定された場合、『国内の原発を全て動かす』といった有事対応も検討すべきではないか」(別の野党議員)との意見も聞こえてきた。特重施設の早期設置を目指すのは事業者の責務とはいえ、「完成しない状態での運転に安全上の問題はない」(山中氏)。「特重施設が完成していないから運転できない、運転を停止せざるを得ない」という状況では日本を強く、豊かにできないのではないか……。

【時流潮流/4月3日】トランプ米大統領の演説を読む イラン戦争の早期終結に傾くか

イラン戦争が開戦から2カ月目に入った4月1日夜(日本時間2日午前)、トランプ米大統領はホワイトハウスから国民向けに演説した。今後2~3週間、激しい攻撃を続けるとしながらも「中核的な戦略目標が完了に近づいている」と述べ、戦争を早期終結させる考えもにじませた。

中東に向け太平洋を航行中の米強襲揚陸艦「ボクサー」から発艦訓練をするF35B戦闘機。「ボクサー」は、地上侵攻用の兵員や兵器を積む=米国防総省提供

米イスラエル連合軍は、イランの海軍や空軍に大きな打撃を与え、開戦初日に最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害するなど軍事面では優位にある。だが、イランがホルムズ海峡閉鎖に成功したことでエネルギー価格が急騰、株価下落も続くなど政治的には追い込まれた形にある。

局面打開を図ろうと、トランプ米政権は外交交渉で和平を模索する一方、イランの石油輸出拠点のカーグ島侵攻の可能性を口にするなど硬軟両様の構えを見せた。だが、戦争長期化や犠牲者増につながる地上侵攻は、米議会や世論の反発が強く実行が難しい。そこで浮上した窮余の策は、開戦時に掲げた目標を「達成済み」だと強弁する作戦。これなら一方的な停戦宣言をしても、不自然ではない。そうした環境を作ろうとしていると映る。

例えば、政権交代の実現という目標だ。ハメネイ師の死を受けて、父よりも対米強硬路線をとる息子のモジタバ師が後任に就いた。だが、トランプ氏は「以前の政権より過激さがなく、はるかに理性的だ」と、誰もが耳を疑うような主張を展開した。

イランの核武装阻止を目的に、中部イスファハンにある高濃縮ウランの保管施設に地上部隊の派遣も検討してきた。だが、これも見送るようだ。

昨年6月に米軍の「美しいB2爆撃機」が、ウラン濃縮施設を空爆し、核開発計画をすでに「破壊した」というのが理由だ。保管施設は監視を続け、怪しい動きがあり次第ミサイル攻撃する構えを示した。

ホルムズ海峡の再開問題については、米国は関与する気などさらさらないと打ち明けた。米国は世界最大の石油・天然ガス産出国であり「ホルムズ経由のものなど必要ない」からだ。

中東産の原油や天然ガスを調達した諸国には、米国産原油やガスの購入を勧め、海峡再開を望むなら自力での解決を求めた。自らまいた種を放置し知らんぶりする姿勢は、米国の都合を最優先する「米国第一主義」の真骨頂と言えるかもしれない。

トランプ氏が、戦争の早期終結に傾いた背景を探ると、さまざまな理由が浮上する。

【TACO説】

ひとつは、「肝心な時になると、いつもひるむ」(TACO)大統領自身の性格だ。ホルムズ海峡の閉鎖を続けるなら、発電所などのインフラに総攻撃をかけるとイランを脅したが、これまで実施期限を2度延期している。米国のガソリン価格が3月31日、「レッドゾーン」とされる1ガロン=4ドル台にまで値上がりしたことも一因かもしれない。11月には中間選挙が控えており、トランプ氏の「弱気の虫」が騒ぎ出した可能性もある。

【態勢整わず】

上陸作戦実施には、兵員を送り込む強襲揚陸艦の存在が不可欠となる。すでに2隻の派遣を手配し、佐世保を母港とする1隻が3月27日に中東海域に入った。だが、米西海岸から出航したもう1隻の到着は4月中旬と見込まれている。

開戦当初から参加していた空母「ジェラルド・フォード」の戦線離脱で、空母が1隻に減ったことも痛い。洗濯室で火災が発生、ギリシャでの緊急修理を終えたものの、復帰にはまだ時間がかかりそうだ。

【作戦効果に疑問】

トランプ氏は先月末、カーグ島を「占領するかもしれない」と語った。ただ、カーグ島とホルムズ海峡は600㎞の距離があり、占領しても、海峡再開につながる保証はない。

高濃縮ウラン保管施設への攻撃は、数千人規模の要員と数カ月の時間が必要な上、「米軍史上、最も危険な作戦になる」との分析がある。政治的に難しい面がある。

とはいえ、トランプ氏の発言内容は開戦以来、二転三転している。いったんは早期停戦に傾いたが、強硬路線に切り替わる可能性も捨てきれない。トランプ氏の動きは読みにくい。まだまだ、気の抜けない日々が続きそうだ。

【記者通信/4月2日】むつ中間貯蔵への搬入ストップ 再処理工場遅延で宮下知事表明

青森県の宮下宗一郎知事は3月31日、原子力発電所から出る使用済み燃料の中間貯蔵施設(青森県むつ市)への新規搬入について、2026年度は容認しないと表明した。同県六ヶ所村の再処理工場の26年度中の竣工が「確実に遅れる」として、「なし崩し的に燃料だけが搬入される環境をつくるわけにはいかない」との考えを示した。

青森県の宮下知事

むつ中間貯蔵施設は24年に操業を開始した。県や市、事業者との安全協定では貯蔵期間は50年となっている。宮下氏が懸念するのは、長期間にわたって中間貯蔵施設に使用済み燃料がとどまることだ。操業前には国に働きかけ、25年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画に「中間貯蔵施設等に貯蔵された使用済燃料は六ヶ所再処理工場へ搬出する」と明記された。

同施設を巡っては運営会社に出資する東京電力と日本原子力発電が昨年末、他事業者との連携を検討する意向を青森県とむつ市に伝えた。他社分の使用済み燃料の受け入れが念頭にある。今年3月13日にはむつ市議会が、他社分受け入れの検討を求める経済団体からの請願を賛成多数で採択した。宮下氏は31日の会見で、搬入容認の見送りとは「関係のない話」と強調した。

原燃だけが悪いのか? 柏崎刈羽の輸送に影響も

26年度には柏崎刈羽原発5、6号機から約60tの使用済み燃料を輸送する計画がある。来年度以降も宮下氏の拒否姿勢が続けば、88%という6号機の使用済み燃料プールの貯蔵率は下がらず、さらなる号機間輸送などの対応を取らざるを得ない。27年度を予定する東海第二、敦賀両原発からの輸送にも黄信号が灯る。

停滞を打破するには再処理工場の竣工・安定操業の実現が唯一無二の解決策だが、日本原燃による原子力規制委員会への工事計画の説明は遅れている。宮下氏が言及したように、目標とする「26年度中の竣工」が間に合わない可能性が出てきた。目標の延期が常態化していることについては、原燃側に落ち度があるのか、規制委側に問題があるのか、人によって見方が異なる。宮下氏は、延期は「会社自身を貶めていることだとより強く自覚してほしい」と事業者に対して厳しい見方を示した。

ただ、本誌昨年7月号のインタビューでは「青森県として安全確保を第一義に、地域振興や雇用に寄与することを前提として協力していきます」と述べるなど、原子力政策に協力的なのは確かだ。まずは竣工に向けて、原燃にはもうひと踏ん張りが求められる。

【目安箱/3月31日】原子力の世論調査 否定的意見を減らす方法とは

日本原子力文化財団(原文財)は3月に、「原子力に関する世論調査・2025年版」を公開した。「今後日本は原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」との問いに、肯定的意見が42.0%、否定的意見が35.0%となった。肯定的意見は2018年以降、おおむね横ばいの一方、否定的イメージは2017年度以降、低下傾向が続いている。そこで、この傾向をより鮮明にする方策を考えてみた。

◆国民感情を把握できる19回の継続調査

この調査は2025年10月に全国の15~79歳の男女1200人を対象に実施された。2006年度から同一手法で継続している全国規模の調査で、今回は19回目になる。原子力や放射線に対するイメージ、関心、情報保有量、信頼、再稼働や利用に対する考え方など多岐にわたる項目で構成されている。世論の変化を見られることから、原子力関係者に注目されてきた。

上記の質問では「使っていく」「どちらかといえば使っていく」を肯定的意見、「やめていく」「どちらかといえばやめていく」を否定的意見としている。「わからない」は22.6%だった。これは今年から新設の質問だが、17年ごろから原子力をめぐるイメージでは改善の傾向があった。

また意見の内訳を見ると、男性で肯定的意見が多く、女性では否定的意見が多い傾向だった。年齢別では25~44歳の現役世代で肯定的意見が比較的高い一方、24歳以下の若い世代では「わからない」とする回答が目立った。原子力に関する情報保有量が多い層ほど肯定的意見が多く、保有量が少ない層では「わからない」とする割合が高い傾向が確認された。情報量の差が原子力に対する感情の形成に影響を与えていた。

原子力に対する否定的なイメージ(複数回答)では、「危険」が52.9%、「不安」42.6%など高いものの、2017年ごろから低下が続いており、また現在は福島原発事故の前の水準よりやや低くなっている。

◆身近な問題がエネルギー・原子力への意見を左右

またこの調査では、エネルギーを巡る人々の関心の傾向も対象にしている。同調査によると、25年度に、最も関心が高かった原子力・エネルギー関連ニュースは「地球温暖化」で、70.3%となった。「電気料金の値上げ」(56.4%)、「自然災害による停電」(53.9%)、「電力不足」(48.3%)が続いた。

一方、原子力業界に関する個別テーマへの関心は低く、「女川原子力発電所の再稼働」が13.9%、「AI普及に伴う電力需要増加」が11.4%、「原子力発電所のリプレース」が10.8%、「第7次エネルギー基本計画」が4.5%だった。

原子力に否定的な意見を持つ人ほど、災害や防災対策の不安、放射性廃棄物、福島第一原子力発電所の廃炉問題の批判に関心を向けた。暮らしに直接的に影響する問題、また事故への恐怖感が原子力への態度に影響を与えている。

エネルギーの情報収集では、テレビのニュース番組から得るという人が最も多かった。どの年齢層も半数以上で、65歳以上は82.1%だった。ところが24歳以下では53.5%と低下。さらに新聞、テレビ情報番組の影響力は若い世代ほど低下している。また検索サイト上のニュース、SNSによる情報収集も増えている。

高レベル放射性廃棄物問題では、全体の38.7%が「私たちの世代で処分しなければならない」と答え、「私たちの世代で考えなくてもよい」と答えた5.3%を大きく上回った。一方で、処分施設が自分の住む地域や近隣に計画されても「反対しないと思う」という人は9.2%にとどまり、「反対すると思う」は42.1%となった。問題解決の難しさがうかがえた。

【記者通信/3月26日】史上最大の危機に史上最低の政策⁉ 燃料油補助でまたも巨額の国費投入

原油価格高騰の激変緩和措置、また物価高対策として、2022年1月27日から25年12月31日まで続いた燃料油(ガソリン、軽油、灯油など)への補助金支給政策が、ホルムズ海峡の実質封鎖に伴う供給ひっ迫下の価格高騰対策として復活した。世界的なエネルギー有事にもかからず、消費支援のために巨額の国費がなし崩し的に投入されようとしている。

補助金の効果か、3月22日に早くも160円台に値下げしたガソリンスタンド(埼玉県川口市)

日本政府は3月19日から、レギュラーガソリンの全国平均価格を1ℓ当たり170円に抑えることを目的に、元売り各社に対する燃料油補助金の支給を再開。財源には約2800億円の基金の残高を活用するとともに、24日には今年度予算の予備費から8000億円を基金に拠出することを閣議決定した。さらに政府は必要に応じて、26年度予算案に計上されている1兆円の予備費からも補助金の支出を検討する構えだ。

加えて、政府は26日、石油の国家備蓄1カ月分の放出を順次開始した。16日に実施した民間備蓄15日分の放出に続く措置で、あわせて過去最大となる45日分を放出する。また、ホルムズ海峡を経由しない原油調達先の多角化を急いでいる。「供給安定化」と「価格低廉化」の同時達成を狙っているわけだが、出口の見通せない補助金政策による財政負担の増大は円安を加速させ、原油調達コストがさらに上昇するという悪循環を招く可能性もある。

ホルムズ封鎖で中東からの石油供給が途絶している現在、日本には250日分の備蓄があるとはいえ、本来は限られた在庫をできる限り長くもたせるため、価格を値上げし、少なくとも一般利用者については消費抑制に向かわせる政策が必要だ。補助金が支給される前の16日時点で、石油情報センターが公表したガソリンの全国平均価格は1ℓ当たり190.8円と前週の161.8円から急激に上昇。ことレジャー目的のマイカー利用者は3月中旬ごろにドライブを控えたり、鉄道やバスといった公共交通機関を利用したりするなど、ガソリン代を節約する行動に出始めた。しかし、19日以降は補助金支給の効果が表れ始め、23日時点の全国平均価格は177.7円で前週から13.1円の値下がり。首都圏などの競争の激しい地域では1ℓ160円程度の看板を掲げるガソリンスタンドもみられている。

【記者通信/3月26日】「LNG調達に支障なし」 都市ガス大手2社トップが強調

米国とイスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡の実質封鎖が続き、石油調達などへの支障が出始めている中、日本の都市ガス業界では今のところ大きな混乱は生じていない。東京ガス、大阪ガスの両社長は、いずれもホルムズ海峡を通過する国からLNGを調達しておらず、足元で量的な支障はない点を強調した。ただ長期化した場合、ガス・電力販売価格や顧客への影響などが懸念されるとした。

メディア懇談会で語る藤原・大阪ガス社長

3月25日の会見で東ガスの笹山晋一社長は、「LNGは中東には依存しておらず、9割以上が長期契約で、短期的には影響は軽微だ」と説明。大ガスの藤原正隆社長も、同日のメディアとの懇談会で「現在ホルムズを通る長契はない」「当社ガス・電力事業に十分なLNGを確保している」とした。

ただ、封鎖が長期化した場合は随所で影響が出て来る可能性がある。

まずガス事業では、原料費調整制度により4~6カ月後に原料価格の高騰が反映され、販売価格は「7月ごろから上がっていく」(藤原氏)見通しだ。

販売量にも効いてくる可能性がある。ナフサを始め石油製品の価格上昇や供給支障が生じれば、顧客の生産活動の縮小につながるためだ。他方、「第二次オイルショックの時のように、油や石炭を使っているところが、調達が安定しているガスへ転換するという逆のベクトルもある」(同)

そして電力小売り事業者の間では、数年前の価格高騰の再来が危惧されている。笹山氏は、「低圧に関しては、事業は継続している。高圧に関しては状況を注視しており、状況が長く続けば、電力価格高騰リスクがあるのでリスクマネジメントしながら事業をやっていく」と説明した。

この他、「状況が長引けば輸送船の燃料などの影響が出てくる可能性もある」(笹山氏)。

今のところそうした問題はないが、ガス業界は今後、燃料油の供給制限などが浮上した場合に備え、石油業界に対しインフラ関連への制限の順番について交渉しているという。

いずれにせよ、両社とも引き続き状況を注視しつつ、安定供給に万全を期す姿勢を見せている。

【時流潮流/3月24日】イラン戦争で「我が世の春」を謳歌するロシア

米国とイスラエルが開始したイラン戦争は4週間目に入り、長期化する様相が強まっている。米国は、イランの石油積み出し基地であるカーグ島の封鎖や上陸作戦に対応できる強襲揚陸艦部隊を日本の佐世保や、西海岸のサンディエゴから派遣。これらの部隊が中東地域に到着する3月下旬以後、新たな展開が起きる可能性がある。

イランによるホルムズ海峡閉鎖の長期化で、エネルギー市場の混乱も続く。そうした中、「我が世の春」を謳歌している国がロシアだ。この戦争で、多くの恩恵を被っている。

まずは石油・ガス価格の上昇だ。開戦直前まで国際的な原油安に加え、欧米による厳しい経済制裁により、ロシアは大幅な値引きを強いられていた。今年1月の石油・ガス収入は50億ドルにまで落ち込み、今年1~2月の財政赤字は国内総生産(GDP)の1.5%に達した。わずか2カ月で年間予想額の1.6%に近づいたことで、政府は予算縮減策の検討に着手した。ウクライナでの戦争継続にも疑問符がつく事態に追い込まれつつあった。

だが、イラク戦争開戦とホルムズ海峡封鎖という「神風」が吹く。1バレル=65ドル台だった原油価格は、一時、119ドルまで上昇、その後も100ドルをはさんだ取引が続く。ロシアのウラル産原油の値引き幅も一気に縮小した。ロシアの臨時収入は1カ月で30~40億ドルに達するとされる。まさに「棚ぼた」だ。

2点目は、米国による制裁の一時停止だ。トランプ米政権は、原油の流通量を確保しようと、ウクライナ戦争を機に発動していたロシア産原油への制裁措置を解除した。米国民に不人気なガソリン価格上昇をできるだけ抑え込むのが狙いだ。

制裁解除により、ロシア産原油の購入を控えていた中国の石油大手シノペックやペトロチャイナなどが購入再開に興味を示すほか、インドやトルコも購入量を増やしている。

米国は、あろうことか3月19日にはイランへの原油制裁も解除した。イランの戦費調達を容易にする恐れがあるが、原油価格の安定を優先させた。制裁措置の停止はいずれも1カ月が期限だが、戦争と同様に長期化すると予想されている。

三つ目は、ロシアが米国との新たな交渉道具を手にした点だ。昨年、イランと戦略的パートナーシップを結んだロシアは、開戦以後、中東に展開している米軍や周辺諸国の軍の位置座標や情報をイランに提供している。また、イランがウクライナ攻撃用にロシアに供与したシャヘド型ドローンを改造して能力向上を図ったものをイランに「逆輸出」している。

米国は、これらを問題視しているが、ロシアのドミトリエフ特別代表は11日に米南部フロリダであった米露協議の場で「米国がウクライナに実施している情報提供を停止すれば、ロシアもイラン支援をやめる」と、取引を持ちかけた。機を見るに敏、使えるものは何でも使おうというロシアのしたたかさが透けて見える。ロシアに詳しい外交官は「ロシアは『無』から『有』を生み出す天才だ。今回がその典型的な例だ」と取材に答えた。

ウクライナ戦争に「追い風」か 肥料価格上昇も収入増に

報道も含め世界の関心が中東に集まれば、ウクライナ戦争の注目度が落ちることもロシアにとっては追い風になる。米国は、中東諸国を守ることを優先してミサイル迎撃用のパトリオット・ミサイルを中東に手厚く配備する作業を進めており、ウクライナに武器が届かず守りが手薄になっている。ロシアはその隙を突きウクライナに攻勢をかける準備を整えつつある。元手となるのは、石油価格上昇で得た臨時収入だ。さらに、国際的な注目を浴びずに攻勢を仕掛けられるのも大きな利点だ。

このほか、ロシアが主要供給国となっている肥料の価格上昇もロシアの収入増につながる。中東湾岸諸国は肥料の3分の1、尿素の5割を国際市場に供給してきたが、石油や天然ガスと同様。ホルムズ海峡を通航できない状況が続く。

ロシアの「おらが春」はいつまで続くのか。それはトランプ氏の差配にかかっている。

【記者通信/3月19日】燃料逼迫へ危機感強まる豪州 価格上昇でEVシフト加速

米国のイラン攻撃により世界でオイルショックが深刻化する中、オーストラリアでは燃料供給への危機感が強まっている。アルバニージー首相は3月19日午前に開いた緊急記者会見で「燃料供給の安全性を保証する」と述べ、従来の楽観論を展開した。だが野党や財界は「数週間以内に底をつくのではないか」と、政府の認識を疑問視する。米国のイラン攻撃後から豪州内のガソリン価格は上がり続けており、豪州ガソリン研究所(AIP)の調査によると、15日現在、全国平均で1ℓ当たり2.19豪ドル(約245円)まで上昇した。これは1週間前の8日に比べ21豪セントも上がっている。供給不安と価格上昇の二重苦の状況に陥っている豪州では、ガソリンの買いだめに走る消費者も増えており、4月の大型連休を前にオイルショックの影響は広がるばかりだ。

ガソリン備蓄「36日」の波紋 4月の連休前後にひっ迫か

アルバニージー首相は19日の会見で、連邦政府と州政府を統括する国家レベルの燃料タスクフォースを立ち上げると発表した。燃料不足はないと強調してきた政府だが、不足への懸念が絶えないことから対応を余儀なくされた形だ。

政府によるとガソリンなどの燃料備蓄量は、ガソリンが36日分、ジェット燃料が29日分、ディーゼルが32日分だと明らかにしている。ボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されているすべての燃料貨物船は問題なく到着する」と繰り返し説明し、供給に支障はないと強調する。

だが政府の見解とは裏腹に燃料業界では供給不足に陥る可能性が高いと指摘する向きが強い。ホルムズ海峡経由の燃料の遅延のほか、中国やシンガポールなど中東以外の調達先が輸出の縮小に舵を切る可能性があるという。エネルギーを担当する日本企業関係者は「4月以降、急激に供給が細る可能性は十分ある」と話す。業界では4月上旬のイースター(イエス・キリストの復活祭)連休前後にひっ迫するとの見方もある。

政府部内では中東以外のアフリカや米国からの代替調達の可能性を検討しているという向きもあるが、輸送距離が伸びることにより輸送コストが大幅に増え、小売価格がさらに跳ね上がることになるため実行にはハードルが高い。

ポリタンクが不足 不当値上げも絶えず

市場では今後、1ℓ当たり3.5豪ドルまで高騰するとの見方が出ている。政府は60日間限定で、硫黄濃度の高いガソリンも国内向け燃料に混合できるよう燃料の環境基準規制の緩和に踏み切った。ボーエン氏は「地方部の供給改善とガソリン価格高騰を抑えるためだ」と主張するが、専門家からは「輸入量そのものが少ない現状で規制緩和はあまり意味がない」と反論される始末だ。

一部地域ではオイルショックに便乗した大幅値上げのガソリンスタンドも出てきた。1ℓ当たり3豪ドルを超える値段で売りつけているところもある。大手自動車保険会社やメディアの指摘により、政府は便乗値上げへの監視を強化。違反業者への罰則を強化する法案を近く議会に提出する方針だ。

ガソリンなどの買いだめの動きも急だ。先週末あたりから20ℓのポリタンクがホームセンターで飛ぶように売れる現象が起きている。大手ホームセンター「Bunnings」によると、店頭での即時入手はごく限られた店舗だけになっているという。オンラインで入手する方法もあるが、これも不足気味で入手に月単位の時間を要する場合もある。ある地域では大量に購入した個人が市場価格の倍以上の値段で売りさばくという問題も起きている。

生鮮業界や小売業界にも燃料高の影響は波及し始めた。スーパー大手の「Woolworth」は食品などの輸送にかかる燃料サーチャージを大幅に引き上げた。魚市場の海産物の値段も上がり続けている。ある飲食店関係者は「メニューの値上げが必要だ」と話す。

BYDが2月に販売トップに 石油依存からの脱却必要

オイルショックの影響は自動車販売にも影響しそうだ。2月単月の豪州内新車販売台数で、中国のBYDが販売する電気自動車(EV)が単月として30年ぶりに日本車を抜いてトップに躍り出た。

豪州ではEVの充電が無料だ(急速充電は支払いが生じるが日本ほど高くない)。ガソリン価格が1.8豪ドル前後で推移していた2月でも、EVがハイブリッドなどのガソリン車を凌駕していたのには驚きをもって報じられている。さらにこのオイルショックがEVの販売を後押しする可能性は極めて高く、単なる一過性の出来事ではなさそうだ。

翻って日本。高市政権はガソリン価格を1ℓ当たり170円前後に抑える補助金を出すという。ウクライナ危機の際に「激変緩和措置」としてやり始めたガソリン補助金だが、事あるごとに出し続けている。一種の中毒に陥っている。

ガソリン車の購入や原油由来の製品を利する政策を取り続けては、中東をはじめ政情不安が起こるたびに補助金漬けになりやしないか。調達先の多様化を進めることも重要だが、コストに跳ね上がるようでは意味がない。

豪州の事例ではないが、この際オイルに依存しない政策に舵を切るべきだ。EVの車体補助に限らず、街中での充電機の導入拡大や低充電料金化など消費者にインセンティブを与える政策の拡充が必要だろう。今後も政情不安は増える可能性があるだけに、高市政権にとって、本腰を入れて取り組むべき優先課題だ。

【コラム/3月19日】70年代オイルショックの経験は生かされているか?

福島伸享/前衆議院議員

2月28日、イスラエルと米国が国際法に違反してイランを攻撃し、最高指導者はハメネイ師らを殺害したことを契機にホルムズ海峡が事実上の閉鎖状態となり、この原稿の執筆時点で原油価格は高騰し、世界経済の行く末は極めて不透明な状況となっている。地域大国であるイランを前にして、現時点では長期化することは必至であろう。

私たちの身の回りでも、ガソリン価格がリッター190円近くにまで上昇して、その影響をひしひしと実感している。日本が輸入する原油の9割近くがホルムズ海峡経由であり、ホルムズ海峡から日本まではタンカーで約3週間。このままいけば春の彼岸頃から日本へは原油がほとんど届かないことになる。それ以降備蓄を取り崩していかなければならないが、254日でそれも尽きる。原油は、ガソリンや灯油などのエネルギー源だけではなく、合成ゴムやプラスチックなどの素材としても使われているため、日本経済に与える影響は甚大だ。

世界の先進国の中で、ホルムズ海峡に経済の多くを頼っている国はアジアの国であるが、大国の中国やインドはイランと独自の外交関係を持っていて、ホルムズ海峡の閉鎖の影響を一定程度回避できる。米国やロシアは自ら原油を産出し、ヨーロッパ諸国はホルムズ海峡にそれほど依存していないから、原油価格上昇以外の物理的な「油断」によって破滅的な経済への影響を受けるのは、日本、韓国、台湾などであろう。冷静に振り返ってみると、空恐ろしい気持ちになる。

1970年代に2度のオイルショックに見舞われた日本は、中東の石油資源に依存する経済システムを転換し、総合的な資源エネルギー政策を立案・実行するために、1973年に資源エネルギー庁を設置。原子力開発の推進、サンシャイン計画やムーンライト計画などによる新エネ技術・省エネ技術の開発、石油備蓄の推進、資源の自主開発などを進めてきた。今回、このような事態に直面して、この半世紀の外交も含めた総合エネルギー政策の結果が問われることになろう。

現状がどうであるかは、私はあえてここでは書かない。今は米国一辺倒にならざるを得ない外交(今世紀初頭まではイランのアザデガン油田開発に関与して自立を目指していた)も含めて、今日本は他の先進国や大国と比べて一番脆弱な状況にあるとだけ、述べておこう。政治と行政の現場でエネルギー政策に取り組んできた者として、忸怩たる思いだ。

【論考/3月16日】燃料油補助復活が日本を自滅させる、これだけの理由

ホルムズ海峡の事実上封鎖が長期化すれば、実際上、原油価格に上限はなくなる。バレル当たり100ドルや150ドルは平時の価格であり、200ドルでも全く足りない。在庫取り崩しに限界が見えた時点で、無制限の上昇圧力が掛かり始めるのだ。多くの輸入国で石油不足が市場による調整力を超え、政府による制御・統制を余儀なくされよう。それはアジア・太平洋地域で始まり、輸入依存度の高い諸国で最も顕著となる。もちろん、日本も例外ではない。【論考/3月12日】に引き続き、考えてみる。

一般的にバレル当たり100ドルに関しては、それ以上は「超」高値圏という閾値(threshold)として言及されることが多い。3月第2週時点でも、ホルムズ海峡封鎖を前提にしながら、100ドル代前半の予想が主流だ。例えば3月9日付けウォールストリートジャーナル紙が伝えた金融・エネルギー調査関係4社の見通しは、130ドルから150ドルの間に集まる。

しかしこの価格帯は、巨大な供給途絶量の現実に対し、低すぎて全く釣り合わない。例えばロシアによるウクライナ侵略開始後、2022年3月から7月の間、ブレント原油価格はバレル当たり100ドルから130ドルの範囲で推移した。しかしこの間、ロシア原油の輸出は順調に続き、不安はあったものの、実体的な供給ひっ迫は何ら生じていない。

また、11年から13年まで、いわゆる「コモディティー・スーパー・サイクル」と呼ばれた商品価格の上昇期に、ブレント原油は25年実質価格で平均150~160ドルだったが、この時も不測の供給途絶はなく、石油消費も年率平均3%弱の高率で増加していた。実質150ドル前後の価格は、当時の生産費用の上昇に応じて、供給・需要側双方に新規投資・技術革新を促す、市場の自律的反応だった。事実、この価格を拠り所として、10年代後半に米国で「シェール革命」が開花している。