米・イスラエル対イラン、サウジアラビア対フーシ派、およびロシア対ウクライナーこの3つの紛争が連動しながら増幅し、ペルシャ湾、紅海、およびロシアからの石油輸出を同時に阻害する「複合石油危機」を引き起こす。米・イラン間の調停は引き続き試みられてはいるが、情勢は依然としてこのような破局的事態に向かって展開している。

6月17日に米・イラン首脳間で合意された「イスラマバード覚書」は、その第5項でホルムズ海峡における「将来の管理および海事サービスを定義する」主体―すなわち実効的な支配者―を事実上イランと認めた。ペルシャ湾での米国の覇権喪失を確認した文書、とも言える。(【論考】米イラン「イスラマバード覚書」 ペルシャ湾は「イランの海」に!? 参照)。
6月25日以降に再開した米・イラン間の戦闘は、ホルムズ海峡・ペルシャ湾における実効支配の確立を図るイランと、これにあらためて抵抗し、2月末の開戦以前の原状回復を試みる米国・ペルシャ湾岸諸国との間の争いだ。イランは、米海軍支援の南側・オマーン沿岸航路を通る商船を攻撃し、これに対する米軍の報復攻撃と、イランによる湾岸諸国における米軍施設等への再報復攻撃の応酬が続いた(【論考】懸念される「複合石油危機」 中東情勢の現況を徹底解説 参照)。
米国は7月11日から23日まで計1000箇所以上と言われる対象を攻撃した後、対イラン攻撃を一旦中止し、仲介国・オマーンによる対イラン協議を進めさせた。しかし28日イランは、海峡の地域的管理・任意の資金拠出のなどのオマーン側提案を拒否し、かえってヨルダンの米軍基地を弾道ミサイルで攻撃。これに対し、29日に米軍は主にイラン南部沿岸の軍事施設数十ヶ所への空爆で応えた。また28日に米・サウジ軍は、前日にサウジの石油輸送の拠点・アブカイクが受けた攻撃への報復として、イラク領内の親イラン武装勢力の諸拠点を合同で空爆している。
米軍は中東海域に二つの空母打撃群と、強襲揚陸艦を中心とする水陸両用即応群一つを展開させ、7月中旬には戦闘機部隊の中東への前方展開、爆撃機部隊の高度警戒態勢への移行など、対イラン戦力増強を加速化した。7月11日以降、米軍によるイラン沿岸部から内陸部に広がる空爆は、本格攻勢に備えた「戦場形成作戦」とも言われ、再び大規模攻撃に転ずる危険が残る。
トランプ米大統領は7月31日に対イラン大規模攻撃の再開を命じたが、翌8月1日にこれを撤回。今度はカタールを仲介国とする対イラン協議への期待を高めた。しかしイランはオマーンとの2国間交渉を優先、本稿執筆時点(8月7日)で最終段階と言われながら合意には至っていない。この交渉はイラン主導のホルムズ海峡管理を事実上認めつつ、その適用に一定の制限をかける「条件闘争」の色合いが濃く、たとえ文書上で合意が成立しても、実施段階で再び対立が再燃するだろう。また「イスラマバード覚書」でうたわれていた「レバノンを含む全戦線での即時・恒久的停戦」など、米・イラン間には他の重要な対立点が多く残る。トランプ政権による戦争指導の振幅は激しく、協議不調と見れば、方針は再び対イラン軍事攻撃へと転じ得る。
いずれにせよ米軍による対イラン大規模攻撃は、ほぼ確実にイランによる湾岸諸国への報復攻撃の激化につながる。米政権内外で、迎撃ミサイルなどの兵器備蓄の枯渇も強く懸念されており、この「軍事的相互破壊」には一定の歯止めが掛からざるを得ない。そもそもホルムズ海峡の持続的制圧には、後背地の山岳地帯を含むイラン南部全域の軍事的制圧を必要とし、これは現在展開中の米軍戦力では不可能だ。したがって間歇的な軍事衝突を繰り返すとしても、基本的には「イスラマバード覚書」成立前の状況、すなわちホルムズ海峡封鎖・イラン海上封鎖が継続し、米国・イラン双方が睨み合う膠着状態に戻ると見るべきだろう。
南側・オマーン沿岸航路の通航は、6月下旬から7月上旬にかけて顕著に活発化したが、7月前半に相次いだイランによる対商船攻撃後に激減した。米国も7月14日以降、再び実質的な対イラン海上封鎖を敷いた。イランはホルムズ海峡の支配を自衛上不可欠として固守する構えであり、開戦前の原状回復は見通し得ない。おそらくこの「経済的核戦争」と称すべき事態は、イランのペルシャ湾実効支配を一定の条件下で米国が認める形での、何らかの妥協が成立するまで続くだろう。この膠着が続く間に、未曾有の世界的石油供給危機が顕在化してくる。













