【論考】世界3紛争がもたらす「複合石油危機」の進行に備えよ

米・イスラエル対イラン、サウジアラビア対フーシ派、およびロシア対ウクライナーこの3つの紛争が連動しながら増幅し、ペルシャ湾、紅海、およびロシアからの石油輸出を同時に阻害する「複合石油危機」を引き起こす。米・イラン間の調停は引き続き試みられてはいるが、情勢は依然としてこのような破局的事態に向かって展開している。

6月17日に米・イラン首脳間で合意された「イスラマバード覚書」は、その第5項でホルムズ海峡における「将来の管理および海事サービスを定義する」主体―すなわち実効的な支配者―を事実上イランと認めた。ペルシャ湾での米国の覇権喪失を確認した文書、とも言える。(【論考】米イラン「イスラマバード覚書」 ペルシャ湾は「イランの海」に!? 参照)。

6月25日以降に再開した米・イラン間の戦闘は、ホルムズ海峡・ペルシャ湾における実効支配の確立を図るイランと、これにあらためて抵抗し、2月末の開戦以前の原状回復を試みる米国・ペルシャ湾岸諸国との間の争いだ。イランは、米海軍支援の南側・オマーン沿岸航路を通る商船を攻撃し、これに対する米軍の報復攻撃と、イランによる湾岸諸国における米軍施設等への再報復攻撃の応酬が続いた(【論考】懸念される「複合石油危機」 中東情勢の現況を徹底解説 参照)。

米国は7月11日から23日まで計1000箇所以上と言われる対象を攻撃した後、対イラン攻撃を一旦中止し、仲介国・オマーンによる対イラン協議を進めさせた。しかし28日イランは、海峡の地域的管理・任意の資金拠出のなどのオマーン側提案を拒否し、かえってヨルダンの米軍基地を弾道ミサイルで攻撃。これに対し、29日に米軍は主にイラン南部沿岸の軍事施設数十ヶ所への空爆で応えた。また28日に米・サウジ軍は、前日にサウジの石油輸送の拠点・アブカイクが受けた攻撃への報復として、イラク領内の親イラン武装勢力の諸拠点を合同で空爆している。

米軍は中東海域に二つの空母打撃群と、強襲揚陸艦を中心とする水陸両用即応群一つを展開させ、7月中旬には戦闘機部隊の中東への前方展開、爆撃機部隊の高度警戒態勢への移行など、対イラン戦力増強を加速化した。7月11日以降、米軍によるイラン沿岸部から内陸部に広がる空爆は、本格攻勢に備えた「戦場形成作戦」とも言われ、再び大規模攻撃に転ずる危険が残る。

トランプ米大統領は7月31日に対イラン大規模攻撃の再開を命じたが、翌8月1日にこれを撤回。今度はカタールを仲介国とする対イラン協議への期待を高めた。しかしイランはオマーンとの2国間交渉を優先、本稿執筆時点(8月7日)で最終段階と言われながら合意には至っていない。この交渉はイラン主導のホルムズ海峡管理を事実上認めつつ、その適用に一定の制限をかける「条件闘争」の色合いが濃く、たとえ文書上で合意が成立しても、実施段階で再び対立が再燃するだろう。また「イスラマバード覚書」でうたわれていた「レバノンを含む全戦線での即時・恒久的停戦」など、米・イラン間には他の重要な対立点が多く残る。トランプ政権による戦争指導の振幅は激しく、協議不調と見れば、方針は再び対イラン軍事攻撃へと転じ得る。

いずれにせよ米軍による対イラン大規模攻撃は、ほぼ確実にイランによる湾岸諸国への報復攻撃の激化につながる。米政権内外で、迎撃ミサイルなどの兵器備蓄の枯渇も強く懸念されており、この「軍事的相互破壊」には一定の歯止めが掛からざるを得ない。そもそもホルムズ海峡の持続的制圧には、後背地の山岳地帯を含むイラン南部全域の軍事的制圧を必要とし、これは現在展開中の米軍戦力では不可能だ。したがって間歇的な軍事衝突を繰り返すとしても、基本的には「イスラマバード覚書」成立前の状況、すなわちホルムズ海峡封鎖・イラン海上封鎖が継続し、米国・イラン双方が睨み合う膠着状態に戻ると見るべきだろう。

南側・オマーン沿岸航路の通航は、6月下旬から7月上旬にかけて顕著に活発化したが、7月前半に相次いだイランによる対商船攻撃後に激減した。米国も7月14日以降、再び実質的な対イラン海上封鎖を敷いた。イランはホルムズ海峡の支配を自衛上不可欠として固守する構えであり、開戦前の原状回復は見通し得ない。おそらくこの「経済的核戦争」と称すべき事態は、イランのペルシャ湾実効支配を一定の条件下で米国が認める形での、何らかの妥協が成立するまで続くだろう。この膠着が続く間に、未曾有の世界的石油供給危機が顕在化してくる。

【目安箱】日米韓が小型原子炉で協力 警戒しながらも利益を得る構図に

日米韓の3カ国はトルコのアンカラで開催されたNATOのサミットに合わせて外相会談を行い、原子力の小型モジュール炉(SMR)の他国への導入に関する協力覚書を7月7日に結んだ。マルコ・ルビオ米国務長官、日本の茂木敏充外相、韓国の趙顕(チョ・ヒョン)外交部長官が参加した。米国の公表文によると、SMRの新規建設で、インド太平洋地域を当面の重点地域とし、その建設のための3カ国の政府および産業界の協力強化を目的としている。具体的には、SMRプロジェクトの開発リスクの低減、規模の経済の実現による建設費用の低下、民間投資の促進、許認可手続きの効率化やサプライチェーンの最適化などを目指す。

署名式において、茂木外相は、「米韓両国とは、重要鉱物のサプライチェーン強靭(きょうじん)化や北朝鮮のサイバー脅威に対する枠組みなど、これまで具体的な取り組みを進めてきた。SMRに関する協力枠組みについても歓迎する」と述べた。

◆米国主導か、日本は受け身の対応

3国政府は、日米韓3カ国は商用原子力で相互補完的な強みを有していると認識を共有し、この地域で増加する電力需要を満たすための競争力ある選択肢を提供するとしている。またこれ以外にも、原子力安全、核セキュリティーを進めるとしている。つまり売り込みに加え、核の管理も協力するという。

この3国の覚え書き締結を積極的に推進したのは米国のようだ。米国は、「SMR技術の責任ある利用のための基盤インフラ」プログラムを行っている。これはバイデン政権の時からのもので、トランプ政権でも継続されている。この協定に関係し、これを使ってSMRプロジェクトの開発支援や、原子力人材の育成を目的とした訓練を行うとも発表した。韓国のメディアも、同国政府の期待コメントを載せた記事を掲載している。

ところが日本の外務省、経産省は会見に外相が出た以外は、積極的に広報をしていない。準備がまだできていないのかもしれないが、こうした原子力の推進の国際協力については、国内の世論の批判を恐れてか、常に福島原発事故以降、日本政府は腰が引けているように思える。

◆急成長する韓国の原子力産業

もちろん、この協定は歓迎すべきことだろう。しかし、日本人の傾向として、外国との協力ではメリットだけ注目しがちだ。原子力でも、過去に大きな問題が起きている。

東芝が2017年に経営危機に追い込まれたのは、買収して子会社にした米国の原子力企業ウェスチングハウスの赤字を抱え込んだことにある。

そして米国は大国ゆえに、自国に都合よく、作った国際制度を変えてしまうことがある。原子力についてこれまで米国は兵器転用を止めるという核不拡散政策を行なってきた。しかし7月23日にトランプ大統領はサウジアラビアとの間で原子力協定を締結した。そこで核兵器の開発につながるウラン濃縮をサウジに認めた。サウジは現時点では米国の友好国とはいえ、王国でサウド家の独裁の下にある。また核保有を目指すイランと対立し、財力もある。この協定をきっかけに、核保有に進みかねないとの懸念が世界に広がっている。

また韓国の原子力産業は発展している。UAEのバラカ原子力発電所の建設を、日本勢を差し置いて、09年に当時約200億ドルで受注した。韓国の国産炉APR1400型4基を使う発電所が24年に稼働した。

韓国の企業連合はチェコで25年に2基(APR-1000型)の契約を締結(約180億ドル規模)。36~37年完成を目標にして工事が始まった。国内での原子炉建設計画もあり、既存原発の稼働率も9割近い高さだ。この協定が上り調子の韓国の原子力産業に、プラスとなるだろう。

◆外国に利用されず、したたかに

さらに韓国は原子力潜水艦の建造を目指している。この小型炉の技術が、それや同国の核武装につながる可能性がある。韓国は、核燃料サイクルを検討しているが、米国がこれまで認めてこなかった。ところがサウジに認め、そしてトランプ政権がビジネスのためなら核不拡散の原則を崩しかねない行動をしている。

韓国がいきなり核武装をすることはないだろうが、それは将来的に懸念される話だ。原子力潜水艦と核兵器が合わさると、日本の安全保障にも影響する。その始まりに、この協定がならないことを祈る。

まだ日本は原子力では、研究も運用も建設力も世界のトップクラスにある。福島原発事故の反省の下で安全性の研究、ノウハウも蓄積されている。今回の協力でマイナス面ばかりを心配するのは愚かな行為だろう。協力のメリットを伸ばし、日本の力を発揮し、利益を享受する方法を考えることが先だ。

しかし今までの経験、米韓と日本の熱の入れ方の違いを見ると、少し今から心配している。米韓両国、そしてそれぞれの産業界は原子力でもライバルであると同時に友でもある。彼らのしたたかさに気をつけながら、原子力の復活の世界的な動きに向き合いたい。

【時流潮流】猛暑で運転停止相次ぐ欧州原発 河川の水量激減が影響

日本各地で最高気温が40度を超す酷暑日を記録するなど日本は今年も暑い夏が続いている。日本だけでなく欧州や北米にも猛暑が襲いかかる。欧州では主要河川の水量が減る渇水も重なり、原発の運転に支障が出始めている。

欧州第二の河川、ドナウ川=ハンガリーの首都ブダペストで、筆者撮影

猛暑による渇水の被害が最も出ているのが東欧諸国だ。ヨハン・シュトラウス2世の「青き美しきドナウ」で知られるドナウ川の水量減少が深刻だ。ドイツ南部の黒い森を水源に西から東へと流れるこの川は、ドイツからオーストリアを通りハンガリー、セルビア、ブルガリア、ルーマニアなど10カ国を経て黒海に注ぐ。全長2850㎞あまりの欧州では2番目の大河として知られる。

水位が下がり、冷却水を川から取り入れる取水口が水面より上となり、取水できない状態となっている。水温が30度にまで上昇したことで冷却効果が落ち、原発は出力低下を強いられている。また、通常より温度の高い温排水を川に戻せば、河川に生息する動植物の生態系を破壊しかねない環境問題などの観点からの影響も出ている。

こうした影響を受けているひとつがハンガリーのパクシュ原発だ。ロシア製の原発4基を運転する同国唯一の原発で、電力供給に占める割合は4割以上を占める重要施設だ。

4基合計の出力は約200万㎾あるが、渇水の影響を受けて徐々に出力を下げたり、運転を停止したりした。現在、稼働しているのは1基足らず。出力も全体の約10%に落ち込んでいる。政府は7月末に、大口需要家に自主的な節電を要請するとともに、国民にも電力需要の高まる夕方から夜の時間にかけての節電をするよう強く呼びかけている。

事態は深刻化する一方で、マジャール首相は、ドナウ川の水位がさらに低下すれば「完全停止する可能性がある」と表明した。ただ、上流に位置するオーストリアで降雨があったため、一時的に水位が20㎝ほど回復したものの、危機を脱したとはいえない状況にある。

ルーマニアも渇水被害 影響は原発大国フランスでも

ハンガリーの下流にあたるルーマニアでも渇水が原発を襲っている。チェルナボーダ原発でも冷却水不足が起き、2基のうち1基が運転停止に追い込まれている。これを解消するため、8月3日には、原発用の冷却水が取水口から確保できるようにルーマニア軍がドナウ川の岩盤を爆薬で爆破する荒療治を行った。

ルーマニアのポロジャン首相「ドナウ川の流量減少による発電量の低下を受け、8月いっぱいは全国を警戒体制に置く」ことを先月末に表明した。フランスのルノー系の自動車メーカーは8月中旬までの生産停止を発表するなど、人日の生活面だけでなく、経済活動にも大きな影響が出始めている。

猛暑と渇水の影響はフランスでも出ている。8月上旬に、フランス北東部を流れるミューズ川とモーゼル川の水量が低下し、チョーズ原発の2基の原子炉が運転を停止。カトノム原発も渇水の深刻化を見越して予防措置として1基の原子炉を止めた。

フランスでは22年にも歴史的熱波に見舞われ渇水と水温上昇が重なり、原発が運転を停止したり、出力を下げたりした。その結果、電力輸出国だったフランスが、一時的に電力輸入国に転落する事態に陥った。

筆者も欧州勤務時代、最高気温が40度を超す熱波に襲われた。日本とは違い、住宅だけでなく商業施設の多くにもエアコンがなく、扇風機すらなかった。強い日差しを浴びて部屋の気温が上昇するのを防ぐため日中は鎧戸を落とし、窓を閉めて過ごす。石造りの建物は、そうした方が涼しかった。気温が下がった未明には窓をあけ、明け方には閉める作業を続けて酷暑を乗り切ったことを思い出す。

欧州の酷暑と渇水は8月いっぱい続くとの予報もあり、被害が拡大する可能性もありそうだ。

【時流潮流】米サウジアラビア原子力協定は核拡散に道を開くのか?

核兵器開発の阻止を最大の目標に掲げてイランとの戦争を続ける米国。その米国が7月、イランのライバルであるサウジアラビアの核武装に道を開きかけない原子力協定を結んだ。米国は半世紀以上続けてきた核不拡散政策を放棄したのだろうか。

国際原子力機関(IAEA)の追加議定書に署名するイランのサレヒIAEA大使(左)。米サウジ原子力協定では、追加議定書署名が義務付けられていない=2003年、筆者撮影

米国のライト・エネルギー長官とサウジのサルマン・エネルギー相は7月22日、原子力協定に署名した。これによりサウジは米国製原発の導入が可能となった。協定は30年間有効で、米ウエスチングハウス社が独占的にサウジに原子炉を供給する。手初めに、AP1000原発を2基供給する予定だ。

米国は2009年に、アラブ首長国連邦(UAE)とも原子力協定を結んでいる。核兵器開発に転用できるウラン濃縮と、プルトニウムの抽出につながる使用済み核燃料の再処理をともに認めず、「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)の厳しい核査察を認める追加議定書締結を義務付けた。民生用原子力技術の供与と核拡散防止を両立させるこの協定は「ゴールドスタンダート」と呼ばれ、国際社会から賞賛を浴びた。

だが今回、米国がサウジと結んだ協定は、ウラン濃縮を認め、追加議定書締結も義務化しなかった。サウジの実質的なリーダーであるサルマン皇太子は18年に、イランが核武装を果たすなら「サウジも同様のことをする」と核武装に強い意欲を示した人物である。協定締結はサウジの核武装に道を開いたものとも言え、「米国は核不拡散政策を転換するのか?」「イラン戦争の目的と矛盾する。犯罪的行為だ」などの批判が国内外で渦巻いた。

トランプ米大統領は協定署名の翌日、そうした批判を気にしたのか、協定発効は「サウジがイスラエルと和平協定(エイブラハム合意)を結ぶことが条件になる」「核物質の濃縮は実施されない!」とSNSに投稿した。署名済みの協定に、新たな条項の追加を求める異例の発言と言える。

中東諸国が「ウラン濃縮」へドミノ倒しも

サウジは、パレスチナ自治区とイスラエルが、平和と安全の中で「共存」できるまでは、イスラエルと和平協定を結ばないとの方針をこれまで重ねて示してきた。トランプ氏が提示した条件は絶対飲めず、このままなら協定は間違いなく「破談」となるはずだ。

ただ、米サウジ両国とも合意文書を現時点では公表していない。トランプ氏が求めた「条件」が本当に盛り込まれているのか、トランプ氏が批判逃れのために一時的な方便を使ったのか。現時点では不明のままにある。

協定は、90日以内に米国議会の承認を得る必要がある。仮に議会が否決した場合でも、大統領は拒否権を行使できる。議会がそれを覆すためには、3分の2以上の賛成票が必要とある。政府提案がそのまま通る可能性が高い。

サウジにウラン濃縮を認める協定が発効すると、どのような影響があると想定されるのだろうか。

第一に、イランが執拗に求めている自国内でのウラン濃縮作業の継続要求に、正当性を与えることになる。核武装に関心を示すエジプトやトルコなど他の中東諸国も、一斉にウラン濃縮に向けて走り出す「ドミノ倒し」も起きかねない。そうした動きは中東だけではおさまらないはずだ。トランプ政権は核拡散というパンドラの箱を開いてしまったのかもしれない。

【記者通信】イオンモール熊本爆発事故 マスコミが報じない事実と疑問点 ※アップデート版

7月28日午後4時27分ごろに起きた熊本地震から約1時間20分後の午後5時46分ごろ、熊本県嘉島町にあるイオンモール熊本で爆発事故が発生し、死亡者7人、負傷者5人を出す大惨事となった。施設に供給されているLPガスが原因とみられており、警察、消防、関係機関などが中心となり現地調査が進められている。LPガス関係では、1983年11月22日に「ヤマハレクリエーションつま恋」(静岡県掛川市)の飲食店でコックの閉め忘れによる爆発が起き、客や従業員ら14人が死亡、27人が重軽傷を負った事故がある。今回の事故原因がLPガスとすれば、死傷者の数ではそれに次ぐ規模となる。また爆発自体の規模では過去最大級と見る向きもあり、LPガス関係者に大きな衝撃を与えている。

イオンモール熊本が爆発した瞬間の画像=YouTubeのスクリーンショットより

取材で浮上した事実関係や疑問点 「白ガス管の損傷でガス漏洩?」

エネルギーフォーラムがLPガス関係者や都市ガス関係者などを対象に独自に取材を進めたところ、現時点で次のような事実関係や疑問点が浮上している。

●イオンモール熊本のLPガス供給事業者は、福岡酸素(本社=福岡県東久留米市)。同施設には9.3t級のバルク容器が設置されており、そこからガスが供給されている。同施設の場合、法令上は原則として「液化石油ガス法」の特定供給設備(3t以上10t未満)に該当。保安責任は、ガス供給事業者側(供給設備=バルク貯槽〜メーター)と商業施設側(消費設備=メーター以降の施設内配管・厨房機器など)の双方にある。

●※福岡酸素は8月5日、経産省に次の内容を報告。〈令和8年熊本地震発生により、何らかの要因で建物内のLPガス配管が損傷しガス漏洩が起こり、滞留したLPガスに着火した可能性があるとのことだが、現時点では原因の特定には至っていない。詳細については、現在、調査中〉

●関係者によれば、イオンモール熊本にはLPガス仕様の※ガス空調設備(吸収式冷温水機か)が複数台設定されているとみられ、主に空調用に利用されている模様。ガスエンジンを併設したガスコージェネレーションシステムなのかどうかは、現時点で不明(※経産省が3日明らかにしたところによると、ガスコージェネやガス発電機は設置されていないことが確認された)。イオンモール施設から駐車場を挟んで東側には天然温泉の施設があり、そこに向けて熱供給が行われている可能性もある。

●LPガスは、バルク貯槽からまず※大口径の中圧管で供給され、その後、低圧管に減圧されているとみられる。エネルギー機器のある棟は、バルク貯槽が設置されている場所の近隣にあり、中圧で供給されている可能性がある。店舗が入っている商業施設(主に飲食店)には低圧で供給されている。

●公開されている映像を見る限り、今回の爆発は2階南側中央部付近(ガス空調設備のある棟の隣)で起きている。(※フロアの天井部に敷設されているフードコート向けの低圧管がどこかで破損し、大量のガス漏れが発生した可能性がある)

●ガス業界の関係者によれば、配管からの漏洩に関しては、耐震性に優れる中圧管の損傷は敷設場所的にも考え難い。また、低圧管にしても最近は地震に強い金属製のフレキ管が主流(※ガス業界関係者によると、イオンモール熊本の施設内の低圧管ではフレキ管ではなく、白ガス管=配管用炭素鋼鋼管が使用されていた可能性が高いという。低コストや耐食性などの面から現在でも屋内配管では白ガス管が採用されるケースがある。白ガス管の問題は地震などの大きな衝撃により、ねじ接合部からのガス漏れがフレキ管に比べ発生しやすい傾向があるとされること。また経年劣化も進みやすいという)。

●問題の一つは、地震の揺れで自動的に機能するはずのガス遮断弁がなぜ作動しなかったのかだ。遮断弁はバルク側と飲食店側にそれぞれ設置されているという。関係者によれば、バルク側の遮断弁はI・T・O製で、主に震度5強以上作動型と震度6強以上作動型の2種類がある。嘉島町の震度は6強相当とみられているが、イオンモール熊本の立地する場所は遮断機能が作動するほどの揺れではなかったのではないかとの見方も(※実際、地震直後の避難時の動画などを見ると、陳列物が飛散していない店舗が散見される)。そうなると、遮断弁は作動せず、ガス供給がそのまま続いていた可能性は否定できない。

●一方で、バルク貯槽側の遮断弁は正常に作動しており、ガス機器や配管内に残留していたガスが破損個所から漏洩したと見る向きもある。(※イオンモール熊本のガス設備事情に詳しい関係者によると、バルク側にある遮断装置自体は正常に作動し、ガスを遮断していたという。ただ、遮断装置の接合部などで問題が発生していた可能性は否定できず、現時点で調査中)

●※バルク貯槽からのガス供給が遮断されていたとしても、太い中圧管も含めれば遮断装置以降のガス設備内に残留していたガスは相当な量になるとみられる。破損したガス管からLPガスが漏れ続け、空気より重いという性質上、施設南側中央部付近にある空間にLPガスが充満(※空気中の濃度で2.1%〜9.5%)。地震発生から約1時間20分後に何らかの形で着火し、爆発した可能性がある。(※一部報道によると、一般公開されているフロアアップには載っていないが、爆発したとみられる施設南側中央部には、自動販売機のある喫煙所があり、そこにガスが溜まり、自販機の温度調整機能が着火源になった可能性があるという。また、その隣には階段を挟んで従業員の休憩所があったという)

防災拠点の商業施設 大規模リニューアルしたばかり

イオンモール熊本は05年10月10日、「ダイヤモンドシティ・クレア」としてオープンした。16年4月の熊本地震で損傷し、18年7月20日に復旧したのを機に、西側エリアを増床した「ウエストスクエア」が完成。24年10月から25年春にかけて段階的に約40店舗を刷新するリニューアルを実施。26年6月13日に直近の大規模リニューアルが完成し、新装オープンしたばかりだった。東日本大震災の教訓から経産省の推進する「大規模施設のLPガス化政策」の一環として、防災拠点に位置付けられ再整備された商業施設でもある。それが、大爆発したわけだ。

エネルギーフォーラムでは、経産省ガス安全室、イオンモールの両者に取材を依頼したが、いずれも「現在調査中のため答えられない」と回答だった。

いずれにしても、テレビやネット上で公開されている車載カメラなどの映像を見る限り、すさまじい大爆発だったことは間違いない。もし施設からの避難が遅れていた場合、さらに多くの犠牲者が出ていたことは容易に想像がつく。映像を見た多くの国民が「やはりLPガスは危険」と思っても不思議ではないだろう。実際、XなどのSNS上では、今回の事故を巡ってさまざま憶測が飛び交っている。その一方で、大地震などが起きると被災地の避難所や仮設住宅などで、LPガス供給が大きな役割を果たしているのも、歴然とした事実だ。※事故調査委員会を設置したイオンモール側や、経産省などには、同様の事故を二度と繰り返さないためにも、徹底した原因究明が求められる。

※太字がアップデート部分

【目安箱】問題化するDC建設での住民摩擦 不安には早急に対応を

日本では急速なデータ保存需要の増加に備え、データセンター(DC)の拡充が求められている。ところが建設の反対運動が起き始めている。どのように考えるべきか。

◆東京近郊で多発、住民訴訟も

データセンターの反対運動について、地元の自治体議員、またネットの住民や報道の検索で確認した程度の調査だが、東京都日野市、同江東区、千葉県印西市、同白井市、同流山市で、大きなものが起きていた。企業名は出さない。市民運動を積極的に伝える東京新聞の報道が目立つ。

印西市、白井市の場合は住民が法令違反と主張し、建設差し止めの裁判中だ。流山市では理由は不明だが計画を出した企業が中止した。江東区では東京湾臨海部での建設が増え、区民の懸念が広がった。そのために区が「大規模データセンターに係る建築計画の早期周知に関する指導要綱」を作成して、今年2月から施行した。事業者に対して建築確認の120日前までに標識を設置することや、住民説明会の開催を義務付けるなど、乱開発を防ぐための独自の行政ルールが作られた。

いずれの反対運動でも「説明がない」「騒音がする」「排熱が環境を悪化させる」との懸念が出ている。実際のところはどうなのか。

ある電力グループの社員は、建設ごとに状況は異なると断った上で、「常識的な技術を使えば排熱は普通のビル並みでDCは作れる。外に漏れるほど熱を発するビルは危険だ。電力の供給は、日本は送配電網が他国に比べてかなり精密に作られているので、事前に情報があれば送配電会社が対応できる」と、懸念は心配しすぎとの考えだ。

◆プラス面の多いDCの建設

全体の電力需要の伸びは限定的だ。調査会社ウッドマックスによると、データセンターの電力消費は2025年の18〜19TWh(テラワットアワー)から26年に23TWh、27年に29TWhへ増加し、2034年には57〜66TWh(約3倍)に達する。ただし需要は日本全体のピークの約4%程度だ。日本全体の需要が、人口減少の影響で伸びなやむことが影響する。送配電網の整備次第だが、全体量で見るとこの程度ならDCが日本の電力供給を混乱させる可能性は低い。

DC建設では巨額の投資が見込まれる。アマゾンは同社グループで、日本国内でのクラウド整備関係に、24〜27年で約2兆2600億円を投資すると、24年1月に発表している。これには、データセンターとネットワークの建設、運用、保守が含まれるという。

モルドール・インテリジェンスの調べでは、日本国内のDC向け投資は、26年時点で約75億9000万米ドル(約1兆2000億円超)と推計され、年率6%前後で増えていくと予想している。

その他、税収増、産業基盤強化、雇用拡大など25年時点で約71〜75億米ドル(約1兆円超)規模と推計され、32〜35年には109〜133億米ドル程度に拡大する見通しです(年平均成長率CAGR約6.2〜6.7%)。電気インフラや冷却システムなどの関連需要が牽引しています。 

2025年時点で約71〜75億米ドル(約1兆円超)規模と推計され、2032〜2035年には109〜133億米ドル程度に拡大する見通しです(年平均成長率CAGR約6.2〜6.7%)。電気インフラや冷却システムなどの関連需要が牽引しています。 

DC建設には地域から日本全体まで、プラスが多い。政府も昨年取りまとめた「デジタルインフラ整備計画2030」で大規模投資を後押ししている。東京近郊では自治体が誘致に積極的だ。

25年時点で約71〜75億米ドル(約1兆円超)規模と推計され、32〜35年には109〜133億米ドル程度に拡大する見通しです(年平均成長率CAGR約6.2〜6.7%)。電気インフラや冷却システムなどの関連需要が牽引しています。 

【SNS世論】高市氏、河野氏、小泉氏―政治家から学ぶ賢いSNSの使い方

SNSは今では社会活動で必須のアイテムだ。政治家も当然その力を活用する。高市早苗首相、河野太郎衆議院議員、小泉進次郎防衛大臣のSNSの活用法を紹介し、その巧拙を考えてみたい。3人はSNSでエネルギー問題について積極的に言及してきた。現状をまとめるとSNSを守りに使った高市氏、成功が失敗の原因になった河野氏、活用で飛躍をする小泉氏という感想を筆者は持っている。

記者会見が少ない代わりに、SNSで精力的に情報発信する高市首相=首相官邸ホームページより

◆守りで使う高市首相

高市早苗首相のSNSのXフォロワーは7月末で約294万人。Xの日本語版の人気を反映して各国首脳の中でも多い。主に自分で書き込んでいる。

内容は業務の紹介が中心で面白くない。ただし時々本音が見られる。7月20日には休みを取ったが、首相就任以来、「(公邸で)分厚い資料を早朝から深夜まで読み続け」「睡眠時間は1日0-3時間」「ようやく眠れる」などとつぶやいたことで、一国のリーダーとしての判断力や資質を問う声がネット上にあふれかえり、炎上した。

高市首相は首相になってから、中傷動画作成指示の疑惑など週刊誌報道を追及する野党やメディアに振り回された。スキャンダルとしては、かなりあやふやな面のある話だ。高市氏は、その弁明をまず、さまざまなSNSで発信し、その後に国会答弁をすることが多かった。自らの言葉で先に語り、その後の批判を和らげようとしているかのようだ。しかも、記者会見は頻度が少なく、久しぶりに開かれた「皇室典範改正の法案成立等についての会見」も記者からの質問がわずか2問で終わってしまった。この方法は、メディアや野党の批判を受けている。

高市政権が発足して約9ヶ月となる。無党派層の支持は減少したが、自民党の支持層、特に「岩盤保守層」と言われる人々は支持を続ける。そうした支持者は「弁明した」という事実があれば、批判はしない。そうした「アリバイ作り」のために、高市氏はSNSで説明をしたようだ。守りの一手段としてSNSを使っている感じを受ける。

高市氏は首相就任前にエネルギー安全保障、また原子力の新技術、特に核融合炉についてSNSに頻繁に言及していた。しかし就任後に、それらの話題を書き込まなくなった。首相としての仕事で関心が減った、そしてSNSの活用方法を変えたためなら残念だ。

【論考】懸念される「複合石油危機」 中東情勢の現況を徹底解説

6月17日に米・イラン首脳が「イスラマバード覚書」を交わし、その約1週間後に戦闘が再開した。争いの焦点はホルムズ海峡の支配にある。イランは覚書第5項で事実上認められたホルムズ海峡支配の実現を図り、米国がこれに抵抗して争いとなった。

戦闘はまずイランが米軍支援の代替航路を通航する商船を攻撃して始まり、米軍によるイラン軍事拠点への報復攻撃と、イランによる湾岸諸国内の米軍施設への再報復攻撃、という形で展開している。双方の軍事攻撃の強度・範囲は増大・拡大し続け、また米側の対イラン海上封鎖も再開され、再び、ホルムズ海峡封鎖・対イラン海上封鎖という「経済的相互破壊」とイラン・湾岸諸国の「軍事的相互破壊」との間で揺れ動く、危険な状況となっている。

6月25日、イランはオマーン沖を航行中の貨物船をドローンで攻撃した。この船舶は23日にオマーンが国際海事機関(IMO)と調整して設定した「脱出回廊」の航路を通っていた。「ペルシャ湾海峡庁(PGSA)」を通じた一元的管理を主張するイランは、自らが一方的に設定したイラン領海内の北側航路の通航を、全商船に強要していた。この対商船攻撃を機に、米軍によるイランの軍事施設攻撃と、イランによる湾岸諸国内の米軍拠点などへの空爆とさらなる対商船攻撃という、報復・再報復の応酬が数日間続いた。

IMOはいち早く「脱出回廊」計画を中断したが、6月27日に米国主導の合同海事情報センター(JMIC)は東向きの「脱出回廊」の北にペルシャ湾に入る西向き航路を設定して双方通航とする、オマーン沖航路の拡張を発表。当航路の通航を米海軍が秘密裏に支援し、船舶自動識別装置(AIS)の電源を切った夜間航行を、駆逐艦からの交信で誘導した。6月下旬以降に南側航路の通航量は急増し、7月初めにかけて北側・イラン領海内航路を凌駕した。

【ニュースの周辺】南鳥島沖深海レアアース泥試掘成功に関する報道 長期的視点で見る海洋資源開発

本年2月、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つ、「海洋安全保障プラットフォームの構築」において行われた南鳥島沖深海のレアアース泥試掘が成功した。重要鉱物の確保が経済安保上厳しい状況におかれ、海洋資源開発についての期待が高まる中での上記プロジェクトについては、多くの報道がなされた。

Ⅰ.海洋資源開発の位置づけ(振返り)

南鳥島沖深海レアアース泥試掘に関する報道や海洋資源開発の状況について触れる前に、基本となる法制等について振り返っておきたい。

1.60年前 国際政治学者 高坂正堯氏の『海洋国家日本の構想』

今から60年前、オイルショックよりも以前、当時気鋭の国際政治学者(京大助教授、のち教授)であった高坂正堯氏は、著書『海洋国家日本の構想』で、島国日本の地理的状況が持つ意味を安全保障などの観点から考察している。

同氏はその中で、「技術の進歩により海洋開発の可能性は増し、深い海底の資源開発、人工島設置などが可能になりつつある。海洋を管理し、自らのものとする能力を人間は持ちつつある」と指摘した。

 ◎高坂正堯氏 『海洋国家日本の構想』

*1965年3月出版、下記は増補版(69年9月出版)の「補註」より抜粋   

「日本が島国であるという地理的状況を持つ第一の意味は、日本の安全保障に関するものである。—-第二に日本の経済活動を規定する。—日本は世界のすべての国と貿易するというグローバルな政策をとることができるけれども、—外国からの資源の補給は努力なしに確保しうるものではない。その重要性は日本のエネルギー事情を見れば明白である。—第三の意味は、二つの大きな社会主義国家(←当時の中国・ソ連)の近くに存在するということである。—第四の意味は、より長期的なものである。すなわち、海洋一般が無秩序状態に陥らないようにすることの必要性であるが、それは現在はそれほど大きな問題ではないが、長期的には重要な問題となる。まず問題になるのは海洋の軍事的使用である。海洋の軍事的利用を野放しにしておくならば緊張が高まり衝突事件が起こるかもしれない。より重要な問題は海洋開発にからまるものである。—技術の進歩によって海洋開発の可能性はいちじるしく増大し、深い海底の資源の開発、人工島の設置などが可能になりつつある。—今や海洋を管理し、自らのものとする能力を人間は持ちつつある。—海洋の利用・開発が秩序正しくおこなわれるのが、日本の長期的な利益に合致(する)—」

2.海洋基本法と「海洋基本計画」、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」

(1)海洋基本法の施行

上記の論稿から40年が経った2007年7月、わが国でも海洋立国を目指して「海洋基本法」が施行された。

同法は、海洋資源の開発・利用の推進等を基本的施策とする。

◎基本的施策(抜粋)

・海洋資源の開発及び利用の推進   

・海洋環境の保全

・排他的経済水域等の開発等の推進  

・海上輸送の確保

・海洋の安全の確保  

・海洋調査の推進    

・離島の保全 

(2)「海洋基本計画」、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」

海洋基本法第16条では、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため「海洋基本計画」を定めなければならないとされる。(同条第1項)

「海洋基本計画」は、海洋に関する情勢の変化、施策の効果に関する評価を踏まえ、概ね5年ごとに見直すこととされている。(同条第2項)

「海洋基本計画」は、2008年3月に初めて策定された後、2013年、2018年に、海洋政策を巡る状況の変化に沿って見直しが行われてきた。2023年4月には、「第4期海洋基本計画」が閣議決定された。

また、第1期の「海洋基本計画」において、海洋エネルギー・鉱物資源開発の計画的推進のため、「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」の策定が定められた。同計画について経産省は、当初は10年間の中長期計画として策定、その後は、5年ごとに計画の見直しを行い改定が行われている。

2024年3月の改定計画では、海洋エネルギー・鉱物資源(メタンハイドレート、海底熱水鉱床、石油・天然ガス、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース泥)に加えて、CCS(二酸化炭素回収・貯留)を新たな分野として加えて、商業化に向けた探鉱・開発を進めるとしている。

【時流潮流】イラン戦争の新局面 ホルムズ危機解決の糸口見えず

イラン戦争が風雲急を告げている。米国とイラン両国は6月18日、停戦に合意する覚書を結んだ。それから1カ月もたたないうちに双方は攻撃再開に踏み切り、通航が再開されつつあったホルムズ海峡も、イラン側が7月11日に再び「閉鎖」を宣言した。

米軍は、14日(米国時間)から、再びイランに対する海上封鎖を開始した=米中央軍提供

両国が結んだ覚書は停戦に加え、ホルムズ海峡の通航再開、米国が実施していたイランに対する海上封鎖の解除、イラン産原油の輸出承認など14項目からなっていた。期間は60日間で、この間にイランの核開発問題など積み残した問題を解決するために交渉を進める段取りだった。

国際社会は停戦合意を歓迎した。6月1日には1バレル=92㌦前後だった原油価格は軟化し70㌦台を割り込んだ。米国は海上封鎖を解き、イランもホルムズ海峡の通航を認め、120隻以上が通航していた戦争前の2割近くの水準に戻った。

だが、事態は再び暗転した。最大の問題は、ホルムズ海峡を通航する船舶からの「通航料」を徴収する問題だ。イランは海峡をはさむオマーンとはじめとする湾岸アラブ諸国との協議を始め、通航料を徴収する制度を設け、その収入を関係諸国で「山分けしよう」ともちかけた。

だが、湾岸諸国は「国際海峡は自由航行が原則」と主張して譲らず、交渉は決裂する。イランは主張を通すため、軍事力を使う戦法に転換、7月6日に海峡を航行中のタンカー2隻を攻撃、翌7日も船舶攻撃を実施した。

双方とも本格的な戦闘再開は望まず

米国は激しく反発した。トランプ米大統領は8日、覚書は「終わったと思う」と述べ、米中央軍は7日に80カ所以上のイラン国内の標的を空爆した。さらに、11日以後は、連日、空爆を続けた。すでに標的は300カ所に達し、戦争中のピーク時の3分の1の烈度という激しさだ。

トランプ氏は、イランの核施設を空爆する構えを示す。さらに、提案翌日に撤回したが、ホルムズ海峡を通航する船舶を守る対価として、船会社などに「積載貨物の価値の20%」に相当する通航料を米国に支払えと要求した。イランの通航料徴収を厳しく批判してきたことを忘れたかのような迷走といえる。

イランも海峡を通航する船舶だけでなく、中東諸国の米軍基地へのミサイル、ドローン攻撃を始めた。ヨルダン、バーレーン、クウェートなどの基地を攻撃したが、その多くは迎撃されたとされる。

ただ、双方とも本格的な戦闘再開は望んでいない。米国は秋に中間選挙を控えており、国民に不人気な戦争を早く終結させたい事情がある。イランも戦争の被害額が3000億㌦(約48兆円)に達し、経済的困難に直面している。

現在、イランの指導部は二つの勢力に分裂している。ホルムズ海峡の支配権確立を最重要課題に据え、戦争再開も辞さない強硬派と、国民生活を守るため交渉を重視するペゼシュキアン大統領などの勢力だ。現時点では、最高指導者モジタバ・ハメネイ師に近い強硬派が圧倒的な力を持ち、妥協の余地は極めて小さい。

イランは本格的な戦闘が終わった4月以降、空爆で損傷したミサイル施設やドローン製造施設などの修復を急ぐ。すでにドローンの製造は再開、がれきに埋もれたミサイル施設を掘り返している。こうした情勢も強硬派を勢いづける一因となっている。

米国は解除していたイランの港湾を出入りする船舶への海上封鎖を14日から再開した。事態は沈静化ではなく、戦闘を含めた緊張が高まる方向へと向かう。ホルムズ海峡の通航量は再び急減、原油価格も80㌦台をつけている。危機解決の出口は、当分、見えない状況が続きそうだ。

【記者通信】電力自由化は成功だったのか? 日本経済再生の視点で徹底検証 ※無料公開

1995年に初めて電気事業制度の改革が行われてから30年余り。2016年4月に始まった家庭向け電力小売り事業の全面自由化からは、今年で10年がたった。果たして電力自由化は、私たちに何をもたらしたのだろうか。旧日本開発銀行(現日本政策投資銀行)出身で経済地域研究所代表を務める飯倉譲氏は、エネルギーフォーラムからこのほど刊行した自身の著作『なぜ日本経済は停滞したのか~下村理論で読み解く再生の道』の第7章で、1990年代から続く電力システム改革の経緯をたどりながら、日本の電力政策と経済の関係について検証している。本稿では、その一部を抜粋・要約して紹介する。

電力自由化――米国要請から市場競争の導入へ

電力自由化は、米国の要請を受けて政官民の思惑が交錯する中で進められた。発端は細川内閣時代の「経済改革研究会中間報告(平岩レポート)」(1993年11月8日)に盛り込まれた「経済的規制は原則自由・例外規制」という方針であった。その後、紆余曲折を経て卸電力市場の自由化(95年)、高圧部門の小売自由化と卸電力取引所の創設(2003年)へとつながった。

東日本大震災当時、民主党政権下で需給不安が強まる中、市場機能を電力分野に導入し、市場がうまく機能しなければ政府が介入するのは当然という考え方の下、電力システム改革が議論された。

電力自由化は、市場競争による効率化と低廉な電力の安定供給を掲げて進められた。規模の経済は軽視され、発送電一貫体制は弊害と見なされた。

競争を優先する論調が強まり、供給の安定は二の次とされた。価格競争を通じて安定供給を確保し、消費者は安い電気を選べると強調された。その論理は一見分かりやすいが、投資に時間を要するという現実を無視していた。供給が不足すれば価格が上がり、自然に投資が起こり供給力を形成し、需給は安定すると説明された。その間の電源投資の不確実性には目をつぶる前提であった。

自由化論の主な柱は、大口需要家への需要価格弾力性の導入(料金を通じて需給バランスを調整)、ピーク抑制と過大設備の抑制(予備率の引き下げ)、新規参入の推進(誰でも電源投資が可能)、送電線の開放、小売自由化などであった。実現すれば需要家の選択肢が広がり、競争によって供給事業者の効率化が進み、コスト削減で料金も下がると喧伝された(八田達夫『電力システム改革をどう進めるか』日本経済新聞出版社、 2012年)。

こうして最終的に、発送電分離と小売市場の全面自由化が実現した。

(中略)

市場化の内在問題の顕在化

電力システム改革は官の関与を複雑化・強化し、電気分野の「民間ビジネス機会」を生み出す一方で、安定供給や価格面での消費者利益を実現したとは言い難い。コスト構造の透明性という点でも、規制料金のほうが信頼性が高く、電気という財の性質に適している。コストプラス方式による料金の安定と、責任所在の明確さは、自由化市場よりも優れている。消費者が行政機関に苦情や要請を行っても、実効的な対応は期待しにくいのが実情である。

結論として、自然発生的に形成された発送配電一貫体制を人為的に分割したことは、制度的にも経済的にも非効率であった。電力システム改革(自由化)は、不要な改革であり、日本経済にとって基盤となるエネルギー供給をむしろ不安定化させたと言わざるを得ない。

公益事業体制への再編案

今後の電力システム改革の見直しにあたって、まず再確認すべきは、電力という財の特質である。電気は「電磁場の提供(=同時同量)」という性格を持ち、現代社会においては生活必需品であり、公共財または準公共財に近い。さらに、 19世紀以降技術革新の乏しい財でもある。したがって、自然体で常識的な発想に立ち返ることが重要である。

電気は生産と供給の両面で特殊な性質を持ち、一般的な市場で売買される商品とは大きく異なる。電磁場の提供には需給の同時同量が不可欠であり、供給不足を許さない。そのため、需要予測に基づいた供給設備の整備には計画性が求められ、一部公的関与は当然である。また、電力事業の遂行には慎重な配慮が欠かせない。

電源開発には長い時間を要し、またエネルギー資源の海外依存が続く中では、十分な購買力を持つ調達主体も必要である。このような条件下では、国内市場の創設によって需給の安定を実現するという発想は、実質的な意味を持たない。国際市場への影響も限定的である。さらに、カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電の開発も欠かせない。困難な事業を遂行できる事業主体と制度設計が求められる。

量と価格の両面で電力の安定供給は不可欠であり、生活必需財という点からも、価格の安定と透明性が強く求められる。多くの消費者は、合理的なコストプラス方式による料金設定を望んでいる。供給企業の利潤最大化は消費者にとって不要であり、市場の思惑や投機による価格変動も望まない。価格とコストの透明性、そして説明責任の確保が最低条件である。

したがって、今後の方向としては、公益事業体制に近い形への再編が望ましい。具体的には次のとおりである。

• 小売:販売は地域ごとの担当電力会社による独占契約とする。地域ごとに販売エリアを設定し、料金はコストプラス方式とする。料金の妥当性は、消費者代表を含む公的審査機関で査定する。現在の多数の小売事業者は、地域担当電力会社に統合する。

• 送配電:発送配電一貫体制を地域担当電力会社の一部門として維持する。

電磁場の提供という財の性格上、取引費用の低減にもつながり、統合体制が合理的である。

• 発電:地域担当電力会社が系統運営上、自社発電設備を持つことを基本とする。電源構成は、当面は化石燃料を併用しつつ、再エネと原子力を政府計画のもとで推進する。供給予備力に応じた電源開発は地域電力会社が中心となり、再エネは自由参入、原子力は公益事業体制の下で実施する。

• 計画性の確保:安定供給に必要な電源および送配電設備の建設は計画的に行う。地域電力会社別の需給計画を包摂した全国的な電力需給計画を策定する。

• 卸電力市場:廃止する。電源保有者による電力販売は、公的監視・勧告の下で、地域担当電力会社への入札方式とする。

以上を踏まえると、今後の電力体制は、電源開発への参入を可能としつつ、発送配電一貫体制の地域担当電力会社(旧9電力を活用)を中核とする公益事業体制が適当である。この仕組みは、近年の自然災害時にも有効に機能しており、安定供給の確保という観点から見ても、発送電一貫体制こそが最も自然で合理的な姿である。

以下、「電力システム改革の帰結――技術革新なき構造改革の限界」へと続くが、そこについては、ぜひ本書をお読みいただきたい。

なお、前自民党幹事長の森山裕衆議院議員は、本書について「高度経済成長を実現した池田勇人首相のブレーンであった下村治博士の視点から戦後から現在に至るまでの経済を振り返るとともに、今後の発展の方策を示したものです。世界情勢が混迷を極める時代において、こうした経済議論を見つめ直すことは、将来の経済の在り方を考える上で大いに参考になるのではないでしょうか」と述べている。

【記者通信】エネ研が創立60周年記念イベント 『大転換期の国際エネルギー秩序』を紹介 ※無料公開

日本エネルギー経済研究所は7月3日、創立60周年記念イベントを開催した。「2050年までの日本のエネルギーシナリオ」と銘打った本イベントでは、同テーマに基づいた研究発表とパネル討論が行われ、最後に小林良和氏(理事 首席研究員 研究戦略ユニット担任 兼 資源・燃料・エネルギー安全保障ユニット担任)が、6月下旬に刊行した同研究所の編著書『大転換期の国際エネルギー秩序』(エネルギーフォーラム刊)の紹介を行った。

発売即重版を実施し、好調な売れ行きを見せている

小林氏は、本書『大転換期の国際エネルギー秩序』の目的・位置付けについて、「国際情勢が大きく揺らぐ中で、気候変動対策の限界、米中対立の深刻化、経済安全保障の動揺など、エネルギーを取り巻く多様な課題に対して、国際エネルギー秩序という共通の視点から整理しようとする試み」とした上で、各章で取り扱っている内容を次のように紹介した。

〈序章〉

国際エネルギー秩序を、世界のエネルギー安定と持続可能性という“世界益”を守るための国際的メカニズムと定義し、エネルギー安全保障、国際市場の秩序、気候変動対策をその構成要素として位置付ける。また、誰が秩序維持のコストを負担するのか、多極化の中で新たな協調体制がどう形成されるのかといった根本的課題を提示する。

〈第1章〉

過去の国際エネルギー秩序とエネルギー安全保障の歴史的関係を分析し、現在の課題と日本の対応の方向性を示す。

〈第2章〉

気候変動対策をグローバルガバナンスの典型例として捉え、その歴史的変遷と国際エネルギー市場への影響を検討する。また、気候変動対策を名目とした保護主義的措置が自由貿易体制の不確実性を高めている点を指摘し、日本の向き合い方を論じる。

〈第3章〉

経済安全保障の観点で、クリーンエネルギーがもたらす安全保障上のメリット・懸念点を論考する。特に、この分野における中国の台頭が、レアアース依存など新たな脆弱性を生んでいる点を分析した上で、日本の内外戦略を示す。

〈第4章〉

気候対策の限界が見える中で再評価される石油・ガスの重要性に着目し、それぞれのエネルギーが形成してきた国際秩序の違いを比較し、日本の安定供給確保の課題を整理する。

〈第5章〉

ホルムズ封鎖による第三次石油危機で俄然注目を集めている中東情勢を扱う。アブラハム合意以降の地域秩序再編を踏まえ、中東が依然として国際エネルギー市場の鍵を握ることを示し、持続的安定に向けた国際社会の関わり方を論じる。

〈第6章〉

第5章までの分析を踏まえ、日本が取るべき戦略を総合的に提示し、複雑化する国際エネルギー情勢を理解するための新たな視点を提供する。

小林氏が述べているように、本書は複雑化する国際情勢を「国際エネルギー秩序」という統一的な視点で読み解こうとする点が、他の類書とは一線を画している。気候変動対策、エネルギー安全保障、米中対立、経済安全保障、貿易摩擦、中東情勢といった多様なテーマを、一つの枠組みで体系的に整理していることが大きな魅力だ。

各章ではテーマごとの歴史分析から最新の政策動向まで幅広く扱い、エネルギーと国際政治の関係性を立体的に理解できる構成となっている。また、ホルムズ封鎖・第三次石油危機などの最重要トピックはもちろん、石油・ガスやレアアースなどさまざまな資源の課題、中東秩序の再編など国家・地域間の動向について丁寧に取り上げて、日本が直面するリスクと戦略を実践的に示している点も特徴的。

読者に新たな視点と分析軸を提供し、国際エネルギー問題を総合的に捉えるための有益な手がかりをもたらす内容といえるだろう。

【書籍情報】

出版社:株式会社エネルギーフォーラム

書 名:『大転換期の国際エネルギー秩序』

著 者:一般財団法人日本エネルギー経済研究所

    小山 堅/小林良和[編著]

    久谷一朗/柳 美樹

    柳沢崇文/坂梨 祥[著]

判 型:A5判/並製カバー装/248ページ

発売日:2026年6月23日

定 価:2750円(税込)

ISBN:978-4-88555-546-6

●書籍詳細

●Amazon

https://www.amazon.co.jp/dp/4885555469

●プレスリリース(PR TIMES)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000044812.html

【記者通信】170円割れもガソリン補助金継続 突如導入された「調整単価」の正体

6月26日付の記者通信で報じたとおり、本来であればガソリン補助金の7月2~8日の支給はなくなるはずだった。が、実際にはそうならなかった。経済産業省によると、同期間のガソリン補助金の支給は前週から1.2円減の1ℓ当たり4.8円となった。原油価格の下落基調は続き、ドバイ原油は2日時点で69ドルを下回っている。これまでの補助金算定式なら支給額がゼロになる水準だが、2日から突如導入された「調整単価(4.9円)」の影響で支給が続くことになったのだ。これは一体どういうことなのか。

経産省は6月29日に発表した「中東情勢を踏まえた対応の状況について」と題する資料の中で、補助金の算定方式の見直しを打ち出した。それが「調整単価」の導入だ。資料にはこう記されている。〈7月には前年平月比で約10割の代替調達が実現する見通しであり、元売事業者の調達に要するこうした費用が増加する中でもガソリン全国平均小売価格を170円程度の水準に抑制するため、中東情勢変化後に元売事業者の支払い増加額を国家備蓄原油の譲渡価格として前月の公式販売価格を採用したことによる支払減少額で調整し、調達の実態に応じて、緊急的激変緩和措置の支給単価として反映すべき「調整単価」を算定。輸入事業者についても、同額の「調整単価」を適用。〉

お役所特有の難解な文章であり、一読しても意味がよく分からない。石油業界関係者が解説する。「ホルムズ海峡の実質封鎖後、ENEOSや出光などの元売り大手は、政府から『石油供給が絶対に途絶しないよう、金に糸目を付けず世界各国から原油をかき集めてほしい』といった指示を受けた。これに基づき、元売りは代替調達に力を入れた結果、量は確保できたものの、調達コストが跳ね上がった。一方、国家備蓄について、初回は1ℓ63円台の安値で放出し元売りの利益をもたらしたが、2回目の放出は93円台でほぼ適正な価格だった。こうした、もろもろの事情を勘案し、今回の石油危機における元売りの赤字分を実質的に補填する意味で、経産省と元売りが水面下で協議した結果が今回の調整単価の導入につながった格好だ」

前出の資料によると、調整単価は調達する費用の実態に基づいて、月単位で決まる仕組みだ。7月分については4.9円で、今後は月次で調整単価の変動を算定し、支給単価に反映させる。7月2~8日の支給額が4.8円ということは、調整単価がなければ全国平均価格は169.9円となり、補助金支給の基準である170円を下回っていたことになる。「自民党内からも批判が出ているガソリン補助金を終了させる絶好の機会だったはずが、調整単価の導入によって補助金には元売りの損失補填という新たな役割が加わった。最大の問題は、表向きは何の議論もないままに、導入が決まったことだ」。石油事情に詳しいジャーナリストはこう話す。2022年1月に激変緩和措置として始まったガソリン補助金制度は、販売価格のみならず、今や元売りのマージンまでを実質的に国がコントロールする調整システムと化してしまったのか。

【SNS世論】メディアの再エネ賛美は迷惑 世論の批判は消えない

エネルギー業界の片隅にいると、一般の人から、「脱炭素政策や再生可能エネルギーへの支援は私に何の利益があるのか」という質問を頻繁に受ける。話を聞くと、巨額の支援と、「環境にやさしい」とされる再エネでの環境破壊問題という2つの問題に不満が広がっている。

再エネへの不信は広がっているのにオールドメディアは伝えず、SNS主導で世論が作られつつある。2016年、山梨県北杜市の太陽光発電所の反対現場=編集部撮影

私は一応、誰もが言える再エネの利点を説明する。「再生可能エネルギーは、二酸化炭素を減らし、環境にやさしいエネルギーです」。しかし最近は答えながら一般の人の再エネへの不信は当然で利点を述べても、納得は得られないだろうと思うようになった。

2026年度の再エネ賦課金の総額は3兆2000億円で一世帯あたりの年額負担も平均で2万3000円だ。FITで支出された太陽光、風力など再エネへの公的支援の総額は、12年度の制度開始から26年度までの累計で約36兆円の巨額になっている。

さらにオールドメディアはほとんど報じないが、SNSではメガソーラーによる森林伐採、また風力発電による騒音など、環境問題が取り上げられている。環境に悪影響を与える再エネの現場をいくつも何度もみたが、とても悲しくなる光景だ。「環境にやさしい」との名目で導入された再エネによって、日本の自然環境が破壊された例があるのだ。

判断の尺度は人それぞれであろうが、こうした現実を前に、国民全てが「役立つ支援だった」と、再エネについて合意はできないだろう。もちろん、それは太陽光や風力などの再エネの発電技術のせいではなく、その事業者の倫理観、そして問題のある制度を放置する政府の問題だ。

再エネそのものを否定する人は少数派だ。賛成か反対かという単純な質問をした世論調査は、いずれも賛成が過半数を上回る。しかし不信感が根強いものになっていることは感じる。そうした調査でも、それに対する言及が増えている。

◆メディアやNGOの奇妙な再エネ擁護

ところがオールドメディアは、再エネの問題点をあまり報道しない。朝日新聞のデータベースで、同紙の「再エネ」「再生可能エネルギー」という言葉を含んだ記事は福島原子力事故2011年に857件だったのに、25年には395件と急減した。メディアは11年の原発事故の際に、「原子力の代替手段としての再エネ」という誤った考えを広げた。その「原子力」「原子力発電」で同じように検索すると、11年の9001件から25年には1078件まで減った。原子力と関連して再エネは注目された。福島事故の収束と対応が進むにつれて、メディアの関心も減った。

メディアは再エネを支援する。エネルギー源でいうと、原子力や二酸化炭素を出すために悪者にされる石炭とは対照的な扱いだ。そして再エネの評判が悪化していることを、認識する記者もいるようだ。

朝日新聞は「交論 逆風の再エネ」(6月6日)で識者に再エネの信頼回復のアイデアを語らせていた。しかし、その識者から示された提案は(政府が)「明るいビジョンを具体的に示していくこと」という。誰でも言えることで、厳しい現実を見ず、楽観的すぎる考えだ。

再エネ推進派のNGOグリーンピース・ジャパンも、再エネの悪い評判は気にしているらしい。わざわざ「【全国意識調査】市民の多数は太陽光発電を拒否していない-普及の鍵は屋根置きと本質的価値の提供」(5月19日)という調査記事を日本支部のホームページに出した。ただし再エネに反対か、賛成かというアンケートで、賛成が多かったということだけを、記事の根拠にしている。あまりSNSで反響はないし、データの取り扱いがおかしいという批判も出ていた。

あるメディアの経済・エネルギー担当の記者に再エネについて「問題を客観的に述べるべきではないか」と話す機会があった。その人は「先輩たちが再エネを持ち上げ過ぎ、会社がこれまで再エネをほめたたえすぎたので、批判記事を書きづらい」と本音を話した。産経新聞は再エネ批判記事を載せ、読売新聞は、両論併記の報道をする。しかし、他のオールドメディアはほとんど報道をしない。おそらく、この記者と属する会社と同じような姿勢なのだろう。

◆「贔屓(ひいき)の引き倒し」が起きつつある

こうしたメディアと政府、そして関係者や支援者が、再エネの良い情報だけを流し、今起きている問題を伝えない姿勢は、日本国民と、エネルギー業界のためにはならない。そして、再エネの発展のためにもならない。国民の支持がなければ、そして前述の「巨額の支援」と「環境破壊」の2つの問題を是正しなければ、再エネの次の段階の成長はない。

オールドメディアの影響力の低下、SNSの影響力が強まる。その中で、再エネ問題について、正確な情報を伝えなければ、そして改善がなく、また議論の場が作られなければ、批判が社会の中で一方的に増えるだけだ。そして前述の2つの問題を話題にするSNSで多く見られる批判に正当性がある。

問題解決を関係者が、情報の面から妨げているなら罪深い。日本では「贔屓(ひいき)の引き倒し」という言葉がある。応援する人や事柄を賛美しすぎて甘やかすと、その人が成長しなかったり、物事がうまくいかなかったりすることを言う。

再エネはSNSの時代に、そんな危険に直面している。再エネを語る場合に、それに関わる、応援する立場の人は、問題を直視し、それを改める行動をしなければならないだろう。

【時流潮流】米国が兵器級プルを核燃料に 供与先1社で核弾頭625発分!?

米政府は5月、核兵器に使っていた兵器級プルトニウムを、先進型原子炉の核燃料に使う計画に着手した。エネルギー省は、先進炉「オーロラ」の開発を手がけオクロなど5社を供与先に選定し、協議を始めた。供与量は約20t。このうち5tをオクロは受け取る見込みだ。

オクロ社が開発する新型原子炉「オーロラ」の概念図=オクロ社のウェブサイトから

兵器級プルトニウムは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など核兵器に使っていた純度の高いプルトニウムだ。プルトニウム239の割合が93%以上ある。冷戦終結に伴い米露両国が核兵器の削減に合意、不要となった核兵器から取り出したものだ。

米国は不要となった約60tのプルトニウムのうち、34tを再利用することを2000年にロシアと合意、南部サバンナリバーの施設で軽水炉用核燃料(MOX)加工に取り組んだ。

MOXは、フランスのオラノ(旧アレバ)や、日本の旧動力炉核燃料開発事業団(動燃、現日本原子力研究開発機構)が「ふげん」のために製造し、使用してきた実績がある。だが、英国は品質が高いMOXを作れず悪戦苦闘、福島第1原発事故で日本での需要がなくなったことも重なり11年8月にセラフィールドのMOX工場を閉鎖した。

米国もMOX製造に手間取った。最大の原因は、兵器級プルトニウムに1%ほど含まれるガリウムだった。これを完璧に取り除かないと、核燃料を詰めるジルコニウム製の被覆管が腐食して破断する確率が高まるため使えない。ガリウムを取り除く工程が増えたことで、工期も費用も増大、18年に計画断念が決まった。

兵器級プルトニウムの処理に困った米政府は、その後、プルトニウムに混ぜ物をして希釈し、米南西部ニューメキシコ州にある地下処分場に廃棄処分する作業に着手している。その費用は190億ドル(約3兆円)もの巨額に達する。

風向きが変わったのは25年のトランプ氏の米大統領復帰だった。トランプ政権は、人工知能(AI)開発競争で「中国に負けない」ことを旗頭に掲げた。AI開発に不可欠となるデータセンターの運営用の電力を確保しようと、原子力発電推進に向けた4本の大統領令を出した。その中には、兵器級プルトニウムの活用と、カーター政権以後、長らく封印してきた使用済み核燃料の再処理再開などが盛り込まれていた。

兵器級プルトニウムの供与を受ける1社であるオクロは、生成型AIの「チャットGPT」を開発したOpenAIのアルトマン最高経営責任者(CEO)が投資するスタートアップ企業だ。プルトニウムに劣化ウランを混ぜて金属燃料に加工する。これを自ら開発中の金属燃料高速中性子炉「オーロラ」で燃やす考えだ。

新型原子炉向け核燃料確保が課題に 厳重な管理体制が必要

米国では、「オーロラ」をはじめとする新型原子炉に使う核燃料「HALEU」の確保が課題となっている。制裁発動のため、ロシア産HALEUの輸入が禁止されており、米国内で製造するしかなく、供給が軌道に乗るのは30年代半ばとみられている。

一方、オクロは、核燃料がなかなか手に入らないライバル各社を横目に、兵器級プルトニウムを加工した核燃料を使うことで先行者利得を得る思惑を描く。

ただ、プルトニウムの加工はウランよりも危険度が高く、扱いが難しい。施設整備や規制当局からの許認可取得などが必要になるため、時間がかかるとの指摘も多い。

国際原子力機関(IAEA)の基準によると、兵器級プルトニウムは8㎏で核爆弾1発を製造できる。オクロが手にする予定の5t分は、核兵器に換算すれば実に625発分となる。テロリストなどに手に渡らないために厳重な管理態勢を築く必要があるほか、IAEAの厳しい監視下にも置かれる。オクロが思い描く夢物語が本当に実現するかは、まだ、確定していない。