【記者通信/3月19日】燃料逼迫へ危機感強まる豪州 価格上昇でEVシフト加速

米国のイラン攻撃により世界でオイルショックが深刻化する中、オーストラリアでは燃料供給への危機感が強まっている。アルバニージー首相は3月19日午前に開いた緊急記者会見で「燃料供給の安全性を保証する」と述べ、従来の楽観論を展開した。だが野党や財界は「数週間以内に底をつくのではないか」と、政府の認識を疑問視する。米国のイラン攻撃後から豪州内のガソリン価格は上がり続けており、豪州ガソリン研究所(AIP)の調査によると、15日現在、全国平均で1ℓ当たり2.19豪ドル(約245円)まで上昇した。これは1週間前の8日に比べ21豪セントも上がっている。供給不安と価格上昇の二重苦の状況に陥っている豪州では、ガソリンの買いだめに走る消費者も増えており、4月の大型連休を前にオイルショックの影響は広がるばかりだ。

ガソリン備蓄「36日」の波紋 4月の連休前後にひっ迫か

アルバニージー首相は19日の会見で、連邦政府と州政府を統括する国家レベルの燃料タスクフォースを立ち上げると発表した。燃料不足はないと強調してきた政府だが、不足への懸念が絶えないことから対応を余儀なくされた形だ。

政府によるとガソリンなどの燃料備蓄量は、ガソリンが36日分、ジェット燃料が29日分、ディーゼルが32日分だと明らかにしている。ボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されているすべての燃料貨物船は問題なく到着する」と繰り返し説明し、供給に支障はないと強調する。

だが政府の見解とは裏腹に燃料業界では供給不足に陥る可能性が高いと指摘する向きが強い。ホルムズ海峡経由の燃料の遅延のほか、中国やシンガポールなど中東以外の調達先が輸出の縮小に舵を切る可能性があるという。エネルギーを担当する日本企業関係者は「4月以降、急激に供給が細る可能性は十分ある」と話す。業界では4月上旬のイースター(イエス・キリストの復活祭)連休前後にひっ迫するとの見方もある。

政府部内では中東以外のアフリカや米国からの代替調達の可能性を検討しているという向きもあるが、輸送距離が伸びることにより輸送コストが大幅に増え、小売価格がさらに跳ね上がることになるため実行にはハードルが高い。

ポリタンクが不足 不当値上げも絶えず

市場では今後、1ℓ当たり3.5豪ドルまで高騰するとの見方が出ている。政府は60日間限定で、硫黄濃度の高いガソリンも国内向け燃料に混合できるよう燃料の環境基準規制の緩和に踏み切った。ボーエン氏は「地方部の供給改善とガソリン価格高騰を抑えるためだ」と主張するが、専門家からは「輸入量そのものが少ない現状で規制緩和はあまり意味がない」と反論される始末だ。

一部地域ではオイルショックに便乗した大幅値上げのガソリンスタンドも出てきた。1ℓ当たり3豪ドルを超える値段で売りつけているところもある。大手自動車保険会社やメディアの指摘により、政府は便乗値上げへの監視を強化。違反業者への罰則を強化する法案を近く議会に提出する方針だ。

ガソリンなどの買いだめの動きも急だ。先週末あたりから20ℓのポリタンクがホームセンターで飛ぶように売れる現象が起きている。大手ホームセンター「Bunnings」によると、店頭での即時入手はごく限られた店舗だけになっているという。オンラインで入手する方法もあるが、これも不足気味で入手に月単位の時間を要する場合もある。ある地域では大量に購入した個人が市場価格の倍以上の値段で売りさばくという問題も起きている。

生鮮業界や小売業界にも燃料高の影響は波及し始めた。スーパー大手の「Woolworth」は食品などの輸送にかかる燃料サーチャージを大幅に引き上げた。魚市場の海産物の値段も上がり続けている。ある飲食店関係者は「メニューの値上げが必要だ」と話す。

BYDが2月に販売トップに 石油依存からの脱却必要

オイルショックの影響は自動車販売にも影響しそうだ。2月単月の豪州内新車販売台数で、中国のBYDが販売する電気自動車(EV)が単月として30年ぶりに日本車を抜いてトップに躍り出た。

豪州ではEVの充電が無料だ(急速充電は支払いが生じるが日本ほど高くない)。ガソリン価格が1.8豪ドル前後で推移していた2月でも、EVがハイブリッドなどのガソリン車を凌駕していたのには驚きをもって報じられている。さらにこのオイルショックがEVの販売を後押しする可能性は極めて高く、単なる一過性の出来事ではなさそうだ。

翻って日本。高市政権はガソリン価格を1ℓ当たり170円前後に抑える補助金を出すという。ウクライナ危機の際に「激変緩和措置」としてやり始めたガソリン補助金だが、事あるごとに出し続けている。一種の中毒に陥っている。

ガソリン車の購入や原油由来の製品を利する政策を取り続けては、中東をはじめ政情不安が起こるたびに補助金漬けになりやしないか。調達先の多様化を進めることも重要だが、コストに跳ね上がるようでは意味がない。

豪州の事例ではないが、この際オイルに依存しない政策に舵を切るべきだ。EVの車体補助に限らず、街中での充電機の導入拡大や低充電料金化など消費者にインセンティブを与える政策の拡充が必要だろう。今後も政情不安は増える可能性があるだけに、高市政権にとって、本腰を入れて取り組むべき優先課題だ。

【コラム/3月19日】70年代オイルショックの経験は生かされているか?

福島伸享/前衆議院議員

2月28日、イスラエルと米国が国際法に違反してイランを攻撃し、最高指導者はハメネイ師らを殺害したことを契機にホルムズ海峡が事実上の閉鎖状態となり、この原稿の執筆時点で原油価格は高騰し、世界経済の行く末は極めて不透明な状況となっている。地域大国であるイランを前にして、現時点では長期化することは必至であろう。

私たちの身の回りでも、ガソリン価格がリッター190円近くにまで上昇して、その影響をひしひしと実感している。日本が輸入する原油の9割近くがホルムズ海峡経由であり、ホルムズ海峡から日本まではタンカーで約3週間。このままいけば春の彼岸頃から日本へは原油がほとんど届かないことになる。それ以降備蓄を取り崩していかなければならないが、254日でそれも尽きる。原油は、ガソリンや灯油などのエネルギー源だけではなく、合成ゴムやプラスチックなどの素材としても使われているため、日本経済に与える影響は甚大だ。

世界の先進国の中で、ホルムズ海峡に経済の多くを頼っている国はアジアの国であるが、大国の中国やインドはイランと独自の外交関係を持っていて、ホルムズ海峡の閉鎖の影響を一定程度回避できる。米国やロシアは自ら原油を産出し、ヨーロッパ諸国はホルムズ海峡にそれほど依存していないから、原油価格上昇以外の物理的な「油断」によって破滅的な経済への影響を受けるのは、日本、韓国、台湾などであろう。冷静に振り返ってみると、空恐ろしい気持ちになる。

1970年代に2度のオイルショックに見舞われた日本は、中東の石油資源に依存する経済システムを転換し、総合的な資源エネルギー政策を立案・実行するために、1973年に資源エネルギー庁を設置。原子力開発の推進、サンシャイン計画やムーンライト計画などによる新エネ技術・省エネ技術の開発、石油備蓄の推進、資源の自主開発などを進めてきた。今回、このような事態に直面して、この半世紀の外交も含めた総合エネルギー政策の結果が問われることになろう。

現状がどうであるかは、私はあえてここでは書かない。今は米国一辺倒にならざるを得ない外交(今世紀初頭まではイランのアザデガン油田開発に関与して自立を目指していた)も含めて、今日本は他の先進国や大国と比べて一番脆弱な状況にあるとだけ、述べておこう。政治と行政の現場でエネルギー政策に取り組んできた者として、忸怩たる思いだ。

【論考/3月16日】燃料油補助復活が日本を自滅させる、これだけの理由

ホルムズ海峡の事実上封鎖が長期化すれば、実際上、原油価格に上限はなくなる。バレル当たり100ドルや150ドルは平時の価格であり、200ドルでも全く足りない。在庫取り崩しに限界が見えた時点で、無制限の上昇圧力が掛かり始めるのだ。多くの輸入国で石油不足が市場による調整力を超え、政府による制御・統制を余儀なくされよう。それはアジア・太平洋地域で始まり、輸入依存度の高い諸国で最も顕著となる。もちろん、日本も例外ではない。【論考/3月12日】に引き続き、考えてみる。

一般的にバレル当たり100ドルに関しては、それ以上は「超」高値圏という閾値(threshold)として言及されることが多い。3月第2週時点でも、ホルムズ海峡封鎖を前提にしながら、100ドル代前半の予想が主流だ。例えば3月9日付けウォールストリートジャーナル紙が伝えた金融・エネルギー調査関係4社の見通しは、130ドルから150ドルの間に集まる。

しかしこの価格帯は、巨大な供給途絶量の現実に対し、低すぎて全く釣り合わない。例えばロシアによるウクライナ侵略開始後、2022年3月から7月の間、ブレント原油価格はバレル当たり100ドルから130ドルの範囲で推移した。しかしこの間、ロシア原油の輸出は順調に続き、不安はあったものの、実体的な供給ひっ迫は何ら生じていない。

また、11年から13年まで、いわゆる「コモディティー・スーパー・サイクル」と呼ばれた商品価格の上昇期に、ブレント原油は25年実質価格で平均150~160ドルだったが、この時も不測の供給途絶はなく、石油消費も年率平均3%弱の高率で増加していた。実質150ドル前後の価格は、当時の生産費用の上昇に応じて、供給・需要側双方に新規投資・技術革新を促す、市場の自律的反応だった。事実、この価格を拠り所として、10年代後半に米国で「シェール革命」が開花している。

【記者通信/3月12日】燃料油補助に石油備蓄放出 価格高騰の根本解決には至らず

ホルムズ海峡封鎖危機に伴う原油価格急騰を受け、日本政府と国際エネルギー機関(IEA)が3月11日夜、矢継ぎ早に対策を打ち出した。政府は、上昇するガソリン価格を全国平均で170円程度に抑えるため、石油元売り各社への価格補助による激変緩和措置を復活させる。併せて、原油の供給の減少に対処するため、石油備蓄を16日にも放出する。また、IEAは加盟国が過去最大規模となる計4億バレルの石油備蓄を協調放出することで合意したと発表した。

イラン情勢に関する政府の対応について会見する高市首相(官邸ウェブサイトより)

高市早苗首相は11日の会見で、ガソリン価格について、「1ℓ当たり200円を超える水準となる可能性は否めない」と懸念を示した上で、ガソリンの小売価格を全国平均で170円程度に抑制すると表明した。170円程度を超えた部分については補助を行い、軽油や重油、灯油に関しても同様の措置を講じる。元売り会社による卸値の大幅引き上げを受け、12日現在、ガソリン価格が170円を超えるガソリンスタンドが全国で続出している。経済産業省では、来週19日から元売り各社に対して補助金の支給を始める方針だ。

原油の輸入については、IEAの決定に先駆けて16日にも石油備蓄の放出することを表明した。ホルムズ海峡が封鎖される前に通過したタンカーが到着する20日以降は、原油の供給が大幅に減少する見通しで、供給の停滞に対処する。放出の内訳は、民間備蓄を15日分、国家備蓄を1カ月分としている。日本には254日分の石油備蓄があり、放出を決定した約45日分はその2割程度に当たる。

その後、IEAは石油備蓄を協調放出することを全会一致で合意したと発表した。放出量は4億バレルで、過去最大規模となる。協調放出は加盟国ごとの状況に応じて市場に提供される。イランによるホルムズ海峡が事実上封鎖される中、原油価格の高騰に対処する。発表によると、米・イスラエルによるイラン攻撃が発生してから、ホルムズ海峡を通る原油や石油製品の輸出量は10%未満にまで落ち込んでいるという。協調放出が実施されれば、ロシアがウクライナに侵攻した2022年以来4年ぶりとなる。

G7エネルギー相会合で石油備蓄の放出を協議する赤沢亮正経産相(3月10日)

加盟各国はIEAの協調放出の要請に応じる動きを見せている。韓国は2246万バレルを放出するとし、時期についてはIEAと協議する方針。このほか、ドイツは約1800万バレル、フランスが1450万バレル、イギリスは1350万バレルを放出する。

各国が原油価格高騰の抑制に動き出した格好だが、市場の反応は芳しくはなく、足元の原油先物価格は12日には1バレル90ドルを超え上昇傾向にある。トレーディングエコノミストによると、イランは米国やイスラエルが自国を攻撃しないことを停戦の条件として提示したものの、米国が受け入れる可能性は低く、短期的な解決の見通しは暗いという。戦争の長期化が懸念される中、有事のドル買いなどで円安も進行し、1ドル159円まで下落。原油高と円安が共振して輸入コストが上がれば、燃料油価格のさらなる上昇につながる。政府は燃料油補助を復活させる方針を決めたが、根本的な問題解決には至っていない。今後、新たな対策を打ち出せるか注目される。

【関連記事】

【論考/3月12日】ホルムズ封鎖が招く「石油危機の実態」を徹底解説

2月28日以降、ホルムズ海峡が事実上封鎖され、中東を除く世界石油需要の4分の1に相当する石油輸出が滞った。今、我々は既に石油危機の中にいる。早期の封鎖解除に失敗すれば、世界はこのまま未曾有の石油供給ひっ迫に陥る。この石油危機はまずアジア・太平洋地域の自由主義・親米諸国を集中的に襲い、中国・ロシア陣営を優位に立たせる。石油の大半をペルシャ湾から輸入する日本にとって、経済・社会的のみならず安全保障上も最大級の試練となる。

ホルムズ海峡の実質封鎖はこうして起きた

2月28日、米・イスラエルによる対イラン攻撃開始以降、ホルムズ海峡は事実上封鎖されている。同日イラン革命防衛隊は船舶無線を通じ、一切の船舶の海峡通航を許容しないと通告。3月2日には、イラン革命防衛隊幹部がテレグラム上で、通航を試みる船舶を攻撃する、と声明を出した。

さらに3月5日、イラン革命防衛隊がテレグラム上に出した声明では、封鎖の対象を「米国、イスラエル、欧州およびその支援国」の船舶に限定している。それ以前の声明とは異なり、中国を筆頭とする反米あるいは中立諸国家の除外を示唆している。

一方3月1日、イランのアラグチ外相は「ホルムズ海峡封鎖の意図はない」と述べ、5日にイラン国連代表団からも同様の発言があった。国際法違反である海峡封鎖を公式には否定しつつ、封鎖の責任を米・イスラエル側に負わせる外交的意図がうかがえる。7日にペゼシュキアン大統領から出された湾岸諸国への「謝罪」も、同じ意図と考えられる。

いずれにせよ、各種の船舶追跡情報に基づけば、タンカーの海峡通航はほぼ全面的に停止している。IMF Port Watch によれば、2月1~27日に1日約40~70隻のタンカー通航が確認されたのに対し、3月2日にはわずか2隻に激減。合同海事情報センター(Joint Maritime Information Center, JMIC)も、3月3日から10日までの間、ペルシャ湾へ入湾したタンカーは1隻のみ、出湾も計4隻と報告している。海運専門紙ロイズリストによれば、3月初めペルシャ湾内に約200隻のタンカーが滞留、このうち60隻が超大型原油タンカー(VLCC)で、世界の正規VLCC船隊の約8%を占める。またMarine Trafficデータの示すところでは、ペルシャ湾外でも150隻を超えるタンカーが、オマーン湾北部海域で待機している。

ただしこれらの情報・報道はいずれもAIS(船舶自動識別装置)データに基づくもので、イラン産原油を最終的には中国に運ぶ「影の船団」のように、AISの電源切断や偽操作を行う船舶は把握できない。今回の開戦に先立つ1週間ほど、イランの原油輸出は通常の倍以上のペースにのぼり、開戦後もカーグ島からの原油出荷が継続中と報じられている。「影の船団」および中国向け正規タンカーの通航が確認され始めれば、海峡封鎖の実態が一層明確となろう。3月7日までに計2隻のバラ積み船が「中国所有船」の信号を発しつつ海峡を通航したとの報道もある。

英国海事貿易作戦室(United Kingdom Maritime Trade Operations, UKMTO)は3月1日から11日までの間、ペルシャ湾内外で計18件の対船舶攻撃を報告している。このうち湾内(クウェート、サウジアラビア、バーレーン、UAE)で10件、海峡付近および湾外(オマーン沖、フジャイラ沖)でそれぞれ4件起こった。大半が「未特定の飛翔体(unknown projectile)」、つまり小型ミサイル、ドローンあるいは水上ドローン(USV)によるものだ。いずれも比較的軽微な被害に止まっているが、ペルシャ湾最奥部からオマーン湾まで広範囲に渡る。JMICによれば、米・英など西側関連の攻撃対象は数件のみで、大半は米国にもイスラエルにも関係がない。すなわち、被害はいずれの船舶にも及び得る。

さらに3月10日には、ホルムズ海峡内でイランが少数の機雷敷設を開始し、米軍がイランの機雷敷設艦16隻を破壊、と伝えられた。

ペルシャ湾内外における戦争リスクが一気に膨張したことで、既往の船舶戦争保険が一斉に即時修正を余儀なくされ、制度全体が一時的な停止状態に陥った。3月2日に再保険者からの通告を受け、大手海運保険団体が相次いでペルシャ湾および隣接海域での戦争リスク補償を解約。4日にはロイズなどによる戦争保険協議機関・JWC(Joint War Committee)がその「指定海域」をクウェート、バーレーン、カタール、オマーンを加えたペルシャ湾・オマーン湾全海域に拡大した。これを受け、航海ごとに保険料の大幅引き上げが順次再設定される過程にある。船員・船舶への脅威に加え、船舶保険という金融システムへの衝撃が、全面的海峡封鎖の要因として働いた。

【記者通信/3月11日】福島原発事故から15年 浮上する「廃炉」以外の選択肢

福島第一原発(1F)事故から15年が経過した。原発再稼働や運転期間の延長、建て替えなど、原子力の活用に向けて歯車は回りだした。一方で遅滞を取り戻せずにいるのが1Fの廃炉だ。政府と東京電力は事故直後に示した「2051年までの廃炉完了」という目標を維持している。しかし、この目標を「現実的なものに見直すべきだ」とする意見が目立ち始めている。

東電は現時点で51年目標を変更しない方針だ。その背景には、現場環境の改善がある。処理水の海洋放出は計画通り行われ、作業エリアの大半で一般作業服での作業が可能になった。使用済み燃料プールからの燃料取り出しも進展し、事故直後のような緊急対応の段階は脱した。燃料デブリ取り出しに集中できる時期を迎えつつある。

それでも、51年目標は非現実的だとする声は根強い。事故直後に示された中長期ロードマップでは、21年までにデブリ取り出し開始を予定していた。しかし、4年以上経過した今、推計880tのうち、取り出したのは試験回収での0.9gにすぎない。格納容器内部の状況把握、デブリの性質の解析、遠隔ロボットの技術開発など課題山積で、回収開始から全量取り出しまで68~170年かかるという試算もある。これでは51年どころか22世紀に突入してしまう。

NHKは11日のウェブ版記事「福島第一原発事故15年 2051年までの廃炉 実現の見通し立たず」で〈現在は核燃料デブリの取り出しを終える具体的な時期は示されておらず、政府と東京電力が掲げる2051年までの廃炉の完了を実現できる見通しは立たない状況となっています〉と伝えた。

廃炉か、それとも……

こうした現実を前に、廃炉を巡る議論は「いつ終わるか」だけでなく、「どう終わらせるか」にも広がっている。10日には毎日新聞がウェブ版に「原発事故の跡地利用に『遺構』支持する声 『議論早すぎる』の指摘も」との記事を公開。1Fの一部を原爆ドームのように「遺構」として残すことを提案する大学教授の声などを取り上げた。

朝日新聞も11日の朝刊オピニオン欄で、〈更地にして返してもらえると思っている福島県民も多いでしょうが、国と東京電力は廃炉の最終形をあいまいにしたままで、不誠実です。(中略)現実的で具体的な工程を練り直すべきではないでしょうか〉と、福島県いわき市を拠点に活動する地域活動家のインタビューを掲載した。

被災地である福島への責任として廃炉以外の選択肢を模索することは、これまで世論的にタブー視されてきたが、左派系の有力メディアがそこに目線を向け始めたことは、ある意味で驚きだ。

全量取り出し、石棺化、遺構化──。それぞれ技術的困難性や周辺地域の再利用の制約、放射線量の維持管理などの課題がある。1F処理の方針は東電の再建に直結する話で、高度な政治的判断が必要だ。廃炉にかかる費用はすでに5.2兆円が確定しており、政府が試算した8兆円枠を超えることは不可避とみられている。それだけに「廃炉→更地」化を諦めるのであれば、時期は早いに越したことはない。そう遠くない将来、国民的議論が巻き起こりそうな予感がする。

【時流潮流/3月10日】ガスPLがつなぐ欧州との絆 ウクライナ戦争5年目に

ロシア軍の侵攻で始まったウクライナ戦争がこの2月、5年目に入った。トランプ米政権が仲介して和平実現を探る動きが続く。だが、ロシアのプーチン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を放逐するまで戦争継続を望む姿勢を崩していない。戦争終結が見通せない中、欧州諸国はエネルギー面での脱ロシアに取り組み、エネルギー事情は大きく変わりつつある。

ウクライナの首都キーフ(キエフ)の聖ソフィア大聖堂。ロシアとの戦争は5年目に入った=筆者撮影

脱ロシアの取り組み筆頭は天然ガスだ。「シェール革命」により、2009年にロシアを抜いて世界一の産ガス国となった米国から液化天然ガス(LNG)がものすごい勢いで欧州に流れ込んでいる。

ウクライナ戦争前、欧州はガス調達量の約4割をロシア産のガスに依存していた。だが、輸入停止に踏み切る国が相次いだことで、24年は11%にまで減少した。ロシア産に代わり米国産LNGがシェアを高め、24年に約4割を突破、25年には約6割に達した。

エネルギー安全保障の観点から見れば、ロシアであろうと、米国であろうと1国に依存する態勢は脆弱性がある。とはいえ、日本も原油の多くを中東に依存している。それぞれの国に、それぞれの事情がある。

米国産LNGは、タンカーに積まれ大西洋を横断して欧州各国の港に運ばれる。そこれから内陸諸国にパイプライン(PL)で輸送される。LNG受け入れの中心拠点のひとつが、地中海に面するギリシャだ。ギリシャは、エネルギー分野ではこれまで周縁国のひとつに過ぎなかったが、今や米国産LNGを受け入れる欧州有数のハブとして、重要なポジションを得ている。

浮体式のLNG受け入れ施設を整備して以後、LNGの輸入を急激に増やした。米国産LNGのシェアは、24年の4割から25年は8割に増え、輸入総量は20年の60億立方メートルから、24年には170億立方メートルに増えた。うち110億立方メートルを周辺諸国に「再輸出」しており、ギリシャはエネルギーの「純輸出国」となった。

エネルギー調達ルートにとどまらない「垂直回廊」

このギリシャから、中東欧諸国やウクライナにまで米国産LNGをパイプラインで運ぶプロジェクトも始まっている。ギリシャから垂直に北上して、ブルガリア、ルーマニアを経由し、モルドバ、ウクライナに至るルートと、枝分かれしてハンガリー、スロバキアに運ぶルートで、「垂直回廊」と呼ばれている。

新たに敷設するパイプラインはごくわずかで、既存のパイプラインを逆流させたり、容量を増やしたりすることで組み立てる。欧州連合(EU)は昨年5月、LNGも含めたロシア産ガスの調達を、27年末までに段階的に禁止することに合意している。「垂直回廊」は、ロシア産ガスの供給が途絶える諸国にガスを送る切り札と位置づけられている。

ウクライナにとって「垂直回廊」は、単なるエネルギー調達ルートという意味だけにとどまらない。欧州との関係を強固にする絆と期待されている。ウクライナには巨大なガス貯蔵施設があり、非需要期の夏にガスをため込み、需要期の秋以後に供給量を増やすシステムを築ける。それを活用すれば、欧州側にとっても受給調節や安定供給の面でメリットが大きい。

ロシアにとっては、稼ぎ頭だった欧州向けガス輸出が止まる事態は財政的に痛い。戦費調達にも支障が出そうだ。「垂直回廊」の整備は、ロシアへのボディーブローとなるかもしれない。

【論考/2月25日】「分断の時代」映す国際石油市場の勢力図 脱石油戦略に見る中国のしたたかさ

米国とイランの軍事衝突の危険が高まっている。米国は、昨年6月「12日間戦争」で米・イスラエル側が得た戦力優位の固定化を図るべく、イランに対し核開発中止に加え弾道ミサイル開発制限、および親イスラエル武装勢力支援の中止を迫り、2つの空母打撃群をアラビア湾、地中海に展開。2003年の対イラク戦争以来最大の航空兵力を集結させ、軍事的威圧を加えている。2月初旬以降、米国とイランの核協議が断続的に続く一方、イランはホルムズ海峡で軍事演習を行うなど、ペルシャ湾・アラビア海での軍事行動を辞さぬ構えを見せている。

ペルシャ湾が戦域と化す恐れ、あるいは米国の安全保障能力への不信は、域内産油国に生産・輸出増大を急がせる一方、消費国には政策的な脱・省石油の加速化を促すはずだ。事実、既に昨年の国際石油需給に、その新たな潮流の兆しが現れている。

昨年は石油供給過剰が鮮明化し、ブレント原油価格も第4四半期は平均・バレル当たり65ドルを下回り、中東情勢の如何に関わらず国際石油市場は安定し得るという楽観論も多く見られた。しかし事態はむしろ逆だ。石油供給途絶の危険性が高まる中で、消費国(端的には中国)は脱・省石油を加速化し、中東産油国は生産・輸出増を急ぎ、その結果として供給過剰が生じた。国際石油市場は深刻化する世界の分断を映し出していると見るべきだ。

以下、需要側では中国の電気自動車(EV)普及による石油需要の下方屈曲、供給側ではサウジ主導のOPECプラス「有志国」による原油増産に焦点を当て、主要な国際石油需給動向を整理する。

【目安箱/3月2日】イラン攻撃がエネルギー需給に与える影響を考える

米国とイスラエルが2月28日にイランに攻撃を行った。そして両国は3月1日に、イランの最高指導者ハメネイ氏と政府や同国の革命防衛隊首脳を殺害したと発表した。この軍事衝突が、今後はどのようになるかは不透明だが、得られる情報から、日本と世界のエネルギー需給に与える影響を考えたい。

ただし、この原稿は3月1日時点の執筆であり情勢は流動的であること、また報道ベースの情報収集で得られる事実は部分的であることを、読者におかれては留意いただきたい。

◆目的は軍事能力の除去で短期終結を狙う?

イスラエルと米国は、2月28日のイラク現地の深夜から早朝にかけて、巡航ミサイルなどでイランを攻撃した。イランの核兵器開発関連施設、弾道ミサイル施設が破壊された。

28日の攻撃後にトランプ氏は、ホワイトハイスのウェブサイトや、SNSに8分間のビデオ演説を投稿した。そこで、米国の目的を周辺諸国に脅威を与えている弾道ミサイルを破壊すること、さらに核兵器開発を止め、「アメリカ国民が将来に核の危険に晒されない」ことを目的とするとした。つまり、大量破壊兵器の開発を止めることが攻撃の目的という。

2025年6月のイスラエルとイランとの戦闘は12日間で終結した。米国や有志連合も参加した。その際に、イランの核施設と防空施設はかなり破壊されたとされる。その核関連施設をさらに破壊する意図のようだ。

イランは今、反体制勢力を弾圧し、今年1月から国が3万人の国民を虐殺した可能性がある。トランプ大統領の演説を見る限り、同国の政治体制転換はこの攻撃の意図ではないが、強く期待している。イラク国民に「私たちがやり終えた時、あなた方は自分たちの政府を奪い取りなさい。あなた方の手に入る状態になっている」と述べた。

2月26日のジュネーブで、オマーンを仲介にする協議が行われた。そこで進展があったとされ、武力行使の可能性は遠のいたと見られた。この攻撃はかなり意外感を持って世界では受け止められている。

米軍は、2003年のイラク戦争以来最大級の戦力集中を中東に行った。米国は空母打撃群を10部隊持つが、その2つに加えて1部隊が派遣中。さらに中東にある米国の航空基地から、百数十機規模の航空機、潜水艦、自爆型ドローン部隊、ミサイル部隊が展開している。これらが攻撃に参加したもようだ。しかし、詳細は伝えられていない。

トランプ氏は政治リスクを避けるため、短期で成果を出すことを軍に求めているらしい。イランは中東の米軍基地、イスラエルへのミサイルでの攻撃をした。今後は、さらにはペルシャ湾とホルムズ海峡封鎖、テロが行われるかもしれない。

【時流潮流/3月1日】イラン攻撃でハメネイ師死亡 想定される4つのシナリオ

米国とイスラエルは2月28日朝(現地時間)、イランへの大規模空爆を開始した。首都テヘランでは政府要人の居住地を狙い撃ちにした。米国は28日、最高指導者のハメネイ師の死亡を確認したと発表した。最高指導者を失ったイランは今後どうなるのか。

今年1月末、革命47周年を記念し、ホメイニ師の息子ハッサン師(中央)とホメイニ廟を訪問したハメネイ師=ハメネイ師のX(旧ツイッター)から

●4月で87歳

ハメネイ師は、1979年のイラン・イスラム革命を主導したホメイニ師が89年に亡くなったことを受けて二代目の最高指導者に就任した。イスラム教シーア派の法学者として35年以上に及ぶ治世を続けてきた。4月に87歳を迎えるはずだった。

「米国に死を」をスローガンに掲げる革命政権の指導者らしく、最後まで米国に抵抗する道を選んだ。米国のトランプ政権はイランに核兵器開発にもつながるウラン濃縮を断念するよう重ねて求めてきたが、濃縮は原子力の平和利用の重要な柱として核拡散防止条約(NPT)でも認められている権利だとして要求を突っぱね続けきた。

最近は、米国との対立が激化する現状を、シーア派3代目イマームが7世紀後半にイラク南部のカルバラで、負けるとわかっていた戦いに挑み殉教した故事になぞらえる発言が目立っていた。米国に「ひざまずいて生き延びるのではなく、立ち上がって死ぬ」ことを潔しとした。

最高指導者の死を受けてイランのどうなるのか。様々なシナリオがある。

●シナリオ1:「神権政治」の継続

トランプ氏は28日の開戦時のビデオ演説で「我々の任務が終わったら、あなたたちの政府を掌握してください」とイラン国民に、体制転換を実現するよう促した。だが、現時点で最も可能性が高いのは、イスラム法学者をハメネイ師の後継に据えた「神権政治」継続だ。

ハメネイ師は今年1月末、初代の最高指導者ホメイニ師の息子であるハッサン・ホメイニ師とともに、テヘラン郊外にあるホメイニ廟で祈りを捧げる写真を公開した。革命政権を継続するためハッサン師を後継者にするというサインだとの分析もある。

また、ハメネイ師は昨年、米国とイスラエルとの「12日間戦争」後に、後継者候補3人を選んだとされる。ただ、その名前は公表されていない。突然の死に備えた準備を進めていたのは確実で、粛々と後継者が決まる可能性がある。

●シナリオ2:イラン革命防衛隊の治世に

二つ目は、イラン革命防衛隊(IRGC)が実権を握る可能性だ。IRGCは、イラン革命後に、革命政権を守るために設立された軍隊だ。それまでの正規軍は、王政時代を支えてきた勢力であるため、革命政権は独自の軍隊を作りあげた。ただ、正規軍は現在も残る。軍に徴兵される兵士は、正規軍かIRGCの好きな方に入隊できる。正規軍には都会育ちのリベラル派、IRGCは田舎育ちの保守派が多いとされる。

革命から半世紀近くを経て、IRGCは軍としての機能だけでなく、巨大な企業群を形成した一大勢力となっている。一説には、イランの国内総生産(GDP)の何割かはIRGCの息のかかった活動と言われ、欧米などによる厳しい経済制裁が続く中、闇ビジネスなどの利権を独占している。こうした「利権」を守るためにも、革命政権の継続が必要で、体制内クーデターを起こしてでも、権力を奪取する可能性がある。ハメネイ師の後継者を上手に祭り上げながら、IRGCが院政を敷くなどさまざまなパターンが想定される。

【記者通信/2月26日】六ヶ所・神恵内で首長選 原子力推進派「圧勝」で問われる国の覚悟

2月は核燃料サイクルの関連市町村での首長選が相次いだ。15日投開票の青森県六ケ所村長選では、サイクルを推進する元村議の新人・橋本隆春氏が初当選。22日に投開票された北海道神恵内村長選では、高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設に向けた調査を推進する現職・高橋昌幸氏が7選を果たした。いずれも推進派の圧勝であり、原子力「バックエンド」政策の前進に向けた地合いが整いつつある状況が改めて浮き彫りになった。

概要調査に向け1歩前進した神恵内村(写真は村役場)

最終処分場建設を巡り、北海道では2020~22年、寿都町と神恵内村で調査の第1段階である「文献調査」が実施された。第2段階の「概要調査」に進むには、法律上、町村長と北海道知事同意が必要となる。

寿都町は概要調査に進むかどうかを問われた場合、住民投票を実施する予定だ。既に住民投票条例を制定済みで、春以降に町民向けの勉強会を再開する。神恵内村はどのようなプロセスを経るのかは未定だ。高橋村長は当選後、「(概要調査に)進みたいが、時期をみて村民に説明し、意見を集約したい。住民投票は方法の一つだが、どんなやり方がいいかも考えたい」と述べた。

北海道の危機感

概要調査に進む上で最大の「山場」となるのが、鈴木直道知事の同意獲得だ。昨年12月12日の記者会見でも、「現時点で文献調査から概要調査に移行する場合は、反対の意見を述べる考えに変わりはない」との見解を示した。背景には、最終処分の議論が「北海道だけの問題」と受け止められつつあることへの危機感がある。

市町村の調査への自発的な応募を待つ「手挙げ方式」の限界が指摘される中、赤沢亮生経済産業相は今年1月16日、全国の都道府県知事に対して、調査地域拡大に向けた国の取り組みの理解を求めるレターを発出した。ただ、新地点での調査開始や手挙げ方式の転換といった動きがなければ、概要調査への進展は見通しにくい。

青森との約束

再処理工場ばかりが注目される六ケ所村は、高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵地でもある。日本はフランスやイギリスに使用済み燃料の再処理を委託し、発生した高レベル放射性廃棄物は同村の一時貯蔵施設で保管されているのだ。青森県と六ケ所村、日本原燃は、貯蔵期間を30~50年とする協定を結び、「青森を最終処分地にしない」という“約束”がある。既に最初の高レベル放射性廃棄物が運び込まれてから30年が経過しており、約束を守るために残された時間は長くない。

原発再稼働の進展や再処理工場の竣工が見えてきた今こそ、最終処分場の重要性が高まっている。安定基盤を確保した高市政権には「国が前面に立つ」という覚悟を見せてもらいたい。

【SNS世論/2月25日】日本型リベラルの崩壊とエネルギー政策への影響

2月の衆議院選挙で野党が大敗した。敗因をめぐる議論が直後からネットで盛んだ。どのように解釈するかは人それぞれであろうが、私は国民が「日本型リベラル」を批判し、改革と変化を求めていることの現れと、この敗因を見ている。そして敗北はエネルギー政策など多くの問題に影響を与えていくだろう。

選挙時点の野田佳彦、斉藤鉄夫共同代表。政見放送の時から精彩を欠いていた(NHK政見放送より)

SNSで共感を集めた論考の一つに、評論家の白川司氏の「そりゃボロ負けするわ…中道改革連合が若者にソッポを向かれた納得の理由」(ダイヤモンド・オンライン、2月11日)があった。政治史、思想史から紐解き、「与党は悪、自分たちは善の二重基準が露骨」な「変化を否定し続けるリベラル派」に対する若者への嫌悪が現れたと選挙結果を総括した。

「若者 リベラルを権威視」(同12日)という阿部真大・甲南大教授への毎日新聞のインタビューも話題になった。古い権益を守るリベラルが「権威」と見られ、それへの若い世代の反抗との分析が、オールドメディアでリベラル色の強い毎日新聞に掲載された。

おかしくなったリベラル像

これらの分析は適切であるように思う。今回の選挙結果は、保守回帰とか、高市人気だけが理由ではない。かなり根の深い変化を表したものに思える。

リベラルとは欧米では「国家からの自由」「社会的公正」を主張する政治的立場のことだった。しかし最近は世界で左派政治勢力の総称に変わり、日本でもかつて「革新」「左翼」と呼ばれた人たちが自称した。その人たちは日本の政治空間では独特の意味を持つスローガン「護憲と九条を守れ」「平和と反戦と反核」「平等と福祉拡大」「多様性」を掲げてきた。そういう古い行動をする勢力を仮に「日本型リベラル」とこの論稿では呼ぼう。

そして今、リベラルへの批判が世界で増えている。理想論に流れ、社会を変えないとの批判だ。トランプ米大統領はその先頭だ。その世界の潮流と重なりながら、その批判が、日本の今回の選挙では爆発してしまった。

リベラル自壊に気づかない当事者たち

オールドメディア側では、選挙結果をめぐる浅い分析が多かった。毎日新聞は外国人ジャーナリストに聞いた「夢売った『アイドル』」(同13日)との記事で、高市早苗首相を賛美する国民が軽薄な主張に飛びついたとの主張を載せた。東京新聞は「#ママ戦争止めてくるわ ネットで共感」(14日)との記事で、高市政権への批判票を入れて戦争を止めようとする選挙前のSNSでの広がった運動を賛美した。この動きは、厳しい安全保障情勢を日本政府だけのせいにするなと批判も多かった。いずれも「現実をゆがめている」と、ネットでいわゆる「炎上」になった。

日本ではリベラル勢力と一部新聞は、同じ主張を語ってきた。「日本型リベラル」の崩壊を認めると、新聞は自らの過去への批判を含んだ総括が必要になる。だから積極的でないのかもしれない。

SNSはこうした日本型リベラルの行動、その周囲の言論空間のおかしさを暴く、重要な役割を果たした。忖度があって動けないオールドメディアとは違う。影響力は、新聞やテレビなどのオールドメディアを上回りつつあり、さらにその力は増しそうだ。

そして当事者の日本型リベラルの中の人の多くは、社会の変化に気づいていない。元民主党代表で、中道改革連合で落選した岡田克也氏は落選の理由をこう総括した。「ネットを見ている人の支持が非常に低かった。デマや批判が渦巻いていた」。ネットの中にある当然の批判、そして変化に気づいていないらしい。岡田氏は選挙の時に72歳。年齢を悪くいうつもりはないが、時代の変化に取り残されている。

若い世代に支持されず、かつて支持をしていた人々の高齢化もあり、「日本型リベラル」の衰退は今後止まりそうにない。

【記者通信/2月20日】電事連新会長に関電の森社長 原子力の信頼回復へ重責

電気事業連合会は2月20日、中部電力の林欣吾社長の会長辞任に伴い、後任として関西電力の森望社長を選任した。副会長には北海道電力の齋藤晋社長が就く。理事・事務局長代理には4月1日付で九州電力の井筒海志執行役員が就任する。森氏は2月20日の記者会見で原子力事業を巡る不祥事について陳謝し、「電力業界が一丸となって、電気事業や原子力事業に対する国民の信頼を確かなものとすることが最大の使命だ」と語った。

記者会見する電事連の森望・新会長

森氏は会見の冒頭、基準地震動を巡る浜岡原発の不適切事案について「原子力事業の根幹を揺るがしかねない極めて深刻なもので、国民に不安を与えていることに改めて深くお詫びする」と謝罪。信頼回復に向け、原子力エネルギー協議会(ATENA)と連携し、再発防止策の水平展開を徹底する方針を示した。

約6年ぶりとなる関電社長の就任については、コンプライアンス事案は自社の経営課題として対応を続けるとした上で「電事連の役割に思いを巡らし、各社からの推挙・賛同を得たことから、会長職を受けるのが筋だと考えた」と就任の背景を明かした。電事連への出向経験などにも触れつつ、「送配電部門出身だが、多岐にわたる部門を経験してきた。その経験を生かして、電事連会長という重責において最大限の力を尽くしたい」と意気込んだ。

「むつ」への関与否定 特重期限見直しは評価

柏崎刈羽原発の再稼働については「安全最優先で、丁寧かつ着実にステップを踏むことが重要だ」と強調。今回のプロセスで見られたように、必要であれば躊躇なく一旦立ち止まって確認を行うような対応を継続してほしいとの考えを示した。

東京電力と日本原子力発電が昨年末、むつ中間貯蔵施設で他社との連携を検討する方針を示したことに関しては、「東電と日本原電が進めている事業で、電事連としてこの件に関与しておらず、相談も受けていない。動向を注視していく」と述べるにとどめた。同施設を巡っては、20年に電事連が関電などとの共同利用案を提案したが、地元の反発でとん挫した経緯がある。

26年度中の竣工を予定する六ケ所再処理工場については、「核燃料サイクルの実現に向けた大きな柱であり、その実現は極めて重要な課題」とし、日本原燃が26年度中の竣工を確実にやり遂げるもの」との認識を示した。

原子力規制委員会で特別重大事故等対処施設(特重)の設置期限見直しに向けた検討が進んでいる点は「われわれが主張してきたことが一定程度理解され進められている」と評価した。

電力需要の増加や脱炭素への対応などエネルギー政策は転換点にある。そんな中、突然明るみになった中部電力の不祥事。森氏は政策の前進と信頼回復という二つの重責を負うことになった。

【ニュースの周辺/2月20日】衆院選とエネルギー環境政策 関係議員の当落を総括

日本の国内政治は、石破茂前政権下における衆院選(2024年10月27日)での自公連立政権の過半数割れ、石破氏退陣に伴う昨年10月の高市早苗政権発足、その後の公明党の連立離脱、日本維新の会との“連立”形成と大きく動いてきた。そして年明けの衆院解散。立憲民主党と公明党は中道改革連合を立ち上げて対抗したが、結果は自民単独で全議席の3分の2以上の316議席、維新36議席と合わせて352議席と大勝した。

逆に中道改革連合は167議席から49議席へと大敗を喫した。小選挙区で大きく負け越した上に、比例で旧公明党の候補者を優先(単独で28人が当選)したこともあって、旧立憲民主党の小選挙区落選者の比例復活の道が極端に狭まった。このため、小選挙区単独出馬であった岡田克也氏をはじめ、枝野幸男、安住淳、馬淵澄夫、江田憲司、小沢一郎、玄光一郎らのベテラン議員、さらに本庄知史共同政調会長らの中堅議員も落選した。 長篠の戦で武田の名だたる武将が戦死したような状況となった。

さて、エネルギー・環境政策は、脱炭素化と経済成長の両立という困難な課題に対応するため、政・官・民の多くの関係者がそれぞれの立場で関与している。その中で政権与党においてエネルギー・環境政策に携わる議員は、政策決定について役割を果たしてきた。政権与党である自民党議員の今回選挙での当落結果を見ておきたい。

自民党 エネルギー・環境政策に関わる議員の状況

1.総選挙結果に関する業界紙の報道

業界紙の電気新聞2月10日付は、衆院選の結果を下記のように報じた。

与党が過半数割れした前回衆院選時の報道では、「政権運営は不安定化へ」「電力関係者 立民躍進に危機感」「エネ政策の推進力どう維持」といった見出しが並び、エネルギー・環境政策に関係する多くの議員の落選を報じた。今回は、そうした議員の復活を報じている。

◎電気新聞2月10日付〈「衆院選自民圧勝 単独3分の2」〉〈「エネ政策、腰据え」〉〈—自民党が単独で316議席と圧勝した。—与党の政策推進力が格段に強化された。新潟県をはじめ原子力立地地域でも自民が多数を占めた。  前回衆院選で落選したエネルギー政策に精通した議員が返り咲きを果たした。—〉〈立地地域の一つ、新潟県では5つの選挙区を自民が独占した。前回衆院選では立憲民主党が全勝していた。—〉〈福井2区では無所属の斉木武志氏が当選し、自民から追加公認を受けた。原子力や電気料金問題など、電力会社を厳しく追及してきたことで知られるが、地元紙のアンケートでは新増設・リプレースを推進すると明言した。〉〈落選前に自民党のエネルギー政策議論を支えていた鈴木淳司氏や細田健一氏、石川昭政氏が復帰した。あるエネルギー業界関係者は“少数与党だった自民は人手不足で役職 の兼務も多かったため、これから一つ一つの課題にしっかり向き合えるようになりそうだ”と期待を込める。環境省からは、環境相経験者の返り咲きを喜ぶ声が出る。丸川珠代氏、伊藤信太郎氏、西村明宏氏が当選した。 西村氏は自民党総合エネルギー戦略調査会で幹事長を務めた経験から、経済産業省からも歓迎の声が上がる。—〉

【時流潮流/2月18日】米露対立最前線、アルメニア原発商戦の行方

米国のバンス副大統領は9日、アルメニアを初めて訪問し、原発建設や核燃料供給など総額90億㌦(約1兆4000億円)の契約をまとめた。米国製の小型モジュール炉(SMR)を導入する方向で、来年中に詳細を決める。

首都エレバン近郊にあるアルメニア原発の遠景。1970年代半ば以後に2基のソ連製原発が整備され、現在は2号機だけが稼働中だ=ARMENIAN NUCLEAR POWER PLANT(ANPP)のウェブサイトから

アルメニアは地中海とカスピ海に挟まれた南コーカサス地方にある内陸国。西はトルコ、東はアゼルバイジャン、南はイランに接する。「ノアの方舟」が漂着したとされるエルブールズ山脈が連なる人口300万の小国だ。

旧ソ連から1991年に独立したが、その後もロシアとの親密な関係を続けた。原発や天然ガス供給などのエネルギー面や、軍事面で連携を深めた。ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟、約5000人のロシア兵が駐留している。

米政府高官としては最高位となる今回のバンス氏訪問は、ロシアの「裏庭」に、米国が土足で踏み込んだ形と言え、アルメニアは米露両国が火花を散らす最前線になった。

アルメニアには現在、80年に運転を開始したソ連製原子炉「VVER440(出力41.6万kw)」が1基稼働中だ。旧型で原子炉格納容器がなく、地震多発地帯でもあるため、「世界で最も危険な原発のひとつ」として知られる。

安全性を危惧する欧州連合(EU)は、再三にわたり支援を引き換えに原発閉鎖を働きかけ、一時は2003年に閉鎖することが決まった。だが、諸般の事情があり、その後も寿命延長を続け、現時点では36年まで運転を続ける計画だ。

後継原発を巡っては、ロシアが最有力だった。バンス氏の訪問直前にも、モスクワを訪問したアルメニア国会議長がロシア国営原子力企業ロスアトムのトップと会談し、包括的な提案を受けたばかりだった。

だが、アルメニアとロシアの関係はこの数年、険悪化する。きっかけは、アゼルバイジャン領内にあるアルメニアが実効支配する「飛び地」ナゴルノカラバフの領有権争い。アゼルバイジャンが23年に攻勢をかけ取り戻し、12万人のアルメニア人が家を追われた。

アルメニアはCSTOの規定に沿ってロシアに援軍派遣を要請した。だが、ウクライナ戦争で手いっぱいのロシアにそんな余裕はなかった。

好機とみたトランプ政権 経済・軍事面で関係強化へ

両国の関係悪化を好機とみたのがトランプ米政権だ。昨年8月に、アルメニアとアゼルバイジャンの両首脳をワシントンに招き和平合意をお膳立てした。署名式にはトランプ氏自らも出席した。今回のバンス氏訪問は、その流れに沿うもので、原発に加え、軍事用ドローンの売却にも合意するなど、経済・軍事両面で関係強化を目指そうとしている。

ロシアも傍観しているわけではない。今年6月投票のアルメニア総選挙に向け、昨年春から「ハイブリッド戦争」を仕掛け始める。SNSを使い、汚職やセックススキャンダルなど欧米寄りの政府の不祥事をあげつらう偽情報を流し続けている。

アルメニアは隣国トルコとも難しい関係にある。アルメニア側の主張では、第一次世界大戦中の1915年に「オスマントルコによる殺害・追放で、最大150万人が犠牲になるジェノサイド(集団虐殺)があった」とされる。トルコはこれを否定する状況が続く。

そうした歴史もあり、親露派勢力は「安全保障のためには、ロシア軍の駐留継続や手助けが必要だ」と訴える。

親露派が政権を握り返せば、原発ビジネスも「一波乱」ある。そんな気配が漂う。