10月1日、石破茂元自民党幹事長が新しい首相に就任した。前回の原稿では、「エネルギー(原子力)政策、複数の候補のスタンス」を紹介したが、今回は改めて石破茂新首相のエネルギー(原子力)政策についての思考をみてみたい。
◆石破氏の言説についてのメディアの報道
9人が立候補した自民党総裁選では、小泉進次郎、河野太郎の両氏が(3年前の前回総裁選の頃の言動との違いが極端だが)原発容認に転じたこともあって、エネルギー政策(原子力)については大きな議論になったとは言えなかった。
1.総裁選・社説でのエネルギー政策の取り扱い
エネルギー政策が社説で取り上げられたのも総裁選後半からであった。
日経新聞9月21日付〈原発も活用し安定供給と脱炭素の両立を〉〈混迷する地政学情勢や「地球沸騰化」のなかで、エネルギー政策の重要性は一段と増している。次の政権は原子力発電所の再稼働を進め、安価で安定的なエネルギー供給と脱炭素の両立を図るべきだ。2011年の東京電力福島第1原発事故以降の「脱原発」を、岸田文雄政権は再推進へ反転させた。再生可能エネルギーの導入拡大と併せ、準国産エネルギーで運転中に温暖化ガスを出さない原発も、安全最優先での利用が欠かせない。人口減で漸減とみられていた電力需要が、デジタル技術の普及で一転急増する可能性が高まったことも、原発活用へ背中を押す。……石破茂元幹事長は再生エネの導入加速で「結果として原発のウエートを下げる」としながらも、安定電源としての重要性は認めている。……十分な電力供給がないと、データセンターや半導体などの成長産業が海外へ逃げてしまう。(各候補者で)濃淡はあっても、原発活用という現実解に向き合う姿勢は評価できる。当面の試金石は東電柏崎刈羽原発の再稼働だ。岸田首相は新潟県が求める避難路整備などの対応を関係省庁に指示し、優先課題として引き継ぐ姿勢を明確にした。同原発は首都圏の電力需給逼迫の解消に重要な役割を担う。立地住民の理解を得るため、次期首相には先頭に立つ覚悟を求めたい。ただし原発は万能薬ではない。現政権は既存原発の運転延長や建て替えに道を開いたが、新増設に向けたハードルは高く、核燃料サイクルや使用済み燃料の最終処分の行方も不透明なままだ。福島第1原発の廃炉や地域復興も着実に進めねばならない。次期政権は原発に対する国民の信頼回復に努力しつつ、再生エネの発電量変動を補うための蓄電池や送電網の増強、火力発電の脱炭素技術の実用化など、全方位の取り組みを続ける必要がある。指針となる次のエネルギー基本計画や脱炭素社会に向けた新たな国家戦略は、年内策定を目指して議論が進む。次期政権はそれらを決定し、実行する責務がある。〉
読売新聞9月23日付〈経済成長を主導する構想示せ〉〈国際的な存在感を再び高めるため、日本経済をどうやって本格的な成長軌道に乗せるか。自民党総裁選の各候補は、大きな構想を示すべきだ。……エネルギー政策も主要なテーマとなる。脱炭素を進める一方で、経済成長を続けるためには安価で安定した電源が不可欠だ。……ほとんどの候補は原子力発電の活用に積極的だ。一方、石破氏は、再生可能エネルギーの推進によって、結果として原発の比率が下がっていくとの考えを明らかにした。だが、それで電力の安定供給が図れるのか。説得力のある将来の展望を提示してもらいたい。〉
2.出馬表明以降の石破氏の言説についてのメディアの認識
出馬表明以降の石破氏の言説については、当初(8月24日の鳥取での出馬表明時)に「原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします」と述べ、その後(8月26日ぶら下がり)に「私は原発反対と言ったことは一度もありません」といったことなどで軌道修正をしたととらえるメディアもあった。
各紙の記事内容
〇毎日新聞9月14日付〈……石破氏は、東京電力福島第一原発事故で「原子力災害はいかに恐ろしいかを思い知った」と指摘。地熱などの活用で「結果として原発のウエートを下げることになっていくが、そのこと自体が目的ではない。原発の安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出す」とした。〉
〇産経新聞9月19日付〈……石破氏は、出馬会見で「原発をゼロに近づける努力を最大限する」と他候補と一線を画す姿勢を表明したが。9月14の討論会では「安全性を最大限に高め、引き出せる可能性は最大限に引き出すのは当然だ」とトーンダウンしている。〉
〇読売新聞9月23日付〈……「(原発を)ゼロに近づける努力を最大限にする」としていた石破茂元幹事長も9月21日、記者団に「必要な原発の稼働は進めていかねばならない」と述べた。……(共同)〉
確かに、「原発はゼロに近づけていく努力は最大限に」と述べ、その後「原発反対と言ったことは一度もない」と述べているが、ただ、いずれの場合もその言葉の前後で言っていることは大きく変わらない。
●当初(8月24日の鳥取での出馬表明)
〈原発はゼロに近づけていく努力は最大限にいたします。再生可能エネルギー、太陽光であり風力、小水力、そして地熱、こういう可能性を最大限引き出していくことによって、原発のウエートは減らしていくことができると思っている。私は単に原発減らせということを叫ぶだけでなく、そのための方途を最大限に活用することによって実現するものだと考えております。〉
●8月26日ぶら下がりオン
〈防衛の仕事をしていたときに、原子力発電所に戦闘機が突っ込んだらどうする、ミサイルが飛んできたらどうする、中身は申し上げないが、決して万全とは私は思っていません。その脆弱性をきちんと克服する努力は絶対に必要です。そして、地熱であり小水力、そういうものに対するウエートは上げる努力を最大限にしていくべきものだ。AIの発展で電力がものすごくかかるということは十分承知をいたしております。(一方、)電力消費を半分ぐらいにする半導体の生産、そういうものが今着々と進んでいる。いかにして使う電力、エネルギーを抑えていくか、いかにして原発を持っている脆弱性を克服するか、そして再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に生かすかということの解として、原発がどれだけなのかということが出てくるのだと私は思っています。原発の安定的なエネルギーとしての優位性は百も万も知っています。私どもの近くにも島根原発があります。私は原発反対と言ったことは一度もありません。原発の安全性を最大限まで高めるという努力は決して怠ってはならない。そして、いかにして電力を使わない社会を作ることができるか。そのような組み合わせで解が得られるものであって、スローガン的に原発ゼロとか、そういうことを申し上げるつもりは私はございません。〉
◆自民党原子力リプレース議連調査に関する回答
「自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長衆参議員約70人で構成)は、脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース(建て替え=廃炉+新増設)、そして「原子力立地に寄り添う」政策の推進に向けた活動を行っている。同議連は、前回の総裁選でも行ったように、立候補予定者に原子力に関連する公開アンケートを行い、その結果も公開した。
~自民党脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟 各総裁選候補者へのエネルギー政策調査~滝波宏文事務局長フェイスブックより
●政策に前向きな順に◎・〇・△
●石破氏は個別でなくまとめて回答(後掲参照)
1.わが国におけるエネルギーの現状を踏まえた、原子力を含む現実的かつ責任あるエネルギー政策の推進
・石破氏の回答への評価:〇←「安全を大前提とした原発の利活用」
2.脱炭素社会実現と国力維持・向上のために必要な、わが国の原子力技術・人材・立地を保つ、最新型原子力炉によるリプレース実現
・石破氏の回答への評価:(〇)←「新増設を含めあらゆる選択肢を排除せず」
3.次期(第7次)エネルギー基本計画には、(サイトごとではなく)事業者ごとのリプレースの解禁、「可能な限り低減」の削除などを含めた、原子力を実効的に最大限活用する内容を盛り込む
・石破氏の回答への評価:(△)←「検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にない」
4.核燃料サイクルを堅持し、民主党政権の二の舞を避ける
・石破氏の回答への評価:回答で言及なし
5.リスクを負って安定安価な電力を供給してきた、「原子力立地地域に寄り添う」諸政策の強力な推進(原子力避難道の整備、最終処分地の確保、立地地域の振興など)
・石破氏の回答への評価:回答で言及なし
6.リプレースに向けた最新型原子力炉の建設に必要な規制基準の迅速な設定とそのための事前審査など、適正手続(デュープロセス)などを踏まえた原子力規制委員会の規制行政の改善。及び、政府のエネルギー政策との整合性確保に向けた原子力規制員会の改革
・石破氏の回答への評価:回答で言及なし
●石破茂氏回答←個別ではなくまとめて回答
〈まず、今回の総裁選で提示した政策集では、持続可能なエネルギー政策として、「AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、エネルギー自給率を抜本的に上げるため、安全を大前提とした原発の利活用、国内資源の探査・実用化、地熱など採算性のある再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜きます」と記載しています。そのうえで、当面は、徹底した省エネに加え、再エネの最大限の導入や安全性確保を大前提にした原子力の活用(新増設を含む)のほか、非効率な石炭火力のフェードアウトに加え、水素やアンモニアなどを活用した火力の脱炭素化、さらには脱炭素電源への転換など、あらゆる選択肢を排除することなく、使える技術はすべて使いながら、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素、この三つを実現していく方針で確実に取り組んでいくことが重要と考えています。なお、次期エネルギー基本計画の策定については、未だ検討の途中段階であり、現時点では予断を持って申し上げる段階にないが、エネルギーの安全保障の確立や安定供給の確保に資する計画となるよう注視しつつ、わが国の国益や国民生活、企業活動をしっかり守る観点から取り組んでいきたい。〉