本稿では、生物多様性・ネイチャーポジティブに関する近年の動向を企業活動の現状にも焦点を当てて見ていきたい。
さて、「生物多様性」については、生物多様性基本法に規定がある。
◎生物多様性基本法
第二条 定義「生物の多様性」
1.「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。また、「自然資本」に関する定義には様々なものがあるが、環境省・農水省・経産省・国交省が2024年3月に策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略~自然資本に立脚した企業価値の創造~」の中では、IIRC(国際統合報告フレームワーク:統合報告書のガイドライン)の定義で、自然資本には、〇空気、水、土地、鉱物及び森林、〇生物多様性、生態系の健全性、を含むとされている。
Ⅰ.「生物多様性・ネイチャーポジティブ」の意義・状況
Ⅰ-1.「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(22年12月)
22年12月、第15回生物多様性条約締約国会議(COP15カナダ・モントリオール)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。
◎22年12月「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(抜粋)
環境省「昆明・モントリオール生物多様性枠組の構造」より
*2050年ビジョン 自然と共生する世界の実現
*2030年ミッション 自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる
30年ターゲットの例は下記の通り。
<ターゲット3> 陸と海のそれぞれ少なくとも30%を 保護地域及びOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)により保全(30by30目標)
<ターゲット6> 侵略的外来種の導入率及び定着率を50%以上削減
<ターゲット15> 事業者(ビジネス)が、特に大企業や金融機関等は確実に、生物多様性に関するリスク、生物多様性への依存や影響を評価・開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じる
Ⅰ-2. 英国・コーンウォールG7サミット(21年6月)
「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(22年12月)の採択に先立ち、G7各国は21年6月の英国・コーンウォールG7サミットにおいて、〇30年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるネイチャーポジティブな経済の促進、〇自国での「30by30目標」などを約束した。
◎首脳コミュニケ附属文書「G7・2030年自然協約」(抜粋)
次の10年間を通して、我々は、生物多様性の損失を止めて反転させるために、それぞれが政府全体を基礎として動員し、(1)移行、(2)投資、(3)保全、そして(4)説明責任の4つの主要な柱にまたがる行動をとる。
(1)移行:自然資源の持続可能かつ合法的な利用への移行を主導
(2)投資:自然に投資し、ネイチャーポジティブな経済を促進
(3)保全:自然を保護、保全、回復させる(30年までに世界の陸地・海洋の少なくとも30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持)
(4)説明責任:自然に対する説明責任及びコミットメントの実施を優先
Ⅰ-3. 「生物多様性国家戦略2023-2030」(23年3月)
上記の動きを受けて、わが国も23年3月31日、生物多様性に関する国家戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定した。
◎環境省「生物多様性国家戦略2023-2030の概要」より(抜粋)
〈ポイント〉
・生物多様性損失と気候危機の2つの危機への統合的対応、30年までのネイチャーポジティブ実現に向けた社会の根本的変革
・「30by30目標」の達成等の取組により、健全な生態系を確保し、自然の恵みを維持回復
・自然や生態系への配慮や評価が組み込まれ、ネイチャーポジティブの駆動力となる取組など、自然資本を守り活かす社会経済活動の推進
〈戦略〉
*2050年ビジョン 自然と共生する社会
*2030年に向けた目標 ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現
5つの基本戦略と、基本戦略ごとに状態目標(あるべき姿 全15個)と行動目標(なすべき行動 全25個)を設定。
基本戦略1 生態系の健全性の回復
基本戦略2 自然を活用した社会課題の解決
基本戦略3 ネイチャーポジティブ経済の実現
基本戦略4 生活・消費活動における生物多様性価値の認識と行動
基本戦略5 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携
Ⅰ-4. 「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(24年3月)
「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(環境省・農水省・経産省・国交省の連名で策定)では、経済活動の自然資本への依存とその損失は、社会経済の持続可能性上の明確なリスクとされ、社会経済活動を持続可能とするため、ネイチャーポジティブ経営への移行が必要とされた。
◎「ネイチャーポジティブ経営への移行の必要性」(上記「移行戦略」より)
豊かな生物多様性に支えられた(空気、水、土地、鉱物、森林などの)「自然資本」は、人間が生存するために欠かせない安全な水や食料の安定的な供給に寄与するとともに、防災減災など暮らしの安全・安心を支え、地域独自の文化を育む基盤となるなど、豊かな社会の礎となっている。多くの経済活動が自然資本に依存しており、かつ自然資本は継続的に劣化していることが世界経済フォーラム(WEF)などで報告されている。
「ネイチャーポジティブ経済」とは、個々の企業が自社の価値創造プロセスにおいて自然の保全の概念を重要課題(マテリアリティ)として位置付け(ネイチャーポジティブ経営)、バリューチェーンにおける負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化が図られ、また、そうした取組を消費者や市場などが評価する社会へと変化することを通じ、資金の流れの変革などがなされる経済を意味する。
Ⅰ-5. 生物多様性損失状況(WWF(世界自然保護基金)報告)
24年10月、WWFが発表した「生きている地球レポート2024」は、生物多様性の豊かさを示す指数が自然環境の損失や気候変動により過去50年(1970年〜2020年)で73%低下したとする。
◎「ファクトシート 生きている地球レポート2024」(抜粋)
24年10月、WWFの「生きている地球レポート2024」は、自然界の現状を科学的知見に基づいてまとめており、対象の野生生物種の個体群を分析した「生きている地球指数(Living Planet Index(LPI)」も含まれる。
同報告書は、自然の損失と気候変動という2つの危機がいかに地球を危険かつ不可逆的な転換点に近づけているかを検証している。
(参照)産経新聞(24年10月10日)
「生物多様性50年で73%減」「環境損失、気候変動が影響」
地球上の生物多様性の豊かさを示す指数は、自然環境の損失や気候変動により過去50年で73%低下したとの報告書を世界自然保護基金(WWF)が発表した。哺乳類や鳥類、両生類など計5495種の生息密度や巣の数などから算出した「生きている地球指数」を用いた。
20年の指数は1970年と比べて73%減少。生息環境別では、河川や湖沼、湿地といった淡水域の減少率が85%と最大で、陸域は69%、海域は56%と評価した。地域別で最も減少したのは中南米・カリブ海の95%で、アフリカが76%、日本を含むアジア太平洋地域が60%、農地開発に伴う森林破壊など生息地の劣化や喪失が脅威になっているという。