【記者通信/7月26日】サーキットが「走る実験室」 次世代燃料を磨く熱い舞台に


憧れのレーシングカーが順位や技術を競うモータースポーツ。その舞台が、カーボンニュートラル(CN)の実現に向けた次世代燃料を試す「走る実験室」として注目を集めている。自動車業界が有望視するCN燃料の一つが、二酸化炭素(CO2)を回収して製造する人工燃料「合成燃料」で、合成燃料を自動車レースで検証する実験が進んでいる。脱炭素化の潮流が押し寄せる中、CN燃料を巡る「もう一つの戦い」のボルテージも高まりそうだ。

合成燃料を充填するレース車両(提供=マツダ)

合成燃料は、CO2と水素を合成してつくる燃料。原料の一つは発電所や工場などから排出されるCO2で、将来的には大気中からCO2を直接回収する技術「DAC」の活用が見込まれている。もう一つの原料として想定されているのが、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」だ。ガソリンの成分に近い液体の合成燃料はエネルギー密度が高いことも特徴で、ガソリンスタンドなどの既存インフラを生かすことができる。

「スーパー耐久」に合成燃料で参戦

こうしたCN燃料を車両に導入する動きは、すでにモータースポーツの分野で活発化。世界各国の公道が戦いの舞台となる「世界ラリー選手権(WRC)」では、22年シーズンから合成燃料とバイオ燃料を混合した再生可能燃料の使用を始めた。国内に目を向けると、市販車に近い車両で競う「スーパー耐久シリーズ」もCN燃料の有効性を実証する場となっている。

CN社会に役立つ技術の可能性を追求する一社がマツダ。その一環で同社は2023年7月にオートポリスサーキット(大分県日田市)で行われたスーパー耐久の第4戦に合成燃料で参戦し、完走を果たした。その後も同社は、合成燃料の検証などを重ねている。また、世界最高峰のレースで知られるF1でも、CN燃料の導入を視野に入れた開発が進んでいる。こうした取り組みが広がれば、市販車の開発に役立つ技術の進化への期待感も高まりそうだ。

サーキット運営企業も環境対応に意欲

一方、市販車を改造したレーシングカーで争う「スーパーGT」を運営するGTアソシエイション(東京都品川区)は、参戦メーカーなどと歩調を合わせて「環境対応ロードマップ」を策定し、30年までにシリーズ全体のCO2排出量を半減することを目指すプロジェクトを始動させた。将来的には、国産の合成燃料をレースに採用することを目指す。レース観戦の醍醐味は、何と言っても場内に響き渡るエンジン音を全身で感じとれることだ。同社には、ファンを魅了する「音の出るエンジン」を残したいという思いもある。

合成燃料を巡っては、政府が官民一体で導入促進に向けた協議を重ね、30年代前半までに商用化を目指す方針を打ち出した。自動車用途はその一つで、モータースポーツはCN燃料の存在を社会に認知させる入り口となる。社会実装に向けては石油元売り大手などの関係事業者が連携し、サプライチェーン(供給網)の構築に向けた検討にも乗り出している。

【論考/7月22日】「もしトラ」でどうなる!? 変貌する米国のエネ政策


6月26日のテレビ討論会でバイデン大統領の高齢に伴う能力低下が露呈して以来、11月5日に実施予定の米国大統領選は共和党・トランプ前大統領側の優勢で進んでいる。7月13日のトランプ暗殺未遂事件は共和党をさらに団結させ、迷走する民主党の気勢を削いでいる。そして21日にはバイデン大統領が大統領選挙から撤退する意向を表明し、ハリス副大統領を民主党の大統領選候補として支持すると述べた。

トランプ氏銃撃後の7月16日に行われた世論調査結果を伝えるメディア

もしトランプ氏再選となった場合、米国の石油・エネルギー政策は大きく変わるだろう。

15日の共和党全国大会で採択された政策綱領では、国内資源の最大限の活用をうたい、石油・天然ガスをはじめ世界のエネルギー生産で「支配的優位」を目指す。これはインフレ対策の筆頭にも挙げられており、豊富・廉価のエネルギー安定供給を優先し、民主党政権の進めた脱炭素化政策を中止。中国車の浸透から米・自動車産業を守る点からも、電気自動車普及策を取り消す、としている。

「脱炭素化規制からの解放」 国際供給秩序のかく乱要因も

当綱領は短い骨子の列挙に止まるが、これと概ね一対を為すと目されているのが、ヘリテージ財団「プロジェクト2025」がまとめた総合的な政策集である。

その中では、例えば、運輸省による自動車燃費規制は内燃機関で対応可能な範囲に大幅緩和。環境保護局による二酸化炭素排出規制も、これに適合させる。さらにカリフォルニア州(加州)に認められる独自の排出規制強化に関しては、温暖化対策への拡大適用を不可とし、同州での内燃機関自動車の販売禁止に向けた脱炭素化規制を、無効化する。そのほか、資源・エネルギーの国内供給及び輸出、さらには対外援助政策に於いても、脱炭素化に伴う各種制約の全面撤廃が示されている。

即ち「脱炭素化規制からの解放」を目指す一連の施策が、迅速且つ広範に実施される、と見るべきだろう。政権党が交替する度にエネルギー政策が反転する今日の米国だが、特に最高裁で加州の権限剥奪が確定する場合には、加州主導による脱炭素化という従来の展開はそこで行き詰まる。ちなみに、副大統領候補バンス上院議員の選出州・オハイオを含むアパラチア地域は、全米最大級の産ガス・産炭地帯でもある。

外交・安全保障面では、中国を第一の脅威とする構えが鮮明化しよう。一方、ウクライナ支援では欧州に大幅な負担増を要求。中東では全面的にイスラエル側に立ち、サウジアラビアほかの湾岸諸国を含めた反イラン勢力の結集を図る。この実利本位、自国中心主義、イデオロギーの混在した取り組みは、おそらくは随所で一貫性と現実性を欠き、各地域の秩序を攪乱するだろう。

要言すれば、米国資源の活用は分断の時代への一つの応答だが、国際供給秩序への視点を欠けば、むしろかく乱要因と化し得る。この不安定性が、トランプ氏再選の場合のエネルギー政策を特徴付けるだろう。

石油アナリスト 小山正篤

【記者通信/7月9日】安定供給の頼みの綱 火力現場が直面する課題とは


再生可能エネルギーの導入拡大や原子力再稼働が進む中、調整力として火力発電所に求められる役割はミドル電源へと変化している。また、7月に入ると連日の猛暑に見舞われ、8日には東京電力パワーグリッド管内の予備率が低い見通しとなり、火力の焚き増しなどで対応した。調整力の面でも供給力の面でも、火力はやはり安定供給の頼みの綱ではあるが、その現場ではさまざまな課題に直面している。

LNG火力はもとより、本来の設計思想はベースロードの石炭火力も、ミドル電源的な運用はもはや当たり前となっている。そのために以前から現場では石炭ミルの稼働数を減らすなどの部分負荷に応じた運用上の対応を取ってきたが、さらに最近ではプラントごとに設計時に定められた最低負荷を更に引き下げたり、1週間単位で停止したりといった試みも行われている。
国内で数多くの石炭火力発電所を有する電源開発(Jパワー)の場合、最近は低需要期に昼間の発電量が低下傾向にあり、特に西日本側でその傾向が目立つ。このため、運用面でさまざまな工夫を取り入れている。

具体的にはどのような対応かというと、まずは最低負荷の引き下げだ。発電コストが卸電力市場の市況を上回る際、例えば設計上の最低負荷から昼間はさらに1~2万kWほど出力を下げる。そして夕方~夜間の需要増に合わせ負荷を上げている。最低負荷の引き下げに当たっては、機器や環境(SOxやNOxなど)への影響を試験によって確認した上で行うようにしている。

ただ、石炭火力は短時間での頻繁な出力の上げ下げは困難だ。そこで、定期点検などとは別に、収益性を確保するべく、需要や市況予測を基に1週間単位で停止する対応も行っている。現在の運用方針について、川端泰治・火力戦略室長は「頻繁に増減負荷を行う運用が常態化しており、こうした運用の変化に伴い、これまでにない機器への影響が出てくる可能性もあるため、定期点検などで注意深くみていく」と説明する。

運用方針の変化に伴い、設備改修のために大規模投資できれば話は早い。しかし、2050年カーボンニュートラルで石炭火力の活用について不透明感がぬぐえない中、現状はそうした地合いではなく、運用面で対応している状況だ。最低負荷の引き下げなどの運用性向上に向けた対応で、運転員の操作・監視に関する負担は増える方向にある。地道な取り組みだが、今後も引き続き実施していくという。

さらに川端氏は、「効率的かつ経済的に負荷追従の機能を持たせないといけない。その点、大崎クールジェンなどのIGCC(石炭ガス化複合発電)ではLNG火力並みの追従性を確認しており、その後の水素専焼発電にもつながる。こうした機能が今後求められるのではないかと考えているところだ」とも強調する。

進む非効率石炭フェードアウト 供給力への影響は否めず

また同社は、5月上旬に発表した新たな中期経営計画(24~26年度)で、国内火力のトランジションに向けて地点ごとの方針を示している。USC(超々臨界圧)の設備(磯子新1、2号機、竹原新1号、橘湾1、2号、松浦2号、松島2号、石川石炭火力1、2号)などは地点の特性を踏まえそれぞれトランジションを図り、このほか新規地点も検討する構えだ。、その一方で政府方針に沿い、運開が1990年の松浦1号以前のプラントはフェードアウトし、高砂1、2号は廃止。竹原3号と松浦1号は休廃止もしくは予備電源化を予定する。

地点ごとに意思決定したわけではないが、新中計を踏まえれば電力販売量はおのずと縮小傾向となる。さらに火力の調整力の役割が重みを増す中、設備の規模よりも機動性を重視するようになる可能性がある。設備の高機能化は進むとはいえ、供給力への影響も気になるところだ。

大谷明徳・経営企画室長は「調整力としては、個別相対取引に加え、需給調整市場が発展・成熟し、その価値が適正に評価されることを期待する。また供給力としても、日本全体で脱炭素技術が普及するまでの間、LNG火力だけでなく石炭火力の両方を持っておく必要がある中で、予備電源制度が有効に機能してほしい」と求める。さらに、トランジションに関する投資回収の予見性を高め、インセンティブになり得るとして、「相応の価格のカーボンプライシングが必要」とも続ける。

DXやGXに伴い今後電力需要が爆増する可能性が示唆される中、火力はますます重要な役割を担うようになる。政府は非効率石炭火力のフェードアウトで規制的措置を打ち出した際、「過度な退出につながらないよう」としていたが、具体策はないまま。その課題への対応は、もう先延ばしにはできない。

【記者通信/7月8日】猛暑で早くも電力ひっ迫 東京・関西が中部から融通


梅雨明けを思わせるような猛暑が続く中、夏本番を前に早くも電力需給がひっ迫している。7月5日、関西電力送配電が午後4時半~7時に最大138万㎾の電力融通を全国の送配電5事業者から受けたのに続き、8日午前には東京電力パワーグリッドが中部電力パワーグリッドから最大20万kW、午後6時半~7時には関電送配電が同じく中電PGから最大36万kW、それぞれ電力融通を受けた。

灼熱の夏を和らげる屋外ミストで涼む人々(東京・銀座)

東電PGのケースを見ると、午前6時頃の時点で、広域ブロックの需要ピーク時を午後2時台と予測し、予備率で安定供給に必要とされる3%を下回る2%を見込んでいた。このため、電力広域的運営推進機関(広域機関)を経由して、午前9時に中電PGへ最大20万kwの電力融通を依頼した。東電が他社から電力融通を受けるのは、東北電力と中部電力から最大72.38万kWを受電した2022年8月以来で約2年ぶり。

また東電PGでは、相対契約を通じ小売事業者から供給力を提供してもらう「発動指令電源」や、火力発電所の増出力運転などを要請。これを受け、JERAでは広野火力6号機や常陸那珂火力1、2号機など8基の火力発電所で計37.58万kwの増出力運転のほか、停止中の袖ケ浦火力2、3号機の稼働なども行った。これらの措置により、需要ピークの午後3~4時に計5923万kwの供給力を確保。予想最大電力に対する予備率を10%まで引き上げ、需給ひっ迫状況を乗り切った。

こうした中、電力価格にも異変が。8日のインバランス料金単価は午前9時台で194.11円と上限単価の200円に迫った。電力小売事業者の想定を大きく上回る供給量が発生した結果とみられ、今回の猛暑は新電力の収支にも影響を及ぼしそうだ。

【記者通信/7月4日】東ガスがe-メタン実証設備公開 地産地消モデルを構築


東京ガスは7月1日、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)にあるe-メタン製造実証設備の進捗状況を報道陣に公開した。2022年3月に運用を始めた同施設は、市内のごみ処理工場で生じる排ガスから回収したCO2と、再生可能エネルギー電力で水を電気分解して得た水素を主原料に製造する。今年度は、市内の下水道センターで発生するバイオガスの一種「消化ガス」や下水を処理した「再生水」を原料にe-メタンの地産地消を実現。環境負荷の低い資源を活用し、環境面を重視した地域実証モデルの構築を目指している。

横浜市鶴見区のe-メタン製造設備を報道陣に公開する様子

6月27日には、燃焼しても大気中のCO2を増やさないガスの環境価値を証明する「クリーンガス証書」制度の認定を取得した。e-メタン製造設備が同制度の認定を取得するのは日本で初めて。今年度にも製造したe-メタンの環境価値を証書化する方針で、ガスの脱炭素化に取り組みたい事業者に販売するかを検討する。

また、7月中にMW級水電解装置の稼働、早ければ今年中にCO2を直接回収するDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)の導入も計画しており、敷地内の太陽光発電設備を増強し、全設備の電力供給をまかなうことで全量グリーンのe-メタン製造設備を実現する。

他方で、東京ガスは高効率にe-メタンを製造できる革新的メタネーション施設の早期社会実装に向けた取り組みも加速させている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)との連携で開発した「ハイブリッドサバティエ方式」は、水電解装置とメタネーション装置が一体となった構造。メタン合成時に生じる熱を、吸熱反応である水の電気分解に利用することで、水素の調達からメタン製造にかかるトータルのエネルギー効率を現行の50%から80%まで引き上げることができる。

同社執行役員の矢加部久孝・水素・カーボンマネジメント技術戦略部長は、製造業者などの熱需要家から「ハイブリッドサバティエ方式を現地で早く使用したいとの声が寄せられている」として、20年代後半にも需要家敷地内への小型実証機導入を視野に入れていることを明かした。

【記者通信/7月3日】電気ガス代支援「再開」 国費4500億円!?の無理筋な理由づけ


斎藤健経済産業相は6月28日、物価高と酷暑を乗り切るために、8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を行うと発表した。政府による電気・ガス料金に対する補助金は昨年1月から今年5月使用分まで投入されていたが、わずか2カ月で事実上の再開となった。ガソリンに対する激変緩和措置は年内に限り継続するとした。

電気ガス料金支援で会見する斎藤経産相(6月28日)

電気ガス料金支援は、今夏の酷暑を乗り切る観点から、8、9月使用分の負担軽減を重点化した。電力の低圧については8、9月が1kw時当たり4円、10月が同2.5円。都市ガスについては8、9月が1㎥当たり17.5円、10月が同10円の補助を行う。斎藤氏は28日の会見で、記者からの質問に対して「(激変緩和対策事業の)『再開』ではない。この夏の酷暑を乗り切り、かつ即効性が高い政策として必要だと判断した」と強調したが、実質的には「再開」だ。

そもそも、電気ガス料金に絞った一律の補助は必要なのだろうか。6月、所得税と住民税所得から一定額を控除する定額減税が始まったが、これ自体が家計に対する一律の補助となっている。斎藤氏は会見で「(為替など)一定の変動があったとしても0.5ポイントの物価押し下げ効果が得られるように水準を設定した」と述べたが、共同通信が6月下旬に実施した電話世論調査では、家計への支援に「有効だとは思わない」との回答が約7割に上っている。

「酷暑」と「物価高」というが……

補助金の再開は「選挙目的」との批判を免れないだろう。2023年1月~24年5月に実施された電力・ガス価格激変緩和対策で約3.7兆円の国費が投入されたことを踏まえると、今回の酷暑対策における補助総額はおよそ4500億円に上ると試算される。それだけの税金を投じる意味があるのかどうか。一連の負担軽減策を行う理由について、政府は「酷暑」と「物価高」を挙げる。前者については、今夏は「史上最も暑かった」とされる昨夏並みの暑さが予測されるが、文字通りの酷暑対策だとすれば7月使用分が含まれないのはおかしい。

一方、物価高については、主な原因は円安だ。その要因としては日米の金利差、1月に開始した新NISA(少額投資非課税制度)、海外企業に対するAIやクラウドサービス利用料の増加などが挙げられる。金利を断続的に引き上げたり、新NISAを国内株に限定したりすれば円安に歯止めを掛けられるはずだが、政府や日銀はそれを行ってこなかった。企業の収益悪化など経済への悪影響を恐れているからだろう。

緩和的な金融環境を維持することで、企業が儲かり賃金が上昇し、強い需要に支えられた基調的なインフレ率を実現しつつ、円安による一時的な物価高には金融引き締めではなく、補助金などの弥縫(びほう)策で対応する――。これが政府と日銀の協調姿勢だが、弥縫策での支出は必要最小限であるべきだ。肝心の為替も、3月のマイナス金利解除や日銀の介入で円高に転じるどころか、7月3日午後3時現在161円90銭と円安に歯止めの掛からない状況に陥っている。

斎藤氏は会見で「これらの補助は脱炭素化の流れやGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みへの影響を考慮すれば、いつまでも続けるべき政策とは言えない」と語った。6月4日に閣議決定された2023年度版エネルギー白書も、激変緩和措置について「巨額の予算で長期間実施し続けることは現実的ではない」と指摘している。岸田文雄首相は秋の策定を目指す経済対策として、低所得者世帯などを対象に追加給付金や重点支援を講じる構え。一律の電気ガス料金支援は10月使用分を最後とし、継続するのであれば、中小企業などターゲットを絞った支援に切り替えることが求められる。

【記者通信/6月28日】電力株主総会報道への違和感 今年も〝恒例行事〟の見出し一色


「脱原発株主提案、電力9社が否決」(毎日新聞)、「原発への姿勢問う声相次ぐ」(朝日新聞)、「電力大手、原発再稼働に批判の声 経営陣、地元重視を強調―株主総会」(時事通信)――。6月26日に開かれた大手電力9社の株主総会を巡って、今年も脱原発を求める株主提案が否決されたことを大手メディアが一様に報じた。見出しは「脱原発提案否決」のオンパレードだ。

かねてから、大手電力会社の株主総会では、原発反対派の株主が脱原発を提案し、それを経営陣が否決するという展開がある種の恒例行事となっている。とりわけ、2011年3月の東京電力福島第一原発事故後はその傾向に拍車が掛かり、メディアもその切り口で株主総会を大きく取り上げてきた。

だが、カーボンニュートラル社会の実現や電力安定供給の確保、電気料金の上昇抑制という社会的要請が急速に強まり、国のGX(グリーントランスフォーメーション)政策の中で原子力の重要性がクローズアップされている現在、株主総会の内容にも変化が表れている。にもかかわらず、これまでと全く同じ〝紋切り型〟の見出し・報道に終始するメディアには違和感しかない。

「このところの電力株の動きを見ていても分かる通り、原発稼働が株価の上昇に寄与しているのは明らかだ。その意味では、原発反対ではなく、原発の安全で安定した稼働を求めるのが真っ当な株主の姿だろう。少なくともマスコミの経済部に身を置く記者なら、そうした現実は百も承知のはず。それなのに、『脱原発提案否決』という見出しの記事ばかりが目立つのは、記者のやる気がないか、メディアの報道姿勢に問題があるとしか思えない」(大手エネルギー関係者)

大手電力会社の経営陣は総じて、株主総会の場で、電力安定供給や電気料金の低廉化、脱炭素化への対応のため、安全・安心を大前提にした原発稼働の必要性を繰り返し強調している。そのことが、とりもなおさず株主価値の向上につながるとの判断があるからだ。そうした点に着目した報道が、もっとあってもいい。

【記者通信/6月28日】洋上風力発電で人材育成 経産省と民間事業者がタッグ


洋上風力発電事業の担い手を育てる官民の取り組みが動き出した。経済産業省が、洋上風力発電を支える人材の育成に向けて商社やエネルギー事業者が立ち上げた協議会と連携し、産学による人材育成活動を後押しする。洋上風力発電は、裾野が広く新しい産業分野だけに人材育成に必要なノウハウが十分に蓄積されておらず、官民一丸の対応が求められていた。

洋上風力発電を支える人材の不足が見込まれている

海産研と9社が協議会立ち上げ

経産省がタッグを組むのは、海洋産業研究・振興協会(海産研)が事務局を務める「洋上風力人材育成推進協議会(ECOWIND、エコウィンド)」。同協会は21日、グリーンパワーインベストメント、丸紅洋上風力開発、九電みらいエナジー、三菱商事洋上風力、ENEOSリニューアブル・エナジー、JERA、三井物産、住友商事、東京電力リニューアブルパワーの9社と共同で立ち上げたと発表した。

今後は、ECOWINDに参画する企業や教育・研究機関と協力し、洋上風力に関わる専門スキルを整理して体系化。各スキルの基礎知識や実務上の要点をわかりやすく解説する副読本を2024年度中に作成する計画だ。資源エネルギー庁は「ECOWINDと連携し、産学による効果的な人材育成策を探っていきたい」としている。

ECOWINDとしては、産業界のニーズと教育・研究機関のシーズを結び付ける活動を促す。例えば、高等専門学校(高専)や大学を対象に出前授業や補助教材の作成に取り組むほか、学生が現場を見学したりインターンシップ(就業体験)に参加したりする機会の提供を想定している。洋上風力業界に対する理解を醸成し、就職の選択肢として意識してもらえるようにしたい考えだ。

建設工事や維持管理の担い手不足

洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札として期待されている発電方式の一つ。政府は洋上風力の発電量として、30年までに10GW、40年までに30~45GWを目指す方針を示している。一方で、今後各地で動き出す洋上風力発電所の建設工事や長期にわたる発電設備の維持管理の担い手の不足が見込まれており、人材の育成と確保が大きな課題となっていた。洋上風力産業の国際競争力を強化する観点からも、人材面の環境づくりが喫緊の課題となっていた。

こうした中で経産省は、人材育成の推進に向けた枠組みを産業界一丸で立ち上げることを呼びかけていた。すでに22年度から、洋上風力に関する専門知識を学ぶためのカリキュラムの作成や専門作業員を養成する訓練施設を整備する教育・研究機関などへの支援に取り組んでいたという。

高専機構(東京都八王子市)では、次世代基盤技術として注目を集めるAI・数理データサイエンスや半導体などの6分野を高専教育に組み込む「COMPASS5.0事業(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)」を産学連携で進めている。24年度からは同事業の対象分野として、洋上風力に関わるエネルギー分野が追加された。経産省としては、同事業とECOWINDの活動が効果的に連携できるようサポートすることにも意欲を示している。

【記者通信/6月27日】環境次官に財務出身の鑓水氏 環境省らしさ発揮できるか


環境省は6月25日、幹部人事(7月1日付)を発表した。和田篤也・事務次官(1988年)が退任し、後任には鑓水洋・総合環境政策統括官(87年)が就任する。財務省からの移籍組の次官就任は、中井徳太郎氏以来3年ぶりになる。下馬評通りの順当な人事といえるが、ここ数年存在感が低下したと指摘される環境省の失地回復をどう図るか。鑓水氏の手腕が問われることになる。

環境次官に就く鑓水氏

鑓水氏は87年に大蔵省(現財務省)に入省し、国税庁次長など財務省の本流を歩んできた。環境省の事務官不足が深刻化していたことを背景に、当時の杉田和博・官房副長官の一本釣りの形で2021年に環境省に異動した。移籍後は次官への登竜門といわれる官房長、総合環境政策統括官を歴任した。

本来は、昨年の人事で鑓水氏の就任が想定されていたが、「官房長だけ務めて環境省全体の業務に精通していない。経験を積む必要があり、次官就任後のリーダーシップにかかわる」(関係者)との理由で就任が一年遅れた形だ。

経産省の下請け的存在から脱却できるか

しかし当時は別の見方もあった。ある事情通は、経済産業省との関係性から遅れたと指摘した。「脱炭素政策を主導する経済産業省が財務省出身の鑓水氏を警戒していた。経産省との関係にひびが入ることを懸念した環境省側の忖度が働き、一年留年という運びになった」という見方だ。

経産省主導の脱炭素政策はグリーントランスフォーメーション(GX)としていわば産業政策で日の目を見て、環境省の役割は地方の脱炭素を進めていくという形になった。カーボンプライシングなど環境省が従来推し進めてきた政策は吸収された格好だ。

こうした経緯がありながらも、今回晴れて次官就任の運びとなった鑓水氏だが、省内外の評判は悪くない。ある有識者は「堅実で肝を押さえている人だ。環境省らしい政策を打ち出してくれるのではないか」と期待を口にする。環境政策に精通するある財界人も、「ここ最近は環境省が経産省の下請けみたいな形になっているように思えてならなかった。バランスを保ちながらも環境省が持つポテンシャルを生かしてくれるのではないか」と歓迎する。

小泉進次郎氏が大臣時に、経産省に対し派手に喧嘩を売るようなマネをしたことで両省の関係は相当冷え込んだ時期もあった。その反動から、和田2年体制では経産省との対立を徹底的に避け、関係修復を図ってきた。しかし一部からは「顔が見えない」「降りすぎ」との指摘も絶えなかった。鑓水氏には顔が見える環境省を作りだすことができるかが問われているといえよう。

次の次官候補は秦氏 来年以降は流動的に

鑓水氏の次官就任が順当な一方、事務次官級ポストの地球環境審議官は異例ともいえる松沢裕氏(89年)が留任することになった。松沢氏の手腕は評価されているものの、地球審のポストは一年交代が通例だ。幹部人材が不足している現状を象徴している人事になった。

筆頭局長といえる総合環境政策統括官には、秦康之・地球環境局長(90年)が就任する。和田体制の女房役であった秦氏は、今回の人事で次官の芽が出てきた。地球環境局長には秦氏と同期の土居健太郎・水大気環境局長(90年)が就く。国際通でもある土居氏はかねて将来の地球審との呼び声が高く、松沢氏の後任になる公算が大きい。

地球環境局長に就く秦氏

今回は全体的に順当な人事になったが、来年以降が流動的だ。鑓水氏の後任と目されているのは、留任する上田康治・官房長(89年)だ。直近では、水俣病の被害者遺族との対話とその後の対応が大問題に発展した。差配の不手際も目立っただけに再びトラブルが起きれば、波乱の人事になる可能性も否定できない。

【メディア論評/6月26日】中部電と中国電を巡る注目事案 カルテルの経験は生かされたか


去る5月28日、電力業界関係で、それぞれは別のジャンルの話であるが、二つの発表があった。一つは中部電力が、大口需要家向け都市ガス供給に関する東邦ガスとのカルテル(不当な取引制限)で排除措置命令および課徴金納付命令を受領した件で、元取締役1人に約7000万円の損害賠償請求することを発表した。もう一つは、消費者庁が、中国電力に対して不当景品類及び不当表示防止法に規定する不当表示で課徴金約16億円の納付命令を出したと発表した。それぞれの事案における両社の対応を、電力4社カルテル事案(「特別高圧・高圧のエリア外での営業活動の制限」)への対応の経験により、リスク感覚がどう磨かれていたかという視点で見てみる

◆中部電力  東邦ガスとのカルテルで元取締役に損害賠償請求

3月4日、公正取引委員会は、東邦ガス供給区域に所在する大口需要家向けの小売供給において、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為があったとして、中部電力に課徴金納付命令、中部電力ミライズに排除措置命令および課徴金納付命令を出した。この件に関して中部電力は、5月28日、排除措置命令および課徴金納付命令等の受領に係る元取締役の「任務懈怠(けたい)」に対して、約7000万円の損害賠償請求を発表した。本件に入る前に、それ以前にあった電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過について振り返っておく。(電力4社=関西電力、中部電力・中部電力ミライズ、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー) 

1電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過(振返り)

中部電力は、電力4社カルテル事案については、2021年4月13日の公取委による立入検査以降、否認の立場を貫いている。23年3月30日に公取委から排除措置命令および課徴金納付命令を受けた同日、取消訴訟の提起決定を発表、その後23年9月25日に訴訟提起したことをプレスしている。一方、株主からは23年6月21日に現旧取締役の責任追及の訴え提起を受領したが、23年8月9日に訴えを提起しないことを決定してプレス、これに対して23年10月12日に株主代表訴訟が提起されている。

〈電力4社カルテル事案の経過〉

◎21年4月13日および7月13日   公正取引委員会による電力4社立入検査

21年4月13日  中部電力・中部電力ミライズ、関西電力、中国電力

21年7月13日  関西電力、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー

◎22年12月1日  事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令および課徴金納付命令に係る意見聴取通知書受領と適時開示          

◎23年3月30日  事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令及び課徴金納付命令 

●本件に関連しての経産省関係の動き

・23年3月30日  電力・ガス取引等監視委員会より電力4社に、独禁法違反に関して電気事業法に基づく報告徴収

→4月12日  電力4社 報告徴収への報告

・23年3月30日 経産省より電力4社に小売事業の健全性確保の観点から法令等遵守のための指示

・23年4月3日  経産省 電力4社に対して補助金交付等の停止及び契約に係る指名停止等の措置

・23年7月14日  経産省 電力4社に業務改善命令

・23年7月28日 中部電力・中部電力ミライズが業務改善計画

 (他3社は8月10日)

◎中部電力 取消訴訟提起

・23年3月30日  取消訴訟提起決定

・23年9月25日  訴訟提起 プレス

◎本件に関する株主代表訴訟 中部電力

23年6月21日  株主からの現旧取締役の責任追及の提訴請求 受領

・23年8月9日   訴えを提起しないことを決定(プレス)

〈株主からの提訴請求への対応〉当社取締役とは利害関係のない外部法律事務所に調査を委託し、その結果を監査役会にて精査し、対応を検討してまいりました。検討の結果、本日、当社の全監査役は、当社の現取締役および元取締役20名に関し、本提訴請求書で指摘のあった事項について、善管注意義務違反があったとは認められず、責任追及の訴えを提起しないことといたしました。〉

⇔会社が60日以内に訴訟を提起しない場合、または提訴しないという回答を得た場合、株主自身が会社を代表して訴訟を提起

・23年10月12日 株主代表訴訟提起 当時の取締役14人約376億円

【記者通信/6月26日】経産省が主要幹部人事 エネ基改定などに対応


経済産業省は6月25日、主要幹部人事(7月1日付)を発表した。飯田祐二・経産事務次官(1988年)、村瀬佳史・資源エネルギー庁長官(90年)ら局長級の多くが留任となる中、ナンバー2ポストの保坂伸・経産審議官(87年)が退き、後任に松尾剛彦・通商政策局長(88年)が就任する。松尾氏の後任には、荒井勝喜・大臣官房審議官通政局担当(91年)が就く。経済産業局長には次官候補の一人と目される藤木俊光・官房長(89年)が、また藤木氏の後任には片岡宏一郎・福島復興推進グループ長(92年)がそれぞれ就く。山下隆一・経産局長(89年)は中小企業庁長官に就任する。貿易経済協力局は「貿易経済安全保障局」に改称され、局長には福永哲郎氏(91年)が留任する。

留任する飯田事務次官
経産審議会に就く松尾通政局長

エネルギー・環境関係では、畠山陽二郎・産業技術環境局長(92年)が資源エネルギー庁次長に就く。畠山氏の後任は、菊川人悟・大臣官房審議官経産局担当(94年)。振り返ると、2020年のエネルギー基本計画見直し議論の際、当時の産技局長だった飯田祐二氏がエネ庁次長に充てられており、現在議論が進む第7次エネ基をにらんだ人事と見る向きもある。松山泰浩・エネ庁次長(94年)は「2025年日本国際博覧会協会事務局運営基盤調整統括室長(仮称)」となる。新設する脱炭素型経済移行推進審議官兼GXグループ長には、龍崎孝嗣・政策立案統括審議官兼主席GX機構設立準備政策統括調整官(93年)が就く。

エネ庁次長に就く畠山産技局長

斎藤健・経産相は同日の閣議後会見で、今回の幹部人事に言及し、「日本の経済社会構造の転換が求められる中、経済産業政策の新機軸の推進、エネルギー基本計画の改定、半導体戦略をはじめとする経済安全保障の確立、大阪・関西万博の開催準備などに万全を期す。そして継続性を確保しつつ、重点施策を着実に推進していくことが必要であり、このために飯田事務次官、村瀬資源エネルギー庁長官など多くの幹部を留任させる。また、松尾通商政策局長を経済産業審議官に、中小企業の成長支援などがマクロ経済政策、産業政策として極めて重要となっている局面であることを踏まえ、山下経済産業政策局長を中小企業庁長官に登用する」と説明。「これからも年次や職種にとらわれない適材適所の人事を行っていく」との考えを示した。

【記者通信/6月21日】電気・ガス代補助が再開へ 岸田首相は期限付き措置を強調


これまで記者通信で2回(4月23日付5月28日付)にわたって指摘してきたことが現実になった。岸田文雄首相は6月21日、通常国会の閉幕を受けた会見の場で、「酷暑乗り切り緊急支援」として、電気・ガス料金への補助(負担軽減措置)を8月から3カ月間再開すると表明したのだ。そもそも、再生可能エネルギー賦課金の上昇と負担軽減措置の廃止で、7月分以降の電気料金単価が前年同月比で㎾時当たり9.09円上昇することは今年度当初から分かっていたこと。値上がりを承知の上で補助廃止を決めておきながら、なぜ今になって再開に踏み切ることにしたのか。電力業界の関係者が言う。

「大きく三つの理由が考えられる。まずは5月ごろから、大手一般紙から週刊誌、テレビ、ネット系までメディアがこぞって電気料金上昇問題を巡って騒ぎ出したこと。二つ目が、円安、資源高傾向が思いのほか続いており、電力各社で燃料費調整条項に基づく値上げが相次ぎそうなこと。そして三つ目が、何と言っても秋の衆院選対策だろう。今の電気料金上昇局面で本来、政府が講じるべきは利用者の省エネを支援してエネルギー代抑制とともに省CO2対策を図る政策展開のはずなのに、結局、国民ウケを狙った税金バラマキという最も安易な手法に走ってしまった。だいたい夏場に家庭用の使用量が激減するガス料金についても補助を復活するなど意味が分からない。識者を中心に悪評高い燃料油補助金についても年内いっぱい継続することも表明したが、木を見て森を見ずの政権の無能ぶりにはあきれるばかりだ」

「省エネ支援こそ政府の役割ではないか」との声が聞こえる

6月4日に閣議決定された2023年度版エネルギー白書は、「燃料油価格激変緩和対策事業」で約6.4兆円、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」で約3.7兆円の国費が投じられたものの、世界的なエネルギー価格の高止まりに加え、歴史的な円安が進む中で、一時的な負担軽減策だけでは対応しきれないと指摘。その上でエネルギー資源の大半を海外産に頼る現行のエネルギー供給構造から脱却し、原子力や再エネといった準国産エネルギーを軸に、強靭な需給構造への転換を進める重要性を訴えている。実に真っ当な問題提起だ。

一方、政府は脱炭素政策の一環としてカーボンプライシング(CP)の検討を進めている。CPとは「企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法」(資源エネルギー庁ウェブサイトより抜粋)。CO2を排出する化石エネルギー価格への補助は、少なくともCPの方向性とは合致しない。エネルギー価格を税金によって単純に安くするのではなく、省エネ機器や設備、電動車へのシフトをさまざまな支援で誘導していくことこそ、エネルギー高価格時代に政府が講じるべき政策だと思うが、どうか。

岸田首相「脱炭素の流れに逆行」「原発を速やかに再稼働」

こうした補助金に伴うエネルギーへの影響は、政権側も承知しており、岸田首相は同日の会見で、「ガソリンや電気・ガスへの補助金は、脱炭素の流れに逆行することもあり、いつまでも続けるべきものではない」「物価高に直撃されている地方経済や低所得者世帯の現状を思い、最も即効性のあるエネルギー補助を今回に限って講じることとした」と説明した。


 その上で、白書が指摘している日本のエネルギー構造の問題にも触れ、「今後、投資を活性化させ、国内産業を振興し、国民生活を豊かにしていくためには、わが国のエネルギー構造の脆弱性を克服し、低廉で安定的なエネルギーの自給を確保していかなければならない」「原発の再稼働が進んでいる地域と、まだ全く再稼働が進んでいない地域では、電気料金に最大3割程度の格差がある。安全が確認された原発を速やかに再稼働させるとともに、SMR(小型モジュール炉)など次世代革新炉の研究・開発・実装や、水素、ペロブスカイト(太陽電池の一種)、洋上風力を含めた、脱炭素電源への戦略的投資を確保する仕組みを早急に検討していく」などと強調した。


 今後、年内をめどに、エネルギー供給・産業構造・産業立地を総合的に捉えた国家戦略の策定を進めてまいります。現在、経済産業省で議論が行われているエネルギー基本計画見直し作業の中では、カーボンニュートラルや安定供給への対応を視野に入れた中長期的な観点から、日本の国益に適うエネルギー料金の在り方についても本腰を入れた検討を行うことが求められている。

【記者通信/6月21日】バイオ混合軽油を建設現場に 出光や鹿島など連携


北海道の工事現場で、使用済み植物油由来のバイオディーゼル燃料(BDF)を混ぜた軽油を利用する取り組みが動き出す。BDF混合の軽油は、産業ガス大手のエア・ウォーターが製造し、出光興産のサプライチェーン(供給網)を用いて、ゼネコン大手の鹿島が手がける建設現場へ届ける。こうした枠組みでBDFの地産地消を促すことで、地域の脱炭素化を後押ししたい考えだ。

北海道の建設現場で使うB5軽油

規格をクリアした「出光バイオディーゼル5」

今回のプロジェクトで利用するのは、軽油に5%以下のBDFを混ぜた燃料「B5軽油」。出光が6月中旬から建設現場へ供給する。

具体的には、出光が北海道製油所で製造する軽油と、道内のコンビニエンスストア「セイコーマート」の店内調理などから回収した使用済み植物油で作られたBDFを、エア・ウォーターグループのエア・ウォーター・ライフソリューション(札幌市)の石狩工場で混合して生産する。

その後は、出光が生産物の品質分析などを行い、石油製品の品質確保に関する品確法で定められた「強制規格」をクリアした「出光バイオディーゼル5」として、鹿島の工事現場へ供給。そこで建設機械や発電機向け燃料として役立てるという流れだ。

B5軽油のサプライチェーンのイメージ

出光販売部広域販売二課の栗原知哉課長はオンライン説明会で、「特約販売店のネットワークや小回りの利く配送能力などを生かして道内における供給網の拡大を目指すとともに、プロジェクトで得た知見などを生かして道外でも供給拡大を模索していきたい」と意欲を示した。

30年度「バイオ燃料転換率65%」 脱炭素化を促すインパクト

BDF分野で3社が連携する背景には、工事現場に押し寄せる脱炭素化という潮流がある。現場から排出されるCO2の大部分は建機などで使われる燃料に由来しており、BDFなどの低炭素燃料の普及が期待されている。ただ、利用拡大に向けては供給体制づくりや製造時の品質管理が必要となっており、こうした課題を踏まえた連携スキームとして今後の展開に注目が集まりそうだ。

3社は軽油の一部をBDFに置き換えることで、CO2排出量の削減に貢献したい考え。鹿島は、燃料の脱炭素化の一環で30年度に「バイオ燃料転換率65%」を達成する目標を掲げている。鹿島環境本部特別参与・本部次長の野口浩氏は、B5軽油の利用が広がれば「CO2削減効果という面でインパクトが大きくなるのではないか」との見方を示した。

【目安箱/6月19日】反原発運動に協力する元規制委員 敦賀問題の火付け役


「下北半島と敦賀半島を非核化する」。原子力規制委員会委員だった島崎邦彦氏は、2013年に、原子力発電所の調査をしながらこんな過激な発言をしたとされる。エネルギーフォーラム13年4月号の記事「下北半島非核化へ進む原子力規制委の視野狭窄」に掲載されている。今でもエネルギー関係者の間で語られる問題行為だ。

以下は、間接的に聞いた話だ。この発言の真偽を聞いた原子力反対派の人に島崎氏は「そこまで過激なことは言っていないが、地震だらけの日本に原発を作るのは問題」と答えたそうだ。

中立の求められる行政機関で役職にある人が、このような先入観を持って原子力規制という行政活動を行っていた。彼の任命した民主党政権の政治家、また任命に関わった当時の原子力規制の行政関係者の責任を追及し、もっと政治問題にしてもいいだろう。

◆政府批判を続ける島崎氏

島崎氏は14年に規制委員を退任した。退任後に、16年に当時の田中俊一規制委員長に面会し、地震の審査をもっと厳格にすることを求めた。そして反原発の主張を各所で続けた。非科学的な主張と反原発の記事で知られる岩波書店の雑誌「科学」で、彼は2021年に「葬られた津波対策をめぐって」という長期連載をした。10年ごろ原子力推進派によって、地震の振動や津波の想定が楽観的なものになり、それが福島第一原発事故の原因になったと主張した。それをまとめて「3.11 大津波の対策を邪魔した男たち」(青志社)という本を出している。

同書を読んだが、違和感を覚えた。島崎氏は当時、政府の地震関係の委員会のメンバーで、その後に規制委員となった。その邪魔をした原子力保安院の職員などは現在の原子力規制庁に横滑りをしている。彼の言う通りなら、そうした規制や警告を形にせず、自分の責任を棚にあげて、他人を攻撃していた。

さらに彼は各地の反原発訴訟で、原子力発電所の危険を講演して歩いている。直近では今年5月25日、金沢市で、志賀原発の差し止め訴訟の原告側の総会で講演している。一度、政府の役職に就いた人が、行政を批判して歩くのは、原子力政策、原子力規制政策に傷をつけけるものだ。

◆原子力発電所の過剰規制を主導

在任中の島崎氏の行動も問題は多かった。彼は規制委員として、2013年施行の新規制基準の策定に関与した。これは法律ではなく、政令扱いのため、国会など民主的なチェックをされていない。

その規定は、地震関係でかなり強い規制を取り入れた。活断層の上に原子力発電所の主要施設を置いてはいけないと言う規定はこれまでの規制基準にあった。その活断層と認定される期間を 「将来活動する可能性のある断層等は、後期更新世以降 (約12~13万年前以降)の活動が否定できないもの」と、書き換えた。以前は5〜6万年以降だったが、その結果、規制は強化された。そして廃炉になった時の補償規定などを定めないで、このルールは施行されている。

世界史上、12~13万年前は中期旧石器時代(30万~3万年前)の頃になる

この規制は、一度、国の認可で建設された発電所を、事後認定で使えなくする可能性がある。また活断層の判断期間が長期になったため、地震と地質の審査が長引き、原子力発電所の再稼働が遅れている。これは企業の財産権の侵害だ。

さらに彼は、地震と地質を巡る専門家委員会をという組織を作って、各サイトを調査させた。そこで14年に日本原電敦賀2号機で、活断層の疑いがあるとの判断が出た。これは法的に規定のない組織で、のちに原電などが反論し、「参考」という扱いになった。

ところが審査の中で、「活動性を否定することは困難」との認識が24年5月に石渡明原子力規制委員が主導する審査で示された。規制委・規制庁は6月6~7日に現地調査を行った。

この「否定することは困難」との論理は、「悪魔の証明」と言える。「悪魔の証明」とは、論理学の言葉で、反証することが困難な証明を言う。過去の断層から10万年の間に活動したかどうかを判定することも、未来に地震が起こらないことも、証明するのは困難だ。活断層を巡る議論は、このような不毛な取り組みが延々と続いているように見える。この審査は、島崎氏が規制委員としてルールを作り、始めたことだ。

◆個人が行政に悪影響を及ぼさない仕組みづくりを

原子力発電所を1年動かせば、1000億円前後の化石燃料の代替費用が節約できる。さらプラントの建設費は、新造で数千億円かかる。それの原資は国民の電気料金だ。原子力規制で、延々と続く、地震動や活断層の議論は、その費用の価値があるものだろうか。島崎氏のこれまでの発言を見ると、金銭や経済のことを考えている形跡がない。

原子力規制において、島崎氏が個人で過去と現在に起こした問題を検証するべきだろう。そして彼の発言の自由は十分尊重されるべきだが、今の不安を煽る、島崎氏の言論活動は、抑制するように、誰かが説得するべきであろう。そして、個人の人間が、行政組織に悪影響を今後及ぼさない、その悪影響を最小限度にする仕組みづくりを真剣に日本の行政で検討するべきであろう。

【表層深層/6月19日】豪州で浮上する原発導入論 世論調査で6割支持


資源供給国として日本と密接な関係があるオーストラリアの国民意識に、異変が起こっている。豪州政府の政策決定に強い影響力を持つシンクタンク、ローウィが実施した国民世論調査で、原子力発電の活用を支持すると答えた人の割合が過去最高の6割に達した。豪州では1990年代に制定した二つの法律で、原発の活用を禁じており、長い間原発の導入に関する議論はタブー視されてきた。しかし気候変動問題が浮上し、主力の化石燃料の存在意義が揺らいだことなどが契機になり、国民意識にも変化が出てきたようだ。2025年にも予定されている総選挙で政権奪還を狙う保守政党がこの調査結果に即座に反応し、原発の導入を選挙公約に含めることを明言した。原発回帰は日本だけでなく、世界でも顕著になってきた。

2011年の調査と「逆転」

ローウィは24年3月に豪州全土の成人2028人を対象に調査を実施した。日本の人口と比較すると約1万人の成人に調査したことになる。この調査は05年から始まっており、約20年間にわたって国民意識の変化を追跡している。項目は安全保障から外交、経済と貿易、社会課題など多岐にわたっており、エネルギーと気候変動の項目は常に注目されているという。

今回の調査では豪州の国民の61%が、原発に「やや」または「強く」利用することを、「やや」または「強く」支持すると回答した。「やや」または「強く」反対していると回答した国民は37%にとどまった。原発を「強く支持する」と答えた人は27%で、「強く反対する」(17%)を上回った。

東京電力福島第一原発の事故が発生した11年に、この世論調査では原発の導入を質問項目にした。その際の回答は、温室効果ガス排出削減計画の一環として原発を建設することに「強く反対」(46%)または「やや反対」(16%)の反対と答えた人は計62%に及んでおり、今回の調査で原発への期待感を示す国民意識が鮮明になったといえる。

勢いづく保守政党

今回の調査結果に溜飲を下げたのは野党自由党と、行動を共にする保守系野党だ。25年の総選挙に向けて、現労働党政権の打倒を日増しに強めている。すでに自由党のピーター・ダットン党首は、次期総選挙の選挙公約に「豪州国内6か所の原発新設」を掲げることを明言している。気候変動対策を重視する与党労働党との違いを鮮明にして、気候変動対策よりエネルギーの安全保障を重視する路線をひた走る。

ダットン氏はさらに思い切った政策を打ち出した。6月8日の豪州全国紙「オーストラリアン」で、政権交代を果たせば、現労働党政権が打ち出した温室効果ガス削減目標を「取り消す」と表明した。現政権は30年までに05年比で43%減という目標を掲げているが、「達成できる見込みがない目標に意味はない」とバッサリ切って見せた。

ドナルド・トランプ氏並みの強硬論をダットン氏が振りかざす背景には、今回の国民世論調査がある。豪州ではエネルギー価格の上昇と生活費の上昇圧力が国民を苦しめている。エネルギーの優先項目という質問で、回答者のほぼ半数(48%)が「家庭の光熱費の削減」を最優先事項と答えている。21年調査の同様の質問から16ポイントも上昇している。そして、ダットン氏を勢いづかせたのは「炭素排出量の削減」を最優先事項とすべきだと答えた人の割合で、21年調査に比べて18ポイント減の㊲%となり、国民が気候変動対策を最優先に求めていないことが浮き彫りになった。