【記者通信/7月14日】ヘリカル社が核融合炉計画を刷新 資金調達で実用化へ加速


ヘリカル型核融合炉の開発を手がけるスタートアップ、ヘリカルフュージョン(東京都中央区)は7月11日、新たな開発戦略を発表した。商用炉として求められる三つの技術要件(高エネルギー出力、長時間運転、メンテナンス性)の早期達成を目指し、従来の基幹計画をアップデートしたものだ。併せて、SBIインベストメントや元サッカー日本代表の本田圭佑氏が率いるX&KSKなどから、融資を含めて約23億円を新たに調達。補助金などを含めた累計調達額は約52億円に達した。

計画刷新と追加の資金調達を発表した田口CEO(左から2番目)と出資したVCの代表者ら

現在、各国で核融合の実用化に向けた取り組みが加速している。米欧を中心にトカマク型やレーザー核融合などの方式で実証開発が進む中、日本政府も6月、民間支援を強化する新戦略を打ち出したばかりだ。そうした中、同社はヘリカル方式に専念してきた。

「現在の技術力で実用化に至る唯一の道はヘリカル方式だ」。同社代表取締役CEOの田口昂哉氏は、こう強調する。従来主流のトカマク方式は、強力な外部電流によってプラズマを閉じ込めるが、急激なプラズマ崩壊(ディスラプション)のリスクを抱えるなど、その安定性が課題とされてきた。一方、ヘリカル方式は外部電流を用いず、らせん状の磁場でプラズマを安定的に閉じ込める構造のため、原理的に連続運転に適している。

同社は、二重らせん構造のコイルを用いた独自設計により、高い安定性とエネルギー効率を両立できると説明する。さらに、核融合反応で発生する高速中性子を熱エネルギーに変換する「ブランケット」の交換設計を前提とすることで、メンテナンスの容易さも確保。実用炉として求められる継続運転性や保守性に対応する。

独自の二重らせん構造コイルは、高い安定性とエネルギー効率を生み出す

今後は、ブランケットとプラズマ容器など主要装置の統合検証を実施。その後、長時間運転、発電性能、保守性などを含む「トータルプロセス」の実証に移る。2030年代前半での実用化を視野に入れている。

最終段階の実験設備には約400億円の投資が必要と見込まれており、今後は官民を挙げた支援体制がカギを握る。田口氏は「核融合が実現すれば、その恩恵は社会全体に及ぶ。国とも連携しながら、実用化に向け一体となって取り組みたい」と展望を語った。

【SNS世論/7月14日】小泉進次郎氏を巡るネット評判の悪さを変えられるか?


小泉進次郎衆議院議員は、2009年の初当選以来、SNSで注目されている。ところが小泉氏についてのSNS世論の内容を見ると、批判の書き込みが多く、注目はマイナスの方に働いている。特に環境大臣時代のエネルギー問題を巡るさまざまな奇行が、今も尾を引く。今後の政治活動の中で、SNSとエネルギー問題が足を引っ張り続けるかもしれない。

小泉氏は、テレビや新聞などのオールドメディアに頻繁に登場する。この5月に農水大臣に就任した小泉氏は、米高騰という直近の大問題に対応しているために、その登場頻度は増えた。爽やかなルックスや明快なスピーチ。米価はそれほど下がっていないが、イメージ上は自民党と低支持率に苦しむ石破政権にとって大変なプラスになっただろう。

7月20日に参議院選挙が行われる。与党自民党は厳しい状況に陥っている。同月初旬に自民党の関係者と話したが、「小泉さんが、選挙の雰囲気を変えてくれればいい」と、期待を述べていた。そこまでの効果は出ていないようだが、小泉氏は連日選挙の応援演説で各所を飛び回っている。

SNSでは批判が目立つ

しかし小泉氏の政治活動では、SNS世論は負の方向に働いている。主なSNSを見ると、小泉氏を取り上げる投稿のうちの7割程度が批判だ。そして中身はその行動をからかうものばかりだ。

「進次郎構文」「シンジロー語」「ポエム」「言語明瞭意味不明」「名言(迷言)メーカー」。こんな言葉が彼への批評で使われている。論理でしっかり批判するよりも、からかいが多く、軽く見られているようだ。

小泉氏へのそうした批判の根拠は、エネルギーに絡むものが多い。小泉氏は安倍内閣、菅内閣で19年9月から21年10月まで、環境大臣を務めた。大臣職は初めてで、注目を集めた。その際に19年にニューヨークで、気候行動サミットが開かれた。そこで小泉氏はテレビカメラの前で「日本はこのままではいけない。だからこそ日本はこのままではいけない」と発言した。また記者懇談会で「気候変動のような大きな問題は、楽しく、クールに、セクシーに向き合わなければならない」と発言し、具体的に何をするのかと外国人記者に聞かれると黙り込んでしまった。これらは今も、笑いの題材として使われる。

日本政府は21年4月22日、関係閣僚会議を開き「30年度までに温室効果ガスを46%削減する」と決定した。気候変動サミットに合わせた国際公約のためだ。この公約は今でも生きている。

同23日放送のJNNのニュースで「46%に設定した根拠」について、環境大臣として出演した小泉氏は「くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が」と、手振りを交えて発言した。国の目標をこのような霊感で決められたら、日本の未来が心配だ。これは今でも、SNSではネタの一つにされ「オカルト進次郎」という言葉もある。

エネルギー問題は、「かっこよさ」「見栄えの良さ」を常に注目する小泉氏にとっては複雑すぎる問題だったのかもしれない。24年9月の自民党総裁選挙では、小泉氏は有力候補だったが、SNSの批判の盛り上がりを背景に、人気が途中で失速し党員票が集まらなかった。

変化する小泉氏への期待

一方で彼は変化する能力がある。今年5月に農水大臣に就任したが、大きな失言はしていない。またその大きな発信力を適切に使う時もある。福島原発の処理水の海洋放出の際に、中国や韓国左派勢力、日本の一部勢力が、海が汚染されるという騒ぎを起こした。小泉氏は23年9月、福島の海でサーフィンをやって、「福島の海は安全です」とPRした。これは見事な広報だ。反原発を掲げるメディアもこぞって報道し、世論の沈静化の一助になった。やや右派が強く、口の悪い人の多い日本のSNSでも、このパフォーマンスの見事さは賛辞だけだ。

小泉氏は今、チームを作ってSNSで情報を発信しているようだ。短く印象的な映像と短い言葉が並ぶ。それらは批判的に「バズる」ことは少ないが、自らの良いイメージづくりには役立っている。かつてのような、奇妙な発言の回数は減っている。SNSの力を十分知っているようだ。

進次郎氏の父、小泉純一郎元首相は、「キャッチーな言葉を作って世の中に訴える(ワンフレーズポリティクスと呼ばれた)」「政治勘のよさ」「意外にも勉強家」という行動をして、首相として大きな存在感を示した。同じような資質が進次郎氏にもあるのかもしれない。

SNSは小泉氏を変えられるのか

小泉氏とSNSの関係では、次の未来が考えられるだろう。①SNS世論が小泉氏の奇行を発信し続け、彼の問題を日本社会全体に気づかせる。②小泉氏が自ら変わり、発信力と見識を備えた大政治家になる。③SNS世論の歯止めが効かず、このままの姿で権力を拡大する――だ。

現状の見識で小泉氏が自民党で要職に就いていくと、さまざまな問題で混乱が起きそうだ。これまでのエネルギー問題で見られたように、格好のいい、見栄えの良い政策に飛びついてしまいかねない。SNS世論は、小泉氏を変える起爆剤となるのか、どうか。

【メディア論評/7月11日】週刊経済誌のエネルギー関係特集を読む(下)化石燃料・天然ガス編


本年2月18日、2050年カーボンニュートラルに向けてのエネルギー政策や電源構成についての第7次エネルギー基本計画、温室効果ガス削減目標を13年度比で35年度60%、40年度73%とする地球温暖化対策計画などが閣議決定された。国際的には、ロシアのウクライナ侵攻に伴い欧州は安いロシア産天然ガス依存からの脱却を求められ、米国についてはトランプ政権誕生に伴う脱炭素政策の見直しや関税交渉の中でアラスカなどの天然ガスへの投資が話題になるなど、エネルギー政策やビジネスを取りまく状況は変化している。

週刊エコノミスト4月15日号「トランプショック 化石燃料の逆襲」

週刊エコノミストは、「トランプショック 化石燃料の逆襲」と題して、トランプ氏が描く化石燃料回帰のシナリオは、米国を変え、そして日本でも波紋を広げつつある状況を概観している。中国のエネルギー・資源戦略、欧州市場の動向などにも触れ、また特集の後半では「混迷 日本のエネルギー戦略」と題して、エネルギー基本計画にみられる課題、個別テーマとして電気料金、排出量取引制度、洋上風力などを取り上げている。結果として幅広いテーマ設定となり、論者も多岐にわたる。寄稿やインタビューには、今井尚哉キャノングローバル戦略研究所研究主幹、有馬純東京大学公共政策大学院客員教授、橘川武郎国際大学学長など、エネルギー政策に長年の知見を有する識者も登場している。

ここでは、その3氏のインタビュー取材・論稿について紹介しておく。

◎今井尚哉キャノングローバル戦略研究所研究主幹(経産省OB取材〈「エネ覇権」は共和党の思想〉〈米化石燃料回帰で日本は恩恵〉(抜粋)

Q:日本はCNを目標として掲げている。米国がパリ協定から離脱した際に、日本はどう対応すべきか。

A:そもそもパリ協定ができた時の話をしたい。パリ協定は15年に成立し、当時の安倍晋三政権は「30年度までに13年度比で温室効果ガスを26%削減する」と約束した。これはいろいろと積み上げ、詰めに詰めた数字だった。高炉でつくる鉄や航空機の脱炭素化は難しいというのが結論だった。ところが、菅義偉政権でCOP26があり、「とにかく野心的な目標を出せ」という中で、30年度の削減目標として、13年度比46%削減を表明した。これは無理な数字で、経済を犠牲にするしかない目標だ。政治合戦の状況で、欧州委員会も目標を掲げているが、実現できずどこかで修正せざるを得ないと私は考えているその上で(だが)、今はそこに向かってインフラ整備、技術開発を進めており、その努力の芽生えを摘むわけにはいかない今までの路線で加速せざるを得ないだろう。気候変動対策も日本が怠ることはないし、逆にチャンスも多い

Q:具体的には。

A:例えば燃料電池の分野だ。水素を使って燃料電池バスやトラックが走る交通輸送網などは、チャレンジする価値が大いにある。産業用ボイラーに水素を使う技術開発も日本は早い。肝心の水素が安くならないといけないが、商品化へのコストと道筋を見据え、オールジャパンで進めるべきだ米国が“一抜けた”のだから、日本にとっては大きなチャンスだ

◎有馬純東京大学公共政策大学院客員教授(経産省OB)論稿(抜粋)〈影響力強める中国〉〈巧みな温暖化交渉で覇権狙う〉〈脱炭素の陰で進む資源支配〉〈筆者は経済産業省で温暖化国際交渉に関与し、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)に過去19回出席してきた。その経験に照らせば、地球温暖化交渉は、各国の国益が正面からぶつかる武器なき経済戦争であり、温暖化を巡る国際政治の中で最もうまく立ち回っているのは中国である。日本を含む先進国が遮二無二推進してきた再エネ導入の恩恵を最も受けたのは中国であろう。23年のCOP28において世界の再エネ設備容量を30年までに3倍にするとの世界目標が設定されたが、これは中国製再エネ産品に市場を保証したようなものだ。中国は石炭火力技術の最大輸出国でもある。日本がOECD輸出信用ガイドラインなどによって優れた高効率石炭火力技術の輸出を禁じられている中、中国は経済圏構想“一帯一路”などを通じて多くの国に石炭火力発電所を建設してきた。……国連の場では中国は未だに“途上国”の扱いを受けており、CN目標も先進国より10年遅い60年だ。中国は先進国のネットゼロ政策の進捗状況をみながら、余裕を持った対応ができる。……24年のCOP29において先進国は、中国や産油国も対途上国資金援助に参加するように呼び掛けたが、中国はこれをかたくなに拒み、あくまで“南南協力(途上国間支援)”による個別の影響力拡大を狙っている。……中国のドミナンス(支配)に対する有効な対応策があるのか。……現実的な解は中国への過剰依存を避けつつ、代替手段がコスト高である場合、脱炭素化のスピードを調整するしかないだろう日本の場合、中国製再エネ機器に依存した脱炭素化を回避するためにも原発を活用していくことが重要だ。〉

◎橘川武郎国際大学学長取材(抜粋)

Q:(エネルギー基本計画閣議決定に向けた)審議をどう見たか?

A:昨年5月に始まり、何度も会議をやったのに、11月まで具体案が出てこなかった。ところが12月に突然案が出て、あっという間に2月に閣議決定した。冷静に考えれば、11月の米大統領選の結果を待っていたと考えるのが自然だ。

Q:新エネ基では“原発の依存度低減”の文言が削除された。

A:……気をつけて見るべきは、“原発の最大限活用”という言葉が入ったが、その部分には必ず“再生可能エネルギーと原子力の最大限活用”とセットで言っていることだ。定量面で過去2回のエネ基と比べれば、原発は全体の2割で据え置きなのに対し、再エネは4~5割と倍以上だ。……再エネ主力電源化で原発副次電源化という流れが定着した。……世間で言われている“原発回帰路線”というのは本質ではない。むしろ“最大限活用”というのは、原発の地盤沈下を覆い隠す最大限のリップサービスだったと私は理解している

【時流潮流/7月3日】消えた濃縮ウラン 中東核ドミノ倒しの懸念


イランの核兵器取得を防ぐことを名目に6月13日から始まった「12日戦争」。イスラエルに加え米国も途中から参戦、複数の核施設を空爆した。しかし、肝心の濃縮ウランは行方不明のままだ。攻撃は、イランの核武装加速や、中東地域全体に「核ドミノ」がひろがる危険を高めた可能性もある。

イランへの空爆実施を発表するトランプ米大統領(中央)と主要閣僚たち=米ホワイトハウスのX(ツイッター)から

イランは中部フォルドーとナタンツのウラン濃縮施設で60%濃縮ウランを製造し、それをイスファハンの核施設で保管していた。

米軍は22日未明、二つの濃縮施設に地中貫通弾(バンカーバスター)を投下、イスファハンには24発のトマホーク巡航ミサイルを撃ち込んだ。トランプ米大統領は「イランから(核)爆弾を取り上げた」と主張したが、米国内にも懐疑的な見方がある。米国防総省の情報機関は、核開発を「数カ月遅らせた」程度と分析するなど、評価はまだ定まっていない。

最大の問題はブツのありかだ。国際原子力機関(IAEA)によると、イランは5月17日時点で408㎏の60%濃縮ウランを保有していた。90%にまで濃縮度を高めれば、約10発分の核爆弾が造れる。

イランは空爆開始を受け、濃縮ウランを守る「特別措置をとる」とIAEAに通告した。シリンダーに詰めてある濃縮ウランは、トラックなどに積んで容易に運べる。秘密の施設に移された可能性がある。

米国がフォルドーを空爆する数日前には、衛星写真がフォルドー周辺で車列を組む16台のトラックを捉えていた。施設内に残る濃縮ウランや遠心分離機などを運び出した可能性がある。

60%濃縮ウランに加え、イランは原爆2発分に相当する20%濃縮ウランや、同じく10発分に相当する5%濃縮ウランを保有している。これらのありかも突き止めるのも重要な作業となる。

イラン「三番目の濃縮施設」 サウジやトルコも意欲

イランは12日にIAEAに「3番目の濃縮施設を作る」と通告した。イスファハンの地中奥深くにあり、バンカーバスターの攻撃にも耐えられる造りとされる。すでに施設は完成し、稼働間近とも言われる。濃縮ウランの保有量がますます増える懸念がある。

イランの核活動が「地下に潜る」危険もある。地下に施設を作るという物理的な話ではなく、IAEAの査察を拒み、核活動が「見えなくなる」可能性が高い。イラン国会は25日、IAEAへの協力を停止する法案を可決、政府は7月2日、同法を施行した。これによりIAEAの査察活動が大幅に制限されることになった。

北朝鮮と同様に、イランが核拡散防止条約(NPT)を脱退し、IAEAの査察官を国外追放する深刻な事態を招くことも懸念材料となっている。イランは、これまで核兵器を取得する意思はないと重ねて否定してきた。だが、NPTを脱退すれば、核取得を目指すと宣言したことと同義となる。

そうなれば、イランのライバルであるサウジアラビアは黙っていないだろう。サウジのムハンマド皇太子はイランが核核兵器を取得したら「同じことをする」と明言している。トルコのエルドアン大統領も核兵器取得に意欲を示す。

イスラエルと米国のイラン空爆は、中東の「核ドミノ」というパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

【記者通信/6月30日】豪州で原発導入論封印 現政権は東海岸のガスを輸出から国内消費へ


アルバニージー首相率いる労働党が総選挙で圧勝したオーストラリアは、再生可能エネルギーを中心とする脱炭素政策を推進していくことになる。原子力発電所の導入を掲げて政権奪還を狙った野党保守連合(自由党・国民党)は、改選前の議席を大幅に割り込み歴史的大敗を喫した。高止まりする電気料金の是正に原発を活用する期待感もあったが、野党連合の思わぬ大敗に原発導入の機運は急速にしぼんだ。野党連合内では国民党が連合解消を一時表明する事態に発展。自由党が原発政策の見直しを示したことで連合の瓦解は避けられたものの、原発導入の議論は当面封印する形となった。労働党政権は光熱費軽減と電力不足に対応するため、東海岸にある天然ガス資源を輸出から国内消費に転換する方針を示した。日本にとっては天然ガスなどエネルギー資源の調達に支障をきたす可能性が出てきた。

COP誘致へ脱炭素政策を推進

5月に定数150議席で争われた総選挙は、労働党が94議席で改選前から15議席以上増やした。もともと強かった都市部に加え、保守の地盤である地方でも議席を伸ばした。一方の野党連合は43議席と、改選前から13議席以上失い歴史的大敗を喫した。地盤だったクイーンズランド州で大幅に議席を減らし、自由党のダットン党首が落選するという憂き目に遭った。

アルバニージー政権はこの選挙結果を受けて、再エネと蓄電池を中心とする脱炭素政策を強力に推進していく方針だ。9月には35年以降の温室効果ガス国別削減目標(NDC)を国連に提出する予定だが、関係者は「来年のCOP31誘致を成功させるためにも、相当高い削減目標を示すのではないか」と見通す。

早速、労働党は環境保護・生物多様性保全法(EPBC)の改正に着手する意向を示した。EPBCは前回の総選挙後に改正を模索したが、エネルギー業界や一部の州政府の反対で審議が滞っていた。労働党が示している改正案は豪州環境保護局の設置、開発制限区域の選定などを盛り込んでいる。

業界などが反発している企業の温室効果ガスの開示義務化の扱いをどうするかが焦点となりそうだが、ワット環境相は業界団体などとの協議を重ねており、現政権内での改正案成立に自信を見せているという。

改選前の現政権は日本企業に対し「気候変動対策に積極姿勢が見られない」などと不満を漏らし、一部企業が冷遇されることがあったという。豪州内に拠点を持つ大手企業の関係者は「環境規制が強くなれば、豪州内でのビジネスがよりやり辛くなる」とぼやく。

野党「原発7基導入」を撤回

一方、野党連合が掲げた原発導入論は後退を余儀なくされた。改選後すぐに国民党のデービット・リトルプラウド党首が「原発政策を含めて自由党とは隔たりがある」と述べ、連立離脱を表明する事態になった。国民党は原発導入には賛成だが、自由党が掲げる多額の国費投入や石炭火力発電所からのリプレースによる2030年代半ばまでに7基の原発新設という政策に異論を唱えた。

国民党の「三行半」に慌てたのはダットン氏に替わって党史初の女性党首に就任したスーザン・リー氏だ。国民党の連立離脱表明から1週間もしないうちに、「原発7基の建設」という柱ともいうべき政策を撤回し、原発新設を禁止している二つの連邦法の解除に注力することを約束した。この大幅な譲歩によって、国民党は連立にとどまることを表明。保守勢力の分裂という最悪の形は回避できた。

しかし連立崩壊は避けられたものの、野党連合が掲げていた原発政策は大きく後退することになった。豪州のエネルギー企業関係者は「選挙戦の中盤から自由党の旗色が悪くなり、原発導入についての議論が深まらなかった。30年代半ばまでに7基導入という公約も現実的ではなく、争点化のための公約だったんだろう。豪州での原発新設の話は遠のいた」と指摘する。

光熱費増に不満が内在 エネルギー相「天然ガスを国内消費に」

歴史的な勝利に終わり、安定した政権運営ができると自信を見せているアルバニージー政権だが、物価上昇は続いており国民の不満要素は消え失せていない。豪州は7月から新年度となるが、光熱費が値上げされる。電力基準価格の引き上げにともない、6月までの電気料金と比べて最大で9%超上昇するところもある。西オーストラリア州では世帯平均で年間1200豪ドル(約11万円)から1.5倍上昇することになる。今後、再エネ導入のための新たな送電網の整備が進めば、消費者の負担が増えると予想される。

電力ひっ迫の懸念も消えない。ビクトリア州では大型の石炭火力発電所が故障し、通常の出力の半分しか出せていない。ガス火力でも不備があり供給量が減少している。再エネはこれらの不足分を補えるほどの供給量を確保できていない現状だ。豪州電力会社のトランスグリッドのレッドマンCEOは地元紙のインタビューで「統一的なエネルギー供給の拡大が必要で、石炭火力の閉鎖時期の見直しなどが必要だ」と訴えた。

豪州内での電力事情は今後さらに厳しくなると予想されている。強硬派で知られるマイケル・ボーエンエネルギー相は6月30日、東海岸のガス田から出る天然ガスを国内消費向けに切り替えると発表した。これにより、豪州からの輸出量は大幅に減ることになり、さらにいくつかのガス田の開発も30年代にかけて閉鎖される。日本にとっては調達先が先細ることになり、燃料不足による電力逼迫の懸念が頭をもたげる。

選挙では大勝したものの、アルバニージー政権の2期目はエネルギーをはじめ不安要素が充満している。就任後の晴れ舞台となった先日の主要国首脳会議(G7サミット)に招待され、トランプ米大統領との初会談が予定されていた。しかしトランプ氏は日本などとは会談に応じたが、アルバニージー氏との会談はドタキャンした。豪州内では「縁起が悪い」などとこの先の政権運営を案ずる向きもある。

【メディア論評/6月30日】週刊経済誌のエネルギー関係特集を読む(上)洋上風力・LPガス編


今年に入って、週刊のビジネス・経済誌である週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、週刊エコノミストにおいてエネルギー関係の特集が続いた。

・週刊ダイヤモンド2月8・15日合併号「洋上風力クライシス」

・週刊東洋経済4月5日号「LPガス業界の闇」

・週刊エコノミスト4月15日号トランプショック 化石燃料の逆襲」

福島第一原発事故とその後の電力需給危機が起こった頃には、エネルギーや原発への関心の高まりを受けて特集が組まれたこともあり、いくつかの労作も見られた。例=週刊ダイヤモンド16年6月11日号「司法と原発」

原発関連訴訟を扱いそうな地裁裁判長のキャリアなども調査。ただ、その後は長く、エネルギー関係の特集というのはあまり販売に貢献しないと言われてきた。しかし、本年2月18日、50年カーボンニュートラルに向けてのエネルギー政策や電源構成についての第7次エネルギー基本計画、温室効果ガス削減目標を13年度比で35年度60%、40年度73%とする地球温暖化対策計画等が閣議決定された。2月6日には、再生可能エネルギー開発で期待の大きかった洋上風力において、第1ラウンド公募で3案件を総取りした三菱商事が522億円の減損処理を発表した。また国際的にも、ロシアのウクライナ侵攻に伴い欧州は安いロシア産天然ガス依存からの脱却を求められ、米国ではトランプ政権誕生に伴う脱炭素政策の見直しや関税交渉の中でアラスカなどの天然ガスへの投資が話題になるなど、エネルギー情勢は変化している。こうした時期に上記3誌は、それぞれ違うテーマであるがエネルギー関係の特集を行った。

週刊ダイヤモンド2月8・15日合併号「洋上風力クライシス」

週刊ダイヤモンドは、2月8日・15日合併号の第2特集で、「洋上風力クライシス」と題して、“脱炭素の切り札として政府が期待を寄せる洋上風力が今、最大の危機を迎えている”状況を特集した。担当記者は、もともとエネルギー担当で、その関係で商社への取材網も持ち、更に近年はゼネコンを担当していた。地元への取材も含めて、培ってきた取材ネットワークを下に、洋上風力第1ラウンド公募3物件(秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖)を総取りした三菱商事が減損処理に至る同社の「誤算」、そして経産省の国民負担抑制に傾いたが故の制度設計・審査の問題を指摘している。

~三菱商事の記者会見(2月6日)での説明~

三菱商事の減損処理についての記者会見での説明は“リスクの見通しが甘かったというより、インフレを超えるコスト増加が押し寄せた”ことを強調したものであった。

参考=朝日新聞2月6日付(抜粋)〈三菱商事、洋上風力発電で減損522億円 社長ゼロから見直す〉〈……中西勝也社長は……記者会見で、減損処理をした理由について「3年間にわたり開発を進めてきたが、インフレの加速や円安の進行、サプライチェーンのひっ迫、金利上昇など、事業環境の変化が想定を大きく上回った」と語った。とくに、海外メーカーから調達する風車をはじめ、資材価格の高騰が響いたという。事業の入札の際は、他の入札者より低コストで建設・運用できると見込み、売電価格の安さで競り勝った経緯がある。中西氏は「欧州で洋上風力発電に取り組む子会社の知見を最大限生かし、リスクを十分に検討し、この値段(入札価格)を自信を持って出した」と話し、当初の計画自体は妥当だったと強調した。……〉

参考=日本経済新聞電子版2月7日付〈三菱商事中西勝也社長 減損に関する記者会見〉(抜粋)

Q:減損損失の内訳は何か。

A:調査、設計、許認可を取る関係の費用を資産として計上しており、計上済みの資産はすべて損失として処理した。キャッシュを拠出済みの資産に加えて、キャッシュアウトはしていないものの約束済みの費用との合計値となる。ゴー(やる)か、ノーゴー(やらない)か。どういう形で、再評価の結果が出るのかは予断を許さない。再評価をすることでゼロベースで検討し、結果を見極めたい。インフレや金利、為替など、毎日のように変わる状況を総合的に判断する必要がある。

Q:21年の入札時に、固定価格買い取り制度による売電価格で他社を圧倒する安い価格で入札した。無理をした面がなかったのか。

A:21年5月の公募に応札したとき、データに基づいてリスクを分析した。オランダやベルギー、ドイツなどで08年から洋上風力に取り組み、現在までに7案件の開発実績があるエネコを子会社に持っている。エネコの知見や経験を最大限に活用し、人的資本も投入しながら、リスクを十分検討した。日本側のパートナーと協議しながら、応札し、自信を持ってこの値段で出した。リスクの見通しが甘かったというより、インフレを超えるコスト増加が押し寄せた

・メモ

当初は〈政府の試算より(平均で)半額以下のコストでプロジェクトを成り立たせると豪語した〉(ダイヤモンド誌)が、現在は〈リスクの見通しが甘かったというより、インフレを超えるコスト増加が押し寄せた〉ことを強調する三菱商事に対して、ダイヤモンド誌は同社の「誤算」について指摘する。

~「誤算」の指摘~

複数の関係者や秋田県関係者への取材をもとに編集部作成と注記した上で、「三つの誤算」として次の三点を挙げている

・当初想定より軟弱であることが判明した海底地盤調査の問題←秋田県の2プロジェクト

・当初想定していた送変電ルートが利用できないことが判明、ルートの変更でコスト増加が不可避な陸上送変電工事の問題←秋田県由利本荘市沖プロジェクト

(事前に準備したところで読み切れないものだったと言えるが)インフレや人手不足を背景に採算のとれるプロジェクトを選ぶ「選別受注」の中でのゼネコンやサブコンの消極的な動向

一方でダイヤモンド誌は、「日本の洋上風力クライシスを招いた真犯人とは、他ならぬ経産省」と断じる。複数のエネルギー業界関係者が指摘する政府・経産省の問題点として、当初にセントラル方式や、初期の工事品質の担保やダンピング対策としての最低制限価格などを入れなかったルール設計、そして審査体制の甘さを指摘する。伝統的な公益事業規制における審査ではベテランの担当官も多いが、新エネルギー分野では経験不足が出てこよう。ダイヤモンド誌は、洋上風力発電プロジェクトに詳しいエネルギー業界関係者の声として、「実現性に乏しいとして三菱商事のプランをDQ(失格)にできなかった審査側にも問題があった」、あるいは「審査においてプロジェクトのキャッシュフローをシビアに見ているとは思えなかった」といった指摘を紹介している。ダイヤモンド誌も指摘するように、経産省には、東日本大震災後の民主党政権下の太陽光発電の「破格」のFIT買い取り価格設定で、太陽光バブルと大きな国民負担をもたらした記憶があっただろう。同誌は、「洋上風力クライシスを招いたのは一義的には背負いきれないリスクを取った事業者にある。しかし、過度な競争をあおった政府・経産省側にも大きな責任がある」とする。

~識者の評価~

長年エネルギー事業・政策の動向を見てきた井伊重之・産経新聞客員論説委員(元論説副委員長)は次のように述べる。

井伊重之・産経新聞客員論説委員FACTA4月号〈経済断影 洋上風力に猛烈な逆風「バラ色の未来」は崩壊〉(抜粋)次世代の再生可能エネルギーとして期待が集まる洋上風力発電に対し、猛烈な逆風が吹きつけている。……三菱商事による総取りは洋上風力事業に大きな影響を与えた。だが、その衝撃的な落札結果が、今度は三菱商事自身を苦しめる事態となっている。入札を実施した経済産業省の幹部も「鳴り物入りで始まった洋上風力の第1弾入札が失敗に終われば、洋上風力の普及を進める政府の再生エネ政策にもマイナスとなりかねない」と危機感を示す。……洋上風力は海外でも逆風に襲われている。洋上風力最大手、デンマークのオーステッドは昨年、米国の洋上風力事業で約2600億円の損失を計上。英国石油大手のBPやノルウェーの石油大手エクイノールも一昨年に多額の減損計上を迫られた。また、風車大手のGEグループも「現在の入札価格では採算が取れない」として風車の受注活動を停止し、価格がさらに上がるまでは再開しない方針だ。業界関係者は「三菱商事が洋上風力で減損処理したのは、調査や設計、許認可関連などに過ぎない。まだ風車や発電機などの主要設備は発注しておらず、このまま本格的な設備発注が始まれば、減損額はもっと膨れ上がる」と試算する。……洋上風力の推進を掲げる政府は、事業者のコストと国民が負担する電気料金のバランスを見極めながら、現実的な再生エネ政策を示す必要がある。

また、経産省OBでエネルギー行政の経験も豊かな福島伸享衆議院議員(無所属・有志の会)は次のように語る。

福島伸享衆議院議員(無所属・有志の会、経産省ОBエネルギーフォーラム5月号【永田町便り】〉〈今国会では国土交通委員会で基地港湾の混雑対応のための港湾法改正法案、内閣委員会で対象海域をEEZ(排他的経済水域)まで拡大するための再エネ海域利用法改正法案が審議されている。私は、国土交通委員会所属議員として、港湾法改正法案の審議に臨んだ。まず、この1~2年の間に世界の洋上風力を巡る事業環境が急速に悪化していることを指摘した。ウクライナでの戦争や世界的なインフレ傾向によって洋上風力のコストは世界的に増加し、最大手のデンマークのオーステッド社は800人の人員を削減し、ノルウェーなど3カ国から撤退するなど、昨年は世界中で大型洋上風力発電プロジェクトの撤退や延期が続いた。日本でも、国の洋上風力公募第1ラウンドの入札で3海域の権益を独占した三菱商事が、2月6日に中西勝也社長が「ゼロベースで今後の方針を検討する」と表明し、撤退の可能性もある状況となっている。そこに「(化石資源を)掘って、掘って、掘りまくれ」と叫ぶトランプ大統領が再登場。米国ひいては世界の洋上風力の将来は真っ暗の状況に陥っていると言えよう。こうした状況への見解を資源エネルギー庁に問うたところ、伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長は「国内の洋上風力プロジェクトについて事業が完遂されるための環境整備を整えていくことが重要」と答弁した。行政というのは、一度始まるとなかなか変更したり中止したりすることはできないものだが、日支事変以降の泥沼の大東亜戦争のようになってはならない。また、再エネ事業は再エネ賦課金という国民の負担で支えられていることも忘れてはならない。日本風力発電協会も「複合的要因により風力発電の事業性が著しく低下しており、持続可能性について疑問符がついている」と危機感を表明している。もはや、洋上風力は、エネ基にある「今後コスト低減が見込まれる電源」でも「急速な案件形成が進展する海外」の状況でもない。当面は事業環境の整備に努めるにせよ、“切り札”としてきた洋上風力の在り方を根本から見直すべき時だ。〉

日本経済新聞社説(2月12日)は、洋上風力の現状について次のように整理している。

◎日本経済新聞社説2月12日付〈持続可能な洋上風力発電に〉〈脱炭素に不可欠な洋上風力発電が逆風にさらされている。建設コスト上昇で事業採算が悪化し、先行事業者の三菱商事は522億円もの損失計上に追い込まれた。四方を海に囲まれた日本は、再生可能エネルギーで洋上風力への期待が大きく、政府は電源全体の1%にとどまる風力の割合を今後15年で4〜8%へ高める目標を掲げる。それには事業の収益確保が大前提だ。……三菱商事は21年末の最初の入札で安い売電価格を提示し、秋田県や千葉県の3事業を総取りした。だがその後の物価高騰で部品調達費が跳ね上がり、収支見通しが狂った。28年秋以降とする稼働の遅れや追加損失も懸念される。洋上風力は海外で計画縮小が相次ぎ、トランプ米政権は風力への支援を停止した。国内でも入札参加を見送る企業が出始めた。開発を推進するため、政府は公募ルールを見直す。例えば事前の海域調査を政府機関が請け負い、企業に情報提供する。従来は事業者が個別に行い、入札で負ければ無駄になっていた。公募後に風車などの調達費が上昇した場合、一定程度を売電価格に反映できる仕組みも導入する。25年度中にも実施する次の入札から適用する。政府は次期エネルギー基本計画案で、再エネを40年度の電源構成の4〜5割を担う主力と位置づけた。洋上風力は3000万〜4500万キロワットの導入を目標とする。少なくとも原子力発電所30基分に相当する容量が必要で、実現は簡単でない風車を海に浮かべる「浮体式」の実用化も急ぐが、難易度が上がる分、投資もかさむ。脱炭素と電力安定供給を両立するため、コスト削減や国民負担の最適解に向けて官民が知恵を絞ってほしい。〉

・メモ

第1ラウンド公募での政府と事業者の蹉跌は、洋上風力への厳しい認識を広げた。第2ラウンド、第3ラウンド落札事業者も厳しい状況にあり、経産省として制度の再整備に努めているところであるが、不透明な政治経済情勢の中で、より難度の増す浮体式洋上風力の展開に向けては、じっくりと諸課題の精査に取り組む必要がある。

【SNS世論/6月24日】選挙前の自民党の「保守仕草」見透かすSNS


次世代の総理の可能性ありと注目を集めるコバホークこと小林鷹之衆議院議員・元国務大臣(経済安全保障担当)が6月20日、SNSのXで次の投稿をした。

「国内にこれ以上太陽光パネルを敷き詰める必要はありません。先日も党の会議で言いましたが、食料安全保障の観点からも農地を確保し適切に利用することが大切であり、国としては営農型太陽光を推進すべきではない(以下略)」。

ところが反響の大半は批判で、ネット炎上状態になった。「そう言ってますが。未だに脱炭素推進してますよね? 自民党は」「コバホークまで保守仕草。選挙前にみっともない」などの返事があった。

SNSでは話題の中心は政治だ。そこで「保守仕草」という言葉が最近生まれた。選挙前に保守のふりを急にするが、実際には何もやっていない、もしくは自分のこれまでの行動と矛盾する行動をする議員のことだ。特に自民党議員に批判が集まる。その人たちが批判される論点の中に、「再エネ」「原発」が含まれ、エネルギー関係者も注目せざるを得ない。

選挙公約から消えた再エネ 登場した外国人対策

今年は6月に東京都議選、7月に参議院議員選挙が行われる。小池都知事の与党である都民ファーストの「10の政策集」https://tomin1st.jp/2025/policy.html を見ると、これまで同党が主張してきた、再エネ、脱炭素がない。小池都知事主導で行われ、保守派から大変な批判を集めた太陽光パネル義務化政策のPRをしていない。現在、太陽光パネルは中国で作られるものが大半を占め、しかも原材料は中国が民族弾圧をするウイグル人の居住地で、政治犯の強制労働で掘られている可能性が高い。保守派でなくても、批判するのは当然だ。

自民党の2025年の政策集にも、再エネ振興、GX推進は書かれていない。6月23日時点では参院選の公約は出ていない。

再エネ拡大、反原発を訴えてきた河野太郎衆議院議員は最近、その問題を取り上げなくなっている。今関心を向けているのは不法行為をする一部の外国人管理の規制強化だ。ちなみに、河野氏はかつて法務副大臣を務め、外国人労働者の規制緩和政策を進めた。

6月には衆議院解散の噂があった。衆参両議員のポスターが張り出されていたが、自民党議員の中には、人気が伸び悩む石破茂自民党総裁・首相の顔ではなく、保守派の高市早苗議員の顔を自分のポスターに一緒に出す議員も多かった。

リベラルに傾きすぎた自民党、突如変身

自民党の岸田文雄政権、石破茂政権はリベラル色が強い。前の安倍晋三政権、菅義偉政権は、保守色は強かった。自民党はこのように左右に触れてバランスを保ってきた。しかし岸田・石破政権は選挙に弱い。これは安倍元首相が常に意識して政権を支えた、有権者の一定数を占める「岩盤保守」が、自民党を支持しなくなったからとの分析もある。

そこで自民党は急に選挙前に、保守層の取り込みに躍起になっているのかもしれない。保守層の政治行動は反リベラルで特徴づけられる。保守層の多くはリベラル派の好きな、共生社会、再エネ・脱炭素が嫌いだ。

ネットでは、こうした自民党の保守政策の強調に、評価の声は少ない。右も左もネット言論は強めの言葉ばかりだが、そこでは「保守仕草」という強い批判の言葉が生まれ、多くの保守派の人が使うようになっている。自民党は外国人土地取得の規制提言をしたが、「20年言ってきたのに無視して、今さら言っても実行すると信じられない」と、自民党から日本保守党に鞍替えした地方政治家が話していた。再エネ・エネルギー政策でも同じような批判が目立つ。

ネットの兆しに注目、大きな動きになるか?

このコラムの目的はSNS世論の動向、そして社会とエネルギー産業への影響の分析だ。「保守仕草」への批判は、まだ自民党への感情的批判にとどまり、具体的な形にはまだなっていないようだ。しかし選挙前に、どうも強まっていくように思える。

2011年の福島原発事故の直後に、バタバタと深い議論のないままに決まったエネルギーをめぐる諸制度の再検証の機運が高まりつつある。そしてSNSは海外の世論とも連動しやすい。米国で脱炭素政策の否定、原子力拡大がトランプ政権で進む。また今は「経済安全保障」が政治の流行り言葉だ。石破政権でも、それは継続している。

エネルギー問題はイデオロギー、つまり「人間の行動を左右する根本的な物の考え方の体系。観念形態。俗に、政治思想や社会思想」(グーグル日本語辞書の定義)と関係なく、合理性で決められるべき問題であるはずだ。しかし福島原子力事故の後で、「原発は悪」という思想に引っ張られてしまった。再エネは重要だが、その過大評価も一部にあった。事故の衝撃が大きすぎ、それは仕方のない面があるにしても、急に作られた現行の諸制度には、議論不足、そしておかしなものがある。

SNSで6月時点に観察される政治情勢は、どの党への支持も盛り上がっていないということ。自民党批判は根強く、左右両方の少数政党が躍進しそうな雰囲気だ。自民党批判が、エネルギー政策の見直しに批判と結びつくか。現時点では政策を変えるほど広い動きには見えないが、SNSの「保守仕草」批判の多さを見ると、注意を払った方が良さそうな動きだ。自民党の敗北、そして選挙後の政策の変更につながるかもしれない。

【記者通信/6月24日】不確実性高まるエネ情勢 産消会議でLNGの役割再確認


世界の不確実性が高まる中、経済成長に向けLNGが果たすべき役割とは――。経済産業省と国際エネルギー機関(IEA)は6月20日にLNG産消会議を開き、こうしたテーマで生産者・消費者が議論を深めた。新エネルギーの導入ペースやエネルギー需要の増加などのほか、地政学的緊張に関してはロシア・ウクライナ戦争に加え、イスラエルとイランの軍事衝突で中東情勢が急激に緊迫。さまざまな不確実性が存在する中、引き続きLNGがエネルギー安全保障に貢献することを確認し、そのためには、市場の自由化と柔軟性、そして十分なガスインフラの投資の必要性を強調した。同時に、サプライチェーン全体での低炭素化の必要性も確認した。会議は今年14回目で、対面では欧米やアジア、中東、北米、南米などの30カ国、約470人が参加した。

JERAとウッドサイド社の契約発表に際し、写真撮影に応じる関係者。左からジャスティン・ヘイハースト駐日オーストラリア大使、天川和彦・国際協力銀行副総裁、メグ・オニール・ウッドサイドCEO 、津輕亮介・JERA常務執⾏役員、武藤容治・経済産業大臣

JERAが豪州から冬季の追加調達へ

閣僚級セッションでは、①豪ウッドサイド社とJERAの冬季のLNG調達契約、②オマーンLNG社とカナデビア社によるe-メタン製造に関する概念設計開始、③LNGバリューチェーンのメタンガス排出削減に向けた国際連携――の発表があった。

具体的には、①では、日本の電力需給がひっ迫する冬季(12~2月)に2027年度から5年間、必要に応じて追加的に年間3カーゴ(約20万t)を調達するための契約に関する基本合意書を締結。JERAはスカボローガス田プロジェクトに15%超出資し、ウッドサイド社との間で長期契約を有しており、そこに今回の契約も加わることになる。通年供給が一般的な中、珍しい取り組みといえる。需要や再生可能エネルギーなどの発電状況を受け、火力発電量の変動が拡大する中、冬季のLNG安定確保に資する対策として注目される。

このように、以前から指摘されてきたガスセキュリティへの問題意識や、バリューチェーンの低炭素化などに対する具体的なアクションが深まった点が、今年の特徴といえる。

新興輸出国が積極発言

産出国側からは、モザンビーク共和国や東ティモール、カナダ、アルゼンチンなど今後供給拡大を目指すエリアの関係者が多数参加した。

アルゼンチンのエドゥアルド・テンポーネ大使は、将来輸出国となることを目指し、2027年から輸出を開始予定だと強調。モザンビークのエステヴァオ・パーレ・鉱物資源・エネルギー大臣は各プロジェクトの進捗を説明し、「JERAや東京ガス、東北電力などのコミットもあり、アフリカ最大の輸出ハブを目指す」とした。また、カナダのエリン・オブライエン・天然資源省次官補は、間もなく同国初の大型LNG輸出基地であるLNGカナダからの輸出が始まる見込みだとし、日本に対する地理的優位性に加え、LNGの中でも同国産の温室効果ガス排出量の少なさを強調した。

【記者通信/6月24日】東電が「KK運営会議」設置へ 元東北電役員などを招へい


東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長は23日、取締役会に対して直接提言する権限を持つ「柏崎刈羽原子力発電所(KK)運営会議」を設置すると武藤容治経済産業相に報告した。また柏崎刈羽地域の複合災害時の防災支援について、排除雪体制の強化や屋内退避施設の空調設置などで応分の費用負担を行うほか、同社の施設を一時避難所として開放する。武藤氏は小早川氏の報告を受け、「地域の課題や要望に丁寧に耳を傾け、事業者としてそうした声に応え、具体的に前に出る判断をしたことは評価したい」との見解を示した。

会見する東電HDの小早川社長

KK防災会議には、東北電力の東通原発所長を務めた佐藤敏秀氏、中部電力の浜岡原子力総合事務所長を務めた水谷良亮氏、米原子力規制委員会の元上級管理官であるチャールズ・カストー氏などが外部委員として名を連ねる。会議については昨年3月、当時の斎藤健経産相が「外部の目を取り入れた新たな体制」を構築するよう求めていた。9月の原子力閣僚会議でも同様の指摘が出ており、自民党新潟県連も要望していた内容だ。

新潟県では東電に対する不信感が根強く、一部では「(供給圏内の)東北電力ならいいが、東電が運転するなら再稼働は認められない」という声が挙がるほどだった。運転にほかの電力会社が関わる形にはならなかったが、東北電や中部電の元役員をKK防災会議に招くことで一定の関与を図った格好だ。会議の主な活動は再稼働後となる見込み。

小早川社長は面会後の囲み取材で「地元の声をしっかりと反映させた発電所にしていくことが必要だという結論に至った」と設置の経緯を明かした。ただ、こうした取り組みをより早くから進めていれば、地元理解の獲得に向けてプラスの影響を与えていた可能性がある。今回は国による指導を受けての「受け身」の感は否めない。

地元の要望にきめ細やかに対応

防災支援については、6月11日に内閣府や新潟県が開催した柏崎刈羽原子力防災協議会で支援を表明していた。同地域では豪雪時の避難体制や家屋損壊時の屋内退避が不安視されている。東電はこれまでにも災害対応のバックアップ拠点として「柏崎レジリエンスセンター」を建設するなどの支援を行ってきたが、地元の要望にきめ細やかに対応する姿勢を示したと言える。

再稼働への同意を巡ってかぎを握る花角英世知事は、6月以降に公聴会や首長との意見交換、県民の意識調査を実施する。一連の取り組みが関係者の判断にどう影響するかは不透明だが、マイナスに働くことはないはずだ。信頼回復のための地道な取り組みを続けるしかない。

【時流潮流/6月20日】世界で相次ぐ原子力施設攻撃は「おきて破り」か⁉


イスラエルが13日、イラン攻撃に踏み切った。多くの核施設を空爆したほか、イラン革命防衛隊の最高幹部や核開発に関わってきた科学者を殺害した。気がかりなのは、2022年のロシアのウクライナ侵攻以後、これまでタブー視されてきた核施設への攻撃が相次いでいることだ。深刻な事態に陥る前に対処が必要なことは言うまでもない。国際社会の知恵と対応力が試されている。

チェルノブイリ原発から2000㎞も離れた英国にも放射性物質が降り注いだ。汚染された牧草を食べ、基準値を超した羊の出荷停止は四半世紀以上も続いた(英イングランド北部で2012年、筆者撮影)

「いかなる状況であっても核施設への攻撃は許されない」。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は13日、国連安保理の緊急会合にビデオ形式で参加し、イスラエルの攻撃は国際法違反であると非難した。

イスラエルは過去にも核施設を空爆し破壊した。1981年6月にイラクのオシラク原発、07年9月にはシリア東部の原発を攻撃した。両原発はいずれも完成前であったため、大事には至らなかったが、安保理は「国連憲章と国際法に違反する」とイスラエル非難決議案を採択した。グロッシ氏の発言は、この線に沿ったものと言える。

イスラエルは今回、イラン中部ナタンツのウラン濃縮施設や、イスファハンのウラン転換施設など稼働中の核施設を攻撃した。IAEAによると、ナタンツでは「施設内で放射能や化学物質による汚染」が発生している。

「おきて破り」の行動だが、残念ながら国際社会の反応は極めて鈍い。直前まで、攻撃を避けて欲しいとの希望を再三表明していたトランプ米大統領は、攻撃後に態度を一転させ「(攻撃は)すばらしい」と評価した。17日には、イランに「無条件降伏」を求め、19日には米国自身もイラン攻撃に参加するかどうかを「2週間以内」に判断すると踏み込んだ。

欧州からもイスラエル寄りの声が上がった。ドイツは、イランの核開発が「中東地域全体、特にイスラエルに深刻な脅威をもたらす」との見解を示した。英国やフランスも、イスラエルの攻撃に理解を示した。

「国連憲章違反であり、国際法違反だ」と、グロッシ氏と同様、毅然とした態度でイスラエルを非難したのがロシアだ。とはいえ、そのロシア自身も国際法を破りウクライナに侵攻した張本人だ。開戦直後には一時、チェルノブイリ原発を占領、その後、ドローンで攻撃を加えた。南部のザポリージャ原発の占拠は今も続けている。

核施設への攻撃がタブー視されなくなれば、日本も人ごとではない。米国の核専門家の中には、北朝鮮と韓国が戦争になれば、韓国の原発が攻撃対象となる可能性が高いと分析する人もいる。甚大な被害が出れば、風下に位置する日本も影響を免れない。

86年のソ連チェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質は風に乗り、はるか2000㎞離れた英国にまで運ばれた。大地にしみこんだセシウム137が牧草に吸い上げられ、それを食べた羊が出荷停止になる事態が四半世紀以上も続いた。現場を訪ねると、農民から「最初は、2~3週間の出荷規制だと言われたんだ」との嘆き節を聞かされた。

イラン核問題の平和的解決も喫緊の課題であることはもちろんだが、核施設への攻撃を禁じる方策を構築する動きが本格化することを期待したい。

【論考/6月16日】日本を弱体化させる燃料油補助 石油価格ポピュリズムの大罪を暴く <後編>


<前編>からの続き。

オイルショック時の経験を忘れた日本

石油価格をめぐる今日の日本のポピュリズムは、かつて70年代の2次にわたる石油危機に正面から対応し、その克服を通じて経済大国として台頭した姿と比して、極めて対照的だ。

72年度から80年度にかけて、日本の原油輸入単価、総額とも実に10倍上昇した。ガソリン小売価格は2.5倍超、軽油、C重油の卸価格もそれぞれ3倍、7.5倍と跳ね上がった。また80年度、原油は日本の総輸入の35%超を占めていた。

この強烈な衝撃を日本は積極的な燃料転換と技術革新、国際競争力の強化によって克服した。需要の側では、それまで石油需要を牽引していた産業および発電部門において、大量の重油が代替された。85年度の重油需要はオイルショック以前の72年度対比、産業部門で3分の1まで落ち、発電用も半減。重油総量で日量100万バレル減少し、供給側に於ける原油処理設備合理化と精製能力の高度化を促した。

一方、世界的な石油高価格を梃子として、日本は良質・低燃費の小型車で世界の自動車市場を席巻し、また従来の資源・エネルギー集約的な素材・重化学工業から電機・電子工業を中心とする組み立て産業へ、さらにはサービス産業へと、産業構造の転換までも遂げた。2000年代半ば以降の油価上昇期にも、日本はハイブリッド車の普及を加速させ、資源高を消費側の技術革新によって積極的に克服する姿勢を示してきた。

このように、市場を通じて国内石油価格が、国際価格および為替レートを反映して変動する場合、これを共通の手掛かりとして石油消費・供給者が主体的に行動を変容させていく。その無数の地道な変革の積み重ねが、原油高への日本の対応能力を決する最も根本的な要因だ。

しかし今のように、燃料油価格が政治の一存で決まるのならば、その上昇を抑えるには、消費者・供給者が有権者として値上げに反対すればよい。「政治家が石油価格を決める」というルールの下では、それが最も有効な対応となる。世論の圧力が掛かれば、政党・政治家は値下げを容易に決め得ても、値上げは躊躇する。消費側では省・脱石油に励む必要が薄れ、また供給側でも、補助金が需要を下支えする分、経営努力せずに済む。「民意」の名のもとに、消費者は廉価の石油を、供給者は販売量を、そして政治家は票を、それぞれ獲得できる。これらの短期的利益は、既得権と化して、価格操作を延命させる強い誘因となって働く。この3年間の、燃料油補助金の度重なる延長は、この制度の慣性の強さ、正常化の困難さを、如実に物語っている。

ところでガソリン税を本則税率に戻せば、消費税を含む税額は約28円下がる。この措置がもし22年2月以降に適用されたと仮定すると、22年平均のガソリン小売価格は171円。これは補助金投入後の実際値にほぼ一致する。しかし補助金後の月平均価格が最安値168円から最高値175円、その差7円の範囲に収まったのに対し、本則税率価格は148円から184円と、その差36円の間を変動した計算になる。

特定税率を廃止し、仮に22年と同様の価格変動があった場合に、この36円の上昇を果たして「民意」が甘受するだろうか。値上がりは価格水準よりも、その上昇幅に注目が集まりやすい。「ガソリン高は政治の責任」という通念が支配する以上、今度は例えば150円程度を新たな「標準」として、補助金による価格操作が復活する可能性は十分にある。

今目指されている特定税率廃止は、ガソリン・軽油価格の引き下げそれ自体を目的としている。そこには「石油は安ければ安いほど良い」という論理しかない。実施されれば、次は価格水準を一層引き下げた補助金制度へと、容易に移行し得る。

【論考/6月13日】日本を弱体化させる燃料油補助 石油価格ポピュリズムの大罪を暴く <前編>


石油価格は政治家が決める――。これが日本の常識となった。

「ガソリン・軽油については、リッター当たり10円引き下げます。ガソリン価格が、現在のリッター当たり185円程度の水準であれば、それが175円程度になります」

4月22日、石破首相は淡々とした口調で表明した。聞いている記者団からも不審の声は上がらない。日本では、石油価格は首相の一存で決まるのだ。国際石油情勢や石油会社への言及もない。単に、与党からの提案に対応した、と言う。

昨年12月に自民、公明、国民民主の3党はガソリンの特例税率(いわゆる暫定税率)の廃止で合意した。しかし代替財源や実施時期は決まらず、本年4月初め暫定策として燃料油価格の早急な定額引き下げで意見が一致。これを受けての自公両党からの申し入れだった。

2022年1月末から続く「燃料油価格の激変緩和対策事業」はその後8回に及ぶ延長を経た後、本年1月半ば以降はガソリン基準価格を1ℓ当たり185円に引き上げて継続。本来はここから段階的に終了の予定だった。しかし今回の「定額引き下げ措置」は、5月下旬以降、国内ガソリン価格を23年10月から24年末までと同様、175円程度に再び下げようとする。

このような、政府による価格操作自体を問題視する政党は、見当たらない。国民民主党に加え、立憲民主党および日本維新の会はいずれも特例税率の早期廃止による恒久的減税を強く主張し、一層の価格引き下げを求めていた。6月11日、これら3党を含む野党7党は特例税率廃止時期を7月1日とする法案を衆院に共同提出。「国内石油価格は政治が決める」とする点においては、ほとんど挙国一致の様相を呈している。

国内燃料油価格の抑制を政府の価格補助、あるいは、やみくもな減税に頼ろうとする「財政ポピュリズム」は、日本が本来持つ創造的活力を削ぎ、国力を自ら弱める。世界の分断が一層深刻化し国際秩序が激しく動揺する今日、危険なほどに内向き・後ろ向きの姿勢と言わざるを得ない。

【記者通信/6月8日】ガス協会が新ビジョン eメタンとバイオガスで5~9割


日本ガス協会はこのほど、業界の新たな長期方針となる「ガスビジョン2050」を発表した。都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化に向け、2050年に都市ガス全体の50~90%をeメタン(合成メタン)とバイオガスで賄う目標を掲げた。都市ガス業界はこれまで90%をeメタンのみで供給する方針だった。導入比率と脱炭素化の選択肢に柔軟性を持たせた内容に見直した。

ガスビジョン2050の概要を説明する内田会長(3日、東京都千代田区)

新ビジョンの前身に当たる「カーボンニュートラルチャレンジ2050」(20年11月策定)では、30年に都市ガスの1%以上をe-メタンで供給し、50年には90%をeメタン、5%を水素の直接利用、残る5%をバイオガスやCCU(CO2回収・利用)やCCS(CO2回収・貯留)などの脱炭素化の手法で供給し、都市ガスのCN化を目指す計画だった。

これに対し、新ビジョンではバイオガスと天然ガスの役割を拡大した。30年に都市ガスの1〜5%をe-メタンとバイオガスで供給。50年には両者の導入比率を50〜90%まで引き上げる。供給手段としては、海外からの輸入や地産地消型の製造などを想定する。

残る10〜50%については、CCUS(CO₂回収・利用・貯留)、NETs(ネガティブエミッション技術)、カーボン・オフセットなどの脱炭素手法を組み合わせた天然ガスを供給する。具体的には、DACCS(大気中のCO2直接回収・貯留)やコンクリート原料などに利用するCCUなどの新技術の活用を視野に入れる。残り数%は水素の直接供給で都市ガス全体のCN化を目指す。

記者会見で同協会の内田高史会長は、「中小の事業者はeメタンに主体的に取り組むというのが非常に難しい。このため全国の都市ガス事業者が自分事として取り組めるビジョンにした」と見直しの意義を述べた。

見直しの背景には、2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画での方針転換がある。第6次エネ基は、50年までに90%をeメタンで供給すると明記していたのに対し、第7次エネ基では、eメタンやバイオガスなど多様な手段を組み合わせ、50年のCN化を実現するとしている。導入比率には触れず、柔軟性を持たせた形だ。加えて、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)の観点から、天然ガスをCN実現後も重要なエネルギー源として位置付けている。内田会長は、「前回のビジョンは環境性に特化した内容だったが、今回は第7次エネ基の趣旨を踏まえ、CNだけでなくS+3Eの同時達成を図る内容にした」と強調した。

【時流潮流/6月3日】欧州で相次ぐ「脱原発」政策見直しの実情


欧州諸国で脱原発政策の見直しが相次ぐ。気候変動対策や、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア産天然ガスや原油への依存度を下げ、脱ロシアを図るためだ。

欧州では脱原発から原発推進への転換が進む。写真は原発増設を目指しているチェコのテメリン原発=筆者撮影

ベルギーは5月15日、「脱原発」政策の撤回を表明した。議会下院が賛成102、反対8の圧倒的大差で政府が提案した原発新設を認める法案を可決したことを受けてのものだ。ビエ・エネルギー相は「現実的で持続可能なエネルギーモデルに道を開く」と述べ、大きな転換点だと強調した。

ベルギーでは現在5基の原発が稼働、電力の約4割を供給している。ただ、2003年に制定した脱原発法に基づき、25年までに脱原発を図る予定だった。だが22年2月のウクライナ戦争勃発でエネルギー環境が激変する。ベルギーだけでなく、多くの欧州諸国はエネルギー源や、調達先の多角化を迫られた。

解決策のひとつは原発回帰だった。ベルギーは22年3月、手はじめに25年に運転停止を予定していた原発2基を10年間、運転を延長することを決める。今年2月に発足した新政権は、脱原発政策の廃止に踏み込んだ。

欧州諸国ではこれまで、原発事故が起きるたびに脱原発政策を採択するものの、その後の情勢変化を受け政策修正や撤回を繰り返してきた。

1979年の米スリーマイル原発事故では、スウェーデンとスペインが脱原発を表明。86年のソ連のチェルノブイリ原発事故では、オランダとイタリアが脱原発を打ち出した。11年の東京電力福島第一原発事故後は、ドイツのメルケル政権が脱原発を決め、スイスがそれに続いた。ドイツは17基ある原発のすべての運転を23年4月までに停止し、脱原発を果たした。ただ、ドイツ以外の国々は、政策を見直している。

オランダは現在、大型原発2基の新規導入を目指している。80年の国民投票で脱原発を決めたスウェーデンも、24年11月に原発を積極的に導入する政策に転換した。

注目を浴びているのはデンマーク。85年に議会が原発禁止決議を採択して以後、欧州では最も「原発嫌い」の国として知られてきたが、5月15日に議会が原子力利用の可能性を探る決議を3分の2の賛成多数で可決する。再生可能エネルギー導入に熱心な国で、全エネルギー供給量の8割が風力、太陽光、バイオマスなどの再生エネルギーが占めている。だが、ラスムセン元首相が「化石燃料を使わないベースロード電源は必要。原発を除外するのはばかげている」と述べるなど、原発見直しの機運が急速に高まっている。

90年に原発の運転を止め、欧州初の脱原発を実現したイタリアでも原発を再導入しようという動きが加速している。メローニ政権は、SMRの導入を視野に入れている。

ドイツでも、犬猿の仲にあるメルケル氏が導入した脱原発政策を厳しく批判してきたメルツ氏が5月に新首相に就任した。経済界も原発再稼働を強く求めており、今後の動向に注目が集まっている。

【目安箱/6月2日】トランプ大統領も参加 米国で原子力の活用計画が活発に


米国で原子力発電の建設計画が相次いで発表されている。トランプ政権の原子力建設支援も後押しした。AI(人工知能)などの発展に伴う電力需要の拡大を見据えたものだ。それを点描してみよう。

トランプ大統領は5月23日、原子力の活用を目的とした大統領令に署名した。

大統領は、AIや量子コンピューターなどの将来的な広がりを見据え、「十分なエネルギーの確保は安全保障上、重要だ」とした上で、原子力が先端技術、米国に豊かな電力を供給するとしている。
アメリカで原子力発電所の建設や運転の許認可を行う、NRC(原子力規制委員会)の改革を進め審査を迅速にする、新型原子炉の導入を促すため規制やコスト面での参入障壁を下げること、すでに停止している原発の再稼働を支援するなどの政策を打ち出した。

新型炉では10年以上かかるケースもある新しい原発建設の許認可について、最終的な決定までの期限を1年半以内に定めるといった目標を示している。トランプ政権が打ち出した、「エネルギーの優位性」(エナジー・ドミナンス)を形にしようとしている。

投資会社のゴールドマン・サックスが2024年4月28日に発表したレポート『AIと電力:データセンターとこれからの米国の電力需要の急増』によると、2023年から30年にかけて、データセンターの電力需要は年平均15%の成長率で増加し、必要な追加発電設備容量は2024年から30年に4700万kW以上になると予想される。そしてデータセンターの米国での電力需要に占める比率は2023年には3%だが、30年までに8%に増える見込みだ。AI用電力需要は、2024年から30年にかけ2000億kWh増えるとされており、これが電力需要の急速な増加を牽引する。これに政権は応じようとしている。

◆素材製造業のダウが計画

米国の物質・材料系科学素材企業グループダウ(以下ダウ)、そして新型原子炉を開発するXエネジー(以下X社)は3月31日、テキサス州にあるダウのシードリフト工場での小型原子炉の建設を米国の規制当局に申請した。ダウはこの工場にある発電と蒸気供給システムを、小型モジュール炉(SMR)に置き換える。米国ではAI化の進展による電力需要の拡大予想の中で、SMRの建設が関心を持たれている。製造業が工場内に自社電源として原子炉を作る例はなかった。これは産業施設での原子力利用のモデルケースとなる可能性がある。

このプロジェクトは米国エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラムによって支援されているという。X社の提供するSMRを使う予定だ。この工場ではプラスチックなどの化学素材を製造している。工場内の蒸気と電力に使い、余れば売電する計画だ(ダウ・プレスリリース、25年3月)

建設許可の承認は最大30ヶ月かかる可能性がある。設置の設備容量、建設と稼働の時期とコストについては、明確に両社は示していないが、報道によると運転開始は「2030年代初頭」が見込まれている。

X社は同社の製品によって「米国の急速な電力需要の増加に、対応できることを実証する」と、この事業の意義をプレスリリースで表明した。

◆ハイテク企業で広がる原子力活用の動き

米国では、生成AIの成長に伴いデータセンターの電力需要が急増する見通しだ。それを見据えて投資に動いているのが、グーグルやマイクロソフト、アマゾンといった米ビッグテック企業だ。

グーグルはAIの利用拡大に伴う電力需要を満たすため、SMRからエネルギーを購入する協定を結んだ.マイクロソフトは、1979年に2号機が事故を起こした米国のスリーマイル島原子力発電所の事故を起こさず2019年に停止した1号機を再稼働させ、供給が再開される電力を購入する計画を発表した。米エネルギー企業コンステレーション社の事業を支援する。アマゾンもX社などいくつかの会社のSMR事業に投資をし、そこからの電力供給を目指す計画を明らかにした。

ダウの計画は、米国でのテック企業の電力調達の流れが、製造業にまで広がったことを示すものとして、米国の経済ニュースでは大きく取り上げられた。しかし日本のメディアでは報道が少ない。これまでの原子力報道で揃って反原発を唱えたために、記事にしづらいのかもしれない。ただし、私たち一般人は日本のメディアの事情など関係ない。世界のビジネスの潮流をしっかり捉えればよいだけだ。

供給力増加の政策は必然、原子力再稼働を

SMRはまだ開発中の技術だ。それでも自社でSMRを整備する方が、安く安定的で脱炭素電源を獲得できると、ダウ、グーグル、アマゾンは判断したのだろう。既に停止したスリーマイル島原子力発電所を再利用するマイクロソフトの選択も、今の発電所建設のコストの高さを考えるとあり得る考えだ。

日本の場合には、電源確保でもっと安く簡単な方法がある。止まっている原子力発電所を再稼働すればいいだけだ。東日本大震災と福島原発事故から14年が経過しても、国内で再稼働している原発は、25年4月時点で全36基のうち、8発電所14基だ。厳格な原子力規制によるものだ。

AIによる電力需要の増加は、米国だけではなく世界的な動きだ。それに途上国の成長による電力需要の増加は続く。この環境の変化で、供給力を確保する必要がある。米国の企業が動いているように、原子力発電の活用はその答えの一つだ。

日本には世界の潮流を知らないかのような原子力発電の廃絶を求める不思議な政策を主張し続ける政治家、メディア、一部の専門家がいる。そして、それらの人々に配慮したのか政府の原子力政策はゆっくりとしたもので具体的な動きは少ない。電源の整備は何年もかかる。米国企業の動きの速さ、見通しの長さに比べると、日本の官民の鈍さは、とても不思議に思える。