ENEOSホールディングス(HD)社長に宮田知秀・副社長執行役員が4月1日付で就任した。女性への不適切行為で経営トップが2年連続で辞任したスキャンダルの後だ。日本を代表する大企業の企業の奇妙な事件だが、新聞報道は少なく浅い。なぜだろうか。
◆「2年続けてセクハラ不祥事」のなぜ?
同グループの売上高(予想)は2024年3月期で13兆4000億円と日本有数の大きさだ。石油元売り、非鉄金属、資源開発の各分野で、この10年の経営判断が次々と成果を出して業績は好調だ。会社の評判も良い。ところが経営トップは異様な行動をした。
杉森務前会長は22年8月に「一身上の都合」で辞任。ところが週刊新潮が「沖縄での代理店向けの酒席で女性に杉森氏が絡み、ケガまでさせた」と辞任の理由を暴露。同社は追加発表をして、新聞は「ENEOS前会長、女性へ「不適切な言動」―辞任理由を公表」(日経、同年9月22日)などと伝えた。各新聞は週刊誌に先を越され、事件の真相をつかめなかった。
さらに斉藤猛前社長は令和5年12月、酒席で酔って女性に抱きつき、それが内部通報で発覚し解任された。
2人のトップは、合併が繰り返された同社では、旧日本石油の営業・企画畑の出身。大方の予想通り、旧東燃出身で技術畑の宮田知英副社長が、4月1日に社長に就任。宮田氏は「経営層が問題起こさない仕組みが不十分だった」と述べ、社内改革を進める意向を示した。
◆物足りない報道 企業の内部に踏み込めない
ところが報道は物足りない。「ENEOSHD社長解任、斉藤氏―2代連続で不適切行為」(日経、22年12月21日)などと、ENEOS側の発表を単に伝え、会見をそのまま流す記事ばかりだ。「水商売の女性に性暴力、相次いだ退場―ルールに昼夜の境なし」(朝日、22年9月28日)など、新聞の好きな女性の権利問題に引き寄せた記事は散見された。その視点は大切だが、それ以外に企業ニュースとして伝えるべき論点は多い。
辞職した2人は有能な経営者だったとされるが、なぜこんなことをしたのか。「仕事さえできればいいという古い価値観が会社に残っている」(同社中堅)という。どこの企業にもありそうな社内文化の「古さ」の根本的問題に迫るような記事は、多くの読者の興味を引くはずだ。
一方で、経営層による不祥事が起きても対処する仕組みをすでに作っていたため、問題発覚で是正をしたのは、ENEOSの経営の評価すべき点だろう。
ENEOSほどの大企業でも、日本のメディアは食い込んでいないため、広報発表に頼らずに独自の情報をなかなか集められないようだ。
◆企業取材の量が減っている?
総務省統計局によれば日本には368万社の企業があり、5795万人の従業員が働く(令和3年6月1日時点)。企業は現代日本で、大きな存在感を持つ。ところが新聞・メディアの報道は行政、犯罪が中心で、企業をめぐる報道は全体の中では少ない。
メディア不況の中で、記者の数が減らされて、個別の企業取材までなかなか手が回らないのかもしれない。
また理由の一つは、日本の記者の考えの「古さ」と筆者は推測している。金儲けを批判する「企業性悪説」の人がいる。批判的な視点のみで、嫌々取材しても、企業人の本音を引き出し、読者に役立つ記事は書けないだろう。
メディア不況が叫ばれる。その理由の一つは、日本で大きな割合を占める「企業人」のニーズに、メディア側が答えていないためではないか。
ENEOSの事件をはじめ、企業という面白いテーマを分析するエネルギーが日本の新聞に乏しいのは、もったいないし不思議だ。各メディアは取材と報道に、もっと頑張ってほしい。