【イニシャルニュース】メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側 ほか


◇電力暴騰はなぜ起きた? 大手が超高値を主導か

今冬の電力業界を襲った日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格暴騰問題を巡り、大手電力会社の小売り部門などが1月初旬から約3週間にわたる超高値局面を主導した実態が明らかになってきた。

JEPXが公開した売り買い入札状況を見ると、需給ひっ迫の影響で売り札不足が続く中、システム上の最高値であるkW時999円でまとまった量の買い札(グロスビディング=取引所を介した自社取引=など)が入っていることが分かる。これが約定価格の押し上げに大きな影響を与えた格好だ。中堅新電力の幹部A氏が言う。

「これだけの規模で最高値入札ができるのは、大手電力会社や大手エネルギー会社系の新電力しかない。聞いている話では、1月初旬に親会社からの供給がストップしたT社のみならず、K社やC社、E社なども供給力確保のため軒並み最高値で入札した。インバランスは絶対出してはいけないという意識が小売り事業者全体に根強くある中、大手の動きのあおりを受け、中小の新電力も損失覚悟で高値入札を余儀なくされ、資金難、経営難に陥ってしまったわけだ。その意味では100%経営責任とは言い切れず、国に対して救済措置を求めたくなる気持ちはよく分かる」

気になるのは、別の電力関係者B氏によると、12月中旬、大手の間では「電力不足によって今後スポット市場が高騰する公算が大きいため、先物市場の活用も」との情報が駆け巡っていたということ。真偽は定かではないが、中小新電力が異口同音に訴える「情報の非対称性」が明暗を分けた可能性は否定できない。

経産省が取り組む取引市場のルール見直しがどう行われるのか。公正性・透明性確保の観点からも注目される。

◇異色のTF委員H氏 提言巡りSNSで論戦

菅義偉首相肝いりで誕生した、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」。脱原発を掲げる河野太郎・規制改革担当相の意を汲んだ環境派の委員が名を連ねていることから、「議論が再エネ事業者側に偏っている」(大手電力関係者)との批判も多い。

再エネ規制TFは菅首相の肝いりで発足

だがTFには、ほかの委員とは一線を画す異色の経歴を持つ人物がいる。元経産官僚のH氏だ。H氏は経産省では大臣官房企画官や中小企業庁に在籍した後、第一次安倍政権や福田政権では規制改革・行政改革担当相補佐官も経験。現在は政策コンサルティング業を営んでおり、政界とのつながりも深いとされている。

そんな中、H氏のSNSでは、TFの需給ひっ迫問題に対する緊急提言を巡り、エネルギー業界への造詣が深い元官僚のI氏と数日にわたり熱い議論が交わされている。

議論は安定供給を担保した上でのエネルギー供給体制を構築すべきだという点では意見が一致したものの、最大の論点であるTFの提言が新電力救済策なのかという点や、電力ひっ迫における発電事業者の責任問題については意見が収束することはなかった。

「間違いなく優秀な人だが、経産官僚とはいえエネルギー政策とは無縁の道を歩んできた。エネルギー業界の実態を分かっておらず、発言内容も振り付けた役人の意のままなのだろう。ほかの委員は既に色が付いている人々なだけに、H氏にも変な色が付いてしまうのでは」。H氏をよく知る元官僚はそう語っている。

改善すべき政策は当然あるとはいえ、薄氷の上をいくエネルギー産業が、素人考えで崩壊してしまっては元も子もない。地に足のついた現実味ある議論を期待したい。

◇大手紙にベテラン不足 迫力を欠くエネ関連記事

東日本大震災と福島第一原発事故を契機に、日本のエネルギー政策は再エネ主力化に大きくかじを切った。そんな歴史的な転換点から10年という節目が近づいているにもかかわらず、大手5紙では目を見張るようなエネルギー関連の特集は見当たらない。

「五大紙にこの10年のエネルギー業界を見続けてきた記者がほとんどいない、という事情からだろう。若手・中堅記者も、柏崎刈羽原発やほかのBWR(沸騰水型炉)の再稼働、あるいは福島第一の処理水処分問題で何か動きがあれば書きようがあるのかもしれないが、年が明けても硬直状態が続く。だから10年関連の記事は復興の内容に偏って、今この国が抱えるエネルギー・原子力問題を深掘りする記事がない」(エネルギー業界関係者)

ベテラン記者はほとんどいない(朝日新聞)

東日本大震災以降、全国紙でエネルギー問題を担当し続けてきたベテラン記者は、N紙のM氏やT氏、S紙のI氏ら、ごく少数だ。そして彼らの後継者も育っていない。これでは、10年の歩みを振り返ろうにも限界があろう。

週刊経済誌もかつては原発問題で特集を組み、メーカーと経産省の関係性や、司法などの切り口で報じてきた。が、原発特集は人気がなく、掲載すると販売部数が減る。それで、今は脱炭素化ばかり目立つようになっている。

この10年でエネルギーシステムは大きく変革し、自由化、強靭化の課題がさまざまな局面で顔を出してきた。そんな問題意識を、全国紙でもぜひ読者に伝えてほしいものだが……。

◇メール合戦で需要家混乱 K電力巡る騒動の裏側

九州K県を拠点とするK電力と、同社に電力を卸供給してきたF社との間でトラブルが生じ、需要家を巻き込んだ騒動に発展している。

2月初旬、F社がK電力と小売り契約を結ぶ需要家に対し、契約上の地位移転により今後はF社傘下の「新K電力」が供給する旨を通知。すると、即座にK電力がそれを「迷惑メール」だとして、返信しないよう要請したのだ。その後も、双方がそれぞれの言い分を主張するメールの応酬を繰り返したため、需要家は混乱の渦に陥ってしまった。

今回の騒動は、K電力の資金繰り悪化で事業継続が困難になっていたことが発端とみられる。F社がウェブ上で公表した経緯説明によると、当初は従来通りの料金水準で電力供給を継続することを目指し、資本業務提携を締結することでK電力代表取締役であるT氏と合意していた。

ところが、K電力側の事情で資本業務提携が困難に。T氏側から地位移転の申し入れがあり、これに伴い契約切り替え(スイッチング)に必要な需要家情報の提供も受けたという。

双方の主張はどこで食い違ってしまったのか。考えられるのが、この経緯説明に登場する「事業者B」の存在だ。K電力は、このBからの借り入れに対し同社の株式を担保として提供。返済できないまま、この事業者Bが担保権を実行したとみられる。K電力の企業サイトを確認すると、代表取締役はT氏のままだが、実質的な経営権はこの事業者Bに移っていると考えるのが妥当だろう。

業界関係者は、「F社はあくまでも卸決済サービスの提供会社であって小売事業に興味があるとは思えない。なぜこのような事態になっているのか」と首をかしげる。

自由化された市場では、契約トラブルが起きることは十分に想定できる。とはいえ、巻き込まれる需要家にしてみればいい迷惑としか言いようがない。今後、経営難に伴う事業からの撤退や譲渡があれば、こうしたケースが増えることは大いにあり得る。事業継承や譲渡における手続きの明確なルール化も求められそうだ。

◇第2再処理工場の建設 T電力OBが断念主張

自由化による収益減や原発安全対策費用に頭を痛める電力業界。建設費用が想定を超えた六ヶ所再処理工場を軸とする核燃料サイクルは、「重い負担」となりつつある。

さらに頭痛の種が使用済みMOX燃料だ。昨年12月、電気事業連合会は使用済みMOX燃料の再処理について「取り組みを強化する」と国に報告した。福島事故後も国・業界は全量再処理路線を維持。使用済みMOX燃料を再処理する「第2工場」についても、本格的な検討を始めざるを得なくなっていた。

しかし、第2工場の建設費用は、約3兆円の六ヶ所工場を上回りかねない。「つくってはいけない。直接処分すべきだ」。こう強調するのは反原発派関係者ではなく、T電力の有力OB。こんな声が、電力関係者の間でこれから増えるかもしれない。

【記者通信/3月5日】再エネ倍増の鍵握るのは?小泉環境相が温対法改正で言及


再生可能エネルギー導入推進の主役は地方自治体――。このほど閣議決定された地球温暖化対策推進法(温対法)の改正案は、菅政権が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を基本理念として位置付けた上で、地方自治体が再エネ導入目標を設定し脱炭素実現を目指していく方向性を打ち出した。同時に、地域の再エネ開発の促進地域を設定。地元の自治体が関与する形で再エネ大量導入に向けた環境整備を図る構えだ。

小泉進次郎環境相は3月5日の閣議後会見で、温対法改正案に言及し、「再エネの倍増を目指して取り組んでいる中で、実際に大きな鍵を握るのは自治体だ」と指摘。その上で、「今回の温対法の改正で再エネ促進区域を新たな制度として位置付ける中で、その法律を誰が使うのかといえば、自治体になる」、「(法改正の内容を)自治体に対してしっかりと伝えて、活用のための助言も含め、自治体の皆さんと一緒に取り組んでいきたい」、「自治体と組まなければ、再エネ倍増も、エネルギー基本計画も、さらなる再エネを導入をするという結果も出すことができないと思う」などと述べ、自治体の重要性を重ねて強調した。

地域の自治体が主体となり温暖化対策と経済活性化の両立を目指していくのか

環境省はかねて「地域循環共生圏」を温暖化対策の柱の一つに掲げ、地方の自治体や企業が相互連携しながら環境対策に取り組み、それを地域経済の活性化へと結び付けていく政策を展開してきた。今回の温対法改正案は、その共生圏の取り組みを法制度面からサポートするものといえる。現在、地域密着でエネルギーインフラ事業を営むガス会社や石油販売会社の役割が高まるのは間違いなく、自治体と協力しながら再エネ事業展開をどう図るのか。今後の動向が注目される。

【記者通信/3月4日】大和証券がFパワー売却か 情報通信H社と水面下の交渉


前期決算で黒字回復した新電力大手のFパワー(東京・芝浦、埼玉浩史会長兼社長)。今冬に発生した日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰のあおりを受け、再び苦境に立たされているようだ。 同社の決算期は6月のため収支状況がまとまるにはしばらく時間がかかるが、ほかの新電力同様に相当の損失が発生する可能性があるという。

そうした中、筆頭株主の大和証券グループが主導する形で、他事業者への売却を軸にした経営再建策の検討が進んでいることが、関係筋の話で明らかになった。「売却候補先として情報通信関連事業を手掛けるH社が挙がっていると聞いている」(Fパワー事情に詳しい関係者)。モバイル機器販売などのプッシュ型営業で定評のあるH社では、複数の新電力を系列に抱えるなど、エネルギー事業への参入を積極的に推進。かねてFパワーに関心を示していた経緯もあり、社債発行の幹事会社などを務める大和証券グループとの間で、水面下の交渉が行われているもようだ。

埼玉氏をはじめとする現在の経営陣はどうなるのか、200人に及ぶ社員の扱いはどうなるのか、需要家側の反応はどうなのか、何よりも今回の市場暴騰などによる負債をどうするのか。いずれにしても、大和証券グループによるFパワー再建の先行きは前途多難の様相だ。

【記者通信/3月3日】米テキサス州の電力高騰問題にみる日本への示唆


2月半ばに記録的な大寒波に見舞われた米テキサス州。氷点下の寒さで暖房需要が急増した一方で、凍結による発電所の停止で電力需給がひっ迫し、送配電網を管理するテキサス州電力信頼性評議会(ERCOT)は2月15日未明から18日にかけて輪番停電に踏み切った。

この需給ひっ迫は、電力価格の高騰をもたらした。リアルタイム市場価格が4日間に渡って上限の1MW時当たり9000ドルに達したのだ。注目されるのは、「エネルギー価格は供給の不足を反映する必要がある」として、テキサス州公益事業委員会が9000ドルに到達していなかった時間帯も含めて上限価格で精算するようオーダーを出したことだ。インバランス料金にkW時200円の上限を設け、スポット価格の高騰に歯止めをかけた日本とは反対の措置だと言える。(参考:https://www.puc.texas.gov/agency/resources/pubs/news/2021/PUCTX-REL-COLD21-021521-EMERGorder-FIN.pdf

120万件以上の需要家で停電が発生したテキサス州大手電力会社のセンターポイントエナジー社

ただ、その爪痕はあまりに深い。3月1日、同州最大の電力小売事業者であるブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻している。ブラゾス社は、16の公益事業会社を通じて州全体で66万件を超える顧客に電力を供給しているが、現地報道によると、電力価格の急騰に伴い30億ドル以上の債務を抱えることになったという。また、市場連動プランを契約している一般家庭の中には、大寒波の最中の数日間だけで電料金が50万円以上に跳ね上がったケースが続出しているもよう。ひどいところでは、請求額が180万円に達した利用者もみられた。

電力危機による経済的な損害は小売り事業者や利用者に限ったことではない。ERCOTはブラゾス社に対し担保金など21億円を請求したが、このうち18億円が未払い。同社のみならず、こうした小売り事業者の債務不履行により、ERCOTから発電設備への支払いに必要な原資も約13憶ドル不足しているとのことだ。小売り、送配電、発電、そしてもちろん消費者に至るまで、異常気象に伴う需給ひっ迫と価格高騰によって、誰かが著しく高い利益を得たとは言い難い。

ともあれ、バイデン政権が「大規模災害宣言」を発出したテキサス州に比べれば、年初の日本を襲った寒波は「数年に一度」のレベルであり、事態の深刻さは比較にならない。しかし、そうした状況下で電力不足による全国的な需給ひっ迫が発生。日本卸電力取引所のスポット市場価格とインバランス料金の高騰が長期間にわたって続いた。その影響で、電力小売り事業者の多くが苦境に立たされ、特に大手新電力では軒並み3桁億円に達する損失が発生したとみられる。

「2020年度決算の通期見通しや経産省作成の資料、関係者の話などを踏まえると、九州電力など大手電力会社の送配電部門も収支状況は悪そうだ。おそらく、最終的に利益を手にしたのは発電事業側だろう。いずれにしても第4四半期の決算が発表される5月ごろには、小売り、送配電、発電の各事業者の収支実態が明らかになるため、市場高騰による影響度合いの検証はそこから本格的に進むのではないか」(電力業界関係者)

今後の検証作業においては、対処療法的な議論に終始せず、テキサスの状況もしっかりと見極めた上で市場の在り方や制度の抜本的な改善につなげるべきだろう。

【目安箱】朝日「炎上」で再確認 科学に基づく原発事故検証を


朝日新聞の記者が2月17日に書いた記事がSNSで「炎上」した。

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から、3月10日に10年が経過する。その特集の一環で、朝日新聞は「双葉病院、50人はなぜ死んだ 避難の惨劇と誤報の悲劇」という記事を発表した。これに問題があった。

この事件は、原発事故の際に双葉病院(福島県大熊町)に入院していた高齢者を中心にした患者の避難が遅れ、医療機器などが使えずに50人ほどが亡くなった出来事だ。政府事故調査報告書によれば、大熊町が避難完了と誤認し231人の患者が大半の医療スタッフがいなくなった病院に取り残された。政府による突然の避難指示と、自治体の準備不足などで大きな混乱が生じたことが原因だ。事後的に言えることだが、この事故による放射線量では、健康被害は生じず、急いで避難する必要はなかったとみられている。

しかし、この記事では、「自衛隊や警察が放射性物質に阻まれて救出活動ができなかった」と事実を歪曲して報道。さらに執筆者の記者がなぜか防護服を着て双葉病院跡地を訪れ、その写真と映像を記事に使った。同記者は、過去にツイッターで、「科学を振りかざして、これが真実と言われてもね」と、原発の放射性物質の処理水について、他紙の冷静な報道を批判していたことも、SNSで掘り出された。取材対象に「寄り添う」と強調しながら、大量の批判に弁解を続け、さらに炎上する悪循環に陥ったのだ。

朝日新聞は放射能の恐怖を誇張した「プロメテウスの罠」という連載記事を2016年3月まで連載し、東電の社員が原発事故を際に逃げたという誤報を出した後で謝罪する騒ぎを起こした。同紙が事実に基づかないイデオロギー的な報道をして社会を混乱させるという、同じ失敗を繰り返すのは、組織として何も反省していないからだろうか。

◆過重な対策をもたらした「情報汚染」

東電の原発事故を巡り、誇大情報の拡散とそれによる恐怖の醸成、さらにメディア報道による混乱の助長は本格的に検証されていない。この原発事故で、放射線による健康被害は起きないと、直後から予想され、実際に10年経過して起きていない。その主張は、政府や国連科学委員会、国際保健機関(WHO)などが事故直後に公表したように医学や放射線学、他の原子力災害の調査に基づく科学的な根拠があった。

しかし過剰と思わざるを得ない放射線防護策が取られ続け、風評被害もなかなか消えない。当時の民主党政権によって、科学的根拠のない「年1ミリシーベルト」の被曝基準が設定され、除染、避難、食品検査が行われた。また避難指示の解除が遅れ、それによって東電の補償も巨額になった。その後の自民党政権も同じ政策を続け是正しない。一連の政策は民意を反映したものだが、その民意はデマや社会に満ちた恐怖に影響を受けている。いわば「情報汚染」が、政策に影響を与えてしまったといえよう。

こうした政策は、費用や手間に見合った効果があったかも疑わしい。福島県内の原発事故関連死は今年2月までに2317人。また福島事故の費用総額は経産省の見積もり(2016年)で21兆5000億円に上る。事故対策と福島復興を行うべきなのは当然だが、過剰な避難で健康被害が発生し、さまざまな放射線防護策で支出が巨額になってしまったわけだ。対策費は国民の税金と電気料金から支出される。

福島事故の混乱でまず批判されるべきは事故を起こした東京電力と、対策を誤った政府である。しかし二次災害と言える混乱を引き起こした情報汚染の責任の一部は、誇大情報の拡散者が負うべきではないか。そのきっかけを作ったのが、既存のメディアだと考える。

◆感情に流されない、「錨」としての科学

筆者は原発事故の後の2011年秋に、事故を巡って歪んだ情報をばら撒いていたある雑誌経営者に「評判を落とすからやめたほうがいい。科学的知見は大量に出ており、簡単に間違いを検証される」と、忠告したことがある。すると、彼は私に「原子力ムラの肩を持つのか。原発は悪だ」と激昂した。感情で物事の是非を論じる人の危うさを感じ、それ以降、彼に近づくことをやめた。朝日新聞記者の態度とよく似ている。正義である自分への批判は許さないし、それゆえに問題があっても是正しないのだ。

しかし現象は、見る人によって解釈を変えてしまう。ある人の掲げる解釈、例えば「正義」を、他の人が受け入れるとは限らない。そして解釈には感情が影響を与えてしまう。荒海のように、現象が押し寄せる現実の世界では、感情によって行き当たりばったりの解釈や、それに基づく判断をすると、人は容易におかしな方向に漂流し、溺れてしまう。

現実の荒海の中で、人を支える錨の役割をするのが「事実」であり「科学」であろう。それに基づき、解釈と是非の判断を行えば、現実から離れてしまうことも少なくなる。放射能と健康の関係について、医学や放射線学の知見はこれまでもあり、今も福島で検証が続いている。そうした事実を尊重して、この原発事故に向き合うべきだ。

東日本大震災と福島原発事故から10年。これを機に、メディア関係者はこれまでの報道を改めて検証すべきだろう。その際、科学的な知見は重要な意味を持つ。失敗した原因を示す道具にもなるはずだ。一つの考えに凝り固まった人を落ち着かせるのは難しいが、今からでも遅くはない。客観的な科学の力を使えば、原発事故後の失策は少なからず是正できるはず。そう信じたい。

【記者通信/2月19日】炭素価格付け議論が本格始動 気になる炭素税導入の可能性


1月中旬の施政方針演説で、菅義偉首相が「成長につながるカーボンプライシング(炭素価格付け、CP)に取り組む」と表明したことを受け、経済産業省と環境省でそれぞれ議論がスタートした。経産省に先駆け、環境省はCPに関する小委員会を2月1日、1年半ぶりに再開。初回は、賛成派、反対派がこれまで通りの主張を繰り返しただけで時間切れとなった。「手法ごとの課題や、成長に資するかどうか、間口を広く検討していく」(環境省幹部)と、方向性は決め打ちしないと説明。1日の会合で「CPを今年の最重要課題に位置付けたい」とあいさつした小泉進次郎環境相も、具体的な手法や考え方には言及していない。ただ、一部では炭素税導入を狙い、夏の2022年度税制改正要望を目指しアクションを起こすのではないか、と見る向きがある。

経産省は足元の導入には否定的だが・・・

一方、経産省も研究会を新設し、17日に初会合を開いた。CPには炭素税や排出量取引制度以外にも、①非化石証書やJクレジット、②石油石炭税や揮発油税などのエネルギー諸税、③FIT(再エネ固定価格買い取り制度)、④エネルギー供給構造高度化法(高度化法)や省エネ法といった規制――などさまざまな手法があると強調。これらのポリシーミックスで、短期、中長期と時間軸を意識し、企業に負担のない形で脱炭素化に向けた行動変化を促す仕組みを考えていく。「現在は脱炭素技術の選択肢が少なく、大型の税を入れても企業の逃げ場はない」(経産省幹部)と、短期的な炭素税導入は否定する。だが、長期的な考え方はまた違うようだ。

両省の審議会では、炭素価格が低い国からの輸入品に課税する国境調整措置の扱いも論点となる。EUが具体的制度設計を進め、米国バイデン政権も公約に掲げており、世界的に動きが出ている。国境調整措置を導入した場合、炭素価格が低いと相手国に判断されると不利になる。日本の場合、公式的な炭素価格とされる地球温暖化対策税(温対税)の税率は、CO2t当たり289円と高くはない。何を炭素価格とカウントするかはまさに今後の議論だが、経産省幹部も将来的に炭素税導入を検討する可能性については明確に否定しなかった。

カーボンニュートラル政策の影響に警戒も

昨年、エネルギー特別会計改正法が成立し、化石燃料の安定供給対策や温暖化対策などの財源である「エネルギー需給勘定」から、原子力政策の財源である「電源開発促進勘定」への繰り入れが可能になった。これについては、福島復興事業や廃炉対策の費用がかさむ中、新たな財源としての炭素税導入に向けた布石ではないか、との見方があった。この仕組みを、将来的に活用するようになるのだろうか。

だが、あるエネルギー業界関係者は、財源不足は慢性的な問題であり、炭素税を取ることで日本の税収が減ったら元も子もなくなると、警鐘を鳴らす。「政府はカーボンニュートラル政策に巨額予算をつぎ込むが、失敗したら借金が残る上、その時にはエネルギー多消費産業は疲弊している。しかもこの政策で生まれる商品は、飛ぶように売れるものではない。日本が輸出先として見るべき東南アジアやインドなどがCPを入れない限り買ってもらえない。本当にマーケットが取れるのか、よく議論する必要がある」と強調している。

【目安箱/2月18日】ツイッターから消えた 大手電力関係者の本音


短文投稿のS N S、Twitter(ツイッター)で、奇妙な出来事が2月の初めに起こった。いわゆる大手電力会社の中堅社員と思われる3~4人の匿名アカウントが突如発信を取りやめたのだ。書き込みでは、今のエネルギー政策への不満や、大手電力の人々が感じる被害者意識が、本音で語られていた。一体、何があったのか。

ツイッターはアカウントを登録すると、匿名で書き込みができ、フォローをした人の発言が画面に流れてくる仕組みだ。ここには「電力クラスター」と呼ばれる電力関係者らの集まりがあり、削除されたアカウントの中には1万人近くにフォローされているものあった。いずれのアカウントにも共通するのは、今冬の電力需給ひっ迫・価格高騰問題が、電力自由化での制度設計の失敗や原発停止、再生可能エネルギー偏重などによるものと指摘。そして電力自由化を主導した旧民主党政権、問題を是正しない自民党政権の政治家と、経産官僚や(旧電力の社員から見たところの)新電力の「ずるさ」を批判していた。

この削除に、ネット上では経産省が圧力をかけたのではないかという憶測が広がった。経産省筋は「あり得ない」と、その憶測を一笑に付したが、一方で「大手電力の関係者には相当不満が溜まっていたようだ」と感想を述べた。ある既存大手電力の総務部が、ツイッターなど外部への情報漏洩の注意を呼びかけたようで、それに応じて社員が自主的に発信を取りやめたらしい。

ただしこの騒動で、考えるべき問題点がある。大手電力の関係者が行政当局、会社、そして新電力など電力業界をめぐる諸状況に怒りや不満を貯め込んでおり、それがツィッターで可視化されたということだ。東京電力の福島第一原発事故、そしてそれをきっかけに社会に広がった大手電力批判、さらには電力自由化という激動に、電力業界とそこで働く人々は巻き込まれた。その過程で、鬱憤(うっぷん)が溜まっていたのだろう。

大手電力に根付く建前と本音の構図

「自分には責任のない電力の激動に巻き込まれ、私は苦労させられている。電力会社は、かつてはどの地方でも、どの産業からも尊敬され、大切にされた。電力産業は国の根幹で、それを担う誇りも持っていた。ところが今は、原発事故の責任を負わされ、批判される。経産省は新電力の肩を持ち、新電力は理不尽な要求で会社の財産権を侵害する。それなのに気候変動、脱原発、安定供給の各種対策など、責任と負担ばかり押し付けられる。給料は増えないのに残業だけ増える。私たちは政治や役人のおもちゃではない。怒らない会社の上層部もおかしい。やっていられない」

発信を停止したアカウントには、要約するとこんな発想で貫かれた投稿が並んでいた。大手電力の社員はいわばエリートで、属する会社の社風も真面目だ。不満を表立って言えない「建前」の強い組織にいる。電力業界を取材すると、社員からは最初に「建前」の話を聞くが、何度も会い、仕事以外の場で本音を聞くと、今の仕事への苦しみや不満の本音が出る。その本音と同じものが、ツイッターの一連の投稿から垣間見えた。

もちろん、このように要約した大手電力の中堅層の本音は、全てがそうだとは思えないし、立場が変われば別の意味を持つだろう。例えば、経産省や新電力の人からすれば、「既得権益を使う人の甘え」と受け止めるかもしれない。ただし「自分たちの声が聞いてもらえない」ことから発する不満が大手電力で働く人々の間で渦巻いているのは間違いない。

そうした不満や苦しみは、同情する点はあるし、その通りと思えるところもある。最近の原子力政策、電力自由化では、当事者の電力会社の意見はなかなか聞かれず、政策の変更を政治家と経産省、原子力規制庁が主導した。それによる電力ビジネスの現場では、現実を理解していない政策による混乱が確かにある。

かつては電力業界から行政への提言や政治へのロビイングは東京電力、電事連が担った。政治家の選挙協力や役所から電力業界への「天下り」もあり、電力と行政の意思疎通は、それなりにあった。ところが3.11以来、そうした業界と、政治・行政の交流は、社会から批判を受けたり、一部の政治家が攻撃したりしたことで、ほとんどなくなったとされる。行政の審議会では大手電力の幹部がオブザーバーとして顔を出すものの、建前だけが話され、現場の人々の本音はなかなか伝わらない。

現場を尊重しない行政主導は不健全

電力業界をめぐる状況は、3.11以前と今では大きく変わってしまった。時計の針は元には戻らない。かつてのような行動を大手電力はできない。以前はあったとされる「みんな仲良し」の電力業界の雰囲気が戻ることはないだろう。

しかし、今のように大手電力で働く社員の意見が尊重されない政策、業界の姿は健全とは言えない。今も電力産業を主導するのは既存の10電力で、そこで働く約18万人の従業員が業界を動かしているのは紛れもない事実だ。実務を担う人々を大切にしない政策は必ず行き詰まるし、産業を大切にしなければやがて利用者が損をする。今のように電力業界内がギスギスして疑心暗鬼に満ちれば、無意味な摩擦やトラブルも事業者間、事業者対消費者、事業者対行政でさらに増えるだろう。かつての「みんな仲良し」的雰囲気が懐かしがられるかもしれない。

電力で働く人々の声を聞き、それを尊重する。無意味な批判はやめる。ツイッターでの小さな騒動が示した重要な問題を、エネルギーに関わる人も、消費者も、考えるべき時かもしれない。

【記者通信/2月16日】北米で電力不足・価格高騰 大寒波で火力燃料制約も


北米の広範囲が異例の大寒波に見舞われている。厳しい寒さで暖房需要が増大する中、南部のテキサス州では風力発電所のブレードやタービンの凍結や燃料制約によるガス火力発電所の停止により電力需給がひっ迫。これに伴い15日午前には、同州の電力スポット価格が上限の1MW時当たり9000ドルを突破してしまった。

ダラスやヒューストンなど広範囲にわたり計画停電が実施され、同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、厳しい気象状況が緩和されるまで計画停電が継続される可能性があるとして需要家に可能な限りの節電を要請しているという。

厳しい寒さと燃料制約による需給ひっ迫――。どこかで聞いたような話だ。そう、日本においてもLNG不足による需給危機が1月に起きたばかり。自家発への発電要請などあらゆる手段を講じ停電は回避したが、テキサスでは自家発の立ち上げやDRなどを実施しても不足し、大寒波に襲われているにもかかわらず停電せざるをえない状況に陥ったという点で、日本よりもよっぽど深刻な状況だと言える。電力自由化の先進地であるテキサス州も、厳寒で20GWもの火力発電所が停止することまでは予想できなかったようだ。

アナリストは、「発電事業者は、ガスパイプラインを使用する権利をノンファームで押さえている。寒さでガスの需要がパイプラインの供給能力を超えてしまい、燃料を供給できなくなってしまった」と、テキサス州の燃料制約の理由をこう説明する。別の学識者は、「テキサスが容量市場を持たない『エナジーオンリーマーケット』であることも背景にあるのではないか」と話す。需給ひっ迫時には卸電力価格を人為的にスパイクさせることで電源への投資を呼び込む考えに基づいているが、実際は、風力の導入拡大に伴い厳気象時の頼みのはずの石油火力が退出してしまった。何度か容量市場導入の議論は持ち上がってはいるものの「社会主義的だ」として政治家によって潰されてきた経緯がある。他方、北米最大の独立系統運用機関であるPJMは、容量市場を導入し予備電源として石油火力を備えているためこうした危機には強い。

電力業界関係者からは、「一部の学識者や新電力関係者が世界的に長時間に渡る市場価格高騰など起きていない。日本の1月の市場価格高騰は世界的に類のない極めて異常な『災害級』の事象だと主張していたが、そうではないということがこれではっきりしたはずだ」という声も聞こえてくる。特に今年は、世界的な低気温で英国やベルギーなど各国で400~500円/kW時の値を付けている。日本の200円など低い方だというのだ。

いずれにしても、自由化の進展度合いに関係なく、再エネが発電しない時には火力に頼らざるをえず、その火力は燃料がなければ発電できないのだ。電力システム全体として安定供給をどう維持していくのか。海外事例もよく検証しながら日本固有の課題も踏まえた上で電力システムを再構築していく必要がある。

IDIインフラで内紛劇 埼玉氏らが大和証券を提訴


エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズ(荒木秀輝社長)を巡り、50%株主である埼玉浩史氏らのIDIグループと、残り50%を出資する大和証券グループ本社による内紛劇が起きている。
新電力大手Fパワー(埼玉会長兼社長)の株主であるIDIインフラの社長はもともと埼玉氏が務めていたが、昨年10月30日の取締役会で、大和側の役員が埼玉氏の善管注意義務違反などを理由とした緊急動議で社長を解職。後任に大和側の荒木氏が就いた。
埼玉氏らIDI側は、解職の前提となった外部調査報告書が「恣意的で不合理」と指摘。独自に実施した内部調査などをもとに11月24日、大和証券と役員を相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたのだ。今年1月18日に初の口頭弁論が行われた。
なぜ、こうした事態になったのか。関係者によれば、Fパワーが2年前に大幅赤字となった後、大和側が同社を減損処理したことが背景にあるという。IDIインフラに社長を送り込みながら連結対象から外していること自体が不可解だ。訴訟裁判の行方はいかに。

東電EP巡り増資の噂 市場高騰で一層打撃か ほか


東電EP巡り増資の噂 市場高騰で一層打撃か

東京電力エナジーパートナー(EP)を巡って、エネルギー業界内にはいまだ「厳しい経営状況を立て直すため、第三者割当増資に踏み切るのでは」との観測が絶えない。
東電事情に詳しい市場関係者のA氏によると、増資引受先の候補として名前が上がっているのが、大手エネルギー会社のC社、E社、K社、O社、また大手商社のM社などだ。「東電EPの直接のライバルである東京ガスや、そこと連携している大手エネルギー会社のT社やK社は候補には上がっていないもよう」(A氏)だという。
年初来の日本卸電力取引所(JEPX)におけるスポット価格の異常高騰は、電力小売り事業者の経営を直撃する見通しだ。
「さすがにスポットがkW時250円まで跳ね上がったら、市場依存型の新電力は言うまでもなく、市場調達率の低い電力小売り事業者もアウトだろう。インバランス側で乗り切ることになると思うが、テプコカスタマーサービスを抱える東電EPへの影響は少なからずあるのではないか」(大手電力会社関係者)
JEPX価格の異常高騰に対応するため、経済産業省は1月15日、インバランス等料金単価の上限を需給ひっ迫時に限りkW時200円とする措置を、2022年4月の導入に先駆けて17日から適用すると発表した。市場崩壊を防ぐための措置だが、関係者の中には「結果的に、東電EPの救済にもつながりそうだ」と見る向きも。
東電の経営再建を図る「新々総合特別事業計画」のレビュー公表が延び延びになっているが、今回の事態を受けて、さらに延期されることになるのか。

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市場暴騰でS電力解約 立民党議員に批判殺到

電力需給がひっ迫したことで、JEPXスポット価格が200円を超えた。そうした中、立憲民主党に所属するS参院議員のSNSが物議を醸している。S議員は、再エネ100%電気をうたい文句にしたS電力と、JEPXと連動して電気料金が変動するプランに加入していた。
しかし、JEPX価格は平時の10倍をはるかに超える水準まで暴騰。「企業理念は素晴らしいが、料金10倍はおかしい」との理由でS電力を解約し、暴騰分の電気料金を分割払いできる再エネ系新電力のM電力に切り替えたとSNS上で報告した。
この行動に対し「再エネ推進を目的にS電力を選んだのに、料金が上がったからといって見捨てるのか」と批判が殺到したのだ。
厳しい批判を招いたのは、立民党が原発を否定しているため。「日本と同じく電源構成がLNG火力に偏重し、かつ日本より高緯度に位置する韓国では、このような事態に陥っていない。それはひとえに原発が安定供給を支えているから。党綱領にまで『脱原発』を書き込み分裂した立民党の議員が、こうした事態に陥っているのは皮肉だ」。業界関係者はこう揶揄する。

立憲民主党は「反原発」を掲げている


ちなみにS議員は、参議院の「資源エネルギーに関する調査会」の委員も務めるエネルギー通の議員。今回の問題について「再エネを大量導入していれば、防ぐことができた」と強調。この発言にも多くの非難が集まり、文字通り火に油を注いだ。

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頼みの綱はS紙 エネ庁幹部が急接近

「最近のエネルギー報道を見ていると、大手紙で頼りになるのはS紙だけだ」。ある資源エネルギー庁幹部はこう漏らし、S紙の担当記者と会う時間を増やしているという。
エネ庁はもともと政・財界に強い影響力を持つ大手経済紙、N紙を別格扱いしてきた。だが、N紙は最近、担当デスクの意向で再エネに肩入れしすぎ、バランスに欠いた報道が目立っている。エネルギー関係者の間では、「最近のN紙はおかしい」との声が強まるばかりだ。
エネ庁幹部はこれまでN紙に対し、公平な視点で報じるよう申し入れてきたが、再エネ偏重の報道は変わらなかった。カーボンニュートラルが大きな政策課題に浮上する中、エネ庁も目をつぶれなくなり、N紙との距離を取り始めたという。
ただ、その矢先、年明けに顕在化した電力需給ひっ迫のニュースで、N紙が盛り返し始めた。新型コロナ拡大に伴う緊急事態宣言の陰に隠れ、テレビも一般紙もほとんど報じなかった中、N紙は専門紙に続き、いち早くこのニュースを深掘り。N紙らしく、多方面への取材で他紙を一歩リードしている。
件のデスクも、大規模停電の危機を目の当たりにして、再エネの実力を見直し始めたとか。ただ、肝心のエネ庁が需給ひっ迫をそれほどの危機と認めておらず、一度広がった距離は縮まりそうもない。

【記者通信/2月5日】新電力を襲う「3月危機 」独自取材で実態浮き彫りに


昨年12月下旬からの急激な電力需給ひっ迫を受けて発生した、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰。最高値でkW時当たり251円を記録するなど、1月初旬から中旬にかけては連日100円超の高騰局面が続いた。これは平時の数十倍に相当する水準であり、卸市場からの調達に依存する電力小売り事業者にとっては大きな打撃となった。エネルギーフォーラム編集部では、大手エネルギー系から独立系、地域系、再エネ系までさまざまな小売り事業者を取材。そこから聞こえてきた悲痛な声を紹介する。

「経営努力が水の泡に」「夜も眠れず」

「JEPXからの調達は全体の2割弱だったが、1月の高騰時には毎日のように二けた億円規模の損が発生した。1月全体での赤字幅はなんと数百億円に達する。親会社や金融機関などからのまとまった資金調達によって何とかしのぐことができそうだが、この危機的局面で一部の電力会社がとんでもない超過利潤を手にしたという話を聞くと、どうにも納得がいかない。確かに、難を逃れた新電力もあったが、経営努力の結果というわけではなく、たまたまそういう事業環境下にあったという要素が大きいのでは」(大手エネルギー系A社幹部)

「中堅ながら自社で火力電源を保有し、有事もにらんだ電力調達のポートフォリオを構築していたのだが、それでも卸市場の高騰は痛かった。1月全体の赤字幅はざっと二十数億円に達する。悲願の株式上場を視野に、懸命な経営努力によって財務体質を強化してきたのだが、わずか1か月弱の市場混乱の結果、これまでの努力が水泡に帰そうとしている。茫然自失の状態だ」(中堅独立系B社幹部)

「1月中旬ごろは、本当に卒倒しそうだった。当社は地域新電力として地元企業からの協力を受け、地道に経営を拡大し、昨年にようやく黒字転換が実現したばかり。それが、今回の問題により、1月中だけで数億円の赤字に。すごろくで言えば、順調に進み始めた矢先に突然、振り出しに戻された形だ。インバランス清算が4月上旬にくるが、そこは地元金融機関などの協力を受けて何とか乗り切れそうだが、勉強代としてはあまりに高い出費となった」(地域系C社幹部)

「当社の電力は、地元の再エネ電力から7割近くを調達しているが、FIT特定卸供給制度によって市場連動となっているため、予想をはるかに上回る影響が出た形だ。一時は1日当たりで電気料金収入の10倍以上の支出があり、全体では数千万円の赤字に陥った。もはや経営を続けることはできず、事業譲渡を考えている。社員のことを考えると、夜も眠れない」(再エネ系D社幹部)

新電力の「JEPX離れ」が加速するか

関係者によれば、インバランス清算の支払い時期となる3~4月には、電力小売り700弱の事業者のうちの相当数が経営危機に見舞われるもよう。今回のJEPX高騰を巡っては電力市場設計の在り方を問題視する声が、業界内外から噴出。一部の新電力関係者の陳情を受け、自民党議員も動き始めた。

電力事業を所管する経産省は、特定の新電力を優遇するような救済措置には難色を示しているが、制度の見直しには前向き姿勢。梶山弘志・経産相も2月5日の閣議後会見で、「(再エネ総点検タスクフォースなどの指摘を踏まえ)包括的な検証を実施の上、安定供給確保や市場制度の在り方などについて検討していく」と言及した。ただ新電力の中には、今回の反省から相対契約による電力調達に切り替える事業者が増えているとみられ、今後JEPX離れが加速する可能性も。電力全面自由化から5年を経て、電力市場は大きな曲がり角を迎えた格好だ。

大飯4号機で原子炉起動 需給改善も脱原発派「待った」


関西電力の大飯原子力発電所4号機(出力118万kW)が、昨年11月からの定期検査を終えて1月15日に原子炉を起動、翌16日に臨界に達した。調整運転が順調に進めば、2月中旬にも本格運転を再開する。これにより、昨年暮れから続いていた関電エリアの電力需給ひっ迫状況は大きく改善され、大規模停電のリスクも解消されることになる。

しかし、この動きに待ったをかけた人々がいる。脱原発派だ。福井県などの住民は14日、大阪地裁が原子炉設置許可の取り消しを命じた大飯原発3、4号機について、控訴審の判決が出るまでの期間、設置許可の効力を停止するよう大阪高裁に申し立てた。一部報道などによると、住民側は「関電の想定を超える地震が起きれば、原子炉事故により重大な被害を受ける可能性がある」との理由から、「運転できないようにする緊急の必要性がある」と主張している。

これについて、エネルギー業界の幹部は「大飯原発を稼働させないことの方が、大規模停電などで(需要家が)重大な被害を受ける可能性がある。脱原発派の主張は正反対であり、『運転させるようにする緊急の必要性がある』のは明らかだ」と指摘する。

電力不足が続く状況下で、大飯を動かすリスクと、動かさないリスクのどちらが高いかといえば、明らかに後者だ。「突然の大停電が起きたとき、いま最も大変なのは新型コロナ患者を受け入れている指定病院だ。非常用発電機が動かない事態も考えられ、人工呼吸器や人工心肺装置などの運用に支障が出たら、単なる停電では済まされないだろう」(前出幹部)

大阪高裁には、冷静な司法判断が望まれる。

【記者通信/2月4日】経営難の新電力救済を 内閣府TFメンバーが緊急提言


内閣府に設置された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」のメンバーである大林ミカ(自然エネルギー財団事務局長)、川本明(慶応大学特任教授)、高橋洋(都留文科大学教授)、原英史(政策工房代表)の4氏は3日、昨年末から続いた電力需給のひっ迫と市場価格高騰問題に対する緊急提言を連名でまとめた。

提言内容は、①当面の供給力(売り入札)確保、②徹底した真相究明、③価格高騰に関する正確な状況説明、④新電力等の緊急支援、⑤市場制度の再設計、⑥構造的問題への対処――の6項目で構成。特に④の新電力支援では、発電事業者と一般送配電事業者双方に支払い猶予や遡及適用による負担軽減などを強く求めている。

具体的には、発電事業者に対してはスポット取引決済における支払い期限の延期や分割払い、約定価格の遡及的見直しの検討すること。一般送配電事業者に対しては、インバランス精算において一定の値を上回る場合に限界費用ベースの料金を別途設定し遡及適用で新電力に差益を還元することや、FIT特定卸の調達価格についてFITの買い取り価格を上限に設定し、この上限価格を昨年12月20日まで遡及的に適用し差益を新電力に還元することだ。

今回の市場価格高騰では、多くの小売り電気事業者の経営が窮地に陥っており、制度見直しが急がれるのは確か。ただ、自由化された市場において、不測の事態により一方のプレーヤーに不利益が生じたからといって価格やルールの遡及適用が認められるのか疑問符が付く。「価格の遡及適用だけは認めるつもりはなかった」(事情通)経産省が、この提言を受けてどう動くのか注目される。

【特集1】制度欠陥や電源問題が一気に露呈 世界屈指の安定供給体制に赤信号か


かつて世界屈指を誇ったわが国の電力安定供給体制に、いよいよ赤信号がともろうとしている。年初の電力市場を襲った危機は、システム制度の欠陥や電源構成偏重の問題を一気に露呈させた。

「長らくエネルギーの仕事に携わっているが、こんな事態はいまだかつて経験したことがない」。電力、ガス、石油などエネルギー各社の幹部が、計ったように口を揃えるのも珍しい。

新型コロナウイルス禍で自粛正月を余儀なくされた年明け早々、わが国の電力市場に二つの危機が襲いかかった。一つは、LNG火力の燃料不足や予想外の大寒波などに端を発する「電力需給ひっ迫」。もう一つは、日本卸電力取引所(JEPX)の「スポット価格暴騰」だ。

まず需給ひっ迫を巡っては、昨夏ごろから大手電力各社がLNG火力燃料のだぶつきで在庫を絞り込んでいた影響が裏目に出て、12月に在庫不足が顕在化。全国のLNG火力が出力低下を余儀なくされた最中の年末年始、北~西日本の日本海側が例年より一足早い大寒波・降雪に見舞われたことで、電力需要が一気に拡大した。

悪天候のため頼みの綱の太陽光発電は稼働せず、ピーク電源の石油火力も半分近くが燃料の調達が間に合わず停止状態に。電力各社は大規模停電などの突発的事態を回避すべく、24時間体制で供給力確保に当たった。

そんな状況下で発生した二つ目の問題が、JEPXのスポット暴騰だ。昨年12月中旬から上昇傾向が鮮明化し始め、1月15日受け渡し分ではkW時250円の史上最高値を記録した。これは平時の数十倍に相当する水準であり、卸市場からの調達に依存する電力小売り事業者にとっては大打撃となる。

最高値を記録した1月15日のJEPXスポット価格(システムプライス)

「買い手側の支払い期日は取引日の2日後。とてもではないが、資金繰りがもたない」。中小新電力から悲鳴が聞こえる中、経済産業省はインバランス料金の上限価格をkW時200円とする事業上の救済に乗り出したが、「200円では焼け石に水。さらなる措置が必要」(新電力幹部)との声も。その一方で、大手電力関係者を中心に「市場依存経営の結果、資金難に陥ったからといって安易に救済するのはおかしい」といった不満も噴出している。

一連の事態は災害級!? 経産省は節電要請を否定

「さまざまな影響が複合的に出たために起こった事象。災害に近いという発想が必要ではないか」。1月19日に開かれた経産省の有識者会合で、委員の松村敏弘・東大教授がこう述べると、複数の委員やオブザーバーが災害級との見解に同調した。災害級なら東日本大震災時がそうだったように、新電力救済などで制度上の特例措置が適用されてもおかしくはない。

市場連動型は本当にお得? 話題の電気料金プランを検証


昨年暮れからの電力不足を背景に、日本卸電力取引所のスポット価格が異常な高騰局面に突入した。一部の新電力が提供する「市場連動プラン」への関心が高まる中、電力関係者が独自検証を試みた。

2016年の電力小売り全面自由化によって、それまで単なる値下げ合戦の世界だった小売業界に多彩な事業者が参入した。資源エネルギー庁の言葉を借りると、「ライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになった」のだ。

実際に、「電気代の一部がスポーツチームに寄付されるプラン」「特定の発電者に対して応援金を支払うことができるプラン」「電気が100%再生可能エネルギー由来のプラン」「地産地消のプラン」など、これまでになかった料金メニューが登場してきた。

とはいえ、経済合理性が電力メニュー切り替えの検討における重要な判断基準であることに変わりはない。そうした中、全面自由化前まで一般的だった「大手電力会社のメニューよりも(従量料金単価や基本料金単価が)単純に安価」な料金メニュー以外にも、独自の算定式に基づく料金メニューが現れている。

「燃料調整費なし」「一段階料金のみ」「基本料金無料」といったものや、「市場連動」と呼ばれるメニューだ。

市場連動の仕組み 傾向は右肩下がり

中でも、今の注目は「市場連動」である。これは料金算定に当たって、日本卸電力取引市場(JEPX)の価格変動を実質的に加味するメニューのこと。「実質」としているのは、JEPXからの調達に依存する事業者が「電源調達コスト」を参照するなど、実質的にJEPX価格の影響を受けるメニューが存在しており、それらは「同じようなもの」として扱うのが妥当だと考えられるためだ。

図1は11年6月から20年12月までのJEPX東京電力エリアプライス(月次単純平均)の推移である。原油価格の変動やFIT(固定価格買い取り制度)による再生可能エネルギー大量導入、コロナ禍による電力需要の減少―など、原因とされる要素はさまざまではあるものの、大きなトレンドとしては右肩下がりとなっている。またJEPXでは発電事業者に限界費用でのタマ出しが求められていることも相まって、実質的に変動費マーケット化したJEPXのスポット市場は、基本的には再エネ電源のさらなる導入によって右肩下がりで推移するものと思われ、その前提で戦略策定している事業者もあると思われる。

図1 月間平均価格(東電エリアプライス)

基本的に小売り事業者は発電事業者やJEPXなどから電力を仕入れ、その金額に託送料金・再エネ賦課金・販促費(代理店手数料など)などを加えて販売単価を設定している。仮に全量をJEPXから調達していると仮定すると、大手電力の通常料金メニューの料金計算式と、自社の調達コストは連動しない。大手電力メニューに対して単純に安いメニューを新電力が提供する場合、市場調達コストが多少上がっても黒字が確保できるよう、マージンを厚めに持っておこうという判断になるだろう。

一方、販売価格が仕入価格に連動するメニューを採用している場合は、仕入価格の変動リスクを負わないため、市場価格変動に備えた割増マージンを吐き出し、結果的に安い料金メニューを実現することができる。さらに、前述の通り市場価格は基本的に下落傾向にあったことから、市場連動メニューは価格競争力のあるものになり得るわけだ。