【記者通信】高市首相のメディア対応に批判 内閣記者限定で質問制限も ※期間限定無料公開

高市早苗政権のメディア対応が物議を醸している。高市首相が大手メディアと直接対応する回数が極端に少ないためだ。しかも質問数を制限し、質問者も官邸詰めの内閣記者会加盟社の記者に限る方法を採っている。外遊時には海外メディアを締め出した経緯もある。首相周辺は「高市総理の体調や公務との兼ね合いで調整がつかない場合もある」と釈明しているが、大手メディア関係者は「実際はフリーランスやネット系、海外メディア、週刊誌記者などから予期せぬ質問攻めに遭うのを避けるためだ」と指摘する。官邸は5月から試行していた内閣広報室のXを6月2日から本格運用し、記者とのぶら下がり取材の回数を増やすことでメディア側からの批判をかわすことに躍起になっている。

幹事社1社しか質問できなかった補正予算案に関する高市首相の会見(5月25日)※首相官邸ホームページより

極端に少ない取材対応 質問も多くて3問

「質問は全社で一度だけですので幹事社からまとめてお聞きします」。2026年度の補正予算案がまとまった5月25日、官邸で開かれた高市首相のぶら下がり会見の一幕だ。

冒頭、高市首相は会見時間22分のうち12分もの長い時間を割いて補正予算についての説明。しかし記者からの質問は幹事社1社でわずか4問に限られたのだ。それも内閣記者会加盟社の記者にしか事前告知せず、記者クラブに属していないフリーやネットメディアは参加できない限られた会見だった。年度予算が始まって間もない時期での3兆円超の大型補正予算という極めて重要な案件にもかかわらずである。予算成立後など節目で時間を割いて記者会見を開いてきた歴代政権と比べるとメディア対応は雲泥の差だ。

ただこうした対応は今に始まったわけではない。高市首相は就任以来、メディアからの質問を極力避けている。例えば26年度の予算審議が大詰めを迎えている2月から3月にかけてのぶら下がり取材の回数はわずか4回。しかも質問数は多くて3問、大抵は1、2問というありさまだ。これにはさすがに記者団から「国民の知る権利に影響を与えている」との指摘が出たが、高市首相は対応を改めていない。

あまりに連れない対応に怒りを露わにしたのは海外メディアだ。5月29日の木原稔官房長官の定例会見で「(高市首相の)直近の記者会見は記者の人数も限られ、事実上質問の制限があった。高市首相は記者会見をどう思っているのか。国民向けの発言だけと思っているのか、それとももっと幅広く、海外メディアも含めて自由に質問されたことに答えることなのか。高市総理になってから海外メディアに答えたことはほぼないと思うが、それは異常ではないか」と迫った。

木原官房長官は「政府としてはあらゆる機会を通じ、国民の皆様に対して、政府としての考え方をお伝えしていくということがまず重要だと考えている。このため高市総理は、年頭であるとか、国会の閉会時、外国訪問時など、そういった節目節目に記者会見を行っている」と通り一遍の回答に終始した。

そして当の高市首相本人も6月2日の国会で「多様な方法をどう組み合わせてコミュニケーションを図るのが好ましいか、試行錯誤しながら見いだしてまいりたい」と、開き直りに近い答弁で煙に巻いた。

【記者通信】エネ代支援の補正予算案が閣議決定 危機克服の道筋見えず

ホルムズ海峡封鎖に基づくエネルギー価格高騰への対応を目的とした2026年度補正予算案が6月3日に閣議決定、国会で審議入りした。5日に成立する見通しだ。予算案の一般会計総額は3兆1135億円。具体的には、①ガソリン補助金の継続を想定し、中東問題に特化した「中東情勢等対応予備費」を創設するため、2兆5000億円を計上、②7~9月の電気・都市ガス料金について標準的な家庭で5000円程度支援するため、今年度当初予算の予備費から5135億円を支出することに伴い、予備費の使用分を穴埋め、③LPガスや特別高圧電力の料金低減を目的に、自治体の判断で使える「重点支援地方交付金」として1000億円を計上――の3本柱だ。

ロイター通信によると、補正後の歳​出は125兆4228億円に膨らみ、追​加歳出に伴う赤字国債⁠の増発で公債依存​度は26.1%に悪化。政府は当初予算の編成時​に​基礎⁠的財政収支(プライマリーバラ​ンス)が一般会計ベ​ース⁠で黒字になるとアピールしてきたが、⁠今​回の補正編成​で再び赤字に転じること​が避けられない情勢という。為替では円安が進み、3日午前時点で1ドル160円に迫る水準。11兆円規模の為替介入は帳消しになった形だ。そうした中で、今回の大型補正予算編成を巡っては、業界内外から費用対効果を疑問視する声が高まっている。

5000億円規模で電気ガス代支援も「子供の小遣いにもならない」

「7~9月の3カ月間の合計で、標準世帯にして5000円程度の電気・ガス代支援など、子供の小遣いにもならない金額だ。そのために、5000億円以上もの税金を投入する必要性がどこにあるのか。だいたい季節に関係なく、円安と原油高の局面が続く限り、エネルギー代が高止まりするのは避けられないだろう。高市(早苗)政権の人気取り政策にしか思えない」。大手メーカーに勤める横浜市在住の40代会社員は、こんな批判を投げ掛ける。

経済産業省によると、電気代の支援は一般家庭向けなど低圧の場合、7月と9月の使用分が1㎾時当たり3.5円、8月が4.5円。標準的な世帯だと、7月1490円、8月2084円、9月1536円の支援額になるという。ガス代については7月と9月の使用分が1㎥当たり14円、8月が18円だ、暮らし方やエネルギー機器の状況に応じて使用量は変動するため、戸建て住宅で在宅率の高い家庭ほど支援額は高くなる見込み。一方、ワンルームに単身で暮らし、日中不在が多く、夏はシャワーで済ませるような世帯は、恩恵を実感できそうもない。

「そもそもガスについては夏場にあまり使わず、支払う都市ガス料金もかなり安いので、補助金のありがたみを全然感じない。また、マイカーも持っていないから、ガソリン補助金も基本的に関係ない。それよりも、エアコンと給湯機がそろそろ買い替え時期なので、次は省エネタイプにしたいと考えているけど、何しろ高額。これを国が補助してくれると大いに助かる。東京都では『ゼロエミポイント』制度で買い替えを支援しているが、残念ながら埼玉県にはない。住んでいる地域によって、支援に格差があるのも納得がいかないので、ぜひ国レベルでの補助制度をお願いしたい。5000億円もの財源があれば、相当な購入支援ができるのではないか」(さいたま市在住の30代会社員)

【記者通信】国の先行く都の補正予算案 「サナエはユリコを見習うべき」の声も

東京都の小池百合子知事は5月29日、542億円規模の補正予算案を発表した。昨年の同予算は物価高対策として、夏場の水道料金無償化がメインだったが、今回はEVや再エネ・畜エネ、非石油由来製品の開発支援など「エネルギー需給構造などに向けた先駆的な施策に対し、前倒しで着手する中身」(小池氏)となった。

赤沢経産相に水素社会に向けた支援強化を要請する東京都の小池知事(右)

542億円のうち、173億円を「先駆的施策」に費やす。小池氏は29日の会見で「ホルムズ海峡がストップしている状況などを鑑みて、石油だけに依存しないで、新しい産業を生み出すきっかけにすべき」だと予算の狙いを語った。

中心となるのは、83億円を計上したEV補助金の拡充だ。車両価格の上昇などを踏まえ、上限額を引き上げる。地産地消型再エネ・蓄エネ設備や需給最適化に向けたアグリゲーションビジネスへの補助には22億円を、省エネ設備の導入運用改善支援には36億円を充て、どちらも拡充する。

ホルムズ情勢を受け、非石油製品の開発支援・利用推進にも注力する。国内で製造した持続可能な航空燃料(SAF)は新たな支援策を打ち出した。当初予算で海外製造との価格差支援を実施しているが、羽田空港で国産SAFを供給する企業に既存燃料との価格差を補助する。

都が国に先駆けて「エネ需給構造改革」

水素社会の実現に向けた自治体間連携事業には1億円を計上した。小池氏は29日、愛知県の大村秀章知事、福島県の内堀雅雄知事と首相官邸や経済産業省を訪問し、水素社会の実現に向けた支援強化を要請。GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の水素・アンモニア施策への割り当ての拡充などを訴えた。

都の補正予算案には物価高騰対策なども含まれるが、6月5日成立予定の国の同予算案とは趣が異なる。国は3兆円超のうち、ほぼ全てをエネルギー料金への補助金に充てたが、都は中長期的な取り組みが目立つ。足元だけを見る国と、未来を見据える都──。小池氏は会見で「ピンチをチャンスに変える、その時ではないだろうか」と述べたが、今回ばかりは自らが好んで使う「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」を地で行ったように見える。

「ガソリン補助金はあくまで応急措置に過ぎない。世界的な石油危機下において、政府が取り組むべきはエネルギー需給構造改革だ」。自民党の有力議員は、エネルギーフォーラムの取材に対し、こう本音を明かした。東京都は今回の補正予算編成にあたり「エネルギー需給構造の転換」を柱に掲げた。本来、国が手掛けるべき施策を、都が国に先駆けて打ち出した格好と言っていい。「サナエ(高市早苗首相)はユリコ(小池氏)のやり方を見習うべきだ」。大手エネルギー会社の元幹部は、皮肉交じりにこう話す。政府・与党は、いつになったら「補助金バラマキ」のポピュリズムから脱却できるのだろうか。

【記者通信】スマホ紛失3年間で16台 原子力規制庁の危機管理を問う

原子力規制庁の職員のスマートフォン(スマホ)の紛失が国会で問題になった。日本保守党の代表で、作家の百田尚樹参議院議員が同院の経済産業委員会で質問した原子力規制庁の公用スマホの紛失は、2023年度2件、24年度4件、25年度10件と増え、この3年で16件になった。また規制庁側は、紛失場所は明らかにしないとしている。

政府側の危機感を欠けた答弁に、百田議員は不快感を示した。「危機管理なさすぎに呆れるが、もっと驚くのは、「どこで失くしたか?」と何度聞いても絶対に答えないことだ。人を舐めているのか」と批判した。そのXの閲覧数は19万件をこえた。同意する国民が多いということだろう。百田議員の質問と答弁は、SNSやYouTubeに転載されて拡散している。

電力・原子力関係者は、このやりとりと原子力規制委員会・規制庁に、不快感を抱くだろう。同委は、その創設以来、原子力発電所の厳しい安全対策を事業者に求めてきた。そこでは、設備に加えて、人の安全対策もあった。事業者側は再稼働のために、その厳しい要求を受け入れてきた。ところが、それ規制庁側がスマートフォンさえ管理できていない。自分の管理体制に問題があるのに、他人に管理を要求できるのかという疑問を抱いてしまう。

中国への私用旅行で紛失例も

原子力規制庁(NRA)職員の業務用スマホ紛失事件は、昨年末に中国・上海での一件が明らかになった。原子力規制庁の職員が25年11月3日、私的な旅行中に、上海の空港保安検査時にスマホをなくしたもようだ。手荷物を預けた際とみられる。帰国後に3日経過した11月6日に気づき、空港などに問い合わせたが見つからなかった。

このスマホは防災に使う業務用で、核セキュリティー担当部署の非公表職員名・連絡先、職員名簿などの個人情報・機密情報が登録されていた。国外にあるため、追跡や外部ロックができないという。規制庁は、情報漏えいの可能性を否定できず、規制庁は海外持ち出し禁止を注意喚起した。それを含めて25年に12件もスマホ紛失が起きてしまった。またこれによる処分を、規制庁は公開していない。

報道によると、規制庁は約600台の防災用スマホを職員に業務のために貸与しているが管理が甘すぎる。今年5月にトランプ大統領は財界人を連れて中国を訪問した。そこでは訪問者は全員、スマホを中国国内で所持せず、自分のスマホは電源を入れなかったという。必要な人は、使い捨て携帯を国が支給。宿泊施設は完全に盗聴器調査をし、中国から送られたものは全て中国に捨ててきた。そうした情報セキュリティ対策と中国への不信を、米国は世界の報道陣に公開した。米国の姿勢と対比すると、日本の甘さが際立つ。

【時流潮流】原発促進の米大統領令から1年 見えてきた成果と課題

トランプ米大統領が昨年5月に原子力産業の発展を促す大統領令を発令してから1年が過ぎた。多数のスタートアップ企業が参入、さまざま新型原子炉の開発競争を続ける。一方で、2030年までに大型炉10基を整備する計画にはメドが立たず、成果とともに課題も見つかっている。

小型新型炉開発でリードするバラード・アトミックス社の「Ward250」。今年2月には原子炉本体をC17輸送機に積み込んだ空輸に成功した=米国防総省提供

トランプ政権は、大量の電力消費が必要となる人工知能(AI)開発で、中国との競争に勝ち抜くためには、原発を大幅に増強する必要があると位置付けている。大統領令では、2050年までに原発の発電容量を現在の4倍の400GWに引き上げる目標を掲げ、SMR(小型モジュール炉)やマイクロ炉など新型炉の早期導入を打ち出した。また、ロシア依存度が高い濃縮ウランや核燃料の米国内で自製や、中露に遅れをとっている原発輸出の促進策なども盛り込んだ。

1年を経て、最も活発な動きがあるのが新型炉の開発競争だ。大統領令を受けて、エネルギー省や軍がさまざまな支援プログラムを確立、資金面や技術面で新規参入企業を後押ししている。

エネルギー省は、米国が建国250年を迎える今年7月4日までに、少なくとも3基の新型炉を臨界させるという野心的なプロジェクトに取り組む。アイダホ国立研究所内の施設などで、臨界に向け新型炉の設置作業を続ける。

現在、先陣争いを繰り広げているのは、ウエスチングハウスの「eVinch」(出力5MW)炉、ラディアント社の「カレイドス」(同1.2MW)炉、アンタレス・ニュークリア社の「RI」(同200~300kw)炉、バラー・アトミック社の「Ward250」(同5MW)炉だ。

中でもWard250炉は、昨年11月に初期臨界を達成、7月までに発電開始を目指すなどトップランナーに位置する。今年2月には、米空軍のC17輸送機での空輸作業(写真参照)に成功、「いつでも、どこにでも、必要な場所に展開できる」炉であることを実証した。

カレイドス炉も注目の炉だ。コンセプトは、送電網にはつながず、米軍基地やデータセンターなどの施設専用に電力や熱を供給するマイクロ炉で、Ward250炉と同様にコンテナサイズで空輸できる。ラディアント社は、この炉を「世界初の量産型マイクロ炉」と位置付けており、28年から供給開始を目指す。

建国記念日までの臨界を目指す取り組みと連携し、米軍は28年9月末までに米国内の基地にマイクロ炉を設置するヤヌス計画に取り組んでいる。空軍はeVinch、カレイドス、RIの3炉を選定し、それぞれ異なる基地への配備を目指す。

「2030年までに10基整備」に暗雲 採算面で不安も

一方、課題も浮上している。そのひとつは、30年までに10基の整備が目標の大型炉建設だ。現時点では、建設に名乗りをあげる電力会社はなく、建設予定地の選定も進んでいない。建設費用が高額な上、工期の遅延も予想されるため、政府の後押しがあっても採算面での不安があるためだ。

その中で、運転を停止した原発の再稼働には進展が見られる。東部ペンシルベニア州のスリーマイルアイランド原発(出力853MW)と中西部ミシガン州のパレイセーズ原発(同800MW)が2年以内に再稼働する予定のほか、中西部アイオワ州のデュアン・アーノルド原発(同615MW)も再稼働する可能性がある。

核燃料などの米国内での自製問題は、商業ベースにのるまではまだ時間がかかりそうだ。大量の原発整備には、必要な数万人規模の労働者確保や、サプライチェーンの整備も必要となるなど課題も多い。さらなる政府の後押しが必要となりそうだ。

【ニュースの周辺】生物多様性・ネイチャーポジティブの現況と企業活動

本稿では、生物多様性・ネイチャーポジティブに関する近年の動向を企業活動の現状にも焦点を当てて見ていきたい。

さて、「生物多様性」については、生物多様性基本法に規定がある。

◎生物多様性基本法

第二条 定義「生物の多様性」

1.「生物の多様性」とは、様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在することをいう。また、「自然資本」に関する定義には様々なものがあるが、環境省・農水省・経産省・国交省が2024年3月に策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略~自然資本に立脚した企業価値の創造~」の中では、IIRC(国際統合報告フレームワーク:統合報告書のガイドライン)の定義で、自然資本には、〇空気、水、土地、鉱物及び森林、〇生物多様性、生態系の健全性、を含むとされている。

Ⅰ.「生物多様性・ネイチャーポジティブ」の意義・状況

Ⅰ-1.「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(22年12月)

22年12月、第15回生物多様性条約締約国会議(COP15カナダ・モントリオール)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。

◎22年12月「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(抜粋)

環境省「昆明・モントリオール生物多様性枠組の構造」より

*2050年ビジョン 自然と共生する世界の実現

*2030年ミッション 自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる

30年ターゲットの例は下記の通り。

<ターゲット3> 陸と海のそれぞれ少なくとも30%を 保護地域及びOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)により保全(30by30目標)

<ターゲット6> 侵略的外来種の導入率及び定着率を50%以上削減

<ターゲット15> 事業者(ビジネス)が、特に大企業や金融機関等は確実に、生物多様性に関するリスク、生物多様性への依存や影響を評価・開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じる

Ⅰ-2. 英国・コーンウォールG7サミット(21年6月)

「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(22年12月)の採択に先立ち、G7各国は21年6月の英国・コーンウォールG7サミットにおいて、〇30年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるネイチャーポジティブな経済の促進、〇自国での「30by30目標」などを約束した。

◎首脳コミュニケ附属文書「G7・2030年自然協約」(抜粋)

次の10年間を通して、我々は、生物多様性の損失を止めて反転させるために、それぞれが政府全体を基礎として動員し、(1)移行、(2)投資、(3)保全、そして(4)説明責任の4つの主要な柱にまたがる行動をとる。

(1)移行:自然資源の持続可能かつ合法的な利用への移行を主導

(2)投資:自然に投資し、ネイチャーポジティブな経済を促進

(3)保全:自然を保護、保全、回復させる(30年までに世界の陸地・海洋の少なくとも30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持)

(4)説明責任:自然に対する説明責任及びコミットメントの実施を優先

Ⅰ-3. 「生物多様性国家戦略2023-2030」(23年3月)

上記の動きを受けて、わが国も23年3月31日、生物多様性に関する国家戦略「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定した。

◎環境省「生物多様性国家戦略2023-2030の概要」より(抜粋)

〈ポイント〉

・生物多様性損失と気候危機の2つの危機への統合的対応、30年までのネイチャーポジティブ実現に向けた社会の根本的変革

・「30by30目標」の達成等の取組により、健全な生態系を確保し、自然の恵みを維持回復

・自然や生態系への配慮や評価が組み込まれ、ネイチャーポジティブの駆動力となる取組など、自然資本を守り活かす社会経済活動の推進

〈戦略〉

*2050年ビジョン 自然と共生する社会

*2030年に向けた目標  ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現

5つの基本戦略と、基本戦略ごとに状態目標(あるべき姿 全15個)と行動目標(なすべき行動 全25個)を設定。

基本戦略1 生態系の健全性の回復

基本戦略2 自然を活用した社会課題の解決

基本戦略3 ネイチャーポジティブ経済の実現

基本戦略4 生活・消費活動における生物多様性価値の認識と行動

基本戦略5 生物多様性に係る取組を支える基盤整備と国際連携

Ⅰ-4. 「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(24年3月)

「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」(環境省・農水省・経産省・国交省の連名で策定)では、経済活動の自然資本への依存とその損失は、社会経済の持続可能性上の明確なリスクとされ、社会経済活動を持続可能とするため、ネイチャーポジティブ経営への移行が必要とされた。

◎「ネイチャーポジティブ経営への移行の必要性」(上記「移行戦略」より)

豊かな生物多様性に支えられた(空気、水、土地、鉱物、森林などの)「自然資本」は、人間が生存するために欠かせない安全な水や食料の安定的な供給に寄与するとともに、防災減災など暮らしの安全・安心を支え、地域独自の文化を育む基盤となるなど、豊かな社会の礎となっている。多くの経済活動が自然資本に依存しており、かつ自然資本は継続的に劣化していることが世界経済フォーラム(WEF)などで報告されている。

「ネイチャーポジティブ経済」とは、個々の企業が自社の価値創造プロセスにおいて自然の保全の概念を重要課題(マテリアリティ)として位置付け(ネイチャーポジティブ経営)、バリューチェーンにおける負荷の最小化と製品・サービスを通じた自然への貢献の最大化が図られ、また、そうした取組を消費者や市場などが評価する社会へと変化することを通じ、資金の流れの変革などがなされる経済を意味する。

Ⅰ-5. 生物多様性損失状況(WWF(世界自然保護基金)報告)

24年10月、WWFが発表した「生きている地球レポート2024」は、生物多様性の豊かさを示す指数が自然環境の損失や気候変動により過去50年(1970年〜2020年)で73%低下したとする。

◎「ファクトシート 生きている地球レポート2024」(抜粋)

24年10月、WWFの「生きている地球レポート2024」は、自然界の現状を科学的知見に基づいてまとめており、対象の野生生物種の個体群を分析した「生きている地球指数(Living Planet Index(LPI)」も含まれる。

同報告書は、自然の損失と気候変動という2つの危機がいかに地球を危険かつ不可逆的な転換点に近づけているかを検証している。

(参照)産経新聞(24年10月10日)

「生物多様性50年で73%減」「環境損失、気候変動が影響」

地球上の生物多様性の豊かさを示す指数は、自然環境の損失や気候変動により過去50年で73%低下したとの報告書を世界自然保護基金(WWF)が発表した。哺乳類や鳥類、両生類など計5495種の生息密度や巣の数などから算出した「生きている地球指数」を用いた。

20年の指数は1970年と比べて73%減少。生息環境別では、河川や湖沼、湿地といった淡水域の減少率が85%と最大で、陸域は69%、海域は56%と評価した。地域別で最も減少したのは中南米・カリブ海の95%で、アフリカが76%、日本を含むアジア太平洋地域が60%、農地開発に伴う森林破壊など生息地の劣化や喪失が脅威になっているという。

【記者通信】エネ代補助で大盤振る舞い 補正予算案を国会提出へ

高市早苗首相は5月26日、中東情勢を踏まえた2026年度補正予算案を来週にも国会に提出すると明らかにした。総額は3兆円強。一般予備費に5000億円を計上し、夏場の電気・ガス料金支援に充てる。新たに創設した「中東情勢等対応予備費」(仮称)には2.5兆円を計上し、ガソリンなど燃料油価格の補助に活用する方針だ。特別高圧電力やLPガスの利用者への支援などを念頭に、重点支援地方交付金も追加措置する。通常国会で補正予算を編成するのは、ロシアによるウクライナ侵略でエネルギー価格が高騰した22年以来だ。

電気料金は低圧で、8月使用分は1㎾時当たり4.5円、7月と9月は同3.5円を支援する。標準的な家庭では3カ月で5000円程度の負担引き下げ効果となり、予算総額は5000億円だ。電気・ガス料金補助は23年1月~24年5月まで続き、その後、24年夏・冬、25年夏・冬、そして今年夏と、復活を繰り返している。

料金補助を実施するにしても、今回の補助額には疑問が残る。昨夏は8月使用分が1㎾時当たり2.4円、7月と9月が同2.0円で、予算総額は2881億円だった。今夏はほぼ倍増となったが、高市首相は「電気ガス料金が昨年の水準以下になることにこだわった」とされる。しかし、昨年は参院選前の「物価高対策」だったのに対し、今年は石油の国家備蓄が放出される有事下にある。なぜ今、電気代を昨年以下にまで抑え込もうとするのか、理解に苦しむ。根底には国民の可処分所得が増え消費が伸びれば、税収も自然と伸びる──といった高市氏の単純な経済観がある気がしてならない。

「170円」を誇る高市首相 野党も迎合

燃料油補助金について高市首相は、26日の会見で「米国を含めたG7で最も安い水準である全国平均170円に抑制している」と誇った。「国民、特に地方住民の生活を支えるために必要」との声も聞かれるが、これまでの総額はいよいよ15兆円を超えた。財政状況の悪化は円安につながり、ドル建ての燃料輸入費用は増え、円安はさらに加速する。円安と金利上昇が顕著な今は、財政に気を配り、ガソリンの消費を抑制させ、円安に歯止めを掛けるべき時ではないのか。

自民党の鈴木俊一幹事長が23日、福岡県で行われた自民党の会合で「大変に財政的な負担がかかるもので、今後のこともしっかり考えなければならない」と述べるなど、ここにきて党内では補助の縮小や制度の見直しが必要との声が高まっている。だが、遅きに失した感は否めない。

今回の補正予算の多くは予備費の積み増しだ。予備費は内閣の責任で迅速に支出でき、国会の承諾は支出後となる。中道改革連合などの野党は「予備費ではなくきちっとした経済対策を」と反発するが、中道、立憲民主党、公明党の3党が25日、政府に提出した緊急提言には「燃料油補助継続のための財源補填」が盛り込まれていた。「もっと出せ」との批判は起きても、「本当に必要なのか」という意見は出てこない。

野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は25日、自身のコラムで〈生活が強く圧迫される中低所得層に絞った補助金とし、全体の支出規模を抑えるべきではないか。所得制限付きの補助金が技術的に難しいのであれば、電気・ガスの補助金とともにガソリン補助金の金額を抑え、同時に低所得者向けの給付金を新たに検討してもよいのではないか〉と綴った。15兆円を投じてもなお、永田町でこうした意見が主流にならない。

重要案件で質問1社だけ マスコミ嫌いの高市首相

ここにもう一つ、重要な問題がある。年度予算が実施されたばかりでの3兆円規模という大型の補正予算編成という極めて重要な事案にもかかわらず、高市首相の会見では、幹事社の1社にしか質問の機会が与えられなかったことだ。今回に限らず、質問数に上限を設けたり、記者がぶら下がりを希望しても、要望が通らなかったりと、官邸周辺では高市氏の「マスコミ嫌い」を彷彿とさせる対応が目立つ。歴代首相には見られなかったことだ。各種世論調査では、「政府は石油の節約を呼びかけるべきではないか」との声が高まっているが、高市首相は「石油供給は足りている」を繰り返すばかりで、財政、債券安、円安などの重要問題を含めて国民の不安に丁寧に応える姿勢が欠けている。

記者会見には一部、自分の意見を延々と主張したり、会見と全く関係のない質問をしたりする厄介な記者も参加するのは事実。ただ、こうした記者の質問を巧みにかわせれば、首相の評価もいっそう高まるのではないか。

【記者通信】国が燃料油補助を見直しへ 「目標価格」から「定額」へ変更か?

エネルギーフォーラムが再三問題を提起してきた燃料油補助事業が、見直されることになりそうだ。関係筋によれば、レギュラーガソリン1ℓ当たり170円をターゲット価格に設定し補助額が変動する現行方式から、一律で定額を補助する方式に切り替わる可能性がある。それによって、利用者に価格変動のシグナルが伝わり、高騰時には節約を促す効果も期待できる。ただ、有識者の間では「補助金を中途半端に残すのではなく、財政事情を踏まえて廃止すべきだ」(市場関係者)とする見方も少なくない。出口戦略をどう描くのかも含め、議論の行方が注目される。

首都圏では相変わらず150円台の値札が目立つ(5月17日、千葉県船橋市内のガソリンスタンド)

萩生田光一幹事長代行は5月18日の会見で、イラン情勢を背景にした現在の燃料油補助について「文字通り激変緩和措置なので、この170円を全く見直しせずにこのまま延々と続けるというのも、かなり無理がある」と指摘。その上で、「新しい原油については、輸送のコストなどを含めてかなり高いものになっている。そういったことを国民に理解していただくことも、必要ではないか」との見解を示した。一方で、原油量に関しては「代替国も含めて7割くらいの供給、そして220日分の備蓄がまだある。そういう意味では量的には心配はないところまで切り抜けた」と述べた。

翌19日、赤沢亮正経済産業相は閣議後会見で、燃料油補助金の問題についてこう言及した。「燃料油価格の激変緩和措置は、ガソリン価格が200円を超える水準に急騰する恐れがあったことを念頭に、国民生活と経済活動を守るために緊急的に、可及的速やかにガソリン価格を引き下げるために講じたもの。与党からは中東情勢、価格動向、政策の持続可能性を勘案しつつ、政府として柔軟に対応すべきとの提言をいただいている。中東情勢が不透明な中、今後の物価動向や経済に与える影響を注視するとともに、経産省として必要な検討を進めていく」

そもそも燃料油の補助金制度は、萩生田氏が経産相を務めていた2022年1月に原油価格高騰に対処するための激変緩和措置としてスタートした。その後、原油高は収束したものの、今度は円安の進展による輸入コスト高が起きたことから、物価高騰対策として継続。昨年12月末、ガソリン暫定税率の廃止に伴って、ようやく終了した。しかし、そのわずか2カ月後に米国・イスラエルとイランの軍事衝突が勃発。ホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格が再び高騰したことで、3月19日に補助金が再開された格好だ。

【ニュースの周辺】中東情勢混迷の中で石油需要抑制策に関する二つの発言

米国・イスラエルとイランの戦争が長期化し、原油・石油製品に関して、需給安定、価格高騰対策、需要抑制・省エネ等多くの課題が語られる。

エネルギーフォーラム・オンラインの4月28日付〈【記者通信】経済界が需要抑制を訴えるも国は否定 脱石油政策はどこへは、〈経済界が需要抑制に向けた対策の必要性を訴えているのに対し、政府・与党が経済・社会活動維持の観点からこれを否定するという構図が見られている〉と紹介する。ここでは、いわばその後の続く話として、最近の需要抑制についての発言とそれについての政府の反応などを紹介しておきたい。

*週刊ダイヤモンド 2026/5/16号 『永田町ライブ』 後藤 謙次

連休前から首相官邸内で〈二つの禁句がある〉とささやかれている。「補正予算と節約」だ。

Ⅰ.石油連盟専務理事「早いタイミングで需要抑制策の検討を」発言

4月23日、日本テレビは、石油連盟の鈴木英夫専務理事が取材に応じて、「早いタイミングで需要抑制策の検討を」と政府に迅速な対応を求めた、と報じた。

◎2026年4月23日 日本テレビ

ホルムズ海峡封鎖による原油輸送への影響が続く中、石油元売り各社が加盟する石油連盟の鈴木専務理事は、日本テレビの取材に対し、「備蓄放出と代替調達だけでなく、需要抑制策が必要になってくる」として、政府に迅速な対応を求めました。

石油連盟の鈴木英夫専務理事が映像で)中東に原油を依存している国で需要抑制策をとっていないのは日本だけですので、いくら備蓄が長いといっても、なくなるものはなくなりますから、できるだけ早いタイミングで(需要)抑制策も検討していただきたい

政府は、ホルムズ海峡の封鎖を受け、石油備蓄の放出に加えて、アメリカなどから原油の代替調達を進めていますが、石油連盟の鈴木専務理事は、代替調達などで100%まかなうのは非常に難しい」とした上で、「安定供給をできるだけ長く持続するために、一定程度の需要抑制政策が必要だ」と述べましたその具体策としては、公共交通機関など、自家用車を使わない移動手段や、在宅勤務を推奨すべきとの考えを示しています。また、需要抑制策を打ち出す時期については、「停戦協議が決裂した場合は、決断の一つのタイミング」だとして、政府に対しても、迅速な対応を求めました。 

 (引用終わり)

◎石油連盟の修正プレスリリース

翌日4月24日、石油連盟は「4月23日の報道にある弊連盟幹部の発言について」を公表した

1. 4月23日の報道にある弊連盟幹部の発言は、今後事態が長期化した場合には、需要抑制も含めた着実な供給継続のための取組が必要ではないかと、一定の仮定を置いた発言をしたものです

2.弊連盟は、現時点で「日本全体として必要な量」は確保されており、消費者には「普段通りの給油」を求めていく方針です。従って直ちに石油製品の使用を抑制する必要があるとは考えておりません。

3.弊連盟および会員各社においては、引き続き政府と連携しながら、石油製品の供給の偏りや目詰まりの解消を含め、必要な取組をしっかり行い、安定供給を確保してまいります。

(引用終わり)

テレビ放送のあった翌日に石油連盟が上記の“修正コメント”を出したのには、政府筋から何らかのプレッシャーがあったのであろう。“修正される”羽目になった鈴木英夫氏は経産省OBで、しかも産業技術環境局長、通商政策局長を歴任した局長経験者。いたくプライドを傷つけられたと思われる。

【SNS世論】最終処分地の南鳥島案 議論で盛り上がり欠く

原子力発電での使用済み燃料を再処理した時に出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定を巡り、政府は4月に東京都小笠原村の南鳥島で文献調査を行う意向を示した。同村はその申し入れを受け入れた。これを巡るメディアとSNSの動きを考えたい。

南鳥島は父島(写真)から東南東に約1200㎞離れた場所にある

南鳥島は小笠原村の行政区域に属す日本最東端の島で、一般住民は居住していない。本土から遠いという難点はあるが、住民の反対などで処分地の選定が進まない現状を打開する可能性がある。

選定手続きの第一段階にあたる文献調査が今後行われる。この調査は北海道の寿都(すっつ)町、神恵内(かもえない)村、佐賀県玄海町に続き、4例目となる。過去の3例は地元の意思表示がきっかけだった。しかし反対意見が地元や周辺自治体にあり、反原発を唱えるメディア、政治団体がこの動きを批判した。3自治体では賛成派が多数だが、一方向に議論は進んでいなかった。

寿都町の片岡春夫町長は「やっと一歩進んだ」と、南鳥島での文献調査を評価した。(北海道放送3月13日報道)有力なライバルの出現を警戒するのではなく、国民的な議論を歓迎するという姿勢のようだ。手を挙げた自治体は、政治論争に巻き込まれ負担になる。候補地を増やすことが、現時点では逆に選定が進むことを助けるだろう。

◆関心を向けないSNS世論

SNSは最近、メディアよりも社会への影響力が大きくなりつつある。しかし、この高レベル放射性廃棄物の問題について関心を持つ人が少ない。この問題について述べる投稿や映像が少ない中で、反対を唱える一部オールドメディアや反原発の活動家の声が目立つ印象だ。

SNS世論は原子力の活用派がやや多いように思える。しかし原子力の活用と、廃棄物処分の話は、一般の人は関係づけて受け止めていないらしい。そして原子力発電の後始末の問題について解決の必要性は認めるが、NIMBY(Not In My Backyard、「私の家の庭にはお断り」)の感情が働き、推進の意見を言うことにためらいが生じてしまうのだろう。この問題は複雑で、ある程度の説明と理解が必要だ。SNSは単純な問題を善悪に仕分けて拡散することには向くが、複雑な問題の論評には不向きなメディアだ。

一方で、原子力発電を批判する人は、この問題では元気に活動する。原子力発電には膨大なメリットがあるが、廃棄物処理の点では問題が残るため、「攻め所」と張り切っているかのようだ。そして放射性物質は危険性がある。恐怖に絡められた議論をされると、論理的に反論するのは手間がかかる。

◆一部オールドメディアは南鳥島での動きを批判

一部のオールドメディアは、この問題の解決を妨げようとしているように見える。朝日新聞は4月16日の社説「核のごみ処分 徹底調査と説明責任を」で、「前のめり」「押しつけ」と、南鳥島での動きを批判した。そして離れた場所にある小笠原諸島の村民の疑問の声を紹介した。朝日はいつもの通り他人に自分の意見を言わせるずるい形の記事にしている。

毎日新聞は強い批判を繰り返す。同紙は科学面で〈「絶海の孤島」南鳥島 核のごみ処分場〉という特集(4月13日)で技術的課題をとりあげ、実現性に疑問を示した。特集面では記事〈「手挙げ式」からの方針転換 核ごみ最終処分に動いた政府〉(同日)で、政府が批判で場所の選定に行き詰まり、新しい方法で動いたと指摘する。このように一部のメディアは、解決に協力しようという意思がない。

産経新聞は〈資源に乏しい日本で原子力発電を持続可能なエネルギー源とするために極めて重要な対応である。理性ある決断に敬意を表したい〉と4月15日社説〈南鳥島の文献調査 核地層処分へ意義大きい〉で書いた。これが常識的な反応ではないか。またNHKや読売新聞は、淡々と事実を伝えるだけの姿勢だ。せめてこのような反応をしてほしい。

しかし一連の報道について、SNSではあまり反響はない。

◆今の世代が解決するべき問題

日本政府は、国のプロジェクトでは、できる限り関係者の全員一致の状況を作ろうとする。どんな問題でもそれは難しい。この高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定問題では特に全員一致の問題は難しそうだ。

しかし一部のメディアがこの問題で、マイナスの情報のみを拡散して、人々を反対の方向に動かそうとするのは問題だ。文献調査を受け入れた玄海町の推進派の住民は次のように語る。「地元で静かに議論をできる状況を作ってほしい。感情的な議論、政治運動の対象になって町が混乱するのは迷惑だ。今の時代、メディアに影響される人は少ないだろうが、情報が混乱を引き起こす可能性がある」。

高レベル放射性廃棄物の問題は、SNSには馴染まないし、人気もない。ただし一般の人は、関心を持ってほしい。それが無理でも、問題を混乱させる動きや、一部メディアの偏向報道をおかしいということをSNSでしてもらうと、ありがたい。

この問題は今を生きる世代が、解決しなければならない問題だ。私たちは大量の電気を使う生活を享受し、その結果として原子力発電の使用済み燃料が存在している。その解決の責任は、原子力の活用を賛成する人にも、否定する人にもあるはずだ。SNSの反応が、その解決の行く末に影響を与える。

【時流潮流】ニジェールで続く決死のウラン輸送作戦

世界有数のウラン産出国である西アフリカのニジェールで、決死のウラン輸送作戦が続いている。ルート周辺は、複数の過激派組織が勢力を伸ばす世界でも最も危険な地域だ。陸上輸送は難しく、異例の空輸作戦となる方向だ。

クウェート空港で荷降ろしをするアントノフAn-124輸送機。2004年、イラクに自衛隊を派遣する際、部隊の車両を運んだ=筆者撮影

サハラ砂漠の南端に近いニジェール北部のアーリット鉱山。昨年12月4日、装甲車や多数の武装車両に守られた34両のトラックの車列(コンボイ)が出発した。

トラックの荷台には長さ20mのコンテナが二つずつ載る。コンテナの中には、鉱山で採掘したウラン鉱石を精錬したウラン精鉱(イエローケーキ)を詰めたドラム缶が入っている。総重量は1050tもあり、時価換算では2億ドル(約300億円)近い。輸送先は南部にある首都ニアメーだ。

かつてはフランス領だったニジェールでは、フランスのオラノ社(旧アレバ)が長らくウラン採掘を続けてきた。その多くがフランスに運ばれ、原発燃料に加工されてきた。

だが、2023年7月のクーデターで軍事政権が発足し、情勢は一変する。新政権は、治安維持や対テロ戦争のため駐留していたフランス軍と米軍を国外に追い出し、代わりにロシアの傭兵部隊を招き入れた。

さらに、資源ナショナリズムを掲げ始める。フランスの抗議を無視してウラン鉱山の国有化に踏み切った。ウランの売り先も、これまでのフランスからロシアなど新たな顧客へと変えていく。

輸出ルートに問題発生 代替は「死の回廊」

だが問題が立ちはだかった。輸出ルートだ。従来は、首都ニアメーから南下し、大西洋(ギニア湾)に面する隣国ベナンの港に運ぶ最短ルートを使っていた。だが、ベナンには現在もフランス軍が駐留を続ける。コンボイが足を踏み入れれば、接収される可能性が高い。

ニジェールの軍事政権は一発逆転を狙い、イエローケーキ輸送を開始した直後の昨年12月7日、ベナンでクーデターを仕掛けたとされる。だが、クーデター計画は失敗に終わり、別ルートでの輸送法を探す必要に迫られた。

代替ルートはないわけではない。南下するのではなく、西のブルキナファソにいったん運び、そこから南下して大西洋沿岸国のトーゴのロメ港に運ぶルートだ。だが、国際テロ組織「アルカイダ」系や、過激派組織「イスラム国」(IS)系の武装集団が横行する「死の回廊」と呼ばれる危険な地域を通り抜ける必要がある。

国連によると、24年の世界のテロ犠牲者のうち半数がニジェールやブルキナファソがあるサヘル地域で起きている。被害者数はこの5年間で10倍に増えた。その地域を突っ切るのは、あまりにも過酷な作戦となる。フランスのメディアは映画になぞらえて「マッドマックス作戦」とはやしたてる。

八方塞がりとなったニジェールの軍事政権は、コストは張るが、空輸に切り替える算段を進めた。ロシアの輸送機で運び出す考えだ。

今年に入り、ロシアの超大型輸送機「アントノフAn124」がニアメーに飛来するようになった。積載能力は世界最大の100㌧もある。10往復すればイエローケーキ全量を運び出せる計算になる。

だが、首都ニアメーといえども治安は万全ではない。今年1月26日、IS系の武装集団の部隊がバイクに分乗し、ドローンも使い空港を襲った。政府軍はロシア軍の応援を得て、約1時間におよぶ戦闘の末に20人を殺害、撃退に成功した。空港内の倉庫などには、まだイエローケーキが残っているとされる。強奪や、ばらまかれて深刻な汚染問題が起きる危険があった。

ニジェールのウラン鉱山でウラン採掘を続ける限り、綱渡りのマッドマックス作戦が続くことになりそうだ。

【記者通信】電気・ガス料金補助再開か またもバラマキに疑問相次ぐ

去る3月19日の燃料油補助金の復活に続き、政府が7~9月の期間限定で電気・ガス料金の補助を再開する方向で検討していることが、複数の関係筋の話で明らかになった。ホルムズ海峡の実質封鎖を背景にした原油・LNG価格の高騰と円安局面が続く中、電力・都市ガス会社では燃料・原料費調整制度に基づき6月ごろから電気・ガス料金の上昇が顕在化してくるため、補助金によって利用者の負担軽減を図る。予算額は今冬と同等規模の5000億円程度と見る向きがあり、予備費からの投入が見込まれている。だが、単純な補助金支給を巡っては費用対効果を疑問視する見方が多い。巨額の国費を国民経済に資する形でいかに有効活用するか、政府の手腕が問われている。

エネ補助金の総額は14兆円超 予備費枯渇の可能性も

電気・ガス料金の補助事業については、ロシアのウクライナ侵攻などの影響によるLNG価格や原油価格の高騰を受け、2023年1月使用分(2月検針分)から開始。当初は一時的な措置のはずだったが、価格高騰の長期化によって24年5月まで実施された(予算額3兆7490億円)。その後、円安に伴う物価高に対応する目的で、同年8~10月に再開(同2124億円)。以降は、エネルギー使用量が増える夏場と冬場の期間限定(25年1~3月=3194億円、25年7~9月=2881億円、26年1~3月=5296億円)で、断続的に補助金を投入し、これまでの合計は5兆985億円(予算額はいずれも共同通信調べ)。燃料油の補助も含めると、エネルギー代補助の総額は14兆円超に達するとみられている。

その財源となっているのが、国の予備費だ。前年度と今年度の予備費は計約2兆円とされており、3月に再開された燃料油補助金は予備費から基金を通じて支給されている。⁠経済産業省によると、4月下旬現在で基金の残高は9800億円程度。補助金の指標となる北海ブレントの原油先物価格は100~110ドル前後で推移しており、この水準が続けば夏までに基金は底を付く可能性がある。ここに電気・ガス料金の補助が加わると、予算の枯渇が一層早まるのは確実だ。高市政権は補正予算の編成について「現時点で検討していない」としているが、いずれかの段階で補正での対応が必要になるのは避けられそうもない。

エネルギー補助金を巡っては、「単純に利用者の負担を軽減させるという意味では、それなりの効果を上げている。消費者物価指数の上昇に歯止めを掛けていることは、公表されている民間調査機関のレポートを見ればよく分かる」(永田町関係者)と、一定の評価が聞こえているのは事実だ。「特に電気・ガス代の補助は、車に乗る人と乗らない人で恩恵に格差の出るガソリンとは違う。実施する意義はあると思う」(経済誌記者)

【時流潮流】イラン戦争で揺らぐ湾岸諸国の「安全神話」 AI企業の投資戻らず

戦闘開始から2カ月となるイラン戦争は、サウジアラビアなど湾岸諸国にも深刻な打撃を与えた。イランのミサイル攻撃やホルムズ海峡封鎖で、エネルギー産業に影響が出たほか、「安全神話」も揺らいだ。中でも、脱石油の「切り札」である人工知能(AI)産業では、安全を求めて「脱中東」の動きが加速しており、湾岸諸国は対応に追われている。

エミレーツ航空が本拠地とするUAEのドバイ国際空港=筆者撮影

イランは開戦初日から、湾岸諸国にミサイルとドローンで猛攻を浴びせた。各国に駐留する米軍基地をはじめ、国際空港やホテル、AIインフラ拠点にも攻撃を仕掛けた。

湾岸諸国は戦前、イランからの報復攻撃を防ごうと、自国内の基地からの攻撃は「認めない」と宣言した。保険をかけたつもりだったが、米軍の空中給油機や空中早期警戒機(AWACS)など作戦行動と密接に連携する軍用機の基地使用を黙認した。この詰めの甘さが仇となる。イランは「建前と現実」の違いを鋭く突いた。

アラブ首長国連邦(UAE)は、停戦までの38日間にミサイル563発、ドローン2256機の合計2819回もの攻撃を受けた。2番目に多いクウェートは合計1211回だったため、その2倍以上にあたる。3位はバーレーン、4位はサウジと続いた。

湾岸諸国は9割以上という高い確率でミサイルとドローンの迎撃に成功する。だが、撃ち漏らしもあり、人や施設に被害が出た。

エネルギー関連では、カタールの液化天然ガス(LNG)施設が被弾し、輸出能力の17%が奪われた。修復には最大5年間かかる。サウジやUAE、クウェートの油田や製油施設なども一部が損傷した。

UAEはデータセンターなどの防衛強化へ

ホルムズ海峡封鎖も大きな打撃となる。サウジやUAEには、封鎖に備えた迂回パイプラインを持っているが、それがないカタールやクウェートは封鎖の影響をまともに受けた。開戦以後、LNGタンカーは1隻も海峡を通過できていない。

貯蔵施設が満杯となり、減産も強いられた。国際エネルギー機関(IEA)によると、3月の産油量はイラクの66%減、クウェートの53%減などの大幅減となった。

各国が成長分野と期待する産業も軒並み打撃を被った。日本人旅行客の利用も多いUAEのエミレーツやエティハド航空、カタール航空は、空港が攻撃されたため、全便欠航となる日もあった。欧州、アジア、アフリカの「ハブ&スポーク(結節点)」の役割を果たしてきたが、欧州やアジアの競争他社に客足を奪われた。観光客も8割減となった。

深刻なのは、AI関連施設への攻撃だ。アマゾンがUAEとバーレーンに設置した3カ所のデータセンターが、イランのドローンに襲われた。イランは、AIで処理した情報が「イランへの攻撃目標選定などに使われている」と非難、アマゾン以外のAI関連企業も「標的にする」と警告している。

マイクロソフトやグーグルは「安全神話」が崩れた湾岸地域に見切りをつけ、安全なインドやシンガポールなどに投資を増やす方針を相次いで発表した。取材した専門家からは「AI企業の投資が湾岸地域に戻ることはないだろう」との声も聞かれた。米中両国に次ぐ世界3位のAI拠点を目指してきた湾岸諸国の取り組みは、絶体絶命のピンチを迎えている。

巻き返そうと、UAEは4月下旬から新たな対策に動き出す。イスラエルからミサイル防衛システム「アイアンドーム」を調達し、データセンターなどの防御強化を図る試みだ。だが、これだけでは万全と言い切れない。傷ついた「安全神話」を取り戻す道は、茨の道となる気配が濃厚だ。

【記者通信】経済界が需要抑制を訴えるも国は否定 脱石油政策はどこへ?

ホルムズ海峡封鎖に伴う石油供給の不足を巡って、日本国内で奇妙な現象が起きている。経済界が需要抑制に向けた対策の必要性を訴えているのに対し、政府・与党が経済・社会活動維持の観点からこれを否定するという構図が見られているのだ。米国とイラン側による和平交渉の再開が停滞する中、ホルムズ海峡の実質封鎖が続いており、原油価格相場は北海ブレントが4月27日に108ドル台を付け再び上昇傾向を強めている。中長期的な先行きが全く見通せない状況にもかかわらず、高市早苗政権は経済・社会活動維持の観点から安定供給確保への取り組みを強調するばかり。その姿勢には、需要家側からも疑問の声が上がっている。そもそも一昔前まで、国は「脱石油」と言っていたのだが・・・。

高市首相「経済・社会活動を止めるべきではない」

「燃油とか、そういうものについても、使うのを少し控えるように制限かけたらどうかという声もいただくが、しかしながら、私は経済活動、今止めるべきではないと思っている。社会活動も止めるべきではないと思っている」「日本全体として必要となる量は確保できており、年を越えて、石油の安定供給のめどはついている」――。27日に行われた参議院予算委員会での集中質疑で、高市早苗首相は立憲民主党の森本真治議員の質問に答える形で、需要制限に否定的な姿勢を示した。

現時点で石油節約の必要はないというのは、政府・与党の一致した見解だ。「政府がいま節約を呼びかけたらどうなるか。国民の不安をあおり、社会に混乱を招く恐れがある。備蓄放出や代替調達ルートの確保によって、当面必要な量の石油供給は手当てできている。いまは経済を回すことが重要であり、需要抑制などを行う時期ではない」(永田町関係者)

経団連会長「長期化を想定し需給両面で総合対策を」

一方、経済界の代表である経団連は異なる見解だ。筒井義信会長は、4月6日の定例会見で「需要抑制策の検討は、国民のマインドに大きな影響が出てくる可能性があるため、十分なアセスメント(評価)が必要だ。混乱を回避し、冷静な対応を促すため、安心の確保という観点に留意した発信が必要」としながらも、「石油備蓄に余裕があるうちに、長期化を想定した、需給両面での総合的な検討を急ぐべきだ。需要抑制策の検討に際しては、当然、マクロ経済への影響も斟酌しなければならない。また、検討にあたっては、省エネ・節電などに関し、経済界として必要な対応を政府に進言し、協力もしていく決意だ」「どのような節約の方法が考えられるのかという点について、具体的には申し上げないが、国際エネルギー機関が例示した対応策も踏まえ、わが国の特徴も考慮した形での需給両面での対策の中身、さらに発動の条件や対象を十分に検討する必要がある」などと強調。20日の会見でも「ホルムズ海峡の周辺国を含めて石油関連施設の破壊もみられる中、仮にホルムズ海峡の封鎖が解かれたとしても、復旧・復興に数カ月を要するのか、あるいは1~2年を要するのかを見通すことはできない。一定期間こうした状態が継続することを見据えて、様々な政策面での検討が必要となろう」と述べた。

【論考/4月27日】深刻化する石油危機 豪州「軽油外交」が示す市場の機能不全 ※期間限定無料公開

イランによるホルムズ海峡封鎖に、米軍による対イラン海上封鎖が加わり、未曾有の石油供給危機は、より深刻化しつつ進行している。国際エネルギー機関(IEA)によれば、本年3月のペルシャ湾経由の石油輸出量はわずかに日量200万バレル強、その過半はイラン産だった。これは昨年平均水準に比して日量・約1800万バレルの激減。迂回ルート(サウジアラビア紅海岸およびアラブ首長国連邦(UAE)・オマーン湾岸)からの原油輸出が日量・約400万バレル増加したので、これを差し引いて、減少総量は日量約1400万バレルだった。

4月8日にパキスタンを仲介として米・イランは2週間の停戦に合意。しかし11−12日にイスラマバードで行われた両国協議は不調に終わり、米軍は11日にホルムズ海峡で機雷除去を開始。13日にはオマーン湾・アラビア海北部に展開する15隻以上の艦艇を用いて、事実上の対イラン海上封鎖を敷いた。16日、トランプ米大統領による10日間のイスラエル・レバノン停戦発表を受け、17日にはアラグチ・イラン外相が米・イラン停戦期間中の海峡開放を宣言したが、同日イラン革命防衛隊は海峡航行の実効支配をあらためて主張。米国も海上封鎖を解かず、18日にイラン政府はホルムズ海峡の「再封鎖」を発表した。21日トランプ大統領は停戦期限の延長を発表、イランからの再提案を待つ、としている。

イランはレバノンを含む全戦線での戦闘終結、戦争被害賠償、ウラン濃縮の権利確保、対イラン制裁措置の全面解除に加えて、在中東米軍の撤退、イランによるホルムズ海峡実効支配の継続を和平条件としている。いわば中東湾岸地域におけるイランの覇権的地位を実質的に承認するよう求めており、その中核にホルムズ海峡支配がある。外相の海峡開放宣言が即座に打ち消されたことも、イランの対外行動が海峡支配を「生命線」と見なす強硬派・革命防衛隊の主導下にあることを示唆する。

米側は3月21日にトランプ大統領がイラン国内発電施設攻撃の意思を公言し、48時間内の海峡開放を迫ったが果たせず、以来、攻撃期限をいたずらに延期してきた。対イラン海上封鎖は無差別空爆に代わる策だが、これによってイラン産、非イラン産を問わずペルシャ湾からの石油輸出がほぼ全面的に途絶する。迂回ルートのみが機能するとすれば、湾岸全体の輸出量は昨年平均水準から日量約1600万バレル減少となる。

世界原油生産余力は、その大半がサウジ、UAE、クウェート、イラクに集中していたが、これがホルムズ海峡封鎖によって無力化されているので、既に3月時点で実質ゼロとなった。巨大な供給途絶と機動的生産余力の喪失により、一旦在庫が底をつけば、未曾有の石油消費量激減が不可避となる。