◆エネルギー(原発)政策、有力候補のスタンスについての報道
岸田文雄首相の自民党総裁選不出馬表明を受けて、今回の総裁選(9月12日告示、9月27日投票)は史上最多の候補者によって争われることとなった。
○候補者(出馬表明順)
8月19日 小林鷹之前経済安全保障相
8月24日 石破茂元幹事長
8月26日 河野太郎デジタル相
9月3日 林芳正官房長官
9月4日 茂木敏充幹事長(元経産相)
9月6日 小泉進次郎元環境相
9月9日 高市早苗経済安全保障相(元経産副大臣)
9月10日 加藤勝信元官房長官
9月11日 上川陽子外相
新しい政権は政治とカネ問題、憲法改正、財政問題、経済成長、安全保障問題と外交、社会福祉、労働市場改革、脱炭素化とエネルギー需給など、多くの課題に対処していくことになる。エネルギー(原発)政策については、3年前の総裁戦時には原発にネガティブな姿勢を示していた河野太郎氏、小泉進次郎氏が容認論に転換したとされる。一方、石破茂氏については、(後述のように、それは一部を切り取ったきらいがあると考えるが)「ゼロへ最大限努力」という立場と紹介される。
8月27日段階の日経新聞は〈原発、自民総裁選対立軸に〉という見出しでそうした状況を説明する。
◎日経新聞8月27日付〈原発、自民総裁選対立軸に〉〈比重増す党員票、エネ政策重視〉〈河野氏・小泉氏容認論に転換〉〈石破氏「ゼロへ最大限努力」〉〈9月の自民党総裁選でエネルギー政策が対立軸に浮上してきた。26日に出馬を表明した河野太郎デジタル相、立候補の準備を進める小泉進次郎元環境相は原子力発電所を認める立場への転換を鮮明にしている。石破茂元幹事長は「原発ゼロ」に向け最大限努力する考えを示す。河野氏は26日の記者会見で「電力の供給を最大限するためにあらゆる技術に張っておかなければいけない」と述べた。発電手段を多く確保する重要性を強調し、原発のリプレース(建て替え)にも踏み込んだ。従来は「脱原発」を持論にしていた。需要が拡大するデータセンターや生成AI(人工知能)に使う電力をまかなうため、原発の必要性を認識したことが軌道修正につながった。投資が国外に逃げては「経済に影響が出る」と指摘した。小泉氏も脱原発の持論を転換した。9日のラジオNIKKEIの……番組で、原発を稼働させなければ電力が足りなくなるとの認識を示した。……小林鷹之前経済安全保障相は同じ……番組で現行計画を「もう少しリアリティを踏まえて作るべきだった」と批判した。原発を容認しつつ火力や再エネなどとバランスをとる必要性を訴えた。……茂木敏充幹事長は7月に新潟県長岡市の講演で「原発も含めてCO2を出さない電源の確保が極めて重要だ」と発言した。高市早苗経済安保相は小型モジュール炉(SMR)の活用や核融合炉の実現を提唱する。立ち位置が異なるのは石破氏だ。24日の出馬表明で原発について「ゼロに近づける努力は最大限する」と明言した。「太陽光、風力、小水力、地熱の可能性を最大限引き出すことで原発のウエートを減らすことができる」との見通しを示した。石破氏は26日のラジオ番組で、安全性への懸念を挙げた。他の候補も安全性を稼働の前提に置く。石破氏は「原発は可能な限りウエートを下げるべきだが、安定した電源は必要だ」と強調した。安全性を確保したうえで「原発は活用していきたい」と説明した。……エネルギー政策で石破氏が独自の立ち位置を貫けば、総裁選での論戦が活発になる可能性がある。〉
一方、同じ日経新聞の電子版の解説はやや趣を異にする。「エネルギー政策は選択肢があまりない」ため、「現段階で明らかになっている候補者の主張をみると、エネルギー分野は争点になりにくそうだ」とする。
◎日経電子版8月26日付〈底流:争点乏しきエネルギー政策 暗示する日本の限られた道〉〈「実際のところ、影響はあまりないだろう」。岸田文雄首相が9月の自民党総裁選に出馬しないと表明した。岸田政権のエネルギー政策を支えてきた経済産業省の幹部にその影響を聞いたところ、帰ってきたのは予想外にあっさりした答えだった。岸田政権は東京電力の福島第一原子力発電所の事故以来「可能な限り依存度を低減する」としてきた政府の原発政策を、脱炭素効果の高い電源として「最大限活用する」と180度転換した。エネルギー基本計画の見直しにも着手し、年末にまとめる2040年に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)の国家戦略では原発や再生可能エネルギーなど脱炭素電源の活用拡大を盛り込む考えだった。そんな岸田首相が退陣すればエネルギー政策停滞への心配が生まれそうなものだが、先の幹部は「エネルギー政策は選択肢があまりない」と淡々と話す。実際に現段階で明らかになっている候補者の主張をみると、エネルギー分野は争点になりにくそうだ。「原発は安全性を担保したうえで再稼働を進め、今後、リプレース(建て替え)や新増設を検討していくべきだ」。出馬を表明した小林鷹之氏の原発政策は、岸田政権と大きく重なる。3年前の総裁選では河野太郎氏が当面の再稼働は容認しつつも、新増設や建て替えには否定的な立場を取った。原発は争点の一つだった。ところが今回、河野氏は「電力需要の急増に対応するために原発の再稼働を含めて、様々な技術を活用する必要がある」と軌道修正した。小泉進次郎氏も最近は「ここ(原発)を動かしていかなければ日本の経済、国民生活にとって必要な電力を供給できない」と語る。……経産省幹部は「人工知能(AI)普及で電力需要が増える中にあって、脱炭素エネルギーの供給が経済のパフォーマンスを左右する度合いが強まっている。誰もそれに目をつぶれなくなったということだ」と現下の政治情勢を分析する。ただ大方針が争点化しないからといって、原発活用がすんなり進む保証はない。……与野党の代表候補がエネルギーの安定供給の必要性では一致しても、コスト負担を国民に説明して理解を求める覚悟まで持っているかは定かではない。だがそれは次に選ばれるリーダーに間違いなく課される宿題となるはずだ。〉
以下、今回の総裁選において、エネルギー政策(原発)に対する見解を確認しておくべき複数の候補の実際の言動などを確認していく。