【メディア論評/5月22日】キャリア官僚の人材確保と経産省の組織改革・新機軸


◆人事院有識者会議 国家公務員の人材確保に向けた提言

1.「人事行政諮問会議 最終提言」の問題意識

3月24日、人事院の有識者会議「人事行政諮問会議」は、国家公務員の人材確保に向けた「最終提言」をまとめた。「最終提言」本文の「はじめに」の部分では、大要、次のように指摘する。〈近年の国内外のさまざまな情勢の変容を受けて、人材獲得の面でも状況変化が甚だしく、公務組織の各層において人材確保が危機的な状況に陥っている。人材獲得の競合相手となる民間企業がニーズに沿った変革を講じている一方、国家公務員の人事管理はこの状況変化に十分応えられていない

●「人事行政諮問会議 最終提言」本文より 3月24日

「はじめに  ~未来をつくるための改革を、今~」(抜粋)

国家公務員は、国民の安全・安心な暮らしを守り、この国を一層発展させる、そして未来への責任も担っている。しかし今、その人材確保が公務組織の各層において危機的な状況に陥っている。……複雑化・多様化する国際情勢、生成AIを始めとしたテクノロジーの急速な進展、わが国の生産年齢人口の減少、公的分野における企業活動のプレゼンスの拡大など、国内外においてさまざまな変容が生じている。組織を支える人材に目を向ければ、公務の人材獲得の競合相手となる企業では、働き方やキャリア形成に対する意識の変化に対応し、採用手法、職場環境、雇用慣行や処遇などの面で、特に若年層を中心としたニーズに沿った変革が講じられている。いかにして優秀な人材を集め、強靭で持続可能な組織をつくり、事業を展開していくか工夫を重ねている。公務組織においても、近年、採用試験の見直し、長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進、初任給の引上げや諸手当の見直しを含む給与制度のアップデートを講じてきたしかしながら、国家公務員志望者数が増加に転じているとは言えず、若手職員の離職は増加傾向にある

……官民を問わず、今の若年層は一つの組織で定年まで働くことを当然と考えていない。自身の市場価値を高めるべく、仕事を通じて早い段階から成長できる環境があるかを重視する傾向がある。国家公務員の人事管理は、この状況変化に十分応えられていない

参考=「人事行政諮問会議 最終提言」 全体の要約 3月24日(抜粋)

「公務の危機は、国民の危機」

国家公務員の人材確保は危機的な状況

◇採用試験申込者数の減少

10年前と比べ、総合職試験・一般職試験いずれも約3割減

参考=22歳人口は、近年大きな変動なく推移

2015年115.9万人→23年116.3万人

◇若年層職員の離職の増大

直近では、総合職試験採用者が200人超離職

これら2点の主な背景

生産年齢人口の減少

・勤務環境、処遇面での魅力の低下

・若年層のキャリア意識の変化

・国民生活に大きな影響

・国際社会での日本の影響力低下

公務組織の生産性を高めつつ、国の未来を支えるため、人材マネジメントのパラダイムシフトを

〇使命感を持って意欲的に働ける公務

「国家公務員行動規範」の策定と周知・啓発

・“国民を第一”に考えた行動

・“中立・公正”な立場での職務遂行

・“専門性と根拠”に基づいた客観的判断

〇年次に縛られず実力本位で活躍できる公務

・官民給与の比較対象となる企業規模の引上げ

・政策の企画立案、調整などの職務に見合った外部労働市場も考慮した給与水準の設定

・納得感と成長につながる評価の実効性向上とマネジメント力の養成

・初任管理職の給与水準の引上げ/在級機関の廃止

〇働きやすく成長を実感できる公務

・業務効率化と長時間労働の改善

・短時間勤務の拡大と裁量勤務の導入

・資格取得の支援や兼業・副業の後押し

・転勤する職員へのインセンティブの充実

〇多くの人から“選ばれる”公務

・オンライン試験の導入/採用プロセスにおけるインターンシップの活用

・地元志向のニーズに応える採用スキーム

・公務の戦略的ブランディングの推進

・公務内外の人材に魅力的な公務の実現

かつて中央官庁のキャリア官僚は、「ホテルおおくら」「通常残業省」などと言われるほどの過重な業務をこなしてきた。その中で行政機構も、デジタル化などでの業務効率化、長時間労働の是正などに取り組んできた。しかし、行政を取りまく最近の情勢は、安全保障(国際政治、経済安保)、財政状況、気候変動、人口減少・高齢化など、一層厳しさを増している。また、国会対応(議員説明、議会質問対応など)などはなお残り、少数与党下では政策が政治の動きに翻弄される面もある。こうした状況が影響している面もあるのか、上記「人事行政諮問会議 最終提言」は、国家公務員の人事管理の現況を次のように指摘する。〈官民を問わず、今の若年層は一つの組織で定年まで働くことを当然と考えていない。自身の市場価値を高めるべく、仕事を通じて早い段階から成長できる環境があるかを重視する傾向がある。国家公務員の人事管理は、この状況変化に十分応えられていない〉

「最終提言」は一方で、人材獲得で競合する民間企業では、〈働き方やキャリア形成に対する意識の変化に対応し、採用手法、職場環境、雇用慣行や処遇などの面で、特に若年層を中心としたニーズに沿った変革〉を講じているとする。企業では、自社を退職した人間を改めて受け入れる制度(アルムナイ採用)の活用が広がる。官においても人材が官公庁と民間企業の間で流動的に出入りするリボルビングドア(回転扉)の取組み促進が必要であろう。また、女性活躍の拡大などに伴い勤務・転勤の在り方も課題である。「最終提言」は次のように指摘している。〈ワークスタイルやライフスタイルが大きく変わるような転勤の必要性を改めて見直すべきである。転勤を伴う人事異動は、育児や介護など個人の置かれた事情を最大限斟酌する必要がある〉

YouTube「公式エネルギーフォーラムch」を開設


株式会社エネルギーフォーラムの公式YouTubeチャンネルを開設しました。「石川和男の白熱エネルギートーク」「プロジェクトE」「ずんだもん解説シリーズ」など、月刊誌やオンライン番組などと連携しながら順次コンテンツをアップしていきます。

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【SNS世論/5月21日】エネルギー代補助金の議論はなぜ盛り上がらないのか!?


石破茂首相は4月22日、物価高対策としてガソリン価格の段階的10円値下げ、また7~9月の電気・ガス料金の引き下げを表明した。いずれも補助金によるが、こうしたエネルギー代補助金の累計は12.5兆円の巨額になる。SNSで調べる限り、政権与党への感謝や高評価には結びついていない。一方で、その補助金の負の側面についての意見や分析も少ない。巨額の税金が投入され、さまざまな問題を内包しているのに、SNS世論が静かになっている。

累計12・5兆円の巨額支援

電気・ガス料金の補助は今年3月まで止めては2回復活し、今回が4回目だ。ガソリンの補助(灯油、軽油も含む)は2022年1月に開始され、一時的措置のはずが継続されている。東京電力福島第1原発事故の後で、電力とエネルギーの自由化が政治主導で進み、エネルギー価格は市場の働きに任せることになったはずだ。また脱炭素は国策となり、政府はエネルギーと化石燃料の使用抑制を国民に求めてきた。それなのに、その使用が値下げでうながされる。一連の補助金はこれまでの政策と矛盾する。しかも、いま原油、天然ガス、石油といったエネルギー資源価格は高騰しておらず、落ち着いた水準で推移している。率直に言って、高騰していないのだ。

武藤容治経済産業相は5月20日の閣議後会見で、ガソリン代補助を巡る問題への見解を問われ、次のように回答している。「足元では原油価格が低下傾向にあります。この従来の支援方式では、補助額はゼロとなっておりますけれども、新たな支援策であれば価格を低下させることができ、物価高に苦しむ国民の皆さんの負担軽減につながると考えております」、下落傾向にあるのに支援するという、よく考えれば意味不明。物価高対策であれば、エネルギーではなく、別の形で生活支援を行うべきではないか。

こうした状況にもかかわらず、代表的なSNSであるXとLINEで「ガソリン補助金」「電力補助金」などの言葉を検索しても、数日に一回ぐらいしか出てこない。あまり話題になっていない。政府や与党が狙う、国民からのばらまきによる支持の拡大効果もほとんどなさそうだ。

複雑な問題をメディアはスルー

私たち庶民の生活からすると、エネルギー価格の抑制は生活のプラスになる。けれども諸物価の上昇の中で、この補助金は目立たなくなってしまった。電力・ガス料金は、たいてい通帳からの引き落としで負担が目に見えづらい。これまで据え置き目標の全国平均ガソリン価格は1リットル170円だった。コロナ流行中の2020年には、リッター120円前後だった。それと比較してしまうと高い。だから満足感はなかなかでないのだろう。

SNSである問題の議論が盛り上がる場合には、きっかけとなる既存メディアの報道があることが多い。しかしメディアも、このエネルギー補助金について熱心に報道していない。これは短期的には国民の負担を軽減する政策だが、長期的にはこれまでの政策との矛盾(エネルギー小売り自由化政策との矛盾、カーボンニュートラル・省エネ政策との矛盾など)のほか、日本の財政負担の増大など、問題を考えるさまざまな論点がある。そして立場ごとに評価が異なる。複雑で報道が難しい問題であるために、メディアもあまり動かないのかもしれない。

いつもは政府批判に熱心な朝日新聞だが、この問題では歯切れが悪い。社説「経済政策の迷走 必要性の見極め怠るな」(25年4月19日記事)では、この巨額補助金を「理由と財源を明確に説明する責任がある」と一文だけ言及したが、解説記事は薄いものばかりだ。

産経新聞「新聞に喝! 12兆円超のエネルギー巨額補助金 検証報道がないままだと次の無駄遣いの呼び水に」(5月18日)では、新聞・メディアが深掘り報道をしないことを批判した。この記事をめぐって「12兆円も?」などという、驚きのコメントがSNSで一時的に広がったが、一過性で関心は終わってしまった。普通に考えれば、12.5兆円という税金はとてつもない規模であるにもかかわらずである。参考までに、国のエネルギー特別会計の年間予算総額が約1.9兆円という現実を踏まえれば、その規模の異常さが分かるだろう。

技術革新でなく、ばらまきに広がる戸惑い

筆者はエネルギー業界の片隅にいるが、このエネルギー補助金のおかげで需要が下支えされ、石油会社をはじめエネルギー各社の決算は好調だ。個人的には最近は行き当たりばったりのエネルギー自由化に振り回され、この補助金で会社の経営はようやく一息つけた感じがある。しかし「国の補助金で助けてもらっていいのだろうか」という思いもある。周囲の人からも「儲かっていると大きな声で言えない」と、戸惑いの声が聞こえる。

かつて1970年代の日本ではオイルショック、そしてインフレに直面した。その際に日本政府とエネルギー業界は、省エネ、新エネの技術革新に取り組み、それに金を使った。ばらまき補助金ではなかった。このエネルギー補助金は、適切なのかと、私たちのエネルギー業界人は複雑な思いや感想を抱えている。それをSNSで表明したくても、業界や会社に迷惑をかけそうなのでなかなか表に出せない。代弁者を探しているのだが、なかなかいない。

短く、センセーショナルな映像や文書が、SNSでは好まれる。このために、エネルギー補助金のような複雑な問題は、話題になりづらい。また問題を分析できて、それを広げることができる人も足りない。アメリカでは、ネットには専門家がサイトを開設しそれがSNS世論を深いものにしているという。エネルギーや気候変動問題では、そうした場での議論が社会や専門家、時には政府に影響を与える。

SNS世論の成長と深まりに期待

日本ではまだそうしたネット言論の裾野が狭い。日本ではエネルギー系ユーチューバー「電気予報士 なな子のおでんき予報」を運営する伊藤奈々さんが頑張っているが、数は少ない。SNS世論の足りなさを補うべき立場にある、日本のメディアは深掘り報道が少なく頼りない。ちなみに、エネルギーフォーラムでは最近開設したYouTubeチャンネルで、「ずんだもん」がエネ代補助金の問題を分かりやすく解説する動画を掲載している。

SNSでの言論は、可能性に満ちている。しかし複雑な問題を集合知で解析する、そして答えを見つける、世論を引っ張るなどの力はまだ乏しいようだ。今回のエネルギー補助金の検証でそれを感じてしまった。健全な世論が、ネット発で作り出すことを期待したい。それが健全に発展すれば、12.5兆円をばら撒いた、今回のエネルギー補助金のような、さまざまな問題を持つ無駄遣い政策は起きづらくなるだろう。

【時流潮流/5月19日】核戦争一歩手前だったインド・パキスタンの軍事衝突


5月7日にインド軍の攻撃で始まったパキスタンとの戦闘は、4日間という短期間ながら密度の高い戦いだった。インドは、マッハ3の超音速で飛ぶロシアと共同開発した最新鋭巡航ミサイル「ブラモス」を撃ち込み、双方は大量のドローンを飛ばし合った。さらに、パキスタンは核兵器使用に向けた準備を始めた。

インドとパキスタンの国境

1947年に英国から独立して以来、両国はライバル関係にある。カシミール地方の帰属を巡り衝突を繰り返してきた。今回の戦闘も、4月22日にインド領カシミールであったインド人観光客など26人が殺される銃撃テロ事件がきっかけだ。インドは、パキスタンが関与したと強く非難、報復の機会を探ってきた。

両国はいずれもに核兵器保有国。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、24年1月時点で約170発ずつ保持する。問題は、パキスタンが80年代半ばに核兵器を取得して以後、事あるごとに核兵器使用の構えを見せることだ。

インドに対抗するため、「草を食べてでも核兵器開発を」と主張し、パキスタンを核武装に導いたアリ・ブット元首相の肖像画。娘のベナジル・ブット氏もパキスタンの首相を務めた=パキスタンのラワルピンディで、筆者撮影

例えば、カシミール地方での小競り合いをきっかけに緊張が高まった90年には、パキスタンは「F16戦闘機に核爆弾を載せ、インドのムンバイを攻撃する準備を進めた」。当時の軍参謀総長だったベグ元将軍は、後にこう語った。米国は、慌てて高官をパキスタンに派遣、緊張緩和に向けた調整を始めた。

以来、世界で最も核戦争が起きる危険性が高い地域と位置づけられている。そうした事情があるにもかかわらず、バンス米副大統領は8日に「これは、基本的にわれわれには関係のないことだ」と語るなど、米国は当初、静観の構えを見せていた。

だが、首都イスラマバードに近い空軍基地が攻撃を受け、パキスタンが核使用の構えを示すと、米国は急いで仲介に乗り出す。トランプ大統領は10日、両国が停戦に合意したと発表した。

今回のインド・パキスタンの衝突で、パキスタンに深く関わる中国の存在の大きさが改めて浮き彫りになった。中国はインドと国境紛争問題があり、「敵の敵」であるパキスタンを手厚く支援してきた歴史がある。核爆弾の設計図や、核弾頭を載せる弾道ミサイルまで提供するほど、両国は「深い仲」である。

今回は、パキスタン軍が中国から調達した戦闘機「殲10(J10)」から、これまた中国製の空対空ミサイルを発射し、インド空軍の最新鋭機であるフランス製戦闘機「ラファール」を撃墜した。

戦闘能力を下げた「格落ち」の輸出用であっても、中国製の戦闘機は、欧米製の最新鋭戦闘機と互角に戦える実力があることを世界に示した。中国空軍と直接対峙するインドにとっては、想定以上の脅威となるはずだ。

中国はパキスタンと86年に原子力平和利用協力協定を結ぶなど原発でも関係が深い。中国の最新鋭炉「華龍1号(HPR1000)」を初めて輸出したのもパキスタンだ。

インド、パキスタン両国の対立を読み解くには、中国の動向にも目配りする必要がありそうだ。

【オンライン限定公開/5月14日】5月号地域エネ特集レポ詳細版 エネ3事業を巡る合従連衡の実相


エネルギーフォーラム2025年5月号では「地域エネ衰退の危機 合従連衡で再生なるか」と題し特集記事を掲載した。さまざまな地域エネルギー事業者を取材したものの、誌面制約上、レポートで掲載しきれなかった話題が盛りだくさん。そこで、オンライン会員限定の記事として全文を公開する。地域エネルギーは社会課題を克服すべく新たな供給体制への再構築が求められている。LPガス、都市ガス、SSのエネルギー3事業を巡るアライアンスの行方はどうなっていくのだろうか。

地域経済を襲う過疎化や人口減少の荒波を、エネルギー事業者はどう乗り越えていくのか

商圏買収が有効なLPガス 都市ガス、SSに秘策は?

これまでも活発に営業権の売買が行われてきたLPガス業界。利益率が高いLPは、営業権の価格が他の商材よりも際立って高水準だ。これまでは事業を手放す際には、卸売りなど取引関係のある事業者に譲渡するのが主流だった。ところが最近では、仲介会社が間に入り、全国規模で展開する大手が株式取得を伴うM&Aを足掛かりに、新たな地域に進出する動きが出てきた。

M&Aを進める上で資本力のある大手が有利であることは間違いなく、進出を許せばそこを拠点に次々と顧客を奪われかねない。地域の中堅・小規模事業者は警戒感を強める。

「LPは引き受け先があるが、こちらは全く受け皿がない」と関係者が危ぶむのは、都市ガス業界だ。供給設備が独立し、M&Aを進めたところで規模の経済を生かして事業効率を飛躍的に高められるわけではない。

実際、これまで公営のガス事業者が民間に事業譲渡するケースばかりで、民間同士のM&A事例がないのはそのためだ。業界の事情通は、「立地制約を受ける都市ガスの小規模事業者をM&Aで救済することはできない。複数の地域で一斉に事業が立ちいかなくなる可能性もある」と、危局を訴える。

最も危機的状況にあるのがSSだ。足元では燃料油補助金に支えられ高い収益を出している事業者は多いが、それでも事業を譲渡する先が見つからない。過疎化やEVシフトに伴う需要減以上に、地下タンクの更新や土壌汚染など将来のリスクが懸念され、投資対象として敬遠されがち。課題を乗り越え事業承継できなければ、やがて地域からSSが消滅してしまうだろう。

それぞれ固有の問題を抱える中で、各事業者のM&A事情ははどうなっているのか。最新動向を追った。

LPガスはエネルギー供給の“最後のとりで”

【現地ルポ/5月13日】JERAが富津火力公開 国内最大級LNG施設の全容


発電大手のJERAは5月8日、富津火力発電所(千葉県富津市)の設備を報道陣に公開した。同発電所は全4系列21軸からなる発電機群をはじめ、LNG船を受け入れるための専用バース(船着き場)、12基の地下式貯蔵タンク、神奈川エリアへガスを供給する東西連系ガス導管などを有し、国内最大となる516万kWの発電能力と設備規模を誇る。4号系列では、2023年8月に最新鋭のガスタービン・コンバインドサイクル発電システム(東芝・GEの共同システム)へのリプレースが完了し、発電効率60%を実現するなど高い性能を達成している。今回の公開では、首都圏の電力供給を支える巨大インフラの実態と、その支え手達の姿に触れることができた。

最新鋭のガスタービンが据え付けられた4号系列の建屋内部。静けさの中に、機械音がこだましていた

最初に視察したのは中央制御室だ。フロアの右手には、発電量やガス導管の流量が表示される「LNG制御盤」が設置されている。作業員はこれらをモニターしながら、需給や再エネの出力状況に応じて施設全域の設備の起動停止をマニュアルで行う。近年では、太陽光発電の普及などの影響から起動停止回数が増加しており、昨年度は2564回と過去最高を記録した。この影響ついて、泉義和副所長は、「特にガスタービンなどの金属製の部品は温度変化によるダメージを受けやすい。現段階ではインターバルの工夫や状況に応じて分解点検の頻度を上げていくなどの対策を取っているが、さらなる対処法を模索していく」と説明。調整力を担う火力現場では、柔軟な運用体制の構築に向け日々試行錯誤が行われている。

あらゆる発電設備とガス流量がここで管理される

階段を降りて地下13mに達すると、厚いコンクリートに覆われたトンネルが姿を現す。その内部を貫くのは、東西連係ガス導管。導管が整然と敷設されたトンネル内はどこか無機質で、荘厳ささえ漂わせていた。内径700mm、全長は約18kmに及び、1時間あたり最大300~400tの天然ガス供給能力を有する。東京湾海底に敷設されており、川崎市の東扇島発電所に通じている。導管の脇には自転車数台。敷地内で遠く離れたメンテンナンス地点までの移動手段として用いているそうだ。薄暗いトンネルの中に一歩足を踏み入れると、果てしなく続く景色に、まるで永遠に伸びているかのような錯覚を覚える。天然ガスの安定供給を担うインフラのスケールの大きさを、間近で体感することができた。

巨大トンネルに覆われた東西連係ガス導管は東扇島発電所(川崎)まで続く
導管の脇には、トンネル内の移動手段である自転車が並べられている

なお、富津火力は千葉、五井、姉崎、袖ケ浦火力、さらには近隣ガス事業者にも燃料を供給する役割を担っている。海底・地下に広がる導管を駆使し、見えないところから首都圏のエネルギーを支えている。

第二バースに停泊するLNG船。船の側面に設置された4本のアームで荷揚げ作業を行う

年間約1000万tの受入実績を誇る富津火力のLNG基地は、主に船を受け入れる2つのバース、地下式貯蔵タンクなどで構成され、調達先は20カ国にも及ぶ。この日はそれぞれのバースで1隻ずつのLNG船を迎え入れていた。山本茂保副所長によれば、「LNG船が来るのは平均で3日に1回、次に来るのは4~5日後」らしく、このような光景を見られるのは運がいいとのこと。 LNGの受入作業では、接岸した船の側面に設置された複数のアームが要となる。いずれも油圧で駆動し、船側の導管と接合するように現場作業員がリモコンで操作する。アームは、船側のタンク内における圧力上昇を防ぐためのリターンガスの供給に充てるものと、LNGを敷地に荷下ろしする際に使用するアンローディングアームとに分かれる。この日、第二バースのアームは4本だったが、本来はメンテンナンス作業に入っていたアームを加えた5本で作業を行う。1時間あたりで最大1・2万klのLNGを荷揚げすることが可能で、17万kl規模のLNG船であれば、17時間ほどで作業を完了することができる。荷揚げ作業は、澄み渡った青空の下、穏やかな海の上で粛々と進められていた。

高さ17mもの屋根が露出する地下式タンク群

敷地内に移されたLNGは地下式の貯蔵タンクに送られる。施設の屋上からは、地下35 mに埋設された直径70m、最大容量12.5万klの巨大タンクをはじめとした12基のタンクが立ち並ぶ光景を一望できた。タンクは耐熱性の高いメンブレン構造で覆われているほか、万一の火災に備えた放水装置を完備。さらに、敷地内には緊急時に大量の水を一気に放射し、タンク全体を包み込む「ウォーターカーテン」も敷設されている。この日は実際に、およそ20m弱もの水柱が勢いよくタンク周辺に立ち上がる様子が披露された。視察の模様は弊社SNSでも順次配信予定。現場のリアルな姿を、ぜひそちらでもご覧いただきたい。

発電やLNGの供給を担う一連の設備群を実際に見て回る中で、日々の電力供給がいかに緻密な技術と綿密な運用によって支えられているかを実感する一日となった。膨大なエネルギーを日々生み出し続ける富津火力の設備群。その足元で行われる一つひとつの作業が、首都圏の「当たり前の日常」を下支えしている。

【時流潮流/5月6日】米露のウクライナ原発「争奪戦」トランプ大統領の思惑は?


ウクライナ戦争の停戦交渉が長引いている。米露首脳が早期停戦に向けた交渉開始に合意してからほぼ3カ月たつが、依然として先行きは不透明だ。ロシアは占領地域の拡大を、米国は鉱物資源開発やロシアが占領中のザポリージャ原子力発電所の奪還を目指す。停戦交渉の遅れにいらだつトランプ米政権は、冷却化していたウクライナとの関係を修復、ロシアから譲歩を引き出そうと揺さぶりを続けている。

チェコのテメリン原発。原子炉はロシア製だが、オペレーションルームは欧米式が採用されている。ウクライナも脱ロシア化に取り組んでいる=2004年、筆者撮影

ロシアはウクライナ東部2州や南部2州、さらに、2014年に一方的に併合したクリミア半島の領有権獲得を狙う。「領地」を少しでも増やそうと各地で戦闘を続ける。欧州最大の原発であるウクライナ南部のザポリージャ原発周辺も戦闘地域に近く、国際原子力機関(IAEA)によると、原発周辺では「連日、激しい銃声や爆発音」がある。

ウクライナには四つのサイトに15基の原発がある。すべてロシア製原発で、多くは旧ソ連時代の1980年代に運転を始めた。電源構成に占める原発の割合は55%とフランスに次ぐ原発大国である。

中でも最大のザポリージャ原発には出力100万kWの「VVER1000」を6基設置。ロシアの侵攻前は、ウクライナの電力の約2割を供給し、約1万1000人が働いていた。だが、ロシア軍は侵攻直後の22年3月4日に同原発を占拠する。現在は6基すべて冷温停止状態にあり、ロシア国営企業ロスアトムが管理に当たる。

ロシアは、停戦後の早期運転再開を目指す。だが壁がある。14年にロシアがクリミア半島を一方的に併合して以後、ウクライナはさまざまな「脱ロシア化」に取り組んできた。原子力分野でも、核燃料をロシア製から米ウェスチングハウス社製に切り替えるなど欧米化を進めた。欧米技術に不慣れなロシア人には対応が難しく、管理業務は現在もウクライナ人の運転員が中核を担う。

そうした中、3月19日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議した米国のトランプ大統領が意外なことを口にした。「米国が(ウクライナの)発電所を所有するのが最善だ」。ザポリージャ原発をロシアから取り戻し、米国が運営するとの宣言だ。老朽化が進むロシア製原発を、米国製に置き換える野望も透ける。

当然、ロシアは反発した。ラブロフ露外相は同原発の引き渡しは「考えられない」と述べた。ロシアはすでに同原発をロシアの原発と認定済みで、将来のロシアへの電力供給を計画しているからだ。ただ、ロスアトムのリハチェフ社長は4月30日、ロシアの政権指導部が承認すれば、米国との協議は「可能かもしれない」と述べ、含みを残した。

トランプ政権は、ウクライナが求める軍事面での「安全保証」を与えなくとも、資源開発やエネルギー面に米国が直接関与する経済的な「安全保障」があれば、ロシアの再侵攻を防ぐ「盾」になれると考えている。ウクライナの原発をめぐる米露の争奪戦から目が離せない状況が続きそうだ。

【現地ルポ/4月25日】下北の原子燃料サイクル施設〈後編〉六ヶ所再処理工場の最新事情


エネルギーフォーラム取材班がRFS施設取材(記者通信/4月23日)前日の4月17日に訪れたのが、青森県六ヶ所村にある日本原燃(増田尚宏社長)の原子燃料サイクル施設だ。下北半島の南東部に位置する広大な敷地には、使用済み燃料の再処理工場をはじめ、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターやウラン濃縮工場、MOX燃料工場など原子燃料サイクルに関係する重要施設が集積する。中核となる再処理工場は2026年度中のしゅん工を目指しており、翌27年度中にはMOX燃料工場がしゅん工する計画だ。厳重なセキュリティチェックを経て、サイクル施設の現況を取材することができた。

再処理工場等の全景。工事の進捗によって状況は日々変わる(原燃提供)
日本原燃本社の外観
六ヶ所原燃PRセンターから望む再処理工場

【現地ルポ/4月24日】居住人口わずか180人…… 双葉町の苦闘と再生の道


東京駅から特急列車に揺られること約3時間20分。福島県の双葉駅に降り立つと、静かにたたずむ旧駅舎と新しく建てられた町役場が、この地の複雑な過去と未来を物語る。福島第一原発事故で全町避難を余儀なくされた双葉町での居住が可能になってから2年半──。復興には課題が山積している。

茶色のレンガが特徴的な旧駅舎

2011年の東日本大震災後、東京と仙台を結ぶ常磐線が全線開通したのは20年3月のこと。避難指示の一部解除を受け、運転を見合わせていた富岡~浪江間での運転をようやく再開したのだ。双葉駅は茶色いレンガが特徴的な旧駅舎を休憩スペースとして併設している。その向かいに、22年に完成した双葉町役場がある。

真新しい双葉町役場

福島第一原発5、6号機が立地する双葉町は、原発事故の影響で「全町避難」を余儀なくされた。14年までは埼玉県、22年までは福島県いわき市に役場機能を移転。22年8月に国が除染やインフラ整備などを集中的に行う区域特定復興再生拠点区域内の避難指示が解除され、住民が居住できるようになった。

住む場所がない 多くの町民は戻らず

駅から太平洋に向かう県道254号線は「復興シンボル軸」となっている。道の周囲を見渡すと、当時のままの建物が点在している。時計が14時46分で止まっていたり、部屋の中が散乱していたり……。この区域に限らず、双葉町の建物は長期間にわたって人が立ち入らなかったため、野生動物の侵入などで損壊した。

「復興シンボル軸」となっている県道254号線
消防団の施設は「あの日」のまま……

津波被災地に整備された復興産業拠点には24社が進出した。そこで働く人々は双葉町に住むのが便利だが、場所がないために町外に住まざるを得ない。新たに家を建てたいという希望者は多いが、建築資材の高騰などにより、民間での住宅建設は進んでいない。町営住宅の跡地に建設された約40戸のアパートも満室で、空室待ちの状態が続いている。

双葉町の伊澤史朗町長は「住みたいという人がいるのに場所がないことは、町にとって大きな損失だ」と危機感を募らせる。

一方、全国の避難先に散らばった双葉町民の多くは戻ってきていない。現在の居住人口は約180人で、震災前の約7100人と比べるとごくわずかだ。それもそのはず、震災後の14年にわたり、多くの町民は避難先でそれぞれの生活を送っている。仕事や子育ての環境を考えると、故郷に戻るという決断は容易ではない。震災当時、双葉町に住民票があった人が新たに自宅を再建する場合、800万円ほどの補助を受けられるが、制度を利用する人はまだ少ないという。

「それでも、戻ってきてもらうための取り組みは続けていかなくちゃいけない」(伊澤氏)

東電と共存の歴史

254号線をさらに進むと、左手に真新しい建物が見えてくる。20年に開館した東日本大震災・原子力災害伝承館だ。館内の史料を見ると、東京電力が夏祭りへの参加や「書道コンクール」といった地域事業の主催など、双葉町や大熊町といかに共存してきたかがよく分かる。原発事故という負の側面だけでなく、フラットな視点で立地自治体の歩みを振り返っていた。

地域共生の歴史や復興の道のりを伝える東日本大震災・原子力災害伝承館

近年、国内原発の再稼働が進んでいるが、双葉町の復興は始まったばかりだ。将来の電力供給に目が向けられる今こそ、被災地の歩みに真摯な眼差しを注ぐべきではないか。

【記者通信/4月23日】検証なきエネ代補助継続の異常事態 省エネ支援強化へ切り替えを!


石破茂首相は4月22日、物価高対策としてガソリン価格の10円値下げと7~9月の電気・ガス料金の補助を表明した。実質賃金上昇までの「暮らしの下支え」というが、何度も繰り返される補助金の延長・復活で、国民は補助金の支給が当たり前のような感覚に陥っている。エネルギー販売が全面自由化された現状において、その価格は本来、事業者が市場動向やコスト水準などを総合的に判断しながら決めるべきものだ。巨額の補助金支給による経済効果の検証もせず、政治的事情などで国が関与し続けるのは異常事態と言っていい。省エネ支援策の強化・拡充など、国民への恩恵と共に経済波及効果が見込める予算の使い道に切り替えるべきだ。

政府はこれまでレギュラーガソリンの全国平均価格が185円程度になるように抑制してきたが、この基準値を撤廃。1ℓ当たりの下げ幅を10円に固定する。仮に170円なら160円に抑制されることになり、5月22日に開始予定だ。4月上旬に自民、公明、国民民主の幹事長が、6月から来年3月末までのガソリン価格を引き下げるため、対応策を実施することで合意していた。

だが、足元のガソリン価格は落ち着いている。4月17~23日には翌週の価格が185円を下回ると予想されたことで、補助金の投入を初めて見送った。石破首相は「現在の185円程度の水準であれば、175円程度になる。ロシアがウクライナへの侵略を開始した直後のガソリン価格の水準まで引き下げられる」と胸を張るが、原油安などで値下がり局面にあるうえ、原油輸入価格であるCIF価格が現在と同様の水準だった2014年には、補助金を支給せずとも160円台で推移していた。こうした事情から、国費の投入継続を巡っては疑問視する向きが少なくない。

夏→冬→夏と復活

一方、電気・ガス料金の補助は今年3月分で終了していたが、昨年の「酷暑乗り切り緊急支援」と同様に復活することになった。

昨年は通常国会の閉会間際に行われた党首討論で、立憲民主党の泉健太代表(当時)が「エネルギー補助金は続けるべきだった。復活すべきでは」と発言。その直後に岸田文雄首相(同)が復活を命じ、経済産業省の幹部が「急な話で、びっくりしている」と驚いたという報道が話題となった。

今年も与党が支援策を打ち出さなければ、野党の攻撃対象になりかねない。7月の参院選を前に、政治的事情で復活せざるを得なかったのが実態だろう。ただ、標準家庭の電気・ガス料金は約2000円程度の値引き額にすぎない。

カーボンプライシングに逆行

一連の補助金は「一度打ったらやめられない麻薬」として、延長や復活を繰り返している。これまでに投じられた国費は10数兆円にも上り、国家予算の10分の1に匹敵する。業界関係者からは「もはや大型減税」「税金の還付」など呆れた声が漏れる。そもそも、3年間にわたる巨額補助金の効果を巡る第三者検証が全く行われないまま、だらだらと続いている状況は異常としか言いようがない。

ここまで常態化するのなら、経済効果が不明で恩恵を感じにくい補助金方式より、実質的な「減税」として再エネ賦課金徴収の抑制・一次停止などを打ち出した方がインパクトは大きかったはずだ。また、EV・プラグインハイブリッド車などへの買い替え支援や高効率エアコンなど省エネ家電への買い替え支援の拡充のほか、建物の断熱改修支援の強化といった、省エネ推進・強化によってエネルギー代を抑制する政策の方が経済への波及効果が期待できよう。

「国民生活支援のため、単純にエネルギー価格を抑制する政策を取り続けていることで、脱炭素化に向けて化石エネルギー価格を上昇させるカーボンプライシング政策にブレーキが掛かっているのは間違いない。反温暖化派はさぞかし喜んでいることだろう」。経産省OBはこう皮肉る。

真の困窮者を救うには

予算を抑えるため、低所得者世帯に絞った支援を求める意見もある。ただ所得区分や住民税非課税世帯で支援対象を決めると、その多くを高齢者が占める。すると、多額の資産を持つ高齢者が恩恵を受けられる一方で、現役世代が支援の網からこぼれかねない。

「真に困窮している人」へのきめ細やかな支援を実現するためには、資産調査の導入・強化など、総合的な経済状況を把握できる仕組みの導入が求められる。今回の物価高を契機に、今後起こり得る有事に備えて、こうしたシステムの検討も考えられよう。

いずれにしても、政府・与党は第三者機関によるエネルギー料金補助の検証作業を通じて、国民経済的に効果をもたらす新たな支援策の検討が求められている。

【現地ルポ/4月23日】下北の原子燃料サイクル施設〈前編〉 使用済み燃料を中間貯蔵するRFSを特別取材


東京電力ホールディングスが80%、日本原子力発電が20%出資する国内初の使用済み燃料の貯蔵施設「リサイクル燃料貯蔵(RFS)」(青森県むつ市、高橋泰成社長)が昨年11月に1棟目の貯蔵建屋で事業を開始した。現在は、昨年9月26日に東京電力HD柏崎刈羽原子力発電所(KK)から搬入された金属キャスク1基(沸騰水型原子炉=BWR=燃料69体分)が保管されており、今後順次受け入れを増やしていく計画だ。2011年3月の東日本大震災以降、停滞が続く原子燃料サイクル政策にとって、久々の明るい話題である。ただRFSは地元との協定で「事業開始から最長50年で金属キャスクを全て搬出」することが決まっており、1棟目については施設閉鎖へのカウントダウンがすでに始まった格好だ。KKや日本原電の原子力発電所が再稼働しないことにはRFS本来の目的が達成されないわけで、「宝の持ち腐れ」(電力関係者)とならないよう原子力事業の正常化に期待がかかる。なお、RFSでは使用済み燃料を扱うことによる安全上の理由から厳しいセキュリティ体制が敷かれており、一般の視察・見学などは広く受け入れていない中、エネルギーフォーラム取材班は4月18日に特別の許可を得て、施設内部を取材することができた。

RFS施設内にある貯蔵建屋の外観(RFS社提供)

施設完成で原子力発電の持続可能性が高まる

RFSは「中間貯蔵施設」とも呼ばれ、原子力施設が集まる青森県下北半島の北部、津軽海峡に面する海沿いに位置する。出資企業である東電HD、日本原電の両社の使用済み燃料の保管が目的だ。昨年11月に、KKから受け入れた1基目の金属キャスクについて原子力規制委員会から使用前確認証の交付を受け、事業がスタートした。

原子力関係では、2011年の福島第一原発事故の後、新しい重要施設の新規稼働はなかった。このリサイクル燃料貯蔵施設は、新規制基準の施行後に初めて運用が開始される新施設だ。しかも核燃料サイクル政策の一翼を担うものであり、事業者にとっても原子力発電の運用をより柔軟にし、持続可能性を高める重要な意味を持つ。

原子力発電で使われた使用済み燃料はこれまで、原子力発電所内の貯蔵プールや敷地内の施設の金属キャスク(容器)で乾式保管されてきた。各発電所の規模や設備、運転状況などで違いはあるものの、その保管可能な量には限界がある。RFSは、発電所の外でそうした燃料を大規模に保管する初の施設となる。東電HDと原電は、原子力発電を今後運営する際に、使用済み燃料の保管場所に余裕ができたわけで、貯蔵場所の問題に悩むことなく原子力発電所の運営が行えるようになる。さらにRFSでの安全な運営の実績、また技術や経験の蓄積は、各電力会社がこうした中間貯蔵施設を建設・運営する場合にも役立つものだ。

【記者通信/4月21日】KK県民投票条例が否決 花角知事はどう動くか!?


新潟県議会は4月18日、柏崎刈羽原発(KK)の再稼働を巡って市民団体が提出した県民投票条例案を否決した。花角英世知事は自身が再稼働の是非を判断した上で、「県民の信を問う」としている。出直し知事選や県議会での意見集約など、信を問う方法はいくつか存在するが、今回の否決で県民投票の可能性は消滅した。今後の焦点は、花角知事が判断を下す時期へと移る。

再稼働に向けた議論は最終局面に入った

県議会では過半数を握る自民党や公明党などが反対。36対16の反対多数で否決となった。反対した議員からは「二者択一では『条件付き賛成』など多様な意見を拾い切れない」「一般県民が十分な知識を持って判断するのは難しく、県民投票はなじまない」といった意見が挙がった。ある中堅県議は「反対派は『危険だ!』の一言であおれるが、安全性の証明は専門性が高く説明が難しい」と、県民投票になった場合は反対派に有利になるとの見方を示した。

県民の信を問う手法については、出直し知事選か県議会での意見集約に絞られた格好だ。前出の県議は「選挙区の住民の声を聞いた上で、県議が判断すればいい」と県議会での意見集約を訴える。ただ今後、再稼働慎重派は出直し知事選を求める可能性が高い。

「経済的メリット」をもたらす秘策?

花角知事の判断はいつになるのか──。

17日の県議会では「私自身が判断する時期については、ほぼ材料がそろってきたと思うが、議論を進める中で県民の受け止めなり、意見は固まっていくと思う。まさに今、見極めていく段階で、その先に判断を出す時期が来る」との認識を示した。7月の参院選や来年6月の県知事選が予定される中、難しい判断を迫られている。

花角知事が言う「議論の材料」を巡っては、今年2月に県の技術委員会が安全性を巡る報告書を公表。夏前には万が一の事故を想定した「被ばく線量シミュレーション」が作成される見込みだ。判断を下す前には、公聴会や首長との意見交換、県民への意識調査を検討しているという。

県内では「経済的メリット」を求める声が根強い。例えば、原子力立地対策交付金の対象拡充がある。現在は対象が立地自治体の「隣接」までだが、隣々接自治体も避難計画の策定などで負担を負っているからだ。

水面下ではKKでつくられた電気を地元の地域新電力に販売し、県内に安く提供する構想が練られている。需要家にとって脱炭素電源を安く購入できれば御の字だが、独占禁止法上との兼ね合いや東北電力との調整などの課題があり、制度設計は一筋縄ではいかない。また、現在は消費地でカウントする環境価値について、一部を発電地で算定するよう訴える関係者もいる。

地元同意の在り方を再考を

県内には、避難道路の整備などが未定で「再稼働を議論する段階にない」との考えを持つ首長すら存在する。県庁所在地の新潟市に次ぐ人口を抱える長岡市の磯田達伸市長も、慎重な立場だ。

しかし、ここで重要なのは最もリスクを負う立地自治体が再稼働に同意している事実だ。直近では宮城県の村井嘉浩知事が女川原発の再稼働同意を巡って首長と意見交換したが、賛成の意思を示したのは立地市長を含む4人だけだった。100万人超の人口を擁する仙台市の郡和子市長も「再生可能エネルギーに移行すべきだと思うが」との意見を述べた上で、賛否を明確にしなかった。それでも、村井知事は再稼働に同意した。

国策である原発再稼働が、知事の進退を賭けるほどの政治決断でいいのか。前衆議院議員(新潟県選出)の細田健一氏は、県民投票条例の否決後、自身のSNSにこう投稿した。「国が再稼働について判断し、知事の同意を求め、一定の間に拒否がなければ国と事業者の責任で発電するという仕組みの導入が必要ではないか」

新潟県の迷走を他山の石として、地元同意のあり方を再考する時期に来ている。

【時流潮流/4月18日】原子力協定を巡る米国・サウジアラビアの確執


バイデン前政権時代は停滞が続いた米国とサウジアラビアの関係が急速に改善する兆しが出ている。トランプ米大統領は就任後初の外遊先にサウジを選んだ。5月中旬に訪問し、通商問題や原子力協力などの二国間問題に加え、国際情勢を協議する見通しだ。

トランプ氏のサウジ訪問は2017年5月以来、今回が2度目。前回の大統領時代も、初の外遊先はサウジだった。

サウジのムハンマド皇太子は、トランプ氏が米大統領に返り咲いた直後、各国の首脳を差し置いて一番乗りで電話協議に臨んだ。トランプ政権が続く今後4年間に総額6000億ドル(約85兆円)規模の投資や貿易を行う意向を伝えた。両者の親密ぶりが伝わる。

訪問で焦点となるのは、原子力分野の協力だ。サウジは世界有数の産油国でありながら、急速な人口増に伴う電力消費増や、気候変動問題への対応が迫られている。40年までに1200万~1800万㎾の原発建設を目指している。

手はじめにサウジ東部に出力120万~160万㎾の大型原発2基を建設し、その後、小型モジュール炉(SMR)の導入も視野に置く。大型商談を受注しようと、米国のウエスチングハウス社をはじめ、仏中露韓各国のメーカーが競い合っている。

ただ、米国製原発や、米国の技術を使う韓国製の原発を導入する場合は、サウジは米国と原子力協定を結ぶ必要がある。米国は核兵器の拡散を防ぐため、韓国製の原発を導入したUAEと同様、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理を禁じる条項が入る協定をサウジと結ぼうとしている。

ムハンマド皇太子は18年に「イランが核兵器を持つなら、サウジもただちに取り組む」と発言した経緯もあり、核武装に関心を示している。協定成立には米議会の承認も必要となる。この条項を盛り込んでいない協定が、米議会を通る可能性は低い。

サウジから見れば、ライバルのイランはウラン濃縮活動を続けるのに、なぜ、サウジは濃縮ができないかという不満がある。文句ばかりを言う米国に見切りをつけ、面倒な条件をつけないロシアや中国から原発を導入する手もある。そんな揺さぶりもかける。

トランプ氏の訪問を前に今月13日、露払い役としてクリス・ライト米エネルギー省長官がサウジを訪問した。ライト氏は、サウジにウラン濃縮を認める「道筋」が見えてきたと語り、年内合意を目指す考えを示した。

米国は難しい立場にある。イランが核兵器を取得するのを阻止するため、米国は今月12日からイラン核協議を始めた。ここでも焦点はウラン濃縮の扱いになる。米国は、できればイラン、サウジ双方に濃縮「ゼロ」を強いたい。だが、濃縮「ゼロ」を求めれば、交渉が決裂する可能性が高い。

トランプ政権には、サウジとイスラエルの和平(アブラハム)合意実現で、中東の安定化を図ろうという野望もある。原子力協定はその一里塚となる。米国は野望の実現に近づくことができるのか。今後の駆け引きに注目だ。

国際政治ジャーナリスト 晴山望

【記者通信/4月18日】豪連邦選挙戦は現政権リード 電気料金を巡る応酬続くが…


53日に投開票を迎えるオーストラリアの連邦総選挙は、現首相のアンソニー・アルバニージー氏率いる労働党がリードする展開になっている。食料品や住宅、光熱費の上昇といった生活費の高負担をどう軽減させるかが争点となる中、現政権批判を繰り広げてきた自由党などの野党連合の訴えは有権者にあまり響いていないのが現状だ。自由党のピーター・ダットン党首は、同じ保守系のドナルド・トランプ米大統領に倣った政策を打ち出しているものの、有権者らの反発を招き撤回や謝罪するというドタバタ感が否めない。焦点の一つ、エネルギー政策については電気料金の軽減策をめぐって両党で激しい応酬が続いているが、両者とも歯切れの悪さが目立つ。

首都キャンベラにあるオーストラリア連邦の国会議事堂

「ふさわしい首相」はアルバニージー氏に軍配

豪州の世論調査を担うニュースポールは4月7日~10日にかけて1271人を対象に情勢調査を実施した。議会の二大勢力に絞った支持率は、労働党が52%、自由党を中心とする野党連合は48%となり、現政権が4ポイント差でリードした。この2週間前に実施した調査では勢力の差が2ポイントだったが、1週間前では4ポイントに差が広がり今回でもその差が縮まらなかった。労働党が4ポイント差をつけたのは昨年5月以来となった。

一方、「好ましいリーダー」の項目では、アルバニージー氏は49%と前回調査より1ポイント改善し、逆にダットン氏は2ポイント下げ38%となった。選挙戦が進むにつれ両者の差が開いてきている。

アルバニージー氏は経験値の高さと重要課題に理解があるという点でダットン氏よりも評価を高め、ダットン氏は「決定力と力強さがある」と評価されている。

両者は豪州全土をくまなく遊説しているが、アルバニージー氏はポロシャツ姿で地域のイベントに参加するなど親しみやすさを売りにしている。ダットン氏は常にジャケットに襟付きのシャツを装っているためか、世論調査では「思いやりがある」「感じがいい」「傲慢(ごうまん)さが少ない」など人柄の評価では、アルバニージー氏に軍配が上がっている。

野党のダットン氏はトランプ効果が裏目

政権奪還を目指すダットン氏率いる野党連合は、政治的信条が近いトランプ氏に倣った政策を打ち出している。しかし彼らの思惑通りにいかず、有権者らの反発が強まり支持率低下の原因になっている。

その典型が政府職員のテレワーク廃止公約だ。野党連合は「テレワークが労働の非効率を招いている」とし、政府職員を対象に廃止する方針を打ち出した。トランプ氏が政府の効率化を図る目的で省庁を削減するなどの手に打って出ているが、スケールは小さいものの約37万人いるとされる政府職員を約4万人削減するという公約と併せ、「非効率」を悪とする似た政策だった。

だが国家公務員の職員組合が一斉に反発した。「労働者の実態に合っていない」「デジタル社会に反する」などという声が日増しに強まり、ついには労働党が民間企業への波及に懸念を表明し、有権者の野党連合への不信感が増幅した。

今月7日、ダットン氏は「われわれは過ちを犯した」と謝罪し、テレワーク廃止方針を撤回することになった。職員削減も採用抑制などで対応するといい、一気にトーンダウンする形に追い込まれた。

豪州政治に詳しいある専門家は「トランプ効果を狙ったが、悪評が目立つトランプ大統領になぞらえる有権者が多く存在していることに気づくのが遅かったのが支持低下の一因だといえる。世論の動向を見て謝罪や公約撤回でドタバタするダットン氏を見た有権者は、彼に求めていた強いリーダーシップに疑問を持ち始めている」と評する。

【SNS世論/4月10日】三菱商事の洋上風力損失問題で考える SNS時代の広報戦略


「火のないところに煙は立たぬ」と、ことわざにいう。これは今でも当てはまる。情報の「火元」、つまり発信源の数を減らし、出す情報を少なくし、管理すると、爆発的な拡散力を持つSNSの上でも、ある問題の情報が広がらないことがある。今の時代でも発信源、第一報は、多くの場合にメディアの発信するニュースだ。ところが、そのメディアが、エネルギー問題での報道量を減らしている。メディア業界が新聞などの活字媒体からテレビまで、不況に直面している。そのために記者の担当が多すぎて、深掘りの取材、報道ができない。さらに記者の質も低下している印象がある。エネルギー業界内では注目されている三菱商事の洋上風力発電の巨額損失が、SNSであまり広がらない。そこから考えたことを記してみたい。筆者はエネルギー業界の片隅にいるが、そこから見たSNSとエネルギー問題の関係の考察が、この連載のテーマだ。いろいろ試作の材料を提供してくれる事件だ。

三菱商事の巨額損失、話題にならず

日本初の大規模洋上発電事業を、三菱商事を中心とした企業グループが、国内3箇所で準備している。ところが同社は2024年度連結決算で、この事業で522億円の損失を出してしまった。

これは国の規制緩和による公有海面の開放と入札による大規模洋上風力発電の最初の案件だった。事業者を入札したところ、三菱商事が21年に、安い価格を示して三つの海域での事業を総取りした。ところが損失が出てしまった。国は支援を検討しているが、最近の再エネへの世論の厳しさ、負担を嫌がる民意を反映した国民民主党などの再エネ批判で、事業の先行きは見えないし、その情報もない。

当然、エネルギー関係者はこの問題に関心を向ける。ところがネットでは、Yahooの株掲示板以外、この問題でそれほど盛り上がっていない。

情報を絞り、沈静化に成功?

2月の決算記者会見には中西勝也三菱商事社長が自ら出席した。事業から逃げない姿勢を示したと見られる。しかし、会見では「円安」「建設価格の上昇」「不可抗力」と言う理由の説明を繰り返すだけだった。記者の質問に中西社長はいらだつ姿勢も見せ、あまり適切な説明ではなかった。

この決算発表後に、同社の株は下がり、SNSでも同社の説明姿勢への評判は悪かった。しかし同社は別部門が好調で、株価は持ち直した。そして問題の追加情報を4月になっても三菱商事は発表していない。

エネルギー部門の三菱商事社員と話したが、「この問題では全社に取材に応じるなという箝口令(かんこうれい)が出ている。直接の担当ではないので知らない」と、拒否されてしまった。「人の噂も75日」という。2ヶ月半経過した4月、SNSでこの問題は話題にならなくなった。三菱商事側の情報統制が成功している面がある。