草野成郎/環境都市構想研究所代表
元東京電力執行役員・販売営業本部副本部長を務め、ジェイテム社長の片倉百樹氏が6月18日死去した。かつて片倉氏とし烈なエネルギー争奪戦を繰り広げた元東京ガス副社長の草野成郎氏が追悼する。

「ロボコンが死んだ」。私は入院中の病床で聞きました。入院が思っていたよりも長引いて気鬱になっているところに訃報がもたらされ、さらに気が滅入りましたが、その瞬間、さまざまな思いが脳裏をよぎりました。
最初に思い浮かんだのは、数年前にある企画に乗せられて、楽しくもない会合に二人して参加した際に、片倉さんが、自分がかつては立派な肥満体であったことを棚に上げ、私の肥満体を憐れむかのように、既に痩せ細ってきていた自身の腹を指さしながら、「これだから数値はいいんだよ」と、照れながら説明してくれた悲しげな姿でした。今こうして病床に就いている自分にとって健康がどれだけ大切なことか、あらためて思い知りながら、彼がロボコンと呼ばれていた時代からの交流の歴史を思い起こし、畏友片倉百樹さんについて語りたいと思います。
今回、私に執筆を依頼してきた背景は、おそらく、われわれ二人が、東京電力と東京ガスの現役時代に壮絶なエネルギー争奪戦を演じたに違いない、その時代の思い出話を語ってほしい、ということだろうと思いますが、今あらためて考えれば、われわれはもっと奥深いところで、激論を交わし合った仲であったと思います。
特徴的なことは、単なるエネルギー選択ではなく、お客さまを巻き込みながら、それぞれの会社の思惑を離れ、エネルギー資源に乏しい日本として、かくあるべしとの視点で持論を展開し合う、というものであったと思います。そのような場面に出くわした多くのお客さまが、後年になって一種の懐かしみも含めて、面白おかしく語り伝えていただいていますが、その中では、われわれの天下国家論に巻き込まれて困惑された様子が伝わってきます。
エネシステム営業で対抗 官公庁を巻き込んだ展開へ
ロボコンに初めて会ったのは、第一次石油危機直後の1975年ごろであったでしょうか。当時、東大教授であられた平田賢先生(故人)を囲む、「これからのエネルギーに関する勉強会」であったような記憶があります。これは、業界をまたがった勉強会で、所属する会社を外部の目から眺め直し、時代を先取りする気概を持って議論した上で、できるだけ具体化していこうとする意欲的な会合であり、後年、コージェネレーションを組み込んだ先駆的システムである、「CES」と呼ばれるエネルギーシステム体系をつくり上げました。メンバーには、私自身も含め「らしくない」人が選ばれていたような気がします。
ロボコンと愛称されていた片倉さんは、エネルギー会社の壁や会社間の境を打ち破る、という、ひときわ優れた持論を展開していました。それは私にとってもっとも斬新的な考え方であり、実に印象的でありました。そして、飲み会では一盃ごとに激論を交わし、麻雀では一振りごとに、ゴルフでも一打ごとに一喜一憂するなど大いに遊んだ時期でもあり、当時30歳代の前半の熱気はとどまることを知りませんでした。
その後、片倉さんは、「CES」の中核の一部を「ヒートポンプ・蓄熱システム」に置き換えて、個別のお客さまや地域冷暖房に適用する営業活動を展開し、「有効なエネルギーシステムの推進」という基本線は同じでしたが、コージェネレーションによる電気と熱の併給システムを中心とした営業を展開する私とは、正面から対抗することになりました。
それ自体はそれぞれが切磋琢磨する意味でよかったのですが、やがて会社から業界間の戦いに進展し、それぞれが支援団体を設立し、果ては官公庁をも巻き込んだ展開となるに至り、結果的に双方とも引くに引けない状況になってしまいました。時代の流れでもあったのでしょうが、今考えれば、残念なことです。
実際の営業折衝の中で、お客さま先で片倉さんとバッティングした例も多くありました。思い起こせば、お客さまもそれを狙っていた節もあったような気がします。プレゼンは、基本的には後出しが有利といわれています。なぜなら、後攻がプレゼンする場合は、お客さまは先攻の様子の一端を教えてくれることもありますし、それに対する先方の感触をうかがい知ることも可能となるからです。従って、事前に先方の担当者の方々にお願いして、後攻にしてもらうのが前哨戦となります。
ゴルフ場でのバッティングもありました。休み時間に隣のテーブルに片倉さんとお客さまが座っていて、そのお客さまは一週間前に私とゴルフをご一緒していただいた方々であったとか、今思い出しても冷や汗が出てしまいます。
ところで、われわれが折衝するお相手のお客さまとは、エネルギーそのものをご使用していただく消費者の方々だけではなく、エネルギー選択に関して重要なポジションにある設計事務所、総合建設会社、設備会社、不動産会社など多岐にわたっており、これらの方々にどのように理解していただけるか、このことに全知全能を傾けた毎日でした。
災害への即応が喫緊の課題 片倉さんからの伝言とは
こうしたエネルギー争奪戦の結果は、人によって評価が分かれるでしょうが、電力業界に比べて相対的に弱小な都市ガス業界が、健気にも闘ってそれなりに勝ち抜いてこれた理由を挙げれば、それはガス業界の体質でもある「技術力と現場力」であるかもしれません。昔から大きなメーカーからのご支援が期待できなかったガス業界は、自らの手で技術を生み出し、自分の手によって現場で適用していかねばならず、これに打ち克つための努力の結果、お客さまの期待に沿える力量を備えることができたと言えるのかもしれません。
業界の垣根を越えて、日本にとって有効なエネルギーシステムを構築する重要性は今日なお不変ですが、東日本大震災、一昨年の北海道の全域停電、昨年の大規模台風の襲来による甚大な被害などを考慮するならば、災害に即応できる新しい時代のシステムを構築することがエネルギー関連業界に課せられた喫緊の課題でもあり、電力会社がコージェネレーションを営業ツールとして推進する時代への変遷をあらためて認識するまでもなく、その重要性はますます高まるものと考えられます。
日本という立場を考えた両業界の新たな取り組みが展開されること、これが片倉さんからわれわれへの伝言ではないでしょうか。










