【特集1】長期的な投資最適化へ 市場と公的関与の併存探る欧州


洋上風力発電開発で先行してきた欧州でも、入札不調や事業中止が相次いでいる。投資促進と需要家への価格転嫁抑制を両立するべく、政策を見直す動きが加速している。

【寄稿:中島みき/国際環境経済研究所 主席研究員】

欧州では、近年のインフレや資金調達費用の増加などを背景に、洋上風力発電の入札不調や事業中止が続き、制度の見直しの動きが出ている。

欧州最大の設備容量を誇る英国は、海域リース権の入札と価格支援のCfD(差額決済)入札の二段階方式を採用。2022年のCfD第5回入札では、入札上限価格44ポンド/MW時(以下、価格は全て2012年ベース)に対し、応札なしとなった。これを受け、24年の第6回で入札上限価格を見直し実施した結果、54~59ポンド/MW時で落札された。ところが、このうち2・4GWを確保したデンマークのエネルギー企業オーステッドが今年5月、サプライチェーンコストの継続的な増加や金利上昇、完工遅延リスクなどを理由に事業中止を発表した。

かかる状況を踏まえ、今年の第7回では、契約期間を15年から20年に延長、英国内のサプライチェーンへの投資に対し、評価に応じて追加的収入を配分する「クリーン産業ボーナス」を導入するなどの見直しを行った上、入札上限価格を81ポンド/MW時(適用価格は113ポンド/MW時)まで引き上げた。風車の大型化や習熟曲線の効果、案件の大規模化、資金調達費用の低減などにより、落札価格は15年の第1回120ポンド/MW時から7年間で37ポンド/MW時まで低下したところ、今回の入札上限価格は17年の第2回落札価格75ポンド/MW時を上回る水準となった。

英国における洋上風力入札の価格推移(価格は2012年ベース)

海域リース入札にも課題はある。19年に公表のラウンド4では、最終的にオプション料の提示金額が高い事業者から落札する制度を導入した。契約締結後開発着手までの3~10年間、毎年オプション料を支払うものだ。21年2月の公表結果は、8GW全体で年間8億7900万ポンドと高額になった。業界団体は、ラウンド3の32 GWからの対象容量の大幅減が競争激化を招いたと批判。オプション料による開発費用の増加が、将来のCfD入札価格に反映されれば、最終的に需要家の負担となる可能性がある。

再エネが卸価格押し下げ PPA合意のハードルに

ドイツの入札は、海域の事前調査実施主体別に、事業者調査方式と政府実施方式がある。前者はFIP(市場価格に一定の補助金を交付)を採用し、補助金ゼロ入札が複数ある場合には、開発権に対する支払額が最も高い事業者を選定、後者は補助金ゼロを前提とし、事業者支払額に加え非価格要素も考慮して選定する。事業者調査方式の落札者は、石油・ガスメジャーの躍進が目立った。しかし、高額な支払額が最終的に需要家に転嫁され得るのは、前述のとおりだ。

さらに、ドイツでは、既に太陽光や陸上風力発電を中心に限界費用が低い再エネ電源の導入が進み、エネルギー危機後、卸電力市場の平均価格は低下傾向にあり、年間の約5%の時間帯でネガティブプライスが発生している。建設費の増加とは対照的で、PPA(電力購入契約)需給両者の価格合意のハードルが高くなっている。

他方、需要の高負荷期や再エネ出力低下時には、メリットオーダー・シングルプライス方式の下、ガス火力が価格決定要因となることが多い。このため、天然ガス価格が高騰すると、その影響が電力価格に反映され、価格スパイクが発生しやすくなる。ボラティリティが高くなると、中長期的な市場価格の予見性が低下する。設備投資の回収の不確実性が増すと、資金調達条件は厳しくなり、事業性の悪化や投資意欲の減退につながる。

洋上風力は火力電源と比較して、発電原価に占める初期設備投資の割合が大きい資本集約型電源である。従って、資金調達費用の多寡が発電原価を大きく左右する。今夏の補助金なしの2GWの入札が不調となったことに対し、業界団体は、CfD方式を採用した方が、資金調達費用の低減により発電原価は最大30%削減可能として、次回入札からの速やかな移行を主張する。

洋上風力発電発祥の地、デンマークでも24年に3サイトを対象として補助金なしの入札を実施するも全て不調となった。政府はこれを踏まえ、CfDへ制度変更の上、再入札を実施すると表明した。オランダでも10月、1GWの補助金なしの入札で応札者ゼロとなった。コスト増に加え、建設前の価格合意やPPA締結が困難などの状況を踏まえ、政府は補助金付きの新たな入札ラウンドを準備中だ。

安定・安価な供給狙い EUはCfD適用義務付け

EUの政策は、エネルギー危機を契機に、脱炭素化の促進と産業競争力維持の両立に舵を切った。ガス価格の影響による電力価格高騰時に、価格上限設定のないFIPなどの支援を受ける再エネ電源が、追加的利潤を得たとして問題となった。このため、昨年施行の電力市場改革では、産業力維持の観点から、長期的な価格の安定化を図るべく、価格上限のあるCfDの導入やPPA促進策(信用保証等公的支援の整備)を打ち出した。

加盟国は、27年7月以降、洋上風力を含む対象の非化石電源新設を支援する場合には、CfD(もしくは同等の効果を持つ支援)の適用を義務付けられた。CfDは、市場価格の変動へのエクスポージャーを抑え、ベースラインの収入が予測可能となるため、事業者は有利な融資条件を得られやすい。資金調達費用の低減は、より安価な再エネ電源の供給を可能とする。

EUは長期的な投資の最適化のため、短期の市場原理に委ねる制度設計から、市場と公的規制・介入との併存へと、大きく方向転換したと言えよう。

なかじま・みき 京都大学経済学部卒、同大大学院経済学研究科修士課程修了。
関西電力で調査、戦略、政策、海外事業開発、再エネ事業などに従事。22年
Jパワー入社。著書(分担執筆)に「電力改革トランジション再構築への論点」、
「カーボンニュートラル2050アウトルック」、「公益事業の変容」ほか。

 

【記者通信/11月19日】東ガスなど米eメタン事業を解散へ 今年度中のFID断念


東京ガスなどは、米キャメロンLNG基地近傍で進めていたeメタン製造事業「ReaCH4プロジェクト」を解散する方針を決めた。11月19日に開かれた資源エネルギー庁のガス事業環境整備ワーキンググループ(座長=山内弘隆・一橋大学名誉教授)の第4回会合で、同社の木本憲太郎副社長が明らかにした。

このプロジェクトを巡っては、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事、米センプラ・インフラストラクチャーの5社が2023年8月に、米メキシコ湾岸でeメタンを製造・液化し、国際的に輸送するサプライチェーン確立に向けた共同検討に関する基本合意書を締結。その後、大阪ガスが離脱し、残る4社で25年度中の最終投資決定(FID)を目指し検討を進めてきたが、インフレによるコスト上昇で経済性の悪化が避けられないことからFIDを断念した格好だ。今後は、カナダでの新規eメタンプロジェクトを有力候補とし、30年度までの製造開始を目指して具体的な協議を進めていくという。

インフレがeメタンプロジェクトを直撃した

木本氏は「豊富な水力発電由来のグリーン水素を利用できるなど、原材料調達に起因するコストの課題や土地の確保といった点で非常に優れている」と述べ、カナダの新規プロジェクトの事業の蓋然性が高さを強調した。

【記者通信/11月19日】安定供給確保にあの手この手 供給力確保義務の強化には業界から反発も


電力システム改革の検証を踏まえた制度改正の方向性が見えてきた。資源エネルギー庁は、電力小売り事業者に対する供給力確保の義務履行の強化や、公的機関による電源・系統投資への資金調達支援など安定供給確保に向けたいくつかの新制度を検討している。しかし、実務者からはその実効性に疑問を呈する声も少なくない。

中でも物議を醸しているのが、小売り事業者の供給力(kW時)確保の義務履行を強化する新制度案だ。実需給年度の3年前に想定需要の50%、1年前には70%を確保することを求めるもので、負担を強いられることになる小売り事業者の反発は強い。

エネ庁が9月8日から実施していた意見募集では、「施策の目的を明確化し、その目的に照らして達成手段の妥当性を丁寧に説明すべき」との意見が寄せられた。これを受け、11月11日に開催された「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」で事務局エネ庁は、義務履行強化の目的を①需要家に対する安定・継続的なkW時の供給、②料金の急激な変動の抑制――と整理した。

それでも、関係者は規制強化に納得しきれない様子だ。ある新電力関係者は、「目的は理解できた。だが、3年前に需要の50%確保といった水準を求めることが果たして手段として正しいのか」と疑問を呈す。

エネ庁は、規制強化の背景として22年の卸市場高騰を挙げているが、当時の混乱は小売り事業者がリスク管理を十分に行っていなかったことで、価格高騰に耐えられずに一方的な契約解除と、それに伴い一部の需要家が最終保障供給に移行せざるを得なくなったことに起因する。現在は、先物市場の活用や市場連動型の料金メニューを導入することで、需要家とリスクを分担する取り組みが進んでいる。同関係者は「こうした現状を踏まえずに、小売り事業者の市場依存度が当時と同程度にあるからといって問題視し、規律を強めようとしていることが腑に落ちない」と不満をあらわにする。

実効性ある仕組み作りが求められている

一方で、電源へのファイナンス支援には一定の期待が寄せられている。同日のWGでは、電力広域的運営推進機関を通じて電源や系統の投資資金を融資する枠組みが示された。大手電力関係者は、「中立性や公平性の観点からも一定の妥当性がある」と評価する。ただし、会合の中で大山力理事長が言及したように、実現するには広域機関の組織体制づくりや人材確保が大きな課題となる。広域機関には一般送配電事業者からの出向者が多いが、「事業者からしても優秀な人材を送り込む余裕がなくなっており限界がある」(電力大手関係者)のが実情だ。

電力システム改革の検証を通じて、安定供給巡る課題が浮き彫りとなった。エネ庁の制度改正案の方向性には多くの業界関係者が同調している。あとは、実務者の意見を踏まえた実効性ある仕組みを作り上げられるかだ。

【記者通信/7月30日】電力需要増見据えた供給力確保が不可欠 畠山氏「供給制約あってはならない」


7月1日に経済産業政策局長に就任した畠山陽二郎氏が28日、専門紙記者団とのインタビューに応じた。GXやDXの進展による将来的な電力需要増が見込まれる中、「電力供給の制約が日本経済全体の足かせになることは、決してあってはならない」と述べ、経済成長に備えるためにも供給力確保に万全を期すことの重要性を強調した。

将来の電力需要増については懐疑的な見方もあるが、伸びない想定で供給側が準備を怠れば「本来、電力さえあれば成長できるはずの場面を、みすみす逃すことになる」との懸念から、供給側の経済合理性のみに判断を委ね過少投資を招かない仕組みが必要との認識を示した。また、国際競争力の観点からは「CO2フリー電源の有無が国内投資を呼び込む決定的な差となる」ことから、ファイナンスを後押しする政策措置を講じる意向だ。

インタビューに応じる畠山経済産業局長

一方で、米トランプ政権が脱炭素政策の転換を進める状況にあっても、世界的な脱炭素の機運は後退しないと見る。米国を含め欧州やアジアの企業は取り組みを継続しており、脱炭素技術の導入によって競争力を獲得していくという課題に変わりはなく「カーボンニュートラル(CN)に背を向ける動きがあったとしても、それはむしろチャンスと言える」と語った。

CNに向けた技術を早期に習得し収益事業化することは、引き続き国際競争の中心的な課題と位置付け、成長志向型カーボンプライシング構想を通じ、脱炭素と経済成長の両立を図る取り組みを推進していく構えだ。

【記者通信/7月10日】アイグリッドが太陽光の余剰活用で新サービス 脱炭素化と価格抑制に貢献


太陽光発電の開発や運用を手掛けるアイ・グリッド・ソリューションズは7月9日、余剰電力を再生可能エネルギーによる受電を志向する企業に供給する新サービス「循環型電力」を開始すると発表した。賃貸や築古などの理由で、自ら設置することが難しい企業のニーズに応える狙いだ。

同社は全国1200カ所以上の施設でオンサイトPPA(電力購入契約)事業を展開しており、そのうち305施設で余剰電力が発生している。7月時点で余剰の発電容量は合計58MWに上り、発電電力量の2割が余剰となっている。AIを活用したポテンシャル評価による試算では、全国約3万施設への導入を想定した場合、年間発電量200億kW時のうち120億kW時が余剰となる可能性があるという。今後も増加が見込まれる未活用の電力を捨てずに循環させる仕組みとして、新サービスの導入に踏み切った。

循環型電力は、設備の設置工事が不要なため、契約から供給開始までの期間は、オンサイトPPAで約1年を要するところ、最短で2カ月に短縮可能となる。

料金プランは、午前9時~午後3時の昼間と、午後3時~翌午前9時の夜間に分けた2プランを用意。昼間のプランは単価を20年間固定し、燃料費調整額を課さない仕組みとする。国際情勢の不安定化などで変動する電力価格の高騰リスクを抑えることができ、夜間の価格変動を加味しても、価格幅を約40%低減できるとしている。

新サービスを発表した秋田社長(右)

同サービスを実現するのが、余剰電力量の精微な予測を可能にする同社独自のAIプラットフォームだ。秋田智一社長は、「分散電源をできる限り地産地消で、社会的コストをかけずに循環させる構造を実現する上で、デジタル技術が極めて重要になる。このプラットフォームを活用し、今回のようなサービスを今後も展開していきたい」と強調した。

【記者通信/7月3日】DC電源確保の新たなスキーム 電源併設型がトレンドとなるか


企業のDX化やAI技術の進化に伴い、データセンター(DC)の建設ラッシュが続いている。そこで課題となっているのが、電力供給の制約や送電設備の容量不足だ。一般送配電事業者は、電力需要の急増に備え送変電設備の増強に力を入れるが、2、3年以内の供給開始を求めるDC事業者の計画にはとても間に合わない。そこで注目されているのが、電源併設のDCだ。東京ガスエンジニアリングソリューション(TGES)が進めているのは、ガスコージェネレーションシステム(CGS)による電力供給。すでに10件弱の案件を事業者に提案中だという。

施設内の一部電力をガスエンジンでまかなえば、系統からの受電容量を抑え受電電圧を下げることができ、DC新設における電力供給制約を緩和できる。例えば、15万4000Vでの受電を前提としていた場合、CGSの導入により6万6000Vでの受電が可能となり、15万4000Vの送電線に接続するよりも立地地点の選択肢が広がる。

三菱重工系のガスエンジン。写真は田町スマートエネルギーセンター(港区)

TGESには、DC関連事業者から「特高の供給検討だけで半年を要した」「特高が引けるのは最短でも2035年。鉄塔の敷設が不可能な可能性もある」といった課題が寄せられている。特別高圧領域の送電網整備は立地条件によって10年以上かかることがある。対して40MW規模のCGSの整備期間は発注から引き渡しまでで約2年。DCの早期稼働への期待と、サーバーの性能向上に伴うDCの電力消費増大に対応するために、CGSによる電力供給に高い関心が寄せられている。現時点でTGESが提案中の10件弱については、新設DCで10~50MW、既存施設の増強で10~30MW規模のCGS導入を想定している。

一方、JERAは6月5日、既設のLNG火力発電所構内へのDC建設検討に関する基本合意書をさくらインターネットと締結した。構内の発電設備から系統を介さずにDCへ直接電力を供給する、系統接続プロセスの回避を狙った新たな取り組みとなる。さらに、系統増強費用や託送料金を回避できる可能性がある。

国外に目を向けても、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などが、大規模発電所の隣接地へのDC建設を相次いで発表している。デジタル産業の競争力強化に欠かせない電力の安定調達へ新たなスキームの模索が始まっている。

【記者通信/7月2日】地域資源活用し脱炭素化へ オクトパスが再エネ電力をメルスタに供給


新電力のTGオクトパスエナジーは7月1日、J1鹿島アントラーズの本拠地「メルカリスタジアム」(茨城県鹿嶋市)をはじめとするクラブ関連5施設に、再生可能エネルギー由来の電力供給を開始した。県内を中心に太陽光発電設備など計9MW(1MW=1000 kW)の電源を保有する常陽グリーンエナジー(GE、同市)と連携し、エネルギーの地産地消を進める。

茨城県は国内でも有数の太陽光パネルの設置量を誇るが、需要地である首都圏に送る際の系統混雑が課題となっている。同日会見したTGオクトパスエナジーの中村肇社長は、「系統混雑の影響で、発電しても使われずに捨てられるグリーン電力が生じている。この無駄をなくすには、エネルギーの地産地消を進めることが重要。その象徴的な取り組みとなる」と強調した。

常陽GEは、年内をめどに同スタジアムへの電力供給能力を約2 MWまで拡大する計画で、これにより施設全体の電力使用量の半分を賄う。ナイトゲームなど太陽光が使えない時間帯は、TGオクトパスが水力など他の再エネ電源で補完する。再エネ比率のさらなる拡大を見据え、「蓄電池の設置も検討している」(中村社長)という。

鹿島アントラーズの小泉文明社長は「今日は全ての始まりの日。この取り組みを通じて、地域のエネルギーが循環する未来を実現していく」と意気込みを語った。

会見する中村社長(中央)ら

【記者通信/6月26日】最大8900万kWの供給力不足の可能性も 広域機関が40、50年の需給シナリオ策定


電力広域的運営推進機関(広域機関)は6月25日の「将来の電力需給シナリオに関する検討会」(座長=大橋弘・東京大学副学長)で、2040、50年を想定した電力需給シナリオを取りまとめた。複数の需要と供給力の想定モデルを組み合わせた計20個のシナリオを設定。各シナリオのkWバランスを評価し、必要な予備率との差分を確認した上で仮にその差分を火力で補完した場合のkW時バランスを作成した。この結果、火力発電所の経年リプレースが十分に進まない場合、全ての需要想定で供給力が不足することが示された。

需要モデルは、19年度実績の8800億kW時を基準に、DX(デジタルトランスフォーメーション)関連産業の進展状況など加味し、40年に9000億kW時と1兆1000億kW時の二つ、50年に9500億~1兆2500億kW時の四つのケースを設定。供給力は、原子力、再生可能エネルギー、蓄電池、火力のCCS(CO2回収・貯留)と脱炭素化の想定に基づく、六つのケースを設定した。

評価した20のシナリオのうち、予備率を確保できるのは40年の1ケース、50年の3ケースのみ。そのほか16ケースで不足する。特に、50年に1兆2500億kW時と需要が大幅に伸びると想定した場合、供給力が原子力・火力ともにリプレースが行われないと夏場の夜間に供給力が約8900万kW不足する(図参照)。また、脱炭素化技術などを導入することで火力の設備容量を維持するシナリオも含め、全シナリオで再エネの拡大で設備利用率が低下するため電力量ベースでの採算性の確保は困難になる。

kW・kW時バランス評価の結果(出典:電力広域的運営推進機関)

今回のシナリオは、国や広域機関、一般送配電、発電、小売り事業者といった関係者と共有し、将来の電力需給の状況について何らかの想定が必要となった際に目的に沿ったシナリオを選定して活用することが想定されている。今後3~5年ごと、必要であればより早期に状況変化に応じた見直しを検討する考えだ。

【記者通信/5月26日】蓄電池普及を全面サポート NTTアノードエナジーが7月から新サービス


NTT系のエネルギー会社であるNTTアノードエナジー(東京都港区)は5月23日、蓄電池の新設から運用・保守までを包括的に請け負う新サービスの提供を7月に始めると発表した。再生可能エネルギー時代の調整力として導入拡大が進む蓄電池事業は、発電事業者のみならず、金融や不動産など異業種からの参入が増えるなど市場の広がりを見せている。同社はこうした動きに先駆けて、23年7月に田川蓄電所(福岡県田川郡)を運開。創業以来取り組んできた、通信拠点における電気設備の構築・保守で培った知見に蓄電池事業で得たノウハウを融合させ、系統用蓄電池を用いて売電に参入する事業者に向けて、最適なパッケージを提案する。

新サービス「蓄電所構築・運用おまかせサービス」は蓄電所の構築から運用・保守までを一気通貫で請け負う。利用者は用地を確保するだけで、以降の全工程を同社に委ねることができる。

独自の予測・最適化エンジンを用いて収益性の高い充放電計画を作成する

設計段階では、国内外16社のベンダーから最適な機器を選定し、トータルコストを抑えながら建設する。運用では、全国約11万9000カ所に設置した太陽光の発電実績を蓄積するシステム「エコめがね」のデータを基に、独自開発の予測・最適化エンジンが市場価格や電池劣化コストを加味して収益性の高い充放電計画を導き出す。保守体制も強化する。全国の拠点網を活用して24時間365日体制で対応。緊急時には原則2時間以内に現地へ駆けつけ、迅速な原因究明と対処で取引機会の損失を最小化する。

沖縄を除く全国9エリアでサービス展開し、28年までに10カ所以上の受託と売上高50億円を目指す。系統用蓄電所の自社展開も進めており、同日には埼玉県の和光市、三芳町、鶴ヶ島市の3カ所に新たな蓄電所を設置したと発表。国内最大規模の蓄電所オペレーターとして着々と歩みを進め、再エネ時代を下支えしていく。

【記者通信/5月26日】バイオエタノール本格展開へ取り組み加速 28年に一部地域でE10先行導入


資源エネルギー庁は5月22日、「次世代燃料の導入促進に向けた官民協議会 商用化推進ワーキンググループ(WG)」の第7回会合を開き、ガソリンへのバイオエタノール導入拡大に向けたアクションプラン(行動計画)の素案を示した。2030年度までに最大混合率10%(E10)、40年度以降に同20%(E20)の低炭素ガソリンを供給することが柱。また、30年度のE10本格展開を前に、28年度をめどに一部地域での先行導入することを盛り込む。課題を洗い出し、対応車両の普及状況を考慮した上で供給規模の早期拡大を目指す狙いがある。6月の脱炭素燃料政策小委員会での検討・審議を経て正式に決定する方針だ。

永井岳彦・燃料供給基盤整備課長はバイオエタノール導入の意義を強調

エネ庁は、昨年11月に「バイオエタノール導入拡大に向けた方針」を取りまとめ、アクションプランを策定する方針を示していた。これを受けて今年2月に石油連盟や石油元売り3社、関係省庁、シンクタンクなどで構成する「バイオエタノール導入拡大アクションプラン策定タスクフォース(TF)」が商用化WGの下に設置。①燃料品質・車両規格、②燃料調達、③供給インフラ――の3チームで議論を進めてきた。会合冒頭、あいさつした永井岳彦・燃料供給基盤整備課長は、「脱炭素化と経済性を両立できる液体燃料として、比較的安価なバイオ燃料が当面の主役となる」と述べ、バイオエタノールの社会実装に向けアクションプランを策定する意義を強調した。

【記者通信/5月1日】洋上風力投資完遂へ 伊藤省新部長がさらなる支援措置を示唆


資源エネルギー庁の伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長が4月28日、エネルギーフォーラムなど専門紙記者団とのインタビューに応じ、洋上風力発電への電源投資を完遂させるため物価変動率40%を上限とする「価格調整スキーム」などの導入を決めたのに続き「その第二弾を検討している」と述べ、さらなる措置を講じる可能性を示唆した。脱炭素電源への投資促進に向け、再生可能エネルギー分野全般での事業環境整備により一層取り組む構えだ。

DXやGXの進展で今後、電力需要が増加する見通しであることから、脱炭素電源による供給力をいかに確保するかが重要となる。洋上風力の導入拡大がその鍵を握るが、インフレと為替の「二重苦」に陥っており事業の不確実性が高まっているのが実情だ。伊藤氏は、トランプ米大統領が洋上風力事業に否定的な姿勢を取っていることから「一部のグローバルメーカーが日本市場に関心を寄せている」と明かし、「(日本の洋上風力市場が)コンスタントな入札の実施に加え、造船をはじめとする高い技術力を有する産業が集積していることが海外メーカーにとって魅力に映っている」との認識を示した。半導体産業でTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に大規模工場を建設し経済波及効果を生んだことを引き合いに、洋上風力事業における海外資本を活用した市場活性化に期待を寄せた。

インタビューに応じる伊藤部長

国民負担軽減と両立 鍵握るFIPへの移行

一方で、再エネ普及拡大に伴う国民負担の増加にどう対応するかも、同時に解決すべき課題。FIT(固定価格買い取り)制度が再エネ導入を強力に後押しした半面、高コスト構造を招く要因になったことは「負の遺産」だと言える。伊藤氏は、「(賦課金による)国民負担の抑制と事業者の採算性の両立という“二元方程式”をどう解くかが、今後の制度議論の焦点になる」と述べ、その手立ての一つとしてFIP(市場連動価格買い取り)への移行を挙げた。FIPは「事業者の創意工夫によって国民負担を1円も増やすことなく、採算性を改善できる」ことから、全てのFIT電源を移行させたい考えだ。FIPへの移行は義務化されておらず、今後、促進策を議論していくことになる。

【記者通信/5月1日】第2回長期脱炭素電源の入札結果 既存原子力の安全対策投資で3基落札 ※修正版


電力広域的運営推進機関は4月28日、2024年度の長期脱炭素電源オークションの約定結果を公表した。2回目となる今回の約定総容量は脱炭素電源が503万kWで、内訳は蓄電池が137万kW、揚水が85.4万kW、既設火力のアンモニアへの改修が9.5万kW、一般水力(調整式)が5.2万kW。新たに募集された既存原子力の安全対策投資は315.3万kWで、全体の約半分を占めた。落札容量の99%が新設・リプレースなどで、約定総額は1年当たり3464億円となった。

今回も、前回に引き続き蓄電池による応札が殺到した。応札のあった蓄電池695.6万kWのうち約定したのは137万kW、落札率は20%だった。前回の結果を踏まえて、最低応札容量を1万kWから3万kWに引き上げたほか、長周期変動にも対応する案件を増やすべく設備の運転継続時間を「3~6時間」「6時間以上」の2枠とするなどの変更が加えられたが、いずれの枠も5倍程度の高い競争率となった。

既存原発の安全対策投資には、計434.8万kWの応札があったうちの日本原子力発電の東海第二、北海道電力の泊3号機、東京電力ホールディングスの柏崎刈羽6号機の3基計315.3万kWが約定され、落札率は73%だった。ただ、柏崎刈羽が新潟県の同意が得られておらず、東海第二は新規制基準への対応に時間を要しているなど、いずれも稼働時期が不透明で供給力の確保という点では不安が残る。

既設原発の3基が落札したが・・・

「今回から既設炉の安全対策費も対象に含まれたため結果に注目していたが、設置変更許可取得済み(泊3号機は取得見込み)の原子炉が揃って応札・落札したことは、本制度が原子力政策の実行に一定のインパクトを持ち得るものであることを示したものと受け止めている。ただし、より長期的に考えるなら、新設に対してどのように投資環境を整えるかについても、引き続き考えていく必要がある。また、今回落札した3社には支援を受ける事業者として、安全対策を含む再稼働に向けた取り組みを一層着実に進めていくことが求められよう」。日本エネルギー経済研究所・電力ユニット原子力グループの木村謙仁・主任研究員は、こう指摘する。

一方、別枠で募集されたLNG専焼火力は、募集量224万kWに対して北電石狩湾新港3号機や四国電力坂出5号機など4基131.5万kWしか応札がなく、全量が約定した。

脱炭素電源設備への投資を後押しする目的で24年度に始まった同制度だが、電力業界からは応札価格の設定や他市場収益の9割還付のルール見直しなどを求める声が相次いでおり、第3回入札に向けさらなる試行錯誤が続きそうだ。

【記者通信/4月23日】骨太方針に明記へ e-メタン議連が始動


「今年も骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に向けて議連としての提言をまとめていきたい」――。4月21日、天然ガスの高度利用やe-メタン(合成メタン)の社会実装を目指す自民党有志議員による「GXにおける天然ガスの高度利用とe-メタン促進に関する議員連盟」が開いた総会の冒頭あいさつで、議連会長の梶山弘志衆院議員はこう、意気込みを語った。

梶山会長はこの中で、トランプ政権の誕生などで世界が不安定化する情勢下において「日本として国益を重視する必要性」に言及。「エネルギー資源に乏しいわが国においては、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素の三つを同時に達成するようなGX(グリーントランスフォーメーション)を推進しなければならない」と強調した。また、顧問を務める茂木敏充衆院議員は、「e-メタンは日本が先行して取り組んできた期待の分野」とし、「まずは石炭から天然ガスへの燃料転換を進め、将来のe-メタン導入に向けた環境整備を行うことが非常に重要だ」と述べた。

会合の冒頭であいさつする梶山会長

同日の会合には、自民党の国会議員6人のほか、経済産業省など省庁関係者、日本ガス協会の内田高史会長をはじめとする業界関係者が出席。資源エネルギー庁と環境省からの報告のほか、東京ガスによる燃料転換と天然ガス高度利用の事例紹介などを受けた。

同議連は昨年に発足し、3回の会合を経て移行期における天然ガスの利用促進とe-メタン実装に向けた環境整備を求める提言をまとめた。今年も、5月に予定している次回会合で提言案をまとめ、6月に閣議決定が予定される2025年版「骨太の方針」への明記を政府に働き掛けていく考えだ。

需給バランスは危機的水準へ 休廃止計画を阻止できるかが鍵


2030年前後に火力発電設備の休廃止が集中し、中長期で需給バランスが厳しくなる――。そんな実態が、電力広域的運営推進機関が3月28日に公表した25年度供給計画(25~34年度)で明らかになった。政府の30年に向けた石炭火力フェードアウトの方針を踏まえて事業者が休廃止の計画を具体化させるほか、長期脱炭素電源オークションで落札された29年度以降に運開予定の新設LNG火力に、既設火力からのリプレース案件が含まれているため、工事期間中の20年代後半に供給力が減少することが主な要因だ。

27~29の各年度に休廃止する設備容量は、昨年度の供給計画(24~33年度)よりも増加。この結果、新増設から休廃止を差し引いた設備の減少量が昨年度の供給計画との比較で2倍以上に拡大した。30年度以降は新増設の設備量も増加するが、設備量の減少傾向は続く。一方で、データセンターや半導体工場などの建設に伴い、需要は昨年度計画よりも増加するとの想定だ。これにより、供給信頼度の指標となる年間EUE(停電予測量)は、27年度に北海道、東北、東京、九州の広いエリアで、28~34年度には東北、東京、九州で目標停電量を上回り、その基準を満たせない見通しとなった。

火力発電の新増設および休廃止計画の推移 出所:電力広域的運営推進機関

補修量の増加による影響も 電源確保の費用負担の検討不可欠

広域機関は同日、供給計画の結果を基に現状の課題を整理し経済産業相に意見を提出した。既設火力を維持するための方策として、低稼働の設備を供給力・調整力・慣性力として活用するなど、脱炭素と供給力確保の両立を図るための制度的措置についての検討継続を求めた。さらには、同機関が供給計画の内容を精査し、電源の休廃止やリプレースの時期が一時期に集中しないよう調整の余地を検討するとし、国にも連携して必要な対応を採るよう要請した。また、事業者に対しては、需給バランスに与える影響を考慮した休廃止やリプレース計画の再検討につながることへの期待を示した。

火力の休廃止のみならず、補修量の増加が需給バランスに与える影響も大きい。20年度以降、火力の設備容量が減少する一方で補修量は増加する傾向にある。背景には、設備の経年劣化に加え、建設業の「働き方改革」による工期の長期化や、再エネ拡大による出力調整の頻度増、起動・停止の繰り返しによる機器への負荷がある。同機関は、端境期に需給ひっ迫が生じやすいことからも、年間の補修停止可能量の見直しが必要であると指摘。見直しの際には、その妥当性のコンセンサス醸成や、見直しに伴う電源確保量の増分費用の負担の在り方について検討するよう求めた。

【記者通信/2月6日】内田会長が日米首脳会談に注文 トランプ氏の資源外交に注目


「高価なLNGを押し付けられないように」――。
日本ガス協会の内田高史会長は2月5日の定例会見で、7日(現地時間)に開かれる日米首脳会談に対し、こう注文を付けた。

トランプ米大統領は、ガス・石油の増産と輸出拡大の方針を掲げており、日米間の貿易不均衡是正に向けてLNGの輸入拡大を日本に迫る可能性がある。確かに、シェールガスの生産量が増えれば日本も安価なLNGを調達できる可能性はある。だが「生産事業者はヘンリーハブのような市場価格を見て掘削量を決めている」(内田氏)ため、安定的な供給が長期的に続くかは不透明だ。

さらにトランプ大統領は就任後の大統領令でバイデン前政権によるアラスカ州の資源開発規制を撤廃しており、アラスカ産天然ガスの購入を迫る可能性もある。だが、北極海沿岸から太平洋側まで数1000kmに及ぶパイプラインの敷設コストが上乗せされ割高になる恐れがあることから、「日本として受け入れることは難しい」(内田氏)と見る。

記者の質問に応じる形で日米首脳会談への思いを語った

日本のLNG輸入量は年間約7000万t(2022年度実績)で、そのうち約400万tを米国産が占める。初会談に臨む石破茂首相とトランプ大統領との間でどのような資源外交が繰り広げられるのか。その行方に注目だ。