【特集1】消費者が納得できる料金提示を 業界の不信感払しょくに不可欠


これまで、消費者側から幾度となく是正が求められてきたプロパンガスの商慣行。抜本的な改善には何が必要なのか。全国消費生活相談員協会の林弘美氏に話を聞いた。

【インタビュー】林 弘美 全国消費生活相談員協会 エネルギー問題研究会 代表

―プロパンガス業界の料金の不透明性や商慣行が改めて問題視されています。

 2017年に料金の透明化に向けた改正液化石油ガス法省令や取引適正化ガイドラインが出されましたが、あまり変わっていないというのが実感です。店頭やホームページで公表している料金が実態と合っていなかったり、勧誘の際に公表とは全く異なる安い料金を提示し、切り替えから2、3カ月後に大幅に引き上げてしまったりといったケースが多く発生しているのが実情です。

―解決策についてどのようにお考えですか。

 1事業者に何種類もの料金メニューがあることや、公開している料金と実際の料金、そして勧誘時の料金が全て違うというのはおかしな話です。基本料金と従量料金、配送条件による割増料金なども含め、消費者が納得できるよう料金を提示するべきです。1社でもこのような悪習を続ける限り、消費者のプロパン業界への不信感を拭うことはできません。

 エネルギーの選択肢は多い方が生活の安心感につながりますし、プロパンはその大切な選択肢です。何より、地域に密着して事業を行うプロパン業者には、選ばれるというより地域に愛される存在であってほしい。安定供給への意欲を持つ事業者が、取引の透明化に努めたばかりに競争相手に攻め込まれ、廃業に追い込まれてしまうことは望ましくありません。消費者も、経済合理性だけではなく賢く事業者を選ぶ必要があります。

はやし・ひろみ 町田市消費生活センターの相談員として27年間勤務。プロパンガスの料金透明化や取引の適正化などについて、業界に対しさまざまな問題提起を行っている。

増える電気料金巡るトラブル 自由化は消費者利益なのか

―賃貸住宅において、設備の無償貸与など入居者のデメリットになる取引が行われたとしても、入居者は防ぎようがありません。

 賃貸集合住宅では、さまざまな設備費用がガス料金に含まれて入居者に請求され、その分、賃貸オーナーが入居者に提示する家賃を安く設定するという行為が横行しています。これを阻止するためには、法改正により、プロパン料金の中にガスを供給するための費用以外は入れてはいけないという規制を設けるほかに手立てはないと考えています。

―電気料金を巡るトラブルも増えているようですね。

 電気料金の高騰を受け、消費生活センターに寄せられる相談も電気関連が圧倒的に多くなっています。家賃をしのぐような高い料金を請求されたという相談もありますし、経営難による新電力撤退に伴うトラブルも散見されます。

 事業者は、電話でメリットを強調して契約を結びますが、撤退に際してはインターネット上で公表するだけだったり、消費者側から問い合わせたくても電話がつながらなかったりと、消費者に説明を尽くしているとは到底言えない状況です。高齢者の中には、自分が契約している電力会社を知らないという方もいるくらいです。自由化の制度設計そのものが、消費者に対する説明責任や納得感という観点で十分な考慮がなされていないと言わざるを得ません。

【特集1】「搾取」の構図に歯止め 設備無償提供の原則禁止も


賃貸物件の設備無償提供はプロパンガスの健全な競争を阻害し、消費者に不利益を与えてきた。松田世理奈弁護士は、景品表示法などの法律に照らしても禁じられるべき行為だと指摘する。

【インタビュー】松田世理奈 阿部・井窪・片山法律事務所弁護士

―プロパンガス業界の取引適正化ガイドラインは、商慣行の是正になかなかつながっていません。

松田 業界全体のリテラシーやコンプライアンス意識は確実に高まっていますが、そうしたガイドラインを守れない事業者が1社でもある限り、業界全体の問題としてみなされてしまいます。事業者の自主的な改善や呼びかけによる取引の適正化、消費者の選択だけでこうした行為を阻止できないのであれば、根絶するには液化石油ガス法の改正を含む制度的な措置が必要になります。

―どのようなルールを設けるべきでしょうか。

松田 非常に難しい問題ですが、液石法からのアプローチとして、プロパン業者に対し、建物に付随する設備を無償で提供することを原則禁止してしまうことが考えられます。これによって、現行の商慣習によってメリットを得ている人―、つまり賃貸物件のオーナーなどはそれを享受できなくなりますが、より弱い立場にある消費者保護を優先して考えることが妥当です。

まつだ・せりな 2007年東京大学法学部卒、09年東京大学大学院法学政治学研究科卒。経済産業省、公取委への出向を経て21年から電力・ガス取引監視等委員会専門委員、工業所有権審議会臨時委員。

―液石法以外での規制の在り方はいかがでしょうか。

松田 設備の無償貸与は、ある種過大な景品の提供で取引を誘引するもので、景品表示法などほかの法律の趣旨からしても禁じられるべき行為であるにもかかわらず、今のところ的確に対応できる法制度がありません。

 プロパン事業自体の競争をゆがめていること、消費者にとって料金の不透明感があること、何よりも利益を得ている人とコストを負担している人が食い違っている点で問題をはらんでいますから、何らかの形でこうした搾取の構図に歯止めをかけなければならないでしょう。自由市場だから自由に営業できるとはいえ、割りを食っている消費者がいる以上、何をしてもいいということにはなりません。

事業者への信頼担保へ 経営リスクの監視も一手

―電気の小売り営業でも数々のトラブルが報告されています。

松田 現行の電気事業の規制は、事業に参画するプレーヤーにとってもやや複雑な制度になっています。一般的な企業需要家や、ましてや家庭の需要家がそれを理解することはなおさら困難です。どの事業者と契約しているのか分からなくなるという話も耳にしますが、自らの契約状況を自ら管理することは当然とはいえ、それには限界があるということを制度は織り込まなければならないと思います。

―改善策はありますか。

松田 消費者にとって電気はあくまでも公共的サービスですので、事業者には相応の信頼性が求められていると思います。たとえ請求内容が正当な算定に基づくものであっても、消費者の事業者に対する信頼がなければどんなに説明を尽くしても納得を得ることは難しいでしょう。政策側で議論されている小売り事業者の経営リスクの監視も一案ですが、消費者の安心のために事業者の信頼を担保する仕組みの構築が求められます。

【特集1】事業法制定と行動計画策定 CCS事業化へ環境整備


国はCCS事業の将来をどう見据えているのか。資源エネルギー庁石油天然ガス課の佐伯徳彦企画官に課題と展望を聞いた。

【インタビュー】佐伯徳彦/資源エネルギー庁 石油・天然ガス課 企画官

―国として、CCSの事業化を目指す背景とは。

佐伯 2050年カーボンニュートラル(CN)の達成には、CCSが必要です。電力分野では、再生可能エネルギーの最大限導入により脱炭素化を目指しますが、調整力として火力システムの維持は欠かせません。製造業も、省エネと、電化や水素などの燃料の脱炭素化を最大限に進めても、最終的にはCCSを活用しなければなりません。このような事情を背景に、21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」や「GX実現に向けた基本方針」において、CCSの環境整備を推進することが方向付けられました。各国もこの2年間でがらりと政策が変わりました。

 これまで、北海道・苫小牧におけるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の大規模実証試験をはじめ、長きに渡って研究開発が行われてきましたが、結局、事業法がないため参入意向を示す事業者はありませんでした。事業法を整備しマーケットのルールを明確化することで、CO2の回収から輸送、貯留までのバリューチェーンの構築を目指します。

           さえき・のりひこ 2001年東京大学大学院総合文化研究科修士課程中退、
           経済産業省入省。ジェトロ・ロサンゼルス事務所次長などを経て、
           22年7月、新設されたCCUS政策担当企画官に就任。

24年前半にも行動計画 貯留量目標などを精緻化

―今後のスケジュールを教えてください。

佐伯 今はまだ、長期ロードマップの策定議論を通じて事業化を巡る課題を特定した段階です。できるだけ早期に事業法の制定を目指すとともに、今秋には、各産業の意見を積み上げて50年時点で達成すべき年間貯留量の目標を精緻化する作業にも着手する予定です。コスト目標や技術開発指針、適地調査計画についてもより詳細な検討を行い、24年前半までに行動計画を策定します。

―投資を呼び込むためには、採算性の見通しが欠かせません。

佐伯 現在、30年までに貯留を開始でき先進性のある事業について国が補助することを基本的な方針としています。海外事例を見ても、多くが国による補助金や税控除で成り立っているのが現状ですし、CCSが採算が取れる事業になるにはさまざまな条件がそろう必要があり英国などの先進地域でも結論が出ていません。現段階ではいつごろ国による関与が不要になるかを見通すことはできません。

―国内の貯留量のポテンシャルをどう見ていますか。

佐伯 22年3月末までに11地点で調査を行い、約160億tのC

O2を貯留可能であると推定しています。推定年間貯留量(1・2億~2・4億t)を貯留し続けた場合、100年ほど継続できる計算です。とはいえ、現在データを得られているのは石油・天然ガスの掘削により地質のポテンシャルが分かっている地点のみ。こうしたポテンシャルを最大限に活用するとともに、輸送コストをなるべく圧縮するためにも、排出源に近いエリアで地元のご協力を得られる地域において、地質調査を進めていきたいと考えています。

【特集1】効率的なCO2分離・回収技術を確立 石炭火力ゼロエミ化へ実証終了


中国電力とJパワーが大崎クールジェンで取り組んできた酸素吹きIGCC+CO2分離・回収技術。究極のクリーンコールテクノロジーとして脱炭素実現へのゲームチェンジャーになるか。

中国電力とJパワーが共同出資する大崎クールジェンでは2019年、石炭からガスを精製しそのガスから製造した水素で発電する「酸素吹きIGCC(石炭ガス化複合発電)」に、CO2分離・回収設備を付設し、石炭利用のゼロエミッション化に向けた技術実証を進めてきた。 

これは、ガス精製後の石炭ガス化ガスをCO2分離・回収設備へ送り、シフト反応により一酸化炭素(CO)と水蒸気(H2O)からCO2と水素(H2)に変換し、CO2吸収塔でCO2のみを分離・回収する仕組み。燃焼前の燃料ガスから分離するため、燃焼後の排ガスからに比べ、濃度が高く、エネルギーロスが少ない効率的なCO2の回収が可能になるという。CO2を分離した後の石炭ガス化ガスは、H2濃度が高いH2リッチなガスとなり、ガスタービンへ送られて火力燃料として発電に利用される。

16年度から3段階で進められてきたこの大崎クールジェンプロジェクトは、22年度で全ての実証スケジュールを完了。今後の計画については今のところ未定だ。

次に期待されるのは、ここで確立された技術が社会実装されることにより、石炭火力発電が新たな付加価値を持った発電インフラへと生まれ変わることだ。脱炭素の要請から、世界中で石炭火力の廃止が進んでいるが、他の化石燃料よりも安価で安定した調達が期待される石炭をカーボンフリーな形で利用し続けることができれば、資源の乏しい日本において、安定供給と環境性を兼ね備えた電源の一つとなり得る。

Jパワーは21年4月、「GENESIS松島計画」として、松島火力(長崎県松島市)2号機の酸素吹きIGCCへの転換を進め、CO2フリーの水素発電に向けた第一歩を踏み出すことを発表した。これにより、発電効率は約1割上昇し、CO2排出量は約1割削減できるという。

将来のゼロエミッション化に向けて、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)設備を追設するための用地を確保することとしており、26年度には、30年度のCCS開始を見据えた「CCUSレディ」の発電所として再出発することになる公算だ。

大崎クールジェンで培われた究極のクリーンコールテクノロジーともいえる酸素吹きIGCC+CO2分離・回収技術。脱炭素実現に向け、ゲームチェンジャーになることが期待される。

実証を終えたCO2分離・回収設備(2020年本誌撮影)

【特集1】CCSの前途は多難か洋々か 社会実装へ動き出す国内事業


研究開発や実証実験にとどまっていたCCSが、いよいよ本格的な社会実装を目指し動き出した。カーボンニュートラルに不可欠な技術と期待されるが、事業化への課題は山積している。

「CCS」は、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、日本語では「二酸化炭素(CO2)の回収・貯留」と訳される。文字通り、発電所や製油所、化学プラントなどから排出されるCO2を大気に放散する前に分離・回収し、船舶やパイプラインで貯留地に輸送、地中深くに圧入し長期間に渡り安定的に貯留する一連の技術のことをいう。

CCSそのものに経済的なインセンティブがあるわけではなく、これまでは、資源開発会社によるEOR(石油増進回収)/EGR(天然ガス増進回収)に伴う油ガス田へのCO2の圧入を除けば、技術開発や実証試験レベルにとどまっていた。それが、世界的なカーボンニュートラル(CN)の潮流が加速する中で、近年、国内外で社会実装を目指す動きが急速に広がってきている。

23年秋に法案提出 事業推進へルール明確化

国内では、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画で、水素やアンモニアと並ぶCNに向けた対応策として位置付けられ、これを受け経済産業省資源エネルギー庁は、約1年にわたり関係者による議論を重ね、今年1月末に事業化に向けた「CCS長期ロードマップ」を取りまとめた。今秋をめどに、事業者が準拠すべきルールや国の監督体制を明確にするための法整備を進める。

CCS長期ロードマップ

事業法では、「分離・回収」「輸送」事業については届出制(ただし、パイプライン輸送など地域独占を許容する場合は許可制)とする一方、石油・天然ガス事業と共通する点が多い「貯留」事業については許可制とし、鉱山法を参考にしつつ、海陸共通の制度化、貯留事業権の新設、保安体制の整備と賠償責任の明確化、(圧入後の)モニタリング責任の有限化などについて定めるほか、海外CCS推進に向けCO2輸出の法的枠組みについても措置する方針だ。

その上で、30年までに年間貯留量600万~1200万t、50年時点で約1・2億~2・4億tの貯留を可能とすることを目安に事業環境の整備を進め、30年までの事業開始を目標に、〝モデル性〟のある「先進的CCS事業」を支援する。

先進的CCS事業の要件については、複数の回収源を集約するクラスター化や、貯留地域のハブ化による事業の大規模化、そして圧倒的なコスト低減―としており、回収源、輸送方法、貯留地域の組み合わせが異なる3~5プロジェクトを選定することになる。

【特集2】世界各地でCNビジネスを探索 e-メタンで海外連携を強化


【大阪ガス】

2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、都市ガスの脱炭素化の鍵を握る技術として期待されるメタネーション。Daigasグループは30年度に、都市ガスの1%にメタネーションによって生成される「e-methane(e-メタン、合成メタン)」を導入するほか、LNG火力発電の代替や、ローカル水素ネットワークの構築によるコンビナートなどへの供給といった水素直接利用を見据え、取り組みを加速させている。

水素を直接利用するには、今あるLNG基地やガス導管、ガス機器といったインフラの改修や新設が必要となるケースが考えられるが、水素とCO2から合成するe-メタンは現在の都市ガスとほぼ同じ成分であり、既存インフラを活用できるのが大きな利点だ。

とはいえ、e-メタンや水素を社会実装するためには、技術を確立することはもちろんのこと、クリーンな水素を安価に大量に調達できるかどうかが重要な鍵となる。国内のみでは限界があり、海外の事業者との協力関係が欠かせない。

e-メタンの製造に必要なクリーンな水素、CO2の調達を含め、海外におけるCN事業推進の中心的役割を担っているのが、資源・海外事業部の「資源・CN事業開発部」だ。同部は、上流液化事業部に各部署が手掛けていた脱炭素の取り組みを集約し、22年4月に発足。米国、豪州、シンガポール、英国の海外4拠点とも連携しながら、「e-メタン」「新エネルギー(水素、アンモニア・バイオガス)」「CCS(CO2の回収・貯留)・カーボンクレジット」の三つのカテゴリーを重点分野に、世界中でさまざまなビジネスチャンスを模索している。

e-メタン事業化へ 25年のFID目指す

e-メタン事業成立の鍵は、既存のLNG出荷基地へのアクセス・活用、安価な再エネや原料となる水、CO2の調達・確保ができること。そこで同社は現在、米国、豪州、ペルーなどにおいて事業化調査(FS)を実施しており、FSを通じて、再エネやCO2の調達、水素や合成メタンの製造、液化・輸送までのサプライチェーン構築に向けた検討を進めており、25年の初号案件の最終投資決定(FID)を目指している。

日本では都市ガスの脱炭素化を目指し社会実装に向けた議論が始まっているが、海外ではまだまだこれから。資源・CN事業開発部CN事業推進チームの川崎浩司・ゼネラルマネジャーは、「生産国でも脱炭素化に向けた有望なソリューションとして認めてもらえるよう、パートナー企業と各国政府への働きかけを始めている」として、国際的な制度化を目指した活動にも注力していると明かす。同チームの中島崇副課長も、「LNG生産国では、日本向けには輸送の観点でe-メタンに強みがあるという認識が広がりつつある。今後は、アジアの他のLNG輸入国にも働きかけていきたい」と語る。

地産地消ビジネスで知見獲得 世界のCO2削減に貢献

一方、新エネルギー分野については、まずは海外での普及促進を目指し、水素、アンモニア、バイオガスの地産地消型ビジネスモデルの実現性を探っている段階だ。

例えば豪州では、現地の総合エネルギー事業最大手のAGL社がニューサウスウェールズ州などで検討を進めているグリーン水素ハブ構想のFSに参画中だ。同事業は、AGL社が保有している石炭・ガス火力発電の敷地内で、再エネ由来のグリーン水素を製造し、地域の工業地帯に供給するもので、中長期的には輸出も視野に入れる。

AGL社がニューサウスウェールズ州ハンターバレーに保有する火力発電設備
提供:Antony Evans, AGL Energy employee.

【特集1】地下350~500mの地質環境を研究 幌延町で進む安全性確認


高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分はどのように行われるのか。実際の地層処分を想定した試験研究を行っている地下施設がある北海道幌延町を訪れた。

幌延町は稚内空港から南へ車で1時間ほどの日本海に面する酪農の町。この風光明媚な場所に、日本で唯一の深地層の研究施設である日本原子力研究開発機構(JAEA)「幌延深地層研究センター」がある。

同センターは、地上施設の研究管理棟や試験棟、来訪者に地下深部での研究内容を紹介する「ゆめ地創館」と、地下の研究施設とで構成される。地下へは西立坑のエレベーターで350mの地下へ降りる。そこでは、稚内層と呼ばれる約500~400万年前に海底に堆積した珪質泥岩の地層を掘削した、全長約750mの水平坑道が眼前に現れる。

訪れたのは1月中旬。断続的に雪が降り地上は氷点下の寒さだったが、坑道内は温かく感じる。地下に100m進むごとに温度は3度上がるため、換気のために外気を入れていても坑道内は10℃程度に保たれているという。

高レベル放射性廃棄物(HLW)を地層処分するのは、地下深くの岩盤が持つ物質を閉じ込める力を利用するためだ。地下深部は自然災害や戦争といった外的要因による影響を受けにくい上に、酸素がないため金属の腐食が起こりにくく地下水の動きが極めて遅い。案内してくれた佐藤稔紀副所長によると、稚内層の深部では500万年前の海水がほとんど動かずにとどまっていることが分かっているという。

そうした安定した環境に、使用済み燃料を再処理した後、再利用できない廃液だけをガラス原料と混ぜて金属製のキャニスターと呼ばれる容器に注入し固化、炭素鋼などでつくられたオーバーパックで包み、さらに粘土を主成分とする緩衝材で覆った上で埋設する。つまり、天然と人工による多重のバリアによって放射性物質による影響が人間の生活圏に及ばないようにするのが、地層処分システムの考え方だ。

坑道をしばらく歩くと、この人工バリアの性能確認試験を行っているエリアに着く。コンクリート製の壁で閉鎖されているため実際に見ることはできないが、ガラス固化体の代わりにヒーター(95℃で加熱)を内蔵した模擬オーバーパックと緩衝材が埋設されており、そこに地下水を注入しながら、熱、水、力、化学の影響で人工バリアや周辺の岩盤にどのような変化が起きるのか、現象やメカニズムを解析しているという。人工バリアは2026年に解体し、オーバーパックの材料である炭素鋼の腐食の状況などを確認する計画だ。

埋設した人工バリアは2026年に解体予定だ

【北陸電力】持続的な成長へ 財務基盤を立て直し 成長領域に挑戦する


燃料価格の高騰で収支が悪化、2022年度は過去最大の最終赤字を見込む。持続可能な成長軌道に乗せるべく、財務基盤の立て直しと事業領域の拡大が急務だ。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

志賀 昨年11月、43年ぶりとなる低圧・規制料金の値上げ改定を申請しました。

松田 当社は東日本大震災以降、志賀原子力発電所の停止が長期化し、電力小売り全面自由化により競争が激化する中においても、全社を挙げて徹底した経営効率化を進め、電力の安定供給に努めるとともに規制料金については現行料金を維持してきました。

 しかし、ウクライナ紛争などに伴い、燃料価格がこれまで経験したことがないほど高い水準で推移し、現行規制料金の燃料調整額は2022年2月から上限に達しました。これは全国で当社が最初に到達しており、その後も上限価格と燃料価格の差がさらに拡大している状況にあります。

 この結果、22年度の収支見通しは、1970年代のオイルショックや震災直後の収支悪化をはるかに上回る1000億円という過去最大の赤字となる見込みです。緊急経営対策本部を立ち上げるなど、これまでコストダウンをはじめ聖域なき経営効率化を進めてきましたが、その効率化を大幅に上回るコスト増となっており、このままでは燃料の安定調達や電力設備の保全など電力の安定供給に万全を期すことに影響を及ぼしかねず、苦渋の決断ではありましたが、23年4月から規制料金を含む全ての電気料金の値上げをお願いさせていただくことにしました。

    まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、
    石川支店長などを経て、2019年取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 料金の原価算定に当たっては、26年1月の志賀2号機の再稼働を織り込んでいます。3年間の算定期間のうち3カ月にすぎないとはいえ、131億円の抑制効果は大きいですね。

松田 燃料価格高騰下においては、原子力の発電計画をどれだけ織り込むことができるかが値上げ幅を大きく左右します。志賀2号機は審査の第一歩目である敷地内審査も通過していないため、運転計画を織り込まないことも一つの考え方ではありますが、これから先の審査行程を最短で通過し、さらなる効率化・迅速化を実現することができれば、ハードルは高いですが絶対に不可能というわけでもありません。

 そうであれば、3カ月だけでもその抑制効果を料金に反映するとともに、しっかりと稼働を進めていくのだという意思を内外に示すべきだろうと判断しました。

【特集1】失われる石炭火力の優位性 安定供給危機の打開策とは


石炭火力の競争力が低下すれば、日本の電力供給を不安定化させかねない。発電事業者は調達の多様化などあらゆる手段を講じ、生き残りを図ろうとしている。

価格競争力、貯蔵性、供給安定性を有し、日本の低廉で安定した電力供給を支えてきた石炭火力発電。その燃料である一般炭の市場価格(豪州炭のスポット価格)が昨年9月、前年同月比8倍の1t当たり457・8ドルと過去最高額を記録して以降、高止まりの状態が続いており、その優位性に黄信号が灯っている。

ロシアによるウクライナ侵攻で、日本を含むG7(先進7カ国)の間でロシア産化石燃料の輸入を制限する動きが加速。これにより、石炭に限らず、石油やLNGといった化石燃料価格が軒並み上昇したが、その中でも石炭への影響は特に大きい。

昨年末に東北、北陸、中国、四国、沖縄の大手電力5社が経過措置料金の値上げ申請に踏み切ったが、その妥当性を審査する電力・ガス取引監視等委員会料金制度専門会合の1月11日の事務局資料を見ると、今回申請時の石炭の全日本通関価格(2022年7~9月の平均)は、前回申請時の5~6倍。LNGと石油の1・5~2・5と比較し、その上昇幅が突出して大きいことが分かる(図1参照)。

図1:火力燃料の全日本通関価格と為替レートの比較             出典:電力・ガス取引監視等委員会

大手電力会社のA氏は、「100ドル前後で安定していた石炭価格が200ドルを超えた時にも業界に衝撃が走ったが、まさか400ドル前後の高水準が継続することになるとは」と言い、これまで経験したことのない事態に危機感をあらわにする。

高コスト状態継続 電力安定供給に支障も

長期契約のLNGを燃焼する火力の発電単価1kW時当たり12円程度に対し、石炭火力は20円。発電事業関係者B氏によると「オイルリンクで取引される長期契約のLNGに劣後してしまっており、再生可能エネルギーの導入拡大の影響もあって、これまでのベース電源からミドル電源の運転パターンが加速している」という。

運転パターンが変化すれば、従来とは異なる頻繁な負荷変動を行うことになる。供給力不足による需給ひっ迫懸念が高まる状況下、火力電源には安定した稼働が求められているにもかかわらず、「これが設備トラブルの増加につながりかねない」(B氏)。

再エネ拡大により、石炭火力に求められる役割が、定格出力で安定運転し低廉な電気を供給するベース電源から、需要の変動に応じて出力を調整するミドル電源や予備力へと変わっていくことは中長期的な流れ。安定供給に資するためにも、低・脱炭素化を果たしながら一定程度の割合で活用していく必要がある。

【特集1】新技術実現と事業環境整備が不可欠 実効性高めるポイントを解説


小笠原潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

広域系統整備計画を具体化する上では、技術革新などさまざまな不確定要素が存在している。実効性を高めるために何が必要か。日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事が解説する。

電力広域的運営推進機関が策定した「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」では、2050年を視野に入れた「ベースシナリオ」「需要立地自然体シナリオ」「需要立地誘導シナリオ」の三つの将来シナリオを基に費用便益分析を行い、広域系統増強の方針が示された。

電源構成については「再生可能エネルギーの最大限の導入に取り組む」との政府方針を受け、いずれのシナリオでも、太陽光約2億6000万kW、陸上風力約4100万kW、洋上風力約4500万kW―と同一条件とする一方、再エネ発電の出力変動や出力抑制回避に貢献する電解槽による水素製造、DAC(大気からのCO2直接回収)、蓄電池、EV自動車やヒートポンプといった再エネ余剰活用による電力需要シフトの制御可能性に差を設け、評価が行われている。

すなわち、ベースシナリオでは再エネ余剰活用需要の2割が制御可能、需要立地誘導シナリオではそれら需要の8割が制御可能、そして需要立地自然体シナリオではそれら需要の全量が一定負荷と設定され、これらの対策により、電力需要が従来比55%程度増加することになる。

欧州送電系統運用者ネットワーク「ENTSO―E」が「10カ年ネットワーク発展計画」で、電源構成について三つのシナリオを作成し、その上で広域的な系統増強の必要性について評価を行っているように、不確実性のある電源投資については複数シナリオを設定するのが通常の姿だ。

しかし、日本では、現段階で政府が示しているのは30年の電源構成見通しであり、50年についてはまだ何ら提示されていない。このため、広域機関は現状で考えられる最大限の再エネ導入を見込んだ上で、それを支える需要側設備の活用をシナリオとして振らせざるを得なかったものと考えられる。

今後の広域系統増強の行方は……

【特集1】エネルギー 初夢NEWS 5選 2023年に新聞・雑誌を賑す業界ニュースを大胆予想


2022年、話題に事欠くことがなかったエネルギー業界。23年にはどのようなニュースが業界を揺るがすことになるのか。本誌記者が一足早く見た「初夢」記事を紹介する。

経済産業省に登録している電力小売り事業者732社の8割近くが事実上の休業状態に追い込まれていることが、関係筋の話で分かった。2023年の冬に向けて欧州を中心にLNG価格が一段と高騰。これに連動する形で、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格なども高値圏で推移している。22年から続く調達コストの上昇を受け、新電力の多くが慢性的な赤字に陥っており、今後の事業撤退に拍車を掛けそうだ。

NEWS1:新電力8割が休業に 市場高騰の連鎖が影響

【解説】 「欧州では天然ガスの在庫が枯渇する23年の冬に深刻なガス不足に見舞われる可能性がある」。エネルギー研究機関の関係者は、こう警鐘を鳴らす。

ロシア産天然ガスの供給が滞る中で、マレーシアではペトロナス社がガスパイプライン損傷事故の影響でLNG輸出の「不可抗力」を宣言。米国や豪州でもLNG輸出を巡る不安が高まっている。そんな中で、中国が23年にゼロコロナ政策を解除すれば、景気の急回復によるエネルギーの爆食が復活。欧州を中心に、世界的なLNG需給ひっ迫が発生しよう。

これに伴い、欧州市場価格(TTF)高騰→北東アジア価格指標(JKM)高騰→JEPXスポット価格高騰→FIP(市場連動型の再エネ買い取り制度)高騰という「高騰の連鎖」が起きる可能性がある。「現在でも赤字が続いているのに、電力調達価格が一段と上昇すればもはや撤退しかない」。地域新電力幹部の嘆きは深い。

LNG需給は来冬こそ正念場を迎えるか

【記者通信/12月16日】新電力救済につながらず 公取委の「値下げこそ善」の発想


公正取引委員会の電力市場へのアクションが慌ただしい。

12月1日、2018年秋以降の中部、関西、中国、九州電力が高圧電力小売りにおける競争抑制を行ったことを咎め、公取委に自主申告をした関西電力以外の各社は課徴金(中国707億円、中部275.5億円、九州27億円)を課せられた。各社の取締役には、株主代表訴訟が降りかかるかもしれない。

さらに16日には、小売り130社に対し『電力市場における競争に係る実態調査』への回答依頼を発出した。調査対象は卸電力市場、各種市場、送配電業務、相対卸交渉における内外無差別、常時バックアップ、料金制度と広範であり、『旧一般電気事業者と新電力との間の公平な競争条件の整備・確保がなされているかどうか。現在の市場や制度が抱える課題について、競争環境確保の観点から改めて実態調査を行う』としている。

いずれの質問からも、「旧一般電気事業者が有利な立場にいて新電力を不当に痛めているはず」という問題意識が見える。しかし、新電力小売りにとって頭痛の種になっているのは、18年当時であれば、競争抑制ではなく17~18年前半の関西電力発の過度な値下げ競争であり、現時点であれば、経過措置料金の燃料費調整単価が上限に張り付き、電力実勢価格見合いでの逆ザヤ販売、自由料金でも不十分な値上げにとどまってしまっていることだ。

家庭用需要家は、自由料金メニューから経過措置料金にシフトしており、このままでは経過措置料金解除基準から遠ざかるばかりだ。値下げを善とし、必要な価格転嫁を我慢させる発想こそが競争条件の整備、確保に逆行している。内外無差別についても、供給力減少の中で全小売り向け内外無差別を進めても十分な卸電力量にはならない。

公取委は、電力業界全体を覆う赤字体質改善にこそ注意を向けるべきではないか。

【特集1】系統用蓄電池ビジネス解禁 普及拡大へルール整備が急務


電気事業法改正により、系統用蓄電池を巡るビジネス環境が大きく変わろうとしている。一方で、系統に役立つ設備の導入に向けたルール整備が喫緊の課題に浮上している。

送電系統に単独で接続し充放電することで収益を得る「系統用蓄電池ビジネス」がにわかに脚光を浴びている。背景にあるのは、2050年カーボンニュートラルに向け再生可能エネルギー主力電源化を目指す政府の後押しだ。大手電力会社をはじめ、ENEOSや住友商事、オリックス、NTTアノードエナジーといったそうそうたる企業が参入を表明し、活況の様相を呈している。

第六次エネルギー基本計画では、30年度に発電総量の36~38%を再エネで賄うことを目指しており、そのメインは太陽光や風力といった自然変動型の再エネ。このため、出力抑制の回避や系統安定化のための調整力の確保は喫緊の課題であり、系統用蓄電池には、需要を超える発電量となった際にその電気を一時的に貯め、電気が足りない時に放電する「需給調整」や、周波数制御による「系統安定化」の役割が期待される。

実際、再エネ導入で先行してきた欧米では、系統用蓄電池を活用した卸電力市場や需給調整市場、容量市場における電力価値の取引ビジネスが既に始まっている。一方、揚水発電所による調整力の規模が大きい日本では、発電側にも需要側にも区分できない、電気事業法における位置付けのあいまいさに加え、収益化を実現するための市場がないこともあり、これまでは大手電力会社による実証事業にとどまってきたのが実情だ。

系統用蓄電池のビジネスモデル出典:資源エネルギー庁

ビジネスチャンス開けるか 各種市場で収益化期待

ところが21年度後半に入り、系統用蓄電池を巡る風向きが大きく変わった。

政府は、21年度補正予算で系統用蓄電池1案件に対し最大25億円の補助金を交付することを決定。今年4月までに13件に対する交付が決まり、23年にも運用が始まる見通しだ。また3月には、系統に接続し売電する計1万kW以上の蓄電池を「発電事業」に位置付けるとともに、系統への接続環境を整備する電気事業法改正案を閣議決定した。これまで系統用蓄電池導入の弊害になっていた制度やコストの課題を解消することで新規参入を促し、蓄電池ビジネスを一気に本格化させる狙いがある。

この政府方針に敏感に反応したのが、そこにビジネスチャンスを見出した企業だ。政府による後押しのなか、日本卸電力取引所(JEPX)におけるkW時(電力量)、容量市場におけるkW(供給力)に加え、需給調整市場における⊿kW(調整力)など、さまざまな市場における取引を通じて収益化が見込めると判断したことが参入の決め手となったようだ。

【Jパワー 渡部社長】電力安定供給に寄与し 国内外で脱炭素に挑戦 水素社会をリードする


電源の脱炭素化が急務となる中、会社創立から70年の節目を迎えた。電力安定供給という変わらぬ使命を果たしながら脱炭素を進め、水素社会のけん引役として世界で存在感を示す企業として成長し続けようとしている。

【インタビュー:渡部肇史/Jパワー社長】

志賀 ウクライナ情勢の膠着状態が続いています。燃料調達面にどのような影響が出ていますか。

渡部 2021年度の実績ベースですが、当社の火力発電所で使用する石炭の約8%をロシア産が占めています。石炭は性状が一様ではなく、発電所のボイラーによって相性が異なります。政府が経済制裁措置としてロシアからの石炭の原則禁輸を打ち出したことを受けて、今後はオーストラリアやインドネシアを中心とする産地の相性の良い性状の石炭に切り替えていかなければなりません。

志賀 オーストラリア炭を巡っては、欧州各国が既に争奪戦を繰り広げているようです。

渡部 引き合いの増加に合わせて増産されることが理想です。当社もオーストラリアの石炭会社と交渉をしているところですが、今のところ同国からの石炭調達に大きな影響は出ていません。

志賀 一般炭の価格が高騰していますが、収支にどのように影響しているでしょうか。

渡部 今のところは、国内の発電事業の収支については、一定期間で石炭価格上昇の影響を調整する仕組みはありますが、とはいえ、決算収支への影響を注視していかなければなりません。石炭のマーケットの高騰が早期に収まることを期待しています。

    わたなべ・としふみ 1977年Jパワー(電源開発)入社。
    2002年企画部長、06年取締役、09年常務、
    13年副社長などを経て16年6月から現職。

志賀 岸田政権が物価対策として電気料金を抑制する政策を打ち出せば、電力産業をはじめインフラを担う企業は体力を損なわれかねません。

渡部 大変難しい問題です。電力に限らず生活や経済に影響力がある事業は、政策の動向をうかがいながら事業を運営していかなければならないタイミングなのでしょう。電力産業においては、電力自由化の流れがある一方で、原子力のみならず石炭やガス火力、再生可能エネルギーなどほぼ全ての電源が政策の影響を強く受けるようになってきていると感じます。そのため、どの電源を選択するかという課題一つとっても、企業の自主判断だけでは立ち行かなくなってきています。

【特集1】「系統に役立つ」設備形成へ 技術的要件の見極めが必要


インタビュー:荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授

再エネ主力電源時代の系統安定化策の一つとして、政府が強力に後押しする系統用蓄電池。系統WGの座長を務める荻本和彦・東京大学生産技術研究所特任教授に、その期待と課題を聞いた。

―系統用蓄電池に対してどのような役割を期待していますか。

荻本 再生可能エネルギーの導入拡大が進めば太陽光や風力発電の出力制御量が増えるため、調整力のニーズがますます高まることが予想されます。時間ごとの電力価格の差が生じることになりますから、系統への蓄電池導入が進むことにより、蓄電池裁定取引で電力システム全体の需給改善が図られることに加え、応答速度や継続時間などに応じたさまざまな種類の調整力のニーズに対応する役割が果たされることを期待しています。

―北海道エリアでの系統接続申し込み急増に伴う、系統増強の必要性が課題として浮上しました。

荻本 蓄電池側に制約が掛かることを回避するために送配電網を増強することは、本来の姿ではありません。また、系統WGでは、蓄電池が充電する際に需要方向の混雑が発生すれば、本来の電力需要の新たな接続を阻害するのではないかという懸念も指摘されていました。再エネの系統接続で起きたような問題を繰り返さぬよう、系統WGの議論を経て関係者による検討が始まっています。

 資源エネルギー庁によると、現在、系統用蓄電池は「系統に直接つながれている設備」とのみ定義されています。しかし、本来求められている「系統の役に立つ」蓄電池にしていかなければ導入の意義はありません。系統安定化のために蓄電池をどのように活用するかしっかりと見極め、それを実現するための制度を充実させていくことは大きな課題です。どのような技術的な要件が必要なのかを明らかにして設備を形成していくことで、産業育成にもつながります。

―高いコストが課題です。

荻本 電源や需要側設備に併設されない蓄電池は、裁定取引と併せ調整力のニーズに合わせて自由に充放電ができます。市場取引で収入を得るほか収益源がなく、非常に高速・大容量の調整力になります。一方、エネ庁は、需要側の設備を活用した次世代型の分散型電力システムの検討にも着手しようとしていて、これは需要の都合があり使いづらく比較的ゆっくりとした制御に限られる面もありますが、高い経済性を期待できます。それぞれの特性を生かしながら活用していくことが肝要です。

―事業者に求めることは。

荻本 どのエリアでどのような出力制御が生じるかなど、これまでもある程度のデータが公開されてきましたが、今後は質・量がさらに充実した情報の提供が期待され、自社が設置しようとしている設備が、将来どのような価値を持つか検討しやすくなると考えられます。市場の将来のニーズを先見性を持って分析してそれに適した設備を設置することで、価値の高い、すなわち採算性の高い設備となります。今、北海道の調整力コストが他エリアよりも相対的に高いことは確かですが、将来に渡って高い水準であることを保証するものではありません。蓄電池を運用する20年間を見据え、本当の意味で系統に役立つ蓄電池などの設備を導入していただきたいと思います。

      おぎもと・かずひこ 1979年東京大学工学部卒、
      電源開発入社。技術研究開発、設備保全業務高度化、
      技術戦略などに従事。2008年から現職。
      専門はエネルギーシステムインテグレーション。