季節外れの電力需給ひっ迫は、社会に安定供給は当たり前ではなくなったことを知らしめた。今後の電力システムはどうあるべきか。大きな課題を社会全体に投げかけている。
3月22日の電力需給ひっ迫は、①16日の福島沖地震の影響(22日時点でJERA広野火力をはじめとする東京・東北エリアの計335万kWの計画停止、東北から東京向けの送電線運用容量が半減)、②17日以降の電源トラブル(Jパワー磯子火力など計134万kWが計画外停止)、③真冬並みの寒さによる記録的な高需要(前日21日、東日本大震災以降3月の最大需要であった4712万kWを超える4840万kWを想定)、④悪天候による太陽光の出力大幅減(最大175万kWと設備容量の1割にとどまった)―と、悪条件が重なり起きた事象であることは間違いない。
だが一方で、競争促進と脱炭素化をエネルギー政策の最重要課題として優先した結果、安定供給を支える火力電源の休廃止が急速に進み、特に高需要となる夏・冬に需給がひっ迫しやすい状況が常態化している中での出来事であったことも事実。こうした供給側の構造的な問題が、一定の条件の下で顕在化した結果だというのが、電力業界関係者の大方の見方だ。
特筆すべき点は、21日時点で見込まれた22日の最大需要が、電力広域的運営推進機関が昨秋の需給検証で示した厳気象(10年に1度の厳冬)だった場合の3月の最大需要の想定を大幅に上回っていたこと。そして何よりも、冬の高需要期(12~2月)ではなく比較的需給が緩みやすい3月末という時期に、初の「需給ひっ迫警報」を発令しなければ大規模停電に陥りかねないほど、東日本大震災以降、最も差し迫った状況になったということだ。
エネ庁が検証に着手 浮かび上がった課題
広域機関による需給検証では、厳気象下での3月の最大需要を4646万kWと想定していた。節電が進まなければこれを200万kWも上回っていたことになる。資源エネルギー庁によると、この2年、実際の最大需要が需給検証による想定を上回る傾向が顕著で、20年度冬は全国7エリア(北海道、東北、中部、関西、中国、九州、沖縄)で、21年度冬は4エリア(東北、東京、中部、北陸)で想定を上回った。
これについて、エネ庁は「地震の影響や悪天候と厳しい寒さといった一時的な要因のみならず、構造的な要因も影響していると考えられる」と、新型コロナウイルス感染対策により、自宅とオフィスの両方で働くスタイルが定着し全体の電力需要を押し上げた可能性を挙げる。
一方、今回のように、季節的にも比較的需給が厳しくなく、広域機関の「kW・kW時監視」の対象から外れた時期でも、需給ひっ迫リスクが高まっていることについてはどう見るべきだろうか。それはひとえに、供給力の低下が遠因だといえるのではないだろうか。
需要が最大となる7~8月、1~2月に供給力を最大限に確保するため、発電所や連系線などの設備の点検停止は、この期間を避け春や秋に実施するよう作業調整が行われている。これはその間、想定外の供給や需要の変動リスクに機動的に対応できる能力が失われていることを意味する。実際22日は、東京エリアで1月の停止量の約2倍に相当する約570万kWの電源が作業停止中だった。
高需要期以外のひっ迫リスクに備えるために十分な供給力を確保するにしても、全体の供給力に限りがある中での作業計画の調整には限界がある。追加的なコストも生じるため、「電気料金を下げるためのコスト抑制が大命題になっている中、需要が上振れするわずかな可能性のために予備力を多く用意しておくことは、そう簡単に判断できることではない」(電力業界関係者)

こうした、社会構造の変化に伴う電力需要の増大、需要最大期以外で発生する需給ひっ迫リスクを需給検証にどう織り込み、需給対策に反映させるべきか―。
エネ庁は、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・武蔵野大学特任教授)で、一連の対応の検証と課題の検討に乗り出した。5月に予定している夏季の需給検証の取りまとめを前に、方向性を固める方針だ。