【記者通信/2月6日】内田会長が日米首脳会談に注文 トランプ氏の資源外交に注目


「高価なLNGを押し付けられないように」――。
日本ガス協会の内田高史会長は2月5日の定例会見で、7日(現地時間)に開かれる日米首脳会談に対し、こう注文を付けた。

トランプ米大統領は、ガス・石油の増産と輸出拡大の方針を掲げており、日米間の貿易不均衡是正に向けてLNGの輸入拡大を日本に迫る可能性がある。確かに、シェールガスの生産量が増えれば日本も安価なLNGを調達できる可能性はある。だが「生産事業者はヘンリーハブのような市場価格を見て掘削量を決めている」(内田氏)ため、安定的な供給が長期的に続くかは不透明だ。

さらにトランプ大統領は就任後の大統領令でバイデン前政権によるアラスカ州の資源開発規制を撤廃しており、アラスカ産天然ガスの購入を迫る可能性もある。だが、北極海沿岸から太平洋側まで数1000kmに及ぶパイプラインの敷設コストが上乗せされ割高になる恐れがあることから、「日本として受け入れることは難しい」(内田氏)と見る。

記者の質問に応じる形で日米首脳会談への思いを語った

日本のLNG輸入量は年間約7000万t(2022年度実績)で、そのうち約400万tを米国産が占める。初会談に臨む石破茂首相とトランプ大統領との間でどのような資源外交が繰り広げられるのか。その行方に注目だ。

【記者通信/2月1日】24年度新エネ大賞決定 最高賞に三菱マテリアルテクノの地中熱利用システム


新エネルギーの機器開発や設備導入で優れた実績を顕彰する「2024年度新エネ大賞」(主催:新エネルギー財団)の受賞者が決定した。1月29日、東京ビッグサイト(東京・江東)で表彰式が行われ、受賞した17の企業・団体が出席した。

最高位の経済産業大臣賞には、三菱マテリアルテクノの都市部向けに開発した地中熱利用システムが選ばれた。掘削スペースを必要とせず、ボーリングマシンを使用する従来の工法「ボアホール方式」に比べ、設置工事費を20~50%削減できる「基礎杭方式」「水平方式」「土留壁方式」を独自に開発。地中熱の利用拡大に貢献したことが評価された。同社の石上孝・地中熱グループサブリーダーは今後について、「首都圏を中心に、寒冷地だけでなく冷房主体の温暖地にも普及を進めていく」と述べ、カーボンニュートラルに向けた地中熱利用のさらなる拡大に意欲を示した。

次点の資源エネルギー庁長官賞には、シャープエネルギーソリューションの太陽光発電と家電機器のAI最適制御で家庭の電気代を抑える「Life Eeeコネクト」サービスと、リコーの3Dプリンターを用いた樹脂製水車翼の実用化による小水力発電の推進が選ばれた。

「Life Eeeコネクト」サービスは、独自開発のAIが天候に応じた太陽光の発電量や消費者の生活パターンを分析し、余剰電力を最大限活用できるように家電の消費電力量を制御する仕組みだ。これにより、エアコンで約25%、給湯器で約28%の電気代を削減できる。他社の家電製品との連携も進めており、国内8社の給湯器と接続可能。さらなる対象機器の拡大を目指している。

リコーは、プリンター事業で培った技術を応用し、樹脂製の水車翼に必要な強度や耐水性を実現した。金属製に比べ、ライフサイクルコストを約30%削減し、生産期間も数日に短縮できる。これまでに5kW未満の発電設備で実現しており、下水処理場などに導入した。水力発電設備メーカーと協業し、大型発電設備への導入に向け開発を進めている。 

受賞した17の企業・団体が出席した

24年度新エネ大賞について、審査委員長を務めた内山洋司・筑波大学名誉教授は、「応募分野を省エネと明確に区分し、新エネの基準を厳格化した」と述べる一方で、応募総数が55件と過去28年間の平均(約43件)を上回ったことについて、「新エネに対する関心が年々高まっている傾向を示している」と評価した。

【記者通信/11月26日】コスモ石油などSAF製造設備を公開 試運転開始へ廃食用油の回収始まる


コスモ石油などは11月22日、同社の堺製油所(大阪府堺市)で建設中の国産SAF(持続可能な航空燃料)の製造プラントを報道陣に公開した。年内の完成を目指し、今年度中に試運転を開始する予定だ。来年度初頭には本格的な量産を開始し、国内初となる国産SAFの商用化を実現する。

年間3万klを製造する

SAF製造を手掛けるのは、コスモ石油のほか日揮ホールディングス(HD)、廃油再生を手掛けるレボインターナショナルの3社が共同出資して設立したサファイアスカイエナジー。コスモ石油が航空会社などへの販売、レボ社が一般家庭から出る「家庭系」と飲食店などからの「事業系」の2つのルートで廃食用油の調達を担当。日揮HDはレボ社による原料調達を支援し、4社が連携して原料調達から製造、供給までの国内サプライチェーンを構築する。

製造技術には、廃食用油を高温・高圧下で水素化処理する「HEFAプロセス」を採用しており、水素は同製油所内の既存設備からの供給で賄う。プラントの製造能力は年間約3万klを見込み、製造過程ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサも副生される。廃食用油の受け入れ設備はタンク3基で計2000klの貯蔵が可能。既に完成し、試運転に向け国内各地からの搬入が始まっている。

堺市など4者で連携協定を締結した(右から2番目が永藤英機市長)

コスモ石油、日揮HD、レボ社の3社は同日、家庭系廃食用油の資源化を促進する連携協定を堺市と締結し、イオンモール堺鉄砲町(堺市)に廃食用油を収集するための回収ボックスが設置された。来年1月中旬までに、同店を含む大阪府内のイオンモール5店への設置を完了する予定だ。

イオンモール堺鉄炮町に設置された回収ボックス

国内では、家庭から年間約10万tの廃食用油が排出されているが、そのうち約9割が廃棄されている現状がある。協定締結式に出席した永藤英機堺市長は「市民に食用油を廃棄するのではなく、資源として活用するよう呼び掛けていきたい」と述べ、同市を起点とした資源循環の実現に意欲を示した。同市が廃食用油の回収に取り組むのはこれが初めてで、年間約27tの回収を見込む。

【記者通信/5月30日】日韓台のガス協会が会合 CN化でMOU締結


日本、韓国、台湾のガス協会が都市ガス事業の現状や問題について意見・情報交換する会合「日韓台ラウンドテーブル」が5月29日、東京都内で開かれた。16回目となる今回は「移行期の天然ガスシフトと将来的な都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化」をテーマに議論。3協会は都市ガスのCN化について、定期的に情報交換する新たな会議体を設置することで合意し、MOU(覚書)を締結した。3協会がMOUを締結するのは、会合を立ち上げた1993年以来初めて。

同日に開かれたMOU締結式には、日本ガス協会の内田高史会長、韓国都市ガス協会キム・スンキ副会長、台湾ガス協会のシウ・ジリン理事長が出席した。冒頭のあいさつで内田会長は、「安定供給を継続しながらCNを実現させていくという使命は、都市ガス業界に身を置く立場として3か国とも同じだ」と述べ、今回のMOUをきっかけに都市ガスのCN化を加速させる意向を強調した。

日韓台ラウンドテーブルは、「ガス技術が進んでいる日本との関係を深めたい」という韓国・台湾からの要請を受け、93年に始まりコロナ禍期を除き2年に一度のペースで開催されてきた。第16回会合で都市ガスのCN化に焦点があった背景には、世界的なCN化の流れの中、3か国・地域の都市ガス業界のCN化に向けたビジョンが共有されておらず、各国が別々の考え方で検討を進めていたことへの問題意識があった。今後は、新たな会議体を通じて、日本の都市ガス業界が進めるe-メタンや天然ガスへの燃料転換の状況などを情報共有するとともに、韓国、台湾のCN戦略を確認していく構えだ。

MOU締結式に出席した左から台湾ガス協会のシウ・ジリン理事長、日本ガス協会の内田高史会長、韓国都市ガス協会キム・スンキ副会長

【記者通信/5月29日】増資・上場も視野に JERAが描く35年への成長戦略 


2022年5月12日に「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」という、35年度に向けた大きなビジョンを策定した火力発電最大手のJERA 。あれから2年、同社はいよいよその実現に向けた戦略を具体化させた。5月16日に発表した「2035年ビジョンの実現に向けた成長戦略」において、「LNG」「再生可能エネルギー」「水素アンモニア」の3分野を戦略的事業領域に位置付け、これらの事業領域で35年度までに累計5兆円(各分野で1~2兆円)もの投資を行う方針を示したのだ。

そろって記者会見に臨んだ可児行夫会長(左)と奥田社長(5月16日、JERA本社)

LNGについては、石油・石炭の使用量が多いアジア地域向け販売を拡大するとともに世界最大級のバリューチェーン構築を目指し、年間3500万tの現行の取扱量を維持する。水素・アンモニアについては、年間700万t程度(アンモニア換算)の取扱量を目標に据え、アンモニア燃料転換の大規模実証試験に着手した碧南火力発電所(愛知県碧南市)で積み上げる知見を足掛かりに、同分野の先駆的プレイヤーを目指す。火力燃料以外の分野にも活用を広げ、船舶燃料や中小規模の工場向けに供給することも視野に入れる。再エネは、英・ロンドンに設立した子会社「JERAネックス」などを通じ、洋上・陸上風力とメガソーラーを中心に再エネの開発機会を取り込み、これまで25年度までに500万kWとしてきた開発容量の目標を35年度までに4倍の2000万kWに拡大する。こうした取り組みにより、25年度に2000億円と見通す連結最終利益を3500億円へと引き上げる。

同社は、かねてから新規株式公開(IPO)の行方が取り沙汰されてきた。16日に会見した奥田久栄社長は、35年5兆円の成長戦略投資を実行していくためには「自己資本をしっかり増強することが必要」と強調した上で、その手法について「第三者割当増資、既存株主による増資、IPOなど。どのタイミングでどの選択をするのが一番良いのか、検討の最中だ」と説明した。

27日には、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)化をコンサルティングからCO2フリーの電力供給まで一気通貫で支援する、新子会社「JERA Cross」を設立し6月1日に事業を本格スタートさせることを発表したJERA。発電分野、さらには産業界全体のカーボンニュートラル(CN)実現に向け、着々と手を打っている。

【特集1】現実を無視した補助延長の暴挙 効果感じず業界も国民も冷ややか


政府はガソリン・電気・ガスのエネルギー価格補助を来春まで継続することを決めた。これまで投じた10兆円の効果の検証がないままの決定は、「天下の愚策」とならないか。

政府は11月2日の臨時閣議で、物価高への対応を柱とする「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を決定し、燃料油や電気、ガスといったエネルギー価格の負担を軽減するための補助金(激変緩和措置)を来年4月末まで延長することを決めた。

エネルギー価格への補助を巡っては、昨年1月に燃料油高騰に伴うガソリン価格抑制策として激変緩和措置を講じ、価格高騰・円安対策に性格を変えつつ、支給額を拡充しながら延長を繰り返してきた。初期の段階では、レギュラーガソリン小売価格が1?当たり170円以上となった場合に、5円の補助金を支給することになっていたが、同年3月には基準価格を172円、支給上限を25円に大幅引き上げ。4月以降は基準価格を168円に引き下げるとともに、補助上限額は35円へとさらに引き上げ、それでも170円を超える場合は超過分の2分の1を支援することとした。

補助の恩恵は利用者に理解されているのか

これに、今年1月使用分(2月検針分)から加わったのが、電気・ガス料金への補助だ。家庭の8月までの使用分について、電気は1kW時当たり7円、ガスは1?当たり30円を補助し、9月からはそれぞれ3・5円と15円に引き下げ。その後、9月と同じ補助額で延長することが決まった。

一方、自治体を通じた地方創生臨時交付金を活用したプロパンガスへの補助に至っては、「実態がまるで分からない」(プロパン業界関係者)という。「販売事業者の懐に入っているケースもあり、小売価格に反映されているのはごく一部にすぎないのではないか。これでは選挙対策以外の何ものでもない」(同)

政治判断で突き進んだ政策 総額10兆円の是非は

この一連のエネルギー価格補助政策に対し、アナリストの一人は、「昨年度初頭に激変緩和措置を講じたことは仕方がなかった」と一定の理解を示しつつ、「9月末で終了する予定が、財源が潤沢だったこともあり6月ごろから延長に向けた議論が浮上した。その局面で政府の良識派に踏ん張ってほしかった」と、なし崩し的に延長が繰り返されていることには憤りを見せる。

補助金を支給されている石油元売関係者でさえ、「効果が不透明で後の検証がしにくい。それに、石油元売りが補助金ありきの経営に慣れてしまえば、ストレステストを受けている他国企業との差は開く一方。業界側から補助金をやめるよう声をあげるべきだ」と、否定的だ。

【特集2】地域で増す都市ガスの存在感 脱炭素化や地方創生に期待


脱炭素社会に向け、都市ガス業界はビジネスモデルの変革を迫られている。今後の都市ガス事業者の在るべき姿とは。資源エネルギー庁ガス市場整備室の福田光紀室長に話を聞いた。

【インタビュー】福田光紀/資源エネルギー庁ガス市場整備室長

―脱炭素社会に向け、地域社会における都市ガス事業者の存在感が増しています。

福田 そもそも天然ガスは、燃焼時のCO2排出量が少なく、非常に効率性の高いエネルギーです。電化が一定程度進むとはいえ、産業分野でも特に高温域の熱需要については電化による対応が難しく、天然ガスへの燃料転換と、利用機器の効率化は低・脱炭素化の有効な選択肢だと言えます。

 また、再生可能エネルギーや水素、バイオガスといった地域資源の利活用においても、そのポテンシャルが地域によって異なることから、エネルギー供給事業者の関りが欠かせません。エネルギーの安定供給、燃料転換による低・脱炭素化に加えて、地域資源の利活用による地方創生など、都市ガス事業者が地域社会において果たす役割は多岐にわたります。

―多くの事業者が、事業を多角化することによって企業としての成長を見出そうとしています。

福田 確かに、ガスに限らず、地域の需要家が必要とするさまざまなエネルギー、サービスを提供する担い手になっていると認識しています。都市ガス事業という地域に根差した産業を営んでいるからこその発展の在り方だと思いますし、自治体や他の地域企業と連携しながら地方創生にも貢献していただきたいと考えています。

      ふくだ・みつのり 2002年京都大学大学院情報学研究科修了、経済産業省入省。
      石油天然ガス・金属鉱物資源機構(現エネルギー・金属鉱物資源機構)ロンドン事務所長、
      資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長などを経て23年7月から現職。

―e-メタン(合成メタン)導入の意義をどう考えますか。

福田 天然ガスを完全に脱炭素化するために非常に重要な技術だと認識しています。これを実用化し、普及させていくためには、効率良く大量に生産するための製造技術を確立しなければなりません。触媒や熱のマネジメントなど、さまざまな研究開発の余地があり、政府はグリーンイノベーション(GI)基金を通じてこうした研究開発を支援しています。

e-メタン社会実装を後押し 規制と支援一体で検討

―大手都市ガス3社は、2030年度に都市ガス供給量の1%をe-メタンとする計画です。政府としてこれをどう支援していくのでしょうか。

福田 エネ庁としても、21年から「メタネーション推進官民協議会」を開催し検討を重ねてきましたし、ガス事業制度検討ワーキンググループにおいても、「都市ガスのカーボンニュートラル化について」をテーマに議論し、6月に中間整理を行ったところです。

 e―メタンは、既存の都市ガスインフラを活用することができるため、コストを抑えながら熱需要の脱炭素化を実現できるポテンシャルがあります。そのポテンシャルを生かしながらe―メタンの社会実装を実現するためには、官民一体の取り組みが今後、ますます不可欠となります。

 さまざまなステークホルダーが連携する必要があります。関連技術の開発や民間企業の取り組みの進捗などを踏まえながら、諸外国の制度を参考にしつつ、規制と支援一体で具体的な検討を進めていきます。

【特集2】「地域共創カンパニー」を創設 地域課題解決へより迅速に対応


東京ガスは10月、新たな組織として地域共創カンパニーを発足させた。自治体の脱炭素化ニーズの高まりにどう対応していくのか。小西雅子カンパニー長に聞いた。

【インタビュー】小西雅子/東京ガス常務執行役員地域共創カンパニー長

―10月1日に地域共創カンパニーが発足しました。その狙いを教えてください。

小西 自治体の脱炭素化ニーズに迅速に応え、これまで以上にスピード感のある脱炭素化の提案を実現し、地域の課題解決をお手伝いしていくことをミッションとしています。

 当社グループが2月に発表した中期経営計画「Compass Transformation23-25」では2023~25年をビジネス変革の期間と位置付け、その主要戦略の一つに「カーボンニュートラル(CN)実現に向けたまちづくりの取り組みによる地域課題の解決」を掲げています。これは創業以来培ってきた「社会を支える公益事業者としての信頼」「地域密着力」を生かし、強靭で魅力あふれる持続可能なまちづくりのためのソリューションを地域・コミュニティーに提供していこうというものです。

 そのためには、都市ガス普及拡大の推進だけではなく、脱炭素ソリューションを本格展開することによるBtoG(地域行政対応)機能の充実を図ることが極めて重要だと考えます。当社がハブとなり、自治体や大学、卸先ガス事業者を含む地元企業、金融機関、商工会議所といったステークホルダーをつなぎ、エネルギーをコアに地域のさまざまな課題解決を通じて価値を共創しながら経済循環の創出に貢献し、地域・コミュニティーとともに発展・成長していくことをパーパス(存在意義)として活動していきます。

       こにし・まさこ 1988年お茶の水大学家政学部卒、東京ガス入社。
       執行役員地域本部広域営業部長、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニー法人営業本部長、
       常務執行役員サステナビリティ推進部担当などを経て2023年10月から現職

自治体のパートナー企業に 豊富なソリューションが強み

―年度の途中に新組織が立ち上がるのは異例です。

小西 エネルギー企業のみならず、コンサルタント会社やデータ関連企業など、この自治体のパートナーポジションを狙う競合企業は数多くあります。脱炭素先行地域の第三回目の選定において、提案の実現可能性を高めるために民間事業者との共同提案が必須とされたこともあり、自治体側も民間のパートナーを探していて、勝負は今後1~2年でついてしまいます。競合会社が選ばれてしまうと、当社はご提案の機会を永遠に失う可能性もありますから、さまざまな組織に散在していた脱炭素のソリューションを集約し、スピード感を持って提案が行える体制を早期に整える必要がありました。

 当社グループが関係する自治体は120ほどありますので、その中でどの自治体で当社のソリューションがお役に立てるのか分析した上で、まずはパートナーポジションを獲得するべく提案活動を始めています。25年には、その中の10エリア以上で地域・コミュニティー事業を開始することを目指しています。

10月10日に包括連携協定を結んだ国分寺市の井澤邦夫市長(左)と小西氏

―具体的にどのようなソリューションを提案するのでしょうか。

小西 実は21年以降、自治体や周辺ガス事業者と「CNのまちづくりに向けた包括連携協定」の取り組みを進めており、9月末までに29件の協定を締結しました。地域脱炭素のパートナーとして自治体の相談を受け、実際にさまざまなソリューションをスタートさせています。

 その中でも多いのが、CN都市ガスや実質再生可能エネルギー100%の電気の自治体施設への供給、EV(電気自動車)やEV充電マネジメントの導入、太陽光PPA(電力販売契約)事業などです。こうした再エネやEV関係はどのエネルギー会社でも提案できますが、当社の強みはハード・ソフト合わせて44種類ものソリューションから、自治体が抱える課題やニーズに応じた支援が行えることです。

―ソフト面の支援とは?

小西 避難所のレジリエンス強化やナッジ理論を用いた省エネ教育プログラム、環境教育サービスなどがあります。例えば茨城県守谷市では、東京ガスコミュニケーションズが手掛ける「カーボンストックファニチャー」のコンセプトに基づき、県内で使用した木材のCO2吸収量を可視化した玩具を制作し、市の出生児に配布。市民の環境意識の醸成につながることも期待されています。

 環境意識の醸成がなかなか難しい中、市民の行動変容につながるような環境教育への関心も高まっています。神奈川県秦野市、東京都昭島市の公立小中学校では、ナッジ理論を活用した省エネ教育プログラムを展開。これは、東京ガス都市生活研究所と住環境計画研究所が、17~20年度の環境省の実証事業で開発したプログラムで、この学びを通じて家庭のCO2排出量が5%削減されることを確認しています。こうした取り組みを通じて、政府や自治体と連携し、省エネ教育の普及や環境意識の向上を促すことで、CO2排出量削減に貢献していきたいと考えています。

守谷市が出生児に配布する木製玩具。木材が吸収したCO2の量を印字している。

―なかなか他社にはない取り組みですね。

小西 他社には真似することができないソリューションをどれだけ持てるかが、大きな差別化の要素となることは間違いありません。ハード面では、熱の分野ではさまざまな脱炭素のノウハウがありますし、また、都市生活研究所を中心に、暮らしや食に関する研究の蓄積を長年積み上げてきました。単なる社会貢献では持続可能な事業にはなりません。こうしたノウハウやソリューションを生かし、自治体にとってもメリットがあり当社としても事業の成長につながる提案を行うことで、ビジネスパートナーとしてお役に立つことを目指します。

【特集1】火力燃料購買の50年を振り返る 新たな課題にどう向き合うか


電力事業は、燃料・電力市場の価格変動という新たなリスクに直面している。各社はこうした市場リスクとどう付き合うべきか、水上裕康氏が解説する。

水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

オイルショックから50年を迎え、電力会社は改めて燃料市場、そして近年始まった電力市場との「付き合い方」を問われている。大手電力の2022年度決算は、10社のうち9社が経常赤字を計上したが、原因は燃料および電力市場価格の高騰とのことであった。

そもそも、燃料価格の変動影響は、燃料費調整(燃調)制度によって外部化されていたはずなのに、なぜ、このようなことになってしまったのか。

確かに燃調は上限に達し、燃調の「期ズレ」影響もあった。原子力の再稼働が遅れる会社は、高騰した市場から電気を調達する必要もあったであろう。それでも、原子力が未稼働ながら黒字を確保した会社もある。各社の対応に差があったのも確かだ。燃料・電力市場の価格変動が益々激しくなる中、次に価格が大きく動いた時に、昨年度と同じ轍を踏めば、会社の存続にも関わってくるに違いない。

今回は、火力燃料購買の50年を以下の四つの時期に分けて振り返りながら、こうした新たな課題に対して果たすべき役割を考えてみたい。

事業環境とともに変化 燃料調達部門の役割

まず1973~80年代半ばは、危機を教訓に燃料部を独立させ、石油を中心に納入会社が管理する時代だったと言える。電力各社は、オイルショックの経験を踏まえ、もともと資材部や経理部にあった燃料購買機能を燃料部として独立させたのだ。それだけ、燃料調達の重要性が認識されたと言える。

オイルショックで燃料調達の重要性が認識された

もっとも、この時期、燃料の中心を占めた石油の輸入や国内の物流は概ね石油元売りと商社が独占していたので、燃料部の仕事は調達というより、納入会社管理であった。具体的には、需給が厳しい時に助けてくれた会社には翌年の発注を増やして報いる「シェア管理」である。価格は、国際的な石油価格+原価積上げの国内経費であり、「安定供給」の保証を優先に交渉したものであった。

80年代半ばから2000年ごろには、脱石油電源として開発が進められたLNG・石炭火力用の燃料調達が始まる。電力会社は燃料の輸入当事者となり、初めて海外の資源メジャーなどと交渉を経験、石炭では輸送も手掛けることとなった。

安定調達が最優先の時代である。契約は石炭で10年、LNGでは20年の長期契約が締結され、価格は、代表会社を中心に安定供給実現のための「あるべき価格」が交渉された。市場で価格が決まる現在と違い、価格交渉には非常に長い時間がかけられたものである。また、輸入の当事者とはいえ、どの契約も商社が仲介し、供給元や物流の情報もほぼ商社に依存していた。

【特集1】新エネ開発で先行した日本 欠けていた産業を育てる意識


オイルショックを契機に、日本の新エネルギー開発は加速した。カーボンショックをどうイノベーションや産業育成につなげるべきか、山地憲治氏に聞いた。

【インタビュー:山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長】

―1973年のオイルショックは、新エネルギー技術の研究開発が加速するきっかけとなりました。

山地 当時、日本はエネルギー流体革命により石炭から石油への移行が完了したところで、一次エネルギーの約8割を石油に依存していた中で発生した危機でした。これを契機に、政府は「サンシャイン計画」を策定。既に政策として位置付けられていた原子力やLNG導入に加え、石炭液化や地熱利用、太陽光・風力発電といったエネルギーに関する研究開発が国家プロジェクトとしてスタートしたという点で非常に大きな意味があったと思います。

オイルショックを機に石炭液化などの研究開発が進展                 提供:朝日新聞社

―それが奏功し、日本は新エネルギー技術で世界に先行できましたが、今は後れを取っています。

山地 その典型が太陽光発電でしょう。2005年までは、シャープをはじめ日本のメーカーが世界のパネル市場の大半を獲得していましたが、それ以後は、ドイツにシェアを奪われ、今では中国メーカーが席巻しています。温暖化対策の促進と合わせ世界市場が急速に拡大したにもかかわらず、日本企業がそのスピードに対応しきれなかったことは非常に残念なことです。ドイツがシェアを獲得した背景には、世界に先駆けて再エネFIT(固定価格買い取り)制度を導入したことで、投資リスクを最小化できたことがあります。日本は「RPS法」により、電力会社に対し販売電力量に応じた一定の再エネ電力導入を義務付けていましたが、あくまでもエネルギー政策の範囲での取り組みであり、わが国に強い産業を育てる政策に結び付きませんでした。

FITがもたらした副作用 国民負担は累積17兆円に

―FITの功罪をどう見ますか。

山地 RPSは、再エネ導入の総量目標を決め、再エネ間で競争させるものでした。FIT導入は当時の民主党政権の公約であり、震災当日の午前中にその制度案が閣議決定されたのは周知の通りです。私は、総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会の部会長としてこの議論に携わっていたのですが、この時は、再エネの区分・規模にかかわらず固定価格を原則一律(20円程度以下)とし、FIT制度下でも再エネ間の競争が起きることを想定していました。ところが、震災後の国会審議でそれは見る影もなくなったのです。

―実際は、再エネ区分と規模に応じた買い取り価格となりました。

山地 FIT政策の一番の問題は、再エネ間の競争が起きなかったことです。風力や地熱が環境アセスなどで導入までに時間がかかるのに対し、建設までのスピードが速い40円買い取りの太陽光の導入が一気に進みました。当時、FITは効果もあるが副作用も大きい劇薬だと言われましたが、今まさにその副作用の面が大きく出ています。買い取り価格のうち、回避可能費用を超えた部分は再エネ賦課金として国民が一律に負担する仕組みの中で、あっという間に年間の負担額が2兆円超に達し、累積では17兆円にもなります。20兆円のGX(グリーントランスフォーメーション)移行債は確かに巨額ですが、既にそれに近い金額を電気の利用者から徴収し、補助金として再エネ事業者に渡しているという認識を持たなければなりません。

 8000万kWもの太陽光が導入されましたが、一方でそれだけの国民負担が生じていることこそがFITの功罪だと言えます。少しずつ制度の是正が図られていますが、最初の制度設計が悪かった上に、投資リスクが下がった分野に一気に参入してくる民間のスピードに、政策を調整する速度が後れを取ったことは否定できません。経済を回していくという意識が希薄で、国内に産業が育てることができなかったことも、今後の教訓とするべきでしょう。

【東北電力 樋口社長】お客さまに「より、沿う」付加価値サービス提供で 自由化競争に打ち勝つ


他の大手電力会社や新電力との競争が来年度以降、さらに厳しさを増すと見る。地域に寄り添いながら、価格面のみならず、お客さまに「より、沿う」付加価値サービスを強みに、競争に打ち勝っていきたい考えだ。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

志賀 6月に低圧規制料金の値上げに踏み切りました。

樋口 ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響などにより、さまざまな物価が上昇する中、当社は、これまでも徹底した経営効率化に努め、低圧規制料金の料金水準を維持するよう努めてきました。しかしながら、昨年6月には、燃料費の高騰に伴い燃料費調整単価が上限に到達し、その超過分を料金に転嫁できない、いわゆる「逆ザヤ」の状態が継続していました。 これを見直さない限り、当社の財務基盤はますます棄損し、設備投資ができないようなことになれば、安定供給に支障を来しかねないことから、「苦渋の決断」ではありましたが低圧規制料金の値上げを実施しました。

志賀 23年度通期では経常損益が前期の1992億円の赤字から2000億円の黒字に転換する見通しです。

樋口 21、22年度と2年連続で経常赤字に陥り有利子負債残高がおよそ1兆円増加し、自己資本比率が10・5%まで低下するなど、財務状況が急激に悪化したことから、電力の安定供給を果たすためにも今年度は何としても黒字を確保し、その上で早期かつ持続的に利益を積み上げていくことで財務基盤の回復と安定化を図っていく必要があります。第1四半期決算では、値上げ時期が当初の予定よりも2カ月遅れたことにより150億円程度の収支悪化影響があったものの、高圧以上のお客さまなどの電気料金の見直しに加えて、燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度のタイムラグの影響が利益を大きく押し上げ、収支が大幅に改善しました。

 通期業績についても、電気料金全般の見直しによる収入増や、昨年12月に高効率の上越火力発電所1号が営業運転を開始したことによる燃料消費量などの抑制、燃料価格の動向の見極めによるタイミングを捉えた燃料調達の効率化などに加え、今後も燃料費調整制度のタイムラグ影響が利益を押し上げる見込みです。

       ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。
       2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、
       19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

依然厳しい財務状況 早期の回復に努める

志賀 これを機に、財務基盤の強化が期待されます。

樋口 当社の6月末時点の自己資本比率は12・4%と東日本大震災直後と同程度です。今年度末の自己資本比率は13・0%程度へと若干改善する見込みですが、有利子負債残高は震災直後を上回る3兆3千億円を超える水準が依然として続くものと想定しています。

 過去の大規模災害レベルと同程度の自然災害リスクへの備えや収支変動への備えとしてはかなり脆弱であり、燃料価格や卸電力取引市場価格の急激な変動など、電気事業運営上のリスクの振れ幅がこれほどの状況になかった震災直後とは異なり、危機的な状況が継続しています。このため、電力需給の最適化を図りつつ、グループ全体で「サービス提案の強化」「原子力発電所の再稼働」「経営全般の徹底的な効率化」に取り組み、早期の財務基盤回復に努めます。

大災害がもたらすエネルギー供給危機 その時業界はどう動くか


エネルギー業界は、さまざまな災害を経験しながら災害対策に不断の努力を重ねてきた。電気、都市ガス、石油、LPガスの4団体に、災害対策の現状を語ってもらった。

送配電網協議会/ 松木隆典 工務部長

広がる関係機関との協力体制構築 より良い災害対応へ改善重ねる

2016年4月に熊本地震が発生した際には、九州電力の非常災害対策総本部の総括班として災害復旧対応に当たりました。北海道から沖縄まで各電力から110台の発電機車が派遣されるなど、現在確立している一般送配電事業者同士の災害復旧応援スキームの先駆け的な対応がなされたのがこの熊本地震です。

20年7月には、19年9月の台風15号による千葉県を中心とした大規模な停電への対応を踏まえ、10社共同で「災害時連携計画」を策定、電力広域的運営推進機関を経て経済産業大臣に届け出ました。現在はこれに基づき、エリアの垣根を越えて連携するための体制を構築しています。

復旧資材の仕様を共通化したり、発電機車の操作方法を統一したりすることで、復旧応援をスムーズに行うための取り決めをしているほか、一般送配各社の防災の実務担当責任者が定期的に集まり、災害対応や応援の考え方について至近の対応実績などを基に意見交換し、連携計画の実効性の担保を図っています。

災害時は一刻も早い停電復旧が求められますし、お客さまへの対応もありますから、災害対応に携わる事業者間の一体的な連携は不可欠です。国の審議会では、非公開情報の漏洩に係る再発防止策の検討の中で、災害時に一時的に情報共有が許容される項目など災害時の情報共有の在り方が議論されており、それに確実に対応することで災害時の円滑な連携につなげたいと考えています。

千葉の台風対応がきっかけ 情報伝達の重要性を再認識

また、千葉の台風対応において、倒木処理や道路の復旧などが、電気の復旧作業に大きく影響することが改めて認識されました。これを機に、自治体との間で災害時の役割分担や情報伝達の在り方について取り決めを行い、相互に連携体制を構築する動きが全国で広がっています。さらには、遠隔地への復旧人員や資材の輸送を支援いただくため、自衛隊や海上保安庁と協定を結び、合同で訓練を実施しながら協力関係を構築している事例も出てきています。

大規模災害では、復旧要員となる送配電事業者の社員が被災する可能性もあり、想定通りに体制が機能するとは限りません。制約のある中でどれだけのことができるのか。一人ひとりが、訓練などを通じて自らの役割を常日頃から確認し、いざという時にきちんと実行できるようにしていくことが重要です。

災害時連携計画についても、現行の形が数年後も正しいとは限らないので、10社が連携し絶えず検証しながら、必要な改善を重ねていきます。(談)

【特集1】DER活用へ制度措置実施 新たなビジネス創出も後押し


【インタビュー:清水 真美子/ 資源エネルギー庁 電力産業市場室 室長補佐】

DERの活用は、電力供給の効率化、強靭化のためにも欠かせない。資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力産業市場室の清水真美子室長補佐に、今後の展望を聞いた。

―分散型電力システムの構築を目指す理由を教えてください。

清水 カーボンニュートラル(CN)や電力供給の強靭化に対する関心の高まりを背景に、再生可能エネルギーやEV、蓄電池といった分散型エネルギーリソース(DER)の導入が拡大しています。制度面でも、卸電力市場や需給調整市場など電気の各種価値を取引する市場が整備されるとともに、2022年にはアグリゲーターや配電事業、特定計量といった制度が開始となり、次世代スマートメーターの標準仕様が策定されるなど、DERの活用拡大につながる環境整備が進んできました。

 そうした中、昨年11月に「次世代の分散型電力システムに関する検討会」における議論に着手しました。CN達成を目指しつつも、近年の電力需給ひっ迫などの課題に対処するために、DERの潜在価値を最大限活用することで電力システムの効率化、強靭化を実現することが狙いです。

―そのポイントは。

清水 DERの価値発掘とその価値評価、そして分散型システムの構築という、三つの柱で検討を進めてきました。価値発掘という点では、今後普及が見込まれるEVは電力システム側での活用が期待され、引き続き5月に立ち上げたEVグリッドワーキンググループ(WG)で議論していきます。

       しみず・まみこ 2018年早稲田大学政経学部卒、経済産業省入省。
       資源エネルギー庁資源・燃料部政策課、通商政策局北東アジア課などを経て
       21年から現職。

 価値評価という点では、機器点計測することで埋もれてしまっているDERの評価を可能にすることや、低圧DERを束ねて運用する「群管理」の概念など、26年度からの需給調整市場へのDERの参入に向けた制度面の整理を行いました。分散型電力システムの構築という観点では、系統増強以外の選択肢として、DERの活用は混雑緩和など配電系統の課題解決に寄与することが示され、実証を加速していく方向性を示せたことは一つの成果だと言えます。

EVと系統の最適な統合へ 多様な主体が本音で議論

―WGにおける検討事項とは。

清水 関連業界が垣根を越えて、EVのグリッド統合を議論する必要があるとして、同WGを立ち上げました。自動車メーカーや充電器サービサー・メーカー、一般送配電事業者、小売事業者、アグリゲーターなど多様なプレーヤーが一堂に会し、エネルギー政策と産業政策の両方の視点で検討を進めていきます。プレーヤーごとに異なる将来シナリオを共有し、将来像を本音で議論することが最初のステップであり、その上で、目指すべき姿に向けた課題を特定、それに対する制度を措置し、将来のEVとグリッドの最適な統合の実現を目指します。

―どう制度措置していきますか。

清水 民間から26社、経済産業省側からも4部局と、これだけ多様な関係者が参画する会合は省内にもこれまでありませんでした。どのような制度が措置されるか未知数ですが、これまで出会うことのなかった業界同士が協力することで、画期的なビジネスが生まれることに大いに期待しています。

(取材は6月14日に実施)

【特集1】DER活用の期待と課題 最前線の取り組みに迫る


分散型エネルギーリソース(DER)の活用に向け、さまざまな取り組みが行われている。技術面や事業性の課題を克服した先に見える配電系統の未来とは―。

NEDO:系統混雑緩和し出力制御回避へ 来春に実際のリソースで実証

DERのフレキシビリティ(柔軟性)を活用し、電力系統のさまざまな課題解決に貢献することを目的に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む、「電力系統の混雑緩和のための分散型エネルギーリソース制御技術開発(FLEX DER)」事業。2020年度から進めてきたFS(事業可能性の検証)を踏まえ、現在は22~24年度までの計画でシステム開発とフィールド実証のステージに入っている。来春にはいよいよ、実際のリソースを導入しての検証に乗り出す。

送配電事業者からはDERの稼働状況が見えにくい。一方、アグリゲーターは系統の混雑状況が分からない。そこで、双方をつなぐ「DERフレキシビリティシステム」を構築し、それによるDERの制御と系統混雑の緩和、再エネ出力制御回避の効果を検証するのが、同事業の狙いだ。

DERシステムの成果適用のイメージ提供:NEDO

フィールド実証は、太陽光発電の逆潮流により混雑しそうな配電用変電所をターゲットに行われる。具体的には栃木県那須塩原市において、市が保有する施設の構内や、配電系統に直結する形でDER(蓄電池)を設置しDERフレキシビリティシステムによる上げDR(デマンドレスポンス)を実施することで、実際の系統で混雑緩和を実現するシステムについて検証する予定だ。

従来は、系統が混雑するのであれば増強工事を行うほかなかったが、それでは膨大なコストと時間がかかる。DERの活用によりそれを回避できれば、総コストを低減し得る。

そこで、FS検証において、送電線、配電用変電所、配電線の3設備を対象に28~50年におけるDER活用による費用便益を算出したところ、配電用変電所とその上位にある送電線との組み合わせのみ便益がプラスという評価になった。フィールド実証が配電用変電所をターゲットとするのはそのためだ。

NEDOスマートコミュニティ・エネルギーシステム部の小笠原有香プロジェクトマネージャーは、「DERの社会実装を目指す上では、まだまだ整理すべき課題が多い」と強調する。例えば、①系統ごとにDERを管理する時の、アグリゲーター側のシステムや通信プロトコルの標準化、②プラットフォームと系統混雑解消の観点からは、既存送変電設備を最大限活用する「日本版コネクト&マネージ」との役割分担の在り方、③既存市場あるいは将来あるべき市場運営との整合性―といった点を挙げる。

【特集1】新ビジネスの花開くか!? 風雲急の配電改革を討論


次世代の電力ネットワークを構築する上で求められるのは、経済性を伴った改革だ。そのために必要な制度設計やビジネスモデル構築の在り方を徹底討論した。

【出席者】市村 健/エナジープールジャパン取締役社長兼CEO、椎橋 航一郎/EYストラテジー・アンド・コンサルティングEnergyアソシエートパートナー、西村 陽/大阪大学招聘教授、平尾宏明/エナリス執行役員 事業企画本部本部長

左上から時計回りに西村氏、市村氏、椎橋氏、平尾氏

―分散型電力システム構築の意義とは。

市村 2016年の電力小売り全面自由化以降、本来撤廃されるべき経過措置料金規制が自由化の本質を歪めてしまっている現状下で、公明正大に自由に競争できるのが、配電網に接続された分散型エネルギーリソース(DER)をフル活用しながら需要家の選択肢を拡大しつつ、事業者自らの商材やサービスの価値の最大化を図る取り組みです。一定の規律の下で自由な運用が可能となるよう性善説に則った、ただし、逸脱した場合には罰則ありきの事業スキームの構築が求められます。

平尾 16年ごろ実証がスタートしたVPP(仮想発電所)の原点は、太陽光の出力抑制を回避するために太陽光や蓄電池、給湯器といった低圧のDERの制御を試みたことにあり、それらDERをアグリゲートする技術の確立を目指していました。それが今では、電力システムの中で調整力として活用することが主眼に置かれるようになりました。VPP実証で培われた技術は、脱炭素先行地域におけるマイクログリッドの運用などにも生かされています。

西村 需給運用の観点で目下の課題は、予備力が不足している中で多くの太陽光が導入されたために、瞬間的に需給バランスが崩れて停電が起きかねないリスクが顕在化してきたことです。発電機は供給力がゼロより下にはならないため、再エネバランシングへの効果は限定的で、吸い込んだり吐き出したりできるDERの活用に期待が寄せられています。分散化による配電網の革新は、安定供給のためにこそ求められているのです。

椎橋 現行の託送料金制度は、基本的に需要家の電圧別に設計されていますが、今後、ピアトゥーピア(PtoP)など配電網の中で電気を相互融通していくのであれば、託送料金の負担の在り方についても新たな検討が必要になる可能性があります。設備投資や補助金の投入を上流から下流にシフトすることが求められ、分散型電力システムの構築は、投資のリバランスという側面を内包していると考えています。その実現には、投資インセンティブも含めた制度設計が必要になりますし、今後、投資のリバランスの観点から大きな動きが起きると期待しています。

エナジープールは3000強の需要家設備を監視・制御しDRを運用