【特集1】安定供給が当然はもはや過去!? 社会に求められる意識改革


季節外れの電力需給ひっ迫は、社会に安定供給は当たり前ではなくなったことを知らしめた。今後の電力システムはどうあるべきか。大きな課題を社会全体に投げかけている。

3月22日の電力需給ひっ迫は、①16日の福島沖地震の影響(22日時点でJERA広野火力をはじめとする東京・東北エリアの計335万kWの計画停止、東北から東京向けの送電線運用容量が半減)、②17日以降の電源トラブル(Jパワー磯子火力など計134万kWが計画外停止)、③真冬並みの寒さによる記録的な高需要(前日21日、東日本大震災以降3月の最大需要であった4712万kWを超える4840万kWを想定)、④悪天候による太陽光の出力大幅減(最大175万kWと設備容量の1割にとどまった)―と、悪条件が重なり起きた事象であることは間違いない。

だが一方で、競争促進と脱炭素化をエネルギー政策の最重要課題として優先した結果、安定供給を支える火力電源の休廃止が急速に進み、特に高需要となる夏・冬に需給がひっ迫しやすい状況が常態化している中での出来事であったことも事実。こうした供給側の構造的な問題が、一定の条件の下で顕在化した結果だというのが、電力業界関係者の大方の見方だ。

特筆すべき点は、21日時点で見込まれた22日の最大需要が、電力広域的運営推進機関が昨秋の需給検証で示した厳気象(10年に1度の厳冬)だった場合の3月の最大需要の想定を大幅に上回っていたこと。そして何よりも、冬の高需要期(12~2月)ではなく比較的需給が緩みやすい3月末という時期に、初の「需給ひっ迫警報」を発令しなければ大規模停電に陥りかねないほど、東日本大震災以降、最も差し迫った状況になったということだ。

エネ庁が検証に着手 浮かび上がった課題

広域機関による需給検証では、厳気象下での3月の最大需要を4646万kWと想定していた。節電が進まなければこれを200万kWも上回っていたことになる。資源エネルギー庁によると、この2年、実際の最大需要が需給検証による想定を上回る傾向が顕著で、20年度冬は全国7エリア(北海道、東北、中部、関西、中国、九州、沖縄)で、21年度冬は4エリア(東北、東京、中部、北陸)で想定を上回った。

これについて、エネ庁は「地震の影響や悪天候と厳しい寒さといった一時的な要因のみならず、構造的な要因も影響していると考えられる」と、新型コロナウイルス感染対策により、自宅とオフィスの両方で働くスタイルが定着し全体の電力需要を押し上げた可能性を挙げる。

一方、今回のように、季節的にも比較的需給が厳しくなく、広域機関の「kW・kW時監視」の対象から外れた時期でも、需給ひっ迫リスクが高まっていることについてはどう見るべきだろうか。それはひとえに、供給力の低下が遠因だといえるのではないだろうか。

需要が最大となる7~8月、1~2月に供給力を最大限に確保するため、発電所や連系線などの設備の点検停止は、この期間を避け春や秋に実施するよう作業調整が行われている。これはその間、想定外の供給や需要の変動リスクに機動的に対応できる能力が失われていることを意味する。実際22日は、東京エリアで1月の停止量の約2倍に相当する約570万kWの電源が作業停止中だった。

高需要期以外のひっ迫リスクに備えるために十分な供給力を確保するにしても、全体の供給力に限りがある中での作業計画の調整には限界がある。追加的なコストも生じるため、「電気料金を下げるためのコスト抑制が大命題になっている中、需要が上振れするわずかな可能性のために予備力を多く用意しておくことは、そう簡単に判断できることではない」(電力業界関係者)

休止等火力と廃止火力の推移 出所:資源エネルギー庁

こうした、社会構造の変化に伴う電力需要の増大、需要最大期以外で発生する需給ひっ迫リスクを需給検証にどう織り込み、需給対策に反映させるべきか―。

エネ庁は、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・武蔵野大学特任教授)で、一連の対応の検証と課題の検討に乗り出した。5月に予定している夏季の需給検証の取りまとめを前に、方向性を固める方針だ。

【特集1】電力を取り巻く不確実性高まる 社会全体で対応力の向上を


インタビュー:岡本 浩東京電力パワーグリッド 取締役副社長執行役員

2022年度冬季も、東京電力パワーグリッドエリアの需給は厳しい見通しだ。DRや節電要請など、より予見性を持った需要側の対策が重要だと強調する。

―3月22日の需給ひっ迫は、追加的な供給対策と需要側の協力で広範囲におよぶ停電は回避されました。

岡本 需給ひっ迫の際、広く社会の皆さまに節電へのご協力をいただいたことで広範囲におよぶ停電が発生することなく乗り切ることができました。この場を借りて、改めて深く感謝申し上げます。

―予備力の持ち方や供給信頼度評価の課題を浮き彫りにしたのではないでしょうか。

岡本 今回のように、夏季や冬季の最大需要が出る時期ではなくても、発電設備が計画的な点検停止に入っている中、加えて悪天候で太陽光の低出力が重なると厳しい需給になることもあり得ます。今後は、そういったことを考慮した余力の持ち方が求められます。

―需給ひっ迫の頻度を減らすには、供給側の対策が不可欠です。

岡本 確かに供給力対策は重要ですが、最も大事なことは、それが間に合う対策かどうかです。容量市場は実需給の4年前に取引されますが、一般送配電事業者による供給力の公募は、今年度夏季や冬季に頼れる追加供給力を求めるので、必要なタイミングで必要な量を確保できなければ意味がありません。それをいかに適切に行っていくかにかかっています。

―22年度冬季も、相当厳しい需給が予想されています。

岡本 当社としても、供給力の追加公募の枠組みについて今後、国と検討を進めてまいりますが、今から積み上げることで需給ギャップが埋まるのかは不透明です。3月16日の福島県沖地震で影響を受けた発電設備がどれだけ復帰するのか、また、いつどこで地震が起きるか分かりませんし、ロシア・ウクライナ情勢がどうなるのかなど、不確実な要素が多い。そのため、お客さまへ節電をお願いさせていただく場合も考えなければなりません。

―安定供給の確保を前提に電力システム改革を進めてきたはずですが、計画停電も辞さないということでしょうか。

岡本 当社としては、東日本大震災の際に計画停電で大変なご迷惑をおかけしていますし、今後も計画停電は実施しないという原則が変わることはありません。一方で、デマンド・レスポンス(DR)などの仕組みの活用や節電のお願いなどを、より予見性を持って実施することが重要です。

 地震など自然災害で発電・流通設備がダメージを受けたり、国際情勢の影響により燃料制約が生じたり、さらに再生可能エネルギーの導入量が増えて気象の影響が拡大するなど、電力を取り巻く不確実性が高まっており、供給側だけで対応していてはコストの著しい増加が避けられません。

 こうしたさまざまな不確実性への対応力は、社会全体で向上させる必要があると考えています。カーボンニュートラル社会に向かう中でのエネルギーの使い方について、広く社会の皆さまにもご関心を持っていただきたいと考えています。

おかもと・ひろし 1993年東京大学大学院
工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、
同年東京電力入社。2015年常務執行役、
16年東京電力ホールディングス常務執行役を経て、
17年から現職。
著書「グリッドで理解する電力システム」は
第42回エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞。

【特集1】端境期の需給ひっ迫危機が顕在化 供給設備の作業停止調整に課題


インタビュー:平岩芳朗送配電網協議会 理事・事務局長

今回、供給側と需要側の双方で講じてきた需給対策が機能したとみる。費用対効果を踏まえ、今後も設備対策についての検討を継続、加速していく必要性を強調する。

―どのような対策が功を奏し計画停電を回避できたのですか。

平岩 3・11以降、50 Hzと60 Hzエリア間で電力を取引・融通するための周波数変換装置(FC)の増強などの設備対策や、自家発電の焚き増し、節電要請に至る仕組みなど、供給側と需要側の双方で需給対策が講じられてきました。今回は、それらが機能したと考えています。

―FCの設備容量が増強されていた成果があったわけですね。

平岩 3月に入り30万kWが作業停止中でしたが、3月22日には緊急時用に確保されているマージン60万kWを含む180万kWをフル活用し、60 Hzから50 Hzエリアに電気が供給されていました。FCはさらに300万kWまで増強する計画で、北海道胆振東部地震を踏まえ北本連系線も30万kWの増強を計画しており、ともに2027年度の使用開始を目指し、現在、工事や準備を進めております。

 また、電力を取り巻く環境が変化する中、電力広域的運営推進機関における広域連系系統のマスタープランの検討状況なども勘案しつつ、設備対策については、費用対効果を踏まえた検討を今後も継続、加速していく必要があります。

―新たに見えてきた課題はありますか。

平岩 発電機など電力設備の定期点検時期は、停止期間中の供給信頼度が落ちないよう調整し、夏季や冬季の高需要期を避けて計画を立てることが多くなっています。3月22日は、東京エリアで約570万kWの電源が作業停止中で、これは、1月の停止量の約2倍に相当します。端境期には、定期点検などで設備が多く止まり、厳気象のような事象が起きると需給ひっ迫に陥るため、夏と冬だけに注目すればよいわけではありません。このため、年間を通して作業停止をどのように調整するのか、より望ましい方法を検討していかなければなりません。

―生活への影響を考慮すると、節電要請ばかりに頼れません。

平岩 安定供給に必要な供給力が最低限確保されていることが前提ですが、需給ひっ迫対策は、連系線の増強、インセンティブを付与するデマンドレスポンス(DR)といった計画的な対策と、実際にひっ迫した際の節電要請や計画停電などの臨時的な対策の二つがあると考えます。コストや社会的な影響を考慮しながら、稀頻度事象として、どの程度までのリスクに対し計画的な対策を取るべきか、といった考え方を整理していく必要があります。

―供給力の不足という根本要因を取り除かない限り、危機は繰り返されます。

平岩 火力電源の休廃止が相次ぐ一方、新設投資が増えていません。国は新規の電源などの投資を促すための検討を進めています。一般送配電事業者が、調整力を市場で調達し安定供給を確保するという責務を果たすためには、供給力が確保されたうえで、必要な調整力が確保されることが不可欠です。その上でひっ迫対応を考えるべきでしょう。

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院
工学系研究科電気工学専攻修了、中部電力入社。
系統運用部長、取締役専務執行役員、
取締役副社長執行役員などを経て2021年4月1日から現職。

【特集1】予断持たず「需給警報」を検証 発令タイミングも議論の対象に


インタビュー:小川 要/資源エネルギー庁 電力基盤整備課長

資源エネルギー庁は、電力需給ひっ迫の検証プロセスに五つの課題を提示した。夏季の需給検証の取りまとめを前に、対策の方向性を示す方針だ。

―20年度冬季は燃料不足による全国的な需給ひっ迫が発生しましたが、警報は発令されませんでした。今回発令に踏み切った理由は何でしょうか。

小川 20年度は、冬季の需要のピークの期間中に需給ひっ迫が発生しました。全国的に燃料制約がある中で、相互に応援融通しながら各エリアの予備率3%を確保できました。今回は、需給が緩むタイミングで冬季需要最大時と比べ計約500万kWの発電所が計画停止していました。そこに地震の影響による計画外停止と低気温による需要の伸びが重なった結果、大規模な節電をしなければ予備率3%を確保できないどころか、供給が追い付かないという差し迫った事態に陥っていました。

―基本政策小委員会において検証に着手しました。ポイントは。

小川 資源エネルギー庁事務局からは、「需給検証の方法」「供給力の確保策」「電力ネットワーク整備」「電気事業者・電力広域的運営推進機関の需給調整対応強化」「国の節電要請の手法・タイミング、最終的な需要抑制策の在り方」―の五つを検討すべき課題としてお示ししました。

 例えば供給力の確保策としては、容量市場や追加kW公募などこれまで積み上げてきた対策について、それらが今回の事象に照らして見直す部分があるかどうか、議論していただきます。5月に予定している夏季の需給検証の取りまとめを前に、全体の方向性を整理する予定です。

―現段階で今回の事象をどう評価しているのでしょうか。

小川 供給側の追加対策だけでは3%の予備率を確保できず、需要側に大規模な節電を要請せざるを得なかったことへの批判もあれば、予定された通り節電でき需給双方の対策で乗り切ったと評価する声もあります。現段階では予断を持たずに検証に取り組み、必要があれば対策を講じていく考えです。

―需給ひっ迫警報による節電要請が前日の午後8時だったということで、発令の遅れが指摘されています。

小川 現行の仕組みでは、警報発令は前日午後6時をめどとしています。発令要件は、「複数エリアで予備率が3%を下回る」ことですが、前日の段階では東北エリアが3%を切ると想定されておらず、判断に時間を要しました。タイミングの適正性については、今回の検証においても議論の対象になっています。

―原子力の長期停止、火力の休廃止の加速、再生可能エネルギーの大量導入と、供給構造が急速に変わる一方で、需要側が対応しきれていません。

小川 これまで日本で停電が頻発するようなことはありませんでしたが、今回のことで需給ひっ迫が生じ得ること、その生活への影響の大きさを改めて考える契機となったと考えています。今回のような事象をどの程度の頻度で起きるものと捉えるか、その備えとして何が望ましいか、そのコンセンサスを形成することも今回の検証のプロセスの狙いにあります。

   おがわ・かなめ  1997年東京大学法学部卒、
   通商産業省(現経済産業省)入省。
   経済産業政策局政策企画官、
   電力市場整備室長などを経て2020年6月から現職。

【特集1】電力需給ひっ迫はなぜ起きたか 独自検証で浮上した課題と対策


稀頻度リスクが重なって起きた今回の事象。今後、どのような手立てを講じるべきか。日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事が、独自の検討で見えてきた課題と対策について論じる。

小笠原潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

東京エリアは、東日本大震災に伴う原子力発電所事故で福島第一・第二原子力発電所の廃炉が決まり、柏崎刈羽原子力発電所が長期停止中だ。それに代わる火力発電設備は川崎火力2号系列や鹿島火力7号系列など限られている。

また東京、関西、中部といった大手電力エリアでは、発電電力量に占めるLNG火力の割合が高く、石炭火力の割合が比較的高い他エリアから純輸入となることが多い。エリアの需給情報が公表されている2016年度以降、東京エリアはコロナ禍が本格化する20年4月ごろまでは、ピーク時に占める他エリアからの輸入の割合が一貫して上昇傾向にあった。

その一方で卸電力取引の活性化を目的として、旧一般電気事業者に取引所への入札に際して限界費用ベースでの拠出を求めるとともに、社内取引分を含め取引所取引を介して売買するグロスビディングが、17年4月に開始された。

欧米では、エネルギー取引に際して限界費用に一定のマージンを加えて入札を行うことが許容されており、米国東部地域の地域送電機関であるPJMでも、エネルギー取引において限界電源がどの程度マージンを乗せているかを「マークアップ率」と呼んで監視しているが、わが国では限界電源はそのようなマージンを乗せることが認められていない。

このため限界電源となってしまう発電設備は利益を得ることが難しくなり、近年、限界電源に相当する老朽火力発電設備の廃止が相次ぎ、17年冬ごろから夏季・冬季に広域機関から出される需給改善の指示が増加している。

20年度冬季は、20年12月15日から21年1月16日の間に広域機関から一般送配電事業者に対して累計で218回も指示が出されたことは記憶に新しい。容量市場の受け渡しが24年度に開始されれば、限界電源の収益性は一定程度改善されることが期待されるが、低炭素化への要請から新規の火力発電投資は難しくなっており、不安定な状況が継続する可能性は否めない。

東日本大震災後の計画停電の反省を踏まえ、「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会」が、03年の東電原子力発電データ改ざんに起因した原子力発電所停止に伴う夏季の需給ひっ迫、07年の中越沖地震に伴う柏崎刈羽原子力発電所停止に伴う夏季の需給ひっ迫、そして11年夏季の需給ひっ迫を振り返り、FC(周波数変換設備)を300万kWまで増強することを提言した。

その後、21年3月末に120万kWから210万kWまで容量が拡大したことで、今回の東京エリアでの需給ひっ迫に際して供給力の下支えとして一定の役割を果たしたと言える。その一方で、当時想定していた大規模電源脱落から夏季に至るまでのシナリオと、近年の情勢変化により、類似の事象が起きた場合に計画停電を回避できるかが不透明であることが今回、明らかになったといえる。

今回のように東京・東北と、複数エリアをまたがって発電設備が被災した場合、過去の3事例では長期停止火力の再稼働や自家発の余剰購入、そして11年夏季においては、被災火力電源の全台復帰が供給力の回復に効果的だった。当時は石油火力を停止させ、石炭火力やLNG火力に置き換えていこうという長期計画停止火力が比較的フレッシュな状態であり、早期の復帰が比較的容易であった。

【特集1】節電協力の呼び掛けに課題 踏み込んだ取り組みの提示が不可欠


大西健一/ 日本エネルギー経済研究所 電力・新エネルギーユニット 電力グループグループマネージャー

経済産業省が需給ひっ迫警報を発出した際の需要家への節電要請の内容は、「暖房の設定温度を下げる」「使っていない部屋の電気を消す」など、日常生活に支障のない範囲で節電であった。警報の発出という緊迫性を考えれば、一歩踏み込んだ節電方法を示し認識してもらうことが重要である。その周知の在り方について検討の余地がある。

 過去に計画停電を実施した米カリフォルニア州の事例が参考となる。電力会社は例えば、「掃除機、洗濯機などの電化製品の使用を午後7時以降に行う」「節水する」といった具体的な取り組みを呼び掛け、季節によって実施内容も柔軟に変える。

 このような周知をスムーズに行うため、電力会社は「フレックス・アラート」というプログラムを実施している。需給ひっ迫が予想される前日、電子メール、SNSなどを活用して周知。これにより需要家は、電気自動車の充電など事前に備えることが可能となる。最近の調査によると、実際にフレックス・アラートを受け取った需要家の半数以上が前述の節電の取り組みを行ったとのことである。

 さらに、2021年から開始された「緊急負荷軽減プログラム」では、需給ひっ迫時に需要家が自発的に節電を行った場合には2ドル/kW時が支払われることになっている。

 カリフォルニア州の事例は、今後、需要家が円滑に節電を行うことができるヒントになるのではないかと考える。

【特集1】需要・供給双方の総力戦で難局打開 綱渡りの大規模停電回避の舞台裏


2012年に需給ひっ迫警報の運用が始まって以来、初の警報発令の事態に見舞われた東京エリア。本来であれば需給が厳しくない時期に、なぜひっ迫に陥りいかに打開したのか。詳細を取材した。

東京では桜のつぼみが膨らみかけていた3月22日、東日本エリアに再び真冬並みの寒さが戻った。想定を上回る需要に対応する供給力が著しく不足。東京エリアと東北エリアに相次いで「需給ひっ迫警報」が発令された。

需給ひっ迫警報は、大規模停電を未然に防ぐために、計画停電を実施するよりも前に経済産業省が発令する。東日本大震災発生後の電力不足を踏まえ2012年に運用が始まったが、実際に発動されたのは全国でも今回が初めてだ。

前日の21日午後5時、東京電力パワーグリッド(東電PG)が、直前の気象予報を織り込み想定したこの日の最大需要は4840万kW(午後4時台)だった。これは、昨秋、電力広域的運営推進機関が、21年度冬季の需給検証で想定した3月の厳気象下での最大需要を200万kW上回る。

ただでさえ平常時ではない。16日深夜に、最大震度6強を観測した福島県沖地震の影響で、東北・東京両エリアでは計335万kWもの電源が停止したまま。その中で異例の高需要への対応に迫られることになった。

18日には、三連休明けに南岸低気圧の影響で厳しい寒さに見舞われることが分かっていたため、同社は必要な対策を講じ予備力確保に努めていた。ところがその後、想定を更新するたびに天候の予測が悪化していっただけではなく、17日以降、電源トラブルが続き、22日までに計134万kWが計画外停止に至った。岡本浩副社長は、「この段階でかなり厳しい状況に追い込まれた」と語り、時間を追うごとに社内の緊張感が高まっていった当時の様子を明かす。

追加供給対策の限界 直前の節電要請へ

18日以降、同社がまず踏み切ったのが供給力の積み増しだ。電力設備などの計画作業停止の中止、電源Ⅱの増出力、提供期間外でお願いベースとはなったが、厳気象対応の調整力「電源Ⅰ」を発動するとともに、自家発電源や電源Ⅲ(一般送配電事業者がオンライン指令で調整ができない電源)への焚き増しのお願い、供給電圧調整など、あらゆる手立てを講じた。

それにもかかわらず、22日の最大需要発生時の予備率の見通しは、21日午前9時の段階で1・7%、午後4時にはマイナス7・8%と、悪化の一途をたどった。  「このままでは大規模停電に陥りかねない」―。

供給側の対策では対応し切れないと判断し、いよいよ経産省が需給ひっ迫警報を発令したのは21日午後8時。東京エリアの家庭や企業に対し、22日午前8時~午後11時までの間、10%程度の節電を要請した。また、広域機関も、全電気事業者に対し発電出力増・需要抑制の依頼を出した。

【東京ガス 内田社長】低・脱炭素の取り組み加速 需要と供給の両面から 脱炭素化技術を確立する


4月1日に導管部門の分社化が完了し、今を136年の歴史における第三の創業期と位置付ける。新たに策定した理念の下、時代の変化に対応し成長し続ける企業を目指す。

【インタビュー:内田高史/東京ガス社長】

志賀 ロシアによるウクライナ侵攻への制裁措置としてエネルギー資源の輸入禁止が取り沙汰されています。内田社長は、ロシア極東の天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」からのLNG輸入継続の意向を示されました。

内田 LNG長期契約には、契約量の一部を引き取らない場合でも、全量相当の代金を支払う「テイクオアペイ条項」があるのが一般的であり、引き取らないことがすなわち対ロ経済制裁につながるとは考えられません。サハリン2は、当社の輸入量の10%を占めており、また、日本全体のLNG輸入量の8%に当たる600万t強がロシア産で、これが一気に止まるようなことになれば、日本のエネルギー安定供給に支障が生じてしまいます。

 都市ガス向けは200万tですが、ガス業界全体で他の調達先からのLNGを融通し合ったとしてもとても賄えませんし、発電向けの400万tがなくなれば、ガス火力による供給力を失い大きな影響は避けられません。長期的には、さまざまな手を打ちロシア依存度を低減させることができるかもしれませんが、代替案のない足元では一エネルギー事業者として輸入を継続すると判断せざるを得ません。政府もサハリン2は非常に重要な供給源であり、手放すことはないとの認識を共有していただいているものと考えています。

           うちだ・たかし 1979年東京大学経済学部卒、東京ガス入社。
           2004年総合企画部長、12年常務執行役員、16年副社長執行役員
           などを経て18年4月から現職。

さらなるLNG調達 需要を見極め判断

志賀 ロシア・ウクライナ情勢を踏まえ、今後のLNG需給をどう見通しますか。

内田 近年の上流開発投資不足により、もともと2020年代前半はLNGの需給がかなりひっ迫することは明白でした。20年代後半には建設中のプロジェクトがいくつか立ち上がり需給が緩む見通しですが、それでもいわゆるESG(環境・社会・ガバナンス)投資により、化石資源への投資に歯止めがかかっている上に、今後は東南アジア諸国のLNG需要も増大し、30年代に向け、さらなるひっ迫は避けられないとみていました。そこに、今回のロシア・ウクライナ問題が勃発したことで、ロシアからのパイプラインガスに依存していた欧州各国がスポット市場でLNGを調達するようになり、足元の需給がさらにタイトになっています。欧州のエネルギー戦略次第では、30年代に向けてより一層需給の厳しさが増すことになるでしょう。

志賀 今後どのような対策を講じていくお考えですか。

内田 当社はこれまでも、LNG調達の多様化に取り組んできました。20年代後半にはモザンビーク、カナダからの調達を決めています。とはいえ、これはロシア産があることが前提ですので、サハリン2との契約が満了となる31年に年間110万tが脱落することになるのであれば、長期契約についてさらなる手を打たなければなりません。一方で、当社としては都市ガス向け、そして発電向けともに、需要がどうなるかを慎重に見極める必要があります。

 実は、調達しているLNGのかなりの量を発電向けに使っています。都市ガスや電力の需要を見極めながら調達を増やすかどうか判断しなければならず、結論を出すには時間を要します。

【日本原電 村松社長】地域の理解を得るとともに 技術革新に挑戦し 脱炭素社会に貢献する


カーボンニュートラルの実現に向け、改めて原子力活用の重要性が国内外で見直されている。原子力専業会社として、イノベーションと人材育成に積極的に取り組む方針だ。

【インタビュー:村松衛/日本原電社長】

志賀 昨年10月に閣議決定された第六次エネルギー基本計画における原子力の位置付けをどう受け止めていますか。

村松 第五次エネ基と同様、2030年の電源構成に占める原子力比率の目標が20~22%に据え置かれたことを、大変心強く思っています。PWR(加圧水型原子炉)に続き、BWR(沸騰水型原子炉)の設置変更許可の取得が続いており、再稼働を巡る環境は前進しています。第六次エネ基では新たに、30年に向けた「重要なベースロード電源」であると同時に、50年に向けたシナリオとして「脱炭素化の選択肢」とも位置付けられました。関西電力美浜発電所3号機が、新規制基準施行後初の40年超プラントとして稼働しましたし、この方針に沿って着実に再稼働が進むことを期待しています。

 しかしながら、現状では新規制基準に適合し再稼働した原子炉はPWRの10基にとどまっています。当社は、原子力規制委員会の審査に真摯に対応するとともに新規制基準に基づく安全性向上対策工事を安全第一で進め、地域の皆さまにご理解をいただけるよう説明を尽くしていきます。

むらまつ・まもる 1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、
12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

 一方で、今回新増設・リプレースについて言及されなかったことは大変残念に思っています。資源の乏しい日本において、3E(安定供給、経済性、環境適合性)のバランスに優れる原子力発電の果たす役割は大きく、実用段階にある脱炭素化の選択肢として、また安全の確保、技術・人材・産業基盤を維持する観点から、将来にわたって一定規模の原子力発電を確保する必要があります。そのためには、足元の既設発電所の稼働のみならず中長期的には新増設・リプレースが不可欠です。

【論考/3月24日】財務数値から見る大手電力の信用力低下


燃料価格の高騰を受けて、大手電力会社の利益水準が悪化している。各社の第3四半期(2021年12月期)の決算発表の場において、旧一般電気事業者(旧一電)10社すべてが従来の今期(22年3月期)利益予想を引き下げ、うち6社が最終赤字に陥る予想とした。ただし、旧一電各社が赤字決算となること自体は、過去においても珍しいことではない。今回も、旧一電の過半数が赤字に転落する予想となったことを報じたメディアも、そのニュースを決して大きく扱ってはいない。損益が赤字であることが問題となるのは、企業の存続が危ぶまれる事態になり、その企業のステークホルダー(さまざまな立場の利害関係者)が自分に損失が及ぶのではないかと心配になる場合だけである。現時点で旧一電各社の存続を危ぶむステークホルダーはいない。

廣瀬和貞/アジアエネルギー研究所代表

企業の存続可能性を見る信用力分析

企業に対して事業に必要な資金を供給する投資家は、企業にとって特に重要なステークホルダーであるが、投資家には大きく分けて2種類がある。企業に自己資本(株式)を提供するのがエクイティ投資家(株主)であり、他人資本(銀行借入や債券といった債務)を貸すのがクレジット投資家(銀行や社債投資家)である。前者は企業が大きく成長することで株主価値が高まることを求め、後者は事業が安定していて確実に債務が返済されることを望む、といった違いはあるが、投資対象の企業が存続して事業を継続することを望むという基本的な部分では共通している。

企業の存続の安定性の程度は、信用力(クレジット)と呼ばれる。本稿では、銀行や社債権者といったクレジット投資家が行う信用力分析(クレジット・アナリシス)の観点から、有価証券報告書によって簡単に入手できる財務データを基に、旧一電各社のキャッシュ・フロー計算書を分析し、全般に旧一電各社の信用力がどのような方向に変化しつつあるのかを示してみたい。

キャッシュ・フロー分析の意義

企業が作成する財務諸表は「財務三表」と呼ばれることがあるように、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュ・フロー(CF)計算書の三つに大別される。このうちPLは、収益や費用を計上するタイミングをいつにするか、どこまでを費用と認識するか等々、経営者の方針によって記載内容が左右される程度が大きい。BSにも、PLに計上された減損等の評価損益が反映され、またPLを通さない資産価値の評価の変動も計上されるため、経営方針の影響を受けるのはPLと同様である。これに対してCF計算書は、現金(キャッシュ)の入り払いの記録から作成されるため、経営者の恣意が入り込む余地が小さい。そのため、企業の実態がより正確に反映されると言える。

また、債務を返済することは企業の存続にとって不可欠であるが、それはPLが示す損益が黒字であることではなく、返済に回せるキャッシュが存在することによってなされる。仮に損益が赤字続きであっても、手元に債務を返済できるだけのキャッシュがあれば倒産はしない(反対に、「黒字倒産」という言い方があるように、たとえ損益が黒字であっても、手元にキャッシュがなく債務を返済できなければ企業は倒産する)。これらの理由から、銀行などの貸し手が行う信用力分析は、CFの分析が主眼となる。

【特集1】予見可能性の低下にどう対応!? 日本のLNG調達戦略を考える


天然ガスを巡る新たなリスクが日本企業のLNGのマネジメントを一層難しくしている。安定供給とエネルギーセキュリティー確保に向け、官民はどう取り組むべきか。

【出席者】定光裕樹/資源エネルギー庁資源・燃料部長、中村 直/JERA常務執行役員最適化本部長、 竹内敦則/東京ガス執行役員エネルギー需給本部原料部長

左から中村氏、定光氏、竹内氏

――最近の天然ガス・LNG市場の動向をどう見ていますか。

中村 世界の天然ガス価格が乱高下を繰り返しているのには、欧州の市場動向が大きく影響しています。欧州では、再生可能エネルギーシフトが進んでいる上に、昨年の夏は風況が悪く、風力発電の稼働が落ちました。地下ガス貯蔵量が低水準であったことが重なり、市場価格が高騰しました。北東アジア向けのLNGスポット価格(JKM)は、これまでも欧州の価格にフレート(海上運賃)を乗せてプライシングされるケースがありましたが、アジアの需給と関係なく欧州の動向に引きずられることはこれまでなかった事象です。事業者としては、この新たな動きも視野に入れた対応を考えていかなければならない局面に入っています。

竹内 昨年冬にも、JKMは30ドル以上に高騰しました。これは、新型コロナからの経済回復傾向と12月から1月の厳冬に伴い、北東アジアで一時的にLNG需給がひっ迫したためです。今回の場合、欧州における地下貯蔵量の低下、ノルドストリーム2の稼働遅れ、北京五輪前の中国需要などの要因が重なった結果、世界的に需給がタイト傾向になり、市場も洋の東西で呼応し合っている状況です。政治的な動きで、1日のうちに7ドルも10ドルもマーケット価格が変動してしまうこともあります。トレーディングには、適度な価格ボラティリティが時には必要かもしれませんが、ここまで大きいと売り主も買い主も怖がって取引や売買が難しくなり、天然ガス産業の健全な発展を阻害することにもなりかねません。

定光 昨年後半から起きたLNG価格の乱高下は、季節的な需給要因に加え、再エネシフトや炭素価格などの政策的要因も背景にあると思います。また、原油換算で300~400ドルに達するような価格水準は持続可能でないと言わざるを得ません。欧州では、中東諸国や米国などガスをおおむね自給できる国の10倍近くと言われる価格が付いていて、日本をはじめとするアジア諸国もこれに引きずられているわけです。今後、エネルギー価格の高騰が、さまざまな政治的な分断、社会の不安定化を加速させるのではないかと懸念しています。

 欧州でもエネルギー価格高騰に伴う低所得者の救済をどうするかといった議論がなされています。アジアでも例えばパキスタンで電力不足により、主要産業の繊維工場の稼働を一部止めるなど、新たな南北問題というか、途上国のエネルギーアクセスの阻害要因となる事例も出てきています。

【特集1】欧州の天然ガス高騰を徹底検証 LNGに波及する地政学リスク


白川 裕/石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査部調査課調査役

欧州の天然ガス不足を端緒とするエネルギー危機は全世界に多大な影響をもたらした。JOGMECの白川裕調査役は、今後さらに適正な価格の維持と安定供給の確保は困難になると見る。

欧州での天然ガス価格の高騰が止まらない。そして、構造的にその影響下にある世界のスポットLNG価格も未曾有の高価格を続けている。

欧州天然ガス価格指標である「TTF(Title Transfer Facility、オランダガス取引ハブ)」のガス価格は、2021年12月21日に100万BTU(英国熱量単位)当たり59.5ドルを付けた。また、北東アジアスポットLNG査定価格「JKM(Platts Japan Korea Marker)」は10月6日、同56.3ドルと、それぞれ、例年の月平均の10倍、7倍に跳ね上がり、過去最高値を更新した。

世界の天然ガス・LNG価格実績(2020~21年)
Plattsほか、各種資料よりJOGMEC作成

この要因はいろいろあるが、ロシアが新たに建設し、運転開始を急ぐ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」に絡んだ問題で、欧州向けロシア産パイプラインガス供給量の減少がきっかけになっている。

20年以降、ロシアから需要の中心地である欧州北西部へのパイプラインガス供給量は、新型コロナウイルスの影響のなかった19年と比較して2割程度減少している。これ以外の経路(中国、トルコ向け)では天然ガス輸送を継続しているものの、特に、ウクライナ経由のパイプラインによる天然ガス輸送は、従来の半分以下に低下したままとなっている。20年は新型コロナウイルスによる需要減に伴うものなので仕方ないが、21年も減少したままだ。

ロシアからの供給が減少 欧州の需要の1割が不足

ロシアのパイプラインガスは、欧州への天然ガス・LNG供給全体の4割程度を占めているが、ロシアからのガス供給減少により、欧州全体の天然ガス需要の1割近くが満たされていないことになる。ロシアから欧州へのパイプラインガス供給が増えない理由は、バルト海を経由してロシアとドイツを直接結ぶ新たなパイプライン、ノルドストリーム2の早期の稼働承認をロシアが促そうとしているためと言われている。

ノルドストリーム2は、9月に2系統目の建設が完了しガスも注入済みで、使用許可手続きを待っている状態だ。昨年9月以降、ドイツエネルギー規制当局Bundesnetzagenturによる使用認可審査が行われていたが、書類の不備を理由として審査が停止した。

この後、欧州委員会における審査も必要となるため、当初は22年5月ごろの運用開始が期待されていたが、現在では、22年上期以前の運用開始は困難との見方が大勢を占めるに至っている。

【特集1】欧州エネルギー危機で顕在化 世界の天然ガス市場を覆う暗雲


欧州のエネルギー危機を契機に、天然ガス・LNGを取り巻くさまざまな課題が浮き彫りになった。脱炭素化とエネルギー安定供給、セキュリティーの同時達成へ、日本は世界のルールメイクをリードできるか。

「プーチン大統領の一言で欧州の天然ガススポット価格が乱高下し、それにつられてLNGスポットも変動してしまう。これほどまでに世界の天然ガス・LNG市場の不確実性、不透明性が高まったことがあっただろうか」

エネルギー業界関係者がこう語る通り、世界の天然ガス・LNG市場は、需給と価格の両面で、かつてないボラティリティにさらされている。そこには、脱炭素化と再生可能エネルギーシフト、LNG需要国としての中国の台頭、欧米とロシアの関係悪化―など、さまざまな要素が複雑に絡み合っている。

海外からのLNG輸入に依存する日本の電力・ガス会社は、エネルギー自由化や再エネ拡大によって、長期・短期の需要を把握しづらくなりつつある中、こうした新たなボラティリティに直面し、調達戦略を描くための予見可能性は低下する一方。難しいマネジメントを迫られているのが実情だ。

エネルギーを巡る混乱は終息しそうにない   出典:ロシア大統領府ウェブサイト

年末年始もTTFが乱高下 一時はJKMを超える

そもそも今起きている市場の混乱は、天然ガスの最大の市場であり、脱炭素化に急進的に取り組んできた欧州に端を発している。昨冬、厳しい寒さの影響で地下貯蔵量が激減したところに、風力発電の出力低下でガスの消費がさらに進み、需要の4割を占めるロシアのパイプラインガスの供給減も相まって、十分に在庫を回復しきれないまま今冬を迎えた。2021年末の地下貯蔵量は、20年末の75%に対し56%とかなり低く、このままでは今春にも10%を切り、最悪の場合、枯渇もあり得るとさえ言われている。

LNGの大半を長期契約で調達している日本とは異なり、欧州では7~8割をスポット市場で調達している。このため、昨秋からのガスをはじめとする化石エネルギー価格の高騰は、電気やガス料金の上昇という形で企業や家庭の収支を直撃。各国とも、さまざまな対策を講じなければならなくなるほどの混乱をきたしている。

欧州の天然ガス指標価格であるオランダ「TTF」は、低い在庫状況を背景に、年末年始も市場が日々のニュースに反応。価格が乱高下を繰り返した。

12月第2週から急上昇し、寒波に見舞われたロシアが国内供給を優先したことで欧州向けのヤマルパイプラインによる供給量がゼロになった21日には、100万BTU(英国熱量単位)当たり60ドルと、過去最高値を記録。通常、北東アジアのLNG価格の指標「JKM」を上回ることはないが、この間は大幅に超えていた。

それからわずか3日後の24日には、暖冬予想が発表されたことや米国発の北東アジア向けLNG船が転売され欧州に向かったことなどから急落。ところが、1月1日にインドネシア政府が同月中の石炭輸出禁止を発表すると再び上昇し、それ以降はウクライナ情勢の緊迫化などが影響し、1月中旬時点で30ドルを超える水準を維持したままだ。

【九州電力 池辺社長】九州から脱炭素をリード ゼロカーボン社会を共創しグループの発展につなげる


政府のカーボンニュートラル政策に合わせ、グループが目指す環境目標を引き上げた。低・脱炭素のトップランナーとして、九州から日本の脱炭素をリードしていく。

【インタビュー:池辺和弘/九州電力社長】

志賀 第六次エネルギー基本計画で、2050年カーボンニュートラル(CN)の実現と、30年度の温室効果ガス(GHG)46%削減(13年度比)に向けた政策の方向性が示されました。

池辺 50年CNの実現に向け、将来の社会情勢や技術革新といった多くの不確実性が伴う中で、特定の技術に決め打ちせず、あらゆる選択肢を追求する方向性が改めて示されたものと認識しています。30年のGHG46%削減に向けては、非常に限られた時間軸の中で対応していく必要があり、目標の達成には多くの困難が予想されます。また、安全性の確保を大前提に電力の安定供給を第一とし、経済効率性と環境への適合を図る「S+3E」の同時達成に向けた取り組みを進めていくことが必要と受け止めています。 この削減目標の達成には、消費側(需要)と発電側(供給)の両面で取り組んでいく必要があり、需要面ではより一層の電化の推進に取り組むことが重要です。一方、供給面では、自社開発を含めた再生可能エネルギーの最大限の導入、安全を大前提とした原子力の最大限の活用と火力の一層の高効率化や技術開発などに取り組まなければなりません。

環境目標を上方修正 具体的な行動計画示す

志賀 九州電力としての具体的な取り組みは。

池辺 当社はGHGの排出削減に努め、九州から日本の脱炭素をリードする企業グループを目指します。低・脱炭素のトップランナーとして、社会のCN実現に大きく貢献するため、昨年11月には九電グループが目指す50年のゴール、そして30年の経営目標として位置付ける環境目標を上方修正し、これらの達成に向けたKPI(重要業績評価指標)などを含む具体的行動計画を示す「カーボンニュートラルの実現に向けたアクションプラン」を策定しました。

 その中で「電源の低・脱炭素化」については、九電グループの強みである地熱や水力に加え、バイオマスや導入ポテンシャルが大きい洋上風力の開発推進による「再エネの主力電源化」、安全最優先と地域の皆さまのご理解を前提とした将来にわたる「原子力の最大限の活用」、省エネ法で定められるベンチマーク指標の達成に向けた火力発電のさらなる高効率化や、水素・アンモニアといった新技術の適用などによる「火力発電の低炭素化」などに全力で取り組むことを明記しました。また、海外事業においても、各地域のニーズに応じた再エネ開発・火力発電の低炭素化・送配電事業などに取り組み、立地国のCNの実現に貢献していきます。

八丁原発電所(大分県九重町)をはじめ地熱発電は引き続きグループの強みとなる

 一方、「電化の推進」について、家庭・業務部門では、住宅のオール電化や、空調・給湯・厨房の電化を推進し、21年から30年までの合計で、家庭部門で15億kW時、業務部門で16億kW時の電力需要を創出します。産業部門では、ヒートポンプなど、熱源転換機器の技術研究を行うとともに、生産工程における幅広い温度帯の熱需要に対する電化に挑戦します。さらに運輸部門では、30年で特殊車両を除いた社有車の100%電気自動車(EV)化を目指すとともに、EVの普及拡大に向け、シェアリングサービスや充電インフラの拡大、EVを活用したエネルギーマネジメントといった事業やサービスを提供していきます。

 また、地域のCN推進やレジリエンス強化に向けた自治体などとの協業ニーズに対し、九電グループのソリューションの提供を通じて地域・社会の課題解決に貢献し、ゼロカーボン社会を共創していきます。さらに、需給両面を担う送配電事業では、再エネを最大限受け入れるため、送配電ネットワークの高度化を図りCNの実現に貢献したいと考えています。

【特集1】脱炭素・資源高騰・原発問題― 岸田政権に求められる「深謀遠慮」


脱炭素社会実現を旗印に、欧米諸国は狡猾な駆け引きを展開しており、2022年もその動きは加速しそうだ。そうした中で、岸田政権は国益優先の政策を打ち出せるのか。有識者があるべき姿を展望した。
〈出席者〉  A 経営コンサルタント   B 学識者   C 資源アナリスト

2021年は、石油や石炭、天然ガスといった化石資源の世界的な需給ひっ迫や価格高騰、そしてそれに伴う電力卸価格の上昇など、エネルギーの安定供給と経済性の確保に大きな課題が突き付けられた1年となった。有識者らは、22年世界のエネルギー情勢をどう予想するのか。

A 21年のエネルギーに関わる最も大きな話題は低・脱炭素化だった。全く合理性はないが、22年はこれがどこまで加速するかがポイントになる。それから、新型コロナウイルス対策の影響も無視できない。政治家が政策面でアピールしやすいのが厄介で、結果的に行き過ぎた対策を断行しそれに右往左往させられる可能性が大いにある。実際、エネルギー需要が回復基調にあったところにオミクロン株のショックが襲い、急ブレーキがかかった。また、コロナ禍の影響が残る限り過剰流動性が残るので、需給が引き締まらずとも価格が下がりにくい状況になりかねない。ただでさえ、過度な低・脱炭素政策のために世界のエネルギー需給構造は歪んでしまっている。電力分野を中心に、一層需給がひっ迫しやすくなるのではないか。

資源価格高騰で拡大するか メジャーによる上流投資

B 数年前の上流投資不足の影響が尾を引き、新たなコロナショックでよほど需要が落ち込みでもしない限り、経済が回復し化石資源需要が高まれば価格は上昇するだろう。IMF(国際通貨基金)などの金融当局は、インフレは短期的と言っていたが、最近になってパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長らが意外と長引くかもしれないと言い始めている。化石燃料価格の高止まりによる生産コスト押し上げの影響が長期化すると、金融緩和の出口戦略を描きづらくなるので金融政策に影響が及ぶことも懸念している。

C 欧米の石油大手5社は、石油・天然ガスの価格高騰を背景に上流投資を増やすと表明している。ただし、これまでと大きく違うのは、機関投資家や金融機関が化石燃料への投融資を止めようとしていることだ。そうなれば、産油国やオイルメジャーは手元のキャッシュフローで投資しなければならなくなる。原油や天然ガス価格が下がれば投資できなくなるわけで、価格がこれまで以上に投融資を左右することは間違いない。

A エネルギー価格を押し上げているのは、新興国・発展途上国の需要の増大によるところが大きい。先進国は既に頭打ちだが、こうした国々は人口増加と経済発展にともない、ますます化石燃料を必要とするはずだ。需給バランスだけを見れば、今年よりも来年緩むとは到底思えないが。

B そういう意味で注目しているのは、米シェールオイルの開発動向。今の生産量の低迷はバイデン政権の規制やコロナとは関係なく、シェールオイル業界に投資していた人たちのマインドが、成長よりもキャッシュフロー優先に変わってしまったことが影響している。もともと9000箇所ほどあった生産を開始していない井戸が一年で40%も減っていて、このままでは22年末にゼロになり、いよいよ新規投資しなければ生産を維持できなくなる。今はその瀬戸際にいて、そのサインが出ればマーケットが大きく反応することになるだろう。

C 20年春には、原油先物市場でネガティブプライスが付くほど燃料市況が暴落し、エクソンモービルやシェブロンは、配当資金を確保するためにキャッシュが必要で新規開発を止めざるを得なかった。今は、どちらも開発を進めると言っているし、世界最大の原油とガスの生産国であるアメリカの動向次第で供給量が増える可能性は十分あり得るよ。米エネルギー省は、22年の価格は少しだが下がると予想し、実際、欧米の天然ガス、原油価格は少し下がり始めている。米国は、自国企業が増産に踏み切ることで、21年の最高価格に達するようなことはないと見ている。

B 日米が増産を要請しても、OPEC(石油輸出国機構)プラスは5年前の投資不足が響いていて増産できる状況にない。サウジアラビアも21年7月の減産幅縮小の合意から逸脱した決断をするとは考えづらいし、OPEC側での需給調整は政治的に難しいだろう。さらなる高値に突入するかは、全てシェール次第と言えそうだ。

欧州主導の脱石炭圧力に、日本はどう対応する!?