【特集1】大停電回避へあの手この手 極限の危機対応の最前線


全国同時に電力需給がひっ迫するという、日本の電力史上初めてといえる事象が発生した。最前線で対応した関係者の話からは、いかに瀬戸際の大規模停電回避だったかが見えてきた。

電力広域的運営推進機関
全国の送配電をとりまとめ 先手の対策で安定供給を確保

日本全国で同時に電力供給が危機に陥るというかつてない事態。大規模停電の回避に向け、対応の中心的役割を担っていたのが電力広域的運営推進機関だ。

広域機関による電力融通指示は、局地的に需給が厳しくなり始めた昨年12月半ば頃から、単発的に何度か出されていたが、あくまでも需給がひっ迫する一エリアに対し、ほかの余裕のあるエリアから融通するという通常の対応だった。

ところが年明け1月5日ごろになると、対応の局面が一変する。ひっ迫エリアに融通する側だったエリアも厳しい状況になり、それが日を追うごとに全国に広がったのだ。6日0時には、金本良嗣理事長を本部長とする「非常災害対応本部」を初めて設置し、組織を挙げて対応に当たることになった。

「まさに異例尽くしの対応に追われた」と振り返るのは、宮本賢一渉外・国際室長。他エリアに融通すれば自エリアの供給に支障が出かねない―。そのような状況下で融通指示するに当たっては、時間帯によって最も厳しいエリアが融通を受けられるよう腐心した。

資源エネルギー庁と一体で、各エリアの一般送配電事業者と常にオンラインによる情報共有・協議を重ね、エリアごとの需給や燃料在庫などの情報を共有しながら3時間ごとの指示の方針を決定。同じ日でも時間帯によって、融通する側と融通を受ける側が入れ替わっていたのはこのためだ。指示は16日までに218回を数えた。

需要が少しでも上振れたり、天候の悪化で太陽光発電や風力発電の出力が予想よりも低下したり、トラブルで火力発電所が停止したりすれば、即需給バランスが崩れ大規模停電に至る恐れがある。

「実需給の2時間前に不足することが分かっても、打てる手は限られ間に合わないかもしれない。そうならないよう、あらゆる手立てを先んじて打った」(宮本室長)

具体的には、発電事業者などに、フル出力で発電所を稼働させるとともに余剰電力を市場に投入することを指示。また、地域間連系線の制約で融通できないということがないよう、運用容量拡大に踏み切った。連系線の運用容量は、供給信頼度で決まるが、今回は融通できないことによる停電リスクの方が高いと判断した。

さらには、一般送配電事業者に対し電気の使用者に影響しない範囲内で供給電圧調整を実施することも依頼、需給バランスの改善を図った。こうしたこれまでの常識からは考えられないような対応からも、まさに綱渡りの安定供給だったことが分かる。

全国的に需給が厳しく、いつ緩和されるのかさえ見通せない中で、広域機関の職員らは24時間体制で誰も経験したことのない手立てを試行錯誤・改善しながら繰り出していった。広域的な需給運用が必要な状況下で、複数事業者の情報を集約し迅速な調整を図る上で広域機関が果たした役割は大きい。

【特集1】今冬の電力危機はなぜ起きたのか 脱炭素と安定供給の両立策を提起


1月の電力需給のひっ迫は、安定供給のための燃料確保策と市場機能の問題点を浮き彫りにした。有識者らは、現行制度の延長ではさらに深刻な危機に陥りかねないと警鐘を鳴らす。

【寄稿①】大規模停電を回避する施策 インフラ整備と卸市場改革が急務

山田 光/スプリント・キャピタル・ジャパン代表取締役

1月の電力の需給ひっ迫は、燃料供給の滞り、そして適切な価格シグナルの発信によって自家発電機やデマンド・レスポンス(DR)といった需要側の迅速な参加が得られなかったという、日本の電力供給システムの構造上の問題を浮き彫りにした。本稿では、それぞれの問題点について取り上げ、解決策を提示したい。

日本の主な発電燃料であるLNGには、国内にもアジアにも卸市場がなく、市場プレーヤーによる需給調整機能がない。LNG基地が(ほかのアジア諸国を含め)開放されておらず、貯蔵設備を使ったタイム・スワップやロケーション・スワップが実質不可能なのだ。

その結果、供給国との相対契約に基づく調達は、買い手企業の需要予測ミスにより在庫ショートとなるか、逆に極端にロング・ポジションとなってしまう。さらに、本来は調整弁であるスポットの取引価格は、暴騰・暴落するだけで量の調整ができていない。実際、北東アジアのLNGスポット価格の指標となるJKM(日本・韓国への持ち届け価格)は、2~32ドルとボラティリティーが高い。

有効な対策は、日中韓と台湾とで貯蔵設備の利用ルールを策定し、市場取引を拡大させることだ。LNG貯蔵インフラの整備と第三者利用の促進は、今回のような需給ひっ迫時における「民間備蓄」に加えて有用である。

ただ、45日分のLNGを備蓄しようとすれば、既存の貯蔵設備だけでは不足する。さらに地点間の融通という点からは、パイプラインに制約がある日本ではリロード設備が重要な役割を果たすが、ほとんど整備されていない。

政府はアジアでのLNG利用を後押ししており、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)はアジアでの貯蔵設備のファイナンスを支援しているのだから、国内の設備投資を支援する制度があればよいと考える。

LNGの需給調整機能にはリロード設備も欠かせない

燃料は国際財であり、LNGの需要予測についてはアジア大で実施する必要がある。今回の需給ひっ迫では、4割をスポット調達している中国勢による奪い合いがあったと聞く。日本に寒波が来るということは、中国大陸北部に大寒波が到来することを意味する。LNG調達においては中国の気候の中長期予測が非常に重要なのだ。

【特集1】世界各地で模索続く電力需給対策 制度設計の教訓にどう生かすか


テキサス州で発生した大寒波に伴う大停電は、危機を想定した電力システムの在り方に課題を投げかけた。1月の電力不足を何とか乗り越えた日本は、これらを制度設計の教訓としてどう生かすべきか。

2月中旬、北米の広い範囲を記録的な大寒波が襲った。氷点下の厳しい寒さで暖房需要が増大する一方、風力発電所のブレードやタービンの凍結、燃料制約によるガス火力発電所の計画外停止により電力需給がひっ迫。南部のテキサス州やルイジアナ州では停電が発生した。

中でも深刻だったのはテキサスだ。同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、14日午後7時ごろに冬季の過去最大電力6922万kWを記録した後、15日午前1時半ごろに計画停電を開始した。複数の発電機が計画外停止し、周波数が59・302Hzまで低下(低周波数負荷遮断は59・3Hzで設定)したためで、周波数を回復することでブラックアウト(全域停電)の回避を図った。

これについて日本エネルギー経済研究所電力・新エネルギーユニットの小笠原潤一研究理事は、「計画停電開始後の午前5時半ごろ、原子力発電(約130万kW)が計画外停止しており、実施に踏み切っていなければブラックアウトに至っていた可能性がある。それを回避できるギリギリのタイミングだった」と話す。

大寒波に見舞われた米テキサス州は冬の最大電力を記録した

17日に計4600万kWが系統から脱落するなど苦しい需給の下、計画停電は18日まで続き、500万軒が影響を受けることになった。これを反映する形で、リアルタイム市場価格は15~18日の4日間にわたり上限の1MW時当たり9000ドルに達した。3月に入り同州最大の電力小売事業者ブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請するなど、その余波はいまだに続いている。

石炭火力が大量退出 ガスへの依存進む

停電被害の責任を取る形でERCOTの幹部は退任に追い込まれた。猛暑・寒波時に同州で需給ひっ迫する危険性が高まっていることは、既に2018年ごろから指摘されてきたことだ。にもかかわらず、なぜ対策が取られてこなかったのか。前出の小笠原氏は、「同州では11年2月と14年1月に寒波による需給ひっ迫が起きたのを機に、州公益事業委員会が冬季に高い信頼度を維持するのに不可欠な設備への凍結対策を指示し一定の効果を上げていた。だが、ガスの生産・供給設備については規制が異なるため、対策が進まなかった」との見方だ。

ただ、14年当時と比べると電源構成は大きく変化している。風力が大量に入ったことでガス余りを招き、価格が大幅に低下。それに対抗できなくなった石炭火力の大量退出が続き、ベースロード電源におけるガス火力依存が急速に進んでいるのだ。そんな電源構成でありながら、ガス火力が十分な機能を果たせるよう、生産設備の凍結対策がなされてこなかったという点では批判は免れない。

小笠原氏は、「テキサスの需給ひっ迫は、ベース電源である石炭火力の廃止と、燃料制約によるガスの供給不足が主因であり、日本の1月の需給ひっ迫と類似性が高い」と指摘した上で、「需給が厳しくなりやすい状況は、日本とテキサスに限ったことではない」とも明かす。

この冬は、世界的な低気温で英国やベルギーなど欧州各国でも、1kW時当たり400~500円を付け、厳しい需給状況が卸市場価格から見て取れた。英国では、1月8日に供給力の不足から容量拠出指示が出されている。実際の容量拠出はなかったとはいえ、ここからも需給がひっ迫しやすい状況がうかがえる。

これらの国・地域で共通しているのは、再エネ大量導入と自由化による競争促進で、不採算の電源に投資が起こりにくいという点だ。政策として再エネを導入する一方、石炭・天然ガス火力と原子力発電設備の閉鎖を進めている米カリフォルニア州でも、昨年8月に2日間にわたって計画停電が実施されたことは記憶に新しい。

【特集1】発電能力はあるのに電気が足りない! 需給危機で露呈した脆弱性


新型コロナウイルス禍の裏で、全国各地の電力需給がかつてないほどひっ迫している。異例尽くしの施策による対応が続く中、改めて安定供給の在り方が問われている。

昨年末から続いている全国的な電力需給のひっ迫。背景には、厳しい寒さで需要が増大する一方、火力発電燃料であるLNGの調達が消費スピードに追い付かず出力低下を余儀なくされていることがある。

これまでも、猛暑や厳寒により、ピーク電力に対応する供給力(kW)が不足することは度々あった。しかし、今回陥っているのは、東日本大震災や北海道胆振東部地震のように、自然災害により大規模な電源脱落したわけではなく、kWは足りているにもかかわらず、燃料不足で供給量(kW時)を十分に賄えなくなるという、これまで類のない危機だ。

燃料不足は、需要想定を読み間違えたことに端を発している。長引く寒波に加え、新型コロナウイルス感染拡大防止のための換気をしながらの暖房や在宅勤務も影響しているのか、電力需要は昨年同時期と比べ1割近くも増えている。こうした需要増を、需要想定に基づきLNGを確保する2カ月前に読み切れなかったことは大きな痛手だ。

主力電源化に向け導入拡大が進む太陽光設備が、悪天候やパネルへの積雪で十分に発電できなかったことも、燃料の消費スピードを加速させた。LNGの在庫の回復は2月初頭と見られ、本稿執筆時点(1月18日)でも西日本を中心に、設備の最大使用率が96~97%と高止まりするなど厳しい状勢は続いている。

1月12日のエリアごとの最大使用率  ※各社のデータを基に作成

【特集1】資金難で新電力再編が加速 JEPXスポット市場の狂騒


全国的な電力需給ひっ迫の影響は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格にも及んだ。1kW時当たり200円超の価格も付く狂騒状態に、新電力からは悲鳴が上がっている。

2016年の電力小売り全面自由化後、600社以上の新規事業者が参入し、活況を呈していた電力小売り市場に黄色信号がともっている。長引く日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰が、市場調達をメインとする新電力の経営に大打撃を与え、破産やほかの新電力への事業譲渡などを検討せざるを得ないほど追い込まれている事業者も出てきた。

昨年からのJEPXスポット市場のシステムプライス(1日平均)を振り返ると、12月初旬まで5~6円で推移していたkW時当たりの料金単価が月末から上昇に転じ、1月1日に30・15円、5日には62・41円まで高騰。その後も上昇を続け、8日に取引開始以来初の100円超えを記録すると、12、13日にはとうとう150円を突破した(図1参照)。

システムプライス(1日平均)の推移   ※JEPXのデータより作成

これはあくまでも1日平均の推移。特筆すべきは、15日午後4時台に251円を記録するなど、特に需給が厳しかった12~15日の4日間は、多くの時間帯で200円以上の価格を付けていたことだろう。これまで瞬間的に価格がスパイクすることはあったが、自由化後の最高価格が18年度の75円(図2参照)だったことを踏まえれば、価格上昇に備えリスクヘッジしていた小売り事業者にとってさえ、受け入れがたいだろう。

スポット価格の年度比較

この高騰の背景には、燃料の在庫減に伴うLNG火力発電所の出力低下により、市場に投入される供給量(kW時)が不足し、売り札が買い札を下回ったことがある。スポット市場で売り切れが発生すると買い札で約定価格が決まるため、「不足インバランスを出さないよう、複数の小売り事業者が上限の999円で買い札を入れていた」(新電力関係者)ことが、皮肉にも今回の高騰を招くことになった。

都市ガス大手の料金規制 条件付きで解除の方向


東京・大阪・東邦の都市ガス大手3社の経過措置料金規制の解除は、ほかの小売り事業者からの受託製造や相対取引、スタートアップ卸などに積極的に取り組むことを3社がコミットすることが条件―。

2017年の都市ガス小売り全面自由化後、大手3社を含む一部の既存事業者に課されてきた経過措置料金規制の解除を巡り、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会が、20年12月1日の有識者会合でこのような見解をまとめた。

積極的な受託製造などが規制解除の条件に

大手都市ガス関係者は、「既にスタートアップ卸などに取り組んでおり、それなりの成果も上げている。難しい条件ではなく、規制解除に向け前進したといえるのではないか」と、前向きに受け止めている様子だ。

資源エネルギー庁は、3社が既に一部の解除基準を数字上は満たしていることを確認済み。残る条件は、新規参入者が需要に応じた十分な供給余力を将来にわたって確保できるかどうかであり、経産相が監視等委に対し意見聴取していた。

有識者会合では、スタートアップ卸の適用件数が大手3社で計2件にとどまっていることや、小売会社から、大手都市ガス会社が提案する卸価格が高いとの声が寄せられているとの指摘もあったが、委員からは解除への強い反対意見は出なかった。

今後、パブリックコメントなどを踏まえて判断するため、最終的な結論が出るにはまだ時間がかかる。都市ガス料金規制が解除されれば、大手電力会社の料金規制の在り方にも議論が飛び火しかねないだけに、規制解除の行方は、エネルギー業界全体の関心事項となっている。

【覆面座談会】脱炭素化社会は実現可能か 分散型システムの理想と現実


脱炭素化社会を目指す理想の下で、現実の課題は山積している。電力ビジネスの最前線で活躍する関係者が、本音の意見を交わし合った。

〈出席者〉 A大手電力関係者  B発電事業関係者  Cメーカー関係者  Dコンサルタント 

―脱炭素化など、電力システムを取り巻く環境が大きく変わっている。まずは現状の課題認識からお聞きしたい。

A 欧米は必ずしも環境問題の解決のためにストイックに再エネに取り組んでいるわけではなく、既に経済的に優位な電源となっているからこそ導入が加速している。そして欧米の事業者は再エネという新しい産業を武器にグローバルで戦っていく戦略を描いている。

 日本はFIT制度の後押しで再エネが大量に入りつつあるとはいえ、設備は海外製ばかり。主力電源化を目指す上で、本当にそれでよいのかという問題意識を持っている。また再エネが入ったとしても、それと合わせて需要側設備の電化が進まなければ、とてもゼロエミッションの達成はできない。今後は、再エネ導入と需要側設備の電化を両輪で進められるよう、政策で後押ししていく必要がある。

B さまざまな制度改革が実行に移されているが、失敗であれば迅速に見直す必要があるにもかかわらず、経産官僚が過去の失敗を認めないが故に軌道修正に時間がかかりすぎている感が否めない。例えば、小売り電気事業者や発電事業者が事前に提出した需要量や発電量の計画と、当日の実績を30分単位で一致させる「計画値同時同量」を採用しているが、再エネがこれだけ入ってきたからには「強制プール」を導入した上で「実同時同量」へ移行すべきだ。「計画値同時同量」の「バランシンググループ(BG)」では、コストが無駄にかかる。

需給変動はローカルで調整 求められるマーケット

D 2030~50年のエネルギー社会の長期ビジョンを政治家も官僚も描けておらず、どこを目指すべきかという羅針盤がないのが問題だ。再エネ大量導入やゼロエミッションの実現には、供給側だけではなく需要側の産業構造を変革させなければならないが、そこまで考えが及んでいないのでは。

C メーカーは石炭火力の建設が難しくなり、これから何を売っていけばよいのか、深刻な問題に直面している。個人的には設備を売るよりも、ソリューションビジネスやマーケット運営などにかじを切る必要があると考えている。例えば、これまで自社のエネルギーを賄うためだけに導入していた自家発電源を、調整力のマーケットに出せるようになれば顧客企業の資産価値を上げることに貢献できるのではないか。これを実現するためには、ローカルで調整力を取引する「ローカル・フレキシビリティー・マーケット(LFM)」の創設が前提になる。


EVは蓄電池としての活用も

脱炭素宣言で加速する分散化 送配電会社の新たな役割とは


インタビュー:岡本 浩/東京電力パワーグリッド取締役副社長

電力システムの分散化によって、送配電会社の役割はどう変容するのか。分散型と既存システムの円滑な融合も、これからの大きな課題となる。

―送配電系統を取り巻く現在の課題をどう認識していますか。

岡本 これまでも国の政策の一貫として低炭素化に取り組んできましたが、菅義偉首相の「2050年実質ゼロ宣言」は、業界の構造改革を急速に進めるインパクトがあります。再エネの大量導入が期待されますし、そうした分散型電源と既存システムとをいかに統合するかが、送配電会社にとって大きな課題となるでしょう。EVや屋根置きの太陽光発電(PV)、蓄電池、熱利用分野へのヒートポンプの活用などが拡大し、需要側の設備構成も大きく変わることが想定されます。需要、供給双方が脱炭素化を実現した上で、そうした多様なリソースを円滑にネットワークでつなげてシステムとして統合していくことは、そう簡単なことではありません。

―送配電会社の役割も変わるのでしょうか。

岡本 送配電系統の安定化に努める使命は変わりませんが、大規模電源から需要地に向けて一方通行で電気が流れるわけではありませんから、電圧調整も含めた高度な運用が求められるようになります。また、再エネが増えればフレキシビリティー(調整力)がより重要になります。お客さまのリソースをうまく活用して全体でバランスを取れるようにするだけではなく、市場など調整力を地域で取引するための枠組みが必要です。

 アグリゲーターに対して調整力に関する必要なデータを発信したり、ローカルで調整力を取引するマーケットを整備し上位系統につなげるための基盤をつくったりといったことも、送配電会社の新たな役割になります。

配電事業の付加価値創出へ 多様な事業主体と協業

―アグリゲーターや配電事業の制度化への期待は。

岡本 分散型電源や蓄電池などのリソースを束ねて管理するアグリゲーターは、お客さまに近い立場でメリットや価値を提供する役割を担うことになります。配電事業者には、人口が減少し電力需要が低減する一方、再エネ接続量が増えるという状況下でも、地域のリソースをマネージメントしながら地域のインフラコストを下げることが期待されます。

―制度への要望はありますか。

岡本 配電事業制度には、モビリティや地域のインフラを集約してサービス提供することで、従来にない価値を創出できるポテンシャルがあります。そのためには、いろいろな事業主体と協業する必要があるので、制度設計に際しては多様な形態での経営参画について、ある程度の自由度を確保していただきたいと思っています。

 30、40年の断面でも洋上風力や原子力発電といった非化石電源を活用するためには、広域的な系統も引き続き重要な役割を担います。その一方で、分散化も進むわけで、これらをどう融合させれば最適なシステムとなるのか―。特定のエリアに先駆的にエネルギーマネジメントの仕組みを導入して実証するなど、新しいことに挑戦しながらノウハウを磨き、在来のシステムとの融合を図っていきたいと考えています。


おかもと・ひろし 1993年東大大学院工学系研究科博士課程修了、東京電力入社。2015年常務執行役、16年東電ホールディングス常務執行役を経て17年から現職。

DER制御と電力「価値」取引を両立 再エネ主力電源化に貢献する


インタビュー:都築実宏/エナリス代表取締役社長

アグリゲーター・配電事業制度はどのような新ビジネスを切り開くのか。新たな競争領域の参入をにらみ、さまざまな取り組みが始まっている。

―再エネ主力電源化、脱炭素化社会に向けた電力供給システムの将来像をどう描いていますか。

都築 脱炭素化社会の実現に向け、エネルギー事業者に求められるのは再エネ主力電源化をいかに進めるかです。電力供給システムは何段階かの変遷をたどるのではないかと考えています。

 まず現行の系統モデルでは、ネットワークの増強やノンファーム型接続といった再エネを有効利用するためのインフラや仕組みが整備されると同時に、分散型リソース(DER)を制御し系統を安定化させることで、主力電源化に向けた再エネ拡大が進むでしょう。その後、さらなる再エネの有効利用の観点から、大型蓄電システムを入れるなど相応の配備をした上で、平時は系統から離脱している完全な地産地消モデルが出現し分散化が進展する。

 そしてさらに先の将来には、現行の系統モデルと分散電源モデルが融合したハイブリッドシステムになることが想定されます。

―アグリゲーター事業、配電事業への参入を考えていますか。

都築 再エネ主力電源化の鍵は、太陽光や風力、地熱など再エネのさまざまな特性を生かしつつ系統の安定化を図る調整力と、小規模なDERを顕在化させ細やかな電力取引ができる環境整備にあります。プロシューマーなど小規模な分散電源を束ねるアグリゲーターは、再エネ主力電源化の中心的存在ですから、当社としてもしっかり取り組んでいきます。配電事業についても、ローカルでの再エネ利活用に大きな役割を果たすものと考えられます。送配電事業者とのデータ連携により制御の精緻化、緻密化が可能になりますので、地域新電力などと連携した仕組みを構築して配電ライセンスを取得することも選択肢の一つと考えます。

プラットフォームを担い 円滑な電力取引にも貢献

―制度議論への要望は。

都築 アグリゲーター事業については、参入障壁をなるべく下げること、制御量規定の柔軟な運用ルールと多様な事業形態の許容、何よりも、適正な対価を得られるような仕組みづくりをお願いしたい。配電事業については、兼業適用を含め非対称規制を設けることや、ビジネスが成り立つ適正な配電利用料を設定していただきたいですね。せっかくの良い制度も、新規参入者が活用できなければ意味がありません。

―アグリゲーターとして取引に参加しつつ、プラットフォーム構築にも関与していくことになるのでしょうか。

都築 電力供給システムの将来像であるハイブリッド型には、分散電源を制御しそこから生み出される電力と環境価値の取引、そしてBCP(事業継続計画)対応も兼ね備えたプラットフォームが不可欠です。当社は、その領域でのリーディングカンパニーを目指していきます。競争領域ですので、他社にも負けない優れたプラットフォームを構築して新しい電力供給システムづくりに貢献していくと同時に、インターフェースの共通化は必要ですから、早急に関係各所と協議を始められればと思っています。

つづき・さねひろ 1989年愛媛大学工学部卒、第二電電(現KDDI)入社。エネルギービジネス企画部長などを経て2020年4月にエナリス社長に就任。

4D改革が描く電力産業の未来像 社会構造のパラダイムシフトが不可欠


4つの「D」による改革で、わが国の電力産業はどのような変貌を遂げるのか。現在行われている改正電気事業法の制度設計議論を踏まえ、電力の未来像を予想した。

「安定供給の確保」、「料金上昇の抑制」、そして「需要家の選択肢の拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出」―。

これらの達成を目的にスタートした電力システム改革は、2016年の小売り全面自由化から20年4月の送配電分離に至るまで、基本的には新規事業者の小売り参入を促し市場競争を促進することを主眼に進められてきた。

この「自由化(Deregulation)」に伴い、大手電力会社の垂直一貫・地域独占体制によるビジネスモデルは崩れたわけだが、競争政策の一方で、自然災害の激甚化に伴う強靭化(レジリエンス)や地球温暖化対策への対応など、電力供給システムへの要請が尽きることはない。

需要家が自由化のメリットを享受しつつ、レジリエンス向上と環境対応という相反する価値を両立させることができるのか―。その可否を左右するのが、「脱炭素化(Decarbonization)」「デジタル化(Digitalization)」、「分散化(Decentralization)」の三つの「D」だ。

自由化と合わせたこれら四つの「D」は、燃料を調達し発電機で電気に転換して送配電系統を通じて需要家に届けるという、従来の供給構造にパラダイムシフトをもたらすポテンシャルを秘めている。同時に、さまざまなビジネスチャンスが生まれることへの期待も膨らむ。

配電事業に新たな担い手 多様な電気の取引可能に

エネルギー分野の脱炭素化には、非化石電源である原子力発電と再生可能エネルギーの最大限の活用に加え、ヒートポンプなど熱利用分野を含めた需要側設備の電化が不可欠だ。

一般家庭の屋根置きPVなどの再エネ、蓄電池、電気自動車(EV)、デマンド・レスポンス(DR)といった分散型リソース(DER)が普及拡大し、それらがAI・IoTといったデジタル技術によってネットワークに統合されれば、これまでのような大規模電源から需要地に向けての一方通行ではなく、双方向の電力供給システムが実現する。そうなれば近い将来、法人・家庭用の多くのエネルギーリソースが電力ネットワークに参画する、多様な電気の取引が生まれることになるだろう。

調整力の供給に欠かせない蓄電池

DERをうまく組み合わせた新しいサービスの開拓が望まれるが、その担い手となるのが、「アグリゲーター(特定卸供給)事業者」と「配電事業者」だ。この二つの事業は、20年の改正電気事業法で位置付けられ、22年度の導入に向けて経済産業省が詳細制度設計に乗り出している。

脱炭素社会実現へ配電改革待ったなし 新たなビジネス創出にも期待


インタビュー:下村貴裕/資源エネルギー庁電力・ガス事業部 電力産業・市場室長

資源エネルギー庁は配電事業制度の改革に乗り出している。新たな事業制度の導入で、脱炭素化とレジリエンスの同時達成を目指す。

―菅義偉首相が示した2050年カーボンニュートラル達成に向けた、電力システムの課題とは。

下村 これまでも、再生可能エネルギーの大量導入、自然災害に伴う大規模停電の発生を見据えた電力供給の強靭化、AI・IoTといったデジタル技術の進展への対応などに取り組んできました。菅首相のカーボンニュートラル宣言を踏まえ、再エネを中心とした非化石電源の拡大がますます重要になるため、これらの取り組みをより一層深化、加速化させることが求められていると考えています。

―その中で現在、制度化に向け議論されているアグリゲーターや配電事業者はどのような役割を果たしますか。

下村 広域化・高度化する送電線に対し、配電網は分散化・多層化していきます。配電網には太陽光発電、蓄電池、電気自動車(EV)、電力使用量を変化させるデマンドレスポンス(DR)といった需要側の小規模なリソースの普及が拡大しています。デジタル技術を活用し、それらを束ねて適切に需給管理する役割を担うのがアグリゲーターです。再エネ主力電源化を円滑に進めていくためには、アグリゲーションビジネスの健全な発展が重要であると考えています。

 また、既に再エネが偏在するエリアでは系統に接続できないケースが出ていますが、欧州では「ローカル・フレキシビリティー・マーケット」として、地域の分散型リソースを系統の混雑管理のために運用する取り組みが始まっています。日本でも同様にデジタル技術を駆使し、これまで調整力として活用し切れていなかった分散型リソースを運用することができるようになれば、系統増強を待つことなく多くの再エネを接続できる可能性が高まります。配電ライセンスによって、こうした新たな試みに取り組みやすくなると期待しています。

配電網の独立運用 地域課題解決に活路

―配電ビジネスは、どのようなエリアで展開されますか。

下村 地域が抱える課題はそれぞれ特色がありますので、配電網を独立運用することでその課題の解決に資することが前提となるでしょう。また、一般送配電事業者の系統から見て独立運用に適した系統構成であるか否かも、判断材料になります。

―新旧の供給システムの融合をどう図っていきますか。

下村 新規参入者のノウハウを取り入れつつ、電力システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくことが重要です。アグリゲーターは、工場などのDRを中心に手掛けていましたが、再エネもアグリゲートして市場への統合を進めていくことが再エネ主力電源化の鍵となります。

 こうした制度議論に合わせ、来年度は再エネのアグリゲーションビジネスやマイクログリッド構築を支援する予算を拡充し、既存のシステムの中で新しい仕組みを構築するための課題解決を図っていく予定です。ビジネスに関心のある事業者の声に耳を傾けながら、22年度の制度化に向けた議論を進めていきます。


しもむら・たかひろ 2003年東大大学院修了、経済産業省入省。電力広域的運営推進機関事務局長補佐、電力・ガス取引監視等委員会総務課などを経て18年から現職。

【中部電力 林社長】新たな価値創出に挑戦し 社会課題の解決と持続的な成長を実現する


2020年4月、事業体制を3つの会社に分社化するという大きな節目に社長に就任した。エネルギーの安定供給のみならず、社会課題の解決に資する新たな価値を提供することで、企業価値の最大化を目指す。

志賀 電力業界が大きく変わろうとしている中、2020年4月に社長に就任されました。入社された当時は、このような大変革を予想もしていなかったのではないでしょうか。

 私が中部電力に入社した当時のイメージは、電気を安定的に供給することで世の中の役に立っている会社、そして規制産業であるゆえに経営が安定している会社というもので、現在のように、電力自由化が進み、激しい市場競争を繰り広げることになろうとは想像していませんでした。また、当社は20年4月に「中部電力」「中部電力パワーグリッド」「中部電力ミライズ」の3社体制となり、約70年ぶりに会社形態が変わりましたが、これも、当時想像できなかった大きな変革です。一方で、エネルギーを常時安定的にお客さまにお届けするという役割、そしてそれが当社グループにとって一番大切なことであるという社員のマインドは、当時も今も変わることはありません。

はやし・きんご
1984年京大法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

震災が突き付けた 業界の変革の必要性

志賀 特に印象に残っているエピソードはありますか。

林 さまざまな出来事がありましたが、やはり11年の東日本大震災は大きな転機となりました。震災発生時は、長野支店の営業部長で、まだ被災状況の把握もままならない中で、配電部門の従業員を復旧応援のために被災地に送り出しました。お客さまのために、そして電力業界の仲間のために、何としても電力供給の使命を果たすという熱い想いを持って現地へ赴いてくれた彼らの姿は、今も忘れることができません。

 その後、5月に本店の企画部門に異動となり、浜岡原子力発電所が停止する中で中部電力の事業をどう再構築すべきかが議論になりました。その結果、関東地区での火力発電事業への参画や、大阪ガスとの米国のフリーポートLNGプロジェクトへの共同出資など、これまでの事業とは非連続とも言える事業展開や、営業エリアの垣根を超えた取り組みを行うことになりました。電力供給のような何があっても守り続けるべきものと、過去の価値観や発想を抜本的に変えていくという、2つの相反する考え方を強烈に心に刻んだのがあの震災でした。

「ポスト自由化」時代を考える 電力産業の向かうべき方向性


脱炭素社会の実現に向け、鍵を握るのが電源のグリーン化と「電化」の促進とされる。電力ビジネスはどう変わるのか。「ポスト自由化」時代の方向性を探った。

電力自由化がスタートして以降、発電や小売り分野に新規事業者が続々と参入し価格競争が進んだ一方で、産業の発展に寄与するような技術開発競争は停滞してしまったと評価するエネルギー業界関係者は多い。

確かに、2000年代初頭までは「電力対ガス」という業界を分けた競争の構図があり、需要側設備として電力ではIH(電磁加熱)やヒートポンプ技術、ガスではコージェネレーションや空調、涼厨などが次々と開発され、性能向上でしのぎを削ってきた。そして、両者の切磋琢磨の結果として、産業・業務・家庭用の熱利用の分野で、需要家の利便性が高まったことは紛れもない事実だ。

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ヒートポンプなどの機器が電力利用システムを進化させた

ところが、この20年間を振り返ってみると、電力のみならず、石油、ガスも含めたエネルギーの利用技術分野で大きなイノベーションは起きていない。電力小売市場には、600以上もの事業者が新規参入しているが、画期的なイノベーションがない中での価格破壊によるシェア争いという消耗戦を繰り広げており、これが産業としての疲弊を招いたと言って過言ではないだろう。

新電力幹部は、「政府は再生可能エネルギーの導入拡大を柱とするグリーン成長戦略を経済発展の起爆剤にしようとしているが、単に太陽光や風力発電を大量導入したところで、海外の企業を儲けさせるだけで国内産業が活性化するわけではない。国内のエネルギー産業の発展に向け何をするべきか、根本から議論し直さなければならない」と警鐘を鳴らす。

技術革新もたらす 脱炭素化の潮流

閉塞感が漂う一方で、世界的な脱炭素化への潮流と再エネ導入の急拡大が、さまざまなビジネスチャンスをもたらしつつあることは注目すべきことだ。

例えば、FIT賦課金が国民負担として重くのしかかる中、企業活動で消費する電力を100%生の再エネで賄いたい顧客向けに、FITに依存しないCO2フリー電気のメニューをラインアップする小売り事業者が登場し始めたことは、その光明の一つ。

さらに今後は、太陽光発電大量導入時代の系統安定化対策として、AI・IoTによる高度な需給予測、屋根置きの太陽光設備、蓄電池、EV、給湯器といった分散型エネルギーリソース(DER)を集約し最適制御することが不可欠となる。これまでの電力供給事業の概念にはなかったような技術革新や事業モデルの創出、多様化に大いに期待がかかる。

そして、この流れに拍車を掛けようとしているのが、菅義偉首相が10月26日に行った就任後初の所信表明演説で掲げた「2050年カーボンニュートラル実現」の方針だ。

この所信表明を受けた11月6日の政府の成長戦略会議の会合で示された「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略に関する論点」では、三つの項目のうち、革新的なイノベーションの推進を図る分野として、「電化+電力のグリーン化(洋上風力、次世代蓄電池技術など)」が、いの一番に挙げられている。

ここからは、脱炭素化を達成するためには、再エネ拡大、原子力やゼロエミッション火力の推進という電源側の取り組みを前提に、需要側設備の電化をより重視していくべきだとの姿勢がうかがえる。

そして、ガスと需要を分けてきた熱利用の分野の電化にお墨付きが与えられたことで、「人口減少によりエネルギー需要全体が縮小しても、電力需要は1・5~2倍に拡大する可能性がある」(新電力関係者)と、電力業界もにわかに活気付いている。

自由化は何をもたらしたのか 草創期の第一人者たちが語る電力制度改革の原点と未来


発電小売部門に競争を導入する電力自由化がスタートし四半世紀が経過した。第一人者たちが歴史を振り返るとともに、未来のあるべき姿を提言する。

【座談会】井上雅晴/V-Power顧問、岩井博行/岩井レポート・アドバイス代表、本名 均/イーレックス社長、中井修一/電気新聞元編集局長、西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

上段左から井上氏、岩井氏、本名氏
下段左から中井氏、西村氏

―まずは、電力自由化四半世紀を振り返って率直な感想をお聞かせください。

井上 自由化以前は、大手電力会社にコスト削減の概念はほとんどなかったと聞いています。それが、競争にさらされ大きく変わりました。当時、電力会社の総売り上げは15兆円ありましたが、最初の5年で年間約2兆円下がったと記憶しています。そういう意味で、5年に限っては自由化の効果があったと思います。

岩井 もっとスピード感を持って改革を進めるべきであり、新規参入者側としてそういう働き掛けをしてこなかったことは大きな反省点です。安定供給への配慮もあり、ゆっくり進めたばかりに体制づくりもゆっくりとしたものになった。それが、「間違った」と思っても後戻りできない状況をつくり出してしまいました。

本名 2000年当時、新電力といえば通信事業者やガス事業者、商社など、資本がしっかりとした大企業が中心でした。供給力をいかに確保するかも含め、大手電力会社に対し不利な競争環境であることを覚悟の上での参入だったのです。当社も自前の供給力を確保しようと、LNG火力発電事業に乗り出しましたが、リーマンショックに伴う原油高につながるタイミングと重なり大失敗に終わりました。このように、自由化後は予想し得ないことが多々起きました。東日本大震災以降は、欧米のシステム改革を追う形でさまざまな制度改革が急速に進められ、あっという間で大変な20年間でした。

中井 取材してきた側から申し上げると、電力業界、中でも東京電力の力が大きくなりすぎたことに問題意識を持った官僚の行動が全ての改革の始まりでした。政治・経済情勢や米国との関係などさまざまなことが起因し、経済産業省は新事業者を参入させる規制緩和にかじを切ったわけです。市場を開放し電気料金を下げることが狙いでしたが、本当に国民経済的に良かったと言えるのか、答えが出るにはもう少し時間がかかりそうです。

西村 新電力の草創記は原油高で、メリットオーダー上、石油が市場価格を決めていたため市場には最も高い玉しか出ませんでした。原油高騰により08年ごろは新電力にとって最も厳しい時代でしたが、それでも電力供給システムを熟知した上で事業展開してくれたおかげで、電力業界はゆっくりと体質を改善することができたのです。12年以降のシステム改革であまりに電気事業について不勉強な市場参加者が増えてしまい、安定供給が崩壊しつつある現状との落差を考えると、最初に参入された皆さんの大きな貢献があらためて思い起こされます。

新たな需要開拓や技術の確立 分離後は導管会社が担い手に


インタビュー:広瀬道明/日本ガス協会会長

大手3社の導管分離を控え、都市ガス事業は歴史的な大転換期を迎えている。業界は、この歴史的な変革にどう向き合い存続を目指そうとしているのか。

ひろせ・みちあき 1974年早大政経学部卒、東京ガス入社。
2006年執行役員企画本部総合企画部長などを経て14年社長執行役員、
18年会長。18年6月に日本ガス協会会長に就任。

――都市ガス小売り自由化の動向をどう見ていますか。

広瀬 これまで市場競争は、首都圏、東海、近畿、九州地方が中心でしたが、北海道電力が参入をしたことでこれに北海道エリアが加わり、電力と同様に全国に広がったと認識しています。

――新型コロナウイルスが事業に与える影響は無視できません。

広瀬 経済活動の自粛により、電力もガスも業務用を中心に需要が激減した上、各社とも営業活動ができずスイッチング(契約切り替え)が停滞しました。特に対面営業を強みとしてきた都市ガス会社は、営業手法に大きな課題を突き付けられることになりました。これを機に、ウェブなどによる営業手法の重要性がより強く認識され広まればと思います。

歴史的大転換をもたらす 導管分離と脱炭素化

――資源エネルギー庁において、「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」が始まりました。 広瀬 都市ガス事業が始まって、再来年で150年となりますが、今、この長い歴史の中で経験したことがないような大きな転換期を迎えています。「レジリエンス(強靭化)」や「デジタル化」といったさまざまな要素がある中で、最も大きな変化の要因は、「導管分離」と「脱炭素化」だと考えています。

 「製造」から「供給」「サービス」までを一体的に運営し、ガス体エネルギーを提供するという事業を150年近く変わらず続けてきましたが、導管(供給)が分離されることになります。また、石炭・石油・LNGと原料は変わってきましたが、時代は脱炭素に向かっています。これらの課題に対し、今後どうしていくべきか、事業者自らも考えていきますが、新規参入者を含め多様な分野の方に在り方研究会に参加いただき、将来のガス産業について幅広い議論をしていただくことで、その成果を、エネルギー基本計画をはじめとした今後の政策議論に反映することができればと思います。

――導管分離はどのような変革をもたらすでしょうか。

広瀬 単に導管部門を別会社化するだけでは意味がありません。これまではガス会社の一部門でしたが、導管分離後は、独立した会社として主体性のある経営が行われるようになります。導管会社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新しい事業分野に率先して取り組んでいくことになるでしょう。

――インフラ強化やレジリエンスの確保に向けた取り組みについてはどうお考えですか。

広瀬 大規模自然災害が頻発する中で、レジリエンスの観点から送電網、導管網の拡充・広域化の必要性は高まっています。ガスでは、太平洋側と日本海側を横断するようなパイプラインの整備について、具体的に検討していくべきではないでしょうか。