安定供給のための投資を円滑に行えるよう、大手電力の財務体質改善が急務だ。どのような政策的な支援、そして企業自らの収益拡大努力が求められているのか。
【出席者】山内弘隆/武蔵野大学経営学部 特任教授、伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表兼アナリスト、廣瀬和貞/アジアエネルギー研究所 代表、巽 直樹KPMGコンサルティング/プリンシパル
山内 大手電力会社の社債を巡る信用力・格付け低下の現状と、資金調達への影響をどう見ていますか。まずはそれぞれの問題意識をお聞かせください。
廣瀬 この7月、大手電力の資金調達に異変が生じていました。これまでも、発行額が募集金額を少し下回ることはありましたが、半分にも満たないという極端な事例が発生したのです。ただ8月以降は、米国をはじめ主要国の金融政策、金利政策が徐々に見えてきて日本の債券市場も落ち着きを取り戻してきたので、資金調達に目立った支障は出ていないと見ています。大手電力の格付け、信用力全体が下がっていることもさることながら、今まで全電力一律だった格付けが、東京・中部・関西電力の中3社とそのほかの地方電力とで、格差が生じ始めていることも、昨今の大きな特徴だと言えます。
伊藤 欧米では、規制・制度改革のタイミングでエネルギー事業者の格付けが一気に5~6段階も引き下げられたことがあります。日本の場合も、一般担保が外れれば同じような状況が生じるリスクがあると考えるべきでしょう。また、大手電力間の財務体質には極めて大きな差があります。収益力や競争力の差によって、今後さらに資金調達力、事業展開力の格差が広がる可能性があります。7月の段階では、金融情勢や来年4月に黒田東彦日銀総裁が任期を終えた後の金利政策変更への懸念がかなり強く、各発行体は来年以降、低コストで安定的に資金を調達できるかどうか不安視しており、大手電力といえども目標とする発行額を確保できない事態が起きました。今落ち着いているように見えるのは、あらかじめマーケットの状況をヒアリングして発行額を調整しているからで、状況は大きく変わっていません。
巽 2021年度決算が発表された4月下旬ごろまでは、社債発行額の6~7割が電力債でした。相対的に電力債の方がまだ良いということで選ばれていたとも言えます。ところが、その3カ月後に状況が急激に悪化してしまい、これは一時的なものではなく継続するものと考えられます。その意味でも、一般担保が外れるかどうかが今後を大きく左右します。大手電力会社は、リファイナンスに対する危機感を急に持つことができるのでしょうか。気が付いた時には取り返しがつかない状況になっているのではないかと懸念しています。今後、外部環境がどう変わっていくのか注視しなければなりません。