米国の核合意復帰なるか 待ち受ける複雑な状況


イラン核合意への復帰を表明するバイデン氏が米大統領に就任する。トランプ政権はイランを敵対視し、合意からも脱退。中東情勢は一時緊迫化した。核合意への復帰で情勢安定化を期待する声があるが、イスラエルやサウジアラビアなどの動向次第では裏目に出る可能性も高い。
早くも原油先物市場では、中東情勢のさらなる緊迫化を視野に上昇基調に入っており、12月中旬現在、北海ブレンドは50ドルを上回っている状況だ。

合意復帰について核不拡散問題に詳しい鈴木達治郎・長崎大学教授は、「前向きに検討し始めただけでも、緊張緩和に向け前進」と評価する。だが、前政権の実力行使でイランは態度を硬化。「制裁解除よりも、核開発を優先するのでは」との指摘もある。鈴木氏も「両国を取り巻く状況はより複雑になっている」と話す。

日本は両国と独自のパイプを持つ先進国の一つ。脱炭素社会を目指すが、いまだ原油の中東依存度は高い。今後、中東情勢は緩和に向かうのか、または一層緊迫化するのか。エネルギー安全保障にとって予断を許さない状況が続く。

今こそ技術革新の好機 国が先頭に「SOFC革命」を


【オピニオン】金子祥三/東京大学生産技術研究所研究顧問

石炭火力の効率と存続是非の議論が盛んだ。しかし、実は今こそ技術革新の絶好の機会なのである。
2016年に「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」がいろいろと議論され、25年の達成目標もはっきりと定量的に示された。日本の役割は技術で世界の先頭に立って貢献することである。
われわれはエネルギーを仕事や動力に変えて利用している。エネルギーである熱を仕事に変える場合、100%変換することはできない(熱力学の法則)。この不可逆性こそ何世紀にもわたって技術者が戦ってきた相手なのである。熱を仕事に変える場合、カルノーの定理に支配される。もらう熱の温度をできるだけ高くするか、捨てる熱の温度をできるだけ低くすれば、効率を高くできる。今、蒸気タービンやガスタービンの入口温度をできるだけ上げようとしているのはこのためである。
ところが今、全く新しい発電方式―燃料電池が出てきて実用化の真っ最中なのである。燃料電池といっても水素を使うわけではない。セラミックスを使った、固体酸化物形高温型燃料電池(SOFC)で空気中の酸素で発電する。この技術は日本が世界を圧倒的にリードしており、電気化学的にあらゆる燃料をいきなり電気に変えるので、カルノーの定理の支配を受けない。
このSOFCと蒸気タービンやガスタービンを組み合わせると、現在、40%くらいの火力発電の効率を一気に70%近くまで上げることができる。これがトリプル複合発電である。このように技術革新で火力発電から出るCO2を一気に半減できるのである。いわば走り幅跳びの選手が三段跳びに種目変更して、一気に跳躍距離が倍増するようなものである。
SOFCは50%くらいの高効率で発電し、排気ガスが900℃くらいで出てくる。このタダ同然の排気ガスをガスタービンや蒸気タービンに入れてやると、さらに発電ができる。つまり50%の廃熱を40%の効率のガスタービンや蒸気タービンで利用すると、50×0.4=20%となるので、SOFCの50%と合わせると70%の総合効率になる。
SOFCは素子一本で100Wくらいの出力が出る。50万kWの火力発電に使おうとすると500万本が必要である。つまり典型的な大量生産製品なので、大規模な自動化された量産工場が不可欠である。
これまで日本は数々の歴史に残る新製品を生み出し、人類に貢献してきた。半導体、液晶、太陽電池、リチウムイオン電池など日本の貢献がなければここまで進んではこなかった。しかし現在、これらの量産製品は国ぐるみで巨額の設備投資が可能な中国や韓国に独占されてしまっている。この悲劇を繰り返してはならない。
今が最後のチャンスである。国が先頭に立って、「SOFC革命」を起こし、火力発電の効率倍増に取り組み、確実に50年のカーボンニュートラルが実現できるように進むべきである。

かねこ・しょうぞう 東京大学工学部機械工学科卒、三菱重工業入社。火力発電の設計・建設に携わる傍ら、燃料電池、脱硝装置、石炭ガス化などの研究開発に従事。博士(工学)。

大阪地裁が設置許可を取り消し 原発を止める「島﨑」の執念


大阪地裁が地震動の上振れを検討していないことを理由に、大飯発電所3、4号機の設置許可を取り消した。
しかし、基準地震動は原子力規制委員会の島﨑邦彦元委員代理により、科学的根拠もなく大幅に引き上げられている。

島﨑氏は大飯原発の基準地震動を大幅に引き上げていた

また首をかしげざるを得ない判決が出た。関西電力大飯発電所3、4号機の設置許可について2020年12月4日、大阪地裁の森鍵一裁判長が取り消しを命じる判決を出したのだ。原子力規制委員会が認可した同3、4号機の「基準地震動」が適切ではないとの判断。計算式に基づいた値よりも大きな揺れが起こる可能性の有無を検討していないというのが理由だ。
しかし新規制基準の適合性審査で、大飯3、4号機の基準地震動は明確な根拠もないまま大きく引き上げざるを得なかった経緯がある。これらの背景まで考慮せず、物事の断片のみで判決を出す司法は信頼に足るのだろうか。

考慮不要な断層まで想定 規制委は過小評価をせず

今回の判決は、基準地震動を定める際の内規に当たる「審査ガイド」に記載された「経験式を用いて地震規模を設定する場合、経験式が有するばらつきも考慮する必要がある」との一文が争点。計算式を用いて地震規模を算定しても、実際の地震動は計算結果から上振れする可能性もあり、その分だけ基準地震動に上乗せする必要があるかどうかを検討すべきとの判断だ。その検討をしていないとして大阪地裁は違法と断じた。
判決要旨だけを読むと、あたかも関電と規制委が基準地震動を過小評価したかのようにも受け取れる。だが、実際は真逆。科学的に考慮する必要のない断層連動まで想定した基準地震動になっているのだ。その原因は、規制委の島﨑邦彦元委員長代理が主導した規制委の審査にある。
規制委は13年4月、国内で唯一稼働していた大飯3、4号機が新規制基準に適合しているかの評価に着手。5月10日の会合では大飯発電所の敷地周辺にある三つの断層が連動するかを議題に上げた。関電は掘削調査や海上音波探査などの結果を基に、三つの断層が連動しないとの結果を報告。しかし島﨑氏は3断層の形が濃尾地震のパターンに似ていると指摘し、「連動ありきで議論してほしい」と要望した。科学的な調査結果よりも、連動するに違いないという自身の信念を審査の場に持ち込んだのだ。
三つの断層とは発電所敷地から小浜湾を挟んで南東の陸側にある「熊川断層」と、敷地から北西側の若狭湾に延びている「FO―A断層」「FO―B断層」を指す。関電が13年6月に発表した調査結果によると、FO―A・FO―B断層と熊川断層は距離が約15㎞も離れている。一般的に5㎞離れていたら「連動して動くことはない」(地質学の専門家)と見られており、調査結果を考慮すれば3断層が連動するとは考えにくい。
それでも「3断層の間にある岬にリニアメント(線状模様)が認められるため連動する」と主張する学者がいたほか、小浜湾の西側に階段状の地形(段丘)があるのに東側に存在しないため、3断層はつながっていると指摘した学者もいた。これら一部学者の意見を島﨑氏は重視したため、関電は当該場所を調査。リニアメントは認められず、東側に段丘地形を確認したため連動する構造はないとの調査結果を規制委に報告した。
科学的な調査結果を示されても島﨑氏は納得せず、関電が小浜湾の地下構造を十分に把握していないなどの理由を挙げて「3断層が連動する可能性は否定できない」と強調。連動を否定するデータをどれだけ示されても、自らの主張を曲げることはなかった。
若狭地域の震源断層の上端部を巡る議論も平行線をたどった。上端部が地表に近いほど地震規模は大きくなる。関電が地表から深さ4㎞との評価結果を示すと、島﨑氏は「3㎞だと思う」と譲らなかった。上端部の深さはさまざまなデータを組み合わせて類推するしかないが、最終的に関電が折れて3㎞の要求をのむしかなかった。
3断層の連動と、断層上端部が地表から深さ3㎞を認めさせた件。いずれも島﨑氏の信念に基づいた結果といえる。どのような理由であれ、島﨑氏の意にそぐわないと審査は先に進まない。それだけ再稼働が遅れるだけに、関電だけではなく電力業界全体が規制側の主張に従うしかなかった。
結果的に大飯3、4号機の基準地震動は、過小評価どころか現実離れした厳しすぎる条件で弾き出された。もともと700ガルだったのが、856ガルにまで2割ほど引き上げられたのだ。このような経緯をたどると、関電と規制委が過小評価していないことが理解できるだろう。
これだけ無理難題を吹っ掛けた島﨑氏だが、委員長代理を退任してからも大飯原発の敷地問題に関わり続けた。16年6月には大飯3、4号機の運転差し止めを巡る控訴審で、基準地震動が過小評価されている可能性を指摘する陳述書を名古屋高裁金沢支部に提出している。島﨑氏の主張は、地震規模を求める「入倉・三宅式」と呼ぶ計算式を使うと過小評価になるというもの。しかし、基準地震動を定めるためにはさまざまな計算式を用いる。不確定要素を組み込みながら、地震が発電所敷地に及ぼす影響が厳しくなるように設定していくのだ。
当時の田中俊一・規制委員長との面談も求めた。大飯原発の地震動を別の方式で再計算してほしいと要望し、規制委側は了承。実行したところ、大飯3、4号機の審査で認められた基準地震動を下回った。この結果に対して島﨑氏は反論。2度目の面談を規制委側に求めるに至った。

科学的根拠なく自説に執着 目的は原発を止めることか

関電の調査結果など科学的根拠をわきに置き、自説に執着し続けた島﨑氏。その主張を基に運転差し止めを求める反対派。いずれも「原発を止める」ことを目的とし、都合の良い資料やデータを持ち出しているにすぎないのではないか。
それでも関電勝訴の逆転判決を下した名古屋高裁金沢支部のように、事実関係をしっかり考慮に入れた上で判断する裁判官もいる。今回の大阪地裁が出した判決は、本来の司法の在り方から逸脱している。島﨑氏も、自身が混乱を招いていることに気付くべきだ。

暮らしの課題を浮き彫りに リフォームを繰り返す集合住宅


大阪ガス

住宅関連のさまざまな実験を行ってきた「NEXT21」では
何度もリフォームを繰り返している。
時代とともに変化する住戸や生活スタイル、
環境、エネルギー、社会問題などがここから見えてくる。

実験集合住宅「NEXT21」

大阪ガスの実験集合住宅「NEXT21」は、環境、エネルギー、暮らしなど、さまざまなテーマを設けて造られた住戸が集積した施設で、同社の社員が生活し、実験・検証に協力している。同施設は時代の要請に応じ、適宜テーマを変え、居住実験が続けられてきた。いくつかの住戸では、壁の移設を含む大規模なリフォームが行われてきた。

何度も実施する造り替えに耐えながら、自由度の高い住戸設計に対応するため、NEXT21は建築構造にスケルトン・インフィル方式を採用する。骨格となるスケルトン(構造躯体)は頑丈なコンクリートが使われ100年以上の耐久性を有する。インフィル(住戸・内装)は自由に移動・交換が可能。外壁の位置も変更できる。ガスや上下水道の配管は共用廊下の下部のスペースに納められており、キッチンや浴室など水回りがどの位置に設計されても自由に配置できるのが特長だ。

長年、NEXT21に携わるエネルギー文化研究所の加茂みどり主席研究員は「NEXT21が建設された1990年代は住宅設備でビルドインが一気に進んだ時代。エアコンが天井に埋め込まれ、パネルヒーティングが設置されるなど、住まいを建設する段階で設備のことを考える必要がありました」と当時を振り返る。

一方、この数年は電力小売り全面自由化によって、エネルギーを取り巻く環境は大きく変わった。「お客さまは目指すライフスタイルや住みたい家を実現するために、どのようなエネルギーが必要なのか、という視点でも事業者を見ています。そうした時代にも選ばれていくための検証という側面もNEXT21は担っています」と、エナジーソリューション事業部環境・政策チームの纐纈三佳子マネジャーは、同施設で実証する意義を強調する。

部屋を自由にレイアウト 数世帯が緩やかにつながる

NEXT21の住戸はさまざまなテーマを基に造られている。最新住戸の「自在の家」は、五つの室空間を住む人に合わせて自在に結合・独立することが可能。文字通り、一つの大きな家として、五つのワンルームとして、シェアハウスとして、壁や建具、可動式間仕切り家具などを利用して自由にレイアウトを変えることができる。実証では、入居した数世帯の家族や人が入れ替わるごとに住戸が変化するシナリオを想定。これに合わせて、レイアウトや使用ルールを変えていく。

「自在の家」のキッチン。部屋のレイアウトは自由に変えられる

自宅の湯が温泉のような乳白色に 細かな気泡でリラックス効果


【レポート/リンナイ】

温泉のような乳白色の湯が湯船に広がる

コロナ禍で、在宅時間が長くなり、自宅で快適に、リラックスして過ごしたいと考える人が増えている。そんな時世にマッチして、リンナイのマイクロバブルバスユニットが好調だ。2020年4月の販売開始から前モデルの20倍以上の出荷実績を上げている。

マイクロバブルバスユニットは給湯器に取り付けると、湯船に注ぐ湯に小さな泡を含ませることができる。ユニットで湯を加圧して空気と混ぜ、圧力が下がる噴出時に大量の気泡を作り出す。その数は1CC当たり1~100μmのマイクロバブルが約3万個、1μm以下のウルトラファインバブルが約242万個に上る。

マイクロバブルバスユニットが作り出した湯を実際に見ると、温泉を連想させる乳白色で、上質な湯に変わったと実感する。営業企画部の中尾公厚部長は「このお湯の白色にはこだわりました。マイクロバブルバスユニットは設置も簡単で、入浴剤などを使わなくても空気の泡で作ることができます。これまで家庭では得られなかったお湯の上質感やぜいたく感をぜひ体感してもらいたい」と強調する。

マイクロバブルバスユニット。これを給湯器に取り付ける

温浴効果など優れた効能 女性を中心に大きな反響

マイクロバブルは見た目だけでなく、得られる効果も多い。気泡が体を包み込むため、湯から体への熱の伝わりが緩やかになり、ゆっくりと体を温める効果がある。入浴後は高くなった体温を徐々に放出するため、さら湯に比べて高い皮膚温度が持続する。また、洗浄効果も高い。微細な気泡が皮膚の汚れに吸着し取り除くほか、毛穴にたまった皮脂汚れに気泡が吸着し、かき出すことで肌を清潔に保つ。実証試験でもマイクロバブル入浴の方が通常の入浴より固形汚れの除去率が1・5倍高いとの結果が出ている。

さらに、マイクロバブル入浴を体感した人からは、「湯触りが柔らかい」「肌がしっとりする」「肌が突っ張る感じが少ない」「保湿クリームを塗らなくてもよかった」など多くの声が上がっている。

中でも、リラックス効果については「お風呂の時間を大切にする女性を中心に多くの反響があります」と中尾部長はアピールする。

近年、シャワー入浴で済ませる人が多くなった。マイクロバブル入浴は新しい入浴文化の提案として、今後注目を集めていきそうだ。

工場跡地活用のスマートシティ 実質再エネ100%電気を供給


【パナソニック/大阪府吹田市

Suita SST完成予想図

高度成長期、日本各地にはさまざまな工場が建てられ、急速な経済発展を遂げた。現在、そうした工場の一部は役目を終え、企業は跡地の活用に向けたCRE(企業不動産)戦略を求められている。


パナソニックでは、工場跡地の土地をサスティナブル・スマートタウン(SST)と名付けた街づくりに活用。不動産などの「財務価値」をはじめ、先端技術の導入や多くの企業団体が関わる「事業価値」、暮らしの課題を解決する「地域価値」の三つを高める戦略を打ち出している。その取り組みの3カ所目となるSuitaSST(大阪府吹田市)では現在、2022年の街開きに向けて建設工事の真っただ中にある。


SuitaSSTは、代表幹事のパナソニックをはじめ、関西電力、大阪ガスなどの異業種16社と吹田市が参画。エネルギー、セキュリティー、ウェルネス、モビリティー、コミュニティーの五つのサービス領域で協業する。

非化石証書の価値を付加 高圧一括受電でエリア供給

エネルギー面においては、SSTエリア内の商業施設、住居施設など複合開発街区全体で消費される電気を実質再エネ100%とする日本初※の試みに取り組んでいる。関西電力が自社の「再エネECOプラン」を活用し、再エネ由来の非化石証書の持つ環境価値を付加した電気をSuitaSSTへ供給。エリア内の集合住宅や商業施設への供給は関西電力のグループ会社である関電エネルギーソリューション(Kenes)が街区内に自営線を敷設して各施設内へ電力を供給する。また、マンションの一部の住戸に設置される燃料電池「エネファーム」などのガス機器由来の電気をJ-クレジットの購入で相殺するといった業務もKenesが担当する。


住居向けの電力はマンション一括受電事業を手掛ける同グループ会社のNextPowerが担当する。パナソニックビジネスソリューション本部CRE事業推進部の坂本道弘事業開発総括は「関西電力さまの協力のもと、エリア高圧一括受電との組み合わせにより、非化石証書を購入するコストをスキーム上で取り込み、通常の電力料金と同程度で、再エネ由来のエネルギー利用を実現しています」と話す。

実質再エネ100%電気供給の流れ


このほか、エネルギーではレジリエンス対策にも取り組む。地震や台風など、大規模災害時にライフラインが途絶えても、人が生きていられる時間は72時間といわれている。そこで、SSTのエリア内に太陽光、電気自動車充電スタンド、蓄電池を設置し、自立運転できるようにする。また、エリアの住民だけを守るのではなく、周辺住民にも開放し、コンセントやWi−Fiなども利用できる仕組みづくりも行う計画だ。さらに、ウェルネス複合施設でエネファームを4戸に1台の割合で設置し、湯と電気を共有するユニークな取り組みを大阪ガスと進めている。

先般、菅義偉首相は「温室効果ガス排出50年実質ゼロ」を宣言した。そうした動向に対し、坂本氏は「当社は先取りして自主的に社会課題の解決に取り組んできました。今後も、手を緩めることなく進めていきたい」と意気込む。Suitaに続くSSTの建設は未定だが、蓄電池を含めたエネルギーを蓄える仕組みで新たなチャレンジをしていきたいとのことだ。


※関西電力調べ

中容量パワコン利用の太陽光発電所 ユニークな分散型で初期投資を低減


【デルタ電子】

赤穂エナジーパークの全景

デルタ電子は台湾の電機メーカー。スイッチング電源や電子部品、エネルギー関連では太陽光発電用パワーコンディショナー(PCS)などが主力製品だ。そんな同社は太陽光発電所「赤穂エナジーパーク(出力4600kW)」を2016年1月から稼働している。電機メーカーのデルタ電子が同発電所を持つのは、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)を利用した売電事業に加え、自社PCSを利用した分散型太陽光発電所のモデル施設、PCSの実証フィールドといった目的がある。
赤穂エナジーパークは分散型方式を採用する。発電所を8つの区画に分割し、1区画ごとに20kWクラスのPCSを25台、50kWクラスを10台採用する。通常の発電所では、1000kWクラスのPCSを使用するが、屋内仕様のため建屋をつくり空調設備を導入しなければならないため、初期投資コストが高額になる。また、故障した場合、部品が届くまで発電所を停止しなければならない。
これに対し、同社の中容量PCSは低コストで導入でき、故障しても新品を翌日に持ち込むことも可能だ。運転停止を最小に抑えることができる。さらに太陽光発電所の一部が日陰になると、PCS単位で発電量全体に影響する。分散型は区画を細かく分けるので、影響を最小限に食い止められる。
実証フィールドとしては、分散型向けPCSの製品開発に役立てる目的がある。PCSは本来であれば直射日光を避け、パネル下部などに設置するのを、あえて直射日光に晒されるように設置し、性能検証を行うなどして、研究開発に役立てている。
市場開発チームの田中誠二副マネージャーは「当社は海外企業のため、日本国内のお客さまからシビアに見られます。そこで、分散型発電所でPCSがどのように設置・運用しているのかを顧客に実際に確認してもらう場として活用しています」と発電所を所有する意義を話す。

発電所建設で地元と向き合う 要望を全て受け入れる

同発電所を建設に当たっては、地元自治会役員との話し合いを幾度となく行い、地元自治会と環境保全協定を締結した。この中には、以前の所有者が山林を伐採し、露出した山肌を植林して回復することや、地元農家が稲作に利用する貯水池に流れ込んだ土砂の浚渫などが含まれた。元自治会長の田淵和彦氏は「外資のため不安だったが、地元の要望をすべて受け入れてくれた」と対応に満足している様子だ。同社では、今後もエネルギー事業の開発拠点として利用しながら、地元住民に受け入れられる施設として運営していく方針だ。

【覆面座談会】ゼロエミでは「端役」か 問われる原子力の真価


テーマ:ゼロエミッションと原子力

菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」と宣言し、非化石電源として再生可能エネルギーと原子力発電があらためて注目されている。再エネへの期待が過熱する中、原子力はどう役割を果たしていくか―。3人の専門家が議論を交わした。

〈出席者〉 A電力業界人  B有識者  Cジャーナリスト

原子力版FITのような制度がリプレースには欠かせなくなる

―経済産業省で次期エネルギー基本計画の策定作業が始まっているが、菅首相の宣言により、50年ゼロエミッションを踏まえての検討になる。どういう議論を期待しているだろうか。

A 次期基本計画は50年に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す中で、30年の目標をつくることになると考えている。その中で原子力についてはぜひ、骨太の議論をしてほしいと思う。

 3E(環境性、エネルギー安全保障、経済性)の中で、原子力については、どうしても環境性が中心になってしまう。今回は、エネルギー安全保障、それに経済性について正面から取り上げてもらいたい。

 日本の低いエネルギー自給率を考えると、やはり安全保障の点で原発は欠かせない。他方、経済性については、現在の基本計画では「運転費は安い」という記載が多くあるが、固定費については言及を避けている。ところが、原発の建設にかかる費用は膨大な額になり、原子力の経済性はかなり落ちている。そのことを逃げないで議論してほしい。

―経済性の点で、原発のリプレースはかなり厳しくなっている。

A リプレースだけではない。既設炉も新規制基準に適合するための工事や特重(特定重大事故等対処施設)の建設に巨額の費用がかかる。それに廃炉や再処理事業などのコストも加わる。

地球温暖化対策のみでいいか 安全保障の点からの議論を

―現在の30年の電源構成での原発の比率は20~22%。この比率をどう見ているだろうか。

C 実現はかなり難しい。せいぜい15%ぐらいだろうが、最低でもこの程度は絶対、維持しなければいけない。Aさんの言うとおり、最近、原発については温暖化対策としてしか見られていない風潮があり、これに違和感を覚えていた。

 原子力はエネルギー安全保障の点で必要であり、同時に国家として核抑止力のオプションを持つ点から、一定の比率は保持しなければいけない。手放すという選択肢はあり得ない。

A 原発の比率を巡る議論の「陰の主役」になるのが、プルトニウムバランスだとみている。7月に日本原燃の六ヶ所再処理工場が原子力規制委員会の安全審査に「合格」し、10月には核燃料サイクル協議会が開催された。六ヶ所再処理工場が仮に30年までにフル稼働し、年間約800tの使用済み燃料を再処理すると、一定量のプルトニウムが発生する。

 原子力委員会は18年に当時のプルトニウム保有量である47tを超えることはない、とした。従って、再処理工場から発生するプルトニウムは国内の既設炉でプルサーマルで消費することになり、この結果、おのずと原子力比率は一定以上必要になる。

―原子力委員会は、電力会社にプルトニウム利用計画を作成させ、プルサーマルで使用の見通しが付かないプルトニウムは、六ヶ所再処理工場の稼働を低下させてつくらせない方針だが。

A 国も電力業界も、青森県に対する配慮を欠かすことはできない。現実にプルサーマルが実現するかどうかは別にして、青森県の意向を考えると、計画の段階ではフル稼働を前提としたものを作らざるを得ないのではないかと想像する。

―すると、プルサーマルを実施するため、今からより多くの原発を再稼働させていくことが必要になる。

C 民主党政権の野田佳彦首相のような腹の座った政治家が出てこないと、かなり厳しいだろう。民主党政権は二回、原発について大きな政治判断を下した。一つは菅直人首相が浜岡原発を止めたこと。もう一つは、野田首相が関西圏の夏の需要増を踏まえて、大飯原発を動かしたことだ。

 再稼働にはさまざまな課題があるが、今は関係者が皆、責任を押し付けあっている。これでは何も解決しない。首相が決断して、規制委の審査が済んだものは、責任を持って「動かします」と言わない限り再稼働は進まない。

【北海道電力 藤井社長】地域との「共創」で脱炭素社会の実現と経済の発展に貢献する


新電力との電力競争を繰り広げる中、満を持して都市ガス小売り事業に参入した。
その一方で、北海道の脱炭素化と地域経済の持続的発展に向け、
「共創」の取り組みも積極化させている。

ふじい・ゆたか
1981年宇都宮大学工学部電気工学科卒、北海道電力入社。2015年取締役常務執行役員流通本部長、16年取締役副社長流通本部長などを経て19年6月から現職。

志賀 北海道は、年初から新型コロナウイルスの感染が拡大し、その対応に大変なご苦労があったのではないでしょうか。

藤井 24時間365日電力供給を途絶えさせないことを最優先に、特に火力発電所の中央操作室や電力系統を監視するネットワーク会社の中央給電指令所・制御所については、入り口での消毒を徹底したり、感染者が出た場合に備えて班ごとに交代できるようにシフトを組むなどの対応を取ってきました。現場業務は、お客さまの生活や経済活動を支える最前線ですから、今後とも、三密回避や消毒などの予防策を徹底していきます。

志賀 入社以来、主に工務部畑を歩んでこられました。電力マンとして強く印象に残っていることはありますか。

藤井 2000年4月に知床半島の斜里から宇登呂にかけての送電鉄塔が雪解け水の影響で発生した土石流とともに流され、10数時間にわたって停電が発生してしまったのですが、復旧した際、地元の方々から「ありがとう」と声を掛けていただいたことが特に印象に残っています。電力供給の現場にいる人間にとって、人のために仕事をしているのだと報われた瞬間です。

都市ガス小売りに参入 サービスの拡充も

志賀 10月に都市ガス事業に参入しました。大手電力会社としては後発となりましたが、改めてその経緯と事業拡大への意気込みを教えてください。

藤井 当社は、電気を中核にエネルギーサービスの多様化を進めてきました。これまで通り、省エネやお客さまの快適な暮らしにつながる電化機器のご提案や、産業における電化を推進する一方、都市ガス小売事業への参入を機に、電気と都市ガスのセット販売など、ガスを必要とするお客さまのニーズに寄り添ったご提案を積極的に行っていきます。

志賀 ガス販売のターゲットは。また、どのように競争力のある料金体系を打ち出されているのでしょうか。

藤井 石狩LNG基地からガス導管がつながっている道央圏の札幌、小樽、千歳エリアで、都市ガスを利用されているご家庭のお客さまを対象に、「ほくでんガスプラン(一般料金)」をご用意しました。北海道ガスの一般料金よりも必ず安くなるように設定しており、当社の電気料金プランとセットでご契約いただくことで、毎月のガスのご使用量にかかわらず5%お得にお使いいただけます。

10月に「ほくでんガス」として都市ガス事業へ参入した

志賀 電気の市場競争で相当苦戦されてきましたが、都市ガス参入を機にどう巻き返しを図っていきますか。

藤井 確かに低圧分野では、当社から他の小売電気事業者への契約切替が大変厳しい状況となっています。ただ、「エネとくポイントプラン」をはじめ、当社の自由料金メニューは、ほかの小売電気事業者に十分に対抗できる料金水準です。

 また、付加価値サービスとして会員制Webサービス「ほくでんエネモール」や、家族見守りサービス「エネモがミマモ GPS BoT」、日常生活で利用する宅配や動画配信サービス、通信教育、飲食店などを優待価格でご利用いただける「ほくでん価格優待サービスbyえらべる倶楽部」などをご用意しています。さらに、当社にはない魅力的なサービスや商品、お客さまとの多様な接点などを持った企業との業務提携も積極的に進めています。

 例えば今年7月には、北海道エネルギーと業務提携し、ガソリンの給油や灯油の定期配送をお得にご利用いただけるサービス「エネとも会員」を開始し、ご好評いただいています。今後も、ほくでんガスの最大限の活用、付加価値サービスのご提供や他社との業務提携などにより、お客さまニーズにお応えし、より積極的な営業活動を進めていきます。

 特別高圧・高圧分野では、専任担当者による対面営業により、お客さまとの関係強化に努めてきました。それとともに、ご使用状況などに応じた料金提案や、法人向けの電化提案、省エネ診断サービスなどのソリューション営業に取り組んできた結果、当社をお選びいただけるお客さまが着実に増加しています。

志賀 首都圏における電力販売の手応えはいかがでしょうか。

藤井 17年4月に東京など首都圏での電力販売に特化した専門組織「首都圏販売部」を設置し、特別高圧・高圧の電力小売りを開始しました。現時点で4万kWを超えるご契約をいただいています。また、ご契約いただいた法人のお客さまや、北海道から首都圏へお引越しされるお客さまなどからのご要望にもお応えする形で、今年3月には低圧の電力小売りを開始しており、早期に1万件の契約獲得を目指しています。

 さらに、首都圏向けの電力の調達を目的に、当社が出資している福島天然ガス発電所の1・2号機(計118万kW)が営業運転を開始しており、この電源も活用して首都圏での電力販売の拡大を図ります。将来的には、収益の柱の一つとして育てていきます。

【電源開発 渡部社長】CO2削減に積極姿勢 国内外有望分野に投資しベストミックスを追求


石炭火力のCO2排出量の削減を進める一方、洋上風力など再エネ開発を積極的に行っている。
ESG投資銘柄として高い評価も受けた。
事業環境の不確実性が増す中において、電源のベストミックスを追求している。

わたなべ・としふみ
1977年東大法学部卒、電源開発入社。2002年企画部長、06年取締役、09年常務などを経て、13年副社長、16年6月から現職。

志賀 新型コロナウイルスの出現で新しい社会のあり方が問われています。さらに菅新政権が規制改革を打ち出すなど、例年以上に事業環境が大きく変化しそうですし、地球温暖化対策への注目も引き続き大きい。こうした環境変化をどう捉えていますか。

渡部 電力小売り全面自由化から4年経ち、この間に市場のルールの検討、整備が進められてきました。一方で電力供給のレジリエンス(強靭化)も不可欠であり、非常時の迅速な復旧体制の構築が新たな課題となっています。気候変動問題に関しては、ゼロエミッションへの取り組みを加速する必要があります。

さらに、コロナ禍で電力市場価格に対して下げ圧力が出ており、数年この状態が続く可能性を視野に入れる必要があります。長期的な展望に立てば会社の目指すべき進路は動かさず、辛抱が必要な場面も出てくるでしょう。一方、短期的には変化を捉えて機敏に動くことも求められます。両方の考え方を持ち、どう立ち回るかが問われていると感じています。

IGCC活用に意欲 CCSの検討も視野

志賀 温暖化関連では欧米を中心にESG(環境・社会・ガバナンス)ブームなどが拡大し、原子力や石炭火力を否定しているようにも見えます。日本の世論も欧米の動きに影響されつつあります。

渡部 日本のエネルギー資源は輸入に9割以上依存している事実は動かせません。そんな条件下で日本のエネルギーセキュリティーが成り立っていることを、対外的にもっと主張する必要があります。

一方、国内に目を向ければ、今の若い世代の価値観は多様化しています。起業やベンチャーなどを志向する人も増えてきた一方で、「社会的意義のある仕事をしたい」という人たちも結構な割合で存在します。当社に入社する社員にも、そうしたモチベーションの人が多いと感じています。

志賀 先般、容量市場の初入札結果が公表されました。結果についてさまざまな意見がありますが、市場設計などについてどのようにお考えですか。

渡部 例えばスポットマーケットは十数年分の取引の記録があり、どんな条件で値段がどう動くか、分析し知見が蓄積されています。そして、再エネが拡大したことでプレーヤーも増えてきました。容量市場には期待していますが、まだ入札が始まったところで知見が蓄えられるには時間が必要でしょう。新規投資などの判断には市場が練られていく必要があると思います。

志賀 容量市場が意味のある市場となるのか、見守りたいと思います。一方、梶山弘志経済産業相が言明した非効率石炭火力フェードアウトのインパクトは大きいと思いますが、どう対応されますか。

渡部 経産省の審議会で示された非効率の対象となる当社の設備は、石炭火力全体の設備容量の4割ほどです。一番古い高砂火力は1969年の運転開始から50年を超えています。

非効率石炭火力のフェードアウトを加速するといっても、現在利用率が7割を超える設備を即停止せよ、ということではありませんし、電力需給や雇用の問題もあります。地元の要望も聞き、十分な理解を得ることができるよう、時間をかけて進めていく必要があります。