【特集2まとめ】復興の「汗と涙と誇りと希望」


震災10年ライフライン物語

東日本大震災から10年、被災地は復旧から復興へと歩んだ。
その間、エネルギーインフラの多くの現場で「汗と涙」が流された。
換言すれば、それはライフライン関係者にとって「誇り」の物語だ。
そこから生まれてきた数々の新技術や新機軸の取り組み。
新たな10年後に向け、被災地そして日本に「希望」の火を灯す。

掲載ページはこちら

【エピソードⅠ】最新の知見が奏功した安全停止 「再出発」目指し対策積み重ね

【エピソードⅡ】垣根超えた「チーム原町」の結束 業界横断の連携で復旧と復興果たす

【特別寄稿】求められる情報災害への備え

【ルポルタージュ】事故から10年の現場を取材 廃炉目指し着実に前進

【レポート】ガス業界一丸で臨んだ未曽有の復旧 現場で生きた過去の教訓

【ケース1】7年越しの相馬プロジェクト 電気とガスの一大拠点に

【ケース2】LNGインフラと連携 災害に強い街づくり

【ケース3】石炭火力の概念を覆す技術 世界へ東北復興をアピール

【ケース4】発電所の燃料需要増に対応 東日本を支える供給拠点

【ケース5】独自にインフラ強化推進 LPガス式非発を開発・販売

【トピックス1】【特集2】簡単にガスと電気を仮復旧 学校体育館の空調維持に採用

【トピックス2】被災者受け入れを支えた地冷サイト 設備更新で環境性能とBCPを強化

【電力中央研究所 松浦理事長】時代に合わせて体制変更 業界・メーカーと連携しイノベーションと社会実装


電力自由化の次は、カーボンニュートラル宣言という新たな難題に直面する電力業界。
技術を掛け合わせる「知の融合」で激動の新時代に挑む。

1978年京都大学工学部卒、中部電力入社。2013年取締役専務執行役員、16年代表取締役副社長執行役員 電力ネットワークカンパニー社長。18年6月から現職。

志賀 年末から年初にかけて電力需給のひっ迫が発生しました。通常だと日中は太陽光発電が電力供給で一定の割合を占めるようになってきていますが、今年は天候不順が長期間にわたり続いたため太陽光発電の出力が低下。加えてLNG不足によって火力発電の出力が落ちるなど、悪条件が重なったことで電力の供給量が厳しい状況に陥りました。今回の事態をどう考えていますか。

松浦 寒波や天候不順など気象条件が異常だったことや、コスト削減のため各社が燃料に余裕を持たせない意識が働いていたようなことも要因として考えられます。

 電力会社は分社化する前は、「今年の冬はどうなりそうなのか」と、営業、発電、送配電、燃料調達などの各部門が顔を突き合わせて、安定供給責任を果たすことを第一に考えていました。分社化したことで各社の採算が重要となったことや各部門のコミュニケーション不足もあったのかもしれません。再エネの比率も大きくなってきており、電力の需給予測が難しいことも考えられます。

志賀 太陽光がどれだけ発電するかを見通すことは、火力発電の燃料需要を考える上でも重要だと思います。

松浦 太陽光の発電予測は、気象予測の精度に依る部分が大きいです。電力各社も気象庁や民間気象会社と提携して予測をしていますが、精度の高い予測を行うことは難しいものです。これは太陽光に限らず電力需給にいえることで、私も電力会社の送配電部門にいたころは、「気象予測が外れても当たる電力需要予測手法を作れ」と言っていたものです。

 太陽光の発電予測は、単に晴れ・曇りだけではなく、雲がどれだけの面積・厚みでどのように動くか、太陽光がどれだけ使えるのかという点も近年は重要です。電中研でも関連する研究を進めています。

志賀 電力の需給予測は、最終的に電力のコストに影響します。

松浦 燃料の調達が関わる電力の需給予測は、何か月も先の予測が必要になります。そもそも短期間の需要を正確に予測することですら難しく、それが中長期になれば難易度はさらに上がります。昨年の夏ごろには「今年の冬は暖冬になる」との予測が立てられていました。今回の供給量不足の原因は燃料不足にもあったので、今後ますます中長期の正確な需給予測が求められてくるでしょう。

衛星画像から日射量を推定し最大6時間先の日射量を予測する手法を開発した

広範囲の技術を網羅 発電・需要のCO2削減

志賀 政府は2050年までにCO2の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを宣言しました。新聞報道などでは歓迎する声が大きく、当然進めていかなければならない課題ですが、脱炭素の余波でエネルギーの安定供給が脅かされてはなりません。今回のカーボンニュートラル宣言をどう受け止められますか。

松浦 気候変動の傾向が目に見えてきています。何とかしなければならないのは当然です。とはいえ、すぐに達成できるものではなく、中長期的に舵を切っていく必要があります。

 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)など国際的な会合で盛んに議論が行われていますが、道筋を明確に立てられている国はありません。日本も走りながら考えていってもいいと思います。

志賀 菅義偉首相はカーボンニュートラルの実現には、革新的イノベーションの確立が必要だと話しています。脱炭素に向けて電中研の強みはありますか。

松浦 われわれが持つ最大の強みは、電気事業者の現場と密接した関係にあり、電気事業の抱える課題をよく知っている点です。研究を現場で生かしていくフィールドがあるだけではなく、電気事業に関する研究も発電から小売りまでを網羅しています。技術も広範囲のものを持っているので、これらを上手く組み合わせながら成果を創出できるのが、他の研究機関にない大きな強みではないでしょうか。電気事業全体を分かったうえで、社会実装、すなわち現場に適用して結果を出していくことが、われわれのやるべきことだと思っています。

志賀 その中で、どのような研究を進めていきますか。

松浦 われわれの中では、脱炭素化は電源の低炭素化×電化と考えています。現在、国内のCO2排出量のうち、約4割が発電時に発生しており、残りの約6割が産業、運輸、家庭で発生しています。まずはわれわれのできるところで、電化による需要家サイドのCO2の排出量を引き下げることが重要だと考えています。

 そのためにもヒートポンプで使われる技術を産業用途や車などに応用する研究も行っています。また家庭、産業、運輸の各部門で発生する需要を束ねて管理することで、エネルギーを効果的に使用するセクターカップリングの研究も進めています。

【沖縄電力 本永社長】CO2実質ゼロ化へ着々と布石打ち 高いハードルに挑戦


エネルギー間競争が厳しくなる中、沖縄電力は昨年末、業界内でも早期にCO2排出実質ゼロ化にコミットした。
本土よりも多くの制約を抱えるが、布石を着々と打っている。

1988年慶応大学経済学部卒、沖縄電力入社。取締役総務部長、お客さま本部長、企画本部長などを経て、2019年4月から現職。

志賀 沖縄電力は昨年12月、2050年にCO2排出実質ゼロ化という意欲的なビジョンを発表しました。その内容についてお聞きする前に、まずはこれまでの地球温暖化対策の取り組み状況を教えてください。

本永 総合エネルギー事業者として温暖化対策を優先すべき重要な経営課題の一つに掲げ、積極的に取り組んできました。具体的には、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入拡大のほか、当社初のLNG火力である吉の浦火力発電所(中城村)の導入や、石炭火力へのバイオマス混焼などです。直近では沖縄県と連携し、可倒式風力、モーター発電機、蓄電池を組み合わせた設備を活用するシステムを波照間島に構築しました。約10日連続、100%再エネのみで島内の電力供給を賄うことに成功しています。経済発展で沖縄の電力需要が増加する中でも電気料金を値上げすることなく、08年にはCO2排出量のピークアウトを達成。今後も着実な低減を見込んでいます。

志賀 そして50年実質ゼロにコミットしたわけですが、どのような考えから、電力業界の中でも早期の公表に至ったのでしょうか。

本永 沖縄では需要規模や地理的特性から水力発電や高効率の石炭火力発電所の導入が難しい事情がありますが、環境対策は待ったなしです。火力発電を主要な電源とする沖縄ではより一層チャレンジングな目標となりますが、だからこそ温暖化にしっかり取り組むという意志の下、企業の社会的責任を果たすべく、長期的指針となる「沖縄電力ゼロエミッションへの取り組み~2050 CO2排出ネットゼロを目指して~」を発表しました。今後30年間を見据え策定したロードマップの下、“再エネ主力化”と、“火力発電のCO2排出削減”を柱としたさまざまな施策を進めます。

志賀 ロードマップではどんな施策を掲げましたか。

本永 再エネ主力化に関しては、30年までに現在の再エネ導入量の約3・4倍に当たる10万kWの導入を目指します。お客さま向けに太陽光パネル(PV)と蓄電池を無償で設置し、発電した電気を販売するPV−TPO事業による太陽光を5万kW、大型風力で5万kWを考えています。変動性再エネの導入拡大に向けた系統安定化技術の高度化や、再エネを活用したマイクログリッドの構築なども進めていきます。

 他方、小規模独立系統の沖縄において、火力電源は経済性のみならず変動性再エネの調整力やバックアップとしても欠かせません。こうした役割は再エネを主力化する上でも変わらず、火力の一層のCO2排出削減が不可欠です。今年度から当社の石炭火力全台へのバイオマス混焼を実施するとともに、LNG燃料の利用拡大や、石油火力のLNG火力への転換などを進めてまいります。30年には、LNG比率を現状から5割程度高め、石炭依存度を大幅に低減し、CO2排出削減目標は05年比26%減を目指します。

 50年を見据えては既設火力の休止に併せ、水素やアンモニアといったCO2フリー燃料への転換、CO2オフセット技術を活用した次世代火力の導入も検討していきます。国のカーボンニュートラルに関する革新的技術開発や規制改革などの動向を踏まえ、対応していきます。なお、このような電源対策だけではなく、運輸など需要側の電化促進も重要であり、政策的・財政的な支援が必要と考えています。

脱炭素社会の実現に向け、沖縄県との連携協定を締結した

【特集3まとめ】国産技術で挑む水素社会 脱炭素へ広がる可能性


燃料電池や水素ステーション、水素発電など
将来の水素エネルギー社会の礎を築くべく、
さまざまな分野で最先端の技術開発が行われている。
菅政権のカーボンニュートラル宣言を背景に
国産技術による水素社会の早期実現に期待が掛かる。

【レポート】国内外の脱炭素化で脚光 異業種連携と利用拡大が加速

【座談会】エネルギー大転換時代の息吹 需要拡大で水素化の道開く

【インタビュー】浪江」で目指す社会実装 技術集積で地産地消実現へ

【レポート】グリーン水素で豪州企業と連携 大規模サプライチェーンを構築へ

【レポート】

 【ENEOS】JERAと連携し拠点開設 用途拡大へ広がる戦略

 【三菱化工機新たな技術開発を推進 未利用資源の活用にも期待

 【タツノ】安全に素早く正確な充塡 信頼の技術で世界トップ目指す

 【日本環境技研】自治体イベント通じFCVのポテンシャル探る

【レポート】革新的技術で脱炭素社会へ挑戦 メタネーションの研究開発を促進

【トピック】第7世代エネファームが登場 無線通信で災害対策機能を拡充

省エネルギーとコスト低減の実現へ 寒冷地型ZEBの提案活動を積極展開


北海道電力は、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及に力を入れている。
これまでに培ったノウハウと最新技術を結集し、積雪寒冷地におけるZEB時代の実現を目指す。

ZEBとは、高効率設備による「省エネ」と太陽光発電などの活用による「創エネ」を組み合わせることで、一次エネルギーの年間消費量がゼロ、あるいはおおむねゼロとなる建築物を指す。国が掲げるグリーン成長戦略では、ゼロエネルギー住宅・建築物の普及促進に向け、2030年に「新築建築物の平均でZEBを実現する」という目標を掲げており、今後は建築物のスタンダードとなることが予想される。

北海道電力のコンサルを受け、2月にZEB庁舎を新築した美幌町役場


こうした中、18年2月に電力会社として初めて「ZEBプランナー」に登録(環境共創イニシアチブが公募・登録)された北海道電力は、道内で最多のZEBの提案実績を誇る。暖房エネルギー需要が多くZEBの達成が難しいとされる道内において、最新技術を駆使した普及策に力を入れている。

道内最多の提案実績 自治体でも採用の動き

同社の強みは、電気事業で培ってきたエネルギー提案や省エネ診断のノウハウを生かし、顧客ニーズに合わせて計画・設計段階から施工後の運用に至るまで、幅広いコンサルティングを手掛けられることだ。具体的には、ZEB実現に向けた省エネや空調・給湯・照明などのシステム提案のほか、国の補助金申請の手続き、建物竣工後のエネルギー使用状況の分析といった一連のサポートをトータルで行っている。

火力12基停止も全域停電回避 教訓生かされた福島沖地震


2月13日の地震による目立った被害は確認されなかった福島第一原発

2011年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災から間もなく10年がたつのを前に、あの時の恐怖が鮮明によみがえった人は大勢いたのではないだろうか。
2月13日午後11時8分ごろ、福島沖を震源とするマグニチュード7・1の地震が東日本一帯を襲った。福島県相馬市・国見町・新地町と宮城県蔵王町で最大震度6強を記録したほか、青森県から静岡県までの広範囲で震度4以上を観測するなど、3・11をほうふつとさせるような強い揺れが長時間にわたって続いたのだ。
この影響で、電力インフラでは宮城・福島・茨城県内の大型火力発電所が相次いで停止した。具体的には、①東北電力の原町火力1、2号機(計200万kW)、新仙台火力3号系列2基(計104万kW)、仙台火力4号機(46万kW)、②JERAの広野火力5、6号機(計120万kW)、③相馬共同火力発電の新地火力1、2号機(計200万kW)、④石油資源開発の福島天然ガスLNG1、2号機(計118万kW)、⑤常磐共同火力の勿来9号機(60万kW)―。
12基合計の総出力は、およそ850万kWにも及ぶ規模。東京電力と東北電力はブラックアウト(全域停電)を回避するため、事前の緊急時計画に従って一部地域への送電を遮断する措置を取った。その結果、両電力管内で最大95万戸が停電した。翌14日から発電所が順次再稼働したのに伴い停電も段階的に解消されたが、福島県内などでは復旧に時間を要した発電所も少なくない。


「たられば」が良い方向に 東日本10周年の追悼にも


「総じて、地震規模の大きさの割に大きな混乱はなかったのが救いだ」。大手電力会社の関係者はこう話す。「土曜日の深夜という時間帯であり、全国的に寒さが和らいでいたのが幸いしたと思う。今回の地震が平日の日中だったら、数日後に来た大寒波の最中だったら、そして1月のような電力不足の時期と重なっていたら、もしかすると東北・関東エリアで、北海道胆振東部地震(18年9月6日)に続くブラックアウトが発生していた可能性は否定できない。そうなれば、新型コロナ患者を受け入れている指定病院をはじめ、至る所で想像を超えた事態が起きていたかもしれない」
今回の地震では、宮城、福島両県で約1700棟の建物が損壊。死者・行方不明者はなく、負傷者は150人強だった。
「3・11の時に巨大津波さえ押し寄せなければ、被害は圧倒的に少なかったことを物語っているように思えてならない。福島第一原発もそうだ。震災10年を目前にして、日本人に忘れかけていた記憶を呼び起こさせた意味は大きい。何よりも最大の追悼になったと思う」(エネルギー業界関係者)
過去の地震の教訓が生かされたことに加え、複数の「たられば」が良い方向に働いたのが今回の特徴といえよう。ともすれば脱炭素や自由化の影に隠れがちだが、「エネルギーは国民生活・経済活動を支えるライフライン」との大原則をいま一度確認したい。

【特集2】「福島事故」後に高まる安全性 放射性物質放出に抑制目標値


福島第一発電所事故を踏まえて、原子力発電所では多くの対策が取られ安全性が向上している。
また原子力規制委員会は万一の際の放射能放出を抑制するため、安全目標値を設定する。

宮野 廣/元法政大学大学院デザイン工学研究科 客員教授

世界は再び真剣に環境問題と向き合うこととなった。わが国も、ついに2050年にカーボンフリーとすることを宣言した。約77億人の人口を抱える世界で、使用されるエネルギーは、石油換算で年間約140億tである。エネルギー需要をこれほどまでに大きくした人類には選択の余地は少ない。重要な役割を担うのが原子力発電である。同時に、原子力発電が担う安全確保の責任は重い。そこで、原子力発電はどこまで安全なのかについて紹介する。

福島事故の後、原子力発電所の安全性は大きく向上した(女川発電所)   提供:時事

放射線の影響から防護 まず崩壊熱を除去

原子力発電の根源的なリスク要因は核分裂反応に伴って発生する核分裂生成物に由来する。核分裂生成物の約90%は放射性物質であり、核分裂反応を止めても放射性核種それぞれの半減期に応じて崩壊する際に熱(崩壊熱という)を発生し、この熱を十分に除去できなければ、核燃料とともに核分裂生成物を閉じ込めている金属製の被覆管が破損し、最悪の場合には、環境に放射性物質、すなわち放射能を放出することになる。
崩壊熱量は時間とともに減衰するが、ある一定期間原子炉(燃料棒)を冷やし続ける必要がある。また万一、燃料棒が破損して放射性物質が放出されたとしても外部に放出されないように閉じ込めることが求められ、格納容器が設けられている。
原子力発電所の安全確保の基本は、事故につながるような①異常の発生防止、②異常の拡大防止と事故への発展の防止、③放射性物質の異常な放出の防止―である。
原子炉施設の機能から捉えると、異常あるいは事故状態に陥った場合、あるいは陥る可能性がある場合には原子炉を「止める」「冷やす」「閉じ込める」ことが原則となる。そのために必要な反応度制御、冷却設備、機器などは多重性、多様性および独立性を持たせてきた。
放射性物質の放出抑制・防止については、ウラン燃料をセラミック状に焼き固めたペレットとし、これを金属製の被覆管で密封し、さらに燃料棒の存在する原子炉は圧力容器に収めて、その上、圧力容器および1次冷却系配管系統を気密性の高い格納容器内に配置して多重障壁を設けて管理している。

規制委が安全目標を提示 環境の頻度に目標値

福島第一発電所事故を踏まえて、わが国の原子力発電所では多くの対応策が取られた。これにより安全性はより大きく向上した。
また、原子力安全委員会(当時)で議論がなされ、死亡リスクという形で安全目標案が提案されていたが、ようやく、福島事故を踏まえた、原子力規制委員会からの新たな形での安全目標案が提示された。放射性物質の環境への放出を制限する案である。
広域の環境汚染は、長期にわたり周辺住民の生活基盤を奪い、多大な損害を与えている。除染費用も国民に重い負担を強いることとなる。このことから、安全目標に、大規模な環境汚染に関わる指標とその許容または容認頻度を提案するものである。国際原子力機関(IAEA)では、原子力発電所の基本的安全原則を定め、そこでは定量的な安全目標が明記されている(表参照)。原子力規制委員会の安全目標の案は、ⅠAEAの基準を十分に満たしている。
原子力規制委員会は、原子炉事故時の環境への影響を目標値として与えることを提案した。セシウム137で100兆ベクレル(Bq)相当とし、その頻度の抑制目標値を10のマイナス6乗/年(1原子炉・年当たり100万分の1)とした。世界の多くの国が定めている大規模放出頻度(LRF:Large Release Frequency)に相当するものである。
これは、わが国に多い110万kW級の軽水炉では土地汚染をもたらす代表的な元素であるセシウム137(半減期は約30年)を例とすれば、通常運転時のセシウムの原子炉内内蔵量(およそ20京Bq)に対して放出される量の割合を800分の1(排気筒放出)から4500分の1(地上放出)程度の放出にとどめることを意味している。

【特集2まとめ】 原子力リバイバルプラン


菅義偉首相が宣言した2050年カーボンニュートラル。
実現に向け再生可能エネルギーに期待がかかるが、
不安定性や日本の地理的条件、高コストなどの難題が横たわる。
一方、同じゼロエミッション電源である原子力発電。
福島事故の教訓を踏まえ安全性をより高めたことで、
現実的な選択肢として着実に支持が増えている。

掲載ページはこちら

【レポート】2050年の電源構成を予測 再エネと共に原子力が不可決

【座談会】再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか

【レポート】「世界は脱原発」は本当か 気候変動対策で高まる存在感
新増設を促す市場の設計や資金調達の枠組みが必要に

【レポート】「福島事故」後に高まる安全性 放射性物質放出に抑制目標値

【特集2】①2050年の電源構成を予測 再エネと共に原子力が不可決


原子力発電は35%が必要に


特定非営利活動法人 ニュークリア・サロン

2050年に向けて脱炭素社会を実現していくには、わが国のCO2放出量の約4割を占める発電部門で脱炭素化を実現していく必要がある。世界の主要国は、原子力と再生可能エネルギーで脱炭素化を目指しており、日本も再エネを主力電源に、原子力を重要な基幹電源と位置付け実現を目指している。
本稿では、50年の電力需要を現在の年間1兆500億kW時よりも若干増える1兆1000億kW時と仮定して、①太陽光、風力などの変動性再エネ(VRE 、Variable Renewable Energy)、②水力、バイオマス、地熱などの安定再エネ、③原子力およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力などの安定電源―を組み合わせて、電力の安定供給と脱炭素化を可能とする50年の電源ミックスについて考察する。
評価の特徴は、16〜19年度の気象条件に対応したVREの設備利用率の実績と電力需要データを用いて、50年の電力供給の状況を予測したことである。
19年度の総発電量に占める太陽光、風力の割合はそれぞれ6.7%、0.7%にすぎないが、風力は今後洋上風力を中心に大規模な導入が求められていることを考慮し、50年のVREの総発電量比率として20%、40%、85%の3種類を想定した。
水力などの安定再エネは、30年度までに年間総発電量の15%を実現すべく開発が進められているが、それ以上の拡大は難しいと想定されることから50年も15%とした。
現在、総発電量の75%は火力発電で賄われているが、脱炭素化の実現にはCCUS技術が必要となる。また、福島第一発電所事故以降、国民の信頼回復途上にある原子力で再稼働ができたのは、再稼働可能な36基中わずか9基しかなく、19年度の発電量は6%にすぎない。
30年度の政府の原子力目標値20〜22%を実現していくことは厳しい状況にあるが、負荷追従運転ができる安定電源として、CCUS付き火力と原子力の合算値をVREの導入割合に応じて65%、45%、0%とした。

2016~19年度の実測データに基づいた計算結果

変動性再エネは4割が上限か 全て再エネで安定供給は困難

表にその計算結果を示す。50年の脱炭素化を実現するには、太陽光と風力による発電量割合を同等の1:1に近づけ、これらの 発電量で40%を目指すことを提案したい。過去4年間の気象データに基づけば、夏季に発生する1日当たりの最大不足電力量は0.34~0.9億kW時となるため、大容量蓄電池や揚水発電による充足が必要であり、40%はほぼVRE導入の上限と考えられる。
不足電力は夕刻から夜間に発生するが、昼間の余剰電力を利用した蓄電池への充電あるいは揚水くみ上げで調整することになる。ただし、春秋に発生する余剰電力量は1日当たり最大5億kW時にも達し、一部を不足電力の調整に活用してもその大半は無駄となる。
一方、VRE85%、安定再エネを15%として組み合わせた再エネ100%の場合は、ほぼ毎日おびただしい余剰・不足電力が発生し、VRE40%の1日当たりの余剰電力の約4倍、同不足電力で最大約26倍となる。蓄電池などの調整電源で賄える変動規模を大きく逸脱し、電力の安定供給を期待することは困難である。
VRE40%と安定再エネ15%とすると、再エネ合計で総発電量の55%を賄うこととなり、残りの45%は安定電源で賄うことが必要になる。CCUS付き火力発電については、現在、わが国周辺地域でCO2を1億t以上貯留できる地域が複数検討されている。
そのため、例えば100万kW級火力発電所10基から排出されるCO2は年間3000万tであることから、これらを貯留できる地域を確保できれば5%の発電量を期待することができる。
また、水素燃焼発電も、今後の技術開発次第で一定規模導入されると期待したい。さらに、VRE を主電源とし、電気自動車などを活用して地域の電力供給を賄うスマートコミュニティーが全国で一定規模実現されれば、電力需要の数%を賄うことも期待できよう。

原子力発電設備容量の推移

35%は軽水炉40〜50基で 使用済み燃料のリサイクルも

これらの脱炭素技術の実用化によって、総発電量の10%程度を賄えれば、残る35%を原子力で対応することになる。これに必要な5360万kWの設備容量は、40〜50基の軽水炉で実現できる規模である(図参照)。これを実現していくには、国民からの信頼を再び得られるよう、安全対策の充実に加え、①福島第一発電所の安全な廃炉、②放射性廃棄物の最終処分場の選定、③使用済み燃料を再利用する核燃料サイクルの実用化を政府のリーダシップの下進めていく―ことが重要である。
今後の各技術の開発状況とその経済性を確認しつつ、30年の断面では、50年の脱炭素化に向けての導入可能な電源構成を再評価する必要があろう。
主要国は50年の脱炭素化に向けて再エネ+原子力を中核にした電源構成とする方針を打ち出している。このため21世紀後半には、世界的な軽水炉の利用拡大に伴うウラン価格の高騰が懸念される。
また、軽水炉でのプルサーマル利用により、今後使用済みMOX燃料が蓄積されることも考慮すれば、50年以降の持続的な原子力利用のためには、使用済み燃料をリサイクル利用することで海外のウラン資源に依存せず、放射性廃棄物の減容などを実現できる高速炉と燃料サイクルを、今世紀後半までに実用化するよう技術開発を着実に進めていく必要がある。

藤家洋一元原子力委員長が中心になり、原子力について正しい理解を促進するため、原子力関係者が勉強会や講演会、著作活動などを続けるNPO。本稿は2020年6月24日の講演会資料を参考に、メンバーの小竹庄司、佐藤浩司、難波隆司、佐賀山豊が執筆した。
http://www.ns-fuji-ie.jp/npo_index.html

【特集2】座談会 再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか


カーボンニュートラル宣言により、再生可能エネルギーと原子力への注目が高まっている。
それぞれ課題がある中、どう普及を実現させていくか―。有識者が討論で解決策を探った。

澤田哲生/東京工業大学助教
山地憲治/地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長
三浦瑠麗/国際政治学者 山猫総合研究所代表

左から三浦氏、澤田氏、山地氏

―菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言し、日本は今後30年間で温室効果ガス排出をなくしていきます。まず宣言をどう受け止めたか、お聞きします。

山地 政治的には正しい判断だと思います。カーボンニュートラルはまず欧州が先行して、石炭利用が非常に多い中国も習近平主席が60年までに実現すると発表しました。アメリカもパリ協定に復帰した。それらを考えると、よいタイミングだったと思います。

 温暖化対策の最終的なゴールはカーボンニュートラルだと思っているので、時期はともかく、宣言には納得しています。今、さまざまなイノベーションの取り組みが行われています。高いゴールを掲げたことで、研究開発をギアアップする効果が起こりつつある。その点でも前向きに評価したいと思います。

澤田 国は再生可能エネルギーを電源の「主力化」することを目指していますが、それがより前のめりになることが心配です。ヨーロッパ的な再エネを重視する「グリーンな価値観」がまん延することを懸念しています。

 カーボンニュートラルを実現するには、再エネも原子力も必要です。しかし依然、原子力には風当たりが強く、ESG投資のように金融界でも悪者扱いされている。一方、再エネはコストは下がっていますが、最大の弱点はエネルギー密度が低く、変動する不安定電源であることです。家庭で使うなら十分かもしれません。しかし安定した周波数を得ることが難しく、精密な工業製品を造る産業での利用は困難です。それを蓄電池で補うと膨大な費用がかかります。再エネに大きく頼ると社会全体が疲弊し、エネルギーの「飢餓状態」に陥ることになります。

 カーボンニュートラルに原子力がどう入ってくるか、気になっています。ゼロエミッションは、発電部門でさえとても難しい。運輸や製造部門では困難を極めるでしょう。発電部門では、おそらく原子力は4割が必要になると思います。

欧州は成長戦略の要に 経産省は産業政策を重視

―政府は脱炭素社会の構築とともに、再エネへの投資などで経済成長も目指します。

三浦 カーボンニュートラルはぜひ実現していただきたい。欧州がカーボンニュートラルを打ち出した動機の一つは、成長戦略の要として位置付けていることです。温室効果ガス排出量の多い中国も、グリーン分野では世界有数のリーディングカンパニーを抱えています。各国の宣言は、成長への期待抜きには語れません。

 日本の場合、再エネの分野で先行していたにもかかわらず、世界に追い抜かれてしまったという産業政策の悔いが背景にあるのでしょう。政府の成長戦略会議でこの問題を議論しましたが、中間報告取りまとめで示された目標は、かなり進んだ内容でした。経済産業省がやる気を出したなと思いました。

 一方、課題も多い。提示された施策は各省庁が現時点でやろうと思っていることの列挙にとどまっており、目標達成を踏まえた施策群になっていない。結果として、産業構造の転換の大きさを示す規模感が見えていません。

 旧来型の産業の構造転換を促すために補助金を付けたり、制度設計すること自体には反対ではありません。しかし、産業政策の延長線上でのみゼロエミッションを語るのには無理があります。いま目に付く事業者を成長させる施策に終始しがちなのも、産業政策アプローチ特有の問題です。それゆえに電源構成では大きなシェアを占めそうもない大規模風力が目玉として位置付けられ、規模感の議論が抜け落ちてしまう。まずは具体的な目標を積み上げた上で現実的な工程表をつくるべきです。

山地 昨年、経産省の方針が切り替わったと思っています。今までは再エネ自体の量を大量に導入する、あるいは事業規模を拡大することが主目的でしたが、今後は産業政策として進めていくとした。これは太陽光発電(PV)の導入に対する反省だと思います。PVの導入は30年目標をkW、kW時ともに完全に過剰達成します。

 問題は膨大な年間のFIT賦課金、約2・4兆円です。国内にPVの産業が興れば、まだ国内でお金が回るので納得できる。しかし、太陽光パネルは、今や8割以上が輸入です。それで、何とか産業を育成しようとしている。その象徴が洋上風力だと思います。

三浦 太陽光パネルが国産でないことを問題視する考え方は、今や過去のものです。PVに投資する側からすれば、事業総投資額にパネルの代金が占める割合はわずかですから、残りの投資は全て国内に落ちています。政府は50年までのエネルギーミックスの積み上げの中で、再エネ50~60%といっています。再エネを60%にまで幅を広げると、大規模風力を10%としても、どうしてもPVが30%超を賄う必要があります。

 国民負担が過大だという議論はよく分かります。しかし、FIT制度の結果、容易に参入可能な汎用技術に基づき、PVのコストは既にほかの電源より安いところまで下がっています。一方で、FIT制度には期限があり、買い取りがなくなった後に発電量が激減してしまっては元も子もない。パネルの再利用や取引などを安全な形で進めていく必要があります。電力生産のような長期にわたる投資に関しては、政府が常に数十年後を考えて政策を準備しなければいけません。

 FIT制度が終わった後、経産省の今の政策で普及を進めた場合、PVが30%以上を担うことは無理だろうと思っています。

PV普及に大きな壁 開発と融資で改善が必要

―どういう理由ですか。

三浦 大きな壁はまず開発です。一つは、土地の希少性も影響して、取引のコストが高く不透明であること。また、PVは規制産業で、自治体などの許認可事業でもあります。用地の確保には林地開発許可制度や農地転用許可制度などの高いハードルがあり、地方自治体はしばしば事業者が予見できない条例をつくる。経産省の後出しジャンケン規制も同様です。

 FITがあるためPVは守られた事業だと思いがちですが、むしろ規制や条例に大きく影響を受ける。事業者の予見可能性を高めつつ、耕作放棄地の活用などを本格的に進めなければいけないでしょう。

 次に、日本の金融機関の特性からして予見可能性の低い事業には融資が付きにくいことです。この観点から、変動価格は好ましくない。安い固定価格による買い取りが理想でしょうが、反対が根強い。ただ、土地を確保して入札する現状の形では十分普及しないことが数年で目に見えてくるでしょう。

 ここを改善すれば、PV事業は基本的に標準化していて、いかにオペレーションを最適化するかが問われるビジネスです。真面目に取り組む事業者はやっていけます。

山地 PVでは、少なくとも大規模なメガソーラーは競争電源として自立させるのが今の政策で、今後もそうあるべきだと思います。しかしPV、風力を含めて再エネは、今の時点で50年の規模を決めてしまうのはよくない。どれくらいの規模になるか、人によって見方が違います。ヨーロッパの国々は複数のシナリオを描いています。複数シナリオを念頭に置くべきで、硬直的な政策を作ることは避けるべきです。

【特集2】「世界は脱原発」は本当か 気候変動対策で高まる存在感
新増設を促す市場の設計や資金調達の枠組みが必要に


国際エネルギー機関(IEA)は原子力発電が温暖化防止で大きな役割を果たすと指摘している。
では、諸外国はどう原子力をCO2排出削減に活用していくのか―。
欧米などの例を紹介しよう。

バータルフー・ウンダルマー/日本エヌ・ユー・エス株式会社 エネルギー技術ユニット コンサルタント

国際エネルギー機関(IEA)は、原子力発電の有意な増加なしでは、CO2の排出増加による気候変動を緩和しつつ、持続可能な開発を達成するのに十分なエネルギーを確保することは困難であると指摘している。
パリ協定の目標を達成する世界的な移行を描いたIEAの持続可能な開発シナリオ(SDS)においては、再生可能エネルギーの大規模な拡大に加え、原発も増加する見通しである(図1)。容量ベースでは2040年に約600GW(1GW=100万kW)の原発設備容量を必要としている(19年現在は443GW)。
欧米などの諸外国では気候変動対策における原子力の可能性が認識され、原子力を使用する定性的な計画や、定量的な展開目標と時間枠などのさまざま形で政策に反映させている。

図1 SDSにおける世界の発電構成の推移

●英国
資金調達オプションを検討

19年6月、50年までに温室効果ガス(GHG)の排出量をネットゼロにする目標を法制化した。20年12月のエネルギー白書によれば、熱需要や輸送部門などの電化に伴って、50年の電力需要が現在の2倍になる可能性があり、そのため低炭素電源による発電量を4倍に増やす必要があるとしている。その際の電源構成は、主に風力を中心とした再エネ、原子力、およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力によって構成される見込みである。
白書では、原子力に関して、信頼性の高い低炭素電源としての重要性が強調されており、今後、大型炉を利用する大規模な原発を追求する一方で、小型モジュール炉(SMR)と革新的モジュール原子炉(AMR)への投資も行うとしている。
また、建設中のヒンクリーポイントC発電所は20年代半ばに稼働し、現在の電力需要の7%を供給する見通しであるが、既存の原子力発電所の多くが今後10年で廃止されることから、50年に低炭素で低コストの電力システムを実現するために新規建設がさらに必要とされている。具体的には、現在の議会が終わる24年までに、少なくとも一つの大規模原子力プロジェクトを最終的な投資決定の段階に到達させるとしている。
政府は、エネルギー白書の公表と同時に、フランスの電力大手EDFがイングランド東部で計画中のサイズウエルC原発の建設プロジェクトについて、資金調達に関する交渉の開始を発表している。政府は、長期的には民間投資を確保し、消費者負担の低減につながる可能性のある規制資産ベース(RAB)モデル*1を含むさまざまな資金調達オプションを検討するとしている。
次世代原子炉に関しては、30年までの国産のSMRの開発とAMRの実証炉の建設、40年までの核融合炉の実用化を目指している。SMRは、大型原発よりも短期間で建設でき、またより多くのサイトに展開できることが期待されている。

●フランス
原子力への依存度低減を延期

発電量の約70%を原子力が占めている。発電コストの安い大量の原発により、世界最大の電力の純輸出国となっている。今後のエネルギーおよび環境政策においても原子力が重要な役割を果たす見通しである。
19年11月にエネルギー法を改正し、50年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を盛り込んだ。さらに、22年までに全ての石炭火力発電所の稼働を停止するとしている。この移行を容易にするために、25年までに原子力への依存を発電量の50%に減らすという以前の目標は35年までに延期された。
なお、原子力の割合を25年に50%に削減するという目標を35年に延期する方針は、18年11月のエネルギー計画のドラフトの時点で決められており、それも、低炭素電源としての必要性が認められていたことが背景にある。同計画では、35年までの廃止計画を示しつつ、新しい原子炉を建設するオプションも残っている。
19年10月、環境および経済大臣は、フランスの三つの既存の原子力サイトに各2基のEPR2(改良型EPR)を建設する可能性を調査するようEDFに要請している。当初、建設プログラムを21年半ばまでに決定する予定であったが、建設中のフランビル3原発が稼働するまでに延期している。

【四国電力 長井社長】電力の安定供給と魅力あるサービスで四国の発展に寄与する


電力の安定供給を担うとともに、低炭素化やデジタル技術で地域経済をけん引する四国電力。
環境対策と電力産業の進化・発展が、これからの成長の鍵を握る。

ながい・けいすけ
1981年京都大学大学院工学研究科修了、四国電力入社。常務取締役総合企画室長、取締役副社長総合企画室長などを経て2019年6月から現職。

志賀 厳冬により電力需要が増加するなどし、全国的な需給ひっ迫に陥りました。

長井 まずは、お客さまにご心配とご不便をおかけしたことに対してお詫び申し上げるとともに、1年で最も寒い時期に節電にご協力いただいたことに深く感謝いたします。今回のひっ迫の要因については、厳しい寒波の影響による電力需要の増加に加え、悪天候による太陽光の発電量低下や、一部の事業者の発電機停止により火力発電所の高稼働が続き発電用燃料の在庫が減少したことなどが重なったためと認識しています。世界的にLNG需給がひっ迫していたこともあり、このまま寒さが続けば発電用燃料が底をついてしまうのではないかという不安の中での厳しい需給運用となりました。

志賀 具体的に、どのような対策を取られたのでしょうか。

長井 安定供給を確保するために、考え得る最大限の対策を講じてきました。LNGや石油の在庫量が急速に減ったため、石油元売りや商社といったさまざまな事業者と協議し、燃料の追加調達に奔走しました。燃料調達には時間を要するため、当社の石炭火力発電所を過負荷運転したり、エリア内の発電事業者に対し供給量の積み増しを依頼したりするなど、供給力側の対策に尽力しました。1月末にLNG船が予定通り到着したことで燃料不足はおおむね解消され、2月には火力発電による供給力を安定的に確保できるようになりました。

電力の安定供給確保へ ベストミックスの重要性

志賀 まさに想定外の事態だったのでしょうか。

長井 発電設備の容量は十分でしたし燃料も相応に用意していました。しかし、伊方発電所3号機が稼働していないこともあり、年末からの非常に厳しい寒さで想定を上回るスピードで燃料を消費していきました。供給量の不足分は、日本卸電力取引所(JEPX)からの調達で賄う計画でしたが、市場に供給される電力量も減少していたため、非常に厳しい需給運用を迫られることになりました。全国的に燃料不足に陥るという危機的な事態への備えが結果として十分でなかったことは、今後の教訓としなければならない点です。

志賀 今回の事象を踏まえ、今後はどのような対策が必要になりますか。

長井 今回の電力需給のひっ迫は、電源種のみならず、火力燃料のベストミックスの重要性を改めて強く認識する機会となりました。再生可能エネルギー、原子力、そして火力の中でも石炭、石油、LNGがバランスよく維持されていることが理想です。今回の経緯、原因などの詳細は国の審議会で検証が進められていますが、当社としてもその結果を踏まえ、安定供給の確保に向けてさらなる努力を重ねていきます。

志賀 電力の安定供給には、新型コロナウイルスの感染防止対策も欠かせません。どのような対策を講じていますか。

長井 社内の感染防止については、各職場でのマスク着用や手指消毒、3密回避など基本的な予防措置を徹底しています。とりわけ、ライフラインを担う事業者として、四国電力送配電と連携し、発電所や系統運用にかかわる当直員の感染防止対策として、当直の交代を非接触の対応とするほか、当直員以外の従業員の中央制御室や給電指令所への入室を制限するなど、細心の注意を払いながら、一方で万一に備えたバックアップ体制も整えるなど、安定供給に支障をきたすことのないよう万全の対策を講じてきました。こうした取り組みにより、安定供給の責任を全うすることができており、社員一人ひとりの日々の努力にも感謝しているところです。今後も気を緩めることなく、引き続き緊張感を持って取り組んでいきます。

志賀 昨年菅義偉内閣が誕生し、2050年脱炭素化に向け大きく動き出しました。非効率石炭火力のフェードアウトの方針も固まり、電力業界にも大きな影響を与えそうです。

長井 脱炭素化に向けて菅首相が打ち出した「2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」との目標は、これまでの取り組みの延長では到底達成できない大変チャレンジングなものと受け止めています。その実現に向け、当社としても電源の低炭素化や電化の促進など、現状の取り組みをさらに加速するとともに、新たな技術開発にも積極的に取り組んでいかなければなりません。

【日本原子力発電 村松社長】原子力は現実的な選択肢 地域の皆さまの理解と技術・人材を維持


カーボンニュートラル宣言により、現実的な選択肢である原子力発電にスポットライトが当てられている。
原子力発電のパイオニアとして、事業の進展に全力を尽くす。

むらまつ・まもる
1978年慶大経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 菅義偉首相が2020年10月、所信表明演説で「50年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする」と宣言しました。そのために再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電を含めてあらゆる選択肢を追求すると述べています。原子力発電を専業とする会社の社長として、首相の宣言をどう受け止めましたか。

村松 大変、前向きな政策目標を掲げられたと思います。中でも、カーボンオフセットではなく、カーボンニュートラルを目指すと言われたことを、重く受け止めています。

カーボンオフセットであれば、温室効果ガスの排出を減らす努力をしても、どうしても残る排出量について、その分を減らす削減活動などに投資すればよい。一方、カーボンニュートラルは、原則として温室効果ガスを排出しないということで、石油や天然ガスなどの化石燃料を利用するときも、炭化水素から水素を分離し、炭素部分は分離・回収して貯留するなどの技術開発が必要になってくると思います。

志賀 その点は、今後の技術開発に期待する声があります。

村松 それまでは、脱炭素技術として確立した再エネとともに、原子力発電の選択肢を除外することは考えられないと思っています。

志賀 電力中央研究所が、以前の目標である50年温室効果ガス80%削減の目標を達成するには、原子力発電は50年に2900万kWの設備容量が必要になると報告しています。100%削減になったのですから、より設備容量を増やさなければならない。

ゼロエミ達成に課題 新増設が不可欠に

村松 これから経済産業省の審議会などで、50年の原子力発電の設備容量について議論が行われ、定量的な数字が出てくると思います。まずは、それを待ちたいと思っています。

ただ、ベースとなるのは2900万kWという数字であると思っています。そのためには、原子力発電の新増設、リプレースが不可欠になると思っています。

志賀 リプレースは間違いなく欠かせないでしょう。しかし、その前に既存の原発の再稼働が必要になります。東海第二、敦賀2号機の再稼働に全社を挙げて取り組んでいると思います。

菅首相の宣言により原子力発電の必要性が認識されて、世論も変わっていくのではないかと思っています。現状をどう見ていますか。

村松 東海第二発電所は、18年に新規制基準への適合など原子力規制委員会による一連の許認可を取得しています。

その後、19年9月にテロ対策施設である特定重大事故等対処施設(特重)の設置許可の申請を行い、20年11月にはそれまでの審査の状況を踏まえて補正申請を行いました。

このように東海第二発電所については、審査は特重にまで進んでいます。いまは受電会社のご理解を得て、安全性向上対策工事を着実に進めている段階です。

金融イノベーションを創出 再エネで持続可能な社会に貢献


【エネルギービジネスのリーダー達】眞邉勝仁/リニューアブル・ジャパン代表取締役社長

東日本大震災を機に、再エネ事業を幅広く手掛けるリニューアブル・ジャパンを立ち上げた。
金融商品を通じて、政府が掲げる再エネ主力電源化を後押しする。

まなべ・かつひと
マサチューセッツ州立大学経営学部卒、リーマン・ブラザーズ東京支店入社。バークレイズ証券営業本部長、米系ファンド運用会社日本代表などを経て2012年1月にリニューアブル・ジャパン設立、代表取締役に就任、現在に至る。

「金融と再生可能エネルギーのマーケットを結び付ける仕事を通じて、震災復興に貢献したい」という眞邉勝仁社長の強い思いから、2012年1月に発足したリニューアブル・ジャパン。この9年の間、証券マンとしての経験を生かし、金融商品を通じた再エネ拡大に努めてきた。

東日本大震災が転機 再エネ業界に飛び込む

同社の事業内容は、太陽光発電所(PV)のEPC(設計・調達・建設)やファイナンス、運営・保守管理など。20年8月までに、開発したPVは123件(約70万kW)、設備の管理業務を代行するアセットマネジメントを手掛ける設備は108件(約60万kW)、運営・保守(O&M)を手掛ける設備は117件(約75万kW)に達し、事業規模を拡大してきた。

それだけではない。19年12月には、東急不動産やENEOS、東京ガスなどと共同で、再エネのさらなる拡大と長期安定的な事業モデルの確立を目指す「再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」を立ち上げ、その代表理事に眞邉社長が就任。主力電源化を見据えた再エネ推進の旗振り役として、強い存在感を見せている。

眞邉社長は、アメリカの大学を卒業後、18年間にわたり外資系証券会社に勤務。その後は米系のファンド運用会社の日本代表として証券化商品の運用を手掛けるなど、一貫して金融畑を歩んできた。そんな眞邉社長に転機をもたらしたのは、11年3月に発生した東日本大震災だ。
「震災のニュースを耳にしたアメリカのパートナー企業から高性能の浄水器2台を寄付していただき、それを届けるために震災の翌月、岩手県大船渡市と宮城県女川町を訪れました。被災地の惨状を目の当たりにし、これからの人生はお金儲けだけではなく、被災地の復興、ひいては日本の復興のために貢献する仕事をしたいと考えるようになりました」と、当時の心境を振り返る。

そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響もあって、エネルギー問題にも高い関心を持つように。震災復興や持続可能な社会づくりに向け、証券化ビジネスに携わった経験を再エネ導入拡大に生かすことができるのではないかと、再エネ業界への転身を決断した。

同社のビジネスモデルは、クオリティーの高い再エネ発電所を建設し金融商品として商品化し、国内の機関投資家や個人投資家に対し再エネへの運用機会を提供するというもの。

当初は企業規模が小さく信用もなかったため苦労したが、自治体と連携したPV建設により雇用創出や税収面で地域経済に貢献するなど、実績を積み上げることで信用獲得につなげてきた。現在は、鹿児島県垂水市や岩手県一関市など8自治体と立地協定を締結している。

また、12年のFIT制度開始以降、買い取り価格の段階的な引き下げや導入量拡大に伴う出力抑制に直面し、多くの再エネ事業者が事業性の低下から撤退を余儀なくされる中、事業性を確保するための金融イノベーションにもチャレンジしてきた。

当初から、事業から発生する収益や資産を元に資金調達する「プロジェクトファイナンス」を活用。さらに、金融機関から借り入れるのではなく、債券化して投資家から調達する「プロジェクトボンド」や、不動産分野で多く採用されている融資方式である「ノンリコースローン」を営農型PV(ソーラーシェアリング)に活用するなど、状況に応じて画期的な手法を取り入れてきたのだ。

17年には、東京証券取引所が15年4月に創設したインフラファンド市場に、同社がスポンサーを務める「日本再生可能エネルギーインフラ投資法人」が上場した。発電所数は46カ所(総発電出力約9万kW)、受託資産残高は348億円で、まだまだ不動産投資信託(REIT)と比べても市場規模は小さいものの、伸びる可能性は高く、「再エネにおけるアセットマネージャーを目指し、投資家の再エネへの運用機会を提供することで拡大していきたい」と意気込む。

脱炭素社会の実現へ 再エネ比率50%が視野

菅義偉首相が掲げる脱炭素社会を実現するには、FIP(フィード・イン・プレミアム)、ノンFITでPVだけでも3億~4億kWを導入する必要があると見ている。
今後は、PVだけではなく、洋上も含めた風力発電、小・中水力発電、海外の再エネ事業にも乗り出していきたい考えだ。20年1月のREASP発足会見で、今後、再エネ比率はどこまで引き上げられるかとの問いに対して、眞邉社長は「50%」と回答し会場を驚かせた。

「あれからたった1年でそれを否定する人はいなくなりました。それを実現するための流れを、当社が確実につくっていきます」

トリチウム水放出への懸念 問われるコミュニケーション能力


【処理水の海洋放出】小島正美

トリチウム水の海洋放出は、風評被害を抑えるために事実を正確に伝える必要がある。
一方、トリチウム等汚染水については、状況を常に公開し、説明していくコミュケーションが重要になる。

福島第一原子力発電所の敷地内のタンク内にたまり続ける処理水をどう解決したらよいのか。悩ましい問題だが、二つの本質的な課題をクリアできれば、解決は可能だ。その二つとは、「情報の透明性」と「分かりやすい明快なリスクの説明」である。これがクリアできるかどうかは、日本政府と東京電力のリスクコミュニケーション能力がどれだけ高いかが問われる試金石になる。

タンクにたまり続ける処理水は、原発事故で溶け落ちた燃料デブリを冷却した後の各種放射性物質を含んだ水と、壊れた建屋に侵入した地下水が混ざったものを処理した水だ。汚染水から各種放射性物質を除去するのが、一般にアルプスと呼ばれている多核種除去設備(ALPS)だ。

ALPSでストロンチウム89など62種類の放射性物質を環境へ放出する場合の基準(告示濃度比総和1未満)以下まで除去し、除去が困難なトリチウムだけを残した水を何らかの形で環境に放出するというのが現在進行中の計画である。

トリチウム水は世界中の原子力施設が放出している

タンク内に2種類の水 トリチウム等汚染水が7割

この問題を国民に分かりやすく伝えるには、2段構えの説明が必要だ。つまり、タンク内にある水は2種類あることをまず伝えることだ。一つは、トリチウムだけを含む「トリチウム水」。もう一つは、トリチウムのほか62種類の放射性物質を含む「トリチウム等汚染水」だ。タンク内にたまっている水の約7割は告知濃度限度以上の放射性物質を含んでいるトリチウム等汚染水の方だ。

トリチウム水とトリチウム等汚染水では、リスクを伝える上で問題の扱い方が全く異なることを知っておく必要がある。つまり、誰がどのようにリスクを伝えるのかという視点に立つと、トリチウム水の放出は主に日本政府の説明力が問われ、トリチウム等汚染水は東京電力のリスクコミュニケーション能力が問われる問題だといえる。

では、トリチウム水の放出で最大の難関は何だろうか。このトリチウム水に関する新聞やテレビの報道を見ていると、トリチウムが海の魚介類を汚染したり、周辺の人々の健康に悪影響を及ぼすといった危険性を強調するニュースはあまり見当たらない。

トリチウム(三重水素)は水素の一種であり、原子の構造が不安定なため放射線を出すが、その力は弱い。通常の原子力発電所で発生するだけでなく、私たちの周囲の空気にも、雨水にも、水道水にも、また体内にも存在する。こういう事実から、ほとんどのメディアはトリチウムが危険だというニュースは流していない。