【特集2】「福島事故」後に高まる安全性 放射性物質放出に抑制目標値


福島第一発電所事故を踏まえて、原子力発電所では多くの対策が取られ安全性が向上している。
また原子力規制委員会は万一の際の放射能放出を抑制するため、安全目標値を設定する。

宮野 廣/元法政大学大学院デザイン工学研究科 客員教授

世界は再び真剣に環境問題と向き合うこととなった。わが国も、ついに2050年にカーボンフリーとすることを宣言した。約77億人の人口を抱える世界で、使用されるエネルギーは、石油換算で年間約140億tである。エネルギー需要をこれほどまでに大きくした人類には選択の余地は少ない。重要な役割を担うのが原子力発電である。同時に、原子力発電が担う安全確保の責任は重い。そこで、原子力発電はどこまで安全なのかについて紹介する。

福島事故の後、原子力発電所の安全性は大きく向上した(女川発電所)   提供:時事

放射線の影響から防護 まず崩壊熱を除去

原子力発電の根源的なリスク要因は核分裂反応に伴って発生する核分裂生成物に由来する。核分裂生成物の約90%は放射性物質であり、核分裂反応を止めても放射性核種それぞれの半減期に応じて崩壊する際に熱(崩壊熱という)を発生し、この熱を十分に除去できなければ、核燃料とともに核分裂生成物を閉じ込めている金属製の被覆管が破損し、最悪の場合には、環境に放射性物質、すなわち放射能を放出することになる。
崩壊熱量は時間とともに減衰するが、ある一定期間原子炉(燃料棒)を冷やし続ける必要がある。また万一、燃料棒が破損して放射性物質が放出されたとしても外部に放出されないように閉じ込めることが求められ、格納容器が設けられている。
原子力発電所の安全確保の基本は、事故につながるような①異常の発生防止、②異常の拡大防止と事故への発展の防止、③放射性物質の異常な放出の防止―である。
原子炉施設の機能から捉えると、異常あるいは事故状態に陥った場合、あるいは陥る可能性がある場合には原子炉を「止める」「冷やす」「閉じ込める」ことが原則となる。そのために必要な反応度制御、冷却設備、機器などは多重性、多様性および独立性を持たせてきた。
放射性物質の放出抑制・防止については、ウラン燃料をセラミック状に焼き固めたペレットとし、これを金属製の被覆管で密封し、さらに燃料棒の存在する原子炉は圧力容器に収めて、その上、圧力容器および1次冷却系配管系統を気密性の高い格納容器内に配置して多重障壁を設けて管理している。

規制委が安全目標を提示 環境の頻度に目標値

福島第一発電所事故を踏まえて、わが国の原子力発電所では多くの対応策が取られた。これにより安全性はより大きく向上した。
また、原子力安全委員会(当時)で議論がなされ、死亡リスクという形で安全目標案が提案されていたが、ようやく、福島事故を踏まえた、原子力規制委員会からの新たな形での安全目標案が提示された。放射性物質の環境への放出を制限する案である。
広域の環境汚染は、長期にわたり周辺住民の生活基盤を奪い、多大な損害を与えている。除染費用も国民に重い負担を強いることとなる。このことから、安全目標に、大規模な環境汚染に関わる指標とその許容または容認頻度を提案するものである。国際原子力機関(IAEA)では、原子力発電所の基本的安全原則を定め、そこでは定量的な安全目標が明記されている(表参照)。原子力規制委員会の安全目標の案は、ⅠAEAの基準を十分に満たしている。
原子力規制委員会は、原子炉事故時の環境への影響を目標値として与えることを提案した。セシウム137で100兆ベクレル(Bq)相当とし、その頻度の抑制目標値を10のマイナス6乗/年(1原子炉・年当たり100万分の1)とした。世界の多くの国が定めている大規模放出頻度(LRF:Large Release Frequency)に相当するものである。
これは、わが国に多い110万kW級の軽水炉では土地汚染をもたらす代表的な元素であるセシウム137(半減期は約30年)を例とすれば、通常運転時のセシウムの原子炉内内蔵量(およそ20京Bq)に対して放出される量の割合を800分の1(排気筒放出)から4500分の1(地上放出)程度の放出にとどめることを意味している。

【特集2まとめ】 原子力リバイバルプラン


菅義偉首相が宣言した2050年カーボンニュートラル。
実現に向け再生可能エネルギーに期待がかかるが、
不安定性や日本の地理的条件、高コストなどの難題が横たわる。
一方、同じゼロエミッション電源である原子力発電。
福島事故の教訓を踏まえ安全性をより高めたことで、
現実的な選択肢として着実に支持が増えている。

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【レポート】2050年の電源構成を予測 再エネと共に原子力が不可決

【座談会】再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか

【レポート】「世界は脱原発」は本当か 気候変動対策で高まる存在感
新増設を促す市場の設計や資金調達の枠組みが必要に

【レポート】「福島事故」後に高まる安全性 放射性物質放出に抑制目標値

【特集2】①2050年の電源構成を予測 再エネと共に原子力が不可決


原子力発電は35%が必要に


特定非営利活動法人 ニュークリア・サロン

2050年に向けて脱炭素社会を実現していくには、わが国のCO2放出量の約4割を占める発電部門で脱炭素化を実現していく必要がある。世界の主要国は、原子力と再生可能エネルギーで脱炭素化を目指しており、日本も再エネを主力電源に、原子力を重要な基幹電源と位置付け実現を目指している。
本稿では、50年の電力需要を現在の年間1兆500億kW時よりも若干増える1兆1000億kW時と仮定して、①太陽光、風力などの変動性再エネ(VRE 、Variable Renewable Energy)、②水力、バイオマス、地熱などの安定再エネ、③原子力およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力などの安定電源―を組み合わせて、電力の安定供給と脱炭素化を可能とする50年の電源ミックスについて考察する。
評価の特徴は、16〜19年度の気象条件に対応したVREの設備利用率の実績と電力需要データを用いて、50年の電力供給の状況を予測したことである。
19年度の総発電量に占める太陽光、風力の割合はそれぞれ6.7%、0.7%にすぎないが、風力は今後洋上風力を中心に大規模な導入が求められていることを考慮し、50年のVREの総発電量比率として20%、40%、85%の3種類を想定した。
水力などの安定再エネは、30年度までに年間総発電量の15%を実現すべく開発が進められているが、それ以上の拡大は難しいと想定されることから50年も15%とした。
現在、総発電量の75%は火力発電で賄われているが、脱炭素化の実現にはCCUS技術が必要となる。また、福島第一発電所事故以降、国民の信頼回復途上にある原子力で再稼働ができたのは、再稼働可能な36基中わずか9基しかなく、19年度の発電量は6%にすぎない。
30年度の政府の原子力目標値20〜22%を実現していくことは厳しい状況にあるが、負荷追従運転ができる安定電源として、CCUS付き火力と原子力の合算値をVREの導入割合に応じて65%、45%、0%とした。

2016~19年度の実測データに基づいた計算結果

変動性再エネは4割が上限か 全て再エネで安定供給は困難

表にその計算結果を示す。50年の脱炭素化を実現するには、太陽光と風力による発電量割合を同等の1:1に近づけ、これらの 発電量で40%を目指すことを提案したい。過去4年間の気象データに基づけば、夏季に発生する1日当たりの最大不足電力量は0.34~0.9億kW時となるため、大容量蓄電池や揚水発電による充足が必要であり、40%はほぼVRE導入の上限と考えられる。
不足電力は夕刻から夜間に発生するが、昼間の余剰電力を利用した蓄電池への充電あるいは揚水くみ上げで調整することになる。ただし、春秋に発生する余剰電力量は1日当たり最大5億kW時にも達し、一部を不足電力の調整に活用してもその大半は無駄となる。
一方、VRE85%、安定再エネを15%として組み合わせた再エネ100%の場合は、ほぼ毎日おびただしい余剰・不足電力が発生し、VRE40%の1日当たりの余剰電力の約4倍、同不足電力で最大約26倍となる。蓄電池などの調整電源で賄える変動規模を大きく逸脱し、電力の安定供給を期待することは困難である。
VRE40%と安定再エネ15%とすると、再エネ合計で総発電量の55%を賄うこととなり、残りの45%は安定電源で賄うことが必要になる。CCUS付き火力発電については、現在、わが国周辺地域でCO2を1億t以上貯留できる地域が複数検討されている。
そのため、例えば100万kW級火力発電所10基から排出されるCO2は年間3000万tであることから、これらを貯留できる地域を確保できれば5%の発電量を期待することができる。
また、水素燃焼発電も、今後の技術開発次第で一定規模導入されると期待したい。さらに、VRE を主電源とし、電気自動車などを活用して地域の電力供給を賄うスマートコミュニティーが全国で一定規模実現されれば、電力需要の数%を賄うことも期待できよう。

原子力発電設備容量の推移

35%は軽水炉40〜50基で 使用済み燃料のリサイクルも

これらの脱炭素技術の実用化によって、総発電量の10%程度を賄えれば、残る35%を原子力で対応することになる。これに必要な5360万kWの設備容量は、40〜50基の軽水炉で実現できる規模である(図参照)。これを実現していくには、国民からの信頼を再び得られるよう、安全対策の充実に加え、①福島第一発電所の安全な廃炉、②放射性廃棄物の最終処分場の選定、③使用済み燃料を再利用する核燃料サイクルの実用化を政府のリーダシップの下進めていく―ことが重要である。
今後の各技術の開発状況とその経済性を確認しつつ、30年の断面では、50年の脱炭素化に向けての導入可能な電源構成を再評価する必要があろう。
主要国は50年の脱炭素化に向けて再エネ+原子力を中核にした電源構成とする方針を打ち出している。このため21世紀後半には、世界的な軽水炉の利用拡大に伴うウラン価格の高騰が懸念される。
また、軽水炉でのプルサーマル利用により、今後使用済みMOX燃料が蓄積されることも考慮すれば、50年以降の持続的な原子力利用のためには、使用済み燃料をリサイクル利用することで海外のウラン資源に依存せず、放射性廃棄物の減容などを実現できる高速炉と燃料サイクルを、今世紀後半までに実用化するよう技術開発を着実に進めていく必要がある。

藤家洋一元原子力委員長が中心になり、原子力について正しい理解を促進するため、原子力関係者が勉強会や講演会、著作活動などを続けるNPO。本稿は2020年6月24日の講演会資料を参考に、メンバーの小竹庄司、佐藤浩司、難波隆司、佐賀山豊が執筆した。
http://www.ns-fuji-ie.jp/npo_index.html

【特集2】座談会 再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか


カーボンニュートラル宣言により、再生可能エネルギーと原子力への注目が高まっている。
それぞれ課題がある中、どう普及を実現させていくか―。有識者が討論で解決策を探った。

澤田哲生/東京工業大学助教
山地憲治/地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長
三浦瑠麗/国際政治学者 山猫総合研究所代表

左から三浦氏、澤田氏、山地氏

―菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言し、日本は今後30年間で温室効果ガス排出をなくしていきます。まず宣言をどう受け止めたか、お聞きします。

山地 政治的には正しい判断だと思います。カーボンニュートラルはまず欧州が先行して、石炭利用が非常に多い中国も習近平主席が60年までに実現すると発表しました。アメリカもパリ協定に復帰した。それらを考えると、よいタイミングだったと思います。

 温暖化対策の最終的なゴールはカーボンニュートラルだと思っているので、時期はともかく、宣言には納得しています。今、さまざまなイノベーションの取り組みが行われています。高いゴールを掲げたことで、研究開発をギアアップする効果が起こりつつある。その点でも前向きに評価したいと思います。

澤田 国は再生可能エネルギーを電源の「主力化」することを目指していますが、それがより前のめりになることが心配です。ヨーロッパ的な再エネを重視する「グリーンな価値観」がまん延することを懸念しています。

 カーボンニュートラルを実現するには、再エネも原子力も必要です。しかし依然、原子力には風当たりが強く、ESG投資のように金融界でも悪者扱いされている。一方、再エネはコストは下がっていますが、最大の弱点はエネルギー密度が低く、変動する不安定電源であることです。家庭で使うなら十分かもしれません。しかし安定した周波数を得ることが難しく、精密な工業製品を造る産業での利用は困難です。それを蓄電池で補うと膨大な費用がかかります。再エネに大きく頼ると社会全体が疲弊し、エネルギーの「飢餓状態」に陥ることになります。

 カーボンニュートラルに原子力がどう入ってくるか、気になっています。ゼロエミッションは、発電部門でさえとても難しい。運輸や製造部門では困難を極めるでしょう。発電部門では、おそらく原子力は4割が必要になると思います。

欧州は成長戦略の要に 経産省は産業政策を重視

―政府は脱炭素社会の構築とともに、再エネへの投資などで経済成長も目指します。

三浦 カーボンニュートラルはぜひ実現していただきたい。欧州がカーボンニュートラルを打ち出した動機の一つは、成長戦略の要として位置付けていることです。温室効果ガス排出量の多い中国も、グリーン分野では世界有数のリーディングカンパニーを抱えています。各国の宣言は、成長への期待抜きには語れません。

 日本の場合、再エネの分野で先行していたにもかかわらず、世界に追い抜かれてしまったという産業政策の悔いが背景にあるのでしょう。政府の成長戦略会議でこの問題を議論しましたが、中間報告取りまとめで示された目標は、かなり進んだ内容でした。経済産業省がやる気を出したなと思いました。

 一方、課題も多い。提示された施策は各省庁が現時点でやろうと思っていることの列挙にとどまっており、目標達成を踏まえた施策群になっていない。結果として、産業構造の転換の大きさを示す規模感が見えていません。

 旧来型の産業の構造転換を促すために補助金を付けたり、制度設計すること自体には反対ではありません。しかし、産業政策の延長線上でのみゼロエミッションを語るのには無理があります。いま目に付く事業者を成長させる施策に終始しがちなのも、産業政策アプローチ特有の問題です。それゆえに電源構成では大きなシェアを占めそうもない大規模風力が目玉として位置付けられ、規模感の議論が抜け落ちてしまう。まずは具体的な目標を積み上げた上で現実的な工程表をつくるべきです。

山地 昨年、経産省の方針が切り替わったと思っています。今までは再エネ自体の量を大量に導入する、あるいは事業規模を拡大することが主目的でしたが、今後は産業政策として進めていくとした。これは太陽光発電(PV)の導入に対する反省だと思います。PVの導入は30年目標をkW、kW時ともに完全に過剰達成します。

 問題は膨大な年間のFIT賦課金、約2・4兆円です。国内にPVの産業が興れば、まだ国内でお金が回るので納得できる。しかし、太陽光パネルは、今や8割以上が輸入です。それで、何とか産業を育成しようとしている。その象徴が洋上風力だと思います。

三浦 太陽光パネルが国産でないことを問題視する考え方は、今や過去のものです。PVに投資する側からすれば、事業総投資額にパネルの代金が占める割合はわずかですから、残りの投資は全て国内に落ちています。政府は50年までのエネルギーミックスの積み上げの中で、再エネ50~60%といっています。再エネを60%にまで幅を広げると、大規模風力を10%としても、どうしてもPVが30%超を賄う必要があります。

 国民負担が過大だという議論はよく分かります。しかし、FIT制度の結果、容易に参入可能な汎用技術に基づき、PVのコストは既にほかの電源より安いところまで下がっています。一方で、FIT制度には期限があり、買い取りがなくなった後に発電量が激減してしまっては元も子もない。パネルの再利用や取引などを安全な形で進めていく必要があります。電力生産のような長期にわたる投資に関しては、政府が常に数十年後を考えて政策を準備しなければいけません。

 FIT制度が終わった後、経産省の今の政策で普及を進めた場合、PVが30%以上を担うことは無理だろうと思っています。

PV普及に大きな壁 開発と融資で改善が必要

―どういう理由ですか。

三浦 大きな壁はまず開発です。一つは、土地の希少性も影響して、取引のコストが高く不透明であること。また、PVは規制産業で、自治体などの許認可事業でもあります。用地の確保には林地開発許可制度や農地転用許可制度などの高いハードルがあり、地方自治体はしばしば事業者が予見できない条例をつくる。経産省の後出しジャンケン規制も同様です。

 FITがあるためPVは守られた事業だと思いがちですが、むしろ規制や条例に大きく影響を受ける。事業者の予見可能性を高めつつ、耕作放棄地の活用などを本格的に進めなければいけないでしょう。

 次に、日本の金融機関の特性からして予見可能性の低い事業には融資が付きにくいことです。この観点から、変動価格は好ましくない。安い固定価格による買い取りが理想でしょうが、反対が根強い。ただ、土地を確保して入札する現状の形では十分普及しないことが数年で目に見えてくるでしょう。

 ここを改善すれば、PV事業は基本的に標準化していて、いかにオペレーションを最適化するかが問われるビジネスです。真面目に取り組む事業者はやっていけます。

山地 PVでは、少なくとも大規模なメガソーラーは競争電源として自立させるのが今の政策で、今後もそうあるべきだと思います。しかしPV、風力を含めて再エネは、今の時点で50年の規模を決めてしまうのはよくない。どれくらいの規模になるか、人によって見方が違います。ヨーロッパの国々は複数のシナリオを描いています。複数シナリオを念頭に置くべきで、硬直的な政策を作ることは避けるべきです。

【特集2】「世界は脱原発」は本当か 気候変動対策で高まる存在感
新増設を促す市場の設計や資金調達の枠組みが必要に


国際エネルギー機関(IEA)は原子力発電が温暖化防止で大きな役割を果たすと指摘している。
では、諸外国はどう原子力をCO2排出削減に活用していくのか―。
欧米などの例を紹介しよう。

バータルフー・ウンダルマー/日本エヌ・ユー・エス株式会社 エネルギー技術ユニット コンサルタント

国際エネルギー機関(IEA)は、原子力発電の有意な増加なしでは、CO2の排出増加による気候変動を緩和しつつ、持続可能な開発を達成するのに十分なエネルギーを確保することは困難であると指摘している。
パリ協定の目標を達成する世界的な移行を描いたIEAの持続可能な開発シナリオ(SDS)においては、再生可能エネルギーの大規模な拡大に加え、原発も増加する見通しである(図1)。容量ベースでは2040年に約600GW(1GW=100万kW)の原発設備容量を必要としている(19年現在は443GW)。
欧米などの諸外国では気候変動対策における原子力の可能性が認識され、原子力を使用する定性的な計画や、定量的な展開目標と時間枠などのさまざま形で政策に反映させている。

図1 SDSにおける世界の発電構成の推移

●英国
資金調達オプションを検討

19年6月、50年までに温室効果ガス(GHG)の排出量をネットゼロにする目標を法制化した。20年12月のエネルギー白書によれば、熱需要や輸送部門などの電化に伴って、50年の電力需要が現在の2倍になる可能性があり、そのため低炭素電源による発電量を4倍に増やす必要があるとしている。その際の電源構成は、主に風力を中心とした再エネ、原子力、およびCCUS(CO2回収・利用・貯留)付き火力によって構成される見込みである。
白書では、原子力に関して、信頼性の高い低炭素電源としての重要性が強調されており、今後、大型炉を利用する大規模な原発を追求する一方で、小型モジュール炉(SMR)と革新的モジュール原子炉(AMR)への投資も行うとしている。
また、建設中のヒンクリーポイントC発電所は20年代半ばに稼働し、現在の電力需要の7%を供給する見通しであるが、既存の原子力発電所の多くが今後10年で廃止されることから、50年に低炭素で低コストの電力システムを実現するために新規建設がさらに必要とされている。具体的には、現在の議会が終わる24年までに、少なくとも一つの大規模原子力プロジェクトを最終的な投資決定の段階に到達させるとしている。
政府は、エネルギー白書の公表と同時に、フランスの電力大手EDFがイングランド東部で計画中のサイズウエルC原発の建設プロジェクトについて、資金調達に関する交渉の開始を発表している。政府は、長期的には民間投資を確保し、消費者負担の低減につながる可能性のある規制資産ベース(RAB)モデル*1を含むさまざまな資金調達オプションを検討するとしている。
次世代原子炉に関しては、30年までの国産のSMRの開発とAMRの実証炉の建設、40年までの核融合炉の実用化を目指している。SMRは、大型原発よりも短期間で建設でき、またより多くのサイトに展開できることが期待されている。

●フランス
原子力への依存度低減を延期

発電量の約70%を原子力が占めている。発電コストの安い大量の原発により、世界最大の電力の純輸出国となっている。今後のエネルギーおよび環境政策においても原子力が重要な役割を果たす見通しである。
19年11月にエネルギー法を改正し、50年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を盛り込んだ。さらに、22年までに全ての石炭火力発電所の稼働を停止するとしている。この移行を容易にするために、25年までに原子力への依存を発電量の50%に減らすという以前の目標は35年までに延期された。
なお、原子力の割合を25年に50%に削減するという目標を35年に延期する方針は、18年11月のエネルギー計画のドラフトの時点で決められており、それも、低炭素電源としての必要性が認められていたことが背景にある。同計画では、35年までの廃止計画を示しつつ、新しい原子炉を建設するオプションも残っている。
19年10月、環境および経済大臣は、フランスの三つの既存の原子力サイトに各2基のEPR2(改良型EPR)を建設する可能性を調査するようEDFに要請している。当初、建設プログラムを21年半ばまでに決定する予定であったが、建設中のフランビル3原発が稼働するまでに延期している。

【四国電力 長井社長】電力の安定供給と魅力あるサービスで四国の発展に寄与する


電力の安定供給を担うとともに、低炭素化やデジタル技術で地域経済をけん引する四国電力。
環境対策と電力産業の進化・発展が、これからの成長の鍵を握る。

ながい・けいすけ
1981年京都大学大学院工学研究科修了、四国電力入社。常務取締役総合企画室長、取締役副社長総合企画室長などを経て2019年6月から現職。

志賀 厳冬により電力需要が増加するなどし、全国的な需給ひっ迫に陥りました。

長井 まずは、お客さまにご心配とご不便をおかけしたことに対してお詫び申し上げるとともに、1年で最も寒い時期に節電にご協力いただいたことに深く感謝いたします。今回のひっ迫の要因については、厳しい寒波の影響による電力需要の増加に加え、悪天候による太陽光の発電量低下や、一部の事業者の発電機停止により火力発電所の高稼働が続き発電用燃料の在庫が減少したことなどが重なったためと認識しています。世界的にLNG需給がひっ迫していたこともあり、このまま寒さが続けば発電用燃料が底をついてしまうのではないかという不安の中での厳しい需給運用となりました。

志賀 具体的に、どのような対策を取られたのでしょうか。

長井 安定供給を確保するために、考え得る最大限の対策を講じてきました。LNGや石油の在庫量が急速に減ったため、石油元売りや商社といったさまざまな事業者と協議し、燃料の追加調達に奔走しました。燃料調達には時間を要するため、当社の石炭火力発電所を過負荷運転したり、エリア内の発電事業者に対し供給量の積み増しを依頼したりするなど、供給力側の対策に尽力しました。1月末にLNG船が予定通り到着したことで燃料不足はおおむね解消され、2月には火力発電による供給力を安定的に確保できるようになりました。

電力の安定供給確保へ ベストミックスの重要性

志賀 まさに想定外の事態だったのでしょうか。

長井 発電設備の容量は十分でしたし燃料も相応に用意していました。しかし、伊方発電所3号機が稼働していないこともあり、年末からの非常に厳しい寒さで想定を上回るスピードで燃料を消費していきました。供給量の不足分は、日本卸電力取引所(JEPX)からの調達で賄う計画でしたが、市場に供給される電力量も減少していたため、非常に厳しい需給運用を迫られることになりました。全国的に燃料不足に陥るという危機的な事態への備えが結果として十分でなかったことは、今後の教訓としなければならない点です。

志賀 今回の事象を踏まえ、今後はどのような対策が必要になりますか。

長井 今回の電力需給のひっ迫は、電源種のみならず、火力燃料のベストミックスの重要性を改めて強く認識する機会となりました。再生可能エネルギー、原子力、そして火力の中でも石炭、石油、LNGがバランスよく維持されていることが理想です。今回の経緯、原因などの詳細は国の審議会で検証が進められていますが、当社としてもその結果を踏まえ、安定供給の確保に向けてさらなる努力を重ねていきます。

志賀 電力の安定供給には、新型コロナウイルスの感染防止対策も欠かせません。どのような対策を講じていますか。

長井 社内の感染防止については、各職場でのマスク着用や手指消毒、3密回避など基本的な予防措置を徹底しています。とりわけ、ライフラインを担う事業者として、四国電力送配電と連携し、発電所や系統運用にかかわる当直員の感染防止対策として、当直の交代を非接触の対応とするほか、当直員以外の従業員の中央制御室や給電指令所への入室を制限するなど、細心の注意を払いながら、一方で万一に備えたバックアップ体制も整えるなど、安定供給に支障をきたすことのないよう万全の対策を講じてきました。こうした取り組みにより、安定供給の責任を全うすることができており、社員一人ひとりの日々の努力にも感謝しているところです。今後も気を緩めることなく、引き続き緊張感を持って取り組んでいきます。

志賀 昨年菅義偉内閣が誕生し、2050年脱炭素化に向け大きく動き出しました。非効率石炭火力のフェードアウトの方針も固まり、電力業界にも大きな影響を与えそうです。

長井 脱炭素化に向けて菅首相が打ち出した「2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」との目標は、これまでの取り組みの延長では到底達成できない大変チャレンジングなものと受け止めています。その実現に向け、当社としても電源の低炭素化や電化の促進など、現状の取り組みをさらに加速するとともに、新たな技術開発にも積極的に取り組んでいかなければなりません。

【日本原子力発電 村松社長】原子力は現実的な選択肢 地域の皆さまの理解と技術・人材を維持


カーボンニュートラル宣言により、現実的な選択肢である原子力発電にスポットライトが当てられている。
原子力発電のパイオニアとして、事業の進展に全力を尽くす。

むらまつ・まもる
1978年慶大経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

志賀 菅義偉首相が2020年10月、所信表明演説で「50年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする」と宣言しました。そのために再生可能エネルギーだけでなく、原子力発電を含めてあらゆる選択肢を追求すると述べています。原子力発電を専業とする会社の社長として、首相の宣言をどう受け止めましたか。

村松 大変、前向きな政策目標を掲げられたと思います。中でも、カーボンオフセットではなく、カーボンニュートラルを目指すと言われたことを、重く受け止めています。

カーボンオフセットであれば、温室効果ガスの排出を減らす努力をしても、どうしても残る排出量について、その分を減らす削減活動などに投資すればよい。一方、カーボンニュートラルは、原則として温室効果ガスを排出しないということで、石油や天然ガスなどの化石燃料を利用するときも、炭化水素から水素を分離し、炭素部分は分離・回収して貯留するなどの技術開発が必要になってくると思います。

志賀 その点は、今後の技術開発に期待する声があります。

村松 それまでは、脱炭素技術として確立した再エネとともに、原子力発電の選択肢を除外することは考えられないと思っています。

志賀 電力中央研究所が、以前の目標である50年温室効果ガス80%削減の目標を達成するには、原子力発電は50年に2900万kWの設備容量が必要になると報告しています。100%削減になったのですから、より設備容量を増やさなければならない。

ゼロエミ達成に課題 新増設が不可欠に

村松 これから経済産業省の審議会などで、50年の原子力発電の設備容量について議論が行われ、定量的な数字が出てくると思います。まずは、それを待ちたいと思っています。

ただ、ベースとなるのは2900万kWという数字であると思っています。そのためには、原子力発電の新増設、リプレースが不可欠になると思っています。

志賀 リプレースは間違いなく欠かせないでしょう。しかし、その前に既存の原発の再稼働が必要になります。東海第二、敦賀2号機の再稼働に全社を挙げて取り組んでいると思います。

菅首相の宣言により原子力発電の必要性が認識されて、世論も変わっていくのではないかと思っています。現状をどう見ていますか。

村松 東海第二発電所は、18年に新規制基準への適合など原子力規制委員会による一連の許認可を取得しています。

その後、19年9月にテロ対策施設である特定重大事故等対処施設(特重)の設置許可の申請を行い、20年11月にはそれまでの審査の状況を踏まえて補正申請を行いました。

このように東海第二発電所については、審査は特重にまで進んでいます。いまは受電会社のご理解を得て、安全性向上対策工事を着実に進めている段階です。

金融イノベーションを創出 再エネで持続可能な社会に貢献


【エネルギービジネスのリーダー達】眞邉勝仁/リニューアブル・ジャパン代表取締役社長

東日本大震災を機に、再エネ事業を幅広く手掛けるリニューアブル・ジャパンを立ち上げた。
金融商品を通じて、政府が掲げる再エネ主力電源化を後押しする。

まなべ・かつひと
マサチューセッツ州立大学経営学部卒、リーマン・ブラザーズ東京支店入社。バークレイズ証券営業本部長、米系ファンド運用会社日本代表などを経て2012年1月にリニューアブル・ジャパン設立、代表取締役に就任、現在に至る。

「金融と再生可能エネルギーのマーケットを結び付ける仕事を通じて、震災復興に貢献したい」という眞邉勝仁社長の強い思いから、2012年1月に発足したリニューアブル・ジャパン。この9年の間、証券マンとしての経験を生かし、金融商品を通じた再エネ拡大に努めてきた。

東日本大震災が転機 再エネ業界に飛び込む

同社の事業内容は、太陽光発電所(PV)のEPC(設計・調達・建設)やファイナンス、運営・保守管理など。20年8月までに、開発したPVは123件(約70万kW)、設備の管理業務を代行するアセットマネジメントを手掛ける設備は108件(約60万kW)、運営・保守(O&M)を手掛ける設備は117件(約75万kW)に達し、事業規模を拡大してきた。

それだけではない。19年12月には、東急不動産やENEOS、東京ガスなどと共同で、再エネのさらなる拡大と長期安定的な事業モデルの確立を目指す「再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」を立ち上げ、その代表理事に眞邉社長が就任。主力電源化を見据えた再エネ推進の旗振り役として、強い存在感を見せている。

眞邉社長は、アメリカの大学を卒業後、18年間にわたり外資系証券会社に勤務。その後は米系のファンド運用会社の日本代表として証券化商品の運用を手掛けるなど、一貫して金融畑を歩んできた。そんな眞邉社長に転機をもたらしたのは、11年3月に発生した東日本大震災だ。
「震災のニュースを耳にしたアメリカのパートナー企業から高性能の浄水器2台を寄付していただき、それを届けるために震災の翌月、岩手県大船渡市と宮城県女川町を訪れました。被災地の惨状を目の当たりにし、これからの人生はお金儲けだけではなく、被災地の復興、ひいては日本の復興のために貢献する仕事をしたいと考えるようになりました」と、当時の心境を振り返る。

そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響もあって、エネルギー問題にも高い関心を持つように。震災復興や持続可能な社会づくりに向け、証券化ビジネスに携わった経験を再エネ導入拡大に生かすことができるのではないかと、再エネ業界への転身を決断した。

同社のビジネスモデルは、クオリティーの高い再エネ発電所を建設し金融商品として商品化し、国内の機関投資家や個人投資家に対し再エネへの運用機会を提供するというもの。

当初は企業規模が小さく信用もなかったため苦労したが、自治体と連携したPV建設により雇用創出や税収面で地域経済に貢献するなど、実績を積み上げることで信用獲得につなげてきた。現在は、鹿児島県垂水市や岩手県一関市など8自治体と立地協定を締結している。

また、12年のFIT制度開始以降、買い取り価格の段階的な引き下げや導入量拡大に伴う出力抑制に直面し、多くの再エネ事業者が事業性の低下から撤退を余儀なくされる中、事業性を確保するための金融イノベーションにもチャレンジしてきた。

当初から、事業から発生する収益や資産を元に資金調達する「プロジェクトファイナンス」を活用。さらに、金融機関から借り入れるのではなく、債券化して投資家から調達する「プロジェクトボンド」や、不動産分野で多く採用されている融資方式である「ノンリコースローン」を営農型PV(ソーラーシェアリング)に活用するなど、状況に応じて画期的な手法を取り入れてきたのだ。

17年には、東京証券取引所が15年4月に創設したインフラファンド市場に、同社がスポンサーを務める「日本再生可能エネルギーインフラ投資法人」が上場した。発電所数は46カ所(総発電出力約9万kW)、受託資産残高は348億円で、まだまだ不動産投資信託(REIT)と比べても市場規模は小さいものの、伸びる可能性は高く、「再エネにおけるアセットマネージャーを目指し、投資家の再エネへの運用機会を提供することで拡大していきたい」と意気込む。

脱炭素社会の実現へ 再エネ比率50%が視野

菅義偉首相が掲げる脱炭素社会を実現するには、FIP(フィード・イン・プレミアム)、ノンFITでPVだけでも3億~4億kWを導入する必要があると見ている。
今後は、PVだけではなく、洋上も含めた風力発電、小・中水力発電、海外の再エネ事業にも乗り出していきたい考えだ。20年1月のREASP発足会見で、今後、再エネ比率はどこまで引き上げられるかとの問いに対して、眞邉社長は「50%」と回答し会場を驚かせた。

「あれからたった1年でそれを否定する人はいなくなりました。それを実現するための流れを、当社が確実につくっていきます」

トリチウム水放出への懸念 問われるコミュニケーション能力


【処理水の海洋放出】小島正美

トリチウム水の海洋放出は、風評被害を抑えるために事実を正確に伝える必要がある。
一方、トリチウム等汚染水については、状況を常に公開し、説明していくコミュケーションが重要になる。

福島第一原子力発電所の敷地内のタンク内にたまり続ける処理水をどう解決したらよいのか。悩ましい問題だが、二つの本質的な課題をクリアできれば、解決は可能だ。その二つとは、「情報の透明性」と「分かりやすい明快なリスクの説明」である。これがクリアできるかどうかは、日本政府と東京電力のリスクコミュニケーション能力がどれだけ高いかが問われる試金石になる。

タンクにたまり続ける処理水は、原発事故で溶け落ちた燃料デブリを冷却した後の各種放射性物質を含んだ水と、壊れた建屋に侵入した地下水が混ざったものを処理した水だ。汚染水から各種放射性物質を除去するのが、一般にアルプスと呼ばれている多核種除去設備(ALPS)だ。

ALPSでストロンチウム89など62種類の放射性物質を環境へ放出する場合の基準(告示濃度比総和1未満)以下まで除去し、除去が困難なトリチウムだけを残した水を何らかの形で環境に放出するというのが現在進行中の計画である。

トリチウム水は世界中の原子力施設が放出している

タンク内に2種類の水 トリチウム等汚染水が7割

この問題を国民に分かりやすく伝えるには、2段構えの説明が必要だ。つまり、タンク内にある水は2種類あることをまず伝えることだ。一つは、トリチウムだけを含む「トリチウム水」。もう一つは、トリチウムのほか62種類の放射性物質を含む「トリチウム等汚染水」だ。タンク内にたまっている水の約7割は告知濃度限度以上の放射性物質を含んでいるトリチウム等汚染水の方だ。

トリチウム水とトリチウム等汚染水では、リスクを伝える上で問題の扱い方が全く異なることを知っておく必要がある。つまり、誰がどのようにリスクを伝えるのかという視点に立つと、トリチウム水の放出は主に日本政府の説明力が問われ、トリチウム等汚染水は東京電力のリスクコミュニケーション能力が問われる問題だといえる。

では、トリチウム水の放出で最大の難関は何だろうか。このトリチウム水に関する新聞やテレビの報道を見ていると、トリチウムが海の魚介類を汚染したり、周辺の人々の健康に悪影響を及ぼすといった危険性を強調するニュースはあまり見当たらない。

トリチウム(三重水素)は水素の一種であり、原子の構造が不安定なため放射線を出すが、その力は弱い。通常の原子力発電所で発生するだけでなく、私たちの周囲の空気にも、雨水にも、水道水にも、また体内にも存在する。こういう事実から、ほとんどのメディアはトリチウムが危険だというニュースは流していない。

米国の核合意復帰なるか 待ち受ける複雑な状況


イラン核合意への復帰を表明するバイデン氏が米大統領に就任する。トランプ政権はイランを敵対視し、合意からも脱退。中東情勢は一時緊迫化した。核合意への復帰で情勢安定化を期待する声があるが、イスラエルやサウジアラビアなどの動向次第では裏目に出る可能性も高い。
早くも原油先物市場では、中東情勢のさらなる緊迫化を視野に上昇基調に入っており、12月中旬現在、北海ブレンドは50ドルを上回っている状況だ。

合意復帰について核不拡散問題に詳しい鈴木達治郎・長崎大学教授は、「前向きに検討し始めただけでも、緊張緩和に向け前進」と評価する。だが、前政権の実力行使でイランは態度を硬化。「制裁解除よりも、核開発を優先するのでは」との指摘もある。鈴木氏も「両国を取り巻く状況はより複雑になっている」と話す。

日本は両国と独自のパイプを持つ先進国の一つ。脱炭素社会を目指すが、いまだ原油の中東依存度は高い。今後、中東情勢は緩和に向かうのか、または一層緊迫化するのか。エネルギー安全保障にとって予断を許さない状況が続く。

今こそ技術革新の好機 国が先頭に「SOFC革命」を


【オピニオン】金子祥三/東京大学生産技術研究所研究顧問

石炭火力の効率と存続是非の議論が盛んだ。しかし、実は今こそ技術革新の絶好の機会なのである。
2016年に「次世代火力発電に係る技術ロードマップ」がいろいろと議論され、25年の達成目標もはっきりと定量的に示された。日本の役割は技術で世界の先頭に立って貢献することである。
われわれはエネルギーを仕事や動力に変えて利用している。エネルギーである熱を仕事に変える場合、100%変換することはできない(熱力学の法則)。この不可逆性こそ何世紀にもわたって技術者が戦ってきた相手なのである。熱を仕事に変える場合、カルノーの定理に支配される。もらう熱の温度をできるだけ高くするか、捨てる熱の温度をできるだけ低くすれば、効率を高くできる。今、蒸気タービンやガスタービンの入口温度をできるだけ上げようとしているのはこのためである。
ところが今、全く新しい発電方式―燃料電池が出てきて実用化の真っ最中なのである。燃料電池といっても水素を使うわけではない。セラミックスを使った、固体酸化物形高温型燃料電池(SOFC)で空気中の酸素で発電する。この技術は日本が世界を圧倒的にリードしており、電気化学的にあらゆる燃料をいきなり電気に変えるので、カルノーの定理の支配を受けない。
このSOFCと蒸気タービンやガスタービンを組み合わせると、現在、40%くらいの火力発電の効率を一気に70%近くまで上げることができる。これがトリプル複合発電である。このように技術革新で火力発電から出るCO2を一気に半減できるのである。いわば走り幅跳びの選手が三段跳びに種目変更して、一気に跳躍距離が倍増するようなものである。
SOFCは50%くらいの高効率で発電し、排気ガスが900℃くらいで出てくる。このタダ同然の排気ガスをガスタービンや蒸気タービンに入れてやると、さらに発電ができる。つまり50%の廃熱を40%の効率のガスタービンや蒸気タービンで利用すると、50×0.4=20%となるので、SOFCの50%と合わせると70%の総合効率になる。
SOFCは素子一本で100Wくらいの出力が出る。50万kWの火力発電に使おうとすると500万本が必要である。つまり典型的な大量生産製品なので、大規模な自動化された量産工場が不可欠である。
これまで日本は数々の歴史に残る新製品を生み出し、人類に貢献してきた。半導体、液晶、太陽電池、リチウムイオン電池など日本の貢献がなければここまで進んではこなかった。しかし現在、これらの量産製品は国ぐるみで巨額の設備投資が可能な中国や韓国に独占されてしまっている。この悲劇を繰り返してはならない。
今が最後のチャンスである。国が先頭に立って、「SOFC革命」を起こし、火力発電の効率倍増に取り組み、確実に50年のカーボンニュートラルが実現できるように進むべきである。

かねこ・しょうぞう 東京大学工学部機械工学科卒、三菱重工業入社。火力発電の設計・建設に携わる傍ら、燃料電池、脱硝装置、石炭ガス化などの研究開発に従事。博士(工学)。

大阪地裁が設置許可を取り消し 原発を止める「島﨑」の執念


大阪地裁が地震動の上振れを検討していないことを理由に、大飯発電所3、4号機の設置許可を取り消した。
しかし、基準地震動は原子力規制委員会の島﨑邦彦元委員代理により、科学的根拠もなく大幅に引き上げられている。

島﨑氏は大飯原発の基準地震動を大幅に引き上げていた

また首をかしげざるを得ない判決が出た。関西電力大飯発電所3、4号機の設置許可について2020年12月4日、大阪地裁の森鍵一裁判長が取り消しを命じる判決を出したのだ。原子力規制委員会が認可した同3、4号機の「基準地震動」が適切ではないとの判断。計算式に基づいた値よりも大きな揺れが起こる可能性の有無を検討していないというのが理由だ。
しかし新規制基準の適合性審査で、大飯3、4号機の基準地震動は明確な根拠もないまま大きく引き上げざるを得なかった経緯がある。これらの背景まで考慮せず、物事の断片のみで判決を出す司法は信頼に足るのだろうか。

考慮不要な断層まで想定 規制委は過小評価をせず

今回の判決は、基準地震動を定める際の内規に当たる「審査ガイド」に記載された「経験式を用いて地震規模を設定する場合、経験式が有するばらつきも考慮する必要がある」との一文が争点。計算式を用いて地震規模を算定しても、実際の地震動は計算結果から上振れする可能性もあり、その分だけ基準地震動に上乗せする必要があるかどうかを検討すべきとの判断だ。その検討をしていないとして大阪地裁は違法と断じた。
判決要旨だけを読むと、あたかも関電と規制委が基準地震動を過小評価したかのようにも受け取れる。だが、実際は真逆。科学的に考慮する必要のない断層連動まで想定した基準地震動になっているのだ。その原因は、規制委の島﨑邦彦元委員長代理が主導した規制委の審査にある。
規制委は13年4月、国内で唯一稼働していた大飯3、4号機が新規制基準に適合しているかの評価に着手。5月10日の会合では大飯発電所の敷地周辺にある三つの断層が連動するかを議題に上げた。関電は掘削調査や海上音波探査などの結果を基に、三つの断層が連動しないとの結果を報告。しかし島﨑氏は3断層の形が濃尾地震のパターンに似ていると指摘し、「連動ありきで議論してほしい」と要望した。科学的な調査結果よりも、連動するに違いないという自身の信念を審査の場に持ち込んだのだ。
三つの断層とは発電所敷地から小浜湾を挟んで南東の陸側にある「熊川断層」と、敷地から北西側の若狭湾に延びている「FO―A断層」「FO―B断層」を指す。関電が13年6月に発表した調査結果によると、FO―A・FO―B断層と熊川断層は距離が約15㎞も離れている。一般的に5㎞離れていたら「連動して動くことはない」(地質学の専門家)と見られており、調査結果を考慮すれば3断層が連動するとは考えにくい。
それでも「3断層の間にある岬にリニアメント(線状模様)が認められるため連動する」と主張する学者がいたほか、小浜湾の西側に階段状の地形(段丘)があるのに東側に存在しないため、3断層はつながっていると指摘した学者もいた。これら一部学者の意見を島﨑氏は重視したため、関電は当該場所を調査。リニアメントは認められず、東側に段丘地形を確認したため連動する構造はないとの調査結果を規制委に報告した。
科学的な調査結果を示されても島﨑氏は納得せず、関電が小浜湾の地下構造を十分に把握していないなどの理由を挙げて「3断層が連動する可能性は否定できない」と強調。連動を否定するデータをどれだけ示されても、自らの主張を曲げることはなかった。
若狭地域の震源断層の上端部を巡る議論も平行線をたどった。上端部が地表に近いほど地震規模は大きくなる。関電が地表から深さ4㎞との評価結果を示すと、島﨑氏は「3㎞だと思う」と譲らなかった。上端部の深さはさまざまなデータを組み合わせて類推するしかないが、最終的に関電が折れて3㎞の要求をのむしかなかった。
3断層の連動と、断層上端部が地表から深さ3㎞を認めさせた件。いずれも島﨑氏の信念に基づいた結果といえる。どのような理由であれ、島﨑氏の意にそぐわないと審査は先に進まない。それだけ再稼働が遅れるだけに、関電だけではなく電力業界全体が規制側の主張に従うしかなかった。
結果的に大飯3、4号機の基準地震動は、過小評価どころか現実離れした厳しすぎる条件で弾き出された。もともと700ガルだったのが、856ガルにまで2割ほど引き上げられたのだ。このような経緯をたどると、関電と規制委が過小評価していないことが理解できるだろう。
これだけ無理難題を吹っ掛けた島﨑氏だが、委員長代理を退任してからも大飯原発の敷地問題に関わり続けた。16年6月には大飯3、4号機の運転差し止めを巡る控訴審で、基準地震動が過小評価されている可能性を指摘する陳述書を名古屋高裁金沢支部に提出している。島﨑氏の主張は、地震規模を求める「入倉・三宅式」と呼ぶ計算式を使うと過小評価になるというもの。しかし、基準地震動を定めるためにはさまざまな計算式を用いる。不確定要素を組み込みながら、地震が発電所敷地に及ぼす影響が厳しくなるように設定していくのだ。
当時の田中俊一・規制委員長との面談も求めた。大飯原発の地震動を別の方式で再計算してほしいと要望し、規制委側は了承。実行したところ、大飯3、4号機の審査で認められた基準地震動を下回った。この結果に対して島﨑氏は反論。2度目の面談を規制委側に求めるに至った。

科学的根拠なく自説に執着 目的は原発を止めることか

関電の調査結果など科学的根拠をわきに置き、自説に執着し続けた島﨑氏。その主張を基に運転差し止めを求める反対派。いずれも「原発を止める」ことを目的とし、都合の良い資料やデータを持ち出しているにすぎないのではないか。
それでも関電勝訴の逆転判決を下した名古屋高裁金沢支部のように、事実関係をしっかり考慮に入れた上で判断する裁判官もいる。今回の大阪地裁が出した判決は、本来の司法の在り方から逸脱している。島﨑氏も、自身が混乱を招いていることに気付くべきだ。

工場跡地活用のスマートシティ 実質再エネ100%電気を供給


【パナソニック/大阪府吹田市

Suita SST完成予想図

高度成長期、日本各地にはさまざまな工場が建てられ、急速な経済発展を遂げた。現在、そうした工場の一部は役目を終え、企業は跡地の活用に向けたCRE(企業不動産)戦略を求められている。


パナソニックでは、工場跡地の土地をサスティナブル・スマートタウン(SST)と名付けた街づくりに活用。不動産などの「財務価値」をはじめ、先端技術の導入や多くの企業団体が関わる「事業価値」、暮らしの課題を解決する「地域価値」の三つを高める戦略を打ち出している。その取り組みの3カ所目となるSuitaSST(大阪府吹田市)では現在、2022年の街開きに向けて建設工事の真っただ中にある。


SuitaSSTは、代表幹事のパナソニックをはじめ、関西電力、大阪ガスなどの異業種16社と吹田市が参画。エネルギー、セキュリティー、ウェルネス、モビリティー、コミュニティーの五つのサービス領域で協業する。

非化石証書の価値を付加 高圧一括受電でエリア供給

エネルギー面においては、SSTエリア内の商業施設、住居施設など複合開発街区全体で消費される電気を実質再エネ100%とする日本初※の試みに取り組んでいる。関西電力が自社の「再エネECOプラン」を活用し、再エネ由来の非化石証書の持つ環境価値を付加した電気をSuitaSSTへ供給。エリア内の集合住宅や商業施設への供給は関西電力のグループ会社である関電エネルギーソリューション(Kenes)が街区内に自営線を敷設して各施設内へ電力を供給する。また、マンションの一部の住戸に設置される燃料電池「エネファーム」などのガス機器由来の電気をJ-クレジットの購入で相殺するといった業務もKenesが担当する。


住居向けの電力はマンション一括受電事業を手掛ける同グループ会社のNextPowerが担当する。パナソニックビジネスソリューション本部CRE事業推進部の坂本道弘事業開発総括は「関西電力さまの協力のもと、エリア高圧一括受電との組み合わせにより、非化石証書を購入するコストをスキーム上で取り込み、通常の電力料金と同程度で、再エネ由来のエネルギー利用を実現しています」と話す。

実質再エネ100%電気供給の流れ


このほか、エネルギーではレジリエンス対策にも取り組む。地震や台風など、大規模災害時にライフラインが途絶えても、人が生きていられる時間は72時間といわれている。そこで、SSTのエリア内に太陽光、電気自動車充電スタンド、蓄電池を設置し、自立運転できるようにする。また、エリアの住民だけを守るのではなく、周辺住民にも開放し、コンセントやWi−Fiなども利用できる仕組みづくりも行う計画だ。さらに、ウェルネス複合施設でエネファームを4戸に1台の割合で設置し、湯と電気を共有するユニークな取り組みを大阪ガスと進めている。

先般、菅義偉首相は「温室効果ガス排出50年実質ゼロ」を宣言した。そうした動向に対し、坂本氏は「当社は先取りして自主的に社会課題の解決に取り組んできました。今後も、手を緩めることなく進めていきたい」と意気込む。Suitaに続くSSTの建設は未定だが、蓄電池を含めたエネルギーを蓄える仕組みで新たなチャレンジをしていきたいとのことだ。


※関西電力調べ

自宅の湯が温泉のような乳白色に 細かな気泡でリラックス効果


【レポート/リンナイ】

温泉のような乳白色の湯が湯船に広がる

コロナ禍で、在宅時間が長くなり、自宅で快適に、リラックスして過ごしたいと考える人が増えている。そんな時世にマッチして、リンナイのマイクロバブルバスユニットが好調だ。2020年4月の販売開始から前モデルの20倍以上の出荷実績を上げている。

マイクロバブルバスユニットは給湯器に取り付けると、湯船に注ぐ湯に小さな泡を含ませることができる。ユニットで湯を加圧して空気と混ぜ、圧力が下がる噴出時に大量の気泡を作り出す。その数は1CC当たり1~100μmのマイクロバブルが約3万個、1μm以下のウルトラファインバブルが約242万個に上る。

マイクロバブルバスユニットが作り出した湯を実際に見ると、温泉を連想させる乳白色で、上質な湯に変わったと実感する。営業企画部の中尾公厚部長は「このお湯の白色にはこだわりました。マイクロバブルバスユニットは設置も簡単で、入浴剤などを使わなくても空気の泡で作ることができます。これまで家庭では得られなかったお湯の上質感やぜいたく感をぜひ体感してもらいたい」と強調する。

マイクロバブルバスユニット。これを給湯器に取り付ける

温浴効果など優れた効能 女性を中心に大きな反響

マイクロバブルは見た目だけでなく、得られる効果も多い。気泡が体を包み込むため、湯から体への熱の伝わりが緩やかになり、ゆっくりと体を温める効果がある。入浴後は高くなった体温を徐々に放出するため、さら湯に比べて高い皮膚温度が持続する。また、洗浄効果も高い。微細な気泡が皮膚の汚れに吸着し取り除くほか、毛穴にたまった皮脂汚れに気泡が吸着し、かき出すことで肌を清潔に保つ。実証試験でもマイクロバブル入浴の方が通常の入浴より固形汚れの除去率が1・5倍高いとの結果が出ている。

さらに、マイクロバブル入浴を体感した人からは、「湯触りが柔らかい」「肌がしっとりする」「肌が突っ張る感じが少ない」「保湿クリームを塗らなくてもよかった」など多くの声が上がっている。

中でも、リラックス効果については「お風呂の時間を大切にする女性を中心に多くの反響があります」と中尾部長はアピールする。

近年、シャワー入浴で済ませる人が多くなった。マイクロバブル入浴は新しい入浴文化の提案として、今後注目を集めていきそうだ。

暮らしの課題を浮き彫りに リフォームを繰り返す集合住宅


大阪ガス

住宅関連のさまざまな実験を行ってきた「NEXT21」では
何度もリフォームを繰り返している。
時代とともに変化する住戸や生活スタイル、
環境、エネルギー、社会問題などがここから見えてくる。

実験集合住宅「NEXT21」

大阪ガスの実験集合住宅「NEXT21」は、環境、エネルギー、暮らしなど、さまざまなテーマを設けて造られた住戸が集積した施設で、同社の社員が生活し、実験・検証に協力している。同施設は時代の要請に応じ、適宜テーマを変え、居住実験が続けられてきた。いくつかの住戸では、壁の移設を含む大規模なリフォームが行われてきた。

何度も実施する造り替えに耐えながら、自由度の高い住戸設計に対応するため、NEXT21は建築構造にスケルトン・インフィル方式を採用する。骨格となるスケルトン(構造躯体)は頑丈なコンクリートが使われ100年以上の耐久性を有する。インフィル(住戸・内装)は自由に移動・交換が可能。外壁の位置も変更できる。ガスや上下水道の配管は共用廊下の下部のスペースに納められており、キッチンや浴室など水回りがどの位置に設計されても自由に配置できるのが特長だ。

長年、NEXT21に携わるエネルギー文化研究所の加茂みどり主席研究員は「NEXT21が建設された1990年代は住宅設備でビルドインが一気に進んだ時代。エアコンが天井に埋め込まれ、パネルヒーティングが設置されるなど、住まいを建設する段階で設備のことを考える必要がありました」と当時を振り返る。

一方、この数年は電力小売り全面自由化によって、エネルギーを取り巻く環境は大きく変わった。「お客さまは目指すライフスタイルや住みたい家を実現するために、どのようなエネルギーが必要なのか、という視点でも事業者を見ています。そうした時代にも選ばれていくための検証という側面もNEXT21は担っています」と、エナジーソリューション事業部環境・政策チームの纐纈三佳子マネジャーは、同施設で実証する意義を強調する。

部屋を自由にレイアウト 数世帯が緩やかにつながる

NEXT21の住戸はさまざまなテーマを基に造られている。最新住戸の「自在の家」は、五つの室空間を住む人に合わせて自在に結合・独立することが可能。文字通り、一つの大きな家として、五つのワンルームとして、シェアハウスとして、壁や建具、可動式間仕切り家具などを利用して自由にレイアウトを変えることができる。実証では、入居した数世帯の家族や人が入れ替わるごとに住戸が変化するシナリオを想定。これに合わせて、レイアウトや使用ルールを変えていく。

「自在の家」のキッチン。部屋のレイアウトは自由に変えられる