【特集1原子燃料サイクルの号砲】エネルギー安保確立の“究極の切り札” 聞こえてきたサイクル実現の足音

原子燃料サイクルを確立できれば、日本のエネルギー安全保障の弱点が補われる。
発電・再処理・プルサーマル・地層処分……。完遂に向けた現在地と課題とは。

原子力発電所で使用した燃料を再利用する──。日本が追う「夢」の実現が近づいている。

使用済み燃料には、エネルギーとして使える成分が多く残っている。使用済み燃料から使える成分を取り出して(再処理)、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として再利用する仕組みこそ、日本が国策として推進する「原子燃料サイクル」だ。

なぜ日本は原子燃料サイクルを目指すのか。原子力発電は石炭やLNGを燃料とする火力発電と異なり、少量のウラン燃料で莫大な電力を生み出すため、「準国産エネルギー」と言われる。だが、日本にウラン鉱山はなく、現状では採掘や大部分の濃縮を海外に頼っている。もし使用済み燃料を再利用できれば、燃料の輸入依存度を下げ、エネルギー安全保障の強度を高められるのだ。

原子燃料サイクルを実現するメリットはほかにもある。それは最終処分時の高レベル放射性廃棄物(HLW)の量が減り、放射性毒性が低下するまでの期間が短くなることだ。現在、自由主義陣営で使用済み燃料を再処理する方針を打ち出しているのは日本とフランスだけで、ほかの国は直接、地層に処分する。この場合、放射性物質の有害度が人体に影響がないレベルに下がるまで、10万年もの年月を要する。一方、再処理をすると「残りかす」としてHLWが発生するが、体積は直接処分の4分の1に縮小し、毒性低下期間は約8000年に短縮できる。将来的に高速炉を活用できれば、その期間は300年程度にまで縮められる。

【特集1】COP30は途上国有利の決着 米国不在で先進国の交渉力低下

先進国vs途上国の対立が激化する中、COP30は米国不在で途上国に軍配が上がった。
パリ協定10周年というタイミングだったが、最終文書では化石燃料への言及すらできなかった。

寄稿/有馬純(東京大学公共政策大学院客員教授)

2025年11月10~22日にブラジル・ベレンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30はパリ協定10周年という節目に当たり、「行動・実施のCOP」となることが期待されたが、そもそも何を議論するかで対立が表面化していた。途上国がパリ協定9条1項に基づく先進国の資金協力義務の厳格な実施、気候変動対応を目的とした貿易措置に関する協議を議題化することを要求する一方、先進国、島しょ国は1・5℃目標に整合した野心レベル引き上げをエンカレッジするためのプロセス、国別の削減目標(NDC)統合報告書、隔年報告書を活用したレビュー制度の強化を議題化することを提案した。

これらの議題提案はいずれも先進国、途上国のレッドラインに関わるものであり、その採択に合意することは不可能である。このため、通常議題を採択する一方、この4案件については議長国ブラジルの下でムティラオ(協同作業)を実施することとなった。4案件を巡る対立は俯瞰すれば「野心レベル向上を求める先進国(+島しょ国)」と「資金援助拡大を求める途上国」の対立構図そのものであり、パッケージとして一体的に解決するしかない。加えて、1・5℃目標や緩和との文脈の中で83カ国が化石燃料終了に向けたロードマップ策定を要求したことから、化石燃料問フェーズアウトを巡って先進国・島しょ国などと資源国、中国、インドなどが鋭く対立した。

COP30の会場(ブラジル・ベレン)

議長からの第1次ドラフトでは資金援助については「第9条第1項の実施に関する法的拘束力のある行動計画」、化石燃料については「化石燃料の依存を段階的に克服するためのロードマップ策定」などの「尖った」オプションが含まれていたが、最終的に採択されたグローバル・ムティラオ決定では4案件について以下の決着となった。

化石燃料への言及なし 脱炭素よりも安保・価格

〈資金問題〉
・パリ協定9条全体に関する議論を整理・深化させるための2年間の新作業計画
・35年までに適応資金を少なくとも3倍に増加

〈貿易問題〉
・世界貿易機関、国連貿易開発会議、国際貿易センターその他の関連ステークホールダーの参加を得て26~28年の補助機関会合で対話を実施

〈1・5℃、NDC野心〉
・NDC・国別の適応計画(NAP)の実施を加速するための協力的、支援的、自主的なグローバル実施アクセラレーター(GIA)の創設
・1・5℃目標への軌道復帰のための「ベレン1・5℃ミッション」 の開始

〈化石燃料〉
・言及なし

COP30において最後まで争点となった化石燃料フェーズアウト問題は23年のCOP28で熾烈な交渉の結果、エネルギー転換を扱うグローバル・ストックテイク(GST)決定パラ28において「化石燃料からの移行」を含む八つの行動を列挙し、「それぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で貢献する」という玉虫色の合意で決着した経緯がある。そうした中で化石燃料のみを特掲したロードマップの策定は、微妙なバランスに立脚したCOP28の合意をリオープンするものにほかならない。ロシア、サウジアラビアなどがこれを受け入れる可能性は皆無であり、もともと無理筋な提案であった。

予想されたように最終結果からは化石燃料への言及は削除され、新たに設置されるGIAは化石燃料からの移行を含むアラブ首長国連邦(UAE)コンセンサスを含む過去の決定を考慮することとなっているものの強制力はない。クロージング・プレナリーでド・ラーゴ議長が脱化石に向けた議長ロードマップ策定に言及したが、あくまでブラジルのイニシアティブであり、COP決定とは重みが異なる。

近年の地政学リスクの高まりにより、先進国、途上国問わず、温暖化防止よりもエネルギー安全保障や手ごろなエネルギー価格(affordability)の優先順位が高い。米国の経済アナリストであるダニエル・ヤーギンが指摘するように、エネルギー転換に関する国際的な議論は「イデオロギーからプラグマティズム(実用主義)」へ転換している。「化石燃料フェーズアウト問題への言及がCOPの成否のメルクマール(指標)」という議論は世界のエネルギーの現実から遊離したものと言わざるを得ない。とはいえ、一国主義、ポピュリズムが台頭する中で温暖化防止に対する国際的な結束を打ち出した議長国ブラジルの努力は評価すべきだろう。

対立構造変わらず 1・5℃目標は破綻

今回のCOPを俯瞰すれば、9条1項を含む作業計画の設置、適応資金を35年までに3倍増、貿易措置を巡る対話の実施など、途上国の主張がある程度通っている一方、NDCの野心的引き上げのための強力なプロセスや化石燃料フェーズアウトといった先進国の主張は通っておらず、全体としてみれば途上国に有利な決着であったと言えよう。米国がいなくなったことにより、先進国の交渉力が相対的に低下したことは否めない。

交渉全体を俯瞰すれば、「1・5℃目標達成のため、化石燃料フェーズアウトを含め、野心レベル引き上げとそのためのプロセス強化を最重要視する先進国」と「野心レベル引き上げよりも先進国からの公的資金援助大幅拡大が先決と主張する途上国」の対立構造は全く変わっていない。

1・5℃目標を前提とした議論を続ける限り、現実解不在の状況は続く。26年には28年の第2回GSTに向けたプロセスが始まるが、1・5℃目標の破綻が誰の目にも明らかな中で、どのような議論になるだろうか。

ありま・じゅん 1982年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。2025年から現職。

【記者通信/5月26日】蓄電池普及を全面サポート NTTアノードエナジーが7月から新サービス

NTT系のエネルギー会社であるNTTアノードエナジー(東京都港区)は5月23日、蓄電池の新設から運用・保守までを包括的に請け負う新サービスの提供を7月に始めると発表した。再生可能エネルギー時代の調整力として導入拡大が進む蓄電池事業は、発電事業者のみならず、金融や不動産など異業種からの参入が増えるなど市場の広がりを見せている。同社はこうした動きに先駆けて、23年7月に田川蓄電所(福岡県田川郡)を運開。創業以来取り組んできた、通信拠点における電気設備の構築・保守で培った知見に蓄電池事業で得たノウハウを融合させ、系統用蓄電池を用いて売電に参入する事業者に向けて、最適なパッケージを提案する。

新サービス「蓄電所構築・運用おまかせサービス」は蓄電所の構築から運用・保守までを一気通貫で請け負う。利用者は用地を確保するだけで、以降の全工程を同社に委ねることができる。

独自の予測・最適化エンジンを用いて収益性の高い充放電計画を作成する

設計段階では、国内外16社のベンダーから最適な機器を選定し、トータルコストを抑えながら建設する。運用では、全国約11万9000カ所に設置した太陽光の発電実績を蓄積するシステム「エコめがね」のデータを基に、独自開発の予測・最適化エンジンが市場価格や電池劣化コストを加味して収益性の高い充放電計画を導き出す。保守体制も強化する。全国の拠点網を活用して24時間365日体制で対応。緊急時には原則2時間以内に現地へ駆けつけ、迅速な原因究明と対処で取引機会の損失を最小化する。

沖縄を除く全国9エリアでサービス展開し、28年までに10カ所以上の受託と売上高50億円を目指す。系統用蓄電所の自社展開も進めており、同日には埼玉県の和光市、三芳町、鶴ヶ島市の3カ所に新たな蓄電所を設置したと発表。国内最大規模の蓄電所オペレーターとして着々と歩みを進め、再エネ時代を下支えしていく。

【記者通信/5月26日】バイオエタノール本格展開へ取り組み加速 28年に一部地域でE10先行導入

資源エネルギー庁は5月22日、「次世代燃料の導入促進に向けた官民協議会 商用化推進ワーキンググループ(WG)」の第7回会合を開き、ガソリンへのバイオエタノール導入拡大に向けたアクションプラン(行動計画)の素案を示した。2030年度までに最大混合率10%(E10)、40年度以降に同20%(E20)の低炭素ガソリンを供給することが柱。また、30年度のE10本格展開を前に、28年度をめどに一部地域での先行導入することを盛り込む。課題を洗い出し、対応車両の普及状況を考慮した上で供給規模の早期拡大を目指す狙いがある。6月の脱炭素燃料政策小委員会での検討・審議を経て正式に決定する方針だ。

永井岳彦・燃料供給基盤整備課長はバイオエタノール導入の意義を強調

エネ庁は、昨年11月に「バイオエタノール導入拡大に向けた方針」を取りまとめ、アクションプランを策定する方針を示していた。これを受けて今年2月に石油連盟や石油元売り3社、関係省庁、シンクタンクなどで構成する「バイオエタノール導入拡大アクションプラン策定タスクフォース(TF)」が商用化WGの下に設置。①燃料品質・車両規格、②燃料調達、③供給インフラ――の3チームで議論を進めてきた。会合冒頭、あいさつした永井岳彦・燃料供給基盤整備課長は、「脱炭素化と経済性を両立できる液体燃料として、比較的安価なバイオ燃料が当面の主役となる」と述べ、バイオエタノールの社会実装に向けアクションプランを策定する意義を強調した。

需給バランスは危機的水準へ 休廃止計画を阻止できるかが鍵

2030年前後に火力発電設備の休廃止が集中し、中長期で需給バランスが厳しくなる――。そんな実態が、電力広域的運営推進機関が3月28日に公表した25年度供給計画(25~34年度)で明らかになった。政府の30年に向けた石炭火力フェードアウトの方針を踏まえて事業者が休廃止の計画を具体化させるほか、長期脱炭素電源オークションで落札された29年度以降に運開予定の新設LNG火力に、既設火力からのリプレース案件が含まれているため、工事期間中の20年代後半に供給力が減少することが主な要因だ。

27~29の各年度に休廃止する設備容量は、昨年度の供給計画(24~33年度)よりも増加。この結果、新増設から休廃止を差し引いた設備の減少量が昨年度の供給計画との比較で2倍以上に拡大した。30年度以降は新増設の設備量も増加するが、設備量の減少傾向は続く。一方で、データセンターや半導体工場などの建設に伴い、需要は昨年度計画よりも増加するとの想定だ。これにより、供給信頼度の指標となる年間EUE(停電予測量)は、27年度に北海道、東北、東京、九州の広いエリアで、28~34年度には東北、東京、九州で目標停電量を上回り、その基準を満たせない見通しとなった。

火力発電の新増設および休廃止計画の推移 出所:電力広域的運営推進機関

補修量の増加による影響も 電源確保の費用負担の検討不可欠

広域機関は同日、供給計画の結果を基に現状の課題を整理し経済産業相に意見を提出した。既設火力を維持するための方策として、低稼働の設備を供給力・調整力・慣性力として活用するなど、脱炭素と供給力確保の両立を図るための制度的措置についての検討継続を求めた。さらには、同機関が供給計画の内容を精査し、電源の休廃止やリプレースの時期が一時期に集中しないよう調整の余地を検討するとし、国にも連携して必要な対応を採るよう要請した。また、事業者に対しては、需給バランスに与える影響を考慮した休廃止やリプレース計画の再検討につながることへの期待を示した。

火力の休廃止のみならず、補修量の増加が需給バランスに与える影響も大きい。20年度以降、火力の設備容量が減少する一方で補修量は増加する傾向にある。背景には、設備の経年劣化に加え、建設業の「働き方改革」による工期の長期化や、再エネ拡大による出力調整の頻度増、起動・停止の繰り返しによる機器への負荷がある。同機関は、端境期に需給ひっ迫が生じやすいことからも、年間の補修停止可能量の見直しが必要であると指摘。見直しの際には、その妥当性のコンセンサス醸成や、見直しに伴う電源確保量の増分費用の負担の在り方について検討するよう求めた。

【特集2】供給量と輸出量の拡大に注力 日本のリーダーシップに期待

バイオエタノール大国である米国は輸出拡大を推進中だ。
日本での本格導入による展望や期待について話を聞いた。

インタビュー:セス・マイヤー(米国農務省 首席エコノミスト)

―米国でのバイオエタノールの現状と取り組みについて教えてください。

マイヤー 米国はバイオエタノールの世界最大の生産国であり消費国です。ガソリンへのエタノール混合が義務化されていることで、農村地域のビジネスチャンスになっています。エタノール混合率は2024年に10.4%に達し、エタノールが15%含まれるE15ガソリンの通年販売も許可されました。CO2排出量の低減、生産効率のさらなる向上、供給量や輸出の拡大などを推進するため、米国の関係者は日々努力しています。

―世界のエネルギーを取り巻く環境において、バイオエタノールの果たす役割は。

マイヤー 温室効果ガス(GHG)排出の削減、化石燃料依存度の低減、エネルギー安全保障の促進、世界中の農村経済活性化などをもたらす重要な再生可能エネルギー源です。世界の輸送部門の脱炭素化において、農業が重要な役割を果たします。生産国また消費国にとってエネルギーの持続可能性を高め、エネルギーミックスの多様化に貢献できるウィンウィンの関係を構築し維持することができます。

―日本でバイオエタノールが普及すると、どのような効果がありますか。

マイヤー 低炭素社会実現への移行につながり、バイオ燃料インフラの需要創出が期待されます。その結果、アジアでバイオエタノール導入がさらに進む可能性もあります。GHG排出の削減において日本の環境目標達成にも貢献するでしょう。

―2月の日米首脳会談後の合同記者会見で石破茂首相からバイオエタノールについて言及したことをどう受けて止めていますか。

マイヤー 良い意味でのサプライズでした。両国政府のトップから米国産トウモロコシ由来のエタノールに対する支持表明がなされたことを大変喜ばしく思っています。米国のバイオ燃料を安定的に輸出することで、日本の消費者の皆さんにとって信頼に値するエネルギー源となることを期待しています。

―バイオエタノールの将来をどのように展望していますか。

マイヤー 将来の展望は非常に明るいです。バイオエタノールは、食糧と競合しないセルロース系エタノールやCCS(CO2の回収・貯留)技術などの発達で、さらにサステナブルに進化しています。低炭素燃料を求める世界のエネルギー転換戦略に重要な役割を果たし、日本の動向を注視するアジア諸国に、日本は強いリーダーシップを発揮できると思います。

せす・まいやー アイオワ州立大学で学士号と修士号、ミズーリ大学で農業経済学の博士号を取得。ミズーリ大学食糧農業政策研究所(FAPRI)の研究教授、副所長を歴任。

岸田首相は総裁選に出馬せず 電力側の評価は高かったが……

8月14日、岸田文雄首相が次期総裁選に出馬しない意向を表明した。政治資金パーティを巡る政治と金の問題などで支持率が低迷するなど、世間的には厳しい評価にさらされている岸田政権だが、エネルギー、とりわけ電力業界からは高評価の声が少なくない。安倍晋三政権時代に行き詰まっていた重要課題を一挙に解決へと導いたからだ。大手電力の幹部が言う。

次期総裁選への不出馬を表明した岸田首相(8月14日) 提供:首相官邸

「何よりも福島第一原発から出る処理水の海洋放出を実現させた。地元漁業関係者との交渉や、中国をはじめとした海外諸国の反発を抑え込んでの英断は見事だった。また原子力政策では脱炭素電源法に基づく運転期間延長を実現させたほか、エネルギー政策全般でも3・11以降の脱原発から原発推進へと大きくかじを切った。嶋田隆首相秘書官ら官邸スタッフの功績も大きいが、岸田首相の思い切った政治決断があればこそだと思う」

14日の会見で、岸田首相はエネルギー政策についてこう言及した。「原発の再稼働、革新炉設置を含めたエネルギー政策についても、電力自由化が進む中で、いかに電力投資資金を確保するか。電力安全保障と脱炭素化をいかに両立させるか。第7次エネルギー基本計画の下で方向性を確かなものにしていかないといけない」

9月27日投開票が決まった自民党総裁選を巡っては、小林鷹之前経済安全保障相、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相のほか、斎藤健経済産業相、高市早苗経済安全保障相、上川陽子外相ら計11人の名前が挙がる。エネ政策のかじ取りに注目だ。

【特集2】ガスタービンで水素30%混焼に成功 アンモニア燃焼システムも開発中

三菱重工業が水素・アンモニア発電用ガスタービンの開発に注力している。次世代ニーズに対応するため近年中の完了を目指す。

【三菱重工業】

三菱重工はカーボンフリー燃料として水素・アンモニアを利用するガスタービンの開発に注力する。水素ガスタービンの早期商用化に向けては同社高砂製作所内に「高砂水素パーク」を整備、水素の製造から発電までにわたる技術を一貫して検証している。

水素ガスタービン開発では昨年11月、実証発電設備で最新鋭の「M501JAC形」ガスタービンによる水素30%混焼運転に成功した。今後、中小型ガスタービンは25年、大型ガスタービンは30年以降の水素専焼での商用化を目指し、新型燃焼器の開発を進めていく。

水素は天然ガスに比べて燃焼速度は7倍と高く、燃焼器で天然ガスと水素を混焼、または専焼すると、天然ガスのみを燃焼した場合よりも火炎位置が上流に移動し、空気と十分混合する前に高い火炎温度で燃えるため、NOXが増加する。また、燃焼器の上流に火炎が遡り、逆火が発生するリスクも高くなる。そうした課題を解消するため、専焼用のマルチクラスタ燃焼器では混焼用燃焼器より、高流速かつ混合距離が短縮可能で、逆火耐性が高いものを目指す。また、火炎を多数に分散することでNOX低減を図る。

アンモニアでは2方式を検討中 安定した火炎保持が課題

一方、アンモニアは天然ガスに比べて発熱量が3分の1、燃焼速度が5分の1と低いため、燃焼が不安定になりやすく、火炎を安定して保持することが難しい。また、窒素分を含んでいるため、燃焼の過程で発生するフューエルNOX(燃焼由来)が生成されるため、NOXを低減する手法が必須だ。そこで同社はアンモニア燃焼システムとして、直接燃焼GTCC(ガスタービン複合発電)と分解GTCCの2方式を検討中。直接燃焼GTCCはNOX排出量を低減するアンモニア用燃焼器と高効率脱硝装置を組み合わせた。同システムは中小型H-25形ガスタービンで開発を進め、25年以降の実機運転、商用化を目指す。分解GTCCは実用化を検討中だ。

長期脱炭素電源オークションに参加するうえで、火力発電の次世代燃料への対応は必須条件となる。こうした発電ニーズに三菱重工はさまざまな開発を進めて応えていく構えだ。

高砂水素パークで混熱運転を進める

危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情

【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、石油情勢は国際的な危機を迎えている。

西側諸国の脱露政策やOPEC減産の実情について、米ボストン在住のアナリストが解説する。

日本を含む西側諸国は、ロシアのウクライナ侵略に対抗する中で、国際石油秩序の担い手としての広い視野を回復し、その上で秩序基盤の再構築を図る必要がある。

このような視点に立って昨年の世界石油需給動向および西側の対応を振り返ってみよう。なお本稿は私見を述べるもので、筆者の所属する組織とは無関係である。

世界は露産石油依存が顕著 複雑化する西側の脱露政策

ロシアを除く世界全域における広義の石油需給を、国際エネルギー機関(IEA)統計に基づいて概観すると、昨年平均の需要量・日量約9600万バレルに対し域内生産量は日量8900万バレル。不足量は日量700万バレルを超える。これは日本の石油消費量の2倍以上に相当する規模だ。この不足分を埋めているのが、ロシアの石油輸出であり、昨年の輸出量は原油・日量約500万バレル、軽油など石油製品が日量250万バレル強と推定されている。

一方、世界の実効的な原油生産余力は石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国、中でもサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に集中しているが、昨年12月時点で両国合わせた余力は日量約250万バレル強にすぎない。すなわち、ロシア外の世界は、ロシア産石油を排除するに足るだけの石油生産力を持たないわけだ。

2022年の世界(除ロシア)石油需給

世界はロシア産石油を必要とする―。この簡明な事実は何を意味するか。英国とEUはロシア産石油の海上輸入を、原油は昨年12月、石油製品は今年2月以降、それぞれ禁ずる措置を採った。実際、昨年12月時点でロシアのEU、英国、米国向け石油輸出量は、年初に比べて日量計200万バレル強の大幅減少となった。

一方でインド、中国の2カ国向けは、合わせてほぼ同量の増加を見た。すなわち欧州・西側とロシアの分離に伴い、石油貿易ルートが新たに組み替えられた格好だ。

インド・中国などのロシア産石油輸入増を問題視する向きが多いが、それは自家撞着だ。非ロシア世界の域内石油供給不足という条件下では、ロシア産石油を追加的に引き取るインド、中国のような輸入国があってこそ、欧州・西側の脱ロシア依存が円滑に達せられる。両者は補完関係にあるのだ。

EU・英国はロシア産石油に対する海上保険を制裁対象に加え、これに米国が介入して上限価格(原油1バレル当たり60ドルなど)内であれば不適用とした。同制裁を事実上無効化する措置だが、これもロシア産石油輸出が阻害されれば、世界的な石油危機に直結し得る現実を反映している。本来、海上保険を制裁対象とする必要はなく、インド、中国などがリスクに見合う割引価格でロシア産石油を引き取れば済むことを、わざわざ西側が複雑にしている。西側自身の脱ロシア産石油依存は、ロシアに石油を外交的恫喝の「武器」として使われないように図る防御的措置だ。それをロシア経済に打撃を与える攻撃的措置として表明するので、取り組みが混乱する。

ロシアの石油輸出収入を断つとは、ロシア産石油の国際市場からの排除を意味する。それは、非ロシア世界の域内供給不足の解消と同義だ。大幅な石油増産と消費抑制がそこで並行して起こらなければならない。

これは少なくとも10年単位の射程を持つ中・長期的目標でなければならず、かつ、段階的な達成を順次図るほかない。また昨年時点で非ロシア世界の石油生産の4割はOPECが握っている。今後の増産にはとりわけサウジアラビアを筆頭とする中東OPEC産油諸国の同調が不可欠となる。

サウジアラビアの現実主義 OPEC減産報道の誤りとは

2021年6月から昨年10月までの間、サウジアラビアの原油生産量は日量200万バレル増加。米国の増産量・日量100万バレルをはるかにしのいだ。

同国は「OPECプラス」(OPEC側10カ国、非OPEC側からロシアを含む産油10カ国が参加)が合意した原油生産目標量に従って21年8月以降も継続的に増産し、その生産量はすでに21年12月時点で日量1000万バレルの大台に乗った。

昨年11月、OPECプラスは生産目標総量を削減し、これが「大幅減産」として広く報じられて波紋を呼んだ。削減されたのは名目的な生産目標量であり、基準とした昨年8月時点の日量4400万バレル弱から日量4200万バレル弱へと、確かに日量200万バレルの削減だ。しかし、同じ基準月の生産実績は日量4000万バレル強にとどまっていたため、もし当該の生産枠がそのまま実現すれば、日量約150万バレルの増産となった。

サウジアラビアのように実生産量と生産枠が合致する場合には減産だが、実生産が目標量と乖離して低迷する国々に対しては、反対に増産が求められた。実際、昨年11~12月の、ロシアを除くOPECプラス原油総生産量は、同年8月対比で日量50万バレル弱の減少にとどまり、対前年同期比では逆に日量100万バレルの増大を示した。つまり、かかる生産調整を大幅減産と見たのは誤りだ。

むしろサウジアラビアの動向から伺えるのは、自国の生産量を高位に保ちつつOPECプラスを通じた生産調整によって、国際石油需給の均衡を図る、いわば実務本位の冷めた姿勢だ。同国は緊急時の備えであるべき生産余力も堅持し、また27年を目途に、日量100万バレルの原油生産能力の増強計画を進めている。

このサウジアラビアの現実主義的な姿勢は、対ロシア産石油依存からの脱却と非ロシア世界の域内自給率向上という西側の目標に呼応している。この点はよく理解されなければならない。

※1 本稿での石油需給、貿易および在庫に関する数値はIEA統計(Oil Market Report)による。広義の石油は、NGLやバイオ燃料など、非石油由来の燃料を含む。

※2 ロシアに加えOPECプラスのうち8カ国が今年5月以降の追加減産を決めたが、昨年11月の減産がさほど大きくないと示した形だ。これも現状を供給過剰と見た実務本位の対応と考えてよいだろう。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年からウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

安心・安全・信頼のブランドを継承 原点に立ち返ってガスの普及に臨む

【東京ガスネットワーク/野畑 邦夫社長】

のはた・くにお 1984年東京工業大学大学院理工学研究科修了、東京ガス入社。執行役員、東京ガスエンジニアリングソリューションズ社長執行役員、常務執行役員、副社長執行役員、代表執行役副社長などを経て2022年4月から現職。

―4月1日、導管ネットワーク事業会社として新たなスタートを切りました。

野畑 ガス事業とは本来、導管を通じてガスを供給する事業であり、それを承継したのは当社であり第三の創業期と位置付けています。社員に対しても、東京ガスが136年の歴史の中で、最も大切にしてきた安心・安全・信頼のブランドを引き継いだ重責と誇りを持って仕事に臨むようメッセージを伝えています。

 電力会社の法的分離と大きく異なるのは、ガス漏れや定期点検の際にお客さま宅を訪問するのはネットワーク会社であるため、そのことを社会に広く知っていただく必要があるということです。そのため、会社発足と同時にテレビCMも展開しています。

―法的分離の実施まで、特に苦労した点はありますか。

野畑 法的分離による分社化と同時に、導管の建設・維持管理業務を担う二つの子会社を吸収合併しました。これは、地域に根差したネットワーク会社として、現場により近い会社にしていきたいとの思いからです。ただ、システムの改修など法的分離に向けた手続きと同時並行で行ったため、こなさなければならない業務量が膨れ上がりました。

 このため、新会社をどのような会社にするのか、ビジョンを描くことを先送りせざるを得ませんでした。まずは半年ほどかけてこれまでの取り組みを総点検し、中期経営計画やビジョン策定につなげていく方針です。例えば効率化を最優先にすることで犠牲にしていることはないか、ネットワーク会社としてガスの普及にどう取り組むかなど、ガス会社の原点に立ち返って考えていきたいと思います。

若い働き手の確保へ 現場作業をスマート化

―ガスの需要開拓にどのように取り組みますか。

野畑 当社の供給エリアである首都圏でも、都市ガスが行き届いていないエリアは相当あります。低炭素化に向けた電化推進が言われていますが、そういったエリアの自治体や地域の住宅メーカーなどに働きかけ、ガスの良さを知ってもらい、レジリエンスの観点から電気とガスの互いの良いところを選んで使っていただけるよう提案していきます。

―安定供給と効率化の両立をどう図りますか。

野畑 デジタル技術をいかに活用できるかにかかっています。ウェアラブルカメラを装着することで現場に行かずに複数人で現場の状況を共有したり、写真を取り込むことで施工図を自動的に作成したりと、デジタル化による業務の効率化を着実に進めていきます。

 また、工事現場でのオペレーションに伴うCO2排出削減にも取り組んでいきます。作業のデジタル化や重機のEV化など大阪・東邦ガスネットワークや他のインフラ産業とも連携し、高齢化が進む中で若い人に魅力的な職場だと思ってもらえるようなスマートな現場をつくっていければと思っています。

脱炭素社会へ正念場の年  「不都合な真実」直視し協調を

【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説副委員長

COP26で脱炭素化は国際的な合意を得たが、その直後に各国は化石燃料の取り合いを始めた。

浮き彫りになっているのは、カーボンニュートラルという「理念」と「現実」との間の壮大なギャップだ。

 「われわれがこの問題を何かしら解決したなどと勘違いしようものなら、致命的な過ちになりかねない」――。

英国グラスゴーで昨秋開かれた国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)。参加した197カ国・地域が「産業革命前からの気温上昇を1・5℃に抑える」「石炭火力発電を段階的に削減する」と合意できたにもかかわらず、議長国・英国のジョンソン首相の記者会見は厳しい発言が目立った。

COPの崇高な理念をよそに、足元では脱炭素化の取り組みの後退を示す「不都合な真実」が露呈していたからだ。

再エネ加速で電力不足 化石燃料依存に逆戻り

象徴的なのが昨年半ばに始まった欧州発の天然ガス価格の歴史的な高騰劇だ。英国を含む各国は近年、風力や太陽光発電を軸に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーシフトを加速させてきた。ところが、皮肉にも気候変動問題を背景とした天候不順で再エネ発電の稼働率が低下。新型コロナウイルス禍からの経済活動再開が重なり、深刻な電力不足に陥った。各国は火力発電で補おうと天然ガスの調達に一斉に走った。

だが、エネルギー企業に対する環境規制の強化や、化石燃料関連への資金提供を敬遠するESG(環境・社会・企業統治)投資拡大による新規開発の停滞も災いし、天然ガス需給は極度にひっ迫。価格が一時、原油換算で1バレル当たり200ドルを超える異常事態となった。天然ガスの代替需要で原油や石炭の価格も跳ね上がった。

欧州と協調して脱炭素化を推進してきた米国のバイデン大統領も「直ちにグリーン経済へ転換するのは困難」と認め、最近は石油やシェールガス採掘規制の緩和に動いている。日本や中国を巻き込んだ異例の原油の国家備蓄放出まで余儀なくされた。「脱炭素に逆行する」との批判もものかは、電気代やガソリンの価格高騰などが国民や企業を苦しめる事態に「背に腹は代えられない」ということだろう。

欧米と同様に風力発電の稼働率低下で昨秋に大規模停電が発生した中国は、温暖化対策上「禁じ手」としていた石炭火力向け国産炭の増産にまで踏み込んだ。

今では世界的な化石燃料高騰がさまざまな原材料価格を押し上げる「グリーンフレーション」が懸念されている。脱炭素の取り組みを示す「グリーン」と、継続的な物価上昇を表す「インフレーション」を組み合わせた造語で、性急過ぎる脱炭素化の流れに実体経済が追い付かないジレンマを示す。

年明けには、電力用の一般炭で世界最大の供給国であるインドネシアが1カ月間、石炭の輸出禁止措置を発動し、業界に衝撃を与えた。国内の電力供給の安定確保を優先するためというが、化石燃料不足が価格高騰にとどまらず、供給停止に発展するリスクが意識された。エネルギーの大部分を輸入に頼る日本が厳しい状況に直面していることは言うまでもない。

COP26が高らかにうたった合意と裏腹に、相次いで表面化した「不都合な真実」が示す教訓は何か。それは2050年のカーボンニュートラルという「理念」と、世界各国が経済活動や社会生活を維持するために当面、化石燃料を使い続けなければならないという「現実」との壮大なギャップだろう。

 欧州委員会が1月1日に、原子力発電と天然ガスを「温暖化対策に役立つエネルギー源」として認め、環境に配慮した持続可能な投資先(タクソノミー)に分類する方針を示したのも、再エネ一辺倒の直線的な脱炭素化の取り組みでは危ういと判断したからだ。実需があるにもかかわらず、理念だけで化石燃料を無理に排除しようとすれば、投機マネーに目を付けられて相場が混乱するのは必定だ。ESGブームの圧力で欧米エネルギー企業が化石燃料の開発・投資から撤退を続けることで中東やロシアなど資源国の影響力が強まり、地政学的なリスクも高めている。

手段だけに目を奪われずに 実効性のある工程表が必要

経済産業官僚時代に京都議定書に関する国際交渉を手掛けた有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授は、交渉の実態について「『地球環境を守るために力を合わせましょう』という美しいものではなく、各国は完全に国益で動いている」と解説。「温室効果ガスの削減は、地球レベルでの『外部不経済の内部化』であり、そのコストを各国の間でどう負担するかというゲーム」と喝破する。その上でCOP26の成果を認めつつ「地球全体の温度目標を定めるトップダウンの性格と、各国が実情に応じて目標を設定するボトムアップの性格が微妙なバランスを取っていたパリ協定の性格を大きく変えることになる」と指摘し、先進国と途上国の対立激化を懸念する。

有馬氏が言うように本質が各国の産業競争力や雇用をかけたゲームだとしても、欧米による自国への利益誘導が目立つままなら、世界的な脱炭素化の取り組みは行き詰まりかねない。

電力不足を各国は天然ガス火力で補おうとしている

問題は、COPが石炭火力削減やガソリン車の排除、カーボンプライシングなど脱炭素化の手段にばかり熱心で、世界全体が化石燃料依存からどう脱して、再エネに転換するかという実効性ある工程表づくりを怠ってきたことだろう。脱炭素社会というゴールに到達するには、再エネの安定電源化に不可欠な大容量の蓄電池開発や、水素の活用、メタネーションなど相当の技術革新が必須だが、いずれも発展途上だ。それまでの数十年間は、省エネや火力発電の低炭素化などあの手この手で化石燃料依存を秩序立てて減らしつつ、経済や生活に必要な石油や天然ガス供給は確保しなければならない。

日本は欧米が主導する脱炭素化の国際ルールづくりに乗り遅れまいと焦燥感を高めるが、アジア各国や中東産油国などと連携し世界共通の脱炭素化の工程表づくりにも乗り出してほしい。回り道のように見えても、そうしてCOPの協調を支えることがルールづくりで主導権を取り戻し、国益に資する道につながるはずだ。

自社の利益を最優先に戦略策定を 一方的に不利益を被る可能性も

【羅針盤(最終回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

「石炭火力の段階的縮小」で合意したCOP26。そこでの議論は、まさに国益のぶつかり合いだった。

自らの利益を最優先にしたGX戦略の策定へ、国や企業はしたたかに取り組んでいくことが求められる。

 2021年11月に開催されたCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には、世界でさまざまな事後検証がなされ、多くの議論を巻き起こしている。個別の項目についての是非はともかく、今後の脱炭素対策の方向性を考える上でいくつかの示唆があったことは事実だ。これらをどのように個々のGX戦略に落とし込むのかを検討することが、今後一層重要になる。

COP26を踏まえて 削減をどう実現するのか

合意文書では、1・5℃目標追求の決意表明や、開発途上国への資金支援の拡充、石炭火力の段階的削減、国際的な排出量取引のルールなどが打ち出された。

特に排出量取引については、30年の削減目標に算入可能となることが決まった。排出量取引の方式はいくつかあるが、ここでは二国間取引(JCM)について考えてみたい。京都議定書時代には京都メカニズム(柔軟性措置)の一つとしてクリーン開発メカニズム(CDM)があった。先進国が開発途上国で取り組みを実施するこの種のプロジェクトの目的にはいくつかの動機があった。当時の日本でも質の高いインフラ輸出がセットとなって、国内排出量とのオフセットを目的に削減排出量を獲得することが目指された。

各国で異なる温室効果ガスの限界削減費用には大きな格差が存在することから、こうした取り組みの経済合理性は極めて高い。少し古いが、16年の長期地球温暖化プラットフォーム国内投資拡大タスクフォースの資料によれば、日本の限界削減費用はスイスの炭素1t当たり380ドルに次いで378ドルという高水準にある。 これは図に示した通り、仮に日本国内で二酸化炭素1tを削減するコストを他国に投入すれば、限界削減費用が1ドル程度の国々では378tの削減が可能となることを意味する。国内で乾いた雑巾をさらに絞る努力をするよりも、限界削減費用の低い国々で排出削減投資を実施し、そこで得られた排出量を二国間取引で日本に移転させる方が効率的なのだ。

CDMの時代においては、新興国や開発途上国では日本の高度な省エネ技術は高価なものとして敬遠されてきた。これらの国々では温室効果ガス排出量の多寡よりも、安価な技術によって経済成長を実現させるエネルギー供給体制の構築が優先されたからだ。しかし世界全体でパリ協定に基づく脱炭素化を目指す潮流が大きく変わらないのであれば、かつては敬遠された省エネ技術を売り込むチャンスが今こそ巡ってきたともいえる。

COP26閉幕の数日後、ドイツのメルケル首相が中国の李克強首相との電話会談で、中国の新設石炭火力の高効率化を促したことが通信社によって伝えられている。この中で、ドイツ企業の技術に言及し、排出削減に資するこうした技術の輸出を、ドイツは禁止するものではないと発言したという。資金援助はできないものの、技術支援をしたたかに売り込むドイツの戦略を、ただ手をこまねいて眺めている場合ではない。これが世界で是とされるならば、日本もIGCCやIGFCなどのクリーンコール技術を売り込むべきだろう。世界全体での段階的な排出削減に、確実に貢献するものは何かをよく考えるべき時である。

限界削除費用と二国間取引
出典:各種資料を参考に筆者作成

今後の展開を注視 戦略の柔軟性確保を

豪州のモリソン首相は、COP26後に自国の国益優先を鮮明に打ち出した。その中で、今後も石炭産業にコミットすることを堂々と宣言している。

COP26直前のG20では、石炭火力への公的金融支援の21年内停止で合意したことが数少ない成果とされたが、9月に中国が表明したことの繰り返しで新鮮味はなかった。これを上回る合意がCOP26で可能とは考えられていなかったが、フェーズアウトからフェーズダウンへトーンダウンしたとはいえ、石炭火力を巡る議論の火種を残した格好だ。この状況では、ドイツのようにしたたかな外交戦略を描けないと、一方的な経済的不利益を被る可能性が高まる。奇しくもCOP26開催期間中に米国南部バージニア州知事選挙で共和党が勝利した。仮に22年11月の中間選挙で民主党が敗れるようなことがあると、米国は脱炭素への対応に大きな変更を余儀なくされる可能性も出てくる。欧州では、脱炭素化のために原子力発電の活用について新設も含めた計画の具体化や検討が広がっている。これは欧州にとどまらず世界的な潮流となる可能性がある。国内で原子力利用を禁止しているオーストラリアが可能性を模索している動向などが顕著な例だ。

ドイツでは環境NGOが脱炭素化のために原子力発電の運転停止延期を求めてデモが展開されている。これは環境活動家すら一枚岩ではないことを示している。カーボンニュートラルに向かうパスについての議論が多様化していることは、ある意味で健全な社会現象ともいえる。

さらに、燃料需給のひっ迫を契機としたエネルギー市場の価格高騰は、現時点の脱炭素対応への警鐘ともいえる。エネルギー以外の他のコモディティ価格の高騰も相まって、マクロ経済上の問題に及ぶ可能性が高く、脱炭素を実現する前に経済的に破綻しては身もふたもない。こうした国際情勢に目配せした上で、さまざまなリスク分析が重要になる。

国内ではトランジション・ファイナンスに向けた技術ロードマップが鉄鋼、化学分野で示され、電力、ガス分野などでのそれが今後の争点となっている。また、自民党総裁選の際、岸田文雄首相が示したクリーンエネルギー戦略の検討もいよいよスタートし、これらの政策の方針にも沿わなければならない。

自社の利益を最優先にGX戦略を正しく策定することには、かなりタフな知的格闘が求められる。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【記者通信/8月31日】敦賀原発の審査中断 マスコミ報道に疑問符

原子力規制委員会は8月18日、日本原子力発電の資料書き換え問題で敦賀原発の審査を再び中断した。これを一部のマスコミが取り上げ、朝日新聞は社説(8月29日)で「技術者の教育をはじめ、管理や組織の規律が問われる問題」「存続の是非も含めて会社の今後を改めて検討すべきだ」と、原電が意図的に書き換えを行った可能性に言及し、その体質を厳しく批判している。

しかし、実際はより詳細なデータが得られたので、過去のデータを削除したにすぎず、これらの報道は、書き換え問題について事実に基づいているとは言い難い。原電は規制委側に不備を指摘された業務プロセスの再構築を急ぎ、審査会合の再開を目指している。

 「この状態が改善されるまで審査会合を開ける状況ではない」――。原子力規制委員会の石渡明委員は8月18日の会合で、こう発言した。原電は敦賀原発の敷地内にある断層が地震で動かないことを証明するために掘削調査を行ったのだが、その報告書の一部を書き換えたことに端を発した発言だ。

原子炉建屋真下のD-1断層とK断層

18日の会合で事務局の原子力規制庁は、原電の業務プロセスが適切ではなかったために報告書の書き換えが起きたと指摘。それを受けて規制委は、業務プロセスが信頼性を確保できると確認するまで敦賀原発2号機の審査を行わないと決めた。

敦賀原発の敷地内断層を巡る議論は、規制委が地質などの専門家を集めて開いた有識者会合にさかのぼる。現地調査などを経て、有識者会合は2013年に敦賀敷地内にある「K断層」と呼ばれる断層を「活断層の可能性が否定できない」と指摘。これが地震で動くと、敦賀原発2号機の原子炉建屋真下にあるDー1断層も連動する可能性があるとの見解をまとめた。

原電は2号機原子炉建屋の真下にあるDー1断層とK断層は連動せず、K断層も地震で動かないことを証明するために掘削調査を実施。K断層と原子炉建屋の間に10本の穴を掘って地層の試料を採取した。K断層は「逆断層」と呼ばれる動き方だが、試料を分析すると、K断層と異なる性状を示していた。逆断層の動き方ではなかったのだ。

地層の性状が異なれば地震が起きたときに連動するとは考えられない。そのため原電は、K断層と2号機原子炉建屋の真下にあるD-1断層は関連性がないと結論付けた。

これで規制委側の疑問を払拭できたはずだった。だが、規制委側は審査資料の一つである掘削調査の結果を示した「柱状図」に着目した。20年2月7日の審査会合で、以前に提出された記載内容の一部が書き換えられていたと指摘した。

顕微鏡観察でより詳細なデータを取得

原電が最初に柱状図の資料を規制委側へ提出した際は、掘削時に採取した試料を肉眼で観察し、採取地点ごとの評価結果を記載していた。その後、原電は試料の薄片を顕微鏡でつぶさに観察。性状を分析したところ、より詳細なデータが取れたため、肉眼観察したデータの一部を上書きする形で新たな評価結果を記載した。

掘削調査したところが逆断層でないため、かなり古い年代に形成されたものだろうと判断。「12万年前以降に地震で動いたもの」という活断層の定義から外れる有力な手掛かりを得たことになる。

しかし規制委側は、データの一部を上書きした点を問題視した。同日の審査会合で「記載内容を変更したと知らされていない」と指摘。その主張は「新たな分析結果が分かっても、元データと併記すべき」というものだ。規制委側は原電に、調査会社が作成した元の資料を提出するよう要求。同時に、新聞各紙などマスコミは一斉に原電の「書き換え問題」を報じ始めた。

20年6月4日の審査会合でも、原電は資料の上書きについて説明したが、規制委側の納得は得られなかった。原電側は上書き問題の原因を検討するため、審査に関わっていない社員も加えて総点検作業に着手した。20年10月30日の審査会合には元資料を提出し、点検作業の結果と今後の対応方針も説明。

規制委側は納得して審査の再開を決めたが、柱状図のデータを上書きしたことは原電の業務プロセスに問題があると考えた。そのため、原子力規制庁の検査部門が実施する規制検査で業務プロセスの状況を確認することにした。21年8月18日の会合で規制委は、規制検査で確認する項目を追加。それらの確認が取れてから審査を再開すると決めたのだ。

2号機真下の断層が活動性でないことが明らかになりつつある

  原電に不利な書き換えも

「データを書き換えた」と聞くと、自らの主張に有利となるような記載内容に変更したと思われがちだ。しかし、今回の件で原電が上書きしたのは25箇所のうち、7箇所はどちらかといえば原電に不利となるような変更だった。仮に恣意的な判断が働いたのなら25箇所すべてを自社の主張を裏付けるように書き換えるだろう。原電は、「自分たちに都合のいいような意図的な書き換えはなかった」と繰り返し述べている。

薄片観察で得られたデータの分析結果によると、2号機原子炉建屋の真下にある断層とK断層の関連性がないことが分かる。有識者会合で受けた疑惑も晴れることになる。規制委側に審査を速やかに進める意思があるのなら、記載内容の書き換えにこだわって審査を中断し続けるのは理にかなわない。

8月18日の規制委の審査中断の方針を受けて、原電は、「業務プロセスの構築を確認していただくための準備を早急に進め、早期に審査会合を実施していただけるよう全力で取り組んでいく」とのコメントを発表している。1日も早い審査再開が望まれる。

パンデミックから1年、CO2排出量は今

【ワールドワイド/コラム】

「二酸化窒素(NO2)の排出量が大幅に減少し大気汚染が改善した」「観光客が減りベネチアの運河がきれいになった」「デリーからヒマラヤ山脈が見えるようになった」―など、新型コロナウイルスの感染拡大により世界各地で経済活動が収縮したため、地球環境が大きく改善した2020年初頭。だが、コロナ禍由来の環境改善は、かりそめのものになる可能性がある。

国際エネルギー機関(IEA)は3月2日、20年のCO2排出量をまとめたレポートを公表した。レポートによると、20年4月に世界のCO2排出量が大幅に下落し、同年の排出量は19年から約20億t減少する史上最大の下落幅を記録。しかし、20年12月には前年同月比6000万t増を記録するなど、各国の経済活動が徐々に回復し始めエネルギー需要が増加したことで、21年のCO2排出量は19年の水準に戻る可能性があるという。

電力部門からのCO2排出量は、前年比4億5000万t減少しているが、IEAのビロル事務局長は「世界各国でクリーンエネルギーへの移行を加速しなければ、CO2排出量は過去の水準に戻る」と指摘。パリ協定で定められた2℃未満目標を達成するには、毎年約5億tの排出量削減が必要など、目標達成までの壁はまだまだ高い。

とはいえ、ビロル事務局長は「中国が野心的なカーボンニュートラル目標を設定し、米国の新政権はパリ協定に復帰して気候変動対策を政策の中心に掲げた。11月には国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)もあるなど、より強力な気候変動対策に向け世界中で勢いを増す」と展望を述べている。新型コロナ対策と気候変動対策の折り合いをどうつけるのか、各国首脳は難しい判断を迫られている。