【特集1】文献調査の実施地域拡大に全力 政府を挙げて自治体を支援


地層処分事業の最初のステップである文献調査は、できるだけ多くの地点での実施が望ましい。しかし寿都町、神恵内村以外は現れず、文献調査に応じる自治体を増やすことが急務になっている。資源エネルギー庁の下堀友数・放射性廃棄物対策課長に対策などを聞いた。

インタビュー】下堀友数/経済産業省資源エネルギー庁 放射性廃棄物対策課長

―寿都町、神恵内村での文献調査開始から2年が過ぎました。


下堀 寿都町、神恵内村は文献調査を行う初の自治体です。ですから高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分事業について、地元の皆さんに対し、賛成・反対の前に、まず事業について知っていただくことに力を入れてきました。
 これまで、「対話の場」を寿都町では14回、神恵内村では11回開き、説明を行うとともに疑問や視察などの要望に答えています。またNUMOは現地に交流センターを置き、情報提供に加え、交通安全やごみ拾いなど地域の活動に職員が積極的に参加して、地域に溶け込む努力も続けています。


―ほかにはどういった活動を。


下堀 幌延町の深地層研究センターや青森県六ケ所村の再処理施設などへ視察に行っていただいています。当初は参加者が少なかったのですが、だんだんと増え始めました。「まずは見て、どういうものか知ってみよう」と考える人たちが増えたのだと思っています。


―2021年10月に寿都町長選があり、文献調査に応募した片岡春雄町長が再選しました。


下堀 片岡町長が再選されたことで、寿都町政全体について信任が得られたと思っています。しかし、文献調査に反対を掲げられた対立候補の方も相当数の得票がありました。不安に思われる方々がまだ多くいるので、今後も丁寧な説明を続けなればなりません。


寿都・神恵内が投じた一石 「できることは全て行う」


―寿都・神恵内以外に文献調査に応募する自治体が現れません。


下堀 寿都町の片岡町長、神恵内村の高橋昌幸村長は「自分たちはエネルギーの重大な問題に一石を投じるために文献調査に応募、受け入れた。全国で受け入れる動きがないと、その意味がない」と言われています。お二人の言葉をしっかり受け止めなければなりません。また調査地点が北海道だけに限られると、「北海道に押しつけるのか」との誤解を道民の皆さんに与えてしまいます。

文献調査を受け入れた首長はプレッシャーを受ける(神恵内村)


―文献調査の地点を増やすことにどう取り組みますか。


下堀 首長にとって受け入れはものすごいプレッシャーになります。それを取り除くことなど、「国としてできることは全て行う」方針で取り組みます。昨年12月にメンバーを拡充して関係閣僚会議を開催し対応を検討しました。


―具体的には。


下堀 まず国、NUMO、事業者で体制を強化し自治体の掘り起こしに取り組みます。また自治体の調査受け入れの前段階から、地域の経済団体、議会などに対し、国からさまざまなレベルで段階的に理解活動の実施や調査の検討などを申し入れます。さらに受け入れ自治体や関心を持つ自治体に対して、政府一丸となった支援体制を構築することなどを行っていきます。

 加えて関心や問題意識を有する自治体の首長などとの協議の場を設置し、最終処分をはじめ原子力を巡る課題と対応について国と地域でともに議論、検討します。

下堀友数 しもほり・ともかず 2001年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修了、経済産業省入省。地球環境連携室長、地方創生担当大臣秘書官、ガス市場整備室長などを経て、21年から現職。

【特集1】プロセスの公正性について検討を 寿都・神恵内で見えた課題


 寿都町、神恵内村での文献調査では、調査のプロセスでの公正さの点で課題が明らかになっている。必要な手当てを行い正当性が認められれば、ステークホルダーの共考・協働を得て対処することができるだろう。

 2023年は日本の高レベル放射性廃棄物(HLW)政策・事業にとって節目の年となるであろう。まず、北海道寿都町ならびに神恵内村での文献調査の結果が示されることが見込まれる。地域の判断もなされていくことになるだろう。

  22年夏以降、政府の原子力政策見直しの中で、HLW処分についても取り組みの強化がうたわれてきた。23年1月には岸田文雄首相自ら、政府からの申し入れをより積極的に行って、ほかの地域での調査受け入れを目指す旨の国会答弁を行っている。

 3・11複合災害後の一連の政策見直しの動きを経た「基本方針」の改定(15年5月)からまもなく8年となる。この間には前述の通り、北海道の二つの自治体での文献調査入りという大きな政策・事業上の動きがあった。

 他方で総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)は19年11月から22年4月までの2年半、開催されなかった。独立の立場から政策・事業をチェックするべく現行の基本方針に基づいて設けられた、原子力委員会の放射性廃棄物専門部会も16年9月以来、開かれていない。

コロナ禍という特別な事情はあったにせよ、こうした会議体も活用して、継続的に政策・事業の見直しを行うべきではなかったか。

 筆者としては、寿都、神恵内両自治体でのこれまでの経過からしても、候補地選定プロセスの公正さに関わる課題を洗い出し、必要な手当てをすることが必須だと考えていた。HLW処分政策・事業の正当性は、今後、さらに複数地域での話し合いを進めるにはなお不十分だからだ。


 事業の正当性は十分か課題を洗い出し手当を


 調査受け入れの際の手続き、「対話の場」の在り方や進め方、交付金に関わる仕組みなどが真っ先に検討対象として挙げられる。いずれも公正さを欠くと見なされれば、たちまち政策・事業の遂行を困難にするし、逆に信頼を得て政策や事業の正当性が高まれば、ステークホルダーの共考・協働による対処を促進する事柄である。

そうした中、本稿執筆中(2月3日)に政府が基本方針の改定を決めたとの報道に接した。前回の改定では放射性廃棄物WGでの約2年に及ぶ議論を経たが、政府は今春にも閣議決定するという。

  広く関係者や有識者、何より当事者となった両自治体の方々からのフィードバックを丁寧に反映するプロセスを欠いたまま基本方針が改定されるなら非常に残念だ。
後世において23年の動きがどのような節目として評価されるか。肯定的な歴史として記憶されることを願いたいものである。

じゅうらく・こうた  2003年東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程修了。08年東京大学学際情報学府博士単位取得満期退学(博士)。東京大学大学院工学系研究科特任助教などを経て、18年から東京電機大学大学院工学研究科教授。

【記者通信/4月27日】政府「総合緊急対策」で原子力活用へ 電気ガス代対策は明記せず


政府は4月26日、原油価格や物価高騰に対する「総合緊急対策」を決定した。対策には「原子力を含めあらゆる電源の最大限の活用を進めていかなければ、国民生活や経済活動に不可欠な電力の安定供給の確保に影響が出るおそれがある」と記載し、エネルギーの安定供給に原子力の活用を目指す考えを示した。一方で、エネルギー価格の高騰対策はガソリンに限られ、電力・ガス代の値上がりに関する対策は明記されなかった。

岸田首相は記者会見でエネルギー価格高騰対策を発表した(首相官邸HPより)

岸田文雄首相は、同日夜に記者会見を行い「原油価格や物価の高騰が、コロナ禍からの社会経済活動の回復の妨げになることは何としても防がなければならない」と表明。ガソリン価格維持のため石油元売りへの補助金に1.5兆円を充てるなど、国費6.2兆円を投入することを発表した。事業規模は合計13.2兆円ほどの見込みとしている。対策ではこのほか、エネルギーや原材料の安定供給に0.5兆円を充て、中小企業対策・生活困窮者支援などに乗り出す。今回の対策を第一段階として、6月までに経済財政運営の指針「骨太の方針」をまとめる方針だ。岸田首相は「今年の夏の参院選後にこれ(骨太の方針)らを前に進めるための総合的な方策を具体化し、エネルギー分野も含め経済社会の構造変化を日本がリードする」と参院選後にも第二段階の経済対策を進めるとしている。

補助金上限35円引き上げ。ガソリン価格4円程度の引き下げ狙う

物価高対策の第1の柱となる石油元売りへの補助金については、全国平均のレギュラーガソリン店頭価格を「当面168円程度の水準に抑制する」(岸田首相)としている。現在行っている激変緩和措置を強化し、上限単価の補填を35円に引き上げたほか、対象油種に航空機燃料を追加した。さらに補填が必要になった場合も、価格上昇分の2分の1を支援する。資源エネルギー庁が公表した4月18日時点でのガソリン価格は173.5円で、4円ほどの値下げを想定している。タクシーなどLPガスを使用する事業者に対しても、小規模補助金を活用し支援を行うとした。

第2の柱となる安定供給対策については、エネルギー、原材料、食料の各分野で実施。エネルギー分野では、①省エネルギーの推進、②クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進、③燃料供給の緊急対応策などの強化、④産油国・産ガス国への増産働きかけ――を掲げた。対策には、プラスチック製スプーンの受け取りを辞退したり、環境に配慮した商品を購入したりした場合、ポイントを受け取れる制度「グリーンライフ・ポイント」の促進も盛り込まれている。

岸田首相はそのほか、第3の柱に中小企業の価格転嫁や賃上げ対策。第4の柱には「電気・ガス料金を含む物価高騰等に直面する」生活困窮者への支援を挙げた。対策の財源には22年度予算の予備費を当て、その穴埋めと激変緩和措置の一部費用をまかなうため、総額2.7兆円の補正予算を編成。今国会での成立を目指すとしている。

電気ガス代への支援なし。「ガソリン偏重」に疑問

補助金の上限額引き上げにより、燃料価格の抑え込みを図る政府だが、萩生田光一経産相は26日の記者会見で「永遠に補助金を足し増ししていくのは現実的ではない」と述べ、激変緩和措置終了後の混乱に警鐘を鳴らす。また、ガソリン以上に負担がかさむ電気代やガス代の値上がりには、今回の対策による支援は盛り込まれなかった。「ガソリン偏重」の対策にどれほど効果が出るか、疑問の声も出ている。