【特集2】各地域との包括連携協定を展開 ソリューション提案で課題解決へ

2022年11月1日

東京ガスは、近隣15の自治体や地域都市ガス事業者と包括連携協定を結んでいる。都市ガス事業者として何を目指し、何を提供していくのか。その狙いを聞いた。

【インタビュー】馬場 敏/東京ガス 広域エネルギー事業部長

―2021年11月に秦野市と「カーボンニュートラルのまちづくりに向けた包括連携協定」を結んだのを皮切りに、自治体や地域都市ガス事業者などとの協定締結を進めていますね。

馬場 今年4月に改正地球温暖化対策推進法が施行され、地方自治体には脱炭素社会の実現に向けて主導的に取り組むことが求められるようになりました。自治体が脱炭素の目標を達成するには、地元企業や住民を巻き込んだ街全体での取り組みが必要で、民間企業との連携がこれまで以上に重要になります。このような社会的ニーズに応えるため、当社は自治体と連携協定を結び、東京ガスグループがこれまで培ってきた環境やエネルギーに関するノウハウやサービスを提供したいと考えています。その際に、長年地元に根差し街の発展やライフラインを支えてきた地域都市ガス事業者さまとも連携して共働することで、きめ細かい対応ができるようになります。

―協定を提案するのは3者どちらからですか。

馬場 当社からです。地域都市ガス事業者さまとはガスの卸供給を通じて、長年ビジネスパートナーとして築き上げた信頼関係があります。地域都市ガス事業者さまは地元に密着し、街の発展やライフラインを支えてきています。それが評価されて信頼を得ているからこそ、自治体も包括連携協定を3者で締結し、長期的な視点で一緒に取り組もうとしてくれるのです。提案時には協定締結後の実行力を高めるために、打ち合わせを重ね、丁寧にコミュニケーションを取り、協定の目的を理解し共通認識を持つよう努めています。レジリエンス向上や地域共創といった視点でも課題を洗い出しています。

担当領域を超えて協力 EV充電マネジメントも提供

―自治体からはどのような要望が多いのでしょうか。

馬場 相談が多いのは、太陽光発電の導入や更新、電気自動車(EV)の導入といったハード面のニーズのほか、住民の行動変容につながる環境教育などのソフト面です。環境教育については、これまでの当社グループの知見を生かし、環境省の推奨もあるナッジを活用した効果定量型の脱炭素へ向けた環境教育や、省エネ、カーボンニュートラル(CN)に関する学校授業を提供しています。

―東京ガスのどのようなノウハウや技術力を生かすのですか。

馬場 これまでの事業で培った省エネ診断や各種設備の設置施工、メンテナンスなどの知見を活用します。そのほか、太陽光オンサイトPPA(電力購入契約)で獲得した知見や経験も活用します。EVについては、今年9月に秦野市、秦野ガス、日本カーソリューションズと4者でEV導入とEV充電マネジメントの共同検証に関する基本合意書を締結しました。当社にとって初となる公用車のEV化に向けた取り組みです。当社は以前から充電タイミングを制御するEV充電マネジメントの研究を行ってきました。協定締結を機に、積極的に社外に展開していきたいと考えています。グループ経営ビジョン「Compass2030」の下、各部署やカンパニーがそれぞれ取り組んできた技術を結び付け、各部の担当領域を超えて相互協力できるようになってきています。今後も再エネの開発やメタネーションを含めた水素カーボンマネジメントなど、開発する新たな技術や知見をタイムリーに活用していきます。

東京ガス・地方自治体・地域都市ガス事業者との包括連携協定(2022年10月末現在)

ニーズに合わせた提案 地域課題を解決する企業に

―相談が多い再エネ導入は、CNの街づくりに欠かせないですか。

馬場 CNの実現にはさまざまな手段がありますが、再エネの普及拡大は最も効果的な取り組みの一つでしょう。特に当社が包括連携協定を締結している自治体は、都市部に比べて再エネ導入のポテンシャルが高いエリアもあります。各自治体の状況や、地産地消などのニーズに合わせながら提案していくことになります。

―最初の包括連携協定を結んでから約1年。振り返ってどのように感じますか。

馬場 世界のエネルギー事情が大きく変動していることや、近年の気候変動の問題もあり、CNへの関心は高まっていると感じます。都市ガス会社が必要とされ続けるために、私たちは次のフェーズにつなげていく分岐点にいると思います。一緒に街をつくり、地域課題に共に取り組むソリューション提供ができる仲間になりたいと思います。Compass2030では「地域課題解決型ソリューション企業への変革」を掲げています。CNシティー推進の取り組みは、この全社方針を具現化するものです。エネルギートランジションの実現と都市ガス業界のさらなる発展に向け、地域都市ガス事業者さまと二人三脚で取り組んでいきます。こうした取り組みに注力することで、脱炭素社会における都市ガス会社の社会的位置付けの向上に寄与すると確信しています。

ばば・さとし 1992年東京工業大学修士課程を修了後、東京ガス入社。原料部、東京ガスオーストラリア社、産業エネルギー事業部、TGES営業副本部長、再生可能エネルギー事業部長などを歴任。2022年度から現職。