【コラム/12月15日】電力ネットワークの法的分離と消費者の利益

2023年12月15日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

昨年12月から今年の初めにかけて、大手電力会社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を、同じグループの小売会社に漏洩させていたことが発覚した。送配電子会社には、行為規制が導入され、情報交換のみならず、役員人事などの交流も制限されていた。しかし、送配電と小売の情報遮断ができていなかったことから、法的分離と行為規制の限界を指摘し、送配電の中立性を高めるために、送配電の所有権の分離を含むさらなる構造分離を求める声が上がっている。

このような中、内閣府の有識者会議は、今年3月2日、送配電部門を資本ごと切り離す所有権分離を提言している。また、政府は、6月16日の閣議決定で、所有権分離を検討することを規制改革の実施計画に盛り込み、経済産業省が、今年度中をめどに導入の是非を判断することとなった。検討結果は現時点で発表されていないが、法的分離にとどまる場合には、行為規制の遵守が徹底されることが必要だろう。

EUでも法的分離にとどまっていた電力会社にさらなる構造分離を求める動きがあった。EUでは、2003年「第2次電力ガス指令」で法的分離が行われていたが、2007年に、欧州委員会は、未だに十分な競争は機能していないとの認識の下、送電のさらなる構造分離を求めた。

オプションとしては、①所有権の分離、②ISO( independent system operator)化を挙げた(ISO化をオプションとしたのは、複雑な財産権問題を避けるためである)。しかし、所有権の分離、ISO化ともにドイツ・フランス等8カ国が反対したため、2009年に、エネルギー閣僚理事会はITO( independent transmission operator)を選択肢に加えることで合意した経緯がある。ITOは、法的分離の一形態で従来よりも規制を強めたものである。

この一連の議論の中で、欧州委員会が固執したのは、所有権の分離である。また、欧州の大部分の経済学者も所有権の分離を支持した。その論拠としては、ネットワークへのより公平なアクセスが確保されることが挙げられた。わが国でも、所有権の分離を支持する論拠は、系統へのアクセス条件の一層の整備である。

さらに、欧州委員会は、電力ネットワークの拡張がなかなか進まないのは、電力ネットワークへの第三者のアクセスの拡大を防ぐためと考えた。しかし、業界団体などからは、欧州委員会は、ネットワークへの公平なアクセスのみをあまりにも強調しすぎているという批判があった。現実には、電力会社が、ネットワークを所有している場合、経営戦略上それをどのように位置づけているだろうか。

筆者が、5年ほど前に、欧州の電力業界団体Eurelectric から欧州電気事業者の経営の重点を聞いたところでは、それらは再生可能エネルギー、ソリューションに加えて、電力ネットワークということであった。実際、ドイツの南西に位置する電力会社であるEnBWは、構造分離を法的分離にとどめているが、北部での風力発電が増大し、南北の高圧送電線の建設が急がれる中、その建設プロジェクトに積極的に関与することが、同社にとって重要な戦略になっているとのことであった( SuedLinkや ELTRANETのプロジェクト)。

電力市場が自由化されても、送電部門はなお独占にとどまっている。自由化で発電部門や小売部門は競争にさらされリスキーなビジネスになったと言えるが、送電部門は、規制料金の下で、多くの場合、安定的な利益をもたらしている。このことは、第三者への差別がなければ、法的分離された電力会社に、利益の増大のために、送電を拡大するインセンティブを付与する。

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