【コラム/4月26日】福島事故の真相探索 第3話
石川迪夫
第3話 ペデスタル壁にできた空洞
破損写真を独自に検証
ペデスタルの破損写真(写真B、第2話)について、われわれは独自の検討を試みた。
注意しておきたいことは、1号機の炉心位置からペデスタルの床上まで、約15ⅿの大きな落差があることである。この落差を越えて、圧力容器の中で起きる炉心溶融が、なぜ15mも下にあるペデスタル床の壁の損傷と結びつくのか、この謎解きの前半が第3話であり、1号機事故の解明の手掛かりとなる。
なおこの謎解きの過程で、福島第一2、3号機、並びにTMI事故での炉心溶融と水素爆発の過程もより明確となったので、それも随所で触れる。
当然のことだが、事故解明を行っていると、不明確な事故記録に沢山ぶつかる。事故検討を試みるにはそれらを明確にする必要があるが、繁多な事故対応業務においては、連絡や操作の記録に漏れや誤りが起きるのは防ぎようがない。加えて、上記事故の解明には、これまで原子力関係者が等閑視してきたジルカロイ・水反応の理解が必要である。この説明や解説には多くの紙幅を必要とする。
難解な話ではないのだが、読者が始めて見聞きする話が多いので、本論に入る前に説明すべき事柄が多いためだ。だが、本論に入る前の説明で、読者が読みくたびれてしまっては何にもならないので、今回は結論を先に述べて、説明を後に回す書き方を採用してみた。読み通してもらうための配慮であるが、通例を破って結論を先に述べる失礼をお詫び申し上げる。
注水で床に水溜りが
今回は、「空洞化」をつくった現象の前座説明が主体である。
結論から先に述べると、ペデスタル壁の空洞が出来た原因は、ペデスタルの床に溜まった水溜まりに高温の燃料棒が落ちてきて、激しいジルカロイ・水反応の発熱――ジルカロイ燃焼――が起きた事による。
以降その説明に入るのだが、なぜ原子炉の事故が15ⅿも下のペデスタルに損傷を及ぼしたのか、その謎を解くための手がかりは、事故時の炉心状況変化の正確な把握と、その変化を追いながら炉心からペデスタルにいたるまでの空間の変化状況を知ることである。
まず事故状況の復習から。津波で全電源喪失状態に陥った1号機は、炉心への水の補給が全くできなかったので、事故当日の11日の深夜には原子炉の水が全て蒸発してなくなり、原子炉圧力容器は空っぽになっていた。従って、炉心の冷却は輻射(放)熱に頼る状態となり、炉心が発する崩壊熱によって温度は徐々に上昇して、12日午前2時半ごろには、圧力容器の底は後述する高温クリープ破壊*1を起こして破れ、底に穴が開いた状態となった。
破壊時点での炉心温度は、中心の高温部分では2000℃を超えていたであろう。また、この時点で崩壊熱は、原子炉出力の0.6%程度にまで下がって低くなっていた。
2000℃の炉心が放散する輻射熱を受けて、圧力容器内部のステンレス鋼製の炉心構造体は溶融したり、変形したりしていた。炉心直上に配備された炉心スプレー配管も溶融・変形して、仮に原子炉に水が送られても、炉心へのスプレー水が満足に放散される状態にはなかった。
12日午前5時ごろ、東京電力は消防車を使って、空っぽの原子炉への送水を開始した。注水には上記の炉心スプレー配管を使った。詳細は後に譲るが、炉心スプレーに送られた約21トンの水のほとんどは、壊れた配管から流出して圧力容器の壁を伝って流れ下り、破壊された圧力容器の底を通ってペデスタル床上に溜まったと考えられる。配管の壊れた炉心スプレーは、炉心を冷やす本来の目的を果たせなかったのだ。
だが、この床上に溜まった水が、後述のペデスタル壁の損傷をもたらしたジルカロイ・水反応の主役であり、1号機に起きた水素爆発の元凶であることを覚えておいてほしい。