【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話

2024年5月10日

石川迪夫

第5話 ジルカロイ燃焼を防ぐには

ジルカロイの弱点

一般に、酸化物は低温では脆いといわれている。例えば、乾物屋で売っている湯葉は脆くて壊れやすい。だが、湯で暖めて本来の薄皮に戻すと、中に具を入れて煮炊きができる。湯葉は温度が高いと強靱となり、破れないからだ。ジルカロイの酸化膜も湯葉に似て、温度が200℃ほどに低下すると脆くなって、破れやすくなる。これがジルカロイの弱点であり、事故を起こした原因である。

炉内実験で、燃料棒をある程度の高温で照射した後に冷却して取り出すと、燃料棒はUO2ペレットのつなぎ目で折れて出てくる。燃料棒が冷えると、ジルカロイの酸化膜が脆くなるので、ペレットのつなぎ目で酸化膜が破れて、燃料棒が折れるのだ。これをわれわれは燃料棒の分断と呼んでいる。

燃料棒温度を上昇したり、照射時間を長くすると、酸化膜の厚さが増して分断の数が多くなる。この例が示すように、ジルカロイの酸化膜は冷えると脆くなり、壊れやすい。

軽水炉で使っている燃料棒は、ジルカロイ被覆管の中にUO2ペレットを入れた構造であるから、原子炉の運転中、被覆管は原子炉の圧力により常に圧迫されている。通常運転での被覆管温度は、概略300℃程度であるから問題は起きないが、事故が起きて燃料棒温度が上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力によって圧され、座屈してペレットに密着して、その表面は黒い酸化膜で覆われる。このような状態の原子炉に、冷たい水を入れると、何が起きるか。

被覆管表面の酸化膜は水で冷やされて収縮しようとするが、密着したペレットに阻止されて収縮できない。このため、冷えて脆くなった酸化膜にはヒビ割れが起きて破れる。この破れ目は、燃料周辺を取り巻く水や水蒸気にとっては、高温のジルカロイと接触できる自由市場となるから、反応は一挙に増えて、発熱が増大する。これがジルカロイ燃焼の出発点である。

先ほど、酸化膜の厚さが大きくなれば燃料棒の分断数が多くなると書いたが、これは酸化膜の破れと共通したことで、燃料棒が高温となり表面の酸化膜が厚くなるほど、冷却による酸化膜の破れも多くなる。

爆発的なジルカロイ・水反応の発生、これが今まで知られなかった――正確に言えば、知られてはいたが忘れられていた――ジルカロイの弱点である。水で冷やされると、燃料棒の表面を覆っている酸化膜が破れ、高温のジルカロイは水や水蒸気と接触できるので、激しい化学反応が起き、大きな反応熱を発生させるのだ。以降は、この激しい現象を一般のジルカロイ・水反応と区別して、「ジルカロイ燃焼」と呼ぶ。この点については後ほど詳述する。

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