【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話

2024年5月10日

高温の燃料棒に冷水は禁物

ジルカロイは、酸素を欲しがる性質が強い金属であるらしい。第4話の表が示すように、例えば、温度1000℃の被覆管を1㎜酸化させるには約10日を必要とするが、温度が1500℃に上昇すると4.4時間に短縮され、1800℃ではわずか14分で済む。このように、酸化反応は温度が上昇するほど活発化する。高温になると爆発的な燃焼を起す弱点は、この性質にある。 

ついでながら、燃料ペレットのUO2も酸素を欲しがる性質は、ジルカロイに負けずに強いという。このため、ジルカロイとUO2が接触する境界線付近では、ウランがジルカロイの領域に入り込んで酸素を奪い、その逆もあって、このために境界線付近では複雑な問題がいろいろと生じるらしい。これがまたいたずらを引き起こすかどうか、あまりにも専門的にすぎるので、その対処は専門家に委ねる。


圧力容器の破損に伴う事故状況の変化

12日午前2時半、福島第一1号機の圧力容器の破損は格納容器圧力を6気圧から8.5気圧へと上昇をさせた。この2.5気圧の圧力上昇は、圧力容器の中にとどまっていた高圧蒸気が格納容器に吹き出して上昇させる圧力に等しいから、圧力容器の破損によって起きた変化と考えてよい。この破損による原子炉状況の変化や、格納容器内部の変化を調べておかねばならない。

1号機は、非常用電源が全て停止したので、データは残っていない。従って、炉心注水が本格的に始まる午前9時15分までの原子炉状況は推測するしかないのだが、実は奇跡的に生き残った格納容器圧力計が一つあって、その時刻の格納容器の圧力変化を残している。

12日午前2時半の圧力容器の破壊によって、格納容器圧力が8.5気圧に急上昇したこともその測定値であるが、その後圧力は7.3気圧までゆっくりと降下して、午前5時ごろに再び約8気圧に再上昇したのち、7.3気圧まで再低下したことを記録に残している。有難いデータで、手掛かりの全くない1号機の原子炉状態がおぼろげながら分かるのは、この圧力計のおかげである。

午前5時という時刻は、消防車を使って1トンの水を炉心に注入した時刻と一致する。圧力が8気圧へ再上昇したのは、小規模のジルカロイ・水反応が発生したのではないかと推測しているが、この圧力の上昇・減衰は事故状況に支配的な変化を与えたと思えないので、議論から除く。ただし、この小さな変化が記録されていることから、生き残った圧力計の記録が信用できることを伝えておく。

なお、午前5時に始まった約1トンの注水6回は、試行的な注水と思われる。以降の注水で圧力変動の記録はないことから考えて、圧力容器の壊れた午前2時半ごろから本格的注水の始まる午前9時15分までの間は、炉心状態に大きな変化は生じなかったと推測される。

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