【コラム/5月24日】福島事故の真相探索 第7話
福島第一2号機の「成功例」
福島第一2号機で行われた第一の防止方法は、原子炉の安全弁を開きっぱなしの状態にして、原子炉圧力を下げる方法だ。
運転員の操作は、安全弁を開きっぱなしにした状態にするだけである。30分ほど待って、原子炉圧力が10気圧以下(飽和温度約180℃)に下がった事を確認した後、時間を置かずに冷水を原子炉に注入すれば、安全操作は完了だ。後は、原子炉の温度、圧力、水位を注意するだけでよい。注水が遅れると、崩壊熱により炉心温度は元に戻るのでジルカロイ燃焼が起きるから、福島事故の二の舞となる。
この程度の操作なら、事故時といえども運転員が実施するのは容易だ。現に、福島第一2号機はこの操作で減圧に成功している。安全弁を開いたのが14日午後6時2分。70気圧以上あった原子炉圧力は、10分ほど後には15気圧程度に、30分後には約77気圧(飽和温度164℃)に下がって、この状態はその後2時間ほど平穏に保たれている。
安全弁から噴き出した蒸気の流れで、高温の燃料棒はゆっくりと冷やされ、原子炉の圧力低下に伴って冷却水の飽和温度もゆっくり低下した。それに従って、炉心温度もゆっくり低下した。徐冷成功である。減圧後30分の飽和温度が約164℃であるから、いかにゆっくりと燃料棒が冷やされたか分かるであろう。ちなみに、この時刻の崩壊熱は0.6%にまで下がっているから、燃料棒内の温度分布は平坦で、冷却水の飽和温度と同じと考えてよい。
この時に、時間をおかずに冷水を原子炉に注入していれば、被覆管の酸化膜にひび割れは生じたであろうが、中のジルカロイの温度が170℃に低下しているいから、水とは反応できない。従って、事故は起きなかったに相違ない。
だが残念なことに炉心への注水が始まったのが午後7時53分。2時間近く遅れた。この2時間の間に、燃料棒温度は、断熱計算では約1800℃近くに、輻射放熱の冷却を考慮に入れても1500℃くらいにまで上昇していたであろう。ここに冷却水を入れたから、ジルカロイ燃焼は避けられない。2号機の事故は、かくして起きた。
2号機の圧力は、午後9時、午後11時、翌15日午前2時ごろの3回にわたって急上昇している。小一時間足らずの圧力上昇だが、3度発生しているのは、反応による水素ガスの発生によって、必然的に生じる水位低下によるものであろう。
いずれの圧力上昇も、上昇開始時刻は高温の炉心部分に冷却水が到達した時刻と考えられる。このうち、午後11時に発生した第2回目の圧力上昇が最も高く、かつその時刻に正門付近の放射線量が1時間当たり10シーベルト(Sv)に急上昇しているので、この時刻に最も激しい炉心溶融が起こり、大量の水素ガスが外部環境に放出されたと考えている。
なお2、3号機の炉心に注水は冷却水再循環系統を使っているので、注入された冷却水は炉心の下に残る温かい水に混じりながら、下から上向きに炉心に入ってくる。この点が1号機と違うところだ。
以上が、2号機の原子炉ベントにからむ成功と、失敗の物語だ。