【コラム/5月24日】福島事故の真相探索 第7話

2024年5月24日

ジルカロイ燃焼事故の防止手段

炉心溶融を引き起こすジルカロイ燃焼の防止策について、ここで再度述べておく。

原子炉水位の低下が炉心の半ばを超す前に、運転員が水位低下に気付くことが大切だ。取るべき事故防止手段は、安全弁を開きっぱなしにすることだ。炉心の蒸気を放出して原子炉圧力を低下させることで、炉心はゆっくりと冷え、それに伴って燃料棒温度も緩やかに冷える。

炉心圧力が10気圧以下にまで下がれば、燃料棒温度は170℃ほどに下がっているから、冷水を原子炉に入れても問題は起きない。酸化膜が破れても、ジルカロイ燃焼は起きない。

これが第一の防護手段である。炉心の冷却を見逃さず、冷却水を炉心に入れることも大切だ。水を入れ損なうと、崩壊熱で炉心温度が再上昇するので、ジルカロイ燃焼が復活する炉心状態となる。気をつけることだ。

第2の防護手段は、3号機が行った高圧注入ポンプ(HPIC)の活用である。3号機は幸運な炉で、津波にもかかわらず直流電源が生き残っていたので、事故時の原子炉データも豊富に残っており、事故対応で非常用機器が使用できた。原子炉隔離時冷却系(RCIC)は、原子炉の停止に伴って運転に入ったが、12日の昼ごろ、原因不明で停止した。これが事故の発端だ。RCICが停止したので、その対応策として、HPICの運転に切り変えることが出来た。

約1時間後に、原子炉水位低の信号を受けてHPICが起動して、炉心に水を入れ始めた。RCICとHPICとの相違は、ポンプ吐出量の差にある。HPICの吐出量はRCICの10倍ほど大きいことに加えて、復水タンクから温度の低い水を汲み上げているので、原子炉の冷却速度が大きい。原子炉圧力は1時間後には約40気圧(飽和温度約250℃)に、6時間後には10気圧(180℃)以下に下がっている。6時間かけて、燃料棒は運転温度から徐冷されたと考えればよい。2号機の安全弁の開放による冷却に比べると、3号機の徐冷時間は長かった。

ところが、ここに問題が起きた。原子炉の冷却水温度が冷え過ぎたために、HPCIの駆動源である蒸気圧力が不足となって、6時間後のHPCIの運転状態は、いつ止まってもおかしくないよちよち運転になっていた。ポンプは回っているのだが、水をほとんど送らない空回り運転状態になっていた。

説明は不要であろう。徐冷6時間、原子炉には何ごとも起きていない。この機を逃がさず、消防車を用いた冷却水の注入に切り変えていれば、事故は防げた。事故状態を注意していれば、冷却水注入の好機と判断できたはずだが、準備ができていなかった。

3号機に事故が復活したのも、消防車による海水注入の遅れだ。それも3号機の場合は、ざっと半日も遅れたのであるから、燃料棒温度は十分に再上昇していた。冷水の注入で、ジルカロイ燃焼が起き事故に到った。その後の経緯の詳細は拙著*を参照していただきたい。

*「考証、福島原子力事故;;炉心溶融、水素爆発はどう起こったか」(電氣新聞)

2号機も、3号機も、ジルカロイ燃焼を避けるための徐冷には成功しながら――当時は成功の意識がなかったであろうが――原子炉への注水が遅れたために事故を呼び戻してしまった。この過ちを繰り返さないための戒めは、転ばぬ先の杖だ。炉心注水の準備をまず整えて、注水ができることを確かめた後に、防止策を実施することだ。

注水の準備が先、防護策の実施はその後だ。この手順が大切だ。2号機も、3号機も。この手順の失敗で事故が起きた。

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