【コラム/5月31日】福島事故の真相探索 第8話

2024年5月31日

石川迪夫

第8回(最終回) ジルカロイ燃焼を恐れる必要なし

福島事故報道への疑問

融点の高いUO2炉心が溶融したとして、溶けた炉心が水のように流動するのかという疑問を耳にした。それは原子力とは無関係の、融点の高い物質の材料特性を調べている研究者からの疑問であった。福島事故当時、NHKが毎日のように流した炉心溶融が流れ下る動画映像に疑問を持ってのことらしい。

溶融した炉心が、横流れして垂直に流れ落ち、圧力容器の底を溶かして格納容器に落ちるといった動画だったと記憶しているが、研究者の疑問は、輻射熱が大きい融点の高い原子炉の燃料棒が溶けたとして、果たして流動するであろうかとの疑問である。

話によれば、融点が2000℃以上の高温材料となると、試料を溶融するのも大変らしいが、溶けた試料の特性測定はより難しいと言う。試料はレーザー照射によって加熱するのだが、溶けて液化した途端に地球の引力によって流下し照射範囲外へ出るから、熱源を失った資料は、その途端に輻射(放)熱によって冷えて、急速に固化する。流れ落ちることはないという。沢山の実験経験に基づいた発言で、傾聴するに足る。

余談だが、この実験の名は「Thermo-Physical Property Measurements of Refractor Melts 」と言うらしく、最近は、重力のないスペース・シャトルで実験を行っているという。


溶融炉心は流れ落ちない

TMI事故は、加圧器逃がし弁の吹き止まり失敗によって起きた。安全で言う、小口径破断冷却材喪失事故 (Small break LOCA) だが、事故が炉心溶融にまで進展した理由は、福島事故と同じジルカロイ燃焼だ。詳細は省略するが、崩壊熱で高温となった炉心に、一次冷却材ポンプを動かして大量の冷却水を炉心注入した途端に原子炉の圧力が上昇して、あれよあれよと言う間もなく安全弁が開きっぱなしに開き、炉心が溶融していた。水素爆発も格納容器内で発生した。

溶融した炉心が流動して、圧力容器の底に流れ落ちるという炉心溶融についての一般常識に、僕が疑いを持ったのは、TMI事故の溶融炉心のスケッチ図(図参照)を見直した時だ。溶融炉心を解体したドリルの切削速度などを測定して描いたと言われる、正確なスケッチ図で、固い殻に包まれた溶融炉心は、炉心が元あった場所に固着しており、溶け残った燃料棒の上に乗った状態で描かれている。

表皮とも言える溶融炉心の殻は堅いが、その内部は炉心材料が溶融して化合物――U、Zr、Oの三元素主体の共晶体――と化したらしく、柔らかくてドリルの通りがよいという。図は、この違いを、色分けで示している。

殻の上面には、細かく分断された燃料棒の破片(デブリ)が、積み重なって乗っている。炉心溶融が出来た時間と、デブリが落下した時刻には、時間的に差があるのだ。デブリは相当大量にあるらしく、その重みで殻の上面は平らとなり、内部の合金は圧されて殻の隙間から水中に流れ出たという。流れ出たのは合金だから、水中でジルカロイ・水反応を起こしていない。

日本ではなぜか、福島事故で壊れた物体を全てデブリと呼んでいるが、これは言語の使用上の間違いで、外国の人達には何のことか区別がつかないと思う。

TMIの炉心の殻は、崩壊熱で高温となった燃料棒がジルカロイ燃焼で溶けて、燃料の隙間を流れ出した途端に輻射熱の放散により固化し、隙間を埋めて卵の殻状の外皮をつくったと考えられる。外皮の中に残った燃料や原子炉材料は、卵の殻の中で溶けて均一な共晶体をつくったと考えられる。殻は燃料棒が溶融したもので、合金とは違う。溶融炉心を壊すために穴を開けたドリルの抵抗の違いが、内外の材料の差を分け、TMIの炉心溶融図が出来た。

簡単に言えば、溶融したUO2は融点の高いるつぼとなり、その中でいろいろな材料が溶けて共晶体を作ったのだ。この共晶体の一部が流れ出て炉心底に溜まっている。この流失した共晶体を除いて、溶融燃料のほとんどが殻の中に残っている。

TMI の炉心溶融図

溶融炉心が流動しなかった痕跡の第一が、元の炉心位置で固化していた事実だ。融点が高いUO2は、溶融はしても流れず同じ位置に残った。

TMIの炉心は、溶融の直前まで崩壊熱によって2000℃以上に熱せられていたから、注水によって起きたジルカロイ燃焼熱によって溶けた燃料棒は、燃料棒の間にある狭い隙間を少し流れ下ったであろう。しかし、流れ下ったその途端に、発熱源であるジルカロイから離れて、UO2は輻射熱を放散して冷え固まって、隙間を埋めて殻を作った。

TMIのスケッチ図には、溶融炉心の底の中央には、殻と同じ色の短い突起が一本描かれている。恐らくこの突起は、溶融炉心の底に幾本か出来た突起の代表として描かれたものであろう。突起の寸法は、メノコ測定だが、長さ60cm、幅30cm程で、突起となっているのは、液化したUO2が流れる間もなく固化した実体を示している。3000℃に近い物体が出す輻射熱は大きく、固化が早い。

溶融炉心は流れない。TMIの溶融炉心のスケッチ図はその事実を正確に描いている。

融点の高いUO2炉心は、ジルコニウム・水反応の発熱によって溶融して液体となるが、輻射放熱が大きいため、発熱体から離れると直ちに固化する。液体として存在する時間は短い。従って、溶融炉心は流動しないと言ってよい。以上で、「溶融炉心は流れ落ちない」を終える。

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