【コラム/5月31日】福島事故の真相探索 第8話

2024年5月31日

ペデスタルの中の嵐

ジルコニウム・水反応によってペデスタル内の水は水素ガスとなって気化した。ペデスタル床上に溜まった水は約5トンであったが、ジルカロイ・水反応が必要とした水量は6.3トンで、ペデスタル床上の水だけでは不足していた。本稿出筆の最初の頃は、格納容器床に溜まっている水が外側から流入して来ると簡単に考えていたのだが、これが誤りかも知れないと気付いたのは、表題とした、ペデスタル内の嵐に気付いたからである。

ペデスタルの容積は400m³と小さいのに、発生した水素ガスの総体積は発生した時点での水素温度を3000℃とすれば、8万m³になる。容積の200倍もの水素ガスが、15分ほどの間に、ペデスタルの水の底から湧き出たのだ。ペデスタルの中に嵐が起きないはずがない。

ちなみに、格納容器の体積は6000m³、水素ガス発生による圧力上昇は13気圧となる。格納容器圧力は、反応が起きる前は約7気圧であったから、ジルカロイ燃焼によって圧力は計算上20気圧に上昇したことになる。この圧力に格納容器は耐えられないが、反応時間が10~15分くらい掛かることから考えて、破壊に到る前に格納容器の蓋は押し上げられて、中の水素ガスは上方の運転フロアーに流れこみ、爆発を起こし多と考えてよい。 

問題は、容積の200倍ものガスが発生したペデスタルの内部の様相だ。水素ガスは嵐のように格納容器へ流出したが、この嵐がどんなものか、経験がないから分からないので、問題だけを整理して述べる。

ペデスタルの天井は圧力容器の底で塞がれている。格納容器への風の通り道と言えば、ペデスタルの床にある人の出入口と、壁の中間に設けられた制御棒駆動機構(CRD)交換用の開口部の、二つである。

ジルコニウム・水反応の反応時間を15分とすると、ペデスタル内部で発生する水素ガス量は、毎分5300㎥となる。上述の開口部面積は不明だが、2㎡と仮定すれば、開口部の平均風速は毎秒45mとなる。非常に強い台風の最大風速と言ってよく、立っては居られるものではない。格納容器内部が大荒れ状態であったことは、容易に推測できる。

この嵐の中で、反応によって減少していくペデスタル床上の水は、圧力の低い格納容器から補給しえたであろうか。大量の水素が発生するペデスタルの圧力が高まり、相対的に圧力が低くなった格納容器からペデスタルに水が流入しなかったのではないかとの心配である。

さらには、底の抜けた圧力容器の底から、圧力容器内部へ嵐が吹き込んで、残留炉心の中の燃料棒を吹き込む風の力で落下させたのではないか等々、吹いた嵐のもたらした事柄への憶測は尽きない。しかし、そんな状態を見たことはないので、答えは自問自答、勝手な憶測でしかない。ご経験がある方のご教授を乞う。

東京電力と国際廃炉研究開発機構(IRID)は最近映像を分析して、写真Dに示すペデスタル内部の合成写真を作り、公開している。これによると、ペデスタル内部に設置されていた制御棒交換機は姿を消し、写真C-1(第2話)にあるようなハウジングが十数本、ペデスタルの壁に集まって確認されるだけと言う。制御棒交換機は跡形もなくなっているのに、十数本のハウジングだけが残されているのも面白い。

写真D ペデスタル内部の外観合成写真
提供:IRID 画像処理:東京電力ホールディングス

この状況は、恐らく、12日午前2時半に起きた炉心高温部の落下によって、ハウジングなどの構造物は溶けて姿を消し、落ちこぼれて残った十数本のハウジングが嵐で吹き飛ばされて、壁に吹き寄せられたのではないかとも思えるのだが、真相は分かるのは調査が進んだ後日の事となろう。

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