「電力データ×デジタル」で社会貢献 先進的なDX事例の創出活動に意欲

2024年5月4日

【中部電力】

中部電力グループは、データにデジタルを掛け合わせるDXの舞台を拡大。

発電計画などの電力用途に加え、ヘルスケア分野の開拓にも力を入れる。

 「デジタル技術を社内業務の高度化や付加価値の高いサービスの開発につなげる」。中部電力グループはそんな思いで、電力事業を通じて蓄積したデータにデジタル技術を組み合わせ、DXを促す先進事例を社内外で着々と積み上げている。

DXの成果の一つが、AIを活用して水力発電所の最適な発電計画づくりを支援するシステムの開発で、2024年度中に岐阜県の飛騨川水系で本格運用する計画だ。

飛騨川水系は、総出力約115万kWを誇る日本有数の水力発電地帯で、14カ所のダムと22カ所の発電所がある。これまでの水力発電計画は、熟練スタッフが培った経験やノウハウを生かして半日程度をかけて策定しており、効率化が望まれていた。さらに水力発電事業を拡大させるという観点から、熟練スタッフが培った技術の継承が課題となっていた。

AIを水力発電計画の策定に生かしている


AIで水力発電計画 高精度に流入量予測

これらの課題を解決するのが、AIを生かす今回の新システムだ。①ダムに水が流入する量を予測する「流入量予測AI」、②翌日の天候やダムの水位といった予測情報を基に過去の発電計画から類似のものを検索する「過去検索AI」、③発電量の増加や売電金額の最大化などの目的に応じて発電計画を作る「最適化AI」―といった三つの機能で構成されている。複数の発電所やダムを、飛騨川水系と馬瀬川水系という複数の水系で同時に最適化できるようにしたことが特徴だ。

導入効果を検証したところ、水力発電計画の策定に要する時間を従来の4分の1以下に削減できることを確認。加えて、年間発電量を約2%(約3000

万kW時)増やせる効果も見込まれるという。これは、標準的な家庭約1万世帯分の年間電力使用量に相当する。

新システムは、他水系へも導入。CO2を排出しない水力発電の増電と増収に継続的に取り組み、脱炭素社会の実現を後押ししたい考えだ。


ヘルスケア分野を開拓 フレイルの検知を支援

一方でサービスの展開先も広がっている。一つがヘルスケア分野で、1人で暮らす高齢者宅の電力使用量のデータを基に加齢に伴って心身の機能が衰えるフレイル(虚弱)を検知し、自治体職員に知らせる新サービス「eフレイルナビ」だ。

高齢者宅に取り付けたスマートメーターから得られた電力使用量データをAIで分析。その分析結果に基づき、高齢者の健康状態を個別に可視化する。AIに「健康な高齢者」と「フレイル状態の高齢者」の電気の使い方を大量に学習させ、高い精度でフレイルを判断できるようにした。

背景には、介護認定を受ける高齢者の増加傾向がある。自治体は、フレイルを早期に発見・対処する対応が求められているが、手が回らないのが実情だ。

自治体は、eフレイルナビを利用することで、職員が高齢者宅を巡回して一人ひとりの健康状態を確かめる手間を省くことができるほか、フレイルのうちに適切に対処することによって健康な状態への回復を促して、高齢者の「健康寿命の延伸」に貢献する。将来的には、健康な高齢者同士のつながりを支援するサービスの展開も視野に入れている。

また、「健康をデジタルで守る時代」を見据え、医療機関向けサービスの開発も加速。クラウド上で患者と医療機関のデータを連携させる「MeDaCa」や、家庭で計測した血圧や血糖値のデータを医師との間で共有する「血糖クラウド管理システム」の可能性を追求している。DXを通じて暮らしを快適にする挑戦からも目が離せない。

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