【中国電力 中川社長】信頼回復に全力を注ぎ時代に対応する変革へ 自ら先頭に立つ

2024年6月1日

昨年6月の社長就任から約1年、コンプライアンス強化などを重点的に推進した。

島根原子力発電所2号機の再稼働や激化する事業者間競争への対応など山積する重要課題に立ち向かう。

【インタビュー:中川賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長(設備・技術)兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

志賀 昨年6月に社長に就任され、この約1年間を振り返っていかがでしょうか。

中川 社長就任時、私は足元の課題として、2点を挙げました。一つは一連の不適切事案からの信頼回復、もう一つは2年連続大幅赤字からの収支・財務基盤の立て直しです。この課題克服に重点的に取り組んだ1年間でした。

志賀 具体的な取り組みを教えてください。

中川 信頼回復に向けた取り組みでは、私を含め役員が53の全事業所を訪問し、社員と意見交換を行いました。また研修や職場での話し合いなどでも広く議論を重ねてきました。

志賀 現場の社員の方からはどのような意見が出ましたか。

中川「この度の不適切事案の原因は組織の風通しの悪さにあったのではないか」という意見がありました。組織の枠を超えて良好なコミュニケーションを築くことが、変化の激しいこの時代において力強く成長するために不可欠な、全社的な連携強化の基盤となります。改めて「言いたいことを言い合える風通しの良い職場環境作り」がとても重要と考えています。また、会社の将来に不安を覚える若手社員もいました。社長就任時、社員には「中国電力をいい会社にしたい」と伝えています。「いい会社」とは、社員一人ひとりが前向きにいきいきと働くことができ、事業環境変化にしなやかに対応しながら成長を続ける会社です。社員の「思いを叶えるいい会社」の実現に向けて、まずは私が先頭に立って取り組んでいきたいと考えています。

事業所を訪問し、社員と意見交換を行う中川社長

志賀 新たなブランドメッセージ「一日も。百年も。」を策定されましたが、課題克服に向けた施策の一環ですか。

中川 その通りです。経営理念として「信頼。創造。成長。」を掲げていますが、一連の不適切事案により、当社が大事にしているお客さまからの「信頼」は大きく損なわれていると受け止めています。当社は、地域の皆さまと同じ目線、同じ未来、同じ願いで、地域とともに成長することを目指す会社です。この不変不動の思いを「一日も。百年も。」という言葉に込めました。これからの当社を担う若い社員を中心に考案したものです。「地域の皆さまの変わらない一日をこれから先も支え続けていくため、『中国電力はもっと変わろう』」との思いも込めています。


23年度は減収・増益 厳しい経営環境は続く

志賀 次に2023年度決算についてお聞きします。過去最高益となりましたが、社長就任時に課題の一つとして挙げられた財務基盤の立て直しの進捗はどうですか。

中川 23年度の連結決算は、減収・増益となりました。売上高は、電気料金の見直しをさせていただきましたが、総販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などの影響で減収となっています。利益面では、経常利益が1940億円、純利益が1335億円となり、いずれも年度決算では過去最大の黒字です。ただし、これらの主な要因は、燃料費調整制度の期ずれ差益によるものです。22年度までの収支悪化により著しく財務が毀損していることに加え、燃料価格は先行きを見通しにくく、依然として厳しい経営環境は続いています。

配当については、連結自己資本比率が15%に回復するまでは財務基盤の回復・強化を最優先に行い、当年度の利益に対して10%の配当性向で配当を行う方針です。

志賀 今期の業績見通しについてお聞かせください。

中川 今年度は、燃料費調整制度の期ずれ差益の大幅な縮小や総販売電力量の減少、送配電事業の利益の減少を見込んでいますが、島根原子力発電所2号機の再稼働による収支改善もあり、一定の利益水準を確保できる見通しです。ただし、電力小売・卸ともに競争が激化していることに加え、燃料価格や電力取引市場価格の先行きは依然として見通し難く、厳しい事業環境にあります。連結経常利益で650億円、親会社株主に帰属する当期純利益を500億円と見込んでいますが、楽観視できるような状況にはありません。

引き続き、内外無差別を前提とした小売・卸の収益力の強化、安全確保を大前提とした島根原子力発電所の稼働、市場リスク管理の強化、グループ一体となった経営全般にわたる効率化により、利益の最大化、財務基盤の回復に取り組みます。

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