害獣の自動検出AI「Bアラート」 官公庁と連携協力し実用性向上目指す

2024年6月8日

【北陸電力】

北陸電力はDX戦略で新たな価値創造を推進しており、AIを活用したクマ被害減少に取り組む。

コア事業を基盤に地域課題に貢献し、将来像である持続可能な発展とスマート社会を目指す。

クマの出没に伴う人身被害の報告件数が、全国的に増加傾向にある。DXを推進することでこの課題に取り組んできたのが北陸電力だ。ほくつう、ガルムと協力して開発した「Bアラート」で、AIなどのデジタル技術を駆使してクマ出没の早期検出と通報を可能にし、人への被害を未然に防いでいる。

富山県の公式統計データを確認すると、県内のクマ出没は2015年から18年まで年間およそ100件~300件の間で推移してきた。しかし、食糧となる木の実が山で不作となった19年には、919件と大幅に増加。実はこの年の10月、北陸電力でBアラート開発の契機となる事件があった。県内の山林で送配電の保守業務を行っていた職員がクマに襲われたのだ。以降、AIやデジタル技術を活用して危険回避の方法を検討する社内議論が始まった。自治体や野生動物の有識者とも討議を重ね、クマ出没を早期に把握し、関係者に迅速に通報するシステム構築が有用であるとの結論に至った。そして20年9月から22年6月まで、2年近い歳月をかけて開発されたのがBアラートだ。現在、北陸地方の12自治体が導入済で、7自治体が試験運用中。北陸以外では神奈川県、山形県などでも利用されている。


既設カメラ活用で監視強化 害獣指定で導入拡大見込み

Bアラートは、カメラで撮影した画像に写っている生物がクマかどうかをクラウド上のAIが識別し、クマの場合には自治体や捕獲隊などに通報してくれるシステムだ。使用するカメラはトレイルカメラと呼ばれるもので、SIMカードが装着された通信機器でもある。1台およそ10万円。単3電池で動くため、屋外のコンセントがない場所でも問題なく使える。カメラは生物の体温を感知すると撮影モードに入り、その画像をキャプチャする。あらかじめクマの外見的特徴を学習したAIが、その画像の被写体がクマかどうかを99・9%の高精度で判定し、クマだった場合、Bアラートの通報システムがその画像をメールで送る。人間による監視には自ずと時間的、空間的制約があるが、Bアラートは24時間365日休みなく働ける。

Bアラートのシステムイメージ(クマ検出の場合)

AIによりクマと判定された画像

ただ、このトレイルカメラには欠点もある。初期費用が高いことと、定期的に電池交換が必要なことだ。そこで河川や道路に設置されている監視カメラを活用する案が浮上した。現状、クマの管理は環境省、河川や道路の管理は国土交通省が行っているため、活用案の実現には省

庁間の連携が必要だが、今般、両省から協力を得られることになり、富山県は今年度「河川および道路のライブカメラ画像識別による出没状況の把握」に取り組むことが決定した。トレイルカメラは富山市で約10台、県全体で約50台設置されているが、河川や道路の既設の監視カメラを利用できるとなれば、その台数は一気に400台まで拡大し、Bアラートの実用性は飛躍的に高まる。

イノベーション推進本部・新価値創造研究所の橋本茂男副課長は、全国初となるこの対策に「まさに今年度の目玉対策」と期待を寄せる。今後のBアラートの展開については「まず今年度の実証実験に注力し、関係者と連携して実用性の高いソリューションを実現していきたい」と語る。実用性が示されれば、環境省が4月にクマを「指定管理鳥獣」に定めたことも追い風となり、Bアラートの導入は加速していくことが見込まれる。


経産省からDX事業者認定 目指す将来像の実現へ

北陸電力は23年10月に「北陸電力DX戦略」を発表し、その柱として「生産性の向上」「新たな価値創造」「変化に対応可能な環境整備」の三つの方針を掲げている。いずれもDXを推進するもので、「生産性の向上」では電力事業というコア事業にAIを活用し業務の高度化・効率化を進めている。

一方、Bアラートの開発に関しては、「新たな価値創造」を体現した取り組みと言える。電力事業の枠にとらわれず、快適な暮らしや利便性の向上に向けて地域やお客さまの課題解決に資する新たな付加価値を生み出すことや、新たな挑戦に果敢に取り組んでいる。

DX戦略を具現化していくことにより、「新中期経営計画」の実現、その先には「地域とともに、持続可能なスマート社会を目指して」という「2050年の将来像」を達成することを目標にしている。

24年3月、北陸電力は経済産業省から「DX認定」を取得した。これは、AIなどのデジタル技術を利用した生産性向上に努力し、経産省が定めるデジタルガバナンス・コードに適合したDX推進を行っている事業者に与えられる認定で、いわばDXに関して国からのお墨付きを手に入れた形だ。

デジタルの力を活用して地域の課題解決に取り組む企業や団体を内閣官房が表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」にも積極的に参加している。岸田首相が旗振り役を務めるこのイベントで、昨年、Bアラートは応募総数240件から見事予選を通過。55件が競いあった本選では惜しくも受賞を逃したが、「今年こそは」と新たな取り組みのエントリーを進めている。