気候変動対策をテーマに講演会開催 費用便益分析の重要性など議論

2024年6月12日

【東京大学公共政策大学院】

気候変動に対する現実的なアプローチを考えようと、「気候変動をスマートに解決するには」と題したセミナーが、4月25日に都内であった。主催は東京大学公共政策大学院。気候変動対策などの費用便益分析の重要性について、シンクタンク「コペンハーゲン・コンセンサス」のビョルン・ロンボルグ・センター会長が講演した。

質疑応答するロンボルグ氏(左から1番目)

同氏は数百人の世界トップの経済学者らとともに世界課題に対する「最も効果的な対応策」を研究。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されたことでも知られる。

講演では、メディアなどで地球温暖化による悪影響が過大評価されるあまりに、他の社会課題が過小評価され、地球温暖化対策に費用を使い過ぎていると問題提起した。実際に世界で起きる山火事などの自然災害は気候変動対策を講じなくとも下降傾向にあることを指摘した。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の調査結果によると山火事などの自然火災が要因で焼失した全世界の国土は、1900年代は毎年4%以上であったのに対し、2000年代に入ってからは3%ほどに減少している。このほか、ハリケーンや洪水など災害の発生データを持ち出し、同様に被害が誇張されている現状を示した。


最善策はグリーン革命 投資回収の予見性は必須

現行の気候変動対策について「非効率的な費用を支払っている」と指摘、ネットゼロ政策は典型例だという。ネットゼロで得られる利益は年間4兆5000億ドルと見込まれているが、目標を達成するのには27兆ドルの費用がかかる。つまり利益の約6倍のコストを要する。

では、気候変動対策の最善策とは何か。それは「グリーンエネルギーイノベーション」であり、具体例として米国のシェール革命を挙げた。

シェールガスは石炭に比べ、低価格で調達できる上に、単位エネルギー当たりのCO2排出量が約半分となるため、結果として排出量削減に大きく貢献した。技術者は気候変動の改善が目的ではなく、エネルギー資源の拡大を目的に開発したが、技術革新は利益の見込めない政策より優れているといえる。

気候変動問題は社会に山積する社会課題の一つに過ぎない。世界人口の約3分の1が貧困で死亡しており、本質的な解決には貧困脱却がベターとした。

同氏は「気候変動だけが唯一の問題ではないことも忘れてはならない」とその解決には広い視野が必要だと訴えた。

講演後には、参加者との意見交換でさらに望ましい気候変動対策の在り方を掘り下げた。