大気中のCO2を直接回収技術に熱視線 2025年の商業運転開始に意欲

2024年10月15日

1PointFive】

脱炭素化を促す切り札の一つとして、大気中のCO2を直接回収して固定化する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」の展開に国内外の産業界から熱い視線が注がれている。DACを手がける1社が、米エネルギー大手オキシデンタル・ペトロリアム子会社、1PointFive(ワンポイントファイブ、テキサス州)で、25年からのDACプラントの商業運転開始を目指す。同社で炭素ソリューション部長を務めるポール・ケネディ氏に、DACを普及する可能性と市場開拓に向けた戦略について聞いた。

1PointFiveが手がけるDACは、カナダのカーボン・エンジニアリングが開発した革新的なCO2回収技術だ。具体的には、高出力のファンでプラント内に引き込んだ空気を、水酸化カリウム水溶液が流れる薄いプラスチックの表面に通過させることだ。こうした仕組みで炭酸塩を作り出した後、化学的なプロセスを経てCO2を回収し精製・圧縮する。加熱して分離されたCO2は地中深くに安全に閉じ込められるほか、セメントやプラスチックといった生活に役立つ原材料として役立てることも可能だ。

現在、テキサス州で第1号となるDACプラントを建設中で、25年半ばからの商業運転開始を計画している。フル稼働では、世界最大規模となる年間最大50万tのCO2を回収するDAC施設となる見込み。ケネディ氏は「われわれのDACプラントは、既存の機器を生かして容易に大規模化できるとともに、大量の空気を低コストで処理できる」と優位性を強調する。2号プラントの建設も視野に入れており、「約100万tのCO2を回収できる規模になる」という。

DACの技術革新にも力を入れ、新技術の試験や検証などを行うカーボン・エンジニアリングの研究開発拠点「イノベーションセンター」(カナダのブリティッシュ・コロンビア州)も生かしていく。

DAC事業で攻勢をかける背景には、気候変動対策を強化するという世界の潮流がある。 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの国際機関は、産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、「数十億t規模」のCO2を大気から除去する必要があると一致して結論付けた。気候変動対策を話し合う国際会議(COP)でも1.5℃目標達成に向けた緊急的な行動の必要性が再確認される中、大気中からCO2を回収する革新技術の存在感が高まる方向にある。DACに対する各国政府からの追い風も強まっており、1PointFiveが計画する第2号「South Texas DAC Hub」は、米エネルギー省(DOE)の資金援助の付与先に選定されている。

ケネディ氏によると、DACプラント第1号が建設中にもかかわらず、この技術から生まれる炭素クレジットを調達する動きが活発化している。炭素クレジットの購入企業が自社の排出量からクレジット分を差し引く取り組みで、DACプロジェクトによって生成されたクレジットの買い手が続々と現れている。DACは工業的に分離するため回収量を精緻に測定しやすく、炭素クレジットとしての信頼性が高いことが評価されているようだ。

すでに1PointFiveは、欧州航空機大手エアバスのほか、アマゾン・ドット・コムなどの米国企業と相次ぎ調達契約を締結。エアバスとは、40万tに上るDAC由来の炭素クレジットを購入する契約を結んだ。全日本空輸(ANA)とも契約を交わし、23年8月に同社が25年から3年間で計3万t以上のクレジットを調達すると発表した。航空業界では、機体の燃費向上や持続可能な航空燃料(SAF)による排出削減には限界があり、耐久性のある炭素クレジットを求めるニーズが強まる方向にあるという。

また海運大手の商船三井は、三菱商事がスイスの炭素クレジット創出大手と運営するクレジット共同購買事業「NextGen」を通じて、DAC由来クレジットを購入すると表明。その購買事業には、1PointFiveの技術も含まれている。ケネディ氏は、こうした実績を土台に日本市場も積極的に開拓したい考えで、「日本企業がDACに関与する機会を広げていきたい」と力を込めた。日本政府の支援や産業界からの協力にも期待感を示した。

ただ、DACの産業規模での普及に向けては、回収物を貯留する適地を探すことが重要になる。また、貯蔵コストの削減など、既存の課題も残る。ケネディ氏は「私たちが技術を進歩させ続けることで、各地でより多くのDACプラントを稼働し、大量にCO2が回収されるようになれば、貯留コストも下がるだろう」と予測。脱炭素に意欲的な企業と連携し、CADの採用実績を積み上げることに意欲を示した。

「50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする『ネットゼロ』を達成するという目標が突きつけられている中、DACの存在感はますます高まるだろう」とケネディ氏。DACをグローバルスタンダート(世界標準)に育てる挑戦はこれからが本番だ。