【コラム/8月29日】暑い夏に考える~環境収容力と原子力、そして原子力規制如何

2024年8月29日

飯倉 穣/エコノミスト

1、サイレントキラー

酷暑である。テレビ・ラジオから「不要不急の外出を控え、室内ではエアコンを利用してください」(NHK)のアナウンスが聞こえる。「屋外活動取りやめ勧告」も飛び交った。そしてエネルギー(電力)需給に不安を抱くばかりでなく、人々の生活から生存に関心が及ぶ。 

報道は伝える。「7月の平均気温、過去最高 平年比2.16度高く、昨夏超す」(日経24年8月2日)、「温暖化加速 酷暑が命を奪う 熱中症死、1週間で23人 心臓・呼吸器持病悪化」(朝日同日)。そしてILOのニュース(7月25日)もあった。「命脅かす「サイレントキラー」アジア4人に3人が被害」(毎日NET8月7日)。暑さはサイレントキラーで労働者の健康・人命を脅かしているという。

現在CN・GX絡みでエネルギー基本計画の策定が進んでいる。眼前の地球温暖化・エネ対策の検討は当然として、今日の人々の置かれた現況は、これらの施策を大胆に実施することに加えて、根本であるエネルギー・生態系・経済の姿の再認識が必要である。環境収容力の概念である。地球温暖化問題と人口・経済水準のあり方から見たより広範なエネルギー政策の視点を考える。そして原子力規制への疑問も呈したい。


2、環境収容力とは

人間活動を考える上で、生態学(エコロジー)の視点、とりわけ地球生態学は、我々に様々な示唆を与えてくれる。現在同じ地球上で存在する一般の生物の行動から見た我々の姿である。(以下「生態学入門2004年」参照・引用)。

生態系とは、ある地域あるいはある空間に生息している生物とその生活に関与する無機的環境で構成するシステムである。地域的な広がりで局所生態系とその集合である地球生態系としてとらえる。生物は、無機的環境と相互作用して、気圧30気圧、CO2濃度95%の原始大気を現在のCO2濃度400ppm(0.04%)以下、1気圧の大気を形成した(環境形成作用)。太陽エネルギーが生物の活動を助けCO2をストック化(化石エネ)した。ストックの使用は慎重であるべきと主張もあった(Small is beautiful 1973)。

エネルギーの流れで捉えれば、太陽エネルギー、地球に作られた地球生態系、そのなかで生物は生態系を構成し、存在(生活)している。人はどうか。狩猟の時代と違い、その生態系の一部を改質(都市化)して我々の人間活動(経済活動)がある。

環境収容力は自然の摂理

その生物たちは、生態系の中で無限に増殖するわけでない。増殖に一定の制約がある。環境収容力の概念で説明される。「生物の個体数は、供給される資源の量と、それを利用する生物種の特性に依存して決まる。生物集団の環境収容力と呼ばれる。個体群密度に依存して生物集団の規模は調節される」(生態学入門p240~)。密度が高まると、個体数の増加は、何らかの要因(えさ、種内競争、自己間引き等)で増加率が減少する(密度効果)。自然の摂理と言える。

局所生態系を破壊する

人間はどうか。人類は、地球生態系の一部である局所生態系を破壊・改質し、都市を構築し活動を行っている。その活動でエネルギーを消費し、密度効果を超克してきた。都市内の活動は、エネルギーを利用し、経済財を生産・消費し、廃棄物を処理することで営まれている。そこに問題の発端がある。都市内の廃棄物のなかで炭酸ガスの処理が困難なことである。消費エネルギーの85%が化石エネルギーでCO2排出を伴うため、大気を通じて全地球的な生態系に影響を及ぼす。局所生態系の改質で人口増を実現しながら、その過程の副作用が地球生態系の変容という制約に直面させる。いわば人類特有の密度効果という現象である。その症状から脱出可能であろうか。

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